(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778389
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】たんぱく質の精製方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/14 20060101AFI20150827BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20150827BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20150827BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20150827BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20150827BHJP
B01D 71/78 20060101ALI20150827BHJP
B01D 71/82 20060101ALI20150827BHJP
C07K 1/16 20060101ALI20150827BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20150827BHJP
D06M 14/28 20060101ALI20150827BHJP
D06M 15/273 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
C07K1/14
B01D63/02
B01D69/08
B01D71/26
B01D71/34
B01D71/78
B01D71/82 500
C07K1/16
C12P21/08
D06M14/28
D06M15/273
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2009-538030(P2009-538030)
(86)(22)【出願日】2008年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2008067540
(87)【国際公開番号】WO2009054226
(87)【国際公開日】20090430
【審査請求日】2011年5月6日
【審判番号】不服2013-16784(P2013-16784/J1)
【審判請求日】2013年8月30日
(31)【優先権主張番号】特願2007-279406(P2007-279406)
(32)【優先日】2007年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046314
【氏名又は名称】旭化成ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】白瀧 浩伸
(72)【発明者】
【氏名】篠原 直志
【合議体】
【審判長】
今村 玲英子
【審判官】
長井 啓子
【審判官】
小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−012300(JP,A)
【文献】
特表2005−502321(JP,A)
【文献】
RAD.PHYS.CHEM.,vol.54(1999)p.517−525
【文献】
膜,vol.30(5)(2005)p.269−274
【文献】
J.Chromatogr.B,vol.821(2005)p.153−158
【文献】
J.Chromatogr.A,vol.782(1997)p.159−165
【文献】
J.Chromatogr.A,vol.689(1995)p.211−218
【文献】
新生化学実験講座1 タンパク質I−分離・精製・性質−,株式会社東京化学同人,1990年2月26日
【文献】
J.Chromatogr.A,vol.925(2001)p.41−47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00 - 1/36
CAPLUS/BIOSIS/EMBASE/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPLUS/JMEDPLUS/JST7580(JDREAM2)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的とするたんぱく質と不純物とを含むpH7〜8の動物細胞培養液から前記不純物を除去するためのたんぱく質の精製方法であって、
細孔表面にエポキシ基を有するグラフト鎖を導入し、前記エポキシ基の70%以上がアニオン交換基に置換された多孔膜を用いて前記動物細胞培養液をろ過して、前記不純物を前記多孔膜に吸着させ、前記目的とするタンパク質を透過させる工程を含み、
前記目的とするたんぱく質が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体及び免疫グロブリンからなる群から選択される1種であり、
前記グラフト鎖のグラフト率が10%以上90%以下である、たんぱく質の精製方法。
【請求項2】
前記不純物が、非濁質成分及び前記動物細胞培養液中に分散した濁質成分からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のたんぱく質の精製方法。
【請求項3】
前記非濁質成分が、前記動物細胞培養液中に溶存する不純物たんぱく質、HCP、DNA、ウィルス、エンドトキシン、プロテアーゼ及びバクテリアからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載のたんぱく質の精製方法。
【請求項4】
前記動物細胞培養液中に分散した濁質成分が、細胞及び細胞デブリからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2または3に記載のたんぱく質の精製方法。
【請求項5】
前記動物細胞培養液の塩濃度が、0.01M以上0.5M以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
【請求項6】
前記動物細胞培養液の塩濃度が、0.1M以上0.3M以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
【請求項7】
前記多孔膜の基材がポリエチレンまたはポリフッ化ビニリデンであり、
前記グラフト鎖がメタクリル酸グリシジルの重合体である、請求項1から6のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
【請求項8】
前記グラフト率が、30%以上60%以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
【請求項9】
前記アニオン交換基が、ジエチルアミノ基及び/又はトリメチルアミノ基である、請求項1から8のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
【請求項10】
前記アニオン交換基が、ジエチルアミノ基である、請求項1から8のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
【請求項11】
前記多孔膜の最大細孔径が、0.1μm以上0.8μm以下である、請求項1から10のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
【請求項12】
前記多孔膜を用いて、前記動物細胞培養液をろ過することにより、非濁質成分を含む1つ以上の不純物を除去する、請求項1から11のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
【請求項13】
前記多孔膜が中空糸多孔膜である、請求項1から12のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
【請求項14】
アフィニティークロマトグラフィーによる精製を行う工程を、さらに含む、請求項1から13のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たんぱく質の精製方法に関する。本発明は、具体的には、動物細胞培養液に代表される、目的とするたんぱく質と不純物とを含む混合液から不純物を簡便に除去し、目的とするたんぱく質を効率的に精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジー産業において、たんぱく質の実利的な大量精製は重要な課題となっている。特に、医薬の分野において、抗体医薬への需要が急速に増加しており、たんぱく質を効率的に大量産生及び大量精製することができる技術の確立が強く望まれている。
一般的に、たんぱく質は、動物由来の細胞株を使用した細胞培養によって産生される。目的とするたんぱく質(以下、単に「目的たんぱく質」と記載する場合がある。)、特に医薬品として用いる抗体医薬を実用化するためには、細胞培養液から濁質成分となる細胞デブリなど及び非濁質成分となる細胞由来の溶存するたんぱく質などを除去し、人間の治療用途にとって十分な組成にまで精製する必要がある。
【0003】
細胞培養液から目的たんぱく質を精製する通常の操作は、最初に、細胞培養液を遠心分離にかけて濁質成分を沈降除去する。次いで、濁質成分のうち遠心分離で除去しきれない約1μm以下の細胞デブリを、精密ろ過膜を用いるサイズろ過により除去する。さらに、無菌化するために最大細孔径が0.22μm以下のろ過膜を用いて無菌化ろ過を施して、目的たんぱく質の清澄な溶液を得る(ハーベスト工程)。目的たんぱく質を含む清澄な溶液が得られると、続いて、アフィニティークロマトグラフィーを始めとする、複数のクロマトグラフィー技術の組み合わせによる精製プロセスを用いて目的たんぱく質を分離・精製する(ダウンストリーム工程)。培養液中の細胞から産生され、該培養液中に溶存する不純物たんぱく質が、ダウンストーム工程において除去される。細胞培養液から目的たんぱく質などを精製する、斯かる従来の方法においては、該培養液中の目的たんぱく質の濃度は1g/L以下が通常であり、この培養液中に含まれる、細胞デブリ及び溶存する不純物たんぱく質などの濃度も、目的たんぱく質の濃度と同程度である。この濃度領域では従来のハーベスト工程とダウンストリーム工程による精製プロセスは、目的たんぱく質を精製する上で十分有効である。
