(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記校正データは検量線であり、分離分析法を用いて測定した前記校正物質のヘモグロビンA1c量の測定値と、前記校正物質の表記値とを用いて、前記検量線を作成することを含む、請求項1記載の校正方法。
前記高速液体クロマトグラフィー法が、陽イオン交換クロマトグラフィー法、陰イオン交換クロマトグラフィー法、分配クロマトグラフィー法、逆相分配クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法、及びゲルろ過クロマトグラフィー法からなる群から選択される、請求項4記載の校正方法。
前記キャピラリー電気泳動法が、キャピラリーゾーン電気泳動法、キャピラリー等電点電気泳動法、キャピラリー動電クロマトグラフィー法、キャピラリー等速電気泳動法、及びキャピラリーゲル電気泳動法からなる群から選択される、請求項4記載の校正方法。
分離分析法を用いて試料中のヘモグロビンA1cを含む成分を分離し、ヘモグロビンA1c量を測定する分析装置を制御するコンピュータに処理を実行させる分析プログラムであって、
請求項1から6のいずれかに記載の校正方法により校正データを得る処理と、
測定により得られたヘモグロビンA1c量を、前記校正データを用いて補正する処理とを、コンピュータに実行させる分析プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、分離分析法を用いたHbA1c量の測定において、1点のみの校正物質を用いた1点校正であっても、2点以上の校正物質を用いた校正を行った場合と同程度の精度のHbA1c値が得られるという知見に基づく。
【0013】
分離分析法を用いたHbA1c量の測定(測定装置)では、通常、どの方法であっても2点以上の校正物質を用いた校正法を採用している。なぜなら、校正に使用する検量線を1点のみの校正物質を用いて作成した場合、検量線がゼロ点を通らず、2点以上の校正物質を用いて校正しないと十分な精度が得られないと考えられていたからである。具体例として、ADAMS A1c HA−8170(商品名、アークレイ製)では、HbA1c値の表記値が約35mmol/molと約90mmol/molの2種類の校正物質を用いて、測定装置の校正が実施されている。また、検量線がゼロ点を通らない(検量線のバイアスが生じる)理由としては、測定対象となる安定型HbA1cと同程度の溶出時間を有する安定型HbA1c以外のマイナーコンポーネント(例えば、不安定型HbA1c分画、カルバミル化Hb分画、アセチル化Hb分画等)の存在や、各装置固有の問題として考えられていた。これらの理由により、当該分野において、分離分析法を用いたHbA1cの測定では2点以上の校正物質を用いた校正法が必須であると考えられており、2点未満の校正物質による校正の可能性について議論すらされていなかった。
【0014】
これに対し、本発明者は、例えば、測定時間の短縮の点からは、校正点(校正物質)の数は少ない方がよいことから、校正点の数及び測定精度についての検討を行ったところ、分離分析における安定型HbA1c(s−HbA1c)の分離性能と検量線のバイアスとの関係性を見出した。具体的には、検量線のバイアスは、s−HbA1c分画と、s−HbA1c分画の前後に分離されるs−HbA1c以外のHbマイナーコンポーネントの相互干渉に依存するものであることを見出した。すなわち、本発明は、s−HbA1c以外のHbマイナーコンポーネントの影響を排除することによって、今まで不可能であると考えられていた1点校正による校正が可能であるとの知見に基づく。さらに、本発明は、後述する分離指数が所定の範囲となる条件で分離分析を行うことにより、1点校正による校正が可能であるとの知見に基づく。
【0015】
本発明によれば、分離分析法を用いたHbA1c量の測定において、校正を1種類の校正物質を使用した1点校正で行うことから、例えば、校正に要する時間を短縮でき、さらにはHbA1c量の測定時間を短縮できるという効果を奏する。また、本発明によれば、校正に用いる校正物質の種類が1種類でよくなることから、HbA1c量の校正及び/又は測定におけるコストパフォーマンスを向上できるという効果を好ましくは奏しうる。
【0016】
本明細書において「校正データ」とは、分離分析法を用いたHbA1c量の測定において、測定値の補正に使用するものであって、1種類の校正物質のみを使用した1点校正を行うことにより得るものである。校正データとしては、例えば、検量線が挙げられ、分離分析法を用いて測定した1種類の校正物質のHbA1c量の測定値と、校正物質の表記値とを用いて作成された検量線が好ましい。
