特許第5778666号(P5778666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778666
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】タンパク質複合体の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/18 20060101AFI20150827BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20150827BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20150827BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150827BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   C07K1/18
   C07K14/195
   C07K14/435
   A61K39/00 H
   A61P31/00
   A61P35/00
   A61K37/02
【請求項の数】11
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2012-515567(P2012-515567)
(86)(22)【出願日】2010年6月21日
(65)【公表番号】特表2012-530123(P2012-530123A)
(43)【公表日】2012年11月29日
(86)【国際出願番号】GB2010051023
(87)【国際公開番号】WO2010146401
(87)【国際公開日】20101223
【審査請求日】2013年6月20日
(31)【優先権主張番号】0910591.7
(32)【優先日】2009年6月19日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】511306996
【氏名又は名称】イミュノバイオロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】コラコ カミロ
(72)【発明者】
【氏名】ビグネル コリン リチャード
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−512288(JP,A)
【文献】 特表2005−529124(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0031661(US,A1)
【文献】 特表平11−513369(JP,A)
【文献】 特表平10−506628(JP,A)
【文献】 Ion Exchange Chromatography and Chromatofocusing Principles and Methods,Amersham Biosciences,2004年,p.34-50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のストレスタンパク質とポリペプチドとの間で形成される標的ストレスタンパク質複合体の精製方法であって、
(i)前記標的ストレスタンパク質複合体を含む供給源混合物を準備する工程と、
(ii)前記標的ストレスタンパク質複合体の等電点(pI)を決定する工程と、
(iii)前記ストレスタンパク質複合体を含む前記供給源混合物から、浄化された細胞可溶化液を調製する工程と、
(iv)工程(iii)の前記浄化された細胞可溶化液を、イオン交換を使用する精製にかける工程であって、イオン交換の間、前記浄化された細胞可溶化液は、少なくとも1つの二価の陽イオンを含む一次バッファーを用いて、前記標的ストレスタンパク質複合体のpIの2単位以内のpHまで緩衝化され、前記標的ストレスタンパク質複合体の混合物を溶出するために塩勾配を与える二次バッファーが使用される工程と、
を含む方法。
【請求項2】
溶出される前記標的ストレスタンパク質複合体は、異なるストレスタンパク質のクラスの複数のストレスタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(iv)の前記一次バッファーは、アデノシン二リン酸をさらに含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アデノシン二リン酸は、0.1mM〜100mMの濃度で与えられ、前記二価の陽イオンは、0.1mM〜100mMの濃度で与えられる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの二価の陽イオンはマグネシウム塩および/またはマンガン塩を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記一次バッファーは、アデノシン三リン酸(ATP)、ATPアーゼおよび/またはカリウムまたはカリウム塩のうちの少なくとも1つを欠く、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記一次バッファーは、カオトロープ、界面活性剤、尿素または両性電解質を含まない、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記標的ストレスタンパク質複合体は、4.5〜6.5のpIを有する複合体を含む分画として溶出される、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記標的タンパク質複合体の前記ポリペプチドは、典型的に感染症を引き起こす病原生物に由来する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法によって得られる精製された標的ストレスタンパク質複合体を含む溶出物分画または可溶化液を含むワクチン組成物。
【請求項11】
感染症または癌性状態または悪性状態の処置のためのワクチン組成物の調製における、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法によって得られる精製された標的ストレスタンパク質複合体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質複合体の精製のための新規な方法論に関する。特に、ペプチド断片に結合された熱ショックタンパク質を含むタンパク質複合体の精製方法が提供される。本発明は、さらに、ワクチン組成物の調製、ならびに感染症および癌の予防および処置のためのそのワクチン組成物の使用における、精製されたタンパク質複合体の使用に及ぶ。
【背景技術】
【0002】
ワクチン接種は、感染症および癌という全世界的なヘルスケア上の負担に対処するための好ましいアプローチとして広く受け容れられている。しかしながら、感染症および癌に関する分子生物学の理解における著しい進歩にもかかわらず、これらの領域における有効なワクチンの開発は限られている。開発された最も有効なワクチンは、生の、弱毒化された生物を使用するが、しかしながら、病原性に復帰するこのような弱毒化された病原体に関連する安全性リスクは、それらの使用の広がりを制限してきた。より効果的なワクチンの広い規模での開発および使用を妨げるさらなる主要な障害は、微生物病原体のバリアント株に対して特異的に幅広い防御免疫を引き出すであろう、候補となる病原体由来のタンパク質を特定する能力が限られていることである。
【0003】
幅広い、防御免疫をもたらす見込みを示す1つの特定のアプローチは、ストレスタンパク質複合体を感染症および癌に対するワクチンとして使用することである(非特許文献1および非特許文献2)。熱ショックタンパク質/抗原ペプチド複合体が、特定の癌に対するワクチンとして有効であるということについても、すでに数多い文書がある(特許文献1;特許文献2、特許文献3、特許文献4および特許文献5)。熱ショックを与えたBCG細胞から単離された病原体由来のストレスタンパク質複合体は、ワクチン接種を受けた宿主において1型ヘルパーT(Th1)リンパ球介在性免疫応答を誘導し、これより、肺結核のマウスのエアロゾル抗原投与モデルにおいて生の抗原投与に対する防御免疫をもたらすということが示されている(特許文献6)。さらに、特許文献7、特許文献8および特許文献9において、病原体または病原体に感染した細胞から単離されたストレスタンパク質複合体は、感染症に対するワクチン内の免疫原決定基として有効であるということが示されている。
【0004】
熱ショックタンパク質(hsp、HSP)は、植物界および動物界全体にわたって広く分布している高度に保存されたタンパク質のファミリーを形成する。それらの分子量に基づいて、主要な熱ショックタンパク質は、以下の6つの異なるファミリーにグループ分けされる:低分子(small)(hsp20−30kDa);hsp40;hsp60;hsp70;hsp90;およびhsp100。熱ショックタンパク質は、熱ストレスに曝された細胞においてもともと特定されたが、熱ショックタンパク質は、感染、浸透ストレス、サイトカインストレスなどの多くの他の形態のストレスと関連するということが見出された。従って、熱ショックタンパク質は、それらの発現は単に熱ストレスによってのみ引き起こされるわけではないということに基づいて、一般に、ストレスタンパク質(SP)とも呼ばれる。hsp60ファミリーのメンバーとしては、主要なシャペロンGroELが挙げられる。これらは、GroESなどのシャペロン補助因子と多量体複合体を形成する。多くの微生物病原体は、GroELとは別個の複合体を形成するさらなるhsp60ファミリーを有し、いくつかのhsp60ファミリーのメンバーは、マイコバクテリウムのhsp65など、より免疫原性でありうる。hsp70ファミリーのメンバーとしては、DnaJなどのシャペロン補助因子と多量体複合体を形成することができるDnaKが挙げられる。他の主要なhspとしては、AAA ATPアーゼ(ATPase)、Clpタンパク質、Trigger factor(トリガーファクター)、Hip、HtpG、NAC、Clp、GrpE、SecBおよびprefoldin(プレフォルジン)が挙げられる。
【0005】
ストレスタンパク質は、原核細胞および真核細胞の両方において遍在的に発現され、原核細胞および真核細胞において、ストレスタンパク質は、ポリペプチドの折り畳みおよびアンフォールディング(unfolding)においてシャペロンとして機能する。ストレスタンパク質のさらなる役割は、ペプチドを1つの細胞区画から別の細胞区画へと同伴して運ぶ(chaperone)ことであり、罹患した細胞の場合は、ストレスタンパク質は、シャペロンウイルスペプチドまたは腫瘍関連ペプチドを細胞表面へと同伴して運ぶことも知られている。
【0006】
ストレスタンパク質のシャペロン機能は、ストレスタンパク質とシャペロンポリペプチドとの間の複合体の形成を通して成し遂げられる。シャペロンポリペプチドは、ペプチド断片を含んでもよく、このような複合体の形成はATP依存性ヌクレオチド交換系によって制御され、これは、細菌性Hsp70相同体、DnaKについて最も明確に示された(非特許文献3)。簡潔に言えば、その静止期の細胞状態において、DnaKはATP(アデノシン三リン酸)に結合されており、基質に対する低い親和性を有する(非特許文献4)。ATP加水分解は、DnaKから高親和性ADP(アデノシン二リン酸)状態への変換を生じ、DnaK−ADP−基質複合体の形成を生じる。ここでは、基質は、典型的にはポリペプチドまたはタンパク質である。ADP解離後、ATPはDnaKに再結合して、立体構造変化を生じ、これが、正しく折り畳まれた基質タンパク質を当該複合体から遊離させるということを誘発する(非特許文献5;非特許文献6;非特許文献3)。基質の遊離を生じるこの最後の工程は、ATPの結合に加えて、カリウム(K)およびマグネシウム(Mg2+)を必要とするということが示されている(非特許文献6;非特許文献7)。
【0007】
このストレスタンパク質と複合体を形成している異種のポリペプチドまたはポリペプチド断片は、ストレスタンパク質−ペプチド複合体を形成する。これは、熱ショックタンパク質複合体(HspC)と呼ばれることがある。HspCは、抗原提示細胞(APC)によって捕捉され、免疫系のTリンパ球への細胞表面提示のための主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子上へと負荷されうる抗原ペプチドの源を提供する。
【0008】
熱ショックタンパク質/抗原ペプチド断片複合体(HspC)は、癌ワクチンとして広く研究されてきており(例えば特許文献1および特許文献2を参照)、従って腫瘍細胞からのHspCの単離のための方法が、そのような腫瘍に対する有効なワクチンとして使用するために、開発されてきた。例えば、特許文献10は、ヘパリンに対する熱ショックタンパク質の結合親和性に基づいて、タンパク質複合体を精製する際に使用するための方法を開示する。この2工程アプローチには、ヘパリン親和性クロマトグラフィ、およびその後の、ストレスタンパク質複合体調製物を得るためには任意であるイオン交換クロマトグラフィ工程が関与する。特許文献11は、Con A Sepharoseを使用するHSP70ストレスタンパク質複合体の精製に関する。しかしながら、これらの方法は、熱ショックタンパク質の個々のファミリーの単離に終わり、それゆえ複数のシャペロンタンパク質をワクチンとして使用することを念頭に置いていない。
【0009】
HspCを癌ワクチンとして使用することは、複数のシャペロンタンパク質、特に熱ショックタンパク質の使用によって著しく改善される可能性があり(Bleifussら、2008)、従って複数のシャペロンタンパク質およびシャペロンタンパク質複合体の精製のための方法が、ワクチンにおける使用のために、開発されてきた。例えば特許文献12は、癌ワクチンとして使用するために、腫瘍からHspCを精製するための、フリー溶液(free−solution)等電点電気泳動法(FS−IEF)の使用を開示する。フリーフロー等電点電気泳動法(FF−IEF)は、感染症の予防および処置のためのワクチン組成物の中の免疫原決定基として使用するために病原体および感染した細胞から熱ショックタンパク質/ペプチド複合体を単離するために使用することができる。しかしながら、その技術の重大な限界は、大きい、工業的規模の、GMP対応のワクチン製造のために必要とされるであろう量の熱ショックタンパク質/ペプチド複合体(HspC)を生産するための大規模なFF−IEF機器の開発に伴う困難であった。さらに、FF−IEFプロセスの際に必要とされるpH勾配を生成するための両性電解質(アンフォライン)の使用は、得られた、精製されたHspC含有調製物の中への、カオトロープに加えて、さらなる混入物質の導入を生じる。このような混入物質は、監督官庁には受け容れられないので、HspC含有ワクチン組成物の製造におけるFF−IEF方法論の使用に重大な障壁となる。興味深いことに、これらの発明者らは、プロセスバッファーの中の二価の陽イオンおよびADPの不存在下であっても、FF−IEF精製の際に使用される尿素および洗浄剤などのカオトロープを使用する際でさえも、HspCの安定性を報告する(Bleifussら、2008)。加えて、フリーフロー等電点電気泳動法のプロセスは遅く、典型的な実行時間は4時間であり、この間に高レベルのタンパク質分解が生じ、これが、精製されたタンパク質複合体の大規模な生産におけるFF−IEFの使用を大きく制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,997,873号明細書
【特許文献2】米国特許第5,935,576号明細書
【特許文献3】米国特許第5,750,119号明細書
【特許文献4】米国特許第5,961,979号明細書
【特許文献5】米国特許第5,837,251号明細書
【特許文献6】国際公開第01/13944号パンフレット
【特許文献7】国際公開第02/20045号パンフレット
【特許文献8】国際公開第00/10597号パンフレット
【特許文献9】国際公開第01/13943号パンフレット
【特許文献10】国際公開第02/28407号パンフレット
【特許文献11】国際公開第02/34205号パンフレット
【特許文献12】米国特許第6,875,849号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Colacoら、Biochem Soc Trans、2004年、第32巻、626−628頁
【非特許文献2】Zengら、Cancer Immunol Immunother、2006年、第55巻、329−338頁
【非特許文献3】Szaboら、PNAS、1994年、第91巻、10345−10349頁
【非特許文献4】Pallerosら、PNAS、1991年、第88巻、5719−5723頁
【非特許文献5】Pallerosら、J Biol Chem、1992年、第267巻、第8号、5279−5285頁
【非特許文献6】Pallerosら、Nature、1993年、第365巻、第6447号、664−6頁
