(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示は、その適用に関して、以下の説明で記述される、または図に示される構築物の細部および構成要素の配置に限定されないことを理解されたい。本開示は他の実施形態が可能であり、また様々に実践または実行することができる。また、本明細書で用いられる術語および用語は、説明を目的とするものであり、限定するものと見なされるべきでないことを理解されたい。「含む」、「備える」または「有する」、およびその変形したものは、本明細書では、その後に列挙されるもの、およびその等価物、ならびに追加物を含むことを意味する。特に限定されない限り、本明細書の「接続された」、「結合された」および「取り付けられた」という用語、ならびにその変形したものは広い意味で用いられ、直接または間接的な接続、結合および取付けを包含する。加えて、「接続された」および「結合された」という用語、ならびにその変形したものは、物理的または機械的あるいは電気的な接続または結合に限定されない。さらには、次の段落でも説明されるように、図面に示される特定の機械的または電気的構成は、本開示の諸実施形態を例示するものである。しかし、本開示の教示の範囲内にあると考えられる他の代替の機械的または電気的構成も実現可能である。さらに、特に指示がない限り、「または」という語は包括的なものと考えられるべきである。
【0027】
次に、本明細書の開示および添付の図を参照して、本発明の様々な実施形態による機能的電気刺激(FES)装置およびシステム、ならびにその使用について説明する。
【0028】
詳細には、
図2は、本発明の一実施形態によるFESシステム200の高レベル図を提示する。この特定の実施形態では、FESシステムは外部システムから構成されるが、以下でさらに論じるように、本開示の一般的範囲および本質から逸脱することなく、内部実施用の類似のシステム(例えば、植え込み式システム)を設計および実施することができる。システム200は一般に、電気パルスを作り出す電力段204と、電力段204の動作を規制するコントローラ206とを含む出力段202を備える。システム200はさらに、電力段204で生成されたパルスを、例えば、皮膚を介する(例えば、表面/経皮(transcutaneous)電極)、および直接身体に侵入する(例えば、経皮(percutaneous)電極)などにより標的組織まで送出する1つまたは複数の刺激電極208を含むことができ、あるいはこれら刺激電極と動作可能に結合するように構成することができる。意図されたパルス特性を出力段202に伝達するための中央処理プラットフォームまたは中央論理回路210もまた例示的に例示されており、この伝達は、例えば、開業医師または操作員からの(例えば、1つまたは複数の起動スイッチ、ダイアルおよび/または他の、このようなユーザが操作可能なインターフェースを介する、および/または記憶された、または別様に実施用システムによってアクセス可能な、ユーザが選択可能な1つまたは複数の事前にプログラムされた刺激シーケンスを介する)外部入力212に基づいており、あるいは、例えば、問題になっているFES処置の有効性に関連する、またはそれについて示す1つまたは複数の検知された生理学的パラメータに基づいてFESシステム200の動作を規制する、またはそれに影響を及ぼすように構成された1つまたは複数の生理学的センサなどの他の装置からの外部入力212に基づいている。
【0029】
刺激用FESパルスの構成は、いくつかの特性、例えば、パルス型(電流または電圧)、振幅、持続時間、立上がり時間、周波数、極性、位相数、および対称性によって決定することができ、これらの特性については以下でさらに説明する。したがって、適応性のあるFESシステムを提供することで、様々なFES処置を行う際のより大きい多用性が可能になり、これらのパルス刺激特性のうちの1つ以上の変化の度合いを処置有効性の改善のために有利に調整することができる。本発明の様々な実施形態による、以下で説明する諸例は一般に、パルス振幅、持続時間、立上がり時間、周波数、極性、および対称性など、1つまたは複数の調整可能および/または選択可能なパルス特性に基づく電流刺激パルスを発生することに適合されており、これらの特性については以下でより詳細に説明する。さらに、これらの処置の性質を考えると、患者の安全もまた特別な関心事であり、本発明の様々な実施形態による安全機能を提供することもまた特に望ましい。
【0030】
パルス型。上記のように、電圧パルスとは対照的な電流パルスを供給することが一般に、FESを供給することに関して本明細書で考察される。このようなパルスに影響を及ぼしうる組織抵抗の変数間差および変数内差には、それだけには限らないが、汗、皮膚の動き、および血行の増加が含まれ、これらは典型的には、例えばFESの結果として生じる。例えば、所望のパルス振幅を維持するために、電流調整および/または電圧調整が望ましいことがある。FES治療のいくつかの例示的な実施形態では、電流調整が、組織抵抗にかかわらず所望の電荷が組織まで送出されるので望ましい。
【0031】
パルス振幅および持続時間。一般に活動電位は、膜電位が閾値膜電位に達した場合にだけ発生する。患者ごとに、異なる組織インピーダンスの範囲がある。また各患者のうちで、各種の組織は別個のインピーダンスを有する。したがって、様々な電流振幅のFES発生パルスが、これらのインピーダンスの相違に対処するために必要になりうる。またそれゆえに、刺激される組織の種類が、所与のFES処置の振幅レベルおよびパルス持続時間を決定するためのパラメータになりうる。例えば、小さい筋肉の局部刺激では一般に、短く低強度のパルスが必要であるのに対し、深部筋肉刺激ではより大きい振幅および長いパルス持続時間が必要である。
【0032】
パルス立上がり時間。電流パルスの立上がり時間は、強化FES処置を行うことに関連した重要性をもつ。例えば、パルス立上がり時間があまりに遅い場合には、膜電位が刺激に対して順応または適合することがある。その結果、他の場合には適切な刺激パルスにもかかわらず、閾値膜電位が得られず、所望の神経筋興奮が起きないことがある。同様に、パルス立上がり時間が改善(低減)されると、同様な刺激を得るためのパルス振幅の要求が小さくなりうる。このようなパルス振幅の低減が、消費電力の低減、および組織に印加される総絶対電荷の低減につながることがあり、これは、特定の適用例において特に重要になりうる。
【0033】
パルス周波数。パルス送出の周波数は、組織内の活動電位発生率を決定する。刺激周波数が40Hz以上である場合、発生した活動電位により連続した筋肉(強縮性)収縮が生じる。刺激周波数が16Hzから40Hzの間である場合、個人の多くが不連続の筋肉収縮(非強縮性収縮)を感じることがあるが、筋肉はなお、機能的課題を引き起こすことができる。16Hz未満の刺激周波数では、連続した(強縮性)筋肉収縮は非常に起こりにくい。刺激周波数が高ければ高いほど、患者が感じる筋肉疲労が早く、また不快感が少ない。
【0034】
パルス極性および対称性。パルスは、単極性(正もしくは負)または両極性(正と負)とすることができる。両極性パルスは、対称または非対称とすることができる。これらの特性の様々な変形が、例えば
図1に示されている。
【0035】
上述の諸特性により、FES適用例で使用されるパルスの型および形状が決まる。例えば外部刺激では、長時間にわたる組織内の過剰電荷蓄積によりガルバニックプロセスが生じ、はなはだしい組織損傷および苦痛を引き起こすことがあるので、組織の電荷平衡を維持することが好ましい。この理由により、それぞれの方向に同量の電荷を印加する両極性パルスが、診療では最もよく使用される。所与の振幅および持続時間である1つの逆相と、その4倍の持続時間にわたって4分の1の振幅である1つの第2の正相とを有する非対称パルスが、外部FES適用例では改善された結果をもたらすと考えられるが、本開示の一般的文脈から逸脱することなく、本明細書に関して他のパルス持続時間および振幅比もまた考えられうる。当面の適用例に応じて、パルス刺激パラメータの精度および制御が改善されると、患者の安全および快適度が改善されることはいうまでもなく、より高精度で効果的な処置が可能になる。例えば、パルス立上がり時間の低減(これは、所望の筋肉収縮を起こすために利用されるパルス振幅(エネルギー)の低減に効果的に寄与しうる)と、パルス時間特性およびパルス振幅に対する厳格な制御とを実現することがすべて、電荷蓄積の可能性の低減に寄与し、したがってFESシステム改善のための不断の機会を意味するものとなりうる。
【0036】
以下の表1には、種々のパルス特性およびFESに対するその効果が、FES処置機会の改善を実現する際のFES適用例の状況で適用可能なそれぞれの評価基準と共に要約されており、これらFES処置機会の改善のうちの少なくとも一部が一般に、本明細書に記載の本発明の様々な実施形態およびその等価物の実施の際に達成される。
【0038】
図3を参照すると、本発明の一実施形態による例示的な出力段300が大まかに示されている。この例では、出力段300は一般に、電池などの電源304に動作可能に結合された第1の電力段302を備え、この電力段は、種々のFESパルスシーケンス/パラメータを実施するのに十分な電流をパルス発生回路310を介して負荷308に供給する際に、第2の電力段306で使用できる電圧供給を増大させるものである。コントローラ312がまた設けられており、このコントローラは、FESパラメータ値を調整するために、および/または種々の安全手順を実施するために、ならびに1つまたは複数の選択可能なFES処置シーケンス/パラメータによるパルス発生回路の動作を制御するために、電圧および/または電流の調整および制御などの出力段300の種々の動作態様を制御するものである。一般的なFESマイクロコントローラ314がまた、例えば、出力段300を組み込む総合FESシステムとの関連において、総合制御機能を用意する場合に設けられることもある。
【0039】
一実施形態では、出力段は二段デジタル制御スイッチモード電源(SMPS)で構成される。例えば、
図4および
図5の例示的な実施形態を参照すると、出力段(400、500)は、直列に配置された2つのスイッチモード電源(SMPS)を使用することができる。これらの例ではフライバックコンバータ(402、502)である第1のSMPSは、これらの例ではバックコンバータ(406、506)である第2のSMPSが、負荷(408)を刺激するために出力部に必要な電流パルス振幅を生成できるように、すなわち個別または一体化(すなわち統合)パルス発生回路により、供給電圧または電池電圧(404、504)を昇圧する。このパルス発生回路は、これらの例では、本発明の様々な実施形態により以下でより詳細に説明するスイッチトキャパシタ回路(410、510)で構成される。
