特許第5778583号(P5778583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5778583炎症を治療するためおよび免疫応答を調節するための化合物ならびにそれらの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778583
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】炎症を治療するためおよび免疫応答を調節するための化合物ならびにそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/222 20060101AFI20150827BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   A61K31/222
   A61P37/02
   A61P29/00
   A61P43/00 105
   A61P31/04
   A61P37/06
   A61P9/00
   A61P1/00
   A61P37/08
   A61P11/00
   A61P31/10
   A61P31/12
   A61P19/02
   A61P29/00 101
   A61P9/10 101
   A61P9/10
   A61P1/04
   A61P1/16
   A61P13/12
   A61P35/02
   A61P1/02
   A61P11/02
   A61P27/02
   A61P25/16
   A61P25/04
   A61P25/02
   A61P25/28
   A61P25/14
【請求項の数】12
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2011-544934(P2011-544934)
(86)(22)【出願日】2009年12月28日
(65)【公表番号】特表2012-515155(P2012-515155A)
(43)【公表日】2012年7月5日
(86)【国際出願番号】IB2009055970
(87)【国際公開番号】WO2010079406
(87)【国際公開日】20100715
【審査請求日】2012年11月12日
(31)【優先権主張番号】61/143,925
(32)【優先日】2009年1月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】312016344
【氏名又は名称】バギ リサーチ リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】511167870
【氏名又は名称】バーシテック リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ラウ アラン サイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ライ フン シンディ
(72)【発明者】
【氏名】チク チ チャン スタンレー
(72)【発明者】
【氏名】リー クン ボン ジェイムズ
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−530691(JP,A)
【文献】 特開平10−072421(JP,A)
【文献】 特表2009−544577(JP,A)
【文献】 Tetrahedron,2005年,Vol.61, No.22,p.5261-5266
【文献】 Phytochemistry,2002年,Vol.61, No.4,p.409-413
【文献】 Journal of Chromatography A,2006年,Vol.1112, No.1-2,p.241-254
【文献】 Journal of Agricultural and Food Chemistry,2002年,Vol.50, No.24,p.7022-7028
【文献】 Joint Bome Spine,2007年,No.74,p.324-329
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における炎症を軽減するための、および/または免疫応答を調節するための薬学的組成物であって、以下の式を有する単離された化合物の有効量を含む、薬学的組成物:
式中、Rはアルキルであり;
はHあり;
、RおよびRあり;
は−Oあり;
は−Hあり;
、RおよびR12あり;
10はHあり;かつ、
11はHある。
【請求項2】
対象がヒトである、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
がメチル基である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
炎症を軽減するために用いられる、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項5】
TNF−α活性が阻害される、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項6】
感染症、環境毒素、自己免疫状態、心血管疾患、腸炎、アレルギー、移植片拒絶反応、病的な免疫細胞の増殖もしくは活性、および/または呼吸器炎症と関連性のある状態を治療するために用いられる、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項7】
関節リウマチ、乾癬、心血管疾患、炎症性腸障害、敗血症性ショック、および移植片対宿主拒絶反応からなる群より選択される状態を治療するために用いられる、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項8】
対象が哺乳動物である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項9】
哺乳動物がウシである、請求項記載の薬学的組成物。
【請求項10】
対象におけるERK1/2リン酸化を阻害するための、および/またはNF−κB活性化を抑制するための薬学的組成物であって、以下の式を有する化合物の有効量を含む、薬学的組成物:
式中、Rはアルキルであり;
はHあり;
、RおよびRあり;
は−Oあり;
は−Hあり;
、RおよびR12あり;
10はHあり;かつ、
11はHある。
【請求項11】
がメチル基ある、請求項10記載の薬学的組成物。
【請求項12】
NF−κBおよび/またはERK1/2の下流にある細胞内および/または細胞外活性を制御するために用いられる、請求項10記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年1月12日に提出された米国特許仮出願第61/143,925号の恩典を主張し、それはすべての図面および配列を含め、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
人体は、損傷、癌、微生物侵入などに応答して、その病的状態を抑えるため、および修復過程を開始するために炎症反応を生じさせる。炎症の間には、Tリンパ球、好中球およびマクロファージを含むさまざまな免疫細胞が感染部位に動員されてサイトカインを産生し、免疫応答を促進する。これらのサイトカインのうち、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)は、免疫防御を媒介する主要な炎症誘発性タンパク質の1つである。
【0003】
TNF-αは、急性期応答に加えて、腫瘍発生および関節リウマチ(RA)を含むさまざまな慢性疾患の進行にも関与することが示されている。TNF-α産生の調節不全は、腫瘍成長の開始1、細胞増殖2および浸潤3を含む、腫瘍発生のさまざまなステージに関与することが実証されている。腫瘍細胞増殖に関して、TNF-αは特定の増殖因子をアップレギュレートして悪性腫瘍成長を媒介する。このサイトカインは、血管新生を促進することで、腫瘍移行を援助する血管の成長に有利に働き、それ故に腫瘍転移において鍵となる役割を果たす。例えば、神経膠芽腫の移行およびメタロプロテイナーゼの誘導は、TNF-αの作用に対する応答として著しく強化される4
【0004】
TNF-αによって媒介される慢性疾患病態の例には、関節リウマチおよび炎症性腸疾患が含まれる。関節リウマチの患者は、滑膜組織中に低グレードの潜行性炎症を有する。炎症関節でのTNF-αの過剰産生は、関節軟骨および周囲の骨の緩徐な破壊を招くことが知られている。
【0005】
敗血症の場合などにおける感染症の急性期には、TNF-αの制御不能な産生が、宿主に有害な影響を引き起こすことがよく知られている。敗血症は非循環器系集中治療室において2番目に多い死因であり、高所得国における全死因としても10番目に多い5。敗血症を招く感染症の臨床転帰は、主として、細菌エンドトキシン(例えば、リポ多糖[LPS])による宿主免疫細胞、特に単球またはマクロファージの過剰刺激と関連性がある6-8。LPSによって過剰刺激されたマクロファージは、インターロイキン-1(IL-1)、IL-6およびTNF-αなどのメディエーターも高レベルに産生する9。これらのメディエーターは敗血症の発生病理に関係すると見なされており、宿主の死亡の寄与因子であることが見いだされている。TNF-α産生の阻害に向けられた新規治療法の開発は、上述したこれらの急性疾患および慢性疾患の治療を助ける一助になると考えられる。
【0006】
