特許第5778075号(P5778075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5778075乗客コンベアの運転制御システム及び運転制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778075
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】乗客コンベアの運転制御システム及び運転制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 29/00 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
   B66B29/00 D
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-107745(P2012-107745)
(22)【出願日】2012年5月9日
(65)【公開番号】特開2013-234042(P2013-234042A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 芳治
(72)【発明者】
【氏名】厚沢 輝佳
(72)【発明者】
【氏名】坂田 義喜
【審査官】 筑波 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−524008(JP,A)
【文献】 特開2008−074527(JP,A)
【文献】 特開2001−002358(JP,A)
【文献】 特開2008−001467(JP,A)
【文献】 実開昭64−012076(JP,U)
【文献】 特開2013−040013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00 − 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の踏段が無端状に連結され、上下部乗降口間で走行する乗客コンベアの前記踏段の
欠落による開口部の有無を診断し、その診断結果に基づいて前記乗客コンベアの運転を制
御する乗客コンベアの運転制御システムであって、
前記乗客コンベアの起動時の駆動トルクを算出する起動トルク算出手段と、
前記起動時の駆動トルクの値と運転方向の条件から踏段開口部の有無を判断する開口有
無診断手段と、
を備えたことを特徴とする乗客コンベアの運転制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客コンベアの運転制御システムであって、
前記踏段が前記乗客コンベアの内部側を走行する間に前記開口部の有無を検知する開口
検知手段と、
前記開口検知手段が前記開口部を検知したとき、当該開口部が前記開口検知手段を通過
してから前記開口部が移動した距離を算出して記憶手段に記憶する開口位置算出手段と、
を備えたことを特徴とする乗客コンベアの運転制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の乗客コンベアの運転制御システムであって、
前記開口位置算出手段は、前記距離の算出及び前記記憶手段への記憶を継続的に実施す
ること
を特徴とする乗客コンベアの運転制御システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の乗客コンベアの運転制御システムであって、
前記開口有無診断手段が、前記開口部があると診断したとき、当該開口部の現在位置を
報知する報知手段を備えていること
を特徴とする乗客コンベアの運転制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載の乗客コンベアの運転制御システムであって、
前記報知手段による報知後、緩やかに乗客コンベアを加速し、運転を開始すること
を特徴とする乗客コンベアの運転制御システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の乗客コンベアの運転制御システムであって、
駆動機器が納められた床下機械室を覆うカバーと、
前記カバーの開閉状態を検知するカバー開閉検知手段と、
遠隔地から前記乗客コンベアの起動指令又は停止指令を与える遠隔操作手段と、
を備え、
前記カバー開閉検知手段が、前記カバーが閉じていないことを検知したとき、その状態
を前記遠隔操作手段に通知し、前記報知手段により遠隔起動できない旨報知すること
を特徴とする乗客コンベアの運転制御システム。
【請求項7】
請求項2又は3に記載の乗客コンベアの運転制御システムであって、
前記開口有無診断手段が、前記開口部があると診断したとき、当該開口部の現在位置を報知する報知手段と、
遠隔地から前記乗客コンベアの起動指令又は停止指令を与える遠隔操作手段と、
を備え、