【0040】
電池式FESシステムまたは装置の実施の際には、デジタル制御と共に低電力高周波SMPCを使用することで、他の利用可能な電源構成と比較して電池寿命が著しく伸びることになりうる。さらに、上記で例示したようなスイッチング電力コンバータを使用することによって、電源と出力部の間の潜在的な直流電気分離を行いながら、直流-直流変換を効率的に実施することが可能である。これは、このようなシステムに使用される磁気装置が本質的に電力を消費しないことに由来する。また、これらの装置のスイッチング素子は一般に、オフまたは飽和状態のどちらかであり、このこともまたエネルギー節減に寄与しうる。
【0041】
さらに
図4および
図5を参照すると、いくつかの実施形態によるパルス発生回路(410、510)はスイッチトキャパシタ回路を備え、このスイッチトキャパシタ回路は、この例では共通デジタルブロック/コントローラ(412、512)を介して伝達されてくる入力制御パラメータと一致する様々なパルスパターンを発生する第2の電力段(406、506)の一部分である。
【0042】
詳細な例示的実施形態を参照して以下でより詳細に説明するように、パルス発生回路(410、510)は、スイッチトキャパシタ回路を備えることができ、このスイッチトキャパシタ回路は、例えば、相対的に速い立上がり時間、きれいなパルス特性、および両極性動作における実質的な電荷平衡(すなわち、刺激される組織内の、組織損傷につながりうる電荷蓄積を低減または回避するため)と併せて、種々のパルスプロファイルの形成を可能にする。例えば、一実施形態では、第2すなわち下流の電力段のスイッチキャパシタ部分は、両極性パルスパターンが印加された場合に、蓄積電荷をゼロ(または実質的にゼロ)にすることが本来できる。このようなパルスプロファイルは、それだけには限らないが、例えば
図1に示されるように、システムへの外部入力および/または内部入力に応じて時間、振幅および/または周波数が変化しうる単極性パルスシーケンス、両極性パルスシーケンス、単相パルスシーケンス、二相の対称および/または非対称パルスシーケンスを様々な組合せで含むことができる。
【0043】
一実施形態では(例えば、
図5参照)、スイッチトキャパシタ回路510は、バックコンバータトポロジー506内に組み込まれる。降圧直流-直流コンバータであるこのような出力電力段では一般に、平衡状態で動作する場合にキャパシタ電荷バランスの基本原理を尊重する。例えば、調整される電力段において、コンバータに使用される各出力キャパシタの平均値は、次式の関係で示されるようにゼロになるように構成することができる。
【0045】
この関係により、スイッチトキャパシタ出力部は、負荷にパルスを送出する降圧スイッチコンバータの出力部に組み入れることができる。
【0046】
さらに
図4および
図5を参照すると、デジタルブロック/コントローラ410、510は出力段の種々の態様を、それが第1および/または第2の電力段の電圧および/または電流フィードバック制御であれ、制御するために、かつ/または種々の制御信号を第1または第2の電力段に、および/またはパルス発生回路に供給するために設けることができる。このコントローラはまた、システム適応性の改善、および/または患者ための様々な階層の保護を実現することもできる。例えば、一実施形態では、デジタル電流モード制御により電流過負荷保護を実現することができる。さらに、デジタル制御および論理回路によって、種々のシステムおよびパルスパラメータの調整を可能にして、システムを様々なFES処置プロトコル、FESシーケンスおよびFES治療、および/または様々な組織型、患者および/または患者症状に、いくつか例を挙げると、適合させることができる。例えば、一実施形態ではコントローラは、組織型、患者ごとの違い、および/または同じ患者の経時的な違いなどの種々のパラメータとの関係で出力電流レベルを調整するように構成することができる。すなわち、各パルス相の間中に出力電流レベルを調整するために相対的に高速のコントローラを使用して、正確な電流振幅を得ることができる。皮膚の抵抗は400Ωから3kΩの間で変化しうるので、例示的な一実施形態では、例えば、電池電圧を数百ボルトまで昇圧して0から125mAの範囲の電流パルスを作り出すことが望ましい場合がある。
【0047】
以下の諸例を分かりやすくするために、説明は単一チャネルの実施の実証に限定するが、
図5に概略的に示されるように、本明細書に記載の本発明の種々の態様は、以下の諸例でより詳細に論じられるように、多チャネルに容易に拡張することができる。
【0048】
第1の出力電力段
図4および
図5の例に大まかに示されているように、本発明の様々な実施形態によるFESシステムの出力段は、電池などの付属電源の電圧を昇圧するためのフライバックコンバータなどを備えることができる。フライバックトポロジーは分離トランスを備えることができ、この分離トランスは一般に、高電圧構成要素からの直流電気分離を行うことによって、ならびに植え込み式FES適用例では電力を無線で伝達する潜在能力を有することによって、生物医学的用途によく役立つ。さらに、特に
図5を参照すると、このフライバックトポロジーは、別の二次巻線を追加することで多チャネルに容易に拡張することができる。
【0049】
次に
図6を参照し、一実施形態により、フライバックコンバータトポロジーの第1の例を説明する。この実施形態では、フライバックコンバータ600は、第2の電力段(例えば、この例と関連する
図12参照)にほぼ一定の高い供給電圧V
outを供給するために、当面の適用例に応じて1:10または他の適切な比など、1:nの巻数比のトランスを使用する。一般に、フライバックコンバータは、第2の電力段から実質的に独立して動作するように設計され、フライバックの出力電圧が、所望の電流パルスを負荷に供給するために、第2の電力段およびパルス発生回路と直列に接続される。
【0050】
この例では、フライバックコンバータ600の出力は、デジタルブロック602によってデジタル制御され、デジタルブロック602は、この実施形態では一次側電流プログラムモード(CPM)コントローラで構成される。具体的には、フライバックコンバータ600は、二次側ダイオードが逆方向バイアスになる不連続伝導モード(DCM)で動作するように構成され、デジタルCPM一次側制御が用いられる。この関連で、DCMは、コントローラ602をすべてフライバック600の一次側に配置することを可能にする。したがって、出力電圧は、二次側でのサンプリングを必要とすることなく、一次側スイッチ電圧値から計算することができ、それによって二次側の回路分量が低減され、これは、例えば植え込み式の実施で重要なことがある。さらに、CPMでは一般に、ピーク電流モードで一次側スイッチ電流を制御することが含まれ、これにより二次側に印加される電流が制限され、それによって安全のもう1つの階層が得られる。加えて、CPMでは、システムの次数が低減し、実際のところ小信号分析により、出力電圧伝達関数に対する制御電流は、1つの主極に低減することができ、したがって、この例で図示されているように、簡単な比例積分(PI)補償器604を使用して制御することができる。
【0051】
したがって、フライバックコンバータ600の出力電圧は、本発明の一実施形態によれば、以下の順序で調整することができる。まず、出力電圧は、DCMの間にスイッチ電圧を各スイッチングサイクルごとに2回サンプリングすることによって、一次側で抽出される。スイッチ電圧は、次式のように、各スイッチングサイクル中に3つの値をとる。
V
sw1=i
swR
on
【0053】
V
sw3=V
in
ここで、i
swはスイッチ電流、R
onはスイッチのオン抵抗、V
jはダイオードモジュールの順方向電圧、nは巻数比である。上の各式は、主スイッチオン相(v
sw1)の間中、スイッチオフ相(v
sw2)の間中、およびコンバータがDCMに入るとき(V
sw3)のスイッチ電圧を示す。この電圧は、スイッチオフおよびDCM相の間中にADCを用いてサンプリングされ、2つのレジスタに記憶される。出力電圧は、これらの値で引き算し、巻数比を掛けることによって計算される。ダイオードの順方向電圧はデータシートから分かるが、V
out≫V
fであるので計算では無視することができる。抽出された出力電圧(例えば、抽出器606により)は前方へ供給され、
図7に示されるように、デジタル誤差値が生成される(例えば、誤差生成器608により)。
【0054】
この誤差値は、V
refからHV
outを引き算することにより決定される。誤差値は、誤差ルックアップテーブル(LUT)にマッピングされる。このLUTは生誤差値を取り込み、ある誤差値を割り当てる。この誤差値はPI補償器604に供給され、PI補償器は、下記の差分方程式を用いて次のスイッチングサイクルのための新しい制御電流を決定する。例示的なPI構成が
図8に示されている。
i
c[n]=ae[n]-be[n-1]+i
c[n-1]
【0055】
AELUTおよびBELUTにおいて誤差値および遅延誤差値にそれぞれ係数AおよびBを掛ける。新しい制御電流は、加算器/減算器により計算され、シグマ-デルタデジタルアナログコンバータすなわちΣΔDAC(610)を用いてアナログ電圧に変換され、比較器604に供給されてピーク電流が設定され、したがって次のスイッチングサイクルのスイッチオン時間が設定される。このプロセスは
図9に示されている。正確なデューティサイクルを得るには、きれいなスイッチ電流傾斜が一般に必要である。しかし、実際のスイッチでは導通開始直後にリンギングができてしまう。このリンギングの振幅は制御電流を超えることがあり、その場合、間違った早すぎる比較器ハイ信号が生じ、その結果、セット-リセット(SR)ラッチのリセットが早くなり、またデューティサイクルが減少されることになる。この問題は、スイッチ電流の最初の期間を無視して間違いリセット信号を防止するブランキングクロックによって軽減することができる。摂動による発振の影響をコンバータ600が受けにくいようにするために、デューティサイクルは、デューティ制限信号によって50パーセント未満に制限することができる。
【0056】
図10は、本発明の一実施形態による、上述の制御シーケンスの流れ図を提示する。
【0057】
次に、
