(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778205
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】無励磁作動形ブレーキ用ロータ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20150827BHJP
F16D 55/00 20060101ALI20150827BHJP
F16D 121/16 20120101ALN20150827BHJP
【FI】
F16D65/12 R
F16D55/00 B
F16D65/12 H
F16D121:16
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-82532(P2013-82532)
(22)【出願日】2013年4月10日
(65)【公開番号】特開2014-206183(P2014-206183A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2015年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176992
【氏名又は名称】三木プーリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 立弥
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
【審査官】
莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−039041(JP,A)
【文献】
実開昭64−009463(JP,U)
【文献】
実開平04−027226(JP,U)
【文献】
実開昭59−116646(JP,U)
【文献】
米国特許第03956548(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/12
F16D 55/00
F16D 121/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸嵌合孔を備えた金属製の芯板と、
前記芯板の外周にインサートモールドされ、前記芯板の外周より径方向外方に延在する樹脂製のディスク部と、
前記ディスク部の盤面に貼着されたライニング部材と
を有する無励磁作動形ブレーキ用ロータ。
【請求項2】
前記ライニング部材は前記ディスク部の盤面に接着剤によって貼着され、前記盤面には前記接着剤が入り込む少なくとも一つの窪み部が形成されている請求項1に記載の無励磁作動形ブレーキ用ロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無励磁作動形ブレーキに用いられるロータ(摩擦板)に関する。
【背景技術】
【0002】
無励磁作動形電磁ブレーキ用のロータとして、中心部に軸嵌合孔を備えたロータ本体の全体がステンレス鋼製の芯板により構成され、芯板の外周近傍の両面に摩擦材(ライニング部材)が接着剤によって貼り付けられたもの(従来例1)や、中心部に軸嵌合孔を備えたステンレス鋼製の芯板に合成樹脂製の摩擦材を直接にインサート成形したもの(従来例2)や、中心部に軸嵌合孔を備えたプリプレグ基材と当該プリプレグ基材の両面の全体に一体成形された摩擦材とによる3層構造のもの(従来例3)が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−264807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来例1のものは、ロータ本体の中心部分から最外周に至る全体がステンレス鋼製の芯板によって構成されているため、重くてイナーシャが大きいロータになり、空転時の摩擦材の摩耗が激しいものになる。
【0005】
従来例2のものは、芯板を小径化するほど、ロータの軽量化が図られるが、ロータ外周側は摩擦材のみの構成になるため、十分な強度、耐久性を確保することが難しくなり、摩擦材の材質、種類の選択の自由度が制限されるものになる。摩擦材としてレジンモールド摩擦材が使用されれば、強度を確保できるが、レジンモールド摩擦材の使用量が多いことにより材料経済性が悪くなる。
【0006】
