(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無機バインダーは、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムおよびシリカの群から選ばれる少なくとも何れか一種の金属酸化物からなる、請求項1に記載の貴金属微粒子担持触媒。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態の貴金属微粒子担持触媒について説明する。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。
【0025】
本実施形態の貴金属微粒子担持触媒は、基体と、多孔質膜とから構成される。多孔質膜は基体上に形成される。
【0026】
多孔質膜は、貴金属微粒子と、担体粒子(一次粒子)と、無機バインダーとから構成される。また、担体粒子は、担体粒子の表面に貴金属微粒子を担持している。また、担体粒子は多孔質構造を有する二次粒子を形成している。なお、「二次粒子」とは、一次粒子が凝集したものである。特に、本実施形態では、「二次粒子」とは、貴金属微粒子を担持している担体粒子が凝集したものを指す。また、「多孔質構造を有する二次粒子」とは、二次粒子が、担体粒子間のすき間によって形成される微細な孔を有していることを意味する。
【0027】
より詳細には、多孔質膜は、上記のような二次粒子と隣接する他の二次粒子との間に空隙が存在するように、二次粒子が無機バインダーによって互いに結合されることにより形成されている。
【0028】
また、貴金属微粒子は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ルテニウム(Ru)およびロジウム(Rh)の群から選ばれる少なくとも何れか一種からなり、その粒径が1nm〜20nmであることが好ましい。また、貴金属微粒子は、上記の群の金属の合金またはそれらの金属の混合物であることも好ましい。これにより、高い触媒活性を示す貴金属微粒子担持触媒を得ることができる。
【0029】
また、貴金属微粒子の粒径は、1nm〜5.5nmであることがさらに好ましい。これにより、さらに高い触媒活性を示す貴金属微粒子担持触媒を得ることができる。
【0030】
また、貴金属微粒子はPtからなり、その粒径は1nm〜5.5nmであることが特に好ましい。これにより、特に優れた触媒活性を示す貴金属微粒子担持触媒を得ることができる。
【0031】
また、貴金属微粒子はPdからなり、その粒径は5nm〜15nmであることも特に好ましい。これにより、やはり特に優れた触媒活性を示す貴金属微粒子担持触媒を得ることができる。
【0032】
また、担体粒子は、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、シリカおよびカーボンの群から選ばれる少なくとも何れか一種からなることが好ましい。これにより、貴金属微粒子を担持させ易くなる。したがって、このようにすれば、優れた触媒活性を示す貴金属微粒子担持触媒を得ることができる。
【0033】
また、担体粒子の平均粒径は、10nm〜100nmであることが好ましい。これにより、これら担体粒子が多孔質構造を有する二次粒子を良好に形成し易くなる。
【0034】
また、担体粒子は、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、シリカおよびカーボンの群から選ばれる少なくとも何れか一種からなり、かつ、その担体粒子の平均粒径が10nm〜100nmであることが特に好ましい。
【0035】
また、担体粒子の二次粒子の平均粒径は、10nm〜1000nmであることが好ましい。これにより、空隙を有する多孔質膜を良好に形成し易くなる。なお、担体粒子の二次粒子の平均粒径は10nm〜600nmであることがさらに好ましく、200nm〜600nmであることが特に好ましい。
【0036】
また、無機バインダーは、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムおよびシリカの群から選ばれる少なくとも何れか一種の金属酸化物からなることが好ましい。これにより、隣り合う担体粒子どうしの間および担体粒子と基体との間の付着力が大きく、高い耐久性および耐熱性を有する多孔質膜を形成することができる。また、触媒活性の高い貴金属微粒子担持触媒を得ることができる。
【0037】
また、多孔質膜中の無機バインダーの重量は、多孔質膜中の担体粒子の重量の70%以下であることが好ましい。これにより、貴金属微粒子を担持する担体粒子が無機バインダーに埋設され難くなる。したがって、多くの貴金属微粒子が反応物質と接触できるような多孔質構造を有する多孔質膜を得ることができる。すなわち、触媒活性の高い貴金属微粒子担持触媒を得ることができる。
【0038】
また、多孔質膜中の無機バインダーの重量は、多孔質膜中の担体粒子の重量の15%〜50%であることがさらに好ましい。これにより、貴金属微粒子を担持する担体粒子が無機バインダーに埋設され難くなる。したがって、多くの貴金属微粒子が反応物質と接触できるような多孔質構造を有する多孔質膜を得ることができる。すなわち、触媒活性の高い貴金属微粒子担持触媒を得ることができる。さらに、これにより、担体粒子間および担体粒子と基体との間の付着力が大きく、耐久性および耐熱性を有する多孔質膜を形成できる。
【0039】
また、多孔質膜の膜厚が0.1μm〜10μmであることが好ましい。これにより、乾燥・焼成工程において生じる内部応力による膜の剥離・破損を防止でき、耐久性および耐熱性が高い貴金属微粒子担持触媒を得ることができる。
【0040】
また、多孔質膜の膜厚が0.5μm〜5μmであることがさらに好ましい。これにより、耐久性および耐熱性がさらに高い貴金属微粒子担持触媒を得ることができる。
【0041】
