【実施例】
【0029】
次に実施例及び参考例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。なお、以下の実施例等において、大豆タンパク分解溶液及び発泡性発酵飲料の物理化学分析は、ASBC(American Society of Brewing Chemists)及びEBC(European Brewery Convention)の両組織に採用されており、ビール分析の国際基準とされている分析法に準じて行った(ビール酒造組合著、「BCOJビール分析法」1996年)。
【0030】
[実施例1]
本発明の発泡性発酵飲料の製造方法により、麦芽を原料とした発泡性発酵飲料を製造した。
まず、精製大豆タンパク0.7kgに、水を25Lと、Bacillus属由来の中性プロテアーゼを大豆タンパク重量に対して1.5%重量とを添加した。攪拌しながら50℃で2時間酵素反応を行い、大豆タンパク分解物溶液を得た。
また、対照として、中性プロテアーゼに変えてアルカリプロテアーゼを用いたこと、及びアルカリプロテアーゼ添加前に水酸化カリウムにて精製大豆タンパク水溶液のpHを9.0に調製したこと以外は同様にして、大豆タンパク分解物溶液を得た。
これらの大豆タンパク分解物溶液の全窒素量及びフェニルアラニン含量を測定し、全窒素量に対するフェニルアラニン含量の割合を算出した。結果を表1に示す。中性プロテアーゼにより得られた大豆タンパク分解物溶液(試験)は、とアルカリプロテアーゼにより得られた大豆タンパク分解物溶液(対照)と比べて、全窒素量は若干少ないだけであるが、フェニルアラニン含量が顕著に少なく、全窒素量に対するフェニルアラニン含量の割合も非常に低かった。
【0031】
【表1】
【0032】
次いで、大豆タンパク分解物溶液(試験)又は大豆タンパク分解物溶液(対照)を用いて、発泡性発酵飲料を製造した。具体的には、粉砕麦芽5kg及び温水80Lを用いて調製した麦汁に、 液糖40kg、酵母エキス0.5kg、ホップ0.02kg、及び上述にて調製したいずれかの大豆タンパク分解物溶液を全量混合し、さらに温水を約85L加えることにより、約200Lの発酵原料液を調製した。当該発酵原料液を100℃で90分間煮沸した後、ワールプールでホップ粕を除去した。除去後の発酵原料液約180Lに温水20Lを加えて糖度12.0%に調製した後、プレートクーラーにより5℃まで冷却した。得られた冷却された発酵原料液約170Lを発酵タンクに移し、液汁1mLあたり25×10
6個の泥状酵母を接種し、10℃で168時間発酵を行った。得られた発酵液を、−1℃で7日間熟成(後発酵)させた。得られた発酵液を、キャンドルフィルターを用いて珪藻土濾過を行い、酵母及びタンパク等を除去し、目的の発泡性発酵飲料を得た。
【0033】
得られた2種類の発泡性発酵飲料のβフェネチルアルコール量及びNIBEM値を測定した。なお、NIBEM値は、注がれた泡の崩壊速度を電気伝導度で測定したものであり、ビール等の泡持ち評価に一般的に用いられているものである。さらに、これらの発泡性発酵飲料の官能検査も行った。官能検査は、やはりビール官能評価の国際基準であるASBC及びEBCの両組織に採用されている官能評価法に準じて行った(ビール酒造組合著、「BCOJ官能評価法」2002年)。具体的には、ビール醸造技術者10名のパネリストで行い、味感、ビールらしい香味(ビールテイスト)や泡の質感について5段階で評価した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
この結果、大豆タンパク分解物溶液(試験)を添加した発泡性発酵飲料(試験)は、大豆タンパク分解物溶液(対照)を添加した発泡性発酵飲料(対照)と比べて、βフェネチルアルコール量が少なく、かつ、エステルや日本酒的な香味が少なく、ビールらしい香味に優れていた。さらに、NIBEM値が、発泡性発酵飲料(対照)が136であったのに対して、発泡性発酵飲料(試験)では203であり、中性プロテアーゼにより分解された大豆タンパク分解物を用いることにより、発泡性発酵飲料の泡持ちが顕著に改善されることが確認された。
【0036】
[参考例]
実施例1で用いた大豆タンパク分解物溶液(試験)及び大豆タンパク分解物溶液(対照)中の大豆タンパク分解物の重量平均分子量を測定した。
