特許第5778525号(P5778525)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778525
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】作業車の変速操作構造
(51)【国際特許分類】
   B60K 20/00 20060101AFI20150827BHJP
   B60K 20/02 20060101ALI20150827BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   B60K20/00 F
   B60K20/00 D
   B60K20/02 D
   A01C11/02 330C
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-187746(P2011-187746)
(22)【出願日】2011年8月30日
(65)【公開番号】特開2013-49328(P2013-49328A)
(43)【公開日】2013年3月14日
【審査請求日】2013年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(74)【代理人】
【識別番号】100137590
【弁理士】
【氏名又は名称】音野 太陽
(74)【代理人】
【識別番号】100169915
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 政宏
(74)【代理人】
【識別番号】100174780
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】國安 恒寿
(72)【発明者】
【氏名】小谷 伸介
【審査官】 河端 賢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−097547(JP,A)
【文献】 特開2000−257459(JP,A)
【文献】 特開2005−193816(JP,A)
【文献】 特開2006−082716(JP,A)
【文献】 特開2004−298021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 20/00
A01C 11/02
B60K 20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の走行速度を変速する変速装置の変速操作具が、中立エリアを介して前進変速用操作径路と後進変速用操作径路とに亘った一連の変速用操作経路を移動操作可能に設けられ、前記変速用操作経路に沿って前記変速操作具を操作するに伴ってアクセルを連動させる連動手段が設けられている作業車の変速操作構造であって、
前記変速操作具は、変速レバーで構成され、
前記連動手段は、
枢支軸芯周りに揺動することで前記アクセルを連動させるアクセル調整アームを、前記変速レバーと前記アクセルとの間に介在させ、前記変速レバーの操作によってレバー外周部が前記アクセル調整アームの縁部に当接して、前記枢支軸芯周りに前記アクセル調整アームを揺動させるように構成されており、
前記中立エリアには、エンジンのアイドリング状態を保持するアイドリング中立位置が備えられ、
前記変速レバーをこの位置に操作することで前記エンジンが停止されるエンジン停止用操作位置が、前記アイドリング中立位置に隣接する状態に備えられ、
前記アイドリング中立位置から前記エンジン停止用操作位置に前記変速レバーを位置させることによるエンジン停止時には、前記アクセル調整アームが操作されずにアイドリング状態に対応する位置に残された状態で、前記エンジンが停止するようにする非連動手段が設けられており、
前記非連動手段は、
前記変速レバーを前記エンジン停止用操作位置に位置させても、前記変速レバーが前記アクセル調整アームに当接しないように、前記アクセル調整アームの縁部に形成された切欠きで構成されている作業車の変速操作構造。
【請求項2】
前記変速レバーの前記中立エリアに、前記アイドリング中立位置よりもエンジン回転が高くなるアクセルアップ中立位置を備えている請求項1に記載の作業車の変速操作構造。
【請求項3】