本実施形態で使用される基体は、担体粒子を積層できる限り形状は特に限定されない。基体は、板状、管状、粒状、繊維状、鱗片状などの形状を取り得る。基体の材質としては、セラミックス系材料、炭素系材料、金属材料などが挙げられる。セラミックス系材料としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、シリカなどが挙げられる。炭素系材料としては、カーボンが挙げられる。金属材料としてはアルミニウム、鉄、銅、チタン、ニッケル、亜鉛など、または、それらを含む合金、例えばステンレスまたは真鍮などが挙げられる。
【0042】
また、上記のような貴金属微粒子担持触媒は、排気ガスまたは排水の浄化触媒としても利用できる。このような浄化触媒は、触媒活性の高い貴金属微粒子担持触媒の作用により、排気ガスや排水中の有害成分を好ましく除去することができる。
【0043】
以下で、本発明の貴金属微粒子担持触媒の製造方法の一実施形態を説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
本実施形態の貴金属微粒子担持触媒の製造方法は、貴金属微粒子の分散溶液と平均粒径が10nm〜100nmの担体粒子とを接触させて担体粒子に貴金属微粒子を担持させる工程と、貴金属微粒子を担持させた担体粒子と溶媒とを混合および撹拌して、担体粒子が、平均粒径が10nm〜1000nmの二次粒子を形成するように、担体粒子の分散溶液を製造する工程と、担体粒子の分散溶液と無機バインダーを形成する金属酸化物形成ゾルとを混合することにより塗布液を製造する工程と、塗布液を基体に塗布する工程と、塗布液が塗布された基体に対して乾燥および熱処理を実施する工程と、を含む。また、本製造方法では、担体粒子の二次粒子と、隣接する他の担体粒子の二次粒子とを無機バインダーで結合させて、かつ、担体粒子と基体とを無機バインダーで結合させることにより、基体上に、貴金属微粒子、担体粒子および無機バインダーを含む多孔質膜を形成する。
【0045】
本実施形態の貴金属微粒子担持触媒は、貴金属微粒子が担持された担体粒子が塗布液中で二次粒子を形成し、担体粒子が二次粒子を維持したまま基体上に積層されることで、多孔質膜を形成している。そのため、膜内部にある貴金属微粒子も触媒として作用し、高い触媒活性を有している。このような多孔質膜を形成するためには、塗布液中での二次粒子の平均粒径を所定以下にすることが必要である。具体的には、塗布液中での二次粒子の平均粒径が10nm〜1000nmとなるようにすることが必要である。
【0046】
(貴金属微粒子の分散溶液)
貴金属微粒子の分散溶液を調製するのに用いる貴金属微粒子の貴金属としては、例えば、白金、金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、それら金属の合金、またはそれら金属の混合物などが挙げられる。なかでも白金が好ましい。
【0047】
貴金属微粒子の粒径は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。貴金属微粒子担持体の触媒としての活性度を高くするという観点から、好ましくは1nm〜20nmである。
【0048】
本発明に好ましく用いられる貴金属微粒子の製造方法は、非特許文献1に記載の方法や、本出願人による特許文献1に記載の製法によればよい。これらの製造方法によれば、貴金属微粒子の粒径を20nm以下にできるので好ましい。ただし、本発明の貴金属微粒子の製造方法はこれらに限定されない。
【0049】
以下は非特許文献1に記載の白金コロイドの製造方法である。
「2.白金コロイドの作り方
2.1 白金コロイド
白金コロイドの調製にはコンデンサー付きの2Lの丸底フラスコを用い、これに蒸留水960mlを入れ、マントルヒーターを用いて十分沸騰させる。これに塩化白金酸水溶液(1g−Pt/L)60mlを加え、再び沸騰するのを待って、クエン酸ナトリウム水溶液(1wt%)120mlを添加し沸騰を続ける。溶液は、はじめ塩化白金酸のため淡黄色であるが、徐々に黒みを帯び、クエン酸ナトリウム添加30分後には茶褐色となる。さらに還流を続けると、1時間後には黒色に変化し、その後は色の変化は認められない。反応を停止するには、反応溶液を氷水浴中に浸すことにより行う。このようにして得られた白金コロイドは非常に安定であり、冷蔵庫に保存すれば、数ヶ月は凝集が認められない。
本調製方法は非常に簡単であるが、調製にあたっては次の3点に注意する必要がある。1)容器の洗浄は注意深く行い、あらかじめ一昼夜王水に浸してから使用する。2)使用する水は特に注意を払う必要があり、イオン交換水を2回蒸留して使用する。3)反応中は常に加熱を行い、はげしく反応している状態に保つことである。これだけの注意を払えば、再現性よく、白金コロイドを調製することができる。
反応中はげしく沸騰させておくのは、空気中の酸素が本反応を阻害するからである。溶存酸素を除いた状態で調製することが必要であり、はげしく沸騰していない状態で調製すると、合成に長時間費やしたり、凝集が起こってしまうなどして再現性のよい結果は得られない。窒素ガスなどの不活性気体を吹き込み、溶存酸素を除去した状態では、70℃付近の低温でも調製できる。
未反応の塩化白金酸やクエン酸ナトリウムは、イオン交換樹脂アンバーライドMB−1を詰めたカラムを通すことにより除去することができる。除去の程度は溶液の電気伝導度を測定することにより判断できるが、100mlのコロイド溶液ではイオン交換樹脂6mlで十分である。この際、イオン交換樹脂に吸着される白金コロイドの量はごくわずかである。」
【0050】
また特許文献1に記載の貴金属コロイドの製造方法は以下のとおりである。
