(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エレクトロクロミックデバイスが、酸素で400p.s.i.まで加圧されたオートクレーブに周囲温度において2,016時間暴露された後に1.89より小さいa*値の変化を示す、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な記述
本発明を図面に基づいて説明する。
図面、特に
図1を参照して、一般に前部面112’および後部面112”を有する第一の基材112、前部面114’および後部面114”を有する第二の基材114およびエレクトロクロミック媒体124を保持するためのチャンバ116を含むエレクトロクロミックデバイス100の概略断面図を示す。エレクトロクロミックデバイス100が、説明の目的でミラー、ウインドウ、ディスプレイデバイス、コントラスト増加フィルタ等を含むことが理解されよう。さらに、
図1が単にエレクトロクロミックデバイス100の略式表示であることも理解されよう。そのようなものとして、部品のいくつかを図の明瞭性のためにその実際のスケールから不正確に再現している。事実、その全てが参考文献としてここに取込まれている米国特許第5,818,625号明細書に開示されているものを含む数多くのその他のエレクトロクロミックデバイス構造が使用のために意図されている。
【0017】
第一の基材112は、電磁スペクトルの可視領域で透明または実質的に透明である数多くの材料、例えばボロシリケートガラス、ソーダライムガラス、フロートガラス、天然または合成高分子樹脂またはプラスチック、例えばニュージャージー州TiconaのSummitから販売されているTopas(登録商標名)から作製し得る。第一の基材112は、約0.5ミリメートル(mm)〜約12.7mmの範囲の厚さを有するガラスのシートから作製されるのが好ましい。もちろん、基材の厚さはエレクトロクロミックデバイスの特定の用途に大きく依存する。特定の基材材料を説明の目的のためだけに開示するが、−材料が少なくとも実質的に透明でありそして適当な物性、例えば意図する用途の条件下で有効に操作することができる強度を有する限り、数多くの他の基材材料も同様に使用のために考慮し得ることを理解すべきである。事実、本発明のエレクトロクロミックデバイスは、通常の操作の際に、極端な温度に曝露され、そして太陽から主に発散される実質的なUV照射に曝露される。
【0018】
第二の基材114は、第一の基材112のものと同様な材料から作製することができる。しかしながら、エレクトロクロミックがミラーの場合、実質的な透明性の要求は必要としない。そのようなものとして、代わりに第二の基材114は、少し列挙するとポリマー、金属、ガラスおよびセラミックスを含む。第二の基材114は、約0.5mm〜約12.7mmの範囲の厚さを有するガラス板から作製されるのが好ましい。第一および第二の基材112および114が各々ガラス板から作製される場合、ガラスは、所望に応じて導電性材料(118および120)の層で被覆されるのに先立ってあるいは被覆された後に調質(tempered)することができる。
【0019】
1層以上の導電性材料118は、第一の基材の後部面112”に関係づけられている。これらの層はエレクトロクロミックデバイスの電極として作用する。導電性材料118は、(a)電磁スペクトルの可視領域で実質的に透明であり、(b)第一の基材112と適度に良好に結合し、(c)封止部材と関係づけられた際にその結合を維持し、(d)エレクトロクロミックデバイスまたは雰囲気内に含まれる材料からの腐食に対して概して耐性であり、そして(e)最小限の拡散またはスペクトル反射並びに十分な導電性を示す材料であることが望ましい。導電性材料118がフッ素ドープ酸化スズ(fluorine doped tin oxide:FTO)、例えばオハイオ州、ToledoのLibbery Owens-Ford-Co.,から販売されるTECガラス、インジウムドープ酸化スズ(indium doped tin oxide:ITO)、インジウムドープ酸化亜鉛またはその他の当該技術分野に公知の材料から作製してもよいことが考えられる。
【0020】
導電性材料120は、第二の基材114の表面114’と関係づけられることが好ましく、封止部材122により導電性材料118と有効に結合されている。
図1に示す通り、一度結合すると、封止部材および導電性材料118および120の並列した部分は、チャンバ16の内側周囲の形態を画定する。
【0021】
導電性材料120は、エレクトロクロミックデバイスの意図する用途に応じて変化し得る。例えば、エレクトロクロミックデバイスがミラーである場合、材料は、導電性材料118と同様な透明な導電性被膜を含んでもよい(この場合、反射板が第二の基材114の後部面114”に結合される)。代わりに、導電性材料120は、米国特許第5,818,625号明細書の教示に従って反射材料の層を含んでもよい。この場合、導電性材料120は、第二の基材114の後部面114”に関係づけられる。この種の反射板のための代表的被膜として、クロム、ロジウム、銀、銀合金およびこれらの組合せが挙げられる。