前記変速用操作経路は、左右方向に横長の前記中立エリアと、
前記中立エリアの一方の端部から前方に延びる前記前進変速用操作経路と、
前記中立エリアの他方の端部から後方に延びる前記後進変速用操作経路とを備えて構成してあり、
前記エンジン停止用操作位置は、前記中立エリアの一方の端部に設けてある請求項1又は2に記載の作業車の変速操作構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の走行速度を変速する変速装置の変速操作具が、中立エリアを介して前進変速用操作径路と後進変速用操作径路とに亘った一連の変速用操作経路を移動操作可能に設けられ、前記変速用操作経路に沿って前記変速操作具を操作するに伴ってアクセルを連動させる連動手段が設けられている作業車の変速操作構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の作業車の変速操作構造としては、変速用操作経路の平面形状が、図14に示すように、前進変速用操作経路Fを前後方向に配置し、その後端部に、横方向に折れ曲がった中立エリアNの一端部が連続状態に設けられ、中立エリアNの他端部に、後方に折れ曲がった後進変速用操作経路Rが連続状態に配置されているものがあった(例えば、特許文献1参照)。
また、主変速レバー(変速操作具に相当)46を案内する案内溝72を備えたガイド板71の上面には、前進変速用操作経路Fに重複するように第1カム部材(アクセル調節アームに相当)91が支点g周りに揺動可能に枢支連結されるとともに、後進変速用操作経路Rに重複するように第2カム部材(アクセル調整アームに相当)92が支点h周りに揺動可能に枢支連結されている。そして、各カム部材91,92の後端部にはワイヤ93,94がそれぞれ連結され、このワイヤ93,94が、前記エンジン12に装備された機械式のアクセル95の調速レバー96にそれぞれ連結されている。また、各カム部材91,92の後端部にはワイヤ93,94を弛める方向に各カム部材91,92を揺動付勢するバネ97,98が連結されており、各カム部材の付勢揺動限界がガイド板71上のストッパ99,100によって接当規制されている。
前記アクセル95は、両ワイヤ93,94が弛むと「低速」側に揺動し、いずれかのワイヤ93,94が引かれると「高速」側に揺動するようになっており、主変速レバー46が中立エリアNにある時には、両ワイヤ93,94が共に弛められてアクセル95はアイドリング回転速度(例えば1700rpm)に維持されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−298021号公報(図10図11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の作業車の変速操作構造によれば、例えば、アイドリング状態が続くような場合、燃料が無駄に消費されることになる。これを防ぐ為には、その都度、エンジンキーを切り操作する必要があるが、操作が繁雑となりやすい。そこで、エンジン停止の操作を簡単に実施できるようにする為には、主変速レバーを中立エリアに位置するように操作したその動作に継続させて、レバーを握ったままエンジン停止ができるようにすることが好ましい。
具体的には、図14に示すように、中立エリアNに分岐させてエンジン停止用操作位置ESを設け、この位置に主変速レバー53を移動操作することでエンジンが停止するように構成することが考えられる。
しかしながら、この場合、エンジン停止用操作位置ESに主変速レバー46を移動操作すると、図14に示すように、第1カム部材91を「高速」側に揺動させてしまい一時的にエンジン回転が上がってしまう不具合がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、エンジン停止を叶える上での不具合を解決できる作業車の変速操作構造を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、走行機体の走行速度を変速する変速装置の変速操作具が、中立エリアを介して前進変速用操作径路と後進変速用操作径路とに亘った一連の変速用操作経路を移動操作可能に設けられ、前記変速用操作経路に沿って前記変速操作具を操作するに伴ってアクセルを連動させる連動手段が設けられている作業車の変速操作構造であって、
