特許第5778174号(P5778174)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5778174ラジカル増進薄膜堆積のための酸素ラジカルの発生
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778174
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】ラジカル増進薄膜堆積のための酸素ラジカルの発生
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/503 20060101AFI20150827BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   C23C16/503
   C23C16/40
【請求項の数】31
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-547256(P2012-547256)
(86)(22)【出願日】2010年12月29日
(65)【公表番号】特表2013-515865(P2013-515865A)
(43)【公表日】2013年5月9日
(86)【国際出願番号】US2010062301
(87)【国際公開番号】WO2011090737
(87)【国際公開日】20110728
【審査請求日】2013年12月19日
(31)【優先権主張番号】61/290,826
(32)【優先日】2009年12月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511136142
【氏名又は名称】ロータス アプライド テクノロジー エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】LOTUS APPLIED TECHNOLOGY, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100179589
【弁理士】
【氏名又は名称】酒匂 健吾
(72)【発明者】
【氏名】エリック アール ディッキー
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム エイ バロー
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−109093(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/078784(WO,A1)
【文献】 特開2003−007700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00〜16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護薄膜を堆積する方法において、
第1前駆体ガスを前駆体チャンバに導入するステップであって、該第1前駆体ガスはオゾンと反応する、該第1前駆体ガス導入ステップと、
第2前駆体ガスの流れを、前記前駆体チャンバとは異なりかつ前駆体チャンバから仕切り体で分離した酸化ゾーンに注入する第2前駆体ガス注入ステップであって、前記仕切り体には、流れを制限する1つ又はそれ以上の通路を延在させ、また該第2前駆体ガスは、酸素含有化合物を含み、室温で気体となり、前記第1前駆体ガスと反応せず、さらに該第2前駆体ガスはモル分率で酸素(O)を3%未満しか含まないものである、該第2前駆体ガス注入ステップと、
前記前駆体チャンバから排出する排出ステップであって、前記第2前駆体ガスの少なくとも一部が、前記酸化ゾーンから前記通路を経て前記前駆体チャンバに流入するようにし、これによって前記第1前駆体ガスが前記酸化ゾーンへ移動することを抑止する、該排出ステップと、
基板を移送経路に沿って前記前駆体チャンバと前記酸化ゾーンとの間で複数回出入りするよう移送する移送ステップであって、該移送経路は、前記通路のうち少なくとも一部を貫通して前記前駆体チャンバに至るものとし、前記前駆体チャンバでは、前記第1前駆体ガスが前記基板の表面に化学吸着種として化学的に吸着する、該移送ステップと、
前記移送経路近傍における前記酸化ゾーンで、前記第2前駆体ガスからプラズマを形成することにより、オゾンを発生させることなく、前記酸素含有化合物から不安定な酸素ラジカル種を発生させる酸素ラジカル種発生ステップであって、前記基板が前記酸化ゾーンを経て移送されるとき、オゾンに被曝されることなく、前記基板が該不安定な酸素ラジカル種に被曝されて、該不安定な酸素ラジカル種が前記化学吸着種と反応し、前記基板上に保護薄膜を堆積する、該酸素ラジカル種発生ステップと、
