(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
  化学実験では、実験作業過程において、人体に有害な生物化学物質が発生する場合が多い。これら生物化学物質の室内への拡散を防止し、人体への汚染を防ぐ装置の1つにヒュームフードがある。一般に、ヒュームフードは、上下または左右に開閉可能なサッシ付きの囲い(エンクロージャ)を備えており、実験室の作業者はこのサッシからエンクロージャ内にアクセスすることができる。ヒュームフードで作業中の作業者が有害な生物化学物質に曝されないようにするために、エンクロージャは生物化学物質を除去する局所排気ダクトに接続されている。
【0003】
  室圧制御システムは、ヒュームフード内で生物化学物質を扱う実験をする場合に、生物化学物質が部屋内に逆流しないようにサッシ面の面風速を所定の速度に維持するよう局所排気ダクトの風量を調整すると共に、生物化学物質が部屋の外に漏れ出したり外からの不純物等が部屋内に流入したりしないように部屋の圧力を一定に保つシステムである(例えば、特許文献1参照)。
図8は従来の室圧制御システムの構成を示す図である。室圧制御システムは、部屋100内に設置されたヒュームフード101と、ヒュームフード101に接続された局所排気ダクト102と、部屋100に給気を供給する給気ダクト103と、部屋100の空気を排気する一般排気ダクト104と、局所排気ダクト102の風量を調整する局所排気バルブEXVと、給気ダクト103の風量を調整する給気バルブMAVと、一般排気ダクト104の風量を調整する一般排気バルブGEXと、局所排気バルブEXVを制御するコントローラ105と、給気バルブMAVを制御するコントローラ106と、一般排気バルブGEXを制御するコントローラ107と、各コントローラ105,106,107を互いに接続する通信線108とから構成される。ヒュームフード101は、開閉可能なサッシ111と、サッシ111の開度を検出するサッシセンサ112とを備えている。
【0004】
  このような室圧制御システムでは、部屋100の圧力を設定値に維持するため、給気ダクト103の給気風量と一般排気ダクト104の排気風量と局所排気ダクト102の局所排気風量とが、「給気風量=一般排気風量+局所排気風量+オフセット風量」の関係を満たすように、給気バルブMAVと一般排気バルブGEXと局所排気バルブEXVの開度を制御している。さらに、近年では、室内外の圧力差を計測し、この圧力差に基づいて室圧制御バルブ(PCV)の開度を微調整することで安定した室圧制御を行うPCV機能が搭載されている。このPCV機能は、給気バルブMAVと一般排気バルブGEXの何れかに、本来の機能に加えて、室圧制御動作を兼務させることで実現している。
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
  従来、PCV機能を担うバルブは、システム構築時に固定され、室圧の微調整動作をするために他のバルブよりも頻繁に動作し、動作回数が多くなるので、寿命が短くなるという問題点があった。PCV機能を担うバルブが故障した場合には、室圧制御に大きな支障をきたすことになる。
【0007】
  本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、PCV機能を担うバルブの寿命を延ばし、システム全体の稼働時間およびメンテナンス周期を延ばすことができる室圧制御システムを提供することを目的とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0008】
