特許第5778769号(P5778769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778769
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】無機基材を安定な重合層で被覆する方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20150827BHJP
   C07F 9/32 20060101ALI20150827BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   B05D7/24 302Q
   C07F9/32
   B05D5/00 Z
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-519931(P2013-519931)
(86)(22)【出願日】2010年7月21日
(65)【公表番号】特表2013-538111(P2013-538111A)
(43)【公表日】2013年10月10日
(86)【国際出願番号】CN2010075361
(87)【国際公開番号】WO2012009852
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2013年3月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】510019093
【氏名又は名称】ソルベイ チャイナ カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SOLVAY (CHINA) CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・ベレンゲール
(72)【発明者】
【氏名】フロリエン・ドゥ・カンポ
(72)【発明者】
【氏名】カミーユ・ジュールド
(72)【発明者】
【氏名】タオ・ツァン
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−232067(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/047209(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/028834(WO,A1)
【文献】 特開2007−077429(JP,A)
【文献】 特表2005−501173(JP,A)
【文献】 特開2003−300991(JP,A)
【文献】 特表2003−527456(JP,A)
【文献】 特表2009−511654(JP,A)
【文献】 特開2002−338584(JP,A)
【文献】 特開平07−304783(JP,A)
【文献】 特開平01−268695(JP,A)
【文献】 特開2004−218014(JP,A)
【文献】 特開平05−154433(JP,A)
【文献】 特公昭52−32000(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
C07F 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機基材の少なくとも一つの表面を有機被膜で被覆する方法であって、次の工程:
(a)該基材の該少なくとも一つの表面を、該表面と次式(I)を有する少なくとも1種の化合物とを接触させることにより処理し:
【化1】
(式中、
1、R2、R3、R4及びR5のそれぞれは、同一もの又は異なるものであり、水素又はアルキル、アリール、アルカリル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル若しくはアルケニル基を表し;
6は、H又はアルキル、アリール、アルカリル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル若しくはアルケニル基を表し;或いは、R6は、−OR8基(ここで、R8は水素又はアルキル、アリール、アルカリル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルケニル基、又はNa、Li、Caよりなる群から選択される金属又はアンモニウム化合物を表す)を表し、
7は、水素、アルキル、アリール、アルカリル、アラルキル、シクロアルキル、アルケニル基、又はNa、Li、Caよりなる群から選択される金属元素、又はアンモニウム化合物を表す。)
これによって、該式(I)の化合物は該表面に吸着し;そして
(b)該工程(a)の処理で改質された基材の表面に熱又はUV照射を施し、