【非特許文献7】Pallerosら、FEBS Letters、1993年、第336巻、第1号、124−128頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
精力的な実験ののち、本発明者らは、ワクチン製造のために安全に使用することができる複数のストレスタンパク質−ペプチド複合体を精製するために使用することができる熱ショックタンパク質/ペプチド複合体(HspC)などのストレスタンパク質−ペプチド複合体の改善された精製方法を特定した。この方法論は、等電点よりはむしろ表面電荷に基づいてタンパク質複合体を分離する。特に、ペプチド断片と複合体を形成している熱ショックタンパク質などのストレスタンパク質を含むタンパク質複合体の迅速精製を可能にする精製方法であって、精製された産物の収量が、商業的に許容できる量の、ワクチン組成物の調製における使用のためのタンパク質複合体の調製を許容するに十分である、ある精製方法が特定された。有利なことに、この精製されたタンパク質複合体は、薬学的に許容できないまたは望ましくない添加剤または成分が精製プロセスの間に導入されないため、ワクチン調製物の調製において使用することができる。具体的には、本発明者らは、当該ストレスタンパク質複合体に関する分解、または部分的解離を防止する特定のバッファー条件の必要性を特定した。それゆえ、この精製方法は、有利なことに、当該精製されたタンパク質複合体に対する免疫応答を引き出すためにワクチン組成物の中で使用されるとき、精製されたタンパク質複合体の解離および機能喪失を減少または改善し、他方で、同時に、精製を受けているタンパク質複合体の溶解性を増大させるためのカオトロープまたは他の化学物質(界面活性剤など)を使用する必要性を取り除く。非常に驚くべきことに、本発明の方法論を使用して精製された熱ショックタンパク質/抗原ペプチド複合体(HspC)富化調製物(HEP)は、本発明のバッファー条件を使用しない標準的な方法論を使用して単離された類似の複合体に対して引き出された免疫と比較して、ワクチン接種を受けた被験者において著しく増進された免疫を引き出した。本発明者らは、ワクチン調製物の調製における使用のための本発明の精製されたタンパク質複合体の有用性は、細胞可溶化液が、アデノシン二リン酸(ADP)および少なくとも1つの二価の陽イオンを含有するバッファーの中で緩衝化され、または特定の実施形態では、少なくとも1つの二価の陽イオンのみを使用するバッファーの中で緩衝化されるとき、さらに増進されうるということをさらに特定した。さらには、少なくとも1つの二価の陽イオンおよび任意にアデノシン二リン酸(ADP)を含むバッファーと併用した、本発明の改善された方法を使用して精製された熱ショックタンパク質/抗原ペプチド複合体(HspC)富化調製物(HEP)は、当該複合体が投与された被験者において、さらに大きい防御免疫応答を引き出した。
【0013】
本発明の第1の態様によれば、ストレスタンパク質とポリペプチドとの間で形成されるストレスタンパク質複合体の、供給源混合物からの精製方法が提供される。この方法は、
(i)ポリペプチドと複合体を形成しているストレスタンパク質を含む少なくとも1つの標的ストレスタンパク質複合体を含む供給源混合物を準備する工程と、
(ii)この供給源混合物から精製されることになる少なくとも1つの標的ストレスタンパク質複合体の等電点(pI)を決定する工程と、
(iii)特定されたこの標的ストレスタンパク質複合体を含む供給源混合物から、浄化された細胞可溶化液を調製する工程と、
(iv)この細胞可溶化液を、イオン交換を使用する精製にかける工程であって、この細胞可溶化液は、少なくとも1つの二価の陽イオンを含む一次バッファーを用いて、当該標的ストレスタンパク質複合体のpIの2単位以内のpHまで緩衝化され、二次バッファーが、標的ストレスタンパク質複合体の混合物を溶出するために使用される塩勾配を与える工程と、
を含む。
【0014】
特定の実施形態では、この一次バッファーは、アデノシン二リン酸(ADP)および/またはアデノシン二リン酸模倣物をさらに含む。特定のさらなる実施形態では、この少なくとも1つの二価の陽イオンは、マグネシウム塩、典型的には塩化マグネシウム(MgCl)、またはマンガン塩である。なおさらなる実施形態では、この二価の陽イオンは、約0.1mM〜約100mMの濃度で与えられる。1つの実施形態では、当該バッファーは、二価の陽イオンとしてマグネシウム塩、典型的には塩化マグネシウム(MgCl)のみを含む。特定の実施形態では、アデノシン二リン酸は、約0.1mM〜100mMの濃度で与えられる。
【0015】
特定の実施形態では、この一次バッファーは、少なくとも1mMの濃度の塩化マグネシウム(MgCl)および少なくとも1mMの濃度のアデノシン二リン酸(ADP)を含む。特定の実施形態では、このバッファーは、HEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)をさらに含み、これは、約50mMの濃度で存在してもよい。このバッファーは、約pH 6.8のpHを有してもよい。
【0016】
特定のさらなる実施形態では、この一次バッファーは、少なくとも1つの二価の陽イオンを含むが、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)、ATPアーゼおよび/またはカリウムもしくはカリウム塩のうちの少なくとも1つを欠く。1つの実施形態では、このバッファーは、二価の陽イオンとしてマグネシウム塩、典型的には塩化マグネシウム(MgCl)のみを含む。
【0017】
特定のさらなる実施形態では、この一次バッファーは、カオトロープ、界面活性剤および/または両性電解質のうちの少なくとも1つを欠く。カオトロープ(カオトロピック剤、またはカオトロピック試薬としても知られる)としては、尿素、グアニジン塩酸塩および過塩素酸リチウムが挙げられる。カオトロープは、タンパク質変性剤として作用し、タンパク質を折り畳まれていない状態にさせてその結果生じる三次元構造の変化を引き起こすことが知られている。両性電解質は、酸性基および塩基性基の両方を含有する分子である。両性電解質は、特定範囲のpHでは、ほとんど双性イオン(正味電荷はゼロである化合物)として存在する。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤(SDSなど)、陽イオン性界面活性剤(CTAC、HTABおよびDTABなど)、非イオン性界面活性剤(Tween 20など)、および双性イオン性界面活性剤(DAPSなど)を挙げてもよい。特定の実施形態では、当該一次バッファーは、さらに、アデノシン三リン酸(ATP)、ATPアーゼ、カリウム、またはカリウム塩のうちの少なくとも1つを欠く。
【0018】
特定の実施形態では、溶出される標的ストレスタンパク質複合体の混合物は、異なる熱ショックタンパク質のクラスの複数のストレスタンパク質を含む調製物として提供される。
【0019】
従って、有利なことに、本発明の方法論は、精製されたストレスタンパク質複合体の混合物であって、このストレスタンパク質の混合物は異なるストレスタンパク質複合体を含む、混合物を提供する。つまり、このストレスタンパク質複合体のストレスタンパク質成分は、複数の(すなわち1より多い)熱ショックタンパク質のクラスまたはファミリー由来の混合物であり、例えば、それは、クラスHSP60、HSP70および/またはHSP90由来、または真核細胞もしくは病原細胞の中に存在する任意の他の熱ショックタンパク質のクラス由来の熱ショックタンパク質の混合物であってもよい。具体的には、病原体細胞、または病原体に感染した細胞の細胞可溶化液の中に存在する任意のストレスタンパク質複合体は、本発明の方法によって精製することができ、それゆえ最終の精製された生成物の中に存在する。この異なる熱ショックタンパク質の混合物は、後のワクチン組成物の中の免疫原決定基としてのこの精製された複合体の投与により、免疫化された宿主によって当該ワクチン組成物に対して引き出される増進された免疫応答を生じるので、重要である。この増進された免疫応答は、被験者が免疫化されつつある病原体に対して改善された長期の防御免疫をもたらす。
【0020】
従って、特定の態様では、本発明は、病原細胞、病原体に感染した細胞、または腫瘍細胞から得られる細胞可溶化液から、複数のストレスタンパク質複合体を精製および/または単離する方法に及ぶ。典型的には、このストレスタンパク質複合体は、異なるストレスタンパク質のクラスのストレスタンパク質を含む。その後、この精製および/もしくは単離されたストレスタンパク質複合体、またはこの精製および/もしくは単離されたストレスタンパク質複合体を含む調製物もしくは混合物は、典型的には、当該可溶化液が由来する病原体または腫瘍細胞に対する、または当該可溶化液が由来する細胞を感染させている病原体に対する免疫応答および関連する防御免疫を引き出すためのワクチン組成物の中の免疫原決定基として使用することができる。従って、このような方法は、
(i)当該特定された標的ストレスタンパク質複合体を含む供給源混合物由来の浄化された細胞可溶化液を準備する工程と、
(ii)この細胞可溶化液を、イオン交換を使用する精製にかける工程であって、この細胞可溶化液は、少なくとも1つの二価の陽イオンを含むバッファーを使用して、標的ストレスタンパク質複合体のpIの2単位以内のpHまで緩衝化され、この標的ストレスタンパク質複合体を溶出するために塩勾配が使用される工程と、
(iii)複数のストレスタンパク質複合体を含む富化調製物を得る工程と、
を含むことになろう。
【0021】
特定の実施形態では、複数のストレスタンパク質複合体または複数のストレスタンパク質複合体を含む調製物もしくは混合物を精製および/または単離することは、ストレスタンパク質の異なるファミリー由来のストレスタンパク質を含み、従って当該精製された産物は、ストレスタンパク質複合体の混合物を含有し、このストレスタンパク質は、異なるストレスタンパク質ファミリーに由来してよく、例えば、この精製された混合物は、ペプチドと複合体を形成する複数の異なる熱ショックタンパク質のタイプを含んでもよい。
【0022】
特定のさらなる態様では、本発明は、ワクチン組成物を調製するための、ワクチン組成物の中の免疫原決定基としての、本発明の方法に従って実施される精製方法論、典型的にはイオン交換精製、特にイオン交換クロマトグラフィ、または本発明に係るバッファー溶液を使用する精製方法論から得られる精製された分画または混合物の使用に及ぶ。
【0023】
バッファー溶液
特定のさらなる態様では、本発明は、タンパク質精製方法、特にイオン交換クロマトグラフィなどのイオン交換を実施することにおける使用のためのバッファー溶液に及ぶ。ここで、当該精製方法論は、複数のストレスタンパク質複合体を細胞または細胞培養液由来のタンパク質性の混合物から単離および/または分離するために、その細胞または細胞培養液由来のタンパク質性の混合物の精製、単離および/または分離に基づき、当該バッファー溶液は、少なくとも1つの二価の陽イオンを含む。特定の実施形態では、この少なくとも1つの二価の陽イオンは、マグネシウム塩、典型的には塩化マグネシウムである。さらなる適切な二価の陽イオンは本願明細書に開示される。特定の実施形態では、当該バッファーは、アデノシン二リン酸(ADP)をさらに含む。特定の実施形態では、当該バッファーは、アデノシン三リン酸(ATP)、ATPアーゼ、カリウム、またはカリウム塩、カオトロープ、両性電解質および界面活性剤のうちの少なくとも1つ、またはすべてを欠く。
【0024】
ワクチン組成物
種々のさらなる態様では、本発明は、ワクチン組成物、または免疫応答を媒介するもしくは引き出す組成物であって、本発明の方法によって得られる精製されたHspC富化可溶化液または精製および/もしくは単離された複数のストレスタンパク質複合体、あるいは本発明の方法によって得られる精製されたHspC富化可溶化液または精製および/もしくは単離された複数のストレスタンパク質複合体を含む調製物もしくは混合物を含む、ワクチン組成物または免疫応答を媒介するもしくは引き出す組成物に及ぶ。このワクチン組成物は、病原体に対する防御免疫をもたらすために、典型的には、哺乳動物、特にヒトに投与される。しかしながら、異なる種由来のストレスタンパク質間の広く認められた高レベルの相同性に起因して、ワクチン組成物は、実に様々な動物にワクチン接種をするために使用されてもよい。
【0025】
従って、本発明のさらなる態様は、免疫原決定基として、本発明によって得られる精製されたHspC富化溶出物分画または可溶化液を含むワクチン組成物を提供する。好ましい実施形態では、本発明は、本発明の精製方法によって得られる精製されたストレスタンパク質−ポリペプチド複合体(HspC)富化溶出物分画または可溶化液を含むワクチン組成物であって、当該可溶化液は、少なくとも1つの二価の陽イオンを含むバッファーの中で緩衝化されているワクチン組成物を提供する。当該バッファーは、アデノシン二リン酸をさらに含んでもよい。特定の実施形態では、このバッファーは、ATPおよび/またはカリウムを欠く。
【0026】
なおさらなる態様は、被験者において免疫応答を引き出すことにおける使用のためのワクチン組成物であって、免疫原決定基は、本発明の精製方法を使用して得られる精製および/もしくは単離された複数のストレスタンパク質複合体またはその精製および/もしくは単離された複数のストレスタンパク質複合体を含む調製物もしくは混合物である、ワクチン組成物を提供する。具体的には、本発明の精製方法は、源となるタンパク質性の混合物から精製されたストレスタンパク質複合体の安定性およびそれゆえ抗原性を改善するための本願明細書に記載されるバッファー溶液を使用する等電点クロマトグラフィを含む。
【0027】
特定の実施形態では、当該精製された複数のストレスタンパク質複合体は、当該ワクチン組成物が、免疫原決定基として、当該ワクチン組成物の免疫原決定基としての精製および単離された複合体を含むように、単離されてもよい。
【0028】
特定のさらなる態様では、本発明は、医薬における使用のための、本発明に係るワクチン組成物の使用、または本発明の方法論を使用して得られるストレスタンパク質/ペプチド複合体の精製および/もしくは単離された混合物の使用を提供する。
【0029】
特定のさらなる態様では、本発明は、感染症または癌性状態もしくは悪性状態の処置のための医薬の調製における、ストレスタンパク質−ペプチド複合体の精製された混合物またはストレスタンパク質−ペプチド複合体の精製された混合物を含む調製物の使用を提供する。
【0030】
特定のさらなる態様では、本発明は、感染症または癌性状態もしくは悪性状態の処置または予防のためのワクチン組成物における使用のための、本発明の第1の態様の方法によって精製される複数のストレスタンパク質−ペプチド複合体またはその複数のストレスタンパク質−ペプチド複合体を含む調製物もしくは混合物を提供する。
【0031】
特定の実施形態では、この精製および単離されたストレスタンパク質複合体またはこの精製および単離されたストレスタンパク質複合体を有するワクチン組成物は、予防的ワクチンとして投与される。特定のさらなる実施形態では、この精製されたストレスタンパク質複合体、この精製されたストレスタンパク質複合体を含む調製物、またはこの精製されたストレスタンパク質複合体を含有するワクチン組成物は、治療ワクチンとして投与される。
【0032】
種々のさらなる態様では、本発明は、典型的には感染によってまたは一次ワクチンの以前の投与に起因して被験者がこれまでに曝露されたことがある病原体または癌抗原に対して、宿主において生成された免疫応答を増進させるための追加免疫ワクチン(booster vaccine)としての、当該精製および単離されたストレスタンパク質複合体の使用、または当該精製および単離されたストレスタンパク質複合体を含む調製物もしくは混合物、または当該精製および単離されたストレスタンパク質複合体を含有するワクチン組成物、に及ぶ。
【0033】
本発明の組成物は、凍結乾燥されてもよいし、または水性形態、すなわち溶液もしくは懸濁液の状態にあってもよい。この種の液体製剤によって、当該組成物を、水系媒体の中で再構成する必要なしにその包装された形態から直接投与することが可能になり、従って、この種の液体製剤は注入にとっては理想的である。組成物は、バイアルの中で提供されてもよいし、または組成物は、充填済み注射器(ready filled syringe)の中で提供されてもよい。この注射器は、針とともにまたは針なしで供給されてもよい。注射器は、当該組成物の単回投与分を含むことになろうが、他方でバイアルは、単回投与または複数回投与分(例えば、2回投与分)を含んでもよい。
【0034】
