(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5778830
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】自転車用の変速制御装置、電動アシストシステム、および、自転車用の変速制御方法
(51)【国際特許分類】
B62M 25/08 20060101AFI20150827BHJP
B62M 6/45 20100101ALI20150827BHJP
【FI】
B62M25/08
B62M6/45
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-111507(P2014-111507)
(22)【出願日】2014年5月29日
【審査請求日】2014年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】渡会 悦義
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−120799(JP,A)
【文献】
特許第2617059(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 9/00 − 9/16
B62M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車の変速機の変速状態を制御する自転車用の変速制御装置であって、
制御部を備え、
前記制御部は、
前記自転車の走行速度が第1速度よりも大きいときには、変速操作部の操作に応じて前記変速機の変速状態を制御し、
前記自転車の走行速度が第1速度以下になったとき、そのときの前記変速機の変速状態における変速比が、予め定める第1変速状態における変速比よりも大きい場合に、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を自動で制御し、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、前記自転車の走行速度が第2速度よりも大きくなると、前記予め定める第1変速状態における変速比よりも変速比が大きくなるように前記変速機を自動で制御する
自転車用の変速制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、前記自転車の走行速度が前記第2速度よりも大きくなると、前記予め定める第1変速状態における変速比よりも大きい変速比と対応する第2の変速状態となるように前記変速機を制御する
請求項1に記載の自転車用の変速制御装置。
【請求項3】
前記第2の変速状態における変速比は、前記自転車の走行速度が前記第1速度以下になったときの変速状態における変速比である
請求項2に記載の自転車用の変速制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、前記自転車の走行速度が前記第2速度よりも大きくなると、時間に応じて前記変速機を制御する
請求項1〜3のいずれか一項に記載の自転車用の変速制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、前記自転車の走行速度が前記第2速度よりも大きくなると、前記走行速度に応じて前記変速機を制御する
請求項1〜3のいずれか一項に記載の自転車用の変速制御装置。
【請求項6】
前記変速制御装置は、前記変速機を自動で制御することを禁止する禁止設定部をさらに含む
請求項1〜5のいずれか一項に記載の自転車用の変速制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、予め定める時間内に前記自転車の走行速度が前記第2速度よりも大きくならない場合、前記自転車の走行速度が前記第2速度よりも大きくなり、前記自転車の走行速度が再び前記第1速度以下になるまでは、前記変速機を自動で制御することを禁止する
請求項1〜6のいずれか一項に記載の自転車用の変速制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記変速機を自動で制御することを禁止している間は、前記変速操作部の操作のみに応じて前記変速機の変速状態を制御する
請求項6に記載の自転車用の変速制御装置。
【請求項9】
前記変速制御装置は、前記自転車の走行速度が前記第1速度以下になったときの前記変速機の変速状態を記憶する記憶部をさらに含む
請求項3に記載の自転車用の変速制御装置。
【請求項10】
前記第1速度および前記第2速度は、時速0kmである
