(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炉外部空間は、前記成形炉の前記内部空間の天井面に対して上方に位置する上部空間を有し、前記上部空間は、前記上部空間から前記炉内部空間に空気が流入しないように、前記上部空間の気圧は調整されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明のガラス板の製造方法及び製造装置について説明する。
本明細書における下記語句は、以下のように定める。
ガラスリボンの中央部とは、ガラスリボンの幅方向の幅のうちガラスリボンの幅方向の中心をいう。
ガラスリボンの端部とは、ガラスリボンの幅方向の縁から100mm以内の範囲をいう。
歪点温度とは、ガラス粘度をηとしたとき、logηが14.5であるガラス板の温度をいう。
徐冷点温度とは、logηが13のガラス板の温度をいう。
図1は、本実施形態であるガラス板の製造方法のフローを示す図である。
【0029】
(ガラス板の製造方法の全体概要)
ガラス板の製造方法は、溶解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積層された複数のガラス板は、納入先の業者に搬送される。
【0030】
図2は、溶解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行うガラス板の製造装置を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に溶解装置200と、成形装置300と、切断装置400と、を有する。溶解装置200は、溶解槽201と、清澄槽202と、攪拌槽203と、第1配管204と、第2配管205と、を有する。成形装置300については後述する。
【0031】
溶解工程(ST1)では、溶解槽201内に供給されたガラス原料を、図示されない火焔および電気ヒータで加熱して溶解することで溶融ガラスを得る。
清澄工程(ST2)は、清澄槽202において行われ、清澄槽202内の溶融ガラスを加熱することにより、溶融ガラス中に含まれる酸素やSO
2の気泡が、清澄剤の酸化還元反応により成長し液面に浮上して気泡のガス成分が放出される、あるいは、気泡中のガス成分が溶融ガラス中に吸収されて、気泡が消滅する。
均質化工程(ST3)では、第1配管204を通って供給された攪拌槽203内の溶融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。
供給工程(ST4)では、第2配管205を通して溶融ガラスが成形装置300に供給される。
【0032】
成形装置300では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、溶融ガラスを、成形炉内に設けられた成形体に供給してガラスリボンG(
図3参照)を成形する。本実施形態では、後述する成形体310を用いたオーバーフローダウンドロー法を用いる。徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるガラスリボンGが所望の厚さになり、平面歪が生じないように、さらに、熱収縮率が大きくならないように、ローラで牽引されて冷却される。
切断工程(ST7)では、切断装置400において、成形装置300から供給されたガラスリボンGを所定の長さに切断することで、板状のガラス板G1(
図3参照)を得る。切断されたガラス板G1はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス板G1を作る。この後、ガラス端面の研削・研磨が行われた後、洗浄が行われ、さらに、気泡や脈理等の異常欠陥の有無が検査された後、検査合格品のガラス板G1が最終製品として梱包される。
【0033】
(成形装置の説明)
図3及び
図4は、ガラス板の成形装置300の構成を主に示す図であり、
図3は主に成形装置300の概略の側面図を示し、
図4は成形装置300の概略の正面図を示す。
成形装置300で成形されるガラス板は、例えば、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板あるいはカバーガラスに好適に用いられる。フラットパネルディスプレイ用ガラス基板としては、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板、有機ELディスプレイ用ガラス基板、酸化物半導体薄膜トランジスタが形成されるディスプレイ用ガラスが挙げられる。成成形装置300で成形されるガラス板は、その他、携帯端末機器などのディスプレイや筐体用のカバーガラス、タッチパネル板、太陽電池のガラス基板やカバーガラスとしても用いることができる。特に、ポリシリコンTFTを用いた液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。
【0034】
成形工程(ST5)を行う成形炉40および徐冷工程(ST6)を行う徐冷炉50は、耐火レンガ、耐火断熱レンガ、あるいはファイバー系断熱材等の耐火物で構成された炉壁に囲まれて構成されている。成形炉40は、徐冷炉50に対して鉛直上方に設けられている。なお、成形炉40および徐冷炉50をあわせて炉30という。炉30の炉壁で囲まれた炉内部空間に、成形体310と、雰囲気仕切り部材320と、冷却ローラ330と、冷却ユニット340と、搬送ローラ350a〜350hと、圧力センサ355,360a〜360c(
図4参照)が設けられている。
成形体310は、
図2に示すように、第2配管205を通して溶解装置200から流れてくる溶融ガラスを、ガラスリボンGに成形する。これにより、成形装置300内で、鉛直下方のガラスリボンGの流れが作られる。成形体310には、耐火レンガ等によって構成された細長い構造体であり、
図3に示すように断面が楔形状を成している。成形体310の頂部には、溶融ガラスを導く流路となる溝312が設けられている。溝312は、成形装置300に設けられた供給口311(
図4参照)において第2配管205と接続される。第2配管205を通して流れてくる溶融ガラスは、溝312を伝って流れる。溝312の深さは、溶融ガラスの流れの下流ほど浅くなっており、溝312から溶融ガラスが鉛直下方に向かって溢れ出るようになっている。
図3,4では、熔融ガラスを参照符号MGで表す。
溝312から溢れ出た溶融ガラスは、成形体310の両側の側壁を伝わって鉛直下方に流下する。側壁を流れた溶融ガラスは、
図3に示す成形体310の下方端部313で合流し、1つのガラスリボンGが成形される。これによって、ガラスリボンGは、徐冷炉50に向かって流下する。成形体310を離れて流下を開始する時点におけるガラスリボンGの粘度は、例えば10
5.7〜10
7.5poiseである。
【0035】
成形体310の下方端部313の下方近傍には、雰囲気仕切り部材320が設けられている。雰囲気仕切り部材320は、一対の板状の断熱部材であって、ガラスリボンGを厚さ方向の両側から挟むように構成されている。すなわち、雰囲気仕切り部材320には、ガラスリボンGと接触しない程度に隙間があけられている。雰囲気仕切り部材320は、成形炉内部空間を仕切ることにより、雰囲気仕切り部材320の上方の炉内部空間と下方の炉内部空間との間の熱の移動を遮断する。
【0036】
雰囲気仕切り部材320の下方には冷却ローラ330が設けられている。冷却ローラ330は、ガラスリボンGの幅方向の両端部近傍のガラスリボンG表面と接触して、ガラスリボンGを下方に引き下げて、両端部近傍においてガラスリボンGの厚さを所望の厚さにするとともに、ガラスリボンGを冷却(急冷)する。冷却ローラ330による急冷により、ガラスリボンの両端部における粘度は、例えば10
9.0〜10
10.5poiseとなる。冷却ローラ310を用いた急冷〜徐冷工程では、上記急冷における冷却機能よりも冷却機能が低下した冷却により、ガラスリボンGの両端部の粘度は、例えば、10
10.5〜10
14.5poiseに維持される。
冷却ローラ330の下方には冷却ユニット340が設けられている。冷却ユニット340は、冷却ローラ330を通過したガラスリボンGを冷却する。この冷却ユニット340による冷却により、ガラスリボンGの反りが抑制される。
【0037】
