特許第5778540号(P5778540)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778540
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20150827BHJP
   F16C 33/56 20060101ALI20150827BHJP
   F16C 33/34 20060101ALI20150827BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   F16C33/46
   F16C33/56
   F16C33/34
   F16C19/26
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-208530(P2011-208530)
(22)【出願日】2011年9月26日
(65)【公開番号】特開2013-68302(P2013-68302A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2014年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】中川 勉
(72)【発明者】
【氏名】西村 雅
(72)【発明者】
【氏名】大石 真司
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−041250(JP,A)
【文献】 特開2006−038048(JP,A)
【文献】 特開平10−026141(JP,A)
【文献】 特開2005−256857(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/108134(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0098364(US,A1)
【文献】 米国特許第04428628(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/46
F16C 19/26
F16C 33/34
F16C 33/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に円筒形の外輪軌道を有する外方部材と、外周面に円筒形の内輪軌道を有する内方部材と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けた複数のころと、ころを周方向に所定間隔で収容保持するポケットを有する全体が円筒状で、周方向に隣り合う各ポケット間に柱部と、この柱部の軸方向の両側に円環部を備える保持器とからなり、ころの外周面に、中央のストレート部とその両側のクラウニング部を有し、ポケットの柱部の壁面に、周方向に凹む逃がし溝を設けたころ軸受において、柱部の逃がし溝の軸方向長さを、ころのストレート部の軸方向長さよりも長く形成したことを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記保持器のポケットの軸方向長さQと、ころの軸方向長さNと、ころのストレート部の軸方向長さLと、柱部に形成した逃がし溝の軸方向長さMとが、Q−N=Rとした場合に、M>L+Rの関係を保っていることを特徴とする請求項1記載のころ軸受。
【請求項3】
前記外輪軌道と保持器の外径との間に形成される外側油路の隙間間隔よりも、内輪軌道と保持器の内径との間に形成される内側油路の隙間間隔を大きく設定している請求項1又は2記載のころ軸受。
【請求項4】
前記保持器の材料が樹脂材料である請求項1〜3のいずれかに記載のころ軸受。
【請求項5】
前記保持器の材料が鉄製材料である請求項1〜3のいずれかに記載のころ軸受。
【請求項6】
前記樹脂材料がポリアミド66又はポリアミド46である請求項4に記載のころ軸受。
【請求項7】
前記樹脂材料がポリエーテルエーテルケトン又はポリフェニレンサルファイドである請求項4に記載のころ軸受。
【請求項8】
前記樹脂材料を、グラスファイバーにより繊維強化している請求項6又は7に記載のころ軸受。
【請求項9】
前記請求項1〜8のいずれかに記載のころ軸受を使用した遊星歯車減速装置。
【請求項10】
前記外方部材を遊星歯車、内方部材を支持ピンとした請求項8記載の遊星歯車減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遊星歯車減速装置に用いて好適なころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ころ軸受21は、図4図6に示すように、内周面に円筒形の外輪軌道22を有する外方部材23と、外周面に円筒形の内輪軌道24を有する内方部材25と、これら外輪軌道22と内輪軌道24との間に転動自在に設けた複数のころ26とからなる。
【0003】
