【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の特徴構成は、CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法であって、
前記保護膜が、Znx(CoyMn(1-y))(3-x)O4(0<x<1、0<y×(3−x)≦2)を含み、
前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記基材に含まれるMnが前記塗膜成分と反応する条件下で、前記塗膜を
1000℃以上1100℃以下で、2時間以上焼成する焼成工程を行い、前記塗膜内に前記塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層(以下単に緻密層と称する)を、前記基材表面に形成されるCr
2O
3層と密着形成させ、前記緻密層の厚さを1μm以上に成長させる点にある。
【0012】
前記基材に塗膜形成工程を行うと、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜が形成される。前記塗膜を熱処理すると、熱処理によって、ステンレスの表面に形成されるCr
2O
3酸化被膜と保護膜の間に緻密な膜が形成され、上記緻密層となる。前記熱処理は、保護膜の製造工程においても行われうるし、実使用時における発熱によっても自然に進行することが知られている。
【0013】
この緻密層は基材中のMn成分と保護膜成分が相互拡散し、反応することでできた層であるため、非常に緻密であり、酸素のバリア性が高いと考えられる。緻密層の存在により、Crの飛散(Cr被毒)の抑制による空気極劣化の低減、Cr
2O
3酸化被膜の膜厚増大速度の抑制によるオーミック抵抗増加の抑制、などが実現できる。
そのため、この緻密層を十分機能させることによって、SOFCの耐久性を延長できると考えられる。そこで、本発明者らが検討した結果、前記基材表面に形成されるCr
2O
3層と密着形成させ、前記緻密層厚さ前記を1μm以上に成長させることによって、前記緻密層は十分なCrの飛散防止を実現できるとともに抵抗増加の抑制を実現でき、好適な耐久性向上効果が期待できることがわかる。
【0014】
なお、前記焼成工程により、前記基材表面には基材に含まれるCrに由来するCr
2O
3層が形成される。このCr
2O
3層は、通常前記緻密層との密着性が高く、緻密層と基材との間における層間剥離等を防止する効果も発揮している。
【0016】
保護膜材料としては、Co−Mn系スピネル、Zn−Co系スピネル、Zn−Co−Mn系スピネル、Zn−Mn系スピネル、ZnO等の、Co、Zn、Mnから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含むものが有効に用いられる。
これらの金属酸化物成分を用いると、基材として用いられる種々材料との密着性が高く、受熱に対する耐久性が高く、かつ、緻密層を形成した際に、スピネル構造の酸素バリア性が高く、Cr飛散防止効果の高い保護膜に形成されることが明らかになっているので好ましい。本発明者らは、(Zn
xCo
1-x)Co
2O
4(0.45≦x≦1.00)等のZn−Co系材料や、Co
1.5Mn
1.5O
4等のMn−Co系材料に代表されるものが特に有利に用いられることを既に見出している。さらに、複合酸化物として種々の化合物を検討したところ、Zn
x(Co
yMn
(1-y))
(3-x)O
4(0<x<1、0<y×(3−x)≦2)を含む保護膜は、基材、空気極等との熱膨張率の不一致(差)が小さく、特に製造工程時(保護膜の焼成時)において、一度は晒される800℃〜1000℃の環境下においても基材、空気極等との熱膨張率の不一致(差)が小さいうえに、Crの飛散抑制効果がきわめて高いことを見出している。
【0018】
上記緻密層を1μm以上に成長させるには、塗膜をある程度の高温で長時間焼成することが必要であると考えられるが、実際には、後述の実施の形態より800℃では全く緻密層の形成が見られないのに対し、1000℃以上で緻密層の形成が観測された。さらに1100℃においても比較的短時間で緻密層が成長することが確認されている。当然のことながら、1100℃を超える温度ではさらに短時間で緻密層を成長させることができると予想されるが、基板のステンレス部材の耐熱性の上限温度を超えてしまい、焼成時の酸化劣化が著しくなるため、1100℃以下とすることが望ましい。
なお、1000℃以上とした場合2時間以上の加熱で1μm以上の緻密層が成長するとともに、塗膜全体を均一に焼成することができるので好ましい。なお、さらに長時間焼成することを妨げるものではないが、塗膜全体が緻密層に成長してしまうと、それ以上の加熱は基板のステンレス部材の酸化劣化を促進するだけになるため、塗膜の厚さと、目標となる緻密層の厚さを勘案して、加熱時間を適宜設定することが好ましい。
【0019】
上記目的を達成するための本発明の特徴構成は、CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法であって、
前記保護膜が、Co1.5Mn1.5O4を含み、
