特許第5778617号(P5778617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5778617分析システム、分析方法及び分析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778617
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】分析システム、分析方法及び分析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/70 20060101AFI20150827BHJP
   G01N 33/493 20060101ALI20150827BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   G01N33/70
   G01N33/493 A
   G01N33/48 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-98921(P2012-98921)
(22)【出願日】2012年4月24日
(65)【公開番号】特開2012-237749(P2012-237749A)
(43)【公開日】2012年12月6日
【審査請求日】2014年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2011-97399(P2011-97399)
(32)【優先日】2011年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 真也
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−190735(JP,A)
【文献】 特開2006−098233(JP,A)
【文献】 特開2010−236863(JP,A)
【文献】 特開2009−198352(JP,A)
【文献】 特表2001−509601(JP,A)
【文献】 特開平11−083860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿試料中のクレアチニンの測定量を示すクレアチニン測定データを入力するクレアチニン情報取得部と、
前記尿試料中の細菌または円柱成分の測定量を示す細菌または円柱成分データを入力する有形成分情報取得部と、
前記細菌または円柱成分データで示される前記細菌または円柱成分の測定量を、前記クレアチニン測定データで示される前記クレアチニンの測定量を用いて補正する補正部とを備える、分析システム。
【請求項2】
前記補正部は、前記細菌または円柱成分の測定量を前記クレアチニン測定データで示される前記クレアチニンの測定量で割った値を基に、前記細菌または円柱成分の測定量の補正値を決定する、請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
前記補正部は、前記細菌または円柱成分の測定量の補正値を、記録部に蓄積し、
前記記録部に蓄積された過去の前記補正値の変位を出力する出力部をさらに備える、請求項1または2に記載の分析システム。
【請求項4】
前記補正部は、前記補正値と、補正前の前記細菌または円柱成分データとを対応付けて前記記録部に蓄積し、
前記記録部に蓄積される前記補正値及び補正前の前記細菌または円柱成分データの変動に異常がないか監視する監視部をさらに備え、
前記監視部が異常ありと判断した場合に、前記出力部は、警告を出力する、請求項3に記載の分析システム。
【請求項5】
前記監視部は、前記クレアチニン測定データの変動に異常がないかをさらに監視し、
前記出力部は、前記監視部が前記クレアチニン測定データの変動に異常ありと判断した場合、前記補正値とともに、警告を出力する、請求項3または4に記載の分析システム。
【請求項6】
前記尿試料中のクレアチニンを測定する第1の測定部と、
前記尿試料中の細菌または円柱成分を測定する第2の測定部とをさらに、備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載の分析システム。
【請求項7】
コンピュータが、尿試料中のクレアチニンの測定量を示すクレアチニン測定データを入力するクレアチニン情報取得工程と、
コンピュータが、前記尿試料中の細菌または円柱成分の測定量を示す細菌または円柱成分データを入力する有形成分情報取得工程と、