【0004】
しかしながら、抗体医薬の需要の急速な増加により、抗体医薬品となるたんぱく質の大量生産が指向され、培養技術の急速な進歩により、近年では細胞培養液中の目的たんぱく質の濃度は増加し、10g/Lにまで到達しようとしている。この培養技術の急速な進歩は同時に、細胞培養液中の不純物たんぱく質も同様に増加する結果を意味するものであり、従来のたんぱく質精製プロセスを用いての精製に多大な負荷がかかることが予測される。
【0005】
そこで、たんぱく質の大量精製のための技術として、例えば、特許文献1及び2には、多孔質膜にイオン交換基を導入して、たんぱく質吸着能力を付与したたんぱく質吸着膜が開示され、購入も可能である。
また、たんぱく質吸着膜の使用例として、特許文献3には、アニオン交換基を導入したセルロース多孔膜とカチオン交換基を導入したセルロース多孔膜の2種類のたんぱく質吸着膜を用いて、リンパ液からアルブミンを分離する方法が開示されている。
さらに、特許文献4には、アニオン交換基を導入したセルロース多孔膜を用いて、核酸とエンドトキシンを分離する方法が開示されている。
またさらに、特許文献5及び6には、それぞれカチオン交換基及びアニオン交換基をポリエーテルスルホン多孔膜に導入したたんぱく質吸着膜が開示されている。
非特許文献1には、イオン交換基を含む多孔膜を用いて核酸とモノクローナル抗体を分離する方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,547,575号明細書
【特許文献2】米国特許第5,739,316号明細書
【特許文献3】米国特許第6,001,974号明細書
【特許文献4】米国特許第6,235,892号明細書
【特許文献5】米国特許第6,783,937号明細書
【特許文献6】米国特許第6,780,327号明細書
【非特許文献1】Bioseparation 8: 281−291,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、高濃度の目的たんぱく質を含む細胞培養液を、遠心分離、精密ろ過、さらに無菌化ろ過によって清澄液とし、該清澄液をアフィニティークロマトグラフィーカラムであるプロテインAアフィニティーカラムを用いて目的たんぱく質を選択的に吸着させ、その後、酸性溶出液によって溶出回収する場合、回収液中に凝集した不純物が含まれることがしばしば見られる。また、プロテインAアフィニティーカラムの繰り返しの使用回数が増すに従い、該凝集した不純物の量は増加すると共に回収される目的たんぱく質の量が低下する傾向がある。
上述したように、不純物たんぱく質の量が多いほど、アフィニティークロマトグラフィー工程での負荷は大きくなり、カラムの洗浄などのために精製工程に長時間を要するようになるだけでなく、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムビーズの寿命、特にプロテインAアフィニティーカラムの寿命を短くする結果となる。プロテインAアフィニティーカラムが高価であることから該カラムの寿命が短くなることは望ましくない。
【0008】
また、特許文献1−4に開示された方法では、分離に用いる原液を予め精密ろ過膜を通して、粒子状の不溶物を除去した後に分離操作を実施している。これは、使用したたんぱく質吸着膜の最大細孔径が3μm〜5μmと大きいため、該たんぱく質吸着膜では粒子状の不溶物を除去できないためである。
特許文献5及び6に開示された方法でも、たんぱく質吸着膜の最大細孔径は0.8μm〜1.0μmであり、微細な粒子状の不溶物を除去することはできない。
さらに、通常細胞培養液には塩が含まれており、非特許文献1に開示されるようにイオン交換膜を用いた場合、0.1M以上の塩を含む溶液からのたんぱく質の吸着量は著しく減少するため、実用的に細胞培養液から不純物たんぱく質を除去することはできない。
【0009】
以上のように、既存のたんぱく質吸着膜は最大細孔径が約0.8μm以上であり、かつ塩存在下での吸着量が低いため、細胞培養液から、細胞デブリのような微細な不溶物を除去することを目的とした除濁と、溶存する不純物たんぱく質の吸着とを同時に行うことは想定されておらず、その目的のためには適していない。
また、いずれのたんぱく質吸着膜も、その動的吸着容量は、溶液中に塩が存在しない条件においても、膜体積あたりで30mg/mL以下であるため、細胞培養液からの不純物たんぱく質を有効に吸着除去するためには、多くの量のタンパク質吸着膜を必要とすることになる。さらに、これらの既存のたんぱく質吸着膜は平膜の形態であるため、多量のたんぱく質吸着膜をコンパクトなサイズに収納することはできない。したがって、大きなサイズの容器に収納された多量のタンパク質吸着膜を必要とすることとなり、実用的であるとはいえない。また、既存のアニオン交換基を有するたんぱく質吸着膜は溶液中に塩が存在すると、吸着量が著しく低下するため、さらに実用には向かない。
【0010】
かかる事情に鑑み、本発明の解決しようとする課題は、動物細胞培養液に代表される、目的たんぱく質と不純物とを含む混合液から、不純物を簡便に除去し、目的たんぱく質を効率的に精製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことに細孔表面にグラフト鎖を有し、かつ該グラフト鎖にアニオン交換基が固定された多孔膜を用いることが、前記目的を達成するために有効であることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の、たんぱく質の精製方法及び中空糸多孔膜を提供する。
[1]
目的とするたんぱく質と不純物とを含む混合液から前記不純物を除去するためのたんぱく質の精製方法であって、
細孔表面にグラフト鎖を有し、かつ前記グラフト鎖にアニオン交換基が固定される多孔膜を用いてろ過する工程を含む、たんぱく質の精製方法。
[2]
前記目的とするたんぱく質が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体及び免疫グロブリンからなる群から選択される1種である、前記[1]に記載のたんぱく質の精製方法。
[3]
前記不純物が、非濁質成分及び前記混合液中に分散した濁質成分からなる群から選択される少なくとも1種である、前記[1]または[2]に記載のたんぱく質の精製方法。
[4]
前記非濁質成分が、前記混合液中に溶存する不純物たんぱく質、HCP、DNA、ウィルス、エンドトキシン、プロテアーゼ及びバクテリアからなる群から選択される少なくとも1種である、前記[3]に記載のたんぱく質の精製方法。
[5]
前記混合液中に分散した濁質成分が、細胞及び細胞デブリからなる群から選択される少なくとも1種である、前記[3]または[4]に記載のたんぱく質の精製方法。
[6]
前記混合液の塩濃度が、0.01M以上0.5M以下である、前記[1]から[5]のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
[7]
前記混合液の塩濃度が、0.1M以上0.3M以下である、前記[1]から[5]のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
[8]
前記多孔膜の基材がポリエチレンまたはポリフッ化ビニリデンであり、
前記グラフト鎖がメタクリル酸グリシジルの重合体であり、グラフト率が10%以上250%以下であり、
前記グラフト鎖の有するエポキシ基の70%以上が前記アニオン交換基に置換されている、前記[1]から[7]のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
[9]
前記グラフト率が、10%以上150%以下である、前記[8]に記載のたんぱく質の精製方法。
[10]
前記グラフト率が、10%以上90%以下である、前記[8]に記載のたんぱく質の精製方法。
[11]
前記グラフト率が、30%以上60%以下である、前記[8]に記載のたんぱく質の精製方法。
[12]
前記アニオン交換基が、ジエチルアミノ基及び/又はトリメチルアミノ基である、前記[1]から[11]のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
[13]
前記アニオン交換基が、ジエチルアミノ基である、前記[1]から[12]のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
[14]
前記多孔膜の最大細孔径が、0.1μm以上0.8μm以下である、前記[1]から[13]のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
[15]
前記多孔膜を用いて、前記混合液をろ過することにより、非濁質成分を含む1つ以上の不純物を除去する、前記[1]から[14]のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
[16]
前記混合液が、動物細胞培養液である、前記[1]から[15]のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
[17]
前記多孔膜が中空糸多孔膜である、前記[1]から[16]のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
[18]
前記[17]に記載のたんぱく質の精製方法に用いられる、中空糸多孔膜。
[19]
前記[18]に記載の中空糸多孔膜を備えるモジュール。
[20]
細孔表面にグラフト鎖を有し、かつ前記グラフト鎖にアニオン交換基が固定された中空糸多孔膜であって、
前記中空糸多孔膜の基材が、ポリエチレンまたはポリフッ化ビニリデンであり、
前記グラフト鎖がメタクリル酸グリシジルの重合体であり、グラフト率が10%以上250%以下であり、
前記グラフト鎖の有するエポキシ基の70%以上が前記アニオン交換基に置換されている、中空糸多孔膜。
[21]