これによって、式(I)の化合物が反応し、該表面上に安定な被膜を形成すること
を含む方法。
【請求項2】
1、R2及びR4が水素を表し、R3及びR5がメチルを表し、R7が水素を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
6が水素を表す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
8が水素を表す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
式(I)の化合物が次式:
【化2】
を有する共役ジエンホスフィネート化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
式(I)の化合物が次式:
【化3】
を有する共役ジエンホスホネート化合物である、請求項1、2又は4に記載の方法。
【請求項7】
前記基材の予備処理を工程(a)の前に実施する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記予備処理が前記基材表面の酸化である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記基材の洗浄を工程(b)後に実施する、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記洗浄をアセトンで実施する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基材がスチール、アルミニウム、その合金又は酸化物から選択される、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記基材がガラス又は酸化スズである、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記基材を腐食から保護するための請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記基材の湿潤性及び/又は疎水性を改質するための請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記基材の彩色適性を改善するための請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、金属基材又はガラス基材などの金属基材又は無機基材を有機層で被覆するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
金属基材又はガラス基材の表面に様々な被覆物を付与するために処理することが知られており、これらの被覆物は、例えば、金属基材を腐食から保護するのに有用であり、或いは、基材の表面特性を改変すること、例えば、基材の湿潤性を調節する(特に彩色適性を改善させる)のに有用である。
【0003】
これに関連して、繰り返される問題は、付着被膜の耐久性である。
【0004】
特に、例えばWO2008/017721に記載された方法に従って表面を改質するためにホスホン酸が提案されている。これに関し、gem−ビスホスホン酸化合物を主成分とする興味深い被覆層は、表面で比較的強く吸収することができ、かつ、自己集合単分子層(SAM)を形成することができると記載されている。しかし、このような層の耐久性は、依然として、処理を受ける表面の性質に依存する、ホスホン酸基と表面との相互作用により制限される。さらに、この相互作用は、安定でない場合が多く、しかも酸性又は塩基性条件下での加水分解や、好適な溶媒での洗浄により逆転する可能性がある。多くの場合、この相互作用の安定性は、特に金属基材及び無機基材上で効果的な耐久性を確保するには不十分であることが明らかになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/017721号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の説明
本発明の目的の一つは、任意の金属基材又は無機基材上に、非常に良好な耐久性の被膜を付与することを可能にする一般的な方法であって、特に、WO2008/017721に記載された方法と比較して被覆の安定性を改善させることを可能にするものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、本発明は、無機基材の少なくとも一つの表面を被覆する新規な方法であって、次の工程:
(a)該基材の該少なくとも一つの表面を、該表面と次式(I)を有する化合物とを接触させることにより処理し:
【化1】
(式中、