請求項1〜9のいずれか一項に記載の自転車用の変速制御装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の自転車用の変速制御装置と、
人力駆動力をアシストするモータとを備える
電動アシストシステム。
【請求項12】
自転車の変速機の変速状態を制御する自転車用の変速制御方法であって、
前記自転車の走行速度が第1速度よりも大きいときには、変速操作部の操作に応じて前記変速機の変速状態を制御し、
前記自転車の走行速度が前記第1速度以下になったとき、そのときの前記変速機の変速状態における変速比が、予め定める第1変速状態の変速比よりも大きい場合に、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を自動で制御し、
前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、前記自転車の走行速度が第2速度を超えると、前記予め定める第1変速状態における変速比よりも変速比が大きくなるように前記変速機を自動で制御する
自転車用の変速制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車の変速機の変速状態を制御する自転車用の変速制御装置、電動アシストシステム、および、自転車用の変速制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自転車が停止した後に再びペダルを漕ぎ出すときは、変速比が小さいほどペダルを漕ぎ出すときの人力駆動力を軽くすることができる。このため、特許文献1の自転車用の変速制御装置は、自転車の停止時に、ペダルを漕ぎ出すときに適した変速比に変更している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2617059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の自転車用の変速制御装置によれば、運転者は軽い人力駆動力で漕ぎ出すことができる。他方、変速制御装置により変更された後の変速比は、ペダルを漕ぎ出した後の変速比に適していないおそれがある。特許文献1の自転車用の変速制御装置は、ペダルを漕ぎ出した後は、変速比を変更しない。このため、運転者が、ペダルを漕ぎ出した後に変速比を走行に適した変速比に変更する操作を行う。このため、運転者が変速比を変更する作業に煩わしさを感じるおそれが生じる。
【0005】
本発明の目的は、自転車の停止後に再びペダルを漕ぎ出したときの変速比の変更に関する煩わしさを低減できる自転車用の変速制御装置、電動アシストシステム、および、自転車用の変速制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕本発明の一形態に従う自転車用の変速制御装置は、自転車の変速機の変速状態を制御する自転車用の変速制御装置であって、制御部を備え、前記制御部は、前記自転車の走行速度が第1速度よりも大きいときには、変速操作部の操作に応じて前記変速機の変速状態を制御し、前記自転車の走行速度が第1速度以下になったとき、そのときの前記変速機の変速状態における変速比が、予め定める第1変速状態における変速比よりも大きい場合に、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を自動で制御し、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、前記自転車の走行速度が第2速度よりも大きくなると、前記予め定める第1変速状態における変速比よりも変速比が大きくなるように前記変速機を自動で制御する。
【0007】
〔2〕前記自転車用の変速制御装置の一形態によれば、前記制御部は、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、前記自転車の走行速度が前記第2速度よりも大きくなると、前記予め定める第1変速状態における変速比よりも大きい変速比と対応する第2の変速状態となるように前記変速機を制御する。
【0008】
〔3〕前記自転車用の変速制御装置の一形態によれば、前記第2の変速状態における変速比は、前記自転車の走行速度が前記第1速度以下になったときの変速状態における変速比である。
【0009】
〔4〕前記自転車用の変速制御装置の一形態によれば、前記制御部は、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、前記自転車の走行速度が前記第2速度よりも大きくなると、時間に応じて前記変速機を制御する。
【0010】