特定の実施形態では、本発明に係るワクチン組成物が、ヒト被験者の許容できる百分率のための各抗原成分についての抗体保有率(seroprotection)の基準をしのぐ抗体価をもたらすように、本発明に係るワクチン組成物は、被験者へのインビボ投与用に製剤化される。これは、その集団全体にわたるワクチンの有効性の評価において重要な試験である。超えると宿主がその抗原に対して抗体陽転すると考えられる関連抗体価を有する抗原は周知であり、そのような抗体価は、WHOなどの機関によって公開されている。1つの実施形態では、被験者の統計的に有意な試料のうちの80%超が抗体陽転し、別の実施形態では、被験者の統計的に有意な試料のうちの90%超が抗体陽転し、さらなる実施形態では、被験者の統計的に有意な試料のうちの93%超が抗体陽転し、なお別の実施形態では、被験者の統計的に有意な試料のうちの96〜100%が抗体陽転する。各ワクチン用量の中の抗原の量は、典型的なワクチンにおいて著しい有害な副作用なしに免疫防御反応を引き起こす量として選択される。このような量は、どの特定の免疫原が用いられるかに応じて変わるであろう。特定の実施形態では、当該ワクチン組成物は、Th1リンパ球細胞介在性免疫応答も引き出してよい。このような免疫応答は、細胞内病原体から被験者を防御するとき、望ましい。特定の実施形態では、本発明の精製されたストレスタンパク質複合体を含むワクチン組成物は、細胞介在性および体液性(抗体介在性)免疫応答の両方を含む、宿主における免疫応答を引き出す。
【0035】
種々のさらなる態様では、本発明は、ワクチン組成物を製造するための方法であって、本発明の精製されたストレスタンパク質複合体または当該精製されたストレスタンパク質複合体を含む調製物もしくは混合物を、少なくとも1つの薬学的に許容できる賦形剤、担体または希釈剤と一緒に混合する工程を含む方法を提供する。本発明の1つの実施形態では、Bordetella pertussis(ボルデテラ・パータシス、百日咳菌)、Clostridium tetani(破傷風菌、クロストリジウム・テタニ)、Clostridium difficile(クロストリジウム・ディフィシル)、Corynebacterium diphtheriae(ジフテリア菌、コリネバクテリウム・ジフテリエ)、Haemophilus influenzae(ヘモフィルス・インフルエンザエ、インフルエンザ菌) b、Mycobacterium tuberculosis(マイコバクテリウム・ツベルクローシス、結核菌)およびライ菌、Salmonella typhi(サルモネラ・チフィ、チフス菌)、Streptococcus pneumonia(ストレプトコッカス・ニューモニエ、肺炎球菌)、Vibrio Cholerae(ビブリオ・コレラエ、コレラ菌)およびNeisseria meningitides(ナイセリア・メニンギティディス、髄膜炎菌)を含む(が、これらに限定されない)群から選択される病原性バクテリアによる感染によって引き起こされる疾患などの病原性疾患の処置または予防のための医薬における使用のためのワクチン組成物が提供される。本発明のさらなる実施形態では、インフルエンザウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、HIV、HPV、RSV、ポリオーマウイルス、CMV、EBV、ロタウイルス、ノロウイルスおよびSARSウイルスを含む(が、これらに限定されない)群から選択される病原性ウイルスまたは発癌性ウイルスによる感染によって引き起こされる疾患などの病原性疾患の処置または予防のための医薬における使用のためのワクチン組成物が提供される。本発明のなおさらなる実施形態では、癌および腫瘍性疾患の処置または予防のための医薬における使用のためのワクチン組成物が提供される。
【0036】
加えて、Bordetella pertussis(ボルデテラ・パータシス、百日咳菌)、Clostridium tetani(破傷風菌、クロストリジウム・テタニ)、Clostridium difficile(クロストリジウム・ディフィシル)、Corynebacterium diphtheriae(コリネバクテリウム・ジフテリエ、ジフテリア菌)、Haemophilus influenzae(ヘモフィルス・インフルエンザエ、インフルエンザ菌) b型、Mycobacterium tuberculosis(マイコバクテリウム・ツベルクローシス、結核菌)およびライ菌、Salmonella typhi(サルモネラ・チフィ、チフス菌)、Vibrio Cholerae(コレラ菌、ビブリオ・コレラエ)、Streptococcus pneumonia(ストレプトコッカス・ニューモニエ、肺炎球菌)、Neisseria meningitidis(ナイセリア・メニンギティディス、髄膜炎菌)ならびに病原性ウイルスおよび発癌性ウイルスによって引き起こされる疾患に対して被験者、典型的にはヒトを免疫化する方法であって、その宿主に免疫防御用量の本発明のワクチンを投与することを含む方法が、さらに提供される。
【0037】
各ワクチン用量の中の抗原(すなわち免疫原決定基)の量は、ワクチン接種を受けた被験者において著しい有害な副作用なしに免疫防御反応を誘導する量として選択される。抗原の量は、どの特定の免疫原が用いられるか、およびその特定の免疫原がどのように提示されるかに応じて変わるであろうが、しかしながら、本発明の精製された複合体に対して媒介される増進された免疫応答は、当該技術分野で公知の精製方法を使用して得られるある量のタンパク質複合体を含むワクチン組成物と比較して、同様の量の本発明の方法論を使用して精製された複合体に対して、増進された免疫応答が介在されるであろうということを意味することになる、ということは理解されるであろう。
【0038】
本発明は、病原体由来の感染症または癌性状態もしくは悪性状態に対する免疫を誘導するために被験者にワクチン接種する方法における、当該精製されたHspC富化可溶化液、または当該精製されたHspC富化可溶化液由来の単離されたストレスタンパク質の使用をさらに提供する。
【0039】
従って、本発明のなおさらなる態様は、病原体由来の感染症または癌性状態に対して被験者にワクチン接種する方法であって、
免疫原決定基として、本発明の方法に従って得られる精製されたストレスタンパク質複合体富化調製物を含むワクチン組成物を準備する工程であって、この精製されたストレスタンパク質富化調製物は、癌性細胞、病原体、または防御免疫が所望される病原体に感染した細胞に由来し、かつ当該精製された調製物の中に混合物として異なるストレスタンパク質の種類を含む、工程と、
このストレスタンパク質複合体富化調製物を含むワクチン組成物を、当該ストレスタンパク質複合体富化調製物に対して当該被験者において免疫応答を引き出すのに十分な治療上有効量または予防上有効量で被験者に投与する工程と、
を含む方法を提供する。
【0040】
本願明細書で使用する場合、用語「ワクチン組成物」は、のちの抗原投与(challenges)、病原性バクテリア感染または腫瘍形成に対して免疫系がより良好に反応することができるように、免疫系を刺激する免疫原決定基を含有する任意の組成物を意味する。ワクチンは、通常、免疫原決定基および任意に佐剤を含有し、この佐剤は、免疫原決定基に対する免疫応答を非特異的に増進させる役割を果たすということはわかるであろう。
【0041】
特定の実施形態では、上記被験者は、動物、典型的にはヒトである。また本発明の方法は、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタおよび鳥類などの他の動物の処置のためのワクチン組成物における使用のためのストレスタンパク質複合体を精製するために使用することもできる。
【0042】
特定の実施形態では、本発明の精製されたストレスタンパク質複合体(HspC富化調製物)が由来する微生物病原体は、その微生物病原体が疾患または感染を引き起こすことに基づいて選択されてもよい。本発明によって提供されるワクチン組成物は、予防的にまたは治療的に使用されてもよい。しかしながら、本発明者らは、当該組成物は、それらの生産の経済性ならびに当該ペプチド、またはペプチドおよびストレスタンパク質が由来する病原体に対して防御免疫応答を引き出す高い能力に起因して、予防的ワクチンとして特に有用である可能性があるということを認識している。
【0043】
本発明者らは、さらに驚くべきことに、本発明の方法を使用して得られるストレスタンパク質−ペプチド複合体は、「追加免疫」ワクチン接種として使用することができ、この追加免疫ワクチン接種は、病原体または癌性状態に対して被験者においてもたらされる免疫を増進するということを特定した。この場合の初期免疫は、生ワクチンまたは弱毒化ワクチンを用いたワクチン接種によって、または免疫原決定基がストレスタンパク質−ペプチド複合体であるワクチン組成物によってもたらされたものである。
【0044】
従って、本発明のなおさらなる態様は、病原体由来の感染症または癌性状態に対して、被験者において防御免疫応答を追加免疫する方法であって、この防御免疫応答は、生ワクチンもしくは弱毒化ワクチンの以前の投与または免疫が所望される病原体に由来するペプチドを含むストレスタンパク質−ペプチド複合体の以前の投与によって引き出されたものであり、当該方法は、
本発明の方法に従って得られるストレスタンパク質/ペプチド複合体富化調製物を含む組成物を準備する工程であって、この精製されたストレスタンパク質/ペプチド複合体富化調製物は、癌性細胞、病原体に感染した細胞または防御免疫が所望される病原体に由来し、かつ当該精製された調製物の中に混合物として異なるストレスタンパク質の種類を含む、工程と、
このストレスタンパク質/ペプチド複合体富化調製物を含む組成物を、当該ストレスタンパク質/ペプチド複合体富化調製物に対して当該被験者において免疫応答を引き出すのに十分な量で被験者に投与する工程と、
を含む方法を提供する。
【0045】
特定のさらなる実施形態では、本発明のストレスタンパク質/ペプチド複合体含有ワクチンは、他のサブユニット、多サブユニット、炭水化物または結合型ワクチンで以前に免疫化されたことがある動物における、免疫応答の追加免疫のために使用されてもよい。なおさらなる実施形態では、本発明のストレスタンパク質/ペプチド複合体ワクチンは、核酸または生ワクチンで以前に免疫化されたことがある動物における、標的抗原に対する免疫応答を追加免疫するために使用することができる。なおさらなる実施形態では、本発明のワクチン組成物を含有するストレスタンパク質/ペプチド複合体は、病原体または癌特異的抗原に対して以前に免疫化されたことがある被験者において介在される免疫応答の追加免疫を提供する。
【0046】
特定のさらなる態様では、本発明は、少なくとも1つの病原体由来の抗原、病原体、特に弱毒化された病原体、または癌特異的抗原を含むワクチン組成物で以前にワクチン接種を受けたことがある動物において免疫応答を追加免疫することにおける使用のための、本発明によって精製されるストレスタンパク質−ペプチド複合体を含むワクチン組成物に及ぶ。典型的には、このペプチド成分は、最初のワクチン接種のための免疫原決定基として与えられたものと同じ病原体または癌性細胞に由来する。
【0047】
特定のなおさらなる態様では、本発明は、以前に当該ストレスタンパク質複合体の中に存在する抗原を発現する病原体または癌に曝露されたことがある動物において免疫応答を追加免疫することにおける使用のための、本発明によって精製されるストレスタンパク質−ペプチド複合体を含むワクチン組成物に及ぶ。
【0048】
特定のさらなる実施形態では、本発明は、本発明の精製されたストレスタンパク質/ペプチド複合体富化調製物でパルス的刺激を受けた(pulsed)ことがある樹状細胞(DC)などの細胞性ワクチンの調製のための組成物を提供する。このようなパルス的刺激を受けた樹状細胞を被験者に投与することは、ストレスタンパク質/抗原細胞複合体に向けられるT細胞介在性応答を生じることになる。このような治療は、癌性状態または悪性状態を有する被験者を処置するときに、特に有効である可能性がある。このような実施形態では、典型的には、当該ストレスタンパク質/ペプチド複合体は癌性細胞に由来する。
【0049】
特定の実施形態では、本発明のワクチン組成物は、免疫応答を誘導するための組成物、または免疫応答を引き出すための組成物で置き換えてもよく、これらの組成物は、典型的には、本願明細書に記載されるワクチン組成物の中に提供される免疫原決定基と同じ免疫原決定基を含む。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】BCGバクテリア細胞可溶化液からのタンパク質複合体の精製のSDS−PAGE分析(A)ならびにウエスタンブロット法によるHsp71およびHsp65タンパク質についてのこれらの試料の分析(B)を示す。V1は、BCG由来の元の高速回転可溶化液であり、これをさらに処理してV2、つまり従来の等電点電気泳動法を使用して精製されたHspC、およびV3、つまり本発明の第1の方法を使用して精製されたHEPが得られる。
図2】元の可溶化液(LSS)および従来の等電点電気泳動法(IEF)を使用して単離されたHspCと比較して、本発明の第1の方法を使用してBCGから単離されたHEP(IEX)の免疫原性を示す。
図3】段階的塩勾配によって溶出された、Neisseria meningitidis(ナイセリア・メニンギティディス、髄膜炎菌)由来のタンパク質複合体の精製のSDS−PAGE分析(A)ならびにウエスタンブロット法によるHsp70、Hsp65およびPorAタンパク質についてのこれらの試料の分析(B)を示す。
図4】従来の等電点電気泳動法を使用してNeisseria meningitidis(ナイセリア・メニンギティディス、髄膜炎菌)から単離されたHEP(IEF HspC)と比較して、本発明の等電点クロマトグラフィベースの精製方法を使用してNeisseria meningitidis(ナイセリア・メニンギティディス、髄膜炎菌)から単離されたHEP(IEC HspC)の免疫原性を示す。両者のHspCは、異種株に対して、現在の外膜小胞ワクチン(H44/76 OMV)よりも有意に良好なオプソニン化活性を示したが、IEC HspCは、IEF HspCよりも良好な系株間免疫原性を示した。
図5図5Aは、ADP + 二価の陽イオンの存在下で精製されたBCGバクテリア細胞可溶化液から得たHEPのウエスタンブロット解析を示す。レーン1は、クーマシーブルーで染色されたSDS−PAGEを示し、他方、レーン2〜4は、それぞれ、ウエスタンブロットによるHsp65、Hsp71およびAg85の認識を示す。図5Bは、二価の陽イオン(BCG 001/09)、+ ADP(HspC Vac)またはATP(BCG 002/09)の存在下で精製されたBCGバクテリア細胞可溶化液から得たHEPのクーマシーブルーで染色されたSDS−PAGEを示す。
図6図6Aは、BCGから単離されたHEPの免疫原性を示す。特にこの図は、ADP + 二価の陽イオンの不存在(IEC(2 vaccs)またはADP + 二価の陽イオンの存在(IEC(2vaccs)+ADP/Mg2+)のいずれかで、BCGバクテリア細胞可溶化液から単離されたHEPワクチンによって誘導される細胞介在性免疫を、生BCGでのワクチン接種(BCG Wk 8)およびHspC追加免疫(boost)で予備刺激したBCG(BCG/IEC)と比較して示す。図6Bは、BCGから単離されたHEPの免疫原性を示す。特にこの図は、ADPおよび二価の陽イオンの存在下(V1)、ATPおよび二価の陽イオンの存在下(V2)または二価の陽イオン単独の存在下(V3)のいずれかで、BCGバクテリア細胞可溶化液から単離されたHEPワクチンによって誘導されるTh1優位型の(biased)体液性免疫、ならびにHspCワクチン(BCGおよびV1)で追加免疫することによる、現在の生BCGワクチン(BCG)への抗体応答の有意な増進を示す。
図7図7Aは、生TBで抗原投与されたHEPで免疫化された動物における肺コロニー数の減少を示す。動物は、陰性対照としての生理食塩水、生BCG細菌(BCG)、ADP + 二価の陽イオンの不存在下(IEC)もしくはADP + 二価の陽イオンの存在下(IEC)のいずれかでBCGバクテリア細胞可溶化液から単離されたHEPで免疫化されたか、または生BGCで予備刺激しかつ本発明の改善された方法によって単離されたHEPで追加免疫された(BCG+IEC)。図7Bは、HEPで免疫化または追加免疫されかつ生TBで抗原投与された動物における肺コロニー数の減少を示す。動物は、陰性対照としての生理食塩水、生BCGワクチン(BCG)、ADP + 二価の陽イオン(V1)、二価の陽イオン単独(V3)もしくは二価の陽イオン + HspC複合体を崩壊させるためのATP(V2)の存在下でBCGバクテリア細胞可溶化液から単離されたHEPで免疫化されたか、またはBCGで予備刺激されかつ当該HEPワクチンで追加免疫された(BCG + V1)。
図8】ADPおよび二価の陽イオンの不存在下(レーン1〜3)またはADPおよび二価の陽イオンの存在下(レーン4〜6)のいずれかでNeisseria meningitidis(ナイセリア・メニンギティディス、髄膜炎菌)から精製されたHEPにおける、クーマシーブルーで染色されたSDS−PAGE(レーン1、4)およびHsp60およびHsp70のウエスタンブロット解析を示す。