冷却ユニット340の下方には、搬送ローラ350a〜350hが所定の間隔で設けられ、ガラスリボンGを下方向に牽引する。冷却ユニット340の下方の空間は、徐冷炉50の炉内部空間となっている。搬送ローラ350a〜350hのそれぞれは、ローラ対を有し、ガラスリボンGの両側を挟むようにガラスリボンGの幅方向の両側端部に設けられている。
【0038】
成形炉40の炉内部空間には、炉内部空間の気圧を計測する圧力センサ355(
図4参照)が設けられている。圧力センサ355は、成形体310と高さ方向(鉛直上方向)の同じ位置に設けられている。高さ方向とは、
図3,4において、紙面の上方向である。ガラスリボンGは成形体310から鉛直下方に流れるので、ガラスリボンGの流れ方向は高さ方向と反対の向きである。徐冷炉50の炉内部空間には、圧力センサ360a〜360c(
図4参照)が設けられている。
【0039】
一方、成形炉40の炉壁の外側には、隔壁により大気圧雰囲気に対して建物Bの隔壁で区切られた空間、すなわち炉外部空間S1,S2,S3a〜S3cが設けられている。炉外部空間S1は、成形炉40の内部空間の天井面に対してさらに上方に位置する上部空間である。これらの空間のそれぞれは、高さ方向に関して、床面(床壁)411,412,413a〜413cによって区切られている。すなわち、成形装置300は、複数のフロアを有する建物Bに設けられ、床面によって複数に区切られた炉外部空間(部分空間)S1,S2,S3a〜S3cが各フロアに設けられている。さらに、炉外部空間S3cの下方には、フロア414上に壁で区切られた空間S4(切断空間)が設けられている。空間S4には、炉壁は設けられない。これらの空間の気圧はそれぞれ後述する送風機421,422,423a,423b,423c,424により調整されている。
炉外部空間S1は、成形体310の高さ方向の位置よりも鉛直上方にある空間であり、炉外部空間S1には、炉外部空間の気圧を計測する圧力センサ415が設けられている。
炉外部空間S2は、床面412上に設けられた空間であり、この空間に対応する炉内部空間には成形体310が配置されている。また、炉外部空間S2には、炉外部空間S2の気圧を計測する圧力センサ416が設けられている。炉壁で囲まれた炉内部空間には、圧力センサ416の高さ方向の同じ位置に、炉内部空間の気圧を計測する圧力センサ355が設けられている(
図4参照)。
炉外部空間S3a〜S3cは、炉外部空間S2の下方に、高さ方向の高い方から炉外部空間S3a〜3cの順に設けられた空間である。炉外部空間S3a〜3cは、床面413a〜413c上に設けられている。また、炉外部空間S3a〜S3cのそれぞれには、炉外部空間3a〜3cの気圧を計測する圧力センサ417a〜417cが設けられている。炉壁で囲まれた炉内部空間には、圧力センサ417a〜417cの高さ方向の同じ位置に、炉内部空間の気圧を計測する圧力センサ360a〜360cが設けられている(
図4参照)。
なお、本実施形態では、圧力センサ355,360a〜360cが炉内部空間の各位置に設けられているが、炉内部空間の各位置に圧力センサが挿入されて圧力の測定が行われてもよい。
【0040】
また、炉外部空間S1,S2,S3a〜S3c及び空間S4それぞれを区切る隔壁の外側には、炉外部空間S1,S2,S3a〜S3c及び空間S4のそれぞれに対して、送風機421,422,423a,423b,423c,424が設けられている。送風機421,422,423a,423b,423c,424により大気から送り込まれる空気は、管を通して炉外部空間S1,S2,S3a〜S3c及び空間S4のそれぞれに供給される。送風機421,422,423a,423b,423c,424が送り込む空気の量は、それぞれ、後述する駆動ユニット510からの駆動信号によって定められている。送風機421,422,423a,423b,423c,424は、炉外部空間S1,S2,S3a〜S3c及び空間S4のそれぞれの気圧を制御するために、大気との間で空気の流入を調整する気圧制御装置として機能する。
【0041】
図5は、送風機421,422,423a,423b,423c,424が送り込む空気の量を制御する制御システムの概略図である。
制御システムは、炉内部空間に設けられた圧力センサ355,360a〜360cと、それぞれの炉外部空間に設けられた圧力センサ415,416,417a〜417c,418と、制御装置500と、駆動ユニット510と、送風機421,422,423a,423b,423c,424と、を有する。
制御装置500は、圧力センサ355,360a〜360cのそれぞれから送られる炉内部空間における気圧の計測結果と、圧力センサ415,416,417a〜417c,418から送られる炉外部空間における気圧の計測結果とを用いて、炉内部空間及び炉外部空間における高さ方向の同じ位置における気圧の差分が設定された範囲に調整されるように、送風機421,422,423a,423b,423c,424が大気から送り込む空気の量を調整するための制御信号を生成する。生成された制御信号は、駆動ユニット510に送られる。
駆動ユニット510は、制御信号に基いて、送風機421,422,423a,423b,423c,424によって送り込む空気の量を個別に調整するための駆動信号を生成する。駆動ユニット510は、駆動信号を、それぞれ送風機421,422,423a,423b,423c,424に送る。
本実施形態では、制御装置500及び駆動ユニット510が空気の送り込み量を自動制御するが、オペレータがマニュアルで空気の送り込み量を調整してもよい。
【0042】
ここで、送風機421,422,423a,423b,423c,424の送り込む空気の量は、炉外部空間S2,S3a〜S3cの気圧が、高さ方向の同じ位置における炉内部空間の気圧に対して低くなるように、各炉外部空間の気圧は調整される。
成形炉40の炉内部空間と炉外部空間S2との間の気圧の差分は、0超〜40Paであり、4〜35Paであることが好ましく、8〜30Paであることがより好ましく、10〜27Paであることがさらに好ましく、10〜25Paであることがさらに好ましい。
【0043】
上記気圧の差分が、上記範囲を上回ると、炉内部空間から炉外部空間S2に向かって炉壁の隙間から大量の空気が流出する虞があり、炉内部空間における空気の上昇を増大させる。一方、上記気圧の差分が、上記範囲を下回ると、炉外部空間S2から炉内部空間に向かって炉壁の隙間から空気が流入する虞があり、炉内部空間の温度分布がばらつく。気圧の差分を上記の範囲に調整することで、成形炉40の炉内部空間に炉外部空間S2から低温の空気が流入することを防止できる。このため、炉内部空間の温度のばらつきを抑制できる。これにより、冷却速度のばらつき、ひいてはガラスリボンGの板厚のばらつきを抑制できる。なお、温度のばらつきとは、予め設定された温度から意図せずに変化してしまうことをいう。
【0044】
一方、徐冷炉50の炉内部空間と炉外部空間S3a〜S3cとの間の気圧の差分は、0超〜40Paであり、2〜35Paであることが好ましく、2〜25Paであることがより好ましく、3〜23Paであることがさらに好ましく、5〜20Paであることがさらに好ましい。特に好ましくは、10〜20Paである。上記気圧の差分が、上記範囲を上回ると、炉内部空間から炉外部空間S3a〜S3cに向かって炉壁の隙間から大量の空気が流出する虞があり、炉内部空間における空気の上昇を増大させる。一方、上記気圧の差分が、上記範囲を下回ると、炉外部空間S3a〜S3cから炉内部空間に向かって炉壁の隙間から空気が流入する虞があり、炉内部空間の温度分布がばらつく。気圧の差分を上記の範囲に調整することで、徐冷炉50の炉内部空間に炉外部空間S3a〜S3cから低温の空気が流入することを防止できるので、炉内部空間の温度のばらつきを抑制できる。これにより、ガラスリボンGの変形、反り、平面歪のばらつき及び熱収縮のばらつきを抑制することができる。また、炉外部空間S3a〜S3cと炉内部空間との気圧の差分は、上方に行くほど大きくなることが好ましい。炉内部空間の温度は上方に行くほど高くなり、炉内部空間よりも低い温度の空気流入による影響が大きくなると考えられる。
【0045】
このとき、炉外部空間S3cと空間S4との気圧差は、0<(炉外部空間S3cの気圧−空間S4の気圧)であることが好ましく、0<(炉外部空間S3cの気圧−空間S4の気圧)<20Paであることがより好ましく、1Pa<(炉外部空間S3cの気圧−空間S4の気圧)<15Paであることがさらに好ましく、2Pa<(炉外部空間S3cの気圧−空間S4の気圧)<15Paであることが一層好ましい。