1、R2、R3、R4及びR5のそれぞれは、同一もの又は異なるものであり、水素又はアルキル、アリール、アルカリル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル若しくはアルケニル基を表し;
6は、H又はアルキル、アリール、アルカリル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル若しくはアルケニル基を表し;或いは、R6は、−OR8基(ここで、R8は水素又はアルキル、アリール、アルカリル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルケニル基、又はNa、Li、Caよりなる群から選択される金属又はアンモニウム化合物を表す)を表し、
7は、水素、アルキル、アリール、アルカリル、アラルキル、シクロアルキル、アルケニル基又はNa、Li、Caから選択される金属元素又はアンモニウム化合物を表す。)
これによって、該式(I)の化合物は該表面に吸着し;そして
(b)該工程(a)の処理で改質された基材の表面に熱又はUV照射を施し、
それによって、該式(I)の化合物を反応させ、そして該表面上に安定な被膜を形成させること
を含む方法を提供する。
【0008】
本発明の範囲内において、本発明者は、上記工程(a)及び(b)が、特に良好な耐久性を示す安定な無機表面被膜を与えることを可能にすることを見出した。この方法は、少なくとも一つの金属を含む、好ましくは少なくとも一つの金属からなる表面及び好ましくは少なくとも一つの金属酸化物又はシリカを含む、好ましくは少なくとも一つの金属酸化物又はシリカからなる表面、例えばガラスを含む、好ましくはガラスからなる表面を改質するのに特に好適である。
【0009】
工程(a)において、式(I)の化合物は、該表面と該化合物(I)のホスホネート又はホスフィネート頭部との比較的強い相互作用により、WO2008/017721に開示されたタイプの相互作用で基材の表面上に吸着する。これらの相互作用は、処理を受ける表面が少なくとも1種の金属又はガラスを含む場合には特に強力である。
【0010】
ここで、本発明の範囲内において、本発明者は、驚くべきことに、得られた改質表面を、その後、非常に簡単な方法で、単に、この改質表面に、化合物(I)の不飽和基間の分子間反応を可能にする条件(これは、単に、該表面に熱又はUV照射を施すことによって得られる)を、最終的にはフリーラジカルの存在下で施すことにより固定できることを見出した。ほとんどの場合、この反応は、基材の表面上に化合物(I)間網目構造を誘導し、場合によっては工程(a)で得られる構造を架橋する重合を誘導すると考えられる。いずれにしても、形成された層の耐久性を改善させることを可能にする分子間反応が起こる。
【0011】
このような可能性は、特に予想外のものである。というのは、表面と式(I)のタイプの化合物との反応は極めて可逆的なものとして知られているからである。この可逆性のため、式(I)の化合物が改質表面で特に相互作用し、しかも処理を受ける表面の外側でも重合体を形成しないことは予想外のことであった。
【0012】
有利には、工程(a)の処理は、一般に、基材の表面上での自己集合単分子層(SAM)の形成に至り、しかも、該構造は、多くの場合、反応工程(b)後に保たれ、それによって、被膜は、安定化されたSAMを有することが明らかである。
【0013】
上記工程(a)及び(b)の使用することによって得られる被膜は、特に、その湿潤性を改質させること、例えば塗料の分野において特に使用できるその湿潤性を調節することを含め、無機基材の表面特性を改質させるために使用でき、ここで、工程(a)及び(b)は、塗装を受ける基材の彩色適性を向上させる「プライマー」を塗布するために使用できる。
【0014】
さらに、本発明の方法の範囲において得られる被膜は、後に1つ以上の追加の被膜によって官能化又は被覆できる第1被膜として使用できる。
【0015】
これらの用途では、本発明の方法は、「プライマー」に高い安定性を付与することを可能にするため、非常に有利であることが明らかである。さらに、この方法は一般にSAMをもたらすため、表面改質を比較的良好に制御することが可能になると共に、表面改質剤の量及び形成される層の厚みを制限することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、例3のガラスクーポンの接触角の測定結果である。
図2図2は、被膜の抵抗性をチェックするために、クーポンを酸性及び塩基性媒体中で処理する(30分間でpH3又はpH11)した結果である。
図3図3は、被膜の抵抗性をチェックするために、クーポンを酸性及び塩基性媒体中で処理する(30分間でpH3又はpH11)した結果である。
図4図4は、例4のクーポンをアセトンで洗浄し、そして超音波処理にさらした結果である。
