特許第5778636号(P5778636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5778636スパッタリング用銅ターゲット材及びスパッタリング用銅ターゲット材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778636
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】スパッタリング用銅ターゲット材及びスパッタリング用銅ターゲット材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20150827BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20150827BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150827BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C22F1/08 B
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 605
   !C22F1/00 606
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-168230(P2012-168230)
(22)【出願日】2012年7月30日
(65)【公開番号】特開2014-25129(P2014-25129A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2014年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】513097296
【氏名又は名称】株式会社SHカッパープロダクツ
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 憲之
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆一
(72)【発明者】
【氏名】上田 孝史郎
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−220659(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/024909(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/103833(WO,A1)
【文献】 特開2010−013678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度3N以上の無酸素銅から形成され、
スパッタリング面における(111)面の配向率が13%以上30%以下であり、
前記スパッタリング面における(200)面の配向率が15%以上30%以下であり、
前記スパッタリング面における(220)面の配向率が31%以上37%以下であり、
前記スパッタリング面における(311)面の配向率が19%以上32%以下であり、
平均結晶粒径が0.07mm以上0.20mm以下である
ことを特徴とするスパッタリング用銅ターゲット材。
ただし、前記(111)面及び前記(200)面の配向率は、
前記(111)面、前記(200)面、(220)面、及び(311)面について、X線回折により得られる各結晶面のピークの測定強度を、JCPDSに記載の前記各結晶面に対応する結晶面のピークの相対強度でそれぞれ除した値の合計値を100%とした場合の割合である。
【請求項2】
スパッタリング条件を、0.5PaのAr雰囲気下で投入電力密度を12.7W/cm2としたとき、
スパッタリング速度が3g/h以上5g/h以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング用銅ターゲット材。
【請求項3】
前記スパッタリング面における(111)面の配向率が17%以上であり、
前記平均結晶粒径が0.10mm以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタリング用銅ターゲット材。
【請求項4】
前記平均結晶粒径が0.15mm以下である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスパッタリング用銅ターゲット材。
【請求項5】
純度3N以上の無酸素銅を鋳造して銅鋳塊とする鋳造工程と、
前記銅鋳塊を熱間圧延して銅板とする熱間圧延工程と、を有し、
前記熱間圧延工程では、
800℃以上900℃以下に加熱した前記銅鋳塊に、厚み減少率が85%以上95%以下となり、圧延終了時の前記銅板の温度が600℃以上700℃以下となるよう熱間圧延を施す
ことを特徴とするスパッタリング用銅ターゲット材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純度3N以上の無酸素銅から形成されるスパッタリング用銅ターゲット材及びスパッタリング用銅ターゲット材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイパネル等の液晶表示装置に用いられる薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)等の電極配線には、主として、スパッタリングにより形成されたアルミニウム(Al)合金が使用されてきた。近年、液晶表示装置の高精細化が進むにつれてTFTの電極配線の微細化が要求されてきており、アルミニウムよりも抵抗率(電気抵抗率)の低い銅(Cu)が電極配線材として検討されている。これに伴い、銅の成膜に用いるスパッタリング用銅ターゲット材の研究も盛んに行われている。
【0003】
例えば特許文献1,2では、長時間のスパッタリングによりターゲット材の表面に形成されるノジュールと呼ばれる突起の形成を抑制するため、スパッタリング用銅ターゲット材の粒径等の結晶組織の改善が行われている。特許文献1,2によれば、ターゲット材の結晶粒径を調整することでノジュールの形成が抑制され、ノジュールの部分で発生する異常放電(アーキング)によりノジュールが破壊されてクラスタ状の異物(パーティクル)となることを抑制することができる。よって、スパッタリング膜へのパーティクルの付着を抑制し、製品歩留まりを向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−158614号公報
