(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原動機と、該原動機と連結した同期モータと、該同期モータと連結したコンバータと、該コンバータと連結したインバータと、前記コンバータと前記インバータとの間に設けられる蓄電手段と、を備え、前記原動機により前記同期モータを回転させて交流電力を出力し、該同期モータで発電された交流電力を前記コンバータで直流化し、この直流電力を前記インバータで所望周波数の交流電力に変換するインバータ発電装置において、
前記原動機の回転を制御する原動機制御手段と、
前記インバータを駆動するための電圧指令値と、該インバータより出力される出力電流値と、に基づいて、負荷の消費電力を算出する消費電力計算手段と、
前記消費電力計算手段で算出された消費電力の微分値を求め、この微分値に基づいて前記消費電力を補正し、補正後の消費電力を出力する微分演算手段と、
消費電力と原動機の回転数との対応関係を示す対応テーブルを有し、前記微分演算手段より出力される補正後の消費電力に基づいて、原動機の回転数を求め、この回転数データを前記原動機制御手段にフィードバックする回転数決定手段と、を備え、
前記微分演算手段は、
前記消費電力を微分演算して得られる微分値が負の値である場合には該微分値をゼロとし、微分値がゼロまたは正の値である場合には該微分値をそのまま出力するリミッタ手段と、
前記消費電力計算手段で算出された消費電力と、前記リミッタ手段より出力される数値とを加算する加算手段と、を備え、
前記加算手段による加算結果を補正後の消費電力として出力することを特徴とするインバータ発電装置。
前記対応テーブルは、消費電力が第1閾値以下のときに最低回転数が設定され、消費電力が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上のときに最高回転数が設定され、消費電力が前記第1閾値と第2閾値の間では、消費電力の増加に伴って原動機の回転数が単調に増加する特性とされていることを特徴とする請求項1に記載のインバータ発電装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置100の構成を示すブロック図である。同図に示すように、このインバータ発電装置100は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等のエンジン(原動機)11と、エンジン11の回転によりU相、V相、W相の3相交流の誘起電圧を発生する同期モータ13と、エンジン11の出力軸と同期モータ13の回転軸を結合するカップリング12と、同期モータ13に接続され該同期モータ13より出力されるU相、V相、W相の各誘起電圧をPN直流電圧に変換するコンバータ14と、該コンバータ14より出力されるPN直流電圧からR相、S相、T相の3相交流電圧を生成するインバータ15と、コンバータ14とインバータ15とを接続するPN結線の間に介置される主回路コンデンサ19(蓄電手段)と、前記インバータに接続されスイッチングノイズを軽減するためのLCフィルタ16と、を備えている。
【0015】
更に、LCフィルタ16は、遮断機17を介して誘導電動機等の負荷18に接続されている。なお、
図1では、1つの遮断機17及び負荷18を記載しているが、実際には、LCフィルタ16の後段側に、複数の遮断機及び負荷が設けられる場合が多い。また、例えば負荷が誘導電動機の場合は、モータの起動・停止を操作するためのコンタクタ(18a)が電源接続の初段に設置されていることが多い。また、同期モータ13として、例えば回転子に永久磁石が埋め込まれたIPMモータを用いることができる。
【0016】
また、エンジン11には、該エンジン11の回転を制御するECU(Engine Control Unit;原動機制御手段)20が接続されている。
【0017】
コンバータ14は、半導体素子であるトランジスタ、IGBT、或いはMOSFET等のスイッチング素子、及びダイオードを複数個備え、各スイッチング素子をスイッチング動作させることにより、U相、V相、W相の3相交流電圧をPN直流電圧に変換する。更に、コンバータ14は、負荷18に出力する電力に応じて、同期モータ13に適宜電流を流すことにより、エンジン11の回転数を頻繁に変化させることなく、所望の電力を発生させるようにしている。つまり、コンバータ14は、通常の整流器とは異なり、同期モータ13より出力される3相交流電圧から所望の大きさのPN直流電圧を生成すると共に、負荷に出力する電力に応じて同期モータ13に電流を流すことにより、負荷変動に応じた安定した電力を発生させている。