図5図5は、例4のクーポンをアセトンで洗浄し、そして超音波処理にさらした結果である。
図6図6は、酸性雰囲気(pH=3)において被覆(実線)及び被覆なし(波線)で得られた電位開曲線(対ECS)である。
図7図7は、酸性環境(pH3)での腐食速度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の特定の特徴及び好ましい実施形態を以下詳細に説明する。
【0018】
本発明で使用される式(I)の化合物において、アルキル基及びアルケニル基は、好ましくは1〜24個の炭素原子を含み、該アリールは6〜24個の炭素原子を含み、アルカリル及びアラルキル基は、好ましくは7〜24個の炭素原子を含む。シクロアルキル、ヘテロシクロアルキルは、有利には3〜24個の炭素原子を含む。
【0019】
好ましい実施形態では、該アルキル及びアルケニルは1〜18個の炭素原子を含み、該アリールは6〜18個の炭素原子を含み、該アルカリル、アラルキルは7〜18個の炭素原子を含み、該シクロアルキル、ヘテロシクロアルキルは、3〜18個の炭素原子を含む。
【0020】
好ましくは、R1及び/又はR2は水素を表し、そのため、そうして得られる単量体は、重合に対して、より反応性がある。
【0021】
好ましくは、R1、R2及びR4は水素を表し;或いは好ましくは、R3及びR5はメチルを表す。より好ましくは、R1、R2及びR4は水素を表し、R3、R5はメチルを表す。
【0022】
本発明の特定の実施形態では、R6が−OR8基の場合に、式(I)の化合物は共役ジエンホスフィネート化合物である。
【0023】
好ましい実施形態では、R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7のいずれか2つ以上は、一緒になって、好ましくは3〜8員環から選択されるシクロアルキル又はヘテロシクロアルキル基に形成される。
【0024】
本発明の別の特定の実施形態では、R6が−OR8基の場合に、式(I)の化合物は共役ジエンホスホネート化合物である。
【0025】
好ましい実施形態では、R1、R2、R3、R4及びR5のいずれか2つが一緒になって好ましくは5、6、7及び8員環から選択されるシクロアルキル又はヘテロシクロアルキル基に形成される。
【0026】
最も好ましい実施形態では、R6が−OR8基の場合に、R6及びR7が一緒になって好ましくは5、6、7及び8員環から選択されるシクロアルキル又はヘテロシクロアルキル基に形成される。
【0027】
本発明の別の実施形態では、R6は水素又はOH基を表す。
【0028】
本発明の別の実施形態では、R7は水素を表す。
【0029】
好ましい実施形態では、R1、R2及びR4は水素を表し、R3及びR5はメチルを表し、R6は水素又はOH基を表し、R7は水素を表す。
【0030】
ここにおいて又は明細書の以下の部分において特に定義しない限り、「本発明の化合物」又は「本発明に従って製造される化合物」とは、ここで開示した様々な記載及び構造式によって包含される化合物をいう。この化合物は、それらの化学構造及び/又は化学名によって特定できる。
【0031】
本発明の化合物は、1個以上のキラル中心及び/又は二重結合を含むことができるため、環状構造又は二重結合からのZ−及びE−又はcis−及びtrans−異性体などの立体異性体(すなわち、幾何異性体)、回転異性体、鏡像異性体又はジアステレオマーとして存在することができる。したがって、キラル中心の立体化学が特定されない場合には、ここで示す化学構造は、立体異性体的に純粋な形態(例えば幾何異性体的に純粋な形態、鏡像異性体的に純粋な形態又はジアステレオマー的に純粋な形態)並びに鏡像異性体及び立体異性体混合物を含め、キラル中心での見込まれる全ての配置を包含するが、ただし、1つのみの鏡像異性体が特定される場合には、その構造は同様に他の鏡像異性体を包含するものとする。例えば、本発明において開示される式(I)の化合物がPに近い二重結合に対してZ型又はtrans型である場合、当業者は、該化合物のE型又はcis型も開示されていると理解するはずである。鏡像異性体及び立体異性体混合物は、当業者に周知の分離技術又はキラル合成技術を使用してそれらの成分の鏡像異性体又は立体異性体に分解できる。
【0032】
式(I)の化合物は、様々な方法で得ることができる。
【0033】
本発明の実施形態では、式(I)の化合物の製造方法は、α,β−又はβ,γ−不飽和ケトン又はアルデヒドとホスフィン酸若しくは亜リン酸又はその誘導体とを反応させることを含む。
【0034】
式(I)の化合物が共役ジエンホスホネート化合物の場合、該方法は、次の工程:
式II又はIIIを有するα,β−又はβ,γ−不飽和ケトン又はアルデヒド
【化2】
