(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブラシレスモータの始動時にロータの位置に対して最大のトルクを発生可能な位相の始動励磁パターンを初期通電時間だけ前記ブラシレスモータに通電した後に、通電を停止して前記ブラシレスモータの前記ロータをフリーランさせる通電パターン決定手段
を更に有することを特徴とする請求項1に記載のブラシレスモータの駆動装置。
エンジンルーム内のラジエータに対して配設されラジエータファンの回転機構に使用されロータを備えたブラシレスファンモータを駆動させるブラシレスファンモータの駆動装置であって、
前記ロータをフリーランさせている間に前記ブラシレスファンモータのモータ端子に発生する誘起電圧から前記ロータの位置を検出する手段と、
前記誘起電圧のエッジ間隔を計測するカウンタと、
前記ロータの正転を判定する正転専用ロジックを用いて、前記カウンタが予め設定された回数をオーバーするまでに前記誘起電圧により前記ロータの位置検出が予め定めた回数検出できたときに前記ロータが正転していると判定し、一方、前記正転専用ロジックを用いて、前記誘起電圧により前記ロータの位置を予め定めた回数検出できずに、前記カウンタが予め定められた回数オーバーフローしたときに前記ブラシレスモータが逆回転していると判定する回転方向判定手段と、
前記回転方向判定手段により前記ブラシレスファンモータが逆回転していると判定されると、前記ブラシレスファンモータを停止させる通電パターンの通電を予め定められた一定時間行うブレーキ停止手段と、
を有することを特徴とするブラシレスファンモータの駆動装置。
前記ブラシレスファンモータの始動時にロータの位置に対して最大のトルクを発生可能な位相の始動励磁パターンを初期通電時間だけ前記ブラシレスファンモータに通電した後に、通電を停止して前記ブラシレスファンモータの前記ロータをフリーランさせる通電パターン決定手段
を更に有することを特徴とする請求項4に記載のブラシレスファンモータの駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各実施の形態で同じ構成要素には同一の符号を付してある。また、実施の形態の間で重複する説明は省略する。
【0018】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、ブラシレスモータシステムは、ブラシレスモータ1と、ブラシレスモータ1の回転駆動を制御する駆動装置2とを有する。
ブラシレスモータ1は、永久磁石を有するロータとステータを有し、ステータには3相(U、V、W)のコイルが周方向に順番に巻装されている。なお、このブラシレスモータシステムは、ロータ位置を検出するセンサを有しないセンサレスタイプのシステムである。
【0019】
駆動装置2は、マイコンなどから構成される制御装置11と、ブラシレスモータ1の3相のコイルを形成する通電線に印加された電圧を検出する誘起電圧I/F(インターフェイス)回路12と、インバータ13と、ブラシレスモータ1の通電線に印加された電圧のレベルを変換するレベル変換回路である分圧回路14とを有し、制御装置11とインバータ13の間に、プリドライバ37A,37Bと、過電流検出回路38と、過電流保護手段39とが設けられている。
【0020】
図2に示すように、誘起電圧I/F回路12は、3相のそれぞれのモータ端子の電圧(アナログ信号)が入力され、コンパレータ17A〜17Cに入力可能な電圧に分圧する分圧回路(抵抗R1及び抵抗R2)とパルス幅変調信号のノイズを除去する1次のCRフィルタ(抵抗R2及びキャバシタC1)からなるローパスフィルタ回路15A,15B,15Cと、等価中性点電位を検出する回路16と、等価中性点電位と無通電相(開放区間)に現れる誘起電圧のアナログ信号からパルス信号を作成するコンパレータ17A,17B,17Cと、コンパレータ17A〜17Cの出力からチャタリング成分をカットするローパスフィルタ(1次のCRフィルタ)18A,18B,18Cとを有する。
【0021】
ここで、等価中性点電位を検出する回路16は、例えば、U相については、V相とW相のモータ端子電圧から等価中性点電位を検出するような、2相間比較方式を採用している。このようにすると、等価中性点電位として略フラットな電圧が得られる。なお、U、V、Wの3相全ての信号を用いて等価中性点電位を求める3相比較方式を採用しても良い。
この場合は、等価中性点の電位は、電源電圧の1/2を中心にした略三角波になる。
コンパレータ17A〜17Cは、誘起電圧のアナログ信号が等価中性点電位より高いときはローレベルの信号を出力し、誘起電圧のアナログ信号が等価中性点電位より低いときはハイレベルの信号を出力するパルス信号を発生させる。各コンパレータ17A〜17Cでは電気角120°の分解能のパルス信号が作成される。これら信号は、それぞれがローパスフィルタ回路18A〜18Cを経て合成信号生成回路19に入力される。
【0022】
インバータ13は、6個のスイッチング素子を電源20の正負両端子間に2個ずつブリッジ接続して構成される回路であって、電源20から供給された直流電圧を制御装置11から入力されるパルス幅変調信号(駆動信号)に基づく交流電圧に変換し、ブラシレスモータ1の各相に印加する。なお、インバータ13とグランドレベルの間には、シャント抵抗13Aが設けられている。シャント抵抗13Aを用いてインバータ13に流れる電流、つまりブラシレスモータ1に入力される電流は、過電流検出回路38を用いて検出することができる。
分圧回路14は、ブラシレスモータ1の各通電線に発生する端子電圧(例えば、12Vや36Vなど)を2つの抵抗で分圧し、制御装置11で使用可能な電圧レベル(例えば、3Vや5Vなど)にする回路である。
【0023】
制御装置11は、誘起電圧I/F回路12に接続される分離手段21と、励磁切り替えタイミング演算手段22と、回転方向判定手段23と、回転方向検出ロジック選択手段24と、ブレーキ停止手段25と、通電パターン決定手段26と、励磁電圧出力手段27と、PWMデューティ決定手段28と、を有する。また、制御装置11は、分圧回路14に接続され、始動時に使用される方形波パルス電圧幅検出手段29と、方形波パルス電圧幅比較手段30と、ロータ位置推定手段31とを有する。さらに、過電流検出回路38に接続される過電流保護手段32を有する。
【0024】
分離手段21は、誘起電圧I/F回路12から入力されるパルス信号のエッジを誘起電圧のエッジと方形波パルス電圧のエッジとに分離する処理を行う。励磁切り替えタイミング演算手段22は、誘起電圧エッジに応じた励磁位相を算出するために3つの電気角120°の分解能のパルス信号から1つの電気角60°の分解能のパルス信号を生成し、励磁切り替えタイミングを演算する。励磁切り替えタイミング演算手段22には、励磁切り替えタイミングを補正する遅れ位相補正部22Aが設けられている。