病原体およびエンドトキシンに対する曝露後には、特定のキナーゼおよび転写因子を含む細胞内シグナル伝達経路が活性されて、TNF-αの発現を誘導する。病原体誘導性TNF-α発現におけるマイトジェン活性化プロテイン(MAP)キナーゼおよび核因子κB(NF-κB)の関与は文献的に十分に立証されている10-12。マイコバクテリア、トリインフルエンザおよびHIV-1 Tatタンパク質は、MAPキナーゼを通じたTNF-αの誘導物質である13-15
【0007】
ヒトで知られているMAPキナーゼのサブタイプには、細胞外シグナル調節性キナーゼ1/2(ERK 1/2)、p38 MAPキナーゼおよびc-Jun N末端キナーゼ(JNK)の3つがある16-20。それらはタンパク質リン酸化のカスケードを通じて種々の細胞外刺激を伝達し、NF-κBなどの転写因子の活性化を招く。NF-κBの活性化は、IL-6およびTNF-αを含むサイトカインの産生において極めて重要である13-15。この過程は、I-κBキナーゼ(IKK)シグナロソーム複合体を介したI-κBのSer32およびSer36でのリン酸化、その後のプロテオソーム分解21、ならびにその結果としてのI-κBサブユニットおよびNF-κBサブユニットの解離22によって起こる。活性化されたNF-κBは、続いて細胞質から核に移行し、そこで応答性遺伝子のプロモーター領域内のκB結合部位と結合して、炎症誘発性メディエーターの転写の開始を導く。NF-κBの不適切な活性化は広範囲にわたるヒト疾患と関連性があるため23、それは治療用介入のための有望な標的と考えられている。
【0008】
アスピリン、イブプロフェンおよびインドメタシンを含む非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、関節リウマチおよび炎症性腸疾患などの炎症性疾患に伴う急性および慢性疼痛を緩和することがよく知られている。しかし、それらは進行期の関節リウマチおよび関連した自己免疫性疾患の治療には有効でない。それらの病状に対しては、ステロイド、ならびにメトトレキサートおよびシクロフォスファミドなどの細胞傷害薬が用いられる。これらの薬物には、胃腸刺激、大量出血および骨髄抑制を含む重大な有害作用が伴う。
【0009】
近年、TNF-αの中和およびその望ましくない炎症誘発作用の抑制を目的とする免疫治療薬が開発された。これらには、可溶性TNF-α受容体(エンブレル(Enbrel))および抗TNF-α抗体(インフリキシマブ(Infliximab))が含まれる。それらの新規性および疾患の進行を停止させる有効性にもかかわらず、それらは非常に費用のかかる治療レジメンである。
【0010】
天然の源から、特に微生物、植物および海洋生物から生物活性作用物質を発見する取り組みには、かなりの努力が払われている。植物は、効力のある生物学的作用を有する可能性のある、これまで知られていない種々の化学物質を含むため、新たな医薬品の代替的かつ補足的な供給源としての役割を果たす。
【0011】
伝統的な漢方薬は中国人によって2000〜3000年にわたり習慣的に用いられてきた。これは疾患の病態、ならびに診断、治療および予防に対処する。漢方薬の材料はさまざまな薬局方に記録されている。薬用植物に関する古典的な参考文献の1つは、李時珍(Li Shizhen)によって14世紀後期に執筆された本草綱目(Ben Cao Gang Mu)である。この書物は、約2,500品目に上る薬草、ならびに動物および鉱物を含む他の産物を含んでいる。
【0012】
伝統的な漢方薬に用いられる薬草は市販されている。一般的な薬草には、人参(Ren Shen)(チョウセンニンジン根(Ginseng radix))、冬帰(Gang Gui)(トウキ根(Angelica sinensis radix))、黄耆(Huang Qi)(オウギ根(Astragali radix))、甘草(Gan Cao)(ウラルカンゾウ(glycyrrhiza uralensis Fisch)、カンゾウ(Glycyrrhiza glabra L.)またはチョウカカンゾウ(Glycyrrhiza inflata Bat)の、好ましくはウラルカンゾウの根茎)、および黄岑(Huang Qin)(オウゴン根(Scutellariae radix))が含まれる。一般的に、薬草はその乾燥形態で、時にはすでに粉砕された粉末として得られる。
【0013】
ショウマ属(Cimicifuga)の根茎は、米国東部およびカナダにおいて医薬品として用いられてきた長くかつ多様な歴史を持つ26。歴史的に、アメリカ先住民はそれを倦怠感、マラリア、リウマチ、腎機能異常、咽頭痛、月経不順および月経閉止を含む種々の病状を治療するために用いてきた26-28。中国、日本および韓国を含むアジア諸国では、ブラックコホシュ(Cimicifuga racemosa)およびその同等物であるオオミツバショウマ(Cimicifuga heracleifolia)、ショウマ(Cimicifuga foetida)およびフブキショウマ(Cimicifuga dahurica)が、発熱、疼痛および炎症を治療するための伝統的な薬用植物として用いられてきた29,30
【0014】
以前の諸研究により、ヒスタミン、ブラジキニンおよびシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)により媒介される炎症作用に対するブラックコホシュ抽出物の阻害作用が実証されている31。この抽出物はまた、反応性酸素種に対するそのスカベンジング作用を通じて、メナジオン誘導性DNA損傷に対する防御作用も有する32。加えて、オオミツバショウマ抽出物は呼吸器合胞体ウイルスに対する抗ウイルス活性を有することも実証されている30。最近のある研究では、ブラックコホシュ抽出物は肝細胞癌細胞のアポトーシスおよび細胞周期停止を誘導することが示されており、これらは腫瘍進行を阻害する上で決定的な作用である33。また、月経閉止により調節される応答に対するブラックコホシュの作用も詳細に研究されている36。これらのデータは、ブラックコホシュの構成成分がエストロゲンのそれと同じように機能する可能性があることを指し示している。他の諸研究では、ブラックコホシュがサイトカインシグナル伝達を擾乱させて、他の生物学的機能を媒介することが示されている37
【0015】
現在、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎および強直性脊椎炎の治療では、モノクローナルTNF-α抗体が疾患進行の抑制に重要な役割を果たしている。同様に、いくつかの無作為化二重盲検プラセボ比較臨床試験がクローン病の患者でも行われている。これらの臨床試験の結果から、抗TNF-α抗体(インフリキシマブ(Infliximab))がその患者に対して有益な効果を有することが示されている41
【0016】
さらに、最近の諸研究では、TNF-α産生を含む炎症性反応が心血管疾患(CVD)の発生病理においても重要な役割を果たす可能性が示されている。TNF-αがアテローム発生およびアテローム硬化プラークを不安定化してそれらの破裂を招き、その結果、CVD患者における心筋梗塞または脳卒中をもたらす可能性が示唆されている。
【0017】
微生物感染症の際には、マクロファージが活性化されて、免疫応答を媒介するサイトカインを産生させる。侵入する微生物およびその生物学的特性に応じて、宿主免疫系は種々のサイトカインセットを利用して、侵入する病原体と局所的および全身的に闘う。
【0018】
1つの好例はマイコバクテリア感染症であり、この場合には炎症誘発性サイトカインTNF-αが炎症を波及させ、肉芽腫の形成によって微生物を閉じこめることにより、宿主生存において決定的な役割を果たす42。マイコバクテリア増殖を抑制する上でのTNF-αの防御的役割は、抗TNF-α抗体療法を受けている患者における結核の再燃によって例示されている43
【0019】
炎症誘発性サイトカインの作用は防御的であるものの、それらの過剰産生は宿主にとって有害作用を有する可能性がある。事実、炎症誘発性サイトカインの制御不能な誘導は、低血圧、臓器不全、さらには死亡などの合併症を招く恐れがある44,45。実際に、内毒素血症患者におけるTNF-αの過剰産生は重篤で有害な症状を招く。関節リウマチなどの慢性疾患において、TNF-α過剰発現は損傷因子であることが知られており、それは進行性の関節破壊を伴う46
【発明の概要】
【0020】
簡単な概要
本発明は、免疫調節活性および/または抗炎症活性を有する、化合物およびこれらの化合物を含む組成物を提供する。ある態様において、TNF-αに対するこれらの化合物の作用のために、それらは炎症と特異的には関連性のない免疫調節活性を有する。
【0021】
本発明の1つの態様は、薬草から単離された化合物に関連する。有利なことに、この化合物は強力な抗炎症作用および免疫調節作用を有する。
【0022】
本発明はしたがって、以下の構造:
を有する実質的に純粋な抗炎症性化合物に関し、
式中、R1はアルキルであり;
R2はHまたはアルキルであり;
R3、R4およびR5は独立に-H、アシル、ハロ、ハロアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルまたは-COOHであり;
R6は-Oまたは-NHであり;
R7は-H、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシルアルキル、ヒドロキシルまたはハロであり;
R8、R9およびR12は独立に-H、アシル、ハロ、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルまたは-COOHであり;
R10はHまたはアルキルであり;かつ、
R11はHまたはアルキルである。
【0023】