ころ26は、全体が円筒状に形成された保持器27に転動自在に保持されている。保持器27は、周方向に所定間隔でころ26を収容するポケット28を有し、周方向に隣り合う各ポケット28間に柱部29と、柱部29の軸方向の両側に円環部30とを備えている。
【0004】
保持器27の柱部29には、軸方向両側の内径側と外径側とに、ころ26の抜け落ちを防止する内側突起部31と外側突起部32を設けている。
【0005】
例えば、柱部29の軸方向中間部と軸方向両端の3か所には、径方向内外に延びる油道33A、33Bが、内側突起部31と外側突起部32が形成された部分を除いて設けられる。そして、保持器27の径方向内側から外側に遠心力によって潤滑油を前記各油道33A、33Bを介して流通させることにより、潤滑油の流れやころ軸受21内における潤滑油の油量を確保している。
【0006】
このように構成されるころ軸受21は、例えば、遊星歯車減速装置の各減速歯車機構における遊星歯車(外方部材23)を支持ピン(内方部材25)によって軸支する場合に使用される。
【0007】
特に、建機等で使用される大型の減速歯車装置では、重荷重条件と取付け誤差を考慮して、ころ26には、外周面の中央がストレート部26a、その両側が両端に向かって径がなだらかに小さくなるようにクラウニング加工したクラウニング部26bからなるクラウニング付きのものが使用される。
【0008】
そして、重荷重、大きな取付け誤差になるにつれて、クラウニング部26bのドロップ量(図4のd)と軸方向長さを大きくしなければならず、ストレート部26aの軸方向長さが短くなる。
【0009】
ストレート部26aの軸方向長さが短くなると、ストレート部26aに掛かる面圧が大きくなり、ストレート部26aの領域で油膜切れを起こしやすい。
【0010】
特に近年、歯車減速装置メーカではコスト削減の流れから、歯車の仕上げ加工の省略等で表面粗さが大きくなっており、歯車のかみ合いにより粗さの突起が脱落するなどして、多量の摩耗粉が発生しているケースも多々見受けられる。したがって、金属摩耗粉によるころの摩耗を防止することが重要な課題になっている。
【0011】
このような摩耗粉対策として、特許文献1には、ポケット28の柱部9の壁面に、異物や摩耗粉を流通させる逃がし溝を設けるということが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−41250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、上記のように、ポケット28の柱部9の壁面に、異物や摩耗粉を流通させる逃がし溝を設けても、ストレート部26aの領域における油膜切れを防止することができず、クラウニング付きころが早期に破損するという問題がある。
【0014】
そこで、この発明は、ストレート部の領域における油膜切れを生じ難くすることにより、クラウニング付きころの長寿命化を図ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を解決するために、この発明は、内周面に円筒形の外輪軌道を有する外方部材と、外周面に円筒形の内輪軌道を有する内方部材と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けた複数のころと、ころを周方向に所定間隔で収容保持するポケットを有する全体が円筒状で、周方向に隣り合う各ポケット間に柱部と、この柱部の軸方向の両側に円環部を備える保持器とからなり、ころの外周面に、中央のストレート部とその両側のクラウニング部を有し、ポケットの柱部の壁面に、周方向に凹む逃がし溝を設けたころ軸受において、柱部の逃がし溝の軸方向長さを、ころのストレート部の軸方向長さよりも長く形成したことを特徴とする。
【0016】
そして、前記保持器のポケットの軸方向長さQと、クラウニング付きころの軸方向長さNと、ころのストレート部の軸方向長さLと、柱部に形成した逃がし溝の軸方向長さMは、Q−N=Rとした場合に、M>L+Rの関係が保たれている。
【0017】
前記保持器の材料は、樹脂材料又は鉄製材料によって形成される。
【0018】
前記樹脂材料としては、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド等を使用することができ、グラスファイバーにより繊維強化してもよい。
【0019】
この発明に係るころ軸受は、遊星歯車減速装置に使用することができ、その場合、外方部材を遊星歯車、内方部材を支持ピンとして使用される。
【発明の効果】
【0020】
この発明のころ軸受は、柱部の逃がし溝の軸方向長さを、ころのストレート部の軸方向長さよりも長く形成しているので、クラウニング付きころのストレート部の軸方向の全長に亘り、十分な油膜厚さが確保されるので、ストレート部の油膜切れが起こり難い。
【0021】
