(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778671
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】キメラファージφ29DNAポリメラーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20150827BHJP
C12N 9/12 20060101ALI20150827BHJP
C12Q 1/68 20060101ALI20150827BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
C12N15/00 AZNA
C12N9/12
C12Q1/68 A
C07K19/00
【請求項の数】38
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-519025(P2012-519025)
(86)(22)【出願日】2010年7月1日
(65)【公表番号】特表2012-531220(P2012-531220A)
(43)【公表日】2012年12月10日
(86)【国際出願番号】ES2010070454
(87)【国際公開番号】WO2011000997
(87)【国際公開日】20110106
【審査請求日】2013年7月1日
(31)【優先権主張番号】P200930413
(32)【優先日】2009年7月2日
(33)【優先権主張国】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】512004305
【氏名又は名称】コンセホ スーペリオル デ インヴェスティガシオネス シエンティフィカス(セエセイセ)
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】サラス ファルゲラス マルガリータ
(72)【発明者】
【氏名】デ ヴェガ ホセ ミゲル
(72)【発明者】
【氏名】ラザロ ボロス ホセ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ ダヴィラ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】メンシア カバレロ マリオ
【審査官】
坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−501530(JP,A)
【文献】
特表2006−521112(JP,A)
【文献】
Proceedings of National Academy of Sciences, USA,2002年,Vol.99, No.21,p.13510-13515
【文献】
Proceedings of National Academy of Sciences, USA,2010年,Vol.107, No.38,p.16506-16511
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C07K 19/00
C12N 9/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq/PDB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)φ29DNAポリメラーゼをコードするアミノ酸配列であって、前記φ29DNAポリメラーゼが配列番号1のアミノ酸配列を有し、そのC末端がb)に結合されている前記アミノ酸配列、
b)連結アミノ酸配列であって、配列番号5または配列番号6で表される配列であり、そのC末端がc)に結合されている前記連結アミノ酸配列、
c)少なくとも1つのへリックス・ヘアピン・へリックス(HhH)ドメインを含むアミノ酸配列であって、アミノ酸配列番号3で表される配列であるか、またはC末端がアミノ酸配列番号4に結合されているアミノ酸配列番号3で表される配列である、前記アミノ酸配列、
を含むキメラDNAポリメラーゼ。
【請求項2】
鋳型DNAの複製、増幅または配列決定のための、請求項1に記載のキメラDNAポリメラーゼの使用。
【請求項3】
鋳型DNAの複製、増幅または配列決定方法であって、前記DNAと、少なくとも:
a)請求項1に記載のキメラDNAポリメラーゼ、
b)緩衝液、
c)塩化マグネシウム
d)エキソヌクレアーゼの作用から保護されている任意のプライマー、および
e)ヌクレオシド三リン酸
を含む反応混合物とを接触させることを含む前記方法。
【請求項4】
反応混合物が、さらにモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンを含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
反応混合物が、さらにアンモニウム塩を含む、請求項3または4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
反応混合物が、さらにカリウム塩を含む、請求項3または4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
カリウム塩が塩化カリウムまたは酢酸カリウムである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンの割合が、反応物の全容量の0.003%〜0.1%である、請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンの割合が、反応物の全容量の0.006%〜0.05%である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンの割合が、反応物の全容量の0.01%〜0.03%である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムまたは酢酸アンモニウムを含むリストから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
アンモニウム塩が硫酸アンモニウムである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
硫酸アンモニウムの濃度が30mMと60mMの間である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
硫酸アンモニウムの濃度が40mMと50mMの間である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
アンモニウム塩が、塩化アンモニウムまたは酢酸アンモニウムである、請求項11記載の方法。
【請求項16】
塩化アンモニウムまたは酢酸アンモニウムの濃度が60mMと120mMの間である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
塩化アンモニウムまたは酢酸アンモニウムの濃度が80mMと100mMの間である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
緩衝液がトリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPESである、請求項3に記載の方法。
【請求項19】
緩衝液のpHが7と8.5の間である、請求項3に記載の方法。
【請求項20】
塩化マグネシウムの濃度が2mMと20mMの間である、請求項3に記載の方法。
【請求項21】
塩化マグネシウムの濃度が5mMと15mMの間である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
塩化カリウムまたは酢酸カリウムの濃度が30mMと70mMの間である、請求項7に記載の方法。
【請求項23】
塩化カリウムまたは酢酸カリウムの濃度が40mMと60mMの間である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
ヌクレオシド三リン酸がdCTP、dGTP、dTTPおよびdATPである、請求項3に記載の方法.
【請求項25】
ヌクレオシド三リン酸dCTP、dGTP、dTTPおよびdATPが等モル量である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
鋳型DNAがプラスミドDNAである、請求項3に記載の方法。
【請求項27】
鋳型DNAがゲノムDNAである、請求項3に記載の方法。
【請求項28】
増幅が、一定温度25と40℃の間で行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項29】
ローリングサークル増幅(RCA)、多重置換増幅(MDA)、鎖置換増幅(SDA)またはループ媒介性増幅(LAMPA)によって増幅が行われる、請求項3に記載の鋳型DNAの増幅方法。
【請求項30】
少なくとも1つのヌクレオシド三リン酸または1つのプライマーが標識される、請求項3に記載の方法。
【請求項31】
a)請求項1に記載のキメラDNAポリメラーゼ、
b)緩衝液および
c)塩化マグネシウム
を含む請求項3〜30のいずれかに記載の方法を実施するためのキット。
【請求項32】
プライマーをさらに含む、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
プライマーが任意のものであり、エキソヌクレアーゼの作用から保護されている、請求項32記載のキット。
【請求項34】
モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンをさらに含む、請求項33記載のキット。
【請求項35】
アンモニウム塩をさらに含む、請求項33に記載のキット。
【請求項36】
カリウム塩をさらに含む、請求項33に記載のキット。
【請求項37】
ヌクレオシド三リン酸をさらに含む、請求項33に記載のキット。
【請求項38】
少なくとも1つのヌクレオシド三リン酸または1つのプライマーが標識されている、請求項33記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に含まれる。特に、本発明は、連結アミノ酸配列によって結合されている、φ29DNAポリメラーゼをコードするアミノ末端(N末端)領域および少なくとも1つのHhHドメインを含むカルボキシル末端(C末端)領域を含むキメラDNAポリメラーゼならびに鋳型DNAの複製、増幅または配列決定のためのその使用に関する。同様に、本発明は、前記キメラDNAポリメラーゼによるデオキシリボ核酸の複製、増幅または配列決定方法ならびに前記方法を実施するためのキットを提供する。
【背景技術】
【0002】
