特許第5778655号(P5778655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5778655ヒト巨核球形成間のマイクロRNAフィンガープリント
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778655
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】ヒト巨核球形成間のマイクロRNAフィンガープリント
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20150827BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20150827BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20150827BHJP
【FI】
   C12Q1/68 AZNA
   G01N33/50 P
   !C12N15/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】71
(21)【出願番号】特願2012-284018(P2012-284018)
(22)【出願日】2012年12月27日
(62)【分割の表示】特願2009-501495(P2009-501495)の分割
【原出願日】2007年3月19日
(65)【公開番号】特開2013-121348(P2013-121348A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2013年1月25日
(31)【優先権主張番号】60/743,585
(32)【優先日】2006年3月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593172050
【氏名又は名称】ジ・オハイオ・ステイト・ユニバーシティ・リサーチ・ファウンデイション
【氏名又は名称原語表記】THE OHIO STATE UNIVERSITY RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100092967
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 修
(74)【代理人】
【識別番号】100128750
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 しのぶ
(72)【発明者】
【氏名】クローチェ,カーロ・エム
(72)【発明者】
【氏名】ガルゾン,ラミロ
(72)【発明者】
【氏名】キャリン,ジョージ・エイ
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/113749(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/118806(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/078139(WO,A1)
【文献】 Genes,Chromosomes & Cancer,2004年,Vol.39,p.167-169
【文献】 Genes,Chromosomes & Cancer ,2006年 2月,Vol.45,p.147-153
【文献】 Eric R. LECHMAN et al.,MicroRNA Expression Profiling in Sorted AML Subpopulations:A Possible Role for miR-155/BOC in Stem Cell Maintenance and Leukemogenesis.,Blood,2005年,Vol.106,Abstract 466,[online],[retrieved on 2 February 2007],Retrived from the Internet:<http://abstracts.hematologylibrary.org/cgi/content/short/106/11/466>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12N 15/00−15/90
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/CAPlus(STN)
DDBJ/PDB/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の急性巨核芽球性白血病の検出を補助する方法であって、以下:
i)対象からの血液サンプル中のmiR−155、let−7c、let−7d、およびmiR−148遺伝子産物のレベルをCD34分化巨核球の対照と比較すること;及び
ii)当該miR−155、let−7c、let−7d、およびmiR−148遺伝子産物のレベルが、対照と比較してサンプルにおいて低い場合は、急性巨核芽球性白血病を検出すること;
を含む、前記方法。
【請求項2】
対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、以下:
i)対象からの血液サンプル中の少なくとも一つの追加のmiR遺伝子産物のレベルをCD34分化巨核球の対照と比較すること、ここで、当該少なくとも一つの追加のmiR遺伝子産物は、以下:miR−101、miR−126、miR−99a、miR−99−prec、miR−106、miR−339、miR−99b、miR−149、miR−33、miR−135及びmiR−20から成る群より選択される;及び
ii)当該少なくとも一つの追加のmiR遺伝子産物のレベルが、対照と比較してサンプルにおいて高い場合は、急性巨核芽球性白血病を検出すること;
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
さらに、以下:
i)対象からの血液サンプル中のmiR−140遺伝子産物のレベルをCD34分化巨核球の対照と比較すること;及び
ii)当該miR−140遺伝子産物のレベルが、対照と比較してサンプルにおいて低い場合は、急性巨核芽球性白血病を検出すること;
を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願
この出願は、その開示が本明細書において援用される、2006年3月20日に出願された米国仮出願番号60/743,585 の優先権を主張する。
【0002】
連邦委託研究に関する記載
本発明は、全体が又は部分的に、National Institutes of Health Program Project Grants PO1CA76259, PO1CA16058, PO1CA81534 及び P01CA16672 により支援された。政府は本発明に特定の権利を有する。
【0003】
背景技術
マイクロRNA(miRNA)は、配列特異的様式でメッセンジャーRNA(mRNA)を標的化すること、miRNA及びそれらの標的間の相補性に依存して翻訳抑制又はmRNA分解を誘導することにより遺伝子発現を調節する19〜25ヌクレオチドRNAの小さな非翻訳ファミリーである(Bartel, D.P. (2004) Cell 116, 281-297; Ambros, V. (2004) Nature 431, 350-355 )。多くのmiRNAは、遠い関係の生物体間でも保存さ
れており、これらの分子が基本的なプロセスに関与していることを示唆している。実際、miRNAは、発生(Xu, P., et al. (2003) Curr. Biol. 13, 790-795)、細胞増殖(Xu, P., et al. (2003) Curr. Biol 13, 790-795 )、アポトーシス(Cheng, A.M., et al
(2005) Nucl. Acids Res. 33, 1290-1297 )、グルコース代謝(Poy, M.N., et al. (2004) Nature 432, 226-230 )、ストレス抵抗性(Dresios, J., et al. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 1865-1870 )、及び癌(Calin, G.A, et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 1554-15529; Calin, G.A., et al. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 11755-11760; He, L., et al. (2005) Nature 435, 828-833; 及びLu, J., et al. (2005) Nature 435:834-838 )の間の遺伝子発現の調節に関与している。
【0004】
miRNAが哺乳動物造血に役割を果たしていることに有力な証拠もある。マウスにおいて、miR−181、miR−223及びmiR−142は造血組織で異なって発現され、それらの発現は造血及び分化系列決定間に調節されている(Chen, C.Z., et al. (2004) Science 303, 83-86 )。マウス造血前駆細胞におけるmiR−181の異所性発現
は、B細胞コンパートメントにおける増殖を導いた(Chen, C.Z., et al. (2004) Science 303, 83-86 )。マウス造血系の細胞における系統的miRNA遺伝子プロファイリン
グは、造血系における神経細胞組織と比較して異なったmiRNA発現パターンを明らかにし、そして細胞分化の間に起こる個々のmiRNA発現変化を同定した(Monticelli, S., et al. (2005) Genome Biology 6, R71 )。最近の研究は、CD34臍帯血前駆体細胞のヒト赤血球新生培養における、miR−221及びmiR−222の下方変調を同定した(Felli, N., et al. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 102, 18081-18086 )。これらのmiRNAは、癌遺伝子c−Kitを標的としていることが発見された。さらなる機能的研究は、赤血球新生培養におけるこれら2つのmiRNAの減少が翻訳レベルでKitタンパク質産生を阻止せず、初期赤血球細胞の増殖を導いていることを示した(Felli, N., et al (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 102, 18081-18086 )。miR
NAが細胞分化を調節するという仮説と一致して、miR−223は、オールトランスレチノイン酸処理急性前骨髄球性白血病細胞株における顆粒球分化を制御する、C/EBPa及びNFI−Aを含んでいる調節回路の鍵となるメンバーであることが観察された(Fazi, F., et al. (2005) Cell 123, 819-831 )。
【0005】
miRNAは、造血器腫瘍において調節解除されていることも観察されている。実際、
miRNA及び癌を結びつけている最初の報告は、慢性リンパ性白血病において一般に欠失された領域、染色体13ql4.3に位置するmiR−15a及びmiR−16−1クラスターの欠失及び下方調節を含んでいた(Calin, G.A, et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 1554-15529 )。miR−155及び宿主遺伝子BICの高発現はB細胞リンパ腫においても報告されている(Metzler M., et al. (2004) Genes Chromosomes and Cancer 39; 167-169 )。より最近になって、リンパ腫における増幅のゲノム領域に
位置しているmiR−17−92クラスターが、ヒトB細胞リンパ腫で過剰発現されており、及びこのクラスターの強制された発現がc−MYC発現に呼応して作用して、マウスB細胞リンパ腫モデルにおける腫瘍発生を促進した(He, L., et al. (2005) Nature 435, 828-833 )。これらの観察は、miRNAが造血の重要な調節因子であり、及び悪性形質転換に関与し得ることを示している。
【0006】
血小板は止血及び血栓症に本質的な役割を果たしている。それらは大量にそれらの親細胞、骨髄巨核球から生成され、細胞質の断片化により生じる。ごく最近になって、何が血小板産生に影響する関連障害の大きなファミリーになるかについての分子基盤が明らかにされ始めた。もし循環血小板のレベルが特定の数字より低下すれば(血小板減少症)、患者は破局的出血のリスクがある。化学療法又は骨髄移植を受けたことがある癌の患者は、通常血小板減少症を有し、これらの患者における血小板数のゆっくりとした回復が関心事であった。輸血のための血小板ユニットに対する要求は、主として、癌を有する患者又は大きな心臓手術を受けている患者において、特定の血小板レベルを維持する必要があるため、着実に増加してきた。
【0007】
癌細胞(例えば、白血病細胞)で異なって発現されているマイクロRNAの同定は、癌及び他の障害(例えば、血小板障害)に関与するピンポイント特異的miRNAを助けることができる。さらに、これらのmiRNAの推定標的の同定は、それらの病原性における役割を解明する助けとなるであろう。特に、血球分化の間の、miRNA発現のパターン及び配列を発見することは、正常及び悪性造血におけるこれらの小さな非翻訳遺伝子の機能的役割についての洞察を提供することができる。
【0008】
癌、骨髄増殖性障害及び血小板障害(例えば、遺伝性血小板障害)の診断、予後判定及び治療のための新規方法及び組成物に対する要求がある。
【0009】
発明の要旨
本発明は、部分的に、巨核球分化に関与し、及び/又は癌性細胞中で(例えば、急性巨核芽球性白血病(AMKL細胞株)中で)改変された発現を有する特異的miRNAの同定に基づく。本研究において、骨髄CD34前駆体及び急性巨核芽球性白血病細胞株からのヒト巨核球培養物における該miRNA遺伝子発現が調べられた。この分析の結果は、いくつかのmiRNAが正常巨核球分化の間に下方調節されていることを示している。該結果はさらに、これらのmiRNAは巨核球形成に関与する遺伝子を標的とし、一方、他は癌細胞中で過剰発現されていることも示している。
【0010】
従って、本発明は、対象(例えば、ヒト)における癌及び/又は骨髄増殖性障害を診断する又は予後判定する方法を包含する。本発明の方法に従うと、対象からの試験サンプル中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルが対照サンプル中の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較される。試験サンプル中のmiR遺伝子産物のレベルの変化(例えば、増加、減少)は(該対照サンプル中の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較して)、対象が癌及び/又は骨髄増殖性障害を有していること、又は発生するリスクがあることを示す。一つの態様において、対象からの試験サンプル中のmiR遺伝子産物のレベルは対照のレベルよりも高い。別の態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−101、miR−126、miR−99a、miR−99−prec、miR−
106、miR−339、miR−99b、miR−149、miR−33、miR−135及びmiR−20から成る群より選択される。さらに別の態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−101、miR−126、miR−106、miR−20及びmiR−135から成る群より選択される。さらに別の態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−106、miR−20及びmiR−135から成る群より選択される。特定の態様において、診断される又は予後判定される癌は、白血病(例えば、急性骨髄性白血病(例えば、急性巨核芽球性白血病))又は多発性骨髄腫である。他の態様において、骨髄増殖性障害は、本態性血小板血症(ET)、真性赤血球増加症(PV)、骨髄形成異常、骨髄線維症(例えば、原発性骨髄線維症(AMM)(特発
性骨髄線維症とも称される))、及び慢性骨髄性白血病(CML)から成る群より選択される。
【0011】
別の態様において、本発明は対象(例えば、ヒト)における、癌及び/又は骨髄増殖性障害を治療する方法である。該方法において、miR−101、miR−126、miR−99a、miR−99−prec、miR−106、miR−339、miR−99b、miR−149、miR−33、miR−135及びmiR−20から成る群より選択される、少なくとも一つのmiR遺伝子産物の発現を抑制するための化合物の有効量が該対象に投与される。一つの態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物の発現を抑制するための化合物は、miR−101、miR−126、miR−106、miR−20及びmiR−135から成る群より選択されるmiR遺伝子産物の発現を抑制する。別の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物の発現を抑制するための化合物は、miR−106、miR−20及びmiR−135から成る群より選択されるmiR遺伝子産物の発現を抑制する。特定の態様において、治療される癌は、白血病(例えば、急性骨髄性白血病(例えば、急性巨核芽球性白血病))又は多発性骨髄腫である。他の態様において、骨髄増殖性障害は、本態性血小板血症(ET)、真性赤血球増加症(PV)、骨髄形成異常、骨髄線維症(例えば、原発性骨髄線維症(AMM))、及び慢性骨髄性白血病(CML)から成る群より選択される。
【0012】
別の態様において、本発明は、対象(例えば、ヒト)におけるMAFB遺伝子産物の過剰発現に関連する癌及び/又は骨髄増殖性障害を治療する方法である。本方法において、MAFB遺伝子産物に結合する、又はその発現を減少させる、少なくとも一つのmiR遺伝子産物又は変異体又はそれらの生物学的に活性な断片の有効量が該対象に投与される。一つの態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物、変異体又はそれらの生物学的に活性な断片は、MAFB遺伝子産物中のヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含んでなる。別の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−130a又は変異体又はそれらの生物学的に活性な断片である。この方法を使用する治療に適した癌及び骨髄増殖性障害には、例えば、本明細書に記載されたものが含まれる。
【0013】
別の態様において、本発明は、対象(例えば、ヒト)におけるHOXA1遺伝子産物の過剰発現に関連する癌及び/又は骨髄増殖性障害を治療する方法である。本方法において、HOXA1遺伝子産物に結合する、又はその発現を減少させる、少なくとも一つのmiR遺伝子産物又は変異体又はそれらの生物学的に活性な断片の有効量が該対象に投与される。一つの態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物、変異体又はそれらの生物学的に活性な断片は、HOXA1遺伝子産物中のヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含んでなる。別の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−10a又は変異体又はそれらの生物学的に活性な断片である。この方法を使用する治療に適した癌及び骨髄増殖性障害には、例えば、本明細書に記載されたものが含まれる。
【0014】