【0017】
本明細書において「測定値」とは、本発明の校正方法により得られる校正データによって補正を行う前のHbA1c量の値のことをいい、例えば、分離分析法を用いて試料の測定を行うことにより実際に得られる実測値を含む。本明細書において「測定値の補正」とは、測定値を上記校正データを用いて補正することをいい、例えば、上記校正データを用いて測定値をより正確な値(HbA1c量の値)とすることを含む。
【0018】
本明細書において「1点校正」とは、1種類の校正物質のみを使用して得られる1点の校正点を用いて校正を行うことをいい、好ましくは1種類の校正物質を用いて得られる1つの校正点と原点とを結ぶ検量線を作成することを含み、より好ましくは1種類の校正物質のHbA1c量を分離分析法を用いて測定し、得られた測定値と、使用した校正物質に表記されているHbA1c量(表記値)とを用いて検量線を作成することを含む。
【0019】
本明細書において「ヘモグロビンA1c(HbA1c)」とは、ヘモグロビンのβ鎖のN末にグルコースが結合したものをいい、好ましくは安定型HbA1c(s−HbA1c)のことをいう。
【0020】
本明細書において「ヘモグロビンA1c量(HbA1c量)」とは、試料中又は血液中のHbA1cの濃度をいい、実用的な観点からは、HbA1c値を指すことが好ましい。本明細書において「HbA1c値」とは、試料又は血液におけるヘモグロビンに対するHbA1cの割合(HbA1c濃度/ヘモグロビン濃度)をいい、単位としては、mmol/mol又は%である。
【0021】
本明細書において「分離分析法」とは、試料に含まれる分析対象物を個別に分離しながら分析を行う方法であって、例えば、液体クロマトグラフィー法、キャピラリー電気泳動法及びキャピラリー電気クロマトグラフィー法等が挙げられる。液体クロマトグラフィー法としては、例えば、陽イオン交換クロマトグラフィー法、陰イオン交換クロマトグラフィー法、分配クロマトグラフィー法、逆相分配クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法、及びゲルろ過クロマトグラフィー法等が挙げられる。キャピラリー電気泳動法としては、例えば、キャピラリーゾーン電気泳動法、キャピラリー等電点電気泳動法、キャピラリー導電クロマトグラフィー法、キャピラリー等速電気泳動法、及びキャピラリーゲル電気泳動法等が挙げられる。
【0022】
[校正方法]
本発明は、分離分析法を用いたHbA1c量の測定において、1種類の校正物質を使用した1点校正を行うことによって、測定値の補正に使用する校正データを得ることを含む校正方法に関する。
【0023】
前記校正データは、検量線であることが好ましい。検量線は、分離分析法を用いて測定した校正物質のHbA1c量の測定値と、校正物質の表記値とを用いて作成することが好ましく、より好ましくはHbA1c値が0である物質と1点の校正点(1種類の校正物質)とを用いて検量線を作成することが好ましく、さらに好ましくは校正点(1点)について多重測定を行い、これと検量線上のゼロ点とのあいだで、最小二乗法等で直線回帰させることによって直線の検量線を得ることである。また、多重測定により得られた値の平均値を求め、それを直線で繋ぐことによって作成してもよい。
【0024】
本発明の校正方法の好ましい実施形態は、校正精度の向上の点から、例えば、以下に定義する分離指数が所定の範囲となる条件で校正物質の分離分析を行うことであり、好ましくは分離指数が0以上0.2以下となる条件で分離分析を行うことであり、より好ましくは0を超え0.2以下、さらに好ましくは0を超え0.1以下、さらにより好ましくは0を越え0.06以下である。分離指数は、分離分析により得られる分離パターンにおいて、s−HbA1c分画とその前又は後に分離される分画との間のボトム高さ(a)と、s−HbA1c分画のピーク高さ(b)とを用いて下記式によって得られる。
分離指数={s−HbA1c分画とその前又は後に分離される分画との間のボトム高さ(a)}/{s−HbA1c分画のピーク高さ(b)}
【0025】
また、ボトム高さ(a)は、測定対象となるs−HbA1cの分画と一部重複して分離される分画と、s−HbA1c分画との間のボトムの高さであることが好ましい。s−HbA1c分画とs−HbA1c分画の前に分離された分画とが一部重複している場合は、s−HbA1c分画とs−HbA1c分画の前に分離された分画との間のボトム高さが好ましい。s−HbA1c分画とs−HbA1c分画の後に分離された分画とが一部重複している場合は、s−HbA1c分画とs−HbA1c分画の後に分離された分画との間のボトム高さが好ましい。また、s−HbA1c分画が前後に分離された分画の双方と一部重複する場合は、s−HbA1c分画とHbA1c分画の前に分離された分画との間のボトム高さ及びs−HbA1c分画とs−HbA1c分画の後に分離された分画との間のボトム高さのそれぞれを用いて分離指数を求めることが好ましい。