回転方向判定手段23は、励磁切り替えタイミングから回転方向を判定し、回転方向検出ロジック選択手段24と、ブレーキ停止手段25に所定の指令を出力する。回転方向検出ロジック選択手段24は、ブラシレスモータ1の回転方向によって分離手段21が使用するロジックを選択可能な場合に使用される。ブレーキ停止手段25は、ブラシレスモータ1を停止させるような通電パターンを通電する際に使用される。
【0025】
通電パターン決定手段26は、定常時励磁手段33と、停止位置検出手段34と、フリーラン制御手段35と、始動時励磁手段36とを有する。定常時励磁手段33は、励磁切り替えタイミング演算手段22が演算した励磁切り替えタイミングでロータ位置に応じた励磁パターンを決定する。停止位置検出手段34は、外部からの始動指令を受けて励磁電圧出力手段27にロータ停止位置を検出するためのパルス幅変調信号を発生させる。始動時励磁手段36は、ロータ位置推定手段31で最小と決定された方形波パルス電圧幅に相当するロータ停止位置に応じた励磁パターンを決定する。フリーラン制御手段35は、始動励磁パターンを所定の初期通電時間Ts1だけ通電させた後、ブラシレスモータ1をフリーランさせてロータ位置を検出する処理を実施する。これらの処理の詳細については、後述する。
【0026】
励磁電圧出力手段27は、ブラシレスモータ1のコイルに励磁電流を印加する信号を各プリドライバ37A,36Bに出力する。Hi側プリドライバ37Aは、PWMデューティ決定手段28が決定したデューティ比で高電位側のスイッチング素子のON/OFFを切り替えるドライバである。Lo側プリドライバ37Bは、低電位側のスイッチング素子のON/OFFを切り替えるドライバである。Hi側プリドライバ37Aには、インバータ13に過電流が流れたときに、過電流保護手段39から信号が入力されると、各スイッチング素子をOFFにする機能を有する。また、過電流が検出されたときには、過電流保護手段32に信号が入力され、ソフトウェア上のリセットがかけられる。
【0027】
方形波パルス電圧幅検出手段29は、分圧回路14から入力される信号から方形波パルス電圧幅を検出する処理を行う。方形波パルス電圧幅検出手段29は、メモリなどの記憶手段29Aを有し、検出した方形波パルス電圧幅のデータをそのときの励磁パターンと関連付けて記憶することができる。方形波パルス電圧幅比較手段30は、方形波パルス電圧幅検出手段29の記憶手段29Aに記憶された複数の方形波パルス電圧幅のデータを比較し、最小となるものを決定する。ロータ位置推定手段31は、方形波パルス電圧幅の比較結果に基づいて停止時や低速時のロータ位置を推定する。
【0028】
次に、この駆動装置2の動作を説明する。
ブラシレスモータ1を始動するときは、ブラシレスモータ1が停止している場合と、ブラシレスモータ1が外部負荷によって回転させられている場合とがある。さらに、ブラシレスモータ1が回転させられている場合には、正回転している場合と、逆回転している場合とがある。例えば、ブラシレスモータ1をラジエータファンの回転機構に使用した場合、ラジエータからエンジンルームに向かう方向に風が吹いている場合には、通電しなくてもラジエータファンの回転に従ってブラシレスモータ1が正回転させられる。これに対して、ブラシレスモータ1が逆回転している場合とは、エンジン側からラジエータの方向に風が吹いているときや、ラジエータファンに対して逆方向に負圧が生じたときが考えられる。
【0029】
駆動装置2をラジエータファンに使用することを想定した場合、ラジエータファンは正転方向に回転し易い構造になっており、逆転方向に回転するためには大きな風力が必要になる。しかしながら、車両の構造から逆方向に大きい風力が発生する可能性は少なく、ラジエータファンが逆回転する場合でも、その回転速度は小さいと考えられる。したがって、この駆動装置2では、ブラシレスモータ1が外部負荷で逆回転しても、その回転数及びトルクは小さいものとして始動時の制御を行う。
【0030】
図3に始動時のブラシレスモータ1の回転速度による始動方法の区分けを模式的に示す。駆動装置2は、横軸に示すブラシレスモータ1の回転速度がゼロを含む領域R1であれば、インダクタンス検出による始動開始処理を実行する。正回転方向に回転速度が領域R1より大きい領域R2であれば、誘起電圧検出によるロータ位置検出を行い、回転制御をする。逆回転方向に回転速度が領域R1より大きい場合には、逆回転状態判別処理と、ロータの停止処理と、インダクタンス検出による始動開始処理を実行する。領域R1と領域R2は、回転速度がN1(rpm)付近で重なっている。回転速度N1は、誘起電圧検出によるロータ位置検出が不能となる低速回転速度に相当する。これは、回転速度がゼロ又は低速であれば、インダクタンス検出により電気角60°の分解能でロータ位置を検出し、正転方向に最大トルクを発生させることが可能な位相で通電を実施することができるのに対し、回転速度が上昇するにしたがって、インダクタンス検出によるロータ位置の検出結果は、電気角60°から位相がずれて検出精度が悪くなるため、起動トルクが停止状態と比較して減少するからである。
【0031】
また、領域R1より小さい、つまり逆回転方向に回転速度が大きい領域R3は、後述するようにブラシレスモータ1にブレーキをかけてからロータ位置の検出を行う。領域R1と領域R3は、回転速度が−N1(rpm)付近で重なっている。
なお、領域R1と領域R2は、重ならずに回転速度N1を境界として区分けしても良い。領域R1と領域R3は、重ならずに回転速度−N1を境界として区分けしても良い。
【0032】
駆動装置2は、最初にブラシレスモータ1の回転速度が領域R1にあると想定して処理を実行し、領域R2に相当する処理を経て定常駆動に移行する。領域R2に相当する処理を実施したときに、ロータ位置検出ができない場合には、ブラシレスモータ1が領域R3にあるとみなし、領域R3に相当する処理からやり直す。このような始動方法の具体例を
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0033】
始動開始指令が停止位置検出手段34に入力されたら、過電流検出を行う(ステップS101)。過電流は、インバータ13のシャント抵抗13Aを流れる電流値でモニタする。シャント抵抗13Aを流れる電流が、所定の値を越えたら、過電流、つまり過負荷状態と判定し(ステップS101でYes)、全相をOFFにして停止処理を実施して(ステップS102)、処理を終了する。過電流が検出されなかった場合には(ステップS101でNo)、インダクタンス検出によるロータ位置の検出処理を実施する(ステップS103)。過電流のチェックは、並列処理される別のプログラムで常時監視しており、ステップS103以降の処理を実施している最中に過電流が検出されたら、その時点で処理が停止される。
【0034】