バクテリオファージφ29がそのゲノムを複製するのに必要な唯一の酵素は、複製の開始および合成鎖の伸長を触媒できる66KDaの単量体タンパク質であるそのDNAポリメラーゼである。開始のために、このポリメラーゼは“末端(terminal)”として知られるタンパク質(TP)に結合し、φ29DNAの末端を認識し、TP-dAMP共有結合複合体の形成を触媒する。10ヌクレオチドの重合後、DNAポリメラーゼ/TPヘテロ二量体は分離し、DNA由来の鎖の伸長が行われる。
【0003】
複製型DNAポリメラーゼは、酵素とDNAとの結合を安定化するアクセサリータンパク質との相互作用を必要とする(Kuriyan and O'Donnell. J Mol Biol. 1993; 234: 915-925)。他方では、前記DNAポリメラーゼは、コピーされていないDNA鎖の分離と重合とをカップリングする必要があるが、そのためにはヘリカーゼ型タンパク質へのDNA鎖の機能的会合を必要とする。この意味で、バクテリオファージφ29のDNAポリメラーゼは、種々の固有の機能的特徴を有し、そのことがこのDNAポリメラーゼを独特のものにしている:
a)高いプロセッシビティー(結合事象により組み込まれるヌクレオチド数と定義される)。
b)ヘリカーゼ型アクセサリータンパク質の非存在下で前記バクテリオファージのゲノムの複製を可能にする高い鎖分離能。これら2つの特性、プロセッシビティーおよび鎖分離によって、長さ70kbを超えるDNA鎖も合成しうることをこのφ29DNAポリメラーゼに可能ならしめている(Blanco et al. J Biol Chem. 1989; 264: 8935-8940)。
c)新しい鎖へのヌクレオチドの挿入の高い正確さ(Esteban et al. J Biol Chem. 1993; 268: 2719-2726)。
【0004】
これらすべての特性は、このポリメラーゼの使用に基づく、二本鎖DNA(dsDNA)を増幅するための多種多様の等温法(一定温度での)プロトコルの開発につながった。単純構成において、環状一本鎖DNA(ssDNA)を使用するφ29DNAポリメラーゼの能力によって、際立った長さを有し、10コピーを超える環状鋳型を含むssDNA分子を生成するローリングサークル法(またはRCA-ローリングサークル増幅)によるDNAの合成が可能となる(Blanco et al. J Biol Chem. 1989; 264: 8935-8940;米国特許第5001050号、米国特許第5198543号および米国特許第5576204号)。Amersham Biosciences社/Molecular Staging社によって開発されたdsDNA増幅法(Dean et al. Genome Res. 2001; 11: 1095-1099; Dean et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2002; 99: 5261-5266)において、φ29DNAポリメラーゼの使用とヘキサマー(ヘキサヌクレオチド)ランダム配列プライマーとの組み合わせによって、ピコグラムの環状プラスミドDNA[GE Healthcare社のTempliphi(登録商標)]または10ナノグラムのゲノムDNA[GE Healthcare社のGenomiphi(登録商標)およびQiagen社のRepli-G(登録商標)]から出発して10
4〜10
6の増幅率を得ることが可能になる。生成された生成物は高品質であり、前精製を必要とせずに、消化または直接に配列決定することができ、φ29DNAポリメラーゼが、この目的のための最もロバストな酵素であることが明らかにされている。φ29DNAポリメラーゼを用いる増幅反応を実施するための一般的な緩衝液は、トリス-HCl(pH7.5)に加えて種々の濃度の(ミリモルオーダーの)NaClまたはKClおよびMgCl
2(米国特許第20030207267号)を含む。しかしながら、様々な状況におけるこれらのプロトコルの満足度にかかわらず、より少ないDNA量から出発することを可能にする他のプロトコルの開発の必要性が高まっている。
【0005】
HhH(“へリックス・ヘアピン・へリックス”)モチーフは、DNAの配列にかかわらずDNAに結合し、種々のDNAポリメラーゼ、リガーゼおよびグリコシラーゼにおいて見出される(Shao and Grishin. Nucleic Acids Res. 2000; 28: 2643-2650; Doherty et al. Nucleic Acids Res. 1996; 24:2488-2497)。これらのモチーフは、"ヘアピン"型ループで連結された一対の逆平行α-へリックスを含む。2番目のα-へリックスは構造から突出していない。従って、他のDNA結合モチーフとは異なり、それはDNAの主溝にインターカレートできない。結晶学的研究により、タンパク質-DNA相互作用は、2つのα-へリックス間の"ループ"によって形成されることが示唆されている。このループは、DNAとの非特異的相互作用の形成に関与し、通常、コンセンサス配列GhG(式中、hは疎水性残基であり、通常はI、VまたはLである)を含む。結晶学的構造の解析によって、この相互作用は、ポリペプチド鎖の窒素とDNAのリン酸塩の酸素との間に形成されることが示唆されている。さらにまた、リン酸基とさらなる相互作用を形成すると考えられる極性アミノ酸が2番目のGに対して位置2および3に存在する傾向がある。コンセンサス配列の最後のGは、2番目のα-へリックスのN末端部分を形成し、疎水性残基hは、モチーフの2つのα-へリックス間の相互作用に寄与する。2つのα-へリックスは、互いに25〜50°の角度を形成するようにパッケージングされ、この配列における特徴的なパターンを規定している。HhHモチーフは、一般に、α-へリックスに結合され、2つのHhHモチーフからなる(HhH)
2として知られる主構造体の一部を形成し、DNAに対して鏡面対称を形成し、DNAへのその安定な結合を促進する(Shao and Grishin. Nucleic Acids Res. 2000; 28: 2643-2650; Doherty et al. Nucleic Acids Res. 1996; 24:2488-2497; Thayer et al. EMBO J. 1995; 14: 4108-4120)。
【0006】
前記ポリメラーゼによるDNA結合能を増強させるために、TaqおよびPfuなどの耐熱性DNAポリメラーゼと非特異的DNA結合モチーフとのキメラの製造が以前用いられた (Pavlov et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2002; 99: 13510-13515; WO2004013279; Wang et al. Nucleic Acids Res. 2004; 32: 1197-1207)。
【0007】
φ29DNAポリメラーゼの構造の結晶学的解析により、本酵素の特有の特性である、鎖分離にカップリングしたプロセッシブ重合に関与する分子的基礎が提供された(Kamtekar et al. 2006; EMBO J 25: 1335-1343)。
【0008】
真核生物型の他のDNAポリメラーゼ(ファミリーB)との比較分析により、類似した一般的フォールディング:共通のサブドメインである指(fingers)、手のひら(palm)および親指(thumb)によって形成され、DNAが結合されるチャンネルを形成するC末端重合ドメイン;ならびに重合中に誤って取り込まれたヌクレオチドの除去に関与する3´-5´N末端エキソヌクレアーゼドメインが明らかにされている。既知の構造のDNAポリメラーゼとφ29のDNAポリメラーゼとの主な構造上の差異は、後者における、その重合ドメインにおける2つのさらなるサブドメインの存在であり、これらは共に、プライマーとしてのTPR1およびTPR2と呼ばれるタンパク質のDNAポリメラーゼのサブグループへの保存された配列の挿入に対応している。サブドメインTPR1は、手のひら(palm)に近接して位置し、二本鎖DNAに接触する。β-ヘアピン構造を有するサブドメインTPR2は、サブドメインである親指(thumb)、手のひら(palm)および指(fingers)に近接して、新しく合成されたDNAを完全に取り囲み、DNAにDNAポリメラーゼを結合させる、プロセッシブ複製に必要な環状構造を形成する。同様に、サブドメインTPR2は、サブドメインである指(fingers)、手のひら(palm)およびエキソヌクレアーゼドメインと共に、複製中に鋳型鎖が通過して活性中心に接触し、ポリメラーゼが動くに従って二本鎖DNAを分離させ、ヘリカーゼが作用するのと同様に作用し、ポリメラーゼの鎖分離に重合をカップリングする能力を提供することに関与する(Kamtekar et al. 2006; EMBO J 25: 1335-1343; Rodriguez et al. 2005; Proc Natl Acad Sci USA 102: 6407-6412)。φ29DNAポリメラーゼの重合ドメインにおける、残余に対するこのような顕著な相違は、そのC末端におけるペプチドの融合が、DNAの重合にその予測できない結合特性を示す効果を有する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、連結アミノ酸配列によって結合されている、φ29DNAポリメラーゼをコードするN末端領域および少なくとも1つのHhHドメインを含むC末端領域を含むキメラDNAポリメラーゼならびに鋳型DNAの複製、増幅または配列決定のためのその使用に関する。同様に、本発明は、前記キメラDNAポリメラーゼによるデオキシリボ核酸の複製、増幅または配列決定方法ならびに前記方法を実施するためのキットを提供する。
【0010】
ファージφ29DNAポリメラーゼは、DNAを増幅するための大変興味深いいくつかの特性、例えば、アクセサリータンパク質の関与の必要のない高いプロセッシビティーおよびDNAに対する単一の結合事象において前記バクテリオファージのゲノムの複製を可能にする高い鎖分離能に加えて、新しい鎖へのヌクレオチドの挿入における高い正確さを有する。これらの特性は、このポリメラーゼの使用に基づく、前精製を必要とせずに消化または直接に配列決定することができる高品質の生成物の生成を可能にする、DNAの等温増幅のための種々のプロトコルの開発につながった。しかしながら、より少ない量のDNAからのDNAの増幅を可能にするプロトコルが求められている。本発明は、2つのアプローチ:1)反応の特異性および収率を有意に改善する組成物の開発、ならびに2)φ29DNAポリメラーゼと、この酵素のDNA結合能を増強させる非特異的DNA結合モチーフとのキメラの製造によって、この必要性に応える。
【0011】