前記変速操作具は、変速レバーで構成され、
前記連動手段は、
枢支軸芯周りに揺動することで前記アクセルを連動させるアクセル調整アームを、前記変速レバーと前記アクセルとの間に介在させ、前記変速レバーの操作によってレバー外周部が前記アクセル調整アームの縁部に当接して、前記枢支軸芯周りに前記アクセル調整アームを揺動させるように構成されており、
前記中立エリアには、エンジンのアイドリング状態を保持するアイドリング中立位置が備えられ、
前記変速レバーをこの位置に操作することで前記エンジンが停止されるエンジン停止用操作位置が、前記アイドリング中立位置に隣接する状態に備えられ、
前記アイドリング中立位置から前記エンジン停止用操作位置に前記変速レバーを位置させることによるエンジン停止時には、前記アクセル調整アームが操作されずにアイドリング状態に対応する位置に残された状態で、前記エンジンが停止するようにする非連動手段が設けられており、
前記非連動手段は、
前記変速レバーを前記エンジン停止用操作位置に位置させても、前記変速レバーが前記アクセル調整アームに当接しないように、前記アクセル調整アームの縁部に形成された切欠きで構成されているところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、変速レバーをこの位置に操作することでエンジンが停止されるエンジン停止用操作位置が、変速用操作経路に分岐する状態に備えられているから、変速レバーを握ったまま、連続してエンジン停止用操作位置に移動操作することができ、簡単にエンジン停止を行えるようになる。
また、非連動手段を設けてあることで、エンジン停止用操作位置に変速レバーを位置させるエンジン停止操作を行う時に、変速レバーの操作がアクセルに連動しないようになり、従来のようにエンジンの回転が停止前に一時的に上がってしまうことがなくなる。従って、エンジンの回転が一時的に上がるようなことなくエンジンを停止させることができ、従来の不具合を解決することができる。
【0008】
【0009】
また、エンジン停止用操作位置がアイドリング中立位置に隣接させてあるから、変速レバーを、中立エリアのアイドリング中立位置からエンジン停止用操作位置まで速やかに移動操作することができ、アイドリング状態から迅速なエンジン停止を叶えることができる。
変速レバーが、アクセル調整アームの切欠き内に位置することで連動手段の連動を断てるようになり、アクセル調整アームの構造を簡単なものにできながら、非連動手段の効果を叶えることができるようになる。
従って、部品の構成の簡単化、部品加工の簡単化によってコストダウンを叶えることができる。
【0010】
本発明の第2の特徴構成は、前記変速レバーの前記中立エリアに、前記アイドリング中立位置よりもエンジン回転が高くなるアクセルアップ中立位置を備えているところにある。
【0011】
本発明の第2の特徴構成によれば、アクセルアップ中立位置に変速操作具を位置させることによって、エンジン回転をアイドリング状態より高くすることができる。
従って、寒冷時や寒冷地などでより確実にエンジン始動を行うのに有効であったり、例えば、ぬかるみ等から作業車を脱出させる際のように、エンジンを高回転にしておいて一気に始動させる場合に効果的である。具体的には、変速レバーをアクセルアップ中立位置に位置させてエンジン回転を上げた状態から、例えば、後進変速用操作径路に移動させることで、高回転を保った状態で作業車を後進させることができ、ぬかるみ等から一気に脱出させることができる。
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
本発明の第の特徴構成は、前記変速用操作経路は、左右方向に横長の前記中立エリアと、前記中立エリアの一方の端部から前方に延びる前記前進変速用操作経路と、前記中立エリアの他方の端部から後方に延びる前記後進変速用操作経路とを備えて構成してあり、
前記エンジン停止用操作位置は、前記中立エリアの一方の端部に設けてあるところにある。
【0017】
本発明の第の特徴構成によれば、中立エリアを挟んで前方側に前進変速用操作経路、後方側に後進変速用操作経路を設けてあるから、現実の操作方向と作業車の移動方向とが一致し、操作性に富んでいる。