前記グラフト率が、10%以上150%以下である、前記[20]に記載の中空糸多孔膜。
[22]
前記グラフト率が、10%以上90%以下である、前記[20]に記載の中空糸多孔膜。
[23]
前記グラフト率が、30%以上60%以下である、前記[20]に記載の中空糸多孔膜。
[24]
前記多孔膜の最大細孔径が、0.1μm以上0.8μm以下である、前記[20]から[23]のいずれか一項に記載の中空糸多孔膜。
[25]
前記[20]から[24]のいずれか一項に記載の中空糸多孔膜を備えるモジュール。
[26]
アフィニティークロマトグラフィーによる精製を行う工程を、さらに含む、前記[1]〜[17]のいずれか一項に記載のたんぱく質の精製方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のたんぱく質の精製方法により、従来、遠心分離、精密ろ過、無菌化ろ過の3工程によって行っている、アフィニティークロマトグラフィー工程以前の細胞培養液の清澄化を、グラフト鎖を有し、該グラフト鎖にアニオン交換基が固定される多孔膜を用いるろ過により簡便に行うことができる。
また、従来の方法では除去されない、溶存した不純物たんぱく質の除去もアニオン交換基が固定される多孔膜でのろ過により可能となる。さらに、アフィニティークロマトグラフィー工程の負荷を大きく低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例3における、アニオン交換中空糸膜モジュールを用いたBSAとγ−グロブリン混合液のろ過におけるSDS−PAGEによる素通り成分と吸着成分の分析結果を示す。
【
図2】実施例4−6及び比較例1における、各種アニオン交換膜ろ過によるγ−グロブリンを含む細胞培養液の精製のSDS−PAGEによる分析結果を示す。
【
図3】実施例10における、アニオン交換中空糸膜モジュールを用いた、1工程で除濁、不純物たんぱく質除去、及び無菌化を行う評価装置の概略図を示す。
【
図4】実施例10における、アニオン交換中空糸膜モジュールを用いたろ過におけるSDS−PAGEによる素通り成分と吸着成分の分析結果を示す。
【
図5】実施例11における、精密ろ過中空糸膜モジュールで除濁後、アニオン交換中空糸膜モジュールを用いて、2工程で不純物たんぱく質除去及び無菌化を行う評価装置の概略図を示す。
【0015】
1 細胞培養液タンク
2 ペリスターポンプ
3 圧力計(モジュール入側)
4 アニオン交換中空糸膜モジュール
5 圧力計(モジュール出側)
6 流量調整コック
7 除濁用精密ろ過中空糸膜モジュール
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
本実施の形態のたんぱく質の精製方法は、医薬品として有用な目的とするたんぱく質と、不純物と、を含む、動物細胞培養液に代表される混合液から、不純物を除去するたんぱく質の精製方法であって、細孔表面にグラフト鎖を有し、かつ該グラフト鎖にアニオン交換基が固定される多孔膜を用いてろ過する工程を含む。
本実施の形態のたんぱく質の精製方法は、混合液に含まれる不純物を簡便に除去し、清澄な目的たんぱく質の溶液を得ることのできるたんぱく質の精製方法である。
本実施の形態のたんぱく質の精製方法は、ろ過工程により得られる清澄な目的たんぱく質の溶液を用いて、アフィニティークロマトグラフィーによる精製を行う工程をさらに含むことが好ましい。
【0018】
目的とするたんぱく質と不純物とを含む混合液としては、特に限定されないが、動物細胞培養液を挙げることができる。
動物細胞培養液としては、目的たんぱく質を含む培養液であれば特に限定されないが、チャイニーズハムスターの卵巣(CHO)細胞を含む宿主細胞中で細胞培養を行って得られる組換えたんぱく質を含む培養液を挙げることができる。
【0019】
目的たんぱく質としては、医薬品として用いられる抗体を挙げることができ、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体及び免疫グロブリンを挙げることができる。
【0020】
不純物としては、混合液中に分散した濁質成分、及び非濁質成分などを挙げることができる。
濁質成分及び非濁質成分としては、目的とするたんぱく質を製造するために、動物細胞培養を行って得られる培養液中に含まれる目的たんぱく質以外の不純物を挙げることができる。
混合液中に分散した濁質成分としては、細胞及び細胞デブリなどを挙げることができ、非濁質成分としては、混合液中に溶存する不純物たんぱく質、宿主細胞たんぱく質(Host Cell Protein:HCP)、核酸(DNA)、ウィルス、エンドトキシン、プロテアーゼ及びバクテリアなどを挙げることができる。
【0021】
本実施の形態のたんぱく質の精製方法は、多孔膜を用いて、混合液をろ過することにより、非濁質成分を含む1つ以上の不純物を除去することが好ましい。
非濁質成分は、多孔膜へ吸着により除去することができる。非濁質成分を含む1つ以上の不純物の除去を行う際に、濁質成分も除去することが好適である。
【0022】
目的たんぱく質である抗体の等電位点(pI)は、その範囲がほぼ6〜8にある。一般的なCHO動物細胞培養液のpHは概ね7〜8の範囲にあり、該培養液は約1質量%(約0.17M)の塩を含む。動物細胞培養液の種類によっては、上記pHと塩濃度に変動はありうる。
水溶液中で、たんぱく質のアミノ基は−NH
3+と、カルボキシル基は−COO
−とイオン化した状態で存在し、水溶液中のたんぱく質の総電荷は培養液のpHに依存する。等電位点(pI)のpHではたんぱく質の総電荷はゼロである。そして、たんぱく質は、pI以上のpHでは負、pI以下のpHでは正に帯電した状態となる。
動物細胞培養液のpHは7〜8であることから、目的たんぱく質の総電荷は殆どゼロであるかまたは僅かに正に帯電した状態で、目的たんぱく質は該培養液中に存在するため、目的たんぱく質は、アニオン交換基には実質的に吸着されない。
【0023】
これに対し、混合液中に溶存する不純物たんぱく質、宿主細胞たんぱく質(HCP)、核酸(DNA)及びエンドトキシンなどは、その殆どのpI値が6以下であるため、動物細胞培養液中に溶解していても、該培養液中では負に帯電した状態で存在する。上記混合液中に溶存する不純物たんぱく質などは塩が存在しない条件化ではアニオン交換基に吸着される性質を持つ。
しかしながら、実際には動物細胞培養液は通常約1質量%(0.17M)程度の塩を含み、そのためpIが6以下であっても不純物たんぱく質などはアニオン交換基には殆ど吸着されない。即ち、通常のアニオン交換基を有する吸着膜、またはアニオン交換クロマトグラフィーを用いても、動物細胞培養液から直接不純物を除去することは出来ない。
【0024】
本実施の形態のたんぱく質の精製方法を用いることにより、塩濃度が0.01M以上0.5M以下である動物細胞培養液であっても、精製することができる。
本実施の形態で好適に精製することができる動物細胞溶液の塩濃度は、0.1M以上0.3M以下である。
【0025】
本実施の形態において、細孔表面にグラフト鎖を有し、かつ該グラフト鎖にアニオン交換基が固定される多孔膜を用いて動物細胞培養液のろ過を行った場合、驚くべきことに、細胞培養液中に塩が含まれるにも関わらず、混合液中に溶存する不純物たんぱく質、宿主細胞たんぱく質(HCP)、核酸(DNA)及びエンドトキシンなどが該多孔膜のアニオン交換基に吸着されることが見出された。
【0026】
細孔表面にグラフト鎖を有し、かつ該グラフト鎖にアニオン交換基が固定される多孔膜をろ過工程において用いると、通常では実現されない、動物細胞培養液からの混合液中に溶存する不純物たんぱく質、宿主細胞たんぱく質、核酸及びエンドトキシンなどの吸着が可能となる。その詳細な理由は不明だが、以下のように推測される。
【0027】
通常のアニオン交換膜及びアニオン交換クロマトグラフィーでは、一般にアニオン交換基は多孔質膜細孔またはレジン並びにその細孔の表面に固定されている。たんぱく質は表面のアニオン交換基により吸着される。アニオン交換基は多孔膜の細孔またはレジン並びにその細孔の表面にのみ固定され、平面的に存在している。そのためたんぱく質は、多孔膜の細孔またはレジン並びにその細孔の表面で点接触のように吸着するため、吸着に関わることのできるアニオン交換基の数が少ない。従って、溶液中に塩が存在すると、たんぱく質の吸着性は著しく減少する。
これはアニオン交換膜についての一般的な概念であり、この原理に基づいて、吸着したたんぱく質を溶出する際には、塩溶液を用いることが通常の方法として採用されている。
すなわち、アニオン交換膜は溶液中に塩が存在する場合には、たんぱく質を吸着しないものと考えられており、この考え方は、グラフト鎖を有するアニオン交換膜についても同様であった。
【0028】
本実施の形態において用いられる多孔膜においては、アニオン交換基は、細孔表面にあるグラフト鎖に固定されている。
本発明者らは、アニオン交換基がグラフト鎖に固定されているアニオン交換膜である本実施の形態における多孔膜を用いることにより、塩を含む溶液であってもたんぱく質の吸着性が著しく減少することはない事実を見出した。
アニオン交換基が細孔またはレジンの表面のみにある通常の多孔膜においては、たんぱく質の吸着は平面的であるのに対し、グラフト鎖にアニオン交換基が固定されることにより、アニオン交換基が3次元的に立体的に配置される。アニオン交換基がグラフト鎖に固定されていることにより、グラフト鎖がたんぱく質を巻き込みように吸着するため、吸着にかかわるアニオン交換基の数が多いと考えられる。吸着に関与し得るアニオン交換基の数が多いため、溶液中に塩が存在しても、たんぱく質の吸着性の減少は少なく、実用的な細胞培養液からも溶存した不純物の吸着による除去が実現されると推定される。
【0029】
本実施の形態において用いられるアニオン交換基を有する多孔膜とは、基材となる多孔質体及びその細孔の表面にグラフト鎖が固定され、かつ該グラフト鎖にアニオン交換基が化学的または物理的に固定されている多孔質体よりなる多孔膜を意味する。
【0030】
多孔膜の基材は、特に限定はされないが、機械的性質の保持のために、ポリオレフィン系重合体から構成されていることが好ましい。