【特許文献2】特開2002−129313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、これまでは、電極配線を形成するスパッタリング時のアーキングの抑制が優先課題として着目され、多数の研究がなされてきた。但し、現在では、アーキングやこれにより発生するパーティクルについては、スパッタリング装置の面からかなりの改善が得られるようになってきた。そこで、次なる課題として、液晶表示装置のフレーム速度の更なる高速化や大画面化を図るため、純銅のスパッタリング膜を用いた電極配線においては一層の低抵抗化が望まれている。
【0006】
しかしながら、下地の材質等によって、その上に形成されるスパッタリング膜の抵抗率が高まってしまう場合があった。例えば、純銅を用いたスパッタリング膜をガラス基板上やアモルファスシリコン(α−Si)膜上に形成する場合、チタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の高融点金属を含む膜を下地膜とすることがある。この場合、スパッタリング膜の抵抗率は、ガラス基板上などに直接、形成された場合に比べて高くなってしまうことがあった。
【0007】
本発明の目的は、高融点金属を含む膜上に純銅からなる低抵抗なスパッタリング膜を形成することが可能なスパッタリング用銅ターゲット材及びスパッタリング用銅ターゲット材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、
純度3N以上の無酸素銅から形成され、
スパッタリング面における(111)面の配向率が13%以上30%以下であり、
前記スパッタリング面における(200)面の配向率が15%以上30%以下であり、
平均結晶粒径が0.07mm以上0.20mm以下である
スパッタリング用銅ターゲット材が提供される。
ただし、前記(111)面及び前記(200)面の配向率は、
前記(111)面、前記(200)面、(220)面、及び(311)面について、X線回折により得られる各結晶面のピークの測定強度を、JCPDSに記載の前記各結晶面に対応する結晶面のピークの相対強度でそれぞれ除した値の合計値を100%とした場合の割合である。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、
スパッタリング条件を、0.5PaのAr雰囲気下で投入電力密度を12.7W/cmとしたとき、
スパッタリング速度が3g/h以上5g/h以下である
第1の態様に記載のスパッタリング用銅ターゲット材が提供される。
【0010】
本発明の第3の態様によれば、
前記スパッタリング面における(111)面の配向率が17%以上であり、
前記平均結晶粒径が0.10mm以上である
第1又は第2の態様に記載のスパッタリング用銅ターゲット材が提供される。
【0011】
本発明の第4の態様によれば、
前記平均結晶粒径が0.15mm以下である
第1〜第3の態様のいずれかに記載のスパッタリング用銅ターゲット材が提供される。
【0012】
本発明の第5の態様によれば、
鋳造工程、熱間圧延工程を経て製造され、
前記熱間圧延工程にて、
800℃以上900℃以下に加熱した銅鋳塊に、厚み減少率が85%以上95%以下となり、前記銅鋳塊を圧延して形成された銅板の圧延終了時の温度が600℃以上700℃以下となるよう熱間圧延を施した
第1〜第4の態様のいずれかに記載のスパッタリング用銅ターゲット材が提供される。
【0013】
本発明の第6の態様によれば、
成膜直後の抵抗率が2.0μΩcm未満の純銅からなるスパッタリング膜の高融点金属を含む膜上への形成に用いられる
第1〜第5の態様のいずれかに記載のスパッタリング用銅ターゲット材が提供される。
【0014】
本発明の第7の態様によれば、
純度3N以上の無酸素銅を鋳造して銅鋳塊とする鋳造処理と、
前記銅鋳塊を熱間圧延して銅板とする熱間圧延処理と、が行われることで製造され、
前記熱間圧延処理では、
800℃以上900℃以下に加熱した前記銅鋳塊に、厚み減少率が85%以上95%以下となり、圧延終了時の前記銅板の温度が600℃以上700℃以下となるよう熱間圧延を施した
スパッタリング用銅ターゲット材が提供される。
【0015】
本発明の第8の態様によれば、
純度3N以上の無酸素銅を鋳造して銅鋳塊とする鋳造工程と、
前記銅鋳塊を熱間圧延して銅板とする熱間圧延工程と、を有し、
前記熱間圧延工程では、
800℃以上900℃以下に加熱した前記銅鋳塊に、厚み減少率が85%以上95%以下となり、圧延終了時の前記銅板の温度が600℃以上700℃以下となるよう熱間圧延を施す
スパッタリング用銅ターゲット材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高融点金属を含む膜上に純銅からなる低抵抗なスパッタリング膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るスパッタリング用銅ターゲット材が装着されたスパッタリング装置の縦断面図である。
図2】本発明の実施例11〜19及び比較例11〜16に係るスパッタリング用銅ターゲット材のアーキングの測定に用いた検出装置システムの概略図である。
図3】本発明の実施例11,16,17及び比較例11,15,16に係るスパッタリング用銅ターゲット材の各結晶面の配向率を示すグラフである。
図4】本発明の実施例11〜19及び比較例11〜16に係るスパッタリング用銅ターゲット材を用いて純銅スパッタリング膜が格子状に複数区画に区切って形成された評価サンプルを説明する図であって、(a1)は本発明の実施例21g〜29g及び比較例21g〜26gに係る評価サンプルの平面図であり、(a2)は(a1)のA−A断面図であり、(b1)は本発明の実施例21t〜29t及び比較例21t〜26tに係る評価サンプルの平面図であり、(b2)は(b1)のA−A断面図である。
図5】本発明の実施例21t,26t,27t及び比較例21t,25t,26tに係る評価サンプルの純銅スパッタリング膜の抵抗率の熱処理温度に対する依存性を示すグラフである。
図6】本発明の実施例21t〜29t及び比較例21t〜26tに係る評価サンプルの純銅スパッタリング膜の抵抗率の熱処理温度に対する依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<本発明者等が得た知見>
上述のように、下地の違いによって、形成される純銅スパッタリング膜の抵抗率が異なる場合がある。例えば、ガラス基板上であれば成膜直後で容易に1.7μΩcm程度の純銅スパッタリング膜が得られる。これに対し、チタン(Ti)等の高融点金属を含む膜上に純銅スパッタリング膜を形成すると抵抗率が増大してしまう。これは、高融点金属の膜上に形成された純銅スパッタリング膜の結晶性が劣っているためと考えられる。
【0019】
そこで、本発明者等は、良好な結晶性を備える純銅スパッタリング膜を得るためには、下地となる所定の膜上に運動エネルギーの高い銅のスパッタリング粒子を到達させ、膜上で移動(マイグレーション)させればよいと推察した。これにより、スパッタリング粒子を適切な結晶格子位置に配置させることができるとの考えからである。