また、炉外部下方空間S2と炉外部空間S3aとの気圧差は、0<(炉外部下方空間S2の気圧−炉外部空間S3aの気圧)であることが好ましく、0<(炉外部空間S2の気圧−炉外部空間S3aの気圧)<20Paであることがより好ましく、1Pa<(炉外部空間S2の気圧−炉外部空間S3aの気圧)<15Paであることがさらに好ましく、2Pa<(炉外部空間S2の気圧−炉外部空間S3aの気圧)<15Paであることが一層好ましい。
【0046】
また、炉外部空間S1と炉外部空間S2との気圧差は、0<(炉外部空間S1の気圧−炉外部空間S2の気圧)であることが好ましく、0<(炉外部空間S1の気圧−炉外部空間S2の気圧)<30Paであることがより好ましく、1Pa<(炉外部空間S1の気圧−炉外部空間S2の気圧)<25Paであることがさらに好ましく、2Pa<(炉外部空間S1の気圧−炉外部空間S2の気圧)<15Paであることが一層好ましい。炉外部空間S3cと空間S4との気圧差、炉外部空間S2と炉外部空間S3aとの気圧差、及び炉外部空間S1と炉外部空間S2との気圧差を大きくし過ぎると、炉外部空間S1、炉外部空間S2、炉外部空間S3a〜cの気圧の絶対値が大きくなり過ぎ、炉外部空間から炉内部空間内に空気が流入してしまう。このため、炉内部空間内の温度が変動してしまうという問題が生じる虞がある。さらに、炉外部空間において局部的な気流の集中や、気流の流速が局部的に速くなるということが生じ、炉外部空間の気圧安定性が低下する虞があり、その結果、炉内部空間内の温度がばらついてしまうという問題が生じる虞もある。
【0047】
なお、本実施形態では、全ての炉外部空間の気圧が、高さ方向の同じ位置における炉内部空間の気圧に対して低くなるように、炉外部空間の気圧は調整されるが、炉外部空間の少なくとも一部分における気圧が、高さ方向の同じ位置における炉内部空間の気圧に対して低くなるように、炉外部空間の気圧は調整されてもよい。この場合、ガラスリボンGの徐冷点温度に対応する徐冷炉内の位置と、ガラスリボンGの歪点温度に対応する徐冷炉内の位置との間の領域において、炉外部空間の気圧は、高さ方向の同じ位置における炉内部空間の気圧に対して低くなるように調整されることが好ましい。徐冷点温度に対応する位置は、例えば炉外部空間S3aの高さ方向の位置にあり、また、歪点温度に対応する位置は、例えば炉外部空間S3bの高さ方向の位置にある。上記領域では、ガラスリボンGが固化する段階であり、最もガラスの平面歪や熱収縮に影響を与えることから、上記領域において効率よく気圧を調整して、炉外部空間からの空気の流れ込みを抑制することにより、炉内部空間における温度のばらつきを抑えることが好ましい。
さらに、徐冷炉50の炉内部空間においてガラスリボンGの温度が歪点温度以下となる領域に対応する高さ方向の同じ位置における炉外部空間における気圧を調整することにより、空気の炉外部空間からの流れ込みを抑制でき、この領域の温度のばらつきを抑制することができ、この抑制によりガラスリボンGの反りを防止することができる。ここで、ガラスリボンGは、成形炉40から切断されるまで一枚の連続した板である。そのため、ガラスリボンGの温度が歪点温度以下となる領域においてガラスリボンGの反り形状が変化すると、歪点温度以上となる領域のガラスリボンにも影響を与え、平面歪や熱収縮のばらつきが発生してしまう。上述のように、つまり、ガラスリボンGの温度が歪点温度以下となる領域の温度のばらつきを抑制することで、反り、平面歪および熱収縮のばらつきを抑制することができる。
【0048】
また、炉内部空間がない高さ方向の位置にある圧力センサ415は、炉内部空間に炉外部空間S1から空気が流入しないように送風機421による炉外部空間S1を調整するために炉外部空間S1の気圧を計測することが好ましい。
炉内部空間と炉外部空間とを仕切る炉壁には、冷却ローラ310や搬送ローラ350a〜350hの軸周りに隙間があり、さらには、炉内部空間と炉外部空間とを区切る炉壁と床面411との接続部分等には隙間がある。このため、気圧の差分がある程度以上ある場合、炉内部空間と炉外部空間との間で空気の流れが生じ易い。したがって、炉内部空間の周囲を取り巻く炉外部空間の気圧を調整することが好ましい。特に、炉内部空間のうち成形炉40の空間は、炉内部空間内で最も上流側の位置にあり、気圧が高く空間内の温度も高い。この成形炉40の内部空間の天井面から炉外部空間S1に空気が流出することは煙突効果により炉内部空間における空気の流れを促進するため好ましくない。したがって、空気の炉外部空間S1への流出を防ぐために、炉外部空間S1の気圧を高くする。しかし、炉外部空間S1の気圧を過度に高くすると、逆に炉外部空間S1から炉内部空間へ空気が流入し易くなる。この場合、炉外部空間S1から流入する冷たい空気は、成形炉40の空間において成形体310でガラスリボンを成形するので、成形中の溶融ガラスの粘度に影響を与えるので、好ましくない。また、徐冷工程におけるガラスリボンの冷却にも影響を与える。このため、圧力センサ415は、炉内部空間に炉外部空間S1から空気が流入しないように送風機421による炉外部空間S1を調整するために炉外部空間S1の気圧を計測する。すなわち、冷却ローラや搬送ローラは設けられていない成形炉40の天井面では、炉外部空間S1から炉内部空間に天井面の隙間から空気が流入しないように、成形炉外部空間S1の気圧は、送風機421により調整されていることが好ましい。
【0049】
また、圧力センサ418は、空間S4における気圧の計測のために用いられる。例えば、空間S4は、炉内部空間の最も低い気圧に対してさらに低くなるように、空間S4の気圧は調整されることが好ましい。このとき、空間S4の気圧が大気圧以上の気圧になるように調整されていることが好ましい。他方、空間S4の気圧が所定の圧力以上になると、炉内部空間へ空気が流れやすくなり、炉内部空間の温度が影響を受けることが懸念される。よって、空間S4の気圧は、大気圧以上であって所定の圧力未満になるように調整されている。より具体的には、空間S4の気圧は、大気圧以上であって炉内部空間の最も低い気圧(炉内部空間の最低気圧)以下となるように調整している。例えば、空間S4の気圧は、0<(空間S4の気圧―大気圧)であることが好ましく、0<(空間S4の気圧―大気圧)<40Paであることがより好ましく、5Pa<(空間S4の気圧―大気圧)<40Paであることがさらに好ましい。
空間S4の気圧を上記のように調整することにより、空間S4から炉内部空間に流れる空気を減少させることができる。
【0050】
なお、送風機421,422,423a,423b,423c,424は炉外部空間S1,S2,S3a〜S3c及び空間S4に空気を送り込むことにより、いずれの空間の気圧も大気圧に対して高く調整されるが、これらの空間の気圧を大気圧に対して高くするのは、炉外部空間S1,S2,S3a〜S3c及び空間S4内に建物Bの外部から大量の空気が流入するのを防ぎ、炉外部空間S1,S2,S3a〜S3c,S4の気圧を効率よく調整するためである。
また、炉内部空間における気圧は、高さ方向の位置が高いほど気圧が高くなる。これは、高温となった空気が上昇気流で上方に移動することに拠る。このように炉内部空間に温度分布が生じ、気圧に分布が生じても、この気圧分布に応じて、炉外部空間における気圧が調整される。これは、炉外部空間それぞれの気圧と炉内部空間の気圧との差分によって空気が炉内部空間に流れ込むことを抑制し、炉外部空間に空気が漏れて空気の対流が発生することを抑制するためである。このため、炉内部空間には、炉外部空間のそれぞれに設けられた圧力センサと高さ方向の同じ位置に、圧力センサが設けられる。このように、炉内部空間に圧力分布が生じる場合、炉外部空間のそれぞれの気圧と、この炉外部空間の高さ方向の同じ位置における炉内部空間の気圧との差分を、高さ方向の位置によって変化するように調整されることが好ましい。例えば、高さ方向の同じ位置に炉内部空間が存在する炉外部空間S2,S3a〜S3cのうち最上部の炉外部空間S2と最下部の炉外部空間S3cとの間で比較したとき、最上部における気圧の差分は、最下部における気圧の差分に比べて大きくなるように調整されることが好ましい。例えば、気圧の上記差分が高さ方向の位置が高くなるにつれて大きくなるように設定されるとよい。これは、徐冷炉における炉内部空間では、高さ方向の位置が高いほど温度が高いため、冷たい空気が流入した際のガラスリボンGとの温度差が大きくなり、高さ方向の位置が高いほど、ガラスリボンGの温度のばらつきが大きくなることを防止するためである。