図9】段階的塩勾配によって溶出された、CHO細胞由来のHEPの精製のクーマシーブルーで染色されたSDS−PAGE分析(A)ならびにウエスタンブロット法によるHsp70(B)およびHsp60(C)タンパク質についてのこれらの試料の分析を示す。レーン1:Mwマーカー、レーン2:素通り画分、レーン3:洗浄、レーン4:150mM溶出、レーン5:150mM溶出、レーン6:250mM溶出、レーン7:250mM溶出、レーン8:350mM溶出、レーン9:350mM、レーン10:500mM溶出、レーン11:500mM溶出、レーン12:1M溶出。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明は、供給源混合物、典型的には細胞可溶化液からの、ペプチドまたはペプチド断片と複合体を形成しているストレスタンパク質を含む複合体の混合物の改善された精製方法を提供する。本発明の改善された方法は、精製方法論においてカオトロープ、界面活性剤および両性電解質(アンフォライン)などの化学物質を使用する必要がなく、イオン交換ベースの方法を使用して精製されることになるタンパク質複合体を提供する。医薬調剤の中に外来性の成分が存在するとストレスタンパク質/ペプチド複合体の不安定性および解離が引き起こされ、このことでストレスタンパク質複合体が免疫原性がより低いものになる可能性があるので、医薬調剤の中に外来性の成分が存在することは一般に望ましくないため、このような方法は有利である。従って、本発明の方法を使用して得られる精製された複合体は、当該ワクチン組成物が投与される被験者において増進された免疫応答を引き出す改善されたワクチン調製物を生産するために使用することができる。さらには、ATPは、ストレスタンパク質/ペプチド複合体の解離を引き起こすことが知られている。しかしながら、ATPの不存在下では、洗浄剤および7M Ureaなどのカオトロピック剤がHspCの精製において使用されるときであっても、HspCは、一般に、非常に安定であると考えられている。本発明者らは、驚くべきことに、従来の等電点電気泳動法(IEF)などの精製技術を使用して得られる類似の複合体よりも免疫原性であるHspCを得るための精製の際に、ストレスタンパク質複合体の安定化の必要性を特定した。本発明者らは、マグネシウム塩などの少なくとも1つの二価の陽イオンだけでなく、任意にアデノシン二リン酸(これは、ストレスタンパク質複合体の解離を最小にする濃度で存在する当該バッファーの中に存在する)もが当該バッファーの中に存在することに起因して、ストレスタンパク質複合体の解離を防ぐ改善されたイオン交換クロマトグラフィ方法論を提供した。安定なストレスタンパク質複合体の存在、および異なる種類のストレスタンパク質の混合物の提供によって、ワクチン組成物の中で免疫原決定基として使用することができ、かつ当該技術分野で公知の方法を使用して精製されたストレスタンパク質複合体によって引き出された免疫反応に勝って、増進された免疫応答を引き出すであろう混合物が提供される。
【0052】
本発明の方法は等電点電気泳動法などの、ストレスタンパク質複合体の精製のためのこれまで使用されたタンパク質精製技術よりも大きい最大生産量を有する精製方法を提供し、そのため、このような複合体を含有するワクチンを大規模に、商業的に実現可能に、費用効率が高く生産することが可能になりうるという点で、本発明の方法は、さらに有利である。
【0053】
さらには、本発明者らは、驚くべきことに、本発明の方法を使用して精製されるストレスタンパク質複合体は、従来からの等電点電気泳動法(IEF)などの精製技術を使用して得られる類似の複合体よりも、免疫原性がより高いということを特定した。本発明の改善された方法は、増進された免疫を示すHEPを与える特定のバッファー組成および条件を使用して精製されることになるタンパク質複合体を提供する。従って、本発明の方法により得られるHspC複合体は、当該技術分野で公知の標準的な精製方法を使用して精製されたHspC複合体よりも免疫原性が高く、改善されたワクチン調製物を製造するために使用することができる。
【0054】
供給源混合物
典型的には、本発明のストレスタンパク質複合体は、供給源混合物から精製または単離される。特定の実施形態では、この供給源混合物は、少なくとも1つのストレスタンパク質/ペプチド断片複合体(精製が所望される)および1以上の混入物質を含む混合物である。この供給源混合物の中に存在する混入物質の非限定的な例としては、ストレスタンパク質またはストレスタンパク質複合体以外の宿主細胞タンパク質、宿主細胞代謝産物、宿主細胞の構成的タンパク質、核酸、内毒素、化学的生成物関連の混入物質、脂質、培地添加剤および培地誘導体を挙げてもよい。
【0055】
特定の実施形態では、この供給源混合物はタンパク質性の混合物であるか、または細胞可溶化液、もしくは細胞ホモジネートに由来する。特定の実施形態では、この細胞可溶化液またはホモジネートは、原核細胞、典型的には病原性原核細胞に由来し、この原核細胞は細胞内または細胞外の病原性バクテリアであってもよい。特定のさらなる実施形態では、この細胞可溶化液は、原核細胞に感染した細胞由来であってもよい。さらなる実施形態では、この細胞可溶化液またはホモジネートは、真核細胞、例えば病原体、例えば原核生物病原体に感染した真核細胞に由来する。特定の実施形態では、この細胞可溶化液またはホモジネートは、腫瘍細胞、癌性の細胞塊もしくは組織、または生検に由来する細胞に由来する。特定の実施形態では、この細胞は、細胞培養液由来の細胞であり、この細胞は、形質転換されまたは形質移入される。特定のさらなる実施形態では、当該細胞可溶化液またはホモジネートは、宿主細胞または病原生物から、または病原生物によって感染した細胞から直接得ることができる。この病原生物は、(i)ウイルス、例えば、インフルエンザ、パピローマウイルス、単純ヘルペスウイルス、肝炎ウイルス(A型、B型もしくはC型)、HIV、麻疹など、(ii)細胞内原虫、例えばトリパノソーマ、または(iii)原核生物、特に細胞内細菌、例えばMycobacterira(マイコバクテリウム)種またはNeisseria(ナイセリア)種の細菌に感染した細胞、からなる群から選択されてもよいが、これらに限定されない。本発明の方法を使用して精製することができる供給源混合物のさらなる例としては、回収された細胞培養液流体、細胞培養液上清および馴化(conditioned)細胞培養液上清が挙げられる。さらには、この細胞可溶化液は、腫瘍細胞由来であることができる。
【0056】
この供給源混合物が細胞可溶化液に由来するか、または細胞可溶化液から構成される実施形態では、その可溶化液は、(i)超音波処理、キャビテーション、凍結−解凍サイクル、細胞ホモジナイザー(Frenchプレス、Dounceホモジナイザーもしくはモーター駆動のガラス/TEFLON(登録商標)ホモジナイザーなど)の使用などの機械的手段;(ii)洗浄剤を使用する細胞溶解;または(iii)必要に応じて細胞を低張性バッファーまたは高張性バッファーと接触させることによる浸透圧溶解が挙げられる(これらに限定されない)、任意の適切な当業者に公知の手段によって得てよい。供給源混合物を製造するために細胞溶解が使用される特定の実施形態では、プロテイナーゼ阻害剤がその供給源混合物にさらに添加されてもよい。
【0057】
供給源混合物がホモジナイズされた細胞調製物(細胞可溶化液または組織試料など)に由来する特定の実施形態では、そのホモジネートは、少なくとも1回、例えば10,000gで30分間、遠心分離されてもよい。次いで上清を集めてさらなる遠心分離にかけることができ、または本願明細書に記載されるイオン交換ベースの方法論を使用する精製のために調製することができる。特定のさらなる実施形態では、この遠心分離工程は、濾過工程によって置き換えられてもよいし、または濾過工程によって補完されてもよい。
【0058】
特定の実施形態では、当該供給源混合物は、タンパク質のタンパク質性の混合物、典型的には複数のタンパク質から構成される溶液である。特定のさらなる実施形態では、この供給源混合物は、癌性細胞、病原生物、病原生物に感染した細胞、または病原生物、もしくは病原生物に感染した細胞を含む細胞培養液に由来する細胞可溶化液である。
【0059】
特定の実施形態では、本発明の方法は、タンパク質複合体を天然のまたは生合成の源から抽出、精製および/または入手するために使用されてもよい。特定のさらなる実施形態では、この方法は、合成のまたは組み換えのストレスタンパク質複合体を細胞培養液または他のタンパク質混合物から精製するために使用されてもよい。
【0060】
特定の実施形態では、当該精製された複合体は、溶出物分画などの少なくとも1つの分画の内に存在する。典型的には、この少なくとも1つの分画は、1以上のストレスタンパク質/ペプチド複合体を含む。この分画は、精製された産物または精製産物と呼ばれてもよく、そしてさらに熱ショックタンパク質/抗原ペプチド複合体(HspC)富化調製物(HEP)と呼ばれることがある。
【0061】
理論に結び付けられることは望まないが、本発明者らは、癌性細胞、病原細胞、病原生物に感染した細胞、または原核細胞もしくは真核細胞であって、その原核細胞もしくは真核細胞が、癌性細胞に、または宿主において感染症を引き起こす病原体に由来する異種タンパク質を発現するように遺伝子組み換えされており、その異種タンパク質は被験者に投与されたときに異種タンパク質に対して免疫応答が誘発される(mounted)ようにする原核細胞もしくは真核細胞に由来するストレスタンパク質/抗原ペプチド断片複合体を免疫原決定基として含むワクチン組成物を投与される被験者において増進された免疫応答が引き出されうるということを特定した。従って、特定の実施形態では、この精製された産物は、典型的には、抗原ペプチド/熱ショックタンパク質複合体の混合物を含む。
【0062】
ストレスタンパク質
特定の実施形態では、このストレスタンパク質複合体は、ペプチド断片と複合体を形成している熱ショックタンパク質を含む熱ショックタンパク質複合体(HspC)であることができる。
【0063】
特定の実施形態では、この熱ショックタンパク質は、精製されることになる細胞可溶化液に由来するいずれの適切な熱ショックタンパク質であってもよい。特定の実施形態では、この熱ショックタンパク質は、hsp20−30kD;hsp40;hsp60;hsp70;hsp90;およびhsp100を含む(が、これらに限定されない)群のファミリーのうちのいずれか1つから選択されてもよい。特定のさらなる実施形態では、このストレスタンパク質は、シャペロンタンパク質として分類されるタンパク質であってもよい。このようなタンパク質として、限定はされないが、以下からなる群から選択されるタンパク質を挙げてもよい:DnaK、DnaJ、GroEL、GroES、hspX、acr2、AAA、clpA/B、HtpG、TRIC、CCT、IbpA、IbpB、カルレチクリン(calrecticulin)、hsp40、hsp70、hsp72、hsp90、grp94、grp75、BiP/grp78、grp75/mt、gp96および低分子(small)hsp。
【0064】
特定の実施形態では、当該標的ストレスタンパク質複合体は、ストレスタンパク質遺伝子を構成的に発現し、かつ/または抗原ペプチドもしくはペプチド断片などの異種タンパク質を発現するように遺伝子組み換えされた宿主細胞由来の熱ショックタンパク質/抗原ペプチド断片複合体を含む。特定のさらなる実施形態では、当該細胞は、異種遺伝子を発現する宿主細胞、例えば注目する抗原遺伝子を含むバキュロウイルスベクター構築物に感染した昆虫細胞であってもよい。なおさらなる実施形態では、当該細胞は、ヒトまたは動物被験者由来の癌性細胞であってもよい。
【0065】
複合体の混合物が与えられる特定の実施形態では、これは、1つの特定のファミリー、例えばhsp70またはhsp60ファミリーの熱ショックタンパク質を含んでもよいが、その混合物が異なるファミリーに由来する異なる熱ショックタンパク質複合体を含むことが好ましい。本発明の方法は、(抗原)ペプチドまたはペプチド断片の個性(identity)、分子量またはサイズの如何によらず、(抗原)ペプチド断片と複合体を形成している熱ショックタンパク質を含むすべての複合体の精製方法を提供することになろう。
【0066】
特定のさらなる実施形態では、この熱ショックタンパク質/抗原ペプチド複合体(HspC)富化調製物(HEP)は、hsp60、hsp65、hsp70およびhsp90などの異なるストレスタンパク質ファミリーまたはクラス由来の熱ショックタンパク質を含み、このファミリーは、本発明の方法を使用して混合物として同時精製される。
【0067】
特定のさらなる実施形態では、当該熱ショックタンパク質/抗原ペプチド複合体(HspC)富化調製物(HEP)は、特定の分子量の熱ショックタンパク質/ペプチド断片複合体であってもよい。特定の実施形態では、このストレスタンパク質複合体は、50KDa〜900KDaの範囲の分子量を有する。
【0068】
抗原ペプチド断片
特定の実施形態では、ストレスタンパク質に結合されてストレスタンパク質複合体(HspC)を形成するポリペプチドは、ペプチド断片である。つまり、このペプチド断片は、より大きいポリペプチドまたはタンパク質の断片である。典型的には、このペプチドは、抗原ペプチドである。つまり、当該ペプチドが投与される宿主において、このポリペプチドに対して炎症促進反応が媒介されるであろう。このペプチドまたは抗原ペプチドは、当該ストレスタンパク質複合体が投与される宿主において、そのペプチドまたは抗原ペプチドに対してT細胞介在性(細胞介在性)または抗体介在性(体液性)免疫応答が惹起されるようにするのに、適切であるべきである。典型的には、このポリペプチドは、免疫応答が所望される病原体、または病原細胞に感染した細胞に由来する。特定のさらなる実施形態では、このポリペプチドは、悪性細胞もしくは癌性細胞、または悪性細胞もしくは癌性細胞を含有する細胞可溶化液に由来し、このポリペプチドまたはペプチド断片は腫瘍特異的抗原である。
【0069】
特定の実施形態では、このペプチドは、上記ストレスタンパク質と、非共有結合的に複合体を形成している。特定のさらなる実施形態では、当該ペプチドは、上記ストレスタンパク質と、共有結合によって複合体を形成している。
【0070】
特定の実施形態では、このペプチド断片は、典型的には宿主において感染症を引き起こす病原生物由来の抗原ペプチド断片である。特定の実施形態では、当該病原細胞は、グラム陽性バクテリアまたはグラム陰性バクテリアなどの原核細胞、または細胞内もしくは細胞外の細菌性病原体であってもよい。特定のさらなる実施形態では、この病原体は、ウイルス性病原体、またはウイルス性病原体由来のペプチド断片である。特定のさらなる実施形態では、この病原体は、原虫、寄生生物または真菌(酵母など)であってもよい。
【0071】
特定の実施形態では、この抗原ペプチドが由来する病原細胞は、属Escherichia(エシェリキア、大腸菌類)、Streptococcus(ストレプトコッカス、連鎖球菌)、Staphylococcus(スタフィロコッカス、ブドウ球菌)、Bordetella(ボルデテラ)、Corynebacterium(コリネバクテリウム)、Mycobacterium(マイコバクテリウム)、Neisseria(ナイセリア)、Haemophilus(ヘモフィルス)、Actinomycetes(アクチノマイセテス、放線菌)、Streptomycetes(ストレプトマイセテス)、Nocardia(ノカルジア)、Enterobacter(エンテロバクター)、Yersinia(エルシニア)、Fancisella(フランシセラ)、Pasteurella(パスツレラ)、Moraxella(モラクセラ)、Acinetobacter(アシネトバクター)、Erysipelothrix(エリシペロスリクス)、Branhamella(ブランハメラ)、Actinobacillus(アクチノバチルス)、Streptobacillus(ストレプトバチルス)、Listeria(リステリア)、Calymmatobacterium(カリマトバクテリウム)、Brucella(ブルセラ)、Bacillus(バチルス)、Clostridium(クロストリジウム)、Treponema(トレポネーマ)、Salmonella(サルモネラ)、Klebsiella(クレブシエラ)、Vibrio(ビブリオ)、Proteus(プロテウス)、Erwinia(エルウィニア)、Borrelia(ボレリア)、Leptospira(レプトスピラ)、Spirillum(スピリルム)、Campylobacter(カンピロバクター)、Shigella(赤痢菌)、Legionella(レジオネラ)、Pseudomonas(シュードモナス)、Aeromonas(エロモナス)、Rickettsia(リケッチア)、Chlamydia(クラミジア)、Borrelia(ボレリア)およびMycoplasma(マイコプラズマ)のメンバーからなる群から選択される(これらに限定されない)原核生物であってもよい。
【0072】