【0018】
主回路コンデンサ19は、PN直流電圧を平滑化し、且つ、インバータ15が大電力を出力する際の電力を蓄積する機能を有する。
【0019】
インバータ15は、上述のコンバータ14と同様に、半導体素子であるトランジスタ、IGBT、MOSFETのスイッチング素子、及びダイオードを複数備え、各スイッチング素子をスイッチング動作させることによりR相、S相、T相の3相交流電圧を生成する。また、各スイッチング素子のスイッチングのパターンにより、インバータ15の出力電圧及び出力周波数を任意の値に設定することができる。
【0020】
図2は、インバータ15の詳細な構成を示すブロック図である。同図に示すように、インバータ15は、半導体素子によりPN直流電圧をスイッチングして3相交流電圧を生成するスイッチング回路150と、主回路コンデンサ19に生じる電圧を検出するPN電圧検出部151と、スイッチング回路150にて生成する3相交流電圧の周波数指令値を出力する周波数指令生成部153と、スイッチング回路150にて生成する3相交流電圧の電圧指令値を出力する電圧指令生成部154と、を有している。
【0021】
また、周波数指令生成部153より出力される周波数指令値と、電圧指令生成部154より出力される電圧指令値、及びPN電圧検出部151で検出されるPN電圧検出値に基づいて、PWM信号を生成し、生成したPWM信号をスイッチング回路150に出力するPWM信号生成部152を備えている。
【0022】
更に、スイッチング回路150より出力されるR相、S相、T相の線電流をそれぞれ検出する電流計157と、該電流計157にて検出される各相の線電流IR,IS,ITを取得し、更にPWM信号生成部152より出力されるPWM信号に基づいて、3相の線電流IR,IS,ITを2相(d軸、q軸)の軸電流信号に変換する電流検出変換部156と、を備えている。
【0023】
また、電流検出変換部156で変換された2相の軸電流信号に基づいて、負荷18(
図1参照)にて消費される消費電力を算出する消費電力計算部155(消費電力計算手段)と、該消費電力計算部155で算出された消費電力の微分値を求め、この微分値に基づいて消費電力を補正し、補正後の消費電力を出力する微分演算部158(微分演算手段)と、回転数対応テーブル159a(対応テーブル)を有し補正後の消費電力に基づいてエンジンの回転数を決定する回転数決定部159(回転数決定手段)と、を備えている。
【0024】
スイッチング回路150は、
図9に示すように、6個のトランジスタTr1〜Tr6と、各トランジスタTr1〜Tr6に対して並列に接続されるダイオードD1〜D6を備えている。そして、トランジスタTr1とTr2は直列接続され、トランジスタTr1の一端(コレクタ)はプラス側電極(P極)に接続され、トランジスタTr2の一端(エミッタ)はマイナス側電極(N極)に接続されている。そして、各トランジスタTr1とTr2の接続点はR相電圧Vrの出力点とされている。同様に、トランジスタTr3とTr4は直列に接続され、その接続点はS相電圧Vsの出力点とされ、トランジスタTr5とTr6は直列に接続され、その接続点はT相電圧Vtの出力点とされている。
【0025】
また、6個のアンド回路AND1〜AND6を備えており、各アンド回路AND1〜AND6の一方の入力端子には、電力供給を制御するためのゲート信号が供給され、他方の入力端子には、アンド回路AND1〜AND6に対してそれぞれPWM信号生成部152より出力されるPWM信号、即ち、sigRu、sigSu、sigTu、sigRd、sigSd、sigTdが供給される。従って、ゲート信号がオン(「H」レベル)とされている場合には、各PWM信号により各トランジスタTr1〜Tr6が駆動され、3相交流電圧が生成されて出力されることとなる。また、ゲート信号がオフ(「L」レベル)とされている場合には、PWM信号に関わらず、各トランジスタTr1〜Tr6は駆動されない。なお、以下では上側のトランジスタTr1,Tr3,Tr5、及びダイオードD1,D3,D5を上側アーム、下側のトランジスタTr2,Tr4,Tr6、及びダイオードD2,D4,D6を下側アームと称する。
