(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
グラファイト材料や、カーボン複合材料は、軽量で、導電性、耐熱性、熱伝導性、潤滑性に優れた材料であることから、放電加工用電極や、すべり軸受け部品として多用されているが、所望の形状を削りだすための切削加工では工具磨耗が早く、また切削粉の処理が困難である。
【0003】
また、
図1,
図2に示される加工形状のように、切削加工では加工が非常に困難な形状も多く必要とされており、切削加工では加工が困難な場合、ワイヤ放電加工により加工する方法が近年注目されつつある。
図1(a)はリブ幅0.5mm,板厚200mmの加工形状の平面図,
図1(b)は斜視図である。
図2(a)はリブ幅0.5mm,板厚200mmの加工形状の平面図,
図2(b)は斜視図である。
【0004】
ワイヤ放電加工では、特許文献1に開示されているように、一般的に、ピーク電流値が高くパルス幅の短い急峻な形の電流パルスが、ワイヤ放電加工機によるワークの粗加工で使用され、
図3には、ワイヤ放電加工機の加工用電源電圧が高く、加工に使用される通常ピーク電流値は約300〜1000A、パルス幅は0.5μsec程度であり、パルスの立ち上がりが急峻な電流パルスが図示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来、ワイヤ放電加工機において加工用電源電圧が高く、加工に使用されるピーク電流値が300A〜1000A、パルス幅が0.5μsの電流パルスを用いて、脆性の高いグラファイト材料やカーボン複合材料を、
図1,
図2に示される薄リブ形状を有する形状に、良好な面質で、なおかつ高効率、高速で加工することは困難であった。
【0007】
特許文献1において、粗加工用の電流パルスを、多孔質で脆性の高いグラファイト材料の加工に適用すると、
図4のように加工表面に0.2mm程度の大きな欠けが生じ、面質の良い製品ができない。なお、
図4は従来条件によるグラファイト材料の加工面写真100である。
図5は
図4の符号102−102の線分上の加工面粗さ104を示すグラフである。
【0008】
また、従来のワイヤ放電加工機により、
図1,
図2に示されるように薄いリブ形状を加工する場合には、
図6に示される加工例のとおり、リブ部が破損し、所望の加工形状を得ることが出来ない。
図6(a)は薄リブ106の割れ107を図示し、
図6(b)は薄リブ110のカケ111を図示している。
図6(a)では、矢印108の方向にワイヤ電極1を薄リブ106に対して相対移動させて薄リブ106の裏面を加工し、矢印109の方向にワイヤ電極1を薄リブ106に対して相対移動させて薄リブ106の表面を加工している。
図6(b)も同様に加工している。矢印112の方向にワイヤ電極1を薄リブ110に対して相対移動させて薄リブ110の裏面を加工し、矢印113の方向にワイヤ電極1を薄リブ110に対して相対移動させて薄リブ110の表面を加工している。
【0009】
特許文献2に開示されるように、セカンドカット法によりこの欠損部分(
図6に示される薄リブの割れ107や薄リブのカケ111)を修正する方法もあるが、薄リブが破損しているような場合、セカンドカット法でも修正することはできなかった。また、薄いリブ形状では、粗加工中にワークにそりが生じてしまい、粗加工で加工した形状が歪む場合が多く、セカンドカット法による加工では歪みの修正が困難な場合が多い。そのため、粗加工で加工を完了する方法がとられている。
【0010】
また、グラファイト材料を加工する場合、加工中にグラファイトが放電の熱により昇華し多量のガスが発生する。そのため、特に板厚の厚い材質がグラファイトからなるワークを加工する際には、この放電箇所に発生するガスにより、加工液による加工部分の冷却、特にワイヤ電極の冷却効果が薄れ、ひいてはワイヤ電極の熱溶断が発生し、いわゆる断線となり加工を継続できなくなる問題があった。
【0011】