【0022】
封止部材122は、導電性材料118および120と接着し、順にチャンバ116を封止してエレクトロクロミック媒体124がチャンバから不注意で漏出させないような材料を含む。
図1の破線に示す通り、封止部材がこれらの対応する基材の後部面112”および前部面114’に延長することも考えられる。そのような実施の形態において、導電性材料118および120の層は、封止部材122が位置する場所で部分的に除去されていてもよい。導電性材料118および120が対応する基材と関係づけられない場合、封止部材122がガラスと十分に結合するのが好ましい。封止部材122が、例えば参考文献としてここに取込まれている米国特許第4,297,401号明細書、同第4,418,102号明細書、同第4,695,490号明細書、同第5,596,023号明細書、同第5,596,024号明細書、同第4,297,401号明細書およびエレクトロクロミックデバイス用の改良されたシールという名称の米国特許出願番号09/158,423を含む数多くの材料のいずれかから形成することができることが理解されよう。
【0023】
本開示の目的でエレクトロクロミック媒体を、溶液相媒体として以下に開示する。しかしながら、ハイブリッド媒体および固体状媒体も同様にして使用のために考えられることが理解されよう。ハイブリッド媒体では、アノードまたはカソード材料の一方を(固体で)その対応する導電性材料に適用することができる。例えば、カソード材料、例えば酸化タングステン(WO
3)を従来の導電性材料の表面に適用することができる。固体状媒体では、アノードおよびカソード材料の両方を固体でその対応する導電性材料に適用することができる。このような実施の形態において、添加剤は、アノード材料およびカソード材料の間に位置する電解質中になおも溶解している。
【0024】
一般にアノード材料、カソード材料および少なくとも1種の溶剤に溶解された発色安定化添加剤を含むエレクトロクロミック媒体124を
図1に示す。デバイス100の通常の操作の際に、発色安定化用の添加剤は、エレクトロクロミック媒体124に対して高透過状態において無色あるいはほぼ無色を保持させる。代表的にはアノードおよびカソード材料の両方は、電気的活性でありそしてこれらのうちの少なくとも1つはエレクトロクロミックである。その元の意味とは無関係に、用語「電気的活性」は、本明細書において特定の電位差に曝露された際にその酸化状態に変更を受ける材料として定義される。さらに、用語「エレクトロクロミック」とは、本明細書において、その元の意味とは無関係に特定の電位差に曝露された際に1以上の波長でその吸光率(extinction coefficient)の変化を有する材料として定義される。
【0025】
カソード材料として、例えば、ビオロゲン、例えばメチルビオロゲン、テトラフルオロボレートまたはオクチルビオロゲンテトラフルオロボレートが挙げられる。上記ビオロゲンの調製が当該技術分野に公知であることが理解されよう。特定のカソード材料が説明の目的だけに与えられているが、数多くの他の従来のカソード材料、例えば限定するつもりではないがその全てが参考文献としてここに取込まれている米国特許第4,902,108号明細書に記載されたものを含む他の材料も同様に使用され得る。事実、カソード材料に対する考慮する限定はデバイス100のエレクトロクロミック性能に悪影響を及ぼすべきでないということだけである。さらに、カソード材料は、固体遷移金属酸化物、例えば限定するつもりではないが酸化タングステンを含んでもよいと考慮される。
【0026】
アノード材料は、フェロセン、置換フェロセン、置換フェロセニル塩、フェナジン、置換フェナジン、フェノチアジン、置換フェノチアジンを含む多くの材料のうちの一つを含むことができる。アノード材料の例として、ジ−tert−ブチル−ジエチルフェロセン、(6−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキシル)トリエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、(3−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)プロピル)トリエチルアンモニウテトラフルオロボレート、5,10−ジメチルフェナジンおよび3,7,10−トリメチルフェノチアジンを挙げることができる。数多くの他の従来のアノード材料、例えば先に引用しそして取込まれている’108号明細書に記載されたものを含む他の材料も同様に使用に考慮できる。