と、亜リン酸又は該構造を有するその誘導体とを反応させ
【化3】
次式IVを有する共役ジエンホスホネート化合物を得る。
【化4】
本発明の方法によれば、該化合物II又はIIIを該亜リン酸又はその誘導体に対して(1〜1.5):1のモル比;好ましくは該亜リン酸又はその誘導体に対して(1〜1.2):1のモル比で添加する。反応時間は、4〜24時間又は好ましくは4〜8時間保持する。反応温度は、0〜100℃、又は好ましくは20〜60℃を保持する。
【0035】
反応の選択性を説明するために可能な一つの機構は、協奏的付加、すなわち、オキサホスフィラン中間体(P−C−O員環)を有する脱水機構であろう。ホスホネート及びアリルプロトンの存在は、共役二重結合を与えることが実験的に観察される脱水工程の容易さを説明することができるだろう。
【0036】
この1工程付加及び脱水機構は、以下のとおりに示すことができる。オキサホスフィラン(P−C−O員環)は中間体とみなされ、その後、除去及び転位によりジエンを形成する。このホスホネート及びアリルプロトンの両方は、共役C=C二重結合の形成を促進させる:
【化5】
【0037】
いかなる既存の理論にも拘泥されることを望まないが、本発明の製造方法は、α,β−不飽和カルボニル化合物又はα,γ−不飽和カルボニル化合物及び両方の種から出発して同じジエンを形成するかどうかを問わず有効である。
【0038】
例えば、酸化メシチルを、無水酢酸及び酢酸の存在下に温和な条件下で亜リン酸と反応させて4−メチルペンタ−2,4−ジエン−2−ホスホン酸を90%を超えるモル純度で生じさせる。
【化6】
【0039】
米国特許第7,420,081号及び同7,442,831号に記載された反応とは異なり、ジエン単量体の形成は、α,β−不飽和カルボニル化合物を使用し、しかもジエン単量体の形成が単一の工程で極めて低い反応温度を必要とする場合には既存の二重結合の転位を伴う。この挙動は、たとえC=C転位がβ,γ−不飽和ケトン又はアルデヒドの場合に生じない場合であっても従来技術では記載されていない。
【0040】
式(I)の化合物が共役ジエンホスフィネート化合物の場合には、上記方法は、α,(−又は(,(−式II又はIIIを有する不飽和ケトン又はアルデヒドと
【化7】
次式を有するホスフィン酸又はその誘導体とを反応させて
【化8】
式Vを有する共役ジエンホスフィネート化合物を得る
【化9】
工程を含む。
【0041】
本発明で開示する方法は、α,β又はβ,γ−不飽和カルボニル化合物から出発する場合に、少なくとも1個のP−H結合を有するホスフィネート化合物の反応の選択性を変化させて1,3−ジエン化合物を選択的に得ることを可能にする。
【0042】
反応の選択性を説明するために可能な機構の一つは、協奏的付加、すなわちオキサホスフィラン中間体(P−C−O員環)を有する脱水機構であろう。ホスフィネート及びアリルプロトンの存在は、共役二重結合を与えることが実験的に観察される脱水工程の容易さを説明することができるであろう。
【0043】
この1工程付加及び脱水機構は、以下のとおりに示すことができる。オキサホスフィラン(P−C−O員環)は中間体とみなされ、その後、除去及び転位によりジエンが形成される。ホスフィネート及びアリルプロトンの両方は、共役C=C二重結合の形成を容易にする:
【化10】
【0044】
いかなる既存の理論にも拘泥されることを望まないが、本発明の製造方法は、α,β−不飽和カルボニル化合物又はβ,γ−不飽和カルボニル化合物及び両方の種から出発して同じジエンを形成するのかどうかを問わず有効である。
【0045】
実施形態によれば、該化合物II又はIIIを該ホスフィン酸又は誘導体に対して(0.5〜2):1のモル比で;又は好ましくは該ホスフィン酸又は誘導体に対して(1〜1.5):1 モル比で添加する。通常、この反応は、トルエン、シクロヘキサン、ブチルエーテルよりなる群の一つ以上から選択される溶媒などの有機溶媒中で実施される。反応時間は、4〜24時間、又は好ましくは4〜8時間保持する。反応温度は、0〜150℃、又は好ましくは85〜125℃で保持する。
【0046】
例えば、酸化メシチルと次亜リン酸とをその濃縮された形態で反応させて4−メチルペンタ−2,4−ジエン−2−ホスフィン酸を与える。同じ反応を、50%次亜リン酸を用い、共沸溶媒としてトルエンを使用して実施して反応の間に水を除去することができるであろう。目標の単量体を単純な抽出及び洗浄によって容易に単離及び精製して97%の純粋な生成物を得ることができる。
【化11】
【0047】
上記方法は、直接重合できるホスフィネート化合物とホスホネート化合物との混合物を形成させて、ホスフィネート基及びホスホネート基の両方を含む重合体を得ることが可能であり、ここで、両方の官能基は、難燃性といったいくつかの有用な特性を与えることがよく知られている。