図11を参照し、一実施形態により、フライバックコンバータトポロジーの第2の例を説明する。この実施形態では、フライバックコンバータ1100は、第2の電力段(例えば、この例と関連する
図13参照)にほぼ一定の高い供給電圧V
busを供給するために、1:10の巻数比のトランスを使用する。一般に、フライバックコンバータは、第2の電力段から実質的に独立して動作するように設計され、フライバックの出力電圧は、所望の電流パルスを負荷に供給するために、第2の電力段およびパルス発生回路と直列に接続される。
【0058】
この例では、フライバックコンバータ1100の出力は、デジタルブロック1102によってデジタル制御され、デジタルブロック1102は、この実施形態では、出力電圧フィードバック制御を行う二次側コントローラで構成される。例えばアナログ-デジタルコンバータ(ADC)は、スイッチングサイクルごとにフライバック出力電圧V
busをサンプリングすることができ、次に、このサンプリングされた電圧(HV
bus[n])をデジタル基準(V
ref[n])と比較して、誤差値(e[n])を生成することができる。この例では、誤差値はPID補償器1106に供給され、PID補償器1106は、次のスイッチングサイクルでパルス幅変調器(PWM)1108を介して実施されるべきデューティサイクル(d[n])またはオン時間(全スイッチ期間のうちの主スイッチMが活性になる部分)を確立する。その結果、デューティサイクルの変化によりV
busが、それが所望の基準に達するまで調整される。この場合もやはり、フライバック1100の出力電圧は、所望の電流パルスを負荷に供給するために、第2の電力段およびパルス発生回路と直列に接続される。
【0059】
当業者には、他のフライバック制御技法および方法を、本開示の一般的範囲および本質から逸脱することなく、本明細書に関して適用できることが理解されよう。さらに、上記では、第1の出力電力段を設けるための様々なフライバックコンバータ構成が企図されているが、ブースト、バックブースト、cuk、SEPIC、およびこれらの修正形態など他のタイプの昇圧コンバータ、ならびに他の分離型および非分離型昇圧トポロジーが、本明細書でフライバックコンバータとして例示的に示されている第1の電力段の機能を果たすことに関し、本開示の範囲および本質から逸脱することなく、本明細書で考察されてよいことを理解されたい。
【0060】
第2の出力電力段
上記のように、本発明の一実施形態により、第2の出力電力段を、例えば上で例示的に説明した第1の出力電力段と動作可能に接続するように設けて、第1の出力電力段によって供給される実質的定電圧源から引き出し、実質的定電圧と動作可能に結合されたパルス発生回路を介して、諸特性および/または選択された特性を有する電流パルスを供給することができる。
【0061】
図12を参照すると、本発明の一実施形態による、第2の出力電力段の第1の例が提示されている。この例では、第2の電力段1200は、バックコンバータ1202と、スイッチトキャパシタ出力回路1204で構成された、本発明の様々な実施形態により以下でさらに論じる一体化パルス発生回路とを備える。デジタルブロックまたはコントローラ1206もまた設けられ、これは、例えば、制御信号(c
3、c
4)をパルス発生回路1204に、そこで生成される種々のパルス特性(例えば、パルス周波数、持続時間、型など)を制御する際に供給すると共に、バックコンバータ1202の動作を、検知回路1208を介して監視される検知電流値に応答して、バックコンバータで生成される電流パルス振幅を効果的に調整するように制御する。
【0062】
図13は、第2の出力電力段1300の別の例を提示し、この場合もやはり第2の出力電力段1300は、スイッチトキャパシタ回路1304で構成された一体化パルス発生ブロック付きバックコンバータ1302を備える。デジタルブロックまたはコントローラ1306もまた設けられ、これは、例えば、種々の制御信号をパルス成形器1310を介してパルス発生回路1304に、そこで生成される種々のパルス特性(例えば、パルス周波数、持続時間、型など)を制御する際に供給すると共に、バックコンバータ1302の動作を、検知回路1308を介して監視される検知電流値に応答して、バックコンバータで生成される電流パルス振幅を効果的に調整するように制御する。
【0063】
この実施形態では、追加の安全機構もまた設けられ、組織インピーダンスを監視するために2つの異なる方法を使用することができる。第1の方法では、出力電圧および負荷電流はインピーダンスモニタ(1312)によってデジタル的に監視され、これらの値により負荷の正確な推定値を得ること、ならびに過電圧保護および過電流保護を実現することができる。アナログ代替方法である第2の方法では、微分器回路(すなわち、インピーダンスモニタ1314)を使用してインダクタ電流リップルの傾斜を継続的に監視する。抽出される傾斜は組織抵抗によって決まる。この傾斜は2つの比較器に供給され、比較器の基準は許容組織抵抗範囲に基づいて設定される。組織抵抗が低く下がりすぎた場合、または高く上がりすぎた場合、システムは直ちに停止する。
【0064】
図12および
図13の実施形態を参照すると、負荷は、場合によっては単一の電流パルスの間中、ある個人について実際上一定と想定することができるが、個人ごとには、また各個人の中でいくつかのパルスにわたっては変化しうる。というのは、皮膚抵抗が汗、皮膚の動き、および血行の増加により変化しうるからであり、これは典型的には、例えばFESの結果として生じる。したがって、いくつかの実施形態によれば、コントローラ1206、1306は、第2の電力段(例えば、これらの例ではバックコンバータ1202、1302)が適切または望ましい電流パルス振幅を供給するのに十分なレベルに達するように、出力電流を監視し、それに応じて調整するように構成することができる。これらの特定の実施形態では、例えば、最小限のハードウェアで相対的に速い応答を示すことができるヒステリシス制御が行われる。ハードウェア最小化は、すべての実施形態に対し特定の妥当性があるものとはいえないが、
図12および
図13の実施形態におけるように、第2の電力段が同じ第1の電力段からそれぞれ電力供給されるいくつかの並列刺激チャネル(例えば、
図5参照)に対し倍増されることがある、2連電力段システムの第2の電力段にハードウェア最小化が実施される場合には妥当性がありうる。装置サイズ低減が重要であるどの場合にも、低減されたハードウェアの実施の実現には特定の妥当性がありうる。
【0065】
例えば
図12および
図13の実施形態の状況でヒステリシス制御を実施する際、バックコンバータ(1202、1302)の主スイッチ(M
b1、M
MS)は、検知された値(例えば、検知抵抗(R
ss、R
sense)による検知電流)が基準値にいくらかの上乗せの電圧マージン(すなわち、追加ヒステリシス)を加えた値に達するまで、活性のままである。この時点で、スイッチはオフになり、副スイッチ(M
b2、M
SR)は、検知電流が基準値から同じ電圧マージンを減じた値未満に下がるまでオンになっている。ヒステリシスマージンを最大許容電圧変化(バックコンバータの場合では、出力電流パルスの最大許容電流を与える電圧マージン)に設定することは、出力負荷を調整するのに一般に十分である。
図14は、本発明の一実施形態による、上述の制御シーケンスの流れ図を提示する。
【0066】
図12および
図13の例では、スイッチトキャパシタ回路1204、1304(以下でより詳細に論じる)は負荷電流の極性を変化させ、この結果、
図15に示されるような検知電流(分かりやすくするために使用された
図12の実施形態からの信号基準)が生じることがあり、この検知電流は、システムの出力の効果的な制御を妨げる可能性がある。すなわち、実際上、検知回路1208、1308の動作は、出力キャパシタ(C
out)およびスイッチトキャパシタ1204、1304からのリップル、ならびに電流パルスの経路にわたって変化する検知値による影響を受ける可能性がある。例えば、スイッチトキャパシタ回路1204、1304は、負荷電流の極性を事実上瞬時に変化させうる。ヒステリシス制御を用いると、正しいレベルに調整された負荷電流を保持するのは、基準値がパルス全体にわたって同様に急速に変化する可能性があり、非常に高速のDACがなければ困難なことがある。
【0067】
一実施形態では、これらの問題の両方を、
図16に示された検知回路により解決することができる。この検知回路は、分かりやすくするために
図12に示されたものと一致する回路構成要素および信号を参照しているが、当業者には容易に理解されるように、
図13の実施形態の状況で容易に実施することができる。この例では、過度のリップルは、この回路の増幅器の第1の利得段の両端にRCフィルタを配置することによって解消することができ、そのコーナ周波数は、リップル周波数が低減するように選択することができる。RC時定数は、波形が減衰しすぎないように、また各段の間の整定時間が最少になるように十分に小さくしておくことができる。
【0068】
検知電流値の急な変化に関連した起こりうる問題に対処するために、第2の利得段を導入することができる。これらの段の利得は、基準電流をパルス全体にわたってほぼ一定に保持できるようにするために、2つの相にわたる平均検知電流を正規化するように選択することができる。この選択は、負電流相(i
sn)に対して第1の増幅段の適切な利得K
1を選択すると共に、正電流相(i
sp)の間中に第2の段の出力が第1の段の負電流相と同じレベルにあるようにK
2を調整することによって実現することができる。上の例では、Iss1=4Iss2の場合、K
2は4に設定することができる。単極双投(SPDT)アナログスイッチを使用すると、isnは、負パルス相の間中は検知電流として選択することができ、正相の間中はi
pnに切り替えることができる。実例結果が
図17に示されている。
【0069】
上記に基づき、
図12(または
図13)の実施形態の状況で
図16に示される検知回路を使用すると、基準電流は、パルスシーケンスの間中一定に保持することができ、それによって、より低速のDACを使用することが可能になり、またヒステリシスコントローラの有効性が増す。
【0070】
図18を参照すると、一実施形態によれば、ヒステリシスは正フィードバックによって比較器に追加することができる。このヒステリシスは、例えば、2つの抵抗を1つは正入力端(R1)に、1つは正端子と出力端(R2)の間に追加することによって実現することができる。
【0071】
ヒステリシスの量は、次式の簡略化した関係で示すことができる。
