(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)を29〜65質量%、ポリスチレン樹脂(B)を51〜15質量%、及び耐衝撃性ポリスチレン樹脂(C)を20〜9質量%含有するスチレン系樹脂組成物で形成され、個々の平均厚みが2〜50μmである層を、10〜50層積層して含むスチレン系樹脂多層シート。
(A)成分のスチレンブロックのGPCで測定したピーク分子量が3万〜12万の範囲内であって、該スチレンブロックの分子量分布曲線の半値幅が0.8〜1.25の範囲である請求項1から3の何れか一項に記載のスチレン系樹脂多層シート。
(C)成分中のグラフトゴムの粒子径が2.0〜3.0μmであり、シート中のグラフトゴムのゴム分が0.75〜1.90質量%である請求項1から4の何れか一項に記載のスチレン系樹脂多層シート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、公知のスチレン系樹脂シートを打抜いたときのバリの発生状況を観察し、バリの発生を抑制する方法について鋭意検討した結果、好ましくは後述するそれぞれ特定の質量平均分子量を有するスチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)、ポリスチレン樹脂(B)、および耐衝撃性ポリスチレン樹脂(C)を含有する樹脂組成物から形成される層を、10層以上の多層に積層することによって、どのような成形機に対しても毛羽やバリの発生が極めて少ないスチレン系樹脂シートが得られることを見出した。
【0010】
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)とは、その構造中にスチレン系単量体を主体とする重合体ブロックと共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックを含有する重合体である。スチレン系単量体としてはスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等がある。本発明の好ましい実施形態においては、スチレンが主体であるが、スチレン以外の前記の他の成分を微量成分として1種以上含むものであっても良い。
【0011】
共役ジエン単量体とはその構造中に共役二重結合を有する化合物であり、例えば1,3−ブタジエン(ブタジエン)、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2−メチルペンタジエン等があり、なかでもブタジエン、イソプレンが好適である。共役ジエン単量体は一種類あるいは二種類以上を用いることができる。スチレン系単量体を主体とする重合体ブロックとは、スチレン系単量体に由来する構造のみからなる重合体ブロックと、スチレン系単量体に由来する構造を50質量%以上含有する重合体ブロックの何れをも意味する。共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックとは、共役ジエン単量体に由来する構造のみからなる重合体ブロックと、共役ジエン単量体に由来する構造を50質量%以上含有する重合体ブロックの何れをも意味する。スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)の共役ジエンブロックの含有量は、(A)成分を100質量%としたとき、10〜25質量%が、シートの機械特性の点から好ましい。ここで、共役ジエンブロックの含有量とは共役ジエン単量体に由来する構造の全共重合体中に占める質量の割合を意味する。
【0012】
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)は一種類あるいは二種類以上を用いることができる。本発明において、スチレン−共役ジエンブロック共重合体とは、例えば共役ジエンがブタジエンである場合、スチレン−ブタジエン(SB)の二元共重合体及びスチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)の三元共重合体の何れであっても良く、スチレンブロックが3つ以上でブタジエンブロックが2つ以上の複数のブロックで構成される樹脂であっても良い。更に、各ブロック間のスチレンとブタジエンの組成比が連続的に変化するようないわゆるテーパーブロック構造を有するものであっても良い。また、スチレン−共役ジエンブロック共重合体は市販のものをそのまま用いることもできる。
【0013】
