特許第5778415号(P5778415)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778415
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】Al−Mg−Si系アルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20150827BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20150827BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20150827BHJP
   C22F 1/043 20060101ALN20150827BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150827BHJP
【FI】
   C22C21/02
   C22C21/06
   !C22F1/047
   !C22F1/043
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 630B
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 630G
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 631Z
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 692Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-284001(P2010-284001)
(22)【出願日】2010年12月21日
(65)【公開番号】特開2011-149096(P2011-149096A)
(43)【公開日】2011年8月4日
【審査請求日】2013年7月29日
(31)【優先権主張番号】特願2009-293115(P2009-293115)
(32)【優先日】2009年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175560
【氏名又は名称】三協立山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136331
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 陽一
(72)【発明者】
【氏名】土肥 正芳
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 亨
(72)【発明者】
【氏名】石本 一郎
(72)【発明者】
【氏名】高木 英俊
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−149628(JP,A)
【文献】 特開平10−280079(JP,A)
【文献】 特開平04−311545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/02
C22C 21/06
C22F 1/00
C22F 1/043
C22F 1/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを0.40〜1.60wt%、Mgを0.4〜1.2wt%、Znを0.05〜0.24wt%Niを0.05〜0.25wt%、Feを0.40wt%以下、Cuを1.00wt%以下、Tiを0.10wt%以下、Mnを1.00wt%以下及びCrを0.30wt%以下添加してあり、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金。
【請求項2】
Vを0.05〜0.25wt%添加したことを特徴とする請求項1記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から、自動車の軽量化による走行性能の向上、燃費改善を目的に、自動車部品のアルミ化が拡大している。例えばサスペンション部材は、バネ下重量の軽減による軽量化効果が大きく、格好のアルミ化アイテムである。これらの部品は優れた耐食性と強度が要求されるとともに、複雑な形状設計を可能にするため高い加工性が求められ、アルミニウム合金材料の中ではAl−Mg−Si系アルミニウム合金(いわゆる6000系合金)、特に6061が多用される。このような自動車部品は、強度の向上と品質の安定化を図るため、押出や鍛造による塑性加工で製造される。
最近では、更なる軽量化が求められてきており、部品の高強度化ニーズが高まっている。サスペンション部材においては、大容量の衝撃でも破壊しないことが必須であるため、部品性能として高強度と共に優れた延性が要求される。これに対し、汎用の6061は加工性は良好であるものの、強度改善に限界があることや、塑性加工に伴い再結晶粒が粗大化しやすく、加工製品の外観、内部品質に悪影響を及ぼすケースが問題視されていた。
一方、合金成分を高濃度化することで高強度化を図る手段もあるが、延性の低下を回避できず、加工条件によっては再結晶粒が6061以上に粗大化するなど課題も多い。また、低Z鍛造、予備ひずみ加工に代表されるように、ひずみ量と加工温度を調整することで強制的に結晶粒を微細化し、高強度化を図る手段もあるが、製造条件の幅が狭い、製品形状に自由度がない、工程数の増加によるコストアップを招くなど、製造上の課題があった。
【0003】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金の強度向上等を目的として、特許文献1,2には、Zn及びVを添加することが記載されており、また特許文献3には、Ni及びVを添加することが記載されている。しかしこれらの合金は、高強度、高延性、再結晶粒の粗大化抑制の全てを満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−310841号公報