そこで本発明は、グラファイト材料またはカーボン複合材料の加工速度を維持しつつ、良質な面粗さと複雑で薄いリブ形状でも破損、カケの無い、グラファイト材料またはカーボン複合材料を加工するワイヤ放電加工機、および、グラファイト材料またはカーボン複合材料を加工するワイヤ放電加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に係る発明は、ワイヤ電極と被加工物の間である極間に電圧を印加して前記被加工物を放電により加工するワイヤ放電加工機において、
複数の直流電源装置と、前記複数の直流電源を切り替える電源電圧切り替え手段と、前記電源電圧切り替え手段により切り替えられた前記直流電源装置から前記極間への放電電流の供給のオンとオフを切り替える電流供給手段と、を含む放電加工用電源装置と、前記放電加工用電源装置に含まれる前記電源電圧切り替え手段と前記電流供給手段を制御し、前記極間に印加する
パルス電圧の大きさとパルス幅を調整し、前記ワイヤ電極へ流れる全放電電流のピーク電流値を30Aから150Aの範囲、電流パルス幅を0.3μsecから6.4μsecの範囲で調整する制御装置と、を備え、前記被加工物の材質がグラファイト材料またはカーボン複合材料である場合、
前記制御装置から前記電源電圧切り替え手段に指令し、前記極間に印加されるパルス電圧および該パルス電圧のパルス幅を調整し、
かつ、前記制御装置から前記電流供給手段に指令し、前記ワイヤ電極へ流れる全放電電流のピーク電流値と、電流パルス幅が前記グラファイト材料またはカーボン複合材料の加工に適するように設定し、
加工電流の立ち上がりを緩やかにし、ピーク電流値を低くし、かつ、電流パルス幅を長くして加工する機能を有することを特徴とするワイヤ放電加工機である。
請求項2に係る発明は、
前記被加工物の材質を入力する材質入力手段
を備え、前記制御装置は、前記材質入力手段により入力された被加工物の材質がグラファイト材料またはカーボン複合材料である場合、前記放電加工用電源装置を前記ピーク電流値の変更範囲および前記電流パルス幅の変更範囲において該ピーク電流値および該電流パルス幅を調整す
ることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工機であ
る。
【0013】
請求項3に係る発明は、ワイヤ電極と被加工物の間である極間に電圧を印加して前記被加工物を放電により加工するワイヤ放電加工機において、複数の直流電源装置と、前記複数の直流電源を切り替える電源電圧切り替え手段と、前記電源電圧切り替え手段により切り替えられた前記直流電源装置から前記極間への放電電流の供給のオンとオフを切り替える電流供給手段と、を含む放電加工用電源装置と、前記放電加工用電源装置に含まれる前記電源電圧切り替え手段と前記電流供給手段を制御し、前記極間に印加するパルス電圧の大きさとパルス幅を調整し、前記ワイヤ電極へ流れる全放電電流のピーク電流値を30Aから150Aの範囲、電流パルス幅を0.3μsecから6.4μsecの範囲で調整する制御装置と、を備えたワイヤ放電加工機を用い、被加工物とワイヤ電極との間に電圧を印加して前記被加工物を加工するワイヤ放電加工機でグラファイト材料またはカーボン複合材料の被加工物を加工する加工方法であって、前記ワイヤ電極へ流れる全放電電流のピーク電流値を30Aから150Aの範囲のいずれかの値、電流パルス幅を0.3μsecから6.4μsecの範囲のいずれかの値とし、加工電流の立ち上がりを緩やかにし、ピーク電流値を低くし、かつ、電流パルス幅を長くして加工を行うことを特徴とするワイヤ放電加工方法である。
請求項4に係る発明は、