また、炉外部空間の気圧は、高さ方向の位置が高いほど、すなわち、ガラスリボンの流れる方向の上流側の位置ほど、高いことが好ましい。これにより、炉外部空間において、炉壁に沿って発生する上昇気流の大きさを低減できる。つまり、炉壁に沿って発生する上昇気流による炉壁の温度変動によって炉壁近傍の炉内部空間の温度が変動することを抑制できるので、炉内部空間の温度のばらつきも抑制することができる。
【0051】
(ガラスリボンの冷却)
本実施形態では、ガラス板の熱収縮のばらつきを低減することができるが、さらに、成形されたガラスリボンの冷却速度を調整することにより、熱収縮のばらつきに加えて、ガラス板の変形を抑制し、反りを抑制し、熱収縮率の絶対値を低減することができる。
具体的には、ローラを用いてガラスリボンを搬送しながら徐冷する徐冷工程では、ガラスリボンの徐冷点温度に150℃を足した温度から、ガラスリボンの歪点温度から200℃引いた温度までの温度領域を定める。このとき、少なくとも上記温度領域において、ガラスリボンの幅方向の中央部の冷却速度はガラスリボンの両端部の冷却速度よりも速く、ガラスリボンの幅方向の中央部の温度がガラスリボンの両端部よりも高い状態から中央部の温度が両端部よりも低い状態へガラスリボンを変化させることが好ましい。これにより、ガラスリボンの幅方向の中央部に、ガラスリボンの流れ方向に引張り応力が働くようにすることができる。ガラスリボンの流れ方向に引張り応力が働くことで、ガラスリボン、ひいてはガラス板の反りをより一層抑制することができる。
【0052】
さらに、徐冷工程は、第1の冷却工程と、第2の冷却工程と、第3の冷却工程と、を含むことができる。
第1の冷却工程は、ガラスリボンの幅方向の中央部の温度が、徐冷点温度になるまで、第1の平均冷却速度で冷却する工程である。
第2の冷却工程は、ガラスリボンの幅方向の中央部の温度が、徐冷点温度から歪点温度−50℃になるまで、第2の平均冷却速度で冷却する工程である。
第3の冷却工程は、ガラスリボンの幅方向の中央部の温度が、歪点温度−50℃から歪点温度−200℃になるまで、第3の平均冷却速度で冷却する工程である。
この場合、第1の平均冷却速度は、5℃/秒以上であり、第1の平均冷却速度は、第3の平均冷却速度より速く、第3の平均冷却速度は、第2の平均冷却速度より速くすることが好ましい。すなわち、平均冷却速度は、高い順番に、第1の平均冷却速度、第3の平均冷却速度、第2の平均冷却速度となっている。
このとき、第1冷却工程におけるガラスリボンの中央部の平均冷却速度は、好ましくは、5.5℃/秒〜50℃/秒である。第1冷却工程におけるガラスリボンの中央部の平均冷却速度が5.5℃/秒未満では、生産性が低下してしまう。他方、第1冷却工程におけるガラスリボンの中央部の平均冷却速度が50℃/秒超となると、平面歪や反りを抑制するために行うガラスリボンの幅方向の温度分布の制御がし難くなるため、好ましくない。第1冷却工程におけるガラスリボンの中央部の平均冷却速度は、より好ましくは8℃/秒〜16.5℃/秒である。
また、第2冷却工程(熱収縮低減処理工程)におけるガラスリボンの平均冷却速度は、好ましくは0.5〜5.5℃/秒未満である。第2冷却工程におけるガラスリボンの中央部の平均冷却速度が、0.5℃/秒未満では、徐冷装置が長くなり製造設備が巨大化し、生産性が低下してしまう。他方、5.5℃/秒以上では、熱収縮率を十分に小さくすることができない。第2冷却工程におけるガラスリボンの中央部の平均冷却速度は、より好ましくは、0.5℃/秒〜5.5℃/秒である。
一方、第3冷却工程におけるガラスリボンの中央部の冷却速度は、特に制限はないが、1.5℃/秒〜7℃/秒であることが好ましい。第3冷却工程におけるガラスリボンの中央部の冷却速度が1.5℃/秒未満では生産性が低下してしまう。他方、7℃/秒以上では、ガラスリボンが過度に急冷されることにより、ガラスリボンが割れてしまうおそれがある。以上のことから、第3冷却工程におけるガラスリボンの中央部の冷却速度は、好ましくは1.5℃/秒〜7℃/秒であり、より好ましくは2℃/秒〜5.5℃/秒である。
ガラスリボンの流れ方向の冷却速度は、製造されるガラス板の熱収縮に影響を与える。しかし、徐冷工程において、上記冷却速度を設定することにより、ガラス板の製造量を向上させつつ、好適な熱収縮率を有するガラス板を得ることができる。
このような冷却速度は、炉内部空間に設けられた図示されないヒータを用いて温度を制御することにより行われる。
なお、徐冷工程後に熱収縮低減処理(オフラインアニール)工程を別途設けることで、熱収縮率を小さくすることもできる。しかし、徐冷工程とは別にオフラインアニール工程を設けると、生産性が低下し、コストが高騰してしまうという問題点がある。そのため、上述したように、徐冷工程においてガラス板の冷却速度を制御するという熱収縮低減処理(オンラインアニール)を施すことによって、熱収縮率を所定範囲内におさめることが好ましい。つまり、徐冷工程は、熱収縮低減処理工程を含むことが好ましい。なお、徐冷工程のうち上記第2冷却工程が、熱収縮低減処理工程にあたる。
【0053】
(ガラス板)
本実施形態のガラス板に用いるガラスは、例えば、ボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ソーダライムガラス、アルカリシリケートガラス、アルカリアルミノシリケートガラス、アルカリアルミノゲルマネイトガラスなどを適用することができる。なお、本発明に適用できるガラスは上記に限定されるものではない。
【0054】
(ガラス組成1)
本実施形態で用いるガラス板のガラス組成は例えば以下のものを挙げることができる。
以下示す組成の含有率表示は、質量%である。
SiO
2:40〜70%、
Al
2O
3:2〜25%、
B
2O
3:0〜20%、
MgO:0〜10%、
CaO:0〜15%、
SrO:0〜10%、
BaO:0〜15%、
ZnO:0〜10%、
ZrO
2:0〜10%、
清澄剤:0〜2%、
の無アルカリガラスである。
【0055】
(ガラス組成2)
また、下記組成の無アルカリガラスも例示される。以下の括弧内の表示は各成分の好ましい含有率であり、後ろに記載されるものほど好ましい。
SiO
2:50〜70%(55〜65%,57〜64%,58〜62%)、
Al
2O
3:2〜25%(10〜20%,12〜18%,15〜18%)、
B
2O
3:0〜20%(5〜15%,6〜13%,7〜12%)。
このとき、任意成分として下記の成分を含んでもよい。
MgO:0〜10%(下限は0.01%,下限は0.5%,上限は5%,上限は4%,上限は2%)、
CaO:0〜20%(下限は1%、下限は3%、下限は4%、上限は9%、上限は8%、
上限は7%、上限は6%)、
SrO:0〜20%(下限は0.5%、下限は3%、上限は9%、上限は8%、上限は7%%、上限は6%)、
BaO:0〜10%(上限は8%、上限は3%、上限は1%、上限は0.2%)、
ZrO
2:0〜10%(0〜5%,0〜4%,0〜1%,0〜0.1%)。
【0056】
(ガラス組成3)
特に、
SiO
2:50〜70%、
B
2O
3:5〜18%、
Al
2O
3:0〜25%、
MgO:0〜10%、
CaO:0〜20%、
SrO:0〜20%、
BaO:0〜10%、
RO:5〜20%(ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス板が含有するものである)、
を含有することが好ましい。
さらに、R’
2Oの合計が0.20%を超え2.0%以下(ただし、R’はLi、Na及びKから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス板が含有するものである)含むことが好ましい。また、清澄剤を合計で0.05〜1.5%含み、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含まないことが好ましい。また、ガラス中の酸化鉄の含有量が0.01〜0.2%であることがさらに好ましい。
【0057】
(ガラス組成4)