「還元剤としては、水に溶解するものであればとくに限定されるものではなく、アルコール類、クエン酸類、カルボン酸類、ケトン類、エーテル類、アルデヒド類またはエステル類が例示される。また、これらの2種以上を併用してもよい。アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコールまたはグリセリンが例示される。クエン酸類としては、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムまたはクエン酸アンモニウムなどのクエン酸塩が例示される。カルボン酸類としては、ぎ酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、アスパラギン酸またはそれらのカルボン酸塩が例示される。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトンが例示される。エーテル類としては、ジエチルエーテルが例示される。アルデヒド類としては、ホルマリンまたはアセトアルデヒドが例示される。エステル類としては、蟻酸メチル、酢酸メチルまたは酢酸エチルが例示される。
粒径1〜20nmの安定な金属のコロイド粒子を生成する観点からは、還元剤としてアルコール類、クエン酸類またはカルボン酸類が好ましい。とくに粒径1〜5nmの安定な金属のコロイド粒子を生成するためには、クエン酸類が好適である。ただし、コロイド粒子は、粒径が1.6nm未満になると、急激に触媒活性などが低下するため、その平均粒径は1.6nm以上であることが好ましい。
反応溶液を構成する溶媒は、還元剤および金属塩を溶解できるものであれば特に限定されるものではなく、水、アルコール類、ケトン類またはエーテル類が例示される。また、これらを2種以上併用してもよい。アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノールまたは2−プロパノールなどが例示される。ケトン類としては、ぎ酸メチル、酢酸メチルまたは酢酸エチルなどが例示される。エーテル類としては、メチルエチルエーテルまたはジエチルエーテルなどが例示される。金属塩を十分に溶解する観点から、溶媒としては、水またはアルコール類が好ましい。
金属塩は、溶媒に溶解し、還元剤により還元されるものであればとくに限定されるものではない。たとえば、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、金(Au)、鉛(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)もしくはスズ(Sn)の塩化物、硝酸塩、硫酸塩または金属錯化合物が挙げられる。また、これらの2種以上を併用してもよい。2種の金属塩を併用する場合は、合金のコロイド粒子を製造することができる。金属塩として白金塩を用いた場合は、コロイド粒子の粒径がとくに小さくなり、1〜5nmの安定なコロイド粒子が得られる。
金属塩と還元剤とを含有する反応溶液を煮沸することにより、溶存酸素を排除しつつ、金属イオンの還元反応を進行させる。この反応の初期には、反応溶液中の金属イオンが一斉に還元されて無数の金属原子が発生し、これが反応溶液中を漂っているものと考えられる。このことは、下記実施例1において、反応開始から30分経過後のコロイド溶液は触媒活性を殆ど示さないが、その白金濃度(金属イオン分を除去した残りの金属の濃度、すなわちコロイド粒子の濃度)の方は比較的高くなっていることから推測される。すなわち、還元されて金属イオンではなくなったため、イオン交換樹脂に捕捉されないものの、粒径がまだ1.6nmに達しないことから、触媒活性を示すことができない金属原子およびそのクラスターが存在することを示しているものと考えられる。この金属原子は金属イオンを引き寄せ、その表面で還元反応が生じることにより、あるいは金属原子およびクラスターが凝集することにより、コロイド粒子は次第に成長して大きくなり、触媒活性を示すようになると考えられる。これらのことから、反応溶液中におけるコロイド粒子の成長は、金属原子の発生に直接関与する「金属塩の当量濃度に対する還元剤の当量濃度」と、金属原子、そのクラスターおよび金属イオンの衝突頻度に直接関係する「金属塩の濃度」と、還元反応および金属原子の衝突などに直接関係する「反応時間」とに密接に連関しているものと推測される。そこで、これら3つのパラメータを適宜変化させ組み合わせることにより、上記刊行物に記載されたコロイド溶液の製造方法よりも有利な製造条件を見出し特定する。
その第一の実施の形態としては、反応溶液中における金属塩の濃度が1×10
-4mol/L以上4×10
-4mol/L未満で、還元剤の当量濃度が金属塩の当量濃度の4以上20倍以下の場合に、反応時間を60分以上300分以下とするものである。この第一の実施の形態によれば、金属回収率を80〜100%に、また金属のコロイド粒子の平均粒径を2.3nm以下にすることができる。
第二の実施の形態としては、反応溶液中における金属塩の濃度が4×10
-4mol/L以上6×10
-4mol/L未満で、還元剤の当量濃度が金属塩の当量濃度の4倍以上20倍以下の場合に、反応時間を30分以上150分以下とするものである。この第二の実施の形態によれば、金属のコロイド粒子を沈殿させることなく、その平均粒径を2nm以下にすることができる。
第三の実施の形態としては、反応溶液中における金属塩の濃度が6×10
-4mol/L以上15×10
-4mol/L以下で、還元剤の当量濃度が金属塩の当量濃度の4倍以上20倍以下の場合に、反応時間を30分以上90分以下とするものである。この第三の実施の形態によれば、金属のコロイド粒子を沈殿させることなく、その平均粒径を小さくすることができる。
第四の実施の形態としては、反応溶液中における金属塩の濃度が4×10
-4mol/L以上6×10
-4mol/L未満で、還元剤の当量濃度が金属塩の当量濃度の2倍以上4倍未満の場合に、反応時間を60分以上120分以下とするものである。この第四の実施の形態によれば、金属のコロイド粒子を沈殿させることなく、その平均粒径を2.3nm以下にすることができる。
第五の実施の形態としては、反応溶液中における金属塩の濃度が6×10
-4mol/L以上15×10
-4mol/L以下で、還元剤の当量濃度が金属塩の当量濃度の2倍以上4倍未満の場合に、反応時間を30分以上240分以下とするものである。この第五の実施の形態によれば、金属のコロイド粒子を沈殿させることなく、その平均粒径を1.8nm以下にすることができる。
第六の実施の形態としては、反応溶液中における金属塩の濃度が4×10
-4mol/L以上6×10
