(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778136
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】チップ・リファイナー内での木材パルプの生産を制御する方法
(51)【国際特許分類】
D21D 1/20 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
D21D1/20
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-513419(P2012-513419)
(86)(22)【出願日】2010年5月26日
(65)【公表番号】特表2012-528944(P2012-528944A)
(43)【公表日】2012年11月15日
(86)【国際出願番号】CA2010000805
(87)【国際公開番号】WO2010139049
(87)【国際公開日】20101209
【審査請求日】2013年5月21日
(31)【優先権主張番号】61/213,338
(32)【優先日】2009年6月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507171683
【氏名又は名称】エフピーイノベイションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100066692
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 皓
(74)【代理人】
【識別番号】100072040
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100089897
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正
(74)【代理人】
【識別番号】100072822
【弁理士】
【氏名又は名称】森 徹
(72)【発明者】
【氏名】マイルズ、キース
(72)【発明者】
【氏名】エッタレブ、ラオウサン
(72)【発明者】
【氏名】ロシュ、アラン
【審査官】
中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−087389(JP,A)
【文献】
特開昭55−051894(JP,A)
【文献】
特開昭61−179391(JP,A)
【文献】
特開昭64−077694(JP,A)
【文献】
特開昭54−082408(JP,A)
【文献】
特開昭55−132790(JP,A)
【文献】
特表平04−500986(JP,A)
【文献】
特開平03−040885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H11/00−27/42
D21J 1/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ・リファイナー内で生産される木材パルプの品質を制御する方法であって、
チップ・リファイナーのリファイニング・ゾーン内で、木材チップをリファイニングし、ある質量のパルプ繊維を形成するステップと、
前記リファイニング・ゾーン内の前記繊維の充填率を、前記リファイニング・ゾーン内の実際の繊維質量と、前記リファイニング・ゾーンが満杯時の前記リファイニング・ゾーン内の繊維質量とから判定するステップであって、前記リファイニング・ゾーン内の前記実際の繊維質量は、前記チップ・リファイナーの生産率の測定値と、前記リファイニング・ゾーン内のパルプ滞留時間とから判定されるものであるステップと、
判定された前記充填率に応答し、必要に応じて、前記チップ・リファイナーの少なくとも1つの動作パラメーターを調整して、所望のパルプ品質を実現するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記リファイニングの液圧によって生じる軸スラストから、前記リファイニング・ゾーンが満杯時の前記ゾーン内の繊維質量を判定するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記充填率を、前記リファイニング・ゾーン内での前記リファイニング全体を通して監視し、判定された前記充填率に応答し、必要に応じて、前記少なくとも1つの動作パラメーターを調整する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
木材チップから木材パルプを生産するイン・ライン・プロセスで実施される、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