コンピュータが、前記細菌または円柱成分データで示される前記細菌または円柱成分の測定量を、前記クレアチニン測定データで示される前記クレアチニンの測定量を用いて補正する補正工程とを含む、分析方法。
【請求項8】
尿試料中のクレアチニンの測定量を示すクレアチニン測定データを入力するクレアチニン情報取得処理と、
前記尿試料中の細菌または円柱成分の測定量を示す細菌または円柱成分データを入力する有形成分情報取得処理と、
前記細菌または円柱成分データで示される細菌または円柱成分の測定量を、前記クレアチニン測定データで示される前記クレアチニンの測定量を用いて補正する補正処理とをコンピュータに実行させる分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿検査に関し、特に、尿中のクレアチニンと尿中有形成分の測定量を用いたデータ処理における尿中有形成分の測定量の補正に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、試験紙を用いられて行われる尿の生化学検査では、尿中の蛋白、アルブミン、コレステロール及びクレアチニン等の成分の濃度を得ることができる。ここで、尿中成分の濃度は尿量によって変動するが、クレアチニンは時間当たりの排泄量が一定している。そこで、測定されたクレアチニン濃度を基準にして他の尿中成分濃度を補正することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、アルブミン対クレアチニンの比を測定結果とすること(例えば、特許文献2参照)や、及びクレアチニン補正を行うことによって、マイクロ総蛋白質、マイクロアルブミンおよびマイクロコレステロールの1日あたりの排泄量推定値を取得すること(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−171015号公報(段落0021、請求項6)
【特許文献2】特許第4226118号(段落0011)
【特許文献3】特開2010−236863号公報(段落0044〜0046)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、クレアチニンと同じ測定手段で得られる尿中成分の濃度を補正するのみで、クレアチニンとは異なる測定手段や測定方法で得られた尿中成分を、クレアチニンを用いて補正することの発想はなかった。
【0005】
そこで、本発明は、異なる測定手段または測定方法で得られたデータを用いて、尿中成分の量について多面的な情報を得ることができる分析システム、分析方法又は分析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態における分析システムは、尿試料中のクレアチニンの測定量を示すクレアチニン測定データを入力するクレアチニン情報取得部と、前記尿試料中の有形成分の測定量を示す有形成分データを入力する有形成分情報取得部と、前記有形成分データで示される前記有形成分の測定量を、前記クレアチニン測定データで示される前記クレアチニンの測定量を用いて補正する補正部とを備える。
【0007】
本発明の実施形態では、測定手段や測定方法が互いに異なる、有形成分と、クレアチニンの測定量を、両方取得し、クレアチニンの測定量を用いて、有形成分の測定量を補正することができる。例えば、尿中の細菌や円柱等の有形成分の測定量は、採尿状況によって変動する場合がある。一方、クレアチニンの時間当たりの排泄量はほぼ一定である。そのため、有形成分の測定量をクレアチニンの測定量を用いて補正することで、例えば、採尿状態に起因する測定量の変動を補正することができる。これにより、尿中の有形成分について、採尿状況の違いによる測定量の変動を相殺した情報を得ることができる。そのため、尿中の有形成分の量についてより多面的な情報を得ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、異なる測定手段または測定方法で得られたデータを用いて、尿中の有形成分の量についてより多面的な情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態における分析システムの構成例を示す機能ブロック図である。
図2】分析システムの動作例を示すフローチャートである。
図3】第2の実施形態にかかる分析システムの構成例を示す機能ブロック図である。
図4】監視部の動作例を示すフローチャートである。
図5】監視部の他の動作例を示すフローチャートである。
図6】第3の実施形態における尿分析装置の外観図である。