【0026】
ボトム高さ(a)、及びs−HbA1c分画のピーク高さ(b)は、例えば、
図1に示すように測定できる。
図1は、液体クロマトグラフィーを用いたHbA1c量の測定により得られた分離パターンの一例を示すグラフである。
図1の例では、分析対象であるs−HbA1c分画が、s−HbA1c分画の前に分離された不安定型HbA1c(l−HbA1c)分画と一部重複している。このため、
図1の例では、s−HbA1c分画の前に分離されたl−HbA1c分画とs−HbA1c分画との間のボトムの高さをボトム高さ(a)とした。ボトム高さ(a)は、l−HbA1c分画とs−HbA1c分画との間の最も低い吸光度とベースの吸光度との差を求めることによって算出できる。s−HbA1c分画のピーク高さ(b)は、s−HbA1c分画の最も高い吸光度とベースの吸光度との差を求めることによって算出できる。
【0027】
液体クロマトグラフィー法を用いて分離分析を行う場合、例えば、カラム径を細くしたり、カラム長を長くしたり、流速を遅くしたり、ゲル粒径を小さくすること等によって分離精度を向上でき、上記分離精度での分離パターンを得ることができる。キャピラリー電気泳動法を用いて分離分析を行う場合、例えば、キャピラリー長を長くすることによって分離精度を向上できる。
【0028】
校正に用いる校正物質のHbA1c値(HbA1c濃度/Hb濃度)は、例えば、14〜400mmol/mol(IFCC値)であることが好ましく、校正精度及び/又は測定精度の向上の点から、より好ましくは14〜190mmol/mol、さらに好ましくは25〜150mmol/molである。また、校正に用いる校正物質のHbA1c値は、例えば、3〜40%であることが好ましく、校正及び/又は測定精度の向上の点から、より好ましくは3〜20%、さらに好ましくは4〜16%である。
【0029】
HbA1c量の測定は、例えば、HbA1cに対応する波長で吸光度を測定することにより行うことができる。HbA1cに対応する波長としては、例えば、415〜430nmの範囲の波長が挙げられる。
【0030】
[HbA1c量の測定方法]
本発明は、その他の態様として、HbA1c量を測定する方法であって、分離分析法を用いて試料のHbA1c量を測定すること、及び前記測定により得られたヘモグロビンA1c量を、上述した本発明の校正方法により得られた校正データを用いて補正することを含むHbA1c量の測定方法に関する。本発明のHbA1c量の測定方法によれば、本発明の校正方法により得られた校正データを用いてHbA1c量の測定値の補正を行うことから、例えば、校正に要する時間を短縮することができ、しいては測定時間を短縮することができる。
【0031】
本発明のHbA1c量の測定方法は、例えば、HbA1cに対応する波長で吸光度を測定することを含んでいてもよい。
【0032】
[分析装置]
本発明は、さらにその他の態様として、分離分析法を用いて試料中のHbA1cを含む成分を分離し、分離させた成分を測定する測定部と、前記測定部において、1種類の校正物質を使用した1点校正を行うことによって、測定値の補正に使用する校正データを得る制御部と、前記制御部により得られる校正データを記録する記録部とを備える分析装置であって、前記制御部は、前記測定部により得られる試料のヘモグロビンA1c量を、前記校正データを用いて補正する分析装置に関する。本発明の分析装置によれば、本発明の校正方法により得られた校正データを用いてHbA1c量の測定値の補正を行うことから、例えば、校正に要する時間を短縮することができ、しいては測定時間を短縮することができる。また好ましくは、校正データとして1点校正により得られた校正データを使用することから、分析精度を向上させることができるという効果を奏しうる。
【0033】
前記制御部は、分離分析法を用いて測定した前記校正物質のHbA1c量の測定値と、前記校正物質の表記値とを用いて検量線を作成し、得られた検量線を前記校正データとして使用することが好ましい。
【0034】
前記測定部は、試料中のHbA1cを含む成分を分離する分離デバイスを備えることが好ましい。
【0035】
本発明の分析装置は、例えば、校正データを得るために、本発明の校正方法を用いて1点校正されるモードを備えることが好ましい。
