特許第5778261号(P5778261)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5778261赤外光アップコンバージョンデバイス上に電荷遮断層を設けるための方法および装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778261
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】赤外光アップコンバージョンデバイス上に電荷遮断層を設けるための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20150827BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20150827BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20150827BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   H05B33/22 C
   H05B33/14 B
   H05B33/22 B
   H05B33/22 D
   G09F9/30 349Z
   G09F9/30 365
   G09F9/00 366G
【請求項の数】38
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-512168(P2013-512168)
(86)(22)【出願日】2011年5月24日
(65)【公表番号】特表2013-532374(P2013-532374A)
(43)【公表日】2013年8月15日
(86)【国際出願番号】US2011037772
(87)【国際公開番号】WO2011149960
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2014年5月16日
(31)【優先権主張番号】61/347,696
(32)【優先日】2010年5月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504433168
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファウンデーション,インク.
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF FLORIDA RESEATCH FOUNDATION,INC.
(73)【特許権者】
【識別番号】512301857
【氏名又は名称】ナノホールディングス,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100117444
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 真司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(72)【発明者】
【氏名】ソー,フランキー
(72)【発明者】
【氏名】キム,ド,ヤング
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ドン,ウー
(72)【発明者】
【氏名】サラスケタ,ガリレオ
(72)【発明者】
【氏名】プラダン,バベンドラ ケー.
【審査官】 濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−506386(JP,A)
【文献】 特開2006−251555(JP,A)
【文献】 特開2000−277265(JP,A)
【文献】 特開平11−329736(JP,A)
【文献】 特開2006−013103(JP,A)
【文献】 特表2013−512439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
G09F 9/00
G09F 9/30
H01L 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外(IR)放射線を検知するためのデバイスであって、
アノードと、
ホール遮断層と、
前記ホール遮断層により前記アノードから分離されたIR検知層と、
前記IR検知層により前記アノードから分離された有機発光層と、
カソードと
を含み、
前記アノードと前記カソードとの間に電位が印加され、IR放射線が前記IR検知層に入射するとき、前記有機発光層内に電磁放射線出力が生成される、デバイス。
【請求項2】