前記開口検知手段が前回の起動から停止までの間に前記開口部を検知したとき、その状態を前記遠隔操作手段に通知し、前記報知手段により遠隔起動できない旨報知すること
を特徴とする乗客コンベアの運転制御システム。
【請求項8】
請求項7に記載の乗客コンベアの運転制御システムであって、
前記報知手段による報知後、緩やかに乗客コンベアを加速し、運転を開始すること
を特徴とする乗客コンベアの運転制御システム。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の乗客コンベアの運転制御システムであって、
駆動機器が納められた床下機械室を覆うカバーと、
前記カバーの開閉状態を検知するカバー開閉検知手段と、
を備え、
前記カバー開閉検知手段が、前記カバーが閉じていないことを検知したとき、及び前記開口検知手段が前回の起動から停止までの間に前記開口部を検知したとき、その状態を前記遠隔操作手段に通知し、前記報知手段により遠隔起動できない旨報知すること
を特徴とする乗客コンベアの運転制御システム。
【請求項10】
請求項に記載の乗客コンベアの運転制御システムであって、
前記カバー開閉検知手段が、前記カバーが閉じていることを検知し、前記開口検知手段が前回の起動から停止までの間に前記開口部を検知しないとき、緩やかに乗客コンベアを起動し、超低速状態を保持すること
を特徴とする乗客コンベアの運転制御システム。
【請求項11】
複数の踏段が無端状に連結され、上下部乗降口間で走行する乗客コンベアの前記踏段の欠落による開口部の有無を診断し、その診断結果に基づいて前記乗客コンベアの運転を制御する乗客コンベアの運転制御方法であって、
前記乗客コンベアの起動時の駆動トルクを起動トルク算出手段によって算出する工程と、
前記工程で算出された前記起動時の駆動トルクの値と運転方向の条件から踏段開口部の有無を開口有無診断手段により診断する工程と、
前記診断する工程で前記開口部があると診断されたとき、当該開口部の現在位置を報知手段によって報知する工程と、
を備えたことを特徴とする乗客コンベアの運転制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアの運転制御システム及び運転制御方法に係り、特に、踏段の着脱有無を自動監視し、踏段が外れている場合の運転を制御する乗客コンベアの運転制御システム及び運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の無端状に連結された踏段を上下部乗降口間で走行させる乗客コンベアとしては、踏段として踏段を走行させるエスカレータ、及び踏段としてその連結された踏面が同一平面を形成した状態で乗客を乗せて移動する傾斜型オートラインがある。これらの傾斜型乗客コンベアでは、保守作業時に乗客が乗る踏段を一部取り外して開口を設け、この開口から各種の保守作業を行う場合がある。また、保守点検時でなくても、何らかの不具合により前記踏段の一部が落下して開口が生じてしまう場合もある。
【0003】
そこで、このような踏段を使用した乗客コンベアでは、踏段の一部が落下して開口しているか否かを診断し、診断結果に基づいて安全を確保するための処理(制御)を実行する必要がある。このような運転制御装置として、例えば、特許文献1に記載された発明が公知である。この発明は、光学的に踏段の脱落を検出する光センサ装置、及び前記光センサ装置により前記踏段の脱落を検出したときはエスカレータの運転を停止させる制御盤を備えたことを特徴とするエスカレータの踏段脱落検出装置である。この装置では、踏段の脱落を検出したときはエスカレータの運転を自動停止させることができるため、踏段の脱落による他の多数の踏段の破損を防止でき、また、踏段の開口部への乗客の落下による災害を未然に防ぐことができるという効果を主張している。
【0004】
この公知例に係る乗客コンベアの運転制御装置は、従来においては、起動と停止を小刻みに繰り返しながら踏段の有無を目視で確認していた作業を、連続運転指令中のセンサ信号処理の中で自動的に検知する構成としたので、自動で確実に踏段の有無が検知できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−257866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1記載の発明では、運転制御装置は、踏段の有無を検知するために専用の光センサを所定の位置に設けて検知するため、踏段の外れた部位がセンサを通過する位置まで走行させないと踏段の外れている部位があることを知ることができない。そのため、起動直後に踏段の状態が危険な状態であるか否かを判断することはできない。また、保守点検時に踏段を外した開口部が存在した状態で乗客コンベアを運転する場合、前記光センサの検知機能を無効にしなければならない。光センサの検知機能を無効にするには、そのための操作が必要であり、また、無効にした後、確実に有効に戻さないと、その後の事故の原因にもなりかねない。
【0007】