ポリオレフィン系重合体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン及びフッ化ビニリデンなどのオレフィンの単独重合体、該オレフィンの2種以上の共重合体、または1種もしくは2種以上のオレフィンとパーハロゲン化オレフィンとの共重合体などが挙げられる。
パーハロゲン化オレフィンとしては、テトラフルオロエチレン及び/またはクロロトリフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0031】
これらの基材の中でも、機械的強度に特に優れ、かつ高い吸着容量が得られる素材である点で、ポリエチレンまたはポリフッ化ビニリデンが好ましく、ポリエチレンがより好ましい。
【0032】
多孔膜の表面及び細孔に、グラフト鎖を導入し、さらに、該グラフト鎖にアニオン交換基を固定する方法としては、限定されるものではないが、例えば、特開平2−132132号公報に開示される方法が挙げられる。
【0033】
本実施の形態において、グラフト率とは、基材の重量に対する、アニオン交換基が固定される前の基材に導入されたグラフト鎖の重量の比(百分率)を意味する。
グラフト率は、10%以上250%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以上150%以下であり、さらに好ましくは10%以上90%以下であり、よりさらに好ましくは30%以上60%以下である。
グラフト率が10%以上であることにより、タンパク質の吸着容量が著しく高くなり、実用的である。
グラフト率が250%以下であることにより、実用的な強度が得られる。
通常、吸着したたんぱく質を溶出する際に塩溶液を多孔膜に通液するが、それにより膜体積は膨張する特性があり、グラフト率が高いほど膨張率は高い。塩溶液通液による膜体積の膨張率は、多孔膜とグラフト鎖の構造にもよるが、グラフト率60%では約2%以下、90%では約3%以下、150%では約5%以下である。グラフト率が250%以下であれば、膨張率を10%以下とすることができるため、グラフト率が250%以下の多孔膜が実用上好適である。
【0034】
本実施の形態において、基材に導入されるグラフト鎖とは、導入反応後にジメチルホルムアミド(DMF)などの有機溶剤で洗浄しても、除去されない化学構造を有する鎖を意味する。
グラフト鎖としては、例えば、メタクリル酸グリシジル、酢酸ビニル及びヒドロキシプロピルアセテートの重合体が挙げられるが、アニオン交換基を導入しやすいことから、メタクリル酸グリシジルまたは酢酸ビニルの重合体が好ましく、メタクリル酸グリシジルの重合体がより好ましい。
【0035】
アニオン交換基としては、混合液中に溶存する不純物たんぱく質、DNA、HCP、ウィルス及びエンドトキシンなどを吸着するアニオン交換基であれば、特に限定されないが、ジエチルアミノ基(DEA、Et
2N−)、四級アンモニウム基(Q、R
3N
+−)、四級アミノエチル基(QAE、R
3N
+−(CH
2)
2−)、ジエチルアミノエチル基(DEAE、Et
2N−(CH
2)
2−)、ジエチルアミノプロピル(DEAP、Et
2N−(CH
2)
3−)基などが挙げられる。Rは、特に限定されるものではないが、同一のNに結合するRが同一又は異なっていてもよく、好適には、アルキル基、フェニル基、アラルキル基などの炭化水素基を表す。
四級アンモニウム基としては、例えば、トリメチルアミノ基(グラフト鎖に導入されたトリメチルアンモニウム基、Me
3N
+−)などが挙げられる。
多孔膜に導入されたグラフト鎖への化学的な固定が容易であり、高い吸着容量が得られることから、DEA及びQが好ましく、DEAがより好ましい。
【0036】
アニオン交換基は、グラフト鎖を構成するグリシジルメタクリレート重合体が有するエポキシ基を開環し、ジエチルアミンなどのアミン及びジエチルアンモニウムまたはトリメチルアンモニウムなどのアンモニウム塩を付加することにより、グラフト鎖に固定することができる。
グラフト鎖のエポキシ基のうち、モル比率で、70%以上が、好ましくは75%以上が、より好ましくは80%以上がアニオン交換基に置換されていることが好ましい。アニオン交換基が置換される量が上記範囲内であることにより、動的吸着容量に優れる多孔膜とすることができる。
【0037】
多孔膜の最大細孔径は、濁質成分及びバクテリアをカットし、なおかつ高い透過流速を得るために、0.1μm以上0.8μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上0.6μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以上0.5μm以下である。
本実施の形態において、多孔膜の最大細孔径とは、実施例において示すようにバブルポイント法により測定される値を意味する。
【0038】
アニオン交換基を有する多孔膜の、塩を含まない溶液からのたんぱく質の動的吸着容量は、アフィニティークロマトグラフィーによる精製工程でのアフィニティークロマトグラフィーカラムへの負荷を有効に軽減するため、30mg/mL以上であることが好ましく、50mg/mL以上であることがより好ましく、さらに好ましくは70mg/mL以上である。
緩衝液が0.1mol/Lの塩を含む場合の動的吸着容量は、10mg/mL以上であることが好ましく、より好ましくは20mg/mL以上であり、さらに好ましくは30mg/mL以上である。
イオン交換膜に吸着する不純物の量は、イオン交換膜の体積に比例する。そのため、イオン交換膜の動的吸着容量が大きいほど、タンパク質の精製に用いるモジュールの大きさを小さくすることができる。
【0039】
本実施の形態において、動的吸着容量とは、多孔膜の体積あたりの破過するまでに多孔膜に吸着されるたんぱく質の質量(単位[mg/mL])を意味する。吸着量評価のモデルたんぱく質としてウシ血清アルブミン(BSA)を用い、BSAを20mM Tris−HCl(pH8.0)の緩衝液に溶解したもので、以下の実施例に記載する方法により動的吸着容量を評価することができる。
【0040】
多孔膜の形態は、多孔質体でれば特に限定されず、平膜、不織布、中空糸膜、モノリス、キャピラリー、円板または円筒状などが挙げられる。
製造のし易さ、スケールアップ性、モジュール成型した際の膜のパッキング性などから、中空糸膜であることが好ましい。
【0041】
本実施の形態において、アフィニティークロマトグラフィーによるダウンストリーム工程の前の、ハーベスト工程において、アニオン交換基を有する中空糸多孔膜を用いて、目的たんぱく質を含む動物細胞培養液のろ過を行うことにより、清澄な目的たんぱく質の溶液を得ることができる。アニオン交換基を有する中空糸多孔膜を用いることにより、濁質成分として存在する、細胞及び細胞デブリなどに加え、非濁質成分として存在する、溶解した状態で培養液中に存在する不純物たんぱく質、HCP、DNA、ウィルスなどを除去し、なおかつバクテリアも除去して、不純物が除去されかつ無菌化した、清澄な目的たんぱく質の溶液を得ることができる。
細胞培養液から清澄な目的たんぱく質の溶液を得る目的のためには、アニオン交換基を有する中空糸多孔膜は、モジュールに内蔵されていることが好ましい。
【0042】
中空糸多孔膜モジュールは、多孔質中空糸の表面及び細孔の表面にアニオン交換基が化学的または物理的に固定された多孔質中空糸よりなる中空糸多孔膜を内蔵するモジュールである。該中空糸多孔膜モジュールを用いて、動物細胞培養液を透過させることにより、濁質成分として存在する、細胞及び細胞デブリなど、並びに、非濁質成分として存在する、溶存する不純物たんぱく質、HCP、DNA及びバクテリアなどを該培養液から除去することができる。濁質成分として該培養液中に存在する細胞及び細胞デブリなどはサイズが大きいので、多孔質中空糸の細孔を通過できないため、サイズろ過によって除去することができる。また、該培養液中に溶解して存在する不純物たんぱく質などは、多孔質中空糸の表面及び細孔の表面に固定されたアニオン交換基に吸着させることにより除去することができる。
【0043】
本実施の形態において、動物細胞培養液中に濁質成分及び非濁質成分などの不純物を除去するためには、加圧した培養液を多孔質中空糸の内側を通液して流し、多孔質中空糸の外側に透過させる、クロスフローによるろ過方法を用いることが好ましい。
多孔質中空糸の内側に培養液をクロスフローで通液させることにより、多孔質中空糸外側にろ液を透過させる際の、内側表面への濁質物質の堆積を抑制し、透過流速の大幅な低下を抑制することが可能となる。
クロスフローろ過においては、多孔質中空糸内を流れる際の液の線速度は0.05m/s〜5.0m/sであることが好ましく、より好ましくは0.1m/s〜2.0m/sである。
本実施の形態において、線速度とは、多孔質中空糸内断面を通過する液の速度であり、(1秒当りに多孔質中空糸内を流れる液の体積)/(多孔質中空糸の内断面積)で表される。
【0044】
多孔質中空糸内側から外側へのろ過液の透過圧力は0.01MPa〜0.5MPaが好ましく、より好ましくは0.05MPa〜0.2MPaである。
【0045】
本実施の形態において、動物細胞培養液から清澄な目的たんぱく質の溶液を短時間で得るためには、動物細胞培養液の除濁処理のみを行った後に、アニオン交換基を有する中空糸多孔膜を用いたろ過工程を行うことも好ましい方法として挙げられる。アニオン交換基を有する中空糸多孔膜によるろ過を行う前に、動物細胞培養液にあらかじめ除濁処理のみを行うことにより、ろ過工程において高い透過流速を得ることができ、中空糸多孔膜によるろ過工程を押し込みろ過により行うことができる。
アニオン交換基を有する中空糸多孔膜によるろ過が、残存した細胞デブリ、溶解した不純物たんぱく質、HCP、DNA、バクテリアなどの非濁質成分の除去のみとなるため、あらかじめ除濁処理を行うことが好ましい。
【0046】
動物細胞培養液の除濁処理は、遠心分離、珪藻土ろ過膜などのデプスフィルターによる押し込みろ過、精密ろ過膜によるクロスフローろ過による方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
除濁処理した処理液を直接、アニオン交換基を有する中空糸多孔膜を用いるろ過に送液することが可能であることから、精密ろ過膜によるクロスフローろ過が好ましく、精密ろ過中空糸膜モジュールによるクロスフローろ過がより好ましい。
