(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778611
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】上顎用の印象用トレー
(51)【国際特許分類】
A61C 9/00 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
A61C9/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-80341(P2012-80341)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208261(P2013-208261A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000181217
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100070105
【弁理士】
【氏名又は名称】野間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】丸森 英史
(72)【発明者】
【氏名】蒲原 敬
【審査官】
石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/142474(WO,A2)
【文献】
特開2000−135227(JP,A)
【文献】
特表2008−534174(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/223025(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部間が拡がるU字状で略同一幅の平面を成す底部(1)のU字状の端部を含む外側から円弧状部(2a)を介して立設されており且つU字状の端部側に行くに従って高さが徐々に減少している外壁(2)と該底部(1)の内側から滑らかな曲面を形成するように膨隆して該底部(1)間のU字状の空間を閉塞する膨隆部(3)とを有する形状のプラスチック製の上顎用の印象用トレーであって、
該外壁(2)の上端に沿って底部(1)側に高さ0.01〜1mmのリム(4)が設けられていると共に、U字状の端部を含まない該外壁(2)に該リム(4)に対して直角にリム(4)の直下から底部(1)に達する幅が1.5〜4.0mmの長穴状の貫通穴(5)が隣接する貫通穴(5)との間隙が貫通穴(5)の幅の2〜5倍の略等間隔になるように形成されており、該膨隆部(3)には前歯部側を除いた位置では該外壁(2)に設けた長穴状の貫通穴(5)に対応する部位にまた前歯部側の位置では前歯部側の中央に位置する部位に底部(1)に達する幅が該外壁(2)に設けられた長穴状の幅と同一幅の長穴状の貫通穴(6)が設けられており、且つ該底部(1)には該外壁(2)に設けられている長穴状の貫通穴(5)の隣接する間隔の中央に直径が3〜6mmの円形貫通穴(7)が形成されていると共にU字状の端部であって該外壁(2)と該膨隆部(3)とのU字状の最も端部側に位置する各長穴状の貫通穴(5,6)の底部側端部を結ぶ線上又は該線より端部側と該膨隆部(3)の中央の端部側とに幅が1.0〜3.0mmで長さが5〜15mmの長穴状の端部側貫通穴(8)が設けられていることを特徴とする上顎用の印象用トレー。
【請求項2】
外壁(2)と膨隆部(3)とに設けられている長穴状の貫通穴(5,6)の幅が、2.0〜3.0mm,長さが幅の2〜3倍である請求項1に記載の上顎用の印象用トレー。
【請求項3】
外壁(2)と膨隆部(3)とに設けられている長穴状の貫通穴(5、6)の間隔が、3〜18mmである請求項1又は2に記載の上顎用の印象用トレー。
【請求項4】
リム(4)の高さが、0.1〜0.3mmである請求項1から3のいずれか1項に記載の上顎用の印象用トレー。
【請求項5】