ワイヤ電極と被加工物の間である極間に電圧を印加して前記被加工物を放電により加工するワイヤ放電加工機において、複数の直流電源装置と、前記複数の直流電源を切り替える電源電圧切り替え手段と、前記電源電圧切り替え手段により切り替えられた前記直流電源装置から前記極間への放電電流の供給のオンとオフを切り替える電流供給手段と、を含む放電加工用電源装置と、前記放電加工用電源装置に含まれる前記電源電圧切り替え手段と前記電流供給手段を制御し、前記極間に印加するパルス電圧の大きさとパルス幅を調整し、前記ワイヤ電極へ流れる全放電電流のピーク電流値を30Aから150Aの範囲、電流パルス幅を0.3μsecから6.4μsecの範囲で調整する制御装置と、を備えたワイヤ放電加工機を用い、被加工物とワイヤ電極との間に電圧を印加して前記被加工物を加工するワイヤ放電加工機でグラファイト材料またはカーボン複合材料の被加工物を加工する加工方法であって、前記ワイヤ電極へ流れる全放電電流値が、供給開始から90Aまでに到達するまでの時間が1.0μsec以上で、かつピーク電流値を90A〜110Aのいずれかとし、加工電流の立ち上がりを緩やかにし
、ピーク電流値を低くし、かつ、電流パルス幅を長くして加工を行うことを特徴とするワイヤ放電加工方法である。
請求項5に係る発明は、ワイヤ電極と被加工物の間である極間に電圧を印加して前記被加工物を放電により加工するワイヤ放電加工機において、複数の直流電源装置と、前記複数の直流電源を切り替える電源電圧切り替え手段と、前記電源電圧切り替え手段により切り替えられた前記直流電源装置から前記極間への放電電流の供給のオンとオフを切り替える電流供給手段と、を含む放電加工用電源装置と、前記放電加工用電源装置に含まれる前記電源電圧切り替え手段と前記電流供給手段を制御し、前記極間に印加するパルス電圧の大きさとパルス幅を調整し、前記ワイヤ電極へ流れる全放電電流のピーク電流値を30Aから150Aの範囲、電流パルス幅を0.3μsecから6.4μsecの範囲で調整する制御装置と、を備えたワイヤ放電加工機を用い、被加工物とワイヤ電極との間に電圧を印加して前記被加工物を加工するワイヤ放電加工機でグラファイト材料またはカーボン複合材料の被加工物を加工する加工方法であって、加工形状が薄リブ形状でありそのリブ幅を0.4mm以下で加工する際、前記ワイヤ電極へ流れる全放電電流値が、供給開始から40Aまでに到達するまでの時間が1.0μsec以上で、かつピーク電流値を40A〜70Aのいずれかとし、加工電流の立ち上がりを緩やかにし
、ピーク電流値を低くし、かつ、電流パルス幅を長くして加工を行うことを特徴とするワイヤ放電加工方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、グラファイト材料またはカーボン複合材料の加工速度を維持しつつ、良質な面粗さと複雑で薄いリブ形状でも破損、カケの無い、グラファイト材料またはカーボン複合材料を加工するワイヤ放電加工機、および、グラファイト材料またはカーボン複合材料を加工するワイヤ放電加工方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
<本発明の加工原理>
ワイヤ放電加工の加工工程では、ワイヤ電極1と被加工物(ワーク114)との間に放電電流を流し、この放電電流の熱により放電箇所のワーク表面を溶かし、同時に周囲の加工液を気化爆発させることで溶けた材料を吹き飛ばし除去していく工程を高速で繰り返すことでワイヤ電極1の周囲の材料(溶けた金属粉115)を除去し、ワイヤ電極1とワーク114の相対位置を加工経路に沿って移動させることで、所望の形状に溝加工していく(
図7参照)。このため、高硬度の金属材料であっても、切削のような高硬度の工具を使わずとも、黄銅線により加工が可能である。金属材料のワーク114の場合、放電箇所の溶融、爆発除去のみで、グラファイト材料のような加工面に大きな孔やリブ部のカケは生じない。
【0017】
しかし、熱伝導率が高く、多孔質で脆性の高いグラファイト材料のワークの場合、放電加工を行うと、放電箇所において、熱により加工表面のグラファイトを昇華、すなわちガス化させると共に、材料内部に入り込んでいる加工液まで高熱が瞬時に伝わり、材料内部の加工液をも簡単に気化(100℃で沸騰)させてしまい、内部での気化爆発により材料を破壊してしまうことが判明した(
