特許第5778766号(P5778766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778766
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】ブタジエンポリマーの臭素化プロセス
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/12 20060101AFI20150827BHJP
   C08F 8/20 20060101ALI20150827BHJP
   C08F 36/06 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   C08C19/12
   C08F8/20
   C08F36/06
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-515358(P2013-515358)
(86)(22)【出願日】2011年5月26日
(65)【公表番号】特表2013-528691(P2013-528691A)
(43)【公表日】2013年7月11日
(86)【国際出願番号】US2011038069
(87)【国際公開番号】WO2011159448
(87)【国際公開日】20111222
【審査請求日】2014年5月23日
(31)【優先権主張番号】61/354,335
(32)【優先日】2010年6月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】ブルース エー.キング
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ウェズリー フル
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ブルース ゴーマン
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−502771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/12
C08F 8/20
C08F 36/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)脂肪族炭素−炭素二重結合を含むブタジエンポリマーを、テトラエチルアンモニウムトリブロマイドと、ブタジエンポリマー及びテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩用の少なくとも1種の溶媒の存在下に反応させて、臭素化ブタジエンポリマー及び副生物としてのテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩を生成させ(ここで、少なくともテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩及び前記臭素化ブタジエンポリマーの少なくとも一部は、溶媒中に溶解したままであり、そして更に前記反応混合物が臭素化ブタジエンポリマー富化層及びその中にテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩が濃縮されている別の層を形成している)、
b)臭素化ブタジエンポリマー富化層を、その中にテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩が濃縮されている層から分離し、そして
c)前記臭素化ブタジエンポリマーを前記臭素化ブタジエンポリマー富化層から回収することを含んでなり、前記臭素化ブタジエンポリマーを、製造しかつ、水相と接触させることなく回収する臭素化ブタジエンポリマーの生成プロセス。
【請求項2】
前記溶媒がクロロホルム、ジクロロメタン、ジブロモメタン又はブロモクロロメタンである請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記テトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩が濃縮されているがテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩の少なくとも75モル%を含む請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記テトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩が濃縮されているがテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩の少なくとも90モル%を含む請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ブタジエンポリマーがブタジエン/ビニル芳香族コポリマーである請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記ブタジエンポリマーがスチレン/ブタジエンブロックコポリマーである請求項1又は2に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件特許出願は、2010年6月14日出願の米国仮特許出願第61/354,335号からの優先権を請求する。