まず、50mMリン酸緩衝液(1%(重量/体積)SDS、1.17%(重量/体積)NaCl、pH7.0 )を用いて希釈調整した大豆タンパク分解物溶液を、10分間超音波処理を行った後、0.2μmフィルターを用いて濾過した。得られた濾液を、Shodex(登録商標) PROTEIN KW−802.5カラム(80x300mm、昭和電工社製)に流速0.4mL/分で通し、上記リン酸緩衝液を用いて大豆タンパク分解物を溶出した。大豆タンパク分解物の検出は220nmの吸光度を測定して行った。これにより、各画分に分離精製されたタンパク分解物の重量平均分子量を、GPCソフトウェア(日立社製)を使用して得られたチャートから算出した。分子量マーカーは、75,000(Conalbmin、GEヘルスケア社製)、43,000(Ovalbumin、GEヘルスケア社製)、29,000(Carbonic anhydrase、GEヘルスケア社製)、13,700(Ribonuclease A、GEヘルスケア社製)、5,733(Insulin、SIGMA社製)、1,672(Neurotensin、SIGMA社製)、475(Leupeptin hemisulfate salt、SIGMA社製)を用いた。
【0037】
図1は、各大豆タンパク分解物について得られたチャートである。この結果、アルカリプロテアーゼで分解した大豆タンパク分解物(対照)とは異なり、中性プロテアーゼで分解した大豆タンパク分解物(試験)では、溶出時間20分付近にピークがあった。また、それぞれの重量平均分子量を調べたところ、大豆タンパク分解物(対照)は5700であり、大豆タンパク分解物(試験)は9100であった。
【0038】
[実施例2]
各種プロテアーゼを用いて分解した大豆タンパク分解物を用いて、麦芽を原料としない発泡性発酵飲料を製造した。中性プロテアーゼとしてニュートラーゼ(ノボザイムス社製)及びアルファラーゼ(ダニスコ社製)を、アルカリプロテアーゼとしてエスペラーゼ(ノボザイムス社製)及びアルカラーゼ(ノボザイムス社製)を用いた。これらの酵素は、いずれもBacillus属由来の酵素である。
【0039】
まず、精製大豆タンパク6gに、水を200mLと、表3に記載のプロテアーゼとを添加した。試験区5及び6については、酵素添加前に水酸化ナトリウムを用いてpHをそれぞれ、11.0、9.0に調整した。攪拌しながら50℃で2時間酵素反応を行った後、20分間煮沸して大豆タンパク分解物溶液を得た。なお、表3中、「プロテアーゼの添加量(重量%)」は、大豆タンパク重量に対する割合(%重量)を意味する。
これらの大豆タンパク分解物溶液の全窒素量及びフェニルアラニン含量を測定し、全窒素量に対するフェニルアラニン含量の割合を算出した。算出結果を表3に示す。この結果、大豆タンパク分解物溶液の全窒素量は、アルカリプロテアーゼを用いた場合のほうが、若干多いものの、大きな違いはなかった。しかしながら、中性プロテアーゼであるニュートラーゼやアルファラーゼを用いた場合の大豆タンパク分解物溶液のフェニルアラニン含量は、いずれも、アルカリプロテアーゼであるエスペラーゼやアルカラーゼを用いた場合よりも顕著に少なかった。
【0040】
次いで、液糖400g、酵母エキス5g、及び上述にて調製した各大豆タンパク分解物溶液を全量混合し、温水を約1400mL加えることにより、約2000mLの発酵原料液を調製した。当該発酵原料液を100℃で90分間煮沸した後、5℃まで冷却した。当該冷却済発酵原料液を2Lの発酵容器に移し、液汁1mLあたり25×10
6個の泥状酵母を接種し、12℃で150時間発酵を行った。得られた各発泡性発酵飲料の官能検査を行った。官能検査の結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
この結果、中性プロテアーゼを用いて調製された大豆タンパク分解物を用いた試験区1〜4は、アルカリプロテアーゼを用いた試験区5や6に比べて、エステルや日本酒的な香気が少なく、ビールらしい香味に優れていた。これらの結果から、用いた大豆タンパク分解物中の、全窒素量に対するフェニルアラニン含量の割合が大きくなるにつれて、エステルや日本酒的な香気が強くなり、かつ官能評点も低下することがわかった。加えて、特に試験区1〜3が非常に高い官能評価が得られたことから、全窒素量に対するフェニルアラニン含量が1%以下であることにより、非常に良好なビール様の発泡性発酵飲料が得られることが分かった。
【0043】
