(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778669
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】メタン生成の抑制方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20150827BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20150827BHJP
A23K 1/18 20060101ALI20150827BHJP
A23K 1/16 20060101ALI20150827BHJP
C12R 1/05 20060101ALN20150827BHJP
【FI】
C12N1/20 D
C12N1/00 P
A23K1/18 B
A23K1/16 304B
C12N1/20 D
C12R1:05
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-515858(P2012-515858)
(86)(22)【出願日】2011年5月13日
(86)【国際出願番号】JP2011061038
(87)【国際公開番号】WO2011145516
(87)【国際公開日】20111124
【審査請求日】2013年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-114271(P2010-114271)
(32)【優先日】2010年5月18日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-11247
(73)【特許権者】
【識別番号】591101490
【氏名又は名称】エイブル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510137375
【氏名又は名称】幡野 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100092967
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】正田 誠
(72)【発明者】
【氏名】石川 陽一
(72)【発明者】
【氏名】幡野 勇
【審査官】
高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−212680(JP,A)
【文献】
特開2008−104361(JP,A)
【文献】
特開2006−166853(JP,A)
【文献】
特開2006−063002(JP,A)
【文献】
特開2002−199875(JP,A)
【文献】
特開平09−104606(JP,A)
【文献】
JOO,H.S. et al.,Piggery wastewater treatment using Alcaligenes faecalis strain No. 4 with heterotrophic nitrification and aerobic denitrification.,Water Res.,2006年 9月,Vol.40, No.16,pp.3029-36
【文献】
SHODA,M. AND ISHIKAWA,Y.,Heterotrophic nitrification and aerobic denitrification of high-strength ammonium in anaerobically digested sludge by Alcaligenes faecalis strain No. 4.,J. Biosci. Bioeng.,2014年 6月,Vol.117, No.6,pp.737-41
【文献】
HORI,T. et al.,Identification of acetate-assimilating microorganisms under methanogenic conditions in anoxic rice field soil by comparative stable isotope probing of RNA.,Appl. Environ. Microbiol.,2007年 1月,Vol.73, No.1,pp.101-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性条件下で酢酸を基質とし得るアルカリゲネス・フェーカリスを含んでなる、嫌気性条件下におけるメタン発酵を阻害するためのメタン生成抑制剤。
【請求項2】
アルカリゲネス・フェーカリスがアルカリゲネス・フェーカリスNo4(FERM BP-11247)である、請求項1に記載のメタン生成抑制剤。
【請求項3】
反芻動物に投与するための、請求項1または2に記載のメタン生成抑制剤。
【請求項4】
請求項3に記載のメタン生成抑制剤を含む、反芻動物用飼料。
【請求項5】
水田、湖沼又は水産養殖池に適用するための、請求項1または2に記載のメタン生成抑制剤。