充填率が、前記所望のパルプ品質を実現するのに許容可能な範囲外であるという判定に応答して、前記少なくとも1つの動作パラメーターを調整して、前記充填率を前記許容可能な範囲に復元させて前記所望のパルプ品質を実現する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記判定が、前記充填率が前記許容可能な範囲外である場合に警告を発し、前記警告に応答して、前記少なくとも1つの動作パラメーターを調整する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
充填率が、前記所望のパルプ品質を実現するのに許容可能な範囲内であるという判定に応答して、前記少なくとも1つの動作パラメーターを調整せずに維持する、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの動作パラメーターが、生産率の低減、生産率の増大、及びエネルギー入力の低減から選択される、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法を実施するように構成された装置であって、前記リファイニング・ゾーン内の前記繊維充填率の前記判定を実施する手段を備える装置。
【請求項10】
前記リファイニング・ゾーンを画定し、且つ木材チップ入口、及びパルプ出口を有するチップ・リファイナーと、前記チップ・リファイナーに動作可能に接続され、プロセス監視機能、及びプロセス制御機能を実施する分散制御システムとを備え、前記判定を実施する前記手段が、前記分散制御システム内に含まれる、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記リファイニング・ゾーンを画定し、且つ木材チップ入口、及びパルプ出口を有するチップ・リファイナーと、前記チップ・リファイナーに動作可能に接続され、プロセス監視機能、及びプロセス制御機能を実施する分散制御システムと、前記分散制御システムと動作可能に接続されたコンピューターとを備え、前記判定を実施する前記手段が、前記コンピューター内に含まれる、請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記分散制御システムによって制御される警告を更に含み、前記警告は、充填率が前記所望のパルプ品質を実現するのに許容可能な範囲外であると判定された場合に発せられ、前記分散制御システムが、前記警告に応答して、前記少なくとも1つの動作パラメーターを調整する、請求項10又は11に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ・リファイナー内で生産される木材パルプの品質を制御する方法に関し、特に、チップ・リファイナーに負荷を加える能力、及びユニットが望ましくない動作範囲で運転するのを回避する能力をオン・ラインで査定する方法に関する。リファイナーの負荷は、リファイニング・ゾーン内の繊維質量に非常に関係する。繊維質量が不十分であると、又は繊維質量がリファイニング・ゾーン容量に通常収容することができる量を超過すると、リファイナーに負荷を加えるのが困難となり、生産されるパルプの品質が劣化することになる。充填率をオン・ラインで推定し、その充填率を用いて動作状態を査定し、必要であれば制御行為を行う。
【背景技術】
【0002】
チップ・リファイナーへの負荷
機械パルプの品質はまさに、生産トン当たりに加えられるエネルギー、すなわち比エネルギーの関数である。したがって、求められるパルプ品質に必要な比エネルギーを生じるために、リファイナーのモーター負荷を調整することが可能であることが非常に重要である。リファイナーの大部分は、液圧によって負荷が加えられ、リファイナー・モーター負荷の増大は通常、より高い液圧で軸スラストを増大させることによって行われる。繊維にかかる剪断力がより高くなると、トルクが増大し、モーター負荷も増大することになる。プレート間隙が低減される。
【0003】