一つの態様において、本発明は、巨核球分化を決定する及び/又は予測する方法である
。この方法において、巨核球子孫及び/又は巨核球を含んでなるサンプル(例えば、対象(例えば、ヒト)からのサンプル)中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルが決定される。そのレベルは、対照中の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較される。試験サンプル中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルの変化は(該対照のレベルと比較して)、巨核球分化を示す。一つの態様において、該変化は、該サンプル中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルの減少である。別の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−10a、miR−126、miR−106、miR−010b、miR−130a、miR−130a−prec、miR−124a、miR−032−prec、miR−101、miR−30c、miR−213、miR−132−prec、miR−150、miR−020、miR−339、let−7a、let−7d、miR−181c、miR−181b及びmiR−017から成る群より選択される。さらに別の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−10a、miR−10b、miR−30c、miR−106、miR−126、miR−130a、miR−132、及びmiR−143から成る群より選択される。
【0015】
本発明はさらに、癌及び/又は骨髄増殖性障害を治療するための医薬組成物を提供する。一つの態様において、本発明の医薬組成物は、少なくとも一つのmiR発現抑制化合物及び薬学的に許容できる坦体を含んでなる。特定の態様において、該少なくとも一つのmiR発現抑制化合物は、その発現が対照細胞よりも癌細胞(例えば、急性巨核芽球性白血病(AMKL)細胞)でより多い(即ち、上方調節されている)miR遺伝子産物に特異的である。一つの態様において、該miR発現抑制化合物は、miR−101、miR−126、miR−99a、miR−99−prec、miR−106、miR−339、miR−99b、miR−149、miR−33、miR−135及びmiR−20から成る群より選択される一つ又はそれより多くのmiR遺伝子産物に特異的である。別の態様において、該miR発現抑制化合物は、miR−101、miR−126、miR−106、miR−20及びmiR−135から成る群より選択される一つ又はそれより多くのmiR遺伝子産物に特異的である。さらに別の態様において、該miR発現抑制化合物は、miR−106、miR−20及びmiR−135から成る群より選択さる一つ又はそれより多くのmiR遺伝子産物に特異的である。さらに別の態様において、該医薬組成物は少なくとも一つの抗癌剤をさらに含んいる。
【0016】
一つの態様において、本発明は、MAFB遺伝子産物の過剰発現に関連する癌及び/又はMAFB遺伝子産物の過剰発現に関連する骨髄増殖性障害を治療するための医薬組成物である。こうした医薬組成物は、少なくとも一つのmiR遺伝子産物の有効量及び薬学的に許容できる坦体を含んでなり、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、MAFB遺伝子産物に結合し、及びその発現を減少させる。別の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、MAFB遺伝子産物中のヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含んでなる。さらに別の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−130a又は変異体又はそれらの生物学的に活性な断片である。さらに別の態様において、該医薬組成物は、少なくとも一つの抗癌剤をさらに含んでなる。
【0017】
一つの態様において、本発明は、HOXA1遺伝子産物の過剰発現に関連する癌及び/又はHOXA1遺伝子産物の過剰発現に関連する骨髄増殖性障害を治療するための医薬組成物である。こうした医薬組成物は、少なくとも一つのmiR遺伝子産物の有効量及び薬学的に許容できる坦体を含んでなり、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、HOXA1遺伝子産物に結合し、及びその発現を減少させる。別の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、HOXA1遺伝子産物中のヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含んでなる。さらに別の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−10a又は変異体又はそれらの生物学的に活性な断片である。さらに別の態様において、該医薬組成物は、少なくとも一つの抗癌剤をさらに含んでなる。
【0018】
この発明の多様な目的及び利点は、添付図面を照らし合わせて読むならば、以下の好ましい態様の詳細な説明から、当業者には明らかになるであろう。
【0019】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は、部分的に、巨核球分化に関与し及び/又は癌性細胞中で(例えば、急性巨核芽球性白血病(AMKL細胞株)中で)改変された発現レベルを有する特異的マイクロRNA(miRNA)の同定に基づいている。本発明はさらに、部分的に、これらのmiRNAと特定の診断、予後及び療法的特色との関連に基づいている。本明細書に記載され及び例示されているように:
i)特定のmiRNAは、巨核球分化の間に下方調節され;
ii)転写因子MAFBは、miR−130aの標的であり;
iii)miR−10a発現は、HOXB遺伝子発現と平行し;
iv)miR−10aは、HOXA1発現を下方調節し;及び
v)特定のmiRNAは、癌性細胞(例えば、急性巨核芽球性白血病(AMKL)細胞)中で上方調節される。
【0020】
本明細書において相互交換的に使用される、「miR遺伝子産物」、「マイクロRNA」、「miR」又は「miRNA」とは、プロセッシングされていない又はプロセッシングされたmiR遺伝子からのRNA転写体を指す。miR遺伝子産物はタンパク質に翻訳されないので、用語「miR遺伝子産物」はタンパク質を含んでいない。プロセッシングされていないmiR遺伝子転写体は「miR前駆体」とも称され、そして典型的には約70〜100ヌクレオチド長のRNA転写体を含んでなる。miR前駆体は、RNAse(例えば、ダイサー、アルゴノート又はRNAse III、例えば、大腸菌RNAse III)での消化により、活性19〜25ヌクレオチドRNA分子にプロセッシングし得る。この活性19〜25ヌクレオチドRNA分子は、「プロセッシングされた」miR遺伝子転写体又は「成熟」miRNAとも称される。
【0021】
活性19〜25ヌクレオチドRNA分子は、天然のプロセッシング経路(例えば、無傷の細胞又は細胞溶解物を使用して)を介して、又は合成プロセッシング経路(例えば、ダイサー、アルゴノート又はRNAase IIIのような単離されたプロセッシング酵素を使用して)によりmiR前駆体から得ることが可能である。活性19〜25ヌクレオチドRNA分子は、miR前駆体からプロセッシングされることなく、生物学的に又は化学合成により直接的に生成し得ることも理解されている。マイクロRNAが名称により本明細書で参照される場合、特に示されない限り、該名称は前駆体及び成熟形の両方に対応する。
【0022】
表1a及び1bは特定の前駆体及び成熟ヒトマイクロRNAのヌクレオチド配列を示している。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
【表5】
【0028】
【表6】
【0029】
【表7】
【0030】
【表8】
【0031】
【表9】
【0032】
【表10】
【0033】
【表11】
【0034】
【表12】
【0035】
【表13】
【0036】
【表14】
【0037】
【表15】
【0038】
【表16】
【0039】
【表17】
【0040】
【表18】
【0041】
【表19】
【0042】
【表20】
【0043】
【表21】
【0044】
【表22】
【0045】
【表23】
【0046】
【表24】
【0047】
【表25】
【0048】
【表26】
【0049】
【表27】
【0050】
【表28】
【0051】
【表29】
【0052】
本発明は、対象が癌及び/又は骨髄増殖性障害を有する、又は生じる危険性があるかどうかを診断する又は予後判定する方法を包含する。該方法は、対象からのサンプル中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを決定すること、及びサンプル中のmiR遺伝子産物のレベルを対照と比較することを含んでなる。本明細書で使用される「対象」は、癌及び/又は骨髄増殖性障害を有している、又は有していると疑われるいずれの哺乳類でもあり得る。好ましい態様において、該対象は癌、骨髄増殖性障害及び/又は血小板障害を有している、又は有していると疑われるヒトである。
【0053】
少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対象から得られた生物学的サンプルの細胞中で測定し得る。例えば、組織サンプルは、慣用的生検技術により、癌及び/又は骨髄増殖性障害を有していると疑われる対象から、取り出し得る。別の例において、血液試料を対象から取り出すことが可能であり、そして標準技術によりDNA抽出のために白血球細胞を単離し得る。一つの態様において、血液又は組織サンプルは、放射線療法、化学療法及びホルモン療法又は他の療法的治療に先立って対象から得られる。対応する対照組織又は血液サンプル、又は対照基準サンプル(例えば、対照サンプルの集団から得られる)は、対象の罹患していない組織から、正常ヒト個体又は正常個体の集団から、又は患者のサンプル中の大多数の細胞に対応している培養細胞から得ることが可能である。対照組織又は血液サンプルは次ぎに、対象のサンプルからの細胞における所与のmiR遺伝子から産生されたmiR遺伝子産物のレベルを、対照サンプルの細胞からの対応するmiR遺伝子産物レベルと比較できるように、対象のサンプルと同様に処理する。もしくは、基準サンプルを得ることが可能であり、試験サンプルとは別に(例えば、異なった時に)処理し、そして試験サンプルからの細胞中の所与のmiR遺伝子から産生されるmiR遺伝子産物のレベルを、基準サンプルからの対応するmiR遺伝子産物レベルと比較することが可能である。
【0054】
一つの態様において、試験サンプル中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照サンプル中の対応するmiR遺伝子産物のレベルよりも高い(即ち、miR遺伝子
産物の発現が「上方調節」されている)。本明細書で使用するmiR遺伝子産物の発現が「上方調節」されているとは、対象からの細胞又は組織サンプル中のmiR遺伝子産物の量が、対照(例えば、基準標品、対照細胞サンプル、対照組織サンプル)中の同一遺伝子産物の量よりも多い場合である。別の態様において、試験サンプル中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照サンプル中の対応するmiR遺伝子産物のレベルよりも低い(即ち、miR遺伝子産物の発現が「下方調節」されている)。本明細書で使用するmiR遺伝子産物の発現が「下方調節」されているとは、対象からの細胞又は組織サンプル中のmiR遺伝子産物の量が、対照細胞又は組織中の同一遺伝子産物の量よりも少ない場合である。対照及び正常サンプル中の相対的miR遺伝子発現は、一つ又はそれ以上のRNA発現標品に対して決定し得る。該標品は、例えば、ゼロmiR遺伝子発現レベル、標準細胞株中でのmiR遺伝子発現レベル、又は正常ヒト対照の集団(例えば、対照基準標品)について以前に得られているmiR遺伝子発現の平均レベルを含むことが可能である。
【0055】
対照サンプル中のmiR遺伝子産物のレベルと比較して、対象から得られたサンプル中の対応するmiR遺伝子産物のレベルの変化(即ち、増加又は減少)は、対象における癌及び/又は骨髄増殖性障害の存在を示す。一つの態様において、試験サンプル中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照サンプル中の対応するmiR遺伝子産物のレベルよりも高い。対照細胞(例えば、インビトロCD34−分化巨核球)よりも癌細胞株(例えば、AMKL細胞株)中でより高い発現レベルを有するmiR遺伝子産物が本明細書に記載され、及び例示されている(例えば、実施例5を参照されたい)。一つの態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−101、miR−126、miR−99a、miR−99−prec、miR−106、miR−339、miR−99b、miR−149、miR−33、miR−135、miR−20及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。別の態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−101、miR−126、miR−106、miR−20及びmiR−135及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。さらに別の態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−106、miR−20及びmiR−135及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。本明細書に記載され、及び例示されている、こうしたmiR遺伝子産物の増加した発現は、癌細胞を対応する非癌細胞と識別する。
【0056】
本明細書に記載されている通り、本発明の診断及び予後判定法は、癌及び/又は骨髄増殖性障害を診断及び予後判定するために使用し得る。特定の態様において、本診断及び予後判定法は、対象、組織サンプル、細胞サンプル又は体液サンプル中の癌を診断及び予後判定するために使用される。本診断及び予後判定法は、癌のいずれのタイプも診断及び予後判定するために使用し得る。特定の態様において、本診断及び予後判定法は、白血病を診断及び予後判定するために使用し得る。一つの態様において、診断及び予後判定される白血病は急性骨髄性白血病(例えば、急性巨核芽球性白血病)である。他の態様において、本診断及び予後判定法は、多発性骨髄腫を診断及び予後判定するために使用し得る。
【0057】
本発明の診断及び予後判定法は、造血器腫瘍(例えば、骨髄増殖性障害)を診断及び予後判定するためにも使用し得る。一つの態様において、診断及び予後判定される骨髄増殖性障害は、本態性血小板血症(ET)、真性赤血球増加症(PV)、骨髄形成異常、骨髄線維症(例えば、原発性骨髄線維症(AMM)(特発性骨髄線維症とも称される))、及
び慢性骨髄性白血病(CML)から成る群より選択される。
【0058】
特定の態様において、本発明の診断及び予後判定法は、血小板障害(例えば、遺伝性血小板障害)を診断する、予後判定する及び/又は治療するためにも使用し得る。例えば、本診断、予後判定及び治療法は、血小板−血管壁相互作用の欠損(即ち、接着障害)を診
断する、予後判定する及び/又は治療するためにも使用し得る。こうした接着障害には、例えば、フォンウィルブランド病(血漿vWFの欠乏又は欠損)、及びベルナール・スー
リエ症候群(GPIbの欠乏又は欠損)が含まれる。他の態様において、本診断、予後判
定及び治療法は、血小板−血小板相互作用の欠損(即ち、凝集の障害)を診断する、予後判定する及び/又は治療するためにも使用し得る。こうした凝集障害には、例えば、先天性無フィブリノゲン血(血漿フィブリノゲンの欠乏)及びグランツマン血小板無力症(GPIIb−IIIaの欠乏又は欠損)が含まれる。他の態様において、本診断、予後判定及び治療法は、血小板分泌の障害及び顆粒の異常を診断する、予後判定する及び/又は治療するためにも使用し得る。こうした血小板分泌の障害及び顆粒の異常には、例えば、貯蔵プール欠乏及びケベック血小板異常が含まれる。さらに他の態様において、本診断、予後判定及び治療法は、血小板分泌及びシグナル伝達(一次分泌欠損)を診断する、予後判定する及び/又は治療するためにも使用し得る。こうした一次分泌欠損には、血小板−アゴニスト相互作用(レセプター欠損)(例えば、トロンボキサンA、コラーゲン、AD
P、エピネフリン)、G−タンパク質活性化の欠損(例えば、Gαq欠乏、Gas異常、Gαi欠乏)、ホスファチジルイノシトール代謝の欠損(例えば、ホスホリパーゼC−2欠乏)、カルシウム動員の欠損、タンパク質リン酸化の欠損(プレクストリン)、PKC−y欠乏及びアラキドン酸経路及びトロンボキサン合成における異常(例えば、シクロオキシゲナーゼ欠乏、トロンボキサンシンターゼ欠乏)が含まれる。他の態様において、本診断、予後判定及び治療法は、細胞骨格調節における欠損(例えば、ウィスコット・アルドリッチ症候群)を診断する、予後判定する及び/又は治療するために使用し得る。さらに他の態様において、本診断、予後判定及び治療法は、血小板血液凝固タンパク質相互作用の障害(膜リン脂質欠損)(例えば、スコット症候群)を診断する、予後判定する及び
/又は治療するために使用し得る。他の血小板障害(例えば、遺伝性血小板障害)も、本発明の方法を使用して診断し、予後判定し及び/又は治療し得る。
【0059】
本発明は、癌及び/又は骨髄増殖性障害を有する対象の予後を決定する方法も提供する。この方法において、癌及び/又は骨髄増殖性障害の特定の予後(例えば、良好な又は正の予後、又は不良な又は悪い予後)に関連する少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルが対象からの試験サンプル中で測定される。対照サンプル中の該miR遺伝子産物のレベルと比較して、試験サンプル中の対応するmiR遺伝子産物のレベルの変化(例えば、増加、減少)は、特定の予後を有する癌及び/又は骨髄増殖性障害を有している対象を示す。一つの態様において、該miR遺伝子産物は悪い(即ち、不良な)予後に関連している。悪い予後の例には、限定されるわけではないが、低生存率及び急速な疾患進行が含まれる。一つの態様において、試験サンプル中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照サンプル中の対応するmiR遺伝子産物のレベルよりも高い(即ち、上方調節されている)。特定の態様において、上方調節されている該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−101、miR−126、miR−99a、miR−99−prec、miR−106、miR−339、miR−99b、miR−149、miR−33、miR−135、miR−20及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。別の態様において、上方調節されている該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−101、miR−126、miR−106、miR−20及びmiR−135及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。さらに別の態様において、上方調節されている該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−106、miR−20及びmiR−135及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。こうしたmiR遺伝子産物の増加した発現は、対象の癌及び/又は骨髄増殖性障害の悪い予後及び重症度と相関し得る。