【0073】
このヒステリシスにより、動作出力電流変化を画定する適切なマージンを生成することができる。結果として得られた比較器波形、およびそれに続く制御出力が
図19に示されている。
【0074】
特に
図12を参照すると、比較器1210からの制御信号(V
cont)は不感時間論理回路1212に供給されて、バックスイッチ用の2つの制御信号(c
1、c
2)を生成することができる。一実施形態では、不感時間が信号間に加えられて、2つのバックスイッチのシュートスルーを防止することができる。同様のシステムがより大まかに
図13の実施形態に示されており、ヒステリシス比較器1310が、検知電流値(V
Gs[n])を表す値をハイ基準値およびロー基準値(V
ref_low[n]、V
ref_high[n])と比較すると共に制御信号(comp
low[n], comp
high[n])をスイッチ信号発生器1316へ出力するように適合されており、スイッチ信号発生器1316は、上で論じたバックコンバータの主副スイッチの作動を制御するように構成されている。
【0075】
他のタイプのコントローラ、制御シーケンス、および技法が、本開示の一般的範囲および本質から逸脱することなく、本明細書に関して容易に適用されうることを理解されたい。諸例には、それだけには限らないが、平均電流プログラム制御モードと、電力段の電流と出力電圧が同時に調整される実施態様に基づく他の2フィードバックループとが含まれうる。
【0076】
パルス発生回路
上で論じたように、負荷(またはパルス)電流の厳格で速い調整を、いくつかの実施形態によれば、第2の出力電力段のヒステリシス制御によって実現することができる。しかし、例えば両極性非対称パルスを生成するには、刺激は一般に、所与の振幅の正/負電流から切り替えられ、反対極性の電流がこの振幅の何分の1かで後に続かなければならない(例えば、一例ではIから-(1/4)Iへ)。この変化を比較的限られた時間枠内(例えば、実施形態によっては3μs以下)で実現するのに、負荷電流を所望の立上がり時間内に制御するにはヒステリシス制御を適用できるのに対し、電圧調整はそのように簡単に実現することができない。例えば、負荷は個々の電流パルス内では一定と考えられるので、電圧は同じ速度で(例えば、Vから(1/4)Vへ3μs未満で)変化しなければならないが、これは従来の制御技法を使用して容易に実現できない。したがって、電流の方向を変えながら所望のパルス応答を得るには、
図12および
図13に大まかに示されたスイッチトキャパシタ回路などの高速スイッチングパルス発生回路を使用して、負荷の電圧および電流方向を高速で変える。例えば、一例では、パルス発生回路は、電圧の振幅をVから(1/4)Vへ高速で変えるだけでなく、負荷への電流の流れの方向も高速で変えなければならない。
【0077】
一実施形態では、パルス発生回路は正極性および負極性の刺激経路を備え、各経路は、それぞれの充電要素と、所与の対象組織部位を刺激する電極リードへの出力ノードを直列に包含する作動スイッチとを備える。このような実施形態では、1つまたは複数の容量性素子などで構成されるそれぞれの充電要素は、装置の電圧源によって充電され、それぞれのスイッチが作動されると放電して、それぞれに正負の電流パルスを発生する。この手法を用いると、刺激パルスの極性が高速で切り替えられて、所望の両極性刺激特性を得ることができる。例えば、一実施形態では、対応するパルス立上がり時間は、主としてスイッチのスイッチング速度によって決定することができ、このスイッチング速度は、従来のシステムによって別な方法で使用可能でありうる速度よりも大幅に速くなりうる。
【0078】
非対称刺激の実現においては、以下でより詳細に説明するように、それぞれの充電要素の特性(すなわち、例えばそれぞれのキャパシタ比の比)により、印加パルスの振幅比を少なくとも一部は決定することができ、それによって、それぞれの作動スイッチが順次的に作動すると、パルス極性が現在の電流パルス振幅比に従って交互になる。スイッチの作動に対し適切な制御タイミングを適用することによって、パルス振幅比に反比例するパルス持続時間比を得ることができ、その結果、この回路設計の本質的特徴として、ほぼ平衡のとれた両極性電流パルス刺激(すなわち、組織内の正味電荷蓄積がほぼゼロ)が得られる。本明細書に記載のパルス発生回路のこれらおよび他の利点について、以下でより詳細に説明する。
【0079】
図20〜23は、本明細書に関して所期の結果を得るために使用可能なスイッチトキャパシタ回路の別々の例を提示する。これらの回路は諸例を提示するだけであり、その変形形態(例えば、追加のキャパシタ、スイッチなどを含む)が、本開示の一般的範囲および本質から逸脱することなく、本明細書で考察されてよいことを理解されたい。
【0080】
次に、
図20の例示的な実施形態を参照すると、スイッチトキャパシタ回路は、この実施態様では2スイッチ2キャパシタ回路で構成され、
図20bおよび
図20cは、
図20aに示されたスイッチトキャパシタ回路の実現可能な各モードを示す。
【0081】
回路2000は概して、基本キャパシタ充電式Q=CVによって動作する。両キャパシタの電荷は、キャパシタ充電平衡によって一般に同じでなければならない。したがって、2つのスイッチトキャパシタの静電容量比を加減することによって、各キャパシタの電圧レベルに反対の変化がもたらされる。この例でキャパシタに4:1の比を用いると、このスイッチトキャパシタ回路では、負荷の両端間の電圧が1つの相から次の相まで実質上4分の1になる。
図20bには、バック出力電圧の4/5が負荷の両端間に接続される第1の負電流相(すなわち、負極性刺激経路またはループ)が示されている。これを実現するのに、ロー側スイッチM
nが所望のパルス時間t
pulseだけ活性になる。この相の後、ある不感時間がスイッチのシュートスルー電流を防止するために生成され、次に、バック出力電圧の1/5が負荷の両端間に接続される
図20c(正極性刺激経路またはループ)の正電流相が続く。このようにして、負荷の両端間の電圧は、負荷を通る電流の方向を変えながら実際上瞬時に4分の1になる。
【0082】
上で論じたスイッチトキャパシタ回路のもう1つの利点は、正電流または負電流どちらの構成でも、皮膚上に電荷が蓄積することを防止する阻止キャパシタが常に負荷と直列にあることである。したがって、パルス持続時間および/または相振幅が2つの相の間中に完全に相殺されない場合に、個人/患者に電荷を生じさせる危険が低減される。この構成は、特に簡単であるが、非常に効果的であり、安全機能が中に組み込まれており、そのためFESシステムに特に適したものになる。
【0083】
図21を参照すると、本発明の別の実施形態による代替スイッチトキャパシタ回路が、例えば
図12および
図13に示されたバックコンバータなどのFESシステムの第2の電力段と別個に、またはそれと一体化されて実施される、例えば本明細書に関する使用について示されている。この例では、患者の安全を向上させるために、スイッチトキャパシタ回路は、追加のスイッチM
offを負荷と2つのスイッチトキャパシタの間に含むことによって、
図20に示された回路に対して修正されている。
図20に示された実施形態では、M
nとM
pの両方がパルス間のオフのとき、負荷にかかる浮動電圧があることがあり、この電圧が、患者を通してグランドに届くこともある。したがって、
図21に示される追加スイッチM
offにより、パルスシーケンスの間中は活性とし、他の時間すべては、スイッチトキャパシタ間のノードにおける浮動電圧を阻止するために遮断することがある。すなわち、
図21に示される実施形態では、パルスの間中だけ電流が患者まで流れ、パルスがない場合には流れなくすることができ、これにより追加の安全性利点を与えることができる。
【0084】
図22を参照すると、本発明の別の実施形態による、代替スイッチトキャパシタ回路が、上で概説した、やはり本明細書に関する使用について示されている。この実施形態では、より大きい動作適応性を可能にするために、すなわち、対称両極性作動と非対称両極性作動の両方、ならびに単極性作動で使用することを可能にするにあたって、回路が拡張される。例えば、追加スイッチM
asymを選択的に活性にすると、回路は、両極性非対称刺激のための4:1パルス振幅比を実施するように(上で論じ、また
図23に概略的に示されたように)、または両極性対称刺激のための1:1パルス振幅比を実施するように選択的に活性にすることができる。一方、追加スイッチM
mppおよびM
mpnを選択的に活性にすると、特定のFES適用例で望まれることがある単極性刺激を実施することができる。
【0085】
当業者には理解されるように、同様な効果および/またはパルス刺激多様性を得るための他のスイッチおよび/またはキャパシタ構成が、本開示の一般的範囲および本質から逸脱することなく、本明細書で考察されてよい。例えば、追加キャパシタが、非対称刺激比の利用可能性をさらに多様化するために含まれてよく、かつ/または追加スイッチが、このような多様な刺激比および/または様々な刺激シーケンスなどの作動をさらに多様化するために含まれてよい。
【0086】
さらに、キャパシタと刺激される組織との直列接続が効果的に得られる他の実施態様を同様に用いることができ、実施形態によっては、生成されたパルスから直流成分がほぼ除去されることになり、それによって、両極性パルスでの蓄積電荷ゼロ、および/または他の関連する利点、を効果的に実現することができることも理解されたい。このような代替形態は、本開示の範囲内に入ると考えられる。
【0087】
上記の諸実施形態は、動作の適応性および効率だけでなく、患者の安全についても種々の利点をもたらす。例えば、どちらの構成でも(正または負の電流)、阻止キャパシタは常に負荷と直列に配置され、これにより、特別な放電回路を使用しなくても、両極性刺激時に皮膚上に電荷が蓄積することを防止することができる。したがって、パルス持続時間および/または相振幅が2つの相の間中に完全に平衡しない場合に、組織上または組織中に電荷を生じさせる危険を軽減することができる。さらに、
図21および
図22の実施形態を参照すると、負荷は、パルスが与えられない場合には出力キャパシタから完全に切り離すことが可能、すなわち双方向スイッチM
off/M
bdrを不活性にすることによって可能である。また、負荷の2つの端部は、パルスが与えられた後で、例えば
図22のM
mpnおよびM
pを経由して完全に放電することができる。これらの構成は、特に簡単である一方で非常に効果的であり、FESシステムに特に適した構成にする様々な安全機能が中に組み込まれている。
