(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法であって、該鋼のインゴットのエレクトロスラグ再溶融の工程、次いで該インゴットを冷却する工程、次いで該インゴットをそのオーステナイト温度を上回って加熱することとこれに続く冷却工程からなる少なくとも1回のオーステナイト熱サイクルを含み、該冷却工程の各々の間に:
該冷却工程の後にオーステナイト熱サイクルが続かない場合、該インゴットをフェライト・パーライト変態ノーズに含まれる保持温度で、該インゴットにおいてその保持温度でオーステナイトをフェライト・パーライト構造に完全に変態するのに必要な期間よりも長い保持時間保持し、該インゴットはインゴットの最冷点の温度がその保持温度に到達するとすぐに該保持温度で保持され;
冷却工程の後にオーステナイト熱サイクルが続く場合、その最低温度がマルテンサイト変態開始温度Msを下回る前に、該インゴットを該2つのオーステナイト熱サイクルの間の期間を通して加熱時のオーステナイト変態完了温度Ac3を上回る温度で保持し、または上述のフェライト・パーライト変態ノーズに含まれる保持温度で保持する
ことを特徴とする方法。
マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法であって、該鋼のインゴットのエレクトロスラグ再溶融の工程、次いで該インゴットを冷却する工程を含み、該冷却工程の間に、該インゴットをフェライト・パーライト変態ノーズに含まれる保持温度で、該インゴットにおいて該保持温度でオーステナイトをフェライト・パーライト構造に完全に変態するのに必要な期間よりも長い保持時間保持し、該インゴットはインゴットの最冷点の温度がその保持温度に到達するとすぐに該保持温度で保持され、該エレクトロスラグ再溶融工程の後にオーステナイト熱サイクルがインゴットに施されないことを特徴とする、方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ESR過程の間、スラグによって濾過されている鋼は冷却され、徐々に固化してインゴットを形成する。この固化は冷却の間に生じ、
図3に示されるデンドライト10の成長を含む。マルテンサイト系ステンレス鋼の相図と一致して、最初の固化粒子に対応するデンドライト10は定義によるとアルファ生成元素に富み、その一方でデンドライト間領域20はガンマ生成元素に富む(相図への公知のてこの原理の適用)。アルファ生成元素はフェライト型構造(低温でより安定である構造:ベイナイト、フェライト・パーライト、マルテンサイト)に有利に働く元素である。ガンマ生成元素はオーステナイト構造(高温で安定である構造)に有利に働く元素である。従って、デンドライト10とデンドライト間領域20の間には偏析が生じる。
【0018】
化学組成物中のこの局所的偏析は製造の間を通して、次の熱形成操作の間でも保持される。従って、この偏析は固化されたままのインゴットおよび続いて変形されたインゴットの両者に見出される。
【0019】
本発明者らは、これらの結果がESRるつぼから直接得られ、または熱変形の後にインゴットから得られる、インゴットの直径に依存することを示すことができた。この観察は、冷却速度が直径の増大に伴って減少するという事実によって説明することができる。
図5および6は生じ得る異なる状況を示す。
【0020】
図5は、アルファ生成元素に富み、およびガンマ生成元素に乏しい領域、例えば、デンドライト10の公知温度(T)−時間(t)図である。曲線DおよびFはオーステナイト(領域A)からフェライト・パーライト構造(領域FP)への変態の開始および終止に印を付ける。この変態は、インゴットが従う冷却曲線が曲線DおよびFの間の領域または、その上、領域FPにそれぞれ移行するとき、部分的に、または完全に生じる。これは冷却曲線が完全に領域A内に位置するときには生じない。
【0021】
図6は、ガンマ生成元素に富み、およびアルファ生成元素に乏しい領域、例えば、デンドライト間領域20の同等の図である。なお、