前記ホール遮断層は、BCP、UGH2、BPhen、Alq3、mCP、C60、3TPYMB、ZnOナノ粒子、およびそれらの組合せからなる群から選択された材料を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記有機発光層は、IR放射線が前記IR検知層に入射するときだけ、前記電磁放射線出力を生成する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記アノードは透明であり、前記カソードは透明である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記アノードは、ITO、IZO、ATO、AZO、およびカーボンナノチューブからなる群から選択された材料を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記カソードは、LiF/Al、Ag、Ca:Mg、LiF/Al/ITO、Ag/ITO、CsCO3/ITO、およびBa/Alからなる群から選択された材料を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記有機発光層は、MEH−PPV、Alq3、およびFIrpicからなる群から選択された材料を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記IR検知層は、有機性である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記有機IR検知層は、SnPc、SnPc:C60、AlPcCl、AlPcCl:C60、TiOPc、およびTiOPc:C60からなる群から選択された材料を含む、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記IR検知層は、無機性である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記無機IR検知層は、PbSeおよびPbSからなる群から選択された材料を含む、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記IR検知層から前記有機発光層を分離する、ホール輸送層をさらに含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記ホール輸送層は、TAPC、NPB、およびTPDからなる群から選択された材料を含む、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記カソードから前記有機発光層を分離する、電子輸送層をさらに含む、請求項10に記載のデバイス。
【請求項15】
前記電子輸送層は、3TPYMB、BCP、BPhen、およびAlq3からなる群から選択された材料を含む、請求項13に記載のデバイス。
【請求項16】
前記カソードから注入された電子と、前記IR検知層から注入されたホールとが結合することにより、前記有機発光層内で、前記放射線出力が生成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
前記カソードから注入された前記電子は、前記カソードから電子輸送層を通り、前記発光層まで進む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記IR検知層から注入された前記ホールは、前記IR検知層からホール輸送層を通り、前記発光層まで進む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項19】
電磁放射線出力は、前記電位が閾値の大きさに達するまで生成されない、請求項1に記載のデバイス。
【請求項20】
デバイスを関心領域に配置するステップを含む、赤外(IR)放射線を検出する方法であって、
前記デバイスは、
アノードと、
ホール遮断層と、
前記ホール遮断層により前記アノードから分離されたIR検知層と、
前記IR検知層により前記アノードから分離された有機発光層と、
カソードと
を含み、
前記方法は、さらに、
前記アノードと前記カソードとの間に電位が印加され、IR放射線が前記IR検知層に入射するとき、前記有機発光層内に電磁放射線出力が生成される、ステップと、
前記電磁放射線出力が検出されたときIR放射線が前記関心領域に存在すると決定するように、前記電磁放射線出力を監視するステップと
を含む、赤外(IR)放射線を検出する方法。
【請求項21】
前記ホール遮断層は、BCP、UGH2、BPhen、Alq3、mCP、C60、3TPYMB、ZnOナノ粒子、およびそれらの組合せからなる群から選択された材料を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項22】
前記有機発光層は、IR放射線が前記IR検知層に入射するときだけ、前記電磁放射線出力を生成する、請求項2に記載の方法。
【請求項23】
前記アノードは透明であり、前記カソードは透明である、請求項2に記載の方法。
【請求項24】
前記アノードは、ITO、IZO、ATO、AZO、およびカーボンナノチューブからなる群から選択された材料を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項25】
前記カソードは、LiF/Al、Ag、Ca:Mg、LiF/Al/ITO、Ag/ITO、CsCO3/ITO、およびBa/Alからなる群から選択された材料を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項26】
前記有機発光層は、MEH−PPV、Alq3、およびFIrpicからなる群から選択された材料を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項27】
前記IR検知層は、有機性である、請求項2に記載の方法。
【請求項28】
