(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のように、端子電極に凹部が設けられている場合には、ニッケル層の厚さが不均一なものとなりやすく、耐食性の低下やニッケル層の剥離を招いてしまいやすい。具体的には、凹部の底面は、電界強度が比較的低くなるため、ニッケル層が薄くなりやすく、耐食性が不十分となってしまうおそれがある。一方で、端子電極のうち凹部の外周に位置する部位は、電界強度が比較的高くなるため、ニッケル層が厚くなりやすく、ニッケル層と端子電極との間における熱膨張差が大きくなり(つまり、ニッケル層に加わる熱応力が大きくなり)、ニッケル層における耐剥離性が低下してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、端子電極の後端部に凹部が設けられるとともに、端子電極の後端部外表面にニッケル層が形成された点火プラグにおいて、端子電極の耐食性を十分に向上させるとともに、ニッケル層の剥離をより確実に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要
に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0009】
構成1.本構成の点火プラグは、軸線方向に貫通する軸孔を有する絶縁体と、
自身の後端部が前記絶縁体の後端から露出した状態で、前記軸孔に挿通される端子電極とを備え、
前記端子電極の後端部に、前記軸線方向を深さ方向とする凹部が設けられた点火プラグであって、
前記端子電極の後端部の外表面にニッケル層が設けられており、
前記ニッケル層の厚さが3μm以上25μm以下であるとともに、
前記ニッケル層の外表面に直交する断面において、前記ニッケル層を構成する結晶粒の平均断面積が50μm
2以上500μm
2以下であることを特徴とする。
【0010】
上記構成1によれば、ニッケル層の厚さが25μm以下とされているため、ニッケル層と端子電極との間で生じる熱膨張差を比較的小さくすることができる。従って、ニッケル層に加わる熱応力を比較的小さなものとすることができ、ニッケル層の耐剥離性を向上させることができる。
【0011】
さらに、上記構成1によれば、ニッケル層を構成する結晶粒の平均断面積が50μm
2
以上とされており、結晶粒の過度の微細化が抑制されている。そのため、粒界結合力を十分に高めることができ、ニッケル層に熱応力が加わった際に、粒界にクラックが生じてしまうことをより確実に防止できる。また、上記構成1によれば、結晶粒の平均断面積が500μm
2以下とされており、結晶粒の粒径が比較的小さなものとされている。従って、
ニッケル層において、熱応力に対する耐力を十分に向上させることができる。これらの作用効果と、上述したニッケル層の厚さを25μm以下とすることによる作用効果とが相俟って、ニッケル層の剥離をより確実に防止することができる。
【0012】
また、上記構成1によれば、ニッケル層の厚さが3μm以上とされている。従って、ニッケル層における単位表面積当たりのピンホール数を十分に少なくすることができ、腐食の原因となる酸素等が端子電極に対して接触してしまうことをより確実に抑制できる。
【0013】
さらに、上記構成1によれば、結晶粒の平均断面積を50μm
2以上とされ、粒界にク
ラックが生じにくくなっているため、端子電極に対する酸素等の接触を一層確実に抑制することができる。さらに、ニッケル層は結晶相が積み重なるようにして形成されるが、上記構成1によれば、結晶粒の平均断面積が500μm
2以下とされ、結晶粒の粒径が比較
的小さなものとされている。従って、粒界の凹凸をより小さなものとすることができ、結晶層の一部の薄化をより確実に防止することができる。これらの作用効果と、上述したニッケル層の厚さを3μm以上とすることによる作用効果とが相俟って、良好な耐食性を実現することができる。
【0014】
以上のように、上記構成1によれば、耐剥離性及び耐食性の双方を十分に向上させることができる。その結果、端子電極の後端部に凹部が形成されており、端子電極における耐食性の低下やニッケル層の剥離がより懸念される場合であっても、耐剥離性及び耐食性の双方を良好なものとすることができる。
【0015】
構成2.本構成の点火プラグは、上記構成1において、前記ニッケル層の厚さが10μm以上20μm以下であるとともに、
前記断面において、前記結晶粒の平均断面積が200μm
2以上400μm
2以下であることを特徴とする。
【0016】
上記構成2によれば、ニッケル層の厚さが20μm以下とされているため、ニッケル層