また、中立エリアを左右方向に横長に設けてあるから、前進変速用操作経路と後進変速用操作経路との間で、一気に前後進が切り替わるのを防止でき、作業車への負担の少ない稼動を実現することができる。
そして、エンジン停止用操作位置を中立エリアの前進変速用操作経路側の端部に設けてあるから、変速レバーを中立エリアの操作延長線上に操作することでエンジン停止用操作位置に移動することができ、簡単に間違いなくエンジン停止を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】田植機の全体側面図
図2】田植機の全体平面図
図3】変速操作構造の側面図
図4】変速操作構造の正面図
図5】変速操作構造の平面図
図6】変速操作構造を示す分解斜視図
図7】抵抗手段の作用を示す説明図
図8】連動手段を示す平面図
図9】連動手段を示す平面図
図10】連動手段を示す平面図
図11】別実施形態の連動手段を示す平面図
図12】別実施形態の連動手段を示す平面図
図13】移動規制レバーの作用を示す説明図
図14】従来の変速操作構造の平面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
図1図2に、作業車の一例として乗用型の田植機が示されている。この乗用型田植機は、操向自在な左右一対の前輪1と操向不能な左右一対の後輪2とを備えた乗用型の走行機体3の後部に、苗植付け装置4が油圧シリンダ5によって駆動される平行四連式のリンク機構6を介して昇降自在に連結されるとともに、機体後部に施肥装置7が装備された構造となっている。
【0020】
走行機体3における機体フレーム8の前部には、前輪1を軸支したミッションケース9が連結固定されるとともに、機体フレーム8の後部には、後輪2を軸支した後部伝動ケース10がローリング自在に支持されている。また、ミッションケース9から前方に延出された前フレーム11にエンジン12が横向きに搭載されてボンネット13で覆われているとともに、エンジン12の後方に位置する搭乗運転部には、前輪1を操向操作するためのステアリングハンドル14、運転座席15、ステップ16などが備えられ、また、機体前部の左右には、予備苗を複数段に載置収容する予備苗のせ台17が設けられている。
【0021】
苗植付け装置4は、6条分の苗を載置して左右方向に設定ストロークで往復移動される苗のせ台21、苗のせ台21下端から1株分づつ苗を切り出して田面Tに植付けてゆく6組の回転式の植付け機構22、植付け箇所を整地する3個の整地フロート23、等を備えて構成されている。また、前記施肥装置7は、運転座席15と苗植付け装置4との間において走行機体3上に搭載されており、粉粒状の肥料を貯留する肥料ホッパー24、この肥料ホッパー24内の肥料を設定量づつ繰り出す繰出し機構25、繰り出された肥料を供給ホース26を介して各整地フロート23に備えた作溝器27に風力搬送する電動ブロア28、などを備えており、作溝器27によって田面Tに形成した溝に肥料を送り込んで埋設してゆくよう構成されている。
【0022】
ミッションケース9の側面には静油圧式無段変速装置(HST)からなる主変速装置 (変速装置に相当)41が連結されてエンジン12にベルト連動され、その変速出力がミッションケース9に入力されて走行系と作業系とに分岐されるようになっている。
【0023】
主変速装置41は、ステアリングハンドル14の左脇に配備された主変速レバー(変速操作具に相当)46で変速操作されるようになっており、次に、この主変速レバー46を使用した変速操作構造について説明する。
【0024】
図3図4に示すように、ステアリングハンドル14を支持するよう立設されたハンドルポスト50には支持ブラケット51が固着され、この支持ブラケット51の左側端部には、支軸52を介してデテント板53が横向き支点a周りに前後揺動可能に支持され、このデテント板53に前記主変速レバー46が前後向き支点b周りに左右揺動可能に支持されている。
ハンドルポスト50を立設支持する支持枠54に、横向き支点c周りに回動可能に中継回動部材55が支持されており、この中継回動部材55とデテント板53とが連係ロッド56を介して連係され、さらに、この中継回動部材55と、主変速装置41の変速操作軸57に連結された変速アーム58とが操作ロッド59を介して連係されている。
【0025】