【0026】
図2に示す消費電力計算部155は、電圧指令生成部154より出力される電
圧指令値、及び電流検出変換部156より出力される2軸の電流値に基づいて、消費電力を演算する。そして、演算した消費電力を微分演算部158に出力する。
【0027】
微分演算部158は、消費電力の微分値を算出し、この微分値を消費電力に加算して補正後の消費電力を算出して回転数決定部159に出力する。なお、微分演算部158の詳細については、
図8を用いて後述する。
【0028】
回転数決定部159は、消費電力とエンジン回転数との対応関係を示す回転数対応テーブル159a(
図7参照)を備えており、微分演算部158より補正後の消費電力が入力された場合には、この補正後の消費電力に基づいて、回転数対応テーブル159aを参照してエンジン11の回転数データを求める。そして、求めた回転数データをエンジン11のECU20に送信する。エンジン11は、ECU20の制御により求められた回転数となるように制御されることとなる。
【0029】
回転数対応テーブル159aは、
図7に示すようにエンジン11の燃費曲線に基づき、消費電力に所定の余裕値を加えた電力を発生させるために最も少ない燃料消費量となる消費電力とエンジン11の回転数指示値との関係が設定されており、該回転数対応テーブルは159aは、エンジン11のアイドル回転数、最高回転数に基づいて設定される。そして、該回転数対応テーブルは159aは、消費電力がQ1(第1閾値)以下の場合には、エンジン11の回転数がアイドル回転数となるように設定され、その後、消費電力が増加するにつれてエンジン11の回転数が直線的に増加し、消費電力がQ2(第2閾値)以上の場合には、最高回転数にてクランプされるように設定される。即ち、回転数対応テーブルは、消費電力が第1閾値以下のときに最低回転数が設定され、消費電力が第1閾値よりも大きい第2閾値以上のときに最高回転数が設定され、消費電力が前記第1閾値と第2閾値の間では、消費電力の増加に伴ってエンジン11の回転数が単調に増加する特性とされている。
【0030】
次に、
図2に示すPWM信号生成部152、及び電流検出変換部156の詳細について、
図3に示すブロック図を参照して説明する。
図3に示すように、PWM信号生成部152は、インバータ15の外部より入力される2相(d軸、q軸)の電圧指令値のうちq軸電圧を補正する電圧補正部31と、2相・3相変換部32と、R相、S相、T相の各電圧信号に基づいて、3相のPWM信号を生成するPWM波形変換部33と、電気角生成部34と、を備えている。
【0031】
電圧補正部31は、電圧指令値に、PN設定電圧とPN電圧のフィードバック値との比率(PN電圧設定値/PN電圧検出値)を乗じることにより、該q軸電圧を補正し、補正後のq軸電圧を2相・3相変換部32に出力する。
【0032】
2相・3相変換部32は、d軸電圧及び補正後のq軸電圧に基づいて2相・3相変換を行い、3相(R相、S相、T相)で6アームのPWM信号を生成する。該PWM信号生成部152で生成されるPWM信号は、
図2に示すスイッチング回路150に出力されて、
図9に示した各トランジスタTr1〜Tr6の駆動に用いられる。
【0033】
電気角生成部34は、
図2に示す周波数指令生成部153より出力される周波数指令値に基づいて、3相電圧(R相、S相、T相の各電圧)の電気角を求め、この電気角を2相・3相変換部32、及び電流検出変換部156に出力する。電気角は、電気的な1周期が0〜360degとなるように設定する。例えば、周波数指令値が50Hzの場合には電気的な1周期は20msecとなるので、電気角は20msecで0〜360degとなるように生成する。
【0034】
また、
図3に示す電流検出変換部156は、電流計157(
図2参照)で検出されるR相、S相、T相の各相電流IR,IS,IT、及び電気角生成部34より出力される電気角に基づいて、R相、S相、T相の3相電流を、d軸、q軸の2相電流に変換する3相・2相変換部35を備え、変換後のd軸電流、及びq軸電流を
図2に示す消費電力計算部155に出力する。
【0035】
次に、