【0027】
説明する目的のためだけであるが、アノードおよびカソード材料の濃度は、約1mM〜約500mM、より好ましくは約5mM〜約50mMの範囲であることができる。アノード並びにカソード材料の特定の濃度を提供したが、所望濃度がエレクトロクロミック媒体124を含有するチャンバの幾何学的構成に依存して大きく変化することが理解されよう。
【0028】
本開示の目的で、エレクトロクロミック媒体の溶剤は、数多くの材料、例えばスルホラン、グルタロニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、エトキシエタノール、テトラグリム(tetraglyme)およびその他の同様なポリエーテル類、ニトリル類、例えば3−ヒドロキシプロピオニトリル、ヒドロアクリロニトリル、2−メチルグルタロニトリル、2−アセチルブチロラクトン、シクロペンタノン、環式エステル類、例えばガンマ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートおよびこれらの均一混合物を含むことができる。特定の溶剤をエレクトロクロミック媒体と関連して開示してきたが、数多くの他の溶剤も同様にして使用され得る。
【0029】
本発明の第一の実施の形態において、添加剤は、カソード材料よりも容易に還元され、そしてエレクトロクロミックデバイスの通常の操作の際にエレクトロクロミック媒体が高透過状態にある間、残りの還元カソード材料の形成を実質的に阻害する役割を果たす。用語「高透過状態」とは、エレクトロクロミックデバイスの白化(bleached)された状態、電力が印加されていない状態、不活性化状態および/または開回路状態あるいはデバイス内のエレクトロクロミック媒体にとって無色あるいはほぼ無色となるのが望ましい状態として定義される。先に述べた通り、残りの還元されたカソード材料は、数多くの異なる理由のうちの一つから形成し、そしてエレクトロクロミック媒体にとって無色またはほぼ無色であることが望ましい場合に、エレクトロクロミック媒体が着色されたままとなり得るので望ましくない。
【0030】
本発明の第一の実施の形態において、添加剤は、アノード材料の酸化形態を含んでもよく、あるいは代わりに酸化形態で存在する(アノード材料とは異なる)他の材料を含んでもよい。好ましくは、添加剤は、アノード材料およびカソード材料の間のレドックス能を含んでいる。例えば、添加剤は、1種以上の材料、例えばフェロシニウム塩、置換フェロシニウム塩、フェナジウム塩、置換フェナジウム塩を含んでもよい。特定の材料として、例えばジ−tert−ブチル−ジエチルフェロシニウムテトラフルオロボレート、(6−(テトラ−tert−ブチルフェロシニウム)ヘキシル)トリエチルアンモニウムジ−テトラフルオロボレート、(3−(テトラ−tert−ブチルフェロシニウム)プロピル)トリエチルアンモニウムジ−テトラフルオロボレート、5−メチルフェナジウムテトラフルオロボレートが挙げられる。好ましくは、添加剤の濃度は約0.01mM〜約10mMの範囲である。
【0031】
本発明の第二の実施の形態において、添加剤は、カソード材料の還元形態を含み、そしてエレクトロクロミックデバイスが高透過状態にある間、残りの酸化アノード材料の形成を実質的に阻害する役割を果たす。好適なカソード材料および関連する還元種の例として、例えば以下に示す通りである。
【0033】
錯体の電気化学的に関連する部分のみが開示されそして上記錯体が数多くのカチオンまたはアニオンと結合して中性種を形成することが理解されよう。好ましくは、添加剤の濃度は約0.01mMないし約10mMの範囲である。
【0034】
本発明の第三の実施の形態において、添加剤は、アノード材料よりも容易に酸化されやすく、そして好ましくは1種以上の材料、例えば置換フェロセン、置換フェロセニル塩およびこれらの混合物からなる群から選択される。エレクトロクロミックデバイスの通常の操作中、当該エレクトロクロミックデバイスが高透過状態にある間、第三の実施の形態を構成する添加剤は、残りの酸化アノード材料の形成を実質的に阻害する役割を果たす。好適な材料の特定の例として、ジ−tert−ブチル−ジエチルフェロセン、(6−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキシル)トリエチルアンモニウムテトラフルオロボレートおよび(3−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)プロピル)トリエチルアンモニウムテトラフルオロボレートが挙げられる。特定の材料を例示の目的だけで開示したが、これらの前に本明細書に開示した当業者に公知である数多くの他の材料を同様にして使用され得る。好ましくは、添加剤の濃度は約0.01mM〜約10mMの範囲である。
【0035】