インダクタンス検出によってロータ停止位置を検出したら、始動時励磁手段36がそのロータ位置に対して最大のトルクを発生可能な位相の始動励磁パターンを決定し、励磁電圧出力手段27が始動励磁パターンを出力する(ステップS104)。初期通電カウンタを起動させ、予め設定した一定の初期通電時間Ts1が経過するまで、前記した位相に通電する(ステップS105)。初期通電時間Ts1が経過したら(ステップS105でYes)、フリーラン制御手段35が全相の通電をOFFにしてフリーランさせる(ステップS106)。慣性でロータ41がフリーランしている間に発生する誘起電圧から、正転専用ロジックを用いてロータ41の位置検出を実施する(ステップS107)。ロータ位置を予め定めた回数検出できたら(ステップS108でYes)、定常時励磁手段33を用いた誘起電圧によるセンサレス駆動(定常駆動モード)に移行する(ステップS109)。
ロータ位置を予め定めた回数検出できないときは(ステップS108でNo)、誘起電圧のエッジ間隔を計測するカウンタが予め設定された回数オーバーフローするまで待つ(ステップS110)。カウンタが所定回数オーバーフローしたら(ステップS110でYes)、回転方向判定手段23はブラシレスモータ1が逆転していると判定する。その結果、ブレーキ停止手段25によるブレーキ処理として、低デューティで2相通電ロック処理を行う(ステップS111)。ブレーキ処理は、予め定められた一定時間実施し、この時間が経過したら(ステップS112)、ステップS101に戻る。
【0035】
ここで、ステップS103からステップS105は、初期の回転速度が領域R1の範囲内にあり、ここから領域R2に加速させるときの処理である。
ステップS103の詳細について説明する。ここでは、コイルが作る磁束の方向と、マグネットの磁束の方向が同方向のときにマグネットのコアの透磁率が大きくなってインダクタンスが小さくなることに着目して停止位置を決定している。
【0036】
停止状態にあるブラシレスモータ1を始動するときは、外部から制御装置11の停止位置検出手段34に始動指令を入力する。停止位置検出手段34は、予め定められた6つの停止位置判定用の励磁パターンをロータが回転しない程度の時間だけ継続されるように励磁電圧出力手段27に指令を出す。なお、ロータが回転しない程度の時間は、ブラシレスモータ1のイナーシャなどによって異なるが、例えば、数μ秒から数m秒の間であり、制御装置11が有するカウンタでカウントされる。励磁電圧出力手段27は、励磁パターンに応じたパルス幅変調信号をインバータ13に出力し、パルス幅変調信号に対応してスイッチング素子がON、OFFされて3相のいずれか2相に通電される。
【0037】
ここで、停止位置検出手段34が指令する停止位置判定用の励磁パターンを
図5に示す。これら励磁パターン#1〜#6は、ブラシレスモータ1を駆動可能なパターンになっている。
励磁パターン#1は、U相のコイル(以下、U相という)からV相のコイル(以下、U相という)に電流を流す。U相がN極磁化され、V相がS極磁化される。U、V、W相の配置及びロータ41の停止位置が図示する配置であった場合には、矢印に示すようにU相からロータ41の永久磁石42のS極、N極を順番に通り、V相に向かう磁束が形成される。
励磁パターン#2は、U相からW相に電流を流す。U相がN極磁化され、W相がS極磁化される。矢印に示すようにU相からロータ41の永久磁石のS極、N極を順番に通り、W相に向かう磁束が形成される。
励磁パターン#3は、V相からW相に電流を流す。V相がN極磁化され、W相がS極磁化される。矢印に示すようにV相からロータ41の永久磁石のS極、N極を順番に通り、W相に向かう磁束が形成される。
励磁パターン#4は、V相からU相に電流を流す。V相がN極磁化され、U相がS極磁化される。矢印に示すようにV相からロータ41の永久磁石のS極、N極を順番に通り、U相に向かう磁束が形成される。
励磁パターン#5は、W相からU相に電流を流す。W相がN極磁化され、U相がS極磁化される。矢印に示すようにW相からロータ41の永久磁石のS極、N極を順番に通り、U相に向かう磁束が形成される。
励磁パターン#6は、W相からV相に電流を流す。W相がN極磁化され、V相がS極磁化される。矢印に示すようにW相からロータ41の永久磁石のS極、N極を順番に通り、V相に向かう磁束が形成される。
【0038】
図6に示すように、この実施の形態でロータ41の停止位置検査は、ステップ0〜11を1セットとする通電制御を行う。各ステップは、制御装置11内のカウンタの値が予め決められた所定値に達するごとにインクリメントされる。ステップをインクリメントするときにはカウンタをその都度リセットする。
ステップ0は、励磁パターン#1を選択してパルス幅変調信号のデューティを100%にして通電する。残りのW相は、開放される。ステップ1では、デューティを0%にしていずれの相にも通電しない。ステップ0が終了してステップ1に移行するとき、インバータ13のスイッチング素子がオフになった瞬間にコイルに蓄えられていた電気エネルギがスイッチング素子の還流ダイオードを介して電流として流れる。このときのV相の端子に方形波パルス電圧が発生する。この端子電圧を方形波パルス電圧として、分圧回路14に取り込んで分圧し、方形波パルス電圧幅検出手段29に入力する。方形波パルス電圧幅検出手段29は、パルスの立ち下がりエッジを検出したときのカウント値を調べる。カウント値は、ステップの切り替えタイミングからの経過時間に相当するので、このカウント値を励磁パターン#1(UV通電)に対する方形波パルス電圧幅として記憶手段29Aに記憶する。
【0039】
ステップ1では方形波パルス電圧幅検出手段29などの処理を実行すると共に、カウンタがカウントアップされる。そして、カウント値がステップ0と同じ所定値になったら、カウンタをリセットしてステップ1からステップ2に進む。ステップ2では励磁パターン#2が用いられ、パルス幅変調信号のデューティを100%にする。残ったV相は、開放にする。ステップ3でデューティを0%にしていずれの相にも通電せずに、W相に発生する方形波パルス電圧のエッジが立ち下がったときのカウント値を調べ、励磁パターン#2(UW通電)に対する方形波パルス電圧幅として記憶手段29Aに記憶する。
ステップ4では励磁パターン#3で通電してU相を開放する。ステップ5でいずれの相にも通電せずに、W相に発生する方形波パルス電圧のパルス幅を調べて励磁パターン#3(VW通電)に対する方形波パルス電圧幅として記憶手段29Aに記憶する。
ステップ6では励磁パターン#4で通電してW相を開放する。ステップ7でいずれの相にも通電せずに、U相に発生する方形波パルス電圧のパルス幅を調べて励磁パターン#4(VU通電)に対する方形波パルス電圧幅として記憶手段29Aに記憶する。
ステップ8では励磁パターン#5で通電してV相を開放する。ステップ9でいずれの相にも通電せずに、U相に発生する方形波パルス電圧のパルス幅を調べて励磁パターン#5(WU通電)に対する方形波パルス電圧幅として記憶手段29Aに記憶する。