外壁(2)の上端に沿って底部(1)と反対側に高さ0.01〜1mmのリム(4’)がそれぞれ設けられている請求項1から4のいずれか1項に記載の上顎用の印象用トレー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科において補綴物として総義歯の作製等を行う準備段階として口腔内の上顎の印象採得を行う際に用いるプラスチック製の上顎印象採得用トレーであり、硬化後の印象材がトレーから浮き上がることや剥離してしまうことを防止することで精度の高い印象採得を行うことができる上顎用の印象用トレーに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、補綴物の作製を行う準備段階として口腔内の印象採得を行う際には、シリコーン印象材やアルジネート印象材等の印象材が使用される。このような印象材を口腔内に挿入して保持するためには、印象採得用トレーが用いられる。印象採得においては、印象採得用トレーに印象材を盛り上げて患者の口腔内に挿入し、印象材を印象採得を行う患者の口腔内に押し付けて印象材が硬化した後に、印象採得用トレー中に硬化した印象材が保持された状態で一体として患者の口腔内から取り出される。
【0003】
硬化した印象材を口腔内から撤去する際には、大きな力が必要であり、その結果、硬化後の印象材が印象採得用トレーから浮き上がって印象採得用トレーから剥がれてしまい、印象採得用トレーと印象材との間に空隙が発生する問題がある。この空隙ができるときには印象材が硬化した最初の状態から変形してしまうことが多く、作製される歯科用補綴物の精度が著しく低下してしまうこととなる。更に印象材は、硬化後、反応、水分の揮発により収縮する特性を有しているので、印象材が印象採得用トレーから剥離していると、この収縮による影響が大きくなって歯科用補綴物の精度がより低下することにもなる。そこで印象採得用トレーには、印象材を患者の口腔内に挿入し硬化した印象材を患者の口腔内から変形させることなく撤去できる性能が重要となる。
【0004】
通常、印象採得用トレーには、硬化した印象材を機械的に保持するための保持孔や溝が設けられている。即ち、硬化前の印象材ペーストが保持孔に入り込んでから硬化することによって硬化後の印象材とトレーとが機械的に係合するのである。特にトレー辺縁部においては、硬化した印象材が剥がれ易いので、トレーの辺縁部に沿ってアンダーカット部(リブ)を付けることが行われている。しかし、このアンダーカット部に充分な量の印象材が入ることができないため、辺縁部において剥離が生じ易くなってしまっている。また、印象採得用トレーには、金属製とプラスチック製とがあり、金属製のトレーは加工により上記のように辺縁に高さ1.5〜2.5mmのアンダーカット部を設けることが容易である。一方、プラスチック製のトレーは作成時に使用する金型に影響されて成型されたトレーを撤去することができなくなってしまうために効果的な高さのアンダーカット部を設けることができない。このため、特にプラスチック製の印象用トレーにおいては、印象材のトレー辺縁からの剥離が大きく、変形も大きくなってしまう問題が発生している。
【0005】
プラスチック製の上顎用のトレーとしては、歯列形状に似た平面視弯曲状の印象材保持凹部を形成すべく底壁、内・外側壁を備え、前記底壁又は外側壁の前歯側端から前方に延びるハンドル部を備え、かつ、前記凹部の少なくとも内・外側壁に全面にわたって印象材との相対移動を阻止する多数の印象材保持孔を具備していることを特徴とする歯科印象用トレー(例えば、特許文献1の
図7〜10参照。)がある。この特許文献1には、内外対向壁に設けた印象材保持孔が上下方向に長い長孔でかつ凹部内外方向に貫通しており(請求項2参照。)、外側壁の前歯側に設けられる印象材保持孔が凹部底壁又はハンドル部或いは両方に設けた貫通状に連通しているものが例示されている(請求項3参照。)。しかしながら、この特許文献1には前述したように内外対向壁に設けた上下方向に長い長孔の印象材保持孔が図面中に隣接する長孔の間隙が非常に狭いものだけが示されていると共に長孔の幅については全く開示が存在しない。また、外側壁の前歯側に設けられる印象材保持孔も図面上では長孔状のものが開示されているが、隣接する長孔の間隙や長孔の幅については全く開示が存在しない。更に、底壁には断面円形の印象材保持孔が設けられているが、この断面円形の印象材保持孔もその孔径や隣接する断面円形の印象材保持孔間の間隔については全く開示されていない。そして、底壁はU字状の端部側(奥歯側)が急激に浅くなっている態様が示されている。