本発明の第四の実施の形態において、添加剤は、カソード材料よりもより容易に還元される第一の成分およびアノード材料よりもより容易に酸化される第二の成分を含む。エレクトロクロミックデバイスの通常の操作中、当該エレクトロクロミックデバイスが高透過状態にある間、第一の成分は残りの還元されたカソード材料の形成を実質的に阻害し、そして、前記第二の成分は残りの酸化されたアノード材料の形成を実質的に阻害する。
【0036】
第一の添加剤成分は、アノード材料の酸化形態または酸化形態で存在する追加的な電気的活性材料を含むことができ、あるいは添加剤化学当量が適当に制御された両者を含むことができる。適切な第一成分の例として、フェロシニウム塩、置換フェロシニウム塩、フェナジニウム塩および置換フェナジニウム塩等がある。特定の材料の例として、例えばジ−tert−ブチル−ジエチルフェロシニウムテトラフルオロボレート、(6−(テトラ−tert−ブチルフェロシニウム)ヘキシル)トリエチルアンモニウムジ−テトラフルオロボレート、(3−(テトラ−tert−ブチルフェロシニウム)プロピル)トリエチルアンモニウムジ−テトラフルオロボレートおよび5−メチルフェナジニウムテトラフルオロボレートが挙げられる。
【0037】
第二の添加剤成分は、1種類以上の材料、例えば置換フェナジン、置換フェロセン、置換フェロセニル塩およびこれらの混合物を含むことができる。特定の材料として、例えば5−メチルフェナジン、(6−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキシル)トリエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、(3−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)プロピル)トリエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、ジ−tert−ブチルフェロセンおよびこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、第一および第二の成分双方の濃度は、約0.01mM〜約10mMの範囲である。
【0038】
アノードおよびカソード材料が「エレクトロクロミックシステム」の名称の国際出願番号PCT/WO97/EP498に開示されるようにブリッジングユニットにより化合または結合することができることに注意をすべきである。アノードおよびカソード材料をその他の従来方法により結合することも可能である。
【0039】
加えて、エレクトロクロミック媒体は、その他の材料、例えば、光吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、増粘剤を含む粘度改良剤、および/または色合い提供剤を含んでもよい。好適なUV安定剤として、いくつかを挙げるとニューヨーク州ParsippanyのBASFによりUvinul N−35の商品名で、ニューヨーク州FlushingのAceto Corp.,によりViosorb 910の商品名で販売される材料であるエチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、BASFによりUvinul N−539の商品名で販売される材料である(2−エチルヘキシル)−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、Ciba−Geigy Corp.によりTinuvin Pの商標名で販売される材料である2−(2’−ヒドロキシ−4’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、American CyanamidによりCyasorb UV9の商標名で販売される材料である2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンおよびSandoz Color & ChemicalよりSanduvor VSUの商標名で販売される材料である2−エチル−2’−エトキシアルアニリドが挙げられる。増粘剤として、特に化学品供給元であるAldrich Chemical Co.から販売されるポリメチルメタクリレート(PMMA)が挙げられる。
【0040】
通常の操作の際に、添加剤なしのエレクトロクロミック媒体と比較した高透過状態中、無色またはほぼ無色のエレクトロクロミック媒体を保持しつつ、本発明のエレクトロクロミックデバイスを高透過状態と低透過状態との間を数多くの回数サイクルさせることを意図していることが理解されよう。
【0041】