図5に示すように、前記支持ブラケット51にはガイド板60が固着されるとともに、このガイド板60に形成された段違い状の案内溝61に主変速レバー46の基部から下向きに延出された案内ロッド46aが貫通されており、案内溝61と案内ロッド46aとの係合案内作用によって主変速レバー46を所定の段違い操作経路(変速用操作経路に相当)K1に沿って前後に揺動操作することができる。そして、デテント板53を正逆に回動させて主変速装置41を前進域から後進域までの範囲で変速操作することが可能となっている。
【0026】
段違い操作経路K1は、段違い部位に位置する主変速装置41の中立エリアNと、その前方の前進変速用操作経路Fと、後方に後進変速用操作経路Rとで構成されている。
また、デテント板53の外周に並列形成した複数個の凹部62に(図3参照)、片持ちバネレバー63の遊端に支持したデテントローラ64を弾性係入させることで、主変速レバー46を前進の複数段、中立エリアN、および、後進の複数段の各変速位置に保持することができるようになっている。
【0027】
また、主変速レバー46の横操作中心となる前後向き支点bにはねじりバネ65が装備されており、主変速レバー46が常に前後向き支点b周りに揺動付勢されている。従って、主変速レバー46を中立エリアNに操作すると、図5に示すように、前進変速用操作経路Fに臨む前進側中立位置Nfに向けて付勢移動される。この前進側中立位置Nfが、アイドリング中立位置Dに相当する
【0028】
前記主変速レバー46は、主変速装置41を操作するのみならず、エンジン12の起動・停止およびエンジン回転速度の調整に関わっており、以下そのための構成について説明する。
【0029】
主変速レバー46が中立エリアNにあると所定のアイドリング回転速度にセットされるとともに、主変速レバー46が前進変速用操作経路Fおよび後進変速用操作経路Rにおいて高速側に操作されるほどエンジン回転速度が高くなるように、主変速レバー46とエンジン12のアクセル95とが連係されている(後述の連動手段110、図8参照)。
【0030】
また、主変速レバー46をこの位置に操作することでエンジン12が停止されるエンジン停止位置(エンジン停止用操作位置に相当)ESが、段違い操作経路K1に分岐する状態に設けられている。詳細には、前記案内溝61における前進側中立位置Nfの横外側にエンジン停止位置ESが設定されるとともに、主変速レバー46の案内ロッド46aがこのエンジン停止位置ESに操作されたことを検知するスイッチ73がガイド板60に装備されている。
スイッチ73は制御装置20を介してエンジン停止回路に接続されており(図3参照)、主変速レバー46の案内ロッド46aがエンジン停止位置ESに設定時間(例えば数秒)連続して操作されると、エンジン停止回路が起動されてエンジン12が停止されるようにプログラムされている。
【0031】
尚、ガイド板60には、中立エリアNとエンジン停止位置ESとにわたった主変速レバー46の移動に抵抗を付与する抵抗手段30が設けてあり、中立エリアNにある主変速レバー46が、不用意にエンジン停止位置ESに移動したり、エンジン停止位置ESにある主変速レバー46が、不用意に中立エリアNに移動しないように構成されている。
【0032】
抵抗手段30は、図5〜7に示すように、ガイド板60の裏面側に縦軸d周りに揺動自在に取り付けられた切替アーム部材31と、切替アーム部材31の縁部を受け止めて揺動両端部の位置決めを行うストップ突起32と、一端を前記切替アーム部材31に、他端をガイド板60に支持された引張バネ部材33とを備えて構成してあり、切替アーム部材31の揺動範囲中間部にデッドポイントPが位置する状態に引張バネ部材33と切替アーム部材31とを配置してトグル機構を構成している(図7参照)。
【0033】
切替アーム部材31は、金属板によって形成してあり、主変速レバー46の案内ロッド46aが係入可能な切欠き部31aが設けられている。
また、前記引張バネ部材33の一端部を係止する第1支持ピン31bが切替アーム部材31に取り付けられている。因みに、引張バネ部材33の他端部は、ガイド板60に設けられた第2支持ピン60aに係止されている。また、縦軸dとストップ突起32と第2支持ピン60aとは、一直線上に配置されている。
【0034】