ステップ10では励磁パターン#6で通電してU相を開放する。ステップ11でいずれの相にも通電せずに、V相に発生する方形波パルス電圧のパルス幅を調べて励磁パターン#6(WV通電)に対する方形波パルス電圧幅として記憶手段29Aに記憶する。
【0040】
そして、ステップ11に続くステップ12のタイミングで、ロータ位置推定手段31が方形波パルス電圧幅検出手段29の記憶手段29Aに記憶されている各励磁パターン#1〜#6のそれぞれの方形波パルス電圧幅の中から、最小値となる励磁パターンを調べ、その励磁パターンでインダクタンスが最小になるロータ位置をロータ41の停止位置とする。
図5の例では、励磁パターン#6が最も磁束が流れ易いので、この励磁パターン#6の方形波パルス電圧のパルス幅が最も小さくなる。そして、このときのロータ41の位置が停止位置となる。
ロータ位置推定手段31の処理の詳細を具体的に説明すると、予め方形波パルス電圧幅のカウント値が1000以下であることがわかっている場合には、最小値を格納するメモリに初期値として1000より大きい値を格納しておき、励磁パターン#1の方形波パルス電圧幅のカウント値と比較する。カウント値が小さい場合には、最小値のメモリに格納されるデータを初期値から励磁パターン#1のカウント値に置き換える。最小値のメモリのデータと、全ての方形波パルス電圧幅のカウント値を順番に比較し、小さい方のカウント値を最小値のメモリに格納していく。最終的に格納されているカウント値が最小値となり、そのときの励磁パターンが、方形波パルス電圧幅が最小となる励磁パターンになる。
【0041】
ステップS104の詳細について説明する。始動時励磁手段36は、方形波パルス電圧幅が最小になる励磁パターンから回転方向に120°遅角させた励磁パターンを始動時の励磁パターンとして選択する。このことについて、
図7に具体例をあげて説明する。
図7は、横軸を位相(電気角)とし、縦軸をトルクにしている。ラインL1は、コギングトルクを示し、ラインL2〜L4はそれぞれ通電パターン#6、#1、#2における位相とトルクの関係を示す。例えば、W相からV相に通電する励磁パターン#6で方形波パルス電圧幅が最小であった場合、励磁パターン#6を始動励磁パターンにすると、電気角0°でのトルクがゼロなのでブラシレスモータ1を回転させることができない。電気角0°において正のトルクが大きいのは、1つ進んだ励磁パターン#1(60°位相遅れ通電)と、2つ進んだ励磁パターン#2(120°位相遅れ通電)である。しかしながら、ラインL3に示す励磁パターン#1で始動させると、その後トルクが減少するのでロータ41を回転させる力は小さい。これに対して、ラインL4に示す励磁パターン#2で始動すると、その後トルクが増大するので大きい力でロータ41を回転させることができる。
【0042】
ここまでの各処理について、
図8を参照してさらに詳細に説明する。
図8は、横軸に時間経過をとっており、縦方向に各種の情報が並んで配置されている。なお、最も上側に示されているホールセンサ合成信号は、ホールセンサが取り付けられていた場合にホールセンサの出力として想定される信号である。
時間t1で始動信号が入力されたら、時間t2までの間にロータ停止位置検出処理(ステップS103)が行われる。この間の回転速度はゼロである。
【0043】
時間t2でロータ停止位置を決定したら、シャント抵抗13Aの電流波形に示すように、始動時励磁手段36が初期通電時間Ts1の間だけ始動励磁パターンを継続して通電させる(ステップS104)。この間、ロータ41の回転速度が徐々に増大する。
ここで、初期通電時間Ts1は、通電をOFFにした後で誘起電圧のエッジが複数回、例えば、4回以上発生するまでの間、ロータ41を回転速度N1以上でフリーランさせることができるだけロータ41を加速できる時間である。この観点からは、初期通電時間Ts1が長いことが望ましい。しかしながら、初期通電時間Ts1が長すぎて通常運転時における励磁パターンの切り替え位置を越えて同じ励磁パターンを継続すると、逆トルクが発生してしまってロータ41を減速させてしまう。したがって、初期通電時間Ts1は、逆トルクが発生しない範囲内で、できるだけ長い時間とすることが好ましい。初期通電時間Ts1の決定方法の一例としては、設計段階や製造段階でブラシレスモータ1をホールセンサ付きで始動させ、最初にホールセンサの信号が切り替わるまでの時間を測定し、これと略同じ時間又はこれより短い時間を初期通電時間Ts1として制御装置11に記憶させることがあげられる。
【0044】
時間t3で初期通電時間Ts1が経過したら、フリーラン制御手段35が全相への通電をOFFにする(ステップS106に相当)。シャント抵抗13Aで計測される電流値がゼロになり、ロータ41がフリーランする。以降は、時間の経過と共に回転速度がゆるやかに減少する。時間t3では、各位置信号にパルスが現れている。このため、3相合成信号の立ち上がりエッジに対応して、励磁切り替えタイミング信号に1つ目の信号SL1が発生している。このときパルス信号は、ステータのコイルに蓄積されたエネルギがフライホイールパルスとして放出されときに、3相全てのモータ端子電圧に方形波パルス電圧が発生することに起因して発生している。通常駆動の場合はこれらの方形波パルス電圧は分離手段21により無視できるが、時間t3では全相をOFFするロジックなので、通常駆動時には在り得ない例外状態となるため、方形波パルス電圧を無視できずに誤検出となる。このため、始動後の1回目の信号SL1はロータ位置の検出には使用しない。
さらに、ロータ41がフリーランすることで、ロータ41の回転位置に応じて所定の相のモータ端子に誘起電圧が発生する。この場合には、W相位置信号、U相位置信号、V相位置信号の順番に立ち上がりエッジ、又は立ち下がりエッジが発生している。その結果、励磁切り換えタイミング信号は、W相のエッジに起因する2回目の信号SL2と、U相のエッジに起因する3回目の信号SL3と、V相のエッジに起因する4回目の信号SL4とが発生する。なお、全相をOFFにすることで、インバータ13からブラシレスモータ1に入力されるパルス幅変調信号などの不要な信号成分がない状態で誘起電圧と等価中性点電位の交点を計測できるようになるので、ロータ位置を正確に検出できる。
【0045】
この間、励磁切り替えタイミング演算手段22は、2回目の信号SL2と3回目の信号SL3の時間間隔を計測して電気角60°を算出する。さらに、3回目の信号SL3と4回目の信号SL4の時間間隔を計測して電気角60°を算出する。これら時間間隔に基づいて、4回目の信号SL4から例えば電気角30°進角させるなどして、励磁切り替えタイミングを算出する。そして、以降は、モータ端子電圧と等価中性点電位の比較結果から生成される3相合成信号に基づいて励磁切り替えタイミングを決定し、通電パターンの切り替え制御を行うことで、ブラシレスモータ1の同期運転が行われる。ホールセンサを有する場合の電気角120°矩形波駆動と同等性能の駆動が可能になって、回転速度が制御される。
【0046】