【0060】
本明細書に記載した診断及び予後判定法の特定の態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対象から得られた試験サンプルからのRNAを逆転写して標的オリゴデオキシヌクレオチドの組を提供し、該標的オリゴデオキシヌクレオチドは、miRNA−特異的プローブオリゴヌクレオチドを含んでなるマイクロアレイとハイブリダイ
ズさせて試験サンプルについてのハイブリダイゼーションプロファイルを提供し、そして該試験サンプルハイブリダイゼーションプロファイルと対照サンプルから発生させたハイブリダイゼーションプロファイルを比較することにより測定される。
【0061】
特定のmiR遺伝子産物(対照と比較して上方調節された又は下方調節された発現を示しているmiR遺伝子産物)の標的の同定は、マイクロRNAの作用の機構を評価することにおいての助けとなる。本明細書に記述され及び例示されているように、選択されたマイクロRNAの特定の標的及び推定標的が同定された(例えば、表2、3及び5及び実施例を参照されたい)。例えば、転写因子MAFBはmi−130aの標的として同定された(実施例2)。同様に、HOXA1はmiR−10aの標的として同定された(実施例5)。両方のmiRについて、miRとその各々の標的の3’UTRとの直接相互作用が示された(実施例2及び5)。その上、miR及びその各々の標的の発現における逆の相関が示された。それ故、プレmiR−130aの発現はMAFBの減少した発現を生じ(例えば図2C参照)、一方、プレmiR−10aの発現は減少したHOXA1の発現を生じた(例えば、図3C、3F及び3Gを参照されたい)。それ故、一つの態様において、特定のマイクロRNAの標的遺伝子の発現(例えば、表2、3及び5に掲げられているもの)は、癌及び/又は骨髄増殖性障害を診断するために使用し得る。こうした標的遺伝子は、それが標的とする各々のmiRに対して逆性発現を示す。当業者は過度の実験なしに、マイクロRNAの発現レベルを測定するための公知の方法及び/又は本明細書に記載した方法(例えば、定量的又は半定量的RT−PCR、ノーザンブロット分析、溶液ハイブリダイゼーション検出、マイクロアレイ分析)を使用し、いずれのこれらの標的遺伝子の発現レベルも測定し得る。特定の態様において、測定される標的遺伝子はMAFB又はHOXA1である。
【0062】
少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、当業者には公知である多様な技術(例えば、定量的又は半定量的RT−PCR、ノーザンブロット分析、溶液ハイリダイゼーション検出)を使用して測定し得る。特定の態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対象から得られた試験サンプルからのRNAを逆転写して標的オリゴデオキシヌクレオチドの組を提供し、該標的オリゴデオキシヌクレオチドを一つ又はそれより多くのmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチド(例えば、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含んでなるマイクロアレイ)とハイブリダイズさせて試験サンプルについてのハイブリダイゼーションプロファイルを提供し、そして該試験サンプルハイブリダイゼーションプロファイルと対照サンプルから発生させたハイブリダイゼーションプロファイルを比較することにより測定される。対照と比較し、試験サンプル中の少なくとも一つのmiRNAのシグナルの変化は、癌及び/又は骨髄増殖性障害を有するか、又は生じるリスクにある対象を示す。一つの態様において、少なくとも一つのmiRNAのシグナルは、対照サンプルから発生されたシグナルと比較して上方調節されている。別の態様において、少なくとも一つのmiRNAのシグナルは、対照サンプルから発生されたシグナルと比較して下方調節されている。特定の態様において、該マイクロアレイは、すべての既知のヒトmiRNAのかなりの部分(例えば、表1a及びIbに掲げたmiRNAに、他の既知の又は発見されたmiRNAを加えて)のためのmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含んでなる。さらなる態様において、該マイクロアレイは、miR−101、miR−126、miR−99a、miR−99−prec、miR−106、miR−339、miR−99b、miR−149、miR−33、miR−135、miR−20及びそれらの組み合わせから成る群より選択される一つ又はそれより多くのmiRNAのためのmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含んでなる。一つの態様において、該マイクロアレイは、miR−101、miR−126、miR−106、miR−20、miR−135及びそれらの組み合わせから成る群より選択される一つ又はそれより多くのmiRNAのためのmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含んでなる。
【0063】
マイクロアレイは既知のmiRNA配列から発生させた遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブから調製し得る。アレイは各miRNAについて2つの異なったオリゴヌクレオチドプローブを含むことができ、1つは活性成熟配列を含んでおり、及び他はmiRNAの前駆体に対して特異的である。該アレイは、ハイブリダイゼーションストリンジェンシー条件のための対照として働き得、ヒトオルソログとわずか数塩基が異なっている一つ又はそれ以上のマウス配列のような対照も含むことができる。両方の種からのtRNA及び他のtRNA(例えば、rRNA、mRNA)もマイクロチップ上にプリントすることができ、特異的ハイブリダイゼーションのための内部の、比較的に安定な陽性対照を提供している。非特異的ハイブリダイゼーションのための一つ又はそれ以上の適切な対照もマイクロチップ上に含ませることができる。この目的には、いずれの既知のmiRNAとも、いずれの相同性も存在しないことに基づいて配列が選択される。
【0064】
マイクロアレイは当該技術分野で公知の技術を使用して製作することができる。例えば、適切な長さの(例えば、40ヌクレオチド)のプローブオリゴヌクレオチドが、C6位で5’−アミン修飾され、商業的に入手可能なマイクロアレイシステム、例えば、GeneMachine OmniGrid(商標)100 Microarrayer 及びAmersham CodeLink(商標)活性化スライド、を使用してプリントされる。標的RNAに対応する標識cDNAオリゴマーは、標識プライマーで標的RNAを逆転写することにより調製される。第一鎖合成に続いて、RNA/DNAハイブリッドを変性させてRNA鋳型を分解する。このようにして調製された標識された標的cDNAを、ハイブリダイズ条件下(例えば、25℃で18時間の6X SSPE/30%ホルムアミド、続いて37℃で40分の0.75X TNT中での洗浄)、マイクロアレイチップにハイブリダイズさせる。固定化されたプローブDNAがサンプル中の相補的標的cDNAを認識するアレイ上の位置でハイブリダイゼーションが起こる。標識標的cDNAは、結合が起こったアレイ上の正確な位置に印を付け、自動的な検出及び定量化を可能にする。出力はハイブリダイゼーション事象のリストから成っており、特異的cDNA配列の相対的存在量、そしてそれ故、患者サンプル中の対応する相補的miRの相対量を示している。一つの態様に従うと、標識cDNAオリゴマーは、ビオチン標識プライマーから調製されたビオチン標識cDNAである。マイクロアレイは次ぎに、例えば、ストレプトアビジン−Alexa647コンジュゲートを使用するビオチン含有転写体の直接検出により処理され、慣用的スキャニング法を利用してスキャンする。アレイ上の各スポットのイメージ強度は、患者サンプル中の対応するmiRの存在量に比例している。
【0065】
アレイの使用は、miRNA発現検出にいくつかの利点を有する。第一に、数百の遺伝子の全体的発現が、同一サンプル中で1つの時点で同定し得る。第二に、オリゴヌクレオチドプローブの注意深い設計を介して、成熟及び前駆体分子の両方の発現を同定し得る。第三に、ノーザンブロット分析と比較し、チップは少量のRNAしか必要とせず、及び2.5μgの総RNAを使用して再現性のある結果を提供する。比較的限られた数のmiRNA(種当たり数百)は、それぞれに特有のオリゴヌクレオチドプローブを有するいくつかの種のための共通マイクロアレイの構築を可能にする。こうしたツールは、多様な条件下、各々の既知miRについての種を越えた発現の分析を可能にするであろう。
【0066】
特異的miRの定量的発現レベルアッセイのための使用に加えて、miRNomeのかなりの部分に対応するmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチド、好ましくは全miRNomeを含有するマイクロチップは、miR発現パターンの分析のためのmiR遺伝子発現プロファイリングを実施するために用いることができる。固有のmiRシグニチァーは、確立された疾患マーカーと、又は直接的に疾患状態と関連し得る。
【0067】
本明細書に記載した発現プロファイリング法に従うと、癌及び/又は骨髄増殖性障害を
有していると疑われる対象からのサンプルの総RNAが定量的に逆転写されて、サンプル中のRNAに相補的な標識標的オリゴデオキシヌクレオチドの組を提供する。標的オリゴデオキシヌクレオチドは次ぎに、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含んでなるマイクロアレイへハイブリダイズされて、サンプルについてのハイブリダイゼーションプロファイルを提供する。結果は、サンプル中のmiRNAの発現パターンを示している、サンプルについてのハイブリダイゼーションプロファイルである。該ハイブリダイゼーションプロファイルは、マイクロアレイ中のmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドへの、サンプルからの標的オリゴデオキシヌクレオチドの結合からのシグナルを含んでなる。該プロファイルは、結合の存在又は非存在(シグナルvs.ゼロシグナル)として記録することができる。より好ましくは、記録された該プロファイルは、各ハイブリダイゼーションからのシグナルの強度を含む。該プロファイは、正常(例えば、非癌性、非骨髄増殖性障害)対照サンプル又は参照サンプルから発生されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較される。シグナルの変化は、対象における癌の存在、又は発生する性向を示す。
【0068】
miR遺伝子発現を測定するための他の技術も当業者の範囲内であり、RNA転写及び分解の速度を測定するための多様な技術を含む。
本発明は、対象が悪い予後を伴う癌及び/又は骨髄増殖性障害を有する、又は生じるリスクがあるかどうかを診断する方法も提供する。この方法において、癌及び/又は骨髄増殖性障害の悪い予後に関連している少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルが、対象から得られた試験サンプルからのRNAを逆転写して、標的オリゴデオキシヌクレオチドの組を提供することにより測定する。該標的オリゴデオキシヌクレオチドは次ぎに、一つ又はそれより多くのmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチド(例えば、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含んでなるマイクロアレイ)とハイブリダイズさせて試験サンプルについてのハイブリダイゼーションプロファイルを提供し、そして該試験サンプルハイブリダイゼーションプロファイルを対照サンプルから発生させたハイブリダイゼーションプロファイルと比較する。対照サンプルと比較した試験サンプル中の少なくとも一つのmiRNAのシグナルの変化は、対象が悪い予後を伴う癌及び/又は骨髄増殖性障害を有しているか、又は生じるリスクがあることを示す。この方法での使用に適したmiRには、例えば、癌性細胞(例えば、AMKL細胞)で上方調節されるものが含まれる。
【0069】
本発明の診断、予後判定及び治療法、ならびに本発明の医薬組成物の特定の態様において、該miR遺伝子産物は一つ又はそれより多くのlet7a−2、Iet−7c、let−7g、let−7i、miR−7−2、miR−7−3、miR−9、miR−9−1、miR−10a、miR−15a、miR−15b、miR−16−1、miR−16−2、miR−17−5p、miR−20a、miR−21、miR−24−1、miR−24−2、miR−25、miR−29b−2、miR−30、miR−30a−5p、miR−30c、miR−30d、miR−31、miR−32、miR−34、miR−34a、miR−34a prec、miR−34a−1、miR−34a−2、miR−92−2、miR−96、miR−99a、miR−99b prec、miR−100、miR−103、miR−106a、miR−107、miR−123、miR−124a−1、miR−125b−1、miR−125b−2、miR−126、miR−127、miR−128b、miR−129、miR−129−1/2 prec、miR−132、miR−135−1、miR−136、miR−137、miR−141、miR−142−as、miR−143、miR−146、miR−148、miR−149、miR−153、miR−155、miR−159−1、miR−181、miR−181b−1、miR−182、miR−186、miR−191、miR−192、miR−195、miR−196−1、miR−196−1 prec、miR−196−2、miR−199a−1、miR−199a−2、miR−199b、mi
R−200b、miR−202、miR−203、miR−204、miR−205、miR−210、miR−211、miR−212、miR−214、miR−215、miR−217、miR−221及び/又はmiR−223ではない。
【0070】
本明細書に記載されている、サンプル中のmiR遺伝子産物のレベルは、生物学的サンプル中のRNA発現レベルを検出するために適しているいずれかの技術を使用して測定し得る。生物学的サンプル(例えば、細胞、組織)中のRNA発現レベルを決定するために適した技術(例えば、ノーザンブロット分析、RT−PCR、インサイツハイブリダイゼーション)は当業者には公知である。特定の態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルはノーザンブロット分析を使用して検出される。例えば、全細胞性RNAを、核酸抽出緩衝剤の存在下での均質化により、及び続いての遠心分離により細胞から精製し得る。核酸を沈澱させ、DNaseによる処理及び沈澱によりDNAが取り出される。RNA分子は次ぎに、標準技術に従ってアガロースゲル上でのゲル電気泳動により分離され、ニトロセルロースフィルターに移される。RNAは次ぎに加熱によりフィルター上に固定される。特異的RNAの検出及び定量は、問題とするRNAに相補的である、適切に標識されたDNA又はRNAプローブを使用して達成される。例えば、その全開示が本明細書において援用される、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook et
al., eds., 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, 7章、を参照されたい。
【0071】
所与のmiR遺伝子産物のノーザンブロットハイブリダイゼーションに適したプローブ(例えば、DNAプローブ、RNAプローブ)は、表1a及び表1bに提供されており、限定されるわけではないが、目的のmiR遺伝子産物と少なくとも、約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%の相補性を有するプローブ、ならびに目的のmiR遺伝子産物に対して完全な相補性を有するプローブが含まれる。標識されたDNA及びRNAプローブの製造法、及び標的ヌクレオチド配列へのそれらのハイブリダイゼーションについての条件は、その開示が本明細書において援用される、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook et al., eds., 2nd edition, Cold Spring
Harbor Laboratory Press, 1989, 10及び11章、に記載されている。
【0072】
例えば、核酸プローブは、例えば、H、32P、33P、14C、又は35Sのような放射性核種;重金属;又は標識化リガンドのための特異的結合対メンバーとして機能することが可能であるリガンド(例えば、ビオチン、アビジン又は抗体)、蛍光分子、ケミルミネッセント分子、酵素などで標識化し得る。
【0073】
プローブは、それらの全開示が本明細書において援用される、Rigby et al., J. Mol. Biol. 113:237-251(1977) 、のニックトランスレーション法によるか、又はFienberg et al., Anal. Biochem. 132:6-13(1983) 、のランダムプライミング法により高比活性で標
識し得る。後者は、一本鎖DNAから、又はRNA鋳型から高比活性の32P−標識プローブを合成するために選択される方法である。例えば、ニックトランスレーション法に従って、既存のヌクレオチドを高放射性ヌクレオチドで置き換えることにより、10cpm/マイクログラムをかなり上回る比活性を有する32P−標識核酸プローブを製造することが可能である。ハイブリダイゼーションのオートラジオグラフィー検出を、ハイブリダイズされたフィルターを写真フィルムに暴露することにより実施し得る。ハイブリダイズされたフィルターにより暴露された写真フィルムのデンシトメトリックスキャニングは、miR遺伝子転写体レベルの正確な測定を提供する。別のアプローチを使用し、miR遺伝子転写体レベルは、Amersham Biosciences, Piscataway, NJ. から入手可能であるMolecular Dynamics 400-B 2D Phosphorimager のような、コンピューター化されたイメー
ジングシステムにより定量し得る。
【0074】
DNA又はRNAプローブの放射性核種標識化が実際的ではない場合、プローブ分子内に類似体、例えば、dTTP類似体5−(N−(N−ビオチニル−エプシロン−アミノカプロイル)−3−アミノアリル)デオキシウリジン三リン酸を取り込ませるために、ランダム−プライマー法を使用し得る。ビオチニル化プローブオリゴヌクレオチドは、アビジン、ストレプトアビジン、及び蛍光色素又は呈色反応を生み出す酵素に結合された抗体(例えば、抗ビオチン抗体)のような、ビオチン結合性タンパク質との反応により検出し得る。
【0075】
ノーザン及び他のRNAハイブリダイゼーション技術に加えて、RNA転写体のレベルを決定することは、インサイツハイブリダイゼーションの技術を使用して達成し得る。この技術は、ノーザンブロッティング技術よりも少ない細胞数しか必要とせず、及び全細胞を顕微鏡カバーガラス上に沈着させること、及び放射活性又は他の方法で標識化された核酸(例えば、cDNA又はRNA)プローブを含有する溶液で、細胞の核酸内容物を探査することを含む。この技術は、対象からの組織バイオプシーサンプルを分析するために特によく適している。インサイツハイブリダイゼーション技術の実際は、その全開示が本明細書において援用される米国特許第5,427,916号により詳細に記載されている。所与のm
