(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778021
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】多数個取り配線基板の製造方法および該製造方法に用いる支持台
(51)【国際特許分類】
H05K 3/00 20060101AFI20150827BHJP
B23K 26/16 20060101ALI20150827BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20150827BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20150827BHJP
B23K 26/142 20140101ALI20150827BHJP
【FI】
H05K3/00 N
B23K26/16
B23K26/00 H
H05K3/00 X
B23K26/364
B23K26/142
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-282435(P2011-282435)
(22)【出願日】2011年12月23日
(65)【公開番号】特開2013-134996(P2013-134996A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098615
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 政美
(72)【発明者】
【氏名】平山 聡
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 直樹
【審査官】
井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−233687(JP,A)
【文献】
特開2005−079427(JP,A)
【文献】
特開2009−006350(JP,A)
【文献】
特開2009−233714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/00
B23K 26/00
B23K 26/142
B23K 26/16
B23K 26/364
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面および裏面を有し、複数のセラミック層を積層してなる基板本体と、該基板本体の中央側に位置し、複数の配線基板領域が縦横に隣接して位置する製品領域と、上記基板本体の周辺側に位置し、上記製品領域の周囲を囲む耳部と、上記基板本体の表面および裏面の少なくとも一方に形成され、上記製品領域における配線基板領域同士の境界および製品領域と耳部との境界に沿った複数の分割溝と、上記基板本体を貫通し且つ上記分割溝が交差する複数の貫通孔と、を備えた多数個取り配線基板の製造方法であって、
複数のグリーンシートに対し、打ち抜き加工を施して複数の貫通孔を前記グリーンシートごとに形成する工程と、
上記複数のグリーンシートを、上記貫通孔が個別に連通するように積層してグリーンシート積層体を形成する工程と、
上記グリーンシート積層体の表面および裏面の少なくとも一方に沿い、且つ上記複数の貫通孔と交差するようにレーザーを照射して、上記表面および裏面の少なくとも一方に分割溝を形成する工程と、を含み、
上記分割溝を形成する工程は、複数の貫通孔が形成された上記グリーンシート積層体の表面または裏面に沿ってレーザーを照射しつつ移動させると共に、該レーザーが照射されつつ送られる軌跡と交差する上記貫通孔内では、該レーザーの照射方向と反対向きのガスが噴流されている、
ことを特徴とする多数個取り配線基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多数個取り配線基板の製造方法における前記分割溝を形成する工程に用いられるグリーンシート積層体用の支持台であって、
前記グリーンシート積層体を載置する水平板に形成され、該積層体を貫通する前記複数の貫通孔と個別に連通する複数の第1通し孔と、
上記水平板に形成され、上記貫通孔と連通せず且つ上記積層体の裏面に上端が開口する複数の第2通し孔と、
上記複数の第1通し孔を介して、水平板の表面側に高圧ガスを噴射するガス噴射手段と、
上記複数の第2通し孔を介して、水平板の表面側のガスを吸引する減圧手段と、を備えている、