【0047】
除濁処理のために用いる精密ろ過中空糸膜モジュールの多孔質中空糸の最大細孔径は0.1μm〜0.8μmであることが好ましく、より好ましくは0.2μm〜0.6μmである。
最大細孔径が小さいと十分な透過流速が得られず、最大細孔径が大きいと、後段の本実施の形態におけるアニオン交換基を有する多孔質中空糸よりなる中空糸膜モジュールへの押し込みろ過の際につまりが生じやすくなり、透過圧力が増大する。
【0048】
精密ろ過中空糸膜モジュールを用いて、クロスフローろ過により除濁処理を行う際には、多孔質中空糸内表面を流れる際の動物細胞培養液の線速度は0.05m/s〜5.0m/sであることが好ましく、より好ましくは0.1m/s〜2.0m/sである。
多孔質中空糸内側から外側へのろ過液の透過圧力は0.01MPa〜0.5MPaであることが好ましく、より好ましくは0.05MPa〜0.2MPaである。
【0049】
本実施の形態のたんぱく質の精製方法は、アフィニティークロマトグラフィーにより精製を行う工程を、さらに含むことが好ましい。
アフィニティークロマトグラフィーによる精製は、従来公知の方法により行うことができ、プロテインAアフィニティーカラムを用いて行うことができる。
このプロセスではまず、アニオン交換基を有する多孔膜を用いたろ過により得られる目的たんぱく質を含む清澄化された溶液を、プロテインAアフィニティーカラムに適用し、目的たんぱく質を選択的に吸着させる。
清澄化された溶液中に含まれる溶存不純物たんぱく質は、プロテインAアフィニティーカラムに吸着されることなく流出し除去される。次いで、清澄化された溶液と同じpHの緩衝液によりカラムを洗浄して、カラム内に残存した不純物を除き、その後、酸性の溶出液を用いて吸着された目的たんぱく質を溶出回収することにより、不純物たんぱく質の大部分がさらに除去された、精製された目的たんぱく質の溶液を得ることができる。
適用する目的たんぱく質を含有する溶液中に不純物たんぱく質が溶存していても、プロテインAアフィニティーカラムを用いることにより、目的たんぱく質を精製することが可能である。
アフィニティークロマトグラフィーにより精製を行う工程において、溶存する不純物たんぱく質が多いと、カラムからの回収液中に凝集した不純物が存在したり、またカラムに負荷がかかるためにカラムの寿命が低下したりする。該カラムを適用する前にアニオン交換基を有する中空糸多孔膜を用いて予め溶存する不純物たんぱく質を出来るだけ多く除去しておくことが好ましいため、本実施の形態において用いられる多孔膜を用いてろ過することは好適である。
【0050】
本実施の形態において用いられるアフィニティークロマトグラフィーカラムとしては、リガンドとして、プロテインA、ヘパリン、コンA、レッド(Procion Red HE−3B)、ブルー(Cibacron Blue 3GA)、リジン、アルギニン及びベンザミジンなどを有するカラムが挙げられるが、抗体が目的たんぱく質の場合には多くの場合、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムが用いられる。
【0051】
アニオン交換基を有する多孔膜を用いたろ過により得られる目的たんぱく質を含む清澄化された溶液を、アフィニティークロマトグラフィーカラムに適用し吸着させる方法は、平衡化後のカラムにポンプまたは静水圧を用いて、清澄化された溶液をカラムに供給するなどの方法により行うことができる。
【0052】
目的たんぱく質を吸着させたアフィニティークロマトグラフィーカラムの洗浄は、目的たんぱく質を含む清澄化された溶液のpHと同じpHの緩衝液を用いれば特に限定されないが、例えば、sodium−phosphateバッファーなどの緩衝液が挙げられる。
緩衝液による洗浄は、カラム体積の2〜10倍量程度の体積の緩衝液をカラムに通液することにより行うことができる。
【0053】
目的たんぱく質を吸着させたアフィニティークロマトグラフィーカラムからの目的たんぱく質の回収は、溶出バッファーとして酸性溶液の緩衝液を用いれば特に限定されないが、例えば、pH3〜4のCitrate−NaOHバッファーなどの酸性溶液が挙げられる。
酸性溶液による目的たんぱく質の回収は、カラム体積の2〜10倍量の溶出バッファーをカラムに通液することにより行うことができる。
【0054】
アニオン交換基を有する多孔膜を用いて、目的たんぱく質を含む動物細胞培養液のろ過を行って、清澄な目的たんぱく質の溶液を得、次いで、アフィニティークロマトグラフィーにより、清澄な目的たんぱく質の溶液の精製を行って、目的たんぱく質を回収することにより、従来、アフィニティークロマトグラフィーにおいて、酸性溶液によるたんぱく質の回収において発生する凝集不純物の生成を抑制することが可能となる。本実施の形態において用いられる多孔膜を用いて目的とするたんぱく質を含む混合液をろ過することにより、アフィニティーカラムへの負荷を低減することができるとともに、高度に精製された目的たんぱく質を回収することが可能となる。
【実施例】
【0055】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本実施の形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施の形態に用いられる評価方法及び測定方法は以下の通りである。
【0056】
(1)バブルポイント法
多孔質中空糸の最大細孔径を測定するために、バブルポイント法を用いた。長さ8cmの多孔質中空糸の片方の末端を閉塞し、もう片方の末端を、圧力計を介して窒素ガス供給ラインに接続した。接続した状態で窒素ガスを供給してライン内部を窒素に置換した後、多孔質中空糸をエタノールに浸漬した。この時、エタノールがライン内に逆流しないように極僅かに窒素で圧力をかけた状態で浸漬した。多孔質中空糸を浸漬した状態で、窒素ガスの圧力をゆっくり増やしていき、多孔質中空糸から窒素ガスの泡が安定して出始めた圧力(p)を記録した。
最大細孔径をd、エタノールと空気の界面の表面張力をγとして、下記式(I)により多孔質中空糸の最大細孔径を算出した。
d=Cγ/p ・・・(I)
ここで、Cは定数である。浸漬液がエタノールであるので、Cγ=0.632(kg/cm)であり、上式にp(kg/cm
2)を代入することにより、最大細孔径d(μm)を求めた。
【0057】
(2)バクテリアチャレンジテスト
実施例1、2及び6で作製したミニモジュールの滅菌性能を確認するためにバクテリアチャレンジテストを実施した。
最初に次亜塩素酸ナトリウム100ppm水溶液200mLをクロスフローの要領でモジュール内を通液しながら透過させて殺菌し、次いで超純水500mLを同様に通液しながら透過させて洗浄した。0.22μm孔径の指標菌としてPseudomonas dimunutaを用い、濃度10
6個/mLの指標菌含有水溶液200mLを同じくクロスフローの要領で通液しながら透過させた。透過液中に含まれるPseudomonas dimunutaの量を計測したところ、10個/100mL以下であり、このモジュールの0.22μm指標菌のLRV(対数減少値)は7以下であり、ほぼ完全な無菌化が可能であることを確認した。
【0058】
(3)目的たんぱく質を含む動物細胞培養液のモデル液の調整
塩濃度約0.9質量%(0.15M)、たんぱく質濃度約1g/L、細胞密度3.0×10
7/mLの、抗体たんぱく質を含まないCHO細胞無血清細胞培養液を用意し、ここに目的たんぱく質としてγ−グロブリン(SIGMA製)を1g/Lの濃度となるように添加して、目的たんぱく質を含む除濁されていない動物細胞培養液のモデル液を作製した。
このモデル液においては、γ−グロブリンが目的たんぱく質、濁質成分を含む細胞培養液由来の全てのたんぱく質が不純物たんぱく質である。
【0059】
(4)SDS−PAGEによるたんぱく質の分析
実施例1、2及び6で作製したミニモジュールを透過した培養液中のたんぱく質を分析するためにSDS−PAGEを用いた。分析に用いる透過液10μLを同量のサンプル処理液(第一化学薬品株式会社製、トリスSDSサンプル処理液またはトリスSDSβMEサンプル処理液)と混合し、100℃で5分間熱処理した。得られたサンプルを、マイクロピペットを用いて電気泳動用ゲルプレート(第一化学薬品株式会社製、マルチゲルIIミニ)に1ウェルにつき10μL適用し、泳動用バッファー(第一化学薬品株式会社製、SDS−トリス−グリシン泳動バッファーを10倍希釈して使用)を満たした電気泳動槽(和光純薬株式会社製、EasySeparator
TM)に挿入した。30mAの定電流で1時間泳動させて、透過液中のたんぱく質を分離した。泳動後のゲルプレートは染色試薬(フナコシ株式会社製、InstantBlue、または第一化学薬品株式会社製、2D−銀染色試薬−II)を用いて染色し、たんぱく質のバンドを確認した。
【0060】
(5)HCPの定量
不純物であるHCPの定量はCygnus Technologies製、CHO Host Cell Protein ELISA Kitの96ウェルプレートに評価する液をアプライし、GEヘルスケアバイオサイエンス製、Ultrospec Visible Plate Reader II96のプレートリーダーを用いて行った。
【0061】
(6)DNAの定量
不純物であるDNAの定量はinvitrogen製、Quant−iT
TM dsDNA HS Assay Kitを用いて評価する液を処理した後、Qubit
TMフルオロメーターを用いて行った。
【0062】
(7)プロテインAアフィニティーカラムによる目的たんぱく質の吸着回収