本実施形態で用いる他のガラス板のガラス組成は例えば以下のものを挙げることができる。ガラス板を以下に示すような組成にすることで、歪点温度を高くすることができ、ガラス板の熱収縮をより低減することができる。このため、下記組成のガラス板は、液晶ディスプレイ用ガラス基板や有機ELディスプレイ用ガラス基板に好適であり、特にポリシリコンTFTを適用するガラス基板に好適である。
以下示す組成の含有率表示は、質量%である。以下の括弧内の表示は各成分の好ましい含有率であり、後ろに記載されるものほど好ましい。
SiO
2:57〜75%、
Al
2O
3:8〜25%、
B
2O
3:3〜11未満%、
CaO:0〜20%、
MgO:0〜15%、
の無アルカリガラス。
このとき、下記の数式の何れかあるいは複数を満たすようにすると、耐失透性や熔解性を維持しつつ、歪点温度の向上やガラスの軽量化を実現できるため、よりポリシリコンTFT用ガラス基板に好適となる。
(SiO
2+Al
2O
3)/B
2O
3:8〜20%(9〜17%,9〜15%,9〜12%)
SrO+BaO:0〜3.3%(0〜1.5%、実質的に含まない)
CaO/RO:0.65%以上(0.8〜1%,0.9〜1%)(ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス板が含有するものである)
SiO
2+Al
2O
3:75%以上(75〜90%、79〜85%)
CaO/B
2O
3:0.6%以上(0.9〜3%、1.0〜2%、1.1〜1.5%)
【0058】
なお、上記各実施形態では無アルカリガラスとしたが、ガラス板はアルカリ金属を微量含んでいてもよい。アルカリ金属を含有させる場合、R’
2Oの合計が0.20%を超え2.0%以下(ただし、R’はLi、Na及びKから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス板が含有するものである)含むことが好ましい。また、清澄剤を合計で0.05〜1.5%含み、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含まないことが好ましい。また、ガラスの熔解を容易にするために、比抵抗を低下させるという観点から、ガラス中の酸化鉄の含有率が0.01〜0.2%であることがさらに好ましい。
【0059】
(ガラス組成5)
化学強化を施した後、カバーガラスや太陽電池用のガラス板に適用されるガラス板としては、例えば、ガラス板が質量%表示で、以下の成分を含むものが例示される。
SiO
2:50〜70%(55〜65%,57〜64%,57〜62%)、
Al
2O
3:5〜20%(9〜18%,12〜17%)、
Na
2O:6〜30%(7〜20%,8〜18%,10〜15%)。
このとき、任意成分として、下記の組成を含んでもよい。
Li
2O:0〜8%(0〜6%,0〜2%,0〜0.6%,0〜0.4%,0〜0.2%)、
B
2O
3:0〜5%(0〜2%,0〜1%,0〜0.8%)、
K
2O:0〜10%(下限は1%、下限は2%、上限は6%、上限は5%、上限は4%)。
MgO:0〜10%(下限は1%、下限は2%、下限は3%、下限は4%、上限は9%、上限は8%、上限は7%)、
CaO:0〜20%(下限は0.1%、下限は1%、下限は2%、上限は10%、上限は5%、上限は4%、上限は3%)、
ZrO
2:0〜10%(0〜5%,0〜4%,0〜1%,0〜0.1%)。
【0060】
(ガラス組成6)
近年さらなるフラットパネルディスプレイの組み立ての高精細化を実現するために、アモルファスシリコンTFT(Thin Film Transistor)ではなく、ポリシリコン(低温ポリシリコン)TFTや酸化物半導体を用いたフラットパネルディスプレイが求められている。ここで、ポリシリコンTFTや酸化物半導体を用いたフラットパネル製造工程では、アモルファスシリコンTFTを用いたフラットパネル製造工程よりも高温な熱処理工程が存在する。そのため、ポリシリコンTFTや酸化物半導体が形成されるガラス板には、熱収縮率が小さいことが求められている。熱収縮率を小さくするためには、ガラス板の徐冷条件と、ガラスの歪点温度を高くすることが好ましい。特に、ポリシリコンTFTや酸化物半導体には、ガラスの歪点温度が675℃以上(歪点温度675℃〜750℃)のガラス板が好適であり、歪点温度680℃以上(歪点温度680℃〜750℃)のガラス板がさらに好適であり、歪点温度690℃以上(歪点温度690℃〜750℃)のガラス板が特に好適である。
ガラスの歪点温度が675℃以上のガラス板の組成としては、例えば、ガラス板が質量%表示で、以下の成分を含むものが例示される。
SiO
2:52〜78%、
Al
2O
3:3〜25%、
B
2O
3:3〜15%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOうち、ガラス板に含有される全成分のの合量):3〜20%、
質量比(SiO
2+Al
2O
3)/B
2O
3は7〜20の範囲であるガラス板。
この場合、SrO及びBaOの合計含有率が8質量%未満であることが軽量化及び熱膨張係数を小さくする点で好ましい。SrO及びBaOの合計含有率は、0〜7%であることが好ましく、より好ましくは、0〜5%であり、さらに好ましくは、0〜3%であり、より一層好ましくは0〜1%であり、特に、ガラス板の密度を低下させる場合には、SrO及びBaOを実質的に含有させないことが好ましい。実質的に含有させないとは、意図的に含有しないことを意味し、不可避的に不純物としてSrO及びBaOが混入することは排除しない。
さらに、歪点温度をより上昇させるために、質量比(SiO
2+Al
2O
3)/ROは7.5以上であることが好ましい。さらに、歪点温度を上昇させるために、β−OH値を0.1〜0.3[mm
-1]とすることが好ましい。他方、溶解時に溶融ガラスではなく溶解槽201に電流が流れないようにするために、ガラス板は、R
2O(但し、R
2Oは、Li
2O、Na
2O及びK
2Oのうち、ガラス板に含有される全成分の合量)を0.01〜0.8質量%含有することが、ガラスの比抵抗を低下させる点で好ましい。あるいは、ガラスの比抵抗を低下させるために、Fe
2O
3を0.01〜1質量%含有することが好ましい。さらに、ガラス板は、高い歪点温度を実現しつつ失透温度の上昇を防止するためにCaO/ROは0.65以上とすることが好ましい。失透温度を1250℃以下とすることにより、オーバーフローダウンドロー法の適用が可能となる。また、モバイル通信端末のようなモバイル機器などに適用されることを考慮すると、軽量化の観点からはSrO及びBaOの合計含有率が0%以上2%未満であることが好ましい。
【0061】
(各成分の説明)
SiO
2はガラス板のガラスの骨格をなす成分であり、ガラスの化学的耐久性と歪点温度を高める効果を有している。SiO
2の含有率が低すぎる場合には化学的耐久性と耐熱性の効果が十分に得られない。さらに、歪点温度が低下し、熱膨張係数が増大するため、熱収縮率が大きくなる。SiO
2の含有率が高すぎるとガラスが失透を起こしやすくなり、成形が困難になるとともに、粘性が上昇してガラスの均質化が困難になる。また、ガラスの比抵抗を増大させるので、熔解が困難となる。
【0062】
Al
2O
3はガラスの骨格をなす成分であり、ガラスの化学的耐久性と歪点温度を高める効果を有している。また、エッチング速度を高める効果を有している。Al
2O
3の含有率が低すぎる場合にはガラスの化学的耐久性と耐熱性の効果が十分に得られない。また、歪点温度及びヤング率が低下する。一方、Al
2O
3の含有率が高すぎると、ガラスの粘性が上昇して溶解が困難になるとともに、耐酸性が低下する。また、ガラスの比抵抗を増大させるので、熔解が困難となる。
【0063】
B
2O
3はガラスの粘性を下げて、ガラスの熔解及び清澄を促進する成分である。B
2O
3の含有率が低すぎると、熔解が困難となり、また、ガラスの耐酸性が低下する。また、耐失透性が低下し、熱膨張係数が増加する。他方、B
2O
3の含有率が高すぎると、歪点温度が低下するので、耐熱性が低下する。また、ヤング率が低下する。また、ガラス熔解時のB
2O
3の揮発により、ガラスの不均質が顕著となり、脈理が発生しやすくなる
【0064】
