(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778804
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】射出成形機の固定盤
(51)【国際特許分類】
B29C 45/17 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
B29C45/17
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-12649(P2014-12649)
(22)【出願日】2014年1月27日
(65)【公開番号】特開2015-139900(P2015-139900A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2015年2月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大森 瑛
【審査官】
越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−290713(JP,A)
【文献】
特開2013−216057(JP,A)
【文献】
特開2009−056645(JP,A)
【文献】
特開2013−226816(JP,A)
【文献】
特開2004−155133(JP,A)
【文献】
特開2013−052572(JP,A)
【文献】
特開2005−144681(JP,A)
【文献】
特開2003−181901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造により造られることで表面に凹凸を有し、
前記凹凸の高さよりも前記表面からの高さが大きい複数の突出部を有し、
前記突出部の端部に平面部を有し、
前記平面部にパージカバー取付用のタップ穴を有しており、
前記複数の突出部に設けられた前記平面部は、すべて同一平面上にある
ことを特徴とする射出成形機の固定盤。
【請求項2】
前記平面部は、パージカバーの固定ボルト用穴を有する面の向きや位置に合わせた向きや位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形機の固定盤。
【請求項3】
前記突出部は型開閉軸線方向に突出し、
前記平面部は、前記型開閉軸線方向に直交する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形機の固定盤。
【請求項4】
前記突出部の数は、タップ穴の数と同数であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の射出成形機の固定盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機において用いられる固定盤に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機では、加熱シリンダ内の溶融樹脂を排出するなどの目的で、ノズルを金型から離した状態で空中に溶融樹脂を射出する動作であるパージ動作が行われることがある。この際に、高温の溶融樹脂が飛散して人にかかることがあると火傷などの怪我をする可能性があるため、溶融樹脂が飛散しないように保護カバーを備えている。以下、この保護カバーのことをパージカバーとする。
【0003】
加熱シリンダについても、樹脂射出時には高温となるため、この高温時に直接手で触れると火傷を負うおそれがあり、保護カバーを備えている。以下、この保護カバーのことをヒートカバーとする。
【0004】
また、成形品を得るために金型にノズルを当接させたり、パージ動作を行うためにノズルを金型から離したりする際に、加熱シリンダを含む射出機構部は型締機構部に対して前後進することとなる。パージカバーは型締機構部の固定盤の射出ユニット側に固定され、ヒートカバーは射出機構部のいずれかの部材に固定されているが、射出機構部の前後進に合わせてパージカバーとヒートカバーの位置関係が変化し、両者の重なり合う長さも変化する。
【0005】
パージカバーやヒートカバーに関する技術として、以下の特許文献に開示されているような技術がある。
特許文献1には、射出成形機のパージシールドの射出ユニット側端面において、シールド本体とシリンダアッセンブリ先端部との間隙を縮小することによって隙間を狭くする技術が開示されている。
特許文献2には、射出成形機のフロントプレートから、パージカバーの脱着を容易とした射出成形機のパージカバー構造についての技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平2-73312号公報