本発明は、ブタジエンホモポリマー又はコポリマー、例えばスチレン及びブタジエンの臭素化ブロック、ランダム又はグラフトコポリマーの臭素化プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ブタジエンポリマーの臭素化プロセスが記載されている。この臭素化剤は、フェニルトリアルキルアンモニウムトリブロマイド、ベンジルトリアルキルアンモニウムトリブロマイド又はテトラアルキルアンモニウムトリブロマイドである。このプロセスは、溶液中の出発ポリマーで実施される。脂肪族炭素−炭素二重結合の非常に選択的な臭素化が達成され、芳香族環は本質的に影響を受けないままである。
【0003】
臭素化ポリマーの潜在的な用途は、熱可塑性ポリマー、例えばポリスチレン用の難燃性添加剤としてである。この臭素化ポリマーの熱的特性は、この用途において非常に重要である。熱可塑性ポリマーは、典型的には、溶融ブレンドプロセスにおいて、この臭素化ポリマーとブレンドされる。このブレンドは、殆どの場合に、同時に又は続いて溶融加工されて、二次加工品を形成する。例えばこのブレンドは、それを押出成形して発泡若しくは未発泡物品を形成することにより、射出成形により、溶融流延により又はブレンドを溶融させて、それを所望の製品形に転換させることを含む他のプロセスにより、溶融加工することができる。この臭素化ポリマーは、溶融ブレンド及び溶融加工操作の間に遭遇する温度で熱安定性でなくてはならない。それにもかかわらず、この臭素化ポリマーは、火災条件下で分解して、臭素及び臭化水素を遊離することができなくてはならない。この臭素化ポリマーが熱安定性すぎると、それは正しい温度で分解せず、難燃剤として効力がない。臭素化ポリブタジエンポリマーは、これを、或る種の副反応を最小にすることによって注意深く製造する場合、難燃剤用途のために必要である熱的特性を有することができることが見出された。特許文献1に記載されているプロセスによって、所望の熱的特性を有する臭素化ポリブタジエンポリマーが製造される。
【0004】
特許文献1に記載されているプロセスでの一つの問題点は、反応溶液から臭素化ポリマーを回収することが、しばしば高価であることである。この問題点は、臭素化剤としてテトラエチルアンモニウムトリブロマイドを使用するとき、対応する反応副生物であるテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩は、反応溶媒中での溶解性が劣っているので、特に深刻である。これは、取り扱うことが難しい固体が生成されることを意味する。残留するモノブロマイド塩は、典型的には、水抽出プロセスによって反応溶液から除去される。これは、水相を取り扱う際及び臭素化ポリマーから水を除去する際に、更なる費用がかかることを意味する。他方、テトラエチルアンモニウムトリブロマイドは、非常に有効な臭素化剤である。この理由のために、商業的規模の臭素化プロセスにおいて、これを使用することに関心が集まっている。従って、更に費用効果的なプロセスが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際特許出願公開第WO2008/021417号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一つの面において、a)脂肪族炭素−炭素二重結合を含むブタジエンポリマーを、テトラエチルアンモニウムトリブロマイドと、ブタジエンポリマー及びテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩用の少なくとも1種の溶媒の存在下に反応させて、臭素化ブタジエンポリマー及び副生物としてのテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩を生成させ(ここで、少なくともテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩は、溶媒中に溶解したままである)、b)臭素化ブタジエンポリマー又はテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩のいずれかを、溶媒から選択的に分離し、そしてc)必要な場合、臭素化ブタジエンポリマーを溶媒から回収することを含んでなる、臭素化ブタジエンポリマーの生成プロセスである。
【発明の効果】
【0007】