前記有機IR検知層は、SnPc、SnPc:C60、AlPcCl、AlPcCl:C60、TiOPc、およびTiOPc:C60からなる群から選択された材料を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項29】
前記IR検知層は、無機性である、請求項2に記載の方法。
【請求項30】
前記無機IR検知層は、PbSeおよびPbSからなる群から選択された材料を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記IR検知層から前記有機発光層を分離する、ホール輸送層をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項32】
前記ホール輸送層は、TAPC、NPB、およびTPDからなる群から選択された材料を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項33】
前記カソードから前記有機発光層を分離する、電子輸送層をさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記電子輸送層は、3TPYMB、BCP、BPhen、およびAlq3からなる群から選択された材料を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項35】
前記カソードから注入された電子と、前記IR検知層から注入されたホールとが結合することにより、前記有機発光層内で、前記放射線出力が生成される、請求項3に記載の方法。
【請求項36】
前記カソードから注入された前記電子は、前記カソードから電子輸送層を通り、前記発光層まで進む、請求項3に記載の方法。
【請求項37】
前記IR検知層から注入された前記ホールは、前記IR検知層からホール輸送層を通り、前記発光層まで進む、請求項3に記載の方法。
【請求項38】
電磁放射線出力は、前記電位が閾値の大きさに達するまで生成されない、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、任意の図、表、または図面を含む、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、2010年5月24日に出願した米国仮出願第61/347,696号の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外光(IR)から可視光へのアップコンバージョンデバイスは、夜間視認、測距、警備、および半導体ウエハ検査における適用可能性により、多くの研究的関心を集めてきた。初期には、近赤外光(NIR)アップコンバージョンデバイスは、大部分が無機半導体のヘテロ接合構造に基づいていた。これらのデバイスは、連続する2つの部分、すなわち、光検出用の部分、および発光用の部分から構成される。アップコンバージョンデバイスは、主に、光検出の方法により区別される。これらのデバイスのアップコンバージョン効率は、一般的に低い。例えば、発光ダイオード(LED)と半導体ベースの光検出器とが一体化した、あるNIR光から可視光へのアップコンバージョンデバイスは、0.3%の最大外部変換効率を示す。有機発光ダイオード(OLED)と一体化した無機InGaAs/InP光検出器を有する、ハイブリッド有機/無機アップコンバージョンデバイスは、0.25%の外部変換効率を示すにすぎない。そうした無機アップコンバージョンデバイスおよびハイブリッドアップコンバージョンデバイスは、製造および処理するのにコストが掛かり、これらの製造は、大面積の適用例と相性が良くない。
【0003】
Ni他、Jpn.J.Appl.Phys.2001、40、L948およびChikamatsu他、Appl.Phys.Lett.2002、81、769は、蛍光OLEDをチタニルフタロシアニン(TiOPc)光感応型ホール注入層と結合することにより、NIRから青色へのアップコンバージョンおよび赤色から緑色へのアップコンバージョンをそれぞれ示す、全体が有機性のアップコンバージョンデバイスを開示する。これら全体が有機性のアップコンバージョンデバイスは、極めて低い変換効率(0.05%未満)を示す。有機増感物質が低い電荷解離効率を有する光発生励起子を生成し、蛍光OLEDが5%未満の外部量子効率(EQE)を示し、低い総合アップコンバージョン効率をもたらすので、アップコンバージョンデバイスに使用される光検出器は、低い量子効率を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ni他、Jpn.J.Appl.Phys.2001、40、L948
【非特許文献2】Chikamatsu他、Appl.Phys.Lett.2002、81、769