なお、イナーシャが大きいブラシレスモータでは、5回目以降の信号を取得し、同様にして時間間隔から励磁通電タイミングを算出しても良い。始動時の安定性や、正確性をさらに向上できる。
また、イナーシャが大きいブラシレスモータでは、2〜3回目の信号SL2,SL3の時間間隔と、3〜4回目の信号SL3,SL4の時間間隔が略等しい。このため、2〜3回目の信号SL2,SL3の時間間隔のみでセンサレス駆動に移行しても良い。このようにすると、さらに短い時間で定常的な運転を開始することができる。また、1回目の信号SL1と2回目の信号SL2の時間間隔だけを取得してセンサレス駆動に移行しても良い。イナーシャが小さいブラシレスモータに有効である。この場合は、初期通電時間SL1は予め設定された値を用いており、SL2のタイミングを検出した時点でSL1とSL2の時間間隔を演算し、それをロータ位置信号として使用することができるので、2回目の信号SL2まででセンサレス駆動に移行できるようになる。
また、イナーシャが小さいブラシレスモータでは、減速が大きくなって2〜3回目の信号SL2,SL3の時間間隔より、3〜4回目の信号SL3,SL4の時間間隔の方が大きくなる。この場合には、時間間隔の変化から加速度を算出し、この加速度を用いて次の時間間隔を推定することで励磁通電タイミングを算出しても良い。
【0047】
さらに、この始動方法では、モータ始動時に電流を抑制しながら起動する方法(以下、ソフトスタートという)を実施している。例えば、
図9に示すように、始動時は、パルス幅変調信号(PWM)のデューティを50%にして電流を抑制し、その後回転速度を上昇させ、初期通電時間Ts1が経過したら、一旦デューティを0%にして、フリーランさせる。フリーランが終了したら、再びデューティを50%にし、そこからデューティを徐々に増加させ、最終的にデューティが100%に達しときに回転速度が目標値(例えば、最大回転数)に達するようにする。これによって、始動時に過電流が流れることを防止することができ、ブラシレスモータ1が搭載されているシステム全体の安定性を高めることができる。
【0048】
ステップS109の誘起電圧によるセンサレス駆動(定常駆動モード)の詳細について説明する。
定常駆動モードでは、モータ端子の誘起電圧を検出してロータ位置を検出するが、誘起電圧波形には方形波状のスイッチングパルス(方形波パルス電圧)が重畳するので、このようなノイズを除去する必要がある。この実施の形態では、各相のロータ位置信号に相当するエッジを検出したときに、他相のレベル検出を行って、ロータ位置信号と方形波パルス電圧とを区別している。この際に使用される正転専用ロジックは、表1に示す誘起電圧信号検出ロジックと、表2に示す方形波パルス電圧終了エッジ判定ロジックとからなる。
なお、正転専用ロジックは、
図1に示す回転方向判定手段23がブラシレスモータ1が正転していると判定する場合に、回転方向検出ロジック選択手段24の指令によって分離手段21が参照する。
【0051】
定常駆動モードで通電制御しているときの信号波形を
図10に示す。
図10は、横軸に電気角をとり、縦軸は上側から各固定子巻線U,V,Wへの通電状態と、各固定子巻線U,V,Wの実際の誘起電圧波形Uv、Vv、Wv(アナログ信号)と、各固定子巻線U,V,Wの誘起電圧信号Ud,Vd,Wd(デジタル信号)とが図示されている。最上段の各固定子巻線U,V,Wへの通電状態は、上段で「+」が付加されている固定子巻線U,V,Wが高電位側で、下段で「−」が付加されている固定子巻線U,V,Wが低電位側であることを示している。つまり、電気角0°から60°までの間の「W+」「V−」は、固定子巻線Wから固定子巻線Vに通電することを示す(
図5における通電パターン#6と同等)。また、例えば、誘起電圧波形Uvにおいて、電気角0°で立ち上がるパルスや、電気角180°で立ち下がるパルスが方形波パルス電圧Psであり、これら方形波パルス電圧Psがこの実施の形態において除去対象となる信号である。
【0052】
また、
図11はマスク信号の生成過程及び位置検出信号の生成過程を模式的に示す図である。なお、
図11は、横軸に電気角をとり、縦軸は上側から各固定子巻線U,V,Wの誘起電圧信号Ud,Vd,Wd(
図10と同じ信号)と、固定子巻線U,V,Wの位置検出信号Us、Vs、Wsと、電気角30°位相シフトした後の位置検出信号Uss、Vss、Wssと、固定子巻線Uの方形波パルス電圧信号Um、固定子巻線Vの方形波パルス電圧信号Vm、固定子巻線Wの方形波パルス電圧信号Wmとが順番に図示されている。
【0053】
図10に示す各固定子巻線U,V,Wの誘起電圧波形Uv、Vv、Wvは、誘起電圧I/F回路12(
図1参照)に入力され、ローパスフィルタ回路15A〜15Cの分圧回路によりコンパレータ17A〜17Cに入力可能な電圧Uv2、Vv2、Wv2に分圧される。その後、ローパスフィルタ回路18A〜18CによりPWMノイズを除去した後の誘起電圧信号Uv3、Vv3、Wv3を生成し、これらの電圧値から等価中性点電圧が得られる。この等価中性点電圧と誘起電圧波形Uv3とをコンパレータに入力すると、誘起電圧信号Udが得られる。同様にして、アナログ信号の誘起電圧波形Vv3,Wv3からデジタル信号の誘起電圧信号Vd,Wdが得られる。これら、誘起電圧信号Ud,Vd,Wdは、制御装置11の分離手段21に入力され、以下の処理によって通電切り替えタイミングが生成される。
【0054】
分離手段21は、誘起電圧信号Ud,Vd,Wdのパルス信号から、方形波パルス電圧Psのエッジとロータ41の回転により生じる誘起電圧のエッジとを分離し、回転子位置検出部23がロータ41の回転により生じる誘起電圧の情報からなる位置検出信号Us,Vs,Wsを作成し、励磁切り替えタイミング演算手段22に受け渡たす。励磁切り替えタイミング演算手段22では、
図11に示す位置検出信号Us,Vs,Wsのエッジ(誘起電圧エッジ)の間隔Teをカウントする。具体的には、位置検出信号Us,Vs,Wsのすべてのエッジをトリガーとしてカウンタによる計測を開始し、次にいずれかの位置検出信号Us,Vs,Wsのエッジが検出されたらカウント値をクリアすると同時に次のカウントを開始する。ここで、ブラシレスモータ1が回転しているときには、誘起電圧エッジの間隔Teは、電気角60°ごとに発生するので、誘起電圧の発生間隔を示すカウント値からロータ41の回転速度や加速度を演算し、これに応じて次に通電を切り替えるタイミングを補正し、その分だけ位置検出信号Us,Vs,Wsの位相をシフトして位相検出信号Uss,Vss,Wssを生成する。そして、励磁電圧出力手段27が、これら位相検出信号Uss,Vss,Wssに従ってインバータ13を制御し、各固定子巻線U,V,Wへの通電を切り替えてブラシレスモータ1のロータ41を回転させる。
【0055】
ここで、励磁電圧出力手段27にはマスク信号生成手段27Aを備えており、マスク信号生成手段27Aは、励磁電圧出力手段27がインバータに通電パターンを出力する直前に分離手段21にマスク信号を出力する。