幾つかの利点が、本発明から生じる。テトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩が可溶性である溶媒を選択することによって、臭素化ブタジエンポリマーの回収が、驚くほど単純化される。多くの場合に、有機相は、臭素化ブタジエンポリマーに富んでおり、モノブロマイド塩を殆ど含んでいない下相と、その中にテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩が濃縮されている上層(top layer)とに分離されるであろう。これらの相は、簡単に分離することができ、臭素化ブタジエンポリマーは、ポリマー富化相から容易に回収することができる。ポリマー含有層は、しばしば、テトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩を、有ったとしても取るに足りない量で含有している。従って、モノブロマイド塩を除去するために、臭素化工程又は生成物回収工程の間の任意の時点で、臭素化ブタジエンポリマーを水相と接触させることは、しばしば必要ではない。これは、臭素化生成物から大量の水を除去することが必要でなくなるので、生成物回収を非常に簡単にする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ブタジエンのポリマーが、このプロセスにおける出発物質である。このブタジエンポリマーは、ホモポリマー又はブタジエンと1種若しくはそれ以上の他のモノマーとのコポリマーであってよい。コポリマーは、ランダム、ブロック又はグラフトコポリマーであってよく、少なくとも10重量%の重合されたポリブタジエンを含有していなくてはならない。ブタジエンは重合して、2種の繰り返し単位を形成する。本明細書において「1,2−ブタジエン単位」として参照される一つの種類は、形、
【0009】
【化1】
【0010】
を取り、そして、ポリマーに側鎖の不飽和基を導入する。本明細書において「1,4−ブタジエン」単位として参照される第二の種類は、形、−CH−CH=CH−CH−を取り、主ポリマー鎖の中に不飽和を導入する。このブタジエンポリマーは、少なくとも幾らかの1,2−ブタジエン単位を含有していなくてはならない。このブタジエンポリマー中のブタジエン単位の、適切には少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、更に好ましくは少なくとも20%、なお更に好ましくは少なくとも25%は、1,2−ブタジエン単位である。1,2−ブタジエン単位は、ブタジエンポリマー中のブタジエン単位の少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%又は少なくとも70%を構成することができる。1,2−ブタジエン単位の比率は、ポリマー中のブタジエン単位の85%よりも多く又はさらに90%よりも多くてよい。
【0011】
制御された1,2−ブタジエン含有量を有するブタジエンポリマーの製造方法は、Journal of Polymer Science(D,Macromolecular Review)、第3巻、第317頁(1968年)においてJ.F.Henderson及びM.Szwarcによって、J.Polym.Sci.A-2、9、43-57(1971)においてY.Tanaka、Y.Takeuchi、M.Kobayashi及びH.Tadokoroによって、Macromolecules、6、129-133(1973)においてJ.Zymona、E.Santte及びH.Harwoodによって並びにJ.Polym.Sci.Polym.Chem.、21、1853-1860(1983)においてH.Ashitaka等によって記載されている。
【0012】
好ましい出発物質は、ブタジエン及び少なくとも1種のビニル芳香族モノマーの、ランダム、ブロック又はグラフトコポリマーである。「ビニル芳香族」モノマーは、芳香族環の炭素原子に直接結合されている重合性エチレン性不飽和基を有する芳香族化合物である。ビニル芳香族モノマーには、置換されていない材料、例えばスチレン及びビニルナフタレン並びにエチレン性不飽和基上で置換された(例えばα−メチルスチレン)及び/又は環置換された化合物が含まれる。環置換されたビニル芳香族モノマーには、芳香族環の炭素原子に直接結合されているハロゲン、アルコキシル、ニトロ又は置換されていない若しくは置換されたアルキル基を有するものが含まれる。このような環置換されたビニル芳香族モノマーの例には、2−又は4−ブロモスチレン、2−又は4−クロロスチレン、2−又は4−メトキシスチレン、2−又は4−ニトロスチレン、2−又は4−メチルスチレン及び2,4−ジメチルスチレンが含まれる。好ましいビニル芳香族モノマーは、スチレン、α−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン及びこれらの混合物である。
【0013】
「ビニル芳香族単位」は、ビニル芳香族モノマーが重合されたとき形成される出発材料中の繰り返し単位である。適切なブタジエン/ビニル芳香族出発コポリマーには、5〜90重量%の重合されたビニル芳香族モノマー単位及び少なくとも10重量%の重合されたブタジエンが含まれている。
【0014】