【0020】
一方、スパッタリング時のターゲット材の表面へのイオン衝突の際には、同じエネルギーのイオン衝突に対して原子が放出され易いほど、つまり、スパッタリング速度が高いほど、放出された直後のスパッタリング粒子は高い運動エネルギーを有していると考えられる。
【0021】
以上の考察に基づき、本発明者等は、高いスパッタリング速度が得られるよう、スパッ
タリング用銅ターゲット材の結晶組織の最適化を試みた。鋭意研究の結果、スパッタリング用銅ターゲット材の表面が(111)面や(200)面に配向しているほど、また、ターゲット材中の結晶粒径が粗大であるほど、スパッタリング速度は高い傾向が得られることがわかった。
【0022】
続いて、本発明者等は、(111)面や(200)面を多く配向させ、かつ、結晶粒径が粗大となるスパッタリング用銅ターゲット材の製造方法についても鋭意研究を行った。従来通りの製造方法によれば、鋳造工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、熱処理工程を経る。このような従来技術を用いた製造方法において、冷間圧延工程で(220)面を配向させ、その後の熱処理工程で(111)面を配向させるという手法では、結晶粒の充分な粗大化は起きなかった。一方で、熱間圧延工程での温度と厚み減少率(加工度)とを調整することにより、冷間圧延工程や熱処理工程を経ずとも、(111)面や(200)面が高い配向率で得られ、かつ、粗大粒径の結晶組織が得られることがわかった。
【0023】
本発明は、発明者等が見いだしたこのような知見に基づくものである。
【0024】
<本発明の一実施形態>
(1)スパッタリング用銅ターゲット材
以下に、本発明の一実施形態に係るスパッタリング用銅(Cu)ターゲット材10(後述の図1を参照)について説明する。スパッタリング用銅ターゲット材10は、例えば所定の厚さと幅および長さとを備える矩形の平板型(プレーナ型)に形成され、例えば液晶表示装置等に用いられる薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)等の電極配線となる純銅スパッタリング膜の形成に用いられるよう構成される。
【0025】
スパッタリング用銅ターゲット材10を構成する純銅は、例えば純度が3N(99.9%)以上の無酸素銅(OFC:Oxygen-Free Copper)である。
【0026】
また、スパッタリング用銅ターゲット材10の圧延された表面(圧延面)、つまり、スパッタリング面における(111)面の配向率は、例えば13%以上30%以下、より好ましくは17%以上であり、(200)面の配向率は、例えば15%以上30%以下である。なお、(111)面及び(200)面の配向率は、X線回折により得られる種々の結晶面を示す各ピークとの測定強度比から求められる値である。各ピークの測定強度は、例えば各ピークに対応する結晶面のピークの相対強度で補正して用いられる。相対強度には、例えばJCPDS(Joint Committee for Powder Diffraction Standards)に記載の値が用いられる。
【0027】
具体的には、次式(1),(2)でそれぞれ表わされるように、(111)面及び(200)面の配向率は、(111)面、(200)面、(220)面、及び(311)面について、X線回折により得られる各結晶面のピークの測定強度を、JCPDSに記載のこれら各結晶面に対応する結晶面のピークの相対強度でそれぞれ除した値の合計値を100%とした場合の割合である。
【0028】
【数1】
【数2】
【0029】
また、スパッタリング用銅ターゲット材10の平均結晶粒径は、例えば0.07mm以上0.20mm以下、より好ましくは0.10mm以上である。また、上限値は、後述する理由により、0.15mm以下であってもよい。なお、平均結晶粒径は、JIS H0501に規定の「伸銅品結晶粒度試験法」の「比較法」により求められる値である。
【0030】
上述のように、(111)面の配向率が例えば13%以上30%以下であり、(200)面の配向率が例えば15%以上30%以下であり、なおかつ、平均結晶粒径が例えば0.07mm以上0.20mm以下のスパッタリング用銅ターゲット材10を用いることで、高い運動エネルギーを持った銅のスパッタリング粒子が放出され易くなる。よって、高いスパッタリング速度が得られる。係るスパッタリング速度は、例えば0.5PaのAr雰囲気下で、投入電力密度を12.7W/cmとしたとき、3g/h以上5g/h以下であることが好ましい。上述のように、(111)面の配向率を17%以上とし、かつ、平均結晶粒径を0.10mm以上とすることで、スパッタリング速度をより確実にこのような範囲内におさめることができる。
【0031】
(111)面や(200)面は、原子の充填密度が高い結晶面である。よって、放電プラズマ中のイオンの衝突により原子が叩き出され易く、つまり、スパッタされ易く、高いスパッタリング速度が得られると考えられる。また、結晶粒界は、結晶構造中の欠陥部分にあたり、イオンが衝突した際、衝突エネルギーを吸収してしまう。スパッタリング用銅ターゲット材10のように、結晶粒が粗大であるほど結晶粒界が少ないため、衝突エネルギーの吸収が抑制され、スパッタリングに消費されるエネルギーの損失が少なくなると考えられる。よって、粗大粒径とすることによっても、高いスパッタリング速度が得られる。
【0032】
以上により、高い運動エネルギーのスパッタリング粒子が放出され、到達した膜上でのマイグレーション及び適切な結晶格子位置への配置が起こる。よって、Tiやモリブデン(Mo)等の高融点金属を含む膜上であっても、成膜直後の抵抗率が例えば2.0μΩcm未満の純銅スパッタリング膜を形成することができる。
【0033】
(2)スパッタリング用銅ターゲット材の製造方法
次に、本発明の一実施形態に係るスパッタリング用銅ターゲット材10の製造方法について説明する。本実施形態では、主に、鋳造工程、熱間圧延工程をこの順に行う製造方法を採る。
【0034】
まず、鋳造工程にて、純度が3N(99.9%)以上の無酸素銅を鋳造し、所定厚さ、所定幅の矩形の銅鋳塊(インゴット)とする。
【0035】
次に、高温による加工工程として、熱間圧延工程を行う。つまり、例えば800℃以上900℃以下の温度で加熱した銅鋳塊に圧延を施して銅板とする(熱間圧延)。熱間圧延工程では1回の処理で熱間圧延を施してもよく、或いは、複数回に分けて処理を行ってもよい。このとき、最終パス通過後、つまり、圧延終了時の銅板の温度が600℃以上700℃以下となっているようにする。また、圧延終了時点で、厚み減少率が85%以上95
%以下となるように加工する。厚み減少率(加工度)は、次式(3)で定義される。
厚み減少率(%)=((加工前板厚―加工後板厚)/加工前板厚)×100 ・・・(3)
【0036】