例えば、
図11の例では、固定子巻線Uの位置検出信号Ussのエッジの発生タイミングの直前に、固定子巻線Wのマスク信号WmをH(High)レベルに設定する。同様に、固定子巻線Vの位置検出信号Vssのエッジエッジの発生タイミングの直前に、固定子巻線Uのマスク信号UmをH(High)レベルに設定する。固定子巻線Wの位置検出信号Wssのエッジの発生タイミングの直前に、固定子巻線Vのマスク信号VmをH(High)レベルに設定する。これら各マスク信号Um,Vm,Wmの信号レベルは所定の電気角の間維持された後にL(Low)レベルに変更される。
【0056】
なお、マスク信号Um,Vm,Wmのパルス幅を決定する電気角は、常にTeの計測値から予めメモリされている角度を算出する。具体的には、通常負荷で回転させたときの方形波パルス電圧Psのパルス幅よりも大きく、かつマスク信号のパルスで誘起電圧波形Uv,Vv,Wvと等価中性点電圧との交点がマスクされないような値、0°<θ<30°が用いられる。
【0057】
以降は、誘起電圧I/F回路12から入力される誘起電圧信号Ud,Vd,Wdに対して、マスク信号Um,Vm,Wmで方形波パルス電圧Psのパルスを除去して位置検出信号Us,Vs,Wsを作成し、ブラシレスモータ1の通電制御を行う。
【0058】
ここで、方形波パルス電圧Psのパルス幅は、負荷の大きさや、回転速度によって変化する。これに対して、マスク信号Um,Vm,Wmは、一定のパルス幅なので、マスク信号Um,Vm,Wmで方形波パルス電圧Psのパルスを完全にマスクできる場合と、マスクしきれない場合とが生じる。
【0059】
まず、方形波パルス電圧Psのパルス幅がマスク幅以下の場合には、
図12に示すように、方形波パルス電圧Psの開始エッジ及び終了エッジの両方をマスクすることができる。この場合には、分離手段21は、表1に示すような誘起電圧信号検出ロジックに従って、誘起電圧信号Ud,Vd,Wdから位置検出信号Us,Vs,Wsを作成する。
【0060】
なお、
図12において、電気角θ1から始まる方形波パルス電圧Psの立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジは、マスク信号UmがHレベルであるので無視される。電気角θ2における立ち上がりエッジは、表1の立ち上がりエッジの誘起電圧信号Udについての条件を満たすので、固定子巻線Uの誘起電圧の立ち上がりエッジとみなされる。同様に、電気角θ3から始まる方形波パルス電圧Psの立ち下がりエッジ及び立ち上がりエッジは、マスク信号UmがHレベルであるので無視される。電気角θ4における誘起電圧信号Udの立ち下がりエッジは、表1の立ち下がりエッジの誘起電圧信号Udについての条件を満たすので、固定子巻線Uの誘起電圧の立ち下がりエッジとみなされる。同様にして他の誘起電圧信号Vd,Wdについても、表1の誘起電圧信号検出ロジックに従って誘起電圧の立ち上がりエッジと立ち下がりエッジとを判定し、位置検出信号Us,Vs,Wsを作成する。
【0061】
これに対して、
図13に示すように、方形波パルス電圧Psのパルス幅がマスク幅を越える場合には、方形波パルス電圧Psの開始エッジはマスクできるが、方形波パルス電圧Psの終了エッジはマスクすることができない。このような場合に、分離手段21は、は、表1に示すような誘起電圧信号検出ロジックに加えて、表2に示すような方形波パルス電圧終了エッジ判定ロジックを参照して誘起電圧エッジを分離し、位置検出信号Us,Vs,Wsを作成する。
【0062】
図13において、電気角θ1から始まる方形波パルス電圧Psの立ち上がりエッジは、マスクされるが、同じ方形波パルス電圧Psの立ち下がりエッジは、マスクできないので、表1及び表2に示す立ち下がりエッジの条件を満たすか否かを調べる。この場合には、表2の立ち下がりエッジの誘起電圧信号Udについての条件を満たすので、方形波パルス電圧Psのエッジであるとみなし、この信号を除去した上で位置検出信号Usを作成する。電気角θ2のエッジは、前記のように表1の条件を満たすので、誘起電圧エッジとする。同様に、電気角θ3から始まる方形波パルス電圧Psの立ち下がりエッジは、マスク信号Umによって除去され、同じ方形波パルス電圧Psの立ち上がりエッジは、表2の立ち上がりエッジの誘起電圧信号Udについての条件を満たすので除去する。このようにして、マスク信号Umで除去しきれない方形波パルス電圧Psのパルスがあった場合には、他の誘起電圧信号Vd,Wdの電圧レベルの高低を調べて表1及び表2の条件に当てはめることで除去の要否を判定し、方形波パルス電圧Psによる信号を除去して位置検出信号Usを作成する。さらに、同様にして、位置検出信号Vs,Wsを作成する。
【0063】
ここで、位相検出信号Uss,Vss,Wssを生成する際に、通電を切り替えるタイミングを補正する処理について説明する。補正は、励磁切り替えタイミング演算手段22に設けられた遅れ位相補正部22Aで実施する。補正の対象となる遅れ位相を
図14に示す。
図14は、U相における励磁タイミングと遅れ位相θ1、θ2を模試的に示している。遅れ位相θ1は、誘起電圧I/F回路12のローパスフィルタ回路15A〜15Cに起因する回転速度によって変化する。遅れ位相θ2は、コンパレータ17A〜17Cから後段の誘起電圧I/F回路12、すなわちコンパレータ17A〜17Cとローパスフィルタ18A〜18Cによる遅れ成分θ2aと、制御装置11のマイコンの処理遅れ時間θ2bの和(θ2=θ2a+θ2b)であり、駆動装置2に固有の値である。したがって、遅れ位相補正部22Aは、遅れ位相θ1を補正するフィルタ遅れ位相補正手段、及び遅れ位相θ2を補正する回路遅れ位相補正手段として機能する。
【0064】
まず、フィルタ遅れ位相補正手段としての遅れ位相補正部22Aの処理について説明する。
図15に示す範囲R4がブラシレスモータ1の回転速度の制御範囲である場合、ローパスフィルタ回路15A〜15Cは、範囲R4より高い周波数領域にカットオフ周波数fcが設定される。
図15は、横軸を周波数の対数表示をし、縦軸を位相にしたボード線図である。カットオフ周波数fcのローパスフィルタ回路15A〜15Cを通った誘起電圧信号には遅れ位相θ1が生じる。遅れ位相θ1は、高周波数になる程、大きくなる。
【0065】
ローパスフィルタ回路15A〜15Cの伝達関数G(s)は、τ(=C×R)を用いると次式で表せる。
G(s)=1/(τs+1) (1)
式(1)から、遅れ位相θ1〔rad〕は、
θ1=−arctan(ωτ) (2)
【0066】
ここで、角加速度ωは、回転速度に相当するモータ端子電圧の基本周波数fの関数として表すことができるので、
θ1=−arctan(2πτ×f) (3)
となる。単位を〔°〕に変換し、遅れにとると、
θ1=arctan(2πτ×f)×360/2π (4)