図8参照)。
【0018】
この放電による材料内部での気化爆発のエネルギーは、放電電流パルスのピーク値とピーク値に達するまでの時間に関連があることを実験で観察出来た。すなわち、
図3に示される電流の立ち上がりが急峻でピーク電流が高い電流パルス波形では、
図8の放電原理図のように、電流パルス波形と同じような形で、加工表面の狭い範囲で深くグラファイト116を昇華させ、さらには熱伝導率が高く多孔質である材料の表面から0.5mm程度内部にまで入り込んでいる加工液を高温に熱し、内部の加工液をも気化爆発させてしまい気泡117が発生し、加工表面の孔や薄いリブ形状のカケ118、破損を生じさせる。
【0019】
そこで、ワイヤ電極1とグラファイト材料またはカーボン複合材料からなるワークとの極間に、
図9に示すとおり、加工電流の立ちあがりを緩やかにし、なおかつピーク電流を低くし、その代わり、電流を流す時間、すなわち電流パルス幅を長くした電流パルス波形を用いることで、
図10に示す放電原理図のように、電流パルス波形と同じような形で内部の加工液までは気化爆発させず、加工表面の広範囲を熱し続け浅く広く放電によりグラファイト116を昇華や燃焼させ、加工効率を大幅に下げることなく、加工表面の滑らかな、そして薄いリブでも破損、カケの無い形状を得ることが出来た。
<ワイヤ放電加工機本体の構成>
図11は、本発明が適用されるワイヤ放電加工機本体30の概略構成図である。ワイヤ電極1が巻かれたワイヤボビン11は、送り出し部トルクモータ10で、ワイヤ電極1の引き出し方向とは逆方向に指令された所定低トルクが付与される。ワイヤボビン11から繰り出されたワイヤ電極1は、複数のガイドローラを経由し(図示せず)、ブレーキモータ12により駆動されるブレーキシュー13により、ブレーキシュー13とワイヤ電極送りモータ(図示せず)で駆動されるフィードローラ19の間の張力が調節される。
【0020】
ブレーキシュー13を通過したワイヤ電極1は、上ワイヤガイド14、下ワイヤガイド15、下ガイドローラ16を経由し、ピンチローラ18とワイヤ電極送りモータ(図示せず)で駆動されるフィードローラ19で挟まれ、ワイヤ電極回収箱17に回収される。グラファイト材料またはカーボン複合材料からなるワーク2(図示せず)は、テーブル(図示せず)に載置され、加工槽3内の上ワイヤガイド14と下ワイヤガイド15の間に配設され、ワイヤ電極1とワーク2とを相対移動させて放電加工される。
【0021】
ワイヤ放電加工機本体30は、
図12に示される制御装置50によって制御され、制御装置50は、プロセッサ(CPU)51、RAM、ROMなどのメモリ52、表示用インタフェース53、表示装置54、キーボードインタフェース55、キーボード56、サーボインタフェース57、サーボアンプ58、そして、前記各要素はバス60を介して相互に接続されている。30はワイヤ放電加工機本体であり、加工用電源装置も含まれている。本発明の実施形態であるワイヤ放電加工機では、例えば、キーボード56を用いて、被加工物の材質を入力し、入力された材質のデータはメモリ52に格納することができる。メモリ52に格納された被加工物のデータが、グラファイト材料あるいはカーボン複合材料である場合には、加工用電源装置20(
図13参照)を制御し、本発明に係る加工方法によって、前記グラファイト材料あるいはカーボン複合材料の加工が実行される。
【0022】
ワイヤ放電加工機本体30の各軸のサーボモータ31はサーボアンプ58によって駆動される。加工用電源装置20を含むワイヤ放電加工機本体30は、インタフェース59を介して制御される。加工プログラムを実行することによりワーク2の加工をスタートすると、インタフェース59を介して加工用電源装置20を制御する電源電圧切り替え回路32へ電源電圧の切り替えスイッチの開閉と電流供給スイッチの開閉のための制御指令も出力される。
<加工用電源装置>