【請求項6】
請求項1または2に記載のメタン生成抑制剤を含む、肥料。
【請求項7】
嫌気性条件下で酢酸を基質とし得るアルカリゲネス・フェーカリスをメタン発酵系に適用することを含む、嫌気性条件下におけるメタン生成を抑制する方法。
【請求項8】
アルカリゲネス・フェーカリスがアルカリゲネス・フェーカリスNo4(FERM BP-11247)である、請求項7に記載のメタン生成を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン生成菌によるメタン生成を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心が高まる中、地球温暖化問題が注目されている。地球温暖化は、大気中の温室効果ガス濃度が高くなるにつれて進行する。二酸化炭素、メタン、パーフルオロカーボン(PFC)などの温室効果ガスは赤外線領域に強い吸収をもち、大気中に放出されると、地表から放射されるエネルギーを吸収し、その一部を下層の地表に向かって放出する。すなわち、地表から放出されたエネルギーの一部が温室効果ガスによって再び地表に戻されるため、いわゆる温室効果により地球温暖化が起こる。
【0003】
1997年に開催された地球温暖化防止京都会議では先進国の温室効果ガスの削減目標が設定され、1990年を基準として2008年から2012年まで温室効果ガスを一定量削減することが決定された。温室効果ガスの量と地球温暖化係数によって温室効果ガスの温室効果を評価すると、温室効果は、二酸化炭素が最も大きく、次いでメタンが大きいとされる。特に、メタン(地球温暖化係数:21)は二酸化炭素(地球温暖化係数:1)に比べて地球温暖化係数が高く、少量でも地球環境に与える影響は大きい。このような背景から、メタン生成を抑制する技術が強く望まれている。
【0004】
一般にメタンは、メタン生成菌(メタン菌)によるメタン発酵によって生成し、主に環境中では、反芻動物の胃(ルーメン)や水田からメタンが発生することが知られている。メタン生成菌は嫌気条件下でメタンを合成するが、反芻動物の胃では草などを消化する段階で有機酸が生成し、これがメタン生成菌によってメタンに変換され、水田ではメタン生成菌が稲の切り株などの有機物を分解してメタンが発生する。反芻動物や水田に由来するメタンは、メタン全体の2〜3割を占めるとされ、これらの発生源からのメタン生成を抑制することができれば、温室効果ガスであるメタンを大幅に削減することが可能となる。
【0005】
メタン生成を抑制する技術としては、これまで、システインを用いる方法(特許文献1)、乳酸菌などを利用する方法(特許文献2)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−322828号公報
【特許文献2】特開2009−201354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、メタン生成菌によるメタン生成を抑制する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような状況に鑑み、本発明者らは、メタン生成菌によるメタン生成を抑制する技術について鋭意研究したところ、特定のアルカリゲネス菌が嫌気性条件下でメタン生成を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明においては、アルカリゲネス・フェーカリス(Alcaligenes faecalis)、特にアルカリゲネス・フェーカリスNo4(Alcaligenes faecalis No4:FERM BP-11247)を用いてメタン発酵を阻害し、メタン生成を抑制する。
【0009】
本発明で用いるアルカリゲネス・フェーカリスは、これまで、好気性条件においてアンモニアを直接窒素ガスに変換することが知られており(特開2002−199875号公報)、また、植物病害防除剤として利用することが提案されている(特開平9−104606号公報)。上記アルカリゲネス・フェーカリスの嫌気性条件における特性は知られていなかったところ、今回、本発明者らは、上記アルカリゲネス・フェーカリスが嫌気性条件においても酢酸やアンモニア(NH
4+)を利用(資化)して増殖することを確認し(後記の試験例を参照)、さらに、メタン発酵系に上記アルカリゲネス・フェーカリスを適用するとメタン生成が抑制されることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、これに限定されるものではないが、酢酸を基質とし得るアルカリゲネス・フェーカリスを含んでなるメタン生成抑制剤に関する。特に、アルカリゲネス・フェーカリスとして、アルカリゲネス・フェーカリスNo4株を用いることが好ましい。また、本発明のメタン生成抑制剤は、反芻動物に投与して反芻動物から排出されるメタンの生成を抑制することができる。さらに、本発明のメタン生成抑制剤は、水田、湖沼又は水産養殖池に適用して、水田、湖沼又は水産養殖池からのメタン生成を抑制することができる。さらにまた、本発明のメタン生成抑制剤は、メタン発酵槽に投入し反応槽でのメタン発酵におけるメタン生成を抑制することができる。