モーター容量によって規定される最大モーター負荷に達することができないようにし得ることは判明している。Allison他のCA2130277には、実現可能な最大モーター負荷を判定し、この最大モーター負荷よりも僅かに低く動作させる方法が提案されている。Owen他、「A practical approach to operator acceptance of advanced control with dual functionality」、Preprints of Control Systems ’98 conference、 Porvoo、 Finland、 1998年9月1〜3日は、モーター負荷の急落を回避し、且つパルプ品質の急激な劣化も回避するために、リファイナーを最大モーター負荷よりも確実に低く動作させる制御技術を開発した。更に、Owen他は、最大モーター負荷を上回る動作では、繊維が切断され、パルプ強度特性が損なわれることを実証する実験を行った。上記2つの結果は、リファイナーの適切な動作範囲を規定する有意義なステップとなるが、リファイナーに負荷を加える際の問題の基本的な原因については調査されていない。その結果、是正策は経験的であり、プレート間隙の調整に限られ、この是正策は一般に、問題を根本から是正するものではない。上記の結果は、液圧設定値の変更に迅速に応答し、プレート位置センサー又はプレート間隙センサーを備える、ある種のリファイナーに適用される。
【0004】
Eriksen他、「Theoretical estimates of expected refining zone pressure in a mill scale TMP refiner」、Nordic Pulp & Paper Research Journal (2006)、21(1)、82〜89頁では、ツイン・リファイナー内のパルプから、プレートのバーを被覆する繊維量の関数として機械圧力を推定した。しかし、Eriksen他は、リファイナーに負荷を加える問題、及びこうした負荷がリファイニング・ゾーン内の繊維質量に関係することについては全く考慮していない。
【0005】
上記文献には、リファイナーに負荷を加える際の問題は、リファイニング・ゾーン内の繊維質量、すなわちリファイニング・ゾーンが繊維質量で満杯となっている、又は繊維質量が不十分であることに関連し得る可能性について言及されていない。しかし、このことは、プロセス動作を監視し、是正策を執るために重要である。
【0006】
パルプ滞留時間
リファイニング・ゾーン内のパルプ滞留時間の推定は、リファイニング・ゾーン内の繊維質量を推定する重要な要素である。この分野におけるMilesの先駆的な研究「A Simplified Method for Calculating the Residence Time and Refining Intensity in a Chip Refiner」、Paperi ja Puu、第73巻/第9号(1991)によって、リファイニング強度の概念が導入されたが、この概念を用いて、リファイナー内の繊維質量、及びその最大値を推定する試みは行われてきていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】CA2130277
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Owen他、「A practical approach to operator acceptance of advanced control with dual functionality」、Preprints of Control Systems ’98 conference、 Porvoo、 Finland、 1998年9月1〜3日
【非特許文献2】Eriksen他、「Theoretical estimates of expected refining zone pressure in a mill scale TMP refiner」、Nordic Pulp & Paper Research Journal (2006)、21(1)、82〜89頁
【非特許文献3】Miles、「A Simplified Method for Calculating the Residence Time and Refining Intensity in a Chip Refiner」、Paperi ja Puu、第73巻/第9号(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、チップ・リファイナー内で生産される木材パルプの品質を制御する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、チップ・リファイナー内で生産される木材パルプの品質を制御する方法であって、
チップ・リファイナーのリファイニング・ゾーン内で、木材チップをリファイニングし、ある質量のパルプ繊維を形成するステップと、
前記リファイニング・ゾーン内の繊維の繊維充填率を判定するステップと、
判定された充填率に応答し、必要に応じて、前記チップ・リファイナーの少なくとも1つの動作パラメーターを調整して、所望のパルプ品質を実現するステップと
を含む方法が提供される。
【0011】