MgO及びCaOは、ガラスの粘性を下げて、ガラスの熔解及び清澄を促進する成分である。また、Mg及びCaは、アルカリ土類金属の中ではガラスの密度を上昇させる割合が小さいため、得られるガラスを軽量化しつつ熔解性を向上するためには有利な成分である。ただしそのMgO及びCaOの含有率が高くなりすぎると、歪点温度を低下させる。さらに、ガラスの化学的耐久性が低下する。なお、CaOは、比抵抗を低下させ、ガラスの失透温度を急激に上げることなくガラスの熔解性を向上させるのに有効な成分である。そのため、高歪点温度のガラスでは含有させることが好ましい。また、MgOは、ガラスの失透温度を上昇させるため、失透温度を低下させる場合には、実質的に含有させないことが好ましい。
【0065】
SrO及びBaOは、ガラスの粘性を下げて、ガラスの熔解及び清澄を促進する成分である。また、ガラス原料の酸化性を高めて清澄性を高める成分でもある。ただし、SrO及びBaOの含有率が高くなりすぎると、ガラスの密度が上昇し、ガラス板の軽量化が図れないととともに、ガラスの化学的耐久性が低下する。なお、BaOは、環境負荷を軽減するためには、実質的に含有させないことが好ましい。なお、本明細書において、BaOを実質的に含まないとは、0.01%質量未満であって不純物を除き意図的に含有させないことを意味する。
【0066】
Li
2O、Na
2O及びK
2Oは、ガラスの粘度を低下させて、ガラスの熔解性や成形性を向上させる成分である。Li
2O、Na
2OやK
2Oの含有率が低すぎる場合にはガラスの熔解性が低下し、熔解のためのコストが高くなる。他方、Li
2O、Na
2OやK
2Oの含有率が高くなり過ぎると、ガラスバランスの悪化による耐失透性低下が生じる。
【0067】
なお、Li
2O,Na
2O,K
2Oは、ガラスから溶出してTFTの特性を劣化させ、また、ガラスの熱膨張係数を大きくして熱処理時に基板を破損させる虞のある成分であることから、液晶ディスプレイ用ガラス基板や有機ELディスプレイ用ガラス基板として適用する場合には、実質的に含まないことが好ましい。しかし、ガラス中に上記成分を敢えて特定量含有させることによって、TFTの特性の劣化やガラスの熱膨張を一定範囲内に抑制しつつ、ガラスの塩基性度を高め、価数変動する金属の酸化を容易にして、清澄性を発揮させることが可能である。そこで、Li
2O,Na
2O,K
2Oの合量は0〜2.0%であり、0.1〜1.0%がより好ましく、0.2〜0.5%がさらに好ましい。なお、Li
2O,Na
2Oは含有させずに、上記成分中でも、最もガラスから溶出してTFTの特性を劣化させ難いK
2Oを含有させることが好ましい。K
2Oの含有率は、0〜2.0%であり、0.1〜1.0%がより好ましく、0.2〜0.5%がさらに好ましい。
【0068】
ZrO
2は、ガラスの失透温度付近の粘性や歪点温度を高くする成分である。また、ZrO
2は、ガラスの耐熱性を向上させる成分でもある。しかし、ZrO
2の含有率が高くなりすぎると、失透温度が上昇し、耐失透性が低下する。
【0069】
TiO
2は、ガラスの高温粘度を低下させる成分である。しかし、TiO
2の含有率が高くなり過ぎると、耐失透性が低下してしまう。さらに、ガラスが着色し、電子機器の表示画面のカバーガラスなどへの適用は好ましくない。また、ガラスが着色することから、紫外線透過率が低下するので、紫外線硬化樹脂を使用した処理を行う場合に、紫外線硬化樹脂を十分に硬化することができないという不都合が生じる。
【0070】
ガラス板のガラスにおいて、ガラス中の気泡を脱泡させる成分として清澄剤を添加することができる。清澄剤としては、環境負荷が小さく、ガラスの清澄性に優れたものであれば特に制限されないが、例えば、酸化スズ、酸化鉄、酸化セリウム、酸化テルビウム、酸化モリブデン及び酸化タングステンといった金属酸化物から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0071】
なお、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOは、溶融ガラス中で価数変動を伴う反応を生じ、ガラスを清澄する効果を有する物質であるが、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOは環境負荷が大きい物質であることから、実質的に含まないことが好ましい。なお、本明細書において、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含まないとは、0.01%質量未満であって不純物を除き意図的に含有させないことを意味する。
【0072】
本実施形態のガラス板の厚さは、例えば0.1mm〜1.5mmである。好ましくは0.1〜1.2mm、より好ましくは0.3〜1.0mm、さらにより好ましくは0.3〜0.8mm、特に好ましくは0.3〜0.5mmである。ここで、薄いガラス板ほど、ガラスの保有熱量が小さいため、成形炉40および徐冷炉50におけるガラス温度分布の制御が難しくなる。そのため、厚さ0.5mm以下のガラス板は、炉内部空間の温度を安定化させることができる本実施形態の方法を適用することで、ガラス板の変形、反り、平面歪のばらつき及び熱収縮のばらつきを抑制するといった効果が大きい。
【0073】
本実施形態のガラス板の幅方向の長さは、例えば500mm〜3500mmであり、1000mm〜3500mmであることが好ましく、2000mm〜3500mmであることがより好ましい。一方、ガラス板の縦方向の長さも、例えば500mm〜3500mmであり、1000mm〜3500mmであることが好ましく、2000mm〜3500mmであることがより好ましい。
なお、ガラス板が大型化すると、ガラス板の大きさに対応してガラス製造装置も大型化することになる。つまり、ガラス板が大型化すると、成形炉40や徐冷炉50を含む炉も大型化することになる。このため、炉内部空間は広くなり、炉外部空間から炉内部空間に、低温の空気が流入した際に、ガラスリボンGの冷却に与える影響はガラスリボンGの幅方向で異なる。したがって、ガラスリボンGの徐冷点温度〜歪点温度に対応する領域がガラスリボンGの幅方向においてばらつき、ガラスリボンGが上記徐冷点温度〜歪点温度を通過する時間がばらつく場合がある。この結果、ガラスリボンGの熱収縮も幅方向でばらつく。よって、ガラス板の幅方向の長さが2000mm以上の場合、本実施形態の効果、すなわちガラス板の変形、反り、平面歪のばらつき及び熱収縮のばらつきを抑制するといった効果が大きくなる。さらに、ガラス板の幅方向の長さが2500mm以上、3000mm以上となるほど、本実施形態の効果は顕著となる。
【0074】
(ガラス板の特性:熱収縮率)
本実施形態で製造されるガラス板において、550℃の温度雰囲気に2時間放置した際の熱収縮率が、110ppm以下、80ppm以下、50ppm以下、好ましくは40ppm以下であり、より好ましくは35ppm以下であり、さらに好ましくは30ppm以下、特に好ましくは20ppm以下である。特に、ポリシリコンTFTを形成するガラス板では、50ppm以下であることが好ましい。なお、熱収縮率は、熱収縮量/初期の長さ×10
6(ppm)にて算出される。熱収縮率の測定方法として、以下の方法が例示される。
1.ガラス板の両端にダイヤモンドペンを用いて平行なケガキ線を入れる。
2.ガラス板をケガキ線に対して垂直方向に半分に切断し、その1つを熱処理する(上記では、550℃2時間)。
3.熱処理後のガラス板と、他方のガラス板とをつき合わせて、ケガキ線のズレ量を測定する。
【0075】
(ガラス板の特性:熱収縮率のばらつき)
熱収縮率のばらつきは、特に、ディスプレイの作製においてガラス板にTFTを形成する場合、熱収縮率の高低よりも、ディスプレイパネルにおける表示不良の原因になり易い。この点で、熱収縮率のばらつきを抑えることは重要である。なお、ガラス板の熱収縮率のばらつきは、±3.05%以下であることが好ましい。ここで熱収縮率のばらつきとは、ガラス板の幅方向の3箇所の位置(例えば、中央部の位置及び幅方向の両端部近傍の位置)において上記方法で熱収縮率を測定したとき、これらの位置における測定値が、これらの平均値に対して変動する上限(+)及び下限(−)をいう。このガラス板の熱収縮のばらつきは、好ましくは±3.0%以下、より好ましくは±2.85%以下、さらに好ましくは±2.7%以下、さらに好ましくは±2.65%以下である。特に、熱収縮率を低減するガラス組成を選択して製造した高歪点ガラスでは、熱収縮率のばらつきは、±3.0%以下であることが好ましい。好ましくは±2.8%以下、より好ましくは±2.7%以下、さらに好ましくは±2.6%以下である。ここで、本明細書において、高歪点ガラスとは、歪点温度が680℃以上のガラスを示す。