【0011】
そしてさらに、本発明は、上記メタン生成抑制剤を含む反芻動物用飼料及び肥料に関する。
【0012】
また、本発明は、酢酸を基質とし得るアルカリゲネス・フェーカリスをメタン発酵系に適用することを含む、メタン生成を抑制する方法にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、メタン生成菌によるメタン生成を抑制することができる。本発明によれば、温室効果ガスの一種であるメタンの生成を抑制することができるため、本発明は地球環境の保全に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に用いるアルカリゲネス・フェーカリスによってメタン生成菌によるメタン生成が抑制されたことを示すグラフである。図中、矢印は本発明のアルカリゲネス・フェーカリスの反応槽への投入時期を示す。
【
図2】
図2は、本発明に用いるアルカリゲネス・フェーカリスが嫌気性条件下で酢酸およびアンモニアを利用して増殖することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明においては、アルカリゲネス・フェーカリス(Alcaligenes faecalis )、特にアルカリゲネス・フェーカリスNo4(Alcaligenes faecalis No4:FERM BP-11247)を用いてメタン生成を抑制する。すなわち、本発明においては、アルカリゲネス・フェーカリス、特にアルカリゲネス・フェーカリスNo4を用いてメタン発酵を阻害し、メタン生成を抑制する。
【0016】
1つの観点からは、本発明は、アルカリゲネス・フェーカリスを含んでなる、メタン生成抑制剤である。他の観点からは、本発明は、アルカリゲネス・フェーカリスをメタン発酵系に適用することを含む、メタン生成を抑制する方法である。
【0017】
なお、本発明において、メタン生成の「抑制」には、メタンが実質的に生成しないメタン生成の「防止」も含まれる。
【0018】
アルカリゲネス・フェーカリス
本発明で用いる微生物の1例は、神奈川県の土壌から分離されたアルカリゲネス・フェーカリス(Alcaligenes faecalis)に属する微生物であり、以下の菌学的性質を有する。そして、この微生物は、産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にアルカリゲネス・フェーカリスNo4(Alcaligenes faecalis No4)として2010年4月9日付けで寄託されており、その受託番号はFERM BP-11247である。
【0020】
本発明で用いるアルカリゲネス・フェーカリスとしては、上記のアルカリゲネス・フェーカリスNo4が好ましいが、これに限定されず、嫌気性条件下で酢酸を基質とすることができ、メタン生成を抑制する能力(メタン発酵阻害特性)を有するアルカリゲネス・フェーカリス(Alcaligenes faecalis)に属する微生物を全て使用することができる。なお、本発明に用いる上記微生物の選抜は、例えば、後記試験例、実施例に記載の方法などに従えばよい。また、上記アルカリゲネス・フェーカリスNo4を元菌株として自然または誘発突然変異により、上記菌株のメタン発酵阻害特性を向上させた遺伝子学的変異体を得て、本発明のアルカリゲネス・フェーカリスとして用いることができる。これらの変異株を調製する方法として公知の方法を用いることができ、例えば、元菌株に紫外線照射あるいはN−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)等の薬剤による人工突然変異処理を施して変異体を選抜することができる。
【0021】
本発明で用いるアルカリゲネス・フェーカリスの菌体を得るための培養(菌体増殖培養)については、通常の培養条件で培養することができる。培養の培地としては、本発明のアルカリゲネス・フェーカリスが増殖し得るものであれば任意のものでよいが、窒素源としてアンモニウム塩を添加した培地で培養することが好ましい。また、ペプトン、酵母エキス等を主成分とする有機培地、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム等を主成分とする無機培地のいずれにおいても増殖することができ、有機培地の例としては、ペプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/Lを含有するL培地、無機培地の例としては、K
2HPO
414g/L、KH
2PO
46g/L、(NH
4)
2SO
42g/L、クエン酸三ナトリウム・二水和物15g/L、MgSO
4・7H