〔5〕前記自転車用の変速制御装置の一形態によれば、前記制御部は、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、前記自転車の走行速度が前記第2速度よりも大きくなると、前記走行速度に応じて前記変速機を制御する。
【0011】
〔6〕前記自転車用の変速制御装置の一形態によれば、前記制御部は、前記変速機を自動で制御することを禁止する禁止設定部をさらに含む。
〔7〕前記自転車用の変速制御装置の一形態によれば、前記制御部は、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、予め定める時間内に前記自転車の走行速度が前記第2速度よりも大きくならない場合、前記自転車の走行速度が前記第2速度よりも大きくなり、前記自転車の走行速度が再び前記第1速度以下になるまでは、前記変速機を自動で制御することを禁止する。
【0012】
〔8〕前記自転車用の変速制御装置の一形態によれば、前記制御部は、前記変速機を自動で制御することを禁止している間は、前記変速操作部の操作のみに応じて前記変速機の変速状態を制御する。
【0013】
〔9〕前記自転車用の変速制御装置の一形態によれば、前記制御部は、前記自転車の走行速度が前記第1速度以下になったときの前記変速機の変速状態を記憶する記憶部をさらに含む。
【0014】
〔10〕前記自転車用の変速制御装置の一形態によれば、前記第1速度および前記第2速度は、時速0kmである。
〔11〕本発明の別の一形態に従う電動アシストシステムは、上記〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の自転車用の変速制御装置と、人力駆動力をアシストするモータとを備える。
【0015】
〔12〕本発明の別の一形態に従う自転車用の変速制御方法は、自転車の変速機の変速状態を制御する自転車用の変速制御方法であって、前記自転車の走行速度が第1速度よりも大きいときには、変速操作部の操作に応じて前記変速機の変速状態を制御し、前記自転車の走行速度が前記第1速度以下になったとき、そのときの前記変速機の変速状態における変速比が、予め定める第1変速状態の変速比よりも大きい場合に、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を自動で制御し、前記予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、前記自転車の走行速度が第2速度を超えると、前記予め定める第1変速状態における変速比よりも変速比が大きくなるように前記変速機を自動で制御する。
【発明の効果】
【0016】
本自転車用の変速制御装置、電動アシストシステム、および、自転車用の変速制御方法によれば、自転車の停止後に再びペダルを漕ぎ出したときの変速比の変更に関する煩わしさを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】実施形態の制御部の電気的な構成を示すブロック図。
【
図3】実施形態の自動変速処理の処理手順を示すフローチャート。
【
図4】実施形態の自動変速処理の実行状態を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示されるように、自転車10は、フレーム12、ハンドル14、前輪16、後輪18、駆動機構20、変速機24、ダイナモ26、踏力センサ28、変速操作部30、アシスト機構32、制御ユニット60(
図2参照)、および、バッテリ34を含む。
【0019】
駆動機構20は、左右のクランクアーム36、クランク軸38、左右のペダル40、フロントスプロケット42、リアスプロケット44、および、チェーン46を含む。左右のクランクアーム36は、1つのクランク軸38を介してフレーム12に対して回転可能にフレーム12に取り付けられている。ペダル40は、クランクアーム36に対してペダル軸まわりに回転可能にクランクアーム36に取り付けられている。
【0020】
フロントスプロケット42は、クランク軸38に連結されている。フロントスプロケット42は、クランク軸38と同軸に設けられる。フロントスプロケット42はクランク軸38と相対回転しないように連結されてもよいし、クランク軸38が前転するときにはフロントスプロケット42も前転するようにワンウェイクラッチを介して連結されてもよい。リアスプロケット44は、後輪18の車軸18Aまわりに回転可能に取り付けられている。リアスプロケット44は、ワンウェイクラッチ(図示略)を介して後輪18に連結される。チェーン46は、フロントスプロケット42とリアスプロケット44とに巻き掛けられている。ペダル40に加えられる人力駆動力によりクランクアーム36が回転するとき、フロントスプロケット42、チェーン46、および、リアスプロケット44によって、後輪18が回転する。
