特許第5778483号(P5778483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778483
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】機械式鉄筋継手
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/18 20060101AFI20150827BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   E04C5/18 102
   E04G21/12 105E
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-119134(P2011-119134)
(22)【出願日】2011年5月27日
(65)【公開番号】特開2012-246676(P2012-246676A)
(43)【公開日】2012年12月13日
【審査請求日】2014年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】青山 尚樹
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−177412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/18
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の鉄筋を軸方向端で継ぐ鉄筋継手であって、
鉄筋挿通孔を中心に有する平面形状が環状の定着板を、前記鉄筋挿通孔の中心軸方向に間隔を開けて複数枚配置し、これら複数枚の定着板を、前記鉄筋挿通孔の周囲の複数箇所で繋ぎ棒により連結してなり、前記2本の鉄筋が両端の前記定着板の鉄筋挿通孔にそれぞれ挿通され、これらの鉄筋と共に打設コンクリート内に埋め込まれ、前記各繋ぎ棒は、断面形状が、前記鉄筋挿通孔の中心側が狭まる扇形状である機械式鉄筋継手。
【請求項2】
請求項1において、前記繋ぎ棒は、互いに定着板の直径方向に離れた2本である機械式鉄筋継手。
【請求項3】
2本の鉄筋を軸方向端で継ぐ鉄筋継手であって、
鉄筋挿通孔を中心に有する平面形状が環状の定着板を、前記鉄筋挿通孔の中心軸方向に間隔を開けて複数枚配置し、これら複数枚の定着板を、前記鉄筋挿通孔の周囲の複数箇所で繋ぎ棒により連結してなり、前記2本の鉄筋が両端の前記定着板の鉄筋挿通孔にそれぞれ挿通され、これらの鉄筋と共に打設コンクリート内に埋め込まれ、前記繋ぎ棒は、互いに定着板の直径方向に離れた2本である機械式鉄筋継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄筋コンクリート構造物の配筋において2本の鉄筋を軸方端で継ぐ機械式鉄筋継手に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、住宅における基礎等の鉄筋コンクリート構造物の配筋では、2本の鉄筋を軸方向端で継ぐのに、フックもなく、添え筋およびバインド線を用いた重ね継手が採用されている。この重ね継手は、必要な定着力を得る上で、重ね長さも長くなっている。重ね継手の一形態として、先組鉄筋方式もあるが、繋ぐ箇所も多く添え筋の数が多くなり施工性が悪いという問題がある。
【0003】
重ね継手の上記課題を解決するものとして、機械式鉄筋継手がある。従来の機械式鉄筋継手としては、鋳物で製作した鋼管にグラウトを充填するグラウト充填式鉄筋継手(例えば、特許文献1)や、ネジ式鉄筋継手(例えば、特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−324112公報
【特許文献2】特開2004−300386公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のグラウト充填式鉄筋継手では、現場でのグラウト施工、エポキシ樹脂施工などの工程が必要となり、グラウトの養生期間により工期が長くなる。また、ネジ式鉄筋継手では、別工程として、ネジのトルク管理が必要となる。このように従来の機械式鉄筋継手は、いずれも別工程が生じてしまう。しかも、従来の機械式鉄筋継手は、継手本体の構造が複雑であったり、製作に精度を要するなど、コスト増にとなってしまう。