-4mol/L未満で、還元剤の当量濃度が金属塩の当量濃度の1倍以上2倍未満の場合に、反応時間を60分以上120分以下とするものである。この第六の実施の形態によれば、金属のコロイド粒子を沈殿させることなく、その平均粒径を2.3nm以下にすることができる。
第七の実施の形態としては、反応溶液中における金属塩の濃度が6×10
-4mol/L以上15×10
-4mol/L以下で、還元剤の当量濃度が金属塩の当量濃度の1倍以上2倍未満の場合に、反応時間を30分以上120分以下とするものである。この第七の実施の形態によれば、金属のコロイド粒子を沈殿させることなく、その平均粒径を1.8nm以下にすることができる。
反応溶液において、金属塩の濃度が1×10
-4mol/L未満の場合は、金属イオンの還元反応が生じ難く、またコロイド粒子が所定の粒径に成長するまでに長時間を要すことから、工業的な利用には不向きである。一方、金属塩の濃度が15×10
-4mol/Lを超えると、反応溶液中でコロイド粒子同士が凝集し易く、反応開始後の早い段階で沈殿が生じる。また、反応溶液において、還元剤の当量濃度が金属塩の当量濃度の1倍未満の場合は、金属塩に還元されないものが出てくるため、金属回収率が自ずと低下する。一方、還元剤の当量濃度が金属塩の当量濃度の20倍を超えると、還元剤自体が凝集して沈殿するため、この沈殿に金属塩も巻き込まれて、金属回収率が低下する。」
【0051】
また、貴金属塩をクエン酸塩にて還元して得た貴金属微粒子の分散溶液は、コロイド粒子を分散させるために添加される有機物などからなるいわゆる保護コロイドを有していない。このため、この貴金属微粒子は、保護コロイドにより被覆されず、表面が露出しているので、優れた触媒作用を発揮する。さらに、非特許文献1の方法により得られる貴金属微粒子の分散溶液は、精製処理を受けているため、不純物含有量が極めて少ない。
【0052】
貴金属微粒子の分散溶液は、貴金属塩および還元剤からなる反応溶液を煮沸することにより製造できる。
【0053】
貴金属塩としては、例えば、貴金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、金属錯化物などが挙げられる。また、これらのうち二種類以上を併用してもよい。
【0054】
還元剤としては、例えば、アルコール類、クエン酸類、カルボン酸類、ケトン類、エーテル類、アルデヒド類またはエステル類などが挙げられる。また、これらの二種類以上を併用してもよい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。クエン酸類としては、例えば、クエン酸、クエン酸塩(例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸アンモニウムなど)が挙げられる。カルボン酸類としては、例えば、ギ酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、アスパラギン酸、それらのカルボン酸塩などが挙げられる。ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテルなどが挙げられる。アルデヒド類としては、例えば、ホルマリン、アセトアルデヒドなどが挙げられる。エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチルなどが挙げられる。上記の理由から、還元剤としては、クエン酸塩を好適に利用することができる。
【0055】
反応溶液に含まれる溶媒としては、例えば、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類などが挙げられる。
【0056】
反応溶液中の貴金属塩の濃度は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、可能な限り高濃度であることが好ましい。還元剤の当量濃度は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、好ましくは貴金属塩の当量濃度の2倍以上20倍以下である。煮沸(反応)時間は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、好ましくは30分間以上300分間以下である。
【0057】
(担体粒子)
本実施形態で使用される担体粒子は、貴金属微粒子を担持できるものであれば、特に限定されない。本実施形態では、一次粒子の平均粒径が10nm〜100nmの担体粒子を用いる。
【0058】
担体粒子の種類としては、セラミックス系材料、炭素系材料などが挙げられる。セラミックス系材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、シリカなどが挙げられる。炭素系材料としては、例えばカーボンが挙げられる。これらの材質を有する担体粒子は、本実施形態の貴金属コロイド(貴金属微粒子)を良好に担持できるので好ましい。
【0059】
(貴金属微粒子を担持した担体粒子の作製)
まず、貴金属微粒子の分散溶液と担体粒子とを混合および撹拌し、担体粒子の表面に貴金属微粒子を担持させる。次に、分散溶液に含まれる溶媒を除去する。次に、担体粒子を乾燥させる。これにより、貴金属微粒子を担持した担体粒子が得られる。
【0060】
本実施形態では、貴金属微粒子を担持した担体粒子は、独立に調製した貴金属微粒子の分散溶液を用いて作製されている。それゆえ、担体粒子に担持されている貴金属微粒子の粒径は適切な大きさ(例えば1nm〜20nm)に制御されており、かつ不純物濃度が極めて低くなっている。したがって、本実施形態で作製される貴金属微粒子を担持した担体粒子は好ましく用いられる。また、貴金属微粒子の分散溶液に含有される貴金属量や貴金属組成を調整することにより、担体粒子への担持状態(担体粒子が貴金属微粒子を担持する状態)も容易に制御することができる。なお、貴金属微粒子を他の方法で作製してもよい。また、貴金属微粒子として既製品を用いてもよい。
【0061】
(金属酸化物形成ゾル)