ことを特徴とする多数個取り配線基板の製造方法に用いる支持台。
【請求項3】
前記ガス噴射手段は、前記水平板の下側に位置し、複数の第1通し孔に高圧ガスを噴射するための高圧ガス室を含み、
前記減圧手段は、前記水平板側に位置し、複数の第2通し孔に個別に連通する減圧ガス流路を含んでいる、
ことを特徴とする請求項2に記載の多数個取り配線基板の製造方法に用いる支持台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックからなる多数個取り配線基板の製造方法および当該方法に用いるグリーンシート積層体用の支持台に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路基板の製造歩留まりを高めるため、複数の導体パターンが形成された複数のグリーンシートを積層および接着して未焼成の積層体を形成し、かかる積層体に対しレーザー光を照射して該積層体を上記導体パターンごとに複数個に切断した後、得られた未焼成の電子回路基板を焼成する電子回路基板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
更に、上記特許文献1の
図12には、未焼成の前記積層体を複数の固定吸着部と、該吸着部の周囲を囲む空間箱と、該空間箱内のエアやセラミックの切断粉を外部に排出を有するホースとを備えた固定治具が開示され、上記複数の固定吸着部の上に架橋して支持された上記積層体に対し、レーザーを照射し且つ該レーザーの周囲から同じ方向にエアーアシストガスを噴射しつつ該積層体の表面に沿って移動することで、複数個の未焼成の電子回路基板に切断する工程が示されている。
【0003】
しかしながら、前記特許文献1の
図12に示されたレーザー加工による積層体の切断工程のように、レーザーの照射方向とエアーアシストガスの噴射方向とを同じ方向に沿って行った場合、該レーザーによって局部的に溶融されたセラミックなどの微粉末(シートカス)が、上記積層体の内部における切断予定面の溝内に不用意に付着したり、該積層体の表面に飛散して付着する場合がある。
特に、未焼成の積層体における切断予定面に沿って予め穿孔された断面円形や長円形状の貫通孔を径方向に横切って分割溝を形成すべくレーザーを照射した場合、セラミックなどの微粉末が前記貫通孔の内壁に付着すると、予め上記貫通孔の内壁面に形成されていた未焼成の筒形のメタライズに対し追って施す電解金属メッキ工程において、メッキ液が上記微粉末内に残留して、所要の金属メッキが焼成後の上記メタライズの表面に被覆できなくなる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−53443号公報(第1〜11頁、
図1〜20)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術で説明した問題点を解決し、予め表面と裏面との間を貫通する貫通孔が形成されたグリーンシート積層体の表面および裏面の少なくとも一方に沿ってレーザー加工による分割溝を上記貫通孔を横切って形成するに際し、セラミックなどの微粉末が上記貫通孔の内壁に付着し難く、上記積層体の表面に飛散・付着しにくく、後工程のメッキの支障となりにくい多数個取り配線基板の製造方法と、これに用いる上記積層体用の支持台を提供する、ことを課題とする。
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、予め貫通孔が形成されたグリーンシート積層体の表面や裏面に対し該貫通孔を径方向に横切ってレーザーを照射するに際し、該レーザーの照射方向と反対向きに上貫通孔内にエアなどのガスを噴流させる、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明による多数取り配線基板の製造方法(請求項1)は、表面および裏面を有し、複数のセラミック層を積層してなる基板本体と、該基板本体の中央側に位置し、複数の配線基板領域が縦横に隣接して位置する製品領域と、上記基板本体の周辺側に位置し、上記製品領域の周囲を囲む耳部と、上記基板本体の表面および裏面の少なくとも一方に形成され、上記製品領域における配線基板領域同士の境界および製品領域と耳部との境界に沿った複数の分割溝と、上記基板本体を貫通し且つ上記分割溝が交差する複数の貫通孔と、を備えた多数個取り配線基板の製造方法であって、