【0048】
不飽和ケトン及びアルデヒドは、カルボニル化合物のアルドール縮合から得ることができる。
【化12】
【0049】
例えば、 米国特許第4,170,609号で教示されたようなメチルイソブチルケトン(MIBK)の二量体化である。
【化13】
【0050】
同様の態様において、ピナコロンのアルドール縮合は、高度分岐不飽和ケトンを生じさせる:
【化14】
【0051】
上記両方の方法について、いくつかの市販の不飽和ケトン及びアルデヒドも本発明で使用できる。これらは、重要な工業化学である。これらは、溶媒として、例えば、酸化メシチルを、他の商品及び特殊化学品に対する先駆物質として、例えばイソホロンを、そして重合体材料用の単量体として、例えばメチルビニルケトン(MVK)を使用する。
【化15】
【0052】
3−メチルクロトンアルデヒドは、ビタミンAの先駆物質である。産業上、これは、イソブテン及びホルムアルデヒドから製造される:
【化16】
【0053】
魅力的なものはクロトンアルデヒドであることができる。このものは、香り付けのために使用される生物起源の化合物である。このものは、バイオエタノールの再生可能資源から製造できる:
【化17】
【0054】
2−エチルアクロレイン及びチグリン酸アルデヒドの異性体は、香味剤のための中間体である(米国特許第4605779号):
【化18】
【0055】
また、天然不飽和ケトン及びアルデヒドを使用して上記反応を実施することもできる。これらのものとしては、例えば、ピペリトン、カルボン、ウンベルロン、メンテン−2−オン、メンテン−3−オン、ベルベノン及びミルテノールが挙げられる。得られたホスホネートジエンは、重要な生物活性、すなわち殺虫剤、農薬、医薬品及びそれらの中間体として重要な生物活性のものであることができる。
【0056】
上記反応は、適宜、不活性ガス保護下で実施できる。該不活性ガスは、例えば、窒素、アルゴン及び二酸化炭素よりなる群の一つ以上から選択できる。
【0057】
工程(a)では、化合物(I)は、有利には、該化合物を溶媒中に含む被覆組成物として使用できる。この場合には、溶媒は、好ましくは水性溶媒及び有機溶媒のなかから選択される。典型的には、被覆組成物中における式(I)の化合物のモル濃度は、0.001M〜3Mとすることができる。工程(a)におけるSAMの獲得は、被覆組成物における式(I)の化合物のモル濃度が2M未満であり、より好ましくは0.5M未満である場合に好ましい。しかしながら、一般に、十分な被膜を得るためには、被覆組成物中における式(I)の化合物のモル濃度は、少なくとも0.005M、より好ましくは少なくとも0.01Mであることが好ましい。
【0058】
別の実施形態によれば、工程(a)で使用される被覆組成物の有機溶媒は、アルコール、ケトン、アルカン及びそれらの混合物から選択される。好ましい実施形態では、工程(a)で使用される被覆組成物の有機溶媒はアセトンである。
【0059】
他の見込まれる実施形態によれば、被覆組成物は、溶媒が水である水性組成物であり、ここで、該組成物は、好ましくはいかなる有機溶媒も有しない。水性組成物のpHは、有機酸若しくは無機酸又は有機塩基若しくは無機塩基により2〜14に調節できる。
【0060】
本発明の被覆組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、フォーム又はエーロゾルの状態であることができる。好ましい実施形態では、被覆組成物は溶液である。
【0061】
被覆組成物は、均質な混合物、懸濁液又は溶液を製造するための標準的なブレンド技術及び器具を使用することによって製造できる。
【0062】
本発明の工程(a)における被覆組成物と基材の表面との接触は、それ自体周知の態様により、特に浸漬、スピンコーティング、塗りつけ、蒸発、エーロゾル、スプレー又は印刷によって実施できる。
【0063】
好ましい実施形態では、接触は、浸漬により実施される。最も好ましい実施形態では、浸漬時間は5秒〜5時間、より好ましくは10秒〜30分である。
【0064】
工程(b)において、改質表面を、最終的にはラジカルの存在下で熱又はUVにさらして、基材の表面上に少なくとも1つの層を形成させる。
【0065】
所定の実施形態では、工程(b)は、1〜30時間の間に20℃〜150℃、好ましくは80℃〜150℃、より好ましくは110℃〜150℃の温度で実施される熱への暴露を使用する。
【0066】
好ましい実施形態では、工程(b)は、不活性雰囲気下又は真空下で実施される。
【0067】
別の実施形態では、UVへの暴露は、2分〜2時間実施される。
【0068】