実施例1、2及び6で作製したミニモジュールを透過させて得られた清澄な培養液をサンプル液とし、そこから、プロテインAアフィニティーカラムにより目的たんぱく質を吸着回収する評価を行った。プロテインAアフィニティーカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス製、HiTrap Protein A HP 1mL)を市販のクロマトグラフィーシステム(GEヘルスケアバイオサイエンス製、AKTAexplorer100)に接続し通液した。カラム平衡化とサンプル適用後の洗浄に用いるバッファーは20mM sodium−phosphate(pH7.0)、吸着した目的たんぱく質の溶出バッファーは0.1M citric acid−NaOH(pH3.0)を使用した。吸着評価においては、1)平衡化のためにバッファー10mLをカラムに通液する、2)目的たんぱく質を含む清澄液をカラムに通液し、目的たんぱく質を吸着させる、3)バッファー10mLを通液してカラム内の不純物たんぱく質を洗浄する、4)溶出バッファー10mLを通液して吸着した目的たんぱく質を溶出回収する、5)バッファー10mLを通液してカラムを再洗浄する、という5段階の工程を1サイクルとして実施して目的たんぱく質の吸着量を評価した。このとき、全工程において流速は1.0mL/minで通液した。目的たんぱく質の吸着回収の繰り返し評価においてはこのサイクルを連続して行った。また吸着量は、回収液を10倍希釈して280nmの紫外線吸光度を測定し、予め既知の濃度での紫外線吸光度測定により得られた検量線から求めた。
【0063】
(8)除濁用精密ろ過中空糸膜モジュール
外径2.0mm、内径1.4mm、最大細孔径0.4μmのポリスルホン酸精密ろ過中空糸11本を束ね、該中空糸中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で量末端をポリカーボネート製モジュールケースに固定して、除濁のためのミニモジュールを作製した。得られたミニモジュールの内径は0.9cm、長さは約8cm、モジュール内の該中空糸内面の有効膜面積は39cm
2であった。
【0064】
(9)動的吸着容量の測定
20mmol/LのTris−HCl(pH8.0)緩衝液に1g/Lの濃度でBSAを溶解したBSA溶液を用い、破過が開始するまで評価モジュールにBSA溶液を透過させた。ここで、BSA溶液の濃度Q、評価モジュールが破過した時までに透過させたBSA溶液の体積V
B、及び評価モジュール内の実施例に係るイオン交換膜V
Mの体積から、下記式(II)に基づいて動的吸着容量Aを算出した。
A=Q×V
B/V
M ・・・(II)
イオン交換膜の体積とは、中空部分を除いた体積である。また破過とは、透過液中のBSA濃度が、供給されたBSA溶液の濃度の10%である0.1g/Lを超えた時点のことをいう。また、溶液は評価モジュール内の中空状のイオン交換膜の内側から外側に向かって通液した。この方法によって測定した、実施例1、2及び6で作製したアニオン交換膜の動的吸着容量は、それぞれ70mg/mL、35mg/mL及び75mg/mLであった。
【0065】
[実施例1]
(i)中空糸多孔膜へのグラフト鎖の導入
外径3.0mm、内径2.0mm、上記(1)に記載のバブルポイント法で測定した最大細孔径が0.3μmのポリエチレン多孔質中空糸を密閉容器に入れて、容器内の空気を窒素で置換した。その後、容器の外側からドライアイスで冷却しながら、γ線200kGyを照射し、ラジカルを発生させた。得られたラジカルを有するポリエチレン多孔質中空糸をガラス反応管に入れて、200Pa以下に減圧することにより、反応管内の酸素を除いた。ここに40℃に調整したグリシジルメタクリレート(GMA)3体積部、メタノール97体積部よりなる反応液を、中空糸の20質量部注入した後、12分間密閉状態で静置してグラフト重合反応を施し、多孔質中空糸にグラフト鎖を導入した。
混合溶液は予め窒素でバブリングして、混合溶液内の酸素を窒素置換した。
グラフト重合反応後、反応管内の反応液を捨てた。次いで、反応管内にジメチルスルホキシドを入れて中空糸を洗浄することにより、残存したグリシジルメタクリレート、そのオリゴマー及び中空糸多孔膜に固定されなかったグラフト鎖を除去した。
洗浄液を捨てた後、さらにジメチルスルホキシドを入れて2回洗浄を行った。メタノールを用いて同様にして洗浄を3回行った。洗浄後の中空糸を乾燥し、重量を測定したところ、中空糸多孔膜の重量はグラフト鎖導入前の138%であり、基材重量に対するグラフト鎖の重量の比として定義されるグラフト率は38%であった。
下記式(III)によって算出される、基材ポリエチレンの骨格単位であるCH
2基(分子量14)のモル数に対する導入されたGMA(分子量142)のモル数が3.75%であることに相当する。
導入GMAのモル数%=(グラフト率/142)/(100/14)×100
・・・(III)
【0066】
固体NMR法により、グラフト反応後の中空糸多孔膜中のポリエチレン骨格単位CH
2基のモル数と、グラフト鎖を構成するGMAに特有なエステル基(COO基)のモル数の比を測定した。
測定はグラフト反応後の中空糸を凍結粉砕した粉末サンプル0.5gを用いて、Bruker Biospin社製DSX400を使用し、核種を
13Cとして、High Power Decoupling法(HPDEC法)の定量モードにより、待ち時間100s、積算1000回の条件で、室温下で測定を行った。
得られたNMRスペクトルのエステル基に対応するピーク面積と、CH
2基に対応するピーク面積との比が、GMAとCH
2基のモル数の比に対応することから、測定結果よりCH
2基のモル数に対する導入されたGMAのモル数を算出したところ、3.8%と得られた。これはグラフト率38.5%に相当し、グラフト反応後のサンプルを固体NMR法で測定することにより、グラフト率が得られることが示された。
【0067】
(ii)アニオン交換基(3級アミノ基)のグラフト鎖への固定
乾燥したグラフト鎖を導入した中空糸をメタノールに10分以上浸漬して膨潤させた後、純水に浸漬して水置換した。ジエチルアミン50体積部、純水50体積部の混合溶液よりなる反応液を、ガラス反応管にグラフト反応後の中空糸20質量部を入れ、30℃に調整した。ここにグラフト鎖を導入した多孔質中空糸を挿入し、210分間静置して、グラフト鎖のエポキシ基をジエチルアミノ基に置換することにより、アニオン交換基としてジエチルアミノ基を有する中空糸多孔膜を得た。
得られた中空糸多孔膜は外径3.3mm、内径2.1mmであり、中空糸多孔膜においてグラフト鎖の有するエポキシ基の80%がジエチルアミノ基によって置換されていた。
置換率Tはエポキシ基のモル数N
2のうち、ジエチルアミノ基に置換されたモル数N
1として下記式(IV)で算出した。
T=100×N
1/N
2
=100×{(w
2−w
1)/M
1}/{w
1(dg/(dg+100))/M
2}
・・・(IV)
M
1はジエチルアンモニウムの分子量(73.14)、w
1はグラフト重合反応後の多孔質中空糸膜の重量、w
2はジエチルアミノ基置換反応後の多孔質中空糸膜の重量、dgはグラフト率、M
2はGMAの分子量(142)である。
【0068】
固体NMR法により上記した方法と同様にして、ジエチルアミノ基を導入した中空糸多孔膜中の、ポリエチレン骨格単位CH
2基のモル数に対する、GMAに特有なエステル基のモル数の比を測定したところ3.75%という結果が得られた。これはグラフト率38%に対応し、この結果よりジエチルアミノ基の導入によるグラフト率の変化はないことが確認された。
【0069】
(iii)アニオン交換膜モジュールの作製
アニオン交換基としてジエチルアミノ基を有する多孔質中空糸3本を束ね、多孔質中空糸の中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で量末端をポリスルホン酸製モジュールケースに固定して、アニオン交換膜の中空糸モジュールを作製した。
得られたモジュールの内径は0.9cm、長さは約3.3cm、モジュールの内容積は約2mL、モジュール内に占める多孔質中空糸の有効体積は0.85mL、中空部分を除いた中空糸多孔膜のみの体積は0.54mLであった。
【0070】
[実施例2]
(iv)アニオン交換基(4級アミノ基)のグラフト鎖への固定
実施例1と同様に、乾燥したグラフト鎖を導入した中空糸をメタノールに10分以上浸漬して膨潤させた後、純水に浸漬して水置換した。純水50体積部とジメチルスルホキシド50体積部よりなる混合溶液を用意し、この溶液中に濃度が0.5Mとなるようにトリメチルアンモニウムクロリドを添加、混合して、均一な反応液を得た。ガラス反応管にこの反応液を、グラフト反応後の中空糸の20質量部に入れ、60℃に調整した。その後、ここにグラフト鎖を導入した多孔質中空糸を挿入し、200分間静置することにより、グラフト鎖のエポキシ基をトリメチルアミノ基に置換して、アニオン交換基としてトリメチルアミノ基を有する中空糸多孔膜を得た。
得られた中空糸多孔膜は外径3.2mm、内径2.1mmであり、中空糸多孔膜においてグラフト鎖の有するエポキシ基の80%がトリメチルアミノ基によって置換されていた。置換率の算出は上記式(IV)においてM
1にトリメチルアンモニウムクロリドの分子量95.57を代入して、ジエチルアミノ基と同様に行った。
【0071】
(v)アニオン交換膜モジュールの作製
アニオン交換基としてトリメチルアミノ基を有する多孔質中空糸膜モジュールも実施例1と同様にして作成し、多孔質中空糸の有効体積0.75mL、中空部分を除いた中空糸多孔膜のみの体積0.46mLのモジュールを得た。
【0072】
[実施例3]
20mM Tris−HCl(pH8.0)に0.17Mの濃度となるようにNaClを添加し、金属塩を含む緩衝液を作成した。この緩衝液にBSA(pI5.6)及びγ−グロブリン(pI6−7)をそれぞれ1g/Lの濃度で溶解して、たんぱく質混合溶液を作成した。実施例1で作製したジエチルアミノ基を有するアニオン交換膜モジュールにこのたんぱく質混合溶液を2mL/minの流速で通液し、透過液を5mLずつのフラクションとして採取した。モジュールを透過したフラクション中のたんぱく質を分析するためにSDS−PAGEを用いた。分析に用いる透過液10μLを同量のサンプル処理液(第一化学薬品株式会社製、トリスSDSサンプル処理液)と混合し、100℃で5分間熱処理した。得られたサンプルを、マイクロピペットを用いて電気泳動用ゲルプレート(第一化学薬品株式会社製、マルチゲルIIミニ)に1ウェルにつき10μLを適用し、泳動用バッファー(第一化学薬品株式会社製、SDS−トリス−グリシン泳動バッファーを10倍希釈して使用)を満たした電気泳動槽(和光純薬株式会社製、EasySeparator