  本発明の室圧制御システムは、対象部屋へ吹き出す給気の風量を調節する給気バルブと、対象部屋から吸い出す排気の風量を調節する一般排気バルブと、前記給気バルブによって調節される給気風量と前記一般排気バルブによって調節される排気風量との差が所定の設定値に一致するように、給気バルブ用の制御出力値と一般排気バルブ用の制御出力値とを出力する風量制御手段と、対象部屋と所定の基準室との圧力差である室圧を計測する差圧計測手段と、前記給気バルブと前記一般排気バルブのうち室圧制御バルブとして動作させる方のバルブに対する補正制御出力値を、前記差圧計測手段によって計測された室圧と所定の設定値との偏差に基づいて演算する補正出力演算手段と、前記室圧制御バルブとして動作させる方のバルブに対応する制御出力値と前記補正制御出力値とを合算して前記室圧制御バルブに出力する合算手段と、前記給気風量と前記排気風量のうち少なくとも一方が変更中かどうかを判定する風量安定性判断手段と
、前記差圧計測手段によって計測された室圧が安定中かどうかを判定する室圧安定性判断手段とを備え、前記補正出力演算手段は、前記風量安定性判断手段によって風量変更中と判定された場合、前記室圧制御バルブの動作回数の軽減よりも室圧制御の即応性を重視した制御演算を行い、風量安定中と判定された場合、室圧制御の即応性よりも前記室圧制御バルブの動作回数の軽減を重視した制御演算を行
い、前記風量安定性判断手段によって風量安定中と判定され、かつ前記室圧安定性判断手段によって室圧安定中と判定された場合、直前の演算周期で出力していた補正制御出力値を現在の演算周期よりも後の演算周期で補正制御出力値を出力する時になるまで継続して出力することを特徴とするものである。
【0009】
  また、本発明の室圧制御システムの1構成例は、さらに、前記補正出力演算手段の演算処理に使用する複数の制御パラメータを記憶する制御パラメータ記憶手段を備え、前記補正出力演算手段は、前記風量安定性判断手段によって風量変更中と判定された場合、前記室圧制御バルブの動作回数の軽減よりも室圧制御の即応性を重視した制御パラメータを前記制御パラメータ記憶手段から読み出して使用し、風量安定中と判定された場合、室圧制御の即応性よりも前記室圧制御バルブの動作回数の軽減を重視した制御パラメータを前記制御パラメータ記憶手段から読み出して使用することを特徴とするものである。
【0010】
  また、本発明の室圧制御システムの1構成例において、さらに、前記補正出力演算手段の演算処理に使用する複数の演算周期を記憶する演算周期記憶手段を備え、前記補正出力演算手段は、前記風量安定性判断手段によって風量変更中と判定された場合、前記室圧制御バルブの動作回数の軽減よりも室圧制御の即応性を重視した演算周期の値を前記演算周期記憶手段から読み出して使用し、風量安定中と判定された場合、室圧制御の即応性よりも前記室圧制御バルブの動作回数の軽減を重視した演算周期の値を前記演算周期記憶手段から読み出して使用することを特徴とするものである。
  また、本発明の室圧制御システムの1構成例は、さらに、対象部屋に設置されたヒュームフードと、このヒュームフードの排気風量を調節する局所排気バルブと、前記ヒュームフードのサッシ面の面風速が規定値となるように前記局所排気バルブを制御する局所排気風量調節手段とを備え、前記風量制御手段は、前記給気バルブによって調節される給気風量と前記局所排気バルブおよび前記一般排気バルブによって調節される排気風量との差が所定の設定値に一致するように、給気バルブ用の制御出力値と一般排気バルブ用の制御出力値とを出力することを特徴とするものである。
 