に加わる熱応力をより小さなものとすることができる。さらに、結晶粒の平均断面積が200μm
2以上とされているため、粒界結合力を一層高めることができ、粒界にクラック
が生じてしまうことを一層確実に防止できる。また、結晶粒の平均断面積が400μm
2
以下とされているため、ニッケル層の熱応力に対する耐力をさらに向上させることができる。これらの結果、ニッケル層の耐剥離性を一層向上させることができる。
【0017】
さらに、上記構成2によれば、ニッケル層の厚さが10μm以上とされているため、ニッケル層における単位表面積当たりのピンホール数をより少なくすることができる。さらに、結晶粒の平均断面積を200μm
2以上とされているため、粒界におけるクラックの
発生をより抑制することができ、また、結晶粒の平均断面積が400μm
2以下とされて
いるため、結晶層の一部の薄化を一層確実に防止することができる。これらの結果、耐食性を一段と向上させることができる。
【0018】
以上のように、上記構成2によれば、耐剥離性及び耐食性の双方を顕著に高めることができる。その結果、端子電極の後端部に凹部が形成されている場合であっても、非常に優れた耐剥離性及び耐食性を実現することができる。
【0019】
構成3.本構成の点火プラグは、上記構成1又は2において、前記ニッケル層の外表面における酸化膜の厚さが1.0μm以下であることを特徴とする。
【0020】
上記構成3によれば、ニッケル層の外表面における酸化膜の厚さが1.0μm以下とされている。従って、ニッケル層の柔軟性を十分に確保することができ、ニッケル層において熱応力に対する耐力をより向上させることができる。その結果、一層良好な耐剥離性を実現することができる。尚、耐剥離性の面では、酸化膜は薄いほど好ましい。
【0021】
構成4.本構成の点火プラグは、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記端子電極の後端部における硬度が、ビッカース硬度で140Hv以上180Hv以下であることを特徴とする。上記構成4によれば、端子電極の後端部の硬度が140Hv以上180Hv以下とされている。従って、端子電極とニッケル層との間における熱膨張差を一層小さくすることができ、ニッケル層に加わる熱応力を著しく小さくすることができる。その結果、耐剥離性を格段に高めることができる。
【0022】
構成5.本構成の点火プラグは、上記構成1乃至4のいずれかにおいて、前記端子電極は、前記凹部の周囲を取り囲む環状の外壁部を備え、前記凹部は、少なくとも、前記軸線方向に直交する平面である底面と、前記外壁部の内周面と、から形成されるとともに、前記外壁部の内周面のうち、少なくとも前記軸線方向における半分よりも後端側の部位における前記ニッケル層の厚さは、前記底面におけるニッケル層の厚さよりも大きいことを特徴とする。電力供給用の端子が凹部に配置される際に、外壁部の内周面のうち軸線方向における半分よりも後端側の部位は、凹部内に電力供給用の端子を正しく配置するためのガイドの役割を果たす。その際、電力供給用の端子が外壁部の内周面に擦り付けられながらガイドされるため、ニッケル層が削れるおそれがある。上記構成5によれば、前記外壁部の内周面のうち、少なくとも前記軸線方向における半分よりも後端側の部位における前記ニッケル層の厚さが大きいため、ニッケル層が削れたとしても端子電極母材が露出することを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、点火プラグ1を示す一部破断正面図である。尚、
図1では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0025】
点火プラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
【0026】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されており、後端側胴部10は、主体金具3の後端から露出している。さらに、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0027】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1方向に延びる軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿設されている。当該中心電極5は、熱伝導性に優れる金属(例えば、銅や銅合金等)からなる内層5A、及び、ニッケル(Ni)を主成分とする合金からなる外層5Bを備えている。さらに、中心電極5の先端部には、耐消耗性に優れる金属(例えば、Pt、Ir、Pd、Rh、Ru、及び、Re等のうち1種類以上を含有する金属など)からなる円柱状のチップ31が設けられている。また、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、絶縁碍子2の先端から突出している。