成分部分として発色安定化されたエレクトロクロミック媒体を有するエレクトロクロミックデバイスは、通過されたあるいは反射された光を調整することのできる種々の用途に使用することができる。このようなデバイスとして、自動車のバックミラー、ビルディング、家または自動車の外装用ウインドウ、筒状ライトフィルタを含むビルディング用明り取り、オフィスまたはルームパーテーション用ウインドウ、ディスプレイ用のコントラスト増強フィルタ、写真機およびライトセンサ用のライトフィルタおよび電力電池並びに一次および二次電気化学電池用表示器が挙げられる。
【0042】
本発明のエレクトロクロミック媒体は、数多く異なる材料を使用する。材料が当該技術分野に公知な限り、調製および/または市販源がここに提供される。特に断りのない限り出発試薬は、ウィスコンシン州MilwaukeeのAldrich Chemical Co.,およびその他の一般の化学品供給元から市販されていることが理解されよう。妥当な場合、以下の、グラム(g)、ミリリットル(ml)、モル(mol)、ミリモル(mmol)、モル(M)およびミリモル(mM)を含む従来の化学略語を使用することが理解されよう。
【0043】
[(6−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキシル)トリエチルアンモニウムテトラフルオロボレートの合成]
【0045】
(6−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキシル)トリエチルアンモニウムテトラフルオロボレートの合成は、三段階合成である。第一に、6−ブロモ−1−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)−2−ヘキサノンを調製する。第二に、このケトン生成物を6−ブロモ−1−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキサンに転化し、これを順に引き続いて(6−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキシル)トリエチルアンモニウムテトラフルオロボレートに転化する。
【0046】
[6−ブロモ−1−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)−2−ヘキサノンの調製]
第一に、窒素パージしたフラスコにジクロロエタン350ml、テトラ−tert−ブチルフェロセン50.0g(122mmol)(T,Leigh.J.Am.Chem.Soc.1964年、第3294〜3302頁に従って調製)および6−ブロモヘキサノイルクロライド19.3ml(126mmol)を入れた。第二に、この溶液を摂氏0度に冷却し、この際にAlCl
313.3g(100mmol)を反応容器に2時間間隔で3回に分けて同量づつ入れた。AlCl
3の新鮮さおよび純度が、例えばtert−ブチル基のシクロペンタジエニル配位子上への置換度に影響を与え得ることが理解されよう。第三に、次いでこの反応混合物をゆっくりと攪拌した300mlのH
2Oに注いだ。第四に、有機層を水層の上部に適切に形成するように、この有機−水性混合物に十分な量のジエチルエーテルを入れた。第五に、濃塩酸(HCl)50mlを容器に入れた。第六に、亜鉛末約2〜5gを容器に入れて水層に存在するフェロシニウム種をエーテル可溶性フェロセンに還元した。一度層が明らかに規定されると、これらを分離し、そして水層をジエチルエーテル(Et
2O)200mlで抽出した。2つの有機部分を一緒にし、そしてNaHCO
3および食塩水で洗浄した。次に、有機溶液をMgSO
4で乾燥させた。次いで、有機溶液をMgSO
4からデカンテーションし、そして濾過した。次に、溶剤をロータリーエバポレーションにより蒸発させて赤色油分を得た。赤色油分を真空補助シリカゲルカラムに適用して、そしてヘキサンで洗浄して残留フェロセンを除去した。
【0047】
生成物をEt
2Oで溶離した。溶剤除去しフリーザで冷却すると、6−ブロモ−1−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)−2−ヘキサノン64.29gが赤色固体として単離された。
【0048】
[6−ブロモ−1−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキサンの調製]
第一に、AlCl
32.27g(17.02mmol)をシュレンクフラスコ中制御された正窒素圧下で乾燥Et
2O200ml中に溶解した。第二に、この溶液を摂氏0度に冷却し、そして1.0M LiAlH
417.0g(17.0mmol)を注射器を介してフラスコに入れた。得られた懸濁液を室温にまで温め、そして約15分間攪拌した。次に、上記調製した6−ブロモ−1−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)−2−ヘキサノン10.00g(17.02mmol)をゆっくりと懸濁液に添加した。一度、ケトン性生成物の添加を完了すると、溶液を加熱して約3時間還流させ、その後、溶液を室温に冷却した。次いで、ゆっくりとH