【0006】
このような特許文献1に記載の歯科印象用トレーでは、内外対向壁に設けた上下方向に長い長孔の印象材保持孔で印象材を充分に保持できる保証がなく、外側壁の前歯側に設けられる印象材保持孔で印象材を充分に保持できる保証もなく、更に底壁に設けられている断面円形の印象材保持孔で印象材を充分に保持できる保証もないと共に、U字状の端部側(奥歯側)の印象材が剥がれ易いという欠点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000―135227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、歯科において補綴物として総義歯の作製等を行う準備段階として口腔内の上顎の印象採得を行う際に用いるプラスチック製の上顎印象採得用トレーであって、硬化後の印象材のトレーからの浮き上がりや剥離を防止し、精度の高い印象採得を行うことができる上顎用の印象用トレーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、プラスチック製の上顎用の印象用トレーの全体形状を、端部間が拡がるU字状で略同一幅の平面を成す底部のU字状の端部を含む外側に円弧状部を介して立設されており且つU字状の端部側に行くに従って高さが徐々に減少している外壁と該底部の内側から滑らかな曲面を形成するように膨隆して該底部間のU字状の空間を閉塞する膨隆部とを有する形状とし、該外壁の上端に沿って底部側に高さ0.01〜1mmのリムを設けると共に、U字状の端部を含まない該外壁にこのリムに対して直角にリムの直下から底部に達する幅が1.5〜4.0mmの長穴状の貫通穴を隣接する貫通穴との間隙が貫通穴の幅の2〜5倍の略等間隔になるように形成し、該膨隆部には前歯部側を除いた位置では該外壁に設けた長穴状の貫通穴に対応する部位にまた前歯部側の位置では前歯部側の中央に位置する部位に底部に達する幅が該外壁に設けた長穴状の幅と同一幅の長穴状の貫通穴を設け、且つ該底部には外壁に設けられている長穴状の貫通穴の隣接する間隔の中央に直径が3〜6mmの円形貫通穴を形成すると共にU字状の端部であって該外壁と該膨隆部とのU字状の最も端部側に位置する各長穴状の貫通穴の底部側端部を結ぶ線上又は該線より端部側と該膨隆部の中央の端部側とに幅が1.0〜3.0mmで長さが5〜15mmの長穴状の端部側貫通穴を設ければ、上記課題を解決できることを究明して本発明を完成したのである。
【0010】
そしてこのような構成において、外壁と膨隆部とに設けられている長穴状の貫通穴の幅が2.0〜3.0mmで、長さが幅の2〜3倍であることや、外壁と膨隆部とに設けられている長穴状の貫通穴の間隔が3〜18mmであることや、リムの高さが1〜0.3mmであることや、外壁の上端に沿って底部と反対側に高さ0.01〜1mmのリムがそれぞれ設けられていることが好ましいことも究明したのである。
【0011】
即ち本発明は、端部間が拡がるU字状で略同一幅の平面を成す底部のU字状の端部を含む外側から円弧状部を介して立設されており且つU字状の端部側に行くに従って高さが徐々に減少している外壁と該底部の内側から滑らかな曲面を形成するように膨隆して該底部間のU字状の空間を閉塞する膨隆部とを有する形状のプラスチック製の上顎用の印象用トレーであって、該外壁の上端に沿って底部側に高さ0.01〜1mmのリムが設けられていると共に、U字状の端部を含まない該外壁に該リムに対して直角にリムの直下から底部に達する幅が1.5〜4.0mmの長穴状の貫通穴が隣接する貫通穴との間隙が貫通穴の幅の2〜5倍の略等間隔になるように形成されており、該膨隆部には前歯部側を除いた位置では該外壁に設けた長穴状の貫通穴に対応する部位にまた前歯部側の位置では前歯部側の中央に位置する部位に底部に達する幅が該外壁に設けられた長穴状の幅と同一幅の長穴状の貫通穴が設けられており、且つ該底部には該外壁に設けられている長穴状の貫通穴の隣接する間隔の中央に直径が3〜6mmの円形貫通穴が形成されていると共にU字状の端部であって該外壁と該膨隆部とのU字状の最も端部側に位置する各