出発ブタジエンポリマーは、コポリマーの、ランダム、ブロック(多ブロック、例えばジブロック又はトリブロック型を含む)又はグラフト型であってよい。スチレン/ブタジエンブロックコポリマーは、商業的量で広く入手可能である。商品名VECTOR(登録商標)でDexco Polymersから入手可能なものが適している。スチレン/ブタジエンランダムコポリマーは、Polymer、第46巻、第4166頁(2005年)中にA.F.Halasaによって記載されたプロセスに従って製造することができる。スチレン/ブタジエングラフトコポリマーは、Journal of Polymer Science(Polymer Chemistry Edition)、第14巻、第497頁(1976年)中にA.F.Halasaによって記載された方法に従って製造することができる。スチレン/ブタジエンランダム及びグラフトコポリマーは、Anionic Polymerization Principles and Practical Applications、Marcel Dekker,Inc.、ニューヨーク、1996年刊の第9章中に、Hsieh及びQuirkによって記載された方法に従って製造することもできる。
【0015】
このブタジエンポリマーは、ブタジエン及びビニル芳香族モノマー以外のモノマーを重合させることによって形成された繰り返し単位を含有していてもよい。このような他のモノマーには、オレフィン、例えばエチレン及びプロピレン、アクリレート又はアクリルモノマー、例えばメタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸などが含まれる。これらのモノマーは、ブタジエンとランダムに重合されてよく、ブロックを形成するように重合されていてよく又はブタジエンポリマーの上にグラフト化されていてよい。
【0016】
ブタジエンポリマーの最も好ましい種類は、1個又はそれ以上のポリスチレンブロック及び1個又はそれ以上のポリブタジエンブロックを含むブロックコポリマーである。これらの中で、中央のポリブタジエンブロック及び末端のポリスチレンブロックを有するジブロックコポリマー及びトリブロックコポリマーが特に好ましい。
【0017】
前記ブタジエンポリマーは1,000〜400,000、好ましくは2,000〜300,000、更に好ましくは5,000〜200,000、なお更に好ましくは50,000〜175,000の範囲内の重量平均分子量(M)を有する。本発明の目的のために、分子量は、ポリスチレン標準に対する、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定したときの見掛け分子量である。GPC分子量決定は、直列で連結した2個のPolymer Laboratories PLgel5マイクロメーターMixed−Cカラム及びAgilent G1362A屈折率検出器を取り付けたAgilent 1100シリーズ液体クロマトグラフを使用して、溶離剤として、1mL/分の速度で流し、35℃の温度に加熱したテトラヒドロフラン(THF)で、実施することができる。
【0018】
前記臭素化反応は、ブタジエンポリマー及びテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩用の溶媒の存在下に実施される。この溶媒は、臭素化条件下で液体であり、臭素化剤と望ましくなく反応しないものでなくてはならない。適切な溶媒には、ハロゲン化アルカン、例えばクロロホルム、ジクロロメタン、ジブロモメタン及びブロモクロロメタンが含まれる。
【0019】
前記テトラエチルアンモニウムトリブロマイド臭素化剤は、対応するトリエチルアンモニウムモノブロマイド塩を元素状臭素と混合することによって製造することができる。このモノブロマイド塩は、通常、水溶性であり、それで、このトリブロマイドを製造する便利な手段は、元素状臭素を、モノブロマイド塩の水溶液に添加することである。この反応は、ほぼ室温で充分に進行するが、所望により、より高い又はより低い温度を使用することができる。このトリブロマイドは、水相から沈殿する傾向があり、それで、任意の便利な固液分離方法によって、液相から回収することができる。このトリブロマイドは、有機溶媒、例えば前記の塩素化溶媒中に可溶性であり、所望により、出発ブタジエンポリマー及び臭素化溶媒とのブレンドを容易にするために、このような溶媒中に溶解させることができる。
【0020】
更に、前記トリブロマイドは、以下に更に完全に説明するように、溶媒及び/又は出発ブタジエンポリマーの存在下で、インシトゥ(その場)で形成させることができる。このプロセスは、臭素をポリマーに運ぶ機能を果たす高価な化合物を少なく使用するという利点を有し、好ましい。
【0021】
前記反応は、出発ブタジエンポリマー、溶媒及びテトラエチルアンモニウムトリブロマイドを一緒に混合し、この混合物を、ブタジエン単位の所望の比率が臭素化されるまで、反応させることによって実施される。添加の順序は、トリブロマイド及び出発ブタジエンポリマーを最初に混合する場合、顕著な反応が生じる前に溶媒を添加することが好ましいことを除いて、特に重要ではない。
