特許第5778147号(P5778147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778147
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】遺伝子導入方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2012-522672(P2012-522672)
(86)(22)【出願日】2011年6月29日
(86)【国際出願番号】JP2011064945
(87)【国際公開番号】WO2012002452
(87)【国際公開日】20120105
【審査請求日】2014年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2010-245368(P2010-245368)
(32)【優先日】2010年11月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-148860(P2010-148860)
(32)【優先日】2010年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302019245
【氏名又は名称】タカラバイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】百々 克行
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】蝶野 英人
(72)【発明者】
【氏名】峰野 純一
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第00/001836(WO,A1)
【文献】 国際公開第97/018318(WO,A1)
【文献】 BAJAJ, Bharat et al.,High efficiencies of gene transfer with immobilized recombinant retrovirus: kinetics and optimizatio,Biotechnol. Prog.,2001年,Vol. 17,p. 587-596,Materials and Methods, 第589頁右欄第21行−第590頁左欄第18行、第590頁右欄第35行−第591頁左欄第30行
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レトロウイルスベクターによる標的細胞への外来遺伝子の導入方法であって、下記工程(a)〜(d)を含む方法:
(a)レトロウイルス結合性物質が固定化された細胞培養用バッグに、外来遺伝子が搭載されたレトロウイルスベクターを含有する液体を入れた後、25℃未満の温度で8時間〜48時間、振とうを伴ったインキュベーションを行い、レトロウイルスベクターが結合された細胞培養用バッグを得る工程
(b)工程(a)により得られた細胞培養用バッグに標的細胞を入れ、インキュベートする工程
(c)細胞培養用バッグの上下を反転させる工程;及び
(d)上下を反転させた細胞培養用バッグをインキュベートする工程
【請求項2】
細胞培養用バッグが培養面積200cm以上の細胞培養用バッグである、請求項1に記載の外来遺伝子の導入方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の外来遺伝子の導入方法であって、下記工程(a)〜()を含む方法:
(a)レトロウイルス結合性物質が固定化された細胞培養用バッグに、外来遺伝子が搭載されたレトロウイルスベクターを含有する液体を入れた後、25℃未満の温度で8時間〜48時間、振とうを伴ったインキュベーションを行い、レトロウイルスベクターが結合された細胞培養用バッグを得る工程;
(b1)工程(a)により得られた細胞培養用バッグを洗浄する工程
(b2)工程(b1)で洗浄された細胞培養用バッグに標的細胞を入れ、インキュベートする工程
(c)細胞培養用バッグの上下を反転させる工程;及び
(d)上下を反転させた細胞培養用バッグをインキュベートする工程
【請求項4】
レトロウイルス結合性物質が、フィブロネクチン、繊維芽細胞増殖因子、V型コラーゲン、ポリリジン、DEAE−デキストラン、及びこれらのフラグメントから選択された少なくとも1種である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
レトロウイルス結合性物質が、細胞結合性を併せ持つ物質である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
レトロウイルス結合性物質が固定化された細胞培養用バッグが、レトロウイルス結合性物質及び細胞結合性物質が固定化された細胞培養用バッグである、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
細胞結合性物質が、細胞接着性タンパク質、ホルモン、サイトカイン、抗体、糖鎖、及び炭水化物ら選択された少なくとも1種である、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトロウイルスベクターによる標的細胞への外来遺伝子の導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重篤な遺伝子病や癌等の治療のための遺伝子治療法の開発が進められている。これまでにヒトでの臨床応用が研究されてきた遺伝子治療法の多くは、組換えレトロウイルスベクターを用いた細胞への遺伝子導入によるものである。レトロウイルスベクターは、標的細胞の染色体DNA中に目的の外来遺伝子を安定に組み込むことが可能である。従って、レトロウイルスベクターによる遺伝子導入は、特に長期にわたる遺伝子発現が望まれる遺伝子治療にとって好ましい遺伝子導入手段である。
【0003】
レトロウイルスベクターを用いた遺伝子導入の効率は、フィブロネクチンやフィブロネクチンフラグメントCH−296〔RetroNectin(登録商標)〕のようなレトロウイルスに結合する細胞接着性物質の使用により向上することが報告されている(例えば特許文献1)。また、レトロウイルスベクターを含む溶液を前記RetroNectin(登録商標)でコートした容器に加え、一定時間インキュベートしてウイルスベクターのみをRetroNectin(登録商標)上に結合させ、さらに感染阻害物質を含む上清を除去した後、標的細胞を加える方法(RetroNectin Bound Virus Infection法;RBV法)により、遺伝子導入効率がさらに向上することが報告されている(特許文献2、非特許文献1)。
【0004】
RBV法におけるRetroNectin(登録商標)へのウイルスベクターの結合は、遠心力を利用することにより増強できる(遠心RBV法)。しかしながら遠心RBV法は、遠心力に耐えうる容器や遠心操作を行うための高価な装置が必要なうえ、操作も多工程となる。また、多量の細胞への遺伝子導入が求められる場合に処理容量のスケールアップが困難であるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第95/26200号パンフレット
【特許文献2】国際公開第00/01836号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.)、第130巻、第331〜334頁(2001年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、簡便でかつ効果的な、レトロウイルスベクターによる標的細胞への遺伝子導入方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、
[1]レトロウイルスベクターによる標的細胞への外来遺伝子の導入方法であって、工程(a):レトロウイルス結合性物質が固定化された培養容器に、外来遺伝子が搭載されたレトロウイルスベクターを含有する液体を入れた後、25℃未満の温度で4時間以上インキュベートし、レトロウイルスベクターが結合された培養容器を得る工程、及び工程(b):工程(a)により得られた培養容器に標的細胞を入れ、インキュベートする工程、を含む方法、
[2]工程(a)におけるインキュベーション時間が5時間超〜48時間である、[1]に記載の方法、
[3]工程(a)におけるインキュベーションが、振とうを伴うインキュベーションである、[1]に記載の方法、
[4][1]に記載の遺伝子の導入方法であって、工程(a):レトロウイルス結合性物質が固定化された培養容器に、外来遺伝子が搭載されたレトロウイルスベクターを含有する液体を入れた後、25℃未満の温度で4時間以上インキュベートし、レトロウイルスベクターが結合された培養容器を得る工程、工程(b1):工程(a)により得られた培養容器を洗浄する工程、及び工程(b2):工程(b1)で洗浄された培養容器に標的細胞を入れ、インキュベートする工程、を含む方法、
[5]レトロウイルス結合性物質が、フィブロネクチン、繊維芽細胞増殖因子、V型コラーゲン、ポリリジン、DEAE−デキストラン、及びこれらのフラグメントから選択された少なくとも1種である、[1]に記載の方法、
[6]レトロウイルス結合性物質が、細胞結合性を併せ持つ物質である、[1]に記載の方法、
[7]レトロウイルス結合性物質が固定化された培養容器が、レトロウイルス結合性物質及び細胞結合性物質が固定化された培養容器である、[1]に記載の方法、並びに
[8]細胞結合性物質が、細胞接着性タンパク質、ホルモン、サイトカイン、抗体、糖鎖、炭水化物、及び代謝物から選択された少なくとも1種である、[7]に記載の方法、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、簡便でかつ効果的な遺伝子導入方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の遺伝子の導入方法は、工程(a)「レトロウイルス結合性物質が固定化された培養容器に、外来遺伝子が搭載されたレトロウイルスベクターを含有する液体を入れた後、25℃未満の温度で4時間以上インキュベートし、レトロウイルスベクターが結合された培養容器を得る工程」、及び工程(b)「工程(a)により得られた培養容器に標的細胞を入れ、インキュベートする工程」を含む。