図5と比較して、曲線DおよびFが右に向かってずれている、即ち、フェライト・パーライト構造を得るためにはインゴットをよりゆっくりと冷却する必要がある。
【0022】
図5および6の各々はオーステナイト温度からの3つの冷却曲線を示し、これらは3つの冷却速度に対応する:急速(曲線C1)、中速(曲線C2)、緩速(曲線C3)。
【0023】
冷却の間、温度がオーステナイト温度から低下し始める。空気中では、対象としている直径について、インゴットの表面およびコアの冷却速度は非常に近い。コアの前に表面が冷却するために、表面温度がコアよりも低いという事実からのみ差が生じる。
【0024】
急速冷却(曲線C1)(
図5および6)よりも急速に冷却することでは、フェライト・パーライト変態は生じない。
【0025】
曲線C1による急速冷却では、変態は、単にデンドライトにおいて、部分的にのみである(
図5)。
【0026】
曲線C2による中速冷却では、変態は、デンドライト間空間20においては部分的にのみであり(
図6)、デンドライト10においては擬似的に完了する(
図5)。
【0027】
曲線C3による緩速冷却およびより遅い冷却では、変態はデンドライト間空間20およびデンドライト10の両者においてほぼ完了する。
【0028】
急速(C1)または中速(C2)冷却では、フェライト領域およびオーステナイト領域の間で、大なり小なりの程度、共存が生じる。
【0029】
ひとたび物質が固化すると、デンドライト10は、最初に、(
図5の曲線DおよびFを通過することにより)冷却の間にフェライト構造に変態する。しかしながら、デンドライト間領域20は(曲線C1による急速冷却の場合において)変態しないか、または次に(曲線C2による中速冷却または曲線C3による緩速冷却の場合において)より低い温度で、部分的または完全に、変態する(
図6を参照)。
【0030】
従って、デンドライト間領域20はオーステナイト構造を長期間保持する。
【0031】
該固体状態冷却の間、オーステナイトおよびフェライト型微細構造の共存を有する局所的構造不均一が存在する。これらの条件の下、フェライト構造よりもオーステナイト中に可溶である軽元素(H、N、O)はデンドライト間領域20に集中する傾向を有する。この集中はデンドライト間領域20中のより多量のガンマ生成元素によって高まる。300℃未満の温度では、軽元素は極度の低速でのみ拡散し、これらの領域内に捕捉されたままである。デンドライト間領域20のフェライト構造への完全または部分的変態の後、特定の集中条件下でこれらの気相の溶解度限界に到達し、これらの気相は気体(または高い鍛造性および非圧縮性をもたらす物理的状態にある物質)のポケットを形成する。
【0032】
冷却段階の間、ESRの最後でインゴット(または次に変形されるインゴット)の直径が大きいほど(または、より一般的には、インゴットの最大径が大きいほど)、またはインゴットの冷却速度が遅いほど、軽元素がフェライト構造を有するデンドライト10から完全もしくは部分的オーステナイト構造を有するデンドライト間領域20に向かって拡散する傾向が大きくなり、これらはフェライトおよびオーステナイト構造の共存期間の間に集中するようになる。デンドライト間領域においてこれらの軽元素の溶解度を局所的に超える危険性が高まる。軽元素の濃度がこの溶解度を超えるとき、該軽元素を含む顕微鏡的気体ポケットが鋼中に現れる。
【0033】
加えて、冷却が終了していく間、鋼の温度が周囲温度を僅かに上回るマルテンサイト変態温度Msを下回るとき、デンドライト間領域のオーステナイトがマルテンサイトに局所的に変態する傾向にある(
図5および6)。しかしながら、マルテンサイトは、他の冶金学的構造およびオーステナイトより低い、軽元素に対する溶解度閾値を有する。従って、このマルテンサイト変態の間、鋼中により多くの顕微鏡的気相が現れる。
【0034】
熱形成(例えば、鍛造)の間に鋼が受ける次の変形の間、これらの相は薄くなってシート形態となる。
【0035】
疲労負荷の下で、これらのシートは亀裂発生に必要なエネルギーを減少させることによって亀裂の早期発生の原因となる、応力集中部位として作用する。これは鋼の早期破壊を生じ、これが疲労挙動結果における低い値を生じる。