【特許文献2】特開平10−219381号公報
【特許文献3】特開平6−33178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上に述べた実情に鑑み、強度と延性に優れ尚且つ最終製品の靭性、耐食性等に有害な再結晶粒の粗大化を抑制できるAl−Mg−Si系アルミニウム合金の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために請求項1記載の発明によるAl−Mg−Si系アルミニウム合金は、Siを0.40〜1.60wt%、Mgを0.4〜1.2wt%、Znを0.05〜0.24wt%Niを0.05〜0.25wt%、Feを0.40wt%以下、Cuを1.00wt%以下、Tiを0.10wt%以下、Mnを1.00wt%以下及びCrを0.30wt%以下添加してあり、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明によるAl−Mg−Si系アルミニウム合金は、請求項1記載の発明の構成に加え、Vを0.05〜0.25wt%添加したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金にZnを0.05〜0.24wt%添加すると、強度向上と再結晶粒の粗大化を抑制する効果があり、Niを0.05〜0.25wt%添加すると、延性向上と再結晶粒の粗大化を抑制する効果があり、よってZnとNiを複合添加した請求項1記載の発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金は、高強度と高延性を併せ持ち、尚且つ再結晶粒の粗大化を抑制できるものとなる。
【0009】
請求項2記載の発明によるAl−Mg−Si系アルミニウム合金は、さらにVを0.05〜0.25wt%添加したことで、再結晶粒の粗大化を抑制する効果をより一層高められる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は実施例1-2の断面マクロ組織を示し、(b)は比較例1-2の断面マクロ組織を示している。
図2】本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金の評価結果を示す表である。
図3】評価方法を示す説明図である。
図4】ビレットから押出製品ならびに鍛造製品を製造する一般的な工程を示す説明図である。
図5】Ni,Zn,Vをそれぞれ単独で添加量を変えながら添加し、引張特性と鍛造材組織の評価を行った結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金は、Znを0.05〜0.24wt%、Niを0.05〜0.25wt%それぞれ添加することを必須要件とする。また、ZnとNiに加えVを0.05〜0.25wt%添加する場合もある。さらに、Si,Fe,Cu,Ti,Mn,Mg,Cr等が適宜添加される。以下、各添加元素の作用等について説明する。
【0012】
(Zn:0.05〜0.24wt%)
Znは、強度向上と再結晶粒の粗大化抑制に寄与する元素である。Znを添加することで強度が向上するのは、MgZnという析出物が生じるためと考えられる。Znが0.05wt%より少ないと十分な析出効果が得られず、また0.24wt%より多いとMgの欠乏で強度が低減すると共に再結晶粒が粗大化するため、その範囲を0.05〜0.24wt%とした。
【0013】
(Ni:0.05〜0.25wt%)
Niは、延性向上と再結晶粒の粗大化抑制に寄与する元素である。しかしNiを増量するに従い、変形抵抗が上昇して加工時に大きな荷重が必要になり、また変形能も低下するため、鍛造や押出で精度良く成形できない可能性がある。よってNiの添加量は、延性向上と再結晶粒粗大化抑制効果が認められ且つ上記の支障が生じないように、0.05〜0.25wt%とした。
【0014】
(V:0.05〜0.25wt%)
Vは、強度向上と再結晶粒の粗大化抑制に寄与する元素である。しかしVを増量するに従い、変形抵抗が上昇して加工時に大きな荷重が必要になり、また変形能も低下するため、鍛造や押出で精度良く成形できない可能性がある。また、Vを多量に添加した場合、焼入れ感受性が高まり、溶体化処理後の冷却が緩慢であると強度がかえって低下する。V量が多いほど、強度低下する傾向は顕著である。よってVの添加量は、強度向上と再結晶粒粗大化抑制効果が認められ且つそのような不都合が生じないように、0.05〜0.25wt%とした。
【0015】
(Siについて)
Siは、MgSi析出物を生じさせ、強度向上に寄与する元素である。しかし過剰に添加すると、Siの粒界析出が多くなり粒界脆化が生じ易く、鋳塊の加工性、最終製品の伸び低下を招く。Siの添加量は、おおむね0.40〜1.60wt%が好ましい。
【0016】
(Feについて)
Feは、再結晶粒の粗大化を防止し、靱性向上に寄与する元素である。しかし多量に添加した場合、AlFeSi金属間化合物が過剰晶出することにより、MgSiの析出量が低減し強度低下を招く。また、AlFeSi金属間化合物が粗大化することで、破断の起点となり伸びを低下させる。Feの添加量は、おおむね0.40wt%以下が好ましい。
【0017】
(Cuについて)
Cuは、MgSiの析出を緻密且つ微細にし、強度の向上に寄与する。また、粒界におけるPFZの狭小化により、伸び向上にも寄与する元素である。しかし多量に添加すると、Cu/Al電位差大により耐食性低下を招くと共に、PFZの拡大ならびに粒界でのCu化合物の生成により、破断時の割れの伝播が容易となり、疲労強度および伸びを低下させる。Cuの添加量は、おおむね1.00wt%以下が好ましい。