有利なことに、1つの態様において、本発明の化合物はLPS誘導性TNF-α産生を阻害することができる。れによるエンドトキシン(LPS)作用の強力な阻害のために、本発明の本化合物の化合物の使用を、内毒素血症にとどまらず、自己免疫性疾患および他の関連した状態で認められる炎症性状態も含めて適用することができる。
【0024】
本発明はまた、薬学的に許容される担体および本発明の抗炎症性化合物を含む薬学的組成物も対象とする。1つの好ましい態様において、本組成物は抗炎症性化合物を有効成分として含む。
【0025】
本発明はまた、動物、好ましくはヒトを含む哺乳動物における炎症の阻害のための、本化合物またはそれらを含む組成物の使用方法も対象とする。本発明はまた、動物、好ましくはヒトを含む哺乳動物における免疫活性の調節のための、前記化合物または前記化合物を含む組成物の使用方法も対象とする。
[本発明1001]
以下の式を有する単離された化合物:
式中、R1はアルキルであり;
R2はHまたはアルキルであり;
R3、R4およびR5は独立に-H、アシル、ハロ、ハロアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルまたは-COOHであり;
R6は-Oまたは-NHであり;
R7は-H、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシルアルキル、ヒドロキシルまたはハロであり;
R8、R9およびR12は独立に-H、アシル、ハロ、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルまたは-COOHであり;
R10はHまたはアルキルであり;かつ、
R11はHまたはアルキルである。
[本発明1002]
植物由来である、本発明1001の化合物。
[本発明1003]
植物が、ブラックコホシュ(Cimicifuga racemosa)、ショウマ(Cimicifuga foetida)およびオオミツバショウマ(Cimicifuga heracleifolia)からなる群より選択される、本発明1001の化合物。
[本発明1004]
R2がHであり、R3がHであり、かつR4がHである、本発明1001の化合物。
[本発明1005]
R1がメチル基である、本発明1001の化合物。
[本発明1006]
哺乳動物における免疫活性を調節する、本発明1001の化合物。
[本発明1007]
炎症活性を有する、本発明1001の化合物。
[本発明1008]
TNF-αの誘導を阻害する、本発明1001の化合物。
[本発明1009]
LPS誘導性TNF-α産生を少なくとも50%阻害する、本発明1008の化合物。
[本発明1010]
実質的に純粋である、本発明1001の化合物。
[本発明1011]
以下の式を有する単離された化合物を含む薬学的組成物であって、薬学的に許容される担体をさらに含む、薬学的組成物:
式中、R1はアルキルであり;
R2はHまたはアルキルであり;
R3、R4およびR5は独立に-H、アシル、ハロ、ハロアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルまたは-COOHであり;
R6は-Oまたは-NHであり;
R7は-H、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシルアルキル、ヒドロキシルまたはハロであり;
R8、R9およびR12は独立に-H、アシル、ハロ、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルまたは-COOHであり;
R10はHまたはアルキルであり;かつ、
R11はHまたはアルキルである。
[本発明1012]
化合物が植物由来である、本発明1011の薬学的組成物。
[本発明1013]
R2がHであり、R3がHであり、かつR4がHである、本発明1011の薬学的組成物。
[本発明1014]
R1がメチル基である、本発明1013の薬学的組成物。
[本発明1015]
免疫活性を調節する、本発明1011の薬学的組成物。
[本発明1016]
炎症を軽減する、本発明1011の薬学的組成物。
[本発明1017]
TNF-α誘導を阻害する、本発明1011の薬学的組成物。
[本発明1018]
炎症を軽減するためおよび/または免疫応答を調節するために、対象を治療するための方法であって、そのような治療を必要とする対象に対して、以下の式を有する単離された化合物の有効量を投与する段階を含む、方法:
式中、R1はアルキルであり;
R2はHまたはアルキルであり;
R3、R4およびR5は独立に-H、アシル、ハロ、ハロアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルまたは-COOHであり;
R6は-Oまたは-NHであり;
R7は-H、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシルアルキル、ヒドロキシルまたはハロであり;
R8、R9およびR12は独立に-H、アシル、ハロ、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルまたは-COOHであり;
R10はHまたはアルキルであり;かつ、
R11はHまたはアルキルである。
[本発明1019]
対象がヒトである、本発明1018の方法。
[本発明1020]
R2がHであり、R3がHであり、かつR4がHである、本発明1018の方法。
[本発明1021]
R1がメチル基である、本発明1020の方法。
[本発明1022]
炎症を軽減するために用いられる、本発明1018の方法。
[本発明1023]
TNF-α活性が阻害される、本発明1018の方法。
[本発明1024]
感染症、環境毒素、自己免疫状態、心血管疾患、腸炎、アレルギー、移植片拒絶反応、病的な免疫細胞の増殖もしくは活性、および/または呼吸器炎症と関連性のある状態を治療するために用いられる、本発明1018の方法。
[本発明1025]
関節リウマチ、乾癬、心血管疾患、炎症性腸障害、敗血症性ショック、および移植片対宿主拒絶反応からなる群より選択される状態を治療するために用いられる、本発明1018の方法。
[本発明1026]
対象が哺乳動物である、本発明1018の方法。
[本発明1027]
哺乳動物がウシである、本発明1026の方法。
[本発明1028]
ERK1/2リン酸化を阻害するためおよび/またはNF-κB活性化を抑制するための方法であって、そのような阻害および/または抑制を必要とする対象に対して、以下の式を有する化合物の有効量を投与する段階を含む、方法:
式中、R1はアルキルであり;
R2はHまたはアルキルであり;
R3、R4およびR5は独立に-H、アシル、ハロ、ハロアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルまたは-COOHであり;
R6は-Oまたは-NHであり;
R7は-H、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシルアルキル、ヒドロキシルまたはハロであり;
R8、R9およびR12は独立に-H、アシル、ハロ、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルまたは-COOHであり;
R10はHまたはアルキルであり;かつ、
R11はHまたはアルキルである。
[本発明1029]
R1がメチル基であり、R2がHであり、R3がHであり、かつR4がHである、本発明1028の方法。
[本発明1030]
NF-κBおよび/またはERK1/2の下流にある細胞内および/または細胞外活性を制御するために用いられる、本発明1028の方法。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】ブラックコホシュ由来のB22EES1-8-3の抽出方式を示している。ブラックコホシュ(1.8kg)を粉砕し、500mLのミリQ水を用いて連続的な超音波処理下で1時間かけて抽出した。続いて、収集した上清を酢酸エチル(EtOAc)(1:1)で分配させた。その結果得られた乾燥EtOAc抽出物を再構成させ、続いてヘキサン(n-C6H14)、EtOAcおよびブタノール(n-BuOH)により逐次的に分配させた。バイオアッセイのガイド下での分画方式を用いて、LPS誘導性TNF-α産生に対して阻害作用を示した画分を、抗炎症活性を有する単一の化合物が得られるまで、シリカゲル60A(35〜75μm)クロマトグラフィーおよび勾配溶出を用いる逆相高速液体クロマトグラフィーに供した。
図2図2AおよびBは、B22EES1-8-3のHPLCクロマトグラムおよびUV吸光度を示している。この化合物を、25%〜90%アセトニトリルの勾配溶出を流速1mL min-1で用いる逆相HPLCによって精製した。(A)フォトダイオードアレイ検出器を用いて、単一ピークが254、210および280nmで検出された。B22EES1-8-3はおよそ9.4minで溶出した。(B)B22EES1-8-3のUV吸光度は290および325nmで最大となり、このことから、それが共役芳香族系を有することが判明した。
図3】B22EES1-8-3の1H(上のパネル)および13C NMR(下のパネル)スペクトルを示している。B22EES1-8-3の構造は、Bruker 500MHz DRX NMRスペクトロメーターを、1H NMRについては500MHzで、13C NMRについては125.765MHzで動作させ、メタノール-dを溶媒として用いることによって解明した。