【0028】
加えて、軸孔4の後端側には、所定の金属(例えば、低炭素鋼など)からなる棒状の端子電極6が設けられている。端子電極6は、その後端部が絶縁碍子2の後端から露出しており、端子電極6の後端部に対して電力供給用の端子(図示せず)が接続されるようになっている。
【0029】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0030】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面には点火プラグ1を内燃機関や燃料電池改質器等の取付孔に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15よりも後端側には径方向外側に突出する座部16が形成され、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を内燃機関等に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられるとともに、後端部において絶縁碍子2を保持するための加締め部20が設けられている。
【0031】
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0032】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間にはタルク(滑石)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及びタルク25を介して絶縁碍子2を保持している。
【0033】
また、主体金具3の先端部26には、棒状をなす接地電極27が固定されている。接地電極27は、Niを主成分とする合金等により形成されるとともに、自身の略中間部分にて曲げ返されている。加えて、接地電極27の先端部には、耐消耗性に優れる金属(例えば、Pt、Ir、Pd、Rh、Ru、及び、Re等のうち1種類以上を含有する金属など)からなる円柱状のチップ32が設けられている。そして、中心電極5の先端部(チップ31)と、接地電極27の先端部(チップ32)との間には、火花放電間隙33が形成されており、当該火花放電間隙33にて軸線CL1にほぼ沿った方向で火花放電が生じるように構成されている。
【0034】
さらに、本実施形態では、後端側胴部10の表面を這った放電(いわゆるフラッシュオーバー)の発生を抑制するために、後端側胴部10の軸線CL1に沿った長さがより大きなものとされている。その一方で、主体金具3の後端から端子電極6の後端までの距離を所定値以内とすべく、端子電極6は、その後端部(絶縁碍子2の後端から露出している部位)の軸線CL1に沿った長さが比較的小さいものとされている。また、
図2(
図2では、端子電極6の後端部のみを示す)に示すように、端子電極6の後端部外周には、軸線CL1方向後端側に延びる環状の外壁部6Aが設けられており、外壁部6Aにより、端子電極6の後端部中央には、軸線CL1方向を深さ方向とする凹部6Bが形成されている。このように、端子電極6の後端部には、凹部6Bの周囲を取り囲むように環状の外壁部6Aが設けられている。そして、電力供給用の端子(図示せず)が凹部6Bに配置されるようになっている。
【0035】
また、
図3に示すように、端子電極6の後端部の外表面には、Niを主成分とする金属からなるニッケル層35が設けられている(尚、「主成分」とあるのは、材料中、最も質量比の高い成分を指すものである)。ニッケル層35は、その厚さT1が各部において多少異なるものの、その厚さT1は3μm以上25μm以下となるように構成されている。加えて、ニッケル層35の外表面に直交する断面において、ニッケル層35を構成する結晶粒の平均断面積が50μm
2以上500μm
2以下(より好ましくは、200μm
2以上400μm
2以下)とされている。また、本実施形態において、前記結晶粒の平均周囲長は、60μm以上200μm以下(より好ましくは、80μm以上150μm以下)とされている。また、外壁部6Aの内周面6Dのうち、少なくとも軸線CL1方向における半分よりも後端側の部位におけるニッケル層35の厚さは、底面6Cにおけるニッケル層35の厚さよりも大きくされている。本実施形態では、外壁部6Aの内周面の先端側から後端側にかけて、徐々に厚さが大きくなるようにニッケル層35が形成されている。
