【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、地震時の変位や残留変位が過大にならず、経済性にも優れた制振柱及びその構造を提供することを目的とする。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る制振柱は請求項1に記載したように、単一の柱体と、該単一の柱体の材軸方向にその頂部から延びる複数の集合柱部材と、該複数の集合柱部材のうち、隣り合う集合柱部材の一方に配置された第1の摩擦部材と他方に配置された第2の摩擦部材とが互いに摺動自在となるように位置決めされてなる摩擦機構と、前記第1の摩擦部材と前記第2の摩擦部材との摺動面に法線方向の押付け力を導入する押付け力導入機構とを備えたものである。
【0010】
また、本発明に係る制振柱は、前記単一の柱体の頂部近傍における周面を拘束部材で取り囲んだものである。
【0011】
また、本発明に係る制振柱は、前記単一の柱体の側面が前記複数の集合柱部材の最外縁よりも外側に位置するように該単一の柱体を構成したものである。
【0012】
また、本発明に係る制振柱構造は請求項4に記載したように、地盤内に構築されるフーチング、杭その他の基礎部材と、該基礎部材に脚部が接合される単一の柱体と、該単一の柱体の材軸方向にその頂部から延びる複数の集合柱部材と、該複数の集合柱部材のうち、隣り合う集合柱部材の一方に配置された第1の摩擦部材と他方に配置された第2の摩擦部材とが互いに摺動自在となるように位置決めされてなる摩擦機構と、前記第1の摩擦部材と前記第2の摩擦部材との摺動面に法線方向の押付け力を導入する押付け力導入機構とを備えるとともに、前記単一の柱体の頂部近傍が前記地盤の表面よりも上方に位置するように該単一の柱体を構成したものである。
【0013】
また、本発明に係る制振柱構造は、前記単一の柱体の頂部近傍における周面を拘束部材で取り囲んだものである。
【0014】
また、本発明に係る制振柱構造は、前記単一の柱体の側面が前記複数の集合柱部材の最外縁よりも外側に位置するように該単一の柱体を構成したものである。
【0015】
本発明に係る制振柱及びその構造においては、単一の柱体の材軸方向にその頂部から複数の集合柱部材を延設してあり、単一の柱体をその脚部でフーチング、杭その他の基礎部材に接合するとともに、複数の集合柱部材をその頂部で上部構造物に接合したとき、地震時水平力による曲げモーメントは、集合柱部材の頂部から脚部、さらには単一の柱体の頂部から脚部にかけて徐々に大きくなり、単一の柱体の脚部で最大となるが、曲げモーメントは、第1の摩擦部材と第2の摩擦部材とを互いに摺動させようとする方向に作用し、曲げモーメントが小さい場合、摺動が早期に始まっても変形は比較的小さいが、曲げモーメントが大きい場合、摺動が早期に始まると、集合柱部材の曲げ変形が過大になる。
【0016】
そのため、集合柱部材の頂部近傍では、第1の摩擦部材と第2の摩擦部材との摺動面に働く法線方向の押付け力を小さく設定することで摩擦を早期に発生させて減衰性を発揮させるとともに、集合柱部材の脚部近傍では、上述した押付け力を大きく設定することで、摺動の開始を遅らせるようにする。
【0017】
ここで、押付け力導入機構は、導入される法線方向の押付け力の大きさに応じて、その径や本数を定める必要があり、押付け力が大きい場合には、径や本数の規模が大きくなるが、集合柱部材の脚部に生じる曲げモーメントは、単一の柱体の高さをH
1、集合柱部材の高さをH
2としたとき、制振柱が従来の集合柱であった場合のその脚部に生じる曲げモーメントのH
2/(H
1+H
2)倍となる。
【0018】
したがって、押付け力導入機構の規模は、従来の集合柱に比べ、上述したと同様の比率で低減されるため、プレストレス構造の製造コストや施工時の作業負担が大幅に軽減される。
【0019】