図7】尿分析装置の内部構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施形態]
(分析システムの構成)
図1は、本発明の第1の実施形態における分析システムの構成例を示す機能ブロック図である。図1に示す例では、分析システム80は、有形成分情報取得部81、クレアチニン情報取得部82、補正部83及び出力部84を備える。また、分析システム80は、第1の測定部A1及び第2の測定部A2と接続され、これらの測定部の測定結果を示すデータまたは信号を受信できるように構成されている。第1の測定部A1及び第2の測定部A2は、同じ尿試料Bを測定するものであるが、測定方法及び測定対象成分が異なっている。このように、分析システム80は、異なる測定方法で測定された尿試料中の成分について、それぞれ測定結果を取得し、双方の測定結果を用いて分析を行うものである。
【0011】
本実施形態では、一例として、第1の測定部A1が、尿定性検査により尿中のクレアチニン等の濃度を測定する測定器であり、第2の測定部A2が、尿沈渣検査により、尿中の細菌及び円柱等の有形成分を測定する測定器である場合について説明する。尚、第1の測定部A1及び第2の測定部A2の組み合わせは、本実施形態のものに限られない。
【0012】
第1の測定部A1は、例えば、尿試験紙を用いたクレアチニンの測定を実施できるよう構成することができる。クレアチニンの他に、例えば、蛋白質、アルブミン、グルコース、ヘモグロビン及びビリルビン等を、第1の測定部A1で測定してもよい。その場合の具体例として、第1の測定部A1は、尿試料を分けて、尿試験紙の異なる試薬にそれぞれ供給する分注手段と、尿試料が注がれた各試薬に光を照射することによって生じる透過光または反射光を検出する光検出手段と、検出された光から尿試料中の成分を計算する演算手段とを備えることができる。
【0013】
第2の測定部A2は、例えば、液体尿測定により、尿中の有形成分を測定するよう構成することができる。細菌及び円柱の他に、例えば、白血球、赤血球、上皮細胞、及び結晶等を、第2の測定部A2で測定してもよい。具体例として、第2の測定部A2は、尿試料に染色液及び希釈液を混ぜて攪拌する手段と、フローサイトメトリーにより染色液と希釈液が混ぜられた尿試料に光を照射し、透過光又は散乱光の少なくともいずれかを検出する手段と、検出された光から尿試料中の成分を計算する手段とを備えることができる。
【0014】
有形成分情報取得部81及びクレアチニン情報取得部82は、第1の測定部A1及び第2の測定部A2で測定されたクレアチニンや有形成分の情報を、分析システム80で使用できる状態にするためのインタフェースとして機能する。有形成分情報取得部81は、尿試料中の有形成分の測定量を示す有形成分データを入力する。クレアチニン情報取得部8
2は、その尿試料中のクレアチニンの測定量を示すクレアチニン測定データを入力する。
【0015】
例えば、有形成分情報取得部81は、第2の測定部A2で測定された尿試料Bの有形成分に関するデータまたは信号を受信し、尿試料中の有形成分の測定量を示す有形成分データとして、分析システム80の記録部85に記録することができる。同様に、クレアチニン情報取得部82は、第1の測定部A1で測定された尿試料Bのクレアチニンに関するデータまたは信号を受信し、尿試料Bのクレアチニンの測定量を示すクレアチニン測定データとして記録部85に記録することができる。
【0016】
クレアチニン測定データが示すクレアチニンの測定量は、測定結果として得られる尿試料中に含まれるクレアチニンの量である。この測定量は、例えば、吸光度や反射率等のような測定により直接的に得られる検出量であってもよい。或いは、この測定量は、検出信号に基づいて得られる量、すなわち、検出信号を処理して間接的に得られた量(例えば濃度等)であってもよい。また、クレアチニン測定データの形式は特に限定されない。クレアチニン測定データは、例えば、尿中のクレアチニンの濃度を示す値であってもよいし、クレアチニンが試薬と反応して発した光の検出量を示す値であってもよい。
【0017】
有形成分データが示す有形成分の測定量は、測定結果として得られる尿試料中の有形成分の量である。この測定量は、上記クレアチニンの場合と同様に、例えば、吸光度や反射率等のような測定により直接的に得られる検出量であってもよいし、検出信号を処理して間接的に得られた量(例えば単位量あたりの絶対数等)であってもよい。有形成分データの形式も特定のものに限定されない。例えば、細菌の量(例えば絶対数または濃度)を示す値、円柱の量を示す値、或いは、染色された細菌及び円柱それぞれからの光の検出量を示す値であってもよい。なお、その他の尿中の溶けていないあらゆる成分は有形成分として測定することができる。
