(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778473
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
B41J2/01 305
B41J2/01 501
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-103753(P2011-103753)
(22)【出願日】2011年5月6日
(65)【公開番号】特開2012-232532(P2012-232532A)
(43)【公開日】2012年11月29日
【審査請求日】2014年1月23日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山浦 司
【審査官】
大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−527723(JP,A)
【文献】
特開平09−133464(JP,A)
【文献】
特開平05−042670(JP,A)
【文献】
特開2001−030519(JP,A)
【文献】
特開2000−066360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷面である表面から裏面にかけて貫通する貫通孔を有するメッシュ状のメディアにインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記メッシュ状のメディアを搬送方向に搬送する搬送装置と、
前記インクジェットヘッドから吐出されたインクが着弾した前記メッシュ状のメディアを乾燥させる乾燥装置とを具備するインクジェット記録装置において、
前記インクジェットヘッドが配置されている印刷位置の下方にはプラテンが設けられ、
該プラテンは、
前記メッシュ状のメディアを裏抜けしたインクを受けるように下方に向けて凹んで形成されたインク受け部と、当該インク受け部の下流側には上端部に前記メッシュ状のメディア下面が接触するように形成された端縁部とを有し、
前記乾燥装置は、
上面にインクが着弾した前記メッシュ状のメディアの下面に送風させるべく、前記メッシュ状のメディアの下方に配置された送風機を有し、
前記送風機は、
前記インクジェットヘッドが配置されている印刷位置の下流側に連続して配置され、
前記送風機と前記メッシュ状のメディアとの間に、複数の通風孔が形成されたカバーが設けられており、
該送風機から出力された空気によって前記メッシュ状のメディアに上方に向かう力を付与し、
前記端縁部よりも下流側において前記メッシュ状のメディアが前記乾燥装置側に接触しないようにしつつメディアに着弾したインクを乾燥させることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記送風機が温風を送風するように、送風機にはヒータが設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記送風機は、風量調整可能であることを特徴とする請求項1または2記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッシュ状のメディアへの印刷が可能なインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
布やフィルム等の素材に印刷を施す印刷装置が従来より知られている。
このような印刷装置として、特許文献1には布地への画像形成を行う構成が開示されている。特許文献1の印刷装置では、印刷対象となる布地に長手方向に巻き取りつつ昇華性インクを塗布し、塗布した昇華性インクを所定温度に加熱している。ここでは、昇華性インクが塗布された布地の下方に遠赤外線ランプを有するプリヒータを配置して、このプリヒータによって布地を加熱し、昇華性インクを乾燥させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−265813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に布地はメッシュ状となっており、布地の材質にもよって大小の差はあるが表面と裏面を貫通する貫通孔が形成されていることが一般的である。また、布地以外のメディアにおいても貫通孔が形成されているものが存在する。
このように、表面と裏面とを貫通する貫通孔が形成されているメディアに印刷を施す場合、表面にインクを塗布又は着弾させた後、貫通孔を通して裏面にインクが抜ける、いわゆる裏抜けが生じることがある。
【0005】
インクの裏抜けという現象自体については、裏抜けしたインクが他の箇所に接触せずに乾燥すれば問題となることもない。
しかし、特許文献1のように布地の下方に乾燥装置を設けるような構成において、裏抜けしたインクが乾燥装置と接触してしまった場合には、さらに乾燥装置に接触した布地の他の箇所にもインクが付着して、布地あるいは装置本体への汚れが広まってしまうという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、印刷直後のメディアあるいは裏抜けしたインクが乾燥装置に接触しないようにして乾燥させることができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるインクジェット記録装置によれば、印刷面である表面から裏面にかけて貫通する貫通孔を有するメッシュ状のメディアにインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記メッシュ状のメディアを搬送方向に搬送する搬送装置と、
前記インクジェットヘッドから吐出されたインクが着弾した前記メッシュ状のメディアを乾燥させる乾燥装置とを具備するインクジェット記録装置において、
前記インクジェットヘッドが配置されている印刷位置の下方にはプラテンが設けられ、該プラテンは、前記メッシュ状のメディアを裏抜けしたインクを受けるように下方に向けて凹んで形成されたインク受け部と、当該インク受け部の下流側には上端部に前記メッシュ状のメディア下面が接触するように形成された端縁部とを有し、前記乾燥装置は、上面にインクが着弾した前記メッシュ状のメディアの下面に送風させるべく、前記メッシュ状のメディアの下方に配置された送風機を有