熱間圧延を施した銅板の表面酸化層(黒皮)を除去(皮むき)して所定厚さとする。
【0037】
次に、矯正機で銅板の曲がりを矯正し、フライス等により切削加工を行うとともに所定長さに切り出して、所定厚さ、所定幅のスパッタリング用銅ターゲット材10とする。以上により、スパッタリング用銅ターゲット材10が製造される。
【0038】
上述のように、本実施形態では、熱間圧延工程を800℃以上900℃以下で行い、厚み減少率を85%以上95%以下とする。このような圧延加工により、(220)面を配向させることができる。また、熱間圧延工程での加熱温度を800℃以上の高温とし、また、圧延終了時の銅板の温度を上述の所定値内に保つことにより、(111)面の配向率の高い結晶組織が再結晶で生じるとともに、所定量の(200)面も現れてくる。また、粒成長が促進されて、結晶粒を粗大化することができる。なお、結晶粒を粗大化させるには、厚み減少率を低く抑えることも有効である。また、加熱温度を900℃以下とすることで、銅鋳塊の酸化を制御したり、製造時の作業性を確保したりすることができる。
【0039】
当初、本発明者等は、従来通り、鋳造工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、熱処理工程を経る製造方法を採っていた。そして、その後、400℃程度の比較的低温の熱処理工程における再結晶で、冷間圧延工程にて配向した(220)面が減少し(111)面へと配向するという知見を得た。また、冷間圧延工程での厚み減少率が高いほど、(111)面の配向率は増加するものの結晶粒は微細化する。このことから、本発明者等は、冷間圧延工程と熱処理工程とを種々に組み合わせ、(111)面の配向率が高く、結晶粒が粗大となった結晶組織を得ようと試みた。しかしながら、熱処理工程では、(111)面への配向はみられるものの、0.10mm程度までの結晶粒径しか得られなかった。熱処理工程を500℃〜700℃程度の高温として粒成長を試みたが、係る手法によっても、0.10mm以上の粗大化は起きなかった。
【0040】
主として再結晶の駆動力は、冷間圧延工程で加えられた歪により生じる。この歪は主に粒界等に蓄積する。熱処理工程では、歪の蓄積された粒界が起点(核)となって再結晶が進む。(111)面を多く得ようと冷間圧延工程での厚み減少率を高めると、再結晶の起点となる核が多数生じてしまい、再結晶後の粒径は細かくなってしまう。また、熱処理工程での粒成長も、この歪みを駆動力として起こる。熱処理により歪がひとたび開放されてしまうと、それ以上の粒成長は起きない。このことからも、上述のような冷間圧延工程と熱処理工程との調整による方法では、0.10mm程度の粒径が限界であると考えられる。
【0041】
本実施形態では、本発明者等の更なる取り組みにより得られた知見に基づき、熱間圧延工程にて、高温で加熱された銅鋳塊を、所定の厚み減少率で圧延加工することにより(220)面を配向させることとした。一方で、熱間圧延工程の終了後にも所定の熱が残留することにより、(111)面の再結晶と粒成長とが促進され、(111)面及び(200)面の配向率が高く、粗大粒径のスパッタリング用銅ターゲット材10が得られる。
【0042】
(3)スパッタリング用銅ターゲット材を用いた成膜方法
次に、本発明の一実施形態に係るスパッタリング用銅ターゲット材10を用いたスパッタリングにより、純銅スパッタリング膜を成膜する方法について、図1を用いて説明する。
【0043】
図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタリング用銅ターゲット材10が装着された
スパッタリング装置20の縦断面図である。スパッタリング装置20は、例えば直流(DC)放電を用いたDCスパッタリング装置として構成されている。なお、図1に示すスパッタリング装置20はあくまでも一例である。
【0044】
図1に示すように、スパッタリング装置20は、真空チャンバ21を備えている。真空チャンバ21内の上部には基板保持部22sが設けられ、成膜対象となる基板Sが、成膜される面を下方に向けて保持される。基板Sは、例えば被成膜面となるTiやMo等の高融点金属を含む膜が予め形成されたガラス基板等である。
【0045】
真空チャンバ21内の底部には、図示しない水冷等の冷却機構を備えるターゲット保持部22tが設けられ、例えばスパッタリング用銅ターゲット材10が接合された図示しないバッキングプレートが保持される。これにより、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10が、基板Sの被成膜面と対向するよう、スパッタリング面を上方に向けて保持される。なお、スパッタリング装置20内に複数の基板Sを保持して、これら基板Sを一括処理、或いは連続処理してもよい。
【0046】
また、真空チャンバ21の一方の壁面にはガス供給管23fが接続され、ガス供給管23fと対向する他方の壁面にはガス排気管23vが接続されている。ガス供給管23fには、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスを真空チャンバ21内に供給する図示しないガス供給系が接続されている。ガス排気管23vには、Arガス等の真空チャンバ21内の雰囲気を排気する図示しないガス排気系が接続されている。
【0047】
係るスパッタリング装置20にて基板Sへの成膜を行う際は、Arガス等を真空チャンバ21内に供給し、スパッタリング用銅ターゲット材10を接地(アース)して、基板Sに正の高電圧が印加されるよう、真空チャンバ21に対してDC放電電力(DCパワー)を投入する。
【0048】
これにより、主にスパッタリング用銅ターゲット材10と基板Sとの間にプラズマが生成され、プラスのアルゴン(Ar)イオンGが、スパッタリング用銅ターゲット材10のスパッタリング面に衝突する。ArイオンGの衝突により、スパッタリング用銅ターゲット材10から叩き出された銅のスパッタリング粒子Pが基板Sの被成膜面へと堆積されていく。
【0049】
この間、スパッタリング用銅ターゲット材10は、バッキングプレートを介して水冷等により冷却されており、不必要な温度上昇を抑制することができる。
【0050】
以上により、基板S上には、純銅からなるスパッタリング膜Mが形成される。
【0051】
上述のように、従来のスパッタリング用銅ターゲット材を用い、例えばTi等の膜上に純銅等をスパッタリングすると、抵抗率の高いスパッタリング膜となってしまうことがあった。このような現象は、Ti等の膜上に形成されたスパッタリング膜が、膜中に空隙を多く含んでいたり、不規則な原子配列の結晶であったりと、結晶性が不良であるためと考えられる。
【0052】
そこで、本発明者等が考察したように、Ti等の膜上に到達した銅のスパッタリング粒子を、被着した膜上で移動(マイグレーション)させ、なるべく適切な結晶格子位置に配置させることができれば、良好な結晶性を備える低抵抗率の純銅スパッタリング膜を形成できると考えられる。このマイグレーションは、スパッタリング粒子の運動エネルギーが高いほど容易になる。