別の実施形態では、ラジカルは、アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、ジ(t−ブチルペルオキシド)、t−ブチルヒドロペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどの周知のラジカル開始剤若しくは促進剤又は二酸化窒素、分子酸素若しくは2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(DMPA)などの周知の光開始剤から選択される。
【0069】
場合によっては、基材の予備処理を工程(a)の前に実施する。この予備処理は、基材の表面から有機及び/又は無機不純物を除去するために実施される。
【0070】
本発明の実施形態では、この予備処理は基材表面の酸化である。
【0071】
好ましい実施形態では、酸化は、過酸化水素及び硫酸を含む沸騰「ピラニア」溶液又は硝酸浴中に基材を浸漬させることにより実施される。
【0072】
本発明の工程(b)における被覆組成物の重合後に、基材は、その表面の抗湿潤特性及び/又は疎水性を改善すると同時に、該表面上でよく組織化されていない過剰の被膜を除去するために洗浄できる。
【0073】
所定の実施形態では、洗浄は、アセトン又は通常の塩基洗浄により実施される。
【0074】
本発明の工程(b)の前後に、所望の用途の要望に応じて層を改質することもできる。
【0075】
本発明の実施形態では、この改質は、式(I)の化合物におけるジエン官能基を改質することにより実施される。
【0076】
好ましい実施形態では、この改質は、少なくとも1個の有機基をジエン官能基に結合させることにより実施される。
【0077】
最も好ましい実施形態では、有機基は、チオール、アミン、アルコール又は単量体基から選択される。アクリレート又はアクリルアミドが単量体の例として挙げられる。
【0078】
本発明における基材は、全ての金属基材又は無機基材から選択できる。
【0079】
所定の実施形態では、この基材は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、タングステン、ジルコニウム、スチール、ステンレススチール又はそれらの合金若しくは酸化物、例えば、サファイア若しくはルビー、ドープされていてよい珪素若しくはゲルマニウム又はそれらの酸化物又は石英、マイカ、ガラス及び石灰石を含む又はこれらからなる。
【0080】
好ましい実施形態によれば、基材は、アルミニウム又はその合金若しくは酸化物から作製される。
【0081】
好ましい別の実施形態によれば、基材はスチールである。
【0082】
好ましい別の実施形態によれば、基材はガラス又は酸化スズである。
【0083】
本発明の方法を使用して、基材の表面を腐食から保護し、その湿潤特性及び/又は疎水性を改質し、及び/又はその彩色適性を改善させることができる。
【0084】
また、ガラス表面の湿潤性の改質は、例えば、建物用の疎水性ガラス表面や、樹脂又はプラスチックへの分散性を改善させるためのガラス繊維の表面処理により非常に広く適用される。
【実施例】
【0085】
実施例
本発明を以下に記載する実施例によりさらに詳細に例示する。
【0086】
例1:4−メチル−2,4−ペンタジエン−2−ホスフィン酸(PiDM)の製造
100mlのフラスコに、16.5gの次亜リン酸(H3PO2、水中50%)、12.25gの酸化メシチル(1,2−及び1,3−不飽和ケトンの混合物)及び20mlのトルエンを添加した。この混合物を窒素下で125℃で還流のために一晩(約17時間)加熱し、水を集め、そして分離した。31P NMRから、86.4%のH3PO2が反応し、4−メチル−2,4−ペンタジエン−2−ホスフィン酸(PiDM)が65.4%の選択率で他の少量の不純物と共に得られたことが示された。
【0087】
例2:4−メチル−2,4−ペンタジエン−2−ホスホン酸(PoDM)の製造
亜リン酸、約4時間にわたり50℃で真空下において乾燥させたH3PO3200g及び酢酸194gを2Lのフラスコに冷却しながら添加した。その後、494gの無水酢酸を装入し、温度を25℃に上昇させて無色の均質な混合物を得た。1gのフェノチアジンを添加し、そして反応混合物は明るい橙色になった。酸化メシチル(1,2異性体と1,3異性体との混合物)284gを約4時間にわたり撹拌しながら滴下で添加し、そして、温度を23〜25℃に維持した。反応混合物の色は、不飽和ケトンの添加後に暗い橙色になった。その後、この混合物を48℃で7時間にわたり加熱した。生成物4−メチル−2,4−ペンタジエン−2−ホスホン酸(PoDM)及びその無水物誘導体は、90%を超える選択率で100%の亜リン酸転化率であると認められた。
【0088】
例3:PiDM又はPoDMから得られた層で被覆されたガラスクーポンの製造