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は、赤外(IR)放射線を検知し、より高いエネルギーの電磁放射線の出力を提供するためのデバイスであって、アノードと、IR検知層からアノードを分離するホール遮断層(HBL)と、IR検知層によりアノードから分離された有機発光層と、カソードとを含む、デバイスに関する。IR放射線がIR検知層に衝突したとき、アノードとカソードとの間に電位が印加されると、ホールおよび電子は、有機光子放射層内で結合し、電磁放射線を生成する。特定の実施形態では、アノードおよびカソードの一方または両方が透明である。特定の実施形態では、アノードは、ITO、IZO、ATO、AZO、およびカーボンナノチューブから選択された材料により作成することができ、カソードは、LiF/Al、Ag、Ca:Mg、LiF/Al/ITO、Ag/ITO、CsCO3/ITO、およびBa/Alから選択された材料により作成することができる。ホール遮断層は、BCP、UGH2、BPhen、Alq3、mCP、C60、3TPYMB、ZnOナノ粒子、および/またはそれらの任意の組合せを含むことができる。有機光子放射層は、MEH−PPV、Alq3、およびFIrpicから選択された材料により作成することができる。IR光検出層は、SnPc、SnPc:C60、AlPcCl、AlPcCl:C60、TiOPc、またはTiOPc:C60などの有機材料により作成することができ、または、PbSeもしくはPbSなどの無機材料により作成することができる。本発明の実施形態では、本デバイスは、ホール輸送用としてTAPC、NPB、もしくはTPDなどの材料、ならびに/または、電子輸送用として3TPYMB、BCP、BPhen、およびAlq3などの材料から形成された、1つまたは複数の電荷輸送層を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】従来技術を示す図であって、いかなる電荷遮断層も含まない、赤外光から緑色光へのアップコンバージョンデバイスの概略的なエネルギー準位図であり、暗所において印加電圧がない状態での概略的なエネルギーバンド準位図である。
図1B】従来技術を示す図であって、いかなる電荷遮断層も含まない、赤外光から緑色光へのアップコンバージョンデバイスの概略的なエネルギー準位図であり、さらに暗所において低い電圧を印加した状態での概略的なエネルギーバンド準位図である。
図2A】本発明の実施形態による、ホール遮断層を含むIR光から緑色光へのアップコンバージョンデバイスの概略的なエネルギーバンド準位図であり、暗所において印加電圧がない状態での概略的なエネルギーバンド準位図である。
図2B】本発明の実施形態による、ホール遮断層を含むIR光から緑色光へのアップコンバージョンデバイスの概略的なエネルギーバンド準位図であり、さらに暗所において高い電圧を印加した状態での概略的なエネルギーバンド準位図である。
図2C】本発明の実施形態による、ホール遮断層を含むIR光から緑色光へのアップコンバージョンデバイスの概略的なエネルギーバンド準位図であり、IR放射線内で電圧を印加した状態での概略的なエネルギーバンド準位図である。
図3A】ホール遮断材料としてBCPおよびUGH2を有する、本発明の実施形態による様々な有機ホール遮断層を含む、IR光から緑色光へのアップコンバージョンデバイスの、暗所およびIR放射線の照射下でのI−V特性を示す図である。
図3B】ホール遮断材料としてBCPおよびUGH2を含む、本発明の実施形態による様々な有機ホール遮断層を有する、IR光から緑色光へのアップコンバージョンデバイスの、暗所およびIR放射線の照射下でのL−V特性を示す図である。
図4A】本発明の一実施形態による有機BCPホール遮断層を含むデバイスと比較しながら、本発明の実施形態による無機ZnOホール遮断層を含む、IR光から緑色光へのアップコンバージョンデバイスの、暗所およびIR放射線の照射下でのI−V特性を示す図である。
図4B】本発明の一実施形態による有機BCPホール遮断層を含むデバイスと比較しながら、本発明の実施形態による無機ZnOホール遮断層を含む、IR光から緑色光へのアップコンバージョンデバイスの、暗所およびIR放射線の照射下でのL−V特性を示す図である。
図5A】いかなる電荷遮断層もないQDベースのIR光から可視光へのアップコンバージョンデバイスの、暗所およびIR放射線の照射下での概略的なエネルギーバンド準位図である。
図5B】いかなる電荷遮断層もないQDベースのIR光から可視光へのアップコンバージョンデバイスの、暗所およびIR放射線の照射下でのL−I−V特性を示す図である。
図6A】本発明の一実施形態による、ZnOホール遮断層を含むQDベースのIR光から可視光へのアップコンバージョンデバイスの、暗所およびIR放射線の照射下での概略的なエネルギーバンド準位図である。
図6B】本発明の一実施形態による、ZnOホール遮断層を含むQDベースのIR光から可視光へのアップコンバージョンデバイスの、暗所およびIR放射線の照射下でのI−V特性を示す図である。
図6C】本発明の一実施形態による、ZnOホール遮断層を含むQDベースのIR光から可視光へのアップコンバージョンデバイスの、暗所およびIR放射線の照射下でのL−V特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