【0036】
尚、結晶粒の平均断面積や平均周囲長は、次の手法により得ることができる。すなわち、所定の集束イオンビーム加工装置(FIB)により、ニッケル層35の外表面と直交する方向に沿ってニッケル層35を切断し、ニッケル層35を含む薄片を得る。そして、所定の走査型電子顕微鏡(SIM)により得られた薄片を観察するとともに、倍率6500倍にてニッケル層35を含む縦20μm×横30μmの範囲を撮像し、白黒濃淡画像を得る。その後、
図4(a)〔
図4では、1つの結晶粒35Aのみを示しているが、実際の白黒濃淡画像には、複数の結晶粒35Aが存在する〕に示すように、前記白黒濃淡画像において、当該画像の横方向中央に位置するとともに縦方向に延びる線上に位置するニッケル層35の結晶粒35Aを特定するとともに、特定された結晶粒35Aの外形線を所定の薄紙へと写し取る。次いで、前記薄紙のデータを所定のコンピュータに取り込んだ上で、所定の画像ソフト(例えば、ペイント)を用いて、
図4(b)に示すように、前記外形線の内側に位置する領域を塗り潰す。そして、所定の解析ソフト(例えば、imageJ:アメリカ国立衛生研究所製)により、塗り潰された各領域における面積や周囲長を計測する。最後に、計測された面積の平均値を算出することで、結晶粒の平均断面積を得ることができ、計測された周囲長の平均値を算出することで、結晶粒の平均周囲長を得ることができる。尚、FIBとしては、例えば、HITACHI社製の集束イオンビーム加工装置(型番FB−2000、SIM「走査型電子顕微鏡」一体型)などを挙げることができる。
【0037】
さらに、ニッケル層35が酸化することで、
図5に示すように、ニッケル層35の外表面には、酸化膜36が形成されている。但し、本実施形態では、酸化膜36が非常に薄肉
とされており、その厚さT2が1.0μm以下とされている。尚、ニッケル層35の耐剥離性の面からは、酸化膜36は薄肉であるほど好ましく、酸化膜36が存在しないことがより好ましい。しかしながら、本実施形態では、後述する加熱封着工程において端子電極6が加熱されることにより、ニッケル層35の外表面に酸化膜36が形成されており、厚さT2が0.01μm以上となっている。
【0038】
加えて、本実施形態では、端子電極6の後端部における硬度が、ビッカース硬度で140Hv以上180Hv以下とされている。尚、端子電極6の後端部における硬度は、次の手法により測定することができる。すなわち、
図6に示すように、軸線CL1を含む断面において、端子電極6の外周面から軸線CL1と直交する方向に0.5mmだけ軸線CL1側に位置するとともに、軸線CL1方向に延び、かつ、端子電極6上に存在する線分SLを取る。そして、JIS Z2244の規定に基づき、正四角推状のダイヤモンド圧子により、端子電極6のうち前記線分SLの中点CPが位置する部位に対して所定(例えば、20kgf)の荷重を加える。そして、端子電極6に形成される圧痕の対角線長さに基づき、端子電極6の後端部における硬度を測定することができる。
【0039】
次に、上記のように構成されてなる点火プラグ1の製造方法について説明する。まず、主体金具3を予め製造しておく。すなわち、円柱状の金属素材(例えば、S17CやS25Cといった鉄系素材やステンレス素材)に冷間鍛造加工等を施すことにより貫通孔を形成し、概形を製造する。その後、切削加工を施すことで外形を整え、主体金具中間体を得る。
【0040】
続いて、主体金具中間体の先端面に、Ni合金等からなる直棒状の接地電極27が抵抗溶接される。当該溶接に際してはいわゆる「ダレ」が生じるので、その「ダレ」を除去した後、主体金具中間体の所定部位にねじ部15が転造によって形成される。これにより、接地電極27の溶接された主体金具3が得られる。
【0041】
次いで、所定の金属材料(例えば、低炭素鋼)を加工することで、棒状の端子電極6を得る。その上で、端子電極6に対して、バレルメッキ法によるメッキ処理が施され、端子電極6の外表面にニッケル層35が形成される。メッキ処理に際しては、所定の濃度(例えば、250±20g/L)の硫酸ニッケル(NiSO
4)、所定の濃度(例えば、50
±10g/L)の塩化ニッケル(NiCl
2)、所定の濃度(例えば、40±10g/L
)のホウ酸(H
3BO
3)、及び、光沢剤を含む酸性(pHが4.0±0.5程度)のメッキ用水溶液が貯留されたメッキ槽と、壁面が網や穴開き板などにより形成され、前記メッキ用水溶液の液中に浸漬される保持容器とを備えたバレルメッキ装置(図示せず)が用いられる。具体的には、前記保持容器に端子電極6を収容し、端子電極6をメッキ用水溶液中に浸漬する。そして、メッキ水溶液を所定温度(例えば、55±5℃)とした上で、所定のモータにより前記保持容器を回転させながら、端子電極6に対して所定の通電時間(例えば、9秒以上1500秒以下)に亘って所定の電流密度(例えば、0.13A/dm