特定の実施形態では、上記抗原ペプチド断片は、ウイルスペプチドであってもよい。ペプチドが由来しうるウイルスは、以下からなる群から選択されてもよいが、これらに限定されない:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)、任意の他の肝炎関連ウイルス、ヒトパピローマウイルス(HPV)、とりわけ高リスク型の発癌性ヒトパピローマウイルスの各種、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)(ヒトヘルペスウイルス−8(HHV−8)としても公知)、単純ヘルペスウイルス(HSV)(いずれかのサブタイプ)、呼吸器多核体ウイルス(RSV)および関連する呼吸器ウイルス、インフルエンザウイルス(鳥インフルエンザおよびブタインフルエンザ、特にこれらがヒトへの伝染性を有する場合、を含む)、コロナウイルス(SARS関連コロナウイルス(SARS−CoV)を含む)、ライノウイルス、アデノウイルス、SIV、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、アルボウイルス、麻疹ウイルス、ポリオウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、パポーバウイルス、サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、水痘ウイルス、ハンタウイルスおよび任意の新興ウイルス、特にエボラウイルス、マールブルグウイルス、ウエストナイルウイルス(WNV)、セントルイス脳炎ウイルス(SLEV)、リフトバレー熱ウイルス(RVFV)ならびにBunyaviridae(ブニヤウイルス科)の他のメンバー。
【0073】
抗原ペプチド断片が原虫性の病原体に由来する特定の実施形態では、その原虫は、典型的には、リーシュマニアまたはトリパノソーマなどの細胞内原虫であってもよい。
【0074】
抗原ペプチド断片が酵母または真菌に由来する実施形態では、この真菌は、以下を含む群から選択される属に由来してもよい:Acremonium(アクレモニウム属)、Alternaria(アルテルナリア属)、Amylomyces(アミロマイセス属)、Arthoderma(アルトロデルマ科)、Aspergillus(アスペルギルス属)、Aureobasidium(アウレオバシジウム属)、Blastochizomyces(ブラストシゾマイセス属)、Botrytis(ボトリチス属)、カンジダ属(Candida)、Cladosporium(クラドスポリウム族)、Crytococcus(クリトコッカス属)、Dictyostelium(ディクチオステリウム属)、Emmonsia(エモンシア属)、Fusarium(フザリウム属)、Geomyces(ジオマイセス属)、Geotrichum(ゲオトリクム属)、Microsporum(ミクロスポルム属)、Neurospora(アカパンカビ属)、Paecilomyces(ペシロマイセス属)、Penicillium(アオカビ属)、Pilaira(ピライラ属)、Pityrosporum(ピチロスポルム属)、Rhizopus(クモノスカビ属)、Rhodotorula(ロドトルラ属)、Saccharomyces(酵母菌属、サッカロマイセス属)、Stachybotrys(スタキボトリス属)、Trichophyton(白癬菌属、トリコフィトン属)、Trichoporon(トリコスポロン属)、またはYarrowia(ヤロウイア属)。
【0075】
特定の実施形態では、この抗原ペプチド断片は、腫瘍細胞に由来してもよい。このような実施形態では、典型的には、抗原ペプチド断片は、腫瘍特異的抗原または腫瘍特異的抗原の断片である。特定の実施形態では、腫瘍細胞は、急性骨髄性白血病および慢性骨髄性白血病(AML、CML)、濾胞性非ホジキンリンパ腫、悪性黒色腫、ヘアリー細胞白血病、多発性骨髄腫、カルチノイド症候群ならびに肝転移およびリンパ節転移を伴うカルチノイド腫瘍)、AIDS関連カポジ肉腫、腎細胞癌、大腸腺癌、頭頸部扁平上皮癌を含む(これらに限定されない)群から選択される癌性状態または悪性状態に由来してもよい。さらには、いくつかの感染症は、その感染症が感染した被験者において癌を引き起こす可能性があるということは当業者にとっては周知であろう。従って、ポリペプチドがある感染症に由来する、本発明の方法論に従って精製された複合体の投与は、癌を処置または予防するために使用することができる。例えば、ヒトパピローマウイルスに由来するポリペプチドを含む複合体は、適切な被験者において子宮頸癌を処置または予防するために使用することができる。
【0076】
特定のさらなる実施形態では、上記ストレスタンパク質と複合体を形成している抗原ペプチド断片は、組み換え手段によって、例えば、ベクターまたは類似の構築物の宿主細胞の中への導入によって宿主細胞の中で発現される異種のタンパク質またはペプチド断片である。特定の実施形態では、異種抗原は、細菌性病原体、ウイルス性病原体に由来してもよいし、または腫瘍特異的抗原である。
【0077】
特定のさらなる実施形態では、宿主細胞は、細胞内病原体に感染した真核細胞であってもよい。このような実施形態では、当該ストレスタンパク質複合体は、細胞内病原体に由来する抗原ペプチド断片と複合体を形成している宿主細胞に由来する熱ショックタンパク質を含んでもよいし、または、ともに細胞内病原体に由来するストレスタンパク質およびペプチド断片を含んでもよい。
【0078】
本発明の特定の実施形態では、当該供給源混合物は、ストレスタンパク質、典型的には熱ショックタンパク質の(恒常的ではなく)誘導された発現を引き起こすのに適切である刺激を誘導するストレスに曝露されたことがある細胞集団から製造される細胞可溶化液である。特定の実施形態では、このストレスを誘導する刺激は、以下を含む(が、これらに限定されない)群から選択される:熱ショック、浸透圧ショック、圧力および栄養欠乏。特定の他の実施形態では、ストレスの誘導は、熱ショックタンパク質遺伝子の恒常的発現を引き起こすための細胞の遺伝子修飾によって成し遂げられる。1つのこのような実施形態では、遺伝子修飾は、微生物病原体の中のhspRおよびHrcA抑制遺伝子などの、ストレスタンパク質の発現を抑制する抑制遺伝子の不活化である。他のこのような遺伝子修飾は、国際公開第2002/020045号パンフレットおよびその中で参照される引用文献に記載されている。
【0079】
ストレスタンパク質の非遺伝子的誘導のために、ストレスタンパク質を誘導するための最適の条件は、ストレス刺激の変化の効果が、Current Protocols in Immunology、Wiley Interscience、1997に記載されている技術などの従来の技術を使用してストレスタンパク質産生のレベルに関して評価される、単純な試行錯誤によって容易に決定することができる。他のこのような条件は、国際公開第2001/013944号パンフレットおよびその中で参照される引用文献に記載されている。
【0080】
1つの実施形態では、本発明の方法を使用して精製される少なくとも1つの熱ショックタンパク質/抗原ペプチド複合体(HspC)富化調製物(HEP)は、hspC65、hspC70、hspC90およびhspC100が挙げられる(しかし、これらに限定されない)熱ショックタンパク質/抗原ペプチド断片複合体(HspC)を含む。
【0081】
イオン交換条件
本発明の方法は、イオン交換クロマトグラフィに基づく方法論を使用してタンパク質を分離することに基づく。しかしながら、本願明細書中で記載されている方法は、典型的にはバッファー溶液の中に存在し、タンパク質構造および完全性に悪影響を及ぼす可能性があり、タンパク質複合体の解離または部分的解離を引き起こす可能性があり、または精製された分画の中に存在している混入物質を生じる可能性がある、このような化学物質の除去によって、標準的なイオン交換クロマトグラフィプロトコルおよび当該技術分野で現在使用されている手順よりも改善された。それゆえ、当該方法は、ストレスタンパク質複合体を含む富化されたまたは精製された調製物を製造するための改変されたイオン交換方法論を用いる。このストレスタンパク質複合体を含む富化されたまたは精製された調製物は、HEP(HspC富化調製物)と呼ばれることもある。
【0082】
イオン交換クロマトグラフィ(IEC)は、試料混合物(細胞可溶化液)の中に存在するタンパク質と使用される樹脂またはマトリクス上に固定化された電荷との間の電荷−電荷相互作用に依拠する。イオン交換クロマトグラフィは、正に帯電したイオンが負に帯電した樹脂に結合する陽イオン交換クロマトグラフィ、またはタンパク質結合イオンが負電荷を有し、かつ固定化された官能性マトリクスまたは樹脂が正電荷を有する陰イオン交換クロマトグラフィの形態をとってもよい。試料混合物の中に存在するタンパク質が樹脂に結合されると、カラムを出発バッファーと平衡化するために、カラムは洗浄される。典型的には、このバッファーは、低イオン強度である。本発明の方法では、本発明者らは、少なくとも1つの二価の陽イオン(マグネシウムまたはマンガンなど)を含むバッファーの使用を採用する。この二価の陽イオンは、典型的には、塩形態(塩化マグネシウムなど)で与えられる。このバッファーは、アデノシン二リン酸をさらに含んでもよく、このアデノシン二リン酸は、ストレスタンパク質/ペプチド複合体の解離を顕著に抑制するであろうレベルで、バッファーの中に存在する。このようなバッファーはストレスタンパク質複合体の構造安定性を保護すると、本発明者らは特定した。なぜなら、このバッファーは、精製プロセスの間のストレスタンパク質−ペプチド複合体の解離を防止するからである。本発明の方法は、その後、結合されたストレスタンパク質複合体は、典型的には、塩化ナトリウム(NaCl)または塩化ナトリウムベースの溶液などの第2のバッファー溶液の使用を通して、カラムの中に存在する塩勾配を変えることにより、分画の中に溶出されるということをもたらす。溶出された分画は集められ、異なるpI(等電点)で溶出された画分は、異なるストレスタンパク質複合体を含有する。所望のタンパク質複合体のpIが特定されたときには、注目する複合体を含有する溶出された分画は、容易に特定可能であろう。典型的には、本発明の方法論は、ストレスタンパク質複合体の精製された(または単離された)混合物を生じるであろう。1つのファミリー(HSP70など)のストレスタンパク質複合体の回収を生じる従来からのイオン交換クロマトグラフィベースの精製方法とは異なり、本発明の方法論は、異なるストレスタンパク質の混合物が存在する精製された産物(単離された産物と呼ばれることもある)を与える。例えば、当該細胞可溶化液が病原体に感染した真核細胞に由来する場合、得られた精製された産物は、ストレスタンパク質がHSP60またはHSP70の少なくとも2つであるストレスタンパク質複合体を含んでもよい。この細胞可溶化液内で見出されるいずれの他の熱ショックタンパク質も、精製された産物の中に存在してよい。さらには、細胞可溶化液の調製の際、この真核細胞を感染させている病原体も可溶化される場合、本発明の方法は、さらに、病原体由来のストレスタンパク質/ペプチド複合体が、精製された産物の中に存在することを可能にする。例えば、この精製された産物は、ストレスタンパク質複合体の混合物を含んでもよく、このストレスタンパク質は、HSP40、HSP60、HSP70、HSP84、HSP90、Dna−KおよびDna−Jを含む群から選択されてもよい。
【0083】
等電点(pI)は、本発明のタンパク質複合体などの特定の分子が正味の電荷を有しないpHである。タンパク質またはタンパク質複合体のpI値は、その一次配列から、または従来の等電点電気泳動法技術および市販の設備を使用して実験的に決定することができる。タンパク質複合体のpI値は、特定のpHでのそのタンパク質の溶解度に影響を及ぼすために使用することができる。タンパク質分子は、酸性官能基および塩基性官能基の両方を含有する。さらに、アミノ酸は、電荷が正、負または中性でありうる。これらの因子は、タンパク質にその全体電荷を与える。pIよりも低いpHでは、タンパク質は正味の正電荷を保有する。pIよりも高いpHでは、タンパク質は正味の負電荷を保有する。タンパク質は、pIに相当するpHで、塩溶液に対する最小の溶解度を有する。これは、タンパク質複合体が溶液から沈殿するということにつながる可能性がある。それゆえ、本発明の方法に従って塩勾配を変えるとき、pHは初期のpHから下がらないことが望ましい。なぜなら、pHが初期のpHから下がると、タンパク質複合体が溶液から沈殿するということを生じる可能性があるからである。それゆえ典型的には、ひとたびpHが設定されると、pHは増加しない。特定の実施形態では、塩勾配の増加は、pHの上昇を生じる。
【0084】
従って、特定の実施形態では、当該方法は、例えば塩化ナトリウムを含むバッファー溶液を使用することにより、カラムマトリクスで使用されるバッファー溶液の塩濃度を変えることを含む。典型的には、バッファーの塩勾配のこの変動により、当該ストレスタンパク質複合体は、典型的には塩濃度の変化と対応する分画の中で溶出されるようになる。従って、特定の実施形態では、溶出バッファーの段階的な添加は、塩勾配をもたらす。典型的には、この溶出バッファーは塩化ナトリウム(NaCl)を含有し、この塩勾配は、マトリクスが曝露される溶出バッファーの中の塩化ナトリウム(NaCl)の存在を変えることにより変えることができる。特定の実施形態では、塩化ナトリウムは、150mM、250mM、350mM、または500mMの濃度で、当該バッファーの中に存在してもよい。特定の実施形態では、この溶出バッファーは、バッファーの構成成分が変わるにつれて変わりうるpH勾配を与える。特定の実施形態では、この溶出バッファーは、少なくとも1つの二価の陽イオン、および任意にアデノシン二リン酸を含む。
【0085】
特定の実施形態では、ストレスタンパク質複合体は、溶出されかつpI 4〜pI 8の範囲のpIを有する集められた分画の中に存在する。特定の実施形態では、精製されることになるストレスタンパク質のpIは、等電点電気泳動法によって最初に決定されてもよい。
【0086】
特定の実施形態では、当該精製方法論は、尿素または類似の化合物もしくは溶液の存在下では実施されない(すなわち当該精製方法論は、尿素または類似の化合物もしくは溶液の不存在下で実施される)。特定の他の実施形態では、両性電解質、カオトロープおよび/または界面活性剤は、当該精製方法論では使用されない。特定の好ましい実施形態では、当該バッファーは、少なくとも1つの二価の陽イオンを含有し、そしてアデノシン二リン酸をさらに含有してもよい。
【0087】
典型的には、当該方法は、(i)当該供給源混合物をイオン交換マトリクスに付与する工程と、(ii)pHを調整して、イオン交換マトリクスにわたる塩勾配を変える工程と、(iii)溶出された分画を集める工程とを含み、この分画は精製されたまたは富化されたストレスタンパク質複合体を含み、このストレスタンパク質複合体の溶出は、特定の条件下で塩勾配を変えることにより引き起こされる。特定の実施形態では、当該マトリクスは樹脂である。さらなる実施形態では、このマトリクスは膜である。典型的には、このマトリクスは荷電粒子から構成される。
【0088】
特定の実施形態では、このイオン交換は、複合体タンパク質混合物を塩基性分画および酸性分画へと分離する働きをするイオン交換膜吸収体を使用して実施される。本発明者らは、この形態のイオン交換は、簡便で、高速で、再現性があり、かつそれゆえ一貫して高収率の安定なストレスタンパク質複合体を生成することができ、かつこの安定なストレスタンパク質複合体はその完全性を維持する方法をもたらすということを特定した。この安定なストレスタンパク質複合体がその完全性を維持することは、免疫原決定基としてストレスタンパク質−ペプチド複合体などのタンパク質成分を含む商業的な量のワクチン調製物の生産に必要とされるであろう。さらには、ストレスタンパク質複合体がワクチン組成物の調製における免疫原決定基としての使用のためのものであり、かつ当該ストレスタンパク質複合体が少なくとも1つの二価の陽イオン(そして特定の好ましい実施形態では、アデノシン二リン酸)を含むバッファーの存在下で精製される特定の実施形態で、当該複合体はより安定な状態に留まるので、つまり、この複合体は、解離して別々のストレスタンパク質およびペプチド断片となることはないので、このようなストレスタンパク質複合体は、このようなワクチンの使用によって引き出された免疫応答を媒介または増進することにおいてより優れた有用性を有するということを、本発明者らは特定した。特定の実施形態では、当該バッファーは、アデノシン三リン酸(ATP)、ATPアーゼ、カリウム、またはカリウム塩、カオトロープ、両性電解質および界面活性剤のうちの少なくとも1つを欠く。
【0089】
1つの実施形態では、当該熱ショックタンパク質/抗原ペプチド複合体(HspC)富化調製物(HEP)は、タンパク質の完全性を維持するために、当業者に公知の任意の適切な溶出バッファーを使用してそのイオン交換クロマトグラフィ媒体から溶出させることができる。典型的には、この溶出バッファーは、本願明細書にこれまでに記載されたように、塩化ナトリウムなどの塩を含む。この溶出バッファーは、リン酸塩またはTRIS系バッファー、酢酸塩、クエン酸塩または水素イオンバッファーをさらに含んでもよい。
【0090】