2Oを溶液に添加することによって反応を停止した。さらに発熱反応が観察されなくなった際に、H
2O250mlを添加して溶液を希釈した。次いで、この溶液を分液漏斗に移し、そこで有機層を回収し、そして水層をEt
2O100mlで抽出した。有機部分を一緒にし、そしてNaHCO
3および食塩水で洗浄した。次に、有機溶液をMgSO
4で乾燥させた。次いで、有機溶液を乾燥剤からデカンテーションし、そして濾過した。次に、溶剤をロータリーエバポレーションにより蒸発させて黄−橙油分を得た。この油分を少量のヘキサンに溶解し、真空補助ゲルカラムに適用して、そしてさらなるヘキサンにて溶離した。溶液を除去すると、6−ブロモ−1−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキサンが黄橙固体として単離された。
【0049】
[(6−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキシル)トリエチルアンモニウムテトラフルオロボレートの調製]
第一に、トリエチルアミン(NEt
3)87.5ml(628mmol)および6−ブロモ−1−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキサン53.1g(92.6mmol)およびアセトニトリル50mlを反応容器に入れた。次いで、この溶液を加熱して4日間還流させた。この時間の間、ヘキサンを溶離剤として出発原料の消失のために使用して薄層クロマトグラフィー(TLC)により周期的に反応を監視した。室温まで冷却した後、溶剤をロータリーエバポレーションにより除去し、そして生成物をEt
2Oの添加により沈殿させた。生成物の臭化物塩をフィルタフリット上で回収し、そして何回かに分けて冷Et
2Oで洗浄した。次に、この塩を減圧下で乾燥して橙色固体を得た。次いで、水にNaBF
4を溶解し、次いで残留固体粒子をフィルタを介して除去することによって、アニオン交換を行った。次に、生成物の臭化物塩をメタノール(MeOH)に溶解し、そして水に溶解したNaBF
4を臭化物塩溶液に添加した。メタノールをロータリーエバポレーションにより生成物が沈殿してくるまでゆっくりと蒸発させた。橙色沈殿物をフィルタフリット上で回収し、そしてこの再結晶プロセスを繰り返した。最後に、沈殿物を最小量のMeOHに溶解し、そしてEt
2Oをゆっくりと添加して橙色固体の(6−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキシル)トリエチルアンモニウムテトラフルオロボレートを沈殿させ、そしてこれをフリット上で回収し、減圧下で乾燥させ、そして後の使用のために保存した。
【0050】
より短鎖あるいは長鎖のアルキル鎖置換基、例えばプロピルアルキル鎖誘導体も同様にしてより短鎖あるいは長鎖のアルキル鎖先駆体試薬を使用して合成することができることが理解されよう。
【0051】
[(6−(テトラ−tert−ブチルフェロシニウム)ヘキシル)トリエチルアンモニウムジ−テトラフルオロボレートの合成]
【0053】
第一に、上記調製した(6−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキシル)トリエチルアンモニウムテトラフルオロボレート10.00g(14.67mmol)をジクロロメタン(CH
2Cl
2)150mlに溶解した。次に、AgBF
45.0g(25.7mmol)を二回に分けて同量づつ5分間隔で添加した。30分間攪拌した後、溶液を濾過し、そして溶剤をロータリーエバポレーションにより除去して、緑色固体を得た。この緑色固体を最小量のCH
2Cl
2に再溶解し、そして生成物をEt
2Oの添加により沈殿させた。固体を減圧下に乾燥させて暗緑色結晶質固体として(6−(テトラ−tert−ブチルフェロシニウム)ヘキシル)トリエチルアンモニウムジ−テトラフルオロボレート10.57gを得た。
【0054】
[ジ−tert−ブチル−ジエチルフェロセンの合成]
【0056】
第一に、反応フラスコを窒素で充分にパージし、そしてジクロロエタン300ml、ジ−tert−ブチルフェロセン10.0g(33.53mmol)(T,Leigh.J.Am.Chem.Soc.1964年、第3294〜3302頁に従って調製)および新たに蒸留したアセチルブロマイド7.44ml(100.6mmol)を装填した。この溶液を攪拌し、摂氏0度に冷却し、そしてAlCl
38.94g(67.06mmol)を装填した。この溶液を摂氏0度で1時間保持し、次いで室温にまで温めた。攪拌を保持および暖め時間の間続けた。次いで、反応混合物を、攪拌した氷および希HClの混合物を含むビーカに移した。次に、Et