【0021】
ダイナモ26は、前輪16の車軸16Aのまわりに設けられている。本実施の形態のダイナモ26は、ハブダイナモである。ダイナモ26は、前輪16の回転数に応じた信号を出力する。
【0022】
踏力センサ28は、クランク軸38にかかるトルクに応じた信号を出力する。クランク軸38にかかるトルクは、ペダル40に加えられる人力駆動力に相関している。このため、踏力センサ28は、人力駆動力に応じた信号を出力する。踏力センサ28は、クランク軸38からフロントスプロケット42までの動力伝達経路に設けられてもよく、前記動力伝達経路の近傍に設けられてもよく、クランクアーム36またはペダル40に設けられてもよい。踏力センサ28は、たとえば歪センサ、磁歪センサ、光学センサおよび圧力センサなどを用いて実現することができ、ペダル40に加えられる人力駆動力に応じた信号を出力するセンサであれば、いずれのセンサを採用することもできる。
【0023】
変速操作部30は、ハンドル14に取り付けられている。変速操作部30は、運転者の操作に応じて変速信号を出力する。変速信号は、シフトアップを指示するシフトアップ信号、および、シフトダウンを指示するシフトダウン信号を含む。シフトアップは、変速比γが大きくなる方向への変速である。シフトダウンは、変速比γが小さくなる方向への変速である。
【0024】
変速機24は、ハブと一体化された内装変速機によって実現される。変速機24は、複数の変速段を含み、たとえば1段から3段までの変速段を含む。変速機24は、アクチュエータ48(
図2参照)と、アクチュエータ48によって制御される遊星歯車機構(図示略)を含む。アクチュエータ48は、例えば、電気モータである。アクチュエータ48は、遊星歯車機構を構成する歯車の連結状態を変更することによって、自転車10の変速段、すなわち、変速比γを変更する。
【0025】
アシスト機構32は、モータ50および減速機(図示略)を含む。モータ50は、電気モータであり、バッテリ34から供給される電力によって回転する。モータ50の回転は、減速機を介してフロントスプロケット42に伝達される。モータ50とフロントスプロケットとの間には、クランクアーム36が前転したときに人力駆動力によってモータが回転することを防止するためにワンウェイクラッチが設けられてもよい。モータ50を含むアシスト機構32は、モータ50の駆動により、フロントスプロケット42を回転させる人力駆動動力をアシストする。
【0026】
図2を参照して、制御ユニット60の構成について説明する。制御ユニット60は、人力演算部62、アシスト制御部64、制御部66、速度演算部68、禁止設定部70、および、記憶部72を含む。制御ユニット60は、ダイナモ26、踏力センサ28、変速操作部30、アクチュエータ48、モータ50、および、バッテリ34と電力線により接続されている。制御ユニット60は、ダイナモ26、踏力センサ28、変速操作部30、アクチュエータ48、モータ50、および、バッテリ34と相互に電力線通信によって通信することができる。制御ユニット60は、アシスト機構32のアシスト状態、および、変速機24の変速状態を制御する。
【0027】
人力演算部62は、踏力センサ28から出力される信号に基づいて人力駆動力FAを演算する。アシスト制御部64は、人力駆動力FAに基づいて、モータ50を駆動する。これにより、アシスト機構32が人力駆動力FAに応じたアシストを実行する。人力演算部62およびアシスト機構32は、電動アシストシステムを構成する。
【0028】
制御部66は、変速操作部30から出力される信号に基づいてアクチュエータ48を駆動する。制御部66は、シフトアップ信号が入力されたとき、変速機24の変速状態を変速比γが大きくなる側の変速段に変更する。制御部66は、シフトダウン信号が入力されたとき、変速機24の変速状態を変速比γが小さくなる側の変速段に変更する。最大の変速比γの変速段のときに、シフトアップ信号が入力される場合、および最小の変速比γの変速段のときにシフトダウン信号が入力される場合には、制御部66は変速させない。
【0029】
制御部66は、自転車10の速度VAが第1速度VA1よりも大きいときは、変速操作部30の操作に応じて変速機24を制御する。他方、速度VAが第1速度VA1以下になったとき、速度VAに基づいて変速機24を制御する自動変速処理を実行する。
【0030】
速度演算部68は、ダイナモ26から出力される信号に基づいて自転車10の走行速度である速度VAを演算する。ダイナモ26の出力は、前輪16(