【0018】
有形成分データとして取得する有形成分の測定量として、例えば、円柱、赤血球、白血球、上皮細胞、病的結晶、真菌、原虫、寄生虫の少なくとも1つの測定量を含むことができる。また、真菌、原虫及び寄生虫は、細菌の一例であり、それぞれの測定量を独立して取得してもよいし、これらをまとめて細菌の測定量として取得することもできる。また、円柱のように濃縮により測定量が変動する成分や、細菌のように繁殖により測定量が変動する成分の測定量を、有形成分データとして取得することで、後述の補正による効果が特に有効となる。本実施形態では、一例として、細菌及び円柱の測定量を有形成分の測定量として取得する場合について説明するが、有形成分は、これらに限定されない。
【0019】
補正部83は、有形成分データで示される有形成分の測定量を、クレアチニン測定データが示すクレアチニンの測定量を用いて補正する。例えば、補正部83は、有形成分の測定量を前記クレアチニンの測定量で割った値を基に、前記有形成分の測定量の補正値を決定することができる。
【0020】
具体例として、補正部83は、細菌及び円柱の濃度をクレアチニン濃度で除した値を補正値とすることができる。または、補正部83は、細菌及び円柱の濃度とクレアチニン濃度との比を計算してもよいし、細菌数及び円柱数のクレアチニン比を補正値として計算することもできる。
【0021】
これにより、有形成分の測定量をクレアチニンの測定量で規格化した情報を得ることができる。そのため、例えば、滞留時間による測定量の変動のような採尿状態による測定量の変動を除いた細菌や円柱の量を示す情報が得られる。
【0022】
尿試験紙で測定できない成分であっても、濃縮や採尿の条件によって測定量が変動する成分がある。細菌や円柱がその一例である。例えば、早朝第1尿と随時尿では、尿の体内の滞留時間が異なる。滞留時間が異なると、細菌や円柱の測定量は変動する。上記の補正部83の補正により、このような滞留時間による測定量の変動分を差し引いた情報を得ることができる。
【0023】
出力部84は、補正部83により補正された測定量(補正値)を、表示装置88へ出力する。表示装置88は、分析システム80が備えるディスプレイであってもよいし、分析システム80に接続された外部のディスプレイであってもよい。また、出力部84による出力先は、表示装置に限られず、プリンタ、スピーカその他あらゆる形態の出力装置が出力先となりうる。
【0024】
尚、補正部83が、有形成分の測定量の補正値を、記録部85に蓄積し、出力部84が、蓄積された過去の補正値の変位を出力する態様とすることができる。これにより、ユーザは、補正値の遷移を容易に確認することができる。補正部83は、補正値を、有形成分データ、被験者の識別子、測定の時を示す情報(例えば、測定日時)等、その他必要なデータと対応付けて記録することができる。記録データの形式は特に限定されないが、例えば、関係データベースや、測定結果ファイル等の形式で補正値及び関連するデータを記録することができる。
【0025】
例えば、補正部83が、上記のように、細菌及び円柱の測定量から、滞留時間による変動分を除く補正をして、補正値を蓄積しておき、同じ被験者の補正値の履歴を表示することができる。この場合、さまざまな滞留時間で採尿された過去の細菌及び円柱の測定結果から、滞留時間による影響を取り除いた細菌及び円柱の量の履歴を表示することができる。そのため、ユーザは、細菌及び円柱量の遷移をより正確に把握することが可能になる。
【0026】
(分析システム80の動作例)
図2は、分析システム80の動作例を示すフローチャートである。図2に示す例では、まず、クレアチニン情報取得部82が、第1の測定部A1で試験紙を用いて測定された尿試料Bの尿成分の測定結果を取得する(ステップS1)。この測定結果には、一例として、尿試料Bのクレアチニン濃度が含まれるものとする。クレアチニン濃度の測定値は、クレアチニン測定データとして、記録部85に記録される。
【0027】
有形成分情報取得部81は、第2の測定部A2で、液体尿測定により測定された試料Bに含まれる有形成分の測定結果を取得する(ステップS2)。この測定結果には、一例として、尿試料Bの単位量あたりの細菌数及び円柱数が含まれるものとする。細菌及び円柱の測定値は、有形成分データとして、記録部85に記録される。
【0028】