いずれにしても乗客コンベアに起動指令を与えた直後に踏段が外れた部位があることを知ることができず、そのため、保守作業時及び保守作業直後の安全の確保に問題を残すことになる。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、乗客コンベアへ起動指令を与えた直後に踏段の外れた部位の有無を検知し、定格速度運転に到達する前に乗客及び作業者の安全を確保できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため本発明は、複数の踏段が無端状に連結され、上下部乗降口間で走行する乗客コンベアの前記踏段の欠落による開口部の有無を診断し、その診断結果に基づいて走行を制御する乗客コンベアの運転制御システムであって、前記乗客コンベアの起動時の駆動トルクを算出する起動トルク算出手段と、前記起動時の駆動トルクの値と運転方向の条件から踏段開口部の有無を判断する開口有無診断手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乗客コンベアへ起動指令を与えた直後に踏段の外れた部位の有無を検知し、定格速度運転に到達する前に乗客及び作業者の安全を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る乗客コンベアとしてのエスカレータの駆動構成を示す正面図である。
図2】実施例1に係るエスカレータの運転制御装置を示す機能ブロック図である。
図3】実施例1におけるエスカレータの運転制御手順を示すフローチャートである。
図4】実施例2に係るエスカレータの運転制御装置を示す機能ブロック図である。
図5】実施例2におけるエスカレータの運転制御手順を示すフローチャートである。
図6】実施例3に係るエスカレータの運転制御装置を示す機能ブロック図である。
図7】実施例3におけるエスカレータの運転制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る乗客コンベアとしてのエスカレータの駆動構成を示す正面図である。同図において、エスカレータEは、踏段1、踏段チェーン2、上部及び下部スプロケット3、4、駆動モータ5並びにトルク制御装置6から基本的に構成されている。エスカレータEの上部には上部乗降口1aが、下部には下部乗降口1bが設けられ、乗客は上部乗降口1aあるいは下部乗降口1bのいずれか一方から踏段1に乗り、他方から降りるようになっている。
【0014】
踏段1は、無端状に連結された踏段チェーン2に軸支されている。踏段チェーン2は上部スプロケット3と下部スプロケット4に巻きかけられ、上部スプロケット3は駆動モータ5の駆動力によって回転駆動される。これにより、駆動モータ5が駆動されると、上部スプロケット3が回転し、この駆動力を踏段チェーン2が受けて回転する。踏段1はこの踏段チェーン2の回転と一体となって回転し、走行する。走行の際、上部乗降口1aから下部乗降口1bの間で外部に露出している状態の踏段が、乗客が乗ることができる踏段であり、走行方向に応じて外部の踏段1は上部乗降口1aあるいは下部乗降口1bから内部に入り込む。
【0015】
符号15は乗客が掴まる手すり(ハンドレール)であり、駆動トルク制御装置6は駆動モータ5の加速度、速度、トルクなどを制御する。したがって、踏段1の走行制御は駆動トルク制御装置6によって実行される。
【0016】
以下、各実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図2は実施例1に係るエスカレータの運転制御装置を示す機能ブロック図である。エスカレータの駆動構成自体は図1と同一である。
【0018】
図2に示すように、本実施例1におけるエスカレータの運転制御装置100は、起動トルク算出部8及び開口有無診断部9を備えている。起動トルク算出部8は操作者7による運転指令を検出して起動開始時の駆動トルクを算出する。開口有無診断部9は起動トルク算出部8で算出された起動トルク値と運転方向情報から踏段開口部の有無を診断する。診断結果は報知装置10に通知され、報知装置10から操作者7へ報知する。なお、報知装置10は診断結果の他に各種情報も報知する。
【0019】
起動トルク算出部8と開口有無診断部9は図示しないCPU、ROM、RAM、EPROMなどを含む制御部に設定されている。CPUは中央制御装置であり、ROMに格納されたプログラムコードを読み込み、RAMに展開し、RAMをワークエリアとして使用しながらプログラムを実行し、各部を制御する。RAMはまたデータバッファとしても使用され、EPROMはCPUが制御に使用するデータを記憶する。
【0020】
図3は実施例1におけるエスカレータの運転制御手順を示すフローチャートである。診断及び運転制御はCPUによって実行される。
【0021】