本願明細書で使用する場合の用語「イオン交換」および「イオン交換クロマトグラフィ」は、イオン化できる注目する溶質(例えば、細胞可溶化液の中で与えられる注目するタンパク質複合体)がpHおよび電気伝導率の適切な条件下で、固相イオン交換材料に結合された反対の電荷を帯びたリガンドと相互作用し、その結果、注目する溶質が、電荷を帯びた化合物と、混合物中の溶質不純物または混入物質よりも多くまたは少なく非特異的に相互作用するクロマトグラフィによるプロセスを指す。この混合物の中の混入する溶質は、そのイオン交換材料のカラムから洗浄することができ、あるいはその樹脂に結合されることができるし、またはその樹脂から、注目する溶質よりも速くもしくは遅く排出されることができる。「イオン交換クロマトグラフィ」としては、具体的には、陽イオン交換、陰イオン交換、および混合モードクロマトグラフィが挙げられる。
【0091】
特定の実施形態では、イオン交換クロマトグラフィ媒体としてはイオン交換カラムが挙げられる。典型的には、このイオン交換カラムとしては、アガロースまたはセファロース(sepharose)大流量ベースなどの大流量ベース(high flow base)が挙げられる。任意に、この大流量ベースは、動物由来原料を含まないデキストランなどの表面積拡張成分(surface extender)を含む。適切なイオン交換媒体としては、第四級アンモニウム塩およびスルホン酸部分で誘導体化されたもの、例えばCAPTOQ(商標) カラムおよびCAPTOS(商標) 樹脂(ジーイー・ヘルスケア社(GE Healthcare Limited))などの陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂ならびに陽イオン交換カラムおよび陰イオン交換カラムの両方が挙げられる。さらなる実施形態では、このイオン交換クロマトグラフィ媒体としては、混合多モード用イオン交換樹脂、例えばCapto(商標)MMCおよびCAPTO(商標)Adhereカラム(ジーイー・ヘルスケア(GE Healthcare))が挙げられる。
【0092】
特定の実施形態では、細胞可溶化液は、50mMリン酸塩バッファーpH 6.8へとバッファー交換される。特定の実施形態では、イオン交換カラムとしては、大流量ベース、好ましくはアガロース大流量ベースが挙げられる。特定の実施形態では、この大流量ベースは表面積拡張成分(例えば、動物由来原料を含まないデキストラン)、およびQリガンド(例えば、第四級アンモニウム塩)を含む。
【0093】
語句「イオン交換材料」は、負に帯電している固相(すなわち、陽イオン交換樹脂)または正に帯電した固相(すなわち、陰イオン交換樹脂)を指す。1つの実施形態では、電荷は、例えば、共有結合により結合することによって、1以上の電荷を帯びたリガンド(または吸着剤)を固相に取り付けることにより、与えることができる。あるいは、または加えて、電荷は、(例えば、全体として負電荷を有するシリカの場合のように)その固相の固有の特性であってもよい。
【0094】
イオン交換クロマトグラフィが陽イオン交換クロマトグラフィである特定の実施形態では、陽イオン交換クロマトグラフィ工程は、スルホネート、カルボン酸、カルボキシメチルスルホン酸、スルホイソブチル、スルホエチル、カルボキシル、スルホプロピル、スルホニル、スルホキシエチルおよびオルトホスフェートを含む(が、これらに限定されない)群から選択されるリガンドが用いられる。
【0095】
「陽イオン交換樹脂」は、負に帯電している固相であって、かつその固相にわたってまたはその固相を通って通過させた水溶液の中の陽イオンとの交換のためのフリーの陽イオンを有する固相を指す。陽イオン交換樹脂を形成するのに適切な固相に取り付けられたいずれの負に帯電したリガンド、例えば、後述するようにカルボキシレート、スルホネートなども使用することができる。市販の陽イオン交換樹脂としては、例えば、以下の基を有する陽イオン交換樹脂が挙げられるが、これらに限定されない:スルホネートベースの基(例えば、ジーイー・ヘルスケア(GE Healthcare)製のMonoS、MiniS、Source 15Sおよび30S、SP セファロース(sepharose) FAST FLOW(商標)、SP Sepharose High Performance、トーソー(Tosoh)製のToyopearl SP−650SおよびSP−650M、バイオ・ラッド(BioRad)製のMacro−Prep High S、ポール・テクノロジーズ(Pall Technologies)製のCeramic HyperD S、Thsacryl MおよびLS SPおよびSpherodex LS SP);スルホエチルベースの基(例えば、イーエムディー(EMD)製のFractogel SE、またはアプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)製のPoros S−10およびS−20);スルホプロピルベースの基(例えば、トーソー(Tosoh)製のTSK Gel SP 5PWおよびSP−5PW−HR、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)製のPoros HS−20およびHS 50);スルホイソブチルベースの基(例えば、イーエムディー(EMD)製のFractogel EMD SO3);スルホキシエチルベースの基(例えば、ワットマン(Whatman)製のSE52、SE53およびExpress−Ion S);カルボキシメチルベースの基(例えば、ジーイー・ヘルスケア(GE Healthcare)製の CM Sepharose Fast Flow、バイオクロム・ラブズ社(Biochrom Labs Inc.)製のHydrocell CM、バイオ・ラッド(BioRad)製のMacro−Prep CM、ポール・テクノロジーズ(Pall Technologies)製のCeramic HyperD CM、Trisacryl M CM、Trisacryl LS CM、ミリポア(Millipore)製のMatrex Cellufine C500およびC200、ワットマン(Whatman)製のCM52、CM32、CM23およびExpress − Ion C、トーソー(Tosoh)製のToyopearl CM−650S、CM−650MおよびCM−650C);スルホン酸およびカルボン酸ベースの基(例えば、ジェイティー・ベーカー(J.T.Baker)製の BAKERBOND(商標)Carboxy−Sulfon);カルボン酸ベースの基(例えば、J.T Baker製のWP CBX、ダウ・リキッド・セパレーションズ(Dow Liquid Separations)製のDOWEX MAC−3、シグマアルドリッチ(Sigma−Aldrich)製のAmberlite Weak Cation Exchangers、DOWEX(商標) Weak Cation Exchanger、およびDiaion Weak Cation Exchangersならびにイーエムディー(EMD)製のFractogel EMD COO−);スルホン酸ベースの基(例えば、バイオクロム・ラブズ社(Biochrom Labs Inc.)製のHydrocell SP、ダウ・リキッド・セパレーションズ(Dow Liquid Separations)製のDOWEX(商標) Fine Mesh Strong Acid Cation Resin、ジェイティー・ベーカー(J.T.Baker)製のUNOsphere S、WP Sulfonic、ザルトリウス(Sartorius)製のSartobind S膜、シグマアルドリッチ(Sigma−Aldrich)製のAmberlite Strong Cation Exchangers、DOWEX(商標) Strong CationおよびDiaion Strong Cation Exchanger);ならびにオルトホスフェートベースの基(例えば、ワットマン(Whatman)製のpl 1)。
【0096】
望ましい場合、例えば、Sartobind S(ザルトリウス(Sartorius);ニューヨーク州、エッジウッド(Edgewood))などの陽イオン交換膜を、陽イオン交換樹脂の代わりに使用することができる。
【0097】
イオン交換クロマトグラフィが陰イオン交換クロマトグラフィである特定の実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィ工程は、第四級アンモニウムまたはアミン、ジエチルアミン、ジエチルアミノプロピル、アミノ、トリメチルアンモニウムエチル、トリメチルベンジルアンモニウム、ジメチルエタノールベンジルアンモニウム、ポリアミンからなる群から選択されるリガンドを採用してもよい。
【0098】
「陰イオン交換樹脂」は、正に帯電している固相であって、従ってその固相に取り付けられた1以上の正に帯電したリガンドを有する固相を指す。陰イオン交換樹脂を形成するのに適切な固相に取り付けられたいずれの正に帯電したリガンド、例えば第四級アミノ基なども、使用することができる。例えば、AECで使用されるリガンドは、第四級アルキルアミンおよび第四級アルキルアルカノールアミン、またはアミン、ジエチルアミン、ジエチルアミノプロピル、アミノ、トリメチルアンモニウムエチル、トリメチルベンジルアンモニウム、ジメチルエタノールベンジルアンモニウム、およびポリアミンなどの第四級アンモニウムであることができる。あるいは、AEC用に、正に帯電したリガンド、例えば上に記載されたリガンドを有する膜を、陰イオン交換樹脂の代わりに使用することができる。
【0099】
市販の陰イオン交換樹脂としては、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)製のDEAE cellulose、Poros PI 20、PI 50、HQ 10、HQ 20、HQ 50、D 50、ジーイー・ヘルスケア(GE Healthcare)製のMonoQ、MiniQ、Source 15Qおよび3OQ、Q、DEAEおよびANX Sepharose Fast Flow、Q Sepharose high Performance、QAE SEPHADEX(商標)およびFAST Q セファロース(SEPHAROSE)(商標)、ジェイティー・ベーカー(J.T.Baker)製のWP PEI、WP DEAM、WP QUAT、バイオクロム・ラブズ社(Biochrom Labs Inc.)製のHydrocell DEAEおよびHydrocell QA、バイオ・ラッド(Biorad)製のUNOsphere Q、Macro−Prep DEAEおよびMacro−Prep High Q、ポール・テクノロジーズ(Pall Technologies)製のCeramic HyperD Q、ceramic HyperD DEAE、Q HyperZ、Trisacryl MおよびLS DEAE、Spherodex LS DEAE、QMA Spherosil LS、QMA Spherosil M、ダウ・リキッド・セパレーションズ(Dow Liquid Separations)製のDOWEX Fine Mesh Strong Base Type IおよびType II Anion ResinsおよびDOWEX MONOSPHER E 77、weak base anion、ミリポア(Millipore)製のMatrex Cellufine A200、A500、Q500、およびQ800、イーエムディー(EMD)製のFractogel EMD TMAE Fractogel EMD DEAEおよびFractogel EMD DMAE、シグマアルドリッチ(Sigma−Aldrich)製のAmberlite weak and strong anion exchangers type I and II、DOWEX weak and strong anion exchangers type I and II、Diaion weak and strong anion exchangers type I and II、Duolite、トーソー(Tosoh)製のTSK ゲル QおよびDEAE 5PWおよび5PW−HR、Toyopearl SuperQ−650S、650Mおよび650C QAE−550Cおよび650S、DEAE− 650Mおよび650C、ならびにワットマン(Whatman)製のQA52、DE23、DE32、DE51、DE52、DE53、Express−Ion DおよびQが挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
望ましい場合、陰イオン交換膜は、陰イオン交換樹脂の代わりに使用することができる。市販の陰イオン交換膜としては、ザルトリウス(Sartorius)製のSARTOBIND Q(商標)、ポール・テクノロジーズ(Pall Technologies)製のMUSTANG Q(商標)およびミリポア(Millipore)製のINTERCEPT Q(商標) 膜が挙げられるが、これらに限定されない。
【0101】
特定の実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィは、約pH 5.0〜約pH 9.0のpHおよび約0.5〜約5mS/cmの電気伝導率で行われる。特定の実施形態では、陽イオン交換クロマトグラフィは、約pH 4.0〜約pH 9.0のpHおよび約0.5〜約15mS/cmの電気伝導率で行われる。特定の実施形態では、混合モードクロマトグラフィは、約pH 4.0〜約pH 9.0のpHおよび約0.5〜約15mS/cmの電気伝導率で行われる。
【0102】
ポリペプチドの「pI」または「等電点」は、ポリペプチドの正電荷がその負電荷と均衡するpHを指す。このpIは、種々の従来の方法論に従って、例えば、ポリペプチド上のアミノ酸残基および/またはシアル酸残基の正味電荷から算出することができるし、または等電点電気泳動法技術を使用して実験的に決定することができる。
【0103】
このクロマトグラフィバッファーのpHおよび電気伝導率は、注目するHspCが使用されるIEC樹脂に結合されるように、選択される。溶出バッファーとしての使用に適したバッファーの例としては、リン酸塩またはTRIS系バッファー、酢酸塩、クエン酸塩および水素イオンバッファー(Goodら、1966 Biochemistry 5:467−477)を挙げてもよい。
【0104】
用語「溶出バッファー」は、本願明細書で使用する場合、注目するタンパク質複合体を上記樹脂から溶出させるために使用されるバッファーを指す。この溶出バッファーのpHおよび電気伝導率は、注目するタンパク質複合体が当該プロセスで使用されるCEC樹脂から溶出されるように、選択される。溶出バッファーとしての使用に適したバッファーの例としては、リン酸塩またはTRIS系バッファー、酢酸塩、クエン酸塩、グリシン、ヒスチンおよびグッドバッファー(Good buffers)を挙げてもよい。
【0105】
特定の実施形態では、この溶出バッファーは、約50mM〜約1500mMの濃度で使用されてもよい塩化ナトリウム(NaCl)である。特定のさらなる実施形態では、この溶出バッファーは、少なくとも1つの二価の陽イオン、および特定の実施形態では、アデノシン二リン酸を含む。特定の実施形態では、このバッファーは、アデノシン三リン酸(ATP)、ATPアーゼ、カリウム、またはカリウム塩、カオトロープ、両性電解質および界面活性剤のうちの少なくとも1つ欠く。
【0106】
この溶出バッファーのpHは、約pH 3〜約pH 10、より好ましくはpH 約pH 4〜約pH 9であることができる。特定の実施形態では、バッファーのpHは約pH 6.8である。
【0107】
本発明は、本発明の方法に従って精製されるHspC富化可溶化液(HEL)にさらに及ぶ。このHspC富化可溶化液は、HspC富化分画(HEF)またはHspC富化組成物(HEC)としても知られている場合がある。従って、本発明のさらなる態様は、ワクチン組成物の調製における使用のための、本発明の方法によって精製される少なくとも1つのHspC富化可溶化液を提供する。典型的には、このHspC富化可溶化液は、本発明のイオン交換方法から得られる少なくとも1つの溶出された分画に由来する。
【0108】
特定の実施形態では、このHspC富化可溶化液は、ストレスタンパク質(熱ショックタンパク質)とポリペプチドまたはペプチド断片、特に抗原ペプチド断片との間で形成される複合体を含む。特定の実施形態では、この精製されたHspC富化可溶化液は、微生物宿主、原核性、ウイルス性または原虫病原体、病原体に感染した真核生物の宿主細胞に、または悪性細胞もしくは癌性細胞に由来する。好ましい実施形態では、この精製された複合体は、ストレスタンパク質の混合物を含むストレスタンパク質/ペプチド複合体であり、このストレスタンパク質は、低分子(small)hsp、hsp65、hsp70、hsp90およびhsp100からなる群から選択することができる。
【0109】
