【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をより明瞭かつ詳細に説明する。本発明の概念は、本明細書に記載された例示的な態様に限定されることなく、様々な形態に具体化することができる。周知事項に関する記載は、明瞭性を担保するため、省略する。本明細書を通じて、同じ参照符号は、同じ要素を意味するものとする。
【0031】
<実施例1>
316多孔質ステンレスからなる基材(以下「316PSS」と称する)を、Li
+およびAl
3+を含む塩基性溶液に1時間浸漬した後、乾燥させた。Li
+およびAl
3+を含む塩基性溶液を調製する際には、まず、約0.1〜0.4gのLi−Al金属間化合物をセラミック製の乳鉢で粉砕して、粒径が約100〜1000μmの粉体を得た。本実施例では、Li含有量は、Li−Al金属間化合物の全質量を基準にして、約18〜21質量%であった。次いで、Li−Al金属間化合物の粉体を不活性ガス(例えば、アルゴンガスまたは窒素ガス)で気泡攪拌した100mLの純水に入れた。Li−Al金属間化合物の粉体は、ガス曝露後の純水と反応することにより、その大部分が当該純水に溶解した。攪拌を数分間続けた。そして、孔径No.5Aのフィルターを用いて、不純物を除去することにより、Li
+およびAl
3+を含む清澄な塩基性溶液が得られた。本実施例では、Li
+およびAl
3+を含む塩基性溶液は、pH値が約11.0〜12.3、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)で測定されたLi
+濃度が約200〜600ppm、Al
3+濃度が約200〜1100ppmであった。上記の浸漬工程および乾燥工程を再度繰り返して、連続相を有する水酸化アルミニウム層を形成した。この水酸化アルミニウム層は、十分な厚さを有していた。また、この水酸化アルミニウムは、リチウムを含む層状複水酸化物構造を有していた。つまり、多孔質基材である316PSSの表面上に、リチウムを含むアルミニウム水酸化物からなる層状複水酸化物(以下「Li−Al LDH」と称する)をコーティングしてなるLi−Al LDH/316PSSが得られた。Li−Al LDH層の厚さは、約3μmであった。
【0032】
次いで、Li−Al LDH/316PSSを450℃で2時間焼成することにより、Li−Al LDH層を、リチウムを含む酸化アルミニウム(Al
2O
3)層に変換させた。本実施例では、得られた酸化アルミニウム層の大部分は、γ相を有していた。それゆえ、以下、本実施例の修飾された多孔質基材を「γ−Al
2O
3/316PSS」と称する。
【0033】
次いで、酸化アルミニウム層上にパラジウム膜を形成した。パラジウム層を形成する際には、まず、γ−Al
2O
3/316PSSを、SnCl
2、脱イオン水、PdCl
2、0.01M HCl、および脱イオン水に順次浸漬して活性化させた。次いで、活性化したγ−Al
2O
3/316PSSをパラジウムイオン含有溶液に浸漬して無電解めっきを行い、316PSS上にリチウムを含む酸化アルミニウム層およびその上に形成されたパラジウム層を有する316PSSサンプル(以下「Pd/γ−Al
2O
3/316PSS」と称する)を得た。Pd/γ−Al
2O
3/316PSSのパラジウム膜の厚さは、約11.5μmであった。
【0034】
316PSS、Li−Al LDH/316PSS、γ−Al
2O
3/316PSS、Pd/γ−Al
2O
3/316PSSのヘリウム透過流束(helium permeation flux)、およびPd/γ−Al
2O
3/316PSSの水素透過率(hydrogen permeance)を、それぞれ室温および400℃で測定した実験結果を下記の表1に示す。γ−Al
2O
3/316PSSのヘリウム透過流束は、316PSSのヘリウム透過流束に比べて、約半分に減少した。γ−Al
2O
3/316PSS上にパラジウム層をめっきした後、Pd/γ−Al
2O
3/316PSSの水素透過率400℃で合計3回測定をしたところ、約52〜54Nm
3/m
2・hr・atm
0.5の水素透過率が得られた。また、水素とヘリウムとの選択率(H
2/He)は、約261〜321であった。
【0035】
【表1】
【0036】
クロスハッチ試験(ASTM D3359)を用いて、γ−Al
2O
3/316PSSに対するパラジウム層の付着性を試験した。まず、カッターでパラジウム層上にクロスハッチングを入れた。次いで、クロスハッチングを入れたパラジウム層上に専用のテープを3分間貼付した。最後に、テープを貼付した方向から180℃反転した方向に、テープを剥がした。その結果、カッターでクロスハッチングを入れた箇所以外の領域におけるパラジウム層は、γ−Al