本発明にかかる電流波形を作り出す加工用電源装置20の一例を、
図13を用いて説明する。本発明に実施形態では、加工用電源装置20は、極間に印加する電圧を金属材料を加工する場合の電圧より低い電圧を供給する。加工用電源装置20は、ワイヤ電極1とワーク2の極間に放電電流を供給する放電電源である直流電源VM1〜VM5と、電源電圧切り替えスイッチSW1〜SW5と、ワイヤ電極1とワーク2との極間に放電電流を供給するためのスイッチ素子SW6及びスイッチ素SW7と、制御装置50からの指令に従い電源電圧切り替えスイッチSW1〜SW5のオン・オフ制御と、スイッチ素子SW6,スイッチSW7のオン・オフ制御を行う電源電圧切り替え回路32、とを備え放電回路を構成している。なお、以下の説明では、SW1,SW2,・・・,SW7のスイッチをそれぞれ、第1スイッチ,第2スイッチ,・・・,第7スイッチと称する。
【0023】
前記放電回路においては、例えば、放電電源VMn(nは1〜5)の一方の電極端子からワーク2の接地端子の方向にダイオードD1が接続され、加工用ワイヤ電極1から放電電源VMの他方の電極端子の方向にダイオードD2が接続され、クロス方式の電源が構成されている。このスイッチ素子SW6,SW7の開閉は、制御装置50からの指令に従って行われる。コイル4は誘導エネルギーを貯めるための素子である。
【0024】
放電電流の立ち上がりの傾きを変更するため、複数の直流電源“VM1〜VM5”を用意し、それぞれに対応する切り替えスイッチ“SW1〜SW5”を切り替えればよい。例えば、第1電源電圧VM1は40(V),第2電源電圧VM2は20(V),第3電源電圧VM3は20(V),第4電源電圧VM4は20(V),第5電源電圧VM5は20(V)とすることができる。第1スイッチSW1をオンすれば加工用電源電圧は第1電源電圧VM1の40(V)が選択される。第2スイッチSW2をオンすればVM1とVM2を加算した60(V)が加工用電源電圧となる。以下、同様である。また、放電電流のピーク値に達するまでのパルス幅は、設定パルス幅の時間分、電源回路のON時間スイッチ(電流供給スイッチ)である第6,第7スイッチ“SW6,SW7”を接続状態にすればよい。
【0025】
図14は電源電圧を切り替えた場合の電流波形の変化を説明する図である。なお、
図14に示される内容は一例である。
図14(a)に示される信号によって電流供給スイッチ(SW6,SW7)がオン・オフ制御される。
図14(b)に示されるように、電源電圧(VM4=100(V)),電流供給スイッチ(SW6,SW7)のON時間=1.0μsの場合には、ピーク電流値は100(A)である。
図14(c)に示されるように、電源電圧(VM4=100(V)),電流供給スイッチ(SW6,SW7)のON時間=2.0μsの場合には、ピーク電流値は150(A)である。
図14(d)に示されるように、電源電圧(VM2=60(V)),電流供給スイッチ(SW6,SW7)のON時間=2.0μsの場合には、ピーク電流値は100(A)である。
図14に示されるように、放電電流の立ち上がりの傾きを変更するには、直流電源“VM1〜VM5”を切り替え、それぞれに対応する切り替えスイッチ“SW1〜SW5”を切り替えればよい。
図14に示されるように、電流供給スイッチ(SW6,SW7)のオンからオフに切り替わる時点で、放電電流はピーク電流値をとる。なお、パルス幅は
図9に示されるように、放電電流の立ち上がりからピーク電流値をとるまでの区間の長さである。
<実施例>
次に、上記のワイヤ放電加工機(制御装置50によって制御されるワイヤ放電加工機本体30)を用いて、グラファイト材料を加工した実施例を説明する。
(1)グラファイト材料のワーク2を直接もしくは固定ジグ(図示せず)を介してワイヤ放電加工機本体30の加工槽3内に配置されたテーブル(図示せず)上に固定する。