従来例3のものは、プリプレグ基材が芯板となって金属製の芯体を用いないから、ロータの軽量化が図られるが、軸嵌合孔部分の強度、耐久性を確保することが難しいものになる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、無励磁作動形ブレーキ用ロータにおいて、十分な強度、耐久性を確保することと軽量化とを両立することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による無励磁作動形ブレーキ用ロータ(10)は、軸嵌合孔(16)を備えた金属製の芯板(12)と、前記芯板(12)の外周にインサートモールドされ、前記芯板(12)の外周より径方向外方に延在する樹脂製のディスク部(22)と、前記ディスク部(22)の盤面(22C)に貼着されたライニング部材(26)とを有する。
【0009】
この構成によれば、軸嵌合孔(16)を有して高い機械的強度が必要なロータ中心側は金属製の芯板(12)によって構成され、中心部分に比して高い機械的強度を必要としないライニング貼着部であるロータ外周側のディスク部(22)が樹脂化されていることにより、ロータボデー(11)の全体が金属で構成される場合に比してロータボデーの重量を低減することができる。これにより、無励磁作動形ブレーキ用ロータ(10)において、十分な強度、耐久性を確保することと軽量化とが両立する。
【0010】
本発明による無励磁作動形ブレーキ用ロータ(10)は、好ましくは、前記ライニング部材(26)は前記ディスク部(22)の盤面(22C)に接着剤によって貼着され、前記盤面(22C)には前記接着剤が入り込む少なくとも一つの窪み部(22D)が形成されている。
【0011】
この構成によれば、窪み部(22D)内に入り込んで硬化した接着剤は、盤面(22C)に対するライニング部材(26)の回転方向の耐剥離強度を高める効果を生じる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による無励磁作動形ブレーキ用ロータによれば、軸嵌合孔を備えた芯板は金属製で、芯板の外周より径方向外方に延在してライニング部材を貼着されるディスク部は樹脂製であるから、十分な強度、耐久性を確保することと軽量化とが両立する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による無励磁作動形ブレーキ用ロータのロータボデーの一つの実施形態を示す正面図。
【
図2】
図1の線II-IIに沿った拡大断面図に相当する無励磁作動形ブレーキ用ロータの断面図。
【
図3】本実施形態による無励磁作動形ブレーキ用ロータの部分的拡大斜視図。
【
図4】(A)は本実施形態によるロータを組み込まれた無励磁作動形ブレーキのブレーキ締結状態を示す断面図、(B)は同じくブレーキ解放状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明による無励磁作動形ブレーキ用ロータの一つの実施形態を、
図1〜
図3を参照して説明する。
【0015】
無励磁作動形ブレーキ用ロータ(以下、ロータ)10は、円環状の芯板12を有する。芯板12は、ステンレス鋼等の金属製のものであり、内周面にスプライン部14を形成された軸嵌合孔(中心孔)16を中心部に有する。芯板12の外周には半円形の拡大部18が周方向に等間隔に複数個形成されている。各拡大部18の部分には芯板12を板厚方向に貫通した貫通孔20が形成されている。
【0016】
芯板12の外周にはディスク部22が射出成形によって芯板12に一体に設けられている。ディスク部22は、フェノール樹脂等の熱硬化性の硬質樹脂製であり、芯板12の外周にインサートモールドによって円環状に成形され、芯板12と板厚方向(軸線方向)に重複する円環内方部22Aと、芯板12の外周より径方向外方に延在する円環外方部22Bとを一体に有する。
【0017】
円環内方部22Aはディスク部22を芯板12に結合する結合代である。ディスク部22を構成する樹脂は円環内方部22Aにおいて芯板12の各貫通孔20内に充填されている。これにより、芯板12とディスク部22との結合強度、特にロータ回転方向の係合強度が向上する。また、芯板12の外周縁は拡大部18によって凹凸形状になっており、この凹凸形状に倣ってディスク部22がインサートモールドされていることによっても、芯板12とディスク部22とのロータ回転方向の係合強度が向上する。これらのことにより、ディスク部22が芯板12に対してロータ回転方向に剥離しないことの信頼性が向上する。このことは、無励磁作動形ブレーキ用のロータ10にとって重要な事項である。
【0018】
円環外方部22Bの両盤面22Cには接着剤層24によってライニング部材26が貼着されている。ライニング部材26はディスク部22を構成する樹脂より摩擦特性に優れた材料によって構成されている。ライニング部材26として好適なものとして、熱硬化性樹脂を基材としてガラス繊維や金属繊維あるいは炭素繊維を配合されたレジンモールド摩擦材が挙げられる。