本発明の重要な要素は、リファイナーのリファイニング・ゾーンの充填度合をオン・ラインで推定することが可能となり、この推定値を用いて、リファイナーに適正な負荷を加え、過剰な繊維質量、又は不十分な繊維質量での動作によってパルプ品質に何らかの悪影響が及ぼされることを回避する方法にある。リファイニング・ゾーン内の実際の繊維質量、及びリファイナーが満杯時の質量のどちらをも推定し、比較して充填率を得、必要であれば、この充填率を用いてリファイナーを調整する。本発明は、
リファイニング・ゾーン内の繊維質量を推定する方法、
リファイナーが満杯時の繊維質量を推定する方法、
充填率を推定する方法、
充填率を用いて、パルプ品質が劣化する望ましくない範囲での動作を回避する方法
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一次リファイナーのモーター負荷と、リファイニング・ゾーン内の繊維質量との線形に関連した関係を示すグラフである。実際に、リファイナー・モーター負荷を生じるには、リファイニング・ゾーン内に十分な繊維質量が必要となる。
【
図2】一次リファイナー、二次リファイナー、及びリジェクト・リファイナーのモーター負荷と、リファイニング・ゾーン内の繊維質量との関係を示すグラフである。これら3つのリファイナーは、動作範囲が非常に異なるにもかかわらず、同じ線形特性上にある。
【
図3】リファイナーの負荷を維持するには繊維質量が不十分である特定の実例を示すグラフである。
【
図4】モーター負荷とリファイナー・プレート間隙との関係を示すグラフであり、0.2直後に、リファイナー・プレート間隙が閉じることによって、モーター負荷が急落していることを示すグラフである。繊維質量は、許容可能な剪断応力の、必要となる剪断力を生じるには不十分である。
【
図5】モーター負荷と液圧(スラスト)との関係を示すグラフである。リファイニング・ゾーンが満杯になると、モーター負荷はその最大値に達し、液圧を上げても増大しない。
【
図6】リファイニング・ゾーン内の繊維質量対スラスト又は液圧の関係を示すグラフである。
【
図7】リファイニング・ゾーン内の繊維質量が、スラストの逆数、又は液圧の逆数に線形に関連する関係を示すグラフである。リファイナーが満杯時の繊維質量は、原点の特性値から推定することができる。
【
図8】リジェクト・リファイナー内の充填率と、生産率との関係を示すグラフである。リファイニング・ゾーンは、生産量が1日400トンに達すると満杯になる。
【
図9】モーター負荷と生産率との関係を示すグラフである。リファイニング・ゾーンが満杯時には、処理量が増大しても、モーター負荷を増大させることはできない。
【
図11】本発明の方法を実施する装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
リファイナーへの負荷
機械パルプの生産の大部分が、木材チップから、ディスク・リファイナーを用いて製造される。生産トン当たり2000から3000キロワット時の大量の電気エネルギーを用いて、繊維を分離し、発展させる(develop)。生産されるパルプの品質は、主に、生産トン当たりに加えられるエネルギーに関係し、また、このエネルギーが加える状態、すなわちリファイニング強度又はリファイニング濃度にもある程度左右される。
【0014】
モーター負荷、及び加えるエネルギーの変更は、リファイニング濃度(希釈流)、生産率を変えることによっても行うことができるが、主にリファイニング・プレートに加わる液圧を変えることによって行うことができる。
【0015】
液圧を増大させると、スラスト荷重がより高くなり、また、パルプに加わる機械力も増大する。スラスト荷重は、パルプに加わる機械力、及びプレートに加わる蒸気圧によって生じる力の総計と釣り合う。
【0016】
パルプに加わる機械力が増大すると、剪断力がより大きくなり、したがってトルク及びモーター負荷がより高くなる。最終的には、パルプに過剰な剪断応力が加わることになり得る。
【0017】
繊維質量及びモーター負荷
リファイニング・ゾーン内の繊維質量は、生産率とパルプ滞留時間との積である。生産率は通常、供給速度、及び供給材料の嵩密度に比例した較正係数から推定される。パルプ滞留時間は、パルプに作用する力の均衡に基づき、Milesが開発したモデル「A Simplified Method for Calculating the Residence Time and Refining Intensity in a Chip Refiner」、Paperi ja Puu、第73巻/第9号(1991)を用いて推定することができる。この滞留時間は、主に比エネルギー、及びリファイニング濃度に依存し、これらの変数の両方に伴って増大する。