2O0.2g/Lを含むMM培地等を挙げることができる。嫌気的あるいは好気的な条件で培養することができるが、微生物を増殖させる際は好気性条件で行うことが好ましい。培養方法に制限はないが、例えば、通気撹拌培養法や振盪培養法あるいは固体培養法等によって培養することができ、通気撹拌した液体培養によれば短期間で多量の菌体を培養することができる。培養条件には特に限定はないが、温度は20〜40℃が好ましく、25〜30℃がより好ましい。pHは6.0〜8.0が好ましく、pH7付近がより適当である。培養時間は15〜72時間の範囲が適当である。また、培養はバッチ式および連続式のいずれでも行うことができる。
【0022】
本発明においてアルカリゲネス・フェーカリスは、培養物から分離することなくそのまま利用することができる。また、培養物を乾燥して利用することもでき、各種の添加物と共に水和剤などに製剤化したものを用いることもできる。さらに、本発明のアルカリゲネス・フェーカリスは、それを担体に固定化して用いることもできる。例えば、この菌体を担体に固定化し、その表面に処理対象物を嫌気性条件で流過させることにより本発明を実施することもできる。
【0023】
本発明においてアルカリゲネス・フェーカリスがメタン生成菌によるメタンの生成を抑制する理由の詳細は明らかでなく、本発明はこれに拘束されるものではないが、以下のように推測される。すなわち、メタン生成菌は酢酸などの有機酸を基質としてメタン発酵するところ、本発明に用いるアルカリゲネス・フェーカリスは、上記のごとく、嫌気性条件下で酢酸やアンモニア(NH
4+)を基質として増殖するため、本発明のアルカリゲネス・フェーカリスによってメタン生成菌が利用しようとする有機酸が消費されてしまい、その結果として、メタン発酵が阻害されるものと推測される。
【0024】
メタン発酵系
本発明においてメタン発酵系とは、メタン生成菌によって嫌気性条件下でメタンを生成する系のことをいう。したがって、活性汚泥などを利用した嫌気的反応槽における廃棄物処理、反芻動物のルーメンにおけるメタン発酵、水田などにおけるメタン発酵などは、本発明のメタン発酵系に該当する。なお、本発明において、「メタン発酵系」には、現在はメタン発酵が行われていないが、将来メタン発酵が行われる系も含まれ、例えば、本発明において、あらかじめ水田などにアルカリゲネス・フェーカリスを適用し、その後のメタン生成を防止することもできる。
【0025】
メタン生成菌(メタン菌)は、嫌気性条件でメタンを合成する微生物であり、動物の消化器官や沼地、海底堆積物、地殻内に広く存在し、地球上で放出されるメタンの大半を合成している。分類上は全ての種が古細菌ユリアーキオータ門に属している。メタン生成菌は、他の菌と共生あるいは基質の競合の中に生育することもあり、例えば、低級脂肪酸を分解して酢酸を生成する真正細菌と共生しているケースもある。また近年は、メタン生成菌の汚泥処理や水質浄化への応用等も試みられている。
【0026】
一般に、メタン生成菌は、有機酸や二酸化炭素を炭素源としてメタンを生成する。例えば、Methanosarcinacea綱のメタン菌は、一酸化炭素、酢酸、メタノール、メチルチオール、メチルアミンなどを利用してメタンを生成する。また、メタン生成菌は、その生育環境によって利用基質が変化する。例えば、湖沼などにおける淡水堆積物はほとんど二酸化炭素、ギ酸、酢酸にまで分解されるので、淡水中では酢酸の量が多く、淡水で発生するメタン生成の約60%は酢酸経由とされる。
【0027】
本発明の上記メタン発酵系においてメタン生成菌は、分離されたメタン生成菌であってもよく、有機性廃棄物中などに生息するメタン生成菌(混合微生物、微生物フローラ)であってもよい。有機性廃棄物や活性汚泥などに生息するメタン生成菌としては、メタノコッカス(Methanococcus)属、メタノバクテリウム(Methanobacterium)属、メタノサルシナ(Methanosarcina)属などに属する微生物を挙げることができるが、これらに制限されない。
【0028】
本発明において、メタン発酵の温度は20〜40℃が好ましい。pHは、6.0〜8.0が好ましく、pH7は付近がより適当である。また、メタン発酵を反応槽で行う場合、バッチ式および連続式のいずれで行ってもよい。
【0029】
本発明に用いるアルカリゲネス・フェーカリスによって、活性汚泥などによるメタン発酵系からのメタン生成を抑制する場合、この菌体を嫌気的反応槽に投入すればよく、多孔質担体などに担持させた状態で反応槽に投入してもよい。
【0030】
反芻動物から排出されるメタンの生成の抑制
本発明のアルカリゲネス・フェーカリスを反芻動物に投与して、反芻動物から排出されるメタンの生成を抑制することができる。したがって、本発明は、反芻動物にアルカリゲネス・フェーカリスを投与することを含む、反芻動物から排出されるメタンの生成を抑制する方法である。また、別の観点からは、本発明は、反芻動物に投与するためのメタン生成抑制剤である。他の観点からは、本発明は、アルカリゲネス・フェーカリスを含んでなる反芻動物用飼料である。
【0031】