長穴状の貫通穴の底部側端部を結ぶ線上又は該線より端部側と該膨隆部の中央の端部側とに幅が1.0〜3.0mmで長さが5〜15mmの長穴状の端部側貫通穴が設けられていることを特徴とする上顎用の印象用トレーであり、長穴状の貫通穴の幅が2.0〜3.0mmで、長さが幅の2〜3倍であることや、長穴状の貫通穴の間隔が3〜18mmであることや、リムの高さが1〜0.3mmであることや、外壁と内壁との各上端に沿って底部と反対側に高さ0.01〜1mmのリムがそれぞれ設けられていることが好ましい上顎用の印象用トレーである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る上顎用の印象用トレーは、端部間が拡がるU字状の底部のU字状の端部を含む外側に形成されている外壁の上端に沿って底部側に高さ0.01〜1mm、好ましくは0.1〜0.3mmのリムが設けられているので、このリムの下方がアンダーカット部となるから硬化した印象材がトレーから浮き上がったり剥離したりしがたいと共にそのリムの高さが0.01〜1mmと低いので射出成型時の金型から取り出すのに邪魔にならないのである。そして、U字状の端部を含まない外壁にこのリムに対して直角にリムの直下から底部に達する幅が1.5〜4.0mmの長穴状の貫通穴が隣接する貫通穴との間隙が貫通穴の幅の2〜5倍の略等間隔になるように形成されており、膨隆部には前歯部側を除いた位置では外壁に設けた長穴状の貫通穴に対応する部位にまた前歯部側の位置では前歯部側の中央に位置する部位に底部に達する幅が外壁に設けられた長穴状の幅と同一幅の長穴状の貫通穴が設けられているので、シリコーン印象材又はアルジネート印象材をトレー内に盛って患者の口腔内の上顎に押し当てて印象採得を行った際に印象材が適度にこの貫通穴内に入り込んで硬化した印象材を保持するので、硬化した印象材がトレーから浮き上がったり剥離したりしがたいのである。更に、底部には外壁に設けられている長穴状の貫通穴の隣接する間隔の中央に直径が3〜6mmの円形貫通穴が形成されているので、シリコーン印象材又はアルジネート印象材をトレー内に盛って患者の口腔内の上顎に押し当てて印象採得を行った際に印象材がこの円形貫通穴に入り込んで硬化した印象材を保持するのであるが、この円形貫通穴は外壁と膨隆部とに設けられている長穴状の貫通穴を結ぶ線上に存在しないから、トレー内の同じ部分に盛られた印象材が外壁と膨隆部とに設けられている長穴状の貫通穴と底部に設けられた円形貫通穴とから同時にトレー外に押し出されて硬化した印象材内に空間を生じてしまうこともないのである。そして、U字状の端部であって外壁と膨隆部とのU字状の最も端部側に位置する各長穴状の貫通穴の底部側端部を結ぶ線上又はこの線より端部側のみならず膨隆部の中央の端部側にも幅が1.0〜3.0mmで長さが5〜15mmの長穴状の端部側貫通穴が設けられているので、トレー内の最も奥歯側に盛った印象材がU字状の端部であって底部と膨隆部の中央の端部側に設けられた各長穴状の端部側貫通穴に入り込んでしっかり保持されるので、U字状の端部側(奥歯側)の印象材が剥がれ易いという欠点が生じないのである。
【0013】
そしてこのような上顎用の印象用トレーにおいて、外壁と膨隆部とに設けられている長穴状の貫通穴の幅が2.0〜3.0mmで、長さが幅の2〜3倍であったり、外壁と膨隆部とに設けられている長穴状の貫通穴の間隔が3〜18mmであると、印象採得時に印象材が長穴状の貫通穴により良好に保持されて、硬化した印象材がトレーから浮き上がったり剥離したりしがたいのである。また、外壁の上端に沿って底部と反対側に高さ0.01〜1mmのリムがそれぞれ設けられていると、外壁の上端の肉厚が厚くなって強度が向上するにも拘らず、射出成型時の金型から取り出すのに邪魔にならないのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る上顎用の印象用トレーの1実施例の平面図である。
【
図2】
図1に示した上顎用の印象用トレーの背面図である。
【
図3】
図1に示した上顎用の印象用トレーの右側面図である。
【
図5】