【特許文献2】特開平5−309694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている技術は、射出ユニット側端縁をシリンダアッセンブリの先端部に近接させるようにしているが、射出ユニット側端縁を適宜近接させているのみであって、細かい間隔の調整を行うことは困難となる場合がある。
特許文献2に開示されている技術は、フロントプレートから、パージカバーの脱着を容易とすることについては開示されているが、パージカバーとヒートカバーとの間の関係については開示されていない。
【0008】
パージカバーとヒートカバーとの間の間隙を調整するためには、パージカバーとヒートカバーとの位置関係を適切に保つ必要がある。ここで、パージカバーを固定する固定盤は、複雑な立体構造を持つことから、鋳造で大まかな形状を製作した後、必要な部分のみ切削等で仕上げることが一般的である。このとき、固定盤の鋳肌面には凹凸があるため、その面にタップ穴を開けるなどして、直接パージカバーを固定すると、鋳肌面の凹凸によってパージカバーが傾いたり、歪んだりした状態で固定される可能性がある。
【0009】
また、加熱シリンダへの接触による火傷を防ぐためには、パージカバーとヒートカバーとの間の隙間が、手や指が加熱シリンダまで到達しない程度の幅に設定されることが望ましい。しかしながら、固定盤の鋳肌面の凹凸の影響などで、カバーが傾いたり、歪んだ状態で固定されていると、パージカバーとヒートカバーとの間の隙間がなくなり、射出機構部が前後進する際にパージカバーとヒートカバーとが接触してしまったり、逆に隙間が大きくなって、指などが加熱シリンダに接触可能となってしまう可能性がある。
【0010】
しかし、同一設計の固定盤でも鋳肌面の凹凸形状は個々に異なるため、パージカバーの傾きや歪み量を考慮してカバーを設計することは困難である。個々の鋳肌面の凹凸に合わせてスペーサ等を入れて高さを調整することも可能であるが、それぞれの固定盤の鋳肌面の凹凸形状を測定してそれに合わせたスペーサを用意したり、パージカバーを取り付けたり外したりしながらスペーサの量を傾きや歪みのない最適なバランスに調整するといったことが必要となり、結果として組立工数の増加となってしまう。
【0011】
鋳肌面の凹凸の影響を低減するために、固定盤のパージカバー取付面を切削などで平らに仕上げて凹凸をなくすこともできるが、固定盤全体を切削することとなると、切削する面積が増えて加工コストが上がるおそれがある。
【0012】
そこで本発明は、最小限の加工コストの増加で、ヒートカバーとの位置関係を保って、パージカバーを取り付けることが可能な射出成形機の固定盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願の請求項1に係る発明では、
鋳造により造られることで表面に凹凸を有し、前記凹凸の高さよりも前記表面からの高さが大きい複数の突出部を有し、前記突出部の端部に平面部を有し、前記平面部にパージカバー取付用のタップ穴を有して
おり、前記複数の突出部に設けられた前記平面部は、すべて同一平面上にあることを特徴とする射出成形機の固定盤が提供される。
請求項1に係る発明では、固定盤の表面から突出する突出部を設け、突出部の端部に平面部を有して、その平面部にパージカバー取付用のタップ穴を有するようにしたことによって、平らに加工する面を、固定盤のパージカバー取付側の面全体ではなく、突出部の平面部のみとすることができるため、平面に加工する加工量を削減しつつ、パージカバーを傾きや歪みなく取り付けることが可能となる。
【0014】
また、固定盤表面から突出部の平面部までの高さが、固定盤の鋳肌面の凹凸の高さよりも大きくなるように構成されているため、固定盤表面の鋳肌面の凹凸よりも浮いた状態で固定することが可能となり、固定盤表面の鋳肌面の凹凸の影響なく、パージカバーを取り付けることが可能となる。
さらに、平面部がすべて同一平面上にあるように構成されているため、加工時に工具を移動させる量を減らすことが可能となったり、大型の工具でまとめて加工することが可能となるため、加工時間を短縮することが可能となる。また、平面部がすべて同一平面上にあるように構成することによって、パージカバーの構造をより簡略化することが可能となる。
【0015】
本願の請求項
2に係る発明では、前記平面部は、パージカバーの固定ボルト用穴を有する面の向きや位置に合わせた向きや位置に形成されていることを特徴とする請求項
1に記載の射出成形機の固定盤が提供される。
請求項