図2に示した消費電力計算部155における消費電力の計算手順について説明する。インバータ15の外部より入力される電圧指示値をVa、電圧指令生成部より出力される電圧指示値(インバータ15の出力電圧)をVb、3相の線電流をI1、q軸電流をIq、d軸電流をId、とすると、瞬時の消費電力P1は、次の(1)式で示すことができる。
【数1】
【0036】
そして、(1)式の右辺の分母は、有効電力のインピーダンスを示すから、該インピーダンスをZとすると、(1)式は次の(2)式で示すことができる。
【数2】
【0037】
(2)式に示すように、負荷18の瞬時の消費電力P1を演算する際に、外部から入力される電圧指示Va及び有効電力のインピーダンスZを使用している。従って、負荷の駆動時等に突入電流が発生し、インバータ15の出力電圧が急激に低下した場合であっても、消費電力計算部155にて求められる消費電力が急激に低下することが無い。即ち、出力電圧が急激に変動した場合であっても、エンジン11の回転数が急激に変動することを防止し、該エンジン11を安定的に運転できることとなる。また、消費電力P1の演算にスイッチング回路150の電圧出力値を用いないので、リップルの影響を受けることがない。
【0038】
次に、
図2に示す電圧指令生成部154の詳細な構成について、
図4に示すブロック図を参照して説明する。
図4に示すように、電圧指令生成部154は、外部より電圧指示値、最低出力電圧、インバータ15より出力される線電流(即ち、(Iq
2+Id
2)
1/2で求められる電流)、及び電流上限閾値が入力される。そして、該電圧指令生成部154は、外部より与えられる電圧指示値に対して係数G1を乗じる乗算部41と、乗算部41の出力信号に対して係数G2を乗じる乗算部42と、演算部43、及びローパスフィルタ44を備えている。
【0039】
ここで、最低出力電圧は、電圧指示値よりも低い値であって負荷に付属して例えばモータの起動や停止を制御するコンタクタが遮断しない電圧に設定される。
【0040】
乗算部41は、インバータ15の外部より入力された電圧指示値に対して、次の(3)式で示す係数G1を乗じる。
【0041】
G1=1/{1−(PWM周波数×デッドタイム×2)} …(3)
(3)式は、スイッチング回路150が有する各相の上側アーム、即ち、
図9に示すトランジスタTr1,Tr3,Tr5、及び下側アーム、即ちトランジスタTr2,Tr4,Tr6が駆動するときのデッドタイムを補正するための係数を示している。つまり、上側アーム、及び下側アームは、双方が同時にオンとなることを防止するために、オン、オフの切り替え時に双方を同時にオフとするデッドタイムを設けており、この分の電圧を補正するために電圧指示値に係数G1を乗じている。なお、上記のデッドタイムには、上側アーム及び下側アームに使用するトランジスタのオンとオフの時間差を含めるようにしても良い。
【0042】
更に、乗算部42は、乗算部41の出力信号に対して、次の(4)式で示す係数G2を乗じる。
【0043】
G2=(PN電圧検出値)/(PN電圧設定値)
(但し、0≦G2≦1) …(5)
(5)式に示すPN電圧検出値は、主回路コンデンサ19に生じる電圧値(電圧検出値)であり、PN電圧設定値は、主回路コンデンサ19に充電する電圧の設定値(充電指令値)である。そして、(5)式で算出する係数G2は、主回路コンデンサ19に生じるPN電圧の検出値が、PN電圧設定値に対して大きく減少した場合に小さい値となる。従って、PN電圧検出値が低下しているときに、負荷18の消費電力が増加した場合であっても、係数G2を乗じることにより、電圧指示値が急激に増加することを防止できる。
【0044】
即ち、主回路コンデンサ19に生じる電圧(PN電圧)が低下しているときに、インバータ15が負荷変動に応じた電力をそのまま出力すると、主回路コンデンサ19に電力を供給するためにコンバータ14の負荷が増大し、エンジン11がストールする原因となる場合がある。そこで、本実施形態では、電圧指示値に係数G2を乗じることにより、PN電圧検出値がPN電圧設定値に対して低下している場合には、乗算部42の出力信号を低下させることにより、インバータ15の出力電圧を低下させて、エンジン11がストールすることを防止する。
【0045】
また、