【0011】
本明細書においてレトロウイルスとは、ゲノムがRNAで構成され、感染した細胞内で当該RNAをDNAに変換する生活環を有するレトロウイルス科に属するRNAウイルスの総称を示し、オンコレトロウイルス及びレンチウイルスを含む。オンコレトロウイルスとしては、例えばモロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)が挙げられる。また、レンチウイルスとしては、例えばヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)やサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。
【0012】
本明細書においてレトロウイルスベクターとは、レトロウイルスに属するオンコレトロウイルス、レンチウイルス等を基に遺伝子組み換え技術により作製されたウイルス粒子を示し、オンコレトロウイルスベクターやレンチウイルスベクター、あるいはこれらのシュードタイプベクターを含む。オンコレトロウイルスベクターとしては、例えばMMLVに基づくベクター等が挙げられる。また、レンチウイルスベクターとしては、HIV−1に基づくベクターやSIVに基づくベクター等が挙げられる。シュードタイプベクターとは、Gagタンパク質やPolタンパク質とは由来を異にするEnvタンパク質を有する組換えレトロウイルスベクターのことを言う。シュードタイプベクターとしては、水泡性口内炎ウイルス(VSV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ内因性ウイルスRD114、マウス白血病ウイルス(Ecotropic−env、amphotropic−env、10A1−env等)等のEnvタンパク質を有するオンコレトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターが例示される。本発明には、複製能欠損組換えレトロウイルスベクターが好適に使用される。該ベクターは、感染した細胞中で自己複製できないように複製能を欠損させてあり、非病原性である。これらのベクターは脊椎動物細胞、特に、哺乳類動物細胞のような宿主細胞に感染し、その染色体DNA中にベクターに搭載された外来遺伝子を安定に組み込むことができる。
【0013】
工程(a)「レトロウイルス結合性物質が固定化された培養容器に、外来遺伝子が搭載されたレトロウイルスベクターを含有する液体を入れた後、25℃未満の温度で4時間以上インキュベートし、レトロウイルスベクターが結合した培養容器を得る工程」に使用されるレトロウイルスベクターを含有する液体に限定はなく、例えばレトロウイルスベクターを含有するウイルス産生細胞の培養液上清が例示される。工程(a)において、レトロウイルス結合性物質が固定化された培養容器に、外来遺伝子が搭載されたレトロウイルスベクターを含有する液体を入れた後、これを凍結して一定期間保存してもよい。この場合、凍結保存したレトロウイルスベクターを含有する液体が入った培養容器は、そのまま25℃未満の温度で4時間以上のインキュベートに供することができる。すなわち、解凍のための追加の工程を特に必要としない。この場合、工程(a)におけるインキュベーションは振とうを伴ったインキュベーションとすることが望ましい。一般的なレトロウイルスベクターの産生方法としては、あらかじめgag−pol遺伝子、env遺伝子等のレトロウイルスの構造タンパク質をコードする遺伝子が染色体上に組み込まれたレトロウイルスパッケージング細胞に、外来遺伝子とパッケージングシグナルを搭載したトランスファーベクターを導入することによって産生させる方法、及びレトロウイルスの構造タンパク質を有さない細胞に、gag−pol遺伝子やenv遺伝子等のレトロウイルス構造タンパク質をコードする遺伝子を有するパッケージングプラスミドと同時に、前記のトランスファーベクターをトランスフェクションして産生させる方法が挙げられる。
【0014】
標的細胞に導入する外来遺伝子は、適当なプロモーター、例えば、レトロウイルスベクター中に存在するLTRのプロモーターや外来プロモーターの制御下に、組換えレトロウイルスベクター内に搭載して使用することができる。また、効率のよい外来遺伝子の転写を達成するために、プロモーターや転写開始部位と共同する他の調節要素、例えば、エンハンサー配列やターミネーター配列、イントロン配列がベクター内に存在していてもよい。標的細胞内に導入される外来遺伝子は天然のものでも、または人工的に作製されたものでもよく、あるいは起源を異にするDNA分子が、ライゲーション等の公知の手段によって結合されたものであってもよい。
【0015】
レトロウイルスベクターに搭載される外来遺伝子は、細胞中に導入することが望まれる任意の遺伝子を選ぶことができる。例えば、外来遺伝子は、治療の対象となる疾患に関連している酵素やタンパク質をコードするものの他、細胞内抗体(例えば、国際公開第94/02610号パンフレット参照)、T細胞レセプター遺伝子、増殖因子、アンチセンスRNA、RNA干渉を起こすRNA、リボザイム、フォルスプライマー(例えば、国際公開第90/13641号パンフレット参照)等をコードするものを使用することができる。例えば、配列特異的RNA分解酵素であるMazFを発現する遺伝子を外来遺伝子としてCD4陽性T細胞に導入することにより抗HIV効果を示すCD4陽性T細胞を取得することができる(例えば、国際公開第2007/020873号パンフレット及び国際公開第2008/133137号パンフレット)。さらに、特定の薬剤に対する感受性を付与するような遺伝子、例えば、チミジンキナーゼ遺伝子を細胞に導入して該薬剤に対する感受性を付与することもできる。
【0016】
本発明に使用されるレトロウイルスベクターは、遺伝子導入された細胞の選択を可能にする適当なマーカー遺伝子を含有していてもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、細胞に抗生物質に対する耐性を付与する薬剤耐性遺伝子や、酵素活性や蛍光によって遺伝子導入された細胞を見分けることができるレポーター遺伝子、細胞表面に局在する細胞表面マーカー遺伝子等が利用できる。マーカー遺伝子としてネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を用いる場合、遺伝子導入された細胞はG418に対する耐性を指標として確認し、単離、精製することができる。また、細胞表面マーカー遺伝子としてLow affinity Nerve Growth Factor Receptor(LNGFR)の細胞外ドメインをコードする遺伝子を用いる場合、抗LNGFR抗体を利用することにより遺伝子導入された細胞を単離、精製することができる。
【0017】
本発明に使用できるレトロウイルスベクターとしては、例えば、MFGベクター(ATCC No.68754)、α−SGCベクター(ATCC No.68755)、LXSNベクター[バイオテクニクス(BioTechniques)、第7巻、第980〜990頁(1989年)]、タカラバイオ社製のDON−5、DON−AI−2、MEI−5レトロウイルスベクターやpLVSIN−CMVレンチウイルスベクター、クロンテック社製のRetro−X Qベクターシリーズ、Lenti−Xベクターシリーズ等のベクターがある。
【0018】
また、これらのベクターは、公知のパッケージング細胞株、例えば、PG13(ATCC CRL−10686)、PA317(ATCC CRL−9078)、GP+E−86(ATCC CRL−9642)やGP+envAm12(ATCC CRL−9641)、[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシィス・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、第85巻、第6460〜6464頁(1988年)]に記載のψCRIP等の細胞株を使用することにより、調製することができる。また、組換えウイルスの構造タンパクを発現するパッケージングプラスミドとレトロウイルスベクタープラスミドを293T細胞(ATCC CRL−11268)やG3T−hi細胞(タカラバイオ社製)等に一過性にトランスフェクションを行い、その培養上清を回収することによっても調製することができる。
【0019】
パッケージング細胞にトランスファーベクターを導入して作製されたウイルス産生細胞や標的細胞の培養には、公知の培地、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地、イスコブ改変ダルベッコ培地等が使用でき、これらは、例えば、ギブコ(Gibco)社から市販品として入手することができる。これらの培地には、遺伝子導入の標的となる細胞の種類やその他の目的に応じて種々の成分を添加して用いることができる。例えば、標的細胞の生育や分化を促進、あるいは抑制する目的で血清や各種のサイトカイン類、還元剤を添加して使用することができる。血清としては、例えば、仔牛血清(CS)や牛胎児血清(FCS)、ヒト血清等を使用することができ、これらに換えて血清代替物(serum replacement)や精製された血清アルブミン(例えばヒト血清アルブミン)を使用することもできる。また、サイトカインとしては、インターロイキン類(IL−2、IL−3、IL−4、IL−6等)、コロニー刺激因子類(G−CSF、GM−CSF等)、幹細胞因子(SCF)、エリスロポエチンや種々の細胞増殖因子等があり、その多くのものについてヒト由来のものが市販されている。これらのサイトカイン類を使用するにあたっては、目的に応じた作用を有するものを選択し、また必要に応じてこれらを組み合わせて使用すればよい。また、ウイルス回収時に標的細胞の培養に適した培地に置換しても良い。例えば、標的細胞がヒトリンパ球の場合、リンパ球の培養に好適なGT−T503培地、GT−T−RetroI培地、GT−T−RetroIII培地(いずれもタカラバイオ社製)、X−VIVO15培地(ロンザ社製)やAIM−V培地(インビトロジェン社製)を用いることができる。
【0020】