図1参照)の回転に応じて周期的に変動する。このため、速度演算部68は、ダイナモ26の出力から前輪16(
図1参照)の所定期間あたりの回転数から速度VAを演算する。
【0031】
禁止設定部70は、自転車10の速度VAに基づいて変速機24を自動で制御することを禁止する。制御ユニット60は、禁止設定部70により変速機24を自動で制御することを禁止している間は、変速操作部30の操作のみに応じて変速機24の変速状態を制御する。
【0032】
図3を参照して、制御部66により実行される自動変速処理について説明する。制御部66は、ステップS11において、自転車10が走行状態から停止状態に移行したか否かを判定する。具体的には、制御部66は、自転車の速度VAが第1速度VA1よりも大きい値から第1速度VA1以下になったか否かを判定する。制御部66は、速度VAが第1速度VA1よりも大きいと判定したときは、本処理を終了し、所定周期後に再びステップS11の判定処理を実行する。第1速度VA1は、自転車10が停止したか否かを判定するための値であり、例えば、時速0kmを採用することができる。
【0033】
制御部66は、ステップS11において、速度VAが第1速度VA1以下になったと判定したとき、ステップS12において、そのときの変速機24の変速状態に対応する変速比γが第1変速比γ1よりも大きいか否かを判定する。制御部66は、変速比γが第1変速比γ1以下であると判定したときは、本処理を終了し、所定周期後に再びステップS11の判定処理を実行する。第1変速比γ1は、低速段に対応する変速比γであり、例えば最小の変速比γを採用することができる。
【0034】
一方、制御部66は、そのときの変速比γが第1変速比γ1よりも大きいと判定したとき、ステップS13において、そのときの変速状態を記憶部72に記憶させ、禁止設定部70により変速機24の自動制御を許可する。換言すれば、禁止設定部70は、自転車の速度VAが第1速度VA1以下になると、自動制御の禁止を解除する。ここで言う“そのとき”とは、速度VAが第1速度VA1以下になったときである。変速状態は、たとえば変速段または変速比γである。そして、ステップS14において、変速機24の変速状態を予め定める第1変速状態となるようにアクチュエータ48を制御する。これにより、変速比γが第1変速比γ1に変更される。
【0035】
次に、制御部66は、ステップS15において、自転車10が停止状態から走行状態に移行したか否かを判定する。具体的には、制御部66は、速度VAが第2速度VA2よりも大きくなったか否かを判定する。制御部66は、速度VAが第2速度VA2よりも大きくなったと判定したとき、ステップS16において、変速比γが第1変速比γ1よりも大きくなるように変速機24の変速状態を制御する。第2速度VA2は、自転車10の走行が再開されたか否かを判定するための値であり、例えば、時速0km以下の所定の速度を採用することができる。
【0036】
次に、制御部66は、ステップS17において、変速機24の変速状態がステップS13において記憶部72が記憶した変速状態と一致しているか否かを判定する。変速状態がステップS13において記憶部72が記憶した変速状態と異なっているとき、再びステップS16により変速比γが大きくなるように変速状態を制御した後、ステップS17の判定処理を繰り返す。制御部66は、変速状態がステップS13において記憶した変速状態と一致していると判定したときは、ステップS19において禁止設定部70により自動制御を禁止し、本処理を終了する。禁止設定部70は、再び自転車の速度VAが第1速度VA1以下になると、ステップS13の処理により自動制御の禁止を解除する。
【0037】
制御部66は、ステップS15において、速度VAが第2速度VA2以下であると判定したとき、ステップS18において、制御部66が備えるタイマを用いて速度VAが第1速度以下VA1以下になってから予め定める時間である時間TXが経過したか否かを判定する。制御部66は、時間TXが経過していないと判定したときは、再びステップS15の判定処理を繰り返す。一方、制御部66は、時間TXが経過していると判定したときは、ステップS19において禁止設定部70により自動制御を禁止し、本処理を終了する。時間TXは、たとえば1時間以上の所定の時間を採用することができる。この場合、速度VAが第2速度VA2よりも大きくなり、かつ速度VAが再び第1速度VA1以下になるまで、すなわち、次回以降の自動変速処理のステップS11において肯定判定されるまでは、変速機24を自動で制御することが禁止される。
【0038】