図4図4AおよびBは、バイオアッセイのガイド下でのブラックコホシュの分画を示している。初代血液マクロファージ(PBMac)を、100μg/mLの種々のブラックコホシュ画分で24時間処理し、その後に20ng/mL LPSを添加して3時間置いた。その後にTNF-αおよびGAPDHのRT-PCR(A)および定量的RT-PCR(B)アッセイを行った。示されている結果は、細胞を異なるドナーから入手した少なくとも3回の独立した実験の代表である。* P<0.05、対応する対照との比較。
図5図5AおよびBは、LPS誘導性TNF-α産生の、B22EES1-8-3およびデキサメタゾンによる阻害を示している。PBMacを(A)140μMのB22EES1-8-3または(B)1.3または5.1μMのデキサメタゾン(Dex)とともに24時間インキュベートし、その後に1ng/mLおよび10ng/mLのLPSを添加してさらに24時間置いた。培養上清を収集し、TNF-αに関してELISAによってアッセイした。示されている結果は、細胞を異なるドナーから入手した6回の独立した実験の平均値±標準偏差(S.D.)である。* P<0.05、対応する対照との比較。
図6図6A〜Cは、ERK1/2およびp38 MAPキナーゼのLPS誘導性リン酸化(ホスホ-)ならびにNF-κB p65の核移行に対する、B22EES1-8-3の作用を示している。PBMacをB22EES1-8-3(140μM)とともに24時間インキュベートし、その後に10ng/mLのLPSを添加してさらに15分間置いた。細胞質タンパク質(A、B)および核タンパク質(C)をウエスタンブロット法のために採取した:(A)細胞質タンパク質:ホスホ-ERK1/2および全ERK1/2。(B)細胞質タンパク質:ホスホ-p38および全p38キナーゼ。(C)核タンパク質:上のパネル、NF-κB p65およびラミンB;下のパネル、NF-κB p65のゲル写真における対応するレーンの強度を示した。示されている結果は、細胞を異なるドナーから入手した少なくとも3回の独立した実験の代表である。* P<0.05、対応する対照との比較。
図7図7AおよびBは、CF22EES1-8(A)およびCH22EES1-8(B)のHPLCクロマトグラムを示している。薬草であるショウマおよびオオミツバショウマの抽出を、ブラックコホシュの抽出手順に従って行った。それらの抽出物(CF22EES1-8およびCH22EES1-8)をB22EES1-8-3のものと同じ条件を用いてHPLCに注入し、クロマトグラムを記録した。これらのクロマトグラムにより、保持時間がおよそ9.4分である化合物(*を付している)の存在が示された。
図8図8A〜Cは、(A)B22EES1-8-3、(B)CF22EES1-8および(C)CH22EES1-8のUPLCクロマトグラムおよびHRESI-MSスペクトルを示している。薬草であるショウマおよびオオミツバショウマの抽出を、ブラックコホシュの抽出手順に従って行った。それらの抽出物(CF22EES1-8およびCH22EES1-8)を、UPLCと連結させた高分解能ESI-TOF-MSに、B22EES1-8-3のものと同じ条件を用いて注入した。これらのクロマトグラムにより、保持時間がおよそ6分で、イオンピークが357m/zにある化合物(*を付している)の存在が示された。
【0027】
配列の簡単な説明
SEQ ID NO:1は、本発明による有用なプライマーである。
SEQ ID NO:2は、本発明による有用なプライマーである。
SEQ ID NO:3は、本発明による有用なプライマーである。
SEQ ID NO:4は、本発明による有用なプライマーである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
詳細な説明
新規かつ有利な化合物が本発明に従って同定された。有利なことに、これらの分子は有用な免疫調節特性および/または抗炎症特性を有する。本発明はさらに、これらの化合物を含む組成物、さらには対象における炎症性または免疫性状態の治療に用いるための方法も提供する。
【0029】
本発明の1つの態様は、薬草から単離された化合物に関連する。有利なことに、この化合物は強力な抗炎症作用および免疫調節作用を有する。
【0030】
本発明はしたがって、以下の構造:
を有する実質的に純粋な抗炎症性化合物に関し、
式中、R1はアルキルであり;
R2はHまたはアルキルであり;
R3、R4およびR5は独立に-H、アシル、ハロ、ハロアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルまたは-COOHであり;
R6は-Oまたは-NHであり;
R7は-H、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシルアルキル、ヒドロキシルまたはハロであり;
R8、R9およびR12は独立に-H、アシル、ハロ、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルまたは-COOHであり;
R10はHまたはアルキルであり;かつ、
R11はHまたはアルキルである。
【0031】
「アルキル」は、炭素原子が1〜8個の線状飽和一価基(monovalent radical)、または炭素原子が3〜8個の分枝飽和一価基を意味する。これには炭素原子が1〜4個または1〜3個の炭化水素基を含めることができ、それは線状であってもよい。その例には、メチル、エチル、プロピル、2-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、tert-ブチル、ペンチルなどが含まれる。
【0032】
「アシル」は、基(radical)-C(O)Rを意味し、式中、Rは水素、アルキルまたはシクロアルキルまたはヘテロシクロアルキルである。その例には、ホルミル、アセチル、エチルカルボニルなどが含まれる。
【0033】
「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨード、例えばブロモおよびクロロなどを意味する。
【0034】
「ハロアルキル」は、1つまたは複数の同じまたは異なるハロ原子によって置換されたアルキル、例えば、-CH2Cl、-CH2Br、-CF3、-CH2CH2Cl、-CH2CCl3などを意味する。
【0035】
「アミノ」は、基-NH2を意味するものとする。
【0036】
「アルキルアミノ」は、基-NHRまたは-NR2を意味し、式中、Rは独立にアルキル基である。その例には、メチルアミノ、(1-メチルエチル)アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、メチルエチルアミノ、ジ(1-メチルエチル)アミノ(di(1-methyethyl)amino)などが含まれる。
【0037】
「ヒドロキシ」は、基-OHを意味するものとする。
【0038】
「ヒドロキシアルキル」は、1個または複数個の、好ましくは1個、2個または3個のヒドロキシ基が置換された、本明細書に定義されたアルキル基を意味する。その代表例には、ヒドロキシメチル、2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシプロピル、3-ヒドロキシプロピル、1-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロピル、2-ヒドロキシブチル、3-ヒドロキシブチル、4-ヒドロキシブチル、2,3-ジヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシ-1-ヒドロキシメチルエチル、2,3-ジヒドロキシブチル、3,4-ジヒドロキシブチルおよび2-(ヒドロキシメチル)-3-ヒドロキシ-プロピル、好ましくは2-ヒドロキシエチル、2,3-ジヒドロキシプロピルおよび1-(ヒドロキシメチル)2-ヒドロキシエチルが非限定的に含まれる。
【0039】
「アルコキシ」は、基-ORaを意味するものとし、式中、Raはアルキル基である。例示的なアルコキシ基には、メトキシ、エトキシ、プロポキシなどが含まれる。
【0040】
本発明はさらに、単離されたエナンチオマー化合物にも関連する。本発明の化合物の単離されたエナンチオマー形態は、互いを実質的に含まない(すなわち、エナンチオマー過剰の状態にある)。言い換えると、「R」型の化合物は「S」型の化合物を実質的に含まず、それ故に「S」型に対してエナンチオマー過剰の状態にある。逆に、「S」型の化合物は「R」型の化合物を実質的に含まず、それ故に「R」型に対してエナンチオマー過剰の状態にある。本発明の1つの態様において、単離されたエナンチオマー化合物は、エナンチオマー過剰率が少なくとも約80%である。1つの好ましい態様において、本化合物はエナンチオマー過剰率が少なくとも約90%である。1つのより好ましい態様において、本化合物はエナンチオマー過剰率が少なくとも約95%である。1つのさらにより好ましい態様において、本化合物はエナンチオマー過剰率が少なくとも約97.5%である。1つの最も好ましい態様において、本化合物はエナンチオマー過剰率が少なくとも約99%である。
【0041】
「対象」という用語は、本明細書で用いる場合、本発明による組成物を用いた治療を施すことのできる、霊長類などの哺乳動物を含む生物をいう。開示された治療方法によって利益を得ることのできる哺乳動物種には、類人猿、チンパンジー、オランウータン、ヒト、小型サル類;ならびにイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、マウス、ラット、モルモットおよびハムスターなどの飼い慣らされた動物が非限定的に含まれる。
【0042】
1つの具体的な態様において、本発明は、5回の抽出後に同定された、本明細書においてB22EES1-8-3と称する(B8-3と略記する)化合物に関連する。B8-3の構造は:
である。
【0043】
有利なことに、この化合物はTNF-α誘導を阻害する。
【0044】
B8-3の同定後に、その生物学的活性を、免疫抑制のための標準薬であるデキサメタゾンと比較した。B8-3とのインキュベーションにより、LPSによりアップレギュレートされるTNF-α産生は50%を上回って緩和され(図5A)、これはデキサメタゾンの効果と同等であった(図5B)。
【0045】
デキサメタゾンは多くの自己免疫性疾患の治療に用いられる有効な薬物である。残念ながら、デキサメタゾンの使用は患者に副作用を及ぼすことがよく知られている。B8-3はショウマおよびオオミツバショウマを含む薬草から単離されるため、ヒトでの使用におけるこれらの薬草の毒性は数世紀にわたって十分に検証されている。
【0046】
さらに、MAPキナーゼおよびNF-κBの活性化はB8-3によって無効化することができる。これらの2つのメディエーターはサイトカイン産生において、それ故に多数の免疫応答の制御において、鍵となる役割を果たす。また、B8-3を、TNF-αの下流エフェクターを制御するために本発明に従って用いることもできる。
【0047】
独特な単離手順およびバイオアッセイのガイド下での手順を用いて、ブラックコホシュおよびその同等な漢方薬草からB8-3を単離した。サイトカインの制御に対するB8-3の作用は、シグナル伝達キナーゼおよび転写因子の活性の調節におけるその活性を介して起こる。B8-3はマイトジェンで誘導される炎症性反応を抑制し、そのため、この分子は種々の臨床状態の治療に有用である。TNF-αの過剰産生には毒性があり、重度の合併症をもたらす恐れがあるため、この壊滅的な炎症性反応を抑えることは、臨床管理において患者にとって有益である可能性がある。これは、ブラックコホシュおよびその同等な漢方薬草における効力のある抗炎症性化合物を同定するための初めての研究である。また、本発明の化合物を、ウイルス、細菌、真菌、酵母および他の微生物による感染症を非限定的に含む、感染症に伴う炎症を治療するために用いることもできる。さらに、本発明の化合物を、インターフェロン、インターロイキンおよび環境毒素を非限定的に含む種々の因子によって媒介される炎症を治療するために用いることもできる。
【0048】
本発明の化合物および薬学的組成物は、免疫および/または炎症の抑制が有益である任意の疾患、状態または障害における炎症症状の治療または緩和に用いることができる。望まれない免疫反応および炎症を阻害するために本発明の化合物および組成物を用いることのできる炎症性疾患、状態または障害には、関節リウマチを非限定的に含む関節炎、ならびに、免疫および/または炎症の抑制が有益である関節または筋骨格系の他の疾患、状態または障害が非限定的に含まれる。
【0049】
その上、本化合物および組成物は、アテローム硬化;動脈硬化;アテローム硬化型心疾患;再灌流傷害;心停止;心筋梗塞;脳血管疾患(脳卒中)を含む血管炎症性障害;呼吸器窮迫症候群、ならびに免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる他の心肺疾患、状態または障害に伴う炎症を治療または緩和するためにも有用である。
【0050】
加えて、本化合物および組成物は、消化性潰瘍;潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸症候群、他の炎症性の腸の状態、および免疫炎症抑制が有益と考えられる胃腸管の他の疾患、状態または障害;肝線維症;肝硬変、ならびに免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる他の肝疾患、状態または障害;甲状腺炎、ならびに免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる他の腺疾患、状態または障害;糸球体腎炎、ならびに免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる他の腎臓および泌尿器の疾患、状態または障害に伴う炎症を治療または緩和するためにも有用である。
【0051】
加えて、本化合物および組成物は、外傷後炎症;敗血症性ショック;免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる伝染病;免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる、外科手術の炎症性合併症および副作用;免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる、骨髄移植および他の移植の合併症および/または副作用;例えばウイルス保有者による感染症に起因する、遺伝子療法の炎症性および/または免疫性の合併症および副作用に伴う炎症;ならびに後天性免疫不全症候群(AIDS)に伴う炎症を治療または緩和するためにも有用である。
【0052】
さらに、本化合物および組成物は、炎症を伴わない、マクロファージまたはT細胞と関連性のある免疫応答の諸局面を阻害するためにも有用である。本化合物および組成物は、マクロファージ抗原提示活性、マクロファージサイトカイン産生、T細胞サイトカイン産生、T細胞接着活性、T細胞増殖などを非限定的に含む、マクロファージまたはT細胞の活性を阻害することができる。したがって、本ペプチド、ペプチド誘導体および組成物は、体液性および/または細胞性免疫応答を抑制または阻害するために有用である。
【0053】
本化合物および組成物は、単球およびリンパ球の量を減少させることにより、単球および白血球の増殖性疾患、例えば白血病を治療または緩和するためにも有用である。
【0054】
本発明の化合物および薬学的組成物はさらに、角膜、骨髄、臓器、水晶体、ペースメーカー、天然および人工の皮膚組織などのような、天然または人工の細胞、組織および臓器の移植症例における移植片拒絶反応の予防および/または治療のためにも有用である。
【0055】
本化合物および組成物はまた、過敏症;アレルギー反応;喘息;全身性エリテマトーデス;膠原病、ならびに免疫および/または炎症の抑制が有益である他の自己免疫性疾患、状態または障害に伴う炎症を治療または緩和するためにも有用である。
【0056】
本化合物および組成物は、耳炎、ならびに免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる他の耳鼻咽喉科疾患、状態または障害;皮膚炎、ならびに免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる他の皮膚疾患、状態または障害;歯周病、ならびに免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる他の歯科疾患、状態または障害に伴う炎症を治療または緩和するためにも有用である。
【0057】
加えて、化合物および組成物は、後部ぶどう膜炎;中間部ぶどう膜炎;前部ぶどう膜炎;結膜炎;脈絡網膜炎;網膜ぶどう膜炎;視神経炎;網膜炎および嚢胞様黄斑浮腫などの眼内炎症;交感性眼炎;強膜炎;色素性網膜炎;変性性眼底疾患(degenerative fondus disease)の免疫性および炎症性要素;眼外傷の炎症性要素;感染症によって引き起こされる眼の炎症;増殖性硝子体網膜症;急性虚血性視神経症;過度の瘢痕化、例えば緑内障濾過手術後のもの;眼インプラントに対する免疫性および/または炎症性反応、ならびに免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる他の免疫および炎症関連の眼科疾患、状態または障害に伴う炎症を治療または緩和するためにも有用である。
【0058】
その上、本化合物および組成物は、免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる、中枢神経系(CNS)および任意の他の臓器の両方における自己免疫性疾患および状態または障害;パーキンソン病;パーキンソン病の合併症および/または副作用;AIDS関連認知症症候群(HIV関連脳症);デビック病;シデナム舞踏病;アルツハイマー病、ならびに免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる中枢神経系の他の変性疾患、状態または障害;脳卒中の炎症性要素;ポリオ後症候群;精神障害の免疫性および炎症性要素;脊髄炎;脳炎;亜急性硬化性全脳炎;脳脊髄炎;急性ニューロパチー;亜急性ニューロパチー;慢性ニューロパチー;ギラン・バレー症候群;シデナム舞踏病;重症筋無力症;偽性脳腫瘍;ダウン症候群;ハンチントン病;筋萎縮性側索硬化症;中枢神経系(CNS)の圧迫またはCNS外傷または脳血管の発作(脳卒中)もしくは感染症またはCNSの低酸素性虚血の炎症性要素;筋萎縮および筋ジストロフィーの炎症性要素;ならびに、免疫および/または炎症の抑制が有益と考えられる、中枢神経系および末梢神経系の免疫および炎症関連の疾患、状態または障害に伴う炎症を治療または緩和するためにも有用である。
【0059】
さらにもう1つの態様において、本発明の化合物および組成物は、その免疫特権を失った脳、眼および精巣などの免疫特権部位で、免疫特権を回復させるためにも有用である。
【0060】
1つの態様において、本発明は、単離された化合物を提供する。本明細書で用いる場合、「単離された」とは、それらが天然に存在しうる任意の環境から取り出された化合物のことを指す。例えば、単離されたB8-3は、ブラックコホシュの中に存在するようなB8-3化合物のことは指さないと考えられる。好ましい態様において、本発明の化合物は、純度が少なくとも75%であり、好ましくは純度が少なくとも90%であり、より好ましくは純度が95%を上回り、最も好ましくは純度が99%を上回る(実質的に純粋である)。