【0036】
[プログラム]
本発明は、さらにその他の態様として、上記の本発明の校正方法による校正処理をコンピュータに実行させる校正プログラムに関する。また、本発明は、さらにその他の態様として、分離分析法を用いて試料中のHbA1cを含む成分を分離し、HbA1c量を測定する分析装置を制御するコンピュータに処理を実行させる分析プログラムであって、上記本発明の校正方法により校正データを得る処理と、測定により得られたヘモグロビンA1c量を、前記校正データを用いて補正する処理とを、コンピュータに実行させる分析プログラムに関する。より具体的には、本発明の分析プログラムは、上述した分離分析法を用いて測定した1種類の校正物質のHbA1c量の測定値と、前記校正物質の表記値とを用いて検量線を作成する処理を、コンピュータに実行させる分析プログラムに関する。
【0037】
分析プログラムは、さらに、前記分析装置により得られる測定データを、前記検量線を用いて補正する処理を、コンピュータに実行させることが好ましい。
【0038】
[校正用キット]
本発明は、さらにその他の態様として、本発明の校正方法に用いるためのキットであって、前記1点校正のための1種類の校正物質を含む校正用キットに関する。本発明の校正用キットは、本発明の校正方法に用いることができる。
【0039】
本発明の校正用キットは、校正物質のHbA1c量として、例えば、HbA1c値、又はHbA1c濃度とHb濃度とが記載された添付文書を含むことが好ましい。添付文書は、該校正物質を用いて上述する校正データの作成方法等が記載されていることが好ましい。これにより、本発明の校正方法を容易に行うことができる。
【0040】
以下に、本発明の実施の形態について図面を用いて具体的に説明する。但し、以下の説明は一例に過ぎず、本発明はこれに限定されないことはいうまでもない。
【0041】
図2は、本発明の実施形態における分析装置の構成例を示す機能ブロック図である。
図2に示す分析装置10は、分離分析法を用いた分析装置であり、試料に含まれる成分を分離し、分離した成分の定量を行う。分析装置10は、記録部3と、制御部1と、測定部2を備える。測定部2は、分離分析法を用いて試料中のHbA1cを含む成分を分離し、分離させた成分を測定する。制御部1は、測定部2により得られる測定データと校正データを用いてHbA1c量を計算する。記録部3は、校正データを記録する。
【0042】
図2に示す分析装置10では、制御部1において1種類の校正物質のみを使用した1点校正を行うことによって校正データを得ている。具体的には、制御部1は、分離分析法を用いて測定した校正物質のHbA1c量の測定値と、測定に用いた校正物質の表記値とを用いて検量線を作成し、得られた検量線を上記校正データとして使用する。このように1点校正により校正データを得ることから、例えば、校正に要する時間を大幅に短縮できるとともに、簡便に校正データを得ることができる。
【0043】
校正データは、測定部2において得られる測定データを補正するために用いるものである。このように、校正データと測定データとを用いてHbA1c量を算出することにより、より精度の高いHbA1c量を得ることができる。
【0044】
校正物質の分離分析は、分離分析により得られる分離パターンにおけるs−HbA1c分画とその前又は後に分離される分画との間のボトム高さ(a)と、s−HbA1c分画のピーク高さ(b)とによって規定される上述の分離指数(=(a)/(b))が所定の範囲となる条件で行うことが好ましい。分離指数は、例えば、0以上0.2以下が好ましく、より好ましくは0を超え0.2以下、さらに好ましくは0を超え0.1以下、さらにより好ましくは0を越え0.06以下である。
【0045】
図2に示す制御部1の機能は、例えば、パーソナルコンピュータ等のCPUを備えた汎用コンピュータあるいは測定装置に内蔵されたマイクロプロセッサが、所定のプログラムを実行することにより実現することができる。記録部3は、コンピュータのプロセッサからアクセス可能なメモリ、HDD等の記録装置により構成することができる。分析装置10は、制御部1、測定部2及び記録部3が一体となった構成であってもよいし、独立した測定部2に汎用コンピュータが接続された構成であってもよい。また、コンピュータを上記制御部1として機能させるためのプログラムまたはプログラムを記録した記録媒体も本発明の実施形態に含まれる。また、コンピュータが実行する分析方法も、本発明の一側面である。ここで、記録媒体は、信号そのもののような、一時的な(non-transitory)メディアは含まない。
【0046】