【0006】
この発明の目的は、定着長さが短くて済み、施工性にも優れ、かつコスト低減が可能な機械式鉄筋継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の機械式鉄筋継手は、2本の鉄筋を軸方向端で継ぐ鉄筋継手であって、鉄筋挿通孔を中心に有する平面形状が環状の定着板を、前記鉄筋挿通孔の中心軸方向に間隔を開けて複数枚配置し、これら複数枚の定着板を、前記鉄筋挿通孔の周囲の複数箇所で繋ぎ棒により連結してなる。前記2本の鉄筋が両端の前記定着板の鉄筋挿通孔にそれぞれ挿通され、これらの鉄筋と共に打設コンクリート内に埋め込まれる。
【0008】
この構成によると、定着板の鉄筋挿通孔内に挿入された一方の鉄筋の外周面に生じた付着力による支圧力、特に、鉄筋が異形鉄筋である場合は鉄筋外周の節に生じた支圧力が、コンクリートを介して定着板に向かう力となって、他方の鉄筋を挿入した定着板に伝達され、他方に鉄筋に伝達されることになる。そのため、支圧力の伝達効率が向上し、定着長さの低減が可能となる。また、2本の鉄筋のそれぞれを定着板の鉄筋挿通孔に定位置まで差し込むだけで良く、グラウト注入や、ネジのトルク管理等の別工程を要することなく両鉄筋を継ぐことができる。そのため施工が簡単になる。バインド線の施工が必要となる重ね継手に比べても施工が簡単になる。施工管理についても、目視だけで可能となる。しかも、定着板を繋ぎ棒で連結しただけで簡素な構成であるため、機械式鉄筋継手の製造コストも低減できる。
定着板の数は、両端の2枚だけであっても良く、また中間にも設けて3枚以上としても良い。定着板の数を増減することで、様々な鉄筋強度に対応することが可能となる。
【0009】
この発明において、前記各繋ぎ棒は、断面形状が、前記鉄筋挿通孔の中心側が狭まる扇形状としても良い。繋ぎ棒の断面形状を扇形とすることで、繋ぎ棒が邪魔とならずに、鉄筋の付着面積を大きく得ることができ、鉄筋の外周面に生じた付着力による支圧力が確保できる。なお、上記の「扇形状」とは、外周の円弧状と辺が直線状となった扇形、つまり三角形状を含む意味である。
【0010】
この発明において、前記繋ぎ棒は、互いに定着板の直径方向に離れた2本であっても良い。繋ぎ棒の本数は3本以上としても良いが、直径方向に離れた2本とすると、定着板に挿入された鉄筋と繋ぎ棒の配置の断面形状が平坦となる。そのため、この機械式鉄筋継手の存在する位置であっても、定着板から外れた位置であると、せん断補強筋のフック状の部分を配筋することができる。例えば、接続する鉄筋が布基礎の主筋である場合、機械式鉄筋継手の2本の繋ぎ棒を上下に位置させることで、せん断補強筋の上端のフック部を、主筋の側面に沿わせて、上下の繋ぎ棒と主筋に掛けるように配筋することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の第1の機械式鉄筋継手は、2本の鉄筋を軸方向端で継ぐ鉄筋継手であって、鉄筋挿通孔を中心に有する平面形状が環状の定着板を、前記鉄筋挿通孔の中心軸方向に間隔を開けて複数枚配置し、これら複数枚の定着板を、前記鉄筋挿通孔の周囲の複数箇所で繋ぎ棒により連結してなり、前記2本の鉄筋が両端の前記定着板の鉄筋挿通孔にそれぞれ挿通され、これらの鉄筋と共に打設コンクリート内に埋め込まれるため、定着長さが短くて済み、施工性にも優れ、かつコスト低減が可能という効果が得られる。また、前記各繋ぎ棒は、断面形状が、前記鉄筋挿通孔の中心側が狭まる扇形状であるため、繋ぎ棒が邪魔とならずに、鉄筋の付着面積を大きく得ることができ、鉄筋の外周面に生じた付着力による支圧力が確保できる。