【0076】
(ガラス板の特性:平面歪)
また、ガラス板の平面歪の最大値(リターデーション値の最大値)は、1.7nm以下であることが好ましい。好ましくは、1.3nm以下、より好ましくは、1.0nm以下、さらに好ましくは、0.7nm以下である。なお、平面歪は、例えば、ユニオプト社製の複屈折測定装置によって測定される。ここで、液晶ディスプレイは高精度な組立が求められているため、ガラス板の平面歪を低減させることができる本実施形態の方法は、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造に特に好適に用いられる。
【0077】
(ガラス板:反り)
ガラス板の反りは、以下の方法で測定を行った場合に、反りの最大値が0から0.2mmまでの範囲であり、好ましくは0〜0.15mmであり、より好ましく0〜0.1mm以下であり、さらに好ましくは0〜0.05mm以下であり、特に好ましくは0〜0.05mm以下である。
反りの測定は、
1.まず、ガラス板から複数枚の小板(約400mm四方の矩形板)を切り出す。
2.次に、各小板につき、角4箇所と中央部4箇所との反りを、表裏のそれぞれにおいて測定する(すなわち、計16箇所の反りを測定する)。例えば、小板8枚の反りを測定した場合、16箇所×8枚で128箇所の反りの測定データが得られる。
3.2で得られた測定データの中の最大値が、上述の範囲であるか否かを確認する。なお、本実施形態では、複数の小板で測定した反りの最大値を、ガラス板の反りとする。
(実験1)
【0078】
本実施形態の効果を確認するために、ガラス板の製造方法を種々変更してガラス板を製造し、さらに、液晶ディスプレイを作製するときと同じ条件で熱処理を行って上述した方法で熱収縮率及び平面歪を測り、さらにそれぞれの熱収縮率のばらつきを求めた。
【0079】
1.実施例1
炉内部空間のうち、ガラスリボンGの温度が徐冷点温度〜歪点温度となる領域と、この領域の高さ方向の同じ位置に対応する炉外部空間と、の気圧差が5Pa(詳細には3〜7Pa)となるように、炉外部空間の気圧を調整した。
製造したガラス板は液晶ディスプレイ用ガラス基板であり、大きさは2200mm×2500mm、厚さは0.7mmである。ガラス板のガラス組成は以下のとおりであった。含有率は質量%表示である。
SiO
2 60%
Al
2O
3 19.5%
B
2O
3 10%
CaO 5%
SrO 5%
SnO
2 0.5%
【0080】
2.実施例2
実施例1と同様に、炉内部空間のうち、ガラスリボンGの温度が徐冷点温度〜歪点温度となる領域と、この領域の高さ位置に対応する炉外部空間と、の気圧差が5Pa(詳細には3〜7Pa)となるように、炉外部空間の気圧を調整した。
製造したガラス板の厚さは実施例1と同じであるが、ガラス組成が下記の通りである(含有率は質量%表示である)。なお、ガラス板の大きさは、1100mm×1300mmである。このガラス板は、ポリシリコンTFTを形成する液晶ディスプレイ用ガラス基板として用いられる。
SiO
2 66%
Al
2O
3 17.5%
B
2O
3 7.5%
CaO 8.5%
SnO
2 0.5%
【0081】
3.実施例3
炉内部空間のうち、ガラスリボンGの温度が徐冷点温度〜歪点温度となる領域と、この領域の高さ位置に対応する炉外部空間と、の気圧差が20Pa(詳細には18〜22Pa)である以外は、実施例1と同様の方法で液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造を行った。
【0082】
4.実施例4
炉内部空間のうち、ガラスリボンGの温度が徐冷点温度〜歪点温度となる領域と、この領域の高さ位置に対応する炉外部空間と、の気圧差が20Pa(詳細には18〜22Pa)である以外は、実施例2と同様の方法でポリシリコンTFTを形成する液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造を行った。
【0083】
5.実施例5
炉内部空間のうち、ガラスリボンGの温度が徐冷点温度〜歪点温度となる領域と、この領域の高さ位置に対応する炉外部空間と、の気圧差が35Pa(詳細には33〜37Pa)である以外は、実施例1と同様の方法で液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造を行った。
【0084】
6.実施例6
炉内部空間のうち、ガラスリボンGの温度が徐冷点温度〜歪点温度となる領域と、この領域の高さ位置に対応する炉外部空間と、の気圧差が35Pa(詳細には33〜37Pa)である以外は、実施例2と同様の方法でポリシリコンTFTを形成する液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造を行った。
【0085】
7.実施例7
炉内部空間のうち、ガラスリボンGの温度が徐冷点温度〜歪点温度となる領域と、この領域の高さ位置に対応する炉外部空間と、の気圧差が60Pa(詳細には55〜65Pa)である以外は、実施例1と同様の方法で液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造を行った。
【0086】
8.比較例
炉内部空間のうち、ガラスリボンGの温度が徐冷点温度〜歪点温度となる領域と、この領域の高さ位置に対応する炉外部空間と、の気圧差が−5Pa(詳細には、−6〜−4Pa)(つまり、ガラスリボンGの温度が徐冷点温度〜歪点温度となる領域よりも、この領域の高さ位置に対応する炉外部空間の方が気圧が高い)である以外は、実施例1と同様の方法で液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造を行った。
【0087】
下記表1は、実施例1〜7と比較例の評価結果を示す。
【0089】
上記表より、本実施形態の方法の効果は明らかである。
(実験2)
【0090】
また、ガラス原料を溶解して溶融ガラスとし、清澄、攪拌を行った後、成形装置200に溶融ガラスを供給して、オーバーフローダウンドロー法によりガラス板を製造した。その後、ガラス板を切断し、長手方向1100mm、幅方向1300mm、厚さ0.5mmのガラス板を製造した。このとき、炉外部空間の気圧は、下記表2に示すように上流側ほど高くなるように制御されていた。なお、溶融ガラスに含まれる各成分の含有率は、以下の通りである。
【0091】
SiO
2 60%
Al
2O
3 19.5%
B
2O
3 10%
CaO 5%
SrO 5%
SnO
2 0.5%
【0092】
このとき、実施例8〜12で製造されたガラス板の最大歪(リターデーションの最大値)は、1.6nm以下であった。また、ガラス板の反りは、0.18mm以下であった。特に、実施例9〜11で製造されたガラス板の最大歪(リターデーションの最大値)は、1.0nm以下であった。また、ガラス板の反りは、0.15mm以下であった。
【0093】
実施例8〜12では、
図3に示す炉外部空間S3a,S3bを連通させて1つの空間として気圧を制御した。その際、ガラスリボンGの温度が徐冷点温度〜歪点温度となる領域と、この領域の高さ位置に対応する炉外部空間S3a,S3bと、の気圧差が10〜20Paとなるように炉外部空間の気圧を調整した。炉外部空間S3cにおける気圧と炉内部空間の対応する位置における気圧差は5Pa(詳細には3〜7Pa)となるように炉外部空間S3cの気圧を調整した。下記表2は、実施例8〜12の条件と評価結果を示す。
【0094】
P1:成形炉外部上方空間S1の気圧[Pa]
P2:炉外部空間S2の気圧[Pa]
P3:炉外部空間S3a,S3bの気圧[Pa]
P4:空間S4の気圧[Pa]
【0096】
表2より、炉外部空間の気圧は、ガラスリボンGの流れの上流側ほど高くなるように制御されることが、最大歪および反り低減する点で好ましいことがわかる。
【0097】
以上まとめると、本明細書は、以下の形態を開示する。
【0098】
(開示1)
ダウンドロー法によるガラス板の製造方法であって、
ガラス原料を溶解して溶融ガラスを得る溶解工程と、
前記溶融ガラスを、成形炉内に設けられた成形体に供給してガラスリボンを成形し、前記ガラスリボンの流れを作る成形工程と、