酪酸ナトリウムをウイルス産生細胞の培養時に添加することにより、上清中に産生されるウイルス粒子が増加することが知られているが[ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)、第6巻、第1195〜1202頁(1995年)]、本発明の遺伝子導入方法には、こうして調製された高いタイターのウイルス上清も問題なく使用することができる。
【0021】
工程(a)に使用されるレトロウイルスベクターを含有する液体のウイルスタイターとしては、本発明を特に限定するものではないが、10コピー/mL以上が例示され、10〜1012コピー/mLがより好適に例示され、10〜1012コピー/mLが更により好適に例示される。なお、上記に示すウイルスタイターはタカラバイオ社製のRetrovirus Titer Set(for Real Time PCR)を用いて測定したRNAコピー数を元に算出したウイルスタイターである。これをウイルスの感染性を示す生物学的力価で示すと、ウイルスタイターは上記数値の1/10〜1/10となる。
【0022】
本発明に使用されるレトロウイルス結合性物質は、レトロウイルスに結合親和性を示す物質であれば特に限定はなく、例えば、フィブロネクチン、線維芽細胞増殖因子、V型コラーゲン、ポリリジン、DEAE−デキストラン、及びこれらのフラグメントから選択された少なくとも一種の物質が例示される。これらの物質を化学的に修飾することにより、そのウイルスへの結合性を増強することも可能である(例えば特許文献2)。
【0023】
また、上記のレトロウイルス結合性物質として、細胞結合性を併せ持つものを使用するか、あるいはレトロウイルス結合性物質を細胞結合性物質と組み合わせて使用してもよい。細胞結合性物質としては、細胞への結合親和性を示す物質であれば特に限定はなく、例えば、細胞接着性タンパク質、ホルモン、サイトカイン、抗体、糖鎖、炭水化物及び代謝物等から選択された物質を使用することができる。標的細胞に特異的に結合する抗体は、特定の細胞に特異的に遺伝子を導入するうえで有用である。本発明に使用できる抗体としては特に限定はなく、遺伝子を導入しようとする標的細胞で発現されている抗原に対する抗体を適宜選択し、使用することができる。標的細胞に発現しているCD抗原を認識する抗体を使用すれば、標的細胞に高い特異性で遺伝子を導入することができる。例えば、抗CD4抗体を使用した場合にはヘルパーT細胞に、抗CD8抗体を使用した場合にはキラーT細胞に、また抗CD34抗体を使用した場合には造血幹細胞に、それぞれ遺伝子導入を方向づけることができる。抗体は公知の方法によって作製することができる。現在では多くの抗体が市販されており、これらを使用することもできる。これらの抗体は細胞特異性等の所望の性質を有しているものであれば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のどちらでもよい。また、公知技術により修飾された抗体や抗体の誘導体、例えば、ヒト化抗体、Fabフラグメント、一本鎖抗体等を使用してもよい。
【0024】
また、細胞結合性物質として細胞接着活性を有するタンパク質(フィブロネクチン、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン等)や細胞結合ドメインを含むそのフラグメント、種々の糖タンパク質やその糖鎖(例えば高マンノース型のN−結合型糖鎖)を使用することもできる。さらに、上記の細胞結合性物質をレトロウイルス結合性物質に結合させたものは遺伝子導入に好適に使用できる。
【0025】
上記のような物質は天然起源の物質から得ることができ、また、人為的に作製する(例えば、組換えDNA技術や化学合成技術によって作製する)ことができ、さらに、天然起源の物質と人為的に作製された物質との組合せにより作製することもできる。また、国際公開第97/18318号パンフレットに記載のように、これらの物質を使用して遺伝子導入を実施する場合には、レトロウイルス結合部位を有する物質と細胞結合部位を有する他の物質とを混合して使用するか、あるいはレトロウイルス結合部位と細胞結合部位とを同一分子上に有する物質を使用することができる。なお、これらの物質としては、これらが天然において共存している他のタンパク質を実質的に含有していないものが使用される。
【0026】
フィブロネクチンやそのフラグメントは、レトロウイルス結合性と細胞結合性とを併せ持つ物質として好適である。フィブロネクチンやそのフラグメントは、例えば、ジャーナル・オブ・バイオケミストリー、第256巻、第7277頁(1981年)、ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー(J. Cell. Biol.)、第102巻、第449頁(1986年)、ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー、第105巻、第489頁(1987年)に記載の方法によって、天然起源の材料から実質的に純粋な形態で製造することができる。また、米国特許第5,198,423号に記載の方法により、組換えDNA技術を利用して製造することもできる。特に、レトロウイルス結合部位であるヘパリン−II領域を含むフィブロネクチンフラグメント、例えば、フィブロネクチンフラグメントCH−296、H−271、H−296、及びCH−271等の組換えポリペプチド、ならびにこれらを取得する方法は、米国特許第5,198,423号に詳細に記載されている。なお、上記のフィブロネクチンフラグメントのうちH−296はVLA−4への結合領域ポリペプチドを、CH−271はVLA−5への結合領域ペプチドを、また、CH−296はその両方を有している[ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)、第2巻、第876〜882頁(1996年)]。CH−296はレトロネクチン、RetroNectinの登録商標名で市販されている。
【0027】
本発明に使用される培養容器に特に限定はなく、細胞培養用バッグ、細胞培養用プレート、細胞培養用シャーレ、細胞培養用試験管、及び細胞培養用フラスコが例示される。培養容器の素材にも特に限定はなく、例えばプラスチック製又はガラス製の培養容器を本発明に使用できる。多量の細胞への遺伝子導入が望まれる場合には、細胞培養用バッグ、特にガス透過性の細胞培養用バッグが本発明に好適である。レトロウイルス結合性物質を培養容器の内面に固定化する場合、本発明を特に限定するものではないが、培養容器の素材としては、ポリスチレン、ポリエチレン、シクロオレフィン樹脂、フッ素樹脂が例示される。
【0028】
レトロウイルス結合性物質の培養容器への固定化の方法は、物質の種類や使用する培養容器の種類によって適宜選択することができる。例えばレトロウイルス結合性物質がポリペプチドの場合は、培養容器表面への物理吸着により固定化することができる。また、架橋剤等を使用した共有結合によって、レトロウイルス結合性物質を培養容器に固定化してもよい。
【0029】
工程(a)におけるインキュベーションの温度条件としては、25℃未満であれば特に限定はないが、20℃未満が例示され、18℃未満が好適に例示され、1℃〜18℃がより好適に例示され、1℃〜10℃がさらにより好適に例示される。インキュベーションの時間としては4時間以上であれば特に限定はないが、導入効率の点で、5時間超〜72時間が例示され、5時間越〜48時間が好適に例示され、6時間〜48時間がより好適に例示され、8時間〜48時間がさらにより好適に例示され、12時間〜48時間がさらにより一層好適に例示される。インキュベーションの時間は、例えば、40時間以下、35時間以下、30時間以下、25時間以下、20時間以下、または18時間以下である。また、インキュベーションの時間は、例えば、4時間以上、6時間以上、8時間以上、12時間以上、16時間以上、18時間以上、20時間以上、または24時間以上である。工程(a)においてインキュベーションするウイルス液の量は、例えば、0.5mL〜1000mLである。
【0030】
また、インキュベーションは静置状態で行ってもよいが、振とうを伴ってインキュベートすることによって、レトロウイルスベクターの培養容器への結合効率をより高いものとすることができる。振とうは、例えば培養容器を平面上で横揺れ(往復)もしくは回転させる方法、培養容器に傾斜を与えるシーソー様の揺動、これらの組合せ等で行うことができる。このような振とうを実施するための各種の装置が市販されている。振とうの条件は、使用する培養容器の形状や大きさに応じて培養容器内でレトロウイルスベクターを含有する液体が動くような条件であれば特に本発明を限定するものではないが、例えば傾斜角9度のシーソー様の揺動による振とうの場合、20rpm〜75rpmが好適に例示され、30rpm〜70rpmがより好適に例示され、30rpm〜65rpmがさらにより好適に例示される。振とうの傾斜角は、本発明を特に限定するものではないが、0度〜15度の範囲で適宜調整すればよい。また、横揺れによる振とうの場合、振とう速度は、例えば30rpm〜300rpm、好ましくは35rpm〜280rpm、より好ましくは40rpm〜260rpmが例示される。
【0031】
培養容器として細胞培養用バッグを用い、振とうを伴ったインキュベートにより工程(a)を実施する場合、バッグに注入するウイルス液の容量は、バッグを振とうした際のウイルス液の可動性等を考慮して適宜決定することができる。細胞培養用バッグに注入するウイルス液の容量は、例えば、5mL〜1000mL、好適には50mL〜700mL、より好適には100mL〜500mLである。例えば、振とうした際に溶液の可動性が高い細胞培養用バッグを用いる場合には、バッグの容量に応じた適当量のウイルス液をバッグに注入すれば、バッグを振とうした際のウイルス液の十分な可動性を確保できる。また、振とうした際に溶液の可動性が低い細胞培養用バッグを用いる場合には、実施例6に記載のとおり、ウイルス液と共に無菌の空気をバッグに注入することによって、バッグを振とうした際のウイルス液の可動性を高め、プレローディング効率を向上させることができる。注入するウイルス液と無菌の空気の体積の比率は、例えば、3:1〜2:1である。なお、本発明の遺伝子導入方法は、実施例9に示すとおり、細胞培養用バッグを用いたラージスケールでの遺伝子導入においても高効率な遺伝子導入を実現できることから、大量の遺伝子導入細胞の調製に適している。