を有する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記第2前駆体ガスは、モル分率で通常の酸素(O2)を0.1%未満しか含まない、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記第2前駆体ガスは、二酸化炭素(CO2を含む、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記第2前駆体ガスは、亜酸化窒素(N2O)を含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記第2前駆体ガスは、C2、CO、NO、N2O及びNO2から選んだ2種又はそれ以上の混合物を含む、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記不安定な酸素ラジカル種は、主として単原子の酸素ラジカル(O・)からなる、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記第1前駆体ガスは、トリメチルアルミニウム(TMA)、四塩化チタン(TiCl4)、六塩化二ケイ素(Si2Cl6)、四塩化ケイ素(SiCl4)、ジエチル亜鉛(DEZ)、トリスジメチルアミノシラン(TDMAS)及び四塩化スズ(SnCl4)からなるグループから選択する、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記基板が前記酸化ゾーンを経て移送される際に、前記基板表面がプラズマに被曝される、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法は、さらに、前記基板を加熱するが内部温度は摂氏150度未満となるようにするステップを有する、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法は、さらに、前記基板を加熱するが内部温度は摂氏80度未満となるようにするステップを有する、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、
前記基板は可撓性とし、
前記基板を移送経路に沿って前記前駆体チャンバと前記酸化ゾーンとの間を出入りするように移送する前記移送ステップは、波形の移送経路に沿って案内する一連の回転ガイドの周りに移送して前記基板を巻き取るステップを有する、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において、
前記不安定な酸素ラジカル種の発生ステップは、高周波又はマイクロ波エネルギーを加えることにより、前記酸化ゾーン内で前記酸素含有化合物のガスを励起するステップを含み、また
前記通路は、前記酸化ゾーン内に前記プラズマを閉じ込めることができるほど十分に狭いものとする、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法は、さらに、前記酸化ゾーンをバッファゾーンにより前記前駆体チャンバから分離するステップを有し、
前記酸化ゾーンは、第2仕切り体により前記バッファゾーンから分離し、該第2仕切り体には、1つ又はそれ以上の流れを制限する一連の第2の通路が貫通する、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法において、前記前駆体チャンバからの前記排出ステップは、前記前駆体チャンバからポンプで排出するステップを含む、方法。
【請求項15】
基板上に保護薄膜を堆積させるシステムにおいて、
少なくとも1個の仕切り体によって分離して互いに異なる第1前駆体チャンバ及び第2前駆体チャンバを有する反応チャンバであって、前記仕切り体は、該第1前駆体チャンバと該第2前駆体チャンバとの間で前記基板が通過するサイズの1個又はそれ以上の通路を有するものとした、該反応チャンバと、
第1前駆体ガスを前記第1前駆体チャンバに導入するため、前記第1前駆体チャンバに流体連通する、第1前駆体源と
酸素を含有する前駆体ガスの流れを前記第2前駆体チャンバに注入するため、前記第2前駆体チャンバに接続した酸素含有前駆体ガス源であって、該酸素含有前駆体ガスは、酸素含有化合物を含み、室温で気体となり、前記第1前駆体ガスと反応せず、また第2前駆体ガスはモル分率で酸素(O)を3%未満しか含まないものである、酸素含有前駆体ガス源と、
前記第1前駆体チャンバに接続した排出ポートであって、該排出ポートは前記反応チャンバ及び前記第1前駆体チャンバと前記第2前駆体チャンバの間の流れを制限する通路からの流体出口をなし、また前記第2前駆体チャンバからの唯一の流体出口をなすものであり、したがって、前記酸素含有の前駆体ガスを前記第2前駆体チャンバに注入するとき、
前記酸素含有の前駆体ガスの少なくとも一部は、前記第2前駆体チャンバから前記通路を経て前記第1前駆体チャンバに流入し、前記第1前駆体チャンバで、該排出ポートを経て前記反応チャンバから排出されることになり、このことにより前記第1前駆体ガスが前記第2前駆体チャンバに移動するのを抑止する、該排出ポートと、
基板を移送経路に沿って前記第1前駆体チャンバと前記第2前駆体チャンバとの間を複数回出入りするよう移送するキャリッジであって、該移送経路は、少なくとも一部の前記通路を貫通し、また前記第1前駆体チャンバ及び前記第2前駆体チャンバに延在する、該キャリッジと、
前記第2前駆体チャンバと連係動作するように設けたラジカル発生器であって、該ラジカル発生器を付勢するとき、前記移送経路の近傍で前記酸素含有前駆体ガスからプラズマを形成することにより、オゾンを発生させることなく、前記酸素含有化合物から不安定な酸素ラジカル種を発生させ、前記基板が前記キャリッジにより前記第2前駆体チャンバを通過するよう移送されるとき、オゾンに被曝させることなく、該不安定なラジカル種に前記基板を被曝させる、該ラジカル発生器と、