2以上1.33A/dm
2以下)の直流電流を流す。これにより、端子電極6の外表面全域にニッケル層35が形成される。本実施形態では、メッキ処理時における通電時間や電流密度(A/dm
2)を調節することで、ニッケル層35の厚さT1が3μm以上25μm
以下にされるとともに、ニッケル層35を構成する結晶粒の平均断面積が50μm
2以上
500μm
2以下とされている。尚、通電時間を調節することで、ニッケル層35の厚さ
T1を変更することができ、電流密度を調節することで、結晶粒の平均断面積を変更することができる。
【0042】
加えて、前記主体金具3とは別に、絶縁碍子2を成形加工しておく。例えば、アルミナを主体としバインダ等を含む原料粉末を用いて、成形用素地造粒物を調製し、これを用いてラバープレス成形を行うことで、筒状の成形体が得られる。得られた成形体に対し、研
削加工を施すことにより整形するとともに、整形されたものを焼成炉にて焼成することで、絶縁碍子2が得られる。
【0043】
また、前記主体金具3、絶縁碍子2とは別に、中心電極5を製造しておく。すなわち、中央部に放熱性向上を図るための銅合金等を配置したNi合金に鍛造加工を施すことで中心電極5を作製する。また、レーザー溶接等により、中心電極5の先端部にチップ31を接合する。
【0044】
そして、上記のようにして得られた絶縁碍子2に対して、中心電極5、端子電極6、及び、抵抗体7が、ガラスシール層8,9によって封着固定される。ガラスシール層8,9としては、一般的にホウ珪酸ガラスと金属粉末とが混合されて調製されており、当該調製されたものが抵抗体7を挟むようにして絶縁碍子2の軸孔4内に注入された後、後方から端子電極6で押圧しつつ、焼成炉内にて加熱されることで、中心電極5等が封着固定される。尚、このとき、絶縁碍子2の後端側胴部10表面に釉薬層を同時に焼成することとしてもよいし、事前に釉薬層を形成することとしてもよい。また、本実施形態では、加熱時間を調節することで、酸化膜36の厚さT2が1.0μm以下とされている。
【0045】
その後、主体金具3に対して、その後端側開口から絶縁碍子2を挿入した上で、主体金具3の後端部を軸線CL1方向に沿って押圧し、前記後端部を径方向内側に向けて屈曲させること(すなわち、加締め部20を形成すること)により、絶縁碍子2と主体金具3とが固定される。
【0046】
次いで、抵抗溶接等により、接地電極27の先端部にチップ32を接合した上で、接地電極27を中心電極5側に屈曲させる。そして最後に、中心電極5(チップ31)と接地電極27(チップ32)との間に形成された火花放電間隙33の大きさを調整することで、上述した点火プラグ1が得られる。
【0047】
以上詳述したように、本実施形態によれば、ニッケル層35の厚さT1が3μm以上25μm以下とされるとともに、結晶粒の平均断面積が50μm
2以上500μm
2以下とされている。従って、耐剥離性及び耐食性の双方を十分に向上させることができる。その結果、端子電極6の後端部に凹部6Bが形成されており、端子電極6における耐食性の低下やニッケル層の剥離がより懸念される場合であっても、耐剥離性及び耐食性の双方を良好なものとすることができる。
【0048】
さらに、ニッケル層35の厚さT1を10μm以上20μm以下とするとともに、結晶粒の平均断面積を200μm
2以上400μm
2以下とした場合には、耐剥離性及び耐食性の双方を一層向上させることができる。
【0049】
また、本実施形態では、酸化膜36の厚さT2が1.0μm以下とされている。従って、ニッケル層35の柔軟性を十分に確保することができ、ニッケル層35において熱応力に対する耐力をより向上させることができる。その結果、一層良好な耐剥離性を実現することができる。
【0050】
さらに、端子電極6の後端部の硬度が140Hv以上180Hv以下とされている。従って、端子電極6とニッケル層35との間における熱膨張差を一層小さくすることができ、ニッケル層35に加わる熱応力を著しく小さくすることができる。その結果、耐剥離性を格段に高めることができる。
【0051】
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、メッキ処理時における電流密度や通電時間を調節することで、ニッケル層において、厚さT1(μm)、及び、
結晶粒の平均断面積(μm
2)を種々異なるものとした端子電極のサンプルを複数作成し
、各サンプルについて、耐剥離性評価試験、及び、耐食性評価試験を行った。尚、端子電極は、後端部に凹部を有するものとした。