本実施例1においては、まず、運転指令の有無を判定し(ステップS1)、運転指令を検出した場合、運転方向を判定する(ステップS2)。運転指令方向が下降方向と判定された場合、下降運転を開始した起動時のトルク(以下、第1の起動トルクとも称する。)T1を算出する(ステップS3)。そして、ステップS3で第1の起動トルクT1を算出したら、算出した第1の起動トルクT1の値と、予めメモリ(例えばEPROM)に記憶させている下降運転開始時の基準となる基準トルク値(以下、第1の基準値と称する。)Tdの値を比較する(ステップS4)。
【0022】
このステップS4の比較で、第1の起動トルクT1と第1の基準値Tdがほぼ同等であれば(T1≒Td)、踏段1による走行抵抗は表側と裏側でバランスして(釣り合って)いると判定し、踏段1の開口はないと決定して(ステップS5)定格速度運転の指令を開始し(ステップS6)、この運転制御手順を終了する。
【0023】
起動開始時の第1の基準値Tdは、手すり15の走行抵抗や踏段1の走行抵抗が上昇運転と下降運転で若干差が生じるが、概ね、駆動モータ5の定格トルクの数%〜10%程度であり、この値は乗客コンベアの階高や構造によって異なるが、同じ号機であれば、毎回の起動時は同じ値となる。
【0024】
ステップS4で第1の起動トルクT1が第1の基準値Tdと異なると判定された場合、ステップS7に移行して第1の起動トルクT1が第1の基準値Tdより小さいか否かを判定する。このステップS7の判定で、小さいと判定された場合は、操作者には見えない裏側に踏段1の開口があると決定する(ステップS8)。
【0025】
このように小さいと判定されるのは、裏側の踏段1の総重量が表側の踏段1の総重量より軽いためであり、軽い側を持ち上げて重たい側を下すので、このアンバランス分が下降運転では第1の基準値Tdを減少させるからである。このようにステップS8で操作者には見えない裏側に踏段1の開口があると決定されると、報知装置10によって「裏側に踏段の開口があります」という注意アナウンスを報知し、その後、通常加速より緩やかな加速指令を与える(ステップS9)。そして、緩やかな加速が開始され、定格速度まで加速された後、定格速度運転を開始して(ステップS6)この運転制御手順を終了する。
【0026】
また、ステップS7で第1の起動トルクT1が第1の基準値Tdより小さくないと判定された場合、これは第1の起動トルクT1が第1の基準値Tdより大きいとの判定結果となり、操作者に見える表側に踏段1の開口があると決定する(ステップS10)。そして、報知装置10によって「表側に踏段の開口があります」という注意アナウンスを報知し、その後、通常加速より緩やかな加速指令を与える(ステップS11)。これにより緩やかな加速が開始され、定格速度まで加速された後、定格速度運転を開始して(ステップS6)この運転制御手順を終了する。
【0027】
一方、ステップS2で上昇運転と判定した場合は、上昇運転を開始した起動時のトルク(以下、第2の起動トルクと称する。)T2を算出する(ステップS12)。第2の起動トルクT2を算出したら、算出した第2の起動トルクT2の値と、予め記憶させている上昇運転開始時の基準となるトルク値(以下、第2の基準値と称する。)Tuの値を比較する(ステップS13)。第2の起動トルクT2と第2の基準値Tuがほぼ向等であれば、踏段1による走行抵抗は表側と裏側でバランスしていると判定し、踏段1の開口はないと決定して(ステップS14)、定格速度運転の指令を開始して(ステップS6)この運転制御手順を終了する。
【0028】
ステップS13で第2の起動トルクT2が第2の基準値Tuと異なると判定された場合、ステップS15に移行して第2の起動トルクT2が第2の基準トルクTuより小さいか否かを判定する。ステップS15で小さいと判定された場合、操作者に見える表側に踏段1の開口があると決定する(ステップS16)。そして、報知装置10によって「表側に踏段の開口があります」という注意アナウンスを報知し、その後、通常加速より緩やかな加速指令を与える(ステップS17)。これにより緩やかな加速が開始され、定格速度まで加速された後、定格速度運転を開始して(ステップS6)この運転制御手順を終了する。
【0029】
他方、ステップS15で第2の起動トルクT2が第2の基準値Tuより小さくないと判定された場合、これは第2の起動トルクT2が第2の基準値Tuより大きいとの判定結果となり、操作者に見えない裏側に踏段1の開口があると決定する(ステップS18)。そして、報知装置10によって「裏側に踏段の開口があります」という注意アナウンスを報知し、その後、通常加速より緩やかな加速指令を与える(ステップS19)。これにより緩やかな加速が開始され、定格速度まで加速された後、定格速度運転を開始して(ステップS6)この運転制御手順を終了する。
【0030】
このように実施例1では、踏段1が取り外されて開口部があることを見落として起動操作が行われた場合、あるいは開口部があることを知らずに起動操作が行われた場合でも、開口部があることを自動的に監視装置100が検知し、操作者及び近辺の人に注意アナウンスを報知してから通常より緩やかに加速を開始する診断運転が行われる。これにより、点検作業の安全性に優れたエレベータ制御が可能となり、乗客及び作業者の安全を確保することができる。