図4の実線を参照して、自転車10の速度VAが第1速度VA1以下になってから第2速度VA2よりも大きくなるまでの経過時間である停止時間が時間TXよりも短いときの自動変速処理の実行態様の一例について説明する。
【0039】
時刻t10は、速度VAが第1速度VA1よりも大きい状態から第1速度VA1以下になった時刻を示す。このとき、自動制御が許可される。このため、このときの変速比γが第1変速比γ1よりも大きいとき、時刻t10以降において、変速状態が順次変更され、変速比γが第1変速比γ1に変更される。
【0040】
時刻t11は、時刻t10から時間TXが経過するよりも前、かつ、速度VAが第2速度VA2よりも大きくなった時刻を示す。時刻t11以降において、変速状態が順次変更される。これにより、変速状態が、変速比γが時刻t10のときの変速比γと対応する変速状態まで変更される。
【0041】
時刻t12は、変速比γが時刻t10のときの変速比γと一致した時刻を示す。このとき、自動制御が禁止される。これにより、時刻t12以降は、変速操作部30の出力に基づいて変速機24が制御される。
【0042】
図4の二点鎖線を参照して、停止時間が時間TXよりも長いときの自動変速処理の実行態様の一例について説明する。
時刻t13は、時刻t10から速度VAが第2速度VA2以下に維持され、かつ、時刻t10から時間TXが経過した時刻を示す。このとき、自動制御が禁止される。これにより、時刻t13以降は、変速操作部30の出力に基づいて変速機24が制御される。
【0043】
制御ユニット60は、以下の作用効果を奏する。
(1)制御ユニット60は、速度VAが第1速度VA1以下となったことに基づいて変速機24を自動で制御する。このため、運転者がペダル40を漕ぎ出すときの人力駆動力を軽くするための変速操作部30を操作する手間を省ける。ペダル40を漕ぎ出した後は、自転車10の速度VAの上昇に応じて変速比γが大きくなる方が好ましい。制御ユニット60は、速度VAが第2速度VA2よりも大きくなると、変速比γが大きくなるように変速機24を制御する。このため、自転車10の停止後に再びペダルを漕ぎ出したときの変速比γの変更に関する煩わしさを低減できる。
【0044】
(2)制御ユニット60は、速度VAが第2速度VA2よりも大きくなると、変速比γを速度VAが第1速度VA1以下となったときの変速比γになるように変速機24を制御する。このため、自転車10の走行を停止する前と同じ変速比γになるまで変速機24が自動的に制御される。このため、運転者が変速比γを自身の走行に適した変速比γまで再び変更する煩わしさを軽減することができる。
【0045】
(3)例えば、駐輪等により自転車10の走行が再開されるまでの停止時間が長くなることがある。この場合、次にペダル40が漕ぎ出されたときの運転者が変わる、または、運転者が所望する速度VAが異なることがある。このため、停止時間が長いとき、一時停止をするときと比較して、自転車10の走行に適した変速比γが、停止前の変速比γと異なるおそれが大きい。
【0046】
制御ユニット60は、時間TX内に速度VAが第2速度VA2よりも大きくならない場合、速度VAが第2速度VA2よりも大きくなり、速度VAが再び第1速度VA1以下になるまでは、変速機24を自動で制御することを禁止する。このため、ペダル40を漕ぎ出した後、自転車10の変速比γは、発進時に記憶部72に記憶されている変速状態と対応する変速比γに自動的に変更されない。このため、運転者が所望しない変速比γに自動的に変更されるおそれを低減できる。
【0047】
(4)運転者の脚力、または、走路環境等によっては、ペダル40を漕ぎ出した後に変速比γを大きくしたとき、運転者に過度な負荷を与えることがある。自転車10は、モータ50を備える。このため、自転車10の走行が再開されたときに人力駆動力をアシストできる。このため、運転者に過度な負荷を与えることが抑制される。
【0048】
本制御ユニットが取り得る具体的な形態は、上記実施形態に例示された形態に限定されない。本制御ユニットは、上記実施形態とは異なる各種の形態を取り得る。以下に示される上記実施形態の変形例は、本制御ユニットが取り得る各種の形態の一例である。
【0049】
・自動変速処理のステップS18の判定処理を省略することもできる。この場合、速度VAが第2速度VA2よりも大きくなったとき、停止時間の長さに関わらず、変速状態が、記憶部72が記憶している変速状態と一致するまで変速機24が自動的に制御される。
【0050】
・自動変速処理のステップS17の判定処理を省略することもできる。この場合も、制御部66は予め定める変速比γ、または変速段まで、変速比γが大きくなるように変速機24を制御する。このため、自転車10の停止後に再びペダル40を漕ぎ出すときの変速比γの変更に関する煩わしさを低減できる。