を備えた、システム。
【請求項16】
請求項15に記載のシステムにおいて、前記ラジカル発生器は、高周波(RF)プラズマ発生器又はマイクロ波プラズマ発生器とした、システム。
【請求項17】
請求項16に記載のシステムにおいて、前記通路は、前記第2前駆体チャンバ内に前記プラズマを閉じ込めることができる程度に十分に狭いものとした、システム。
【請求項18】
請求項15に記載のシステムは、さらに、
前記第1前駆体チャンバと前記第2前駆体チャンバとの間に介在させたバッファゾーンであって、前記第2前駆体チャンバと該バッファゾーンとの間に仕切り体を介在させた、該バッファゾーンと、
前記バッファゾーンと前記第1前駆体チャンバとの間に介在させた第2仕切り体であって、該第2仕切り体は、前記移送経路が貫通する1個又はそれ以上の通路を有する、該第2仕切り体と、
を備えた、システム。
【請求項19】
請求項15に記載のシステムにおいて、
前記仕切り体は、複数個の通路を有し、
前記キャリッジは、前記第1前駆体チャンバ内で互いに離して設けた複数個の第1回転ガイド、及び前記第2前駆体チャンバ内で互いに離して設けた複数個の第2回転ガイドを有し、
前記第1回転ガイド及び前記第2回転ガイドは、可撓性の基板用の移送経路を画定し、前記第1回転ガイド及び前記第2回転ガイドは、それぞれ前記基板の進行方向が変化する間に、前記可撓性の基板を支持及び案内するよう構成した、システム。
【請求項20】
請求項15に記載のシステムにおいて、さらに、前記排出ポートに接続したポンプを備えた、システム。
【請求項21】
基板に酸化物の保護薄膜を堆積するプロセスにおいて、
第1前駆体ガスを前駆体チャンバに導入するステップであって、該第1前駆体ガスはオゾンと反応する、該第1前駆体ガス導入ステップと、
第2前駆体ガスの流れを、前記前駆体チャンバとは異なりかつ前駆体チャンバから仕切り体で分離した酸化ゾーンに注入する第2前駆体ガス注入ステップであって、前記仕切り体には、流れを制限する1つ又はそれ以上の通路を延在させ、また該第2前駆体ガスは、酸素含有化合物を含む、該第2前駆体ガス注入ステップと、
前記前駆体チャンバから排出する排出ステップであって、前記第2前駆体ガスの少なくとも一部が、前記酸化ゾーンから前記通路を経て前記前駆体チャンバに流入するようにし、これによって前記第1前駆体ガスが前記酸化ゾーンへ移動することを抑止する、該排出ステップと、
酸素含有化合物からオゾンを発生させることなく、不安定な酸素ラジカル種を発生させる酸素ラジカル種発生ステップであって、該酸素含有化合物は室温のときに気体であり、また前記第2前駆体ガスはモル分率で酸素(O)を3%未満しか含まないものである、該酸素ラジカル種発生ステップと、
基板を移送経路に沿って前記前駆体チャンバと前記酸化ゾーンとの間で複数回出入りするよう移送する移送ステップであって、該移送経路は、前記通路のうち少なくとも一部を貫通して前記前駆体チャンバに至るものとし、前記前駆体チャンバでは、前記第1前駆体ガスが前記基板の表面に化学吸着種として化学的に吸着し、前記不安定な酸素ラジカル種は前記表面における化学吸着種と反応し、これにより、前記表面上に酸化物の薄膜を形成する、該移送ステップと、
を有する、方法。
【請求項22】
請求項21に記載のプロセスにおいて、前記第2前駆体ガスは、モル分率で通常の酸素(O2)を1%未満しか含まない、プロセス。
【請求項23】
請求項21に記載のプロセスにおいて、前記第2前駆体ガスは、モル分率で通常の酸素(O2)を0.01%未満しか含まない、プロセス。
【請求項24】
請求項21に記載のプロセスにおいて、前記酸素含有化合物は、二酸化炭素(CO2)からなる、プロセス。
【請求項25】
請求項21に記載のプロセスにおいて、前記酸素含有化合物は、亜酸化窒素(N2O)からなる、プロセス。
【請求項26】
請求項21に記載のプロセスにおいて、前記酸素含有化合物は、C2、CO、NO、N2O及びNO2から選んだ2種又はそれ以上の混合物からなる、プロセス。
【請求項27】
請求項21に記載のプロセスにおいて、前記第1前駆体ガスは、トリメチルアルミニウム(TMA)、四塩化チタン(TiCl4)、六塩化二ケイ素(Si2Cl6)、四塩化ケイ素(SiCl4)、ジエチル亜鉛(DEZ)、トリスジメチルアミノシラン(TDMAS)及び四塩化スズ(SnCl4)からなるグループから選択する、プロセス。
【請求項28】
請求項21に記載のプロセスにおいて、前記不安定な酸素ラジカル種は、主として、前記酸素含有化合物から形成したプラズマにより発生した、単原子の酸素ラジカル(O・)からなる、プロセス。
【請求項29】
請求項21に記載のプロセスにおいて、前記基板の移送ステップは、前記基板を、前記酸素含有化合物から形成したプラズマに被曝させるステップを有する、プロセス。
【請求項30】
請求項21に記載のプロセスにおいて、
前記第1前駆体ガスは、トリメチルアルミニウム(TMA)、又は四塩化チタン(TiCl4)、又はトリスジメチルアミノシラン(TDMAS)を含み、
前記基板の内部温度を、堆積プロセスにわたり摂氏150度以下に維持する、プロセス。
【請求項31】