【実施例2】
【0031】
図4は実施例2に係るエスカレータの運転制御装置を示す機能ブロック図である。エスカレータの駆動構成自体は図1と同一である。
【0032】
図4に示すように、本実施例2におけるエスカレータEの運転制御装置200は、開口検知センサ11と開口位置算出部12とを備えている。開口検知センサ11は踏段1が外されていないかを検知する赤外線あるいは音波などの反射信号を使用した反射型センサである。開口検知センサ11はエスカレータEが内部側を走行しているときに踏段1の欠落を検知する。本実施例2では、開口検知センサ11は2個設けられ、1個は踏段1が下り方向に走行している場合に、上部乗降口1a側に踏段1が現れる直前の位置、他の1個は踏段1が上り方向に走行している場合に、下部乗降口1b側に踏段1が現れる直前の位置に配置されている。開口位置算出部12は、開口部が開口検知センサ11の検知位置を通過してから移動した距離を、速度情報あるいは時間情報から算出して記憶する。その他の各部は、実施例1と同様に構成されている。
【0033】
図5は実施例2におけるエスカレータの運転制御手順を示すフローチャートである。診断及び運転制御はCPUによって実行される。
【0034】
本実施例2においては、まず、前回の起動から停止するまでの間に踏段1の開口が検知されていないか否かを判定する(ステップS21)。検知されていない場合は、現在運転中か否かを判定し(ステップS22)、運転中の場合は開口検知センサ11の信号に基づいて開口部が通過したかを検知する(ステップS23)。そして、開口部を検知した時点で、言い換えれば開口部がセンサ11位置を通過したことを検知したら(ステップS23:Yes)、エスカレータEの速度情報、運転方向情報及び前記開口部通過情報(通過した時刻の情報)から開口部の位置を算出し、開口部の現在位置をメモリに記憶したか否かを判定する(ステップS24)。なお、ステップS24では、ステップS23で開口部を検知した時点で、常時その位置を算出し、算出するたび更新するようになっている。そのため、一回開口部を検知すると、踏段1の移動とともに移動する開口部の現在位置は運転制御装置200のCPUによって常時把握されていることになる。
【0035】
そこで、ステップS24で現在位置を記憶したら、「開口部が裏側を走行中で5秒後に表側に現れます」などの注意アナウンスを報知装置10から適当な間隔で報知する(ステップS25)。アナウンス中の走行情報は常時最新の位置へ更新する。また、アナウンスの間隔は、概ね5秒〜15秒が適当である。
【0036】
最後に、停止指令の有無を判定し(ステップS26)、停止指令を受けたと判定したらこの運転制御手順を終了する。
【0037】
一方、ステップS21で前回の起動から停止までの間に踏段1の開口が検知されていたと判定したら、新たな運転指令を受けたかを判定する(ステップS27)。新たな運転指令を受けた場合、「前回の起動時、開口部が残されたまま停止しています。開口部がありますので注意してください」などの注意アナウンスを報知装置10から報知し、その後、緩やかに加速して運転を開始する(ステップS28)。
【0038】
そして、メモリに記憶している開口部の位置を読み出し(ステップS29)、新たな運転の速度情報、運転方向情報を加えて現在の開口位置を算出し、「開口部が裏側を走行中で5秒後に表側に現れます」などの注意アナウンスを適当な間隔で報知する(ステップS30)。次いで、停止指令の有無を判定し(ステップS31)、停止指令が受けていない場合は、ステップS23に移行して開口検知センサ11の信号に基づいて最新の開口部通過を検知し、最新の現在位置情報へ補正しながら、ステップS24以降の処理を繰り返す。ステップS31で停止指令を受けたと判定された場合、この運転制御手順を終了する。
【0039】
なお、実施例1に実施例2を組み合わせて診断し、走行制御することも可能である。
【0040】
このように実施例2では、踏段1を取り外して点検作業を行う際、休憩後や作業者が入れ替わった後の起動時において、運転指令を与えた直後に、踏段1に開口部があることを操作者及び近辺の人に注意アナウンスを報知することができる。これにより長時間又は多人数作業時の安全性に優れたエレベータ制御が可能となり、乗客及び作業者の安全を確保することができる。
【実施例3】
【0041】
図6は実施例3に係るエスカレータの運転制御装置を示す機能ブロック図である。エスカレータの駆動構成自体は図1と同一である。
【0042】
図6に示すように、本実施例3におけるエスカレータEの運転制御装置300は、実施例1及び2における起動トルク算出部8、開口有無診断部9、開口検知センサ11、開口位置算出部12に加え、カバー開閉検知装置13及び遠隔操作部14を備えている。カバー開閉検知部13は、駆動機器が納められた床下機械室16を覆うカバー17が開いていることを検知する検知機能を備えたものである。遠隔操作部14は遠隔地からエスカレータEの起動指令又は停止指令を与えるものである。その他の各部は実施例1及び2と同様に構成され、同様に機能する。