図4に示す演算部43は、入力端子IN1〜IN4、及び出力端子OUT1を備えており、入力端子IN1には、乗算部42の出力信号d1が入力され、入力端子IN2には、インバータ15が出力可能な最低電圧である最低出力電圧d2が入力され、入力端子IN3には、負荷18に流れる線電流d3が入力され、入力端子IN4には、過電流の発生を定義する電流上限閾値d4が入力される。そして、演算部43は、これらの各データに基づいて、「d3>d4」が成立した場合に出力端OUT1より最低出力電圧d2を出力し、それ以外の場合には信号d1を出力する。
【0046】
上記の処理では、線電流d3が電流上限閾値d4を上回った場合、換言すれば、負荷18に流れる電流が増大して過電流に達する場合には、最低出力電圧d2に基づく電圧指令値を出力することにより、負荷18に供給する電圧を低下させて、過電流が流れることを防止する。
【0047】
そして、演算部43の出力信号(d1またはd2)はゲイン(後述する係数G3,G4)を変更可能なローパスフィルタ44に供給される。
【0048】
ローパスフィルタ44は、負荷18に起動時等の突入電流を抑制するために設けられており、突入電流が発生した際にはインバータ15の出力電圧を即時に低下させ、その後、低下した出力電圧を電圧指示値に上昇させる際には緩やかに電圧を上昇する電圧指令値を出力する。そして、該ローパスフィルタ44から出力された電圧指令値は、
図2に示すPWM信号生成部152、及び消費電力計算部155に出力されることとなる。以下、ローパスフィルタ44について詳細に説明する。
【0049】
図5は、ローパスフィルタ44の詳細な構成を示すブロック図である。該ローパスフィルタ44は、演算部43の出力信号(d1またはd2)、及び最低出力電圧d2に基づいて、電圧指令値をフィルタ処理して出力する。
【0050】
図5に示すように、ローパスフィルタ44は、係数G3(第1の係数)を乗じる乗算部51と、係数G4(但し、G4>G3;G4はG3の10〜30倍程度とする)を乗じる乗算部52と、演算部53と、遅延部54と、減算部55と、加算部56、及びスイッチSW1を備えている。
【0051】
減算部55は、入力信号(
図4に示す演算部43の出力端子OUT1の出力信号)とフィードバック信号(前回の演算部53の出力)との差分を演算し、これを偏差信号Errとして出力する。
【0052】
乗算部51は、偏差Errに係数G3を乗じてスイッチSW1の端子T1に出力する。乗算部52は、偏差Errに係数G4を乗じて端子T2に出力する。
【0053】
スイッチSW1は、偏差Errが正の値(Err>0)である場合にはスイッチSW1を端子T1側に接続することにより、乗算部51の出力信号を出力端子OUT2より出力し、偏差Errがゼロまたは負の値(Err≦0)の場合には、スイッチSW1を端子T2側に接続することにより、乗算部52の出力信号を出力端子OUT2より出力する。そして、出力端子OUT2は、加算部56に接続され、更に、該加算部56は、演算部53の入力端子IN5に接続されている。また、演算部53の入力端子IN6には、
図4に示す最低出力電圧d2が入力される。
【0054】
加算部56は、スイッチSW1の出力端子OUT2より出力される信号と、遅延部54より出力される前回の出力値とを加算し、加算した信号d5を演算部53の入力端子IN5に出力する。
【0055】
演算部53は、d5<d2の場合には、出力端子OUT3よりd2を出力する。他方、d5≧d2の場合には、出力端子OUT3よりd5を出力する。つまり、出力信号を最低出力電圧d2にクランプする。そして、この出力信号は、電圧指令値として
図2に示すPWM信号生成部152、及び消費電力計算部155に出力される。また、この出力信号は、フィードバック信号として
図5に示す遅延部54に供給される。
【0056】
遅延部54より出力される一サンプリング遅れ信号は、減算部55、及び加算部56に出力される。そして、上述したようにスイッチSW1は、偏差信号Errが正の値である場合(Err>0)には、該偏差信号Errに対して係数G3を乗じ、偏差信号Errがゼロまたは負の値である(Err≦0)には、該偏差信号Errに対して係数G4(G4>G3)を乗じるので、電圧指令値が増加傾向にある場合には、減少傾向にある場合よりも、より小さい係数を乗じて出力端子OUT2より出力することとなる。このため、突入電流が流れた後の場合等において、電圧指令値(OUT1)が増加する場合にはその増加速度を遅くすることができる。即ち、電圧指令値(OUT1)が低下する傾向に変化する場合には、係数G4を乗じることにより、電圧指令値(OUT1)を第1の追随速度で変化させ、電圧指令値(OUT1)が増加する傾向に変化する場合には、係数G3を乗じることにより、電圧指令値を第1の追随速度よりも遅い第2の追随速度で変化させることとなる。