iR遺伝子産物のインサイツハイブリダイゼーションに適したプローブは、前に記載したように、表1a及び表1bに提供された核酸配列から製造することが可能であり、限定されるわけではないが、目的のmiR遺伝子産物と少なくとも、約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%の相補性を有するプローブ、ならびに目的のmiR遺伝子産物に対して完全な相補性を有するプローブが含まれる。
【0076】
細胞中のmiR遺伝子転写体の相対数は、miR遺伝子転写体の逆転写、続いての、例えば、本明細書に例示したようなポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)による逆転写体の増幅によっても決定し得る。miR遺伝子転写体のレベルは、内部標準、例えば、同一サンプル中に存在する「ハウスキーピング」遺伝子からのmRNAのレベルとの比較により定量し得る。内部標準としての使用に適した「ハウスキーピング」遺伝子には、例えば、U6核内低分子RNA、ミオシン又はグリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(G3PDH)が含まれる。定量的及び半定量的RT−PCR及びそれらの変法を実施するための方法は当業者には公知である。
【0077】
いくつかの例において、サンプル中の複数の異なったmiR遺伝子産物の発現レベルを同時に決定することが望ましいであろう。他の例において、癌及び/又は骨髄増殖性障害に相関するすべての既知のmiR遺伝子の転写体の発現レベルを決定することが望ましいであろう。数百のmiR遺伝子又は遺伝子産物について癌特異的発現レベルを評価することは多大な時間を必要とし、及び大量の総RNA(例えば、各ノーザンブロットについて少なくとも20μg)及び放射性同位元素を必要とするオートラジオグラフィー技術を要求する。
【0078】
これらの制限を克服するため、miR遺伝子の組に特異的であるオリゴヌクレオチド(例えば、オリゴデオキシヌクレオチド)プローブの組を含有するようにオリゴライブラリーをマイクロチップフォーマット(即ち、マイクロアレイ)で構築することができる。こうしたマイクロアレイを使用し、生物学的サンプル中の複数のマイクロRNA発現レベルを、RNAを逆転写して標的オリゴデオキシヌクレオチドの組を発生させ、及びそれらをマイクロアレイ上のプローブオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーション又は発現プロファイルを発生させることにより決定し得る。試験サンプルのハイブリダイゼーションプロファイルは次ぎに対照サンプルのものと比較することが可能であり、どのマイクロRNAが癌細胞及び/又は骨髄増殖性障害を示している細胞において変化した発現レベルを有しているのかを決定する。本明細書で使用する「プローブオリゴヌクレオチド」又は「プローブオリゴデオキシヌクレオチド」は、標的オリゴヌクレオチド
にハイブリダイズすることが可能であるオリゴヌクレオチドを指す。「標的オリゴヌクレオチド」又は「標的オリゴデオキシヌクレオチド」は、検出されるべき分子を指す(例えば、ハイブリダイゼーションを介して)。「miR特異的プローブオリゴヌクレオチド」又は「miRに対して特異的なプローブオリゴヌクレオチド」は、特異的miR遺伝子産物又は特異的miR遺伝子産物の逆転写体にハイブリダイズするように選択された配列を有するプローブオリゴヌクレオチドを意味する。
【0079】
特定のサンプルの「発現プロファイル」又は「ハイブリダイゼーションプロファイル」は、本質的にサンプルの状態のフィンガープリントである;2つの状態は同様に発現されるいずれかの特定の遺伝子を有することができるが、多くの遺伝子の同時評価は、細胞の状態に独特である遺伝子発現プロファイルの発生を可能にする。即ち、正常組織、細胞又は体液サンプルを対応する癌性及び/又は骨髄増殖性障害提示組織、細胞又は体液サンプルと区別することができる。癌性及び/又は骨髄増殖性障害提示組織、細胞又は体液サンプル内で、異なった予後状態(例えば、良好な又は不良な長期生存見通し)を決定することができる。異なった状態にある癌性及び/又は骨髄増殖性障害提示組織、細胞又は体液サンプルの発現プロファイルを比較することにより、これらの状態の各々においてどの遺伝子が重要であるかに関する情報(遺伝子の上方及び下方調節を含んで)が得られる。癌性及び/又は骨髄増殖性障害提示組織、細胞又は体液サンプルにおいて異なって発現された配列、ならびに異なった予後結果を生じる異なった発現の同定は、この情報のさなざまな形での使用を可能にする。例えば、特定の治療計画を評価することができる(例えば、特定の患者において、長期予後を改善するために化学療法薬剤が作用するかどうかを決定するための)。同様に、対象からのサンプルと既知の発現プロファイルを有する対象を比較することにより、診断を行う又は確認することができる。さらに、これらの遺伝子発現プロファイル(又は個々の遺伝子)は、癌及び/又は骨髄増殖性障害発現プロファイルを抑制する、又は不良な予後プロファイルをより良い予後プロファイルに変換する薬剤候補のスクリーニングを可能にする。
【0080】
いずれか一つの理論に束縛されるものではないが、細胞中の一つ又はそれより多くのmiR遺伝子産物のレベルの変化は、異常巨核球分化及び/又は癌、骨髄増殖性障害及び/又は血小板障害の形成を導き得るこれらのmiRのための一つ又はそれより多くの意図された標的の調節解除を生じることができると考えられている。それ故、miR遺伝子産物のレベルを変化させることで(例えば、癌性及び/又は骨髄増殖性障害提示細胞で上方調節されているmiRのレベルを減少させることにより、癌性及び/又は骨髄増殖性障害提示細胞で下方調節されているmiRのレベルを増加させることにより)、癌、骨髄増殖性障害及び/又は血小板障害を成功裏に治療することができる。
【0081】
従って、本発明は、対象において癌及び/又は骨髄増殖性障害を治療する方法を包含し、該対象の細胞(例えば、癌性及び/又は骨髄増殖性障害提示細胞)中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物は調節解除(例えば、下方調節、上方調節)されている。一つの態様において、試験サンプル(例えば、癌性及び/又は骨髄増殖性障害提示組織、細胞又は体液を含んでなるサンプル)中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照又は基準サンプル中の対応するmiR遺伝子産物のレベルよりも高い。別の態様において、試験サンプル(例えば、癌性及び/又は骨髄増殖性障害提示組織、細胞又は体液を含んでなるサンプル)中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照又は基準サンプル中の対応するmiR遺伝子産物のレベルよりも低い。少なくとも一つの単離されたmiR遺伝子産物が試験サンプル(例えば、癌性及び/又は骨髄増殖性障害提示組織、細胞又は体液を含んでなるサンプル)中で下方調節されている場合、該方法は、対象中の癌性及び/又は骨髄増殖性障害提示細胞の増殖が抑制されるように、少なくとも一つの単離されたmiR遺伝子産物、又は単離された変異体又はそれらの生物学的に活性な断片の有効量を投与することを含んでなる。例えば、miR遺伝子産物が対象中の癌細胞において下方調
節されている場合、単離されたmiR遺伝子産物の有効量を該対象に投与することは、該癌細胞の増殖を抑制し得る。該対象に投与される単離されたmiR遺伝子産物は、該癌細胞中で下方調節されている内在性野生型miR遺伝子産物(例えば、表1a又は表1bに示されているmiR遺伝子産物)と同一でもよいし、又は変異体又はそれらの生物学的に活性な断片でもあり得る。本明細書で定義されるmiR遺伝子産物の「変異体」とは、対応する野生型miR遺伝子産物と100%未満の同一性を有し、対応する野生型miR遺伝子産物の一つまたはそれより多くの生物活性を所有するmiRNAを指す。こうした生物活性の例には、限定されるわけではないが、標的RNA分子の発現の抑制(例えば、標的RNA分子の翻訳を抑制すること、標的RNA分子の安定性を変調すること、標的RNA分子のプロセシングを抑制すること)、癌及び/又は骨髄増殖性障害に関連した細胞プロセス(例えば、細胞分化、細胞増殖、細胞死)が含まれる。これらの変異体には、種変異体及びmiR遺伝子中の一つまたはそれより多くの突然変異(例えば、置換、欠失、挿入)の結果である変異体が含まれる。特定の態様において、該変異体は、対応する野生型miR遺伝子産物と少なくとも、約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%同一である。
【0082】
本明細書で定義された、miR遺伝子産物の「生物学的に活性な断片」とは、対応する野生型miR遺伝子産物の一つ又はそれより多くの生物活性を有するRNA断片を指す。上に記載したように、こうした生物活性の例には、限定されるわけではないが、標的RNA分子の発現の抑制、及び癌及び/又は骨髄増殖性障害に関連した細胞プロセスの抑制が含まれる。特定の態様において、該生物学的に活性な断片は、少なくとも、約5、7、10、12、15、又は17ヌクレオチド長である。特定の態様において、単離されたmiR遺伝子産物は、一つ又はそれより多くの追加の抗癌治療と組み合わせて対象に投与し得る。適した抗癌治療には、限定されるわけではないが、化学療法、放射線療法及びそれらの組み合わせ(例えば、放射線化学療法)が含まれる。
【0083】
少なくとも一つの単離されたmiR遺伝子産物が癌細胞において上方調節されている場合、該方法は、癌及び/又は骨髄増殖性障害提示細胞の増殖が抑制されるように、少なくとも一つの単離されたmiR遺伝子産物の発現を抑制する化合物の有効量を対象に投与することを含んでなる。こうした化合物は、本明細書においてmiR遺伝子発現抑制化合物と称される。適したmiR遺伝子発現抑制化合物の例は、限定されるわけではないが、本明細書に記載されているものである(例えば、二本鎖RNA、アンチセンス核酸及び酵素的RNA分子)。特定の態様において、miR遺伝子発現抑制化合物は、一つ又はそれより多くの追加の抗癌治療と組み合わせて対象に投与し得る。適した抗癌治療には、限定されるわけではないが、化学療法、放射線療法及びそれらの組み合わせ(例えば、放射線化学療法)が含まれる。
【0084】
記載したごとく、少なくとも一つの単離されたmiR遺伝子産物が癌細胞(例えば、AMKL細胞)において上方調節されている場合、該方法は、癌細胞の増殖が抑制されるように、少なくとも一つのmiR遺伝子産物の発現を抑制するための少なくとも一つの化合物の有効量を対象に投与することを含んでなる。一つの態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物の発現を抑制するための化合物は、miR−101、miR−126、miR−99a、miR−99−prec、miR−106、miR−339、miR−99b、miR−149、miR−33、miR−135、miR−20及びそれらの組み合わせから成る群より選択されるmiR遺伝子産物を抑制する。別の態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物の発現を抑制するための化合物は、miR−101、miR−126、miR−106、miR−20、miR−135 及びそれらの組み合わせから成る群より選択されるmiR遺伝子産物を抑制する。さらに別の態様において、少なくとも一つのmiR遺伝子産物の発現を抑制するための化合物は、miR−106、miR−20、miR−135及びそれらの組み合わせから成る群より選択されるmiR遺
伝子産物を抑制する。
【0085】
本明細書に記載され及び例示されている、巨核球分化において上方調節される転写因子MAFBは、miR−130aの標的である。さらに、miR−130aの発現及びその各々の標的との逆相関が示された。それ故、プレmiR−130aの発現は、MAFBの発現の減少を生じた(例えば、図2Cを参照されたい)。MAFBは癌(例えば、多発性骨髄腫及び急性骨髄性白血病)において調節解除されていることが知られている。例えば、MAFBの異所性発現が(14;20)(q32;q11)染色体転座を運んでいるヒ
ト骨髄腫細胞で観察されている(Hanamura, I., et al. (2001) Jpn. J. Cancer Res. 92(6):638-644 (2001))。従って、一つの態様において、本発明は、対象における癌及び
/又は骨髄増殖性障害を治療する方法であり、少なくとも一つのmiR遺伝子産物、又は単離された変異体又はそれらの生物学的に活性な断片の有効量を該対象に投与することを含んでなり:ここで
該癌及び/又は骨髄増殖性障害は、MAFB遺伝子産物の過剰発現に関連しており;及び
該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、MAFB遺伝子産物に結合し、及びその発現を減少させる。
【0086】
一つの態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物又は単離された変異体又はそれらの生物学的に活性な断片は、MAFB遺伝子産物中のヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含んでなる(例えば、MAFBの3’UTRと相補的)。特定の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−130a又は単離された変異体又はそれらの生物学的に活性な断片である。
【0087】
本明細書でまた記載され及び例示されているように、タンパク質のHOXファミリーのメンバーの一つ、HOXA1のmRNAが巨核球分化において7倍上方調節されている(例えば、実施例4参照)。さらに、HOXA1はmiR−10aの標的であり、及びその発現はmiR−10aの発現と逆相関している(例えば、図3C、3F及び3Gを参照されたい)。HOXA1の発現は、高悪性度のインビボ腫瘍形成を伴う不死化ヒト乳腺上皮細胞の発癌性形質転換を生じるのに十分であることが示されている(Zhang, X., et al.,
(2002) J. Biol. Chem. 278(9):7580-7590 )。さらに、Bcl−2依存的様式での、乳癌腫細胞のHOXA1の強制された発現は、足場依存性増殖及び軟寒天中でのコロニー形成の劇的増強を生じる。上記文献。従って、一つの態様において、本発明は、対象における癌及び/又は骨髄増殖性障害を治療する方法であり、少なくとも一つのmiR遺伝子産物、又は単離された変異体又はそれらの生物学的に活性な断片の有効量を該対象に投与することを含んでなり:ここで
該癌及び/又は骨髄増殖性障害は、HOXA1遺伝子産物の過剰発現に関連しており;及び
該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、HOXA1遺伝子産物に結合し、及びその発現を減少させる。
【0088】
一つの態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物又は単離された変異体又はそれらの生物学的に活性な断片は、HOXA1遺伝子産物中のヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含んでなる(例えば、HOXA1の3’UTRと相補的)。特定の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−10a又は単離された変異体又はそれらの生物学的に活性な断片である。
【0089】
関連する態様において、対象における癌及び/又は骨髄増殖性障害を治療する方法は、対象からのサンプル中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物の量を最初に決定すること、及び対照中の対応するmiR遺伝子産物のレベルに対するmiR遺伝子産物のレベルを比
較することの工程をさらに含んでなる。もし、対象からのサンプル中の該miR遺伝子産物の発現が調節解除(例えば、下方調節、上方調節)されていたら、該方法は、対象からのサンプル中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物の量を変化させることをさらに含んでなる。一つの態様において、該対象からのサンプル中に発現されているmiR遺伝子産物の量は、対照中に発現された該miR遺伝子産物の量よりも少なく、miR遺伝子産物又は単離された変異体又はそれらの生物学的に活性な断片の有効量が該対象に投与される。別の態様において、該対象からのサンプル中に発現されているmiR遺伝子産物の量は、対照中に発現された該miR遺伝子産物の量よりも多く、該少なくとも一つのmiR遺伝子の発現を抑制するための少なくとも一つの化合物の有効量が該対象に投与される。miR遺伝子の発現を抑制する適したmiR及び化合物は、例えば、本明細書に記載されているものである。
【0090】
本明細書で使用される用語「治療する」、「治療すること」及び「治療」は、疾患又は状態、例えば、癌及び/又は骨髄増殖性障害に関連する症状を寛解させることを指し、疾患症状の発症を防止する又は遅延すること、及び/又は疾患又は状態の症状の重症度又は頻度を減らすことを含んでいる。用語「対象」、「患者」及び「個体」は、限定されるわけではないが、霊長類、乳牛、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、マウス又は他のウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、げっ歯類又はマウス種を含む哺乳類のような動物を含むことが本明細書において定義される。好ましい態様において、該動物はヒトである。
【0091】
本明細書で使用される単離されたmiR遺伝子産物の「有効量」とは、癌及び/又は骨髄増殖性障害を患っている対象中の細胞(例えば、癌性細胞及び/又は骨髄増殖性障害を示している細胞)の増殖を抑制するために十分な量である。当業者は、対象のサイズ及び体重;疾患浸透の程度;対象の年齢、健康及び性;投与経路;及び投与が局所的であるか又は全身的であるかどうかのような因子を考慮に入れることにより、所与の対象に投与すべきmiR遺伝子産物の有効量を容易に決定し得る。
【0092】
例えば、単離されたmiR遺伝子産物の有効量は、治療されるべき腫瘍塊のおよその重量に基づき得る。腫瘍塊のおよその重量は、該塊のおよその容量を計算することにより決定することが可能であり、1立方センチメーターの容量は大体1グラムに等しい。腫瘍塊の重量に基づいた、該単離されたmiR遺伝子産物の有効量は、腫瘍塊のグラム当たり約10〜500マイクログラムの範囲であり得る。特定の態様において、有効量は少なくとも、腫瘍塊のグラム当たり少なくとも約10マイクログラム/、腫瘍塊のグラム当たり少なくとも約60マイクログラム又は少なくとも腫瘍塊のグラム当たり約100マイクログラムでもあり得る。
【0093】
単離されたmiR遺伝子産物の有効量は、治療されるべき対象のおよその又は推定体重にも基づき得る。好ましくは、こうした有効量は、本明細書に記載した通り、非経口的に又は経腸的に投与される。例えば、単離されたmiR遺伝子産物の有効量は、体重kg当たり約5〜3000マイクログラム、体重kg当たり約700〜1000マイクログラムの範囲で、又は体重kg当たり約1000マイクログラムを超えて対象に投与される。
【0094】
当業者は、所与の対象へ一つ又はそれより多くのmiR遺伝子産物を投与することについての適切な投与計画も容易に決定し得る。例えば、一つ又はそれより多くのmiR遺伝子産物は対象に一度で投与し得る(例えば、単回注射又はデポジションとして)。もしくは、一つ又はそれより多くのmiR遺伝子産物は、約3〜約28日、より好ましくは約7日〜約10日の期間、対象に1日1回又は2回投与し得る。特定の投与計画において、一つ又はそれより多くのmiR遺伝子産物は7日にわたって1日1回投与される。投与計画が複数の投与を含んでなる場合、対象に投与される一つ又はそれより多くのmiR遺伝子
産物の有効量は、全投与計画にわたって投与された遺伝子産物の総量を含むことが可能であることが理解される。
【0095】