まず、使用したガラスクーポンを沸騰「ピラニア」溶液(3:1、H2230%、H2SO498%)に45分間にわたって浸漬してガラス表面を酸化により官能化させ、蒸留水ですすぐことにより連続的に処理した。このようにしてこの処理で親水性となったSi試料をN2流中で乾燥させ、そして直ちに使用した。
【0089】
その後、上記のとおりに処理されたガラスクーポンをビーカー中のPiDMの溶液又はPoDMの溶液(アセトン中10-3M)内に3時間にわたり垂直に保持した。続いて、処理された試料を注意深く取り出し、そして真空下において150℃20時間にわたり加熱して酸官能基を脱水によりSiO2/Siに結合させた。この方法の間に被覆された任意の多層をアセトン中で15分にわたり超音波処理することにより除去した。その後、試料を加温オーブン中で乾燥させた。
【0090】
例4:PiDM又はPoDMから得られた層で被覆されたガラスクーポンの抗湿潤性/疎水性の評価
例3のガラスクーポンの接触角を測定した。結果を表1及び図1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
PiDM及びPoDMの両方による被覆は、被覆していない表面と比較して接触角の増加を示す。上記処理は、表面の改質を可能にし、その疎水性/抗湿潤特性を増加させることを可能にする。
【0093】
被膜の抵抗性をチェックするために、クーポンを酸性及び塩基性媒体中で処理する(30分間でpH3又はpH11)。結果を表2及び図2と3に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
両方の被膜について、酸処理は、接触角の有意な改質を示さなかった、すなわち、被膜の改質を示さなかった。
【0096】
両方の被膜について、塩基処理は、接触角のわずかな減少、すなわち、被膜のわずかな改質を示すに過ぎなかった。
【0097】
例5:PiDM又はPoDMから得られた層で被覆されたガラスクーポンの疎水性に関するアセトン洗浄の評価
例4のクーポンをアセトンで洗浄し、そして超音波処理にさらす。結果を表3及び図4と5に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
処理クーポン(酸性又は塩基性媒体)のアセトンでの洗浄は、PoDM及びPiDMの両方について親水性の増大を示す。
【0100】
例6:PoDMから得られた層で処理されたガラスクーポンの疎水性に関する処理溶液のPoDMの浸漬時間及びモル濃度の評価
PoDMから得られた層で被覆されたガラスクーポンを例4と同様に製造したが、ただし、PoDM溶液へのガラスの浸漬時間を変更し(0.5、1、2又は3時間)、また、溶液中におけるPoDMのモル濃度を変更した(0.05M及び0.25M)。
【0101】
結果を表4に示す。
【0102】
【表4】
【0103】
PoDMの溶液で被覆する方法は、浸漬時間が短くても、処理を受けたガラス表面の疎水性を有意に改善させることを可能にする。
【0104】
処理溶液中におけるPoDMの含有量の増加は、処理を受けたガラス表面の疎水性を改善しない。
【0105】
例7:PiDM又はPoDMから得られた層で被覆されたアルミニウムクーポンの耐腐食性の評価
まず、使用するアルミニウムクーポンを、硝酸浴(pH=3)中に1分間にわたって周囲温度で浸漬させることにより連続的に処理した。脱イオン水で1分間にわたりすすぎ、そしてN2流で乾燥させた後に、クーポンを直ちに使用した。
その後、処理したアルミニウムクーポンを、ビーカー中においてPiDMの溶液又はPoDMの溶液(アセトン中10-3M)に3時間にわたり垂直に保持した。続いて、この処理を受けた試料を注意深く取り出し、真空下において150℃で20時間にわたり加熱してホスホン酸官能基を脱水によりAl23/Alに結合させた。
【0106】
PoDM及びPiDM被膜は、材料とその環境との界面の改質をもたらす。いくつかの媒体(酸性、塩基性)中において、PiDM及びPoDMの遊離の電位は、ブランクと比較して増大する。酸性雰囲気(pH=3)において被覆(実線)及び被覆なし(波線)で得られた電位開曲線(対ECS)を図6に示す。
【0107】
同時に、被覆材料の腐食速度は有意に減少した。酸性環境(pH3)では、腐食速度は、図7(細線)で示すように、40μAから15μAまで減少した。
【0108】
金属上にPiDM及びPoDMの適用は、材料上に不動態層をもたらす。自然に不動態化された材料の場合には、PiDM及びPoDMの適用により、自然不動態層の安定性が強化する。
【0109】
均一な耐食層が得られ、アルミニウムなどの不動態化性材料であっても局所的な腐食問題も回避される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7