し、前記送風機は、前記インクジェットヘッドが配置されている印刷位置の下流側に連続して配置され、前記送風機と前記メッシュ状のメディアとの間に、複数の通風孔が形成されたカバーが設けられており、該送風機から出力された空気によって前記メッシュ状のメディアに上方に向かう力を付与し、
前記端縁部よりも下流側において前記メッシュ状のメディアが
前記乾燥装置側に接触しないようにしつつメディアに着弾したインクを乾燥させることを特徴としている。
この構成を採用することによって、メディアには下方から送風機から出力された空気があたる。このため、メディア自体が送風によって上方に向かう力を受けることで、メディアが乾燥装置側に接触しないようにしつつ、インクが乾燥される。このため、裏抜けしたインクが乾燥装置側に付着せず、これによりメディアあるいは装置本体が汚れてしまうことを防止できる。
また本発明にかかるインクジェット記録装置において、前記送風機は、インクジェットヘッドが配置されている印刷位置の下流側に連続して配置されていることにより、印刷位置と送風機との間には他の構成が配置されておらずメディアへの印刷の直後にインクを乾燥させることができ、裏抜けしたインクがインクジェット記録装置の何れかの箇所に接触する機会を減少させることができる。
また、この構成によれば、メディアに効果的にテンションをかけることができるという作用効果も奏する。
すなわち、従来、メディアにテンションをかける場合には、メディアをテンションバーに掛け、テンションバーがメディアを引っ張ることによりテンションがかかっていた。テンションバーの配置位置は、印刷位置から離れた位置に設けられることが一般的であったが、印刷位置とテンションバーの位置があまりに離れてしまうと、メディア自身の重さやメディアが伸びてしまうことにより、印刷位置においてはあまりテンションがかからないテンション不足の状態となってしまう。さらに、メディア(特に布)によっては、テンションが張りやすい部分と張りにくい部分とが存在する。このようなメディアにテンションを付加した場合、メディアテンションの不均一が発生してしまう。印刷位置においてメディアにテンションがかかっていない、あるいはテンションが不均一であった場合、メディアに皺や浮きなどが生じてしまう可能性があった。特に印刷位置においてメディアにわずかでも皺や浮きが生じていると、印刷の歪み、ズレ、ムラなどが発生するので、なるべく印刷位置においてメディアに均一なテンションをかけることが望ましいという課題があっ
た。
そこで、上記のような構成とすることによって、印刷位置に極めて近い場所においてメ
ディアには下方から送風機から出力された空気があたるため、印刷位置と連続してテンシ
ョンをかけることにより、メディアのズレ、ムラの発生を防止し、印刷位置におけるメデ
ィアの歪みを抑制することによりインクの着弾位置を安定化させて印刷の画質を向上させ
ることができる。
また、本発明にかかるインクジェット記録装置において、前記送風機と前記メッシュ状のメディアの間に、複数の通風孔が形成されたカバーが設けられていることにより、送風機から出力された空気がカバーの複数の通風孔に分散されるので、メディアに均一に空気をあてることができる。
本発明にかかるインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドが配置されている印刷位置の下方にはプラテンが設けられ、該プラテンは、前記メッシュ状のメディアを裏抜けしたインクを受けるように下方に向けて凹んで形成されたインク受け部と、インク受け部の下流側には上端部に前記メッシュ状のメディア下面が接触するように形成された端縁部とを有することにより、印刷時に裏抜けしたインクはインク受け部に落下するため、裏抜けしたインクのプラテンへの付着を抑えることができる。また、送風機のメディア下方からの送風によってインク受け部の端縁部にメディアが接触する際の接触圧力を低減させることができるので、メディアの接触圧が小さくなり汚れの発生を抑制でき、また端縁部の摩耗を防止できる。
【0011】
本発明にかかるインクジェット記録装置において、前記送風機が温風を送風するように、送風機にはヒータが設けられていることが好ましい。また、ヒータは、温度調整可能であることが好ましい。
これによれば、インクの昇華や反応温度以下にコントロールすることにより印刷の画質に影響の無い範囲でインクをより早く乾かすことができる。
【0013】
また、本発明にかかるインクジェット記録装置において、前記送風機は、風量調整可能であることが好ましい。
これによれば、メディアに応じて乾燥条件やテンションを変化させることができ、最適な印刷の条件を選択することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインクジェット記録装置によれば、裏抜けしたインクが乾燥装置に接触しないようにして乾燥させることができるので、メディアや装置への汚れの付着を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明にかかるインクジェット記録装置の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
本発明の好適な実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1では、インクジェット記録装置の概略の側面図を示している。
図1において破線で図示されているのが貫通孔を有するメッシュ状のメディア10である。メディア10の例としては、布地、フィルム等が考えられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0017】
本実施形態におけるメディア10の搬送方向は、図面右から左方向に向けて(
図1の矢印方向)である。メディア10は搬送方向の上流側において未印刷の状態で引き出しロール11に巻き取られている。引き出しロール11から引き出されたメディア10は、引き出しロール11よりも下方に位置するテンション付与バー13に掛け渡され、所定のテンションが付与される。