本特許の実施例において、φ29DNAポリメラーゼによる増幅のために一般的に用いられる緩衝液にモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ツイーン(登録商標)20)(Tween(登録商標)20)およびアンモニウム塩を同時添加することによって、一方では、非特異的DNA増幅が抑制され、他方では、鋳型としてのプラスミドDNA 0.1フェムトグラム(fg)およびゲノムDNA 10fgというわずかな量からの検出可能かつ特異的な増幅が可能になることが示されている。
【0012】
DNA結合能の増強に関しては、本発明において、メタノピルス・カンドレリ(Methanopyrus kandleri)のトポイソメラーゼVのHhHモチーフが、連結配列またはリンカーによってφ29DNAポリメラーゼのカルボキシル末端に融合され、4つの異なるキメラが作成された。これらのキメラは、天然のφ29DNAポリメラーゼによって必要とされる量よりも少ない量から鋳型DNAを増幅することができる。
【0013】
本発明の第1の側面は、
a)φ29DNAポリメラーゼをコードするアミノ酸配列であって、そのC末端がb)に結合されている前記アミノ酸配列、
b)連結アミノ酸配列であって、そのC末端がc)に結合されている前記連結アミノ酸配列、
c)少なくとも1つのへリックス・ヘアピン・へリックスドメイン(HhH)を含むアミノ酸配列
を含むキメラDNAポリメラーゼ(以後、本発明のキメラDNAポリメラーゼと呼ぶ)に関する。
【0014】
本明細書においては、用語“DNAポリメラーゼ”は、デオキシヌクレオシド三リン酸の重合を触媒することができる酵素に関する。一般に、この酵素は、鋳型DNA配列にハイブリダイズしたプライマーの3´末端において合成を開始し、鋳型DNA鎖の5´末端の方へ進む。
【0015】
本明細書においては、用語“キメラ”は、少なくとも2つの異なるタンパク質のアミノ酸配列の融合体からなるアミノ酸配列であるタンパク質に関する。キメラタンパク質は、一般に、キメラアミノ酸配列をコードするキメラDNAからのその発現によって製造される。
【0016】
本明細書においては、用語“キメラDNAポリメラーゼ”または“キメラDNAポリメラーゼ”は、少なくとも2つの異なるタンパク質のアミノ酸配列の融合体からなるアミノ酸配列(その1つがデオキシヌクレオシド三リン酸の重合を触媒することができるDNAポリメラーゼである)であるタンパク質に関する。本発明のキメラDNAポリメラーゼは、連結アミノ酸配列(b)によって結合されている、φ29DNAポリメラーゼをコードするN末端領域(a)および、少なくとも1つのHhHドメインを含むC末端領域(c)を含む。
【0017】
本発明においては、用語“φ29DNAポリメラーゼ”は、その重合ドメインに、プロセッシブ重合と鎖分離とをカップリングする能力をこのポリメラーゼに付与するTPR1およびTPR2サブドメインを含む任意のDNAポリメラーゼに関する。本発明に使用することができるφ29DNAポリメラーゼの例は、以下のファージ:φ29、Cp-1、PRD-1、φ15、φ21、PZE、PZA、Nf、M2Y、B103、GA-1、SF5、Cp-5、Cp-7、PR4、PR5、PR722、L17、またはアキディアヌス瓶状ウイルス(Acidianus Bottle-shaped virus)(ABV)から単離されたDNAポリメラーゼを含むリストから選択される。
【0018】
本発明のこの第1の側面の好ましい実施形態において、本発明のキメラDNAポリメラーゼ(a)のアミノ酸配列は、以下のファージ:φ29、Cp-1、PRD-1、φ15、φ21、PZE、PZA、Nf、M2Y、B103、GA-1、SF5、Cp-5、Cp-7、PR4、PR5、PR722、L17またはアキディアヌス瓶状ウイルス(ABV)から単離されたDNAポリメラーゼであるφ29DNAポリメラーゼをコードする。
【0019】
好ましくは、本発明のキメラDNAポリメラーゼ(a)のアミノ酸配列は、配列番号1に対して少なくとも80%の同一性を有する。より好ましくは、本発明のキメラ(a)のアミノ酸配列は、配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有する。よりさらに好ましくは、本発明のキメラ(a)のアミノ酸配列は配列番号1である。
【0020】
φ29DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼドメインは公知であり、高いプロセッシビティーおよび鎖分離能を保持したままエキソヌクレアーゼ活性が低下するように改変されることができる。これらの改変DNAポリメラーゼは、大分子を配列決定するのに特に有用である。
【0021】
本発明のこの第1の側面の好ましい実施形態において、本発明のキメラDNAポリメラーゼ(a)のアミノ酸配列は、エキソヌクレアーゼドメインに改変を有するφ29DNAポリメラーゼをコードし、ここで前記改変DNAポリメラーゼは、対応する天然に存在するDNAポリメラーゼ、すなわち“野生型”と比較して、好ましくは、10%未満のエキソヌクレアーゼ活性を有し、より好ましくは、1%未満のエキソヌクレアーゼ活性を有する。よりさらに好ましい実施形態において、前記改変φ29DNAポリメラーゼは、天然に存在する対応するDNAポリメラーゼに対して、検出可能なエキソヌクレアーゼ活性を有さない。
【0022】
HhH(“へリックス・ヘアピン・へリックス”)モチーフは、配列非依存性DNA結合モチーフである。構造的に、HhHモチーフは、フックループで連結された一対の逆平行α-へリックスによって形成される。このループはDNAとの相互作用に関与し、一般にグリシン-疎水性アミノ酸-グリシン(GhG)(式中、hは、疎水性アミノ酸残基であり、通常ロイシン、イソロイシンまたはバリンである)からなるコンセンサス配列を有する。コンセンサス配列の最後のグリシンは、2番目のα-へリックスのN末端残基として役立ち、疎水性残基hは、このモチーフの2つのα-へリックス間の相互作用に寄与する。
【0023】
配列中にHhHモチーフを有するタンパク質の例は、限定するものではないが、メタノピルス・カンドレリのDNAトポイソメラーゼV、エッシェリヒア・コーリー(Escherichia coli)のタンパク質MutY、Nth、MutM/Fpg、Nei、UvrC、DinP、RecR、UmuC、DnaEもしくはDnIJ、酵母のタンパク質RAD1、RAD2、RAD10、RAD27、RAD55、RAD57、REV1、OGG1、NTG1、NTG2、DIN-7もしくはEXO-1または、他の生物体、例えば、限定するものではないが、バシラス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)、ハエモフィルス・インフルエンザエ(Haemophilus influenzae)、メタノコックス・ジャナスシイ(Methanococcus jannaschii)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、メタノバクテリウム・テルモフォルミクム(Methanobacterium thermoformicum)もしくはサルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella Typhimurium)におけるこれらのタンパク質のホモログである。
【0024】
従って、本発明のこの第1の側面の好ましい実施形態において、本発明のキメラDNAポリメラーゼのアミノ酸配列(c)は:
メタノピルス・カンドレリ(M. kandleri)のトポイソメラーゼV、
エッシェリヒア・コーリーのMutY、Nth、MutM/Fpg、Nei、UvrC、DinP、RecR、UmuC、DnaEもしくはDnIJ、
酵母のRAD1、RAD2、RAD10、RAD27、RAD55、RAD57、REV1、OGG1、NTG1、NTG2、DIN-7もしくはEXO-1、または
バシラス・ズブチリス(B. subtilis)、カエノラブディティス・エレガンス(C. elegans)、ハエモフィルス・インフルエンザエ(H. influenzae)、メタノコックス・ジャナスシイ(M. jannaschii)、ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)、メタノバクテリウム・テルモフォルミクム(M. thermoformicum)もしくはサルモネラ・ティフィムリウム(S. typhimurium)における上記の相同タンパク質
を含むリストから選択されるタンパク質の少なくとも1つのHhHドメインを含む。
【0025】
メタノピルス・カンドレリのトポイソメラーゼVのC末端は、約50アミノ酸からなる12反復配列に分かれており、それぞれA-Lドメインとして知られ、それぞれ2つのHhHモチーフを有する。
【0026】
本発明のこの第1の側面の好ましい実施形態において、本発明のキメラDNAポリメラーゼのアミノ酸配列(c)は、メタノピルス・カンドレリのトポイソメラーゼV由来の少なくとも1つのHhHドメインを含み、そのアミノ酸配列は配列番号2である。
【0027】
本発明のこの第1の側面のより好ましい実施形態において、本発明のキメラDNAポリメラーゼのアミノ酸配列(c)は、メタノピルス・カンドレリのトポイソメラーゼVのHドメインの配列に対応する配列番号3である。
【0028】
本発明のこの第1の側面のよりさらに好ましい実施形態において、本発明のキメラDNAポリメラーゼのアミノ酸配列(c)は、メタノピルス・カンドレリのトポイソメラーゼVのIドメインにそのC末端で結合されたメタノピルス・カンドレリのトポイソメラーゼVのHドメインの配列に対応する、そのC末端で配列番号4に結合された配列番号3である。
【0029】
本発明においては、用語“連結アミノ酸配列”は、本発明のキメラDNAポリメラーゼのアミノ酸配列(a)および(c)の機能性を維持することを可能にする、長さが少なくとも2アミノ酸の短いアミノ酸配列に関する。好ましくは、連結アミノ酸配列(b)は6アミノ酸からなる。より好ましくは、連結アミノ酸配列(b)は配列番号5または配列番号6である。
【0030】
本発明の他の側面は、鋳型DNAの複製、増幅または配列決定のための本発明のキメラDNAポリメラーゼの使用に関する。
【0031】
本発明の他の側面は、鋳型DNAの複製、増幅または配列決定方法であって、前記DNAと、少なくとも:
a)本発明のキメラDNAポリメラーゼ、
b)緩衝液、
c)塩化マグネシウム
d)プライマーおよび
e)ヌクレオシド三リン酸
を含む反応混合物とを接触させることを含む前記方法に関する。
【0032】