【0057】
また、演算部53は、加算部56の出力信号d5と最低出力電圧d2を比較し、d5がd2よりも低い場合、即ち、加算部56の演算結果が最低出力電圧d2よりも低い場合には、出力端子OUT3より出力する電圧指令値を最低出力電圧d2とする。従って、電圧指示値が最低出力電圧d2にクランプされるので、例えば、負荷に付属してモータの起動や停止を制御するコンタクタの遮断を防ぐことができる。
【0058】
次に、
図6に示すブロック図を参照して、
図2に示した周波数指令生成部153の詳細について説明する。
図6に示すように周波数指令生成部153は、周波数指示値を所定の範囲内でスイープするスイープ演算部61と、所定の係数K(0<K≦1の範囲の数値)を乗じる乗算部62と、減算部63と、を備えている。
【0059】
スイープ演算部61は、インバータ15の外部より入力される周波数指示値に基づいて、下記の(6)式に示す演算により倍率Bを算出し、算出した倍率Bを乗算部62に出力する。
【0060】
B=1−{(電圧指令値V2)/(電圧指示値V1)} …(6)
また、出力する周波数指令値(減算部63の出力)は、以下の(7)式により求められる。
【0061】
(周波数指令値)=f1*(1−K*B) …(7)
但し、(7)式において「f1」は入力される周波数指令値、「K」は、乗算部62に設定されている係数であり0<K≦1である。
【0062】
(6)式において、例えば、電圧指示値V1が200ボルト、電圧指令値V2が140ボルトで、入力される周波数指示値がf1である場合にはB=0.3となり、スイープ演算部61の出力信号は、0.3*f1となる。また、乗算部62で設定される係数Kが0.5である場合には、該乗算部62の出力信号は0.15*f1となって、減算部63に供給される。従って、減算部63の出力信号は、0.85*f1となり、外部より入力される周波数指示値f1よりも15%低い周波数が周波数指令値となって出力される。
【0063】
その後、電圧指令値V2が上昇して電圧指示値V1と一致すると、(6)式で示すBがゼロとなるので、周波数指示値f1は減算部63で減算されることなく、そのまま出力されることとなる。つまり、「0.85*f1」〜「f1」の範囲で周波数指令値がスイープされることとなる。このように、周波数指令値をスイープさせながら周波数指令値f1まで増加させることにより、例えば誘導電動機の様な誘導負荷の場合、効率良く負荷にエネルギーを注入することができることから、起動時間を短くすることができ、コンバータやエンジンの負担の軽減に寄与することとなる。
【0064】
次に、
図2に示した微分演算部158の詳細な構成を、
図8に示すブロック図を参照して説明する。
図8に示すように、微分演算部158は、消費電力計算部155で算出された消費電力に係数G5を乗じる乗算部71と、該乗算部71の出力信号から一次遅れ信号(遅延部73の出力信号)を減算する減算部75と、減算部75の出力信号に係数G6を乗じる乗算部72と、該乗算部72の出力信号に一次遅れ信号を加算する加算部76と、乗算部71の出力信号から該加算部76の出力信号を減算する減算部77と、加算部76の出力信号の一次遅れ信号を生成して出力する遅延部73と、減算部77の出力信号(これを微分値g1とする)の下限値を制限するリミッタ74(リミッタ手段)と、入力される消費電力信号にリミッタ74の出力信号を加算する加算部78(加算手段)と、を備えている。
【0065】
乗算部71に設定される係数G5は微分ゲインとして設定され、乗算部72に設定される係数G6は微分効果時定数にサンプリング時間を乗じた数値として設定される。
【0066】
リミッタ74は、微分値g1が負の値(g1<0)である場合には出力信号をゼロとし、微分値g1がゼロまたは正の値(g1≧0)である場合には微分値g1をそのまま出力する。
【0067】
加算部78は、入力された消費電力(消費電力計算部155で算出された消費電力)と、リミッタ74より出力される微分値g1を加算し、この加算結果を補正後の消費電力として出力する。
【0068】