本発明で使用するスチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)は、後述するように好ましくはスチレン換算の質量平均分子量Mwが80,000〜220,000の範囲である。この(A)成分中のスチレンブロックのGPCで測定したピーク分子量は、好ましくは3万〜12万、より好ましくは4万〜11万の範囲内である。また(A)成分のスチレンブロックの分子量分布曲線の半値幅は0.8〜1.25の範囲が好ましく、より好ましくは1.05〜1.25の範囲である。この範囲のものを用いることによって、良好な成形性が得られる。
ここで、(A)成分のスチレンブロックの分子量分布曲線は、まず(A)成分及びシートを、I.M.KOLTHOFF,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法に準拠して、四酸化オスミウムを触媒としてクロロホルムにより酸化分解を実施し、これにより得たスチレンブロックをテトラヒドロフラン溶媒に溶解し、GPC法により得ることができる。そして、この分子量曲線より標準ポリスチレン(単分散)を用いたスチレン換算のピーク分子量を求めることができる。この際のGPC法の測定は常法によるが、主要な測定条件は以下の通りである。
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折法
移動相:テトラヒドロフラン
サンプル濃度:2質量%
検量線:標準ポリスチレン(単分散)により作成
【0014】
このスチレンブロックの分子量分布曲線を用いて、その半値幅を求めることができる。具体的には、分子量を対数表示で横軸の1000〜1000000の範囲を15cmとして、縦軸に濃度(質量比)を任意の高さで表示し、ピークトップの高さの50%のピークの横軸の幅を半値幅とする。この場合、ピークトップの高さは横軸に垂直であり、高さの50%のピークの幅は横軸に水平であることが必要である。スチレンブロックの分子量分布曲線の半値幅は、ブロック共重合体の分子量分布と相関している。この分子量分布を調節する方法は特に限定されるものではないが、例えば(A)成分のスチレンブロック部分の重合時に、開始剤を添加する時間を調節する方法等で、分子量の異なるブロック共重合体を得ることができる。
【0015】
ポリスチレン樹脂(B)とは、単量体としてスチレンが主体であるが、微量成分としてo−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル化合物の1種以上を含有するものであっても良く、一般にGPPS(汎用ポリスチレン)と言われている樹脂であり、市販の樹脂を用いることもできる。
【0016】
耐衝撃性ポリスチレン樹脂(C)とは、一般にHIPSと言われている樹脂であって、スチレン系単量体がグラフトした微粒子状のグラフトゴムを含有するポリスチレン樹脂を指す。グラフトゴム中のゴム成分としては、例えば1,3−ブタジエン(ブタジエン)、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2−メチルペンタジエン等を単量体とするジエン系ゴムが用いられる。また、共役ジエン成分が50質量%以上のスチレン−共役ジエンブロック共重合体の熱可塑性エラストマーを用いることもできる。中でも、ポリブタジエンやスチレン−ブタジエンブロック共重合体が好ましい。
【0017】
(C)成分中のグラフトゴムは、その粒子径が2.0μm以上3.0μm以下、好ましくは2.3μm以上2.7μm以下の範囲にあるものが、透明性に優れる。ここで言うグラフトゴム粒子径はレーザー回折方式粒子アナライザーにより測定したグラフトゴム分の平均粒子径を意味する。また本発明のシートは、シートを100質量%としたときのシート中の(C)成分由来のグラフトゴム含有量を、0.75〜1.90質量%とすることが、シートの耐衝撃性および透明性のバランスをとる上で好ましく、(C)成分中のグラフトゴム含有量と、シート中の(C)成分の配合比率を調整して、シート中のグラフトゴム含有量を上記の範囲内とすることが好ましい。ここで、(C)成分中のグラフトゴム含有量は、MEKとアセトンの質量比50/50の混合溶媒に溶解した時の不溶分を遠心分離で回収し、その質量の値から算出することができる。
【0018】
本発明の樹脂シートは、前記(A)成分が29〜65質量%、(B)成分が51〜15質量%、(C)成分が20〜9質量%で、(A)〜(C)の合計が100質量%の樹脂組成物から形成する。この範囲の組成とすることによって、強度物性、耐衝撃性、透明性の何れもが満足できるシートが得られる。
【0019】
前記の(A)〜(C)の各成分の質量平均分子量は、GPCを用い常法で求めた標準ポリスチレン換算の分子量分布曲線より求めることができる。そして本発明の(A)〜(C)の各成分の質量平均分子量は、それぞれ下記の範囲の樹脂を用いることが好ましい。
(A)成分: Mw= 80,000〜220,000
(B)成分: Mw=200,000〜400,000
(C)成分: Mw=150,000〜210,000