本発明のこの側面の好ましい実施形態は、鋳型DNAの複製、増幅または配列決定方法であって、前記DNAと、前述の成分(a)〜(e)ならびにモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、アンモニウム塩、カリウム塩または上記のいずれかの組み合わせを含む反応混合物とを接触させることを含む前記方法に関する。
【0033】
本発明の複製、増幅または配列決定方法の好ましい実施形態において、本発明のキメラDNAポリメラーゼの濃度は、5nM〜75nMである。より好ましい実施形態において、本発明のキメラDNAポリメラーゼの濃度は25nM〜60nMである。よりさらに好ましい実施形態において、本発明のキメラDNAポリメラーゼの濃度はおおよそ50nMである。
【0034】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ツイーン(登録商標)20)の濃度は反応物の全容量の0.003%〜0.1%である。より好ましい実施形態において、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンの割合は反応物の全容量の0.006%〜0.05%である。よりさらに好ましい実施形態において、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンの割合は反応物の全容量の0.01%〜0.03%である。よりさらに好ましい実施形態において、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンの割合は、反応物の全容量のおおよそ0.025%である。“反応物の全容量”は、反応混合物への鋳型DNAの添加後に得られた容量として理解される。
【0035】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムまたは酢酸アンモニウムを含むリストから選択される。
【0036】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、アンモニウム塩は硫酸アンモニウムである。より好ましい実施形態において、硫酸アンモニウムの濃度は30mM〜60mMである。よりさらに好ましい実施形態において、硫酸アンモニウムの濃度は40mM〜50mMである。よりさらに好ましい実施形態において、硫酸アンモニウムの濃度はおおよそ45mMである。
【0037】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、アンモニウム塩は塩化アンモニウムである。より好ましい実施形態において、塩化アンモニウムの濃度は60mM〜120mMである。よりさらに好ましい実施形態において、塩化アンモニウムの濃度は80mM〜100mMである。よりさらに好ましい実施形態において、塩化アンモニウムの濃度はおおよそ90mMである。
【0038】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、アンモニウム塩は酢酸アンモニウムである。より好ましい実施形態において、酢酸アンモニウムの濃度は60mM〜120mMである。よりさらに好ましい実施形態において、酢酸アンモニウムの濃度は80mM〜100mMである。よりさらに好ましい実施形態において、酢酸アンモニウムの濃度はおおよそ90mMである。
【0039】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、緩衝液のpHは7.0〜8.5である。より好ましい実施形態において、緩衝液のpHは7.2〜8である。よりさらに好ましい実施形態において、緩衝液のpHはおおよそ7.5である。
【0040】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、緩衝液はトリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPESである。本発明の複製、増幅または配列決定方法のより好ましい実施形態において、トリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPES緩衝液のpHは7.0〜8.5である。よりさらに好ましい実施形態において、トリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPES緩衝液のpHは7.2〜8である。よりさらに好ましい実施形態において、トリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPES緩衝液のpHはおおよそ7.5である。
【0041】
本発明の複製、増幅または配列決定方法のこの側面の好ましい実施形態において、トリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPES緩衝液の濃度は25mM〜50mMである。より好ましい実施形態において、トリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPES緩衝液の濃度は30mM〜45mMである。よりさらに好ましい実施形態において、トリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPES緩衝液の濃度はおおよそ40mMである。
【0042】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、カリウム塩は塩化カリウムまたは酢酸カリウムである。より好ましい実施形態において、塩化カリウムまたは酢酸カリウムの濃度は30mM〜70mMである。よりさらに好ましい実施形態において、塩化カリウムまたは酢酸カリウムの濃度は40mM〜60mMである。よりさらに好ましい実施形態において、塩化カリウムまたは酢酸カリウムの濃度はおおよそ50mMである。
【0043】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、塩化マグネシウムの濃度は2mM〜20mMである。より好ましい実施形態において、塩化マグネシウムの濃度は5mM〜15mMである。よりさらに好ましい実施形態において、塩化マグネシウムはおおよそ10mMである。
【0044】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンの割合は全容量の0.01%〜0.03%であり、硫酸アンモニウムの濃度は40mM〜50mMであり、トリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPES緩衝液の濃度は30mM〜45mMであり、そのpHは7.2〜8.0であり、塩化マグネシウムの濃度は5mM〜15mMであり、塩化カリウムまたは酢酸カリウムの濃度は40mM〜60mMである。
【0045】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンの濃度は全容量の0.025%であり、硫酸アンモニウムの濃度は45mMであり、トリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPES緩衝液の濃度は40mMであり、そのpHは7.5であり、塩化マグネシウムの濃度は10mMであり、塩化カリウムまたは酢酸カリウムの濃度は50mMである。
【0046】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンの割合は全容量の0.01%〜0.03%であり、塩化アンモニウムの濃度は80mM〜100mMであり、トリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPES緩衝液の濃度は30mM〜45mMでり、そのpHは7.2〜8.0であり、塩化マグネシウムの濃度は5mM〜15mMであり、塩化カリウムまたは酢酸カリウムの濃度は40mM〜60mMである。
【0047】
本発明の複製、増幅または配列決定方法のより好ましい実施形態において、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンの濃度は全容量の0.025%であり、塩化アンモニウムの濃度は90mMであり、トリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPES緩衝液の濃度は40mMであり、そのpHは7.5であり、塩化マグネシウムの濃度は10mMであり、塩化カリウムまたは酢酸カリウムの濃度は50mMである。
【0048】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンの割合は全容量の0.01%〜0.03%であり、酢酸アンモニウムの濃度は80mM〜100mMであり、トリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPES緩衝液の濃度は30mM〜45mMであり、そのpHは7.2〜8.0であり、塩化マグネシウムの濃度は5mM〜15mMであり、塩化カリウムまたは酢酸カリウムの濃度は40mM〜60mMである。
【0049】
本発明の複製、増幅または配列決定方法のより好ましい実施形態において、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンの濃度は全容量の0.025%であり、酢酸アンモニウムの濃度は90mMであり、トリス-塩酸、トリス-酢酸またはHEPES緩衝液の濃度は40mMであり、そのpHは7.5であり、塩化マグネシウムの濃度は10mMであり、塩化カリウムまたは酢酸カリウムの濃度は50mMである。
【0050】
本明細書においては、用語“複製”は、鋳型DNAからの相補的DNAの合成に関する。
【0051】
本明細書においては、用語“増幅”は、鋳型DNAのコピー数の増加に関する。
【0052】
本明細書においては、用語“配列決定”は、鋳型DNAヌクレオチドの順序の決定に関する。
【0053】
“接触させること”は、鋳型DNAおよび反応混合物をプライマー伸長条件下でインキュベートするという事として理解される。
【0054】
本明細書において、用語“プライマー”は、それがプライマー伸長条件下にあるとき、DNA合成の開始点として作用することができるオリゴヌクレオチドに関する。好ましくは、プライマーはデオキシリボースオリゴヌクレオチドである。
【0055】
プライマーは、例えば、限定するものではないが、直接化学合成を含む任意の適切な方法で製造できる。プライマーは、鋳型DNAにおける特定のデオキシヌクレオチド配列とハイブリダイズするように設計することもできるし(特異的プライマー)、無作為に合成することもできる(任意プライマー)。
【0056】
本明細書においては、用語“特異的プライマー”は、増幅される鋳型DNAにおける特定のデオキシヌクレオチド配列に相補的な配列であるプライマーに関する。
【0057】