以下に、実施例及び参考例を用いて本発明をさらに説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例】
【0047】
まず、下記表1に示す測定条件において、下記の2種類の校正物質を用いてHbA1c値の測定を行い、得られた2点の校正点から校正用検量線を作成した。
[2点校正用校正物質]
ADAMS A1cHA−8160専用キャリブレータ level1(HbA1c値:35mmol/mol)及びLevel2(HbA1c値:95mmol/mol)、アークレイ製)
【0048】
キャピラリー管としては、内壁にスルホン基を有するシリル化剤が共有結合で固定されて形成された陰極性層を有する溶融シリカ製のキャピラリー管(内径50μm)であって、下記表1に示す異なるキャピラリー長を有する5種類のキャピラリー管を準備した。
【0049】
ランニングバッファーとしては、100mMリンゴ酸を含有するアルギニン酸水溶液に、コンドロイチン硫酸濃度が0.5重量%となるように添加したもの(pH5.5)を準備した。
【0050】
キャピラリー管に精製水を圧力0.1MPa(1000mbar)で20分間通液し、キャピラリー管を洗浄した後、上記ランニングバッファー(pH5.5)を圧力0.1MPa(1000mbar)で通液し、キャピラリー管内にランニングバッファーを充填した。この状態で、キャピラリー管の陽極側から上記校正物質を注入し、ついでキャピラリー管の両端を10kVで印加して電気泳動を行い、415nmにおける吸光度を測定した(n=3)。
【0051】
得られた分離パターンから、s−HbA1c分画に相当する面積と、全ヘモグロビンに相当する面積とを算出し、これらを用いて全ヘモグロビンに対するs−HbA1cの割合(HbA1c値)を算出した。各校正物質に記載されているHbA1c値(mmol/mol)をY軸に、得られた各校正物質のHbA1c値(s−HbA1cに相当する面積/全ヘモグロビンに相当する面積)をX軸として検量線を作成した。得られた検量線のy切片を、2点校正時のバイアスとして下記表1に示す。
【0052】
また、得られた分離パターンから、s−HbA1c分画とその前に分離されるl−HbA1c分画との間のボトム高さ(a)と、s−HbA1c分画のピーク高さ(b)とを測定し、下記式から分離指数を算出した。その結果を下記表1に示す。
分離指数={s−HbA1c分画とl−HbA1c分画との間のボトム高さ(a)}/{s−HbA1c分画のピーク高さ(b)}
【0053】
【表1】
【0054】
上記表1に示すように、2点校正時のバイアスは分離指数に依存し、分離指数が0.20以下であれば2点校正時のバイアスが0.1mmol/mol以下となることが確認できた。
【0055】
つぎに、下記1点校正用校正物質を用いてHbA1c値の測定を行い、得られた校正点(1点のみ)と原点とを結んで検量線を作成した(1点校正)。ついで、試料のHbA1c量の測定を行い、1点校正用校正物質のみを用いて作成した検量線を用いて試料のHbA1c値を求めた。試料としては、IFCC法HbA1c測定用常用参照標準試料 JCCRM411−2 5ポイント(検査医学標準物質機構製)を使用した。
[1点校正用校正物質]
ADAMS A1cHA−8160専用キャリブレータ level2(HbA1c値:95mmol/mol)(アークレイ製)
【0056】
校正物質及び試料についてのHbA1c量の測定は、上記と同様の条件で行った。
【0057】
校正物質の分離パターンから、s−HbA1cに相当する面積と、全ヘモグロビンに相当する面積とを算出し、これらを用いて全ヘモグロビンに対するs−HbA1cの割合(HbA1c値)を算出した。ついで、校正物質に記載されているHbA1c値(mmol/mol)と得られた校正物質のHbA1c値とを用いて、y切片が0となるようにして検量線(1点校正による検量線)を作成した。
【0058】
つぎに、各試料の分離パターンから、HbA1c値(=(s−HbA1cに相当する面積)/(全ヘモグロビンに相当する面積))を算出した。得られたHbA1c値を、1点校正による検量線を用いて校正した。その結果を下記表2に測定結果として示す。下記表2において、誤差は、JCCRM411−2の表記値と測定結果(HbA1c値)との差(測定結果(HbA1c値)−(JCCRM411−2の表記値))を示す。
【0059】
【表2】
【0060】
上記表2に示すように、分離指数が小さくなるとともに、1点校正によって校正した測定値と表記値との誤差が小さくなった。特に、分離指数が0.20以下であれば、誤差は1mmol/mol以下となり略無視可能なレベルとなった。