請求項21に記載のプロセスにおいて、前記基板の内部温度を、堆積プロセスにわたり摂氏80度以下に維持する、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づき、2009年12月29日出願の米国特許仮出願61/290,826号の恩典を主張し、その仮出願は、本明細書で参照することにより組み込まれる。
【0002】
本開示の分野は、原子層堆積(ALD)を含む薄膜堆積に関し、特に、ラジカル増進薄膜堆積、例えばラジカル増進ALDに関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1(Dickey氏らによる2007年7月26日出願の米国特許出願第11/829,050号であり、米国特許出願公開第2008/0026162号として公開)には、ラジカル増進原子層堆積(REALD)のための様々な方法及びシステムが記載されている。特許文献1の明細書(参照することにより完全に本明細書に組み込まれるものとする)は、基板を第1前躯体ガス及びラジカル種に交互に被曝させることを含む堆積法について記載しており、この堆積法では、そのラジカル種が、励起源、例えば定常状態の直流(DC)プラズマ発生器又は高周波(RF)プラズマ発生器により、その場で発生する。第1前駆体ガスは、通常、ラジカル種が発生する位置から離れた位置、一般的には下流側の位置に導入し、それら位置間にラジカル非活性化ゾーンを生じる。特許文献1に開示されたいくつかの実施形態では、プラズマ発生器によりシステムに流れるパージガスから基板表面の近傍で直流プラズマを発生させており、この場合、パージガスは第1前躯体ガスとはほぼ反応しない(不活性)ものとする。他の実施形態では、ラジカル種を第2前駆体ガスから発生させ、この第2前駆体ガスは第1前駆体ガスと反応してよいものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0026162号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸素ラジカルは、若干の金属前駆体、例えばトリメチルアルミニウム(TMA)や四塩化チタン(TiCl)と酸化するのに高い反応性を有する種であるが、本発明者らは、普通の酸素ガス(O)から発生した酸素プラズマを含むREALDプロセスで堆積した薄膜は、他の多くのALD法により堆積した薄膜よりも品質が劣ることを見出した。オゾン(O)を前駆体に用いた本発明者らの実験では、薄膜の品質はさらに劣るものとなった。このことは、Oから形成された直流酸素プラズマが、REALDの前駆体としては劣っていることを示している。なぜなら、Oから形成した直流酸素プラズマは、比較的高濃度のオゾンを含んでいるからである。すなわち、オゾンは、酸素ラジカル(フリーラジカル)よりもずっと長く持続し、それ故、第2前駆体ゾーンへとより移動しやすく、また第2前駆体ゾーンに導入される金属前駆体又は他の前駆体と反応しやすいガスであり、ALDでない堆積を生ずる。
【0006】
本発明者らは、これらの現象をREALD法の改良の好機と認識し、そして薄膜堆積用の酸素ラジカルの発生方法を改良した。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】従来技術によるウェブコーティングシステムの略図的正面図である。
図2】本発明の一実施形態によるREALDのウェブコーティングシステムの略図的正面図である。
図3】本発明の別の実施形態によるREALDのためのドラムコーティングシステムの略図的な頂部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、特許文献1に記載された種類のREALDのための従来のシステム10の立面図における断面を示し、このシステムは、例えばプラスチックフィルム又は金属フォイルのウェブのような可撓性を有する基板12(図1では輪郭で示す)上に薄膜コーティングを堆積するためのものである。また、図1は、可撓性基板のコーティング用であるラジカル増進型のALDシステムを示す。このシステムは、2007年3月26日出願の米国特許出願第11/691,421号であり、米国特許出願公開第2007/0224348号として公開されている(その出願公開を参照することにより本明細書に組み込まれるものとする)。図1を参照して説明すると、システム10は、前駆体ゾーン14及びラジカルゾーン16を有し、これらゾーンは中間の隔離ゾーン20により分離する。前駆体ガスを、前駆体送給システム24から前駆体ゾーン14に導入する。第2前駆体ガス又はパージガスを、第2前駆体送給システム26からラジカルゾーン16に導入する。不活性ガス送給システム28を設け、隔離ゾーン20に不活性ガスを注入する。ラジカルは、ラジカルゾーン16でラジカル発生器29により形成される。このラジカル発生器29は、ラジカルゾーン16で第2前駆体ガス(又はパージガス)から直流プラズマを発生させるために、基板の近傍に配置することが好ましい。
【0009】