【0032】
本発明を特に限定するものではないが、例えば、培養容器として実施例9に記載のような培養面積が約200cm以上のラージスケールバッグ用い、振とうを伴ったインキュベートにより工程(a)を実施する場合は、傾斜角が0度の横揺れ振とうであれば振とう速度は30〜70rpm、傾斜角3〜5度(特に4度)のシーソー型振とうであれば振とう速度は25〜45rpmで、いずれも1℃〜10℃の範囲でインキュベーションを行うことが好ましい。また、インキュベーション時間は8〜20時間が好ましい。
【0033】
細胞培養用バッグを用いて本発明を実施した場合、バッグの内面全体にレトロウイルスベクターが結合する。バッグの内面同士を接触させるような操作は結合したレトロウイルスベクターを脱離させる可能性があり、避けた方が良い。例えば、硬質の板状物の間に挟んでバッグを保持することにより、前記のようなレトロウイルスベクターの脱離を回避することができる。
【0034】
後述の実施例2のように、インキュベーションの終了後、レトロウイルスベクターを含有する液体を新鮮なレトロウイルスベクターを含有する液体に置換し、さらに再度インキュベートを行ってもよい。また、インキュベーションの終了後、レトロウイルスベクターを含有する液体に新鮮なレトロウイルスベクターを含有する液体を添加し、さらに再度インキュベートを行ってもよい。工程(a)を実施した後、後述の工程(b1)「工程(a)により得られた培養容器を洗浄する工程」を行った後、工程(a)を再度繰り返してもよい。こうすることによって、遺伝子導入効率をさらに向上させることができる。
【0035】
なお、後述の実施例10に示される通り、工程(a)のインキュベーションの終了後に培養容器内の液体を回収すると、感染力を維持したレトロウイルスベクターが残存している。この回収液を本発明の遺伝子導入方法に再利用することができる。回収したレトロウイルスベクターを含有する液体をそのまま、若しくは未使用のレトロウイルスベクターを含有する液体と混合して本発明の遺伝子導入方法に使用すれば、ウイルス使用量を低減することができるため、経済的である。
【0036】
レトロウイルスベクターの培養容器への結合の効率は、例えば本発明の方法により最終的に得られた細胞のうち遺伝子が導入されたものの割合(遺伝子導入効率)や前記細胞におけるプロウイルスのコピー数を測定することにより確認することができる。遺伝子導入効率の測定は公知の方法で行うことができる。例えば細胞に導入する外来遺伝子としてZsGreen等の蛍光タンパク質をコードするマーカー遺伝子を使用した場合には、当該遺伝子が導入された細胞数をフローサイトメーターで計測することにより遺伝子導入効率を測定できる。また、外来遺伝子として細胞表面に発現される遺伝子産物をコードする遺伝子を用いる場合には、当該遺伝子産物に特異的に結合する標識抗体を利用すれば、上記と同様にフローサイトメーターを用いた遺伝子導入効率の計測を行うことができる。
【0037】
工程(b)「工程(a)により得られた培養容器に標的細胞を入れ、インキュベートする工程」により、標的細胞にレトロウイルスベクターが感染し、外来遺伝子が導入された細胞を効率良く得ることができる。インキュベーションは、細胞へのレトロウイルスベクターの感染に用いられる通常の方法、例えば、標的細胞に適した培地中、35℃〜40℃(例えば、37℃)、炭酸ガス濃度2〜10%(例えば、5%)の条件でのインキュベーションによって行うことができる。この条件やインキュベーションの時間は標的細胞や目的に応じて適宜変更できる。例えば、インキュベーションの時間は、4時間〜96時間である。培養容器として細胞培養用バッグを用いる場合には、工程(a)によりバッグ内面の上下両面にレトロウイルスベクターを結合させておき、工程(b)において標的細胞を入れて一定時間インキュベートした後にバッグの上下を反転させ、さらに一定時間インキュベートすることにより、バッグ両面での標的細胞へのレトロウイルスベクターの感染を促し、遺伝子導入効率をさらに向上させることもできる。
【0038】
レトロウイルスベクターとしてオンコレトロウイルスに基づくベクターを用いる場合、G期の細胞に対しては染色体DNAへの外来遺伝子の導入を行うことができない。従って、このような場合には、適当な標的細胞増殖因子による予備刺激によって標的細胞を細胞周期に誘導することが好ましい。例えば、骨髄細胞や造血幹細胞に遺伝子導入を行う場合の予備刺激には、各種のサイトカイン、例えばインターロイキン−3、インターロイキン−6や幹細胞因子等が使用できる。レンチウイルスベクターを使用する場合には、予備刺激は必ずしも必要ではない。
【0039】
細胞へのレトロウイルスの感染には、細胞表面に存在するレセプターが関与していることが知られている。例えば、塩基性アミノ酸トランスポーター、リン酸トランスポーターは、それぞれエコトロピックウイルス、アンフォトロピックウイルスのレセプターとして機能することが知られている[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシィス・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ、第93巻、第11407〜11413頁(1996年)]。これらのトランスポーターの発現や代謝回転を活発にさせるために、塩基性アミノ酸、リン酸、またはこれらの塩もしくは前駆体を低減させた培地中で標的細胞を前処理することによって、当該細胞をウイルスに感染し易い状態とすることができる。
【0040】
本発明の方法による遺伝子導入の標的となる細胞も特に制限はない。例えば、幹細胞(stem cells:造血幹細胞、間葉系幹細胞、胚性幹細胞等)、造血細胞、単核細胞(末梢血単核細胞、臍帯血単核細胞等)、胚細胞、プライモディアル・ジャーム・セル(primordial germ cell)、卵母細胞、卵原細胞、卵子、精母細胞、精子、赤血球系前駆細胞、リンパ球母細胞、成熟血球、リンパ球、B細胞、T細胞、NK細胞、線維芽細胞、神経芽細胞、神経細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝細胞、筋芽細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、ガン細胞、骨髄腫細胞及び白血病細胞等を使用することができる。血液や骨髄より得られる造血系の細胞は入手が比較的容易であり、またその培養や維持の手法が確立されていることから、本発明の方法を利用するのに好適である。特に導入された遺伝子の生体内での長期にわたる発現が目的の場合には、多能性を有する幹細胞(造血幹細胞、間葉系幹細胞等)や種々の前駆細胞が標的細胞として適している。また、遺伝子治療法をAIDSの治療に適用する場合には、CD4陽性T細胞等の免疫系細胞やその前駆細胞が標的細胞として好適である。
【0041】
例えば、CD4陽性T細胞を標的細胞とした遺伝子治療法は以下のような操作によって実施することができる。まず、ドナーよりCD4陽性T細胞を含有する材料、例えば、骨髄組織、末梢血液、臍帯血液等を採取する。これらの材料はそのまま遺伝子導入操作に用いることも可能であるが、通常は、密度勾配遠心分離等の方法により単核細胞画分を調製する。さらにCD4分子を指標とした細胞の精製、CD8陽性T細胞および/または単球の除去、ならびにCD4陽性T細胞数を拡大する培養操作を行ってもよい。これらの細胞集団について、必要に応じて適当な予備刺激(例えばCD3リガンド、CD28リガンド、またはIL−2による刺激)を行った後、本発明の方法により目的とする遺伝子が搭載された組換えレトロウイルスベクターを感染させる。こうして得られた遺伝子導入された細胞は、例えば、静脈内投与によってレシピエントに移植することができる。レシピエントは、好ましくはドナー自身であるが、同種異系移植を行うことも可能である。
【0042】
造血幹細胞を標的とした遺伝子治療法としては、患者において欠損しているか、異常が見られる遺伝子を補完するものがあり、例えば、ADA欠損症やゴーシェ病の遺伝子治療法がこれにあたる。この他、例えば、ガンや白血病の治療に使用される化学療法剤による造血細胞の障害を緩和するために、造血幹細胞への薬剤耐性遺伝子の導入が行われることがある。
【0043】
また、癌の遺伝子治療法としては、腫瘍抗原を認識するT細胞レセプターをコードする遺伝子を導入することにより、リンパ球に当該抗原を発現する癌細胞に対する特異的な細胞傷害活性を付与する方法が研究されている[ジーン・セラピー(Gene Therapy)、第15巻、第695〜699頁(2008年)]。さらに、AIDSを遺伝子治療法によって治療しようという試みも行われている。この場合には、AIDSの原因であるHIVが感染するCD4陽性T細胞等のT細胞に、HIVの複製や遺伝子発現を妨げるような核酸分子(一本鎖特異的エンドリボヌクレアーゼ、アンチセンス核酸、リボザイム等)をコードする遺伝子を導入することが考えられている(例えば、国際公開第2007/020873号パンフレット、ヒューマン・ジーン・セラピー、第22巻、第35〜43頁(2011年))。
【0044】
工程(b)において、レトロウイルスベクター溶液中に遺伝子導入や細胞培養に好ましくない物質が含まれている場合には、細胞を入れる前に、「レトロウイルスベクターが結合された培養容器を洗浄する工程」を施し、遺伝子導入や細胞培養に好ましくない物質を除去しても良い。すなわち、工程(a)「レトロウイルス結合性物質が固定化された培養容器に、外来遺伝子が搭載されたレトロウイルスベクターを含有する液体を入れた後、25℃未満の温度で4時間以上インキュベートし、レトロウイルスベクターが結合された培養容器を得る工程」、工程(b1)「工程(a)により得られた培養容器を洗浄する工程」、及び工程(b2)「工程(b1)で洗浄された培養容器に標的細胞を入れ、インキュベートする工程」を含む遺伝子導入方法も、本発明の一態様である。
【0045】