【0019】
本実施形態では、レジンモールド摩擦材等の摩擦材はライニング部材26を構成するだけの使用量でよいので、ディスク部22とライニング部材26との全体を摩擦材によって一体成形する場合よりも、摩擦材の使用量が少なくて済み、材料経済性の高騰を招くことがない。このことは、ディスク部22が安価なフェノール樹脂で構成されることにより顕著なものになる。
【0020】
ライニング部材26の基材と、ディスク部22を構成する樹脂と、接着剤層24を構成する接着剤とは、同種同系の樹脂で構成されていることが、接着相性に関して好ましい。例えば、ライニング部材26の基材とディスク部22とがフェノール樹脂製で、接着剤層24を構成する接着剤が、強い凝集力と高い極性とを持つフェノール樹脂系の接着剤であることが好ましい。これにより、接着剤層24による盤面22Cに対するライニング部材26の貼着について高い強度および信頼性が得られる。
【0021】
盤面22Cには、複数個の窪み部22Dが周方向に等間隔をおいて形成されている。窪み部22Dは、ディスク部22の射出成形時に同時成形されるものであり、深さが0.1〜0.3mm程度で、盤面22Cの径方向寸法より少し小さい直径の円形をもって盤面22Cに開口している。
【0022】
盤面22Cに接着剤を塗布した後に盤面22Cに対してライニング部材26を少し円周方向に動かすことにより、窪み部22Dに接着剤がなじむように入り込み、余剰の接着剤を回収する。接着剤層24の接着剤と共に窪み部22D内で硬化した接着剤は、盤面22Cに対するライニング部材26の回転方向の耐剥離強度を高める効果を奏する。また、窪み部22Dでは、他の部分に比して接着剤層が厚くなることにより、盤面22Cに対するライニング部材26の接着強度も向上する。
【0023】
上述したように、本実施形態のロータ10では、異種材料による芯板12とディスク部22とによってロータボデー11が構成される。ロータボデー11は、軸嵌合孔16(スプライン部14)を有して高い機械的強度が必要なロータ中心側をステンレス鋼製の芯板12によって構成され、中心部分に比して高い機械的強度を必要としないライニング貼着部であるロータ外周側のディスク部22を樹脂化されていることにより、ロータボデー11の全体がステンレス鋼で構成される場合に比して、ロータボデー11の質量を1/2程度まで低減することができる。これにより、ロータ10において、十分な強度、耐久性を確保することと軽量化とが両立する。
【0024】
ロータボデー11の軽量化により、ロータ10のイナーシャが小さくなり、空転時のライニング部材26の摩耗が低減する。特に、ロータ10を縦置き(垂直置き)する無励磁作動形ブレーキに用いた場合、空転時のライニング部材26の摩耗が従来品より低減し、ロータ10の寿命が格段に向上する。また、ライニング部材26の摩耗が低減することにより、摩耗粉の発生が少なくなり、環境性能が改善される。
【0025】
なお、このロータ10のイナーシャの低減は、ロータボデー11の外周側を樹脂化、つまり軽量化されていることにより、顕著なものになる。
【0026】
ディスク部22を構成する樹脂がフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂であることにより、摩擦熱、環境温度に対して、更には、ロータ10の無励磁作動形ブレーキでの使用においての電磁コイル部の自己発熱による高温化に対して高い熱耐久性を確保することができる。特に、フェノール樹脂の使用により、安価にして優れた機械的性能と熱的性能とを得ることができる。
【0027】
電磁ブレーキにおいては、制動作用時にロータ10に生じる微振動に起因して「鳴き音」と呼ばれる耳障りな音が発生することがある。このことに対して、本実施形態では、ライニング貼着部であるディスク部22が金属よりヤング率が低いフェノール樹脂によって構成されていることにより、制動作用時の微振動が抑制され、「鳴き音」が低減する。
【0028】
本実施形態では、ディスク部22はインサートモールドによって芯板12の外周に成形されているから、ディスク部22を芯板12に対して精度よく成形することができる。このことにより、ディスク部22およびライニング部材26の薄肉化が可能になり、ロータ10を用いた無励磁作動形ブレーキの薄型化を促進することができる。
【0029】