【0036】
これらの結論は、
図4の電子顕微鏡写真において示されるように、発明者の観察によって裏付けられている。
【0037】
このマルテンサイト系ステンレス鋼の破砕表面の写真で、そこから亀裂Fが広がる、実質的に球状の区域Pを認めることができる。この区域Pは、拡張および凝集によって顕微鏡的破砕区域を創出しているこれらの亀裂Fの形成の始点である、軽元素によって構成される気相の足跡である。
【0038】
本発明者らはマルテンサイト系ステンレス鋼に対する試験を行い、ESRるつぼから取り出した直後に加えて、ESR再溶融に続いて行われるオーステナイト品質温度でのオーステナイト熱サイクル(熱形成を含む可能性がある。)の各々の直後にインゴットを冷却する間に本発明の予備熱処理を行うとき、疲労結果が改善されることを見出している。このような予備熱処理を以下で説明するが、これは本発明の第1の実施形態に対応する。
【0039】
本発明の第1の実施形態によると、オーステナイト熱サイクルの最後に冷却しながら、またはESRるつぼから取り出した後で、インゴットの地肌の温度がマルテンサイト変態開始温度Msを下回る前に、インゴットを、冷却でのファライト・パーライト開始および完了温度Ar1およびAr3の間の範囲(「フェライト・パーライトノーズ」、曲線Fの右側の領域、
図5および6)にある、「保持」温度とされる温度の炉に、インゴットの最冷点の温度が保持時間に到達したらすぐに入れ、少なくとも保持時間
t保持する。この時間はこの保持温度でオーステナイトをフェライト・パーライト構造に可能な限り完全に変態するのに必要な期間よりも(例えば、少なくとも2倍)長い。
【0040】
これらの機序は
図5および6の図、特には、既に上で記載した冷却曲線C1、C2およびC3によって説明される。これらの冷却曲線は、様々な厚みの増加について、インゴット(表面およびコア)の平均温度変化を示す。この温度はオーステナイト温度から低下し始める。オーステナイト領域がマルテンサイトに変態する前、即ち、インゴット地肌の温度がMsを下回る前に、該インゴットを炉に入れて保持する。従って、冷却曲線は水平になる(
図5における曲線4、本発明の処理に対応する。)。
【0041】
フェライト・パーライト変態が完了する(曲線4が曲線Fの右側の領域FPに入る)とき、インゴットを周囲温度まで冷却する。
【0042】
ひとたび周囲温度になると、インゴットをあらゆる表面、例えば、地面上に置くことが可能となる。この方法での製造の間のあらゆる時間にインゴットを置くことができるという事実は、製造場所での柔軟性が大幅に増加し、これにより事業計画および経費が改善されることを意味する。
【0043】
オーステナイト温度から冷却する間、インゴットの温度はほとんどの時間で300℃を上回り、インゴット内での軽元素の拡散を促進する。インゴットの表面温度がインゴットのコア温度を上回るとすぐに、インゴット内で脱気が生じ、その気体状元素含有物を有利に減少させる。
【0044】
本発明者らは、オーステナイト熱サイクルに従う各冷却段階の間およびESRるつぼから取り出した後の冷却の間に、上記のようにインゴットに対して予備熱処理を行うとき、インゴット内での軽元素気相の形成が減少することを実験的に決定している。
【0045】
実際、インゴットのある領域と別の領域とで軽元素(H、N、O)の濃度の変動がもはや存在せず、従って、インゴットの所定の区域において該相の溶解度を超える危険性が少ない。結果として、これらの区域のいずれにおいても軽元素の優先的な集中は生じない。
【0046】
本発明の第1の実施形態による予備熱処理の後、インゴットに1以上のオーステナイトサイクルを施すことができる。
【0047】
本発明の第2の実施形態に相当する別の予備熱処理を以下に説明する。
【0048】