工程(b1)「レトロウイルスベクターが結合された培養容器を洗浄する工程」には、例えば、リン酸緩衝生理食塩水やハンクスの生理食塩水の他、標的細胞の培養に使用する液体培地等を使用することができる。さらにこれらの溶液に適宜ヒト血清アルブミン等を添加することもできる。この工程により、遺伝子導入に好ましくない物質を除去することができる。本工程により除去される物質としては、例えば、ウイルス上清に含まれているパッケージング細胞由来のレトロウイルス感染阻害物質[ヒューマン・ジーン・セラピー、第8巻、第1459〜1467頁(1997年)、ジャーナル・オブ・ウイロロジー(J. Virol.)第70巻、第6468〜6473頁(1996年)]や、レトロウイルス産生細胞の培養時にレトロウイルスの産生の促進を目的として添加される物質、例えば、ホルボール 12−ミリステート 13−アセテート(TPA)やデキサメサゾン[ジーン・セラピー、第2巻、第547〜551頁(1995年)]の他、細胞の老廃物や前記の酪酸ナトリウム等が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
実施例1 各種ウイルスプレローディング法によるSupT1細胞への遺伝子導入
【0048】
(1)DON−ZsGreenレトロウイルスベクターの調製
pZsGreen Vector(クロンテック社製)を制限酵素BamHIとEcoRI(タカラバイオ社製)で切断し、アガロースゲル電気泳動を行い、緑色蛍光タンパク質ZsGreenをコードする配列を含む約0.7kbpのフラグメントを回収した。回収したフラグメントをDNA Blunting Kit(タカラバイオ社製)を用いて末端平滑化後、pDON−AI DNA(タカラバイオ社製)に挿入し、組換えレトロウイルスベクタープラスミドpDON−ZsGreenを取得した。次に、当該プラスミドとRetrovirus Packaging Kit Eco(タカラバイオ社製)を用いてエコトロピックDON−ZsGreenウイルスを作製した。その後、これをGaLVレトロウイルスパッケージング細胞PG13に感染させた。感染細胞から高力価のウイルス産生細胞をクローニングしてレトロウイルスベクター産生細胞株PG13/DON−ZsGreenを樹立した。さらに当該産生細胞を用いて、5mM 酪酸ナトリウムを含有する培地で常法によりGaLV/DON−ZsGreenウイルス液を取得した(以下、DON−ZsGreenレトロウイルスベクターと称す)。なお、取得したウイルス液のRNAタイターは1.88×1010コピー/mLであった。
【0049】
(2)SupT1細胞へのZsGreen遺伝子導入
表面未処理24ウェルプレート(ベクトン・ディッキンソン社製)に1ウェルあたり500μLの20μg/mLのフィブロネクチンフラグメントであるCH−296(商品名レトロネクチン;タカラバイオ社製)を添加して4℃で一晩放置した後、500μLのPBSで2回洗浄した。本明細書の実施例では、このプレートをCH−296コートプレートとし、必要に応じて作製した。
【0050】
実施例1−(1)で調製したDON−ZsGreenレトロウイルスベクターをRPMI培地にて60倍に希釈し、CH−296コートプレートに1ウェルあたり1mLずつ添加した。プレローディング(RBV法におけるレトロウイルスベクターの培養容器への結合)中のプレートの振とう条件は、プレローディング中にプレートを振とうしない(静置した)もの、35rpmで傾斜角9度のシーソー型の振とう機(Mild Mixer, SI−36(TAITEC社製))による振とうを行ったもの、及び100rpmでの傾斜0度、振とう幅3cmの横揺れによる振とう機(Personal10 INCUBATOR PERSONAL、TAITEC社製)による振とうを行ったものの3種類について検討した。プレローディングは、これらの各振とう条件について、4℃〜37℃のインキュベーション温度、及び2時間〜24時間のインキュベーション時間で実施した。インキュベーションの終了後ウイルス液を除去し、1.5%HSAを含むPBSを1ウェルあたり1mLずつ使用して各ウェルを洗浄した。次に10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含む培地を用いて5×10cells/mLとなるようにSupT1細胞(ATC CCRL−1942)を懸濁し、前述のウイルスをプレロードしたウェルに1mLずつ添加し、37℃、5%COインキュベータ内で培養してレトロウイルス感染(レトロウイルスベクターによる遺伝子導入)を行った。培養開始から1日目(培養1日目)に細胞懸濁液を新たな表面未処理24ウェルプレートに移した後、10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含む培地を1ウェルあたり4mLずつ添加し、細胞懸濁液を5倍希釈した。この細胞懸濁液について、培養3日目まで培養を継続した。
【0051】
(3)遺伝子導入効率の解析
実施例1−(2)で得られた培養3日目の細胞をフローサイトメーターFACS CantoII(ベクトン・ディッキンソン社製)に供し、遺伝子導入効率としてZsGreen陽性率を算出した。その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示されるように、4℃もしくは16℃で4時間以上プレローディングすることにより、高い遺伝子導入効率が示された。特に4℃もしくは16℃で6時間以上の振とうによるプレローディングを行うことにより、高い導入効率が示された。一方、37℃については4時間のプレローディング時間で最も導入効率が高く、それ以降は時間が長くなるに従って導入効率は著しく低下した。さらに振とうの速度に関しては100rpmでの横揺れにおいて高い導入効率が示された。
【0054】
実施例2 4℃振とうプレローディング法の繰り返しによるSupT1細胞への遺伝子導入
(1)実施例1−(1)で調製したDON−ZsGreenレトロウイルスベクターをRPMI培地にて30倍に希釈し、CH−296コートプレートに1ウェルあたり1mLずつ添加した。プレローディング中のプレートは、100rpmで傾斜0度の横揺れによる振とうに供した。インキュベーション時間は、24時間行ったもの(24時間試験区)、及びプレローディングの繰り返しによる効果を調べるため、16時間後に新鮮なウイルス液1mLに置換し、さらに8時間のインキュベーション行ったもの(16+8時間試験区)の2試験区について試験した。インキュベーション温度は、いずれの試験も4℃で実施した。インキュベーションの終了後ウイルス液を除去し、1.5%HSAを含むPBSを1ウェルあたり1mLずつ使用して各ウェルを洗浄した。次に10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含む培地を用いて5×10cells/mLとなるようにSupT1細胞を懸濁し、前述のウイルスをプレロードしたウェルに1mLずつ添加し、37℃、5%COインキュベータ内で培養してレトロウイルス感染を行った。培養開始から1日目(培養1日目)に0.4mLの細胞懸濁液を新たな表面未処理24ウェルプレートに移した後、10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含む培地を1ウェルあたり1.6mLずつ添加し、細胞懸濁液を5倍希釈した。この細胞懸濁液について、培養3日目まで培養を継続した。
【0055】
(2)遺伝子導入効率の解析
実施例2−(1)で得られた培養3日目の細胞をフローサイトメーターFACS CantoII(ベクトン・ディッキンソン社製)に供し、遺伝子導入効率としてZsGreen陽性率を算出した。その結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示されるように、4℃振とう条件下でプレローディングを繰り返すことにより、1回のプレローディングより高い遺伝子導入効率が示され、プレローディングを繰り返すことによるCH−296がコートされた容器上へのレトロウイルスベクターの濃縮効果が示された。
【0058】
実施例3 細胞培養用バッグを用いた各種閉鎖系プレローディング法によるSupT1細胞への遺伝子導入
(1)培養面積60cmの培養バッグCultiLife(登録商標) Spin(タカラバイオ社製)に20μg/mLのCH−296を10mL注入して4℃で一晩以上放置した後、15mLのPBSで2回洗浄した。このバッグをCH−296コートバッグとし、以下の実験に使用した。
【0059】
実施例1−(1)で調製したDON−ZsGreenレトロウイルスベクターをRPMI培地にて30倍及び60倍に希釈し、CH−296コートバッグに30mLずつ注入した。プレローディング中のCH−296コートバッグの振とう条件は、プレローディング中にバッグを振とうしない(静置した)もの、及び100rpmでの傾斜0度の横揺れによる振とうを行ったものについて検討した。プレローディングは、これらの各振とう条件について、4℃のインキュベーション温度、20時間のインキュベーション時間で実施した。インキュベーションの終了後ウイルス液を除去し、1.5%HSAを含むPBSを1バッグあたり15mLずつ使用して各バッグを洗浄した。次に10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含む培地を用いて5×10cells/mLとなるようにSupT1細胞を懸濁し、前述のウイルスをプレロードしたバッグに30mLずつ注入し、37℃、5%COインキュベータ内で3日間培養してレトロウイルス感染を行った。
【0060】
(2)遺伝子導入効率の解析
実施例3−(1)で得られた培養3日目の細胞をフローサイトメーターFACS CantoII(ベクトン・ディッキンソン社製)に供し、遺伝子導入効率としてZsGreen陽性率を算出した。その結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示されるように、4℃振とう条件下でプレローディングすることにより、37℃4時間のプレローディングと比較して高い遺伝子導入効率が示された。この結果は、実施例1の表1の24ウェルプレートを培養容器として用いた試験と同等の結果であることから、本発明の方法では、処理容量の30倍ものスケールアップを容易に行えることが示された。
【0063】
実施例4 各種ウイルスプレローディング法によるCD4陽性T細胞集団への遺伝子導入
(1)LNGFR及びMazF遺伝子搭載レトロウイルスベクターの調製