上記のように構成された微分演算部158では、消費電力計算部155で算出された消費電力に対して、微分値(リミッタ74の出力信号)を加算することにより、負荷18の消費電力が上昇した場合に、エンジン11の回転数をいち早く上昇させて、供給する電力を上昇させる。
【0069】
次に、
図10,
図11に示すタイミングチャートを参照して、本実施形態に係るインバータ発電装置100の作用について説明する。
【0070】
図10,
図11は時間経過に伴う各信号の変化を示すタイミングチャートであり、
図10は本実施形態に係る微分演算を実施しない場合(
図2に示す微分演算部158を設けない場合)を示し、
図11は本実施形態に係る微分演算を実施した場合を示している。また、
図10,
図11において、(a)は負荷18の消費電力の変化を示し、(b)はコンバータ電流の変化を示し、(c)はPN電圧(主回路コンデンサ19に充電される電圧)の変化を示し、(d)はエンジン11の回転数の変化を示している。
【0071】
まず、
図10を参照して微分演算を実行しない場合の作用について説明する。いま、
図10に示す時刻t1で負荷18の消費電力がランプ状に上昇すると、
図2に示す消費電力計算部155で算出される消費電力(推定電力)は、
図10(a)に示すように、一定の傾きを持った直線状に上昇することとなり、この消費電力の変動に伴って、
図10(c)に示すようにPN電圧は急激に低下する。その結果、
図10(b)に示すように、コンバータ14は低下したPN電圧を復帰させるために、出力する電流を電流制限値まで増大する。
【0072】
この際、
図7に示す回転数対応テーブルで設定される回転数指示値は、消費電力の増加に伴って低い値から徐々に増加するので、エンジン11の回転数は急激に上昇することができず、
図10(d)に示すように、出力トルクの増大によりエンジン11の回転数は低下する。そして、消費電力がランプ状に上昇すると、エンジン11の出力トルクが増大し続けるので、該エンジン11は回転数を上昇させることができずに、ストールする方向に推移することとなる。
【0073】
次に、
図11を参照して、本実施形態に係る微分演算部158にて微分演算を実行した場合の作用について説明する。
図11に示す時刻t2で負荷18の消費電力がランプ状に上昇すると、
図2に示す微分演算部158で算出される消費電力(微分後の推定電力)は、
図11(a)に示すように、ステップ状に上昇し、その後曲線状に滑らかに上昇することとなる。この消費電力の変動に伴って、
図7に示す回転数対応テーブルで設定される回転数指示値は、高い値に設定されるので、
図11(d)に示すように、エンジン11の回転数は上昇する。
【0074】
従って、時刻t2において、
図11(c)に示すようにPN電圧は一旦低下し、
図11(b)に示すようにコンバータ14の出力電流は一旦増大するが、エンジン11の回転数が増加することにより、即時にコンバータ14に電流を供給することができ、PN電圧、及びコンバータ14の出力電流を即時に元の数値に復帰させることができる。その結果、急激な負荷変動が発生した場合でも、エンジン11がストールすることなく、安定的に運転することができる。
【0075】
このようにして、本実施形態に係るインバータ発電装置100では、インバータ15の消費電力を消費電力計算部155で算出し、更に、算出した消費電力の微分値を微分演算部158で算出し、これらを加算して微分後の消費電力を求め、この微分後の消費電力に基づいて、エンジン11の回転数を設定している。従って、負荷18の消費電力が急激に増大した場合であっても、この変動に対応してエンジン11の回転数を適切に上昇させることができ、エンジンのストールを防止することができる。
【0076】
また、微分演算部158はリミッタ74(
図8参照)を有し、微分値g1が負の値の場合には、これを加算部78にて加算しないので、微分後の消費電力(
図8に示す加算部78の出力)が不必要に変動することを防止することができ、エンジン11の回転数を安定化することができる。
【0077】
以上、本発明のインバータ発電装置100を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【0078】
例えば、上述した実施形態では、
図1に示したように各相毎に電流計157を設ける構成としたが、2つの相にのみ電流計を設ける構成とすることも可能である。