したがって、この発明のころ軸受は、ころが油膜切れによって損傷をうけ難く、また、ころとポケットの隙間が広く、潤滑油がスムーズに流れるため、潤滑油中に混入した金属摩耗粉等の塵埃がポケット内に滞留し難いので、金属摩耗粉が発生しやすい遊星歯車減速装置に使用しても、長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明に係るころ軸受の一実施形態を部分的に示す平面図である。
図2図1のII−II線の断面図である。
図3図1のIII−III線の断面図である。
図4】従来のころ軸受を部分的に示す平面図である。
図5図4のV−V線の断面図である。
図6図5のVI−VI線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の実施の形態について図1図3に基づいて説明する。
ころ軸受1は、内周面に円筒形の外輪軌道2を有する外方部材3と、外周面に円筒形の内輪軌道4を有する内方部材5と、これら外輪軌道2と内輪軌道4との間に転動自在に設けた複数のころ6とからなる。
【0024】
ころ6は、金属材料等から円筒状体として形成され、針状ころ、棒状ころ等として構成され、全体が円筒状に形成された保持器7に規則正しく配列して保持されている。
【0025】
ころ6は、ころ外周面が中央のストレート部6aとその両側のクラウニング部6bとからなるクラウニング付きのものを使用している。
【0026】
保持器7は、周方向に所定間隔でころ6を規則正しく収容する矩形状のポケット8を有し、樹脂材料を射出成形等の手段を用いることにより形成される。保持器7は、ポケット8が内径側から外径側に貫通するように形成され、周方向に隣り合う各ポケット8間に柱部9と、柱部9の軸方向の両側に円環部10を備える。
【0027】
ポケット8の柱部9の壁面には、周方向に凹む逃がし溝16を内径側から外径側に貫通するように形成されている。
【0028】
この柱部9の逃がし溝16の軸方向長さMは、ころ6のストレート部6aの軸方向長さLより長く形成されており、次の関係を満足している。
【0029】
即ち、前記保持器7のポケット8の軸方向長さQと、クラウニング付きころ6の軸方向長さNと、ころ6のストレート部6aの軸方向長さLと、柱部9に形成した逃がし溝16の軸方向長さMは、Q−N=Rとした場合に、M>L+Rの関係が保たれている。
【0030】
保持器7を形成する樹脂材料としては、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド等を使用することができ、グラスファイバーにより繊維強化してもよい。
【0031】
保持器7の柱部9には、軸方向両側の内径側と外径側とに、ころ6の抜け落ちを防止する内側突起部11と外側突起部12を設けている。
【0032】
柱部9の軸方向中間部と軸方向両端の3か所には、径方向内外に延びる油道13A、13Bが、内側突起部11と外側突起部12が形成された部分を除いて設けられる。そして、保持器7の径方向内側から外側に遠心力によって潤滑油を前記各油道13A、13Bを介して流通させることにより、潤滑油の流れやころ軸受1内における潤滑油の油量を確保している。
【0033】
この発明においては、柱部9に逃がし溝16を形成しているので、逃がし溝16によって潤滑油がスムーズに流通し、ころのストレート部の油膜切れが起こり難く、また、ポケット8内の潤滑油の流通が良好であるので、ポケット8内に金属摩耗粉等の塵埃が滞留しない。
【0034】
図1図3に示す実施形態では、前記外輪軌道2と保持器7の外径との間に形成される外側油路14の隙間間隔よりも、内輪軌道4と保持器7の内径との間に形成される内側油路15の隙間間隔を大きく設定している。
【0035】
これにより、内側油路15から外側油路14への潤滑油の流通が多くなり、潤滑油による冷却効果も向上する。
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明のころ軸受1は、例えば、遊星歯車減速装置の各減速歯車機構における遊星歯車(外方部材3)を支持ピン(内方部材5)によって軸支する場合に使用される。
【0037】
このような場合、外方部材3と保持器7との間に形成される隙間が外側油路14を形成し、内方部材5と保持器7との間に形成される隙間が内側油路15を形成し、遊星歯車減速装置の外形を構成するハウジング内の潤滑油が、外側油路14と内側油路15を通ってころ軸受1内に流入する。そして、流入した潤滑油は、遊星歯車が回転するときに生じる遠心力によって、各油道13A、13Bを介して保持器7の径方向内側から外側に向けて流れてハウジング内に放出される。これにより、ころ軸受1の潤滑性が高められている。
【符号の説明】
【0038】
1 ころ軸受
2 外輪軌道
3 外方部材
4 内輪軌道
5 内方部材
6 ころ
6a ストレート部
6b クラウニング部
7 保持器
8 ポケット
9 柱部
10 円環部
11 内側突起部
12 外側突起部
13A 油道
13B 油道
14 外側油路
15 内側油路
16 逃がし溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6