本実施形態で使用される金属酸化物形成ゾルは、焼成処理によって金属酸化物(無機バインダー)を形成するものであれば、特に限定されない。形成される金属酸化物の種類としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウムおよびシリカの内から選ばれる少なくとも何れか一種が好ましい。例えば、酸化チタン形成ゾルとしては、有機チタネ−ト類およびチタンハロゲン化物の中から選ばれる少なくとも何れか一種が好ましい。有機チタネ−ト類としては、チタンアルコキシド、チタンアシレ−ト、チタンキレ−トおよびチタンポリマ−の中から選ばれる少なくとも何れか一種であることが好ましい。
【0062】
(基体)
本実施形態で使用される基体は、担体粒子を積層できる限り形状は特に限定されず、板状、管状、粒状、繊維状、鱗片状などの形状を取り得る。基体の材質としては、セラミックス系材料、炭素系材料、金属材料などが挙げられる。セラミックス系材料としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、シリカなどが挙げられる。炭素系材料としては、カーボンが挙げられる。金属材料としてはアルミニウム、鉄、銅、チタン、ニッケル、亜鉛など、または、それらを含む合金、例えばステンレスまたは真鍮などが挙げられる。これらの内、本実施形態の多孔質膜の付着性(すなわち、担体粒子と基体との間の付着力)、耐久性および耐熱性などを考慮すると、金属酸化物形成ゾルによって形成される金属酸化物(無機バインダー)と同一の材料の中から選択することが好ましい。すなわち、基体は、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムおよびシリカの群から選ばれる少なくとも何れか一種の金属酸化物からなるものが好ましい。
【0063】
(貴金属微粒子担持触媒の製造)
本実施形態では、貴金属微粒子担持触媒は、貴金属微粒子を担持した担体粒子の分散溶液と金属酸化物形成ゾルとを混合し、得られた塗布液を基体に塗布して成膜し、その後焼成することで製造される。成膜方法としては、例えば、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレー法、塗布法など公知の方法などを採用することができる。
【0064】
本実施形態では、上述のように、貴金属微粒子を担持した担体粒子の分散溶液は、貴金属微粒子を担持した担体粒子を有機溶媒に混合および撹拌して調製する。このとき、粉砕処理および分散処理を行って担体粒子の分散性を向上させることが好ましい。
【0065】
また、塗布液を基体に塗布して積層させる際に、基体上に多孔質構造を有する被覆を形成するためには、有機溶媒中での貴金属微粒子を担持した担体粒子の平均二次粒子径を10nm〜1000nm、好ましくは10nm〜600nm、さらに好ましくは200nm〜600nmにしなければならない。二次粒子の粒径が1000nmを超える場合、積層した際に多孔質状態が形成されないばかりか、均質な成膜が困難となるうえ、膜剥離の発生が起き、触媒特性が得られない可能性がある。
【0066】
本実施形態では、貴金属微粒子を担持した担体粒子を溶媒に混合した後、かつ、担体粒子の分散溶液と金属酸化物形成ゾルとを混合する前に、二次粒子の平均粒子径を10nm〜1000nmに調整するために、担体粒子の分散溶液に対して粉砕処理および分散処理を行ってもよい。粉砕処理および分散処理によれば、担体粒子の平均二次粒子径を調整でき、担体粒子の分散性を向上させることができる。なお、粉砕処理は、固形物として回収された担体粒子を溶媒中で砕き、担体粒子の二次粒子を微細化する処理を指す。また、分散処理は、担体粒子の二次粒子をさらに微細化する処理を指す(分散処理によれば、粒径を、例えば数十nm程度にできる)。粉砕処理および分散処理は、撹拌または超音波による処理を含んでもよい。
【0067】
有機溶媒の種類は、担体粒子が分散できるものであれば、特に限定されない。例えば、アルコール類、ケトン類、またはエーテル類、または、それらの混合溶媒などが挙げられる。また、有機溶媒に代えて純水を用いることもできる。
【0068】
金属酸化物形成ゾルは、塗布液に含有される金属酸化物形成ゾルによって形成される金属酸化物(無機バインダー)の重量が、塗布液に含有される担体粒子の重量の70%以下となるように添加することが好ましく、15%〜50%になるように添加することがより好ましい。金属酸化物形成ゾルが少なすぎる場合は、貴金属微粒子を担持した担体粒子どうしおよび貴金属微粒子を担持した担体粒子(貴金属微粒子担持担体粒子)と基体との十分な接着性が得られず、多孔質膜の耐久性が低下することがある。また、金属酸化物形成ゾルが多すぎる場合は、金属酸化物中に貴金属微粒子担持担体粒子が埋没し、反応に有効な触媒の面積が低減されることがある。なお、塗布液に含有される金属酸化物形成ゾルによって形成される金属酸化物とは、塗布液に含有される金属酸化物形成ゾルによって理論的に形成可能な金属酸化物を指す。
【0069】
以上のようにして製造された貴金属微粒子担持触媒では、貴金属微粒子を担持した担体粒子が二次粒子を形成した状態で基体上に積層される。したがって、立体障害により二次粒子間に空隙が発生し、その結果、基体上に多孔質膜が形成される。そのため、膜内部に存在する貴金属微粒子も触媒として作用することができる。また、貴金属微粒子担持担体粒子を用いて成膜しているため、膜内部と表面とで貴金属微粒子の量にばらつきが発生しにくい。すなわち、本実施形態で製造される貴金属微粒子担持触媒では、貴金属微粒子が均一に分散されている。
【0070】
形成された多孔質膜の膜厚は、好ましくは0.1μm〜10μmであり、より好ましくは0.5μm〜5μmである。多孔質膜の膜厚が0.1μm未満となると十分な貴金属微粒子が担持されないことがある。また膜厚が10μmを越えると、内部応力により剥離および破損を生じる可能性が高くなる。
【0071】