“相補的”とは、プライマーが鋳型DNAのある領域にハイブリダイズすることができ、それによって、それがプライマー伸長条件下にあるとき、DNA合成の開始点として機能することができることとして理解される。好ましくは、プライマーの領域は、鋳型DNAの領域に100%の相補性を示す。すなわち、プライマーに相補性を示す領域における各ヌクレオチドは、一本鎖鋳型に存在するヌクレオチドと水素結合を形成することができる。しかしながら、鋳型DNAに100%未満の相補性を示す領域を有するプライマーは、本発明の複製、増幅または配列決定方法を実施する機能を果たすことは、当業者には明らかであろう。
【0058】
用語“任意プライマー”は、無作為に合成され、鋳型DNAのランダムな位置でDNA合成を開始するために使用される配列であるプライマーに関する。一般に、本発明の複製、増幅または配列決定方法において、任意プライマーの集団が用いられる。用語“任意プライマー”は、ランダム配列を有し、鋳型DNAのランダムな位置でDNA合成を開始するために用いられる1組のプライマーに関する。
【0059】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、プライマーは特異的である。
【0060】
本発明の複製、増幅または配列決定方法の他の好ましい実施形態において、プライマーは任意である。好ましくは、任意プライマーは、3´-5´エキソヌクレアーゼの作用に対して保護されている。より好ましくは、任意プライマーは、3´-5´エキソヌクレアーゼの作用に対して保護されている6ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドである“ヘキサヌクレオチド”すなわち“ヘキサマー”である。
【0061】
本明細書においては、語句“エキソヌクレアーゼの作用から保護されている”は、本発明のキメラDNAポリメラーゼにおいて存在する任意の3´-5´エキソヌクレアーゼ活性による核酸分解に耐性を示すような改変プライマーに関する。
【0062】
本発明の複製、増幅または配列決定方法において、特異的および/または任意プライマーに使用することができる2以上のプライマーを使用することができる。
【0063】
本発明の複製、増幅および配列決定方法の好ましい実施形態において、プライマーの濃度は2μM〜100μMである。より好ましい実施形態において、プライマーの濃度は20μM〜80μMである。よりさらに好ましい実施形態において、プライマーの濃度は40μm〜60μMである。よりさらに好ましい実施形態において、プライマーの濃度はおおよそ50μMである。
【0064】
本明細書においては、用語“ヌクレオシド三リン酸”は、ペントース、窒素塩基および3つのリン酸基の共有結合によって形成される有機分子に関する。
【0065】
用語ヌクレオシド三リン酸は、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、例えば、限定するものではないがdATP、dCTP、dITP、dUTP、dGTP、dTTP、またはそれらの誘導体を含む。好ましくは、デオキシヌクレオシド三リン酸はdATP、dTTP、dGTPおよびdCTPである。よりさらに好ましくは、これら4つのdNTPは等モル条件下にある。本発明のこの側面の好ましい実施形態において、デオキシヌクレオシド三リン酸の濃度は100μM〜800μMである。より好ましい実施形態において、デオキシヌクレオシド三リン酸の濃度は200μM〜600μMである。よりさらに好ましい実施形態において、デオキシヌクレオシド三リン酸の濃度はおおよそ500μMである。
【0066】
用語ヌクレオシド三リン酸はまた、ジデオキシヌクレオシド三リン酸(ddNTP)、例えば、限定するものではないが、ddATP、ddCTP、ddITP、ddUTP、ddGTP、ddTTP、またはそれらの誘導体も含む。
【0067】
本発明の複製、増幅または配列決定方法のいくつかの好ましい実施形態において、当業者に公知の技術によって、少なくとも1つのヌクレオシド三リン酸または1つのプライマーが標識される。標識されるヌクレオチドは、例えば、デオキシヌクレオシド三リン酸またはジデオキシヌクレオシド三リン酸であることができる。検出可能な標識は、例えば、放射性同位体、蛍光標識、化学発光標識、生物発光標識または酵素標識を含む。
【0068】
本明細書においては、用語“鋳型DNA”は、相補的DNA鎖合成のための基質として役立つことができるDNA分子に関する。すなわち、それは、複製され、増幅され、配列決定されるDNA分子に関する。好ましい実施形態において、鋳型DNAはプラスミドDNAである。他の好ましい実施形態において、鋳型DNAはゲノムDNAである。
【0069】
鋳型DNAの複製、増幅または配列決定は、プライマー伸長条件下で行われる。語句“プライマー伸長条件”は、プライマーにおいて開始される鋳型DNA依存性合成が行われうる条件のことを言う。
【0070】
本発明の複製、増幅または配列決定方法による鋳型DNA合成は、熱サイクル法によって、または本質的に一定温度で行うことができる。
【0071】
“等温条件”は、本質的に一定温度として理解される。好ましくは、本発明の複製、増幅または配列決定方法による鋳型DNA合成は本質的に一定温度で行われる。より好ましくは、本質的に一定温度25〜40℃で行われ、よりさらに好ましくは、おおよそ30℃で行われる。
【0072】
現在の技術水準において、DNA増幅を可能にする多数の方法が公知である。熱サイクル法、例えば限定するものではないがポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を必要とする方法もある。熱サイクル法を必要としないで、本質的に一定温度で行われる方法、例えば、限定するものではないが、ローリングサークル増幅(RCA)、多重分離増幅(multiple detachment amplification)(MDA)、鎖置換増幅(SDA)またはループ媒介性増幅(LAMP)もある。本発明の方法による鋳型DNAの増幅は、熱サイクル法によって、または本質的に一定温度で行うことができる。
【0073】
好ましくは、本発明の増幅方法による鋳型DNAの増幅は、ローリングサークル増幅(RCA)、多重分離増幅(MDA)、鎖置換増幅(SDA)またはループ媒介性増幅(LAMPA)によって行われる。
【0074】
本発明の他の側面は、本発明の複製、増幅または配列決定方法を実施するのに適した成分を含むキットまたは装置に関する。
【0075】
本発明の他の側面は、
a)本発明のキメラDNAポリメラーゼ、
b)緩衝液および
c)塩化マグネシウム
を含む、本発明の複製、増幅または配列決定方法を実施するためのキットに関する。
【0076】
本発明のこの側面の好ましい実施形態において、キットはさらに、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、アンモニウム塩、カリウム塩または上記のいずれかの任意の組み合わせを含む。
【0077】
好ましくは、前記アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムまたは酢酸アンモニウムを含むリストから選択される。
【0078】
好ましくは、前記カリウム塩は塩化カリウムまたは酢酸カリウムである。
【0079】
本発明のこの側面の好ましい実施形態において、キットはさらにプライマーを含む。より好ましい実施形態において、プライマーは、3´-5´エキソヌクレアーゼの作用に対して保護されている任意プライマーである。
【0080】
本発明のこの側面の好ましい実施形態において、キットはさらにヌクレオシド三リン酸を含む。例えば、本発明のこの側面のより好ましい実施形態において、キットはさらにデオキシヌクレオシド三リン酸および/またはジデオキシヌクレオシド三リン酸を含む。
【0081】
本発明のこの側面の好ましい実施形態において、キットは、少なくとも1つのヌクレオシド三リン酸または1つの標識されたプライマーを含む。標識されたヌクレオシドは、例えば、デオキシヌクレオシド三リン酸またはジデオキシヌクレオシド三リン酸であることができる。
【0082】
限定するものではないが、キットはさらに、緩衝液、汚染防止剤などを含むことができる。他方では、キットは、それを実用に供し、それを最適化するために必要なすべての支持物および容器を含むことができる。好ましくは、キットはさらに、本発明の方法を実施するための使用説明書を含む。
【0083】
明細書および特許請求の範囲を通じて、用語"含む"およびその異形は、他の技術的特徴、添加剤、成分または段階を排除するものではない。当業者には、本発明の他の目的、利点および特徴は、一部分において明細書から、一部分において発明の実施から考えられるであろう。以下の図面および実施例は例示として提供されるものであって、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】φ29DNAポリメラーゼの増幅能におけるツイーン(登録商標)20および(NH
4)
2SO
4の効果を示す図である。本アッセイは、表示された量のプラスミドDNA(4.2kpb)の存在下で、本文に記載されているようにして行った。30℃で5時間インキュベートした後、反応物を本文に記載されているようにして分析した。左は、DNA長さマーカーとして用いた、φ29DNAをHindIIIで消化した後に得た直線状DNAフラグメントである。
【
図2】ツイーン(登録商標)20および(NH
4)
2SO
4の存在下での、φ29DNAポリメラーゼによる、種々の量のプラスミドDNA(フェムトグラムオーダー)の増幅を示す図である。本アッセイは、0.025%ツイーン(登録商標)20および45mM (NH
4)
2SO
4の存在下で、本文に記載されているようにして行った。DNA長さマーカーは、
図1で用いたものと同じである。
【
図3】φ29DNAポリメラーゼの増幅能におけるNH
4+イオンの効果を示す図である。本アッセイは、0.025%ツイーン(登録商標)20および表示されたアンモニウム塩に加えて、表示された量のプラスミドDNA(4.2kpb)の存在下で、本文に記載されているようにして行った。30℃で6時間インキュベートした後、本文に記載されているようにして反応物を分析した。DNA長さマーカーは、
図1で用いたものと同じである。
【
図4】ツイーン(登録商標)20および(NH
4)
2SO
4の存在下での、φ29DNAポリメラーゼによる、種々の量のバシラス・ズブチリス(Bacillus subtilis)ゲノムDNAの増幅を示す図である。本アッセイは、0.025%ツイーン(登録商標)20および45mM (NH
4)
2SO
4の存在下で、本文に記載されているようにして行った。DNA長さマーカーは、
図1で用いたものと同じである。
【