この発明の第2の機械式鉄筋継手は、2本の鉄筋を軸方向端で継ぐ鉄筋継手であって、鉄筋挿通孔を中心に有する平面形状が環状の定着板を、前記鉄筋挿通孔の中心軸方向に間隔を開けて複数枚配置し、これら複数枚の定着板を、前記鉄筋挿通孔の周囲の複数箇所で繋ぎ棒により連結してなり、前記2本の鉄筋が両端の前記定着板の鉄筋挿通孔にそれぞれ挿通され、これらの鉄筋と共に打設コンクリート内に埋め込まれ、前記繋ぎ棒は、互いに定着板の直径方向に離れた2本であるため、定着長さが短くて済み、施工性にも優れ、かつコスト低減が可能という効果が得られる。また、定着板に挿入された鉄筋と繋ぎ棒の配置の断面形状が平坦となり、そのため、この機械式鉄筋継手の存在する位置であっても、定着板から外れた位置であると、せん断補強筋のフック状の部分を配筋することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)はこの発明の第1の実施形態にかかる機械式鉄筋継手の正面図、(B)は同右側面図、(C)は(A)におけるIc−Ic矢視断面図である。
図2】(A)は同機械式鉄筋継手を配置した鉄筋の継手部を示す正面図、(B)は同右側面図、(C)は(A)におけるIIc −IIc 矢視断面図である。
図3】同継手部にせん断補強筋を配置した状態を示す断面図である。
図4】(A)はこの発明の他の実施形態にかかる機械式鉄筋継手の正面図、(B)は同右側面図、(C)は(A)におけるIVc −IVc 矢視断面図である。
図5】(A)はこの発明のさらに他の実施形態にかかる機械式鉄筋継手の正面図、(B)は同右側面図、(C)は(A)におけるVc−Vc矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図3と共に説明する。この実施形態の機械式鉄筋継手1は、住宅の基礎などの鉄筋コンクリート構造物の配筋において2本の鉄筋を軸方向端で継ぐ鉄筋継手であって、図1(A)に正面図で示すように2枚の定着板2,2を、それらの平面が対面し合うように、対面方向に間隔を開けて配置し、対面する定着板2,2を複数本の繋ぎ棒3で連結したものである。定着板2は、例えば円形の鋼板からなり、鉄筋が挿通される鉄筋挿通孔4を中心に有する平面形状が環状の板部材である。繋ぎ棒3は例えば鋼棒からなり、両定着板2,2の互いに対面し合う平面における鉄筋挿通孔4の周囲の複数箇所において、溶接等で連結している。この連結により、複数枚の定着板2,2と繋ぎ棒3とが互いに接合された一体の機械式鉄筋継手1となる。
【0014】
繋ぎ棒3は、この例では2本とされ、定着板2の平面における鉄筋挿通孔4を挟んで直径方向に離間する2つの部位にそれぞれ接続される。繋ぎ棒3は、図1(C)に断面図で示すように、断面形状が鉄筋挿通孔4の中心側が狭まる扇形とされている。より具体的には、繋ぎ棒3は、断面の円弧部分が定着板2の外周に沿う円弧状となり、両側の側辺が鉄筋挿通孔4の中心側で1点で繋がる扇形とされている。繋ぎ棒3の断面形状は、外周の円弧状となる辺が直線状となった扇形、つまり三角形状であっても良く、また外周の円弧状の辺と、両側辺と、内周の円弧状の辺とでなる扇形であってもよい。また、2本の繋ぎ棒3の断面積の総和は、継がれる鉄筋、つまり定着板2の鉄筋挿通孔4に挿通される鉄筋の断面積以上とされる。
【0015】
図2は、鉄筋コンクリート構造物の配筋において、前記機械式鉄筋継手1を用いて主筋となる2本の鉄筋5をそれらの軸方向端で継いだ状態を示す。2本の鉄筋5のうち、1本の鉄筋5は片方の定着板2の鉄筋挿通孔4から挿通され、他の1本の鉄筋5はもう片方の定着板2の鉄筋挿通孔4から挿通され、2枚の定着板2の配置部の中間位置で前記両鉄筋5の軸方向端が、若干の隙間を介して対面する。この場合の鉄筋5は、表面に軸方向に沿うリブ5aと、外周面に沿う半円状または円形の節5bを有する異形鉄筋である。
【0016】
2本の鉄筋5,5の接続作業としては、上記のように2本の鉄筋5を機械式鉄筋継手1の定着板2の鉄筋挿通孔4に差し込むだけで良い。この後、機械式鉄筋継手1の空間部に専用の充填材を充填することなく、型枠内にコンクリートを打設して硬化させる。機械式鉄筋継手1の空間部には、その打設されたコンクリートが充填される。
【0017】
図3は、前記機械式鉄筋継手1を用いた図2の鉄筋5の継手部に、先端をU字状のフック部6aとしたせん断補強筋6を係合させて配置した断面図を示す。