【0088】
図12および
図13をさらに参照すると、数百μFまでの範囲をとりうる出力キャパシタもまた、数μFでありうるパルス発生回路のスイッチトキャパシタに加えて設けることができる。この追加キャパシタを使用すると、実施形態によっては、例えばスイッチトキャパシタのサイズ分け、リップル、および/または安全に関する潜在的な問題に対処することが可能になりうる。例えば、
図12および13に例として示された出力キャパシタを含まない一実施形態では、所望の結果を得るのにずっと大きいスイッチトキャパシタが必要になりうる。例えば、200μFのロー側スイッチトキャパシタでは800μFのハイ側キャパシタになるが、これは、別様に相対的に大きい出力キャパシタを使用すると必要になるキャパシタよりずっと大きい。したがって、これら2つのキャパシタは、3キャパシタ構成よりもずっと大きい。同様に、出力キャパシタが除去された場合、直列のスイッチトキャパシタは、元の出力キャパシタよりも小さい静電容量になることがあり、そのため電圧リップルが増加しうる。最後に、スイッチトキャパシタに大きいキャパシタが使用された場合、大きくない出力キャパシタを使用した場合よりも多くの電荷を蓄積し、そのため、もし装置不具合が発生すればいくつかの安全上の問題が生じることがあり、したがって、3キャパシタ構成で実現されるように、スイッチトキャパシタ中のエネルギー蓄積を低減することによって、患者の安全を向上させることができる。
【0089】
総合的に、ここで提示されるシステムは、高度先進FES適用例に必要なすべてのパルス型を生成する。このシステムでは、パルスを成形するために、統合スイッチトキャパシタ回路と直列に配置されたSMPSを使用する。さらに、このシステムでは、パルス特性の厳格な調整、および患者への安全な刺激を保証するために、いくつかの方法で電流と電圧の両方を監視する。
【0090】
制御シーケンスおよび回路を様々な実施形態に適合させることに関し、本開示の一般的範囲および本質から逸脱することなく、代替方策を実施できることを理解されたい。
【0091】
上記のように、また以下で諸例によってさらに実証するように、本明細書に記載の本発明の様々な実施形態は、例えば、上記の既知の装置の欠陥および欠点を考えると現在は研究ツールとしてのみ利用可能である、出現しつつあるFES適用例の持続可能な実施およびより広い採用を促進することができる。例えば、現在の解決策と比較すると、本発明の様々な実施形態により本明細書で考察されているシステムは、著しく低い消費電力、およびより広い範囲のパルスパターンを実現することができる。さらに、パルスは、熱放散を低減して生成することができ、したがって、システム小型化およびより長い電池寿命が可能になり、それによってFESシステムの携帯性が改善され、実施形態によっては、例えば、完全なシステムのオンチップ実施が可能になりうる。また、いくつかの実施形態では、多チャネルにわたって同時パルスを供給することができる。
【0092】
さらに、本明細書に記載の例示的な実施形態の装置は、パルス立上がり時間の改善、およびより正確な振幅および持続時間の制御を実現することができる。これらのより速い立上がり時間により、少ない電流で同じ組織刺激結果が得られる電位が可能になりうる。これによりひいては、個人にかかるストレス(すなわち、痛みの感覚および不快感)を低減できるだけでなく、刺激器の動作時間を大幅に増加することができる(すなわち、刺激器のエネルギー消費が低減する)。この立上がり時間ではまた、正確な振幅および持続時間の制御と合わせて、刺激される組織内に電荷が経時的に蓄積されないようにすることもでき、これはFES適用例で、特に植え込み型FESシステムを含む適用例で、重要な態様になりうる。
【0093】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のシステムおよび設計によって生成されるパルスのスルーレートは、既存の装置およびシステムで一般的な1μsよりも大幅に速い。例えば、一実施形態では、わずか500nsのパルススルーレートが得られる。別の実施形態によれば、わずか100nsのパルススルーレートが得られる。さらに別の実施形態によれば、わずか80nsのパルススルーレートが得られる。さらに別の実施形態によれば、わずか50nsのパルススルーレートが得られる。さらに別の実施形態によれば、わずか20nsのパルススルーレートが得られる。さらに別の実施形態によれば、わずか10nsのパルススルーレートが得られる。したがって、パルススルーレートは、実施形態によっては、従来のシステムより2桁も速くなりうる。
【0094】
一実施形態では、速い立上がり時間は、電極の接続を変える出力回路の結果であり、これらの電極は、ある瞬間には1つのキャパシタに、その後には別のものに接続される。これらの実施形態のキャパシタは、異なる電圧レベル(すなわち、非対称実施態様)および異なる極性(両極性実施)を有することができるので、パルス信号は、実際上瞬時に変えることができ、それによって、パルス立上がり時間が実質上スイッチの速度までに制限される。したがって、高速スイッチを使用する上記の回路を実施することによって、より速いパルス立上がり時間もまた実現することができる。
【0095】
一実施形態では、このような立上がり時間により、一般に1μs以上の立上がり時間になる従来の装置と比べて大幅な改善が可能になる。こうすることで、刺激された組織内で反応性増大を引き起こすことができ、それによって、いくつかの実施形態では、改善がない場合に必要とされるよりもパルス振幅を小さく低減することが可能になる。一例では、両極性パルスの適用例での反応性の改善により、印加される電流パルス振幅を5分の1まで低減することが可能になる。例えば、反応性の改善がなければ30mAのパルスを250μs印加した可能性がある場合に、本明細書に記載の本発明の実施形態を用いて7.5mAのパルスを印加することができる。これらの値は、適用可能なパルス持続時間および/またはパルス振幅の一例のみを提示するものであり、種々のパルスパラメータが、本開示の一般的範囲および本質から逸脱することなく、本明細書で考察されてよい。
【0096】
一実施形態では、このようなパルス立上がり時間の改善を実現することにより、さらに、または代わりに、パルス刺激の結果として患者が覚える身体的不快感を低減または最小化することが可能になりうる。例えば、刺激される組織に低減された電荷を印加することによって、あるいは再びより大きい組織反応性を得ることによって、本明細書に記載の装置を使用して実施される処置では、患者の不快感を完全に回避できないにしても低減することができる。
【0097】
また、いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のシステムおよび設計の出力段は、両極性モードにおいて電荷蓄積がほぼゼロの状態で動作することができ、それによって、既存の解決策で一般に見られる追加の放電回路の必要性が実質的になくなる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のシステムおよび設計の出力段は、いくつか挙げれば組織過電圧保護および過電流保護、ならびに組織インピーダンス監視など、1つまたは複数の階層の安全機能を施すことができる。
【0098】
当業者には理解されるように、上記の諸実施形態および以下に提示する諸例の適応性の高い構成は特に、電池式外部機能的電気刺激器(FES)および神経補綴の植え込みに適している可能性があり、また、例えば閉ループ制御神経補綴およびブレインマシンインターフェース制御神経補綴などの出現しつつある高度先進FES適用例、ならびに種々の他の適用例などに容易に応じる可能性がある。
【実施例1】
【0099】
この実施例は、装置の例示的な実施形態の実験結果を提示するものである。この例示的な実施形態では、SMPS FESシステムが単一チャネル刺激器として用意され、この刺激器は、2つの電力段と、スイッチトキャパシタ出力回路と、フライバックコンバータのコントローラを含むデジタルブロックと、バックおよびスイッチトキャパシタ出力の回路とを備える。フライバックは一般に、電流プログラムモード(CPM)を用いて動作するように構成される。フライバックは一般に、バックコンバータに供給される高電圧出力を確立し、バックコンバータは次に、この高電圧出力を必要なレベルまで減じる。最後に、出力電流パルスを構築するために、スイッチトキャパシタ回路は電圧レベルおよび電流方向を高速で変える。ヒステリシス制御が、バックデューティサイクルを制御するために使用される。構成図が
図24に示されているコンバータブロックおよび出力ブロックは、プリント回路基板(PCB)上で設計および実施し、そのデジタル部分は、Altera DE2 FPGA開発基板を使用して実施した。
【0100】
この例示的な実施形態の操作性は、まず設計の各部分についてのシミュレーションをフライバックの開ループシミュレーションから開始し、次にスイッチトキャパシタ回路のシミュレーションを続け、最後にシステム全体を、パルス波形を検証するために開ループでシミュレーションした。使用したシミュレーションツールは、PLECSおよびSIMetrixを併せたMatlab simulinkであった。
【0101】
フライバックは、PLECSを使用するMatlabにより、追加の磁気インダクタンスおよびいくつかの寄生成分と共にトランスベースを使用してシミュレーションした。
図25は、1:10の巻数のフライバックコンバータの結果を示し、開ループのデューティ比が26%である。回路の制御に使用された波形は、スイッチ電圧およびスイッチ電流である。
図25aは、15mVのマージン内にほぼ一定に保たれている出力電圧を示す。スイッチング周波数は100kHzであり、オン時間が2.6μsである。
図25bのスイッチ電圧から3つの別個の相を見ることができる。スイッチが活性のときの「オン」相、スイッチ電圧が式3の値まで上昇する「オフ」相、および最後に、スイッチ電圧がこの場合には7Vの入力電圧の値をとるDCM相である。スイッチの電流(
図25c)はオン時間の間、傾斜波の形をとる。この傾斜波は、ピーク電流制御で使用され、そのときにはデューティサイクルを確立するために基準と比較される。
【0102】
スイッチトキャパシタ回路は、バック出力をシミュレーションするために一定供給電圧を使用して、単独でシミュレーションした。SIMetrixから取得された