一般に反芻動物は複数の胃を有しており、第1胃(ルーメン)における嫌気性条件でメタン生成菌によってメタンが生成する。特に、反芻動物の胃では草などの食料を消化する段階で有機酸が生成し、これがメタン生成菌によってメタンに変換されるとされる。家畜や野生動物である反芻動物の消化器官発酵により生成されるメタンの量は、地球上で放出される全メタン発生量の約16%に相当するとされており、反芻動物からのメタン生成を抑制できれば、極めて有用性が高い。また、反芻動物によるメタン生成を抑制することは、飼料中の炭素源などのメタン発酵による消費を抑制することにもなり、その結果として飼料効率(要求率)を向上させることにつながる。
【0032】
本発明において反芻動物とは、反芻胃を有する動物であり、消化器系に複数の胃を有する。反芻動物の例としては、ウシのほか、ヤギ、ヒツジ、水牛などを挙げることができ、家畜はもとより野生の反芻動物も包含される。反芻動物のルーメン(第1胃)においてはそのpHがそれほど酸性でないこともあり、本発明のアルカリゲネス・フェーカリスは反芻動物のルーメンにおいてメタン発酵阻害特性を有することができる。
【0033】
反芻動物の消化器官においては、メタン生成菌は酢酸などの有機酸を利用してメタン発酵を行いメタンが生成するところ、本発明のアルカリゲネス・フェーカリスを反芻動物に投与すると酢酸などの有機酸が消費されるため、メタン生成菌によるメタン生成が阻害、抑制され、反芻動物から排出されるメタンの生成を抑制することができる。したがって、本発明によれば、反芻動物のげっぷ(おくび・あいき)に含まれるメタンの生成を抑制することができるため、地球温暖化ガスの抑制はもちろん、臭気抑制にもつながる点で極めて好適である。なお、呼気中やルーメン中のメタンは、例えば揮発性炭化水素濃度計「Model TVA-1000B」(ミツワ理化学工業)により測定することができる。
【0034】
本発明のメタン生成抑制剤は、微生物を培養して調製することができるが、病原菌の混入していないことを確認することが好ましい。また、製剤化する場合、担体と配合し、必要に応じて、分散剤、安定剤、賦形剤、結合剤等を配合して製造してもよい。剤形は、例えば、顆粒剤、散剤、粉末剤等の所望のものにすることができる。
【0035】
また、製剤化する場合、培養基質として、例えば、米ぬか、小麦フスマ、大豆粕、大豆胚芽、醤油粕、ポテトパルプ、こんにゃくトビ粉、パーム油残渣、カルシウム含有物、澱粉類を含ませることができる。カルシウム含有物としては、卵殻、牡蠣貝殻、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、または、これら2種以上の混合物を挙げることができる。また、澱粉類としては、例えば、トウモロコシ、ソルガム、その他飼料用穀物、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、タピオカやサゴ澱粉、各種化工澱粉、ブドウ糖、異性化糖、水飴等を挙げることができる。
【0036】
本発明のメタン生成抑制剤の反芻動物への投与量は、メタン生成抑制の効果を奏するものであれば特に制限されず、反芻動物の種類、生育段階、季節・場所等の飼育環境等に応じて適宜決定できる。
【0037】
本発明のメタン生成抑制剤は、単独で使用してもよく、また、飼料と混合して用いてもよい。本発明のメタン生成抑制剤を、飼料とは別に投与する場合、投与時期は、飼料がルーメン内に滞留している間であればいずれの時期でもよい。メタンが生成される前にルーメン内にこのメタン生成抑制剤が存在することが好ましく、飼料投与直前、或いは同時にメタン生成抑制剤を投与することが好ましい。
【0038】
水田などから排出されるメタン生成の抑制
本発明に用いるアルカリゲネス・フェーカリスを水田、湖沼又は水産養殖池に適用して、それらから排出されるメタンの生成を抑制することができる。したがって、本発明は、水田等にアルカリゲネス・フェーカリスを適用することを含む、水田等から排出されるメタンの生成を抑制する方法である。また、別の観点からは、本発明は、水田等に適用するためのメタン生成抑制剤である。さらに別の観点からは、本発明は、メタン生成抑制剤を含む肥料である。
【0039】
一般に水田や湖沼の水底には、稲の切り株その他の動植物の腐食物、動物の排泄物、その他廃棄物といった有機物が存在しており、メタン生成菌がメタン発酵によりメタンを発生しやすい環境にある。水田などから発生するメタンは、反芻動物から排出されるメタンと並んで、地球上で放出されるメタンの主なソースとなっており、水田などからのメタン生成を抑制できれば、極めて有用性が高い。
【0040】
本発明においてアルカリゲネス・フェーカリスを適用する場所は、水田、湖沼又は水産養殖池などのメタン生成菌によるメタン発酵が行われている場所である。水田などに対してアルカリゲネス・フェーカリスを散布などにより適用すると、メタン生成菌によるメタン生成が阻害され、水田などから排出されるメタンの生成を化学物質を使用することなく抑制することができる。また、本発明に用いるアルカリゲネス・フェーカリスNo4は、特開平9−104606号公報に記載されているように各種植物病原菌に対して、その増殖を抑制する活性を有しているため、水田等の農地に散布するのに好適である。