【0053】
スパッタリングは、放電プラズマ中のArイオン等がターゲット材の表面に衝突し、ターゲット材を構成する原子間の結合が切れて原子が放出される現象である。よって、同じエネルギーのイオン衝突に対して放出され易い原子ほど、放出直後の運動エネルギーは高いと考えられる。つまり、スパッタリング用銅ターゲット材の浸食(エロージョン)速度が高いときほど、高い運動エネルギーのスパッタリング粒子が放出していると考えられる。
【0054】
このような、スパッタリング用銅ターゲット材10の浸食速度、つまり、スパッタリング用銅ターゲット材10から放出されるスパッタリング粒子Pの単位時間あたりの量が、本実施形態に係るスパッタリング速度(g/h)である。また、放出されたスパッタリング粒子Pの基板S上への堆積速度、つまり、スパッタリング膜Mの成膜速度(nm/min)は、係るスパッタリング速度(g/h)と対応する関係にあり、原理的には、これと相関を示すはずである。
【0055】
本発明者等の鋭意研究により、本実施形態では、原子を放出し易い傾向がみられ、高いスパッタリング速度が得られた(111)面の配向率と、これに次いで高いスパッタリング速度が得られた(200)面の配向率とが高いスパッタリング用銅ターゲット材10としている。また、同様に、高いスパッタリング速度が得られた粗大粒径の結晶粒を多く含む結晶組織としている。これにより、運動エネルギーの高いスパッタリング粒子Pを放出して膜上に被着させ、マイグレーションによる適切な結晶格子位置への配置を膜上で起こさせて、良好な結晶性を備える抵抗率の低い純銅のスパッタリング膜Mを得ることができる。
【0056】
このとき、スパッタリング用銅ターゲット材10のスパッタリング速度としては、例えば0.5PaのAr雰囲気下で、投入電力密度を12.7W/cmとしたとき、3g/h以上であることが好ましい。上述のように、スパッタリング速度を高めることで、結晶性に優れ、抵抗率の低いスパッタリング膜Mが得られる。また、TFT等の電極配線の形成のタクトタイム短縮の要請があることからも、スパッタリング速度を高め、スパッタリング膜Mの成膜速度を高速に維持することができて好ましい。
【0057】
一方で、5g/hを超える以下2つの状態について検証し、スパッタリング速度は5g/h以下が好ましいことが見いだされた。
【0058】
スパッタリング速度が5g/h超となる状態は、例えばDC放電電力(投入電力密度)を高めることで、実験的に得ることができる。このような条件下では、スパッタリング時の異常放電(アーキング)が起こり易くなってしまった。スパッタリング粒子の放出密度が高まったために、アーキングの頻度も高まったと考えられる。
【0059】
スパッタリング速度が5g/h超となる状態は、ターゲット材中の結晶粒をより粗大化することでも得られる。結晶粒の粗大化を図るには、例えば、熱間圧延工程の条件をより高温、より高い厚み減少率とする。例えば、温度が900℃、厚み減少率が100%をそれぞれ超えるような条件では、より粗大で、(111)面や(200)面の配向率がより高いターゲット材が得られる。スパッタリング速度も5g/h超となって、結果、スパッタリング時のアーキングがみられた。
【0060】
以上のことから、スパッタリング速度を5g/h以下とすることで、スパッタリング中のアーキング等が起こり難く、スパッタリング装置20内やスパッタリング膜M上の異物(パーティクル)の低減を図ることができる。
【0061】
また、スパッタリング用銅ターゲット材中の結晶粒の平均結晶粒径に上述のような上限
を設けたのも同様の観点からである。つまり、上述のように、平均結晶粒径が大きいほどスパッタリング速度を高めることができるが、アーキングが発生し易くなってしまう。また例えば、平均結晶粒径が0.20mm超の結晶組織中には微細な(111)面の再結晶も生じ、混粒状態となり易い。このため、スパッタリング速度が不均一となり、ターゲット材表面の浸食も不均一となってしまい易い。平均結晶粒径の過剰な増大によるアーキングは、このような原因によっても生じてしまうと考えられる。よって、上述のように、平均結晶粒径を0.20mm以下、あるいは0.15mm以下とすることで、アーキングの発生を抑制することができる。
【0062】
なお、上述のように、現在では、アーキングやパーティクル等の弊害については、装置面からの対策によりかなりの改善がみられている。例えば、ターゲット材の裏面にイオンを引き付けるためのマグネットを配し、このマグネットを揺動させて浸食が起きる部分を常に移動させ、ターゲット材にノジュールが形成されてしまうのを抑制する工夫を施してもよい。また、カソード電極となる矩形のターゲット材を併設したマルチカソードタイプの装置を用いれば、隣り合うカソード電極間で交流電源を負荷する交流(AC)スパッタリングにより、安定したプラズマを発生させてアーキング等の発生を抑制することも可能である。
【0063】
上述のスパッタリング装置20において、スパッタリング用銅ターゲット材10を装置下方に、成膜面を下に向けた基板Sを装置上方に配置することでも、パーティクルに対する対策が図られている。このような配置により、アーキングや装置等から発生するパーティクルの影響を軽減することができる。ただし、スパッタリング用銅ターゲット材10は、ターゲット材と基板との上下位置が逆の装置や、ターゲット材と基板とを垂直に立てて対向させる装置等、種々のタイプのスパッタリング装置に装着して用いることができる。
【0064】
以上のように基板S上に形成された純銅のスパッタリング膜Mは、例えば所望のパターニングを施され、TFTをはじめとする各種の半導体素子の電極配線等として利用される。
【0065】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0066】
例えば、上述の実施形態では、スパッタリング用銅ターゲット材10を矩形の平板型としたが、スパッタリング用銅ターゲット材の形状はこれに限られず、円板型やその他の形状であってもよい。
【0067】
また、上述の実施形態では、スパッタリング用銅ターゲット材10の製造方法に係る高温加工工程として熱間圧延工程を行ったが、高温加工工程はこれに限られず、例えば熱間押出工程等の高温で加熱して塑性加工を行う工程であればよい。
【0068】
また、上述の実施形態では、スパッタリング用銅ターゲット材10を用い、Ti等の膜上に純銅スパッタリング膜を形成することとしたが、純銅スパッタリング膜の下地となる高融点金属を含む膜はこれ以外の膜であってもよい。具体的には、Ti、Moのほか、タングステン(W)やタンタル(Ta)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の膜やこれら金属の合金膜、或いはこれらと他の金属との合金膜等であってもよい。