複数のグリーンシートに対し、打ち抜き加工を施して複数の貫通孔を前記グリーンシートごとに形成する工程と、
上記複数のグリーンシートを、上記貫通孔が個別に連通するように複数のグリーンシートを積層してグリーンシート積層体を形成する工程と、該グリーンシート積層体に対し、打ち抜き加工を施して複数の貫通孔を形成する工程と、上記グリーンシート積層体の表面および裏面の少なくとも一方に沿い、且つ上記複数の貫通孔と交差するようにレーザーを照射して、上記表面および裏面の少なくとも一方に分割溝を形成する工程と、を含み、上記分割溝を形成する工程は、複数の貫通孔が形成された上記グリーンシート積層体の表面または裏面に沿ってレーザーを照射しつつ移動させると共に、該レーザーが照射されつつ送られる軌跡と交差する上記貫通孔内では、該レーザーの照射方向と反対向きのガスが噴流されている、ことを特徴とする。
【0007】
これによれば、分割溝を形成する前記レーザーの照射によって、前記グリーンシート積層体の表面および裏面の少なくとも一方の表層付近が溶融して飛散する微細なセラミックやメタライズのシートカスは、上記レーザーが横切る貫通孔の内壁面や上記積層体の表面などに付着することなく、該レーザーの周囲を囲む還状の吸気路に吸い上げられる。即ち、シートカスは、レーザーが貫通孔のないグリーンシートの表面などを移動する場合は基より、貫通孔を径方向に沿って横切る場合にも、グリーンシートの表面などの上方で且つ照射されるレーザーの周囲に吸上げられる。その結果、上記貫通孔の内壁面や上記積層体の表面などにシートカスが付着したり、該貫通孔内に堆積して該貫通孔を閉塞しにくくなる。従って、予め貫通孔の内壁面に形成されていた未焼成のメタライズに対し、追って電解金属メッキを施した際に、NiやAuなどのメッキ膜を確実に被覆でき、且つメッキ液が貫通孔内に残留する事態も防止できる。
【0008】
尚、前記セラミック層を構成するセラミックには、例えば、アルミナ、ムライト、窒化アルミニウムなどの高温焼成セラミックのほか、低温焼成セラミックの一種であるガラス−セラミックなども含まれる。
また、前記レーザーには、例えば、YAGレーザー、炭酸ガスレーザー、エキシマレーザー、半導体レーザーなどが含まれる。
更に、前記貫通孔は、断面が円形で且つ隣接する4個の配線基板領域のコーナごとに跨る形態や、断面が長円形で且つ隣接する2個の配線基板領域に跨る形態などが含まれる。
加えて、前記ガスには、エアのほか、窒素などの不活性ガスを用いても良い。
【0009】
一方、本発明には、前記多数取り配線基板の製造方法に用いられる支持台であって、前記グリーンシート積層体を載置する水平板に形成され、該積層体を貫通する前記複数の貫通孔と個別に連通する複数の第1通し孔と、上記水平板に形成され、上記貫通孔と連通せず且つ上記積層体の裏面に上端が開口する複数の第2通し孔と、上記複数の第1通し孔を介して、水平板の表面側に高圧ガスを噴射するガス噴射手段と、上記複数の第2通し孔を介して、水平板の表面側のガスを吸引する減圧手段と、を備えている、多数取り配線基板の製造方法に用いる支持台(請求項2)も含まれる。
【0010】
これによれば、前記グリーンシート積層体の裏面に上端が開口する複数の第2通し孔を介して水平板の表面側のガスを吸引して上記積層体の裏面側を減圧することで、水平板の表面上に載置した上記グリーンシート積層体を該水平板に拘束できる。かかる拘束状態で、上記グリーンシート積層体の表面に沿って前記レーザーを照射しつつ移動し、その途中で前記貫通孔を横切るので、上記レーザー照射によってグリーンシート積層体の上方に飛散したシートカスは、複数の貫通孔ごとに連通する第1通し孔から水平板の表面側で且つ上向きに噴射されるエアなどのガスによって、レーザートーチの外周側に配置された還状の吸気路に吸い上げられる。従って、グリーンシート積層体の貫通孔内や表面などにシートカスが堆積したり、該貫通孔の内壁面に付着しにくくなるので、予め貫通孔内に形成されていた筒形状メタライズの表面に金属メッキを確実に被覆することができる。
【0011】
更に、本発明には、 前記ガス噴射手段は、前記水平板の下側に位置し、複数の第1通し孔に高圧ガスを噴射するための高圧ガス室を含み、前記減圧手段は、前記水平板側に位置し、複数の第2通し孔に個別に連通する減圧ガス流路を含んでいる、多数取り配線基板の製造方法に用いられる支持台(請求項3)含まれる。