有機発光ダイオード(OLED)および高効率有機光検出器などの高効率有機発光デバイスが実証され、OLEDおよびIR光検出器が1つのデバイスに組み込まれた、全体が有機性のアップコンバージョンデバイスが発明者により開示されている(その全体が参照により本明細書に組み込まれており、特に、1つのデバイスに組み込まれた、OLEDなどの有機発光デバイスおよびIR光検出器などの、有機光検出器および全体が有機性のアップコンバージョンデバイスに関するその教示に関して組み込まれた、2010年11月24日に出願された、KimらのPCT特許出願PCT/US2010/058015、およびKimら、Adv.Mater.2010、22、2260−3を参照のこと)。これらは軽量で起伏がある可撓性プラスチック基板に適合するので、全体が有機性のアップコンバージョンデバイスは、適用例を他のより従来型の技術に利用することができない。不都合なことに、IR放射線が存在しなくても、オフ状態の有機アップコンバージョンデバイスは、低電圧において、アノードの仕事関数とIR吸収光検出器の最高被占分子軌道(HOMO)とのわずかな差により、依然として、可視光を放射する可能性がある。
【0008】
本発明の実施形態は、十分高い電圧におけるIR放射線の照射下でのみ発光が起こる、OLEDなどの有機発光デバイスと結合するIR光検出器のアップコンバージョンから放射が起こる、改良型の赤外光画像処理デバイスに関する。本発明の他の実施形態は、コストが比較的低く、ほとんど電力を消費することなく、高いゲインおよび画像忠実度を有する、軽量の極めて感度が高いデバイスをもたらす製造方法に関する。特定の実施形態は、Kimら、PCT/US2010/058015、またはKimら、Adv.Mater.2010、22、2260−3に開示された、IR光から緑色光への有機アップコンバージョンデバイスの1つまたは複数を組み込むことができ、例示的な実施形態では、錫フタロシアニン:バックミンスターフラーレン(SnPc:C60)バルクヘテロ構造層IR光検出器は、発光層であるfac−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)ベースの燐光層と直列に結合しており、この構造は、従来のOLEDと同様の、図1Aに図式化された構造により一般化することができる。
【0009】
全体が有機性のアップコンバージョンデバイスでは、IR放射線が発生するまで、OLEDなどの有機発光デバイスがオフ状態のままであるように、ホール輸送が少ないIR増感層を有するのが有利である可能性がある。IR光励起が起こると、ホールは、有機発光層に注入され、ホールは、カソードから注入された電子と結合し、可視光などの、入射IR放射線よりも波長が短い光を放射する。インジウム錫酸化物(ITO)アノードおよびIR検出(吸収)錫(II)フタロシアニン(SnPc)層を含むデバイスの場合のように、アノードの仕事関数とIR吸収体のHOMOとの間のわずかな差により、図1Bに示すように、低電圧で、アノードからのホール注入が起こる。したがって、IR放射線がほとんどなく、またはIR放射線が全くなくても、比較的低い電圧を電極に印加すれば、光を生成することができる。
【0010】
本発明の実施形態では、全体が有機性のアップコンバージョンデバイスの性能は、電荷遮断層を含むことにより向上する。特定の実施形態では、図2A、2B、および2Cに示すように、十分高い電圧およびIR放射線が印加されるまで、ITOアノードからのホールキャリアが効率的に遮断され、アップコンバージョンデバイスの可視光輝度を抑えるように、ITOアノードとSnPcIR光検出層との間に、ホール遮断層が配置される。ITOに加えて、アノードとして使用することができる他の材料には、限定されないが、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム錫酸化物(ATO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、およびカーボンナノチューブが含まれる。SnPc:C60に加えて、使用することができる他の有機IR光検出器材料には、限定されないが、錫(II)フタロシアニン(SnPc)、アルミニウムフタロシアニンクロライド(AlPcCl)、AlPcCl:C60、チタニルフタロシアニン(TiOPc)、およびTiOPc:C60が含まれる。Ir(ppy)3に加えて、使用することができる、OLEDなどの他のエレクトロルミネセンス有機発光デバイスには、限定されないが、ポリ[2−メトキシ,5−(2’−エチル−ヘキシルオキシ)フェニレンビニレン](MEH−PPV)、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)、およびイリジウム(III)ビス[(4,6−ジ−フルオロフェニル)−ピリジネート−N,C2’]ピコリネート(FIrpic)が含まれる。カソードは、LiF/Alとすることができ、または、限定されないが、Ag、Ca:Mg、LiF/Al/ITO、Ag/ITO、CsCO3/ITO、およびBa/Alを含む、適当な仕事関数を有する任意の導体とすることができる。電子輸送層として使用することができる材料には、限定されないが、トリス[3−(3−ピリジル)メシチル]ボラン(3TPYMB)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナンスロリン(BCP)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナンスロリン(BPhen)、およびトリス−(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(Alq3)が含まれる。