イオン交換クロマトグラフィ(IEC)は、試料中のタンパク質と選択した樹脂上に固定化された電荷との間の電荷−電荷相互作用に依拠する。一般に、IECは、陽イオン交換クロマトグラフィまたは陰イオン交換クロマトグラフィに細分することができる。例えば、CaptoQ(商標)(正に帯電した陰イオン交換体)は、標的タンパク質複合体がpH 6.8で負に帯電していると予想されるときに利用されてもよく(表1を参照)、CaptoS(商標)(負に帯電した陰イオン交換体)は、標的タンパク質複合体がpH 6.8で正に帯電していると予想されるときに利用されてもよい。
【0110】
【表1】
【0111】
さらに、プロテオーム中のタンパク質の等電点(pI)の分布は、すべての原核生物について共通し、そのタンパク質のうちのおよそ60%がpI≦7を有し、およびそのプロテオームのうちの40%がpI≧8を有する(表1を参照)ような、二峰性分布または「バタフライ効果」として表すことができる。例えば、マイコバクテリア培養液由来のストレスタンパク質複合体を使用して細胞可溶化液が生成される場合、pH 6.8で、そのマイコバクテリアが混入したプロテオームのうちの少なくとも40%は、CaptoQ(商標) IECを使用して、その精製された複合体から、従ってワクチン産物からも直ちに除去されるだろうということが予想されるであろう。本発明の方法は、高性能媒体である任意の適切なイオン交換媒体を使用して実施されてもよいということを、当業者は直ちに理解するであろう。
【0112】
確固たるタンパク質精製戦略を開発するときに考慮されるべき重要な技術的項目としては、短いプロセス実行時間およびバッファー組成の慎重な考慮が挙げられる。本発明者らは、タンパク質複合体の精製方法を提供し、そしてそれを行う際、精製プロセスの間のタンパク質複合体のタンパク質分解、修飾または崩壊に関連する課題を克服した。免疫原性のHspC富化ワクチンはフリーフロー等電点電気泳動法(FF−IEF)を用いて調製されてきたが、典型的な実行時間は4時間であり、尿素などのカオトロープを用いてタンパク質の溶解性を維持することも必要であった。このカオトロープは、巨大分子構造およびタンパク質機能の両方に対して不安定化効果を有するということが示されている。ありがたいことに、CaptoQ(商標)は、大流量の「タンパク質に優しい」マトリクスの化学安定性に起因して、より短い実行時間をもたらし、バッファーの選択に関してより大きい融通性を与える。本発明は、10mgの出発の可溶化液から3mgのHspC(ストレスタンパク質複合体)富化調製物を調製するのにかかる時間を、驚くべきことに、およそ2時間まで短縮した。さらにタンパク質溶解性は、カオトロープまたは界面活性剤の必要性なしに、維持された。加えて、タンパク質分解のレベルは低下した。本発明のバッファー組成物は、精製プロセスの間のタンパク質複合体の崩壊を最小にし、本発明の方法によって製造されたHEPは、免疫原性および感染に対する防御の増進を示した。好ましいバッファーは、少なくとも1つの二価の陽イオンおよび任意にアデノシン二リン酸を含む。
【0113】
本発明の方法は、結核症(TB)、髄膜炎およびインフルエンザに対する潜在的なワクチンを調製するためにすでに使用され、簡単で、予測可能で、かつ直接的であり、このプロセスの性能は、ほとんどもっぱら標的タンパク質の等電点およびバッファーのpHによって決められる。このワクチン組成物は、宿主において防御免疫を引き出す上で重要と考えられる主要な熱ショックタンパク質、具体的には、Hsp60またはGroEL、およびHsp70またはDnaKファミリーおよび相同体のうちの少なくとも2つの2つを含んでもよい。
【0114】
本発明の方法は、規模拡大可能であるおよび迅速であるという利点を有し、Kg量の精製されたタンパク質複合体およびワクチン組成物を生成するための数リットルの可溶化液を処理する可能性を有する。
【0115】
ワクチン組成物の投与
特定の実施形態では、本発明のワクチン組成物は、少なくとも1つの佐剤をさらに含んでもよい。特定の実施形態では、この佐剤は、フロインド不完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、Quil A、Detox、ISCOMおよびスクアレンからなる群から選択されるが、これらに限定されない。さらに適切な佐剤としては、鉱物ゲルまたはアルミニウム塩(水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムなど)が挙げられるが、この適切な佐剤は、カルシウム、鉄または亜鉛の塩であってもよいし、またはアシル化されたチロシン、もしくはアシル化糖の不溶性懸濁液であってもよいし、または陽イオンとしてまたは陰イオンとして誘導体化された糖類、ポリフォスファゼン、生分解性ミクロスフェア、モノホスホリルリピドA(MPL)、リピドA誘導体(例えば、低毒性のリピドA誘導体)、3−0−脱アシル化MPL、quil A、サポニン、QS21、フロイント不完全アジュバント(ディフコ・ラボラトリーズ(Difco Laboratories)、ミシガン州、デトロイト)、Merck Adjuvant 65(メルク社(Merck and Company,Inc.)、米国)、AS−2、AS01、AS03、AS04、AS15(GSK、米国)、MF59(カイロン(Chiron)、イタリア、シエーナ(Sienna))、CpGオリゴヌクレオチド、生物接着因子(bioadhesive)および粘膜接着因子(mucoadhesive)、微小粒子、リポソーム、外膜小胞、ポリオキシエチレンエーテル製剤、ポリオキシエチレンエステル製剤、ムラミルペプチドまたはイミダゾキノロン化合物であってもよい。
【0116】
本発明のワクチン組成物または精製および/もしくは単離されたストレスタンパク質複合体は、いずれかの適切な経路を介して、処置を必要とする被験者に投与されてもよい。典型的には、当該組成物は、非経口投与される。非経口投与のための他の可能な経路の例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない;静脈内、心臓内、動脈内、腹腔内、筋肉内、腔内、皮下、経粘膜、吸入または経皮。投与経路としては、局所経路および経腸経路、例えば粘膜経路(肺経路を含む)、経口経路、鼻内経路、直腸経路をさらに挙げてもよい。当該製剤は、液体、例えばpH 6.8〜7.6の非リン酸塩バッファーを含有する生理食塩溶液、または凍結乾燥粉末もしくはフリーズドライ化された粉末であってもよい。
【0117】
特定の実施形態では、この組成物は、注入可能組成物として送達可能である。静脈内注入のために、当該ストレスタンパク質複合体は、発熱物質を含まずかつ適切なpH、等張性および安定性を有する、非経口的に許容できる水溶液の形態にあることになろう。当該技術分野の当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液または、乳酸加リンゲル液などの等張性媒体を使用して、適切な溶液を調製することは十分にできる。防腐剤、安定剤、バッファー、抗酸化物質および/または他の添加剤を、必要に応じて含めてよい。
【0118】
特定の実施形態では、注入方法は、不必要であることがあるし、または真皮を貫通する針を使用してもよい。特定のさらなる実施形態では、当該ワクチンは経口投与に適しているか、または経皮的に、もしくは肺送達によって投与することができる。特定の実施形態では、当該ワクチン組成物は予防的ワクチンとして投与される。特定の実施形態では、このワクチン組成物は治療ワクチンとして投与される。なおさらなる実施形態では、このワクチン組成物は、一次免疫スケジュールによって介在される任意の以前に投与されたワクチンへの追加免疫ワクチンとして投与される。
【0119】
経口投与用の医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、粉末または液体の形態にあってもよい。錠剤は、ゼラチンまたは佐剤などの固体担体を含んでもよい。液体医薬組成物は、一般に、水、石油、動物油または植物油、鉱油または合成油などの液体担体を含む。生理食塩水溶液、デキストロースまたは他の糖類溶液またはグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなど)が含まれてもよい。
【0120】
上で触れた技術およびプロトコル、ならびに本発明に従って使用されてもよい他の技術およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、Gennaro,A.R.、Lippincott Williams & Wilkins;第20版、ISBN 0−912734−04−3およびPharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems;Ansel,H.C.ら、第7版、ISBN 0−683305−72−7(これらの文献の開示全体を、参照により本願明細書に援用したものとする)に見出すことができる。
【0121】
また、本発明のワクチン組成物または精製および/もしくは単離されたストレスタンパク質複合体は、特定の組織(血液を含む)に配置されるミクロスフェア、リポソーム、他の微粒子送達システムまたは徐放性製剤を介して、投与されてもよい。
【0122】
投薬治療方式としては、本発明の組成物の単回投与、または組成物の複数回投与用量を挙げることができる。当該組成物は、さらに、本発明の組成物が処置のために投与されている状態の処置のために使用される他の治療学および医薬と連続的またはそれらとは別々に、投与することができる。
【0123】
投与される実際の量、ならびに投与の速度および経時変化は、処置しようとしているものの特質および重症度に依存することになろう。処置の処方、例えば、投薬量の決定などは、最終的には一般医および他の医師の責任および判断の範囲内であり、典型的には処置対象の障害、個々の患者の状態、送達の部位、投与方法および医師に知られた他の要因を考慮する。
【0124】
定義
特段の記載がない限り、本願明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の技術分野の当業者が一般に理解する意味を有する。
【0125】
本願明細書を通して、文脈と矛盾する場合を除いて、用語「含む(comprise)」または「含む、包含する(include)」、または「含む(comprises)」または「含む(comprising)」、「含む、包含する(includes)」または「含む、包含する(including)」などの変化形が、記載された整数または整数の群の包含を意味するが、いずれの他の整数または整数の群の排除も意味しないということは理解されよう。
【0126】
本願明細書で使用する場合、「1つの(a、an)」および「その、当該(the)」などの用語は、文脈と明らかに矛盾する場合を除いて、単数および複数の指示対象を包含する。従って、例えば、「1つの活性薬剤」または「1つの薬理学的に活性薬剤」との言及は、単独の活性薬剤、および組み合わせられた2以上の異なる活性薬剤を包含し、他方で、「1つの担体」との言及は、2以上の担体の混合物ならびに単独の担体を包含する、などである。
【0127】
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、ペプチド結合または修飾されたペプチド結合によって共有結合された一連の少なくとも2つのアミノ酸(同配体など)を記述するために、互換的に本願明細書で使用される。ペプチドまたはタンパク質を構成しうるアミノ酸の最大数は、限定されない。さらには、用語「ポリペプチド」は、ペプチドの断片、類似体および誘導体に及び、この断片、類似体または誘導体は、この断片、誘導体または類似体が由来するペプチドと同じ生物学的機能活性を保持する。
【0128】
本願明細書で使用する場合、用語「処置」および「処置する」および「処置すること」などの関連する用語は、ワクチン組成物の免疫原決定基が由来する病原体または癌細胞に対する長期の防御免疫をもたらすために、免疫原決定基に対する防御免疫応答を引き出すことを意味する。それゆえ用語「処置」は、被験者に恩恵を与えることができる任意のレジメンを指す。この処置は、すでに存在する状態に関するものであってもよいし、または予防的(防止的処置)であってもよい。処置は、治癒効果、緩和効果または予防効果を含んでもよい。
【0129】
本願明細書で使用する場合、用語「治療上有効量」は、感染症または癌性状態に対して防御免疫応答を誘導するために必要とされる本発明のストレスタンパク質複合体またはワクチン組成物の量を意味する。本願明細書で使用する場合、用語「予防上有効量」は、感染症または癌性状態の最初の発症、進行または再発を防止するために必要とされる複数のストレスタンパク質複合体またはワクチン組成物の量に関する。用語「治療的」は、被験者が完全回復まで処置されるということを必ずしも意味しない。同様に、「予防的」は、被験者は最終的に疾患状態にかからないであろうということを必ずしも意味しない。
【0130】
本発明に関しては、「被験者」は、ヒト、霊長類および家畜(例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ);実験室での試験用動物(マウス、ウサギ、ラットおよびモルモットなど);ならびにコンパニオンアニマル(イヌおよびネコなど)などの哺乳動物が挙げられ、そしてこれらを包含する。哺乳動物がヒトであることが、本発明の目的のために好ましい。用語「被験者」は、本願明細書で使用する場合の用語「患者」と互換である。
【0131】
本願明細書で使用する場合、免疫応答に関して使用される場合の用語「誘発する(mount)」、「誘発された(mounted)」、「引き出す」または「引き出された」は、被験者に投与されるワクチン組成物の免疫原決定基に対して惹起される免疫応答を意味する。典型的には、当該ワクチン組成物の免疫原決定基は、本発明の方法を使用して得られる単離されかつ/または精製されたストレスタンパク質複合体を含む。
【0132】
本願明細書で使用する場合、用語「免疫応答」は、T細胞の同時刺激の調節によって影響を受けるT細胞介在性および/またはB細胞介在性免疫応答を包含する。用語「免疫応答」は、T細胞活性化(抗体産生(体液性応答)など)およびサイトカイン応答性細胞(マクロファージなど)の活性化によって間接的にもたらされる免疫応答をさらに包含する。
【実施例】
【0133】
本発明は、これより、以下の実施例を参照して説明される。以下の実施例は、説明の目的で提示され、本発明を限定するものと解釈されることは意図されていない。
【0134】
実施例1:BCG細胞可溶化液からのHspC富化調製物の調製
対数期中期の熱ショックを加えた培養物由来のBCG細胞ペレットを可溶化し、遠心分離によって浄化した。細胞ペレットを、EDTAを含まないプロテアーゼ阻害剤カクテルを含有する滅菌したPBSの中に再懸濁した。再懸濁した細胞を、超音波処理を使用して可溶化するか(Beadbeater)、またはEmulsiflex C5高圧ホモジナイザーに通し、滅菌した袋の中に集めた。Benzonase(250U/mL)を、上記可溶化液に加えた。次いでこの試料をさらに2回ホモジナイズし、その細胞可溶化液を遠心管に移し、6000gで20分間の遠心分離によって細胞片を除去した。浄化した可溶化液を集め、14000gでさらに60分間遠心分離し、上清を除去し、高速浄化した可溶化液として参照した。10mlの浄化した可溶化液を脱塩し、pH 6.8の50mMリン酸塩バッファーへとバッファー交換した。この試料のタンパク質濃度を決定し、IEC(イオン交換クロマトグラフィ) HspC富化調製物を、カラムクロマトグラフィによって以下のとおりにして調製した。10mgのタンパク質を、0.5ml/分の流量でCaptoQ(商標) カラムにロードした。このカラムをpH 6.8の50mMリン酸塩バッファーで十分に洗浄した後、NaClの濃度を上昇させながら(150mM、300mM、500mMおよび1M)、タンパク質を一括溶出した。Hsp70およびHsp65を含有する溶出された分画を、DnaKおよびGroELに対する市販の抗血清を使用して、SDS−PAGEおよびウエスタンブロット法を使用して分析した。調製したHEPの例を図1A(SDS−PAGE)および図1B(ウエスタンブロット法)に示す。いくつかの調製物では、混合モード用のMMCカラムを使用し、pH 5の50mM酢酸塩、1M NaCl、ImM MgCl中でロードし、pH 8.0の同じバッファーの中で溶出した。
【0135】
実施例2:BCG細胞可溶化液からのHspC富化調製物の調製における複合体安定性の増進