前駆体ゾーン14、ラジカルゾーン16及び隔離ゾーン20は、外側の反応チャンバハウジング又は容器30によって縁取りし、この反応チャンバハウジングを、第1仕切り体34及び第2仕切り体36により、3つのサブチャンバ、すなわち第1前駆体チャンバ44、第2前駆体チャンバ46、不活性ガスチャンバ50に分割する。第1仕切り体34を通過する一連の第1通路54を、基板12の通常の進行方向に沿って順次離して設け、これに対応する一連の第2通路56を第2仕切り体36に設ける。通路54,56は、これら通路に挿通すべき基板12が前駆体ゾーン14とラジカルゾーン16との間を複数回出入りし、各回毎に隔離ゾーン20を通過するように、配置及び構成する。従って、隔離ゾーン20は、第1仕切り体34で前駆体ゾーン14から分離(不完全ではあるが)し、また第2仕切り体36でラジカルゾーン16から分離することが好ましい。
【0010】
通路54,56は、ゾーン14,16,20間におけるガスの流れを制限し、前駆体ガス及びラジカルが共通ゾーンに拡散することを回避又は制限するよう構成する。通路54,56はスリットを設け、そのスリットの寸法は、通過する基板12の厚さ及び幅よりもわずかに大きくし、極めて少量のヘッドルーム及び両縁の余裕代のみを残し、基板12が通路の側面を擦らずに通過できるようにする。例えば、若干の実施形態では、ヘッドルーム及び両縁の余裕代は、ミクロン単位からミリメートル単位の間における範囲にすることができる。さらに、通路54,56には、基板12が通過する細長いトンネル(スリットバルブ)を設けることもできる。
【0011】
ラジカル種から前駆体ガスを隔離する補助のため、隔離ゾーン20と前駆体ゾーン14との間、及び隔離ゾーン20とラジカルゾーン16との間に圧力差を生ずるようにすることが好ましい。一実施形態では、隔離ゾーン20に対してし、前駆体ゾーン14及びラジカルゾーン16の動作圧力よりも大きい圧力の不活性ガスを注入し、また、このとき受動的にゾーン14,16からガスを排出することにより、圧力差を発生させる。さらに、前駆体ゾーンからポンプ58又は別の吸込源によりガスをポンプ排出することにより、圧力差を発生させてもよい。排出した前駆体は、前駆体トラップ59、例えば簡単なインライン液体窒素冷却トラップを用いて再利用してもよい。
【0012】
システム10の基板移送機構60にはキャリッジを設け、このキャリッジは可撓性の基板12をガイドするための複数の回転ガイドを具える。回転ガイドには、前駆体ゾーン14に沿って順次互いに離して設けた一連の第1回転ガイド64と、ラジカルゾーン16に沿って順次互いに離して設けた一連の第2回転ガイド66が含まれる。回転ガイド64,66は、基板12がシステム10を前進するとき基板12の波形移送経路を画定するよう連係動作する。基板移送機構60には繰出スプール72を設け、この繰出スプール72は、隔離ゾーン20、容器30、前駆体ゾーン14又はラジカルゾーン16の第1端部76に収容した、第1巻回体(繰出ロール74)から基板12を繰り出す。さらに、基板移送機構60に巻取スプール82を設け、この巻取スプール82は、隔離ゾーン20、容器30、前駆体ゾーン14又はラジカルゾーン16の第2端部84(第1端部76の反対側)でコーティングされた基板を受け取るよう、基板12を第2巻回体(巻取ロール86)に巻き取る。
【0013】
ラジカル発生用の酸素源
金属酸化物膜のALD処理用の酸素源として酸素ラジカルを使用する場合、他のものよりも好ましい、いくつかの特定の化学物質及びシステム構成がある。特に、サーマル(非ラジカル)ALDにおいて酸素の前駆体として水を使用することが最適なものとは、異なる構成である。
【0014】
本発明開示によるREALD法の一実施形態では、単原子の酸素ラジカル(O・)を、酸素含有第2前駆体ガスから発生させ、その第2前駆体ガスは、通常、第1前駆体(通常、金属を含む前駆体)とは反応しない。ここで、第2前駆体ガスは、ガス状の酸素含有化合物を含むが、通常の酸素(O)はほとんど含まない。これら改良したREALD法によれば、可撓性を有する基板のコーティングシステムの構成及び運用を改良することが可能となる。このことを図2につき以下に説明する。これらの方法及びシステムにより堆積した薄膜は、光学的コーティング、食品パッケージ又は電子機器用の保護層、その他多くの使用において、有用となり得る。
【0015】
酸素ラジカルを発生させるのに使用する前駆体源ガス、特に室温では気体となる前駆体に関しては、多くの選択肢がある。例えば、O(通常の酸素),CO,CO,NO,NO,NO,空気等は、全てREALDプロセスで使用することができ、このプロセスにおける一次反応は、酸素ベースで生ずる。酸素ベースのREALD反応例としては、低温(基板及び前駆体の加熱は150℃未満、好ましくは80℃未満)で、TMA及びO・(酸素ラジカル)を使用した酸化アルミニウム(Al)の薄膜形成、及び低温でTiCl及びO・からのチタニア(TiO)の薄膜形成がある。これらREALD反応は、特許文献1に記載される様々なシステムで実行することができ、特に特許文献1の図1〜3及図6に示されるシステムで実行することができる。
【0016】