【発明の効果】
【0011】
  本発明によれば、風量変更中と風量安定中で室圧制御の演算を変えることにより、室圧を一定に保ちつつ、室圧制御バルブの動作回数を減らすことができ、室圧制御バルブの寿命を延ばすことができる。本発明では、安価なバルブを使用しつつ、バルブの寿命を延ばすことができ、システムのコストを低減することができる。
【0012】
  また、本発明では、風量安定中で、かつ室圧安定中であれば、補正制御出力値の出力を保留し、室圧制御を保留にすることで、室圧制御バルブの動作を止めることができ、室圧制御バルブの動作回数を更に減らすことができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0014】
  以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る室圧制御システムの構成を示す図であり、
図8と同様の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の室圧制御システムは、部屋100内に設置されたヒュームフード101と、局所排気ダクト102と、給気ダクト103と、一般排気ダクト104と、局所排気バルブEXVと、給気バルブMAVと、一般排気バルブGEXと、コントローラ105,106,107と、通信線108と、部屋100と所定の基準室(本実施の形態では部屋100の外の空間)との圧力差を計測する差圧センサ109と、圧力差をチェックするための室圧モニタ110とから構成される。
 
【0015】
  図2はコントローラ105の構成例を示すブロック図、
図3はコントローラ106の構成例を示すブロック図、
図4はコントローラ107の構成例を示すブロック図である。
  コントローラ105は、局所排気バルブEXV1を制御する排気風量制御部200を有する。
  コントローラ106は、給気バルブMAVを制御する給気風量制御部201を有する。
 
【0016】
  コントローラ107は、一般排気バルブGEXを制御する排気風量制御部202と、所定の風量切替制御動作時において給気風量と排気風量を漸次変更する風量変更部203と、給気風量と排気風量のうち少なくとも一方が変更中かどうかを判定する風量安定性判断部204と、差圧センサ109によって計測された室圧が安定中かどうかを判定する室圧安定性判断部205と、給気バルブMAVと一般排気バルブGEXのうち室圧制御バルブとして動作させる方のバルブに対する補正制御出力値を、差圧センサ109によって計測された室圧と所定の設定値に基づいて演算する補正出力演算部206と、室圧制御バルブとして動作させる方のバルブに対応する制御出力値と補正制御出力値とを合算して合算値を室圧制御バルブに出力する合算部207と、補正出力演算部206の演算処理に使用する複数の制御パラメータを記憶する制御パラメータ記憶部208と、補正出力演算部206の演算処理に使用する複数の演算周期を記憶する演算周期記憶部209とを有する。
 
【0017】
  コントローラ105の排気風量制御部200は、局所排気風量調節手段を構成している。コントローラ106の給気風量制御部201とコントローラ107の排気風量制御部202と風量変更部203とは、風量制御手段を構成している。
 
【0018】
  なお、本実施の形態では、風量変更部203と風量安定性判断部204と室圧安定性判断部205と補正出力演算部206と合算部207と制御パラメータ記憶部208とをコントローラ107に設けているが、これに限るものではなく、風量変更部203と風量安定性判断部204と室圧安定性判断部205と補正出力演算部206と合算部207と制御パラメータ記憶部208とを他のコントローラに設けてもよいし、図示しない中央監視装置に設けてもよい。
 
【0019】
  次に、室圧制御システムの通常時の風量バランス制御動作について説明する。ここでは、給気ダクト103から吹き出す給気の風量をVmav、一般排気ダクト104で吸い出す排気の風量をVgex、局所排気ダクト102で吸い出す排気の風量をVexvとする。
 
【0020】
  コントローラ105の排気風量制御部200は、ヒュームフード101のサッシ開口面積に基づいて、サッシ面の面風速が規定値(通常0.5m/s)となるように風量Vexvを定め、局所排気ダクト102の排気風量がVexvとなるように局所排気バルブEXVの開度を制御する。なお、ヒュームフード101のサッシ開口面積は、サッシセンサ112が検出するサッシ開度から求めることができるサッシ111の開口部高さと、既知のサッシ幅との乗算により決定することができる。
 
【0021】
  コントローラ107の排気風量制御部202は、総排気風量(Vgex+Vexv)が一定となるように、サッシ開閉による排気風量Vexvの変動分だけ、風量Vgexを増減させ、一般排気ダクト104の排気風量がVgexとなるように制御出力値を出して一般排気バルブGEXの開度を制御する。
 
【0022】
  コントローラ106の給気風量制御部201は、部屋100の最低換気風量を満足させるよう、少なくとも最低風量を常に吹き出すように風量Vmavを決定し、給気ダクト103の給気風量がVmavとなるように制御出力値を出して給気バルブMAVの開度を制御する。部屋100の最低換気風量を確保するため、Vmavは最低換気風量以上に設定される。
 