LNGFR及びMazF遺伝子搭載レトロウイルスベクターの調製は国際公開第2008/133137号パンフレットの実施例1及び2と同様の方法で行った。すなわち、HIV LTR−MazFカセットがレトロウイルスベクターゲノムの転写とは逆方向に挿入され、かつヒトLow affinity Nerve Growth Factor Receptorの細胞外ドメインをコードする遺伝子がヒトPGKプロモーターの下流に順方向に挿入された組換えレトロウイルスベクタープラスミドpMT−MFR−PL2を取得し、当該プラスミドを用いてエコトロピックMT−MFR−PL2ウイルスを作製した後、これをGaLVレトロウイルスパッケージング細胞PG13に感染させ、高力価のウイルス産生細胞をクローニングしてレトロウイルスベクター産生細胞株PG13/MT−MFR−PL2を樹立した。さらに当該産生細胞を用いて、5mM 酪酸ナトリウムを含有する培地で常法によりGaLV/MT−MFR−PL2ウイルス液を取得した。なお、取得したウイルス液のRNAタイターは6.6×10コピー/mLであった。
【0064】
(2)CD4陽性T細胞集団の調製
インフォームド・コンセントの得られた健常人ドナーTK19及びTK29から常法に従い調製したヒト末梢血単核細胞(PBMC)を、2mM EDTA、0.1% BSAを含むPBS(以下、Buffer1と称す)を用いて1×10cells/mLになるように懸濁後、Buffer1で洗浄したCD8ポジティブセレクションビーズ(Dynabeads M−450 CD8:インビトロジェン社製)をPBMC1×10cellsあたり2×10ビーズとなるように添加した。ローテーターを用いて4℃で30分間緩やかに攪拌したのち、ビーズを含む細胞懸濁液を磁気分離装置MPC−15(Dynal社製)上に2〜3分静置してビーズ非結合細胞を回収した(以下、CD8除去細胞集団と記載)。回収したCD8除去細胞集団を500×gで5分間遠心したのち、X−VIVO15(ロンザ社製)を基礎とするリンパ球培養用培地(以下、X−VIVO15CMと称する)を用いて、5×10cells/mLになるように懸濁した。
【0065】
(3)実施例4−(2)で調製した細胞集団への遺伝子導入及び拡大培養
(3)−1 レトロウイルスベクターのプレローディング
ウイルスベクターのプレローディングは4℃、19時間の振とう区、37℃、4時間の振とう区、及び32℃、3時間の遠心区の3種の方法で行った。すなわち、CH−296コートプレートに実施例2−(1)で調製したGaLV/MT−MFR−PL2ウイルス液を1ウェルあたり1mLずつ添加し、4℃、19時間の振とう、37℃、4時間の振とう、もしくは32℃、2000×g、3時間の遠心により、レトロウイルスベクターのプレローディングを行った。振とう条件は、シーソー型の振とう機であるMild Mixer, SI−36を用いて傾斜角度は9度、振とう速度は35rpmで行った。その後、上清を除去し、1.5%HSAを含むPBSを1ウェルあたり1mLずつ使用して各ウェルを洗浄した。こうして作製したプレローディングプレートは、使用するまで4℃で保存した。
【0066】
(3)−2 培養開始
実施例4−(2)で調製したCD8除去細胞集団を底面積25cm細胞培養用フラスコ(コーニング社製)に10mL添加した。細胞数に対して3倍量のDynabeads Human T−Activator CD3/CD28(インビトロジェン社製)を遠心管に分注後、X−VIVO15で洗浄し、上記細胞を含むフラスコに添加し、フラスコを立てて37℃、5%COインキュベータ内での培養を開始した(培養0日目)。
【0067】
(3)−3 遺伝子導入
培養3日目に細胞を遠心管に回収し、500×g、5分間遠心して上清を除去した後、5×10cells/mLとなるようにX−VIVO15CMを加えて懸濁した。実施例3−(3)−1で作製したプレローディングプレートから上清を除去した後、上記細胞懸濁液を1ウェルあたり1mLずつ添加し、37℃、5%COインキュベータ内でインキュベートして細胞へのレトロウイルス感染を行った。なお、非感染区では、プレローディングプレートの代わりにCH−296コートプレートを用いる以外は上記と同様の操作を行った。
【0068】
(3)−4 拡大培養
培養4日目に実施例4−(3)−3でレトロウイルス感染を行った細胞を遠心管に回収し、500×gで5分間遠心して上清を除去し、2mLのX−VIVO15CMに懸濁して2倍希釈培養した。さらに培養5日目にHuman AB Serum(ロンザ社製)を終濃度5%となるように添加したX−VIVO15CMを加えて、5倍希釈培養を培養7日目まで行った。
【0069】
(4)遺伝子導入効率の解析
実施例4−(3)で得られた培養7日目の細胞を0.1%BSA/PBSで洗浄した。次に、0.1%BSA/PBSに細胞を懸濁し、ここに抗体反応液として、FITC標識マウス抗ヒトCD8抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)、PerCP標識マウス抗ヒトCD3抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)、APC標識マウス抗ヒトLNGFR抗体(Miltenyi Biotec社製)、及びAPC‐Cy7標識マウス抗ヒトCD4抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)を含む抗体液を添加し、抗体反応を行った。その後、0.1%BSA/PBSで細胞を2回洗浄し、再度0.1%BSA/PBSに懸濁した。この細胞をフローサイトメトリーに供し、遺伝子導入効率として、各々の細胞集団のCD3陽性CD4陽性細胞中のLNGFR陽性率を算出した。その結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
その結果、いずれのドナーにおいても4℃、19時間の振とう区の遺伝子導入率が最も高く、32℃、3時間の遠心区よりもはるかに高効率であることが明らかになった。
【0072】
実施例5 振とうウイルスプレローディング法によるCD4陽性T細胞集団への遺伝子導入
(1)レトロウイルスベクターの調製
実施例4−(1)に記載のレトロウイルスベクター産生細胞株PG13/MT−MFR−PL2を用いて、5mM 酪酸ナトリウムを含有する培地もしくは含有しない培地で常法によりGaLV/MT−MFR−PL2ウイルス液を取得した。なお、取得したウイルス液のRNAタイターを下記表5に示す。
【0073】
【表5】
【0074】
(2)CD8除去細胞集団の調製
実施例4−(2)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られた健常人ドナーTK19からCD8除去細胞集団を調製し、X−VIVO15CMを用いて、5×10cells/mLになるように懸濁した。
【0075】
(3)実施例5−(2)で調製した細胞集団への遺伝子導入及び拡大培養
(3)−1 レトロウイルスベクターのプレローディング
ウイルスベクターのプレローディングは4℃、30時間振とうすることにより行った。すなわち、実施例1−(2)と同様の方法で得られたCH−296コートプレートに実施例5−(1)で調製した酪酸ナトリウム含有もしくは非含有のGaLV/MT−MFR−PL2ウイルス液を1ウェルあたり0.7mLずつ添加し、4℃、30時間の振とうによりレトロウイルスベクターのプレローディングを行った。振とうは、シーソー型の振とう機であるMild Mixer, SI−36を用いて傾斜角度は9度、振とう速度は35rpmで行った。プレローディング後は、上記ウイルス液を除去し1.5%HSAを含むPBSを1ウェルあたり1mLずつ使用して各ウェルを洗浄する区(ウイルス洗浄区)と、ウイルス液を除去しない区(ウイルス非洗浄区)を設定した。こうして作製したプレローディングプレートは、使用するまで4℃で保存した。
【0076】
(3)−2 培養開始
実施例5−(2)で調製したCD8除去細胞集団を底面積25cm細胞培養用フラスコ(コーニング社製)に12mL添加した。細胞数に対して3倍量のDynabeads Human T−Activator CD3/CD28(インビトロジェン社製)をX−VIVO15で洗浄した後、上記細胞を含むフラスコに添加し、フラスコを立てて37℃、5%COインキュベータ内での培養を開始した(培養0日目)。
【0077】
(3)−3 遺伝子導入
培養3日目に細胞を遠心管に回収し、500×g、5分間遠心して上清を除去した後、7.14×10cells/mLとなるようにX−VIVO15CMを加えて懸濁した。実施例5−(3)−1で作製したプレローディングプレートから、ウイルス洗浄区については上清を除去した後、上記細胞懸濁液を1ウェルあたり0.7mLずつ添加後、さらに1ウェルあたり0.3mLのX−VIVO15CMを添加した(最終密度5×10/ウェル)。ウイルス非洗浄区については、各ウイルス液の入ったウェルに上記細胞懸濁液を1ウェルあたり0.7mLずつ添加した(最終密度5×10/ウェル)。これらのプレートを、37℃、5%COインキュベータ内でインキュベートして細胞へのレトロウイルス感染を行った(感染1回目)。
【0078】
さらに培養4日目に細胞を遠心管に回収し、500×g、5分間遠心して上清を除去した後、各細胞を0.7mLのX−VIVO15CMに懸濁し、培養3日目と同様にレトロウイルス感染を行った(感染2回目)。
【0079】
(3)−4 拡大培養
培養5日目にHuman AB Serum(ロンザ社製)を終濃度5%となるように添加したX−VIVO15CMを加えて、5倍希釈培養を培養7日目まで行った。さらに培養7日目にHuman AB Serum(ロンザ社製)を終濃度5%となるように添加したX−VIVO15CMを加えて、4倍希釈培養を培養10日目まで行った。なお、非感染区では、プレローディングプレートの代わりにCH−296コートプレートを用いる以外は上記の実施例5−(3)−2〜実施例5−(3)−4と同様の操作を行った。各試験区の拡大培養率を表6に示す。
【0080】
【表6】
【0081】
以上より、酪酸ナトリウム添加ウイルス液を用いた場合、ウイルス液の洗浄を行わないと細胞増殖が阻害されることが示された。一方、酪酸ナトリウム無添加ウイルス液を用いた場合は、ウイルス液の洗浄を行わなくとも非感染区と比較して同等の拡大培養率が示された。
【0082】
(4)遺伝子導入効率の解析