図1に示した上顎用の印象用トレーの斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る上顎用の印象用トレーは、端部間が拡がるU字状で略同一幅の平面を成す底部1と、この底部1のU字状の端部を含む外側から円弧状部2aを介して立設されており且つU字状の端部側に行くに従って高さが徐々に減少している外壁2とこの底部1の内側から滑らかな曲面を形成するように膨隆して底部1間のU字状の空間を閉塞する膨隆部3とを有する形状のプラスチック製の上顎用の印象用トレーである。そして、外壁2の上端に沿って底部1側に高さが0.01〜1mm、好ましくは0.1〜0.3mmのリム4がそれぞれ設けられている。このリム4はその下方にアンダーカット部を形成して硬化した印象材がトレーから浮き上がったり剥離したりするのを防止する作用を生じさせるためのものであり、高さが0.01mm未満ではアンダーカット部を生じさせる効果を期待できず、1mmを超えると高さが高過ぎてトレーの射出成型時に金型から取り出すのに邪魔になって良好に射出成型を行うことができない。また、外壁2の上端に沿って底部1と反対側に高さ0.01〜1mmのリム4’が更にそれぞれ設けられていると、外壁2の上端の肉厚が厚くなって強度が向上するにも拘らず、射出成型時の金型から取り出すのに邪魔にならないので好ましい。
【0016】
5はU字状の端部を含まない外壁2にリム4に対して直角にリム4の直下から底部1に達する幅が1.5〜4.0mmの長穴状の貫通穴であり、この貫通穴5は隣接する貫通穴5との間隙が貫通穴5の幅の2〜5倍に略等しい幅で形成されている。この長穴状の貫通穴5の幅は、1.5mm未満ではシリコーン印象材又はアルジネート印象材をトレー内に盛って患者の口腔内の上顎に押し当てて印象採得を行った際に印象材が適度にこの貫通穴5内に入り込まないため硬化した印象材を保持できずに抜け落ちる現象が発生するので好ましくなく、4.0mmを超えるとシリコーン印象材又はアルジネート印象材をトレー内に盛って患者の口腔内の上顎に押し当てるだけでは圧力が足らないためこの貫通穴5内に入り込まないため硬化した印象材を保持できずに抜け落ちる現象が発生するので好ましくないのである。そして、この貫通穴5の隣接する貫通穴5との間隙が貫通穴5の幅の2倍未満では、隣接する貫通穴5が近寄りすぎるためシリコーン印象材又はアルジネート印象材をトレー内に盛って患者の口腔内の上顎に押し当てて印象採得を行った際に印象材が貫通穴5内に充分入り込むことができず、5倍を超えると隣接する貫通穴5が離れすぎるためシリコーン印象材又はアルジネート印象材をトレー内に盛って患者の口腔内の上顎に押し当てて印象採得を行った際に印象材が貫通穴5内に充分入り込んで保持される効果が生じないので好ましくない。この長穴状の貫通穴5の幅は2.0〜3.0mmで、長さが幅の2〜3倍であり、隣接する貫通穴5との間隙は3〜18mmであることが特に好ましい。
【0017】
6は膨隆部3に前歯部を除いた位置では外壁2に設けた長穴状の貫通穴5に対応する部位にまた前歯部側の位置では前歯部側の中央に位置する部位に底部1に達する幅が外壁2に設けられた長穴状の幅と同一幅で設けられた長穴状の貫通穴である。
【0018】
7は外壁2に設けられている長穴状の貫通穴5の隣接する間隔の中央に位置する底部1に形成されている直径が3〜6mmの円形貫通穴である。この円形貫通穴7が外壁2に設けられている長穴状の貫通穴5の隣接する間隔の中央に位置する底部1に形成されていなければならないのは、シリコーン印象材又はアルジネート印象材をトレー内に盛って患者の口腔内の上顎に押し当てて印象採得を行った際にトレー内の同じ部位に盛られた印象材が長穴状の貫通穴5及び6内と円形貫通穴7内とに同時に入り込んでトレー外に押し出されて硬化した印象材内に空間を生じてしまったり、印象材が患者の上額に密着しない現象が生じて良好な印象採得を行えない可能性があるからである。そしてこの円形貫通穴7の直径が3mm未満ではシリコーン印象材又はアルジネート印象材をトレー内に盛って患者の口腔内の上顎に押し当てて印象採得を行った際に印象材が円形貫通穴7内に充分入り込んで保持される効果が生じないので好ましくなく、直径が6mmを超えると印象材が円形貫通穴7内に入り込みすぎるため印象材が患者の上額に密着しない現象が生じて良好な印象採得を行えない可能性がある。