【0061】
本発明はまた、薬学的に許容される担体と組み合わせることのできる形態にある、本発明の化合物を含む治療用組成物または薬学的組成物も提供する。この文脈において、化合物は例えば、単離されているか、または実質的に純粋であってよい。「担体」という用語は、化合物をそれとともに投与する、希釈剤、補助剤、添加剤または媒体のことを指す。そのような薬学的担体は、鉱油などの石油、ラッカセイ油、ダイズ油およびゴマ油などの植物油、動物油、または合成由来の油のものを含む、水および油などの無菌液体でありうる。また、特に注射用溶液のためには、食塩液ならびに水性デキストロース溶液およびグリセロール溶液を液体担体として用いることもできる。中枢神経系における炎症の治療または緩和のために特に好ましい薬学的担体は、血液/脳関門を透過することのできる担体である。本明細書で用いる場合、担体には、天然に存在するような天然植物材料は含まれない。
【0062】
適した薬学的添加剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが含まれる。治療用組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤または乳化剤またはpH緩衝剤を含むこともできる。これらの組成物は、液体、溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、カプセル剤、粉末、持続放出製剤などの形態をとることができる。本組成物は、トリグリセリドなどの伝統的な結合剤および担体を用いて製剤化することができる。適した薬学的担体の例は、E. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。そのような組成物は、治療用組成物の治療用有効量を、患者に対する適正な投与のための形態が得られるような適した量の担体とともに含む。製剤は投与様式に適合しているべきである。
【0063】
1つの態様において、本組成物は、ヒトへの局所注射投与のために適している薬学的組成物として、定型的な手順に従って製剤化される。典型的には、局所注射投与のための組成物は、無菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要であれば、組成物が、可溶化剤、および、注射部位の疼痛を和らげるためのリドカインなどの局所麻酔薬を含んでもよい。一般に、これらの成分は、例えば、有効物質の量を表示したアンプルなどの密封容器または薬袋(sachette)などの中にある乾燥凍結粉末か無水濃縮物として、別々に、または単位投薬形態として1つに混ぜ合わされるかのいずれかで供給される。組成物が注射によって投与される場合には、これらの成分を投与の前に混合しうるように、注射用滅菌水または食塩水のアンプルを用意することができる。
【0064】
本発明の治療用または薬学的組成物は、中性または塩の形態として製剤化することができる。薬学的に許容される塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するもののような、遊離アミノ基とともに形成されるもの、および、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するもののような、遊離カルボキシル基とともに形成されるものが含まれる。
【0065】
本発明はまた、対象にいったん投与された場合に化合物がより安定になるようにする、すなわち、いったん投与された場合にそれが修飾されていない化合物と比較してより長期間にわたる有効性を有するようにする、化合物の修飾も提供する。そのような修飾は当業者に周知であり、例えば、ポリエチレングリコール誘導体化(PEG化)、マイクロカプセル化などがある。
【0066】
特定の疾患、状態または障害の治療に有効な、本発明の治療用または薬学的組成物の量は、その疾患、状態または障害の性質に依存すると考えられ、標準的な臨床的手法によって決定することができる。一般に、投与量は約0.001mg/kg〜約2mg/kgの範囲にわたる。加えて、最適な投与量の範囲を同定する一助とするために、インビトロアッセイを任意で用いてもよい。製剤中に用いるべき正確な用量は、投与の経路、および疾患、状態または障害の重篤度にも依存すると考えられ、それは臨床医の判断および各患者の状況に従って決定されるべきである。有効量を、インビトロまたは動物モデルの試験系から導き出された用量反応曲線から外挿することもできる。例えば、ヒトに対して有効なmg/kg用量を、ラット試験から生成されたデータに基づいて得るためには、ラットにおいて有効なmg/kg投与量を6で除算する。
【0067】
本発明はまた、本発明の薬学的組成物の成分の1つまたは複数、例えば、化合物、担体などが充填された1つまたは複数の容器を含む、薬学的パックまたはキットも提供する。
【0068】
また、本発明の化合物を、伝統的な漢方医学診療と整合するように製剤化することもできる。特定の疾患、状態または障害の治療に有効な、製剤の組成および投与量は、標準的な臨床的手法により、疾患、状態または障害の性質に依存すると考えられる。
【0069】
処方量の伝統的な漢方薬は、ヒトまたは動物に投与するために適した任意の薬物形態として製造することができる。適した形態には、例えば、チンキ剤、煎剤および乾燥エキスが含まれる。これらは経口服用すること、静脈注射を通じて、または粘膜を通じて適用することができる。また、有効成分を、カプセル剤、粉剤、パレット(pallet)、トローチ、坐薬、経口液剤、殺菌した胃腸用懸濁注入剤、少量または大量の注入剤、凍結粉末注入剤、殺菌した粉末注入剤などとして製剤化することもできる。上述した方法はすべて、当業者に公知であり、書籍に記載されており、かつ、生薬学の臨床医によって一般的に用いられている。
【0070】
チンキ剤は、薬草を、例えばワインまたはリキュールなどのアルコール溶液中に懸濁させることによって調製される。懸濁化期間の後に、その液体(アルコール溶液)を、1回に茶さじ1杯分ずつ、例えば1日2回または3回投与することができる。
【0071】
煎剤は、薬草調合物の一般的な形態である。これは伝統的には素焼鉢の中で調製されるが、ガラス製、エナメル製またはステンレス鋼製の容器の中で調製することもできる。製剤を水中にある期間にわたって浸漬させ、続いて煮沸して、水の量が例えば半分になるまで煮詰める。
【0072】
エキスは、薬用植物の必須成分の濃縮調合物である。典型的には、薬草を、適切に選択された溶媒、典型的には水、エタノール/水混合物、メタノール、ブタノール、イソ-ブタノール、アセトン、ヘキサン、石油エーテルまたは他の有機溶媒中に懸濁させることにより、薬草から必須成分を抽出する。抽出工程を、浸軟、パーコレーション、連続パーコレーション(repercolation)、向流抽出、ターボ抽出(turbo-extraction)によって、または二酸化炭素超臨界(温度/圧力)抽出によってさらに助長することもできる。薬草残渣を取り除くための濾過の後に、抽出用溶液をさらに蒸発させ、それによって濃縮して軟エキス(スピッサム抽出物(extractum spissum))を得てもよく、および/または、噴霧乾燥、真空オーブン乾燥、流動層乾燥もしくは凍結乾燥によって最終的には乾燥エキス、シッカム抽出物(extracum siccum)を得てもよい。軟エキスまたは乾燥エキスはさらに、投与用の所望の濃度となるように適した液体中に溶解させてもよく、または丸剤、カプセル剤、注入剤などの形態に加工処理してもよい。
【0073】
材料および方法
植物材料
ブラックコホシュは、Glenbrook Farms Herbs and Such, Campbellsville, Kentuckyから購入した。オオミツバショウマ、ショウマおよびフブキショウマは薬草市場から購入し、その後にそれらの実体に関してPurapharmによる認証を受けた。
【0074】
生物活性分子の抽出および単離
植物抽出のための手順は図1に示す。手短に述べると、ブラックコホシュ(1.8kg)を粉砕し、均質化した後に、ミリQ水の中に懸濁させ(1:5)、連続的な超音波処理を1時間行った。上清を分析用濾紙に通して濾過し、続いて酢酸エチル(EtOAc)による分配(1:1)を3回行った。その結果得られたEtOAc抽出物を、真空下(35℃)で乾燥するまで濃縮し、14.97gの暗褐色残留物を得た。この残留物をメタノール(MeOH)中に再構成させ、続いてヘキサン(n-C6H14)により分配させることによって分画した。このMeOH画分を濃縮して、H2O中に再構成させ、続いてEtOAcおよびブタノール(n-BuOH)により逐次的に分配させた。4つの画分、すなわちn-C6H14、EtOAc、n-BuOHおよびH2Oが得られた。
【0075】
LPS誘導性TNF-α産生に対して阻害作用を示した画分を、n-C6H14、EtOAcおよびMeOHを用いる別のシリカゲル60A(35〜75μm)クロマトグラフィーに供し、6つの画分を得た。活性画分を、25%アセトニトリル(CH3CN)から90% CH3CNまでの勾配溶出を流速1mL min-1で用いる逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(Lichrospher 100RP C18 EC 5μ、250×4.6mm ID)によってさらに精製した。
【0076】
ピーク検出は、254、210および280nmに設定したAgilent 1200シリーズの迅速スキャンフォトダイオードアレイ検出器を用いて行った。溶出ピークを200nm〜300nmにわたって1nm間隔でスキャンして、最大吸光および最小吸光を求めた。