対数期中期の熱ショックを加えた培養物由来のBCG細胞ペレットを可溶化し、遠心分離によって浄化した。細胞ペレットを、EDTAを含まないプロテアーゼ阻害剤カクテルを含有する滅菌したPBSの中に再懸濁した。再懸濁した細胞を、超音波処理を使用して可溶化するか(Beadbeater)、またはEmulsiflex C5高圧ホモジナイザーに通し、滅菌した袋の中に集めた。Benzonase(250U/mL)を、上記可溶化液に加えた。次いでこの試料をさらに2回ホモジナイズし、その細胞可溶化液を遠心管に移し、6000gで20分間の遠心分離によって細胞片を除去した。浄化した可溶化液を集め、14000gでさらに60分間遠心分離し、上清を除去し、高速浄化した可溶化液として参照した。10mlの浄化した可溶化液を脱塩し、1mM ADPを含めてまたは含めずに、pH 6.8の50mM HEPES、1mM MgClへとバッファー交換した。当該HspC富化調製物は、CaptoQ(商標) カラムでのカラムクロマトグラフィを使用して単離した。1mM ADPを含むまたは含まないpH 6.8の50mM HEPES、1mM MgClでこのカラムを十分に洗浄した後、NaClの濃度を上昇させながら(150mM、350mM、500mMおよび1M)、タンパク質を一括溶出した。Hsp70およびHsp65を含有する溶出された分画を、DnaK(Hsp70)、GroEL(Hsp65)およびAg85に対する市販の抗血清を使用して、SDS−PAGEおよびウエスタンブロット法を使用して分析した。調製したHEPの例を図5Aに示す。ATPでADPを置き換えたバッファー組成物を使用して、崩壊したHspC複合体を含有する対照HEPを調製した(図5B)。種々のバッファーの中で調製したHEPは、それらのクーマシーブルーで染色されたタンパク質の特性において有意差を示さなかったが(図5B)、それらのタンパク質は、下記の実施例3に示すように、免疫原性が大きく異なった。
【0136】
実施例3:BCG由来のHspC富化調製物の免疫原性
BCG HEPを使用して、BalbCマウスを免疫化し、免疫から28日後、免疫化された動物から脾臓を回収した。脾臓をRPMI−1640に集め、5mLのシリンジプランジャーを使用して70μmのセルストレーナーに通して50mLのファルコンチューブ(Falcon tube)の中へと脾臓を押し出すことにより、ただ1つの細胞懸濁液を作製した。KOVA glassticスライド 血球計算板でトリパンブルー色素排除を使用して細胞を数え、インターフェロン γ(IFN−γ)の産生をTB抗原に対するリコール反応(recall response)でアッセイした。
【0137】
24穴の組織培養プレート(Nunc)の中で、1mL培地中に、各ウェルに2×10の脾細胞を加え、各ウェルに、以下の抗原のうちの1つを加えた:BSA(10μg/ml)、Con A(10μg/ml)、TBホールセル可溶化液(50〜1.56μg/mLのWCL)、HEP、IEF HspCまたはAg85(10μg/mL)。
【0138】
製造業者のプロトコル(アールアンドディー・システムズ(R&D Systems))に従ってマウス用ELISAキットを使用して、再刺激したウェルからの培養液の上清を、IFN−γ IL−2、IL−4およびIL−5について試験した。図2は、インビトロで、WCLで再刺激した免疫化されたマウス由来の脾臓細胞を用いて得た典型的な結果を示す。これらの結果は、BCGから単離されたHEP(IEX)が、免疫化された動物において強いIFN−γ反応を誘導し、その強さは、元のBCG可溶化液(LSS)よりも強く、複数のHspCファミリーの単離のためにこれまでに記載された従来のフリーフロー等電点電気泳動法(IEF)を使用して単離されたHspCよりもはるかに強いということを示した。WCLに対するリコール反応は、Con Aに関して見られたリコール反応と同程度であり、Ag85に対しては、有意であるがより小さい反応が見られた。またインビトロでのIFN−γ反応は、マウスエアロゾル抗原投与モデルにおいて、生TBの抗原投与に対するインビボでの防御へと反映された。図6は、詳細なBCGから単離されたHEPの免疫原性を示す。図6Aは、インビトロで、WCLで再刺激した免疫化されたマウス由来の脾臓細胞を用いてアッセイして得た細胞介在性免疫についての典型的な結果を示す。これらの結果は、実施例2でのようにBCGから単離されたHEPは、この免疫化された動物において、ADPおよび二価の陽イオンの存在下で(IEC(2 vaccs)およびADP/Mg)、強いIFN−γ反応を誘導し、その強さは、実施例1でのようにBCGから単離されたHEP(IEC(2 vaccs)よりも強く、生BCGで免疫化されかつこれらのHEPで追加免疫された動物(BCG/IEC(2 vaccs))で見られた反応と同程度であるということを示した。
【0139】
図6Bは、ADP + 二価の陽イオン(V1)、ATP + 二価の陽イオン(V2)または二価の陽イオン単独(V3)のいずれかの存在下でBCGバクテリア細胞可溶化液から単離されたHEPワクチンによって誘導される体液性免疫のTh1の優位性(bias)を示し、本発明の改善されたバッファー組成物を使用して単離されたHEPの増進された免疫原性を実証する。また図6Bは、本発明の改善された方法によって調製されたHspCワクチン(BCG + V1)で追加免疫することによる、現在の生BCGワクチン(BCG)に対するTh1が誘導するIgG2a抗体応答の有意な増進を示す。
【0140】
実施例4:BCG HspCワクチンによって誘導される防御免疫
実施例1(IEC)および実施例2(IEC mod)でBCGから単離されたHEPを使用して、8〜10匹のナイーブなまたは生BCGで予備刺激したBalbCマウスの群を免疫化した。対照動物を、生理食塩水または生BCGワクチン(ステイテンス・セラム・インスティテュート(Statens Serum Institute))のいずれかで免疫化した。予備刺激と追加免疫ワクチン接種との間に4週間の間隔を空けてHspCワクチンを75μgで投与し、最終の免疫化から4週間後に、これらの動物に50〜100CFUの生TB株H37Rvを抗原投与した。抗原投与後28日目にこの免疫化された動物から肺を回収し、TBによる肺コロニー形成を定量化するために、肺ホモジネートを三重にプレーティングした。図7は、抗原投与から4週間後に肺から回収した典型的なCFUを示す。本発明の改善されたバッファー組成物を使用して精製されたHEPで免疫化した動物は、生抗原投与に対する肺Cfuの減少によって評価されるとおり(図7A、IEC mod 対 IEC)、有意に増進された防御を示し、また現在の生BCGワクチンによって誘導される防御を追加免疫した(図7A、BCG 対 BCGおよびIEC)。ADPおよび二価の陽イオンの存在下で実施例2でのように単離されたHspCを使用して調製したHEPワクチン(IEC mod)は、肺コロニー数の減少によってアッセイすると、有意な防御を示し、この防御は、生BCGワクチン(BCG)によってもたらされる防御よりもはるかに良好であった。生BCGで免疫化した動物をHspCワクチンで追加免疫すること(BCGおよびIEC)は、H37Rv抗原投与後の肺コロニー数のさらなる減少によって評価されるとおり、BCGだけを投与された動物(BCG)と比較して、有意に改善された防御を示した。
【0141】
観察される増進された防御的免疫原性のためにHspC複合体の安定化が絶対的に必要であるということを実証するために、本発明の改善されたバッファー組成物を使用して単離されたHEPを、HspC複合体を崩壊させるためにATPの存在下で単離したHEPと比較した。得られた結果を図7Bに示すが、これらの結果は、HspC複合体を崩壊させるためにATPの存在下で精製したHEP(V2)と比較して、二価の陽イオン(V3)およびADP(V1)の存在下で単離したHEPで免疫化した動物において有意な防御を示す。これらの結果は、現在のBCG生ワクチン(BCG)で予備刺激し、HEPワクチンで免疫化した動物(BCGおよびV1)の追加免疫も示した。
【0142】
実施例5:Neisseria(ナイセリア)由来のHEPの調製
Neisseria meningitidis(ナイセリア・メニンギティディス、髄膜炎菌)株MC58の無莢膜変異株(Mol Microbiol、1995年11月;18(4):741−54)の培養物に44℃で熱ショックを加え、抗生物質ゲンタマイシンを用いた処置により死滅させた。細胞を処理し、実施例1および2に記載したようにしてHEPを製造した。簡潔に言えば、細胞を、凍結および解凍のサイクル、または超音波処理によって可溶化し、6,000gで20分間の遠心分離によって浄化した。浄化した抽出液を、CaptoQイオン交換樹脂を充填したカラム上へとロードした。このカラムをpH 6.8の50mMリン酸塩バッファーで十分に洗浄した後、NaClの濃度を上昇させながら(150mM、350mM、500mM)、タンパク質を一括溶出した。Hsp70およびHsp65を含有する溶出された分画を、SDS−PAGEを使用して分析した(図3A)。150mMおよび350mM NaClによって溶出された分画を合わせ、PBS中へと透析した。ワクチンを、主要なhspファミリーおよび外膜ポリン、PorAの存在について、ゲル電気泳動およびウエスタンブロット法によって評価した。結果を図3Bに示す。
【0143】
図8は、実施例1における方法に従ってADPおよび二価の陽イオンの不存在下で(A)、および実施例2における方法に従ってADPおよび二価の陽イオンの存在下で(B)精製され、GroEL(hsp60)およびDnaK(hsp70)の存在についてウエスタンブロットにかけたNeisseria meningitidis(ナイセリア・メニンギティディス、髄膜炎菌)株MC58由来のHEPを示す。
【0144】
実施例6:Neisseria(ナイセリア)のHEPの免疫原性
系株間反応(cross strain response)の評価のための血清を生成するために、実施例3の方法に従ってNeisseria meningitidis(ナイセリア・メニンギティディス、髄膜炎菌)株MC58またはNeisseria lactamica(ナイセリア・ラクタミカ)から調製したHEPを使用してマウスを免疫化した。免疫化された動物由来の血清をプールし、それらが系株間の抗体介在性オプソニン化貪食作用を引き出す能力を、以下の臨床用ナイセリアの株を使用して評価した;MC58、H44/76−SL、M01−240101、M01−240013、M01−240149、M01−240185およびM01−240355。アッセイのために、血清試料を、死滅させた蛍光標識した細菌およびIgGを欠失した仔ウサギ補体とともに37℃で7.5分間、インキュベーションした。0.8%DMFを用いて分化させたHL60細胞を加え、試料を7.5分間インキュベーションし、その後、氷冷したDPBSを加えて反応を停止した。試料をフローサイトメトリによって分析し、データを蛍光指数値(Fl−C’)として表した。すべての株について、MC58由来のHEPでワクチン接種を受けたマウスから得た血清は、ワクチン接種を受けていない対照由来および従来の等電点電気泳動法を使用して精製されたhspCまたは市販の外膜小胞(H44/76 OMV)ワクチン候補で免疫化した動物由来の血清を用いて得たオプソニン化反応よりも、有意に大きいオプソニン化反応を誘導した。異種株M01−240101を用いて得た結果を図4に示すが、この結果は、HEP(IEC HspC)、従来の方法で精製されたhspC(IEF HspC)およびOMVワクチン(H44/76 OMV)を用いて得られた系株間防御を示す。このHEPワクチンは、また、MC58およびこのOMVワクチンが由来するH44/76株の両方に対して、IEF HspCワクチンよりも高いオプソニン化値を生成した。実施例1および実施例2の方法を使用して共生ナイセリア(Neisseria)、N.lactamica(ナイセリア・ラクタミカ)から単離したHEPは、致死的抗原投与研究においてマウスの有意な交差血清型防御を示し、生MC58の腹腔注入に対して、すべてのマウスが完全に生存した。
【0145】
実施例7:Streptococcus pneumoniae(ストレプトコッカス・ニューモニエ、肺炎連鎖球菌)由来のHEPの精製および免疫原性
Streptococcus pneumonia(ストレプトコッカス・ニューモニエ、肺炎球菌)株D39をHoeprichの培地中で成長させ、42℃で45分間熱ショックを加え、56℃で15分間熱殺菌した。細胞を遠心分離によって回収し、pH 6.8の50mM HEPES、1mM MgCl、1mM ADPの中に再懸濁し、Emulsiflex C5の中で崩壊させた。この可溶化液を遠心分離によって浄化し、CaptoQカラムにロードし、300mM NaClを含有する溶解バッファーの中で溶出した。精製したHEPを使用してBalbCマウスを免疫化し、血清を、種々のS.pneumoniae(ストレプトコッカス・ニューモニエ)株に対する抗体についてELISAによって分析した。当該HEPワクチンは、免疫化株D39に対し良好な抗体を誘導し、ならびに株23FおよびTIGR4との交差反応を誘導した。誘導された体液性応答は、さらに、IgG1サブタイプ抗体の産生よりも大きいIgG2aサブタイプ抗体の産生を伴って、Th1リンパ球細胞の優位性を示した。
【0146】
実施例8:バキュロウイルスに感染した昆虫細胞由来のHEPの精製および免疫原性
インフルエンザ H3 Panama haemaggluttinin(パナマ・ヘマグルチニン)を発現する組み換えバキュロウイルスおよびヒトIgG Fc断片との融合タンパク質としてのC型肝炎ウイルスE1およびE2ポリペプチドを使用して、Sf9昆虫細胞を感染させた。感染した細胞をInsect−Xpress無タンパク質培地中で72時間成長させ、Jouan GR4 22遠心分離機の中で、4,500rpmで10分間、細胞をペレット化した。細胞ペレットを再懸濁し、加圧型細胞破砕装置(dounce homogenizer)を使用して0.2% NP40、1mg/mlペプスタチンおよび0.2mM PMSFを含有するpH 6.8の10mM Tris−HClの中で、氷上で可溶化した。この可溶化液を12,000gで15分間遠心分離し、上清を100,000gで30分間遠心分離し、浄化した可溶化液を得て、次いでこの可溶化液をCaptoQ(商標) カラムにロードした。このカラムを、100mM NaClを含有するpH 6.8の10mM Tris−HClの中で洗浄し、150〜350mMのNaCl塩勾配を用いてHEPを溶出した。この精製されたHEPを使用してマウスおよびウサギを免疫化し、これらの免疫化した動物からの血清を、ウエスタンブロット法および赤血球凝集反応の阻害によってアッセイした。
【0147】
実施例9:腫瘍細胞由来のHEPの精製および免疫原性
EL4およびA20細胞をRPMI培地中で成長させ、Potterホモジナイザーを使用して、非イオン性物質を含有するバッファーの中で可溶化し、腫瘍細胞HEPを精製し、実施例6におけるように、ウエスタンブロット法によって免疫原性について試験した。
【0148】
実施例10:異種抗原を発現するCHO細胞由来のHEPの精製および免疫原性
CHO細胞およびFc融合タンパク質を発現するCHO細胞を、CHO CD培地(Gibco)中で成長させた。CHO細胞を回収し、PBSの中で洗浄し、1mM ADPおよび1mM MgClを伴うかまたは伴わないかのいずれかのpH 6.8の50mM HEPES、150mM NaClの中に再懸濁し、超音波処理によって可溶化した。この可溶化液を遠心分離によって浄化し、その後、0.8μM次いで0.2μMのフィルターに通して濾過し、pH 6.8の50mM HEPESの中で10倍希釈し、HEPを、1ml CaptoQカラムを具えたAKTAクロマトグラフィシステムを使用して精製した。このカラムを、1mM ADPおよび1mM MgClが添加されているかまたは添加されていないかのいずれかの50mM HEPES pH 6.8およびB、pH 6.8の50mM HEPES、20mM NaClを含有する20mlバッファーで洗浄し、HEPを、150mM NaCl、250mM NaCl、350mMおよび500mM NaClという上昇する塩濃度を含有する洗浄バッファーの中で溶出した。HEPをSDS−PAGEゲル上に流し、タンパク質をクーマシーで染色するか(図9A)、またはhsp60(抗体SPA−875、ストレスジーン(Stressgene))もしくはHsp70(抗体 SPA−811、ストレスジーン(Stressgene))(それぞれ図9Bおよび図9C)のいずれかについてウエスタンブロットにかけた。このクーマシー染色は、上記CHO可溶化液からCaptoQ樹脂によって捕捉されたタンパク質、および段階勾配溶出によるこれらのタンパク質の良好な分離を実証する。このウエスタンブロットは、150mM NaClを用いた、CaptoQカラムからのHEPの溶出を実証する。
【0149】
本願明細書中で参照されたすべての文書は、参照により本願明細書に援用したものとする。本発明の記載された実施形態に対する種々の改変および変更は、本発明の範囲から逸脱せずに、当業者には明らかであろう。本発明は具体的な好ましい実施形態に関連して記載されたが、請求項に係る本発明は、このような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないということを理解されたい。実際、当業者には自明である、本発明を実施する記載された態様の種々の改変は、本発明に包含されることが意図されている。本願明細書中のいずれの先行技術への言及も、その先行技術がいずれかの国で普通の一般の知識の一部を形成するということの同意またはいずれかの形態の示唆として解釈されないし、解釈されるべきでもない。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9