補正部83は、ステップS1で取得されたクレアチニン濃度の測定値を用いて、ステップS2で取得された細菌及び円柱の測定値を補正する(ステップS3)。一例として、補正部83は、単位量あたりの細菌の数/クレアチニン濃度、及び、単位量あたりの円柱の数/クレアチニン濃度のそれぞれを補正値として算出することができる。補正値は、補正前の有形成分データと対応付けて記録部85に記録される。なお、除算により補正値を算出する際の除数としては、上記例の他、例えば、クレアチニンの反射率(試験紙の場合)、クレアチニンの吸光度(液状試薬による透過測定の場合)、クレアチニンの濃度より求めた補正値等を用いることができる。
【0029】
出力部84は、ステップS3で、補正部83によって補正された補正値を、記録部85から読み出して表示装置88へ表示させる。このとき、補正値とともに、有形成分データやクレアチニン測定データも表示させてもよい。また、出力部84は、記録部85に蓄積された尿試料Bの被験者の過去の細菌及び円柱補正値の履歴を表示装置88へ表示させてもよい。
【0030】
上記動作例では、クレアチニン、細菌及び円柱のみについて説明したが、分析システム80は、その他の成分の測定結果について表示することができる。例えば、第1の測定部A1による尿定性検査の結果として、総蛋白質、アルブミン、マイクロコレステロール、総蛋白質/クレアチニン等をさらに表示することもできるし、第2の測定部A2による尿中有形成分分析の結果として、白血球、赤血球、上皮細胞等をさらに表示することもできる。
【0031】
尚、分析システム80の動作は、図2に示す例に限られない。例えば、ステップS1とステップS2の処理は、逆の順序あるいは同時に実行されてもよい。
【0032】
(実施形態の効果、その他)
上記実施形態によれば、ある測定装置(第1の測定部A1)で測定したデータを、他の測定装置(第2の測定部A2)で測定したデータの補正に用いることで、より多面的な情報が得られるようになる。また、採尿状況による測定値の変動を、クレアチニンを用いて補正できるので、より正確な診断が可能になる。さらに、補正値の履歴を表示することで、前回の測定値との比較も容易になり、病態の進行を推定することも容易になる。
【0033】
尚、図1に示した分析システム80の有形成分情報取得部81、クレアチニン情報取得部82、補正部83及び出力部84の機能部の機能は、プロセッサ及びメモリを備えたコンピュータが、メモリに記録された所定のプログラムに基づいて動作することにより実現することができる。記録部85は、このようなコンピュータが備える記録媒体であってもよいし、コンピュータがアクセス可能な外部の記録媒体であってもよい。記録媒体は、コンピュータのプロセッサから高速にアクセスできる、プロセッサの処理時に一時的にデータを記録するフラッシュメモリ等のメモリであってもよいし、コンピュータの電源を落としても情報を保持できるHDD等の記録装置であってもよい。
【0034】
分析システム80は、測定装置に内蔵された組み込みコンピュータまたは測定装置に接続される専用のコンピュータで構成することもできるし、測定装置とは独立して設けられたPCやサーバのような汎用コンピュータで構成することも可能である。また、分析システム80は、一台のコンピュータで構成されてもよいし、複数のコンピュータに機能を分散させて構成されてもよい。
【0035】
コンピュータを、上記の有形成分情報取得部81、クレアチニン情報取得部82及び補正部83を備える分析システムとして機能させるプログラム、およびそのようなプログラムを記録した記録媒体(信号そのもののような一過性の媒体は含まない、非一過性(non-transitory)の記録媒体)も本発明の一実施形態である。
【0036】
分析システム80の構成は、図1に示す例に限られない。例えば、第1の測定部A1、第2の測定部A2及び表示装置88を含めて一体的に構成された装置を分析システム80としてもよいし、記録部85が分析システム80の外部に設けられてもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、有形成分情報取得部81及びクレアチニン情報取得部82は、第1の測定部A1及び第2の測定部A2から測定結果を取得する形態であるが、情報取得の形態は、これに限定されない。例えば、外部の記録装置に記録された測定結果を示すデータを、ネットワークを介して取得し、分析システム80で処理できるようにする形態であってもよいし、分析システム80がアクセス可能な記録媒体に記録された測定結果を示すファイル等を読み込んで分析システム80で処理可能な状態とする形態であってもよい。尚、上記変形例は、以降の第2、第3の実施形態にも適用できる。