【0018】
(Tiについて)
Tiは、ビレットの結晶粒を微細化し、鋳塊の加工性向上に寄与する元素である。しかし多量に添加すると粗大晶出物が生じ、加工性がかえって低下するのみならず、粗大晶出物が硬質であるため、切削後の製品表面に微小なムシレ等を引き起こす。Tiの添加量は、おおむね0.10wt%以下が好ましい。
【0019】
(Mnについて)
Mnは、再結晶粒の粗大化を防止し、靱性向上に寄与する元素である。しかし多量に添加した場合、焼入れ感受性が高まり、溶体化処理後の冷却が緩慢であると強度が低下する。また、粗大晶出物が生じることで、加工性が低下するとともに破断の起点となり、伸びを低下させる。Mnの添加量は、おおむね1.00wt%以下が好ましい。
【0020】
(Mgについて)
Mgは、MgSi析出物を生じさせ、強度向上に寄与する元素である。しかし過剰に添加してもMgSiの析出量が飽和し更なる強度向上が望めず、逆に伸びや靭性の低下を招く。Mgの添加量は、おおむね0.4〜1.2wt%が好ましい。
【0021】
(Crについて)
Crは、再結晶粒の粗大化を防止し、靱性向上に寄与する元素である。しかし多量に添加した場合、焼入れ感受性が高まり、溶体化処理後の冷却が緩慢であると強度が低下する。また、粗大晶出物が生じることで、加工性が低下するとともに破断の起点となり、伸びを低下させる。Crの添加量は、おおむね0.30wt%以下が好ましい。
【0022】
図4は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金のビレットから押出ならびに鍛造製品を製造する工程を示している。まず、上述の元素が添加されたアルミニウム合金溶湯を用い、従前の連続鋳造方法によりビレットを製作する。次に、そのビレットを均質化処理する。次にそのビレットに対して押出や鍛造等の塑性加工を行い、製品の形状に成形する。次に、その製品に対して熱処理(溶体化処理、時効処理)を行う。6000系合金の場合、溶体化処理は500℃〜570℃、時効処理は150℃〜200℃で行われる。最後に、切削等の機械加工を行う。
【0023】
図2は、本発明の実施例について引張強度と再結晶粒の粗大化抑制効果の評価を行った結果を示している。評価の手順は、図3(a)に示すように、連続鋳造した各ビレットを所定の長さに切断し、ビレット半径方向にプレスして略板状の形に鍛造し、次にこれを熱処理(溶体化処理、時効処理)し、その後、図3(b)に示すように、これを切断して断面のマクロ組織を観察して再結晶粒厚さを測定し、また残りの部分から引張試験片を作り、引張試験を行った。図2中、表1のものと表2のものでは熱処理条件が異なる。
【0024】
表1に示すように、ZnとNiをそれぞれ0.06wt%複合添加した実施例1-1は、ZnとNiを添加しない比較例1-1及び比較例1-2(6061合金:サスペンションに使用される従来材)と比較して、引張強さが向上し、再結晶粒厚さが半分以下になった。伸びは同等であった。ZnとNiに加え、さらにVを0.1wt%添加した実施例1-2は、実施例1-1よりもさらに引張強さが向上すると共に、再結晶粒厚さがより小さくなった(図1参照)。
また表2に示すように、Znを0.24wt%より多く(0.25wt%)添加した比較例2は、Znが0.24wt%以下の実施例2-1(0.06wt%)と実施例2-2(0.14wt%)と比べて、引張強さが低下すると共に、再結晶粒厚さが厚くなった。
【0025】
表3は、Ni,Zn,Vの適当な添加量を調べるために、Ni,Zn,Vをそれぞれ単独で添加量を変えながら添加し、引張特性と鍛造材組織の評価を行った結果を示している。
Niを0.05wt%添加したNo.2と0.20wt%添加したNo.3は、Niを添加しないベース材であるNo.1と比較して、引張強さと伸びが向上し、再結晶粒厚さが小さくなった。Niを0.25wt%より多く添加したNo.4は、伸びは向上するものの、引張強さがNo.2,3よりも低下し、再結晶粒厚さが厚くなった。
Znを0.05wt%添加したNo.6と0.15wt%添加したNo.7は、Znを添加しないベース材であるNo.5と比較して引張強さが向上し、再結晶粒厚さが小さくなった。Znを0.24wt%より多く添加したNo.8は、引張強さと伸びが低下し、また再結晶粒の粗大化抑制効果も認められなかった。
Vを0.12wt%添加したNo.10と0.23wt%添加したNo.11は、Vを添加しないベース材であるNo.9と比較して、再結晶粒厚さが小さくなった。Vを0.25wt%より多く添加したNo.12は、引張強さが低下し、また再結晶粒の粗大化抑制効果も認められなかった。
以上の結果からも、Znを0.05〜0.24wt%、Niを0.05〜0.25wt%それぞれ添加することで、引張強さと伸びを向上させられ、且つ再結晶粒の粗大化を抑制できること、Vを0.05〜0.25wt%添加することにより再結晶粒の粗大化を抑制できることが分かる。
【0026】
以上に述べたように、Znを0.05〜0.24wt%、Niを0.05〜0.25wt%それぞれ添加した本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金は、高強度と高延性を併せ持ち、尚且つ再結晶粒の粗大化を抑制できる。ZnとNiに加えVを0.05〜0.25wt%添加することで、強度がより一層向上すると共に、再結晶粒の粗大化を抑制する効果をさらに高められる。本発明により、アルミ製自動車用部品等の性能・品質を大きく向上させることができ、部品のアルミ化を促進し、軽量化による走行性能の向上・燃費改善に大きく貢献できる。
【0027】
本発明は以上に述べた実施形態に限定されない。Zn,Ni,V以外の元素については、添加するかどうか、またどれだけ添加するかは任意である。鋳造方法、加工方法(押出、熱間鍛造、冷間鍛造)、熱処理等は適宜変更することができる。
図2
図4
図5
図1
図3