【0022】
前記溶媒は、出発ブタジエンポリマー及び反応の経過の間に発生するテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩を溶解するために充分な量で使用される。溶媒中の出発ブタジエンポリマーの濃度は、例えば1〜50重量%、特に5〜35重量%の範囲であってよい。出発ポリマー中のブタジエン単位の1モル当たり、約0.5〜約5モルのテトラエチルアンモニウムトリブロマイド臭素化剤が適切に使用され、更に適切な量は、約0.9〜約2.5モル/モルであり、なお更に適切な量は、1〜1.5モル/モルである。
【0023】
一般的に、臭素化を達成するためには、穏和な条件のみが必要である。臭素化温度は、−20〜100℃の範囲であってよく、好ましくは0〜85℃、特に10〜40℃である。100℃よりも高い温度を使用することができるが、必要ではなく、選択率の低下及び/又は副生物の増加につながりかねない。反応が進行するとき、このトリブロマイドは、対応するテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩に転化されるようになる。
【0024】
反応の時間は、所望量の臭素化を達成するために充分である。典型的には、臭素化は、出発ブタジエンポリマー中のブタジエン単位の少なくとも25%で起こる。更に好ましくは、このブタジエン単位の少なくとも50%、更に好ましくは少なくとも70%、なお更に好ましくは少なくとも70%が臭素化される。臭素化の程度は、プロトンNMR方法を使用して決定することができる。残留する二重結合パーセント、重合されたスチレンモノマー含有量及び1,2−異性体含有量は、適切なプロトン(残留二重結合プロトンは4.8ppmと6ppmとの間にあり(テトラメチルシラン(TMS)に対して)、スチレン芳香族プロトンは、6.2〜7.6ppmの間にあり、臭素化ポリブタジエンについてのプロトンは、3.0ppmと4.8ppmとの間にある)に起因する、シグナルの積分面積を比較することによって決定することができる。Varian INOVA(登録商標)300NMR分光計又は均等デバイスが、このような決定のために有用であり、定量的積分のためにプロトンの緩和を最大にするために30秒間の遅延時間で操作される。ジュウテロ(deutero)置換溶媒、例えばジュウテロ−クロロホルム又はd5−ピリジンが、NMR分析用のサンプルを希釈するために適している。
【0025】
本発明の或る態様において、元素状臭素とテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩とを別々に添加することによって、テトラエチルアンモニウムトリブロマイドが、反応混合物中でインシトゥで形成される。臭素とモノブロマイド塩とは、一緒に混合される際にトリブロマイドを形成し、得られるトリブロマイドが、次いで、出発ブタジエンポリマーと反応して、このポリマーを臭素化し、モノブロマイド塩を再生すると思われる。元素状臭素がこの反応系列中で消費されるとき、更なる臭素を反応混合物に連続的に又は間欠的に添加して、トリブロマイドを再生し、この反応を維持することができる。
【0026】
インシトゥでテトラエチルアンモニウムトリブロマイドを形成するための能力は、トリブロマイドが反応中に消費され、モノブロマイド塩が再生されるとき、元素状臭素が反応混合物の中に、連続的に又は任意の数の段階で供給される、連続式又は半連続式プロセスの運転に役立つ。この元素状臭素は再生されたモノブロマイド塩と組み合わさって、トリブロマイドを再形成する。
【0027】
幾つかの場合に、臭素化ブタジエンポリマーは、反応混合物中に不溶性であり、臭素化が進行するとき沈殿する。このような場合に、生成物は、任意の便利な固液分離方法、例えば濾過、デカンテーション等を使用して回収することができる。モノブロマイド塩は、反応溶液中に留まり、循環又は他の方法で再使用することができる。
【0028】
他の場合に、臭素化ブタジエンポリマーは、反応混合物中に可溶性のままである。このような場合に、有機相は、しばしば、臭素化ブタジエンポリマーに富んでおり、モノブロマイド塩を殆ど含有していない層(通常、下層)と、その中にモノブロマイド塩が濃縮されている別の層(典型的には、上層)とに分離されるであろう。後者の層は、少なくとも75モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%のテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩を含有しているであろう。これらの層は、容易に分離することができる。トリブロマイドは、モノブロマイド塩を含有している層に臭素を添加することによって再生させることができ、再生されたトリブロマイドは、この反応において再使用することができる。臭素化ブタジエンポリマーは、ポリマー富化層から、適切は方法、例えば溶媒の蒸留又は臭素化ポリマーを不溶性になるようにし、沈殿するようにする反溶媒(anti-solvent)の添加によって容易に回収することができる。