【0038】
[第2の実施形態]
図3は、第2の実施形態にかかる分析システム80の構成例を示す機能ブロック図である。図3において、図1と同じ機能ブロックには同じ符号を付している。図3に示す分析システム80は、監視部86をさらに備える。
【0039】
監視部86は、有形成分情報取得部81及びクレアチニン情報取得部82によって記録部85に記録された測定データ、及び補正部83によって記録部85に記録された有形成分の補正値の少なくともいずれかを監視し、異常がないか判定する。
【0040】
例えば、監視部86は、記録部85に蓄積された同一被験者の尿試料における有形成分の補正前の測定量及び補正後の補正値を、過去N回分(Nは自然数)読み出して、読み出したデータを用いて異常か否かを判定することができる。具体的には、補正前の測定量と補正値それぞれの遷移状況(増加傾向か減少傾向か、あるいは、変化量)を比較し、双方の遷移状況を示す値の相違が予め決められた許容範囲外である場合に、異常と判定することができる。このように、補正前の有形成分の測定量の変動と補正後の補正値の変動との乖離度が許容範囲内か否かを判定することにより、測定環境の異常や被験者の健康状態の異常を検出することができる。
【0041】
監視部86は、1回の測定で得られた有形成分の測定量及びその補正値に基づいて、異常判定をしてもよい。例えば、補正前の測定量及び補正値それぞれについて、許容範囲内か否か、すなわち異常値か否かを判定し、両者の判定結果に基づいて、異常の有無を判定することができる。一例として、補正前の測定量を示すデータは異常値の閾値未満にも関わらず、補正後のデータで異常値の閾値を越えた場合、異常と判定することができる。この場合、測定環境の異常や被験者の健康状態の異常を検出することができる。
【0042】
さらに、監視部86は、クレアチニン測定データの異常判定をすることもできる。例えば、一定の期間内に測定されたクレアチニンの測定量の変動が許容範囲内か否かにより、クレアチニン値の異常を検出することができる。このクレアチニンの異常判定処理は、例えば、クレアチニンの測定結果が得られる度に実行することができる。これにより、クレアチニン測定が正常に行われた否かを確認することができる。
【0043】
出力部84は、監視部86で異常と判断された場合、警告情報を表示装置88に表示させる。
【0044】
(動作例1)
図4は、監視部86の動作例を示すフローチャートである。図4に示す例では、まず、監視部86は、記録部85から、過去N回分の有形成分の補正前の測定値と、補正後の補正値とを読み出す(ステップS11)。一例として、細菌及び円柱の測定値と補正値が読み出される。
【0045】
監視部86は、過去N回分の補正前の測定値の変化と、補正値の変化とを比較する(ステップS12)。監視部86は、例えば、補正前の測定値及び補正値それぞれについて、過去N回において前回に比べて所定幅より増加している回数と、所定幅より減少している回数をカウントする。カウントされた増加回数が閾値より多い場合は増加傾向にあり、カウントされた減少回数が閾値より多い場合は減少傾向にあると判断することができる。し、増加傾向にあるか減少傾向にあるかを判断する。そして、例えば、補正前の測定値が減少傾向にあるにも関わらず、補正後の補正値が増加傾向にある場合は、異常と判断することができる(ステップS12でNO)。この場合、出力部84は、補正値に異常が認められることを示すフラグと共に、要再検査に関する警告を、表示装置88へ表示させる(ステップS22)。これにより、ユーザに再検査を促すとともに、異常の原因が補正値であることを知らせることができる。
【0046】
図4に示す処理は、監視部86が、所定周期で定期的に実行、または、N回分のデータが蓄積される度に実行してもよい。または、監視部86は、記録部85に測定データが追加される度に実行してよいし、ユーザからの指示に基づき実行してもよい。
【0047】
(動作例2)
図5は、監視部86の他の動作例を示すフローチャートである。図5に示す例では、監視部86は、今回測定された有形成分データである補正前の測定量を示すデータと、その補正値とを読み出す(ステップS21)。
【0048】