【0023】
  以上のような風量の設定の仕方により、ヒュームフード101が使用されていないとき(すなわち、サッシ111が全閉のとき)、式(1)が成立する。
  Vmav=Vgex+α                                          ・・・(1)
 
【0024】
  定数αは、部屋100から漏れていく風量を決定すると共に、部屋100を正圧にするか負圧にするかを決定するためのオフセット風量である。
  次に、ヒュームフード101が使用されているときには、式(2)が成立する。
  Vmav=Vgex+Vexv+α                                ・・・(2)
 
【0025】
  なお、例えば排気風量Vexvが最大風量(Vexv)maxになると、コントローラ107の排気風量制御部202は風量Vgexを減少させて風量バランスをとろうとするが、風量Vgexの減少動作だけで風量バランスをとろうとしても、一般排気バルブGEXの開度が0%になった場合には風量Vgexを更に減らすことはできない。このような場合、コントローラ106の給気風量制御部201は、式(3)が成り立つように風量Vmavを調節する。
  Vmav=Vgex+(Vexv)max+α                      ・・・(3)
 
【0026】
  以上の風量バランス制御動作によれば、ヒュームフード101のサッシ111の開閉に伴って局所排気風量Vexvが変更されたときに、この変更に伴って給気風量Vmavと排気風量Vgexが変更されることになる。
 
【0027】
  給気風量Vmavと排気風量Vgexが変更される別の例としては、作業を行わない夜間や休日などの人がいない時間帯において、省エネルギーのために、室内外の圧力差を一定に保ちつつ、給気風量Vmavと排気風量Vgexを下げる風量切替制御動作がある。この風量変更は、平日は毎日行われる。昼から夜への切り替えの例では、給気風量Vmavと排気風量Vgexを共に徐々に減らし、夜から昼への切り替えの例では、給気風量Vmavと排気風量Vgexを共に徐々に増やす。
 
【0028】
  風量切替制御動作をより具体的に説明すると、コントローラ107の風量変更部203は、昼から夜の時間帯に切り替わる場合、昼間の時間帯用にあらかじめ設定された昼間設計風量値から給気風量Vmavを徐々に減らすようにコントローラ106に対して指示を出す。コントローラ106の給気風量制御部201は、風量変更部203から指示された給気風量Vmavとなるように制御出力値を出して給気バルブMAVの開度を制御する。また、風量変更部203は、給気風量Vmavの減少に応じて排気風量Vgexが減少するように制御出力値を出す。このとき、排気風量Vgexは、式(1)または式(2)を満たすように決定される。風量変更部203は、給気風量Vmavが夜間の時間帯用にあらかじめ設定された夜間設計風量値に達するまで、風量変更を行う。
 
【0029】
  一方、風量変更部203は、夜から昼の時間帯に切り替わる場合、夜間設計風量値から給気風量Vmavを徐々に増やすようにコントローラ106に対して指示を出す。コントローラ106の給気風量制御部201は、風量変更部203から指示された給気風量Vmavとなるように制御出力値を出して給気バルブMAVの開度を制御する。また、風量変更部203は、給気風量Vmavの増加に応じて排気風量Vgexが増加するように排気用の制御出力値を出す。このとき、排気風量Vgexは、式(1)または式(2)を満たすように決定される。風量変更部203は、給気風量Vmavが昼間設計風量値に達するまで、風量変更を行う。
 
【0030】
  昼間設計風量値と夜間設計風量値の1例を
図5に示す。
図5の例では、昼間の給気風量Vmavを2400m
3/h、局所排気風量Vexvを1080m
3/h、排気風量Vgexを1120m
3/h、オフセット風量αを200m
3/hとしている。また、夜間の給気風量Vmavを400m
3/h、局所排気風量Vexvを100m
3/h、排気風量Vgexを100m
3/h、オフセット風量αを200m
3/hとしている。
 
【0031】
  給気風量Vmavと排気風量Vgexが変更される例としては、他に部屋100の燻蒸や未利用時に給排気ファンを停止する場合と給排気ファンの停止状態から通常の運動状態に切り替える場合があり、さらに温度制御によって給気風量Vmavが変更される場合がある。
 