2に係る発明では、平面部が、パージカバーの固定ボルト用穴を有する面が、種々の方向に向いている場合や、異なる高さで設けられている場合などに、平面部が、パージカバーの固定ボルト用穴を有する面の向きや位置に合わせた向きや位置に形成されているため、確実にパージカバーを取り付けることが可能となる。
【0016】
本願の請求項
3に係る発明では、前記突出部は型開閉軸線方向に突出し、前記平面部は、前記型開閉軸線方向に直交することを特徴とする請求項1
又は2に記載の射出成形機の固定盤が提供される。
請求項
3に係る発明では、突出部を型開閉軸線方向に突出させ、平面部を型開閉軸線方向に直交するように構成することによって、パージカバーの取り付け方向と突出部の向きを合わせ、平面部がそれと直交する方向とされるため、平面部やパージカバー取付用タップ穴の加工時間を低減することができ、パージカバーの構造も簡略化することが可能となる。
【0018】
本願の請求項
4に係る発明では、前記突出部の数は、タップ穴の数と同数であることを特徴とする請求項1〜
3のいずれかに記載の射出成形機の固定盤が提供される。
請求項
4に係る発明では、突出部の数とタップ穴の数を同数としたことによって、タップ穴周りの必要な部分のみを加工すればよくなるため、平面部の加工量を減らすことが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、最小限の加工コストの増加で、ヒートカバーとの位置関係を保って、パージカバーを取り付けることが可能な射出成形機の固定盤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態における射出成形機の固定盤、パージカバー、ヒートカバーの関係を示した図である。
【
図2】第1の実施形態における射出成形機の固定盤を示した図である。
【
図3】第2の実施形態における射出成形機の固定盤を示した図である。
【
図4】第3の実施形態における射出成形機の固定盤を側面から見た図である。
【
図5】第4の実施形態における射出成形機の固定盤を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
以下、本発明の一実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本実施形態における射出成形機の固定盤、パージカバー、ヒートカバーの関係を示した図である。50は射出成形機の固定盤であり、10は固定盤50に固定具により固定されているパージカバーである。このパージカバー10の中には、射出成形機の射出部の加熱シリンダ30やその先端のノズル40が挿入されている。このパージカバー10により、ノズル40を金型から離した状態で空中に溶融樹脂を射出する動作であるパージ動作が行なっても、高温の溶融樹脂が飛散して人などにかかって火傷を負わせるといったことを防止できる。
【0022】
また、20は加熱シリンダ30を覆うヒートカバーであり、加熱シリンダ30に直接触れることを防止するための保護カバーである。加熱シリンダ30が前後に移動する際には、加熱シリンダ30を覆うヒートカバー20もあわせて前後に移動し、パージカバー10とヒートカバー20とが重なる長さが変化する。
【0023】
図2は、本実施形態における射出成形機の固定盤を示した図である。中央部には加熱シリンダ30のノズル40が進入するノズル進入穴54が設けられており、その周りの中心部51は周辺部53よりも盛り上がった形状とされている。
中心部51の下方2か所には四角錐台形状の突出部58が設けられており、その突出端部には平面部56が設けられ、平面部56の中央付近にはパージカバー取付用タップ穴52が設けられている。また、周辺部53の左右2か所にも突出部58が設けられ、それぞれの突出部58には2か所のパージカバー取付用タップ穴52が設けられている。さらに、中心部51の上部には上方向に向かってパージカバー取付用タップ穴52が設けられており、左側部には左方向に向かってパージカバー取付用タップ穴52が設けられている。
【0024】
固定盤50は鋳造により製造されており、複雑な立体構造を持つことから、大まかな形状を製作されている。そのため、切削等で加工されていない面については、鋳肌面のままで凹凸があったり寸法精度が出ないまま製造されている。ここで、
図1における突出部58の、固定盤50の鋳肌面から平面部56までの高さは、鋳肌面の凹凸の高さよりも大きい値としている。これにより、パージカバー10が鋳肌面よりも浮いた状態で固定されることとなり、パージカバー10を固定する際にパージカバー10の傾きや歪みを低減することが可能となる。また、本実施形態におけるパージカバー10は、図示しない固定ボルト用穴が、型開閉軸線方向に向かう方向に設けられている他、上向きや左向きにも設けられており、中心部51の上部及び左側部に設けられているパージカバー取付用タップ52が、それぞれパージカバー10の上向きや左向きに設けられた固定ボルト用穴に対応して固定する。