監視部86は、補正前の測定値が異常値か否か、すなわち、許容範囲内にあるか否かを判定する(ステップS22)。監視部86は、例えば、細菌及び円柱それぞれの数が、正常な測定で得られる範囲を越えているか否かを判定する。監視部86は、補正前の測定値が異常でない場合(ステップS22でNO)、補正後の補正値が異常値か否かを判定する(ステップS23)。補正値が異常値である場合(ステップS23でYES)、監視部86は、異常と判断し、出力部84が、測定値に異常が認められることを示すフラグと共に、要再検査に関する警告を、表示装置88へ表示させる(ステップS24)。
【0049】
図5に示す処理は、監視部86が、測定データが追加される度に実行してもよいし、ユーザからの指示に基づき実行してもよい。また、監視部86は、図4の処理及び図5の処理を両方実行するよう構成されてもよいし、いずれか一方を実行するよう構成されてもよい。
【0050】
本実施形態によれば、補正前の測定量及び補正後の補正値の双方を監視するので、従来見過ごされてきた異常を検出することが可能になる。例えば、尿中クレアチニンは、室温保存で2〜3日は安定と言われているが、尿中の細菌は室温保存で時とともに増加する。そのため、細菌/クレアチニンの値(細菌クレアチニン比)を算出しその経時変化を監視することで、測定値のエラー(例えば、保存状態が悪いこと等)のような異常を検出することが可能になる。
【0051】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、分析システムを含む尿分析装置の一形態である。
【0052】
(概略構成)
図6及び図7は、本実施形態における尿分析装置の構成例を示す図である。図6は装置の外観図であり、図7は装置の内部構成を示す図である。
【0053】
図6及び図7に示すように、本実施形態に係る尿分析装置Aは、一つの筐体1内に収容された第1の測定部A1及び第2の測定部A2を備えている。第1の測定部A1及び第2の測定部A2は、分析対象となる検体に対してそれぞれ異なった分析処理を行う。ここでは、第1の測定部A1において行なわれる分析処理を第1分析処理と称し、第2の測定部A2において行なわれる分析処理を第2分析処理と称する。
【0054】
具体的には、第1分析処理は尿定性検査であり、第2分析処理は尿沈渣検査である。尿定性検査では、尿に含まれるタンパク質、グルコース、ヘモグロビン及びビリルビン等の濃度、及び尿の比重等が測定される。尿沈渣検査では、血球、上皮細胞、細菌、及び結晶等の尿に含まれる有形成分が測定される。尚、第1の測定部A1の具体的な構成としては、尿定性検査を行うことが可能などのような構成も適用することができる。また、第2の測定部A2の具体的な構成としては、尿沈渣検査を行うことが可能などのような構成も適用することができる。このように、第1分析処理と第2分析処理とでは分析項目及び分析方法が異なる。
【0055】
また、尿分析装置Aは搬送装置2を備えている。搬送装置2は、検体(尿試料に相当)たる尿Bが収容されている複数のスピッツ30を搬送するための装置である。搬送装置2は、複数のスピッツ30を検体ラック3に起立保持させた状態で搬送する。搬送装置2は、筐体1の前面下部に連結されたフレーム20、該フレーム20の上面部20aに位置する3組の循環駆動可能なベルト21a〜21c、および水平方向に移動可能な2つのプッシャ(図示略)を備えている。
【0056】
搬送装置2においては、符号n1で示すポジションに検体ラック3が供給されると、該検体ラック3が、ベルト21aによって矢印N1方向に搬送された後に、プッシャによって矢印N2方向に搬送される。次いで、検体ラック3は、ベルト21cによって矢印N3方向に搬送された後に、プッシャによって矢印N4方向に搬送されてベルト21b上に供給される。
【0057】
さらに、尿分析装置Aは、搬送装置2によって搬送されたスピッツ30から分析対象となる尿Bを採取するためのノズル4を備えている。ノズル4は、検体ラック3が矢印N2方向に搬送される際の搬送経路29と重なる位置に配置されている。そして、ノズル4は、搬送経路29上に存在する検体ラック3に保持されたスピッツ30から尿Bを吸引する。これにより、ノズル4は、分析対象となる尿Bを採取する。
【0058】
図6及び図7に示すように、本実施形態に係る尿分析装置Aにおいては、尿試料を採取するためのノズルはノズル4のみである。つまり、第1の測定部A1に供給される尿試料および第2の測定部A2に供給される尿試料のいずれもノズル4によって採取される。このように、第1の測定部A1及び第2の測定部A2についてノズルを共通化することで、各測定部A1、A2へ尿試料を供給するための流路の一部や、ノズルを洗浄するための洗浄装置についても共通化を図ることができる。そのため、尿分析装置A自体を小型化することができる。また、尿分析装置Aの製造コストの削減も可能となる。