【0018】
テンション付与バー13に掛け渡されたメディア10は、印刷用のインクジェットヘッド(以下、単にヘッドと称する場合がある)20が配置された印刷位置Aへ送り込まれる。印刷位置Aにおいては、メディア10はほぼ水平状態となり、メディア10の上面にヘッド20が配置される。
なお、印刷位置Aの上流側には、メディア10を搬送方向に送るための搬送ローラ12が設けられている。搬送ローラ12が回転駆動することにより、メディア10が搬送方向に搬送される。
【0019】
印刷位置Aにおいては、メディア10の下方にプラテン16が配置される。プラテン16には、下方に凹んで形成されたインク受け部18が形成されている。インク受け部18は、メディア10の上面に着弾したインクが裏抜けしたときに、裏抜けしたインクを受けるために形成された容器状の部位である。
また、プラテン16の、インク受け部18の下流側の壁面の上端部は、メディア10の下面が接触するような端縁部22が形成されている。具体的には端縁部22からメディア10は図面下方に引っ張られてメディア10にテンションがかかった状態となっている。したがって、端縁部22が形成されていることにより、後述する送風機によるテンションと相俟って印刷位置Aにおけるメディア10に所定のテンションを付与することができる。
【0020】
印刷位置Aと連続した下流側の所定位置には、上面にインクが着弾したメディア10の下方から風をあてるための、送風機26が設けられている。
送風機26としては、メディア10の下方に配置されてメディア10に送風できるものであれば、どのような形態のものであってもよい。
【0021】
送風機26は、風量を調整できる風量可変型のものを採用すると好適である。具体的には、送風機26を駆動するモータの回転数を制御することにより送風機26による風量を調整できるようにすればよい。
【0022】
また、送風機26には加熱された風(温風)を送風できるようにヒータを設けても良い。ヒータは、送風機26の空気取り入れ口側に配置させておけば、ヒータによって加熱された空気を取り入れて送風させることができる。このヒータは温度調整可能であることが好ましい。温度調整可能とすることで、気温やインクの種類に合わせて適切な温度での送風が可能となり、インクの昇華や反応温度以下でコントロールすることができる。
温風を送風可能とすることで、裏抜けインクをより迅速に乾かすことができる。
なお、温風が不要であるほど気温が高いような状態ではヒータのスイッチを切って通常の風を送風するようにすればよい。
【0023】
なお、送風機26の上部と、メディア10の下面との間には、複数の通風孔29、29・・が形成されたカバー28が配置されている。もしカバー28が存在しないと、送風機26から出力された空気はメディア10のある一点に集中してしまい、裏抜けインクの乾燥にムラが生じたり、またメディア10にかかるテンションも安定しえないためである。そして、カバー28を設けると、送風機26からの風は、複数の通風孔29に分散されるので、メディア10に均一に空気をあてることができる。
【0024】
カバー28の例を
図2に示す。
カバー28は、下方に送風機26が収納されて、送風機26からの風が外側に漏れないように複数の側板31によって囲まれた形状をしており、上面には複数の通風孔29,29・・が穿設された天板32が配置されている。天板32は、メディア10の下面に沿うように平行となるように形成されている。本実施形態ではメディア10が搬送方向に向けて徐々に下降し、傾斜しているので、天板32もこのメディア10の傾斜角度に合わせた傾斜角を有している。
【0025】
通風孔29の形状は、一般的には断面円形のものが考えられるが、特に円形に限定されるものではなく、楕円形、長穴状のものであってもよい。
また通風孔29の大きさは、
図2に示した物よりももっと細かいものであってもよい。
【0026】
図1に示すように、送風機26による下方からの送風によって裏抜けインクが乾燥したメディア10は、搬送方向下流側の下方に配置されたテンション付与バー30に掛け渡され、所定のテンションが付与される。
そして、テンション付与バー30を経たメディア10は、巻き取りロール34によって巻き取られる。
【0027】
上述してきたように、送風機26を印刷位置Aと連続して設けたことで、印刷位置Aにおけるメディア10に確実にテンションが付与され、メディアのたるみを防止することができる。このため、インクの着弾する位置(高さ)が一定となり、印刷位置Aにおける印刷の歪みを防止して印刷の画質を向上させることができ、メディアのズレ、ムラなどの発生が防止できる。また、プラテン16のインク受け部18の下流側の端縁部22へのメディア10の接触圧力を低減できるので、汚れの発生を抑制でき、また端縁部22の摩耗を防止できる。
【0028】
また、複数の通風孔29,29・・が形成されたカバー28を設けたことで、送風機26からの風をメディアに均一に当てることができる。これによってメディアにかかるテンションが均一なものとなる。
【0029】
さらに、送風機26にはヒータを設けることで、メディア10の下方に温風を当てることができるので、裏抜けインクのより迅速な乾燥を図ることができる。また、ヒータは温度調整可能なものであるとよい。
【0030】
また、プラテン16にはインク受け部18と、メディア10が接触するようにインク受け部18の下流側の端縁部22とを設けたことにより、インク受け部18の端縁部22にメディア10が接触する際の接触圧力を低減させることができるので、メディア10の接触圧が小さくなり汚れの発生を抑制でき、また端縁部22の摩耗を防止できる。
【0031】
さらに、送風機26の風量調整が可能であることにより、メディア10の種類に応じて乾燥条件やテンションを変化させることができ、最適な印刷の条件を選択することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 メディア
11 引き出しロール
12 搬送ローラ
13 テンション付与バー
16 プラテン
18 インク受け部
20 ヘッド
22 端縁部
26 送風機
28 カバー
29 通風孔
30 テンション付与バー
31 側板
32 天板
34 巻き取りロール