ホール輸送層として使用することができる材料は、限定されないが、1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(TAPC)、N,N’−ジフェニル−N,N’(2−ナフチル)−(1,1’−フェニル)−4,4’−ジアミン(NPB)、およびN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)ベンジジン(TPD)が含まれる。当業者は、その相対的な仕事関数、最高被占分子軌道(HOMO)レベル、最低空分子軌道(LUMO)レベル、層適合性、その製造中に使用される任意の所望の堆積方法の性質により、アノード、カソード、IR光検出器、OLEDなどの有機発光デバイス、材料、ホール輸送層、および電子輸送層の適当な組合せを容易に特定することができる。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態では、ホール遮断層は、有機化合物とすることができる。様々な有機ホール遮断層、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナンスロリン(BCP)、およびp−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(UGH2)より形成された、本発明の実施形態によるIR光から緑色光へのアップコンバージョンデバイスの、暗所およびIR放射線の照射下での、I−V特性を図3Aが示し、L−V特性を図3Bが示す。これらのホール遮断材料は、深いHOMOレベルを有する。これらの材料がさらに、小さいLUMOエネルギーを有するので、ホール遮断層とIR増感層との間の電荷生成は無視できる。図3Aおよび3Bに示すように、ホール遮断層を含むアップコンバージョンデバイスは、暗所では、より高いターンオン電圧を有する。BCPおよびUGH2に加えて、本発明の実施形態に使用することができる他の有機ホール遮断層には、限定されないが、4,7−ジフェニル−1,10−フェナンスロリン(BPhen)、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)、3,5’−N,N’−ジカルバゾール−ベンゼン(mCP)、C60、およびトリス[3−(3−ピリジル)−メシチル]ボラン(3TPYMB)が含まれる。
【0012】
本発明の他の実施形態では、アップコンバージョンデバイス内に無機ホール遮断層を含むことができる。異なる厚さのZnOホール遮断層を含む、IR光から緑色光へのアップコンバージョンデバイス、および比較用の有機BCPホール遮断層を含むデバイスの、暗黒状態およびIR放射線の照射下での、I−V特性を図4Aが示し、L−V特性を図4Bが示す。ZnOホール遮断層を含むデバイスは、BCPデバイスと同様の特性を示す。ZnOに加えて、本発明の実施形態に使用することができる他の無機ホール遮断層には、限定されないが、TiO2、SiO、SiO2、Si34、およびAl23が含まれる。
【0013】
本発明の他の実施形態では、IR光検出層は、無機性の例えば量子ドット(QD)とすることができ、ホール遮断層は、有機性または無機性とすることができる。図5Aに示す、ホール遮断層が欠如した例示的なアップコンバージョンデバイスにおいて、PbSeのQD層が、IR増感物質として使用され、MEH−PPVが、OLEDなどのエレクトロルミネセンス有機発光デバイスとして使用される。図5Aのデバイスは、QDIR検出層の近傍でホール遮断をしないことを示し、図5Bに示すように、QDIRアップコンバージョンデバイスに関するL−I−V特性は、暗所とIR放射電流密度と印加電圧に伴う輝度との差をほとんど示さず、低電圧で発光が起こることを示す。それと対照的に、図6Aに示すように、ZnOホール遮断層を含むQDIRアップコンバージョンデバイスは、暗所ではアノードからのホール注入を効果的に遮断する。このことは、ZnOホール遮断層を含むQDIRアップコンバージョンデバイスに関する、図6Bおよび6CのI−VおよびL−V特性により示される。この実施形態では、IR放射線は、効果的な光学スイッチとして機能する。PbSeに加えて、使用することができる他のQDには、限定されないが、PbSが含まれる。IR検出器として使用することができる他の無機材料には、限定されないが、Si、Ge、およびGaAsが含まれる。
【0014】
本発明の実施形態は、赤外光(IR)放射線を検出し、可視光出力などの、入射IR放射線よりも波長が短い出力を提供するための方法および装置に関する。本発明の実施形態によるアップコンバージョンデバイスは、軽量で起伏がある可撓性プラスチック基板に適合するので、要素として、例えば、限定されないが、夜間視認、測距、警備、および半導体ウエハ検査を含む、いくつかの適用例に関するピクセルとして使用することができる。
【0015】
参照または引用する、すべての特許、特許出願、仮出願、および文献は、それらが本明細書の明示的な教示と矛盾しない範囲で、すべての図および表を含めて、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0016】
本明細書に説明した例および実施形態は、説明のためだけのものであり、それを踏まえて、様々な修正または変更を当業者に示唆し、これらの修正または変更を本出願の技術的思想および範囲内に含むものとすることを理解されたい。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C