[実施例3]
本発明の発泡性発酵飲料の製造方法により、麦芽を原料とした発泡性発酵飲料を製造した。
まず、脱脂大豆3.0kgに、水を25Lと、Bacillus属由来の中性プロテアーゼを脱脂大豆重量に対して1.5%重量添加した。攪拌しながら50℃で2時間酵素反応を行い、大豆タンパク分解物溶液を得た。
これらの大豆タンパク分解物溶液の全窒素量及びフェニルアラニン含量を測定し、全窒素量に対するフェニルアラニン含量の割合を算出した。結果を表4に示す。中性プロテアーゼにより得られた大豆タンパク分解物溶液(試験)は、全窒素量に対するフェニルアラニン含量の割合が非常に低かった。
【0044】
【表4】
【0045】
次いで、得られた大豆タンパク分解物溶液を用いて、発泡性発酵飲料を製造した。具体的には、粉砕麦芽5kg及び温水80Lを用いて調製した麦汁に、 液糖40kg、酵母エキス0.5kg、ホップ0.02kg、及び上述にて調製した大豆タンパク分解物溶液を全量混合し、さらに温水を約85L加えることにより、約200Lの発酵原料液を調製した。当該発酵原料液を100℃で90分間煮沸した後、ワールプールでホップ粕を除去した。除去後の発酵原料液約180Lに温水20Lを加えて糖度12.0%に調製した後、プレートクーラーにより5℃まで冷却した。得られた冷却された発酵原料液約170Lを発酵タンクに移し、液汁1mLあたり25×10
6個の泥状酵母を接種し、10℃で168時間発酵を行った。得られた発酵液を、−1℃で7日間熟成(後発酵)させた。得られた発酵液を、キャンドルフィルターを用いて珪藻土濾過を行い、酵母及びタンパク等を除去し、目的の発泡性発酵飲料を得た。
【0046】
実施例1と同様にして、得られた発泡性発酵飲料のβフェネチルアルコール量及びNIBEM値を測定し、さらに官能検査も行った。結果を表5に示す。
この結果、大豆タンパク分解物溶液を添加した発泡性発酵飲料は、βフェネチルアルコール量が少なく、かつ、エステルや日本酒的な香味が少なく、ビールらしい香味に優れていた。さらに、NIBEM値が191であり、中性プロテアーゼにより分解された大豆タンパク分解物を用いることにより、発泡性発酵飲料の泡持ちが顕著に改善されることが確認された。
【0047】
【表5】
【0048】
[実施例4]
濃縮大豆タンパク1.3kgに水を25L及びBacillus属由来の中性プロテアーゼを濃縮大豆タンパク重に対して1.5%重量添加した。攪拌しながら50℃で2時間酵素反応を行い、大豆タンパク分解溶液を得た。
これらの大豆タンパク分解物溶液の全窒素及びフェニルアラニン含量を測定し、全窒素量に対するフェニルアラニン含量の割合を算出した。結果を表6に示す。中性プロテアーゼにより得られた大豆タンパク分解溶液(試験)は、全窒素量に対するフェニルアラニン含量の割合が非常に低かった。
【0049】
【表6】
【0050】
次いで、得られた大豆タンパク分解物溶液を用いて、発泡性発酵飲料を製造した。具体的には、粉砕麦芽5kg及び温水80Lを用いて調製した麦汁に、 液糖40kg、酵母エキス0.5kg、ホップ0.02kg及び上述にて調製した大豆タンパク分解溶液を全量混合し、温水を約85L加えることにより約200Lの発酵原料液を調製した。当該発酵原料液を100℃で90分間煮沸した後、ワールプールでホップ粕を除去した。除去後の発酵原料液約180L に温水20L を加え、糖度12.0%に調製した後、プレートクーラーにより5℃まで冷却した。得られた冷却された発酵原料液約170Lを発酵タンクに移し、液汁1mlあたり25×10
6個の泥状酵母を接種し、10℃で168時間発酵を行った。得られた発酵液を、−1℃で7日間熟成(後発酵)させた。得られた発酵液をキャンドルフィルターを用いて珪藻土濾過を行い、酵母及びタンパク等を除去し、目的の発泡性発酵飲料を得た。
【0051】
実施例1と同様にして得られた発泡性飲料のβフェネチルアルコール量及びNIBEM値を測定し、さらに官能検査を行った。結果を表7に示す。
この結果、大豆タンパク分解物溶液を添加した発泡性発酵飲料は、βフェネチルアルコール量が少なく、かつ、エステルや日本酒的な香味が少なく、ビールらしい香味に優れていた。さらにNIBEM値が205であり、中性プロテアーゼにより分解された大豆タンパク分解物を用いることにより、発泡性発酵飲料の泡持ちが顕著に改善されることが確認された。
【0052】
【表7】