このような質量平均分子量の範囲の樹脂を用いることによって、後述するようにこの樹脂組成物の溶融張力を適切な範囲に調整することが可能となるばかりでなく、強度物性のバランス及び透明性が良好なシートが得られ、得られたシートをキャリアテープ等に熱成形した際に、成形性が極めて良好であり、深絞り成形しても良好なポケットを成形することが可能となる。
【0020】
ここで、溶融張力は、溶融張力測定装置を使用して、オリフィス径1.0mmφ、オリフィス長10mm、巻取り速度10、30、50m/minにて溶融張力を測定した値である。本発明の(A)〜(C)成分を含有してなる樹脂組成物の220℃における溶融張力は、10〜30mNであることが好ましい。溶融張力をこの範囲にすると、シートを熱成形して容器とする際の成形加工性が特に良好なシートが得られる。溶融張力が10mN未満では、シートを熱成形する際に穴空きが発生してしまう場合があり、30mNを超えると成形品ポケットの賦形性(シャープさ)が不良になる場合がある。この溶融張力は、(A)〜(C)の各成分の質量平均分子量及び各成分の配合比を調整することによって、10mN〜30mNの範囲内に調整することができる。
【0021】
本発明の多層構成の樹脂シートは、好ましくは前述のそれぞれ特定の範囲の質量平均分子量を有するスチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)、ポリスチレン樹脂(B)、及び耐衝撃性ポリスチレン樹脂(C)を含有する樹脂組成物で複数の層を構成するのが好ましいが、(A)〜(C)成分の配合比率を前述の組成範囲内で変更した、二種のスチレン系樹脂を交互に積層し、あるいは三種以上のスチレン系樹脂を所定のパターンで積層して、複層としたものも含む。更に各層には、必要に応じて滑剤、可塑剤、加工助剤などの各種添加剤を添加することが可能である。
【0022】
本発明の多層樹脂シートは、(A)〜(C)成分の種類及び/又は組成比率を前述の教示の範囲内で変更した樹脂成分をそれぞれ含んでなるか、好ましくは実質的に同一の種類及び組成比率の樹脂成分からなる、平均厚みが2〜50μmの個々の層を、10〜50層積層した多層シートである。個々の層が同一の成分で形成されていても個々の層間には界面が存在する。推測の域を出ないが、この多層シートを打ち抜いたとき、一つの層から樹脂の伸びに起因したバリが発生しても、一層の層厚みが薄いことによりバリの長さは抑制され、更に次の層との界面でバリの成長が止まることから、本発明のスチレン系樹脂多層シートにおいて問題となるようなバリの抑制効果が得られると考えられる。これに対して、個々の層の厚みが2μm未満であると、個々の層が薄すぎるため、打抜きピンとダイに挟まれたシート全体の挙動が単層とほぼ同様に振舞い、多層によるバリ抑制効果が得られない。また50μmを超えると、多層としての効果が失われ、個々の層から発生する樹脂の伸びに起因したバリが長くなるため、問題となるバリの発生を抑制することができなくなる。更に、個々の層が10層未満であると、個々の層の厚みが50μmを超えた場合と同様に、個々の層から発生する樹脂の伸びに起因したバリが長くなり、また50層を超えると、個々の層の厚みが2μm未満の場合と同様に、シート全体の挙動が単層とほぼ同様に振舞うため、多層としての効果が得られない。
【0023】
上記のように、本発明の多層シートは、前記特定範囲の質量平均分子量を有するスチレン系樹脂組成物を用いることで、熱成形による絞り比(ポケット深さ)が大きく、透明性及び強度に優れたポケットを形成することが可能であるエンボスキャリアテープ等の電子部品包装に用いるスチレン系樹脂シートが得られ、そのシートを熱成形して、ポケットの外から収納電子部品に記載された文字等を確認できるキャリアテープを得ることができると同時に、当該樹脂での積層構成を用いることで、切断及び打抜き加工工程における樹脂のだれ、かえりの発生を抑制する効果が得られ、加工時の毛羽やバリの発生を低減することが可能となる。
【0024】
本発明のスチレン系樹脂多層シートは、一般的な積層シートの製造方法と同様の方法を用いて製造することができ、基本的には、多層構成のシートを形成する樹脂を押出機に供給して溶融混練し、フィードブロックに供給して複数の層を積層することで多層シートが押出成形される。
ここで、前記のように本発明の多層構成の基材シートが、好ましくは実質的に同一の種類及び組成比率の個々の層を10〜50層積層した構成である場合、基本的には前記スチレン系樹脂組成物を1台の押出機で溶融押出しすることでも可能である。その際、例えば、溶融流動が層流に近いものの場合には、押出機とダイの間に特定のエレメント数のスタティックミキサーを挿入することによって多層化することができる。
【0025】