【0043】
図7は実施例3におけるエスカレータの運転制御手順を示すフローチャートである。診断及び運転制御はCPUによって実行される。
【0044】
本実施例3では、まず、遠隔操作又はスケジュール操作により、操作者7が介在しない状態での運転指令を受けているか否かを判定する(ステップS41)。この判定で運転指令を受けている場合は、カバー開閉検知部13の信号から床下機械室16を覆うカバー17が閉じられているか否かを判定する(ステップS42)。ステップS42で閉じられていると判定された場合は、前回の起動から停止するまでの間に踏段1の開口が検知されていないか否かを判定する(ステップS43)。この判定は、実施例2(図5)のステップS21からステップS31の手順に従って行われる。
【0045】
ステップS43の判定で、開口はないと判定された場合は、ステップS44で鳴動音を報知した後、さらに、起動を開始する旨のアナウンスを報知する。次いで、緩やかにエスカレータEを起動し、超低速な状態を保つ(ステップS45)。ここでの速度は、概ね、定格速度の1%〜10%程度とする。そして、ステップS46で起動トルク算出部8によって第1及び第2の起動トルクT1,T2を算出し、ステップS47で第1及び第2の起動トルクT1,T2と第1及び第2の基準値Td,Tuが同等であるか否かを判定する。判定は、実施例1(図3)のステップS2〜S4、S12,S13で述べた手順に従う。
【0046】
第1及び第2の起動トルクT1,T2が第1及び第2の基準値Td,Tuとそれぞれ同等と判定された場合は、報知装置10によって増速を開始する注意アナウンスを報知し、その後、緩やかに加速して定格運転を開始し(ステップS48)、この運転制御手順を終了する。
【0047】
一方、ステップS42でカバー19が開いていると判定された場合及びステップS43で踏段1が外されて開口があると判定された場合は、ステップS42及びS43の判定された状態を遠隔操作端末又は作業員の携帯端末へ通知し(ステップS49)、エスカレータE側が遠隔起動を実施できない状態である旨のアナウンスを適当な間隔で報知し続けておき(ステップS50)、この運転制御手順を終了する。
【0048】
他方、ステップS47で第1及び第2の起動トルクT1,T2(の少なくとも一方)が対応する第1及び第2の基準値Td,Tuと異なると判定された場合は、踏段1が外れている、ベルトが滑っているなどの機器異常の可能性があることを遠隔操作端末又は作業員の携帯端末へ通知し(ステップS51)、運転制御装置300のCPUは遠隔起動ができない状態である旨のアナウンスを報知装置10から適当な間隔で報知し続けておき(ステップS52)、この運転制御手順を終了する。
【0049】
このように実施例3では、監視カメラあるいは人感センサなどのエスカレータEの制御とは直接関係しない装置を必要とせず、遠隔操作又はスケジュール操作で安全にエスカレータEを起動することができる。これにより、毎日の起動操作を行う設備管理者の負担を軽減し、安全管理に優れたエレベータ制御が可能となり、乗客及び作業者の安全を確保することができる。
【0050】
以上のように、本実施形態によれば、エスカレータEへ起動指令を与えた直後に踏段1の外れた部位の有無を検知し、踏段1が外れた開口部がある場合には、その旨、報知するので、定格速度運転に到達する前に乗客及び作業者の安全を確保することができる。
【0051】
なお、特許請求の範囲における乗客コンベアは本実施形態ではエスカレータEに、踏段は符号1に、上下部乗降口は上部乗降口1a及び下部乗降口1bに、起動トルク算出手段は起動トルク算出部8に、開口有無診断手段は開口有無診断部9に、開口検知手段は開口検知センサ11に、開口位置算出手段は開口位置算出部12に、記憶手段はメモリ(例えばEPROM)に、報知手段は報知装置10に、床下機械室は符号16に、カバーは符号17に、カバー開閉検知手段はカバー開閉検知部13に、遠隔操作手段は遠隔操作部14に、それぞれ対応し、エスカレータEの運転制御は運転制御装置100,200,300のCPUによって実行される。
【0052】
さらに、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施例は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1 踏段
1a 上部乗降口
1b 下部乗降口
8 起動トルク算出部
9 開口有無診断部
10 報知装置
11 開口検知センサ
12 開口位置算出部
13 カバー開閉検知部
14 遠隔操作部
16 床下機械室
17 カバー
100,200,300 運転制御装置
E エスカレータ
図3
図5
図7
図1
図2
図4
図6