本発明の第2の実施形態によると、オーステナイト温度(加熱時のオーステナイト変態完了温度Ac3を上回る温度)からの冷却の間、その最低温度(通常、地肌温度)がマルテンサイト変態開始温度Msを下回る前に、Ac3温度よりも高い温度の炉にインゴットを入れる。これは、次のオーステナイト熱サイクルが、Ac3を上回る温度で、前のオーステナイトサイクルに続く冷却またはESR法に続く冷却の直後に計画されるときに行われる。このようにしてインゴットを、少なくともインゴットの最冷部分をAc3を上回るまで加熱するのに必要な時間該炉内に保持した後、直ちに次のオーステナイト熱サイクルをインゴットに施す。
図5における曲線5は本発明のこの処理に対応する。
【0049】
この次のオーステナイト熱サイクルの後、1以上の他のオーステナイト熱サイクルを実施する場合、2つの連続するオーステナイト熱サイクルの間で上述のインゴットの炉内での保持を行う。
【0050】
本発明者らは、2つのオーステナイト熱サイクルの間でのインゴットの最低温度がマルテンサイト変態開始温度Msを下回らないとき、インゴット内での軽元素気相の形成が減少することを実験的に決定している。
【0051】
実際、インゴット内のオーステナイト構造は常に均一であり、軽元素の濃度は均一である。結果として、インゴットの所定の区域において気相の溶解度を超える危険性は一定で低い。
【0052】
加えて、オーステナイト温度からの該冷却の間、インゴットの温度はほとんどの時間300℃を上回り、これがインゴット内で軽元素を拡散させる。インゴットの表面温度が再度インゴットコアの温度を超えるか、または等しくなるとき、インゴット内で脱気が生じ、内部の気体元素含有量が有利に減少する。
【0053】
加えて、オーステナイト温度での高濃度の区域から低濃度の区域に向かう合金化元素の拡散は、デンドライト10におけるアルファ生成元素への偏析の強度を減少させ、およびデンドライト間領域20におけるガンマ生成元素への偏析の強度を減少させる。これらのガンマ生成元素への偏析の強度の減少は、デンドライト10およびデンドライト間領域20の間の軽元素(H、N、O)の溶解度の差の減少を生じ、構造(オーステナイトおよびフェライト構造の共存の低下)および軽元素を含む化学組成の点でより良好な均一性が生じる。
【0054】
元素の「偏析の強度」という用語は、その濃度が最低である区域内のその元素の濃度と、該濃度が最大である区域内の該元素の濃度との偏りを意味する。
【0055】
最後のオーステナイト熱サイクルの後、本発明の第1の実施形態に従い、インゴットをフェライト・パーライト変態ノーズ内に擬似的に完全なフェライト・パーライト変態を得るのに十分な期間保持し、これはインゴットを周囲温度で置くことができることを意味する。
【0056】
一例として、試験において本発明者らが用いたZ12CNDV12マルテンサイト系ステンレス鋼(AFNOR標準)では、フェライト・パーライト変態ノーズは550℃から770℃の温度Tバンド内にある。650℃から750℃の範囲内の温度Tが最適であり、10時間から100時間の範囲内の時間
tだけインゴットを保持しなければならない。550℃から650℃の範囲内、さもなければ750℃から770℃範囲内の温度では、保持時間は100h[時間]から10000hの範囲内にある。
【0057】
このような鋼では、温度Msは200℃から300℃のオーダーである。
【0058】
本発明者らは:
冷却前のインゴットの最大寸法が約910mm[ミリメートル]未満であるか、または最小寸法が1500mmを上回り、およびエレクトロスラグ再溶融前のインゴットのH含有量が10ppmを上回り;並びに
冷却前のインゴットの最大寸法が約910mmを上回り、インゴットの最小寸法が約1500mm未満であり、およびエレクトロスラグ再溶融前のインゴットのH含有量が3ppmを上回る、
とき、上述のように気相を扱う予備熱処理の1つが特に必要であることを観察している。
【0059】
インゴットの最大寸法は:
a.インゴットがその次の冷却に先立って熱形成を受けないときには、エレクトロスラグ再溶融の直後の;
b.インゴットがエレクトロスラグ再溶融の後に熱形成を受けるときには、その次の冷却の直前の、
その最も嵩高い部分における測定値のものであり、インゴットの最小寸法はその最も嵩低い部分の測定値のものである。
【0060】