本実施形態を以下でまとめる。本実施形態では、まず、微細でかつ粒径ばらつきが小さい公知の貴金属微粒子(例えば、本出願人による特開2004−100040号公報(特許文献1)に記載の貴金属コロイド)を、酸化チタンなどからなる担体粒子と混合して貴金属微粒子が担持された担体粒子を作製する。次に、この担体粒子を溶媒に分散させて得られた分散溶液と金属酸化物形成ゾルなどの無機バインダー成分とを混合して塗布液を得る。次に、この塗布液を、基体に塗布して(堆積させて)、必要に応じて基体を乾燥および焼成する。本実施形態では、このようにして、貴金属微粒子を担持した担体粒子が互いに結合されて、多孔質の積層構造を有する膜(多孔質膜)を作製する。
【0072】
また、本実施形態では、貴金属微粒子の分散溶液を独立に調製することにより得られた、粒度分布が狭く、微細な貴金属微粒子を利用している。また、特許文献1に記載の貴金属コロイドは保護コロイドを実質的に有せず、さらに貴金属コロイド溶液製造の最終工程の精製処理で不純物を除去している。本実施形態では、特許文献1の貴金属コロイドと同様の方法で作製された貴金属微粒子を用いることもできる。このようにすれば、貴金属微粒子の純度が非常に高く、触媒活性の高い貴金属微粒子担持触媒を得ることができる。
【0073】
さらに、本実施形態によれば、独立に調製した貴金属微粒子の分散溶液と担体粒子とを混合する工程において、その混合比を適宜調整することができる。これにより、担体粒子における貴金属微粒子の担持量を容易に制御することができる。さらに、本実施形態によれば、複数種類の貴金属微粒子の分散溶液を混合して得た分散溶液と担体粒子とを混合することもできる。これにより、複数種類の貴金属微粒子を担持する担体粒子を調製することもでき、高性能の貴金属微粒子担持触媒を製造することも可能となる。
【0074】
また、本実施形態では、前記の貴金属微粒子を担持した担体粒子を溶媒に加えた後に、粉砕処理および分散処理を施すこともできる。例えば、撹拌および超音波などの処理を行えば、担体粒子の二次粒子径を制御できる。基体に多孔質膜を成膜する際に、この担体粒子の二次粒子の平均粒径が多孔質膜の微細構造を決定する重要な要因となる。担体粒子の凝集が解離できずに大きな粒径の二次粒子が多くなると、多孔質膜が良好に形成されないばかりか、均質な成膜も困難となる。そのため、多孔質膜の膜剥離が発生し、良好な触媒特性が得られないおそれがある。しかし、本実施形態によれば、必要に応じて適切な分散処理および粉砕処理を実施することができるので、そのようなおそれはない。
【0075】
また、本実施形態では、貴金属微粒子の分散溶液に金属酸化物形成ゾルを添加し、得られた塗布液を基体に塗布して成膜を行う。貴金属微粒子の分散溶液に金属酸化物形成ゾルを添加することで、貴金属微粒子を担持した担体粒子どうしおよび担体粒子と基体との接着性を向上させることができる。貴金属微粒子を担持した担体粒子は二次粒子の状態で基体上に積層されるため、立体障害で二次粒子間に空隙が発生し、多孔質構造が構築される。そのため、膜内部に存在する貴金属微粒子も触媒として作用することができる。また、貴金属微粒子を担持した担体粒子を用いて成膜しているため、膜内部と表面との間の貴金属微粒子の存在量にバラツキが発生しにくい。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
担体粒子としてチタニア粒子(P25、Φ20nm、日本アエロジル社製)を用い、その表面にPt微粒子を担持させた。得られたPt担持チタニア粒子とチタニア形成ゾルとを混合して塗布液を作製し、この塗布液を用いて基体上に多孔質膜を成膜した。具体的な製造方法は以下のとおりである。
(1)まず、イオン交換および限外濾過した純水を沸騰および還流させて、溶存酸素が除去された純水を得た。次に、溶存酸素が除去された純水をヘキサクロロ白金酸6水和物に加えてヘキサクロロ白金酸水溶液を調製した。また、クエン酸ナトリウムを上述の溶存酸素が除去された純水に加えて、クエン酸ナトリウム水溶液を調製した。このクエン酸ナトリウムは、還元剤として働く。
続いて、煮沸還流して溶存酸素を除去した純水に、ヘキサクロロ白金酸水溶液を投入して水溶液を作製した。次に、この水溶液の煮沸還流を30分間行い、クエン酸ナトリウム水溶液を投入して反応溶液を得た。クエン酸ナトリウム水溶液の投入後も、反応溶液の煮沸還流を継続し、反応溶液中でPtの還元反応を進行させた。還元反応開始から(すなわち、クエン酸ナトリウム水溶液を投入してから)1.5時間後に反応を止めて、反応溶液を室温にまで急冷した。
次に、冷却した反応溶液をイオン交換樹脂(MB−1、オルガノ株式会社製)を詰めたカラムに通して、反応溶液中に残留する金属イオンおよび還元剤を取り除いて、安定なPt微粒子の分散溶液を得た。得られた分散溶液中のPt微粒子の粒径は、1nm〜5.5nmであった。ただし、これは以下の工程(2)において、Pt粒子がチタニア粒子に担持されている状態を、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察により測定した値である。
図1にその観察結果の一例を示す。
図1は、Pt微粒子がチタニア粒子に担持された状態を観察したものである。
図1中で、黒く見えるのが、Pt微粒子である。
(2)次に、(1)で得たPt微粒子の分散溶液とチタニア粒子とを混合し、チタニア粒子にPt微粒子を担持させた。これにより、Pt担持チタニア粒子を有する溶液を得た。次に、この溶液からPt担持チタニア粒子を取り出し、100℃で12時間乾燥させた。次に、乾燥させたPt担持チタニア粒子30gをイソプロピルアルコール(IPA)1Lに添加した後、撹拌して、粉砕処理および分散処理を実施し、Pt担持チタニア粒子の分散溶液を調製した。なお、本実施例では、粉砕処理としてホモジナイザによる混合粉砕を実施した。また、分散処理としてミルによる混合分散を実施した。IPA中のPt担持チタニア粒子の平均二次粒子径が160nmであることを、粒度分布評価装置(FPAR−1000、大塚電子社製)で確認した。