【0018】
リファイニング・ゾーン内の繊維質量は、リファイナーへの負荷に重要な役割を果たす。実際に、繊維が粉砕するまでに受けることができる剪断応力には限界がある。リファイニング・ゾーン内の繊維質量は、剪断力、及び所望のモーター負荷に必要となるトルクを生じるのに必要な表面積が得られるように十分でなければならない。このことが、一次リファイナーの動作データを示す
図1に良く示されており、モーター負荷は、リファイニング・ゾーン内の繊維質量に比例していることが示されている。
【0019】
上記について、
図2に示す単一ラインのTMP工場の動作データの比較で更に説明する。3つのリファイナー、すなわち一次リファイナー、二次リファイナー、及びリジェクト・リファイナーは、同一の設備である。3つのリファイナーに関する、モーター負荷対繊維質量のプロットは、同じ線形特性上にあるが、動作範囲は全く異なっている。
【0020】
二次リファイナーは、一次リファイナーと同じパルプ処理量を有するが、リファイニング・ゾーン内で同じ繊維質量で動作してはおらず、したがって同じモーター負荷範囲にない。二次リファイナーは、一次リファイナーよりも嵩が低く、より発展した繊維をリファイニングするので、より低い比エネルギーで動作し、したがってリファイニング・ゾーン内のパルプ滞留時間、及び繊維質量が低減している。
【0021】
リジェクト・リファイナーでは、主要ライン生産量の30から40パーセントの間しか加工されず、長繊維の比率が高い。二次リファイナーに比べると、二次リファイナーよりも高い比エネルギーを加えることができるので、滞留時間がより長くなり、したがってより低い処理量から予測される繊維質量よりも多い繊維質量が得られる。
【0022】
リファイニング・ゾーン内の繊維質量の情報は、リファイナーに負荷を加えるのが不可能となる状態を回避する一助となり得る。
【0023】
不十分な繊維質量での負荷
リファイニング・ゾーン内の繊維質量が不十分であると、リファイナーへの適正な負荷が妨げられ得る。かかる状態の典型例は、リファイニング濃度が低すぎる動作である。滞留時間は、リファイニング濃度に伴って低減し、一定の処理量でリファイニング・ゾーン内の繊維質量が低減することになる。プレート間隙を閉じることによってモーター負荷を維持しようとすると、剪断応力が増大し、その結果繊維切断が生じ、モーター負荷及び比エネルギーが低下することになる。比エネルギーが低下すると、パルプ滞留時間、及び繊維質量が更に低減することになる。繊維切断が増大し、モーター負荷、及び繊維質量の更なる低下が生じる。
【0024】
このことが
図3に示され、ここでは、プレート間隙の閉鎖(
図4)にもかかわらず、繊維質量、及びモーター負荷が急落していることが示されている。
【0025】
リファイニング・ゾーンの充填
一定の生産率では、比エネルギーをより高く(モーター負荷をより高く)加えると、リファイニング・ゾーン内のパルプ滞留時間が増大し、したがって繊維質量が増大することになる。一定の比エネルギー及びリファイニング濃度では、繊維質量は、生産率に伴って増大する。どちらの場合も、リファイナーに加える負荷を増大させることが不可能となり、パルプ品質が劣化し始める点に達する。これら全ての状況において、リファイニング・ゾーンに繊維が充填されるにつれて、モーター負荷の増大に伴って発生する蒸気量の増大に対処するのに利用可能な空間がますます狭くなっていく。蒸気圧は、ほぼ指数関数的に増大する。プレートに加わる蒸気圧によって生じる力と均衡するために必要な液圧スラストが、液圧システムの容量を超え、モーター負荷を増大させることが不可能となる。最大モーター負荷に達した状態である。この様子が、リジェクト・リファイナーに関して
図5に示され、モーター負荷は、液圧の関数として実現されている。液圧スラストが増大し続けても、モーター負荷は、一定のままである。液圧システムが限界に達し、モーター負荷はその最大値にある。
【0026】
他の重要な現象は、パルプの強度特性の劣化である。生産率がより高くなった、又は滞留時間がより長くなったため、繊維質量が増大して、リファイニング・ゾーン領域全体を占めるようになると、モーター負荷を上げようとするいかなる試みによっても、パルプにかかる剪断応力がそれに比例して増大することになる。その結果、繊維が短くなる。
【0027】
充填率のオン・ライン推定
先に述べたように、リファイニング・ゾーン内の繊維質量は、生産率にパルプ滞留時間を掛けた積から直接推定される。
【0028】
リファイナーが満杯時には、リファイニング・ゾーン内の繊維質量を推定する別の方法がある。
【0029】