図5】現行の反応緩衝液である、φ29DNAポリメラーゼに基づくDNAの増幅のための市販キット(General Electrics Healthcare社のIllustraキット)に0.025%ツイーン(登録商標)20および45mM (NH
4)
2SO
4を添加することによって示された著明改善を示す図である。本アッセイは、本文に記載されているようにして行った。DNA長さマーカーは、
図1で用いたものと同じである。
【
図6】キメラHAY、HGT、HIAYおよびHIGTを構築するために行った種々の段階を示す図である。
【
図7】天然およびキメラφ29DNAポリメラーゼによる、プライマー/鋳型DNA分子のゲルにおける遅延を示す図である。本文中に記載した条件で、5’末端を標識した15塩基/21塩基のハイブリダイズさせた分子(dsDNA)を、天然φ29DNAポリメラーゼまたは表示されたキメラDNAポリメラーゼと共にインキュベートした。4%(w/v)未変性(native)ポリアクリルアミドゲル(80:1単量体:ビスアクリルアミド)の電気泳動によって分離した後、オートラジオグラフィーによって、遊離dsDNAおよびポリメラーゼ-DNA複合体の移動度を検出した。
【
図8】天然およびキメラφ29DNAポリメラーゼによるDNAのプロセッシブ複製を示す図である。(A)天然およびキメラφ29DNAポリメラーゼによる、鎖分離にカップリングしたM13 DNAの複製。本文に記載されているように、天然またはキメラφ29DNAポリメラーゼ(30nM)を用いて、単一プライマーでM13 DNA 250ngの複製を行った。単位長さのM13 DNAの位置を右に示す。(B)天然およびキメラφ29DNAポリメラーゼによるプロセッシブ合成。本アッセイは、表示された漸減する濃度のDNAポリメラーゼを用いて、(A)と同じ条件で行った。30℃で20分間インキュベートした後、(A)に記載されているようにして試料を処理した。
【
図9】天然およびキメラφ29DNAポリメラーゼによる、プラスミドDNA 10fgによる、多重プライミングを用いるローリングサークル増幅を示す図である。本アッセイは、緩衝液Bおよび表示された50nMのDNAポリメラーゼの存在下、本文に記載されているようにして行った。DNA長さマーカーは、
図1で用いられたものと同じである。
【
図10】天然およびキメラφ29DNAポリメラーゼによる、バシラス・ズブチリスゲノムDNA 100fgの多重プライミング用いる全ゲノムの増幅を示す図である。本アッセイは、緩衝液Bおよび表示された50nMのDNAポリメラーゼ50nMのDNAポリメラーゼの存在下、本文に記載されているようにして行った。DNA長さマーカーは、
図1で用いたものと同じである。
【0085】
(実施例)
本特許文献に示される以下の特定の実施例は、本発明の性質を例示するのに役立つ。これらの実施例は、説明目的のためだけに含まれるものであって、特許請求される本発明を制限するものと解釈してはならない。従って、下記の実施例は、本発明を例示するものであって、その応用分野を限定するものではない。
【実施例1】
【0086】
φ29DNAポリメラーゼによる、多重プライミングを用いるDNA増幅のための実験条件の最適化
φ29DNAポリメラーゼは、環状DNA数ピコグラムから出発して、10
4〜10
6倍増幅することが明らかにされた。この目的のために、40mMトリス-HCl(pH7.5)、50mM KClおよび10mM MgCl
2を含む反応緩衝液(以後、緩衝液A)が用いられた。φ29DNAポリメラーゼのDNA増幅能に対する種々の界面活性剤および塩の条件の影響を試験したところ、緩衝液Aに0.025%ツイーン(登録商標)20および45mM (NH
4)
2SO
4を同時添加することによって、わずかな量の添加DNAの増幅が顕著に改善されることが見いだされた。
【0087】
プラスミドDNAを増幅するための反応条件。インキュベーション混合物には、緩衝液A 12.5μl、3´-5´エキソヌクレアーゼの作用に対して保護されたヘキサマー50μM、各デオキシヌクレオシド三リン酸(dCTP、dGTP、dTTPおよびdATP)500μM、表示された量のプラスミドDNA(サイズ4.2kbp)ならびに、表示されている場合、45mM (NH
4)
2SO
4もしくは0.025%ツイーン(登録商標)20、またはそれらの組み合わせを含有させた。95℃、3分間のインキュベーションによってDNAを変性させ、続いて5分間氷冷した。50nM φ29DNAポリメラーゼを添加して反応を開始させ、30℃でインキュベートした後、65℃で10分間加熱することによって反応を停止させた。結果を分析するために、反応物から試料1μlを採取し、増幅されたDNAをEcoRI制限エンドヌクレアーゼで消化し、0.7%アガロースゲルで電気泳動した。臭化エチジウムでゲルを染色することによってDNAを検出した。
【0088】
ゲノムDNAを増幅するための反応条件。インキュベーション混合物には、緩衝液A 12.5μl、45mM (NH
4)
2SO
4、0.025%ツイーン(登録商標)20、3´-5´エキソヌクレアーゼの作用に対して保護されたヘキサマー50μM、各デオキシヌクレオシド三リン酸(dCTP、dGTP、dTTPおよびdATP)500μMならびに表示された量のバシラス・ズブチリス(Bacillus subtilis)ゲノムDNA(サイズ4Mpb)を含有させた。95℃、3分間のインキュベーションによってDNAを変性させ、続いて5分間氷冷した。50nM φ29DNAポリメラーゼを添加して反応を開始させ、30℃でインキュベートした後、65℃で10分間加熱することによって反応を停止させた。結果を分析するために、反応物から試料1μlを採取し、0.7%アガロースゲルで電気泳動した。臭化エチジウムでゲルを染色することによってDNAを検出した。
【0089】
図1は、少量の添加プラスミドDNAの増幅における45mM (NH
4)
2SO
4および0.025%ツイーン(登録商標)20の添加の効果を示す。図のように、100fgの添加DNAが用いられたとき、φ29DNAポリメラーゼは、標準緩衝液Aでは、検出可能な増幅産物を生じなかった。これらの反応条件において、DNAの非存在下、0.025%ツイーン(登録商標)20の添加によって、痕跡量のDNA生成物が出現したが、恐らく、ランダムヘキサマープライマーのハイブリダイゼーションおよび伸長によって引き起こされた非特異的DNA増幅の結果と考えられる。10fgの添加DNAでは、同じ痕跡量が観察された。しかしながら、100fgの添加DNAの存在下では、0.025%ツイーン(登録商標)20の添加は、φ29DNAポリメラーゼに、検出可能な量の増幅されたプラスミドを生じさせることを可能にした。特異的または非特異的に増幅されたDNAの全生産量は、緩衝液Aへの0.025%ツイーン(登録商標)20の添加が、φ29DNAポリメラーゼの増幅能を促進することを示している。同様な効果がNP40界面活性剤でも観察された。これに反して、トリトンX100およびトリトンX114などの分析された他の界面活性剤では、φ29DNAポリメラーゼの増幅能は促進されなかった(図示せず)。緩衝液Aへの0.025%ツイーン(登録商標)20および45mM (NH
4)
2SO
4の同時添加によって、増幅された生成物の収率および特異性に2つの結果がもたらされた。1)添加DNAの非存在下でDNA増幅は検出されなかったこと。2)DNAの添加量が10fgと低くても、増幅によって、単位長さのプラスミドDNA数μgが得られたこと。対照として、緩衝液Aへ45mM (NH
4)
2SO
4を添加したものは、φ29DNAポリメラーゼの増幅能に改善を生じなかった。
【0090】
従って、緩衝液Aへの0.025%ツイーン(登録商標)20および45mM (NH
4)
2SO
4の同時添加(以下緩衝液B)によって、φ29DNAポリメラーゼによる、環状DNAの多重プライミングを用いる増幅を実施するための実験条件の明確な最適化が行われるため、共に、わずかな量(10fg)の添加DNAを増幅するために絶対的に必要な反応剤であると結論できる。実際、
図2に示すように、緩衝液Bの使用によって、0.1fg(〜24分子)という低いプラスミド添加量を用いて、反応6時間後に、φ29DNAポリメラーゼによってマイクログラム量のDNAを合成することが可能になった。品質管理として、EcoRIでの増幅産物の消化によって、4.2kbの線状dsDNAフラグメントが生じたが、そのことは、増幅産物が、実際は、元のプラスミドの縦列反復配列であることを示した。再び、緩衝液Bは非特異的DNA増幅も抑制した(
図2において、添加DNAなしで行った反応に対応するレーンを参照のこと)。
【0091】
図3は、少量のプラスミドDNAの増幅の改善における、アンモニウムイオンおよび0.025%ツイーン(登録商標)20の効果を示す。0.025%ツイーン(登録商標)20および表示されたアンモニウム塩の存在下、前述の条件でアッセイを行った。
図3において見られるように、NH
4ClおよびNH
4CH
3COOは、共に、増幅された生成物の収率および特異性の両方において、(NH
4)
2SO
4と同様な効果を示した。わずかな量のプラスミドDNAの増幅における前述の(NH
4)
2SO
4の効果はNH
4+イオンによるものであることをこの結果は示している。
【0092】
前述の最適化された条件が、ゲノムDNAの増幅にも適用できるかどうかを測定するために、わずかな濃度のバシラス・ズブチリス(B. subtilis)ゲノムDNA(長さ4Mpb)の存在下で同じタイプのアッセイを行った。
図4に示すように、緩衝液Bにおける0.025%ツイーン(登録商標)20および45mM (NH
4)
2SO
4の存在は、一方では、非特異的DNA増幅(添加DNAなしのレーン)を抑制し、他方では、10fgの添加DNAが用いられた場合、すなわち、現行の市販のゲノム増幅キットで推奨されている量よりも10
6倍少ない量の場合であっても、φ29DNAポリメラーゼが検出可能かつ特異的なゲノムDNA増幅を行うことを可能にした。
【0093】
0.025%ツイーン(登録商標)20および45mM (NH
4)
2SO
4の同時添加によって、φ29DNAポリメラーゼに基づくDNAを増幅するための現行の市販キットの増幅効率が上がるかどうかを測定するために、
図1、2および3に記載の同じタイプのプラスミドDNA増幅アッセイを行った。
図5は、現行の反応緩衝液であるIllustraキット(GE Healthcare社)への0.025%ツイーン(登録商標)20および45mM (NH
4)
2SO
4の添加によって示された著明改善を示す。見てわかるように、供給業者の推奨に従ってIllustraキットを用いれば、わずか10pg以上のプラスミド添加量は、アガロースゲルで検出可能な形で増幅させることができる。これに反して、Illustraキットの反応緩衝液への0.025%ツイーン(登録商標)20および45mM (NH