【0069】
また、スパッタリング膜の下地は、α−Si膜やガラス基板等であってもよい。本発明によれば、高融点金属を含む膜上のみならず、例えばガラス基板等の上に形成されたスパッタリング膜であっても、抵抗率をさらに低下させる効果が得られる。例えば、TFTに
おいては、ガラス基板上にゲート電極を含む電極配線が形成される。本発明は、このような場合にも適用することができる。
【実施例】
【0070】
(1)スパッタリング用銅ターゲット材の評価
次に、本発明の実施例11〜19に係るスパッタリング用銅ターゲット材の評価結果について比較例11〜16とともに説明する。
【0071】
(スパッタリング用銅ターゲット材の製作)
まずは、上述の実施形態と同様の手法、手順にて、純度が3N(99.95%)の無酸素銅を鋳造し、厚さが150mm、幅が300mmの矩形の銅鋳塊を製作した。
【0072】
次に、この銅鋳塊から、熱間圧延工程での温度と厚み減少率とを調整することで、冷間圧延工程や熱処理工程を行わずに、実施例11に係るスパッタリング用銅ターゲット材を製作した。すなわち、銅鋳塊をArガス雰囲気で850℃に保持した加熱炉内で2時間加熱し、加熱炉から取り出した後、直ちに熱間圧延工程を施して厚さが22mmの銅板とした。圧延終了時の銅板の温度は670℃であり、また、厚み減少率は85.3%であった。この銅板の表面酸化層を除去して厚さを20mmとし、実施例11に係るスパッタリング用銅ターゲット材を得た。
【0073】
また、実施例11と同様の手法、手順にて、熱間圧延工程の温度および厚み減少率を上述の所定値の範囲内で様々に変えて、実施例12〜19に係るスパッタリング用銅ターゲット材を併せて製作した。
【0074】
更に、当初、本発明者等が検討したように、冷間圧延工程と熱処理工程とを調整して(111)面の配向率の増加および結晶粒径の粗大化を試みる例として、上述の銅鋳塊から比較例11に係るスパッタリング用銅ターゲット材を製作した。すなわち、上述の実施例11と略同様の手法、手順にて、温度を800℃とする熱間圧延工程で、厚さが60mmの銅板を製作した。表面酸化層を除去した後、冷間圧延工程では30mmの厚さまで銅板を薄くし(厚み減少率:50%)、熱処理工程での温度を400℃以下として再結晶させた。その後、矯正機で銅板の曲がりを矯正し、フライス加工により切削加工を行って、最終的な厚さが20mmの比較例11に係るスパッタリング用銅ターゲット材とした。
【0075】
また、上述の比較例11と同様の手法、手順にて、熱間圧延工程の温度および冷間圧延工程の厚み減少率を様々に変えて、比較例15,16に係るスパッタリング用銅ターゲット材を併せて製作した。また、上述の実施例のように冷間圧延工程や熱処理工程を行わない手法を用い、熱間圧延工程の温度および厚み減少率を上述の所定値の範囲外の値を含むよう様々に変えて、その他の比較例12〜14に係るスパッタリング用銅ターゲット材を製作した。
【0076】
以下の表1に、実施例11〜19に係るスパッタリング用銅ターゲット材の製作時の条件を、比較例11〜16とともに示す。表中、所定値を外れた値については下線付きの太字で示した。また、比較例11,15,16については、そもそも実施例とは全く異なる方法にてターゲット材の製作を行ったので、熱間圧延工程における条件については記載を省いた。
【0077】
【表1】
【0078】
(結晶組織の評価)
上述の機械加工前のスパッタリング用銅ターゲット材からそれぞれブロック材を切り出し、スパッタリング面にあたる圧延面の結晶組織について、各結晶面の配向率及び平均結晶粒径の測定を行った。
【0079】
まずは、上述の各ブロック材についてX線回折測定を行い、スパッタリング面における各結晶面の配向率を調べた。すなわち、(111)面、(200)面、(220)面、及び(311)面のピーク強度をX線回折により測定し、JCPDSに記載のこれら各結晶面に対応する結晶面のピークの相対強度を用い、上述の式(1),(2)から(111)面及び(200)面の配向率を求めた。
【0080】
また、同じく各ブロック材について、JIS H0501に規定の「伸銅品結晶粒度試験法」の「比較法」に基づき平均結晶粒径を測定した。すなわち、JIS H0501に掲載の標準写真と各ブロック材の結晶組織の写真とを見比べて平均結晶粒径を同定した。
【0081】
(スパッタリング評価)
次に、実施例11〜19及び比較例11〜16に係るスパッタリング用銅ターゲット材のスパッタリング速度およびアーキングの回数を、以下の手法により測定した。
【0082】
すなわち、図2に示すスパッタリング実験機120に適合させるため、まずは、上述の実施例11〜19及び比較例11〜16に係るスパッタリング用銅ターゲット材を機械加工して、厚さが5mm、直径が100mmの円形に切り出した。次に、この円形状の各スパッタリング用銅ターゲット材を、上述の実施形態に係るスパッタリング装置20と略同様の機能を備えるDC放電方式のスパッタリング実験機120に装着した。図2に示すように、スパッタリング実験機120には、アーキングの検出装置システム30が接続されている。続いて、以下の表2に示す条件にて、各スパッタリング用銅ターゲット材に対するスパッタリングをそれぞれ行った。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示すように、真空チャンバ内を0.5PaのAr雰囲気とし、直径が100mmのターゲット材に対して1kWのDC放電電力を投入した。すなわち、投入電力密度は12.7W/cmとなっている。スパッタリング累計時間が2時間となったところで、各スパッタリング用銅ターゲット材の質量の減少量を測定し、スパッタリング速度(g/h)を算出した。
【0085】
また、上述のスパッタリング時には、上述の検出装置システム30にて、アーキングの回数を測定した。
【0086】
具体的には、図2に示すように、基板電極となる基板保持部122sと、基板保持部122sに接続されるDC電源124の出力側との間に設けた検出器31により、基板保持部122sと、基板保持部122sに対向しカソード電極となるターゲット保持部122tと、の間に印加される電流と電圧とを検出した。検出された電流と電圧とを、コンピュータ等からなる制御部33により制御されるアークモニタ32でモニタし、アーキングの発生の有無を判定するとともに、アーキングの発生回数を測定した。
【0087】
(スパッタリング用銅ターゲット材の測定結果)
図3に、各実施例および比較例のうち、実施例11,16,17及び従来技術により製作した比較例11,15,16の測定結果の一部を示す。図3のグラフの横軸は、(111)面、(200)面、(220)面、及び(311)面の各結晶面であり、縦軸はスパッタリング面における結晶面の配向率(%)である。グラフ中、実施例11のデータを◇印と実線とで示し、実施例16のデータを□印と実線とで示し、実施例17のデータを△印と実線とで示した。また、比較例11のデータを×印と破線とで示し、比較例15のデータを*印と破線とで示し、比較例16のデータを○印と破線とで示した。また、グラフの上の表には、平均結晶粒径(mm)、各結晶面の配向率(%)、スパッタリング速度(g/h)の数値を示した。また、図3の表中、所定値を外れた値については下線つきの太字で示した。