第1の方法は、リファイニング・ゾーン容量とパルプ密度との積である。リファイニング・ゾーン容量は、プレートの物理的特性に依存する。リファイニング・ゾーン容量は、オン・ラインで概ね測定されるプレート間隙と、プレートの実際の摩耗とに伴って変動し、プレートの実際の摩耗は、より推定し難い。パルプ密度は、オン・ラインでは測定できない。かかる方法は、かなり面倒である。
【0030】
もう一方の手法は、より好ましく、軸スラストと、リファイニング・ゾーン内の繊維質量との関係に基づく。モーター負荷を維持するために必要な軸スラストは、リファイニング・ゾーンが満杯になると非常に急激に増大する。この様子を、工場リジェクト・リファイナーの動作データで示す。液圧が増大しても、モーター負荷(
図5)、及び繊維質量(
図6)は、一定のままとなる。リファイナーは、満杯の状態である。繊維質量は、
図7に示すように、軸スラストの逆数、又は液圧の逆数に線形に関係している。この線形特性、すなわち軸スラストの逆数対繊維質量の線形特性は、軸スラストの直接測定値、及び繊維質量の推定値からオン・ラインで推定される。この線形関係は、以下の形式のものである。
【0031】
m=a−b/T
式中、mはリファイニング・ゾーン内の繊維質量、aはリファイナーが満杯時の繊維質量の推定値、bは線形関係の傾き、Tはスラストである。
【0032】
係数a及び係数bは、再帰的最小二乗法等のオン・ライン計算方法の1つを用いると容易に求められる。ここで、係数aは、リファイナーが満杯時に対応した質量を規定することになる。この線形関係だけを用いて、係数aを求める。実際のリファイニング・ゾーン質量mは、上述のように、生産率に滞留時間を乗じることによって求められる。充填率の推定値は、以下によって規定される。
【0033】
充填率(%)=100m/a
この充填率は、現在の繊維質量の、リファイナーが満杯時の繊維質量に対する比である。
【0034】
リファイニング・ゾーン内の最大繊維質量、又はリファイナーが満杯時の繊維質量、すなわちaは、プレート摩耗、プレート間隙、リファイニング濃度、及びリファイニングする材料の特性によって変動し得る。
【0035】
円錐ディスク・リファイナーに関する特定の状態
平面ディスク・リファイナーは、専ら軸スラストから負荷を受け、充填率の推定は、あらゆる動作状態で実施することができる。円錐リファイナーは、平面ゾーンを備えるが、リファイニング・ゾーンの大部分を構成する円錐ゾーンもやはり備える。
【0036】
円錐ゾーン内では、その幾何学的形状のため、遠心力がトルク及びモーター負荷の発生に大きく寄与している。入口蒸気圧が十分でなく、必要なモーター負荷を維持するために、負のスラストが加えられる状態が存在する。その場合、リファイナーは、専ら遠心力から負荷を受ける。こうした状態でも、長時間動作させることが可能であるが、リファイナーの安定性、及び制御性の観点から、望ましい動作ではない。
【0037】
液圧スラストが正のまま維持される限り、円錐リファイナーについても、上記方法を用いて充填率を推定することが有効である。液圧スラストが負になると、オン・ライン推定は中断される。
【0038】
監視及び制御
リファイニング・ゾーン内の繊維質量、及び充填率の推定手段は、その出力をオペレーター・コンソールに示すことができるソフト・センサーと考えることができ、これらの推定手段を用いて、リファイナーの動作を監視し、制御行為を行うことができる。
【0039】
特に、充填率は、生産量を上げる余地、又は比エネルギーを増大させる余地が幾分残っているかを示すことになる。充填率によって、リファイナーがその容量限界に達し、パルプ品質が劣化することになることを示す警告を発することができる。充填率を用いて、生産率を低減させる、又は比エネルギーを低下させる等の制御行為を示唆又は開始することができる。
【0040】
充填率の使用の実例を
図8に示し、ここではある動作期間にわたる生産率、及び充填率の計算値が示されている。10:30時から13:30時までは、充填率は100%に向けて上昇し、生産率は適切なリファイニングができなくなるほど高くなり、また、
図9に示すように、モーター負荷は、実現可能な最大値のまま変化していないことが明らかである。この期間、生産率は、1日400トン未満に限定すべきであった。
【0041】
図8の12.00時付近で、一定の生産量で充填率が急落した。これは、希釈水流を増大させた結果であった。リファイニング・ゾーン内のパルプ滞留時間、及び繊維質量は低減した。これは、希釈水を用いて、リファイニング・ゾーン内の繊維質量、及び充填率を調整したことを示している。
【0042】
したがって、本発明の方法は、次のステップに依存することができる。
1.リファイニング・ゾーン内の繊維質量をオン・ラインで推定する方法。