【0018】
この構成の機械式鉄筋継手1によると、2本の鉄筋5のそれぞれを定着板2の鉄筋挿通孔4に挿通させて定位置に配置するだけで、グラウト施工やモルタル注入施工などの別工程を要することなく両鉄筋5を継ぐことができる。そのため、従来の機械式鉄筋継手よりも飛躍的に施工が簡単となり、従来の添え筋を用いた継手の場合よりも施工が簡単になり、施工コストを低減できる。
この機械式鉄筋継手1の場合、応力伝達につき説明すると、定着板2の鉄筋挿通孔4に挿通された鉄筋5にコンクリートが付着し、コンクリート付着部に生じた支圧力(付着力)がコンクリートを介して定着板2に向かう力となる。この力は、定着板2と繋ぎ棒3を介して一方の鉄筋5から他方の鉄筋5に力が伝達される。また、定着板2を用いたことで、前記支圧力(付着力)の伝達効率が向上し、定着長さの低減が可能となる。すなわち、鉄筋5の定着長さに加えて、鉄筋5に付着したコンクリート部が定着板2で抵抗するため、定着長さを従来の機械式鉄筋継手に比べて短くできる。
この機械式鉄筋継手1は、定着板2を繋ぎ棒3で連結しただけの簡素な構成であるため、機械式鉄筋継手1の製造コストも低減できる。さらに、品質も目視で確認することができるので、施工管理が容易となる。
【0019】
また、この実施形態では、繋ぎ棒3の断面形状を、鉄筋挿通孔4の中心側が狭まる扇形としているので、鉄筋の5の外周面が繋ぎ棒3で狭められることがない。そのため、定着板2の鉄筋挿通孔4に挿通された鉄筋5の表面のコンクリート付着面積が広くなり、それだけ前記支圧力(付着力)を大きくすることができる。
【0020】
さらに、この実施形態では、2本の繋ぎ棒3を、定着板2の平面における鉄筋挿通孔4を挟んで径方向に離間する2つの部位に接続しているので、定着板2以外は鉄筋5の外径と同じ外径となる。そこで、この機械式鉄筋継手1を、その繋ぎ棒3が上下に並ぶ縦姿勢に配置すれば、図3のように鉄筋5の継手部において、鉄筋5の外径に合わせて、せん断補強筋6のU字状のフック部6aを係合させて配置することができる。
【0021】
図4は、この発明の他の実施形態を示す。この機械式鉄筋継手1では、図1図3に示した第1の実施形態において、両端の定着板2の他に、その中間位置にさらに1枚の定着板2が加えられて、合計3枚の定着板2が使用されている。繋ぎ棒3は、左端の定着板2と中間の定着板2との間、および右端の定着板2と中間位置の定着板2との間をそれぞれ連結する。繋ぎ棒3は、隣合う定着板2,2間に設けられてものであっても、また両端の2枚の定着板2,2間に渡って通され、中間の定着板2については繋ぎ棒3が挿通される部分が切り欠かれたものであっても良い。その他の構成は、図1図3の実施形態の場合と同様である。
【0022】
このように、この実施形態では、左右の定着板2の中間位置にも定着板2を配置した場合、圧縮力をより効率良く伝達することが可能となる。
【0023】
図5は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この機械式鉄筋継手1では、図4に示した先の実施形態において、中間位置の定着板2のほかに、左端の定着板2と中間位置の定着板2との間、および右端の定着板2と中間位置の定着板2との間にも、それぞれ別の定着板2を配置し、これらの互いに隣り合う定着板2の間をそれぞれ繋ぎ棒3で連結している。その他の構成は、図1図3の実施形態の場合と同様である。この例においても、繋ぎ棒3は、隣合う定着板2,2間に設けられてものであっても、また両端の2枚の定着板2,2間に渡って通され、中間の定着板2については繋ぎ棒3が挿通される部分が切り欠かれたものであっても良い。
【0024】
このように、この実施形態では、左右両端と中間位置以外にも定着板2を配置しているので、より効率的な応力伝達が可能となる。また、定着板2の枚数を増加することで鉄筋強度を高めることができると共に、その枚数を増減することで様々な鉄筋強度に対応することができる。
【符号の説明】
【0025】
1…機械式鉄筋継手
2…定着板
3…繋ぎ棒
4…鉄筋挿通孔 5…鉄筋
図1
図2
図3
図4
図5