好ましくは、スラグは、ESRるつぼ内で用いる前に、脱水する。実際、エレクトロスラグ再溶融、ESRからの鋼インゴット中のHの濃度をこのエレクトロスラグ再溶融前の該インゴット中のHの濃度よりも高くすることができる。続いて、ESR法の間に、水素がスラグからインゴットに移行し得る。予めスラグを脱水することにより、スラグ中に存在する水素の量が最小化され、従って、ESR法の間にスラグからインゴットに移行し得る水素の量が最小化される。
【実施例】
【0061】
本発明者らは、以下のパラメータを用いて、Z12CNDV12鋼に対する試験を行った:
試験番号1:
ESRるつぼから取り出した直後にインゴットを冷却し(H含有量8.5ppm)、地肌温度が250℃であるときに690℃の炉に入れて(インゴットの最冷温度が均一化温度に到達したらすぐに)12時間冶金学的に保持し(metallurgical hold)、周囲温度まで冷却する;
910mmから1500mmの直径据え込み作業の後に冷却し、地肌温度が300℃であるときに690℃の炉に入れて15時間冶金学的に保持し、周囲温度まで冷却する;および
900℃でより小さい直径への延伸作業の後、周囲温度まで冷却する。
【0062】
試験番号2:
ESRるつぼから取り出した直後にインゴットを冷却し(H含有量7ppm)、地肌温度が270℃であるときに700℃の炉に入れて(インゴットの最冷温度が均一化温度に到達したらすぐに)24時間冶金学的に保持し、周囲温度まで冷却する;
910mmから1500mmの直径据え込み作業の後に冷却し、地肌温度が400℃であるときに690℃の炉に入れて10時間冶金学的に保持し、周囲温度まで冷却する;および
900℃でより小さい直径への延伸作業の後、周囲温度まで冷却する。
【0063】
試験番号3:
ESRるつぼから取り出した直後にインゴットを冷却し(H含有量8.5ppm)、地肌温度が450℃であるときに据え込みのために1150℃の炉に入れる。910mmから1500mmの直径据え込み作業の後に冷却し、地肌温度が350℃であるときに690℃の炉に入れて15時間冶金学的に保持し、周囲温度まで冷却する;および
900℃でより小さい直径への延伸作業の後、周囲温度まで冷却する。
【0064】
試験番号4:
ESRるつぼから取り出した直後にインゴットを冷却し(H含有量12ppm)、地肌温度が230℃であるときに690℃の炉に入れて(インゴットの最冷温度が均一化温度に到達したらすぐに)24時間冶金学的に保持し、周囲温度まで冷却する;
910mmから1500mmの直径据え込み作業の後に冷却し、地肌温度が270℃であるときに690℃の炉に入れて24時間冶金学的に保持し、周囲温度まで冷却する;
900℃未満での直径への延伸作業の後に冷却し、地肌温度が650℃であるときに第2の延伸のために1150℃の炉に入れる;および
冷却時、地肌温度が320℃であるときに690℃の炉に入れて15時間冶金学的に保持し、周囲温度まで冷却する。この段階では、水素測定値は1.9ppmであった。
【0065】
試験番号5:
ESRるつぼから取り出した直後にインゴットを冷却し(H含有量8.5ppm)、地肌温度が450℃であるときに据え込みのために1150℃の炉に入れる;
910mmから1500mmの直径据え込み作業の後に冷却し、地肌温度が350℃であるときに690℃の炉に入れて15時間冶金的に保持し、周囲温度まで冷却する;および
900℃未満の直径までの延伸作業の後、周囲温度まで冷却する。
【0066】
これらの試験の結果を以下に示す。
【0067】
Z12CNDV12鋼の組成は以下の通りであった(DMD0242−20標準、インデックスE):
C(0.10%から0.17%)−Si(<0.30%)−Mn(0.5%から0.9%)−Cr(11%から12.5%)−Ni(2%から3%)−Mo(1.50%から2.00%)−V(0.25%から0.40%)−N
2(0.010%から0.050%)−Cu(<0.5%)−S(<0.015%)−P(<0.025%)、および以下の基準を満たす:
4.5≦(Cr−40.C−2.Mn−4.Ni+6.Si+4.Mo+11.V−30.N)<9