【0032】
  次に、以上のような動作と並行して行われる室圧制御バルブ(PCV)制御動作について説明する。
図6はPCV制御動作を説明するフローチャートである。本実施の形態では、一般排気バルブGEXをPCVとして機能させるものとする。
  コントローラ107の風量安定性判断部204は、給気風量Vmavと排気風量Vgexのうち少なくとも一方が変更中かどうかを判定する(ステップS100)。
 
【0033】
  コントローラ107の補正出力演算部206は、風量安定性判断部204によって風量変更中と判定された場合(ステップS100においてYES)、風量変更中に対応するPIDパラメータを制御パラメータ記憶部208から読み出して内部に設定する(ステップS101)。
 
【0034】
  一方、コントローラ107の室圧安定性判断部205は、給気風量Vmavと排気風量Vgexが変更されておらず、風量安定中と判定された場合(ステップS100においてNO)、室圧(室内外の圧力差)が安定中かどうかを判定する(ステップS102)。室圧安定性判断部205は、室圧の設定値SPと差圧センサ109によって計測された室圧dPEとの偏差の絶対値|SP−dPE|が室圧安定しきい値(例えば3Pa)以内である状態が室圧安定判定時間(例えば3秒)以上継続した場合、室圧安定中と判定し、偏差の絶対値|SP−dPE|が室圧変動しきい値(例えば4.5Pa)以上である状態が室圧変動判定時間(例えば30秒)以上継続した場合、室圧変動中と判定する。
 
【0035】
  コントローラ107の補正出力演算部206は、風量安定性判断部204によって風量安定中と判定され、かつ室圧安定性判断部205によって室圧変動中と判定された場合(ステップS102においてNO)、風量安定中に対応するPIDパラメータを制御パラメータ記憶部208から読み出して内部に設定する(ステップS103)。
 
【0036】
  風量変更中のPIDパラメータと風量安定中のPIDパラメータの1例を
図7に示す。周知のとおり、PIDパラメータとしては、比例帯P、積分時間I、および微分時間Dがある。風量変更中の比例帯Pは200Pa、積分時間Iは0.1分、微分時間Dは0分である。一方、風量安定中の比例帯Pは200Pa、積分時間Iは0.2分、微分時間Dは0分である。
図7の例では、風量変更中のI=0.1分に対して、風量安定中はI=0.2分というように、積分時間Iを変更している。このように、各々の制御状態に最適なPIDパラメータが制御パラメータ記憶部208に予め登録されている。
 
【0037】
  ステップS101またはS103によるPIDパラメータの設定後、補正出力演算部206は、設定値SPと室圧dPEとの偏差がなくなるように風量Vgexの増減分を周知のPID制御アルゴリズムにより演算し、演算した増減分だけ一般排気ダクト104の排気風量Vgexが変わるように補正制御出力値を出す(ステップS104)。
 
【0038】
  コントローラ107の合算部207は、排気風量制御部202が出力した排気用の制御出力値または風量変更部203が出力した排気用の制御出力値と、補正出力演算部206が出力した補正制御出力値とを合算して一般排気バルブGEXに出力する(ステップS105)。風量バランス制御動作中であれば、排気風量制御部202が出力した排気用の制御出力値と補正制御出力値とが合算され、風量切替制御動作中であれば、風量変更部203が出力した排気用の制御出力値と補正制御出力値とが合算されることになる。こうして、風量バランス制御動作または風量切替制御動作による一般排気バルブGEXの開度調整と同時に、PCV制御動作による一般排気バルブGEXの開度微調整が行われ、室圧が制御される。
 