図26の波形は、200μsの負電流パルスと、後続の4分の1振幅の800μs正電流パルスを示す。詳細には、グラフ(a)はバック電圧を2V/divで示し、グラフ(b)は負荷の負端子電圧を20V/divで示し、グラフ(c)は正端子負荷電圧を20V/divで示す。前に論じたように、出力負荷電流は、引き算V
load+ - V
load-の結果を負荷抵抗で割ることによって計算することができる。この場合、入力電圧は125Vであり、したがって第1のスイッチトキャパシタにわたって25Vの降下があり、残りの100Vが第2のスイッチトキャパシタの両端間にある。出力負荷抵抗は1kΩであり、したがって出力電流は、第1の電流相では100mA、後続の第2の電流相の間は25mAになることが分かる。振幅比率およびパルス持続時間は予測通りに見える。また、これらの波形はいかなる種類の制御も用いないで抽出されていることに留意されたい。したがって、電流レベルに見られる変動は、組合せシステムでの以下の結果に示されるように、加減することができる。
【0103】
フライバック、バックおよびスイッチトキャパシタ出力を含むシステム全体は、PLECSを用いるMatlabでシミュレーションした。このシミュレーションの結果は、
図27および
図28に示されている。
図27を参照すると、上のグラフ(a)はバック主スイッチ信号を20V/divで示し、第2の下のグラフ(b)はバック出力電圧を5V/divで示す。
図28を参照すると、上のグラフ(a)は負荷電流を10mA/divで示し、下のグラフ(b)はセンス抵抗電圧を100mV/divで示す。
【0104】
バックへの入力は、
図27により、フライバックから出力される80.3Vである。バックは、50%の一定デューティサイクルを与えられ、したがって、スイッチトキャパシタ回路へのバックの出力は約40Vである。負荷電流は、所望のパルス形状を示す。負電流相の持続時間は100μsであり、後に400μsの正相が続く。パルス形は理論上の形状に近く、検知電流波形は予測通りに2つの異なるレベルをとる。しかし、出力電流は各相で降下を示す。この降下は、一実施形態によれば、出力レベルを調整するバックのヒステリシス制御によって対処することができる。以下で論じるように、閉ループシステム動作で使用されるコントローラは、開ループシミュレーションで起こる問題の少なくとも一部を取り除くことができる。
【0105】
この設計を確認するために、個別構成要素、およびデジタルコントローラとしてDE-2、FPGA Altera Evaluation Boardを使用して、完全なシステムを作製した。
図24は、本発明の一実施形態により作製された試作品の構成図を提示する。
【0106】
図29を参照すると、作製されたフライバックコンバータがシミュレーションされたものと異なる波形を示すことがまず観察される。この例では、フライバックは開ループで動作し、デューティサイクルが20%である。
図29aでは、トランスの漏れインダクタンスおよび寄生静電容量により、スイッチ電圧がDCM相の間にリンギングを呈示することが示されている。この振動により、第2のスイッチ電圧値、すなわちV
inを適正に識別することが不可能になる。スイッチと並列の直列RCであるスナバ回路を追加することによって、
図29bに示されるように、振動は大幅に減少する。これにより、13,32Vの第1のスイッチ電圧、および7Vの第2のスイッチ電圧の両方を特定することが可能になる。式3を用いると、これらの値で54Vの予測出力電圧が得られる。
図29は、フライバックスイッチング電圧を以下の通り示す。Ch1はデューティサイクル信号で10V/div、Ch2はスイッチ電圧で10V/div、Ch3は出力電圧で50V/divであり、
図29aでは、スナバがないスイッチが、入力電圧(V
sw2)検知を妨げるリンギング振動をDCM時に示し、
図29bでは、RCスナバがリンギングをフィルタリングし、それによって第2のスイッチ電圧の検知が可能になる。
【0107】
適正なスイッチ電圧波形を用いて、次のステップはCPM DCMピーク電流コントローラを実施することであり、このコントローラは、出力電圧を抽出するためにスイッチ電圧値を使用し、所望の基準値との間の差に合わせて調整する。
【0108】
図30は、一次側CPM DCM制御下の定常状態でフライバックコントローラの種々の波形を示す(Ch1はデューティサイクル信号で5V/div、Ch2は一次側検知電流で5V/div、Ch3は制御基準で5V/div、Ch4はブランキングクロック信号で5V/div、最下部は4ビット誤差値である)。
【0109】
主スイッチは、検知電流v_i
spが基準レベルv_i
cに達するまでオンに保たれる。この時点で主スイッチは、次のスイッチングサイクルまでゼロに戻る。ブランキングクロックは、オンになる時点で見られるスイッチ電流の初期リンギングスパイクを無視する。デジタル誤差値は最下部に示されており、誤差ゼロを示し、それによって安定した定常状態条件が示唆される。
【0110】
適正に動作するフライバックと共に、バックを装置および組み立てられたスイッチトキャパシタ回路に付加した。
図31の波形は、試作品の刺激器によって生成された2つの電流パルスを示す。パルスのエッジは急峻であり、300ns未満で適正な大きさに達している。ヒステリシス制御により、その電流レベルが各相の間中に確立される。検知電流は、全パルスを通じて同じレベルにあり、ヒステリシスマージンΔv_i
hysteresis内に厳格に調整された状態に保たれる。
図31は電流パルス波形を示し、諸パラメータは以下の通りである。R
load=1kΩ、t
pulse=100μs、f
pulse=100Hzであり、Ch1はデューティサイクル信号で20V/div、Ch2は負荷検知電流で5V/div、Ch3は制御基準で5V/div、Ch4は負荷の正端子電圧で50V/divであり、
図31aは、58.8mAの負電流パルスと後続の14.8mAの400μs回復パルスを示し、(b)は、より大きい振幅を生成するために増大された電流基準値を示す。
【0111】
実験の設計をさらに確認するために、電流パルス波形をパルス相の間の立上がり時間およびスイッチング時間について分析する。
図32は立上がり時間およびパルス方向スイッチング時間を示し、R
load=1kΩ、t
pulse=100μs、f
pulse=100Hzであり、Ch1はデューティサイクル信号で20V/div、Ch2は負荷検知電流で(a)は500mV/div、Ch3に重ねられた(b)は5V/div、Ch3は制御基準で(a)は500mV/div、(b)は5V/div、Ch4は負荷の正端子電圧で50V/divであり、
図32aは所望のパルス振幅に達するまでの立上がり/立下がり時間を示し、
図32bは負から正への電流パルス変化の方向および振幅を示す。
【0112】
負荷負端子電圧は、
図32で基準点として表示されている。
図31aの立上がり時間は、70mAパルスでは規格値より十分に下の80ns未満である。ヒステリシスマージンΔv
hysteresisは図に明示されており、検知電流はゼロから基準に達するのに6μsしか要していない。
図31bの各相間のスイッチング時間は、90mAスイングから18mAパルスまでで約250nsである。しかし、各相間の時間は、異なる適用例に対してユーザが調整することができる。
【0113】
図31の実験条件は、試作品の消費電力と、その消費電力が携帯型FESユニットとして見込めそうな動作時間とどのような関係があるかとを評価するために用いる。装置は6V供給源を650mAの電流で使用する。これは3.9Wの電力に等しい。市販のリチウムイオン電池は、定格が約3.3Ahである。この電池によって6Vで供給されるエネルギーは、次式で知ることができる。
【0114】
【数4】
【0115】
次に、動作が何時間かを知るために、次式に示されるように、電池からの供給エネルギーを装置で必要な電力(単位J/s)で割る。
【0116】
【数5】
【0117】
外付けFPGAおよび個別構成要素を使用すると、システム設計の効率が実際上低下することを理解されたい。この効率は、専用の構成要素設計および集積化が行われる他の同様な実施形態の状況で考察される場合には実際のところ高くなり、それによって携帯型装置としてのこのような設計の有用性がさらに高まりうる。
【0118】
上記のように、試験された試作品は、様々なFES適用例に対し、この設計およびその等価物の有用性を明確に実証するものである。さらに、実験から得られた波形は、立上がり時間が非常に速い、相対的にきれいな高精度の電流パルスを示し、この属性は、刺激される組織中に活動電位を効果的に誘発する上で特に重要であり、それゆえに潜在的に、他の低速の装置と比較して同様の収縮を引き起こすために使用する電流が少なくなり、電力管理および患者の安全の両方にとって利益になりうる。
【実施例2】
【0119】
この実施例は、
図5、11および13の実施形態により構築された試作品を使用して得られた実験結果を提示するものである。すなわち、a)フライバック電力段と、b)バックコンバータ、スイッチトキャパシタ出力回路および検知回路をそれぞれ含む4つの刺激チャネルと、c)フライバックおよび刺激チャネルのコントローラを含むデジタルブロックとを含むように4チャネル刺激器を設計した。第1の電力段は、各チャネルに供給される高電圧出力を確立した。ここでバックコンバータは、供給電圧を必要なレベルまで低減した。最後に、出力電流パルスを構築するために、スイッチトキャパシタ回路は電圧レベルおよび電流方向を高速で変えた。バックデューティサイクルを制御するためにヒステリシス制御を用いた。試作品は、個別構成要素、およびデジタルブロックとしてプログラム可能DE-2、FPGA Altera Evaluation Boardを使用して作製した。コンバータおよび出力ブロックは、カスタムPCB上で設計し実施した。試作品は、パルスの立上がり時間10nsで125mAの電流まで生成できることが確認された。パルスの持続時間は、1Hzから10kHzの周波数範囲内で10μsから8000μsの間で変えることができる。
【0120】
以下でより詳細に説明するように、本明細書に記載の出力段構成、およびその種々の構成要素の有効性を、立上がり時間10nsで125mAの電流まで生成できるFPGA制御4チャネルシステムを用いて実証した。パルスの持続時間は、1Hzから10kHzの周波数範囲内で10μsから8000μsの間で変えることができる。
【0121】