本明細書で使用される「単離された」miR遺伝子産物は、合成された又はヒトの介在を介して天然の状態から変化された又は取り出されたものである。例えば、合成miR遺伝子産物又はその天然の状態で同時に存在する物質から部分的に又は完全に分離されたmiR遺伝子産物が、「単離されて」いると考えられる。単離されたmiR遺伝子産物は実質的に精製された形態で存在することが可能であり、又はmiR遺伝子産物が送達される細胞内に存在することが可能である。それ故、細胞へ計画的に送達された又は細胞中で発現されたmiR遺伝子産物は、「単離された」miR遺伝子産物と考えられる。miR前駆分子から細胞内部で産生されたmiR遺伝子産物も「単離された」分子であると考えられる。本発明に従うと、本明細書に記載された該単離されたmiR遺伝子産物は、対象(例えば、ヒト)における癌及び/又は骨髄増殖性障害のための医薬の製造に使用し得る。
【0096】
単離されたmiR遺伝子産物は、多くの標準技術を使用して得ることが可能である。例えば、該miR遺伝子産物は当該技術分野で公知の方法を使用して化学的に合成又は組換え的に産生し得る。一つの態様において、miR遺伝子産物は適切に保護されたリボヌクレオシドホスホラミダイト及び慣用的DNA/RNAシンセサイザーを使用して化学的に合成される。合成RNA分子又は合成試薬の商業的供給元には、例えば、Proligo (Hamburg, Germany), Dharmacon Research (Lafayette, CO, U.S.A.), Pierce Chemical (Perbio Science の一部門, Rockford, IL, U.S.A.), Glen Research (Sterling, VA, U.S.A.),
ChemGenes (Ashland, MA, U.S.A.) 及びCruachem (Glasgow, UK) が含まれる
もしくは、該miR遺伝子産物は、いずれかの適したプロモーターを使用して組換え環状又は直線状DNAプラスミドから発現し得る。プラスミドからRNAを発現するために適したプロモーターには、例えば、U6又はH1 RNAポリメラーゼIIIプロモータ
ー配列又はサイトメガロウイルスプロモーターが含まれる。他の適したプロモーターの選択は当業者には自明である。本発明の組換えプラスミドは、細胞(例えば、癌性細胞及び/又は骨髄増殖性障害を示している細胞)中でのmiR遺伝子産物の発現のための誘導可能又は調節可能プロモーターも含み得る。
【0097】
組換えプラスミドから発現された該miR遺伝子産物は、標準技術により培養細胞発現システムから単離し得る。組換えプラスミドから発現されたmiR遺伝子産物は、細胞(例えば、癌性細胞及び/又は骨髄増殖性障害を示している細胞)へ送達する、及び該細胞中で直接発現することも可能である。細胞(例えば、癌性細胞及び/又は骨髄増殖性障害を示している細胞)へ該miR遺伝子産物を送達するための組換えプラスミドの使用は、以下により詳細に議論されている。
【0098】
該miR遺伝子産物は別の組換えプラスミドから発現することも、又は同一の組換えプラスミドから発現することも可能である。一つの態様において、該miR遺伝子産物は、単一プラスミドからRNA前駆分子として発現され、そして該前駆分子は、限定されるわけではないが、癌細胞内に実存するプロセッシングシステムを含む適したプロセッシングシステムにより、機能性miR遺伝子産物にプロセッシングされる。他の適したプロセッシングシステムには、例えば、インビトロ ショウジョウバエ細胞溶解システム(例えば、その全開示が本明細書において援用される、Tuschl et al. による米国公開特許出願番号2002/0086356に記載されている)及び大腸菌(E.coli)RNAseIIIシステム(例えば、その全開示が本明細書において援用される、Yang et al. による米国公開特許出願番号2004/0014113に記載されている)が含まれる。
【0099】
該miR遺伝子産物を発現するために適したプラスミドの選択、プラスミド内へ遺伝子産物を発現するための核酸配列を挿入する方法、及び組換えプラスミドを問題とする細胞
へ送達する方法は当業者には自明である。例えば、その全開示が本明細書において援用される、Zeng et al. (2002), Molecular Cell 9:1327-1333; Tuschl (2002), Nat.Biotechnol, 20:446-448; Brummelkamp et al. (2002), Science 296:550-553; Miyagishi et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20:497-500; Paddison et al. (2002), Genes Dev. 16:948-958; Lee et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20:500-505; 及び Paul et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20:505-508 を参照されたい。
【0100】
一つの態様において、該miR遺伝子産物を発現しているプラスミドは、CMV中間初期プロモーター制御下のmiR前駆体RNAをコードしている配列を含んでなる。本明細書において使用されるプロモーターの「制御下」とは、プロモーターがmiR遺伝子産物コード配列の転写を開始できるように、miR遺伝子産物をコードする核酸配列が該プロモーターの3’に位置していることを意味する。
【0101】
該miR遺伝子産物は組換えウイルスベクターからも発現し得る。該miR遺伝子産物が2つの別の組換えウイルスベクターから、又は同一のウイルスベクターから発現し得ることが企図される。該組換えウイルスベクターから発現されたRNAは、標準技術により培養細胞発現システムから単離することが可能であり、又は細胞(例えば、癌性細胞及び/又は骨髄増殖性障害を示している細胞)中で直接発現することも可能である。細胞(例えば、癌性細胞及び/又は骨髄増殖性障害を示している細胞)へ該miR遺伝子産物を送達するための組換えウイルスベクターの使用は以下により詳細に議論されている。
【0102】
本発明の組換えウイルスベクターは、該miR遺伝子産物をコードする配列及びRNA配列を発現するためのいずれかの適したプロモーターを含んでなる。適したプロモーターには、限定されるわけではないが、例えば、U6又はH1 RNApol IIIプロモ
ーター配列又はサイトメガロウイルスプロモーターが含まれる。他の適したプロモーターの選択は当業者には自明である。本発明の組換えウイルスベクターは、癌細胞中での該miR遺伝子産物の発現のための誘導可能又は調節可能プロモーターも含み得る。
【0103】
該miR遺伝子産物のコード配列を受容することが可能ないずれかのウイルスベクターを使用し得る;例えば、アデノウイルス(AV); アデノ随伴ウイルス(AAV);レ
トロウイルス(例えば、レンチウイルス(LV)、ラブドウイルス、マウス白血病ウイルス);ヘルペスウイルスなどに由来するベクター。ウイルスベクターの向性は、他のウイルスからの外被タンパク質又は他の表面抗原でベクターをシュードタイピングすることにより、又は必要に応じて、異なったウイルスカプシドタンパク質で置換することにより修飾し得る。
【0104】
例えば、本発明のレンチウイルスベクターを、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、狂犬病、エボラ、モコラなどからの表面タンパク質でシュードタイピングし得る。本発明のAAVベクターは、異なったカプシドタンパク質血清タイプを発現するようにベクターを工学処理することにより、異なった細胞を標的とするようにできる。例えば、血清タイプ2ゲノム上の血清タイプ2カプシドを発現しているAAVベクターは、AAV2/2と称される。このAAV2/2ベクター中の血清タイプ2カプシド遺伝子を血清タイプ5カプシド遺伝子で置き換えることができて、AAV2/5ベクターが産生される。異なったカプシドタンパク質血清タイプを発現するAAVベクターを構築するための技術は、当業者には自明である;例えば、その全開示が本明細書において援用される、Rabinowitz, J.E., et al. (2002), J. Virol. 76:791-801を参照されたい。
【0105】
本発明での使用に適した組換えウイルスベクターの選択、RNAを発現するための核酸配列をベクター内へ挿入する方法、該ウイルスベクターを問題とする細胞へ送達する方法及び発現されたRNA産物の回収は当業者には自明である。例えば、その全開示が本明細
書において援用される、Dornburg (1995), Gene Therap. 2:301-310; Eglitis (1988), Biotechniques 6:608-614; Miller (1990), Hum. Gene Therap. 1:5-14; 及びAnderson (1998), Nature 392:25-30 、を参照されたい。
【0106】
特に適したウイルスベクターはAV及びAAVに由来するものである。該miR遺伝子産物を発現するために適したAVベクター、該組換えAVベクターを構築するための方法、及び標的細胞内に該ベクターを送達するための方法は、その全開示が本明細書において援用される、Xia et al. (2002), Nat. Biotech. 20:1006-1010 に記載されている。該miR遺伝子産物を発現するために適したAAVベクター、該組換えAAVベクターを構築するための方法、及び標的細胞内に該ベクターを送達するための方法は、その全開示が本明細書において援用される、Samulski et al. (1987), J. Virol. 61:3096-3101; Fisher
et al. (1996), J. Virol, 70:520-532; Samulski et al. (1989), J. Virol. 63:3822-3826;米国特許第5,252,479号;米国特許第5,139,941号;国際特許出願番号WO 94/13788 ;及び国際特許出願番号WO 93/24641 に記載されている。一つの態様において、該miR遺伝子産物は、CMV中間初期プロモーターを含んでなる単一組換えAAVベクターから発現される。
【0107】
特定の態様において、本発明の組換えAAVウイルスベクターは、ヒトU6 RNAプロモーター制御下、ポリT終結配列と作動可能なように連結されたmiR前駆体RNAをコードする核酸配列を含んでなる。本明細書において使用される「ポリT終結配列と作動可能なように連結された」とは、センス又はアンチセンス鎖をコードする核酸配列が、ポリT終結シグナルと5’方向ですぐに隣接していることを意味する。ベクターからの該miR配列の転写の間、ポリT終結シグナルは転写を終結させるように作用する。
【0108】
本発明の治療法の他の態様において、miR発現を抑制する少なくとも一つの化合物の有効量を対象に投与し得る。本明細書において使用される「miR発現を抑制する」とは、治療後、miR遺伝子産物の前駆体及び/又は活性成熟形態の産生が、治療に先だって産生された量よりも少ないことを意味する。当業者は、例えば、本明細書で議論したmiR転写体レベルを決定するための技術を使用して、細胞(例えば、癌性細胞及び/又は骨髄増殖性障害を示している細胞)においてmiR発現が抑制されたかどうかを容易に決定し得る。抑制は、遺伝子発現のレベル(即ち、該miR遺伝子産物をコードするmiR遺伝子の転写を抑制することにより)、又はプロセッシングのレベル(例えば、miR前駆体の成熟活性miRへのプロセッシングを抑制することにより)で起こり得る。
【0109】
本明細書で使用される、miR発現を抑制する化合物の「有効量」とは、癌及び/又は骨髄増殖性障害を罹患した対象中の、細胞(例えば、癌性細胞及び/又は骨髄増殖性障害を示している細胞)の増殖を抑制するために十分な量である。当業者は、対象のサイズ及び体重;疾患浸透の程度;対象の年齢、健康及び性;投与経路;及び投与が局所的であるか又は全身的であるかどうかのような因子を考慮に入れて、所与の対象に投与すべきmiR発現抑制化合物の有効量を容易に決定し得る。
【0110】
例えば、該発現抑制化合物の有効量は、本明細書に記載したように、治療されるべき腫瘍のおよその重量に基づき得る。miR発現を抑制する化合物の有効量は、本明細書に記載したように、治療されるべき対象のおよその又は推定体重にも基づき得る。
【0111】
当業者は、本明細書に記載したように、miR発現を抑制する化合物を所与の対象に投与するための適切な投与計画を容易に決定することも可能である。miR発現を抑制するために適した化合物には、二本鎖RNA(短い又は小さな干渉RNA又は「siRNA」のような)、アンチセンス核酸及びリボザイムのような酵素的RNA分子が含まれる。これらの化合物の各々は、所与のmiR遺伝子産物へ標的化すること、及び標的miR遺伝
子産物の発現を妨害(例えば、翻訳を抑制することにより、開裂及び/又は分解を誘発することにより)することが可能である。
【0112】
例えば、所与のmiR遺伝子の発現は、該miR遺伝子産物の少なくとも一部と、少なくとも90%、例えば少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の配列相同性を有する単離された二本鎖RNA(「dsRNA」)分子で該miR遺伝子のRNA干渉を誘発することにより抑制し得る。特定の態様において、dsRNA分子は、「短い又は小さな干渉RNA」又は「siRNA」である。
【0113】
本方法で有用なsiRNAは、約17ヌクレオチド〜約29ヌクレオチド長の、好ましくは約19〜約25ヌクレオチド長の短い二本鎖DNAを含んでなる。該siRNAは、標準ワトソン−クリック塩基対形成相互作用により(以後「塩基対形成された」)一緒にアニーリングされたセンスRNA鎖及び相補的アンチセンスRNA鎖を含んでなる。該センス鎖は、該標的miR遺伝子産物内に含有されている核酸配列と実質的に同一である核酸配列を含んでなる。
【0114】
本明細書で使用される、該標的mRNA内に含有されている標的配列と「実質的に同一である」、siRNA中の核酸配列は、該標的配列と同一である、又は1又は2ヌクレオチドのみ該標的配列と異なっている核酸配列である。該siRNAのセンス及びアンチセンス鎖は、二つの相補的な一本鎖RNA分子を含んでなることが可能であり、又は二つの相補的部分が塩基対形成された、及び一本鎖「ヘアピン」領域により共有結合で連結された単一分子を含んでなることも可能である。
【0115】
該siRNAは、一つ又はそれ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は改変により天然に存在するRNAとは異なった改変RNAであることも可能である。こうした改変は、該siRNAの末端(単数又は複数)に対する又は該siRNAの一つ又はそれ以上の内部ヌクレオチドに対する非ヌクレオチド物質の付加、又はヌクレアーゼ消化に対して該siRNAを耐性にする修飾、又はデオキシリボヌクレオチドによる該siRNA中の一つ又はそれ以上のヌクレオチドの置換を含むことができる。
【0116】
該siRNAの一つ又は両方の鎖は、3’オーバーハングも含み得る。本明細書において使用される「3’オーバーハング」とは、二重鎖形成したRNA鎖の3’末端から伸長する少なくとも一つの、対を形成していないヌクレオチドを指す。それ故、特定の態様において、該siRNAは、1〜約6ヌクレオチド(リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドを含む)長、1〜約5ヌクレオチド長、1〜約4ヌクレオチド長、又は約2〜約4ヌクレオチド長の少なくとも一つの3’オーバーハングを含んでなる。特定の態様において、該3’オーバーハングは該siRNAの両方の鎖上に存在し、及び2ヌクレオチド長である。例えば、該siRNAの各鎖は、ジチミジル酸(「TT」)又はジウリジル酸(「uu」)の3’オーバーハングを含んでなることができる。
【0117】
該siRNAは、化学的又は生物学的、又は単離されたmiR遺伝子産物について前に記載した組換えプラスミド又はウイルスベクターから発現することも可能である。dsRNA又はsiRNA分子を産生する又は試験する方法の例は、それらの全開示が本明細書において援用される、Gewirtz による米国公開特許出願番号2002/0173478及びReich et al. による米国公開特許出願番号2004/0018176 に記載されている。
【0118】
所与のmiR遺伝子の発現は、アンチセンス核酸によっても抑制し得る。本明細書で使用される「アンチセンス核酸」とは、標的RNAの活性を変化させるRNA−RNA又はRNA−DNA又はRNA−ペプチド核酸相互作用により標的RNAに結合する核酸分子を指す。本方法における使用のために適したアンチセンス核酸は、miR遺伝子産物中の
近接する核酸配列に相補的な核酸配列を一般的に含んでなる、一本鎖核酸(例えば、RNA、DNA、RNA−DNAキメラ、ペプチド核酸(PNA))である。該アンチセンス核酸は、miR遺伝子産物中の近接する核酸配列と50〜100%相補的、75〜100%相補的、又は95〜100%相補的である核酸配列を含んでなることができる。特定のヒトmiR遺伝子産物の核酸配列は表1a及び表1bに提供されている。いずれかの理論に束縛されるものではないが、該アンチセンス核酸は、RNase H又は該miR遺伝子産物/アンチセンス核酸二重鎖を消化する別の細胞ヌクレアーゼを活性化すると信じられている。
【0119】
アンチセンス核酸は、標的特異性、ヌクレアーゼ耐性、送達又は該分子の有効性に関する他の特性を増強するため、核酸主鎖への又は糖及び塩基部分(またはそれらの均等物)への修飾も含有し得る。こうした修飾には、コレステロール部分、アクリジンのような二重鎖インターカレーター、又は一つ又はそれ以上のヌクレアーゼ抵抗性基が含まれる。
【0120】
アンチセンス核酸は、化学的又は生物学的、又は該単離されたmiR遺伝子産物について前に記載した組換えプラスミド又はウイルスベクターから発現することも可能である。産生する又は試験するための方法の例は、当業者には自明である;例えば、それらの全開示が本明細書において援用される、Stein and Cheng (1993), Science 261 :1004及びWoolf et al., による米国特許第5,849,902号を参照されたい。
【0121】
所与のmiR遺伝子の発現は、酵素的核酸によっても抑制し得る。本明細書で使用される「酵素的核酸」とは、miR遺伝子産物の近接する核酸配列に相補性を有する基質結合領域を含んでなる核酸を指し、それは該miR遺伝子産物を特異的に切断することが可能である。酵素的核酸基質結合領域は、miR遺伝子産物中の近接する核酸配列と、例えば、50〜100%相補的、75〜100%相補的又は95〜100%相補的であり得る。該酵素的核酸は、塩基、糖及び/又はリン酸基に修飾を含んでなることもできる。本方法における使用のための酵素的核酸の例はリボザイムである。
【0122】
該酵素的核酸は、化学的又は生物学的、又は該単離されたmiR遺伝子産物について前に記載した組換えプラスミド又はウイルスベクターから発現することも可能である。dsRNA又はsiRNA分子を産生する又は試験するための方法の例は、それらの全開示が本明細書において援用される、Werner and Uhlenbeck (1995), Nucl Acids Res. 23:2092-96; Hammann et al. (1999), Antisense and Nucleic Acid Drug Dev. 9:25-31 ;及びCech et al. による米国特許第4,987,071 号に記載されている。
【0123】