【0088】
図3に示すように、実施例11,16,17の平均結晶粒径は上述の所定値内であり、比較例11,15,16の平均結晶粒径よりも粗大な粒径となっている。また、(111)面の配向率も高い。このため、実施例11,16,17はいずれも、比較例11,15,16よりもスパッタリングされ易く、スパッタリング速度が高い。よって、スパッタリング粒子の運動エネルギーも高いことが予想される。
【0089】
なお、粒径の等しい実施例16および比較例15をみると、(111)面の配向率は実施例16の方が高く、これにより、スパッタリング速度を高める効果が充分に現れている。本実施例では、従来技術におけるよりも高温の工程を経るため、同じ粒径であっても高い(111)面の配向率が得られ易い。
【0090】
以下の表3に、実施例11〜19及び比較例11〜16の全データを示す。表中、所定値を外れた値については下線つきの太字で示した。
【0091】
【表3】
【0092】
(2)純銅スパッタリング膜の評価
次に、本発明の実施例21〜29に係る純銅スパッタリング膜の評価結果について比較例21〜26とともに説明する。
【0093】
(評価サンプルの製作)
上述の実施例11〜19及び比較例11〜16に係るスパッタリング用銅ターゲット材を用い、実施例21〜29及び比較例21〜26に係る評価サンプルをそれぞれ製作した。各評価サンプルには、図4に示すように、ガラス基板51上或いはTi膜52上に、純銅スパッタリング膜53g,53tがそれぞれ格子状に複数区画に区切って形成されている。
【0094】
すなわち、円形状に切り出した各スパッタリング用銅ターゲット材を、上述の実施例と同様のスパッタリング実験機120に装着した。続いて、ガラス基板51上或いはTi膜52上にスパッタリングによる成膜をそれぞれ行った。
【0095】
図4(a1)及び(a2)に示す実施例21g〜29g及び比較例21g〜26gに係る評価サンプルは、ガラス基板51上に、それぞれ実施例11〜19及び比較例11〜16に係るスパッタリング用銅ターゲット材を用いて成膜された純銅スパッタリング膜53gを有している。係る構成は、3mm角の開口部を2mm間隔で100マス(縦10マス×横10マス)有するメタルマスク(図示せず)を、50mm角のガラス基板51上に保持し、純銅スパッタリング膜53gを3mm角の格子状に区切って100区画、ガラス基板51上に形成して得た。以下の表4に、スパッタリングによる成膜条件を示す。
【0096】
【表4】
【0097】
図4(b1)及び(b2)に示す実施例21t〜29t及び比較例21t〜26tに係る評価サンプルは、ガラス基板51に形成されたTi膜52上に、それぞれ実施例11〜19及び比較例11〜16に係るスパッタリング用銅ターゲット材を用いて成膜された純銅スパッタリング膜53tを有している。各評価サンプルの形成にあたっては、予め、Tiターゲット材を用いてTi膜52をガラス基板51の全面に形成しておいた。このTi膜52上に上述したものと同様のメタルマスクを保持し、純銅スパッタリング膜53tを3mm角の格子状に区切って100区画、Ti膜52上に形成した。Ti膜52及び純銅スパッタリング膜53tの膜厚は、それぞれ約50nm及び約300nmとした。以下の表5に、スパッタリングによる成膜条件を示す。
【0098】
【表5】
【0099】
(評価サンプルの成膜速度測定)
上述の各評価サンプルを用いて、ガラス基板51上およびTi膜52上の純銅スパッタリング膜53g,53tの成膜速度を測定した。
【0100】
まずは、実施例21g〜29g及び比較例21g〜26gに係る評価サンプルを用い、純銅スパッタリング膜53gの膜厚を測定した。膜厚は、株式会社キーエンス製カラー3Dレーザ顕微鏡VK−8700を用い、純銅スパッタリング膜53gの格子状に区切った各区画とガラス基板51との段差を計測することにより測定した。また、測定した膜厚から、ガラス基板51上の純銅スパッタリング膜53gの成膜速度を求めた。成膜速度(nm/min)は、測定した膜厚を成膜時間の10分で除した値である。
【0101】
続いて、実施例21t〜29t及び比較例21t〜26tに係る評価サンプルを用い、上述のガラス基板51の場合と同様、純銅スパッタリング膜53tとTi膜52との段差を計測した。これにより、得られた膜厚を成膜時間の3分で除して、Ti膜52上の純銅スパッタリング膜53tの成膜速度を求めた。
【0102】
(評価サンプルの抵抗率測定)
次に、上述の各評価サンプルを用いて、ガラス基板51上およびTi膜52上の純銅ス
パッタリング膜53g,53tの抵抗率を測定した。
【0103】
すなわち、実施例21g〜29g及び比較例21g〜26gに係る評価サンプルを用い、純銅スパッタリング膜のシート抵抗を測定してガラス基板51上の純銅スパッタリング膜53gの抵抗率を求めた。
【0104】
シート抵抗の測定方法としては、3mm角の各区画の上面、つまり純銅スパッタリング膜53gの表面の4隅付近に電極の針を当てて行うファン・デル・パウ(van der Pauw)法を用いた。このシート抵抗に、上述と同様の手法で測定した純銅スパッタリング膜53gの膜厚を乗じて抵抗率を求めた。
【0105】
シート抵抗の測定には、ケースレーインスツルメンツ株式会社製2612A型2chシステムソースメータを用いた。係るソースメータにより、−100mA〜100mAまで電流値を掃引(Sweep)印加し、電圧を測定した。次に、ファン・デル・パウ(van der Pauw)法の計算式にしたがい、測定電流値と電圧値とからシート抵抗を求めた。この際、−100mAと100mAとにおける抵抗値の平均を取り、オフセット分をキャンセルした。以上により求めたシート抵抗値に、上述のレーザ顕微鏡で測定した膜厚を乗ずることで膜抵抗率(μΩcm)を求め、ガラス基板51上の純銅スパッタリング膜53gの抵抗率とした。
【0106】
続いて、実施例21t〜29t及び比較例21t〜26tに係る評価サンプルを用い、上述のガラス基板51の場合と同様、純銅/Ti積層膜(膜厚が300nm/50nm)のシート抵抗を測定し、Ti膜52上の純銅スパッタリング膜53tの抵抗率を求めた。係る測定方法によれば、下地のTi膜52への導通分も加味されてしまうが、Tiの抵抗率は純銅に比べて1桁以上高い。また、Ti膜52は純銅スパッタリング膜53tよりも薄い。このため、Ti膜52の抵抗率に対する影響は小さいと考えられる。また、各実施例、比較例の値を相対比較することで、Ti膜52上の純銅スパッタリング膜53tの値の中で優劣の判定も可能である。