図33は、試作品の刺激器によって生成された2つの異なる電流パルスを示す。(a)では、負および正の電流相の振幅レベルが明確に示されて電流レベルに対する厳格な調整を示しているのに対し、(b)は、調整された同じ電流パルスを同時に生成する2つの刺激チャネルを示す。パルス持続時間は、時間特性に対する厳格な制御を検証するために示されている。
【0122】
図34は、2つの電流パルス波形の立上がり/立下がり時間を示す。(a)では、-30mA電流パルスの立上がり時間が10ns未満であることが示されているのに対し、(b)では、-60mA電流パルスを検証して同じ結果である。
【0123】
34bの実験条件(すなわち、非対称、30mA、40Hz、250μs)を、試作品のおおよその消費電力と、その消費電力が携帯型FESユニットで見込めそうな平均動作時間とどのような関係があったかとを評価するために用いた。当業者には容易に明らかになるように、これらの値は、可能性のある消費電力値の一例を提示するものにすぎず、諸実施形態は、当面のFES適用例および/または種々の他のパラメータに応じてより多い、またはより少ないエネルギーを消費するように設計および動作できることを理解されたい。装置は8V供給源を650mAの電流で使用したが、これは2.4Wの電力に等しい。市販のリチウムイオン電池は、定格が約6Ahである。この電池によって8Vで供給されるエネルギーは次式となる。
【0124】
【数6】
【0125】
次に、動作時間数を知るために、次式に示されるように、電池からの供給エネルギーを装置で必要な電力(単位J/s)で割った。
【0126】
【数7】
【0127】
上で論じたように、多くのFES装置が過去に開発され、これらは特定の適用例で有用であることが判明しているが、いくつかの主要な制限事項により、出現しつつある刺激治療の全可能性に応えることができていない。これらの装置では、時間特性および振幅に対する部分的な制御の故に、追加の放電回路を用いないで電荷平衡を長期にわたって保証することができない。第2に、これらの装置では、供給するパルスの数が限定され、様々なFES適用例で使用するには複雑で費用のかかる調整が必要である。最後に、これらの装置では、刺激に必要な電流量を最小限にする際に重要であるきれいなパルス形状が得られない。結果として、研究者および開業医師は、種々のFES適用例で必要な様々なパルスすべてを利用できないので、これらの装置では機能的制約を受ける。
【0128】
相対的に、上で論じた4チャネル試作品は、既知の装置と比べて大幅な改善をもたらす。例えば、すべての可変刺激制御構成要素は、単一チップシステム設計を用いて一体化することができ、その出力段は、無比の振幅、持続時間、周波数および波形調整の精度を有する電流調整されたパルスを生成し、パルス立上がり時間は既知の設計よりも数桁勝っており、説明された出力回路を使用することにより両極性パルスでの電荷平衡が保証され、動作時間は、現在の外付けFESシステムよりも非常に長くなると推定される。提案されたシステムはまた、「きれいな」パルス、すなわちエッジが非常に急峻で電流および持続時間の調整の精度が高いパルスを発生したが、このパルスは、出現しつつあるFES適用例に対して以前の設計よりも非常によく適している。さらに、4チャネルすべてのパルスを別々に制御し、また同時に引き起こすことができ、これにより、握るための神経補綴など、閉ループEMG制御適用例で一般に必要とされるリアルタイム刺激および記録が可能になりうる。
【0129】
上記の試作品は以前の設計と比べて、特に多用性、効率、小型であること、および安全に関する多くの改善を特徴とする。さらに、この出力段はまた、高度のプログラム可能性および多用性が必要なFES適用例を意識して設計された。上記の試作品は表面FES適用例に対して設計されたが、特に上記の説明的な実施形態で考察された、例えば部品数およびエネルギー消費の低減を行う上で有利でありうる一体化設計構成と関連して、上記の設計を植え込み式電気刺激器に適用できることが当業者には理解されよう。
【実施例3】
【0130】
この実施例は、神経筋欠陥のある個人の脳および関連する筋肉の機能を改善するための例示的なFES治療過程の結果を提示するものであり、この過程では、上記のFES装置およびシステムによって容易になりうる種々のFES適用例、方法および処置の一例のみを提供する。この例では、個人は脳卒中後の神経性障害を持っていた。中枢神経系のこの種の神経性障害は、例えば、脳卒中、脊髄傷害、脳傷害、多発性硬化症、および他の中枢神経系への外傷性および非外傷性両方の傷害によって起こりうることを理解されたい。
【0131】
個人についての説明
この個人は22歳の女性であり、この調査に参加する2年前に右前頭頂部に出血性卒中を患った。この個人は、ある個人リハビリテーションセンターにおいてCMSMR (Chedoke McMaster Stages of Motor Recovery)でスコア化された運動回復状態が、腕=1、手=2、脚=2、および足=2と示された。4ヶ月のリハビリテーション後にCMSMRスコアは、腕=2、手=2、脚=4、および足=2であった。左脚はいくらかの回復を示したが、左腕は機能することができなかった。FES仲介プロトコルの開始時、この個人は、杖および短下肢装具の助けによって日常生活の活動に関しては自立していたが、麻痺上肢を使うことは、あるにしてもごくまれであると報告された。上肢の動きは屈筋シナジーパターンを特徴とした。この個人には、遠位屈筋系の受動的な伸張に対して抵抗増加があった。触覚は、上肢全体にわたって重度には損なわれていないことが二点識別試験を用いることで示された。本研究の個人などの脳卒中患者は、神経学的に安定していると考えられ、脳卒中後の24ヶ月でさらなる改善の兆候を何も示さない。したがって、この調査に採用された個人は、脳卒中後24ヶ月の傷害の慢性期にあり、CMSMRで評価すると重度の障害があり、どの治療がこの個人に施されるかにかかわらず、改善の見込はなかった。
【0132】
機能的電気刺激治療。電気刺激器によって(使用した電気刺激器は、上で論じた電気刺激器の試作品であった)、FES仲介プロトコルを標準的な自己粘着表面刺激電極を用いて加えた。調査では、表面刺激電極を用いて以下の筋肉を刺激した(各筋肉の電極位置は
図35Aに示されている)。すなわち、前三角筋(aDel)および後三角筋(pDel)、上腕二頭筋(BB)および上腕三頭筋(TB)、橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、橈側手根屈筋、および尺側手根屈筋である。対象の筋肉を神経支配する神経を刺激するために使用された刺激パラメータは、パルス持続時間が250μs、周波数40Hzの非対称両極性電流パルスであった。プロトコルの間中、刺激を麻痺した肢の筋肉まで、患者が麻痺していなければ脳が生じさせたはずの運動を正確に模倣した運動がこれらの筋肉により生じるように、送出した。刺激を筋肉まで送出したとき、0.5秒から2秒間継続する増加または減少機能を用いて、刺激を(瞬時に送出しないで)徐々に増大または低減させた。療法士は、個人が課題で補助を必要とすると判断したときに手元スイッチを使用して刺激を引き起こした。
【0133】
FES仲介プロトコル。簡単に言えば、FES仲介プロトコルは、事前プログラム座標式筋肉刺激と、生理学的に適正な運動を確立するための手動補助(外部生成)受動動作とから成る。運動の間中、個人には、その運動を想像し、それを自分自身で実行してみるように求めた。調査の開始時、患者は自発的に腕を動かすことができず、したがって、自発的に想像した運動を物理的に実行することができなかった。FESは、個人が(療法士に補助されて)以下の種類の動作、すなわち(1)鼻に触れる、(2)肩に触れる、(3)腕を前に動かす、(4)腕の左側を上に挙げる、(5)大きい物体に手を伸ばしつかむ、(6)小さい物体に手を伸ばしつかむ、(7)つかんでいる間物体を操る、および(8)その物体を指定された場所に置き、その物体を離す、という運動を行う間、肩、肘、手首および指の伸筋と屈筋に送出した。FES仲介プロトコルは1時間実施した。このプロトコルは、最小限40回の1時間活動を含み、1週間当たり少なくとも3回の1時間活動が行われるが、望まれればより頻繁に繰り返すことができる。本例の個人の場合では、プロトコルは毎日2回実施された。脳卒中を患った個人では、神経筋回復は一般に近位で始まり、遠位神経筋区画の回復が後に続く。したがって、FES仲介プロトコルは、まず肩および上腕の筋肉を訓練することから始まり、手首および指の訓練が後に続いた。
【0134】
【表2】
【0135】
FES仲介プロトコルの間中、療法士は、押しボタンを使用して腕の運動を制御/誘発した。運動の間中、理学療法士は腕を誘導し、所望の課題を行うに際し神経補綴を用いて個人を補助した。この補助により、すべての運動が適正な生理学的方法で、すなわち、神経補綴で誘発された運動が本来の関節の動きに対抗せず、また骨および軟組織組成の解剖学的構造を考慮したものであるようにして実行されることになった。処置の初期段階では、腕の課題は、筋肉刺激と療法士の補助の組合せによって行われた。個人がよくなるにつれて、補助が必要最小限へと低減された。通常、刺激プロトコルは週に1回、または2週間に1回調整された。個人には、単一の処置活動の間に、同じ腕の課題を動作ごとに10回繰り返すことを求めた。処置活動は60分まで継続した。
【0136】
結果尺度・臨床評価。腕および手の機能を評価するために、上肢に対するCMSMR試験およびMotricity Index試験を用いた。冒された上腕の痙性麻痺の程度を5段階Modified Ashworth Scale (MAS)を用いて評価した。
【0137】
H反射およびM最大。橈側手根屈(FCR)筋での脊髄運動ニューロンプールの興奮性を評価するために、ホフマン反射(H反射)を誘発した。H反射は、肘関節の内側に配置された単極性電極で左正中神経を刺激することによって引き起こした。矩形パルス(1ms)を定電圧刺激器(DPS-007、Dia Medical System Co.、日本)によって生成した。この刺激器は5秒に1回作動させた。
【0138】
最大随意収縮(MVC)。以下の麻痺上腕筋肉、すなわちaDel、pDel、BB、TB、橈側手根屈筋(FCR)、長指伸筋(EDL)、および第1遠位骨間筋、における筋電図(EMG)信号を両極性差動増幅器(Bortec AMT-8、Bortec Biomedical、カナダ)によって検出した。1対の表面電極(BiPole、Bortec Biomedical、カナダ)を各筋肉の腹部の上の筋肉繊維に沿って10mmの電極間距離(中心間)で配置した。記録されたEMG信号を500倍に増幅し、運動開始の前500msと後500msの期間にわたって1000Hzのサンプリング速度でデジタル化した。