前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記基材に含まれるMnが塗膜成分と反応する条件下で、前記塗膜を1050℃以上1100℃以下で焼成する焼成工程を行い、前記塗膜内に前記塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層を、前記基材表面に形成されるCr2O3層と密着形成させ、前記Mn含有緻密層の厚さを1μm以上に成長させる点にある。
【0020】
上記緻密層を1μm以上に成長させるには、塗膜をある程度の高温で長時間焼成することが必要であると考えられるが、実際には、後述の実施の形態より1000℃×2hrでは、緻密層の厚みが0.9μmと不十分な厚みでしか形成できていなかった。一方、1050℃×5hrの焼成では1.7μmの緻密層の形成が観測された。
さらに高温の1100℃ではより短時間で厚い緻密層の形成が期待できると考えられる。
当然のことながら、1100℃を超える温度ではさらに短時間で緻密層を成長させることができると予想されるが、基板のステンレス部材の耐熱性の上限温度を超えてしまい、焼成時の酸化劣化が著しくなるため、1100℃以下とすることが望ましい。
なお、1050℃以上とした場合5時間以上の加熱で1μm以上の緻密層が成長するとともに、塗膜全体を均一に焼成することができるので好ましい。なお、さらに長時間焼成することを妨げるものではないが、塗膜全体が緻密層に成長してしまうと、それ以上の加熱は基板のステンレス部材の酸化劣化を促進するだけになるため、塗膜の厚さと、目標となる緻密層の厚さを勘案して、加熱時間を適宜設定することが好ましい。
【0021】
また、前記基材上に形成される塗膜がアニオン電着塗装法により形成することができる。
【0022】
一般的な成膜法として、たとえば、ウエットコーティング法、あるいはドライコーティング法によって形成することができる。ウエットコーティング法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート、電気めっき法、無電解めっき法、電着塗装法等が例示できる。また、ドライコーティング法としては、たとえば蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長(CVD)法、電気化学気相成長(EVD)法、イオンビーム法、レーザーアブレーション法、大気圧プラズマ成膜法、減圧プラズマ成膜法、溶射法等が例示できる。ただし、ドライコーティング法は製造装置が複雑であることに加え、製造コストが高くなることから、ウエットコーティング法が推奨される。
ウエットコーティング法により金属酸化物被膜を成膜する場合、金属酸化物そのものには結着性がほとんどないので、金属酸化物微粒子と樹脂組成物との混合液を用いて、金属酸化物微粒子と樹脂からなる被膜を形成する被膜形成工程を行い、その被膜から樹脂成分を除去することにより金属酸化物を主成分とする手法が採用される。中でも、電着塗装法によると、アニオン電着を行うことによって、基材の表面には金属酸化物微粒子と樹脂組成物との混合液が付着した被膜が形成される。この被膜は、金属酸化物微粒子と樹脂組成物主成分となり、前記樹脂成分の重合に伴い、前記金属酸化物微粒子が凝集一体化されることにより形成されている。この被膜から樹脂成分を除去することによって、金属酸化物微粒子同士が凝集して被膜を形成した保護膜を形成することができる。すると、得られる保護膜は、たとえばディップコートに比べて比較的薄くて均一な塗膜を得ることができるので好ましい。
したがって、アニオン電着塗装を行うと、前記塗膜は基材の全領域に均一に製膜されるので望ましい。
【0023】
また、本発明のセル間接続部材の特徴構成は、上記セル間接続部材の製造方法により製造された点にある。
【0024】
上記セル間接続部材の製造方法により製造されたセル間接続部材は、上述のごとく、均一で安定した塗膜に焼成による緻密層を1μm以上成長させて形成してあるとともに、その緻密層は前記塗膜に由来するから前記塗膜との一体性が高く、かつ基材表面のCr
2O
3に強固に密着するので受熱に対する耐久性が高く、その緻密層により抵抗増加が抑制され、Cr飛散抑制されたものとなっており、長期耐久性が期待できる。
【0025】
また、前記基材がMnを含むフェライト系ステンレス鋼であってもよい。
【0026】
また、前記基材にMnを含有するステンレス鋼を用い、保護膜としてスピネル型酸化物を主材とするものを用いる組み合わせにより、基材に対する密着性の高い緻密層を形成させることができ、安定して保護膜を形成させるとともにCrの飛散を抑えることができる。
なお、前記基材の合金をMn含有率0.3%以上とすることによって、Mnを確実に拡散させ緻密層を形成させることでCrの飛散を防止することができるが、Mn含有率の高い基材は、耐酸化力が低いと考えられている点から、1%以下とすることが好ましい。
【0027】
また、本発明の固体酸化物形燃料電池用セルの特徴構成は、上述のセル間接続部材を空気極と接合してなる点にある。
【0028】
上記セル間接続部材の製造方法により製造されたセル間接続部材は、上述のごとく、均一で安定した塗膜に焼成による緻密層を1μm以上成長させて形成してあるとともに、その緻密層は前記塗膜に由来するから前記塗膜との一体性が高く、かつ基材表面のCr
2O
3に強固に密着するので受熱に対する耐久性が高く、その緻密層により抵抗増加が抑制され、Cr飛散抑制されたものとなっており、長期耐久性が期待できる。したがって、このようなセル間接続部材を用いた固体酸化物形燃料電池用セルは、安定して長期耐久性を期待できるものと考えられる。