【0077】
HPLCを用いる精製工程を繰り返すことにより、UV吸光度が290nmおよび325nmで最大である単一の化合物がおよそ9.4分の時点で溶出し、それが共役芳香族系を有することが判明した。この化合物(B22EES1-8-3)は抗炎症活性を示した。
【0078】
分子構造の解明
この結果得られた純粋な化合物(B22EES1-8-3)の構造を、Bruker 500MHz DRX NMRスペクトロメーターを、1H NMRについては500MHzで、13C NMRについては125.765MHzで動作させ、メタノール-dを溶媒として用いることによって解明した。分極移動による無歪感度増大法(DEPT)の実験を135゜の移動パルスを用いて行い、CHおよびCH3に関する正のシグナルならびにCH2に関する負のシグナルを得た。HR-ESI-MSは、micrOTOF II 411 ESI-TOF質量分析器(Bruker Daltonics)にて行った。データセットは、負のエレクトロスプレー(ESI)モードで、100〜1600m/zの範囲のスキャンにおいて2Hzのサンプリングレートで収集した。ESIパラメーターは以下の通りとした:キャピラリー、3.2kV;ネブライザー圧、4 bar;乾燥415ガス流量、8L/分;および乾燥ガス温度、200℃。
【0079】
この化合物の13C NMRスペクトルは、
の箇所にシグナルを示した。加えて、この化合物はそのHR-ESI-MSにおいてm/z 357.0952の箇所で[M]-イオンピークを示し、これは分子式C19H17O7(算出値357.0974)に合致した。
【0080】
HPLC-UVおよびUPLC-TOF-MSを用いた、ショウマおよびオオミツバショウマにおけるB22EES1-8-3の存在の確定
薬草であるショウマおよびオオミツバショウマの抽出を、上記の通りのブラックコホシュの抽出手順に従って行った。ショウマおよびオオミツバショウマの抽出物(CF22EES1-8およびCH22EES1-8)を、PDA検出器を装着したHPLCに、B22EES1-8-3を単離するために用いたクロマトグラフィー条件に従って注入した。個々の試料のクロマトグラムを記録した。CF22EES1-8およびCH22EES1-8も、Xterra MSC18カラム(150*2.1mmID、3.5522μm)を装着したAcquity UPLCシステム(Waters, USA)に別個に注入した。クロマトグラフィー分離は、25%アセトニトリル(CH3CN)から90% CH3CNまでの勾配溶出を流速200μL/分で用いて行った。溶出した化合物を、micrOTOF II ESI-TOF質量分析器(Bruker Daltonics)を用いて検出した。データセットは、負のエレクトロスプレー(ESI)モードで、100〜1600m/zの範囲のスキャンにおいて2Hzのサンプリングレートで収集した。ESIパラメーターは以下の通りとした:キャピラリー、3.2kV;ネブライザー圧、4 bar;乾燥ガス流量、8L/分;および乾燥ガス温度、200℃。
【0081】
それらのピークをB22EES1-8-3の標準物質と比較することにより、ショウマおよびオオミツバショウマの抽出物中にB22EES1-8-3が存在することが明らかになった。
【0082】
化学物質
大腸菌(E. coli)由来のエンドトキシン(リポ多糖、LPS)をSigmaから購入し、TNF-α発現の誘導物質として用いた。デキサメタゾン(Sigma)を、TNF-αのLPS性誘導を阻害するための対照薬として用いた。
【0083】
細胞培養および初代血液マクロファージの単離
香港赤十字社(Hong Kong Red Cross)によって提供された健常ドナー血液のバフィーコートから、本発明者らの以前の報告14,15,34に記載された通りに、Ficoll-Paque(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)密度勾配遠心によって、ヒト末梢血単核球細胞(PBMC)を単離した。手短に述べると、バフィーコートを毎分3000回転(rpm)で15分間遠心して、血液細胞および血漿を分離した。将来の使用に備えて、熱非働化血清を濾過した。
【0084】
細胞層をリン酸緩衝食塩水(PBS)で1:1の比に希釈した。希釈した細胞をFicoll-Paqueの上にゆっくりと重ね、2300rpmで20分間遠心して、単核細胞を赤血球から分離させた。単核細胞層を取り出し、上清が清澄になるまでRPMI 1640培地で洗浄した。
【0085】
最後に細胞を、5%自己血清を加えたRPMI 1640培地中に再懸濁させて、1時間培養した。非付着性細胞をその後に除去し、残りの付着細胞はそれから、5%二酸化炭素(CO2)中にて37℃でさらに24時間インキュベートした。
【0086】
付着した単核球細胞を剥離させて、組織培養プレート上に播き、初代血液単核球細胞を初代血液マクロファージ(PBMac)に分化させるためにさらに7〜14日間インキュベートした。
【0087】
RNAの単離および逆転写
ブラックコホシュ画分によって処理した、または処理しなかった初代血液マクロファージから、TRIzol(Invitrogen)によって全RNAを抽出した。メッセンジャーRNA(mRNA)の相補的DNA(cDNA)への逆転写(RT)を、SuperScript IIシステム(Invitrogen)を製造元の指示に従って用いることによって行った。
【0088】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびリアルタイムRT-PCR
標的とした遺伝子の半定量的PCRアッセイを、1.5mM MgCl2、0.2mMの各デオキシヌクレオシド三リン酸、0.25μMの各プライマー、2単位のTaqポリメラーゼ(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)および1μlのcDNAを含む25μlの反応混合物中で行った。TNF-αおよびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に対するPCRプライマーセットは以下の通りとした:TNF-α(上流:
;下流:
)、およびGAPDH(上流:
;下流:
。PCRのための熱サイクル条件は、94℃ 30秒間、60℃ 30秒間および72℃ 1分間とした。このサイクリング反応をさらに24サイクル繰り返した。
【0089】
定量的RT-PCRは、Applied Biosystems TaqMan(登録商標)Universal Master Mixを用いることにより、製造元の指示に従って行った。TNF-α TaqManプローブはApplied Biosystemsから購入し、18s RNAを内部対照として用いた。それぞれの定量的RT-PCRアッセイにおいて、試料を3件ずつ用いた。
【0090】
酵素結合免疫吸着法(ELISA)
B22EES1-8-3による前処理を行うか、または行わずに、LPSで処理したPBMacの培養上清をさまざまな時間間隔で収集し、-70℃で保存した。分泌されたTNF-αのレベルを、このサイトカインに対して特異的なELISAキット(R&D system, Minneapolis, MN)を用いて測定した。
【0091】
細胞抽出物の調製
全細胞溶解液の収集のためには、PBMacを冷PBSで洗浄し、冷溶解緩衝液(50mM tris(ヒドロキシメチル)アミノメタン-クロリド(Tris-Cl)[pH7.4];150mM塩化ナトリウム(NaCl);50mMフッ化ナトリウム(NaF);10mM β-グリセロリン酸;0.1mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA);10%グリセロール;1% Triton X-100;1mMフェニルメタンスルホニルフロリド(PMSF);1mMオルトバナジン酸ナトリウム;2μg/mLペプスタチンA;2μg/mLアプロチニンおよび2μg/mLロイペプチン)中で20分間インキュベートした。この溶解液を続いて4℃で20分間遠心した。上清を収集し、使用時まで-70℃で保存した。
【0092】
核タンパク質抽出物を収集するために、処理した細胞をPBSで洗浄し、緩衝液A(10mM 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)[pH7.9]、10mM塩化カリウム(KCl)、0.1mM EDTA、0.1mMエチレングリコール四酢酸(EGTA)、1mMジチオトレイトール(DTT)、0.5mMフェニルメタンスルホニルフルオリドまたはフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)、2μgアプロチニン、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、2μg/mLペプスタチンA、2μg/mLロイペプチンおよび50mM NaF)中に再懸濁させて15分間置いた。その後に、NP-40を最終濃度0.625%で添加し、細胞溶解のために激しく混合した。
【0093】
この細胞溶解液を遠心し、細胞質タンパク質を含む上清を収集して-70℃で保存した。核ペレットを緩衝液C(20mM HEPES[pH 7.9]、0.4M NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、1mM DTTおよび1mM PMSF)中に再懸濁させて氷上に15分間置き、核膜の溶解を完全に行わせた。この核溶解液を続いて遠心し、核タンパク質を含む上清を収集して、-70℃で保存した34,35