TM)に挿入して、30mAの定電流で1時間泳動させることにより、透過液中のたんぱく質を分離した。泳動後のゲルプレートは染色試薬(フナコシ株式会社製、InstantBlue)を用いて染色した。
図1に得られた結果を示す。レーン1はBSA、レーン2はγ−グロブリンのみ、レーン3はBSAとγ−グロブリンの混合液、レーン5から12は透過液のフラクション、レーン13は吸着物の溶出液である。20mLまでの透過液(レーン5から8まで)にはほぼγ−グロブリンのみが存在し、BSAは全て吸着されていた。また、吸着後、1M NaClをバッファーに溶解した塩溶液で溶出した。溶出液中(レーン13)にはBSAのみが存在しており、モジュールにはBSAのみが選択的に吸着し、γ−グロブリンは非吸着であった。
図1に示された結果から、本実施の形態の方法は、塩を含む溶液からの目的たんぱく質の分離に有効であることが分かった。
【0073】
[実施例4]
目的タンパク質としてγ−グロブリンを0.5g/Lを含むCHO無血清細胞培養液を、精密ろ過中空糸膜モジュールを用いてデッドエンドろ過し、除濁した上清を得た。実施例1で作製したジエチルアミノ基を有するアニオン交換膜モジュールにこの上清液54mL(中空糸膜体積の100倍相当)を2mL/minの流速で通液し、全ての透過液を採取した。モジュールを透過したフラクション中のたんぱく質を評価するためにSDS−PAGEを用いた。分析に用いる透過液10μLを同量のサンプル処理液(第一化学薬品株式会社製、トリスSDSβMEサンプル処理液)と混合し、100℃で5分間還元熱処理した。得られたサンプルを、マイクロピペットを用いて電気泳動用ゲルプレート(第一化学薬品株式会社製、マルチゲルIIミニ)に1ウェルにつき10μLを適用し、泳動用バッファー(第一化学薬品株式会社製、SDS−トリス−グリシン泳動バッファーを10倍希釈して使用)を満たした電気泳動槽(和光純薬株式会社製、EasySeparator
TM)に挿入した。30mAの定電流で1時間泳動させることにより、透過液中のたんぱく質を分離した。
泳動後のゲルプレートは染色試薬(第一化学薬品株式会社製、2D−銀染色試薬−II)を用いて染色した。
図2に得られた結果を示す。レーン2はγ−グロブリンのみ、レーン3はCHO無血清細胞培養上清のみ、レーン4及びレーン9はγ−グロブリンを含むCHO無血清細胞培養上清、レーン10はこの評価での透過液である。アニオン交換膜モジュールを透過させることにより、塩を含む細胞培養液中の多くの不純物が除去され、精製された目的タンパク質が得られることが示された。また、代表的な不純物であるHCP及びDNAの濃度は、アニオン交換膜モジュール透過前の細胞培養上清中にはそれぞれ、346μg/mL及び7200ng/mLであったものが、透過液中ではそれぞれ39μg/mL及び52ng/mLと大幅に減少しており、これら溶存して存在する不純物タンパク質の除去性に優れていることが分かった。
【0074】
[実施例5]
実施例2で作製したトリメチルアミノ基を有するアニオン交換膜モジュールを用いて、実施例4と同様にして、目的タンパク質としてγ−グロブリンを0.5g/L含む、同じCHO無血清細胞培養の上清液を膜体積の100倍相当の46mLを通液して不純物除去を行った。実施例4と同様にしてSDS−PAGEによる評価を行った。結果は
図2に実施例4と同様に示す。レーン12がこの評価での透過液である。アニオン交換膜モジュールを透過させることにより、塩を含む細胞培養液中の多くの不純物が除去され、精製された目的タンパク質が得られることが示された。また、代表的な不純物であるHCP及びDNAの濃度は、アニオン交換膜モジュール透過前の細胞培養上清中にはそれぞれ、346μg/mL及び7200ng/mLであったものが、透過液中ではそれぞれ73.8μg/mL及び32.8ng/mLと大幅に減少しており、これら溶存して存在する不純物タンパク質の除去性に優れていることが分かった。
【0075】
[
参考例6]
実施例1において、反応液の組成がグリシジル酸メタクリレート10体積部、メタノール90体積部である以外は、実施例1と同様にグラフト鎖の導入並びにジエチルアミノ基のグラフト鎖への固定を行って、アニオン交換基としてジエチルアミノ基を有するグラフト率が140%の中空糸多孔膜を得た。また(IV)式を用いて算出した結果、グラフト鎖の有するエポキシ基の93%がジエチルアミノ基によって置換されていた。得られた中空糸多孔膜は外径4.0mm、内径2.5mmであり、この中空糸多孔膜を用いて、実施例1と同様にして、多孔質中空糸の有効体積1.53mL、中空部分を除いた中空糸多孔膜のみの体積0.92mLの中空糸モジュールを作製した。
図2のレーン11は、該中空糸モジュールを用いて実施例4と同様に行った結果を示す。該モジュールを透過させることにより、塩を含む細胞培養液中の多くの不純物が除去され、精製された目的タンパク質が得られることが示された。また、代表的な不純物であるHCP及びDNAの濃度は、アニオン交換膜モジュール透過前の細胞培養上清中にはそれぞれ、346μg/mL及び7200ng/mLであったものが、透過液中ではそれぞれ42.6μg/mL及び32.8ng/mLと大幅に減少しており、これら溶存して存在する不純物タンパク質の除去性に優れていることが分かった。
【0076】
[比較例1]
市販のアニオン交換基を有する膜として、ザルトリウス製SartobindQ MA75(膜体積2.06mL)、ポール製MustangQ Acrodisc(膜体積0.18mL)及びキュノ製BioCap25Filter 90ZA(膜体積5mL以上)の3種類を用い、実施例4と同様にして、目的タンパク質としてγ−グロブリンを0.5g/L含むCHO無血清細胞培養の上清液を、それぞれの膜体積の100倍相当の体積分通液して不純物除去を行った。実施例4と同様にしてSDS−PAGEによる評価を行った。結果は
図2に実施例4と同様に示す。レーン6がSartobindQ MA75、レーン7がMustangQ Acrodisc、レーン8がBioCap25Filter 90ZAの透過液であった。これより市販のアニオン交換基を有する膜を用いても、塩を含む細胞培養液からの不純物除去は有効になされないことが示された。アニオン交換膜モジュール透過前の細胞培養上清中のHCP及びDNAの濃度はそれぞれ、346μg/mL及び7200ng/mLであったが、透過後の液中にはそれぞれ、SartobindQ MA75で269μg/mL及び492ng/mL、MustangQ Acrodiscで248μg/mL及び3916ng/mL、BioCap25Filter 90ZAで310μg/mL及び7600ng/mLであり、本実施の形態の方法に比べて不純物の除去性が低いことが分かった。
【0077】
[実施例7]
DEAアニオン交換膜透過液のProteinA精製
溶存する不純物が除去された細胞培養液として、実施例4で得られたジエチルアミノ基を有する中空糸膜モジュールの透過液を用いて、プロテインAアフィニティーカラムでの吸着回収によるγ−グロブリンの精製を行った。上記(7)の方法に従い、プロテインAアフィニティーカラムに、実施例4の透過液30mLを通液してγ−グロブリンを吸着させ、溶出バッファーにより精製回収した。回収液を10倍希釈して紫外線吸収強度を測定し、回収量を評価したところ、14.2mgのγ−グロブリンが回収液中に含まれ、回収率は95%であった。また、回収液中に含まれるHCP及びDNAの濃度はそれぞれ、0.162μg/mL及び11.8ng/mLであり、本実施の形態の方法による高い回収率と不純物除去性が示された。
【0078】
[実施例8]
TMAアニオン交換膜透過液のProteinA精製
溶存する不純物が除去された細胞培養液として、実施例5で得られたトリメチルアミノ基を有する中空糸膜モジュールの透過液を用いて、実施例7と同様にしてプロテインAアフィニティーカラムでの吸着回収によるγ−グロブリンの精製を行った。上記(7)の方法に従い、プロテインAアフィニティーカラムに、実施例5の透過液30mLを通液してγ−グロブリンを吸着させ、溶出バッファーにより精製回収した。回収液を10倍希釈して紫外線吸収強度を測定し、回収量を評価したところ、13.8mgのγ−グロブリンが回収液中に含まれ、回収率は92%であった。また、回収液中に含まれるHCP及びDNAの濃度はそれぞれ、0.289μg/mL及び19.1ng/mLであり、本実施の形態の方法による高い回収率と不純物除去性が示された。
【0079】
[
参考例9]
DEAアニオン交換膜透過液のProteinA精製(2)
溶存する不純物が除去された細胞培養液として、
参考例6で得られたジエチルアミノ基を有する中空糸膜モジュールの透過液を用いて、プロテインAアフィニティーカラムでの吸着回収によるγ−グロブリンの精製を行った。上記(7)の方法に従い、プロテインAアフィニティーカラムに、
参考例6の透過液30mLを通液してγ−グロブリンを吸着させ、溶出バッファーにより精製回収した。回収液を10倍希釈して紫外線吸収強度を測定し、回収量を評価したところ、13.9mgのγ−グロブリンが回収液中に含まれ、回収率は93%であった。また、回収液中に含まれるHCP及びDNAの濃度はそれぞれ、0.186μg/mL及び13.8ng/mLであり、本実施の形態の方法による高い回収率と不純物除去性が示された。
【0080】
[比較例2]
溶存する不純物が除去されていない細胞培養液として、実施例4における精密ろ過膜で除濁のみを施した0.5mg/mLのγ−グロブリンを含む細胞培養液を用いて、実施例7と同様にして精製評価を行った。プロテインAアフィニティーカラムの回収液を10倍希釈して紫外線吸収強度を測定し、回収量を評価したところ、14.5mgのγ−グロブリンが回収液中に含まれ、回収率は97%であった。また、回収液中に含まれるHCP及びDNAの濃度はそれぞれ、2.93μg/mL及び63.2ng/mLであり、目的たんぱく質の回収率は高いものの本実施の形態のアニオン交換基を有する中空糸膜モジュールによる不純物除去を実施していない場合に比べて多くの不純物が回収液中に含まれていた。
【0081】
[比較例3]