【0039】
  一方、補正出力演算部206は、風量安定性判断部204によって風量安定中と判定され、かつ室圧安定性判断部205によって室圧安定中と判定された場合(ステップS102においてYES)、上記PID制御アルゴリズムによって演算した補正制御出力値の出力を保留し、直前の演算周期で出力していた補正制御出力値を現在の演算周期よりも後の演算周期で補正制御出力値を出力する時になるまで継続して出力する(ステップS106)。補正制御出力値は、上記のとおり排気用の制御出力値と合算され一般排気バルブGEXに出力されるが(ステップS105)、ここでは風量安定中のために制御出力値は直前の値から変更されておらず、補正制御出力値も直前の値のまま維持されている。したがって、一般排気バルブGEXは動作せず、現在の開度を維持することになる。
  こうして、室圧制御が終了するまで(ステップS107においてYES)、ステップS100〜S106の処理が演算周期ごとに繰り返し行われる。
 
【0040】
  以上のように、本実施の形態では、風量変更中と風量安定中で室圧制御のPIDパラメータを変えることにより、室圧を一定に保ちつつ、一般排気バルブGEXの動作回数を減らすことができ、一般排気バルブGEXの寿命を延ばすことができる。風量変更中の場合、室圧変化に対して厳しく風量制御をする必要がある。したがって、一般排気バルブGEXの動作回数の軽減よりも室圧制御の即応性を重視したPIDパラメータを用いる。一方、風量安定中の場合、一般排気バルブGEXの開度微調整を頻繁にしなくても、室圧を一定に保つことができる。そこで、風量安定中の場合には、室圧制御の即応性よりも一般排気バルブGEXの動作回数の軽減を重視したPIDパラメータを用いる。
 
【0041】
  また、本実施の形態では、風量安定中で、かつ室圧安定中であれば、補正制御出力値の出力を保留し、室圧制御を保留にすることで、一般排気バルブGEXの動作を止めることができ、一般排気バルブGEXの動作回数を更に減らすことができる。
 
【0042】
  室圧制御システムでは、安全のため室内外の圧力差が逆転しないように、室圧を一定に保つことが重要となる。この要求を満たし、かつ低価格、長寿命、高信頼性のシステムであることが要求される。システムを低価格にするためには、安価なバルブを採用する必要があり、寿命対策が必要となる。本実施の形態では、安価なバルブを使用しつつ、バルブの寿命を延ばすことができ、システムのコストを低減することができる。
 
【0043】
  なお、本実施の形態では、風量変更中と風量安定中で室圧制御のPIDパラメータを変えているが、これに限るものではなく、風量変更中と風量安定中で室圧制御の演算周期を変えるようにしてもよい。具体的には、補正出力演算部206は、風量変更中の場合、一般排気バルブGEXの動作回数の軽減よりも室圧制御の即応性を重視した演算周期の値を演算周期記憶部209から読み出して使用し、風量安定中の場合、室圧制御の即応性よりも一般排気バルブGEXの動作回数の軽減を重視した演算周期の値を演算周期記憶部209から読み出して使用する。風量安定中の場合のPIDの演算周期は、風量変更中の演算周期よりも長くなっている。
 
【0044】
  また、本実施の形態では、一般排気バルブGEXをPCVとして機能させているが、給気バルブMAVをPCVとして機能させるようにしてもよい。ただし、給気バルブMAVをPCVとして機能させる場合、風量バランス制御動作時においては合算部207は、コントローラ106の給気風量制御部201が出力する制御出力値と補正出力演算部206が出力する補正制御出力値とを合算して給気バルブMAVに出力する。また、風量切替制御動作時においては合算部207は、風量変更部203が出力する給気用の制御出力値と補正出力演算部206が出力する補正制御出力値とを合算して給気バルブMAVに出力する。
 
【0045】
  本実施の形態で説明した各コントローラ105,106,107は、例えばCPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。各コントローラ105,106,107のCPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。
  なお、本実施の形態では、局所排気装置の1つとしてフュームフードを示したが、安全キャビナットなど、フュームフードと同様の役割を果たす装置にも適用可能である。