案内ロッド46aが、図7(a)に示すように、前進側中立位置Nfに位置した状態においては、引張バネ部材33の引張付勢力とストップ突起32による抑止力とによって、切替アーム部材31は揺動始点に位置しており、切欠き部31aに案内ロッド46aが係入している。
案内ロッド46aがエンジン停止位置ES側に押し込まれるに伴って、切欠き部31aに押込力が伝わり、切替アーム部材31は、図7(b)に示すように、縦軸dを中心に揺動終点まで揺動する。その際、引張バネ部材33の軸芯Xが、第2支持ピン60aと縦軸dとを結ぶ線を越える(デッドポイントPを越える)までは、引張バネ部材33の引張付勢力が案内ロッド46aを戻す方向(中立エリアN側に戻す方向)に作用し、主変速レバー46の操作に第1抵抗力を付与する。
尚、第1抵抗力は、ねじりバネ65によって主変速レバー46を中立エリアNにおける前進側中立位置Nfに向けて付勢している付勢力よりは大きな値となるように設定されている。
【0035】
また、案内ロッド46aを、エンジン停止位置ESから中立エリアN側に戻すと、切欠き部31aに戻し力が伝わり、切替アーム部材31は、図7(a)に示すように、縦軸dを中心に揺動始点まで揺動する。その際、引張バネ部材33の軸芯Xが、第2支持ピン60aと縦軸dとを結ぶ線を越える(デッドポイントPを越える)までは、引張バネ部材33の引張付勢力が案内ロッド46aを戻す方向(エンジン停止位置ES側に戻す方向)に作用し、主変速レバー46の操作に第2抵抗力を付与する。
【0036】
本実施形態においては、切替アーム部材31の揺動角度αにおいて、図7に示すように、揺動始点からデッドポイントPまでの角度α1を、デッドポイントPから揺動終点までの角度α2よりも大きく設定してあるから、力積としての観点から、前記第1抵抗力は、第2抵抗力よりも大きい。
【0037】
また、切欠き部31aの幅寸法は、案内ロッド46aに対する遊びを考慮してあることで、切欠き部31a内において案内ロッド46aが当接する位置が、前進側中立位置Nfからエンジン停止位置ESに向かって案内ロッド46aが移動する時と、その逆方向に移動する時とで異なり、縦軸d周りに作用する回転モーメントも異なる。その結果、単純な力の大きさの観点からも、前記第1抵抗力は、第2抵抗力よりも大きくなっている。
【0038】
スイッチ73は、図7(a)に示すように、切替アーム部材31が揺動始点側に位置している状態では、切替アーム部材31の縁部が、スイッチ73の検知部73aを押圧していることで、OFFの状態となっている。即ち、主変速レバー46が、段違い操作経路K1に位置している時は、OFFの状態となっており、制御装置20のエンジン停止回路を作動させることはない。
また、図7(b)に示すように、切替アーム部材31が揺動終点側に位置している状態では、切替アーム部材31が、スイッチ73の検知部73aから離れるからONの状態となっている。即ち、主変速レバー46が、エンジン停止位置ESに位置することで、ONの状態となり、制御装置20を介してエンジン停止回路が起動され、エンジン12が停止される。
この後、主変速レバー46を、エンジン停止位置ESから前進側中立位置Nfに戻した後、ブレーキペダル(不図示)を踏み操作するとエンジン12が始動する。
【0039】
尚、主変速レバー46は、前述のように、上端部の操作部分と下端部の案内ロッド46aとの間を前記横向き支点a、前後向き支点bによって枢支されて揺動操作自在に形成されているから(図3図4参照)、主変速レバー46の操作部分での操作方向は、案内ロッド46aの位置では逆方向の動きとなって前記抵抗手段30に反映される。
即ち、主変速レバー46を前方に操作すると、案内ロッド46aはガイド板60の案内溝61内を後方に移動し、同様に、後方に操作すると案内ロッド46aは前方に、右側に操作すると案内ロッド46aは左側に、左側に操作すると案内ロッド46aは右側に移動する。
【0040】
次に、段違い操作経路K1に沿って主変速レバー46を操作するに伴ってアクセル95を連動させる連動手段110について図8〜10を用いて説明する。
前記ガイド板60の上面には、前進変速用操作経路Fに重複するように第1カム部材 (アクセル調節アームに相当)91が支点g周りに揺動可能に枢支連結されるとともに、後進変速用操作経路Rに重複するように第2カム部材(アクセル調整アームに相当)92が支点h周りに揺動可能に枢支連結されている。