(3)次に、チタンキレート(チタボンドT−50、日本曹達社製)15gと有機溶媒(ソルミックスAP−7、日本アルコール販売株式会社製)5gとを混合および撹拌し、チタニア形成ゾルを調製した。次に(2)で得たPt担持チタニア粒子の分散溶液27mlとチタニア形成ゾル3mlとを混合および撹拌し、塗布液を調製した。この塗布液に含有されるチタニア形成ゾルによって形成される金属酸化物は、この塗布液に含有されるPt担持チタニア粒子に対し、25重量%であった。
(4)次に、(3)で得た塗布液の中にガラス基体(スライドグラス、松浪硝子社製)を浸漬させた。すなわち、ディップコーティングを行った。本実施例ではディップコーティングを4回行った。これにより、ガラス基体上に膜を成膜した。
(5)次に、(4)でガラス基体上に得られた膜を、400℃で1時間焼成した。これにより、貴金属微粒子担持触媒を得た。得られた膜の膜厚が約1μmであることをSEMでの観察で確認した。また、同様に、表面状態もSEMで観察した。
図2および
図3に観察結果の一例を示す。
図2は、膜の表面を撮影したものである。
図3は、膜の断面を撮影したものである。
図2および
図3から、膜が多孔質であることが確認できる。
【0077】
(実施例2)
実施例2の貴金属微粒子担持触媒は、膜の厚さをより大きくしたことを除き、実施例1と同様の方法で作製された。
(1)実施例1の(3)で得た塗布液を用いて、ガラス基体にディップコーティングを8回実施した。これにより、ガラス基体上に膜を成膜した。
(2)次に、(1)でガラス基体上に得られた膜を、実施例1の(5)と同様に焼成した。これにより、貴金属微粒子担持触媒を得た。得られた膜の膜厚が約2μmであることをSEMでの観察で確認した。また、膜が多孔質であることも確認した。
【0078】
(実施例3)
実施例3の貴金属微粒子担持触媒は、Pt担持チタニア粒子の平均二次粒子径をより大きくしたことを除き、実施例1と同様の方法で作製された。
(1)実施例1の(2)における、Pt担持チタニア粒子の粉砕処理の時間を1/5にし、分散程度の小さいPt担持チタニア粒子の分散溶液を調製した。その結果、IPA中のPt担持チタニア粒子の平均二次粒子径は600nmとなった。
(2)次に、(1)で得たPt担持チタニア粒子の分散溶液を用いて、実施例1の(3)と同様に塗布液を調製した。
(3)次に、(2)で得た塗布液を用いて、実施例1の(4)と同様に成膜し、実施例1の(5)と同じ焼成を行った。これにより、貴金属微粒子担持触媒を得た。SEMでの観察により、得られた膜の膜厚が約1μmであることを確認した。また、膜が多孔質であることも確認した。
【0079】
(実施例4)
実施例4の貴金属微粒子担持触媒は、膜の厚さをより大きくしたことを除き、実施例3と同様の方法で作製された。
(1)実施例3の(3)のディップコーティングの回数を8回にして、ガラス基体上に膜を成膜した。次に、ガラス基体上に得られた膜を、実施例1の(5)と同様に焼成した。これにより、貴金属微粒子担持触媒を得た。SEMでの観察により、得られた膜の膜厚が約2μmであることを確認した。また、膜が多孔質であることも確認した。
【0080】
(比較例1)
比較例1の貴金属微粒子担持触媒は、Pt担持チタニア粒子の平均二次粒子径を実施例3のPt担持チタニア粒子の平均二次粒子径よりも大きくしたことを除き、実施例1と同様の方法で作製された。
(1)実施例1の(2)における、Pt担持チタニア粒子の粉砕処理を省き、分散程度の小さいPt担持チタニア粒子の分散溶液を調製した。その結果、IPA中のPt担持チタニア粒子の平均二次粒子径は1600nmとなった。
(2)次に、(1)で得たPt担持チタニア粒子の分散溶液を用いて、実施例1の(3)と同様に塗布液を調製した。
(3)次に、(2)で得た塗布液を用いて、実施例1の(4)と同様に成膜し、実施例1の(5)と同じ焼成を行った。これにより、貴金属微粒子担持触媒を得た。SEMでの観察により、得られた膜の膜厚が約1μmであることを確認した。また、膜表面のSEMでの観察結果を
図4に示す。膜が多孔質状態ではないことが確認できる。
【0081】
(比較例2)
比較例2の貴金属微粒子担持触媒は、膜の厚さをより大きくしたことを除き、比較例1と同様の方法で作製された。
(1)比較例1の(2)で得た塗布液を用いて、ガラス基体にディップコーティングを8回実施し、ガラス基体上に膜を成膜した。次に、ガラス基体上に得られた膜を、実施例1の(5)と同様に焼成した。これにより、貴金属微粒子担持触媒を得た。SEMでの観察により、得られた膜の膜厚が約2μmであることを確認した。また、膜質が多孔質状態ではないことも確認した。
【0082】
実施例1〜4および比較例1〜2の貴金属微粒子担持触媒の触媒活性について、過酸化水素の分解特性で評価を実施した。シャーレに10%の過酸化水素水10mlを注ぎ、そこに各触媒を浸漬させ、所定時間後の過酸化水素残留濃度を過酸化物試験紙(MACHEREY-NAGEL社製)で評価した。具体的には、反応経過時間(時間(hour))と過酸化水素の濃度(重量p.p.m)のグラフを作成し、反応初期の単位時間当たり過酸化水素の濃度の変化量をグラフの近似直線の傾きから算出し、分解速度とした。評価結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
比較例2の触媒の膜の膜厚は、比較例1の触媒の膜の膜厚の2倍であるにも関わらず、比較例2の触媒による分解速度と、比較例1の触媒による分解速度はほとんど変わらなかった。すなわち、分解速度(触媒特性)が膜厚に比例しなかった。一方、実施例2の触媒の膜の膜厚は、実施例1の触媒の膜の膜厚の2倍であり、実施例2の触媒による分解速度は、実施例1の触媒による分解速度の約2倍であった。すなわち、分解速度(触媒特性)が膜厚に比例した。実施例3と実施例4との関係も同様である。以上から、実施例1〜4では、膜の内部に存在するPt微粒子も触媒反応に寄与していると考えられる。すなわち、実施例1〜4の触媒の膜の構造が多孔質であるため(担体粒子の二次粒子と、隣接する他の担体粒子の二次粒子との間に空隙を有するため)、過酸化水素が膜内部まで浸透し、膜表面にあるPt微粒子のみでなく膜内部のPt微粒子も効率よく過酸化水素の分解に作用しているものと考えられる。比較例1および2の膜は多孔質になっていないため、膜表面に存在しているPt微粒子のみが過酸化水素の分解に作用していると推測される。