前記ガラスリボンを、徐冷炉内に設けられたローラで牽引して前記徐冷炉内で冷却する徐冷工程と、
冷却された前記ガラスリボンを切断空間で切断する切断工程と、を含み、
前記成形体が設けられた前記成形炉の内部空間および前記ローラが設けられた前記徐冷炉の内部空間を炉内部空間とし、前記成形炉および前記徐冷炉の外部空間を炉外部空間としたとき、前記炉外部空間は、大気圧雰囲気に対して隔壁で区切られた空間であり、前記炉外部空間の少なくとも一部分の気圧は、前記ガラスリボンの流れ方向の同じ位置における、前記炉内部空間の気圧に対して低くなるように、気圧の調整がされている、ことを特徴とするガラス板の製造方法。
【0099】
(開示2)
前記炉外部空間の気圧は、前記ガラスリボンの徐冷点温度に対応する前記徐冷炉内の位置と、前記ガラスリボンの歪点温度に対応する前記徐冷炉内の位置との間の領域において、前記炉内部空間の同じ位置における気圧に対して低くなるように、気圧の調整がされている、開示1に記載のガラス板の製造方法。
【0100】
(開示3)
前記炉外部空間の前記少なくとも一部分の気圧について、前記ガラスリボンの流れ方向の同じ位置において、前記炉内部空間の気圧と前記炉外部空間の気圧との差分が40Pa以下である、開示1または2に記載のガラス板の製造方法。
【0101】
(開示4)
前記炉外部空間の気圧は大気圧に対して高くなるように調整されている、開示1〜3のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0102】
(開示5)
前記炉外部空間は、前記成形炉の前記内部空間の天井面に対して上方に位置する上部空間を有し、前記上部空間は、前記上部空間から前記炉内部空間に空気が流入しないように、前記上部空間の気圧は調整されている、開示1〜4のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0103】
(開示6)
前記ガラスリボンの流れ方向は鉛直方向であり、
前記成形炉は前記徐冷炉に対して鉛直上方に設けられ、
前記炉外部空間は、鉛直方向に複数の部分空間に区分けされ、
前記部分空間のそれぞれの気圧と、当該部分空間の鉛直方向の同じ位置における前記炉内部空間の気圧との差分を、前記部分空間のうち最上部の部分空間と最下部の部分空間と間で比較したとき、前記最上部における前記差分は、前記最下部における前記差分に比べて大きくなるように、気圧が調整されている、開示1〜5のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0104】
(開示7)
前記部分空間の前記気圧の前記差分は、上方に行くほど大きくなる、開示6に記載のガラス板の製造方法。
【0105】
(開示8)
前記ガラス板は、TFT(Thin Film Transistor)を表面に形成する液晶ディスプレイ用ガラス基板である、開示1〜7のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0106】
(開示9)
前記炉外部空間が、前記ガラスリボンの流れ方向において、前記成形体と同じ位置にある第1部分空間を含むとき、前記第1部分空間の気圧と前記ガラスリボンの流れ方向の同じ位置における前記炉内部空間の気圧の差分は、0より大きく40Pa以下である、開示1〜8のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0107】
(開示10)
前記炉外部空間は、前記ガラスリボンの流れ方向において、前記徐冷炉と同じ位置にある第2部分空間を含み、前記徐冷炉の炉内部空間の気圧と前記第2部分空間の気圧の差分は、0より大きく40Pa以下である、開示1〜9のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0108】
(開示11)
前記炉外部空間は、前記ガラスリボンの流れ方向において、前記成形体と同じ位置にある第1部分空間と、前記徐冷炉と同じ位置にある第2部分空間を含み、前記第1部分空間と前記第2部分空間が壁により仕切られて隣り合うとき、前記炉外部空間の前記第1部分空間の気圧は前記第2部分空間の気圧に比べて大きく、前記第1部分空間の気圧と前記前記第2部分空間の気圧の差分が20Paより小さい、開示1〜10のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0109】
(開示12)
前記炉外部空間が、前記徐冷炉と同じ位置にある複数の第2部分空間を含み、複数の前記第2部分空間は、前記溶融ガラスの流れ方向の上流側ほど気圧が高くなっている、開示1〜11のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0110】
(開示13)
前記徐冷工程は、
前記ガラスリボンの幅方向の中央部に、前記ガラスリボンの流れ方向に引張り応力が働くように、
少なくとも、前記ガラスリボンの徐冷点温度に150℃を足した温度から、前記ガラスリボンの歪点温度から200℃引いた温度までの温度領域において、
前記ガラスリボンの幅方向の中央部の冷却速度は前記両端部の冷却速度よりも速く、
前記ガラスリボンの幅方向の中央部の温度が前記両端部よりも高い状態から前記中央部の温度が前記両端部よりも低い状態へ前記ガラスリボンを変化させる、開示1〜12のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0111】
(開示14)
前記徐冷工程は、第1の冷却工程と、第2の冷却工程と、第3の冷却工程と、を含み、
前記第1の冷却工程は、ガラスリボンの幅方向の中央部の温度が、徐冷点温度になるまで、第1の平均冷却速度で冷却する工程であり、
前記第2の冷却工程は、ガラスリボンの幅方向の中央部の温度が、徐冷点温度から歪点温度−50℃になるまで、第2の平均冷却速度で冷却する工程であり、
前記第3の冷却工程は、ガラスリボンの幅方向の中央部の温度が、歪点温度−50℃から歪点温度−200℃になるまで、第3の平均冷却速度で冷却する工程であり、
前記第1の平均冷却速度は、5.0℃/秒以上であり、前記第1の平均冷却速度は、前記第3の平均冷却速度より速く、前記第3の平均冷却速度は、前記第2の平均冷却速度より速くする、開示1〜13のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0112】
(開示15)
前記第1冷却工程におけるガラスリボンの中央部の平均冷却速度は、5.5℃/秒〜50.0℃/秒である、開示14に記載のガラス板の製造方法。
【0113】
(開示16)
前記第2冷却工程におけるガラスリボンの平均冷却速度は、0.5〜5.5℃/秒未満である、開示14に記載のガラス板の製造方法。
【0114】
(開示17)
前記ガラス板は、ポリシリコンTFTあるいは酸化物半導体を形成するガラス基板であり、ガラスの歪点温度は675℃以上である、開示1〜16のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0115】
(開示18)
ダウンドロー法によるガラス板の製造装置であって、
ガラス原料を溶解して溶融ガラスを得る溶解装置と、
前記溶融ガラスを、成形炉内に設けられた成形体に供給してガラスリボンを成形し、前記ガラスリボンの流れを作り、前記ガラスリボンを、徐冷炉内に設けられたローラで牽引して前記徐冷炉内で冷却する成形装置と、
冷却された前記ガラスリボンを切断空間で切断する切断装置と、を含み、
前記成形体が設けられた前記成形炉の内部空間および前記ローラが設けられた前記徐冷炉の内部空間を炉内部空間とし、前記成形炉および前記徐冷炉の外部空間を炉外部空間としたとき、前記炉外部空間は、大気圧雰囲気に対して隔壁で区切られた空間であり、前記炉外部空間の少なくとも一部分の気圧は、前記ガラスリボンの流れ方向の同じ位置における、前記炉内部空間の気圧に対して低くなるように、気圧の調整をする気圧制御装置が前記成形装置に設けられている、ことを特徴とするガラス板の製造装置。
【0116】
(開示19)
前記気圧制御装置は、前記炉外部空間の気圧を制御するために、大気との間で空気の流入を調整する装置である、開示18に記載のガラス板の製造装置。
【0117】
以上、本発明のガラス板の製造方法及び製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。