【0041】
本発明に用いるアルカリゲネス・フェーカリスは、培養して調製することができるが、病原菌の混入していないことを確認することが好ましい。また、製剤化する場合、担体と配合し、必要に応じて、分散剤、安定剤、賦形剤、結合剤等を配合して製造してもよい。剤形は、例えば、顆粒剤、散剤、粉末剤等の所望のものにすることができる。
【0042】
また、製剤化する場合、培養基質として、例えば、米ぬか、小麦フスマ、大豆粕、大豆胚芽、醤油粕、ポテトパルプ、こんにゃくトビ粉、パーム油残渣、カルシウム含有物、澱粉類を含ませることができる。カルシウム含有物としては、卵殻、牡蠣貝殻、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、または、これら2種以上の混合物を挙げることができる。また、澱粉類としては、例えば、トウモロコシ、ソルガム、その他飼料用穀物、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、タピオカやサゴ澱粉、各種化工澱粉、ブドウ糖、異性化糖、水飴等を挙げることができる。
【0043】
本発明のメタンガス生成抑制剤の形態や適用量、適用頻度は、メタン生成抑制の効果を奏するものであれば特に制限されず、対象となる水田などの環境、季節、メタンの発生状況などに応じて適宜決定できる。本発明のメタン生成抑制剤は、単独で使用してもよく、また、肥料などと混合して使用してもよい。さらに、例えば、本発明のアルカリゲネス・フェーカリスの培養物あるいは分離した菌体を、水で懸濁した後に水田などに散布することができる。
【0044】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、本明細書において、部、%などは特に記載しない限り重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【実施例】
【0045】
実施例
第1槽(対照)および第2槽(試験)の2つの1L容撹拌型反応槽に、食品残渣(食品工場から出るタマネギ、ジャガイモなどの有機性産業廃棄物)のメタン発酵汚泥(37〜38℃で滞留時間を30日にして発酵させたもの)800mlを投入し、緩やかに撹拌しつつ、33℃、初期pH7の条件でメタン発酵を14日間行った。実験中は、嫌気性条件を保つために窒素ガスを反応槽上部空間にパージした。
【0046】
メタン発酵の開始時とそれ以降毎日、表2に示す添加栄養源の800ml分を固形で添加して、メタン発酵を行った。本実施例のメタン発酵系においては酢酸ナトリウムを炭素源として用いているが、系のpHを確認することにより炭素が消費されているかをモニタリングすることができる。
【0047】
【表2】
【0048】
添加栄養源を添加しメタン発酵を開始してから9日目の18時(
図1における矢印)の時点で第2槽(試験)にアルカリゲネス・フェーカリスNo4(FERM BP-11247)の培養液(菌濃度:約5×10
8cells/ml)を20ml添加した。
【0049】
なお、アルカリゲネス・フェーカリスNo4の培養液は、500ml容振とうフラスコに分注の100mlの液体培地(組成は表3を参照)にアルカリゲネス・フェーカリスNo4を接種し、30℃で72時間振とう培養して得た。
【0050】
【表3】
【0051】
メタン発酵の開始後における、各反応槽からのガス発生量(ガス生成量)をメスシリンダーを用いて各日の午前10時の時点で測定した。そのときの1時間あたりのガス発生量(ml/h)を
図1および表4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
図1から明らかなように、アルカリゲネス・フェーカリスNo4を投入後、ガスの発生量が著しく減少していた。また、上記ガスをガスクロマトグラフィーにより分析した結果、メタンが91〜97%(V/V)を占めていることが確認された。以上のことから、本発明に用いるアルカリゲネス・フェーカリスがメタン発酵系におけるメタン生成を顕著に抑制していることが分かる。
【0054】
試験例
本発明に用いるアルカリゲネス・フェーカリスが嫌気性条件下で酢酸およびアンモニアを利用して増殖することについて確認した。
【0055】
500ml容フラスコに分注の100mlの液体培地(表3の組成のものに酵母エキス0.1g/lを添加したもの)にアルカリゲネス・フェーカリスNo4(FERM BP-11247)を接種し、30℃で15日間静置培養した。なお、フラスコの気相部分には窒素ガスを連続的にパージした。
【0056】
このときの培養期間中における培養液の菌濃度(OD値)、酢酸濃度(g/l)及びアンモニウムイオン(NH
4+)濃度(g/l)を測定した。その結果を
図2として示す。
【0057】
同図から、上記アルカリゲネス・フェーカリスは、嫌気性条件下で酢酸およびアンモニア(NH
4+)を利用(資化)して増殖していることが分かる。