一方、一般的には、あるいは樹脂成分の種類及び/又は組成比率を変更した例えば2種の樹脂を用いる場合には、例えば特開2007−307893号公報に記載されているように2台の押出機からスチレン系樹脂を供給し、それぞれの流路からの溶融樹脂を、公知の積層装置であるマルチマニホールドタイプのフィードブロックとスクエアミキサーを用いて多層化することができ、もしくは、コームタイプのフィードブロックのみを用いることにより10〜50層に多層化することができる。また押出機を増やす等により、3種以上の多種の樹脂も用いることができる。ここで、スクエアミキサーとは、ポリマー流路を断面積が四角状の流路に2分割し、更に、分岐されたポリマーを、再度、厚み方向上下に積層されるように合わせる合流部を備えた公知の筒体である。別法では、1台の押出機から押出した溶融樹脂の流路を公知の手段で2つに分離し、それぞれ個別の流路でフィードブロックに供給すれば、前記の2台の押出機を用いた場合と同様の方法で多層化できる。
【0026】
本発明の多層シートから真空成形、圧空成形、プレス成形等公知のシートの成形方法(熱成形)を利用することにより、キャリアテープ(エンボスキャリアテープ)及びトレー等の種々の形状の電子部品包装容器(電子部品包装体)を得ることができる。本発明の多層シートを用いることにより、多層シートをスリットする際や、前記の電子部品包装容器の成形で、スプロケットホール等を打抜く際に、その断面に毛羽やバリの発生が極めて少ない包装容器を得ることができる。特にキャリアテープのエンボス成形において極めて有力である。そしてこれらの成形及び二次加工を用いることによって、スリット幅、打抜き穴径等の寸法精度に優れ、打抜きの際のバリの発生が著しく抑制されたエンボスキャリアテープを製造することができる。
【0027】
より具体的には、本発明のエンボスキャリアテープ等のスリット及び打抜きの二次加工工程において、打抜き加工の条件は、ピン/ダイの片側クリアランスが5から50μmの間の一定の広い範囲で、かつ打抜き速度が10〜300mm/secのような広範囲の打ち抜きで、穴径寸法の安定した、毛羽、バリの発生を著しく抑制したスプロケットホールを得ることができる。また、リング状組み合わせ刃を用いたスリット工程においても、毛羽やバリが少なく、シート幅の安定したスリット端面を得ることが可能となる。
【0028】
本発明のエンボスキャリアテープは、前記の成形方法で形成された収納部に電子部品を収納した後に、カバーテープにより蓋をしてリール状に巻き取ったキャリアテープ体として、電子部品の保管及び搬送に用いることができる。
【実施例】
【0029】
本発明を、実施例を用いてより具体的に例示するが、本発明はこの実施例に記載された内容によって限定されるものではない。
【0030】
先ず、本実施例において(A)〜(C)成分として用いた原料樹脂を、その特性と共に表1に示すと共に、本実施例において用いた各特性の評価方法を説明する。
<原料樹脂>
【表1】
【0031】
<評価方法>
(1)原料樹脂の特性評価
(1−1)分子量測定
各原料樹脂の分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて常法にて標準ポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)として求めた。GPCの測定は以下の条件で行った。
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折法
移動相:テトラヒドロフラン
サンプル濃度:2質量%
検量線:標準ポリスチレン(Polymer Laboratories社製)を用いた。
(1−2)スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)のスチレンブロックのピーク分子量と分子量分布ピーク幅の評価
各実施例及び比較例で用いた成分(A)の樹脂及びシートについて、四酸化オスミウムを触媒としてターシャリーブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,etal.,J.Polym.ScI.1,429(1946)に記載の方法)でブロックスチレン含有量を測定した。得られた(A)成分のスチレンブロック分をテトラヒドロフラン溶媒に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた常法により分子量分布のクロマトチャートを得た。ピーク分子量は、GPC用標準ポリスチレン(単分散)をGPC測定し、そのピークカウント数と標準ポリスチレンの数平均分子量との検量線を基に、測定したクロマトチャートからピーク分子量を読み取って求めた。
上記のピーク分子量を求めた分子量分布チャートの分子量を対数表示で横軸に1000〜1000000の範囲を15cmとしてピークトップの高さの50%のピークの横軸の幅を求めた(単位はcm)。
(2)打抜き性評価