【0139】
動作試験の活動範囲。個人には、(1)前、(2)後、(3)上、(4)右側、および(5)左側の5つの方向に可能な限り腕を動かすように求めた。運動中に、肩、肘および手首の関節の位置と、人差し指の第二関節の位置とを記録した。個人は、5つの運動それぞれで3回試行した。
【0140】
円描画試験。この試験は、肩関節と肘関節を連係させる能力を評価することが目的であった。円描画試験時、被験者には、肩の動きと肘の動きを連係させる能力が必要である。具体的には、脳卒中を患い肘関節に痙縮がある個人にとって、幅広い適正な形の円を描くことは容易ではない。個人がテーブル上で円を描いている間、肩、肘および手首の関節の位置と、人差し指の第二関節の位置とを記録した。評価の間、運動は自己ベースであり、課題は30秒間継続した。
【0141】
当初、試験1から3を用いて個人を評価する計画であった。しかし、訓練の最初の6週間の間に、個人は、驚くほどに肩および肘の機能の顕著な改善を示し、それによって、上腕の機能的動作をさらに評価するための試験4および5を追加することが促された。
【0142】
結果。個人は、すべての訓練活動および評価を無事に完了した。12週間のFES仲介プロトコルの後で、個人は、FES仲介プロトコル活動前には達成できなかった課題、例えば薄いものをつまむこと、自分の鼻に触れること、および円を描くことができた。選択された臨床尺度、すなわちCMSMR試験およびMotricity Index試験は粗い尺度であるので、これらの試験では12週間プロトコルの後にスコアの変化が示されなかった。しかし、手および手首のMASでは、訓練の間に痙性麻痺の低減が示された(手首は3から2、手は4から3)。脊髄運動ニューロン興奮性を表すH反射もまた、訓練により顕著な低減を示した(
図36a、36bおよび36c)。すなわち、H反射のサイズは、プロトコルの開始時には非常に大きいが(82.9%M最大)、時間が経過するにつれてかなり減少し(6週間目で53.65%、12週間目で45.04%)、それによって、中枢神経系の脊髄上位区画の損傷に一般に付随する高い緊張度が元に戻ること、および中枢神経系機能がその正常なレベルの緊張度および反射反応に戻っていることが示された。
図37は、2週間ごとに得られた上腕筋肉のMVCの変化を示す。測定されたすべての筋肉のMVCレベルは、ベースライン評価時には「ゼロ」であった。言い換えると、患者は、冒された腕のただ1つの筋肉も自発的に活性化することができなかった。プロトコルが進行するにつれ、患者は、筋肉を自発的に活性化する能力を獲得し、プロトコルの継続によりさらに改善した。冒された腕のMVCレベルが、冒されていない腕よりも著しく小さかったことは言及する価値がある。しかし、その低いレベルのMVCでも、患者が物に手を伸ばしつかむように腕および指を効果的および自発的に動かすことを可能にするのに十分であった。FES仲介プロトコルの後にかなりの改善を示した筋肉のよい例はFDI筋およびTB筋であり、これらの筋肉は、ベースラインでは少しもEMG(RMS μV)活性も示さなかったが、FES仲介プロトコルの後に、随意EMGおよび筋肉収縮制御で顕著な改善を示した。表3は、肩および肘の動的な動作範囲を示す。12週目における肩および肘の動的な動作範囲の値が、6週目に測定された値と比較して著しい改善を示したことがはっきり示されている。0週目に個人には、冒された腕の自発的運動が少し
もなかった。したがって、0週目の運動なしから6週目の限定された運動に至り、12週目の非常に拡大された動作範囲が後に続く変容は、顕著な変化である。上記のように、この調査の個人が慢性傷害の段階にあり、したがって、どんな治療介入が行われようと改善を示す見込がなかったことを考えると、観察され本明細書で言及した変化は注目に値する。さらに、このような変化は、重度の慢性卒中患者ではこれまで観察されなかった。
【0143】
【表3】
【0144】
図38aは、個人が円描画試験をしている間の肩、肘、手首および人差し指の位置のx-yグラフを示す。個々の関節の各絶対座標を上の
図38aの3つの図に示した。肩関節座標フレームに対する(すなわち基準座標フレームは肩関節にあるものとして)関節および人差し指の各座標は、下の
図38bの3つの図に示されている。人差し指で描かれた円のサイズは、FES仲介プロトコルの第6週では小さかったが、そのサイズはプロトコルが進行するにつれて大きくなった。0週目で個人には、冒された腕の自発的な運動が全くなく、円を描くことができなかった。
【0145】
この調査の目的は、重度の慢性脳卒中の人(CMSMRスコア2以下)に対する12週間の集中FES仲介プロトコルの効果を評価することであった。運動能力スコア、すなわちCMSMR試験およびMVC試験では、試験の経過による顕著な変化が何も示されなかったが、MASおよびH反射振幅は、FES仲介プロトコルの結果として低減された。加えて、運動学的な結果では、腕の運動を行う能力、および肩関節と肘関節を連係させる能力の大幅な改善が示された。これらの結果は、上肢の自発的運動機能の改善ならびに筋緊張および/または痙性麻痺の低減で確認される上腕の機能的動作の改善が、神経可塑性の手段による中枢神経系の再訓練の成果でありうることを示唆している。
【0146】
従来、神経筋電気刺激は、種々の神経性患者および健康な人の随意筋肉収縮の強度を向上させるために使用されてきた。しかし、電気刺激の最近の適用例では、その焦点が筋肉強化から、中枢神経系の再訓練および脳卒中の人の運動制御の改善の方に移りつつある。この調査では、以前に脳卒中のために麻痺した腕との連係した複数関節運動を自発的に行うためのFES仲介プロトコルを使用して、慢性脳卒中の人を再訓練した。使用した刺激強度は運動閾値よりも約2倍大きかったので、FES仲介プロトコルが、関連した筋肉強度の増大による筋肉機能の変化を引き起こすとは予想できなかった。この想定は、
図37に示された結果によって確認された。つまり、上肢筋肉のMVCの整合性のある変化はなかった。
【0147】
FES仲介プロトコルの開始時、個人の上肢には強い筋緊張があった。しかし、手首および肘の屈筋の筋緊張は、FES仲介プロトコルの結果として著しく減少し、これはMASの結果(表2)、およびH反射の結果(
図37)にはっきり表れた。この結果は、異常に強い筋緊張を低減することに対する電気刺激の効果を説明するこれまでの知見とよく一致した。個人の腕、特に手の静止状態は、訓練の時間経過と共に大幅に変わったことに留意されたい。すなわち、個人は、自分の手を弛緩させること、および手を伸ばす動作中に手を弛緩させておくことができた。したがって、上腕の機能的動作の改善は、筋緊張および/または痙性麻痺の低減の成果と一部にはすることができる。この発見は、筋緊張の低減が、脳卒中後の運動機能の欠陥に対する最も簡単な解決策であるという古典的な概念を裏付ける。
【0148】
種々の上肢運動/機能を引き起こすことができる事前プロラム刺激パターンを開発した。FESによって誘発される筋肉の一時的活性化は、同じ課題を行っている無傷の筋神経系のものと同様であった。すなわち、筋肉活性化は、実際の自然な動きをそのまま模倣するように設計した。したがって、動きの間中、個人は、筋肉収縮をいつ活性化することになっているか、また筋肉収縮をどのように順に行って所望の動きを生じさせるかを知覚することができた。H反射の顕著な変化が観察されたこと、ならびにFES仲介プロトコルの前には個人が自発的に収縮できなかったいくつかの筋肉が、プロトコルの終わりには個人の随意制御下にあったことは、FES仲介プロトコルによって引き起こされた機能的改善が、中枢神経系に生じる変化に一部にはよることを示唆する。言い換えると、集中的、反復的でしかも多様なFES仲介プロトコルは、中枢神経系の可塑的な再組織化を促進している可能性がある。したがって、観測された変化を以下の機構が引き起こしうることが予測される。課題を実行しようと努める半身不随の個人が、その同じ課題を実行するためにFESで補助される場合、その個人は、実際上自発的に運動命令(腕を動かしたいという要望、すなわち遠心性運動命令)を出しており、FESは求心性フィードバック(求心性感覚入力)を供給しており、それによって、命令がうまく実行されたことが示される。したがって、運動目標と感覚入力の両方をそれぞれ中枢神経系に長時間繰り返し与えることによって、この種のFES仲介プロトコルは、中枢神経系の無傷の部分を機能的に再組織化および再訓練しやすくし、これらの部分が中枢神経系の損傷した部分の機能を引き継ぐことを可能にすると考えられる。個人が自発的機能の改善を継続すると、刺激された筋肉および腕からの随意の関連した感覚フィードバックが、この再訓練過程にさらに寄与する。これは、中枢神経系の分散性により、また脳の種々の部分が同様の課題を処理することによりありうる。例えば、運動課題は通常、運動野および運動前野の活動と関連している。しかし、運動課題はまた、後頭葉でも処理される。したがって、FES仲介プロトコルにより、中枢神経系がこのような分散ネットワークにアクセスし、中枢神経系の傷害または疾病により失われた新しい運動課題を患者が再学習するのを助けるように分散ネットワークを使用することが可能になる。
【0149】
この例示的FES仲介調査では、慢性脳卒中の人の上肢機能を改善するのにFES仲介プロトコルを使用できることが確認できる。さらに、この種のプロトコルが、重度の上肢障害がある人に効果的であるので、軽度の上肢障害を持つ人に効果のある可能性が非常に高い。この例示的な調査では、FES仲介プロトコルにより種々の筋肉のH反射およびEMGが経時的にどのように変化したかを毎週調べた。重要な発見は、調査の前に麻痺していた筋肉が、FES仲介プロトコルの後に活性になり、個人の随意制御下にあったことである。さらに、H反射は、FES仲介プロトコルが完了した後でほぼ50%低減し、それによって、この例示的なFES仲介プロトコルの結果としての筋緊張および/または痙性麻痺の大幅な低減が示唆された。
【0150】
本開示では様々な例示的実施形態を説明しているが、本開示はそのように限定されていない。それとは反対に本開示は、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲に含まれる様々な修正形態および等価な構成を包含するものである。添付の特許請求の範囲は、このような修正形態ならびに等価の構造および機能をすべて包含するように、最も広い解釈によるべきものである。