となる。電気角60°回転するのに要する時間をTaとすると、1/f=6Taなので、θ1=arctan(2πτ/6Ta)×360/2π (5)
式(5)からフィルタ15A〜15Cによる遅れ位相θ1を算出できる。遅れ位相θ1は、式(5)からその都度計算しても良いが、この実施の形態では遅れ位相補正部22Aにマップ登録しておき、時間Taで検索して遅れ位相θ1を求める。
【0067】
次に、回路遅れ位相補正手段としての遅れ位相補正部22Aの処理について説明する。
遅れ位相θ2は、のフィルタ15A〜15C以外のその他の回路及びソフトウェア処理によって発生する。この遅れ位相θ2は、コンパレータ17A〜17C、ローパスフィルタ回路18A〜18C、マイコンなどに起因して発生する。このときの遅れ時間T2は、回転速度に依らず一定値である。したがって、電気角60°回転するのに要する時間Taに対する遅れ時間T2の割合から遅れ位相θ2を算出できる。
θ2=(T2/Ta)×60〔°〕 (6)
【0068】
(式6)からは、遅れ時間T2が一定なので、回転速度が上昇して時間Taが短くなると、T2/Taの値が大きくなって、遅れ位相θ2が大きくなることがわかる。なお、式(6)もマップ化しておくと、計算をスムーズに行える。
【0069】
以上から、励磁を切り替えるタイミングEwは、
Ew=30−(θ1+θ2) (7)
になる。マップを使用してタイミングEwを補正することで、タイミングEwを速やかに演算できる。さらに、補正したタイミングEwを使用することで、回転速度に依らずに励磁を精度良く切り替えられる。
【0070】
次に、始動時に回転速度が既に領域R2にあるときについて説明する。
図16に示すように、始動前の状態が前記したフリーラン状態と同じになる。
図4のフローチャートに従ってステップS103からステップS106の処理を実施してもフリーランしている回転状態への影響は少なく、フリーラン状態を維持できる。したがって、ステップS108からステップS109に進んで、定常駆動モードに移行する。
【0071】
始動時に回転速度が領域R3にあるときについて説明する。
図4のステップS101からステップS107を実施しても、逆回転しているロータ41の誘起電圧波形では、正転専用ロジックでロータ位置信号を抽出することはできない。
したがって、ロータ位置信号が例えば1〜9秒程度の所定の時間の間、検出できないときは(ステップS110に相等)、回転方向判定手段23が逆転状態
であると判定する。
この場合、
図1に示す制御装置11は、ブレーキ停止手段25が2相ロック通電を一定の時間、過電流にならない程度の低いデューティでブラシレスモータ1に印加させる。ラジエータファンにはブレーキとして働き、ラジエータファンの回転速度が小さくなって、停止状態に近くなる。
図17に示すように、2相ロック通電を継続する時間は、予め設定されたブレーキ通電時間で、例えば、1〜9秒程度である。これによって、ブラシレスモータ1の回転速度は、−N1からゼロに近付く。前記したように、ラジエータファンは、逆回転している場合に回転数及びトルクは小さいからである。
【0072】
ブレーキ通電時間が経過したら、インダクタンス検出を用いた始動処理を実施する。ラジエータファンは、フリクションが大きいシステムなので機械的な時定数は大きく、逆回転中に強制的に停止させた場合、風力によって再び逆方向に回転し始めるまでには時間がかかるため、回転速度が領域R1に留まっているからである。以降は、前記したステップS103からステップS108を実施し、定常駆動モードに移行する。
【0073】
この実施の形態によれば、2相通電を行うことで、インダクタンスの大小を方形波パルス電圧幅から調べることが可能になる。パルス幅は、従来のように電圧の立ち上がり時間を測定する場合に比べて測定し易く、特別な回路を付加する必要がない。装置構成を簡略化でき、製造コストの低減が図れる。
コイルが作る磁束とマグネットが作る磁束が同じ方向の場合、つまりコイルとマグネットの間で磁束が流れ易いようなロータ位置ではインダクタンスが小さくなることに着目したので、従来の方法に比べて精度良く、かつ安定してロータ停止位置を検出することができる。
方形波パルス電圧を発生させる励磁パターンの順番、つまりロータ停止位置の検索順番において、N極磁化からS極磁化に変化させる場合には、その間に無通電となるような励磁パターンを実行するような切り替え順番にしたので、コイルを巻装する鉄心の残留磁化の影響を受け難くなってインダクタンスの検出精度を向上させることができる。
【0074】
なお、ロータ位置推定手段31は、方形波パルス電圧幅の最小値を調べる代わりに最大値を調べても良い。この場合、方形波パルス電圧幅検出手段29は、最も大きいパルス幅をそのときの励磁パターンと関連付けて記憶手段29Aに記憶する。始動時励磁手段36は、パルス幅の最大値を与える励磁パターンから回転方向に60°遅れた通電パターンを始動時励磁手段36で選択してブラシレスモータ1を始動させる。例えば、
図5に示す例では、励磁パターン#3が最も磁束が流れ難く方形波パルス電圧幅が大きくなるので、1つ前の励磁パターン#2が始動励磁パターンに決定される。
【0075】
また、方形波パルス電圧幅を複数回ずつ測定しても良い。例えば、2回ずつ測定する場合の処理を
図18を参照して説明する。この場合の停止位置検査では、0〜23の24個のステップを1セットとして通電制御を行い、25番目のステップ24で停止位置を推定する。ステップ0及びステップ1で励磁パターン#1を通電した後に開放し、W相に発生する方形波パルス電圧のパルス幅をカウントする。ステップ2及びステップ3ではそれぞれステップ0およびステップ1と同じ処理を繰り返す。ステップ4及びステップ5と、ステップ6及びステップ7は励磁パターン#2について同様の処理を行う。以降、ステップ23まで、各励磁パターン#3〜#6について同じ方形波パルス電圧幅のカウントを2回ずつ順番に行う。
【0076】
方形波パルス電圧幅検出手段29は、記憶手段29Aに2回ずつ測定した方形波パルス電圧幅(カウント値)の全て、又は2回目に測定した方形波パルス電圧幅(カウント値)のみをそのときの励磁パターンと関連付けて記憶する。ステップ24の停止位置推定処理は、2回目に測定した方形波パルス電圧幅の大小を前記と同様に比較する。最小となる方形波パルス電圧幅の励磁パターンが始動励磁パターンに決定される。
このようにすると、ブラシレスモータ1がコイル鉄心の残留磁化の影響を受け易い構成である場合に、残留磁化の影響をさらに低減させ、インダクタンスの検出精度を向上させることができる。
【0077】
ここで、停止位置推定処理は、同じ励磁パターンに対して複数回測定した方形波パルス電圧幅(カウント値)の平均値を算出し、平均値同士で大小を前記と同様に比較しても良い。平均化処理を行うことで、インダクタンスの検出精度をさらに向上させることができる。方形波パルス電圧幅を複数回取得する場合でも、最小値の代わりに最大値を調べることでロータ停止位置及び始動励磁パターンを決定しても良い。
【0078】