【0041】
そして、各カム部材91,92の後端部にはワイヤ93,94がそれぞれ連結され、このワイヤ93,94が、前記エンジン12に装備された機械式のアクセル95の調速レバー96にそれぞれ連結されている。また、各カム部材91,92の後端部にはワイヤ93,94を弛める方向に各カム部材91,92を揺動付勢するバネ97,98が連結されており、各カム部材91,92の付勢揺動限界がガイド板60上のストッパ99,100によって接当規制されている。
【0042】
前記アクセル95は、両ワイヤ93,94が弛むと「低速」側に揺動し、いずれかのワイヤ93,94が引かれると「高速」側に揺動するようになっており、主変速レバー46が中立エリアNにある時には、両ワイヤ93,94が共に弛められてアクセル95はアイドリング回転速度(例えば1700rpm)に維持されるように構成されている。
【0043】
図9(a)に示すように、主変速レバー46を中立エリアNから前進変速用操作経路Fに進入させるに伴って、主変速レバー46の外周面が第1カム部材91を押し退け、第1カム部材91を支点g周りに揺動させる。その揺動によって、ワイヤ93が引かれてアクセル95を「高速」側に操作することができる。
また、図9(b)に示すように、主変速レバー46を中立エリアNから後進変速用操作経路Rに進入させるに伴って、主変速レバー46の外周面が第2カム部材92を押し退け、第2カム部材92を支点h周りに揺動させる。その揺動によって、ワイヤ94が引かれてアクセル95を「高速」側に操作することができる。
前記両カム部材91,92、両ワイヤ93,94によって前記連動手段110が構成されている。
【0044】
また、第1カム部材91には、図10に示すように、前記エンジン停止位置ESに移動操作した前記主変速レバー46の干渉を避けるように縁部に切欠き91Aが形成してある。従って、主変速レバー46をエンジン停止位置ESに移動操作してエンジン12を停止させる時には、主変速レバー46は切欠き91Aの空間に位置するから第1カム部材91を押圧して揺動させることがない。即ち、主変速レバー46と第1カム部材91との機械的な力伝達が無いから、エンジン停止位置ESに主変速レバー46を移動する操作に伴ってはアクセル95は連動しない。
前記切欠き91Aによって非連動手段111が構成されている。
尚、第1カム部材91は、図6に示すように、揺動先端側部分を厚み方向に変位させるようにクランク形状に屈曲形成してあり、第2カム部材92と干渉しないように構成してある。
【0045】
第2カム部材92は、図10に示すように、ストッパ100に当接するようにバネ98で引っ張られたストップエンドの状態では、中立エリアNの内の後進側中立位置Nrに被さるように設けられている。従って、主変速レバー46を前進側中立位置Nfから後進側中立位置Nrに移動操作するに伴って、第2カム部材92に当接して揺動させ、ワイヤ94を引くことになる。
その結果、アクセル95が引かれてアイドリング状態よりエンジン回転が少し高くなり、後進するときのパワーを高めることができる。これは、例えば、寒冷時や寒冷地などでより確実にエンジン始動を行うのに有効であったり、ぬかるみ脱出等に有効である。
当該実施形態においては、主変速レバー46の後進側中立位置Nrを、アクセルアップ中立位置Uという。
当該実施形態の第2カム部材92は、EFI仕様のエンジン用に設計されたものを例に挙げている。
【0046】
また、第2カム部材92の端部側には、前記スイッチ73と同様の構造のスイッチ74がガイド板60に取り付けてある。このスイッチ74は、第2カム部材92の端部がスイッチ74の検知部74aから離れる状態がONとなり、検知部74aを押圧する状態がOFFとなる(図6及び図10参照)。
従って、主変速レバー46が後進変速用操作経路Rに移動操作されるに伴って、第2カム部材92が支点h周りに揺動し、スイッチ74が上述のONとなり(図9(b)参照)、苗植付け装置4を上昇方向に移動させるように制御装置20にデータを送信する。
一方、主変速レバー46が前進変速用操作経路Fに移動操作されるに伴って、第2カム部材92が支点h周りに揺動復帰し、スイッチ74が上述のOFFとなる(図9(a)参照)。
【0047】