2Oを添加して水層の上部に有機層を形成した。有機層を、分液漏斗を介して分離し、そして水層をEt
2O200mlで抽出した。有機部分を一緒にし、そしてNaHCO
3および食塩水で洗浄し、次いでMgSO
4で乾燥させた。次に、溶液をMgSO
4からデカンテーションし、そしてロータリーエバポレータに配置して溶剤を除去して、赤色油分を得た。赤色油分をシリカゲルカラムに適用して、そしてヘキサンで洗浄して残留出発原料を生成物から取り除いた。次いで、ケトン生成物を酢酸エチル(EtOAc)/ヘキサン(30:70容量%)の混合物で溶離した。溶剤除去すると、ジ−tert−ブチルジアセチルフェロセン5.55gが回収された。
【0057】
ジ−tert−ブチルジアセチルフェロセンの調製後、正窒素圧下のシュレンクフラスコに乾燥Et
2O25mlを入れた。第二に、AlCl
30.35g(2.6mmol)を反応フラスコに入れた。攪拌を開始し、そしてAlCl
3を溶液に溶解させた。第三に、1M LiAlH
45.23ml(5.23mmol)を注射器を介して反応フラスコに入れた。得られた懸濁液を約15分間攪拌した。第四に、上記調製したジ−tert−ブチルジアセチルフェロセン1.00g(2.62mmol)をゆっくりと反応容器に入れた。次に、この溶液を加熱して約3時間リフラックスさせ、次いで連続して攪拌しながら一晩室温にまで冷却した。次いで、ゆっくりとEt
2Oを溶液に添加することによって反応を停止した。有機層を分液漏斗を介して水層から分離した。次に、水層をEt
2O100mlで抽出した。有機部分を一緒にし、そしてH
2Oおよび食塩水で洗浄し、続いてMgSO
4で乾燥させた。溶液を乾燥剤からデカンテーションし、そして濾過した。次に、溶剤をロータリーエバポレーションにより除去して、黄−橙色油分を得た。この油分を少量のヘキサンに溶解し、真空補助シリカゲルカラムに適用して、そしてさらにヘキサン溶離した。溶剤を除去すると、ジ−tert−ブチル−ジエチルフェロセン0.627gを回収し、そしてこれを後の使用のために保存した。
【0058】
[ジ−tert−ブチル−ジエチルフェロセニウムテトラフルオロボレートの合成]
【0060】
第一に、上記調製したジ−tert−ブチル−ジエチルフェロセン0.50g(1.41mmol)、CH
2Cl
220mlおよびAgBF
40.282g(1.45mmol)を反応容器に入れ、同時に攪拌を開始した。約2時間の攪拌後、溶液を濾過し、そして溶剤をロータリーエバポレーションにより除去して緑色固体を得た。この緑色固体をEt
2OのCH
2Cl
2溶解した粗製ジ−tert−ブチル−ジエチルフェロセニウムBF
4の濃縮溶液への層状溶剤分散(layered solvent diffusion)により再結晶させた。固体を減圧下に乾燥して、暗緑色の結晶質固体としてジ−tert−ブチル−ジエチルフェロセニウムBF
40.51gを得た。
【0061】
本発明をサポートするために、発色安定化添加剤を含むエレクトロクロミックデバイスを調製し、その発色安定化性能を発色安定化添加剤なしで作製された同様のデバイスと比較したいくつかの実験を行なった。
【0062】
発色を議論するに当たって、Commision Internationale de I’Eclairage’s(CIE)1976CIELAB Chromaticity Diagram(一般にLa
*b
*チャートと言う)を参照するのが有効である。発色の技術は、比較的複雑であるが、かなり広範な議論がPrinciples of Color Technology 第二版、J.,W.Wiley and Sons Inc.編(1981年)のF.W.BillmeyerおよびM.Saltzmanによりなされており、そして本開示は、発色技術およびその用語に関してその議論に一般的に従う。La
*b
*チャートにおいて、Lは明度を規定し、a
*は赤/緑値を示し、そしてb
*は、黄/青値を示す。各々のエレクトロクロミック媒体は、3つの数の表示、すなわちこれらのLa
*b
*値に転換し得る各特定の電圧における吸収スペクトルを有している。しかしながら、本議論のために、(1)a
*値が増加した媒体がより赤色であり、(2)a
*値が減少した媒体がより緑色であり、(3)b
*値が増加した媒体がより黄色であり、そして(4)b
*値が減少した媒体がより青色であるので、a
*および
*b
*値が最も関連している。
【0063】
以下に提供する各実験において、エレクトロクロミック材料を炭酸プロピレン(propylene carbonate:PC)に溶解したことが理解されよう。
【0064】
[実験番号1]
この実験において、以下の材料を以下に示す濃度で一緒に混合することによって2種類のエレクトロクロミック媒体を調製した。
【0067】