【0059】
ここで、本実施形態に係る尿分析装置Aの内部構成について図7に基づいて説明する。尿分析装置Aの内部には、第1の測定部A1および第2の測定部A2の他に、ノズル用移動装置5、尿流路41a、41b、41c、三方弁42及び制御部60が設けられている。
【0060】
ノズル用移動装置5は、ノズル4が支持されているアーム50を備えている。ノズル用移動装置5は、該アーム50を介してノズル4を上下方向及び水平方向(図7の矢印の方向)に移動させる。
【0061】
ノズル4には共通尿流路41aの一端が接続されている。共通尿流路41aの他端は三方弁42に接続されている。三方弁42には、第1および第2尿流路41b、41cの一端が接続されている。三方弁42は、ノズル4によって採取された尿Bを、共通尿流路41aから、第1尿流路41bまたは第2尿流路41cのいずれに流すのかを切り換えることが可能である。
【0062】
そして、第1尿流路41bの他端は第1の測定部A1に接続されており、第2尿流路41cの他端は第2の測定部A2に接続されている。つまり、ノズル4によって採取された尿Bが、共通尿流路41aおよび第1尿流路41bを通して第1の測定部A1に供給され、共通尿流路41aおよび第2尿流路41cを通して第2の測定部A2に供給される。
【0063】
制御部60は、不図示のCPU及びメモリ等を備えたコンピュータである。制御部60には、第1の測定部A1、第2の測定部A2、ノズル用移動装置5、および三方弁42等
が電気的に接続されている。制御部60は、各分析部A1、A2での分析結果についてのデータ処理を行い、且つ上記各部(または装置)の動作を制御する。制御部60は、図1に示した分析システム80の機能、すなわち、有形成分情報取得部81、クレアチニン情報取得部82、補正部83、出力部84及び記録部85を含むことができる。このように本実施例では、一つの制御部60によって、尿分析装置A全体が制御される。
【0064】
尚、図7に示すように、スピッツ30には、バーコード等の識別コード31が付されている。尿分析装置Aは、この識別コード31を読み取るための読み取り部62を備えている。該読み取り部62も制御部60に電気的に接続されており、読み取り部62によって読み取られた識別データが制御部60に入力される。そして、該入力された識別データが、各測定部A1、A2での尿Bについての分析結果のデータと関連付けられる参照データとして利用される。
【0065】
また、図示を省略したが、尿分析装置A内には、ノズル4内を洗浄するための洗浄装置が設けられている。該洗浄装置は、洗浄液を貯留する洗浄液槽、洗浄液槽からノズル4内に洗浄液を供給する供給装置、ノズル4の洗浄後に該ノズル4から吐出される廃液を収容する廃液槽を備えている。尿分析装置Aでは、ノズル4によって1つの検体を採取し、その検体を各測定部A1、A2に供給してから、次の分析対象となる検体を採取する前に、洗浄装置によってノズル4が洗浄される。
【0066】
以上のように、第1の測定部A1、第2の測定部A2及び分析システム80を一体として、尿分析装置Aとして構成することができる。上記尿分析装置Aは、尿試料を第1の測定部A1及び第2の測定部A2にそれぞれ搬送するための搬送手段と、尿試料を各測定部A1、A2にそれぞれ供給するノズルや流路(供給手段)をさらに備えている。
【0067】
尚、尿分析装置Aの構成は、図6及び図7に示す例に限られない。尿分析装置Aは、例えば、第1の測定部A1による第1分析処理よりも短時間で分析結果を導出する短時間分析部と、短時間分析部の分析結果に基づいて第2の測定部A2による第2分析処理を実行するか否かを判別する判別部をさらに備えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、例えば、尿検査機器等の分野において、利用または使用することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
A 尿分析装置
A1 第1の測定部
A2 第2の測定部
2 搬送装置
3 検体ラック
4 ノズル
30 スピッツ
41a 共通尿流路
41b 第1尿流路
41c 第2尿流路
60 制御部
80 分析システム
81 有形成分情報取得部
82 クレアチニン情報取得部
83 補正部
84 出力部
85 記録部
86 監視部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7