(2)加工条件のうち、表面品質およびカケ、割れに影響のある放電電流パルス波形を、例えば、ピーク電流値=30A〜150Aの中から、電流パルス幅=0.3〜6.4μsecの中から選び、表面粗さおよび、最小リブ幅に対してカケが発生しない設定を選び、最後に休止時間を断線が発生しない程度に延ばす。
(3)ここでピーク電流値は、放電電流の最大到達電流値を意味し、
図9で言うところの三角形波形の頂点となる。
(4)電流パルス幅とは、加工用電源装置20の電流供給スイッチ(SW6,SW7)をONにして電流をワイヤ電極1とワーク2の極間に供給し始めてから、ピーク電流値に達するまでの時間を指し、実際には、電源回路のスイッチ(SW6,SW7)をOFFにした時点で、それ以上電流が増えないため、この点がピーク電流に到達したことになる。
(5)具体的に上記(2)で加工条件を決める1例としては、電源電圧を出来るだけ低く設定し、予め電源回路のON時間を、放電中の電流が所望のピーク電流値が超えない程度に小さめに設定しておき、徐々にON時間を長くして所望のピーク電流値に近づける。
(6)この加工結果を観察し、ワークに破損、カケ、孔が生じないことを確認した後、加工速度を向上させるため、電源電圧を次に大きい設定に切り替え、上記(5)を繰り返す。
(7)ピーク電流値を30〜150Aに調整するには、例えば、本実施例の加工用電源装置(
図13参照)では、加工に用いる電源電圧を30V〜150V程度とすることで調整が出来る。
(8)ピーク電流値とパルス幅は、グラファイトまたはカーボン複合材料からなるワークの板厚、材質(脆性、緻密性)、加工形状(リブ幅)、所望の面粗さによって決めることができる。
(9)当然、ピーク電流値が小さいほうが面粗さは良いが、ピーク電流が小さくなるに従い、加工速度が極端に低下してしまうため、例えば、ワーク板厚150mmで、リブ幅0.6mmの形状を加工するには、ピーク電流値=100A、パルス幅1.2μsec程度が面粗さと加工速度を両立できる最適設定値であった。
(10)加工例では、従来条件では、加工速度=0.4mm/minで断線が頻発していたが、本発明の実施形態では、加工速度0.35mm/minで断線も無く最後まで加工を継続することが出来た。
(11)さらに、リブ幅の小さい形状を加工した結果では、ワーク板厚150mmで、リブ幅0.3mmの形状を加工するには、ピーク電流値=50A、パルス幅1.2μsec程度が面粗さと加工速度を両立できる最適設定値であった。
<発明の効果>
本発明により、従来方式によるワイヤ放電加工機ではこれまで加工困難とされてきた
図1,
図2の形状が高速かつ高品位に加工できるようになった。
図4,
図5は、従来の加工面の拡大写真と面粗さ、
図15,
図16は、本発明による加工面の写真と面粗さで、大幅な向上が確認できた。
【0026】
従来の加工条件設定では、ピーク電流波形が、
図17の通り、0.6μ秒の間に280Aまで急激に立ち上がっており、この衝撃的な電流の流れが、加工液を含んだ深層部までを過熱し加工液の気化爆発を起こし、割れ、カケを生じていた。
【0027】
本発明の加工条件設定では、
図18の通り、ピーク電流の立ち上がりを緩やかにした従来の2倍の時間の1.2μ秒の間にピーク電流が従来の約1/3の100Aまで立上る電流では、被加工物の深層部の気化爆発を起こさず、
図19の例のとおり、板厚150mmのグラファイト材料を、割れ、カケを生じることなく、わずか0.6mm幅の薄いリブ形状に加工することが出来た。
図19(a)は加工例の外観斜視図であり、
図19(b)は正面図である。
【0028】
また、
図20に示す、板厚150mmで、さらに薄い0.3mm幅のリブ形状については、
図21のとおり、さらに電流の立ち上がりを緩やかにするため、立ち上がり時間が同じ1.2μ秒の間に、ピーク電流を従来の1/6の50Aまで立上る設定とすることで、割れ、カケの無い加工を可能とした。ただし、
図21に示されるように電流の立ち上がりを緩やかにした場合、電流エネルギーが低くなるため、前記0.6mm幅の薄リブを加工する加工速度に比べ約1/2の加工速度になってしまう。