REALDで最高酸素濃度を得るために、Oを使用することは正しい選択である。しかしながら、本発明者らは、代替的な酸素含有の前駆体ガス、例えばCO及びNOが、いくつかの理由で好ましいことを見出した。第1に、CO,NO及びその他多くの気体状化合物は、可燃性ではなくかつ反応性も高くないので、いくつかの方法、システム、用途及び設備では、より安全となり得る。酸素ガスは反応性が高く、取扱には注意しなければならない。そして、より重要なことは、Oと比較して、CO及びNOのような酸素含有の前駆体化合物から発生したプラズマが、プラズマ内又はその近傍で、オゾン(O)を形成しにくいという点である。Oから発生した酸素プラズマは、一般的に、O・がOと再結合することによる副産物としてOを形成する。気体状の酸素含有化合物、例えばCOから発生したプラズマもO・を含むが、それらはOを形成しにくい。なぜなら、そのような反応を促進するOの量が、はるかに少ないからである。
【0017】
は、特定の前駆体でALD膜成長を幾分活性化する一方、O・で形成した酸化物膜と比較して、品質に劣る酸化物膜を形成する場合がある。そのような例として、TMA+O・とTMA+Oを比較したケースがある。TMAとの相互反応物質としてOを用い、低温で厚さ200ÅのAl膜を生成させたが、そのAl膜はほとんど何らのバリヤ特性を有さなかった。即ち、それらは、極めて高い水蒸気透過速度(WVTR)を示した。しかしながら、室温でTMA及びO・(直流プラズマ)を用いて生成したAl膜は、良好なバリヤ特性、少なくとも相互反応物質として水を用いてサーマルALDにより生成した膜と同程度の良好なバリヤ特性を示す。その一方で、TMA+O・を用いた場合の膜の成長速度は、ALDサイクル当たりで倍以上となる。
【0018】
さらに、プラズマがO・及び相当量のOを形成するとき、反応の組み合わせ(例えば、TMA+O及びTMA+O・)から生じる膜は、Oがほとんど存在しないO・との反応により大部分又は全体が形成される膜と比べて、品質に劣る場合がある。
【0019】
加えて、Oは、極めて不安定であるO・と比較して、相当長寿命である。そのようなことから、第2(金属)前駆体ゾーンからOを隔離することはより困難である。他方で、O・は、極めて効率的かつ迅速に再結合する。そのようなことから、O・の金属含有前駆体ゾーンへの移動は、単なる適切な空間的離隔、又はラジカルゾーンと金属含有前駆体ゾーンとの間に流れを制限するデバイスを設置するだけで、簡単に阻止することができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、ほぼ純粋な酸化物を形成してもよく、この酸化物形成は、基本的に酸素含有気体状化合物、例えばCO又はNOからなる第2前駆体ガスの使用により形成する。なぜなら、第2前駆体ガスの非酸素の構成成分(例えば、炭素、窒素)は、金属含有の第1前駆体又は少なくとも第1前駆体の化学吸着種とは反応しないからである。他の特定の実施形態では、第2前駆体の非酸素の構成成分と金属含有の第1前駆体(又はそれについての化学吸着種)との反応は、金属含有の前駆体(又はその化学吸着種)と酸素ラジカルとの反応と比較して、極めて少量であり、これにより、ほとんど純粋な酸化物が形成される。
【0021】
それ故、一実施形態では、薄膜を形成する方法は、基板を次の物質に交互に被曝させるステップを有するものとする。すなわち、
(1)基板表面に化学吸着する第1前駆体であって、酸素及び酸素ラジカルと反応する化学吸着種が基板表面に残留するようになる、該第1前駆体と、
(2)酸素ラジカル種、例えば、単原子の酸素ラジカル(O・)であって、酸素含有の気体状化合物(又は混合物)を含むが、Oはほとんど含まない第2前駆体から形成されたプラズマ中で発生する、該酸素ラジカル種と
に交互に被曝させる。
例えば、ほとんどOを含まない適切な気体状の化合物又は混合物は、3%未満(モル分率)のOしか含まないものとする。いくつかの実施形態では、適切な気体状の化合物又は混合物は、モル分率で2%未満、1%未満、0.1%未満又は0.01%未満のOしか含まない場合もある。いくつかの実施形態において、適切な化合物又は混合物は、ほとんどOを含まないと言える場合があり、それは、モル分率で0.001%未満しかOを含まない場合である。いくつかの実施形態では、適切な気体状の化合物又は混合物は、10ppm未満又は1ppm未満のOしか含まない。
【0022】
酸素ラジカルと反応する前駆体の例としては、酸素ラジカルと反応してZnOを形成するジエチル亜鉛(DEZ)、及び酸素ラジカルと反応してSiOを形成するトリス[ジメチルアミノ]シラン(TDMASとしても知られる)がある。TDMASの前駆体と酸素ラジカルを含むALD反応では、高品質の膜がある温度で堆積することができ、その温度以下では、水すらも一般的なサーマルALDプロセスの酸化剤として作用しない温度、例えば130℃以下の温度で堆積することができる。ここで説明した種類のREALDプロセスで使用できる別の前駆体の例としては、四塩化スズ(SnCl)があり、この四塩化スズは、酸素ラジカルと反応して、スズ酸化物(SnO)を形成する。
【0023】
他の実施形態では、REALDにより酸化物の薄膜を形成する方法は、Oから形成された酸素ラジカル及びOとは反応しない前駆体が含まれる。少なくとも100℃以下の処理温度ではOと反応しない前駆体の例としては、四塩化チタン(TiCl)、六塩化二ケイ素(SiCl)及び四塩化ケイ素(SiCl)がある。
【0024】
要約すると、上述したプロセスは、酸化能力の点で他の方法及び化学反応を大幅に凌駕する向上をもたらす。オゾンなしで酸素ラジカルの反応を向上させることで、より広範囲にわたる金属含有の前駆体及び他の前駆体の使用が可能となる。この前駆体には、許容できる程度の揮発性及び化学吸着(又は吸収)性を有するが、非ラジカル酸素及び酸素含有化合物との反応性に劣る前駆体も含まれる。