少なくとも一つのmiR遺伝子産物、又はmiR発現を抑制するための少なくとも一つの化合物の投与は、癌及び/又は骨髄増殖性障害を有する対象中の細胞(例えば、癌性細胞、骨髄増殖性障害を示している細胞)の増殖を抑制するであろう。本明細書で使用される「癌性細胞又は骨髄増殖性障害を示している細胞の増殖を抑制する」とは、該細胞を殺す、又は該細胞の増殖を持続的又は一時的に休止させる又は遅らせることを意味する。もし、miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物の投与後に該対象中のこうした細胞の数が一定に残るか又は減少したら、癌細胞増殖の抑制が推測できる。もし、こうした細胞の絶対数が増加しても、腫瘍増殖の速度が低下したら、癌性細胞又は骨髄増殖性障害を示している細胞の増殖の抑制がまた推測できる。
【0124】
対象体中の癌性細胞の数は、直接測定により、又は原発性又は転移性腫瘍塊のサイズからの推定により決定し得る。例えば、対象中の癌細胞の数は、免疫組織学的方法、フローサイトメトリー、又は癌細胞の特徴的表面マーカーを検出するように設計された他の技術により測定し得る。
【0125】
腫瘍塊のサイズは、直接視覚的観察により、又はX線、磁気共鳴イメージング、超音波及びシンチグラフィーのような診断的イメージング法により確認し得る。腫瘍塊のサイズを確認するために使用される診断的イメージング法は、当該技術分野では公知の造影剤を用いることができるが、又は用いなくてもよい。腫瘍塊のサイズは、組織塊の触診のような物理的手段により、又はキャリパーのような計測器での組織塊の測定によっても確認し得る
miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物は、対象の細胞(例えば、癌性細胞及び/又は骨髄増殖性障害を示している細胞)へこれらの化合物を送達するために適したいずれかの手段により対象に投与し得る。例えば、該miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物は、これらの化合物で、又はこれらの化合物をコードする配列を含んでなる核酸で該対象の細胞をトランスフェクトするために適した方法により投与し得る。一つの態様において、該細胞は、少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物をコードする配列を含んでなるプラスミド又はウイルスベクターでトランスフェクトされる。
【0126】
真核細胞のためのトランスフェクション法は当該技術分野では公知であり、そして、例えば、細胞の核又は前核内への核酸の直接注入;エレクトロポレーション;リポソーム輸送又は親油性物質により仲介される輸送;レセプター仲介核酸送達;生物弾道又は粒子加速;リン酸カルシウム沈澱、及びウイルスベクターにより仲介されるトランスフェクションが含まれる。
【0127】
例えば、細胞はリポソーム輸送化合物、例えば、DOTAP(N−[l−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチル−アンモニウムメチルスルフェート、Boehringer-Mannheim )又はリポフェクチン(LIPOFECTIN)のような均等物でトランスフェクトし得る。使用される核酸の量は、本発明の実施には決定的ではない;0.1〜100マイクログラム核酸/10細胞で受容可能な結果が達成できる。例えば、10細胞当たり、3マイクログラムのDOTAP中に約0.5マイクログラムのプラスミドベクターの比で使用し得る。
【0128】
miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物は、いずれかの適した経腸又は非経口投与経路によっても対象に投与し得る。本方法のために適した経腸投与経路には、例えば、経口、直腸又は鼻孔内送達が含まれる。適した非経口投与経路には、例えば、血管内投与(例えば、静脈内ボーラス投与、静脈内注入、動脈内ボーラス投与、動脈内注入、及び血管系内へのカテーテル点滴注入);組織周辺及び組織内注射(例えば、腫瘍周囲及び腫瘍内注射、網膜内注射又は網膜下注射);皮下注入(浸透圧ポンプによるような)を含む皮下注射又はデポジション;カテーテル又は他の設置デバイス(例えば、網膜ペレット又は座剤、又は多孔質、非多孔質又はゲル状物質を含んでなる移植片)による目的の組織への直接適用;及び吸入が含まれる。特に適した投与経路は注射、注入及び腫瘍内への直接注射である。
【0129】
本方法において、miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物は、裸のRNAとして、送達試薬と組み合わせて、又は該miR遺伝子産物又は発現抑制化合物を発現する配列を含んでなる核酸(例えば、組換えプラスミド又はウイルスベクター)として該対象に投与し得る。適した送達試薬には、例えば、Mirus Transit TKO 親油性試薬;リポフ
ェクチン;リポフェクタミン;セルフェクチン;ポリカチオン(例えば、ポリリジン)及びリポソームが含まれる。
【0130】
該miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物を発現する配列を含んでなる組換えプラスミド又はウイルスベクター、及びこうしたプラスミド及びベクターを癌細胞に送達するための技術は本明細書で議論されている、及び/又は当該技術分野で公知である。
【0131】
特定の態様において、miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現阻害化合物(又はそれらをコードする配列を含んでなる核酸)を対象に送達するためにリポソームが使用される。リポソームは該遺伝子産物又は核酸の血中半減期を増加させることもできる。本発明で使用するために適したリポソームは、一般的に中性又は陰性に荷電したリン脂質及びコレステロールのようなステロールを含む、標準小胞形成脂質から形成し得る。脂質の選択は、所望のリポソームサイズ及び血流におけるリポソームの半減期のような因子の考慮により一般的に導かれる。例えば、それらの全開示が本明細書において援用される、Szoka et al. (1980), Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:467;及び米国特許第4,235,871、4,501,728
、4,837,028及び5,019,369 号に記載されているように、リポソームを作製するための多
様な方法は公知である。
【0132】
本方法で使用するためのリポソームは、リポソームに癌細胞を標的とさせるリガンド分子を含むことができる。腫瘍細胞抗原に結合するモノクローナル抗体のような、癌細胞に一般的なレセプターに結合するリガンドが好ましい。
【0133】
本方法で使用するためのリポソームは、単核マクロファージ系(「MMS」)及び細網内皮系(「RES」)によるクリアランスを避けるために修飾され得る。こうした修飾リポソームは、表面上又はリポソーム構造内に組み入れられたオプソニン化阻害部分を有する。特に好ましい態様において、本発明のリポソームはオプソニン化阻害部分及びリガンドの両方を含んでなることが可能である。
【0134】
本発明のリポソームの調製において使用のためのオプソニン化阻害部分は、典型的にはリポソーム膜へ結合された大きな親水性ポリマーである。本明細書で使用する、オプソニン化阻害部分がリポソーム膜に「結合されて」いるとは、例えば、膜それ自身内への脂溶性アンカーのインターカレーションにより、又は膜脂質の活性基への直接結合により化学的又は物理的に膜に結合されている場合である。これらのオプソニン化阻害親水性ポリマーは保護的表面層を形成し、MMS及びRESによるリポソームの取り込みを著しく減少させる;例えば、その全開示が本明細書において援用される米国特許第4,920,016号に記
載されているように。
【0135】
リポソームを修飾するために適したオプソニン化阻害部分は、好ましくは、約500〜約40,000ダルトン、及びより好ましくは約2,000〜約20,000ダルトンの平均分子量を有する水溶性ポリマーである。こうしたポリマーには、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリプロピレングリコール(PPG)又はそれらの誘導体;例えば、メトキシPEG及びPPG、又はPEG及びPPGステアレート;ポリアクリルアミド又はポリN−ビニルピロリドンのような合成ポリマー;直鎖状、分枝又は樹状のポリアミドアミン;ポリアクリル酸;多価アルコール、例えば、カルボキシ又はアミノ基が化学的に結合されたポリビニルアルコール及びポリキシリトール、ならびにガングリオシドGMlのようなガングリオシド、が含まれる。PEG、メトキシPEG又はメトキシPPG又はそれらの誘導体のコポリマーも適している。加えて、該オプソニン化阻害ポリマーは、PEGとポリアミノ酸、ポリサッカリド、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン又はポリヌクレオチドとのブロックコポリマーでもあり得る。該オプソニン化阻害ポリマーは、アミノ酸又はカルボン酸、例えば、ガラクツロ酸、グルクロン酸、マンノン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラゲナンを含有する天然のポリサッカリド;アミノ化ポリサッカリド又はオリゴサッカリド(直鎖又は分枝);又は、例えば、生じたカルボキシル基で繋がっている炭酸の誘導体と反応させたカルボキシル化ポリサッカリド又はオリゴサッカリドでもあり得る。好ましくは、オプソニン化阻害部分はPEG、PPG又はそれらの誘導体である。PEG又はPEG誘導体で修飾されたリポソームは、しばしば「PEG化リポソーム」と称される。
【0136】
オプソニン化阻害部分は、多数の公知の技術のいずれか一つによりリポソーム膜に結合し得る。例えば、PEGのN−ヒドロキシスクシニミドエステルはホスファチジル−エタノールアミン脂溶性アンカーへ結合することが可能であり、そして次ぎに膜へ結合される。同様に、デキストランポリマーは、Na(CN)BH及び30:12の比のテトラヒドロフラン及び水のような溶媒混合物を使用した60℃での還元的アミノ化を介して、ステアリルアミン脂溶性アンカーで誘導体化し得る。
【0137】
オプソニン化阻害部分で修飾されたリポソームは、循環系において無修飾リポソームよりも長く残存する。このような理由のため、こうしたリポソームはしばしば「ステルス」リポソームと称される。ステルスリポソームは、多孔質又は「漏出性」微小血管系から栄養を受けている組織で蓄積されることが知られている。それ故、こうした微小血管系欠陥により特徴付けられる組織、例えば、固形腫瘍はこれらのリポソームを効率的に蓄積するであろう;Gabizon, et al. (1988), Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 18:6949-53 を
参照されたい。加えて、RESによる減少した取り込みは、肝臓及び脾臓におけるリポソームの有意な蓄積を防止することにより、ステルスリポソームの毒性を低下させる。それ故、オプソニン化阻害部分で修飾されたリポソームは、該miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現阻害化合物(又はそれらをコードする配列を含んでなる核酸)を腫瘍細胞に送達するのに特に適している。
【0138】
該miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物は、当該技術分野で公知の技術に従って、それらを対象に投与することに先立って、しばしば「医薬」と称される医薬組成物として製剤し得る。従って、本発明は癌及び/又は骨髄増殖性障害を治療するための医薬組成物を包含する。
【0139】
一つの態様において、本発明の医薬組成物は、少なくとも一つのmiR遺伝子発現抑制化合物及び薬学的に許容できる坦体を含んでなる。特定の態様において、該少なくとも一つのmiR発現抑制化合物は、その発現が対照細胞よりも癌細胞で多いmiR遺伝子(即ち、上方調節されている)に特異的である。別の態様において、該miR遺伝子発現抑制化合物は、miR−101、miR−126、miR−99a、miR−99−prec、miR−106、miR−339、miR−99b、miR−149、miR−33、miR−135及びmiR−20から成る群より選択される一つ又はそれより多くのmiR遺伝子産物に特異的である。別の態様において、該miR遺伝子発現抑制化合物は、miR−101、miR−126、miR−106、miR−20及びmiR−135から成る群より選択される一つ又はそれより多くのmiR遺伝子産物に特異的である。さらに別の態様において、該miR遺伝子発現抑制化合物は、miR−106、miR−20及びmiR−135から成る群より選択される一つ又はそれより多くのmiR遺伝子産物に特異的である。
【0140】
他の態様において、該医薬組成物は、少なくとも一つのmiR遺伝子産物、又は単離された変異体又はそれらの生物学的に活性な断片の有効量、及び薬学的に許容できる坦体を含んでなる。一つの態様において、本発明は癌及び/又は骨髄増殖性障害を治療するための医薬組成物であり、ここで該癌及び/又は骨髄増殖性障害はMAFB遺伝子産物の過剰発現に関連している。この態様において、該医薬組成物は、MAFB遺伝子産物に結合する、及びその発現を減少させる少なくとも一つのmiR遺伝子産物を含んでなる。特定の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、MAFB遺伝子産物中のヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含んでなる。別の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−130a又は単離された変異体又はそれらの生物学的に活性な断片である。
【0141】
一つの態様において、本発明は癌及び/又は骨髄増殖性障害を治療するための医薬組成物であり、ここで該癌及び/又は骨髄増殖性障害はHOXA1遺伝子産物の過剰発現に関連している。この態様において、該医薬組成物は、HOXA1遺伝子産物に結合する、及びその発現を減少させる少なくとも一つのmiR遺伝子産物を含んでなる。特定の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、HOXA1遺伝子産物中のヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含んでなる。別の態様において、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−10a又は単離された変異体又はそれらの生物学的に活性な断片である。
【0142】
本発明の医薬組成物は少なくとも無菌で及び発熱物質が含まれていないことで特徴付けられる。本明細書で使用される「医薬製剤」は、ヒト及び獣医学使用のための製剤を含む。本発明の医薬組成物を製造するための方法は、例えば、その全開示が本明細書において援用される、Remington's Pharmaceutical Science, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1985) に記載されているように、当業者には自明である。
【0143】
本医薬組成物は、医薬として受容可能な坦体と混合された、少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又は該miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物をコードする配列を含んでなる少なくとも一つの核酸)(例えば、0.1〜90重量%)又はそれらの生理学的に受容可能な塩を含んでなる。特定の態様において、本発明の医薬組成物は追加の一つ又はそれより多くの抗癌剤(例えば、化学療法剤)を含んでなる。本発明の医薬製剤は、リポソームで被包されている少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又は、それらをコードする配列を含んでなる少なくとも一つの核酸)及び薬学的に許容できる坦体も含むことができる。一つの態様において、該医薬組成物は、miR−15、miR−16、miR−143及び/又はmiR−145ではないmiR遺伝子又は遺伝子産物を含んでなる。
【0144】
特に適した薬学的に許容できる坦体は、水、緩衝化水、通常の生理食塩水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸などである。
特定の態様において、本発明の医薬組成物は、ヌクレアーゼによる分解に耐性である該miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又は、該miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物をコードする配列を含んでなる少なくとも一つの核酸)を含んでなる。当業者は、例えば、2’位が修飾されている一つ又はそれ以上のリボヌクレオチドを該miR遺伝子産物内に取り込ませることにより、ヌクレアーゼ耐性である核酸を容易に合成し得る。適した2’修飾リボヌクレオチドには、フルオロ、アミノ、アルキル、アルコキシ及びO−アリルで2’位が修飾されているものが含まれる。
【0145】
本発明の医薬組成物は、慣用的医薬賦形剤及び/又は添加剤も含むことができる。適した医薬賦形剤には、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調節剤、緩衝剤及びpH調整剤が含まれる。適した添加剤には、例えば、生理学的生体適合性緩衝剤(例えば、トロメタミン塩酸塩)、キレート剤(例えば、DTPA又はDTPA−ビスアミドのような)又はカルシウムキレート錯体(例えば、カルシウムDTPA、CaNaDTPA−ビスアミドのような)の添加又は、随意に、カルシウム又はナトリウム塩の添加(例えば、塩化カルシウム、アスコビル酸カルシウム、グルコン酸カルシウム又は乳酸カルシウム)が含まれる。本発明の医薬組成物は液体形態での使用のために包装することができ、又は凍結乾燥することができる。
【0146】
本発明の固形医薬組成物のためには、慣用的無毒固体の薬学的に許容できる坦体を使用することができる;例えば、医薬用のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウムなど。
【0147】
例えば、経口投与のための固形医薬組成物は、上に列挙したいずれかの坦体及び賦形剤、及び10〜95%、好ましくは25%〜75%の該少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現阻害化合物(又は、それらをコードする配列を含んでなる少なくとも一つの核酸)を含み得る。エアロゾル(吸入)投与のための医薬組成物は、0.01〜20重量%、好ましくはl%〜10重量%の上記のようにリポソーム中に被包された該少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又は、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物をコードする配列を含んでなる少なくとも一つの核酸)、及び噴霧剤を含み得る。望むなら坦体も含ませ得る;例えば、鼻腔内送達のためのレシチン。
【0148】
本発明の医薬組成物は、一つ又はそれより多くの抗癌剤をさらに含んでなる。特定の態様において、該組成物は、少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又は、該少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物をコードする配列を含んでなる少なくとも一つの核酸)、及び少なくとも一つの化学療法剤を含んでなる。本発明の方法に適している化学療法剤には、限定されるわけではないが、DNAアルキル化剤、抗腫瘍抗生物質剤、抗代謝製剤、チューブリン安定化剤、チューブリン不安定化剤、ホルモンアンタゴニスト剤、トポイソメラーゼ阻害剤、タンパク質キナーゼ阻害剤、HMG−CoA阻害剤、CDK阻害剤、サイクリン阻害剤、カスパーゼ阻害剤、メタロプロテイナーゼ阻害剤、アンチセンス核酸、三重らせんDNA、核酸アプタマー及び分子的修飾ウイルス、細菌又は外毒素剤が含まれる。本発明の組成物に適した剤の例には、限定されるわけではないが、シチジンアラビノシド、メトトレキサート、ビンクリスチン、エトポシド(VP−16)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、シスプラチン(CDDP)、デキサメタゾン、アルグラビン、シクロホスファミド、サルコリシン、メチルニトロソ尿素、フルオロウラシル、5−フルオロウラシル(5FU)、ビンブラスチン、カンプトテシン、アクチノマイシンD、マイトマイシンC、過酸化水素、オキサリプラチン、イリノテカン、トポテカン、ロイコボリン、カルムスチン、ストレプトゾシン、CPT−Il、タキソール、タモキシフェン、ダカルバジン、リツキシマブ、ダウノルビシン、1−β−D−アラビノフラノシルシトシン、イマチニブ、フルダラビン、ドセタキセル及びFOLFOX4が含まれる。