【0085】
(比較例3)
比較例3は、担体粒子として一次粒子の粒径が大きいチタニア粒子(ST−41、Φ200nm、石原産業社製)を用いた例である。基本的な製造条件は実施例1と同様である。
(1)まず、実施例1の(1)で得たPt微粒子の分散溶液とチタニア粒子を混合し、チタニア粒子にPt微粒子を担持させた。これにより、Pt担持チタニア粒子を有する溶液を得た。次に、この溶液からPt担持チタニア粒子を取り出し、100℃で12時間乾燥させた。次に、乾燥させたPt担持チタニア粒子30gをイソプロピルアルコール(IPA)1Lに添加して、粉砕処理および分散処理を実施し、Pt担持チタニア粒子の分散溶液を調製した。IPA中のPt担持チタニア粒子の平均二次粒子径が600nmであることを、粒度分布評価装置で確認した。
(2)次に(1)で得たPt担持チタニア粒子の分散溶液を用いて、実施例1の(3)および(4)と同じ工程で成膜し、実施例1の(5)と同じ焼成を行った。これにより、貴金属微粒子担持触媒を得た。
【0086】
比較例3で得られた触媒は膜の均質性が悪く、基体上に未成膜部分が確認された。成膜されている部分も、実施例1の触媒を比較して多孔質構造の形成は不十分であり、本発明で特定しているような構成を有する多孔質膜ではなかった。
【0087】
(実施例5〜8)
実施例5〜8は、実施例1の塗布液に含有されるチタニア形成ゾルの担体粒子に対する割合(つまり、チタニア形成ゾルによって形成される金属酸化物の担体粒子に対する割合)を変更した例である。
(1)実施例1の(3)における、Pt担持チタニア粒子の分散溶液とチタニア形成ゾルの混合量を変え、塗布液を調製した。実施例5〜8の調製条件(担体粒子に対する金属酸化物の重量%)を表2に示す。
(2)次に、(1)で得た塗布液を用いて、実施例1の(4)と同様の条件でディップコーティングを2回行い、実施例1の(5)と同じ焼成を行った。これにより、貴金属微粒子担持触媒を得た。
【0088】
(比較例4〜6)
比較例4〜6は、実施例1の塗布液について、金属酸化物の担体粒子に対する割合を変更した例である。比較例6においては金属酸化物(チタニア形成ゾル)を添加しなかった。
(1)実施例1の(3)における、Pt担持チタニア粒子の分散溶液とチタニア形成ゾルの混合量を変えて塗布液を調製した。比較例4〜6の調製条件(担体粒子に対する金属酸化物の重量%)を表2に示す。
(2)次に、(1)で得た塗布液を用いて、実施例1の(4)と同様の条件でディップコーティングを2回行い、実施例1の(5)と同じ焼成を行った。これにより、貴金属微粒子担持触媒を得た。
【0089】
【表2】
【0090】
実施例5〜8および比較例4〜6について、塗布液の保存安定性、膜の密着性および触媒活性の評価を行った。塗布液の保存安定性は、調製した塗布液をガラス容器内に密閉し、1日放置した後の担体粒子の分散状態を目視で確認することにより評価した。具体的には、担体粒子の沈降の有無で分散状態を判断し、沈降がなければgood、担体粒子が少しでも沈殿したり、上澄みが発生したりするなど、塗布液の深さ方向に担体粒子の濃度分布が発生していれば、沈降があると判断してpoorとした。膜の密着性は、焼成後の触媒の膜にテープ剥離試験を行うことにより評価した。膜の密着性は、三段階で評価した。具体的には、剥離した面積が試験面積の10%以内であればexcellent、10〜30%であればgood、30%以上であればpoorとした。触媒活性は、前述した過酸化水素の分解特性により評価した。具体的には、分解速度が、実施例1の分解速度以上であれば、または10%以内の範囲で低下していればexcellent、10〜30%の範囲で低下していればgood、30%以上低下していればpoorとした。評価結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
塗布液の保存安定性は、金属酸化物の含有量が高いほど損なわれることが確認された。金属酸化物の含有量が高い比較例4および5の塗布液でPt担持チタニア粒子の沈降がみられた。これは、チタニア形成ゾルが混合されることで、Pt担持チタニア粒子の分散状態が劣化したためと推測される。すなわち、必要に応じて塗布液中の金属酸化物の含有量の上限を適切に定めることは、製造方法の観点から有利であるといえる。
【0093】
膜の密着性は、金属酸化物の含有量が高いサンプルほど強いことが確認された。これは、金属酸化物が、Pt担持チタニア粒子どうし、および、Pt担持チタニア粒子と基体との結合材料として作用しているためである。金属酸化物が含有されていない比較例6では、ほぼ全ての膜の剥離が確認された。すなわち、必要に応じて塗布液中の金属酸化物形成ゾルの含有量の下限を適切に定めれば(つまり、膜における金属酸化物(無機バインダー)の含有量の下限を適切に定めれば)、耐久性が高い貴金属微粒子担持触媒を提供できるといえる。
【0094】
触媒活性は、金属酸化物の含有量が高いサンプルほど低い傾向が見られた。これは、金属酸化物の含有量が高いサンプルでは、Pt担持チタニア粒子が金属酸化物膜に埋没してしまい、担体粒子の前記二次粒子と、隣接する他の担体粒子の二次粒子との間に空隙を有さなくなり(すなわち、多孔質膜を形成できず)、触媒として作用するPt量が低減するためと推測される。
図5に、比較例5の膜表面のSEMによる観察像を示す。
図5からも、そのことが推測できる。すなわち、必要に応じて塗布液中の金属酸化物形成ゾルの含有量の上限を適切に定めれば(つまり、膜における金属酸化物(無機バインダー)の含有量の上限を適切に定めれば)、触媒活性の高い貴金属微粒子担持触媒を提供できるといえる。
【0095】
表3に示す結果から、塗布液中に含有される金属酸化物形成ゾルによって形成される金属酸化物(無機バインダー)は、塗布液に含有される担体粒子に対し、70重量%以下、特に15重量%〜50重量%であることが好ましいことがわかる。