【0025】
また、本実施形態においては、中心部51が周辺部53よりも突出した形状となっているため、その上に設けられているパージカバー取付用タップ穴52についても、周辺部53を基準としたときの高さが異なっているが、これについてもパージカバー10の図示しない固定ボルト用穴が形成された面の高さの違いに合わせたものとされている。
【0026】
このように、本実施形態における固定盤50上に設けられている突出部58やパージカバー取付用タップ穴52は、パージカバー10の固定ボルト用穴が形成された面の向きや位置に合わせた向きや位置に形成されており、これにより、ヒートカバー20との位置関係を保ちながら、固定盤50にパージカバー10を確実に固定することが可能となる。また、鋳造によって製作された、表面が凹凸を有する鋳肌面を加工して平面とするのは、突出部58の平面部56に限られているため、加工量を減少させることが可能となる。なお、多くの突出部を図示したが、これらすべてを有する必要はなく、パージカバー固定に必要な分だけ設ければよい。
【0027】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態における射出成形機の固定盤を示した図である。本実施形態においては、突出部58がいずれもパージカバー10が取り付けられる側の、型開閉軸線方向に突出しており、それらの突出部58の端部に設けられた平面部56が、型開閉軸線方向に直交するように形成されている。
【0028】
このような構成とすることにより、平面部56や、平面部56に設けられるパージカバー取付用タップ穴52の方向がいずれも同方向となり、平面部56やパージカバー取付用タップ穴52の加工を行う際に、ワークとなる固定盤50や工具の向きを変える必要が無くなるため、加工時間を低減することが可能となる。また、取り付けるパージカバー10についても、型開閉軸線方向に取り付けられるため、平面部56を型開閉軸線方向に直交する方向とすることにより、パージカバー10の構造を簡単にすることができる。
【0029】
(第3の実施形態)
図4は、第3の実施形態における射出成形機の固定盤を側面から見た図である。本実施形態においては、突出部58がいずれもパージカバー10が取り付けられる側の、型開閉軸線方向に突出しており、それらの突出部58の端部に設けられた平面部56が、型開閉軸線方向に直交するように形成され、かつ、平面部56がいずれも同一平面上となるように形成されている。
【0030】
このような構成とすることにより、平面部56がいずれも同一平面上とされているため、平面部56やパージカバー取付用タップ穴52の加工を行う際に、加工時に工具を移動させる量を減らしたり、大型の工具でまとめて加工することが可能となるため、加工時間を短縮することが可能となる。なお、本実施形態における同一平面上とは、完全に同一平面上となる場合のみに限るものではなく、公差程度の差を有するものも含まれるものとする。
【0031】
(第4の実施形態)
図5は、第4の実施形態における射出成形機の固定盤を示した図である。本実施形態においては、
図2及び
図3に示したような、複数のパージカバー取付用タップ穴52を備えた長尺状の突出部58を設けることなく、各突出部58に1つずつのパージカバー取付用タップ穴52を備えている。
【0032】
図2及び
図3に示したような、複数のパージカバー取付用タップ穴52を備えた長尺状の突出部58を設けると、平面部56における、離れた複数のパージカバー取付用タップ穴52どうしの間についても加工する必要があるが、本実施形態のような構成とすると、平面部56におけるパージカバー取付用タップ穴52の周辺のみを加工すればよいため、平面部の加工量を減らすことが可能となる。
【0033】
平面部56の加工時の表面精度としては、表面粗さにおいて、Ra、Ry、Rzのいずれかの値が、Ra:25、Ry:100、Rz:100以下となることが望ましい。この数値以下とすることによって、パージカバー10の取付時に歪んだり傾いたりしないように取り付けることが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
10 パージカバー
20 ヒートカバー
30 加熱シリンダ
40 ノズル
50 固定盤
51 中心部
52 パージカバー取付用タップ穴
53 周辺部
54 ノズル進入穴
56 平面部
58 突出部