【0149】
本発明は、抗癌剤を同定する方法も包含し、試験剤を細胞に提供すること、及び該細胞中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを測定することを含んでなる。一つの態様において、該方法は、試験剤を細胞に提供すること、及び癌細胞中(例えば、AMKL細胞中)の増加した発現レベルに関連する、少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを測定することを含んでなる。適した対照(例えば、対照細胞中の該miR遺伝子産物のレベル)と比較して癌において増加した発現レベルに関連している該miR遺伝子産物のレベルの減少は、試験剤が抗癌剤であることを示す。特定の態様において、癌細胞中で増加した発現レベルに関連する該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−101、miR−126、miR−99a、miR−99−prec、miR−106、miR−339、miR−99b、miR−149、miR−33、miR−135及びmiR−20から成る群より選択される。別の態様において、癌細胞中で増加した発現レベルに関連する該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−101、miR−126、miR−106、miR−20及びmiR−135から成る群より選択される。さらに別の態様において、癌細胞中で増加した発現レベルに関連する該少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR−106、miR−20及びmiR−135から成る群より選択される。一つの態様において、miR遺伝子産物は、一つ又はそれより多くのlet7a−2、let−7c、let−7g、let−7i、miR−7−2、miR−7−3、miR−9、miR−9−1、miR−10a、miR−15a、miR−15b、miR−16−1、miR−16−2、miR−17−5p、miR−20a、miR−21、miR
−24−1、miR−24−2、miR−25、miR−29b−2、miR−30、miR−30a−5p、miR−30c、miR−30d、miR−31、miR−32、miR−34、miR−34a、miR−34a prec、miR−34a−1、miR−34a−2、miR−92−2、miR−96、miR−99a、miR−99b prec、miR−100、miR−103、miR−106a、miR−107、miR−123、miR−124a−1、miR−125b−1、miR−125b−2、miR−126、miR−127、miR−128b、miR−129、miR−129−1/2 prec、miR−132、miR−135−1、miR−136、miR−137、miR−141、miR−142−as, miR−143、miR−146、miR−148、miR−149、miR−153、miR−155、miR−159−1、miR−181、miR−181b−1、miR−182、miR−186、miR−191、miR−192、miR−195、miR−196−1、miR−196−1
prec、miR−196−2、miR−199a−1、miR−199a−2、miR−199b、miR−200b、miR−202、miR−203、miR−204、miR−205、miR−210、miR−211、miR−212、miR−214、miR−215、miR−217、miR−221及び/又はmiR−223ではない。
【0150】
一つの態様において、該方法は、試験剤を細胞に提供すること、及び癌性細胞において減少した発現レベルに関連する少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを測定することを含んでなる。適した対照(例えば、対照細胞中の該miR遺伝子産物のレベル)と比較して該細胞における該miR遺伝子産物のレベルの増加は、試験剤が抗癌剤であることを示す。
【0151】
適した剤には、限定されるわけではないが、薬剤(例えば、低分子、ペプチド)及び生体高分子(例えば、タンパク質、核酸)が含まれる。該剤は、組換え的に、合成的に製造することが可能であり、又は天然源から単離する(即ち、精製する)ことができる。細胞へこうした剤を提供するための多様な方法(例えば、トランスフェクション)は当該技術分野では公知であり、こうした方法のいくつかは上に記載されている。少なくとも一つのmiR遺伝子産物の発現検出するための方法(例えば、ノーザンブロッティング法、インサイツハイブリダイゼーション、RT−PCR、発現プロファイリング)も当該技術分野では公知である。これらの方法のいくつかも本明細書に記載されている。
【0152】
本発明はここで以下の非制限実施例により例示されるであろう。
【実施例】
【0153】
特に断りのない限り、以下の材料及び方法を実施例で使用した。
材料及び方法
細胞株及びヒトCD34細胞
ヒト慢性骨髄性白血病(CML)急性転化細胞株K−562及びMEG−01は、American Type Tissue Culture (ATCC, Manassas, VA)から入手し、そしてペニシリン−ゲンタマイシンと伴に10%FBSを含有するRPMI 1640(GIBCO, Carlsbad, CA)中
、5%CO、37℃で維持した。ヒト巨核芽球性白血病細胞UT−7、及びCMK、及び急性転化LAMAにおける慢性骨髄性白血病(CML)はDSMZ(Braunsweig, Germany)から入手した。全ての細胞は、20%FBS及び抗生物質を含むRPMI培地164
0中で維持し、ただし因子依存性であるUT−7は、20%FBS及び5ng/ml GM−CSFを含むMEM−αで培養した。新鮮及び冷凍ヒト骨髄CD34細胞は、Stemcell Tevhnologies(Vancouver, B.C., Canada)から入手した。CD34抗原についてのFACS分析は、純度>98%であることを明らかにした。
【0154】
ヒト前駆CD34細胞培養
ヒト骨髄CD34細胞を、ヒトトランスフェリン、インスリン、ウシセリンアルブミン、ヒト低密度リポ蛋白及びグルタミンを補給したイスコフ改変ダルベッコ培地を含むSTEM培地(Stemcell Tevhnologies)中、最初の4日間は100ng/mlのヒト組換え型トロンボポエチン(TPO)、続いて100ng/mlのTPO、IL3、及びSCFの組み合わせ(サイトカイン混合物CC−200、Stemcell Tevhnologies )の存在下で増殖させた。初期細胞密度は100,000細胞/mlであった;週三回、細胞密度を100,000〜200,000細胞/mlに調節した。マイクロアレイ分析のために細胞の純度を増加させるため、細胞選別を培養10日目に実施した。細胞を抗ヒトCD34、抗ヒトCD41、抗ヒトCD61、及びそれらの各々のアイソタイプと氷上で45分インキュベートした。PBS3%FBSで2回洗浄後、細胞をFACS Aria 選別機を使
用し、まとめて2つの別々の集団に選別した;培養及びRNA抽出のためのCD34CD61及びCD34CD61細胞。選別した集団の純度は95%を超えていた。
【0155】
巨核球特徴付け
培養下のCD34前駆体のサイトスピン調製を実施し、巨核球分化誘導の間の異なった時点においてMay-Grunwald Giemsaで染色した。FACS分析のため、使用された一次
抗体は以下のものである:CD41A、CD61A、CD42B及びCD34、それらの各々のアイソタイプとともに(BD Pharmingen, San Diego, CA)。細胞数測定研究は、FACScalibur(BD Biosciences)及びCELLQUESTソフトウエア(BD Biosciences)を使用し、前に記載されているように実施した。
【0156】
RNA抽出、ノーザンブロッティング及びmiRNAマイクロアレイ実験
他に詳細に記載されているように、手順を実行した(Liu, C.G., et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci USA 101, 9740-9744)。生データを規格化し、GENESPRING 7.2 ソフトウエア(zcomSilicon Genetics, Redwood City, CA)で分析した。発現データは、同様の結果を与えるGENESPRING規格化オプション及びBIOCONDUCTORパッケージ(www.bioconductor.org)の全体の中央値規格化の両方を使用することにより中央値を中心とした。統計比較は、GENESPRING ANOVAツール、マイクロアレイの予測解析(PAM)、及びマイクロアレイの有意分析(SAM)ソフトウエア(www-stat.stanford.edu/〜tibs/SAM/index.html)を使
用することにより行った。
【0157】
逆転写酵素PCR(RT−PCR)、及びリアルタイムPCR
トリアゾール試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)で単離された全RNAは、DNAase処理後(Ambion, Austin, TX)、Superscript II(Invitrogen)を使用する逆転写により直接cDNAに加工した。比較リアルタイムPCRは三重に行った。以下の遺伝子のためのプライマー及びプローブはApplied Biosystems(Foster City, CA)から入手した:HOXA
1、HOXA3、HOXB4、HOXB5、及びHOXD10。遺伝子発現レベルは、ABI Prism 7900配列検出システム(Applied Biosystems)を使用して定量した。規格化は、18S RNAプライマーキットを使用することにより実施した。相対的発現は、コンピューター断層撮影(CT)法を使用することにより計算した。RT−PCRは次に示すオリゴヌクレオチドプライマーを使用することによっても実施した:
MAFB FW;5'-AACTTTGTCTTGGGGGACAC-3'(配列番号:499);
MAFB RW;5'-GAGGGGAGGATCTGTTTTCC-3'(配列番号:500);
HOXA1 FW;5'-CCAGGAGCTCAGGAAGAAGA GAT-3'(配列番号:501);及び
HOXA1 RW;5'-CCCTCTGAGGCATCTGATTGGGTTT-3'(配列番号:502)。
【0158】
ステムループRT−PCRによるmiRNAのリアルタイム定量化
pri−miRNAs 10a、miR−15a、miR16−1、miR−130a、miR−20、miR−106、miR−17−5、miR−181b、miR−99a、及びmiR−126についてのリアルタイム−PCRは記述されているように実施し
た(Chen, C, et al.(2005) Nucl. Acids Res. 33, el79)。18Sを規格化のために使用した。全試薬及びプライマーはApplied Biosystemsから入手した。
【0159】
生物情報学
異なって発現されたmiRNAのmiRNA標的予測は、TARGETSCAN (www.genes.mit.edu/targetscan)、MIRANDA(www.mskc.miRanda.org)及びPICTAR (www.pictar.bio.nyu.edu)ソフトウエアを使用して実施した。
【0160】
miRNA前駆体での細胞トランスフェクション
miRNA前駆体miR−10a及びmiR−130aはAmbionから購入した。500万のK562細胞を、Amaxa (Gaithesburg, MD)を使用し、10mlの総容量中、5μg
の前駆体オリゴヌクレオチドでヌクレオポレート(nucleoporate)した。該オリゴヌクレオチドの発現は、記述されているように、ノーザンブロット及びRT−PCRにより評価した。
【0161】
ルシフェラーゼレポーター実験
HOXA1及びMAFB遺伝子からの、miR−10a及びmiR−130aのための標的部位を含有する3’UTRセグメントを、各々、ゲノムDNAからのPCRにより増幅し、ルシフェラーゼの終止コドンのすぐ下流のXbaI部位を使用して、pGL3対照ベクター(Promega, Madison, WI)内に挿入した。特異的断片を発生させるため、以下のオリゴヌクレオチドプライマーの組を使用した:
MAFB FW 5'-GCATCTAGAGCACCCCAGAGGAGTGT-3'(配列番号:503);
MAFB RW 5'-GCATCTAGACAAGCACCATGCGGTTC-3'(配列番号:504);
HOXA1 FW 5'-TACTCTAGACCAGGAGCTCAGGAAGA-3'(配列番号:505)、及び
HOXA1 RW 5'-MCATTCTAGATGAGGCATCTGATTGGG-3'(配列番号:506)。
【0162】
QuikChange XL−部位特異的変異誘発キット(Stratagene, La Jolla, CA)を使用し、完全相補性の部位から、それぞれ5bp及び9bpの欠失を有する2つの挿入断片も発生させた。野生型(WT)及び変異体挿入断片は配列決定により確認した。
【0163】
巨核芽球急性発症細胞株(MEG−01)中のヒト慢性骨髄性白血病(CML)を、0.4μgのホタルルシフェラーゼレポートベクター及び0.08μgのウミシイタケルシフェラーゼ、pRL−TK(Promega)含有対照ベクターと、製造元のプロトコルに従って
リポフェクタミン2000(Invitrogen)を使用し、6ウェルプレート中でコトランスフ
ェクションした。各ウェルについて、10nMのプレmiR−130a及びプレmiR−10a前駆体(Ambion)を使用した。ホタル及びウミシイタケルシフェラーゼ活性は、トランスフェクション24時間後、二重ルシフェラーゼアッセイ(Promega)を使用して継
続的に測定した。
【0164】
ウエスタンブロット
miR−10a及びmiR−130aでトランスフェクトされたK562細胞、ならびに巨核球分化の異なった段階でのCD34細胞の全及び核タンパク質抽出物を、RlPA緩衝液又はNuclear 抽出キット(Pierce, Rockford, IL) を使用することにより抽出し
た。タンパク質発現は以下の一次抗体を用いるウエスタンブロッティングにより分析した:MAFB(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA) 、HOXA1(R&D Systems, Minneapolis, MN) 、β−アクチン及びヌクレオリン(Santa Cruz Biotechnology) 。適切
な二次抗体を使用した(Santa Cruz Biotechnology) 。
【0165】
実施例1:CD34前駆体のインビトロ巨核球分化間のmiRNA発現
特異的巨核球増殖因子(トロンボポエチン)及び非特異的サイトカイン(SCF及びI
L−3)の組み合わせを使用し、マイクロアレイ研究(図4)に適した、純粋で大量の巨核球子孫をCD34骨髄前駆体からインビトロで発生させることが可能であった。全RNAを、3つの異なったCD34前駆体から、サイトカインとの培養でのベースラインで及び10、12、14及び16日目に、miRNAチップ分析のために得た。最初に、CD34前駆体及び分化プロセス間の全ての時点でプールしたCD34分化巨核球間のmiRNAの発現を比較した。巨核球分化の間に激しく下方調節されている17のmiRNAが同定された(表1)。巨核球分化の間に統計的に有意に上方調節されたmiRNAはなかった。マイクロアレイの予測分析(PAM)を使用し、誤分類エラーなしに巨核球分化を予測する8のマイクロRNAを同定した:miR−10a、miR−10b、miR−30c、miR−106、miR−126、miR−130a、miR−132及びmiR−143。miR−143を除くこれらすべてのmiRNAは、マイクロアレイの有意分析(SAM)により同定された17のmiRNAに含まれていた。いくつかのmiRNAについてのノーザンブロット及びリアルタイムPCRは、miRNAチップ分析により得られた結果を確認した(図1)。
【0166】
巨核球形成の間、主としてmiRNAの下方調節が観察されたため、我々は、これらのmiRNAが分化に関連する標的遺伝子を遮断できないと仮定した。この仮説に沿うと、我々のシステムで激しく下方調節されているmiRNAは、巨核球分化に重要な役割を有する標的遺伝子であると予測される。巨核球形成においてよく知られた機能を有する転写因子の中で、RUNX−1(Elagib, K.E., et al. (2003) Blood, 101:4333-4341)、Fli−1 (Athanasoiu, M., et al. (1996) Cell Growth Differ. 7, 1525-1534) 、FLT1(Casella, I, et al. (2003) Blood 101, 1316-1323) 、ETV6(Hock, H., et al (2004) Genes Dev. 18:2336-2341) 、TAL1(Begley, C.G., and Green, A.R. (1999) Blood, 93:2760-2770) 、ETS1(Jackets, P., et al. (2004) J. Biol. Chem. 279:52183-52190) 及びCRK(Lannutti, B. J., et al (2003) Exp. Hematol. 12:1268-1274) は分化巨核球中で下方調節されているいくつかのmiRNAの推定標的である。さらに、これらの転写因子の各々は、その調節因子であると予測される一つより多くのmiRNAを有している。例えば、RUNXl(AMLl)は、miR−106、miR−181b、miR−101、let7d及びmiR−17−92クラスターの標的であると予測される。AML1を標的とすることが予測されるmiRNAの多重度は、調節のコンビナトリアルモデルを示唆している。
【0167】
我々は次ぎに、CD34前駆体からの巨核球分化プロセスの間の、miRNAの時間的発現を検討した。miR−223、miR−181、miR−155、miR−142、miR−15a、miR−16、miR−106及びmiR−17−92のクラスターのような造血組織中で記述されてきたmiRNAに焦点を当てた(図5)。miR−223の発現において連続的変化を観察した。最初、miR−223は巨核球分化の間に下方調節されるが、培養14日後、その発現はCD34前駆体に匹敵するレベルに戻る(図1C)。miR−15a及びmiR−16−1クラスターも、miR−223と同一パターンの発現をたどるが(図1D)、一方、miR−181b、miR−155、miR−106a、miR−17及びmiR−20は分化の間に下方調節された(図6)。miR−223及びmiR−15a/miR−16−lの発現の時間的変動は、段階特異的機能を示唆する。
【0168】
【表30】
【0169】
実施例2:MAFB転写因子はmiR−130aの標的である
3つの標的予測アルゴリズム(TARGETSCAN(www.genes.mit.edu/targetscan)、MIRANDA
(www.microrna.org/rniranda_new.htm1)及びPICTAR(www.pictar.bio.nyu.edu)) を使