【0025】
前述した知見により、可撓性基板のALDコーティングに関するシステム及び方法の新たな構築が可能となる。例えば、図2に示した可撓性基板の堆積システム210があり、これは、図1に示したシステム10を変更したものである。図2を参照して説明すると、第1前駆体224、例えばTMAを第1前駆体ゾーン214に導入する。第2前駆体は、第1前駆体224とは反応しない酸素含有の前駆体ガス226からほぼ構成するものとし、この第2前駆体を酸化ゾーン216(第2前駆体ゾーン)に注入する。プラズマ又は他のラジカル発生機構229は、チャンバ230の酸化ゾーン216と連係動作するようチャンバ230に設け、この酸化ゾーン216でラジカル発生器229は、酸素含有の前駆体ガス226から原子状酸素を発生させる。ラジカル発生器229としては、高周波(RF)プラズマ発生器、マイクロ波プラズマ発生器、直流プラズマ発生器、又はUV光源があり、また酸素ラジカル種の集団(図2に雲模様で示す)を、酸化ゾーン216内その場で、例えばプラズマにより、連続的に発生させることが好ましい。ラジカル発生器229は、連続又は定常状態モードで動作させてもよく、この場合は、プラズマランプ(減衰)回数、並びにラジカル発生器229及びチャンバ230の壁部に対する好ましくない膜又は堆積物の蓄積による不利益を生じないよう動作させる。酸素含有の前駆体ガス226は、それに関して前述した酸素を含有する任意の気体状の化合物又は混合物で構成することができる。
【0026】
酸化ゾーン216自体は、ポンプ排出しない、すなわち排出ラインを酸化チャンバ246に対して直接的に接続しない。システム210を使用するとき、酸素含有の前駆体ガス226は、酸化ゾーン216からスリット256を経て中央のバッファゾーン220に流出し、つぎにスリット254を経て第1前駆体ゾーン214に流入する。そして、流出、流入の度毎に、ゾーン214,220,216相互間にある仕切り体234,236のスリット254,256(スリットバルブ又は通路とも称される)における絞りに起因して圧力降下を生ずる。最終的には、第1前駆体224及び酸素含有の前駆体ガス226の混合物が、第1前駆体ゾーン214から排出ポートを経て排出され、随意に前駆体回収トラップ259を経て、ポンプ258により吸い出す。
【0027】
酸素含有の前駆体ガス226が酸化ゾーン216から第1前駆体ゾーン214に移動する期間で、酸化ゾーン216におけるプラズマ内で発生した全ての又はほぼ全ての原子状の酸素(O・)は、プラズマ内における他の種と再結合し、このとき第1前駆体224に対しては不活性となる。従って、酸素含有の前駆体ガス226は、プラズマにより励起されるとき、反応性を有する酸素ラジカル(O・)の前駆体源、及びパージガス又は隔離ガスとしての両方の役割を果たす。ゾーン214,220間、及びゾーン220,216間の圧力差(両方の圧力差とも、同じ向きとなる。)は、図1に示した実施形態と比較して、第1前駆体224が酸化ゾーン216に移動する抵抗を2倍にする。図1に示した実施形態では、パージガスを隔離ゾーン20に導入するが、それぞれポンプ送給される2つの前駆体ゾーン14、16よりもわずかに高い圧力で導入する。
【0028】
一実施形態では、ラジカル発生器229としては、RFプラズマ発生器又はマイクロ波プラズマ発生器があり、これらは、RF又はマイクロ波のエネルギーで酸素を含有する前駆体ガス226を励起することにより、酸化ゾーン216内でプラズマを発生する。通路256は十分に狭くして、酸化ゾーン216内にプラズマを閉じ込めることができるようにする。
【0029】
基板キャリッジ又は他の基板移送機構260は、基板をプラズマ内で迅速に移動させ、この迅速移動は、上述したREALDプロセスが行われるとともに、基板の内部温度が、堆積プロセスにわたり150℃以下、若干の実施形態では、堆積プロセスにわたり80℃以下に維持されるように行う。
【0030】
酸素含有の前駆体ガス226がOであるか、又は相当量のOを含む場合、おそらく若干量のオゾンが、第1前駆体ゾーン214に入ることとなる。この場合、原子状酸素(O・)と反応するか、又は少なくとも原子状酸素と反応する化学吸着種を基板上に残すがOとは反応しない前駆体を使用することが望ましい。代案として、酸素を含有する気体状の化合物(例えば、COなど)を使用する場合、チャンバに入るOのレベルは、無視できる程度に低いものとする。その場合、Oと反応する第1前駆体を使用することができるが、チャンバの第1前駆体ゾーンでALDではない膜成長による有害な影響がないようにする。
【0031】
図2に示した反応チャンバ230の構成によれば、酸化ゾーン216からポンプ排出する必要性を排除又は減少し、また酸素を含有した化合物の前駆体ガス226を多量に、酸化ゾーン216に直接導入するのを容易にし、この酸化ゾーン216には、プラズマ又は他のラジカル用の発生手段229を設ける。このとき、酸素を含有する前駆体ガス226は、パージを基本目的とする若干の又は完全な隔離をもたらし、これは、重要な酸素ラジカルが、第1前駆体ゾーン214に入る前に再結合化するか又は不活性化することを前提とする。