また、本発明の制振柱は、集合柱部材を単一の柱体と組み合わせることにより、集合柱部材の高さ区間を短くしてあるので、集合柱部材の曲げ変形による全体の水平変位は、全高を集合柱とした従来の場合よりも大幅に低減され、かくして地震時の変位や残留変位を抑制することも可能となる。
【0020】
また、本発明に係る集合柱構造においては、単一の柱体の頂部近傍が地盤の表面よりも上方に位置するように単一の柱体を構成してある。
【0021】
このようにすると、集合柱部材の脚部が地上に露出するため、地震の際、集合柱部材の脚部に生じた損傷の確認を地盤を掘り起こすことなく迅速に行うとともに、必要に応じて速やかに補修することも可能となり、かくして地震に対する維持管理が容易となる。
【0022】
単一の柱体及び複数の集合柱部材は、その構成材料を問わないが、主として鉄筋コンクリートで構成されることが想定されるとともに、単一の柱体は、例えば矩形断面を有する従来公知の鉄筋コンクリート柱で構成することができる。
【0023】
複数の集合柱部材は、制振方向が1方向である場合には、例えば中央柱部材の両側に側方柱部材を1本ずつ立設し、制振方向が直交2方向である場合には、中央柱部材の周囲に4本の側方柱部材を90゜ごとに立設する構成を採用することが可能である。また、複数の集合柱部材は、第1の摩擦部材と第2の摩擦部材とが互いに摺動する限り、換言すれば、第1の摩擦部材が配置された集合柱部材と第2の摩擦部材が配置された集合柱部材との間に鉛直方向の相対変位が発生できるようになっている限り、各集合柱部材をどのように上部構造物に接合するかは任意であり、上述の例で言うと、中央柱部材を上部構造物にピン接合するとともに、その両側あるいは周囲の側方柱部材を上部構造物に非接合とする構成や、同じく中央柱部材を上部構造物にピン接合するとともに、その両側あるいは周囲の側方柱部材をせん断力のみを伝達可能な構造形式で上部構造物に接合する構成が採用可能である。
【0024】
摩擦機構は、複数の集合柱部材のうち、隣り合う集合柱部材の一方に配置された第1の摩擦部材と他方に配置された第2の摩擦部材とが互いに摺動自在となるように位置決めされる限り、その構成は任意であって、公知の摩擦機構から適宜選択することが可能であり、例えば第1の摩擦部材及び第2の摩擦部材をそれぞれステンレス板で構成するとともに、該各ステンレス板を、隣り合う集合柱部材の対向側面にそれぞれ取り付ける構成が考えられる。
【0025】
上述した集合柱部材の例であれば、制振方向が1方向の場合、中央柱部材とその両側に配置される2本の側方柱部材との間に摩擦機構をそれぞれ配置し、制振方向が2方向の場合、中央柱部材とその周囲に配置される4本の側方柱部材との間に摩擦機構をそれぞれ配置すればよい。
【0026】
押付け力導入機構は、第1の摩擦部材と第2の摩擦部材との摺動面に法線方向の押付け力を導入することができる限り、その構成は任意であって、例えばPC鋼線やPC鋼棒を用いたプレストレス構造を採用することが可能である。
【0027】
単一の柱体と複数の集合柱部材とは、単一の柱体の材軸方向にその頂部から複数の集合柱部材が延びる関係を有している限り、それらの構成は任意であって、例えば単一の柱体の頂部端面に複数の集合柱部材を立設する、単一の柱体と複数の集合柱部材とを鉄筋コンクリートで連続的に一体形成するなどの構成を採用することができる。
【0028】
ここで、集合柱部材からのせん断力を支持する際、その大きさや集合柱部材に生じている軸力との兼ね合いによっては、集合柱部材からのせん断力を単一の柱体の最外縁で支持できないケースが生じる。
【0029】
このような場合においては、単一の柱体の頂部近傍における周面を拘束部材で取り囲み、又は、単一の柱体の側面が複数の集合柱部材の最外縁よりも外側に位置するように該単一の柱体を構成することにより、集合柱部材からのせん断力を拘束部材で支持し、あるいは単一の柱体の最外縁で支持することが可能となる。