【0094】
ウエスタンブロット分析
全細胞溶解液(20μg)または核タンパク質(2μg)をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって分離し、ニトロセルロース膜に移行させた上で、リン酸化型またはすべての型のERK1/2およびp38 MAPK(Cell Signaling Technology, Beverly, MA)、NF-κB p65タンパク質およびラミンB(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)に対して特異的な各々の抗体を用いて、一晩かけてプロービングを行った。これらの膜を、西洋ワサビペルオキシダーゼを結合させた対応する二次抗体(BD Transduction Lab, San Diego, CA)ともにインキュベートした。増強化学発光キット(Amersham Pharmacia Biotech)を用いてシグナルを描出した。ウエスタンブロットによる結果を定量化するには、ゲルをスキャンし、バンドの強度をBioRadのコンピュータプログラムQuantity Oneによって分析した。
【0095】
本発明の範囲は、本明細書に記述された具体例ならびに提案されている手順および用途には限定されないが、その理由は、本明細書によって当業者に提供される情報から、そのような範囲内で変更を加えることができるためである。
【0096】
本発明のより完全な理解は、本発明の化合物、組成物および方法に関する以下の具体的な実施例を参照することによって得ることができる。以下の実施例は本発明を実施するための手順を例示している。これらの実施例を限定的とみなすべきではない。これらの実施例が、公知の供給元、例えば化学物質供給業者などから市販されている材料および試薬の使用を伴うことは当業者には明らかであると考えられるため、それらに関する詳細については記載しない。
【実施例】
【0097】
実施例1‐B22EES1-8-3の抽出および同定
ブラックコホシュの根茎から調製したEtOAc画分の反復分配、ならびにシリカゲル上での逐次クロマトグラフィーおよび逆相HPLCによって、淡褐色の粉末が得られた。詳細な手順は図1にまとめている。
【0098】
HPLCを用いたところ、この化合物は、波長254、210および280nmにUV吸光度を有する単一の化合物としておよそ9.4分の時点で溶出した(図2A)。図2Bでは、この化合物のUV吸光度は290および325nmで最大となっており、このことから、それが共役芳香族系を有することが判明した。この化合物は、そのHR-ESI-MSにおいてm/z 357.0952の箇所で[M]-イオンピークを示した。1Hおよび13Cスペクトルデータと総合することにより(図3)、これはB22EES1-8-3であると解明された。
【0099】
実施例2‐バイオアッセイ
TNF-αのLPS誘導性発現の阻害の原因となるブラックコホシュ中の化合物を同定した。LPSがTNF-αの強力な誘導物質であることは周知であり、細胞傷害物質を用いずにその作用を容易に抑制することはできない。
【0100】
TNF-αの産生は鍵となる免疫応答の指標であることから、初代マクロファージにおける細菌エンドトキシン(リポ多糖、LPS)刺激によるTNF-α誘導を炎症性疾患のモデルとして用いた。
【0101】
ブラックコホシュから単離した個々の抽出物をPBMacとともに24時間インキュベートし、その後にLPSを添加してさらに3時間置いた。処理した試料の全RNAを単離し、特異的なヒトTNF-αプライマーを用いるRT-PCRアッセイに供した。その結果から、画分B22EES1がLPS誘導性のTNF-α mRNA発現を阻害することが示された(図4A、レーン2および4)。B22EES1の細画分のうち、TNF-α誘導に対する抑制活性を保っていたのはB22EES1-4およびB22EES1-8のみであった(図4A、レーン12および20)。
【0102】
実施例3‐LPS誘導性サイトカイン産生に対するB22EES1-8-3の作用
B22EES1-8がTNF-αに対する阻害作用の原因であることの同定の後に、上記のB22EES1-8細画分の活性を分離して分析した。単一の分子、すなわちB22EES1-8-3(B8-3と略記)が、抗炎症作用の原因となる、薬草抽出物中の活性化合物であることが見いだされた。
【0103】
TNF-α産生を抑制するB8-3の活性を確かめるために、B8-3をPBMacとともに24時間インキュベートし、その後にLPSを1ng/mLおよび10ng/mLの濃度で添加して24時間置いた。培養上清を収集し、分泌されたTNF-αのレベルに関してELISAによって測定した。
【0104】
B8-3は、LPS濃度1ng/mLおよび10ng/mLでのLPS誘導性TNF-αタンパク質産生を、それぞれ47±19%および58±30%阻害した(図5A、レーン4と5の比較、およびレーン6と7の比較)。
【0105】
B8-3の効率を既存の薬物とさらに比較するために、強力な免疫抑制性コルチコステロイドであるデキサメタゾンをプロトタイプとして用いた。PBMacをデキサメタゾンで24時間処理し、その後にLPSを1ng/mLおよび10ng/mLの濃度で添加して24時間置いた。
【0106】
それらの結果は、デキサメタゾンが1.3および5.1μMの濃度で、LPS誘導性TNF-α産生の、それぞれ32±7.5%および25±6.3%という有意な阻害を引き起こすことを実証している(図5B)。
【0107】
実施例4‐B8-3によるサイトカインダウンレギュレーションの分子機序
LPS誘導性TNF-α産生のB8-3による阻害に関与する分子経路を解明した。LPSで処理した細胞におけるサイトカイン産生の活性化が、LPSとその受容体との結合によって惹起されることは、文献的に十分に立証されている38。受容体との結合後に、シグナル伝達キナーゼのカスケードが活性化される。活性化されるキナーゼのうち、MAPキナーゼがLPS誘導性サイトカイン産生において極めて重要な役割を果たす。以前の諸研究において、LPSおよび他の病原体によるTNF-αの誘導は、ERK1/2およびp38 MAPKのリン酸化および活性化を必要とすることが具体的に示されている13,14,39
【0108】
TNF-α産生のB8-3による阻害におけるMAPキナーゼの役割について検討するために、PBMacをB8-3で24時間処理し、続いてLPSを添加して15分間置き、タンパク質試料をその後に収集して、ウエスタンブロット法を行った。
【0109】
それらの結果から、LPS処理が、2種類の異なるMAPキナーゼ、すなわちERK1/2およびp38 MAPKのリン酸化をもたらすことが示された(図6、レーン2)。B8-3前処理を行ったところ、LPSにより誘導されるERK1/2のリン酸化は抑制されたが(図6A、レーン2と4の比較)、p38 MAPKのリン酸化は抑制されなかった(図6B、レーン2と4の比較)。
【0110】
これらの結果から、B8-3の抗炎症活性が、一部には、それによるERK1/2リン酸化の阻害に起因することが実証された。
【0111】
LPS処理に応答してMAPキナーゼによって制御されるシグナル伝達経路とともに、転写因子NF-κBの活性化も、TNF-αを含む炎症誘発性サイトカインの誘導に決定的な役割を果たす40。NF-κBの活性化は、その特異的阻害因子であるIκBの分解、およびNF-κBサブユニットの細胞質から核への移行を伴う。本発明によれば、LPSの添加前にB8-3を添加して24時間置くことにより、NF-κB p65サブユニットの核内への移行は低下した。
【0112】
これらの結果から、LPSの添加前にPBMacにB8-3を添加して24時間置くことによって核画分中のp65NF-κBの量が減少することが示され(図6C、レーン2と4の比較)、このことはp65NF-κBの核への移行がB8-3によって阻害されたことを指し示している。全体として、B8-3はLPS誘導性キナーゼ活性、およびそれらの結果として起こるTNF-α転写のための核転写の活性化を阻害することができる。したがって、本発明の化合物は、炎症性状態と関連性のある細胞イベントのカスケードにおいてNF-κBおよび/またはERK1/2の下流にある細胞内および/または細胞外活性を制御するために用いることができる。
【0113】
実施例5‐HPLC-UVを用いた、ショウマおよびオオミツバショウマにおけるB22EES1-8-3の存在の確定
同じHPLC条件を用いて、B8-3の保持時間およびUV吸光度を、CF22EES1およびCH22EES1-8におけるクロマトグラム中の特徴的なピークと比較した。図7AおよびBでは、いずれの試料も保持時間がおよそ9.4分であるピークを有しており、それらの各々のUV吸光度はB8-3のものと同じであった(図2AおよびB)。これらの結果により、ショウマおよびオオミツバショウマを含む薬草がB8-3を含むことが判明した。
【0114】
実施例6‐UPLC-TOF-MSを用いた、ショウマおよびオオミツバショウマにおけるB22EES1-8-3の存在の確定
同じUPLCおよびESI-MSの条件を用いて、B8-3の保持時間および質量電荷比を、CF22EES1-8およびCH22EES1-8のクロマトグラムおよびスペクトル中の特徴的なピークと比較した。図8BおよびCでは、いずれの試料も保持時間がおよそ6分であるピークを有しており、イオンピークはm/z 357にあり、これは化合物1のものと同じであった(図8A)。これらの結果により、ショウマおよびオオミツバショウマを含む薬草がB8-3を含むことが判明した。
【0115】
参考文献
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]