【0032】
上記の改良した方法は、特許文献1に記載した任意の反応器の構成及びプロセス方法論で実質的に利用してもよい。例えば、本明細書で述べた酸素を含有する化合物のガスを使用することにより、酸化反応用に特許文献1の図4で示したシステムの運用を容易にする。ある実施形態では、酸素を含有する気体状の化合物、例えばCOを、酸素ラジカルを発生させるパージガスとして利用する。酸素ラジカルと反応する(但し、COとは反応しない)前駆体を、図4に示される基板の往復出入り経路上の位置、通常ラジカル発生器の下流に注入する。ラジカル発生器は、前駆体の注入サイトから離し、両者間にラジカル不活性ゾーンを生ずるに十分な距離をとるようにし、このことは特許文献1により詳しく記載されている。
【0033】
特許文献1の図4に示される、パージガスとして酸素を含有する気体状の化合物を使用した実施形態に対する変更実施形態を、本明細書に添付した図3に示し、この図3は、ドラム型反応器システム300の頂部断面図である。図3を参照して説明すると、1個又はそれ以上の基板(図示せず)を円筒形ドラム310に取り付け、この円筒形ドラム310は反応チャンバ312内でその軸線の周りを回転する。パージガス320は、酸素を含有する気体状の化合物を含み、かつ通常の酸素(O)はほとんど含まないようにし、このパージガス320を、ラジカル発生器330の位置に又はその上流側に注入する。図示のように、ラジカル発生器330には、一連のバッフル340を設けることができ、これによって、ラジカルの不活性化及び再結合化を促し、また前駆体が導入されるサイト(この実施例では、TMAの注入サイト350)にラジカルが移動するのを防止する。しかしながら、他の実施形態では、より単純なバッフルでも十分であり、又はバッフルを全く必要としない場合もあり得る。前駆体、例えばTMAは、前駆体注入サイト350において、基板表面に化学吸着種の形で化学的に吸着するが、それは、基板がドラム310の回転によりラジカル活性化ゾーン360に移動する前に行われる。酸素ラジカルは、ラジカル活性化ゾーン360でパージガス320から発生する。このラジカル活性化ゾーン360では、酸素ラジカルが化学的に吸着された前駆体種と基板表面で反応し、ALDサイクルを完了し、単層を形成する。酸素ラジカルは、プラズマで発生させることが好ましいが、特許文献1で言及したような他の励起源を利用してもよい。酸素ラジカルは迅速かつ簡単に再結合するので、酸素ラジカル種は、ほとんど前駆体注入サイト350には運ばれない。さらに、パージガス流の方向は、ラジカルゾーン360から、ドラム310及び反応チャンバ312の反対側における前駆体注入サイト350の下流側にある排出ポンプ370に向かう方向であるため、前駆体はほとんど又は全くラジカル発生サイト360に移動しない。結果として、図3のシステム300によって、酸化物薄膜のALD型堆積が可能となり、複雑な流量制御やバッフルの設置又は基板移送機構を使用する必要もなくなる。
【実施例】
【0034】
実施例1 TiCl及び酸素ラジカルから生成するTiO薄膜
基板:PETを巻き付けたローラにおける2.2メートルのバンド(ループ)を、図2に示す種類の3ゾーン式反応器システム(但し、通路254,256はそれぞれ2箇所しかない)において、前駆体ゾーン及び酸化ゾーンを循環するよう案内する。
酸化温度:70℃
動作圧力:公称160Pa(1.2Torr)
ラジカル発生器:直流プラズマ、電力約200W、基板1cm以内の範囲に電極を配置
酸素含有ガス:清浄で乾燥した圧縮空気を酸化ゾーンに注入(注記:TiClは、容易にはオゾンと反応せず、ポリマー表面において70℃でTiOを形成する。)
成長速度:約1Å/サイクル
【0035】
実施例2 TMA及び酸素ラジカルから生成するAl薄膜
基板:PETを巻き付けたローラにおける2.2メートルのバンド(ループ)を、図2に示す種類の3ゾーン式反応器システム(但し、通路254,256はそれぞれ2箇所しかない)において、前駆体ゾーン及び酸化ゾーンを循環するよう案内する。
基板温度:90℃
動作圧力:公称160Pa(1.2Torr)
ラジカル発生器:直流プラズマ、電力約200W、基板1cm以内の範囲に電極を配置
酸素含有ガス:CO(注記:TMAは、高濃度のOとわずかに反応し、Oと適度に反応する。)
成長速度:約1.6Å/サイクル
【0036】
実施例3 DEZ及び酸素ラジカルから生成するZnO薄膜
基板:PETを巻き付けたローラにおける2.2メートルのバンド(ループ)を、図2に示す種類の3ゾーン式反応器システム(但し、通路254,256はそれぞれ2箇所しかない)において、前駆体ゾーンと酸化ゾーンを循環するよう案内する。
基板温度:90℃
動作圧力:公称160Pa(1.2Torr)
ラジカル発生器:直流プラズマ、電力約200W、基板1cm以内の範囲に電極を配置
酸素含有ガス:高純度のCO(注記:DEZは、O及びOと高い反応性を有する。)
成長速度:約1.2Å/サイクル
【0037】
当業者であれば、本発明の基本原理から逸脱することなく、上記した実施形態の細部に多数の変更を加え得ることは明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ決定されるべきである。
図1
図2
図3