【0052】
耐剥離性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、管状炉により各サンプルを1000℃にて8分間加熱した後、室温になるまで徐冷した。次いで、目視又は所定の拡大鏡により、端子電極の後端部の外表面において、ニッケル層の剥離(割れ等)が生じているか否かを確認した。ここで、ニッケル層の剥離が生じなかったサンプルは、極めて優れた耐剥離性を有するとして「☆」の評価を下すこととした。また、ニッケル層の剥離が生じたものの、剥離が生じた部位の面積(剥離面積)が端子電極の後端部の表面積の5%未満であったサンプルは、優れた耐剥離性を有するとして「◎」の評価を下し、ニッケル層の剥離が生じたものの、剥離面積が端子電極の後端部の表面積の5%以上10%以下であったサンプルは、良好な耐剥離性を有するとして「○」の評価を下すこととした。一方で、ニッケル層の剥離が生じるとともに、剥離面積が端子電極の後端部の表面積の10%よりも大きかったサンプルは、耐剥離性に劣るとして「×」の評価を下すこととした。
【0053】
また、耐食性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、各サンプルを塩水を噴霧した雰囲気に48時間に亘って放置し、端子電極の後端部表面に赤錆が発生するか否かを確認した。ここで、赤錆の発生が確認されなかったサンプルは、耐食性に極めて優れるとして「☆」の評価を下すこととした。さらに、赤錆が発生していたものの、赤錆が発生した部位の面積(赤錆発生面積)が端子電極の後端部の表面積の5%未満であったサンプルは、耐食性に優れるとして「◎」の評価を下し、赤錆が発生したものの、赤錆発生面積が端子電極の後端部の表面積の5%以上30%以下であったサンプルは、良好な耐食性を有するとして「○」の評価を下すこととした。一方で、赤錆発生面積が端子電極の後端部の表面積の30%超となったサンプルは、耐食性に劣るとして「×」の評価を下すこととした。
【0054】
表1に、耐剥離性評価試験の結果を示し、表2に、耐食性評価試験の結果を示す。
【0057】
表1に示すように、ニッケル層の厚さT1を25μm以下とするとともに、結晶粒の平均断面積を50μm
2以上500μm
2以下としたサンプルは、良好な耐剥離性を有することが明らかとなった。これは、次の(1)〜(3)が相乗的に作用したことによると考えられる。
(1)ニッケル層の厚さT1を25μm以下としたことで、加熱・冷却に伴い、ニッケル層と端子電極との間で生じる熱膨張差が比較的小さなものとなり、ひいてはニッケル層に加わる熱応力が比較的小さなものなったこと。
(2)結晶粒の平均断面積を50μm
2以上とし、結晶粒の過度の微細化を抑制したこと
で、粒界結合力がより高められ、その結果、ニッケル層に熱応力が加わった際に、粒界にクラックが入りにくくなったこと。
(3)結晶粒の平均断面積を500μm
2以下とし、結晶粒の粒径を比較的小さなものと
したことで、ニッケル層において、熱応力に対する耐力が十分に向上したこと。
【0058】
さらに、表2に示すように、ニッケル層の厚さT1を3μm以上とするとともに、結晶粒の平均断面積を50μm
2以上500μm
2以下としたサンプルは、良好な耐食性を有することが明らかとなった。これは、次の(4)〜(6)が相乗的に作用したことによると考えられる。
(4)ニッケル層の厚さT1を3μm以上としたことで、ニッケル層における単位表面積当たりのピンホール数が少なくなり、端子電極に対する塩水の付着が抑制されたこと。
(5)結晶粒の平均断面積を50μm
2以上とし、粒界結合力を高めたことで、粒界にク
ラックが入りにくくなり、ひいては端子電極に対する塩水の付着が抑制されたこと。
(6)ニッケル層は、結晶相が積み重なるようにして形成されるが、結晶粒の平均断面積を500μm
2以下とし、結晶粒の粒径を比較的小さなものとしたことで、粒界の凹凸を
より小さなものとすることができ、結晶層の一部の薄化がより確実に防止されたこと。
【0059】
また特に、ニッケル層の厚さT1を10μm以上20μm以下とするとともに、結晶粒の平均断面積を200μm
2以上400μm
2以下としたサンプルは、耐剥離性及び耐食性の双方において極めて優れることが分かった。
【0060】
上記両試験の結果より、耐剥離性及び耐食性の双方を良好なものとすべく、ニッケル層の厚さT1を3μm以上25μm以下とするとともに、結晶粒の平均断面積を50μm
2
以上500μm
2以下とすることが好ましいといえる。
【0061】