また、この実施の形態では、ブラシレスモータ1の始動時にフリーラン状態を作り出すようにしたので、全相が開放状態になって回転し始めたロータ41の位置検出をノイズが無い状態で行うことが可能になる。このため、ロータ位置を速やかに、かつ正確に検出することができる。
フリーランさせるまでの通電時間(Ts1)は、逆トルクが発生しない範囲内にしたので、フリーラン中にロータ41が大きく減速することがなく、ロータ位置を正しく検出することができる。
フリーラン時に発生する1回目の信号SL1を使用せずに、2回目以降の信号SL2〜SL4を使用すると、1回目に方形波パルス電圧に起因する信号が発生した場合でも正しい検知が可能になる。
【0079】
ここで、このようなブラシレスモータ1は、例えば、ファンモータや、燃料ポンプのモータなど、イナーシャが大きいモータ、コギングトルクが無いスロットレスモータ、摩擦やコギングトルク等による損失が少ない低損失モータがあげられる。スロットレスモータでは、スロットのコアがないことからインダクタンス検出によるロータ停止位置の検出ができない。しかしながら、イナーシャが極めて小さいことから、ロータの停止位置を検出する際の通電で所定の回転位置に容易に吸い付けることができるので、そのような方法で停止位置を決めて、そこから電気角120°位相が遅れた通電パターンを始動励磁パターンに選択すれば良い。このように、ロータ停止位置の検出方法や、始動励磁パターンの決定方法は、インダクタンスに基づく方法に限定されずに種々の方法を使用することができる。
【0080】
また、この実施の形態によれば、ブラシレスモータ1を始動させるときに、ロータ41が逆回転している場合でも、ブレーキ処理を行うことでコイルのインダクタンスを用いたロータ位置の検出が可能になる。ここからブラシレスモータ1を始動させて、120°通電による定常運転に速やかに移行することが可能になる。ブラシレスモータ1の無通電時に風などの影響でロータ41が正回転・逆回転している状態や、停止している状態のそれぞれに対応した始動制御を行うことで、ブラシレスモータ1を確実に起動できる。例えば、自動車などのエンジン冷却システムのラジエータファンの駆動用にブラシレスモータ1を用いた場合には、システムの信頼性を高めることができる。
【0081】
(第2の実施の形態)
この実施の形態は、正転専用ロジックに加えて逆転専用ロジックを使用することを特徴とする。装置構成は、第1の実施の形態と同様である。
図19に始動時の動作のフローチャートを示す。ステップS101からステップS108まで、すなわち、始動開始時のブラシレスモータ1の回転速度が
図3の領域R1又は領域R2にあるときの処理は、第1の実施の形態と同じである。始動時の回転速度が領域R3にあるときは、ステップS108からステップS110Aに進む。
【0082】
ステップS110Aでは、誘起電圧を検出して逆転専用ロジックを使用してロータ位置検出を行う。逆転専用ロジックは、回転方向判定手段23が逆転と判定するときに回転方向検出ロジック選択手段24によって選択されるもので、表2に示す誘起電圧信号検出ロジックと、表1に示す方形波パルス電圧終了エッジ判定ロジックとからなり、分離手段21に登録されている。このような逆転専用ロジックを用い、各相のロータ位置信号に相当するエッジを検出したときに、他相のレベル検出を行って、ロータ位置信号とスイッチングパルスとを区別し、ロータ位置を検出する。ここでの処理は、使用するロジックが異なる以外は、第1の実施の形態における定常駆動モードと同様である。
【0083】
ロータ位置検出処理を実施し、実際にロータ位置検出信号が得られたら(ステップS110BでYes)、ステップS111以降の処理を実施する。逆回転であることが確認できれば良いので、ロータ位置検出信号は、1回以上発生していれば良い。ステップS111以降の処理は、第1の実施の形態と同じである。
これに対して、ロータ位置検出信号が得られなかった場合は(ステップS110BでNo)、一定時間待機してから(ステップS110CでYes)、ステップS111に進む。
【0084】
この実施の形態では、逆転専用ロジックを使用することで逆回転状態にあることを確実に検出できる。その他の効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0085】
(第3の実施の形態)
この実施の形態は、最初にブレーキ処理を実施することを特徴とする。
図20に示すように、過電流検出処理(ステップS101)を行なった後、低デューティでの2相通電ロック処理を実施する(ステップS102A)。ブレーキ時間は、一定時間とする(ステップS102B)。これらの処理は、第1の実施の形態におけるステップS111,S112に相当する処理である。始動時にブラシレスモータ1の回転速度がいずれの領域R1〜R3にある場合でも、ブレーキ処理によって強制的に領域R1に制御されるようになる。以降の処理は、第1の実施の形態と同じある。
また、
図21に示すように、逆転専用ロジックを使用する場合(ステップS110Aに相当)についても、最初にステップS102A,S102Bでブレーキ処理を行うことで、ブラシレスモータ1の回転速度がいずれの領域R1〜R3にある場合でも、ブレーキ処理によって強制的に領域R1に制御されるようになる。
【0086】
なお、本発明は、前記の実施の形態に限定されずに広く応用することができる。
例えば、電源電圧が変動する場合など、端子電圧が変動する場合には、分圧回路14の代わりにレベル変換回路を使用することが望ましい。レベル変換回路は、トランジスタやFET、コンパレータなどを使用し、電源電圧に応じて端子電圧を下げられるように構成される。
始動時の通電制御は、シャント抵抗13Aから電流値をモニタし、所定値以上にならないように制御すれば良く、デューティ50%に限定されない。
初期通電時間Ts1は、電圧・電流方程式、位置・トルク方程式に所定の物理定数を代入して求めたり、シミュレーションで決定しても良い。
【0087】
初期通電時間Ts1だけではロータ位置検出に十分な回転速度まで加速できない場合には、数回のオープンループによる強制通電を実施して十分に加速した後にフリーラン状態に移行させても良い。例えば、
図22に示すように、ホールセンサを用いて1回目の通電切り替えのタイミング(初期通電時間Ts1)を決定すると共に、2回目の通電切り替えのタイミング(通電時間Ts2)と、3回目の通電切り替えのタイミング(通電時間Ts3)も測定し、これら通電時間Ts1〜Ts3をプログラムとして制御装置11に記憶させる。始動時には、始動励磁パターンを初期通電時間Ts1だけ継続した後に、始動励磁パターンの次の励磁パターンを時間Ts2だけ継続し、さらに次の励磁パターンを時間Ts3だけ継続した後に全相の通電をOFFにしてフリーランさせる。
なお、
図7において、始動時にブラシレスモータ1を逆転させるときには、120°進んだ励磁パターンを始動時の励磁パターンとして選択する。