図20(a)は加工例の外観斜視図、
図20(b)は正面図、
図20(c)は符号126で示される破線内を拡大した図、
図20(d)は符号128で示される破線内を拡大した図である。
【0029】
図22は電源電圧とピーク電流に依る加工可能範囲を説明するグラフである。
図22では、グラファイト0.6mm幅のリブ加工可能範囲を例示している。この図に示されるように、ピーク電流値は30A〜150Aを用いることでグラファイト0.6mm幅リブを破壊することがない。なお、
図22に示されるように従来の加工電流はピーク電流値が300A〜600Aであり、本発明におけるピーク電流値より遙かに高いピーク電流値が設定されている。また、
図23はピーク電流値が100Aの場合におけるON時間と電源電圧の関係を説明するグラフである。ピーク電流値100Aに達するまでの時間は電源電圧が高いほど短くなる。
【0030】
図22,
図23に例示したように、加工条件のうち、表面品質およびカケ、割れに影響のある放電電流パルス波形を、例えば、ピーク電流値=30A〜150Aの中から、電流パルス幅=0.3〜6.4μsecの中から選び、表面粗さおよび、最小リブ幅に対してカケが発生しない設定値を選ぶ。これによって、グラファイト材料やカーボン複合材料からなるワークを、産業上の利用に適した面質と加工速度を達成することができる。そして、最後に休止時間を断線が発生しない程度に延ばすことで、最適な、ピーク電流値、電流パルス幅、休止時間を設定することができる。
【0031】
そして、ワーク2とワイヤ電極1との間に電圧を印加してワーク2を加工するワイヤ放電加工機でグラファイト材料またはカーボン複合材料のワーク2を加工する際に、ワイヤ電極1へ流れる全放電電流値が、供給開始から90Aまでに到達するまでの時間が1.0μsec以上で、かつピーク電流値を90A〜110Aのいずれかで加工を行えるように、加工用電源電圧を選択することで、良質な面質と加工速度を得ることができる。
【0032】
また、ワーク2とワイヤ電極1との間に電圧を印加してワーク2を加工するワイヤ放電加工機でグラファイト材料またはカーボン複合材料の被加工物を加工する際に、加工形状が薄リブ形状でありそのリブ幅を0.4mm以下で加工する際、ワイヤ電極1へ流れる全放電電流値が、供給開始から40Aまでに到達するまでの時間が1.0μsec以上で、かつピーク電流値を40A〜70Aのいずれかで加工することで、良質な面質と加工速度を得ることができる。
【0033】
なお、加工形状によっては、薄いリブ形状と厚いカベ部分とが混在する
図24,
図25のような場合がある。この場合、薄いリブ形状部分に合わせて、ピーク電流値の低い
図21のような電流波形のみを使うよりは、割れ、カケの心配の無い厚い壁部で
図18のような加工速度が2倍の電流設定を用いるほうが、加工効率が高い。
【0034】
このため、
図14に示すように、加工形状の加工箇所によって、割れ、カケの心配がなく、加工速度重視でより大きなエネルギーが必要な場合、電源電圧を固定しON時間を延ばすことで加工表面のダメージは増えるがピーク電流値を高め大きなエネルギーを出力する手法や、加工速度最優先の為に更に大きなエネルギーを必要とする場合には、電源電圧も合わせて大きくする手法と、加工面質優先の為に電源電圧を下げて、ON時間を延ばしてピーク電流は同じとして加工表面のダメージを増やさず全体のエネルギーを多くする手法がある。
【0035】
加工形状に応じて、電流エネルギーを変更するには、加工プログラム中に変更が必要な各形状部分にエネルギー設定(加工条件)を変更する指令を追加する方法がある。また、シャープエッジコーナのような形状の場合、コーナ部での頂点に到達した際に得られる頂点到達信号と次ブロックとの接合角度より、シャープエッジと判定することで、エネルギーを弱くしエッジのカケを少なくする方法がある。このように、形状に応じて放電エネルギーを瞬時に最適に変化させる必要があり、
図13のような電源装置が必要となる。