【0019】
8は底部1のU字状の端部であって外壁2と膨隆部3とのU字状の最も端部側に位置する各長穴状の貫通穴5と6との底部側端部を結ぶ線上又はこの線より端部側と膨隆部3の中央の端部側とに設けられている幅が1.0〜3.0mmで長さが5〜15mmの長穴状の端部側貫通穴である。この端部側貫通穴8が設けられているので、トレー内の最も奥歯側に盛った印象材がU字状の端部であって外壁2と膨隆部3とに設けられた各長穴状の貫通穴5及び6と底部1及び膨隆部3の端部側中央に設けられた長穴状の端部側貫通穴8とに入り込んでしっかり保持されるので、U字状の端部側(奥歯側)の印象材が剥がれ易いという欠点が生じないのである。このような効果を奏するための長穴状の端部側貫通穴8は、その幅が1.0mm未満ではシリコーン印象材又はアルジネート印象材をトレー内に盛って患者の口腔内の上顎に押し当てて印象採得を行った際に印象材が端部側貫通穴8内に充分入り込んで保持される効果が生じないので好ましくなく、幅が3.0mmを超えると印象材が端部側貫通穴8内に入り込みすぎるため底部1のU字状の端部における印象材が患者の上額に密着しない現象が生じて良好な印象採得を行えない可能性がある。
【0020】
9は底部1のU字状の中央部(前歯部側)の底面に設けられているハンドル部であり、底部1に固定されていても、また本出願人が提案した特願2011−217753号のように底部1のU字状の中央部の底面に着脱自在な構造であってもよい。
【0021】
このような本発明に係る上顎用の印象用トレーは、外壁2と膨隆部3との間のU字状の底部1上にペースト状のシリコーン印象材又はアルジネート印象材を盛って患者の口腔内の上顎に押し当てて印象採得を行うと、印象材は外壁2側に押し広げられてリム4の下方にアンダーカット部に当接するので硬化後にトレーから浮き上がったり剥離したりするのが防止されるのである。また、外壁2のリム4に対して直角にリム4の直下から底部1に達する幅が1.5〜4.0mmの長穴状の貫通穴5内、膨隆部3に設けられた長穴状の貫通穴6、及び外壁2に設けられている長穴状の貫通穴5の隣接する間隔の中央に位置する底部1に形成されている直径が3〜6mmの円形貫通穴7内にもそれぞれ適度に入り込んで硬化した印象材が保持されるのである。このような硬化した印象材の保持効果は、長穴状の貫通穴5,6の幅が2.0〜3.0mmで、長さが幅の2〜3倍である場合や、長穴状の貫通穴5,6の間隔が3〜18mmである場合がより高くなって好ましいのである。
【0022】
更に、U字状の端部においては、外壁2と膨隆部3とのU字状の最も端部側に位置する各長穴状の貫通穴5、6の底部側端部を結ぶ線上又はこの線より端部側に設けられている幅が1.0〜3.0mmで長さが5〜15mmの長穴状の端部側貫通穴8内とその両側の外壁2と膨隆部3とのU字状の最も端部側に位置する各長穴状の貫通穴5、6内にも、トレー内の最も奥歯側に盛った印象材が入り込んでしっかり保持されるので、U字状の端部側(奥歯側)の印象材が剥がれ易いという欠点が生じないのである。
【0023】
このように本発明に係る上顎用の印象用トレーは、外壁2の上端に沿って底部1側に設けられたリム4によるアンダーカット部の効果と、外壁2のリム4に対して直角にリム4の直下から底部1に達する特定の幅と間隔で設けた長穴状の貫通穴5及び膨隆部3に設けられた長穴状の貫通穴6と、外壁2に設けられている長穴状の貫通穴5の隣接する間隔の中央に位置する底部1に形成されている特定の直径の円形貫通穴7と、外壁2と膨隆部3とのU字状の最も端部側に位置する各長穴状の貫通穴5,6の底部側端部を結ぶ線上又はこの線より端部側に設けられている特定の幅の長穴状の端部側貫通穴8とその両側の外壁2と膨隆部3とのU字状の最も端部側に位置する各長穴状の貫通穴5,6内にも、トレー内に盛った印象材が入り込んでしっかり保持されるので、硬化後の印象材のトレーから浮き上がりや剥離を防止できるため、精度の高い印象採得を行うことができるのである。
【符号の説明】
【0024】
1 底部
2 外壁
2a 円弧状部
3 膨隆部
4 リム
4’ リム
5 長穴状の貫通穴
6 長穴状の貫通穴
7 円形貫通穴
8 長穴状の端部側貫通穴
9 ハンドル部