比較例1で得られた市販のアニオン交換膜の透過液を用いて、実施例7と同様にしてプロテインAアフィニティーカラムでの吸着回収によるγ−グロブリンの精製を行った。プロテインAアフィニティーカラムの回収液を10倍希釈して紫外線吸収強度を測定し、それぞれのアニオン交換膜の透過液による回収率を評価したところ、SartobindQ MA75は97%、MustangQ Acrodiscは93%、BioCap25Filter 90ZAは95%いずれも高い回収率であった。また回収液中のHCP及びDNAの濃度はそれぞれ、SartobindQ MA75が3.83μg/mL及び32.6ng/mL、MustangQ Acrodiscが2.54μg/mL及び46ng/mL、BioCap25Filter 90ZAで3.27μg/mL及び88.2ng/mLであり、本実施の形態の方法に比べて不純物の除去性が低く、比較例2のアニオン交換膜による透過処理を行わない場合とほぼ同様の精製度しか得られなかった。
実施例4−9及び比較例1−3に示されたHCP及びDNAの濃度を表1に示す。表1の結果から、実施例4−9では、高い不純物除去性が得られることが示された。
【0082】
【表1】
【0083】
[実施例10]
図3に示すクロスフローろ過評価装置を組み、上記(3)で調整した目的たんぱく質を含む細胞培養液300mLを細胞培養液タンク1に入れ、そこからペリスターポンプ2を使って、実施例1で作製したジエチルアミノ基をアニオン交換基として有する中空糸多孔膜を内蔵する中空糸膜モジュール(以下、アニオン交換中空糸膜モジュール)4に、線速度0.5m/sで培養液を通液し、クロスフローろ過させた。ここで透過液は多孔質中空糸内側から外側に向かって移動する、内圧式のろ過を採用した。透過圧力は圧力計(モジュール入側)3と圧力計(モジュール出側)5との平均が0.1MPaとなるように、流量調節コック6で調整し、モジュールを透過した液を30mLずつ210mLまで採取し、最後に40mLを採取して、全透過液量が250mLとなるまでクロスフローろ過を行った。この間の平均透過流速は21L/m
2/hr(21LMH)であった。また、採取した全ての透過液は目視観察で清澄であった。
上記(4)に記載した方法にしたがって行った、透過液及び溶出液のSDS−PAGEの結果を
図4に示す。全ての採取した透過液について透過液中には原液と同じ濃度の目的たんぱく質が素通りしており、また明らかに不純物たんぱく質がアニオン交換中空糸膜モジュールに吸着されていることが示された。クロスフローろ過評価後のアニオン交換中空糸膜モジュールを20mM Tris−HCl(pH8.0)のバッファーを用いて逆洗洗浄し、多孔質中空糸内側の堆積した濁質成分を除去した後、吸着した成分を1MのNaClを含有するバッファー溶液で溶出し、それをSDS−PAGEで分析した。アニオン交換中空糸膜モジュールには大量の不純物たんぱく質が吸着されているが、目的たんぱく質はこのモジュールには吸着されていないことが示された。
透過により得られた清澄な培養液をすべて同一の容器に入れて均一な溶液とし、これを未使用のプロテインAアフィニティーカラムに通液して、上記(7)に記載した方法にしたがって、目的たんぱく質のプロテインAアフィニティーカラムへの吸着量を評価した。ここでカラムに透過させる培養液は10mLとした。評価においてはカラムを交換せずに上記(7)に記載した吸着評価のサイクルを10回繰り返し実施し、吸着量の変化を測定したところ、1回目の吸着量は9.8mg、10回目の吸着量は9.8mgであり、10回の繰り返しで吸着量の減少は見られなかった。また、溶出液を目視観察したところ、全ての評価において溶出液は澄明であり、何らの凝集物も確認されなかった。評価終了後、プロテインAアフィニティーカラムを分解し、内部のビーズを光学顕微鏡観察したところ、ビーズには何らの不純物の付着も観察されなかった。これによりアニオン交換中空糸膜モジュールを用いて、細胞培養液からの除濁と溶存する不純物たんぱく質の除去を同時に行うことができ、その結果プロテインAアフィニティーカラムへの負荷を大きく低減させることができることが確認された。
【0084】
[比較例4]
内径3.0mm、外径2.0mm、最大細孔径0.2μmのアニオン交換基を付与していないポリエチレン多孔質中空糸を用いて、実施例1に記載のアニオン交換中空糸膜モジュールと同じ方法でミニモジュールを作製した。このミニモジュールを用いて、実施例3と同様の方法で目的たんぱく質を含む細胞培養液の透過液を採取した。得られた透過液は目視観察で清澄であったが、上記(4)に記載の方法にしたがってSDS−PAGEにより分析したところ、実施例10の透過液に比べて極めて多量の不純物たんぱく質が溶存していることが確認された。さらに、この評価後のこのミニモジュールを実施例10と同様にバッファーにより逆洗洗浄した後、1M NaClバッファー溶液で溶出したところ、このミニモジュールには、不純物たんぱく質、目的たんぱく質ともに吸着されていないことが示された。
実施例10と同様に、透過により得られた清澄な培養液を未使用のプロテインAアフィニティーカラムに通液し、目的たんぱく質の吸着量を評価した。評価はカラムを交換せずに10回繰り返し実施し、吸着量の変化を測定したところ、1回目の吸着量は9.8mgであったが、繰り返し回数の増加と共に吸着量は低下し、10回の吸着量は9.4mgとなった。また、溶出液を目視観察したところ、僅かではあるが凝集物による白濁が確認された。評価終了後、プロテインAアフィニティーカラムを分解し、内部のビーズを光学顕微鏡観察したところ、ビーズ間に凝集した不純物が付着していることが観察された。これにより溶存する不純物たんぱく質の除去がプロテインAアフィニティーカラムへの負荷低減のために重要であることが示され、アニオン交換基を有する中空糸多孔膜の効果が実証された。
【0085】
[実施例11]
図5に示すクロスフローろ過評価装置を組み、上記(3)で調整した目的たんぱく質を含む細胞培養液300mLを細胞培養液タンク1に入れ、そこからぺリスターポンプ2を使って、上記(8)に記載の除濁用精密ろ過中空糸膜モジュール7に、線速度0.5m/sで培養液をクロスフローで通液しろ過した。透過圧力は圧力計(モジュール入側)3と圧力計(モジュール出側)5との平均が0.1MPaとなるように、流量調節コック6で調整した。除濁のための精密ろ過中空糸膜モジュール7を透過した液を直接、実施例10と同様のアニオン交換中空糸膜モジュール4に送液し、押し込みろ過によって得られる透過液を30mLずつ採取した。全透過液量が250mLとなるまで要した時間は160分であり、この平均透過流速は120L/m
2/hr(120LMH)であった。また、採取した全ての透過液は目視観察で清澄であった。
上記(4)に記載の方法にしたがって採取した透過液をSDS−PAGEにより分析したところ、全ての採取した透過液について透過液中には原液と同じ濃度の目的たんぱく質が素通りしており、また明らかに不純物たんぱく質がアニオン交換中空糸膜モジュールに吸着されていることが示された。
【0086】
[実施例12]
上記(8)に記載の精密ろ過中空糸膜モジュールを用いて、上記(3)で調整した目的たんぱく質を含む動物細胞培養液をろ過し、300mLの除濁された清澄な液を得た。
図3の評価装置において、流量調整コック6を完全に閉鎖した後に、この得られた清澄液を
図3の細胞培養液タンク1に入れ、そこからペリスターポンプ2を使って、実施例10と同様のアニオン交換中空糸膜モジュール4に、送液速度10mL/minで送液し、押し込みろ過によって得られる透過液を30mLずつ採取した。全透過液量が250mLとなるまで要した時間は25分であり、この平均透過流速は816L/m
2/hr(816LMH)であった。また、採取した全ての透過液は目視観察で清澄であった。これにより溶存する不純物たんぱく質を含む培養液であっても、アニオン交換中空糸膜モジュールを用いたろ過を行う前に、精密ろ過を行うことにより極めて早い処理速度で不純物たんぱく質の除去が可能であることが確認された。
上記(4)に記載の方法にしたがって、採取した透過液をSDS−PAGEにより分析したところ、全ての採取した透過液について透過液中には原液と同じ濃度の目的たんぱく質が素通りしており、また明らかに不純物たんぱく質がアニオン交換膜中空糸に吸着されていることが示された。
【0087】
以上のとおり、実施例1、2及び6で作製したアニオン交換基を有する中空糸多孔膜を内蔵するアニオン交換中空糸膜モジュールを用いてろ過を行った実施例3−12においては、アニオン交換基を付与していないポリエチレン中空糸膜モジュールを用いた比較例1、3及び4、また、アニオン交換中空糸膜モジュールを用いない比較例2と比較して、溶存する不純物たんぱく質を顕著に除去することができ、また、アフィニティークロマトグラフィーによる精製を行った際に、より純度の高い目的たんぱく質の溶液を得ることができた。特に、実施例10では、該ろ過を行って得られた溶液をプロテインAアフィニティーカラムに繰り返し供しても、該カラムの精製能力を低減させることがなく、また、該カラム内への不純物の付着を防止するとともに、該カラムへの負荷が十分に軽減されるものであった。
さらに、アニオン交換中空糸膜モジュールを用いたろ過を行う前に、精密ろ過中空糸膜モジュールを用いてろ過を行うことにより、アニオン交換中空糸膜モジュールを用いたろ過を行う工程において、極めて早い処理速度で該ろ過工程を行うことができた。また、アニオン交換中空糸膜モジュールを用いたろ過を押し込みろ過によって行っても、溶存する不純物たんぱく質を顕著に除去することができるものであった。
【0088】
本出願は、2007年10月26日出願の日本特許出願(特願2007−279406号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本実施の形態のたんぱく質の精製方法を用いることにより、通常では、遠心分離、精密ろ過、無菌化ろ過の3工程によって行っている、アフィニティークロマトグラフィー工程以前の細胞培養液の清澄化を、1工程のアニオン交換基を有する中空糸多孔膜でのろ過により完了することが可能となる。この結果、工程を簡便化し、必要な設備を縮小することによりコストの削減が可能となる。また、アフィニティークロマトグラフィー工程での負荷を大幅に低減し、目的とするたんぱく質をより高度に精製すると共に、精製の低コスト化を実現できる。