実施例5−(3)で得られた培養10日目の細胞を0.1%BSA/PBSで洗浄した。次に、0.1%BSA/PBSに細胞を懸濁し、ここに抗体反応液として、FITC標識マウス抗ヒトCD8抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)、PerCP標識マウス抗ヒトCD3抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)、APC標識マウス抗ヒトLNGFR抗体(Miltenyi Biotec社製)、及びAPC‐Cy7標識マウス抗ヒトCD4抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)を含む抗体液を添加し、抗体反応を行った。その後、0.1%BSA/PBSで細胞を2回洗浄し、再度0.1%BSA/PBSに懸濁した。この細胞をフローサイトメトリーに供し、遺伝子導入効率として、各々の細胞集団のCD3陽性CD4陽性細胞中のLNGFR陽性率を算出した。その結果を表7に示す。
【0083】
【表7】
【0084】
その結果、酪酸ナトリウム添加ウイルス液を用いてウイルスプレローディングを行い、ウイルス液の洗浄を行った区が最も遺伝子導入効率が高いことが示された。また酪酸ナトリウム無添加ウイルスを用いた場合は、酪酸ナトリウム添加ウイルスを用いた場合よりは劣るものの、同等レベルの遺伝子導入を実施できることが示された。
【0085】
実施例6 細胞培養用バッグを用いた閉鎖系プレローディング法によるSupT1細胞への遺伝子導入
(1)MazF遺伝子搭載レトロウイルスベクターの調製
MazF遺伝子搭載レトロウイルスベクターの調製は国際公開第2008/133137号パンフレットの実施例1および2と同様の方法で行った。すなわち、HIV LTR−MazFカセットがレトロウイルスベクターゲノムの転写とは逆方向に挿入された組換えレトロウイルスベクタープラスミドpMT−MFR3を取得し、当該プラスミドを用いてエコトロピックMT−MFR3ウイルスを作製した後、これをGaLVレトロウイルスパッケージング細胞PG13に感染させ、高力価のウイルス産生細胞をクローニングしてレトロウイルスベクター産生細胞株PG13/MT−MFR3を樹立した。さらに、5mM 酪酸ナトリウムを含有するGT−T−RetroI培地(タカラバイオ株式会社製)にて上記のレトロウイルス産生細胞を32℃で24時間培養して得られた培養上清を採取し、GaLV/MT−MFR3ウイルス液を取得した。なお、取得したウイルス液のRNAタイターは1.4×1010コピー/mLであった。
【0086】
(2)SupT1細胞へのMazF遺伝子導入
OriGen社のガス透過性培養バッグPermaLife PL30に、1バッグあたり9mLの20μg/mLのCH−296を添加して4℃で一晩放置した後、15mLのPBSで2回洗浄した。このバッグをCH−296コートバッグとし、以下の実験に使用した。
【0087】
実施例6−(1)で調製したMT−MFR3レトロウイルス液をGT−T−RetroI培地にて2倍に希釈した。プレローディング条件は、CH−296コートバッグに希釈後のウイルス液を25mL注入した後に振とうを16時間、または24時間行ったもの、CH−296コートバッグに25mLのウイルスベクターと10mLの無菌の空気を注入した後に振とうを16時間行ったもの、の3種類について検討した。振とうは、傾斜0度、振とう幅2.5cmの横揺れ振とう機(MMS−3010:東京理化器械社製)を用いて、100rpmの振とう速度で行った。インキュベーションの終了後ウイルス液を除去し、1.5%HSAを含むPBSを1バッグあたり15mL使用してバッグを洗浄した。次に10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて5×10cells/mLとなるように調製したSupT1細胞懸濁液を、前述のウイルスをプレロードしたバッグに25mLずつ注入し、37℃、5%COインキュベータ内で24時間培養した。次に、各試験区の細胞を懸濁し、10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて5倍希釈した後、さらに2日間培養した。
【0088】
(3)遺伝子導入効率の解析
実施例6−(2)で得られた細胞1×10個相当より、FastPure(登録商標) DNA Kit(タカラバイオ社製)を用いてゲノムDNAを抽出し、Provirus Copy Number Detection Primer Set, Human (for Real Time PCR)(タカラバイオ社製)を用いて導入コピー数の測定を行った。結果を下記表8に示す。
【0089】
【表8】
【0090】
PermaLife PL30の素材は他のバッグに比べて硬質である。当該バッグにウイルス液のみ注入して密封した場合の振とう時の内容液の動きは小さいが、ウイルス液と空気をバッグ内に注入した場合には内容液の動きが大きくなった。また、表8に示されるように、密封された細胞培養用バッグにウイルス液と共に空気を注入することにより、プレローディングの効率が向上することが示された。
【0091】
実施例7 インキュベーション時間の検討(プレート感染)
(1)SupT1細胞へのMazF遺伝子導入
実施例6−(1)と同様の方法で調製したMT−MFR3レトロウイルス液をGT−T−RetroI培地にて2倍希釈し、CH−296コートプレートに1ウェルあたり1mLずつ添加した。プレローディング条件は、CH−296コートプレートに希釈後のウイルス液を1mL注入した後に振とうを12、16、24、48または72時間行ったものについて検討した。振とうは、傾斜0度、振とう幅2.5cmの横揺れ振とう機(MMS−3010:東京理化器械社製)を用いて、100rpmの振とう速度で行った。インキュベーションの終了後ウイルス液を除去し、1.5%HSAを含むPBSを1ウェルあたり0.5mL添加して洗浄した。次に10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて5×10cells/mLとなるように調製したSupT1細胞懸濁液を、前述のウイルスをプレロードしたプレートに1mLずつ注入し、37℃、5%COインキュベータ内で24時間培養した。次に、各試験区の細胞を懸濁し、10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて5倍希釈した後、さらに2日間培養した。
【0092】
(2)遺伝子導入効率の解析
実施例7−(1)で得られた細胞1×10個相当より、実施例6−(3)と同様の方法で導入コピー数の測定を行った。結果を下記表9に示す。
【0093】
【表9】
【0094】
その結果、MT−MFR3レトロウイルスベクターによる遺伝子導入効率はインキュベーション時間が16時間の時が最も高く、インキュベーション時間が12〜48時間までは1コピー/細胞以上の導入効率が実現できた。
【0095】
実施例8 インキュベーション時間の検討(スモールスケールバッグ感染)
(1)SupT1細胞へのMazF遺伝子導入
実施例6−(1)と同様の方法で調製したMT−MFR3レトロウイルス液をGT−T−RetroI培地にて4倍希釈し、OriGen社のガス透過性培養バッグPermaLife PL30を用いて実施例6−(2)と同様に調製したCH−296コートバッグに25mLずつ注入し、さらにバッグ中に10mLの無菌の空気を注入してインキュベーションを行った。また、コントロールとしてCH−296コートプレートに上記の4倍希釈したレトロウイルス液を1ウェルあたり1mLずつ添加してインキュベーションを行った。プレローディング条件は、PL30については振とうを12、16もしくは24時間、プレートについては16時間のみ行ったものについて検討した。振とうは、傾斜0度、振とう幅2.5cmの横揺れ振とう機を用い、100rpmの振とう速度で行った。インキュベーションの終了後ウイルス液を除去し、1.5%HSAを含むPBSをバッグあたり15mL、プレートについては1ウェルあたり0.5mL注入して洗浄した。次に10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて4×10cells/mLとなるように調製したSupT1細胞懸濁液を、前述のウイルスをプレロードしたバッグに25mLずつ、プレートについては1ウェルあたり1mLずつ注入し、37℃、5%COインキュベータ内で8時間培養した(総細胞数1×10細胞/PL30バッグ)。次に、各試験区の細胞を懸濁し、10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて4倍希釈した後、さらに3日間培養した。
【0096】
(2)遺伝子導入効率の解析
実施例8−(1)で得られた細胞1×10個相当より、実施例6−(3)と同様の方法で導入コピー数の測定を行った。結果を下記表10に示す。
【0097】
【表10】
【0098】
その結果、PL30バッグを用いた場合でも、いずれの試験区も十分な遺伝子導入効率が示され、さらにインキュベーション時間が24時間の時はプレートよりも高い遺伝子導入効率が示された。
【0099】
実施例9 ラージスケールバッグ感染の検討
(1)ラージスケールバッグでの溶液可動性試験
OriGen社のガス透過性培養バッグPermaLife PL325(培養面積362.6cm)に180mLの10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を注入し、傾斜0度、50rpmの空気を入れない横揺れ振とう、傾斜4度、35rpmの空気を入れないシーソー型振とうを行った。その結果、PL325を用いた場合は、バッグ中に空気を入れなくてもバッグ端部まで十分な可動性が得られていることを確認した。
【0100】
(2)SupT1細胞へのMazF遺伝子導入
PL325に、1バッグあたり65mLの20μg/mLのCH−296を添加して4℃で一晩放置した後、108mLのPBSで2回洗浄した。このバッグをCH−296コートバッグとし、以下の実験に使用した。
【0101】