2O
3層に完全に付着していた。かくして、本発明に従って形成されたγ−Al
2O
3層とパラジウム層とは、互いに良好な付着性を示し、316PSSとパラジウム層とについても、良好な結合が可能になった。
【0037】
<実施例2>
まず、多孔質基材である316PSSに、実施例1と同様のLDH構造を形成するための方法を3回繰り返すことにより、316PSSの表面をLi−Al LDH層でコーティングした。以下、このように処理された多孔質基材を「Li−Al LDH/316PSS」と称する。
【0038】
次いで、Li−Al LDH/316PSSを焼成した。焼成は、炉内に窒素ガスを導入しながら、約3℃/分の昇温速度で昇温することにより行った。温度が600℃に達した段階で、この温度を12時間維持した後、結晶水、Li−Al LDH層の炭酸イオンと水酸化物イオンを除去して、Li−Al LDH層を、リチウムを含む酸化アルミニウム(Al
2O
3)層に変換させた。本実施例では、得られた酸化アルミニウム層の大部分は、γ相を有していた。以下、本実施例の修飾された多孔質基材を「γ−Al
2O
3/316PSS」と称する。
【0039】
次いで、実施例1と同様の無電解めっき法を用いて、γ−Al
2O
3/316PSSの表面にパラジウム層を形成した。かくして、γ−Al
2O
3層と、その上に形成されたパラジウム層を順次有する316PSSサンプル(以下「Pd/γ−Al
2O
3/316PSS」と称する)が得られた。
【0040】
表2に、ヘリウム透過流束測定の実験結果を示す。この測定は、316PSS、Li−Al LDH/316PSS、γ−Al
2O
3/316PSS、Pd/γ−Al
2O
3/316PSSを異なる条件で比較するために、約1気圧の圧力差を用いて、室温、0.01Nm
3/m
2・hrよりも小さいヘリウム透過流束で行った。水素透過率の測定は、400℃で行い、H
2/He選択性の測定は、約4気圧の圧力差、400℃で行った。実験結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
実験結果は、多孔質基材である316PSSをLi−Al LDH層で修飾することにより、ヘリウム透過流束が287.19Nm
3/m
2・hrから0.0239Nm
3/m
2・hrに減少したことを示している。しかし、600℃で焼成することにより、Li−Al LDH層の結晶水、炭酸イオン、水酸化物イオンを除去すると、ヘリウム透過流束は、0.0239Nm
3/m
2・hrから116.23Nm
3/m
2・hrに増大した。次いで、ヘリウム透過流束が約0.01Nm
3/m
2・hr程度に小さくなり、かつ重量法で測定した厚さが約13.84μmとなるまで、無電解めっき法を行うことにより、γ−Al
2O
3/316PSS上にパラジウム層を形成した。パラジウム層をコーティングしたγ−Al
2O
3/316PSSを、さらに、400℃のような高温の水素含有周囲環境下に置いた。その後のヘリウム透過流束を、例えば、1〜4気圧などの異なる圧力差で測定した。圧力差の平方根とヘリウム透過流束との関数グラフをプロットすることにより、約64.58Nm
3/m
2・hr・atm
0.5の傾き(つまり、水素透過率)と、H
2/He選択率230が得られた。
【0043】
<実施例3>
まず、多孔質基材である316PSSの表面孔にアルミナ粒子を充填した。アルミナ粒子の平均粒径は、10μmであった。以下、このように処理された多孔質基材を「Al
2O
3/316PSS」と称する。次いで、実施例1と同様のLDH構造を形成するための方法を3回繰り返すことにより、Al
2O
3/316PSSの表面をLi−Al LDH層でコーティングした。以下、このように処理された多孔質基材を「Li−Al LDH/Al
2O
3/316PSS」と称する。
【0044】
次いで、Li−Al LDH/Al
2O
3/316PSSを焼成した。焼成は、炉内に窒素ガスを導入しながら、約3℃/分の昇温速度で昇温することにより行った。温度が600℃に達した段階で、この温度を12時間維持した後、結晶水、Li−Al LDH層の炭酸イオンと水酸化物イオンを除去して、Li−Al LDH層を、リチウムを含む酸化アルミニウム(Al
2O
3)層に変換させた。本実施例では、得られた酸化アルミニウム層の大部分は、γ相を有していた。以下、本実施例の修飾された多孔質基材を「γ−Al
2O
3/Al
2O
3/316PSS」と称する。
【0045】
次いで、実施例1と同様の無電解めっき法を用いて、γ−Al
2O
3/Al
2O
3/316PSSの表面にパラジウム層を形成した。かくして、孔内にアルミナ粒子が充填され、γ−Al
2O
3層と、その上に形成されたパラジウム層を順次有する316PSSサンプル(以下「Pd/γ−Al