【0107】
なお、Ti膜52上の純銅スパッタリング膜53tについては、熱処理前後での抵抗率を求めた。熱処理については、実施例21t〜29t及び比較例21t〜26tに係る評価サンプルに対してTFTの製造過程で純銅スパッタリング膜が受け得る200℃〜300℃の範囲内の幾つかの温度で行った。
【0108】
(評価サンプルの測定結果)
上述のように、抵抗率は純銅スパッタリング膜53g,53tの物性値のひとつであり、純銅スパッタリング膜53g,53tが空隙等の欠陥が少なく結晶性の良好な膜であると、低い値を示す。なお、純銅のバルク材としての最小の抵抗率は1.67μΩcmである。これを踏まえて、図5に示す実施例21t,26t,27t及び比較例21t,25t,26tの測定結果について、以下に説明する。
【0109】
図5の横軸は熱処理温度(℃)であり、縦軸は純銅スパッタリング膜53tの抵抗率(μΩcm)である。図中、実施例21tのデータを◇印と実線とで示し、実施例26のデータを□印と実線とで示し、実施例27のデータを△印と実線とで示した。また、比較例21tのデータを×印と破線とで示し、比較例25のデータを*印と破線とで示し、比較例26のデータを○印と破線とで示した。
【0110】
図5に示すように、成膜直後(As depo.)の熱処理無しの状態であっても、実施例21tの方が、比較例21tよりも低い抵抗率を示した。実施例21tにおいては、Ti膜52上であっても良好な結晶性の純銅スパッタリング膜53tが得られていることがわかる
。また、両者とも、200℃〜300℃の熱処理後には抵抗率の低下がみられ、熱処理により結晶の欠陥が修正されたことがわかる。但し、熱処理後であっても、依然、比較例21tの方が実施例21tよりも高い抵抗率を示しており、成膜直後の結晶の状態が影響を及ぼしていると考えられる。他の実施例26,27や、比較例25,26についても、同様の結果が得られた。
【0111】
図6に、実施例21t〜29t及び比較例21t〜26tの全データを示す。実施例21t〜26t及び比較例21t〜26tにおいても、上記と同様の傾向がみられた。
【0112】
また、以下の表6に、実施例21〜29及び比較例21〜26の全データを示す。
【0113】
【表6】
【0114】
上述した通り、実施例11に係るスパッタリング用銅ターゲット材は、上述の所定値の範囲内となる条件下で製作した。また、実施例12〜19に係るスパッタリング用銅ターゲット材は、実施例11の製作条件を基準に、熱間圧延工程での温度と厚み減少率とを上述の所定値内の条件下で製作した(表1参照)。したがって、実施例11〜19を用いてそれぞれ製作された実施例21〜29に係る評価サンプルにおいては、表6に示す通り、いずれの測定においても良好な結果が得られた。
【0115】
係る結果によれば、Ti膜52上で低抵抗率の純銅スパッタリング膜53tが得られるのみならず、ガラス基板51上においても純銅スパッタリング膜53gの抵抗率を低下させる効果が認められた。このような効果は、比較例24を除く、後述の比較例21〜26におけるガラス基板51上の純銅スパッタリング膜53gの抵抗率に対し、実施例21〜29の抵抗率の方がより低い値となっていることから明らかである。
【0116】
一方、比較例11,15,16に係るスパッタリング用銅ターゲット材は、鋳造工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、熱処理工程のすべての工程を経て製作した(表1参照)。これらのスパッタリング用銅ターゲット材は、(111)面や(200)面の配向率、平
均結晶粒径、スパッタリング速度のうち複数の値が所定の条件を満たしていない(表3参照)。したがって、比較例11,15,16を用いてそれぞれ製作された比較例21,25,26に係る評価サンプルにおいては、表6に示す通り、ガラス基板上51及びTi膜52上の純銅スパッタリング膜53g,53tのいずれにおいても、上述の実施例より抵抗率が高い結果となってしまった。
【0117】
また、比較例12に係るスパッタリング用銅ターゲット材は、熱間圧延工程の温度が上述の所定値より高く(表1参照)、粗大な結晶粒径が得られたものの、(111)面や(200)面の配向率が低くスパッタリング速度も低かった(表3参照)。よって、比較例12を用いて製作された比較例22に係る評価サンプルにおいては、表6に示す通り、ガラス基板上51及びTi膜52上の純銅スパッタリング膜53g,53tのいずれにおいても、上述の実施例より抵抗率が高い結果となってしまった。このことから、熱間圧延工程での温度が高いと、粒成長はし易いが、加工ひずみが入り難く、(111)面や(200)面への再結晶が起こり難い状態になってしまうと考えられる。
【0118】
また、比較例13に係るスパッタリング用銅ターゲット材は、熱間圧延工程の温度が上述の所定値より低く(表1参照)、(111)面の配向率は高いが、結晶粒径は細かく、スパッタリング速度も低かった(表3参照)。よって、比較例13を用いて製作された比較例23に係る評価サンプルにおいては、表6に示す通り、ガラス基板上51及びTi膜52上の純銅スパッタリング膜53g,53tのいずれにおいても、上述の実施例より抵抗率が高い結果となってしまった。
【0119】
また、比較例14に係るスパッタリング用銅ターゲット材は、熱間圧延工程の温度と厚み減少率とが上述の所定値より高く(表1参照)、粗大な結晶粒径が得られたと共に、(111)面や(200)面の配向率が高かった(表3参照)。よって、比較例14を用いて製作された比較例24に係る評価サンプルにおいては、表6に示す通り、ガラス基板上51及びTi膜52上の純銅スパッタリング膜53g,53tのいずれにおいても、上述の実施例に匹敵する低い抵抗率が得られた。
【0120】
しかしながら、比較例14に係るスパッタリング用銅ターゲット材では、スパッタリング速度が所定値を超えてしまい、アーキングの発生頻度が高い結果となってしまった(表3参照)。よって、得られる純銅スパッタリング膜53は低抵抗であっても、係る膜の形成時にはパーティクルの懸念がある。このようなスパッタリング用銅ターゲット材は、好ましい構成とはいえない。
【0121】
以上の結果から、スパッタリング用銅ターゲット材の所定の結晶面の配向率及び平均粒径を上述のように制御することで、Ti等の高融点金属を含む膜上であっても、高い成膜速度が得られると共に、成膜直後の抵抗率が2.0μΩcm未満の良好な結晶性を備えるスパッタリング膜が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0122】
10 スパッタリング用銅ターゲット材
20 スパッタリング装置
30 アーキングの検出装置システム
51 ガラス基板
52 Ti膜
53g,53t 純銅スパッタリング膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6