また、耐剥離性及び耐食性の更なる向上を図るべく、ニッケル層の厚さT1を10μm以上20μm以下とするとともに、結晶粒の平均断面積を200μm
2以上400μm
2以下とすることがより好ましいといえる。
【0062】
次に、ニッケル層の厚さT1を3μm以上25μm以下とするとともに、結晶粒の平均断面積を約300μm
2とした端子電極のサンプルに対して、加熱温度を1200℃に変
更した上で(つまり、ニッケル層の剥離がより生じやすい条件とした上で)、上述の耐剥離性評価試験を行った。尚、当該試験では、加熱時間を変更することで、加熱後にニッケル層の外表面に形成される酸化膜の厚さT2(μm)が種々異なるものとなるようにした。表3に、当該試験の結果を示す。また、表3には、参考として、加熱時間を合わせて示す。
【0064】
表3に示すように、酸化膜の厚さT2を1.0μm以下としたサンプルは、優れた耐剥離性を有することが確認された。これは、ニッケル層の柔軟性が十分に確保され、ニッケル層において熱応力に対する耐力がより向上したためであると考えられる。
【0065】
上記試験の結果より、耐剥離性を一層向上させるべく、ニッケル層の外表面における酸化膜の厚さT2を1.0μm以下とすることがより好ましいといえる。
【0066】
次いで、ニッケル層の厚さT1を3μm以上25μm以下とするとともに、結晶粒の平均断面積を300μm
2とした上で、炭素(C)の含有量(質量%)を調節することによ
り、後端部における硬度を種々異なるものとした端子電極のサンプルを作製し、各サンプルについて、加熱温度を1200℃とし、加熱時間を8分間とした上で、上述の耐剥離性評価試験を行った。表4に、当該試験の結果を示す。また、表4には、参考として、各サンプルにおけるCの含有量を合わせて示す。
【0068】
表4に示すように、後端部の硬度を140Hv以上180Hv以下としたサンプルは、優れた耐剥離性を有することが明らかとなった。これは、端子電極とニッケル層との間で生じる熱膨張差を低減させることができ、ニッケル層に加わる熱応力が一層小さくなったことに起因すると考えられる。
【0069】
上記試験の結果より、耐剥離性をより一層向上させるという観点から、端子電極の後端部の硬度を、ビッカース硬度で140Hv以上180Hv以下とすることがより好ましいといえる。
【0070】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0071】
(a)上記実施形態では、端子電極6の外表面全域にニッケル層35が設けられているが、少なくとも端子電極6の後端部の外表面にニッケル層35が設けられていればよい。
【0072】
(b)上述したニッケル層35を設けるためのメッキ処理の前段階に、端子電極6に対してニッケルストライク処理を施し、端子電極6の表面に薄膜のニッケルストライクメッキを設けることとしてもよい。ニッケルストライク処理は、例えば、NiSO
4やNiC
l
2、H
3BO
3、HClを含む強酸性(pHが1以下)のメッキ用水溶液を用いてバレル
メッキ処理を施すものであり、ニッケルストライク処理を施すことで、端子電極6の表面に付着した不純物を除去することができる。その結果、端子電極6に対するニッケル層35の密着性をより向上させることができ、耐剥離性及び耐食性を一層向上させることができる。
【0073】
(c)上記実施形態では、端子電極6の表面にニッケル層35のみが設けられているが、ニッケル層35の表面に三価クロメート層(含有されるクロム成分のうち95質量%以上が三価クロムにより構成されるもの)を設けることとしてもよい。この場合には、耐食性の更なる向上を図ることができる。
【0074】
(d)上記実施形態において、点火プラグ1は、火花放電間隙33において火花放電を生じさせるものであるが、本発明の技術思想を適用可能な点火プラグの構成はこれに限定されるものではない。従って、例えば、火花放電間隙に交流電力を投入し、火花放電間隙において交流プラズマを生成する点火プラグ(交流プラズマ点火プラグ)や、絶縁碍子の先端部にキャビティ部(空間)を有し、キャビティ部において生成されたプラズマを噴出する点火プラグ(プラズマジェット点火プラグ)等に対して、本発明の技術思想を適用することとしてもよい。
【0075】
(e)上記実施形態では、主体金具3の先端部に接地電極27が接合される場合につい
て具体化しているが、主体金具の一部(又は、主体金具に予め溶接してある先端金具の一部)を削り出すようにして接地電極を形成する場合についても適用可能である(例えば、特開2006−236906号公報等)。
【0076】
(f)上記実施形態では、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。