用することにより、miR−130aが、巨核球分化の間に上方調節され、及びGATA1、SP1及びETS−1との相乗作用によりGPIIb遺伝子を誘導する転写因子、MAFB(Sevinsky, J.R., et al. (2004) Mol. Cell. Biol. 24, 4534-4545) を標的とす
ることが予測されることを同定した。この推定相互作用を調べるため、最初に、ベースライン及びサイトカイン刺激後における、CD34前駆体中のMAFBタンパク質及びm
RNAレベルを試験した(図2A)。インビトロでの巨核球分化の間、MAFBタンパク質が上方調節されることを観察した。PCRによるMAFBのためのmRNAレベルは分化で増加したけれども、この増加はそのタンパク質発現の強度とはよく相関していなかった。MAFBの発現及びmiR−130aの逆パターンは、さらに調べられたインビボ相互作用を示唆した。
【0170】
MAFBの3’UTRとmiR−130a間の直接相互作用を実証するため、このmiRNAと相互作用することが予測される3’UTR領域をルシフェラーゼベクター内に挿入した。この実験は、対照ベクターと比較して、約〜60%のルシフェラーゼ活性の抑制を明らかにした(図2B)。追加の対照実験として、相補的塩基の5つを欠く、MAFBのための変異標的mRNA配列を使用した。予期されるように、突然変異はmiR−130a及びその標的3’UTR間の相互作用を完全に消滅させた(図2B)。
【0171】
我々は、MAFB発現に対する、過剰発現しているmiR−130aのインビボ結果も決定した。プレmiR−130a及び陰性対照を、天然にMAFBを発現し及びmiR−130aを欠くK562細胞内に、エレクトロポレーションによりトランスフェクトした。プレmiR−130aのトランスフェクションは、48時間で該タンパク質 レベルの減少を生じたが、対照では生じなかった(図2C)。ノーザンブロッティングで、K562細胞中のmiR−130aの異所性発現がうまくいくことが確認された(図7)。
【0172】
実施例3:miR−10aはHOXB遺伝子発現と相関する
マウス胎児において、miR−10a、miR−l0b、及びmiR−196はHOX様パターンで発現され(Mansfield, J.H., et al. (2004) Nature 36, 1079-1083)、及び進化の間にそれらの「宿主」HOXクラスターに密接に従う(Tanzer, A., et al (2005) J. Exp. Zool. B Mol. Dev. Evol. 304B, 75-85) ことが報告されている。これらのデー
タは、パラログクラスターを横断した共通の調節要素を示唆している。miR−10aはHOXB遺伝子のクラスター内の染色体17q21に位置し(図8)、及びmiR−10bはHOXD遺伝子クラスター内の染色体2q31に位置している。miR−10a発現パターンがHOXBの発現と相関するかどうかを決定するため、HOXBクラスター中でmiR−10aに対して、それぞれ5’及び3’に位置している遺伝子であるHOXB4及びHOXB5について、RT−PCRを実施した。図8に示したように、HOXB4及びHOXB5発現はmiR−10aの発現と平行しており、共通の調節機構を示唆している。
【0173】
実施例4:MiR−10aはHOXA1を下方調節する
miRNAアレイ及びノーザンブロットにより、miR−10aが巨核球分化の間、激しく下方調節されることを決定した。興味深いことに、miR−10aについての推定標的として、いくつかのHOX遺伝子を観察した(表2)。それ故、miR−10aがHOX遺伝子を標的とすることができるかどうかを調べた。miR−10の予測されたHOX標的についてリアルタイムPCRを実施した:HOXA1、HOXA3及びHOXD−10。18S RNAで規格化後、CD34前駆体と比較して、巨核球分化の間に7倍HOXA1 mRNAが上方調節されることを観察した(図3A図9も参照されたい)。HOXA1タンパク質レベルも巨核球分化の間に上方調節されていた(図3B)。これらの結果は、巨核球分化におけるmiR−10aの下方調節とは激しい対照をなしており、miR−10aがHOXA1発現の抑制剤であり得ることを示唆している。miR−10aとHOXA1遺伝子の3’UTR配列との直接相互作用を示すため、材料及び方法で記載したルシフェラーゼレポーターアッセイを実施した。miRNA前駆体miR−10aが、HOXA1の3’UTR配列を含有するレポータープラスミドとともにMEG01細胞に導入された場合、ルシフェラーゼ活性の50%減少が観察された(図3C)。PICTAR (www.pictar.bio.nyu.edu) により予測された、miR−10a及びHOXA1 3’UT
R間の相補性の程度は図3Dに示されている。
【0174】
これらの発見をインビボで確認するため、ヌクレオポレーションを使用し、プレmiR−10a前駆体でK562細胞をトランスフェクトし、RT−PCRによりHOXA1 mRNA発現を、ウエスタンブロッティングによりHOXA1タンパク質レベルを測定した。成功した異所性miR−10aの発現がノーザンブロットにより示された(図3E)。miR−10a前駆体でトランスフェクトされたK562細胞についてはHOXA1のmRNA及びタンパク質レベルでの有意な減少が観察されたが、陰性対照では観察されなかった(図3F及び3G)。これらのデータは、インビトロ及びインビボで、miR−10aがHOXA1を標的とすることを示している。
【0175】
miR−196がHOXB8 mRNAの切断を誘発することが報告されており、HOX遺伝子発現の翻訳後制限機構を指し示している(Yekta, S., et al. (2004) Science, 304:594-596) 。ほとんど完全な相補性が存在するmiR−196−HOXB8相互作用とは対照的に、miR−10a及びヒトHOXA1 3’UTR間の塩基対形成の程度は準最適である(図4)。我々の結果は標的mRNAの分解を示しているが、このシステムにおいて、切断又は翻訳後抑制のどちらがHOXA1遺伝子の下方調節の主たる機構であるのかを決定するには、さらなる研究が必要である。マイクロアレイ分析を使用した従来の研究は、転写のレベルで多数の標的mRNA遺伝子がmiRNAにより下方調節されていることを示している(Lim, L.P., et al. (2005) Nature: 433,769-771) 。これらのデー
タは、標的分解が翻訳抑制及びmiR−標的複合体の細胞質プロセシング体への続いての再局在化の結果であるのか、又は一次事象であるのかどうかという疑問を生じさせる(Pillai, R. (2005) RNA 11, 1753-1761) 。
【0176】
実施例5:急性巨核芽球性白血病(AMKL)細胞株におけるmiRNAプロファイリング
巨核球分化の間の、CD34細胞のマイクロRNA発現プロファイルの同定後、巨核芽球性白血病において病原性役割を有することができる、異なって発現されたmiRNAを同定する目的でAMKL細胞株中のmiRNA発現を調べた。我々は最初に、4つのAMKL細胞株中のmiRNA発現を、インビトロCD34分化巨核球のものと比較した。マイクロアレイの有意分析(SAM)を使用し、CD34インビトロ分化巨核球のものと比較し、AMKL細胞株中で上方調節されている10のmiRNAを同定した(表3;表4も参照されたい)。これらのmiRNAは以下のものである(分化巨核球と比較して倍数増加の順に):miR−101、miR−126、miR−99a、miR−99−prec、miR−106、miR−339、miR−99b、miR−149、miR−33及びmiR−135。図10に示したように、RT−PCRにより結果が正当であることを確認した。PAMを使用し、CD34細胞中のmiRNA発現と、インビトロ分化巨核球及びAMKL細胞株を比較した(図10)。興味深いことに、白血病細胞株で上方調節されていた、巨核球分化シグナチャーに関与する5つのmiRNA(miR−101、miR−126、miR−106、miR−20及びmiR−135)を見出した表3、5及び6)。このプロファイルが単に該細胞の分化状態を示しているのか、又は真に病原性役割を有しているかどうかは、なお不明である。第二の仮説を支持することは、miR−106、miR−135及びmiR−20が、白血病に最も普通に関連する遺伝子の一つであるRUNXl(Nakao, M., et al. (2004) Oncogene 125, 709-719) を標的とすることを予期させる。さらに、RUNXlの突然変異が、急性骨髄性白血病を発症する性向を有する家族性血小板減少症において記載されている(Song, W.J., et al. (1999) Nat. Genet. 23, 166-175) 。
【0177】
【表31】
【0178】
ここに記載した結果は、巨核球形成の間、miRNAの下方調節があることを示している。仮定上、miRNAの下方調節は分化に関連する標的遺伝子を遮断しない。この仮説に沿うと、我々のシステムにおいて激しく下方調節されているmiRNAは、巨核球分化に重要な役割を有する遺伝子を標的とすることが予期される。それ故、miR−130aがMAFBを標的とし、及びmiR−10aがHOXA1を変調することを示した。HOXA1を標的とするのが予期される分化及び白血病の間、いくつかの異なって発現されたmiRNAを見出したという事実は、巨核球形成におけるHOXA1の機能を示唆している。この分化プロセスにおけるHOXA1の役割を定義するためには、増減研究が最終的に必要とされるであろう。我々の発見は、巨核球分化におけるmiRNAの発現を描いており、及び巨核球転写因子を標的化することによる、この系列のmiRNA変調についての役割を示唆している。さらに、巨核芽球性白血病細胞株において、miRNAの逆の発現が正常巨核球分化に関与していることを見出した。これらのデータは巨核球形成及び白血病におけるmiRNAのさらなる研究の出発点を提供する。
【0179】
【表32】
【0180】
【表33】
【0181】
【表34】
【0182】
三つの異なった細胞タイプ間に、miRNA発現の三つのパターンがある。第一のパタ
ーンは、CD34細胞中で高度に発現され、及びAMKL及び分化巨核球中で下方調節されるmiRNAにより定義される。miR−10a及びmiR−130aは発現のこのパターンに従う;しかしながら、miR−10aは、分化巨核球と比較してAMKLでは上方調節されている。第二のパターンは、AMKLでは上方調節されているが、CD34細胞及び分化巨核球においては下方調節さており、以下のmiRNAが含まれる:miR−126、miR−99、miR−101、let7A及びmiR−100。最後の二つのmiRNAはCD34細胞及び分化巨核球において等しく発現されており、miR−126、miR−99及びmiR−101からも明らかなように、むしろ発現の漸減を示している。最後のパターンにはmiRNA−106及びmiRNA−135−2が含まれ、それらはCD34細胞及びAMKLにおいて上方調節されているが、しかし分化巨核球中では少ない。
【0183】
マイクロRNAは非翻訳RNAの高度に保存されたクラスであり、増殖、アポトーシス、発生及び分化において重要な調節機能を有する。本明細書に記載したように、巨核球分化間の新規調節経路を発見するため、CD34造血前駆体に由来する、インビトロ分化巨核球のマイクロRNA発現プロファイリングを実施した。一つの主要な発見は、miR−10a、miR−126、miR−106、miR−10b、miR−17及びmiR−20の下方調節であった。いずれか一つの理論に束縛されるものではないが、マイクロRNAの下方調節は、分化に関与する標的遺伝子を遮断しないと考えられている。miR−130aは、GPIIBプロモーターの活性化に関与し、血小板生理機能のために鍵となるタンパク質である、転写因子MAFBを標的とすることがインビトロ及びインビボで確認された。加えて、分化巨核球におけるmiR−10a発現は、HOXA1の発現とは逆であり、及びHOXA1がmiR−10aの直接標的であることが示された。最後に、巨核芽球性白血病細胞株のマイクロRNA発現がインビトロ分化巨核球及びCD34前駆体中のその発現と比較された。この分析は、癌性細胞株におけるmiR−101、miR−126、miR−99a、miR−135及びmiR−20の上方調節を明らかにした。本明細書に記載したデータ及び結果は、巨核球形成間のマイクロRNAの発現を描いており、巨核球転写因子を標的化することによる、このプロセスでのマイクロRNAの調節的役割を示している。
【0184】
明確に援用されていなかった、本明細書で引用されたすべての出版物の関連する教示は、その全体が本明細書において援用される。本発明はそれらの好ましい態様に関して特定的に示され及び記述されてきたが、付随する特許請求の範囲により包含される本発明の範囲から離れることなく、形態及び詳細の多様な変更をその中で行えることを当業者は理解するであろう。
【0185】
本発明は多様な及び好ましい態様を参照して記載されてきたが、本発明の本質的範囲から離れることなく、多様な変更を行うことができ、及びそれらの要素を置換することができることを当業者は理解しなければならない。加えて、本発明の本質的範囲から離れることなく、本発明の特定の状況又は材料を本発明の教示に適応させるために多くの修飾を行うことができる。それ故、本発明は、この発明を実施するために企図された、本発明で開示された特定の態様に限定されるものではなく、本発明は特許請求の範囲内に含まれるすべての態様を含むであろうことが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0186】
本特許又は出願ファイルは少なくとも一つのカラーで仕上げられた図を含む。カラーの図を含むこの特許又は特許出願印刷物のコピーは、依頼及び必要な料金の支払い後、本事務所により提供されるであろう。
図1-1】図1A〜1Dは、CD34前駆体分化実験におけるマイクロRNAチップデータの正当性を確認しているノーザンブロット及びリアルタイムmiRNA−PCR結果を示している。図1Aは、miR−130a、miR−10a及びmiR−223についてのノーザンブロットを示している。負荷したRNA対照は、U6で実施した。図1Bは、miR−10a、miR−106、miR−126及びmiR−I30aについてのRT−miRNA−PCRを示しているグラフである。miRNA発現は、培養前のCD34細胞に対する差違倍数(fold difference)として示されている。図1Cは、マイクロアレイによるmiR−223の時間的発現を描いているグラフである。
図1-2】図1Dは、RT−miRNA PCRによるmiR−15−1及びmiR−16−1の時間的発現を描いているグラフである。
図2-1】図2A〜2Cは、MAFBがmiR−130aの標的であることを示している。図2Aは、巨核球分化へ誘導されたCD34前駆体中の、MAFB mRNA及びタンパク質発現データを示している。β−アクチンが、RT−PCR及びウエスタンブロット負荷対照のために使用された。
図2-2】図2Bは、miR−10aと、PGL3 3’UTR MAFB、PGL3 3’UTRを有するmiR−10a、miR−10aシードマッチ(seed match)変異及び変異を有するスクランブル(scramble)、及び野生型3’UTR MAFBでコトランスフェクトしたMEG01細胞中のルシフェラーゼ活性の相対的抑制を示しているグラフである。図2Cは、miR−130a及びスクランブルでトランスフェクトしたK562細胞中のMAFB全タンパク質溶解物のウエスタンブロットを示している。
図3-1】図3A〜3Gは、RNA切断を仲介することにより、MiR−10aがHOXA1を下方調節することを示している。図3Aは、分化巨核球におけるHOXA1遺伝子発現についてのRT−PCR結果を示しているグラフである(ベースラインでのCD34前駆体に対する、転写体の相対量)。
図3-2】図3Bは、分化巨核球におけるHOXA1タンパク質発現を示しているウエスタンブロットである。図3Cは、miR−10a及び対照スクランブルでコトランスフェクトされた、HOXA1 3’UTRクローン化PGL3レポータープラスミドのルシフェラーゼ活性の相対的抑制を示しているグラフである。図3Dは、PICTAR により予測されたmiR−10a及びHOXA1 3’UTR間の相補性を示している図である。
図3-3】図3Eは、スクランブル及びmiR−10a前駆体でトランスフェクトされたK562細胞中の、miR−10a遺伝子発現についてのRT−PCR結果を示している。図3Fは、スクランブル及びmiR−10a前駆体トランスフェクトK562細胞に中のHOXA1遺伝子発現についてのRT−PCR結果を示している。図3Gは、対照スクランブル及び前駆体miR−10aでトランスフェクトされたK562細胞中のHOXA1発現を示しているウエスタンブロットである。
図4A図4A及び4Bは、インビトロ分化CD34前駆体の表現型特徴付け結果を示している。図4Aは、異なった培養日数(6日、10日、12日及び14日)で、培養下のCD34前駆体からのサイトスピン調製物に実施されたMay-Giemsa 染色を示している。高い核小体:細胞質比から明らかなように、4日目ではほとんどの細胞は未成熟であった。10日目までにより大きな及び多核の細胞が観察された。14日目、主として、長い細胞質プロセス及び陥入及び空胞を含む多数の膜小疱(原倍率400X)を有するより大きな倍数細胞が観察された。
図4B図4Bは、インビトロ分化巨核球におけるCD34のFACS分析を示している。培養下で増殖されたCD34前駆体細胞の膜表現型が示されている。細胞を10(D+10)、14(D+14)及び16(D+16)日目に採取し、抗CD41抗体、抗CD61抗体、抗CD42a抗体及びそれぞれのアイソタイプ モノクローナル抗体(D+10アイソタイプ;D+14アイソタイプ;D+16アイソタイプ)を使用する単一蛍光標識により分析した。二重標識は、14日目のみに、抗CD4la及びCD61bモノクローナル抗体で実施した。
図5図5は、分化巨核球におけるmiR−20及びmiR−17についてのRT−PCR発現結果を示している。結果は18S及びデルタCt計算で規格化後の、ベースラインでのCD34細胞に対する差違倍数として表されている。
図6-1】図6Aは、巨核球分化の間の、miR−16−1の時間的発現を示しているグラフである。miR−16−1の絶対発現値は、チップごとの中央値規格化により決定された。図6Bは、巨核球分化の間の、miR−142の時間的発現を示しているグラフである。miR−142の絶対発現値は、チップごとの中央値規格化により決定された。
図6-2】図6Cは、巨核球分化の間の、miR−181bの時間的発現を示しているグラフである。miR−181bの絶対発現値は、チップごとの中央値規格化により決定された。
図7図7は、miR−130a前駆体及びmiR−130aのためのプローブとハイブリダイズされたスクランブル配列でトランスフェクトされたK562細胞から得られた全RNAのノーザンブロットである。RNA負荷対照はU6ハイブリダイゼーションを使用して実施した。
図8図8は、HOXA、HOXB、HOXC及びHOXD遺伝子クラスター中に存在するマイクロRNAを示している概略図である。
図9A図9Aは、分化巨核球におけるHOXB4遺伝子発現を示しているグラフである。HOXB4についてのRT−PCR結果は、ベースライン(培養前)でのCD34細胞に対して、発現レベルの差違倍数として示されている。
図9B図9Bは、分化巨核球におけるHOXB5遺伝子発現を示しているグラフである。HOXB5についてのRT−PCR結果は、ベースライン(培養前)でのCD34細胞に対して、発現レベルの差違倍数として示されている。
図10図10は、RT−PCRによる、急性巨核芽球細胞株におけるマイクロRNA発現を示しているグラフである。結果は18S及びデルタCt計算で規格化後の、CD34分化巨核球に対する差違倍数として表されている。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4A
図4B
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9A
図9B
図10