【0051】
・自動変速処理のステップS16において、時間に応じて変速機24の変速状態を制御することもできる。例えば、速度VAが第2速度VA2よりも大きくなってからの経過時間が判定時間を超えたことに基づいて変速比γを大きくする。またステップS16を繰り返して変速状態を変更する場合、制御部66は、次の変速まで時間の間隔Tをあけて変速機24に変速させる。この間隔Tは、予め定められていてもよく、ユーザによって設定されてもよく、また自転車の速度によって変化してもよい。間隔Tをユーザによって設定する場合には、たとえばサイクルコンピュータを制御ユニット60に接続して、サイクルコンピュータに設けられる設定スイッチを用いる。また間隔Tを速度VAによって変化させる場合、速度VAが高くなるほど、間隔Tが小さくなるように、速度の間隔Tとの相関テーブルまたは関数を用いて、制御部66が間隔Tを制御すればよい。
【0052】
・自動変速処理のステップS16において、速度VAに応じて変速機24の変速状態を制御することもできる。例えば、速度VAが判定速度よりも大きくなったことに基づいて変速比γを大きくする。例えば、速度VAと変速比γとの相関テーブルまたは関数を用いて、制御部66が速度VAに応じて変速機24を制御する。
【0053】
・第1速度VA1を、一定の期間内において自転車10の停止が推定される速度VAに変更することもできる。この場合、ステップS14における変速状態の制御は、自転車10が停止する前に実行される。停止が推定される速度VAは、時速0km付近かつ、時速0kmよりも大きな値、例えば時速3kmを採用することができる。第2速度VA2についても、例えば時速0kmよりも大きな値、例えば時速3kmを採用することができる。第2速度VA2に時速0kmよりも大きな値を採用することによって、停止状態で自転車の前後を揺動させたときに、変速してしまうことを抑制することができる。第1速度VA1と第2速度VA2とを異なる値にすることもできる。
【0054】
・ダイナモ26に代えて、前輪16、後輪18、または、クランク軸38の回転数に応じた信号を出力する回転センサを採用し、回転センサの出力に基づいて速度VAを演算することもできる。要するに、自転車10の速度に応じた信号を出力するセンサであれば、いずれのセンサを採用することもできる。
【0055】
・自動変速処理の実行の禁止および許可の設定を運転者が変更できる操作部を追加することもできる。
・自動変速処理のステップS13におけるS15〜S18の処理の実行の禁止および許可の設定を運転者が変更できる操作部を追加することもできる。
【0056】
・アシスト機構32を省略することもできる。
・変速機24を、変速比γを連続的に変更することのできる無段変速装置に変更することもできる。また、変速機24を、外装型の変速機に変更することもできる。要するに、自転車10の変速比γを変更することのできる変速機であればいずれの変速機を採用することもできる。
【0057】
・制御ユニット60を、ダイナモ26、踏力センサ28、変速操作部30の少なくともいずれか1つと、無線通信によって接続することもできる。
・制御ユニット60は、ダイナモ26、踏力センサ28、変速操作部30、アクチュエータ48、モータ50、および、バッテリ34と、電力線通信ではなく、通常の有線通信によって接続してもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…自転車
24…変速機
30…変速操作部
50…モータ
60…制御ユニット(変速制御装置)
66…制御部
70…禁止設定部
72…記憶部
【要約】
【課題】自転車の停止後に再びペダルを漕ぎ出したときの変速比の変更に関する煩わしさを低減できる自転車用の変速制御装置、電動アシストシステム、および、自転車用の変速制御方法を提供する。
【解決手段】自転車の変速機の変速状態を制御する自転車用の変速制御装置であって、制御部を備え、前記制御部は、自転車の走行速度が第1速度よりも大きいときには、変速操作部の操作に応じて前記変速機の変速状態を制御し、自転車の走行速度が第1速度以下になったとき、そのときの前記変速機の変速状態における変速比が、予め定める第1変速状態における変速比よりも大きい場合に、予め定める第1変速状態となるように変速機を自動で制御し、予め定める第1変速状態となるように前記変速機を制御した後、自転車の走行速度が第2速度よりも大きくなると、予め定める第1変速状態における変速比よりも変速比が大きくなるように変速機を自動で制御する。
【選択図】
図4