これによれば、高圧ガスを複数の第1通し孔から比較的均一にして噴射できると共に、複数の第2通し孔が単数または少数の減圧ガス流路に合流することで、水平板の表面に接触する前記セラミック積層体の裏面側をほぼ均一な減圧状態として、該積層体を水平板上に確実に拘束することができる。
尚、前記高圧ガス室は、高圧ガスを供給するコンプレッサなどの加圧装置に連通しており、前記減圧ガス流路は、真空ポンプなどの減圧装置に連通している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の製造方法における一製造工程の概略を示す断面図。
【
図3】上記各工程により得られたグリーンシート積層体を示す平面図。
【
図5】上記積層体の表面に分割溝を形成する工程の初期を示す垂直断面図。
【
図7】上記分割溝の形成工程における終期を示す垂直断面図。
【
図8】本発明により得られた多数個取り配線基板を示す垂直断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の製造方法における一製造工程の概略を示す断面図、
図2は、
図1に続く製造工程の概略を示す断面図である。
予め、アルミナ粉末に樹脂バインダおよび溶剤などを適量ずつ配合してセラミックスラリとし、該セラミックスラリをドクターブレード法によってシート化して、
図1に示すように、追ってセラミック層s1〜s3となる3層のグリーンシートg1〜g3を製作した。該グリーンシートg1〜g3は、追って配線基板の基板本体となる複数の基板領域paを平面視で縦横に隣接して有する製品領域PAと、該製品領域PAの周囲を囲む平面視が矩形枠状の耳部(捨て代)mとを備えており、配線基板領域pa,pa間の境界や、製品領域PAと耳部mとの境界は、
図1中の破線で示す架空の切断予定面cfにより区画されている。
【0014】
次に、
図2に示すように、前記グリーンシートg1〜g3ごとにおいて、複数の前記配線基板領域paの各コーナごとに打ち抜き加工を施して、平面視が円形の貫通孔h1を形成すると共に、隣接する配線基板領域pa,pa間における長辺の中間ごとに打ち抜き加工を施して、平面視が長円形の貫通孔h2を形成した。
更に、前記グリーンシートg1〜g3の配線基板領域pa内ごとに打ち抜き加工を施して比較的小径のビアホールを形成し、且つ該ビアホール内にW粉末またはMo粉末を含む導電性ペーストを充填して未焼成のビア導体(何れも図示せず)を形成した。引き続いて、上記グリーンシートg1〜g3における配線基板領域paごとの表面および裏面の少なくとも一方に上記同様の導電性ペーストを所要パターンで印刷して、未焼成の配線層(何れも図示せず)を形成した。
【0015】
次いで、前記貫通孔h1,h2ごとの内壁面に沿って
前記同様の導電性ペーストを負圧を利用して、比較的一様な厚みで被覆し、これらを有する前記グリーンシートg1〜g3を上記貫通孔h1,h2が厚み方向に沿って個別に連通するように積層して圧着した。
その結果、
図3,
図4に示すように、平面視が長方形(矩形)の表面3および裏面4を有し且つ圧着されたグリーンシートg1〜g3からなる未焼成の基板本体2と、断面が円形の貫通孔h1ごとの内壁面に沿って形成された円筒形状のメタライズ5と、断面が長円形の貫通孔h2ごとの内壁面に沿って形成された長円筒形状のメタライズ6とを含むグリーンシート積層体gsが得られた。
【0016】
次に、
図5に示すように、前記グリーンシート積層体gsを本発明の製造方法に用いる支持台15の水平板15a上に載置した。該支持台15は、厚み方向(
図5の上下方向)に沿って貫通する複数の第1通し孔16,17を有する水平板15aと、その下側に連設した高圧ガス室15bとを備えている。上記水平板15aにおいて、断面が円形である一方の第1通し孔16は、グリーンシート積層体gsを貫通する前記貫通孔h1と個別に連通し、断面が長円形状で図示の左右方向に沿って長軸を有する他方の第1通し孔17は、前記貫通孔h2と個別に連通するように、予め所定の位置ごとに穿設されている。
【0017】
また、水平板15aの表面(上面)で前記グリーンシート積層体gsの裏面4に直に接触する部位ごとには、比較的小径な複数の第2通し孔19の上端が開口し、該複数の第2通し孔19は、水平な単一の減圧ガス管18に合流している。かかる減圧ガス管18は、先端において図示しない真空ポンプなどの減圧装置に連通している。尚、上記減圧ガス管18、第2通し孔19、および上記減圧装置は、本発明における減圧手段を構成している。
更に、