4)
2SO
4の同時添加は、増幅されることができるDNAの必要量を有意に低下させ、プラスミドDNA 1fgの添加によって増幅産物が観察され、増幅における4桁の改善を示す。
【実施例2】
【0094】
HhHドメインの付加によるφ29DNAポリメラーゼの増幅能の改善
改善されたDNA結合能を有し、より少量の添加DNAを用いることを可能にする新規DNAポリメラーゼを構築するために、φ29DNAポリメラーゼに1つまたは2つのHhHドメインを融合させた。φ29DNAポリメラーゼの構造を観察した結果により、この酵素のC末端とHhHドメインとの融合を選択した。なぜなら、この末端(サブドメイン親指(thumb)の末端)は、dsDNA配列上部のトンネル入り口に近接しているからである。φ29DNAポリメラーゼのN末端とHhHドメインの融合は、固有の鎖分離能に欠陥を生じさせると考えられた。なぜなら、生化学的データおよび構造データによって、親DNAの巻き戻しがアミノ末端近くで行われることが明らかになっているからである。さらにまた、N末端にHhHドメインを配置することは、ヘキサマープライマーと鋳型DNAとのハイブリダイゼーションによって形成されるdsDNA部分の結合を改善するのに適していないと考えられた。この意味で、φ29DNAポリメラーゼのN末端への配列(His)
6の融合は増幅に有害な効果を有する。
【0095】
2.1キメラDNAポリメラーゼ構築物
キメラHIAYおよびHIGTを製造するために、HhHドメインをコードするヌクレオチド、メタノピルス・カンドレリのトポイソメラーゼVのH(56アミノ酸)およびI(51アミノ酸)(GenBankコード AF311944 および (Pavlov et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2002; 99: 13510-13515)を含むDNAフラグメントの合成をGenScript Corporation社に依頼し、後者を市販ベクターpUC57のEcoRV部位間にクローニングした。得られたプラスミドpUC57-HhHを、ドメインHおよびIをコードするDNAフラグメントのPCRによる増幅のための鋳型として用いた。従って、プライマー3(配列番号7)と共にプライマー1(配列番号8)または2(配列番号9)を用いて、それぞれ369bpのDNA IおよびIIフラグメントを得た。両方のプライマーによって導入されたKasI部位に加えて、プライマー1は、配列番号5コネクターをコードする配列(Pavlov et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2002; 99: 13510-13515)も導入したのに対し、プライマー2は、配列番号6コネクターをコードするヌクレオチド配列(Sun et al. Proteins. 2006; 65: 231-238 において以前記載された配列番号10コネクターの誘導体)を導入した。プライマー3は、6ヒスチジン残基に続いて、終止コドンおよびBamHI部位をコードする配列を含んでいた(
図6における、キメラDNAポリメラーゼ構築物の簡略図を参照のこと)。
【0096】
同時に、5´HindIII部位を含むプライマー4(配列番号11)とプライマー5(配列番号12)または6(配列番号13)とで実施するPCR反応の鋳型として、φ29DNAポリメラーゼ(572アミノ酸)をコードする遺伝子を含むpJLw2プラスミド誘導体(Lazaro et al. Methods Enzymol. 1995; 262: 42-49)を用いて、それぞれ1757bpのフラグメントIIIおよびIVを得た。従って、フラグメントIIIおよびIVは、φ29DNAポリメラーゼに続いて、KasI部位も含む配列番号5(フラグメントIII)および配列番号6(フラグメントIV)配列をコードするDNAを含む。フラグメントI〜IVを0.7%アガロースゲルで精製し、次いでKasIで消化した。消化されたDNAフラグメントIおよびIIIならびにIIおよびIVをT4 DNAリガーゼで連結して、それぞれキメラHIAY(フラグメントV)およびHIGT(フラグメントVI)をコードする2108bpの直線状DNAを得た。連結産物を0.7%アガロースゲルで精製し、次いでエンドヌクレアーゼBamHIおよびHindIIIで消化した。消化産物をアガロースゲル電気泳動で精製した。最後に、ベクターpT7-4(Tabor et al. Proc Natl Acad Sci USA. 1985; 82: 1074-1078)に、フラグメントVおよびVIをクローニングした。キメラHIAY(φ29DNAポリメラーゼ+配列番号5コネクター+topoVのドメインHおよびI)ならびにHIGT(φ29DNAポリメラーゼ+配列番号6コネクター+topoVのドメインHおよびI)を鋳型として用い、QuikChange(登録商標)(Stratagene社)部位特異的変異導入キットを用いて、TopoVのHフラグメントを挿入することによって、それぞれキメラHGTおよびHAYを構築した。全遺伝子の配列決定によって、DNA配列およびさらなる変異の非存在の確認を行った。pJLw2プラスミド誘導体にクローニングしたキメラ遺伝子を挿入したエッシェリヒア・コーリーBL21(DE3)細胞内でキメラDNAポリメラーゼを発現させ、次いで、本質的に(Lazaro et al. Methiods Enzymol. 1995; 262: 42-49) に記載されているようにして精製した。
【0097】
要約すれば、以下のキメラDNAポリメラーゼを得た:
HAY:φ29DNAポリメラーゼ-配列番号5-HhH H(635アミノ酸;〜73kDa)
HGT:φ29DNAポリメラーゼ-配列番号6-HhH H(635アミノ酸;〜73kDa))
HIAY:φ29DNAポリメラーゼ-配列番号5-HhH H-I(692アミノ酸;〜80kDa)
HIGT:φ29DNAポリメラーゼ-配列番号6-HhH H-I(692アミノ酸;〜80kDa)
【0098】
2.2.キメラDNAポリメラーゼのDNA結合能
φ29DNAポリメラーゼの末端へのHhHモチーフの融合が、キメラのDNAへの改善された結合能を付与するかどうかを測定するために、DNAの電気泳動移動度を用いたゲル遅延分析を行った。
【0099】
アッセイ条件。15塩基オリゴヌクレオチド(配列番号14)および、15塩基オリゴヌクレオチドに相補的な配列に加えて6ヌクレオチドの5’伸長を有する21塩基オリゴヌクレオチド(配列番号15)はIsogen社から供給された。[γ-
32P]ATPおよびT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、15塩基オリゴヌクレオチドの5’末端を標識した。5’末端を標識した15塩基オリゴヌクレオチドを、0.2M NaClおよび60mM(pH7.5)トリス-HClの存在下で、21塩基オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせた。ハイブリダイズさせた、5’末端を標識した15塩基オリゴヌクレオチド分子/21塩基オリゴヌクレオチドを用いて、天然またはキメラφ29DNAポリメラーゼとの相互作用を分析した。最終容量20μlのインキュベーション混合物には、50mM(pH7.5)トリス-HCl、1mMジチオスレイトール、10mM MgCl
2、20mM硫酸アンモニウム、0.1mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)、4%グリセロール、1nM 15塩基/21塩基オリゴヌクレオチド分子および表示された濃度の天然またはキメラφ29DNAポリメラーゼを含有させた。4℃で5分間インキュベートした後、本質的に(Carthew et al. Cell. 1985; 43: 439-448)の記載に従って、試料を、12mM(pH7.5)トリス酢酸および1mM EDTAを含有し、同じ緩衝液で4℃、8V/cmで移動させる、4%ポリアクリルアミドゲル(w/v)(単量体:ビス 80:1)の電気泳動にかけた。オートラジオグラフィー後、標識DNAの移動位置における移動度の分離(遅延)としてポリメラーゼ-dsDNA複合体が検出された。
【0100】
これらの条件において、天然φ29DNAポリメラーゼは、ハイブリダイズさせた標識15塩基/21塩基オリゴヌクレオチド分子を用いた場合、単一の遅延バンドを生じるが(
図7参照)、これは、重合を起こしうる安定な酵素-DNA複合体として説明されている(Mendez et al. J Biol Chem. 1994; 269: 30030-30038)。キメラHAY、HGTおよびHIGTは、天然酵素を超えるDNA結合能を示した。なぜなら、この基質の大部分は濃度9.5nMで分離したが、おおよそ2倍高い濃度を必要とする天然DNAポリメラーゼとは異なっていたからである。キメラHIAYは、天然ポリメラーゼと同等であるか、またはやや劣るDNA結合能を有していた。これらの結果から、一般に、φ29DNAポリメラーゼのC末端へのTopo VのHhH HおよびH+Iドメインの付加は、改善されたDNA結合能を付与するが、キメラHIAYの場合のような例外もあるということが結論できる。
【0101】
2.3.キメラDNAポリメラーゼによるローリングサークル複製
φ29DNAポリメラーゼのC末端へのTopoVのHhHドメインの付加によって得られたDNA結合の改善が、一方では重合活性に、他方では鎖分離にカップリングしたDNAのプロセッシブ合成に影響を及ぼすかどうかを測定するために、DNAポリメラーゼがDNAオリゴヌクレオチドの3’-OH基から重合を開始するM13プライマーを用いた複製アッセイを行った。本アッセイにおいて、最初の複製サイクルは鎖分離を必要としないが、それが完了した時点で、このポリメラーゼはこのプライマーの5’末端を見出し、それとともに、次の複製サイクル(ローリングサークル型)を続けるためには能動的な分離を必要とする。
【0102】
アッセイ条件。0.2M NaClおよび60mM(pH7.5)トリス-HClの存在下でM13mp18 ssDNAをユニバーサルプライマーとハイブリダイズさせ、得られた分子をプライマー/鋳型として用いて、キメラDNAポリメラーゼによる鎖分離にカップリングしたDNAのプロセッシブ重合を分析した。25μlのインキュベーション混合物には、50mM(pH7.5)トリス-HCl、10mM MgCl
2、1mMジチオスレイトール、4%グリセロール、0.1mg/ml BSA、40μMのdCTP、dGTP、dTTPおよび[γ-