【0068】
測定されたマルテンサイト変態温度Msは220℃であった。
【0069】
エレクトロスラグ再溶融の前にインゴットにおいて測定された水素の量は3.5ppmから8.5ppmの範囲内で変動した。
【0070】
図1は、本発明の方法によってもたらされた改善を定量的に示す。実験的に、循環引張り荷重が施される鋼検体を破壊するのに必要な、破壊のためのサイクル数Nの値が、擬似交番応力C(これらの試験に用いられるSnecma標準DMC0401による、付加された変形の下での検体に対する荷重)の関数として得られた。
【0071】
このような循環負荷が
図2に図表式に示される。期間Tは1サイクルを表す。応力は最大値C
maxおよび最小値C
minの間で変化する。
【0072】
統計的に十分な数の検体の疲労試験により、本発明者らは点N=f(C)を得、これらから平均統計的C−N曲線(疲労サイクルの数Nの関数としての応力C)を作成した。サイクルの所定の数について荷重の標準偏差を算出した。
【0073】
図1において、第1曲線15(細線)は従来技術に従って製造される鋼について得られた(図表式の)平均曲線である。この第1平均C−N曲線は細破線として示される2つの曲線16および14の間にある。これらの曲線16および14は、それぞれ、第1曲線15から+3σ
1および−3σ
1の距離に位置し、σ
1はこれらの疲労試験の間に得られた実験点の分布の標準偏差である;±3σ
1は、統計上、99.7%の信頼区間に相当する。従って、これら2つの破線曲線14および16の間の距離はこれらの結果のばらつきの尺度である。曲線14は部品の寸法の制限要因である。
【0074】
図1において、第2曲線25(太線)は、本発明に従って製造された鋼に対して、
図2による負荷の下で実施された疲労試験結果から得られた、(図表式の)平均曲線である。この第2平均C−N曲線は、第2曲線からそれぞれ+3σ
2および−3σ
2の距離に位置する、太破線として示される2つの曲線26および24の間にあり、σ
2はこれらの疲労試験の間に得られた実験点の標準偏差である。曲線24は部品の寸法の制限要因である。
【0075】
なお、第2曲線25は第1曲線15より上に位置し、これが、荷重レベルCでの疲労負荷の下で、本発明に従って製造される鋼検体が、平均で、従来技術の鋼検体が破壊されるものよりも多いサイクルの回数Nで破壊されることを意味する。
【0076】
加えて、太破線として示される2つの曲線26および24の間の距離は細破線として示される2つの曲線16および14の間の距離よりも短く、これは、本発明に従って製造される鋼の疲労挙動のばらつきが従来技術の鋼のものよりも小さいことを意味する。
【0077】
図1は下記表1にまとめられる実験結果を示す。
【0078】
表1は、ゼロ最小応力C
min、250℃の温度、N=20000サイクルおよびN=50000サイクルでの
図2による低サイクル疲労負荷の結果を示す。「低サイクル疲労」は負荷頻度が1Hzのオーダーであることを意味する(頻度は秒あたりの期間Tの数と定義される。)。
【0079】
【表1】
【0080】
なお、所定の値のサイクル数Nでは、本発明の鋼を破壊するのに必要な最小疲労荷重値が従来技術の鋼を破壊するのに必要な疲労荷重(100%で固定)の最小値Mよりも大きい。本発明の鋼のこのサイクル数Nでの結果のばらつき(=6σ)は従来技術の鋼の結果のばらつきよりも小さい(ばらつきは最小値Mのパーセンテージとして表す。)。
【0081】
有利には、マルテンサイト系ステンレス鋼の炭素含有率はこれを下回ると鋼が亜共析する炭素含有率を下回り、例えば、0.49%の含有率である。実際、低炭素含有率は合金化元素の良好な拡散および、良好な均一化を生じる、主または希炭化物の溶解温度の低下を可能とする。
【0082】
エレクトロスラグ再溶融に先立ち、マルテンサイト鋼は、例えば、空気中で製造されている。
【0083】
ESRるつぼから取り出した直後にインゴットを冷却するとき、本発明の第1の実施形態をインゴットに適用することもできる。その後、インゴットにはいかなるオーステナイト熱サイクルも施すことはない。