このような反溶媒の例には、低級アルコール、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール及びt−ブタノールが含まれる。このような方法で回収された臭素化ブタジエンポリマーは、しばしば、特に、臭素化ブタジエンポリマーが反溶媒中の沈殿によって回収されるとき、テトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩が驚くほど低い。テトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩の残留量は、このような場合に反溶媒の中に抽出することができる。
【0029】
好ましいプロセスにおいて、臭素化ブタジエンポリマーが製造され、それを水相と接触させることなく回収される。これは、臭素化生成物から大量の水を除去することが必要でなくなるので、生成物回収を非常に簡単にする。
【0030】
特別の用途のために所望される又は必要とされるとき、回収されたポリマーを精製して、残留する臭素、任意の残留する臭素化剤、溶媒及び副生物を除去することができる。臭化物塩は、ポリマーを、シリカゲル又はイオン交換樹脂床に通過させることによって除去することができる。
【0031】
本発明のプロセスは、優れた熱安定性を有する臭素化ポリマー製品を製造する傾向にある。熱安定性の有用な指標は、5%重量損失温度であり、これは、熱重量分析によって下記のようにして測定される。即ち、10mgのポリマーを、TA InstrumentsモデルHi−Res TGA2950又は均等装置を使用して、気体状窒素の60ミリリットル/分(mL/分)流及び室温(公称25℃)から600℃までの範囲に亘る10℃/分の加熱速度で分析する。100℃〜600℃の温度範囲に亘るこのサンプルによる重量損失を、加熱段階の間モニターし、サンプルがその最初の重量の5%を失ったときの温度を、5%重量損失温度(5%WLT)として特定する。この方法は、サンプルが、100℃でのサンプル重量基準で5重量%の蓄積重量損失を受けた温度を与える。この臭素化ポリマーは、好ましくは、少なくとも200℃の5%WLTを示す。この5%WLTは、好ましくは少なくとも220℃、更に好ましくは少なくとも230℃、なお更に好ましくは少なくとも240℃、なお更に好ましくは少なくとも250℃である。ブタジエン単位の少なくとも70%が臭素化されており、このような5%WLT値を有する臭素化ポリマーが、特に関心のあるものである。
【0032】
臭素化ブタジエンポリマーをアルカリ金属塩基で処理した場合に、熱安定性の更なる増加が時々見られる。このアルカリ金属塩基は、例えば水酸化物又は炭酸塩であってよい。このアルカリ金属塩基は、アルカリ金属アルコキシドが、幾つかの他の塩基、例えばアルカリ金属水酸化物、炭酸塩又はカルボン酸塩が与えるよりも多くの熱安定性における増加を与える傾向があるので、好ましくはアルカリ金属アルコキシドである。このアルカリ金属はリチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウムであってよい。リチウム、ナトリウム及びカリウムが好ましい。好ましい態様において、この塩基はアルカリ金属アルコキシドである。このアルコキシドイオンは、1〜8個、好ましくは1〜4個の炭素原子を含んでいてよく、メトキシド及びエトキシドであることが特に好ましい。特に好ましいアルカリ金属アルコキシドは、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシド及びカリウムエトキシドである。臭素化ブタジエンポリマーは、ポリマー中の重合されたブタジエン単位(臭素化された又は臭素化されていないに拘わらず)の1モル当たり、0.01モルのように少ないアルカリ金属塩基で処理することができる。アルカリ金属塩基の量での上限は存在しないが、ポリマー中の重合された(臭素化された又は臭素化されていない)ブタジエン単位の1モル当たり、約1モルよりも多いアルカリ金属塩基を使用することに対して、コスト及び取扱いの考慮が軽減する。好ましい量は重合された(臭素化された又は臭素化されていない)ブタジエン単位の1モルあたり0.03〜0.50モルであり、特に好ましい量は、0.05〜0.20モル/モルである。
【0033】
前記臭素化ポリマーは、種々の有機ポリマー用の難燃添加剤として有用である。関心のある有機ポリマーには、ビニル芳香族又はビニル芳香族ポリマー(ビニル芳香族ホモポリマー、ビニル芳香族コポリマー又は1種若しくはそれ以上のビニル芳香族ホモポリマー及び/若しくはビニル芳香族コポリマーのブレンドを含む)並びにその中に、この臭素化ポリマーが可溶性であるか又はサイズが10μmよりも小さい、好ましくは5μmよりも小さいドメインを形成するように分散させることができる他の有機ポリマーが含まれる。ブレンド重量基準で、0.1重量%〜25重量%の範囲内の臭素含有量を有するブレンドを提供するために充分なこの臭素化ポリマーが、ブレンド中に好ましく存在する。