図5に示すように、高圧ガス室15bには、例えば、高圧Air(ガス)を該高圧ガス室15b内に供給するためのガス供給管15cの一端が接続され、該ガス供給管15cの他端には、図示しないコンプレッサなどの加圧手段が連通している。尚、上記高圧ガス室15b、ガス供給管15c、および上記加圧手段は、本発明におけるガス噴射手段を構成している。
【0018】
次いで、前記グリーンシート積層体gsを水平板15a上に載置した状態で、
図5中の破線の矢印で示すように、減圧ガス管18および複数の第2通し孔19を介して、上記グリーンシート積層体gsの裏面4側のAir(ガス)を吸引して減圧状態とした。その結果、該グリーンシート積層体gsは、その貫通孔h1,h2を水平板15aの第1通し孔16,17に個別に連通させた状態で、当該水平板15aの表面上に拘束された。
更に、
図5中の実線の矢印で示すように、ガス供給管15cから高圧ガス室15b内へ数気圧程度に加圧されたAir(高圧ガス)を供給した。該高圧Airは、水平板15aの第1通し孔16,17を経て、個別に連通するグリーンシート積層体gsの貫通孔h1,h2内を裏面4側から表面3側に向かって、上向きに個別に憤流(流通)した。
【0019】
かかる状態で、
図5中の左上に示すように、円筒形の中筒11の先端(下端)に焦点(集光)用レンズ12を有し、図示しないレーザー発生源からのレーザーLを前記グリーンシート積層体gsの表面3における前記切断予定面cfに沿って水平移動しつつ照射することによって、分割溝を形成する工程を開始した。上記レーザーLには、例えば、UV−YAGレーザーを用いた。また、中筒11の外側には、円環形の吸気路13を形成する外筒14が中筒11と同心で配置され、該吸気路13の上方には、図示しない真空ポンプなどの減圧装置が連通している。尚、上記中筒11および外筒14は、レーザートーチを構成している。
次に、グリーンシート積層体gsの表面3付近に焦点を合わせてレーザーLを照射しつつ、
図5中の白抜きの矢印で示すように、中筒11および外筒14を
図5で左側の耳部mから製品領域PA内の切断予定面cfに沿って順次移動させた。上記レーザーLが最初に照射されたグリーンシート積層体gsの耳部mには、側面視で下向きに凸に湾曲した溝初端部21が形成され、製品領域PA内には、同様の湾曲した溝終端部22が形成された。
【0020】
そして、一定の出力に達した前記レーザーLは、
図6の拡大図で示すように、表面3側のグリーンシートg1を構成するセラミック成分と、貫通孔h1,h2の内壁面に被覆されたメタライズ5,6を構成する金属成分とを局部的に溶融しつつ、断面ほぼV字形の分割溝20を切断予定面cfに沿って順次形成していった。上記のように溶融されたセラミック成分や金属成分は、微細な粉末状のシートカスdとなってグリーンシート積層体gsの表面3付近に吹き上げられた。
この間において、前記高圧Air(ガス)は、水平板15aの第1通し孔16,17を経て、これらと個別に連通するグリーンシート積層体gsの貫通孔h1,h2内を裏面4側から表面3側に向かって、上向きに個別に憤流していた。その結果、上記レーザーLが各貫通孔h1,h2をこれらの径方向に沿って横切った際に、表面3付近に吹き上がった上記シートカスdは、
図6中の実線の矢印で示すように、上記高圧Airによって貫通孔h1,h2の内部に進入したり、グリーンシート積層体gsの表面3に付着することなく、前記中・外筒11,14間の吸気路13内に順次吸い上げられた。
【0021】
引き続き、
図7に示すように、前記同様にレーザーLを照射しつつグリーンシート積層体gsにおける右側の耳部m付近まで移動させた。その結果、
図7で左右方向に沿った断面ほぼV字の分割溝20を、複数の配線基板領域paを有する製品領域PAの表面側3を横切って形成することができた。この間において、レーザーLにより生じた前記シートカスdは、該レーザーLが径方向に横切った貫通孔h1,h2の内部に進入したり、前記積層体gsの表面3に付着することなく、前記中・外筒11,14間の吸気路13に吸い上げられた後、外部に排出された。
次に、
図7の前後方向に沿った前記グリーンシート積層体gsの表面3に位置する複数の切断予定面cfに沿って、前記同様にレーザーLを照射しつつ移動させことで、平面視で格子枠形状を呈する複数の分割溝20を表面3側に形成した。
【0022】
更に、表面3側に複数の前記分割溝20が形成された前記グリーンシート積層体gsを、所定の温度帯で焼成した。その結果、