各実施例及び比較例で製膜した多層シートを、真空ロータリー式エンボスキャリアテープ成形機(CTF−200、CKD社製)で成形した。成形工程においてエンボスキャリアテープの個々のスプロケットホールの打抜きを、下記の条件範囲で行った。
(打抜き条件)
ピン/ダイのクリアランス:片側1〜50μm
打抜き速度:10〜300mm/sec
次に各サンプルのスプロケットホールを、測定顕微鏡(MF−A Mitsutoyo社製)で30倍の倍率で撮影し、その写真を画像処理して毛羽、バリの発生頻度を数値化した。数値化の方法は、撮影した写真を画像編集ソフト(PhotoshopAdobe社製)で2値化(白黒画像化)し、打抜き穴部のピクセル数をカウントした。毛羽、バリが全く発生していない規定の穴径の真円のピクセル数と、各サンプルの打抜き穴部のピクセル数との比率計算から、毛羽、バリが打抜き穴を覆っている割合を計算した。打抜き穴観察は、各サンプル毎に10個実施し、その平均値をバリ発生率とした。
(3)最適打抜き加工条件ピン/ダイのクリアランス評価
上記の打抜き性評価において、打抜きピンとダイの片側クリアランス(1〜50μm)と、打抜き速度10〜300mm/secの条件下で、バリ発生率4%以下が得られる範囲を確認し、打抜き加工における加工条件幅の広さ(プロセスウィンドウ)を評価した。実施例、比較例のバリ発生率には、打抜き速度:250mm/secでの、各クリアランス条件で得られた最も小さな値を示した。
(4)打抜き穴寸法評価
上記の打抜き性評価において、穿設したスプロケットホール径(狙い値φ1.5mm)30個の寸法測定を、測定顕微鏡(MF−A Mitsutoyo社製)を用いて実施し、その穴径寸法のバラツキ範囲を評価した。
(5)スリット性評価
真空ロータリー式エンボスキャリアテープ成形機(CTF−200、CKD社製)のリング状組み合わせ刃でスリットを行い、スリット端面を測定顕微鏡にて拡大観察し、毛羽、バリの有無を比較した。毛羽、バリがほとんどない状態を優、1.0mm長未満の発生があるものを良、1.0mm長以上の発生があるものを不可とした。
【0032】
(実施例1)
フィードブロックおよびスクエアミキサーと、Tダイを備えた多層シート製膜装置を用いて、下記の方法で多層シートを製膜した。
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)としてA−1、ポリスチレン樹脂(B)としてB−1、及び耐衝撃性ポリスチレン樹脂(C)としてC−1の樹脂を用い、表2に示した配合比率でドライブレンドしてφ65mm単軸押出機で溶融混練した。次いで、溶融した同一樹脂を流路内でフィードブロックとスクエアミキサーを用いて10層積層し、Tダイを用いてシート状に押し広げた後、80℃に温調したロールで冷却固化させることで多層シートを製膜した。得られたシートの総厚みは200μm(1層当たりの平均厚み:20μm)であった。
【0033】
(実施例2、3)
積層数をそれぞれ30層及び50層とした以外は、実施例1と同様にして総厚み200μm(1層当たりの平均厚み:6.7μmおよび4μm)の多層シートを製膜した。
(実施例4)
1層当りの平均厚みを40μmとし、多層シートの総厚みを400μmとした以外は、実施例1と同様にして多層シートを製膜した。
(実施例5)
A−1、B−1、及びC−1の各成分の含有比率を表2に記載した値とした以外は、実施例2(30層)と同様にして多層シートを製膜した。
(実施例6)
原料樹脂として、表2に記載した含有比率のA−2、B−2、およびC−2の各成分を用いた以外は、実施例2(30層)と同様にして多層シートを製膜した。
これら実施例1〜6のシートの評価結果を表3に纏めて示した。また、
図1に実施例2について、ピン/ダイの片側クリアランス20μm、打抜き速度:250mm/secで打ち抜いたときの測定顕微鏡写真を示した。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
(比較例1〜3)
積層数それぞれ1層、6層、および120層とし、1層当たりの平均厚みを表4に記載したように変更した以外は、実施例1と同様にして多層シートを製膜した。
(比較例4〜6)
A−1、B−1、およびC−1の各成分の含有比率を表2に記載した値とした以外は、実施例2(30層)と同様にして多層シートを製膜した。
これらの比較例1〜6のシートの評価結果を表4に纏めて示した。また
図1に比較例1について、ピン/ダイの片側クリアランス20μm、打抜き速度:250mm/secで打ち抜いたときの測定顕微鏡写真を示した。比較例4では、材質の脆さのため製膜ができずシートが得られなかった。また、比較例5のシートは、シートのすべり性が悪く、巻きズレが発生しシートを巻き取ることができなかったため、シートを評価することができなかった。
【0037】
【表4】