各媒体を試験するためにエレクトロクロミックミラーと関係づけた。特にミラーは、2枚の2×5インチ基材から構成した。第一の基材を、概ね透明な導電性フッ素ドープ酸化スズで被覆し、そして第二の基材を、後部面(114”)に銀反射体を有するフッ素ドープ酸化スズで被覆した。各基材は、媒体を収納するために137ミクロン空間をおいて離した。
【0068】
表に示す通り、実験番号1Aは、添加剤を含まず、そして実験番号1Bは、添加剤として(6−(テトラ−tert−ブチルフェロセニル)ヘキシル)トリエチルアンモニウムBF
4を添加剤として含んでいる。過酷な酸化環境をシミュレートするために、上記調製した媒体の各々を周囲温度400p.s.i.で酸素供給ラインを有する従来のオートクレーブに入れた。次いで、所定間隔でLa
*b
*の各値を得ることによって媒体をこれらの発色安定性に関して評価した。実験番号1Aおよび1Bに関するLa
*b
*値を以下に示す。
【0070】
全体として、添加剤なしの媒体は、実質的により緑色に変色し、このことは、負のa
*値が増加する
図2およびb
*値が増加する
図3に示される。従って、実験番号1は、事実上記添加剤の使用が酸化環境に関連する着色の悪影響を極小化する効果的な機構を提供することを立証している。
【0071】
[実験番号2]
この実験において、以下の材料を以下に示す濃度で一緒に混合することによって4種類のエレクトロクロミック媒体を調製した。
【0076】
表に示す通り、実験番号2Aは、添加剤を含まず、そして実験番号2B〜2Dは、添加剤として異なるフェロセン錯体を添加剤として含んでいる。各媒体(2A〜2D)は、発色安定化試験のために実験1に記載したものと同様の構成のエレクトロクロミックミラーと関係づけた。二セットのミラーを構成し、そのうちの半分を実験番号1と同一の条件下のオートクレーブに入れ、一方残りの半分を長時間の高温への曝露をシミュレートするために摂氏85度で保存した。La
*b
*データを以下に示す所定間隔で得た。
【0079】
オートクレーブ実験に関して、
図4は、フェロセニル添加剤なしの媒体(オートクレーブ実験2A、2C)がフェロセニル添加剤を有する媒体(オートクレーブ実験2B、2D)よりも一層赤色に変色する(正のa
*値)ことを示す。
図5は、高温で保存したミラーに関係づけられた媒体(熱実験2A〜2D)に関するb
*値をグラフにより示す。特に、フェロセン添加剤を含む媒体(熱2C、2D)はb
*値の相当の減少はない。これに対して、フェロセン添加剤なしの媒体は、ほとんどすぐに衰え始めるかあるいは青変する。
【0080】
加えて、
図4および
図5は、フェロセニルおよびフェロシニウム種の両方を含む媒体が酸化的および長期間の高温環境の両方で相対的に一定のa
*およびb
*値を保持することを全体的に示している。
【0081】
[実験番号3]
この実験において、以下の材料を以下に示す濃度で一緒に混合することによって2種類のエレクトロクロミック媒体を調製した。
【0084】
表に示す通り、実験番号3Aは、添加剤を含まず、そして実験番号3Bは、添加剤として(6−(テトラ−tert−ブチルフェロシニウム)ヘキシル)トリエチルアンモニウムBF
4を添加剤として含んでいる。反射体が第二の基材の後部面(114”)と関係づけられておらずそしてセル間隔を137ミクロンの代わりに250ミクロンとした以外は実験番号2に開示したミラーと同様に構成されたエレクトロクロミックウインドウに実験3Aおよび3Bからの媒体を入れた。このウインドウを摂氏85度で保存し、そしてLa
*b
*データを以下に示す所定間隔で得た。
【0086】
図6および
図7の両方に示すように、フェロセニウム錯体を有する媒体(実験3B)は、添加剤なし(実験3A)の類似媒体よりも実質的により熱安定性が高い。事実、添加剤なしの媒体は、ほとんどすぐにほとんどすぐに「青色」に退色する(b
*値の減少により示される通り)。
【0087】
[実験番号4]
この実験において、以下の材料を以下に示す濃度で一緒に混合することによって2種類のエレクトロクロミック媒体を調製した。実験4Aは、添加剤なしである。
【0090】
上記調製した媒体を、実験番号3に使用したのと同様に構成したエレクトロクロミックウインドウと関係づけ、試験し、そしてLa
*b
*データを以下に示す所定間隔で得た。
【0092】
図8および
図9は、再び添加剤なしの媒体(実験4A)が添加剤を含む媒体と比較して迅速に衰えたことをグラフにて示している。
上記に提供した実験から明らかな通り、1以上の開示した添加剤の導入は、酸化環境および高温下でもエレクトロクロミック媒体の発色安定性を実質的に改良する。
【0093】
本発明を所定の実施の形態により詳細に説明したが、その変更および変化は、当業者により行うことができる。従って、本願出願人は、添付の請求の範囲にのみ限定され、本明細書に示した実施の形態に記載された詳細および方法に限定されるものではない。