当該作業車の変速操作構造によれば、主変速レバー46の前後操作方向と田植機の前後移動方向とが一致し、操作性に富んでいると共に、主変速レバー46を握ったままエンジン停止位置ESに移動操作するだけで、簡単に間違いなくエンジン停止を行うことが出来る。
また、非連動手段111を設けてあることで、エンジン12を低い回転のまま停止させることができ、しかも、各カム部材91,92の構造は簡単なものであるから、部品加工の簡単化によってコストダウンを叶えることができる。
【0048】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0049】
〈1〉 前記バネ97,98は、先の実施形態で説明したように各カム部材91,92を戻す為に用いられているが、例えば、アクセル95側に備えたアイドリング状態への復帰用バネ(不図示)を強化することで、バネ97,98をすべて省略することができ、コストダウンを叶えることができる。ただ、第2カム部材92に前記スイッチ74を連動状態に設ける場合は、図11に示すように、検知部74aと第2カム部材92との接触抵抗が作用するから、アイドリング状態への復帰をより確実にする為に、バネ98のみを設けることが好ましい。
【0050】
〈2〉 前記第2カム部材92は、先の実施形態で説明したEFI仕様のエンジン用に設計されたものに限るものではなく、例えば、図12に示すように、キャブレター仕様のエンジン用に設計されたものであってもよい。具体的には、ワイヤ94が取り付いている側の端縁部の切欠き92Aの形状が異なっている。
【0051】
〈3〉 前記前進変速用操作経路Fに沿った主変速レバー46の移動長さを、図13に示すように、前進変速用操作経路Fの一部に出現して短く規制する移動規制レバー80を設けてあってもよい。移動規制レバー80は、ガイド板60の下面に沿って、縦軸e周りに揺動自在に取り付けてあり、揺動基端部は、操作ノブ80aとして構成してあり、揺動先端部は、前進変速用操作経路F上で主変速レバー46の周部を受け止める半円形の切欠き80bが設けてある。前記操作ノブ80aを持って揺動操作し、図13(b)に実線で示してある作用状態と、二点鎖線で示してある非作用状態とに切り替えることができる。また、移動規制レバー80には、上面に位置決め用突起80cが形成してあり、ガイド板60の対応する下面部分には、位置決め用開口60bが形成してある。前記非作用状態においてこの両者が嵌合するように相互の位置が設定されている。また、前記作用状態においては、前記位置決め用突起80cは、案内溝61内に位置して、ずれ止めを図っている。
【0052】
〈4〉 前記エンジン停止用操作位置ESは、中立エリアNの延長線上での前進側中立位置Nfに隣接させた位置に設けられることに限らず、例えば、中立エリアNの延長線上での後進側中立位置Nrに隣接させた位置に設けてあってもよい。
また、中立エリアNの前進側中立位置Nfと後進側中立位置Nrとの間に分岐させて設けてあってもよい。
また、前進側中立位置Nfから前進変速用操作経路Fと反対側に隣接させて設けたり、後進側中立位置Nrから後進変速用操作経路Rと反対側に隣接させて設けるものであってもよい。
また、前進変速用操作経路Fの途中から、左側又は右側に分岐させて設けてあってもよい。
【0053】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
当該作業車の変速操作構造は、田植機に替えてコンバイン等の他の作業車にも利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
3 走行機体
12 エンジン
41 主変速装置(変速装置に相当)
46 主変速レバー(変速操作具に相当)
91 第1カム部材(アクセル調節アームに相当)
91A 切欠き
92 第2カム部材(アクセル調整アームに相当)
95 アクセル
110 連動手段
111 非連動手段
K1 段違い操作経路(変速用操作経路に相当)
N 中立エリア
ES エンジン停止位置(エンジン停止用操作位置に相当)
F 前進変速用操作経路
D アイドリング中立位置
R 後進変速用操作経路
U アクセルアップ中立位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14