2.リファイナーが満杯時の繊維質量をオン・ラインで推定する方法。
3.リファイナーの充填率をオン・ラインで推定する方法。
4.充填率を用いて、リファイナーに適正に負荷を加えることができる適切な動作範囲内にリファイナーを維持すること。
【0043】
したがって、本方法は、特に、リファイニング・ゾーン内の実際の繊維質量と、リファイニング・ゾーンが満杯時のリファイニング・ゾーン内の繊維質量とから、充填率を判定することを企図するものである。
【0044】
リファイニング・ゾーン内の実際の繊維質量は、チップ・リファイナーの生産率の測定値と、リファイニング・ゾーン内のパルプ滞留時間とから判定することができる。
【0045】
リファイニング・ゾーンが満杯時の前記ゾーン内の繊維質量は、前記リファイニングの液圧によって生じる軸スラストから判定することができる。
【0046】
充填率を、リファイニング・ゾーン内でのリファイニング全体を通して適切に監視し、判定された充填率に応答し、必要に応じて、少なくとも1つの動作パラメーターを調整する。
【0047】
上記について、
図10の流れ図で更に示し、スラスト荷重、比エネルギー、生産率、ブロー・ライン濃度、及び入口濃度等、充填率の計算に必要となるプロセス変数の現在値を用いた更新から開始している。次いで、リファイニング・ゾーン内の繊維質量、リファイナーが満杯時の繊維質量、及び充填率を上述の通り計算し、充填率を表示する。充填率が許容可能な範囲内である場合、プロセス変数の更新から開始するこの手順を繰り返す。充填率が低すぎる、又は高すぎる場合、警告が発せられ、生産率の低減若しくは増大、又は加えるエネルギーの低減等、適切な制御行為を行う。是正行為を行った後は、この手順を、プロセス変数の現在値を用いて再開する。
【0048】
好ましい実施例の説明
図11は、パルプ製紙工場でプロセスの監視及び制御機能を実施するために使用される典型的なハードウェアである分散制御システム(DCS)の実装を示す。特に、
図11は、リファイニングすべき木材チップ又はパルプ用の入口15、及びリファイニング済みパルプ用の出口17を有するチップ・リファイナー10と、チップ・リファイナー10と動作可能に通信している分散制御システム(DCS)11と、分散制御システム(DCS)11と動作可能に通信しているオペレーター・コンソール12と、分散制御システム(DCS)11と動作可能に通信している任意選択のコンピューター13とのアセンブリ8を示す。チップ・リファイナー10は、リファイニング・ゾーン(図示せず)を画定する。分散制御システム(DCS)11は、充填率を判定するようにプログラミングすることができ、その場合、コンピューター13は不要であり、又は、コンピューター13を、充填率を判定するようにプログラミングし、その判定情報を分散制御システム(DCS)11に通信してもよい。
【0049】
スラスト荷重、比エネルギー、生産率、ブロー・ライン濃度、及び入口濃度等のプロセス変数は、チップ・リファイナー10で進められるプロセスに関する直接の測定値から、又は計算によって、大部分の工場のDCS11で容易に入手可能である。現在の工場設備の大部分では、これらの変数は制御され、それらの設定値は調整可能である。オペレーター・コンソール12、及び多くの場合でコンピューター・システム13がDCS11に接続されている。
【0050】
好ましい実施例は、チップ・リファイナー10のリファイニング・ゾーン内の繊維質量の計算、及び充填率の計算を実施するように、DCS11にプログラミングされたソフトウェアを有し、オペレーター・コンソール12に警告が表示されるものである。
【0051】
DCS11の計算能力が限られた、より旧式の設備では、充填率を推定するソフトウェアがコンピューター13に実装され、DCS11に接続される別の実施例となる。
【0052】
図11に示すように、チップ・リファイナー10の、モーター負荷、スラスト荷重、及びスクリュー回転数等の動作パラメーターの測定値は、DCS11によって収集され、チップ・リファイナー10のこれらのパラメーターの調整又は制御は、DCS11によって開始され、取り扱われる。計算、制御行為、及び充填率等の情報及びデータは、DCS11とコンピューター13間の通信の一部である。オペレーター・コンソール12は、チップ・リファイナー10のプロセス変数又は動作パラメーターの情報及びデータ、並びに比エネルギー、モーター負荷、及び濃度等の設定プロセス変数及び設定点を示し、これらは、チップ・リファイナー10の動作パラメーターを制御し、調整するためにDCS11に通信される。
【0053】
充填率の判定は、継続して、又は周期的若しくは断続的基準で実施することができるが、後者の場合、こうした判定は、短い時間間隔では不可能となる。