【0034】
前記臭素化ポリマーを含む有機ポリマーは、気泡性であってよい。この臭素化ポリマーの利点は、それが、押出の条件に対して非常に安定性であることであるので、押出フォームは、ここで特に関心のあるものである。
【0035】
別の有機ポリマーとのこの臭素化ポリマーのブレンドには、他の添加剤、例えば他の難燃添加剤、難燃アジュバント、熱安定剤、紫外光安定剤、核生成剤、酸化防止剤、発泡剤、酸スカベンジャー及び着色剤が含まれてよい。
【0036】
下記の実施例は、本発明を例示するために提供するが、その範囲を限定するものではない。全ての部及びパーセントは、他の方法で示されない限り重量基準である。
【実施例】
【0037】
スチレン単位46重量%及びブタジエン単位54%(その83%は、1,2−異性体の形態にある)の組成を有する分子量86,000のスチレン−ブタジエン−スチレントリブロックゴムを臭素化する。この出発物質には、グラム当たり9.5ミリモルの二重結合が含有されている。ジクロロメタン(DCM)130g中のこのトリブロックゴム13.0gの溶液を、還流まで加熱し、その間に、DCM63g中の、臭素(20.7g、0.130モル)及びテトラエチルアンモニウムブロマイド(32.7g、0.156モル)の溶液を、10分間かけて添加する。得られる混合物を、還流まで加熱し、2時間機械的に攪拌し(250rpm)、この時点で攪拌を停止し、反応混合物を層群に分離させる。上層は、色が橙色であり、反応混合物の質量の75%を占めている。下層は、色が薄黄色である。下層は、非常に粘稠で、臭素化ゴムを含有している。下層の一部からフィルムを流延し、溶媒を蒸発させることによって、臭素化ゴムの一部を単離する。NMRによって、出発ゴム中の二重結合の73%が臭素化されたことが明らかになる。NMRスペクトルによっても下のポリマー含有層が、元のテトラエチルアンモニウムカチオンの僅か4%を含有していることが明らかになり、これは、テトラエチルアンモニウムモノブロマイド反応副生物の殆ど全部が、上層の中へ移動したことを示している。
以下に、本発明及びその関連態様を記載する。
態様1.a)脂肪族炭素−炭素二重結合を含むブタジエンポリマーを、テトラエチルアンモニウムトリブロマイドと、ブタジエンポリマー及びテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩用の少なくとも1種の溶媒の存在下に反応させて、臭素化ブタジエンポリマー及び副生物としてのテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩を生成させ(ここで、少なくともテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩は、溶媒中に溶解したままである)、b)前記臭素化ブタジエンポリマー又は前記テトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩のいずれかを、前記溶媒から選択的に分離し、そしてc)必要な場合、前記臭素化ブタジエンポリマーを前記溶媒から回収することを含んでなる、臭素化ブタジエンポリマーの生成プロセス。
態様2.前記溶媒がクロロホルム、ジクロロメタン、ジブロモメタン又はブロモクロロメタンである態様1に記載のプロセス。
態様3.臭素化ブタジエンポリマーを、前記溶媒から沈殿させ、そして液−固分離方法によって前記溶媒から分離する態様1又は2に記載のプロセス。
態様4.前記臭素化ブタジエンポリマーの少なくとも一部が前記溶媒中に溶解されたままであり、前記反応混合物が臭素化ブタジエンポリマー富化層及びその中にテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩が濃縮されている別の層を形成し、臭素化ブタジエンポリマー富化層が、その中にテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩が濃縮されている層から分離されている態様1又は2に記載のプロセス。
態様5.前記テトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩が濃縮されている前記層がテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩の少なくとも75モル%を含む態様4に記載のプロセス。
態様6.前記テトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩が濃縮されている前記層がテトラエチルアンモニウムモノブロマイド塩の少なくとも90モル%を含む態様5に記載のプロセス。
態様7.前記臭素化ブタジエンポリマーを、それを水相と接触させることなく回収する前記態様のいずれかに記載のプロセス。
態様8.前記ブタジエンポリマーがブタジエン/ビニル芳香族コポリマーである前記態様のいずれかに記載のプロセス。
態様9.前記ブタジエンポリマーがスチレン/ブタジエンブロックコポリマーである態様8に記載のプロセス。