2O
3/Al
2O
3/316PSS」と称する。)が得られた。
【0046】
表3に、ヘリウム透過流束測定の実験結果を示す。この測定は、Al
2O
3/316PSS、Li−Al LDH/Al
2O
3/316PSS、γ−Al
2O
3/Al
2O
3/316PSS、Pd/γ−Al
2O
3/Al
2O
3/316PSSを異なる条件で比較するために、約1気圧の圧力差を用いて、室温、0.01Nm
3/m
2・hrよりも小さいヘリウム透過流束で行った。水素透過率の測定は、400℃で行った。H
2/He選択性の測定は、約4気圧の圧力差、400℃で行った。
【0047】
【表3】
【0048】
実験結果は、多孔質基材である316PSSにアルミナ粒子を充填した後、Li−Al LDH層で修飾することにより、ヘリウム透過流束が290.01Nm
3/m
2・hrから0.0525Nm
3/m
2・hrに減少したことを示している。しかし、600℃で焼成することにより、Li−Al LDH層の結晶水、炭酸イオン、水酸化物イオンを除去すると、ヘリウム透過流束は、0.0525Nm
3/m
2・hrから123.91Nm
3/m
2・hrに増大した。次いで、ヘリウム透過流束が約0.01Nm
3/m
2・hr程度に小さくなり、かつ重量法で測定した厚さが約9.16μmとなるまで、無電解めっき法を行うことにより、γ−Al
2O
3/Al
2O
3/316PSS上にパラジウム層を形成した。パラジウム層をコーティングしたγ−Al
2O
3/Al
2O
3/316PSSを、さらに、400℃のような高温の水素含有周囲環境下に置いた。その後のヘリウム透過流束を、例えば、1〜4気圧などの異なる圧力差で測定した。圧力差の平方根とヘリウム透過流束との関数グラフをプロットすることにより、約82.30Nm
3/m
2・hr・atm
0.5の傾き(つまり、水素透過率)と、H
2/He選択率407が得られた。
【0049】
パラジウム層の緻密化が同様であるという条件下で、平均粒径10μmのアルミナ粒子が充填され、かつγ−Al
2O
3層で修飾された316PSSについて、パラジウム層の所望厚さは、パラジウムの所望量が約33.8%だけ減少するほど薄かった。また、パラジウム層の厚さが減少したことに起因して、水素透過率は、約27%増加した(例えば、実施例2の64.58Nm
3/m
2・hr・atm
0.5から実施例3の82.30Nm
3/m
2・hr・atm
0.5)。H
2/He選択性は、約77%増加した(例えば、実施例2の230から実施例3の407)。したがって、316PSS上にγ−Al
2O
3層を直接コーティングして修飾された316PSSに比べて、γ−Al
2O
3層を316PSS上にコーティングする前に316PSSの表面の孔に平均粒径10μmのAl
2O
3粒子を充填することにより修飾された316PSSは、パラジウム層の水素透過率およびH
2/He選択性が向上し、パラジウム層の所望厚さが減少した。
【0050】
本発明による多孔質基材の修飾方法により形成された修飾層は、多孔質基材に対する高い付着性を示した。修飾層上には、ガス選択層を形成することができる。多孔質基材、修飾層およびガス選択層の組合せは、特定のガス分離に適用するガス分離モジュールとして用いることができる。また、修飾層に対するガス選択層(実施例では、パラジウム層)の付着性が向上した。したがって、本発明による多孔質基材の修飾方法を用いて、多孔質基材上に修飾層を形成することにより、多孔質基材とガス選択層との結合を向上させることができる。さらに、修飾層の所望厚さは、滑らかな表面を得るために修飾層を形成する前に、多孔質基材の孔内に粒子を充填することにより減少させることができる。充填された粒子と多孔質基材との付着性を修飾層により向上させることにより、ガス分離モジュールの寿命低下を防止し、付着不良に起因する低効率の水素精製を回避することができる。さらに、修飾層を多孔質基材上に直接形成するか、あるいは、粒子を充填した後で多孔質基材上に形成するかは問題ではない。多孔質基材上に形成された修飾層は、密度が比較的小さい。修飾層上にガス選択層を、例えば、めっき法により形成した場合、ガス選択層は、修飾層に侵入し、水素の透過経路を増加させることができる。したがって、水素透過実験を高温で行うと、水素透過率がより高いという結果が得られる。
【0051】
本明細書に記載された方法や材料について様々な修正や変更が可能であることは、当業者に明らかである。実施例を含めて本明細書の記載は、単なる例示であって、本発明を限定することを意図するものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびそれらの均等物により示されるものである。