図8に示すように、前記グリーンシートg1〜g3が焼成されたセラミック層s1〜s3からなる基板本体2となり、その表面3側に平面視で格子枠形状を呈する複数の分割溝20が形成された多数個取り配線基板1を得ることができた。
そして、上記多数個取り配線基板1における複数の貫通孔h1,h2の内壁面に被覆された焼成済みのメタライズ5,6の表面に、電解金属メッキによりNiメッキ膜およびAuメッキ膜をそれぞれ所要の厚みで順次被覆した。この際、前記分割溝20を形成する工程で、前記シートカスdが各貫通孔h1,h2内に殆んど進入しておらず、且つメタライズ5,6ごとの表面に付着していなかったので、上記メッキの被覆に支障を生じなかった。
尚、前記レーザーLによる分割溝20の形成工程は、前記グリーンシート積層体gsの裏面4側における厚み方向における対称な位置に対しても、更に施すようにしても良い。
【0023】
以上のような本発明による多数個取り配線基板1の製造方法によれば、分割溝20を形成するための前記レーザーLの照射によって、前記グリーンシート積層体gsの表面3および裏面4の少なくとも一方の表層付近が溶融して飛散する微細なセラミックやメタライズ5,6のシートカスdは、上記レーザーLが横切る貫通孔h1,h2の内壁面に付着することなく、グリーンシート積層体gsの表面3などの上方で且つ照射されるレーザーLの周囲に吸上げられる。その結果、前記貫通孔h1,h2の内壁面や前記積層体gsの表面3などにシートカスdが付着したり、貫通孔h1,h2内に堆積して該貫通孔h1,h2を閉塞しなった。
従って、予め貫通孔h1,h2の内壁面に形成されていた未焼成のメタライズ(筒形導体)5,6の表面に対し、電解金属メッキを施した際に、NiやAuなどのメッキ膜を確実に被覆でき、且つメッキ液が上記貫通孔h1,h2内に残留する事態を防止することもできた。
【0024】
一方、前記製造方法に用いる前記支持台15によれば、グリーンシート積層体gsの裏面4に上端が開口する第2通し孔19を介して水平板15aの表面側のAir(ガス)を吸引して上記積層体gsの裏面4側を減圧することで、水平板15aの上に載置した上記積層体gsを該水平板15aに拘束できた。かかる拘束状態で、上記積層体gsの表面3に沿って前記レーザーLを照射しつつ移動し、その途中で貫通孔h1,h2を横切るので、レーザー照射によって積層体gsの上方に飛散したシートカスdは、貫通孔h1,h2ごとに連通する第1通し孔16,17から水平板15aの表面側で且つ上向きに噴射されるAirによって、レーザーLの外側に配置された還状の吸気路13に吸い上げられた。従って、グリーンシート積層体gsの貫通孔h1,h2内にシートカスdが堆積せず、該貫通孔h1,h2の内壁面などに殆んど付着しなかったので、予め貫通孔内に形成されていたメタライズ5,6の表面に金属メッキを確実に被覆することができた。
【0025】
本発明は、以上において説明した各形態に限定されるものではない。
例えば、前記セラミックには、アルミナ以外のムライトや窒化アルミニウムなどの高温焼成セラミックのほか、低温焼成セラミックの一種であるガラス−セラミックなどを用いても良い。
また、前記ガスには、Airのほか、窒素などの不活性ガスを用いても良い。
更に、前記レーザーには、前記YAGレーザーのほか、炭酸ガスレーザー、エキシマレーザー、あるいは半導体レーザーなどを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、予め貫通孔が形成されたグリーンシート積層体の表面および裏面の少なくとも一方に沿ってレーザー加工により形成される分割溝が上記貫通孔を横切りつつ形成するに際し、セラミックなどの微粉末が上記貫通孔の内壁や、上記積層体の表面に付着しにくく、後工程の電解金属メッキの支障となりにくい多数個取り配線基板の製造方法、およびこれに用いる上記積層体用の支持台を提供できる。
【符号の説明】
【0027】
1……………多数個取り配線基板
2……………基板本体
3……………表面
4……………裏面
15…………支持台
15a………水平板
15b………高圧ガス室
16,17…第1通し孔
18…………減圧ガス流路
19…………第2通し孔
20…………分割溝
h1,h2…貫通孔
s1〜s3…セラミック層
g1〜g3…グリーンシート
gs…………グリーンシート積層体
pa…………配線基板領域
PA…………製品領域
m……………耳部
L……………レーザー
Air………エア(ガス)