芯板12をなす金属板に接着剤によって樹脂製のライニング部材を貼り付けると、ロータ廃棄時の材料種別毎の分別において、金属板とライニング部材とを分離することが困難である。このことに対して、本実施形態では、ディスク部22はインサートモールドによって芯板12の外周に成形され、ディスク部22にライニング部材26が接着剤によって貼り付けられており、ロータ廃棄時における芯板12とディスク部22との分離はディスク部22の円環内方部22Aの破壊によって比較的容易に行うことができるから、ライニング部材26を貼り付けられているディスク部22がなす樹脂部品と芯板12がなす金属部品とを比較的容易に分別することができる。
【0030】
図4は上述のロータ10を組み込まれた無励磁作動形ブレーキの一つの実施形態を示している。
【0031】
この電磁ブレーキは、円環形状のステータ50と、ステータ50の一方の端面側にカラー部材52を挟んでボルト54によってステータ50に固定された固定プレート56と、ステータ50と固定プレート56との間にボルト54の軸線方向に移動可動に配置された可動アーマチュア58とを有する。可動アーマチュア58は外周部に形成された凹部59によってカラー部材52に係合していることにより回り止めされている。
【0032】
ステータ50の一方の端面がなす磁極面50Aは可動アーマチュア58の一方の端面がなす磁極面58Aに正対し、固定プレート56の一方の端面がなす摩擦面56Aは可動アーマチュア58の他方の端面がなす摩擦面58Bに正対している。
【0033】
ステータ50には磁極面50Aを選択的に磁気吸着面とする円環形状の電磁コイル60が埋設されている。ステータ50と可動アーマチュア58との間には、可動アーマチュア58を磁極面50Aより離れる方向、つまり固定プレート56の側に付勢する圧縮コイルばねによるトルクスプリング62が設けられている。
【0034】
固定プレート56と可動アーマチュア58との間にはロータ10がボルト54の軸線方向に移動可動に配置されている。ロータ10の一方の側のライニング部材26の表面は固定プレート56の摩擦面56Aに正対し、ロータ10の他方の側のライニング部材26の表面は可動アーマチュア58の摩擦面58Bに正対している。ロータ10のスプライン部14にはロータハブ部材64がスプライン係合している。
【0035】
電磁コイル60に通電が行われていない状態では、
図4(A)に示されているように、可動アーマチュア58は、ステータ50側に磁気吸引されることはなく、トルクスプリング62のばね力によって磁極面58Aがステータ50の磁極面50Aより離間し、摩擦面58Bと摩擦面56Aとの間にロータ10を挟み込む。これにより、ロータ10の一方の側のライニング部材26の表面が固定プレート56の摩擦面56Aに摩擦係合すると共に、ロータ10の他方の側のライニング部材26の表面が可動アーマチュア58の摩擦面58Bに摩擦係合し、摩擦力によってロータ10を回転不能にする制動作用状態、つまりブレーキ締結状態が得られる。
【0036】
電磁コイル60に通電が行われると、
図4(B)に示されているように、可動アーマチュア58がステータ50側に磁気吸引され、トルクスプリング62のばね力に抗して可動アーマチュア58の磁極面58Aがステータ50の磁極面50Aに磁気吸着される。これにより、固定プレート56と可動アーマチュア58とによるロータ10の挟み込みが解除され、ロータ10が固定プレート56および可動アーマチュア58に対して自由に回転できるブレーキ解放状態になる。
【0037】
このブレーキ解放状態でロータ10が回転することは空転動作と呼ばれ、この空転動作においてライニング部材26が固定プレート56あるいは可動アーマチュア58に接触しながら回転することにより生じるライニング部材26の摩耗は空転摩耗と呼ばれている。この空転摩耗はロータボデー11の軽量化によって格段に低減する。
【0038】
以上、本発明を、その好適な実施形態について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施形態により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【0039】
たとえば、窪み部22Dは必須でなく、ライニング部材26を貼着される一方の側の盤面22Cにディスク部22の射出成形時のゲート痕が残る場合には、それとは反対側の盤面22Cにのみ窪み部22Dが設けられてもよい。また、本発明によるロータは、無励磁作動形ブレーキ以外の電磁ブレーキや電磁クラッチにも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 無励磁作動形ブレーキ用ロータ(ロータ)
11 ロータボデー
12 芯板
14 スプライン部
16 軸嵌合孔
22 ディスク部
22C 盤面
22D 窪み部
24 接着剤層
26 ライニング部材
50 ステータ
56 固定プレート
58 可動アーマチュア
60 電磁コイル
62 トルクスプリング