32P]ATPdATP(1μCi)、配列番号16のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたM13mp18 ssDNA250ngならびに30nMの天然またはキメラφ29DNAポリメラーゼを含有させた。30℃で表示された時間インキュベートした後、10mM EDTA 0.1%-SDSの添加によって反応を停止させ、試料をSephadex G-50カラムで濾過した。排除体積に対応するチェレンコフ放射線から相対活性を算出した。サイズ分析のために、標識DNAを0.7M NaOHで処理して変性させ、(McDonell et al. J Mol Biol. 1977; 110: 119-146)に記載されているようにして、0.7%アルカリアガロースゲルで電気泳動にかけた。電気泳動後、単位長さのM13mp8 ssDNAを臭化エチジウム染色で検出し、次いでゲルを乾燥し、オートラジオグラフにかけた。
【0103】
図8Aに示すように、HhHドメインの存在が、キメラDNAポリメラーゼの鎖分離能に干渉しないということは、重要な発見である。キメラHAY、HGT、HIAYおよびHIGTによって合成されるDNA量は、天然φ29DNAポリメラーゼによって合成されるDNA量より多かった(それぞれ4、5、5および7倍)。複製速度は、天然φ29DNAポリメラーゼによって得られる複製速度と比較して同等(キメラHAYおよびHGTの場合)かまたはさらに速かった(キメラHIGTおよびHIAY)。キメラにおけるφ29DNAポリメラーゼのC末端におけるHhHドメインの存在によって、ローリングサークル複製における鋳型DNAの使用が改善されることをこの結果は示している。
【0104】
2.4.キメラDNAポリメラーゼによるプロセッシブ重合
φ29DNAポリメラーゼは、プロセッシブDNA複製のパラダイムである。なぜなら、それは、補助タンパク質の非存在下でDNAから分離することなく70kbを超えて取り込むことができるからである。従って、キメラDNAポリメラーゼにおけるφ29DNAポリメラーゼのC末端におけるHhHドメインの融合が、重合のプロセッシビティーに影響を与えるかどうかを分析した。
【0105】
アッセイ条件。種々の割合の酵素/DNAを用いてキメラDNAポリメラーゼのプロセッシビティーを分析した。25μlのインキュベーション混合物には、50mM(pH7.5)トリス-HCL、10mM MgCl
2、1mMジチオスレイトール、4%グリセロール、0.1mg/ml BSA、40μMのdCTP、dGTP、dTTPおよび[γ-
32P]ATPdATP(1μCi)、プライミングされたM13mp18 ssDNA250ngならびに表示された漸減する量の天然φ29DNAポリメラーゼまたはキメラDNAポリメラーゼを含有させた。30℃で20分間インキュベートした後、10mM EDTA-0.1%SDSの添加によって反応を停止させ、試料をSephadex G-50カラムで濾過した。サイズ分析のために、標識DNAを0.7M NaOHで処理して変性させ、0.7%アルカリアガロースゲルで電気泳動にかけた。漸減する割合のDNAポリメラーゼ/DNAで、複製産物の長さを分析することによって重合のプロセッシビティーを評価した。
【0106】
図8Bに示すように、漸減する割合の酵素/DNAは、プロセッシブDNA重合モデルに従って、天然またはキメラφ29DNAポリメラーゼによって合成される伸長産物の長さを変化させなかった。
【0107】
2.5.天然およびキメラφ29DNAポリメラーゼによる、多重プライミングを用いるプラスミドDNAのローリングサークル増幅(RCA)
前述のように、φ29DNAポリメラーゼが有する高いプロセッシビティーおよび鎖分離能は、共に、Amersham Biosciences社/Molecular Staging社による、より効率的な等温ssDNA増幅法の1つの開発の基礎であったが、その方法において、ランダムヘキサマープライマーと組み合わせたφ29DNAポリメラーゼは、ピコグラム量の環状プラスミドの鎖分離によって、10
4〜10
6倍の等温で正確な増幅を達成している[Templiphi(登録商標)(www.gehealthcare.com)]。(His)
6配列をそのC末端に融合させたφ29DNAポリメラーゼでの結果は、単一プライマーでのローリングサークル複製中でのその効率にもかかわらず、多重プライミングでのRCA中に検出可能な増幅産物を得ることができないことを示した。dNTPにより大きな親和性を示すφ29DNAポリメラーゼの他の変異誘導体についても同じことが言え、天然DNAポリメラーゼのレベルでM13 DNAを複製するが、増幅産物を生じることができなかった。従って、φ29DNAポリメラーゼのC末端へのHhHドメインの融合は、単一プライマーでのローリングサークル複製を行う天然酵素の固有の能力を改善したが、多重プライミングでのRCA中の同様な効率向上は期待できなかった。
【0108】
アッセイ条件。インキュベーション混合物には、緩衝液B 12.5μl中に、添加物としてプラスミドDNA(4.2kpb)10fgを含有させた。添加DNAを変性させるために、試料を3分間95℃でインキュベートし、次いで5分間氷冷した。50nMの天然またはキメラφ29DNAポリメラーゼを添加して反応を開始させた。表示された時間、30℃でインキュベートした後、試料を65℃で10分間加熱することによって反応を停止させた。各反応物1μlをEcoRIで消化し、次いで0.7%アガロースゲルで電気泳動することによって分析した。電気泳動後、増幅したDNAを臭化エチジウム染色で検出した。
【0109】
図9に示すように、天然φ29DNAポリメラーゼは、4時間の反応で検出可能な増幅産物を生じた。キメラHAYは、4時間で検出可能な増幅産物を生じたが、増幅5時間後の全生産量は、天然φ29DNAポリメラーゼによって得られた量の2倍であった。キメラHGTは、キメラHAYによって得られる量と同等の増幅DNA量を生じた。短めの反応時間(3時間)で最大増幅収量が得られたことは興味深い。キメラHIAYおよびHIGTでの最大DNA増幅量は、天然φ29DNAポリメラーゼによって得られた量と同様であったが、キメラHGTの場合は、前記最大収量は、反応3時間で達成された。4つのキメラで合成したDNAをEcoRIで消化した後、増幅DNAの80%以上は、4.2kbのdsDNAフラグメントを生じたが、そのことは、増幅産物が、実際は、元のプラスミドの縦列反復配列であることを示した。
【0110】
この結果は、わずかな量(10fg)のプラスミドDNAを増幅するキメラDNAポリメラーゼの能力が、天然φ29DNAポリメラーゼと比較して優れていることを示している。
【0111】
2.6天然およびキメラφ29DNAポリメラーゼによる、ゲノムDNAの多重プライミングを用いるDNA増幅
前述の多重プライミングを用いるRCA技術に加えて、多重置換増幅(MDA)として知られる全ゲノムの増幅方法が、ランダムヘキサマープライマーの使用と組み合わせたφ29DNAポリメラーゼの特性に基づいて開発された(Dean et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2002; 99: 5261-5266)。この方法に基づくGenomiphi(登録商標)(GE Healthcare社)およびRepli-G(登録商標)(Qiagen社)キットは、最小量10ngのゲノムDNAを必要とする。キメラDNAポリメラーゼが、天然φ29DNAポリメラーゼと比較して、
わずかな量のゲノムDNAの増幅能が改善されているかどうかを調べるために、バシラス・ズブチリスゲノムDNAのMDAを行った。
【0112】
アッセイ条件。インキュベーション混合物には、緩衝液B 12.5μl中に、バシラス・ズブチリスゲノムDNA 100fgを含有させた。DNAを変性させるために、試料を3分間95℃でインキュベートし、次いで5分間氷冷した。50nMの天然またはキメラφ29DNAポリメラーゼを添加して反応を開始させた。表示された時間、30℃でインキュベートした後、試料を65℃で10分間加熱することによって反応を停止させた。各反応物1μlを0.7%アガロースゲルで電気泳動することによって分析した。電気泳動後、増幅したDNAを臭化エチジウム染色で検出した。
【0113】
図10に示すように、前述の実験条件において、5時間のインキュベーションの後に、天然φ29DNAポリメラーゼは検出可能な増幅産物を生じた。キメラHAYもまたこの時間で増幅産物を生じたが、6時間後の増幅DNAの総量は、天然φ29DNAポリメラーゼによって得られた総量よりかなり多かった。同様に見られるように、キメラの残りであるHGT、HIAYおよびHIGTは、短めのアッセイ時間(3時間)で明確な増幅産物を生じ、天然φ29DNAポリメラーゼで6時間後に観察された量と比較して、この時間での総増幅量は、同様か(HIAYおよびHIGT)またはかなり多かった(HGT)。HhHドメインの存在は、天然φ29DNAポリメラーゼと比較して、キメラDNAポリメラーゼにゲノムDNA増幅能の改善を提供することをこの結果を示している。
【0114】
2.7キメラDNAポリメラーゼの正確さの測定
増幅されたプラスミドの線状単量体を得るために、プラスミドDNA 10fgの多重ローリングサークル増幅に対応する、
図9に示した実験からの各試料のうち3μlを、制限酵素混合物17μl(New England Biolabs(NEB)10X EcoRI緩衝液2μl、NEB EcoRIエンドヌクレアーゼ0.5μl[10単位]およびH
2O14.5μl)の存在下でインキュベートした。37℃で1時間インキュベートした後、DNAをQiagenゲル抽出キットカラムで精製し、TE緩衝液(10mM(pH7.5)トリス-HCl、1mM EDTA)30μlで溶出した。各溶出液10μlを、NEB 10X リガーゼ緩衝液2μl、H
2O 8μlおよびNEB T4 DNAリガーゼ5μl(200単位)でインキュベートして再連結させた。反応物を16℃で一晩インキュベートし、エッシェリヒア・コーリーXL-1 Blueコンピテント細胞を各2μlで形質転換した。各増幅試料を用いておおよそ1000の形質転換細胞が得られたが、前述の各試料と同様に処理した4.2kpbのプラスミド10fgを含む対照試料では形質転換細胞は得られなかった。各形質転換から2つのクローンを選択し、対応するプラスミドを精製し、標準法に従って配列決定した。配列決定に用いたオリゴヌクレオチドは、pT7-N(配列番号17)、sp4+10(配列番号18)およびsp10+7(配列番号19)であった。天然およびキメラDNAポリメラーゼによって増幅された各プラスミドの、全部で4918のオーバーラップしないヌクレオチドを配列決定した。結果を表1に示す。この結果は、天然酵素に類似したキメラDNAポリメラーゼの合成の正確さを示す。
【0115】
【表1】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]