実施例6−(1)で調製したMT−MFR3レトロウイルス液をGT−T−RetroI培地にて4倍希釈してウイルス希釈液を調製し、CH−296コートバッグに180mLずつ、CH−296コートプレートに1ウェルあたり1mLずつ添加した。プレローディング条件は、PL325バッグについては、傾斜0度、50rpmの空気を入れない横揺れ振とう、傾斜4度、35rpmの空気を入れないシーソー型振とうの2条件を実施した。プレートについては、傾斜0度、100rpmの横揺れ振とうを行った。インキュベーション時間は、いずれも16時間行った。インキュベーションの終了後ウイルス液を除去し、1.5%HSAを含むPBSをバッグあたり108mL、プレート1ウェルあたり0.5mL添加して洗浄した。次に10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて4×10cells/mLとなるように調製したSupT1細胞懸濁液を、前述のウイルスをプレロードしたバッグに180mLずつ、プレートに1mLずつ注入し、37℃、5%COインキュベータ内で8時間培養した(総細胞数7.2×10細胞/バッグ)。
【0102】
8時間後、プレート試験区については、表面未処理24ウェルプレートにて細胞を10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて4倍希釈してさらに3日間培養を行った。PL325バッグ試験区については、1.5mLをサンプリングし、表面未処理24ウェルプレートにてプレート試験区と同様に4倍希釈してさらに3日間培養を行った。サンプリング後のバッグは、上下を反転させて5%COインキュベータ内でさらに3日間培養することで、感染から8時間目までとは異なるバッグ面での感染を行った。
【0103】
(2)遺伝子導入効率の解析
実施例9−(1)で得られた細胞1×10個相当より、実施例6−(3)と同様の方法で導入コピー数の測定を行った。結果を下記表11に示す。
【0104】
【表11】
【0105】
その結果、PL325のラージスケールバッグを用いた場合でも、横揺れやシーソー型の振とうを伴うプレローディングにより、遺伝子導入効率は24ウェルプレートと同程度の十分な遺伝子導入効率が示され、さらに感染途中でバッグを反転させることでプレートよりも高い遺伝子導入効率が示された。これにより、本発明の遺伝子導入方法は、ラージスケールバッグを用いた大量の細胞への遺伝子導入に極めて適していることが示された。
【0106】
実施例10 ウイルス液再利用試験
(1)ウイルス液のプレローディング1(使用済ウイルス液の回収)
PL325バッグに、1バッグあたり65mLの20μg/mLのCH−296を添加して4℃で一晩放置した後、100mLのACD−Aで2回洗浄した。このバッグをCH−296コートバッグとした。
【0107】
実施例6−(1)と同様の方法で調製したMT−MFR3レトロウイルス液原液を、CH−296コートバッグに180mL添加した。プレローディング条件は、傾斜0度、50rpmの空気を入れない横揺れ振とうを実施した。インキュベーション温度は4℃、インキュベーション時間は16時間とした。インキュベーションの終了後ウイルス液を回収し、使用済ウイルス液とした。
【0108】
(2)ウイルス液のプレローディング2
使用済ウイルス液を用いた場合の感染効率を調べるため、実施例1−(2)と同様の方法で得られたCH296コートプレートにウイルス液を1ウェルあたり1mLずつ添加した。ウイルス液は、実施例10−(1)で使用したウイルス液原液と同ロットのウイルス液原液(New Virus)、使用済ウイルス液(Used Virus)、New VirusをGT−T−RetroIで2倍希釈したもの(New Virus+GT−T−RetroI)およびNew VirusをUsed Virusで希釈したもの(New Virus+Reuse Virus)の計4種類を用いた。その後、傾斜0度、振とう幅2.5cmの横揺れ振とう機(MMS−3010:東京理化器械社製)を用いて、100rpmの振とう速度で4℃にて16.5時間の振とうを行った。インキュベーション終了後、ウイルス液を除去し、1.5%HSAを含む生理食塩水を1ウェルあたり0.5mL添加して洗浄した。
【0109】
(3)細胞への遺伝子導入
10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて5×10cells/mLとなるように調製したSupT1細胞懸濁液を、前述のウイルスをプレロードしたプレートに1mLずつ注入し、37℃、5%COインキュベータ内で24時間培養した。次に、各試験区の細胞を懸濁し、10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて5倍希釈した後、さらに2日間培養した。
【0110】
(4)遺伝子導入効率の解析
実施例10−(1)で得られた細胞1×10個相当より、実施例6−(3)と同様の方法で導入コピー数の測定を行った。結果を下記表10に示す。
【0111】
【表12】
【0112】
その結果、4℃条件下で16.5時間のプレローディングを行った後の使用済ウイルス液は、未使用のウイルス液の2倍希釈と同等の力価を有していることが示された。本実施例により、本発明の遺伝子導入方法における低温でのウイルスプレロードで使用したウイルス液は、再利用に適していることが明らかになった。
【0113】
実施例11 インキュベーション時間の検討1(ラージスケールバッグ感染)
(1)SupT1細胞へのMazF遺伝子導入
実施例6−(1)と同様の方法で調製したMT−MFR3レトロウイルス液をGT−T−RetroI培地にて4倍希釈してウイルス希釈液を調製し、OriGen社のガス透過性培養バッグPermaLife PL325を用いて実施例9−(2)と同様の方法で調製したCH−296コートバッグに180mLずつ、CH−296コートプレートに1ウェルあたり0.5mLずつ添加した。プレローディング条件は、PL325バッグについては、傾斜0度、50rpmの空気を入れない横揺れ振とうを実施した。プレートについては、傾斜0度、100rpmの横揺れ振とうを行った。インキュベーション時間は、PL325については16、24もしくは48時間とし、プレートについては16時間とした。インキュベーションの終了後ウイルス液を除去し、1.5%HSAを含むPBSをバッグあたり108mL、プレート1ウェルあたり0.5mL添加して洗浄した。次に10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて5×10cells/mLとなるように調製したSupT1細胞懸濁液を、前述のウイルスをプレロードしたバッグに180mLずつ、プレートに1mLずつ注入し、37℃、5%COインキュベータ内で培養した(総細胞数7.2×10細胞/バッグ)。8時間後、バッグ試験区についてはバッグを反転させて、引き続き37℃、5%COインキュベータ内で培養した。
【0114】
翌日、プレート試験区については、表面未処理24ウェルプレートにて細胞を10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて5倍希釈してさらに2日間培養を行った。PL325バッグ試験区については、1.5mLをサンプリングし、表面未処理24ウェルプレートにてプレート試験区と同様に5倍希釈してさらに2日間培養を行った。
【0115】
(2)遺伝子導入効率の解析
実施例11−(1)で得られた細胞1×10個相当より、実施例6−(3)と同様の方法で導入コピー数の測定を行った。結果を下記表13に示す。
【0116】
【表13】
【0117】
その結果、PL325のラージスケールバッグを用いた場合、いずれの試験区においてもプレートと比較してより高い遺伝子導入効率が示され、さらにインキュベーション時間は今回の試験区では16時間が最も効果的であった。
【0118】
実施例12 インキュベーション時間の検討2(ラージスケールバッグ感染)
(1)SupT1細胞へのMazF遺伝子導入
実施例6−(1)と同様の方法で調製したMT−MFR3レトロウイルス液をGT−T−RetroI培地にて4倍希釈してウイルス希釈液を調製し、OriGen社のガス透過性培養バッグPermaLife PL325を用いて実施例9−(2)と同様の方法で調製したCH−296コートバッグに180mLずつ、CH−296コートプレートに1ウェルあたり0.5mLずつ添加した。プレローディング条件は、PL325バッグについては、傾斜0度、50rpmの空気を入れない横揺れ振とうを実施した。プレートについては、傾斜0度、100rpmの横揺れ振とうを行った。インキュベーション時間は、PL325については8、12、16もしくは20時間とし、プレートについては16時間とした。インキュベーションの終了後ウイルス液を除去し、1.5%HSAを含むPBSをバッグあたり108mL、プレート1ウェルあたり0.5mL添加して洗浄した。次に10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて5×10cells/mLとなるように調製したSupT1細胞懸濁液を、前述のウイルスをプレロードしたバッグに180mLずつ、プレートに1mLずつ注入し、37℃、5%COインキュベータ内で培養した(総細胞数7.2×10細胞/バッグ)。2時間後、バッグ試験区についてはバッグを反転させて、引き続き37℃、5%COインキュベータ内で培養した。
【0119】
翌日、プレート試験区については、表面未処理24ウェルプレートにて細胞を10%FBS、1%Penicillin−Streptmycinを含むRPMI1640培地を用いて5倍希釈してさらに3日間培養を行った。PL325バッグ試験区については、1.5mLをサンプリングし、表面未処理24ウェルプレートにてプレート試験区と同様に5倍希釈してさらに3日間培養を行った。
【0120】
(2)遺伝子導入効率の解析
実施例12−(1)で得られた細胞1×10個相当より、実施例6−(3)と同様の方法で導入コピー数の測定を行った。結果を下記表14に示す。
【0121】
【表14】
【0122】
その結果、PL325のラージスケールバッグを用いた場合、いずれの試験区においてもプレートと比較してより高い遺伝子導入効率が示され、さらにインキュベーション時間は今回の試験区では12時間と16時間が効果的であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明により、簡便でかつ高効率な遺伝子導入方法が提供される。本発明は、特に医学、細胞工学、遺伝子工学、及び発生工学等の分野において有用である。