特許第5778864号(P5778864)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5778864レジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物及びレジンボンドワイヤーソーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5778864
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】レジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物及びレジンボンドワイヤーソーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 161/06 20060101AFI20150827BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20150827BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20150827BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20150827BHJP
   B24D 3/28 20060101ALI20150827BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20150827BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   C09J161/06
   C09J11/06
   B24B27/06 H
   B24D11/00 G
   B24D3/28
   B24D3/00 340
   B28D5/04 C
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-518219(P2014-518219)
(86)(22)【出願日】2012年7月2日
(86)【国際出願番号】JP2012066871
(87)【国際公開番号】WO2013179498
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2014年8月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-126091(P2012-126091)
(32)【優先日】2012年6月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000133685
【氏名又は名称】株式会社TKX
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【弁理士】
【氏名又は名称】楠本 高義
(74)【代理人】
【識別番号】100185454
【弁理士】
【氏名又は名称】三雲 悟志
(72)【発明者】
【氏名】池内 正彦
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 忠
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−232171(JP,A)
【文献】 特開2011−098407(JP,A)
【文献】 特開2002−254285(JP,A)
【文献】 特開2000−271872(JP,A)
【文献】 特開2001−277092(JP,A)
【文献】 国際公開第1998/035784(WO,A1)
【文献】 特開2007−253268(JP,A)
【文献】 特開2008−006584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
B24B 3/00− 3/60
B24B 21/00− 39/06
B24D 3/00− 99/00
B28D 1/00− 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属芯線表面に砥粒がレジンボンドを介して固着されてなるレジンボンドワイヤーソーの製造に用いられるものであって、
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂 10〜30重量部
アミン系シランカップリング剤 0.1〜5重量部
を必須成分とするレジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物。
【請求項2】
さらにノボラック型フェノール樹脂の硬化剤 5〜20重量部を含む請求項1に記載のレジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の接着剤組成物と、該接着剤組成物の溶剤と、砥粒と、無機粒子からなるフィラーとを含んでなる、レジンボンドワイヤーソー用のペースト。
【請求項4】
請求項3に記載のペーストと金属芯線とを準備する工程
該ペーストを該金属芯線表面に塗布する工程、
塗布された該ペーストを近赤外線を含む赤外線で加熱して前記接着剤組成物を架橋反応させる加熱工程
を含むレジンボンドワイヤーソーの製造方法。
【請求項5】
さらに、前記加熱工程で得られたワイヤーを巻取って巻取り体を得る工程、
該巻取り体を加熱する再加熱工程
を含む請求項4に記載のレジンボンドワイヤーソーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大口径シリコンインゴット(silicon ingot)をスライスしてなるウエハー(wafer)に代表される太陽電池・電子用基板、砒化ガリウムなどの化合物半導体基板、あるいは磁性体、水晶、ガラスなどの磁気・光学用基板等の切断に用いる固定砥粒式ワイヤーソーに関するものであり、特に硬く脆い材料における精密切断加工に適した固定砥粒ワイヤーソー、なかでもレジンボンドワイヤーソー(砥粒を樹脂接着剤でワイヤに固着してなるワイヤーソー)の製造方法及び、その製造方法に用いる接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
年々大口径化が進むTFT(薄膜トランジスタ)用途や太陽電池用途のシリコンインゴットの切断において、従来用いられてきた内周刃砥石(IDブレード)では、加工効率や生産性の低下、加工変質層の発生、切断寸法精度等の低下、また大型装置が必要などの問題点が指摘されている。そのため、近年ワイヤーソー(wire saw)を用いた切断加工が活発に行われるようになった。ワイヤーソーは、ワイヤー(wire)を切断用砥粒と共に、被切削物に圧接しながら走行させ切断作業を行うものである。ワイヤーソーを用いた切断加工は、シリコンインゴットの大口径化に対応し易く、かつインゴットから1回の切断で1枚のウエハーしか得られない内周刃砥石とは異なり、同時に複数枚のウエハーを作製するマルチ切断が可能である。
【0003】
こうした切断加工で用いられるワイヤーソーには、遊離砥粒式と固定砥粒式がある。遊離砥粒式においては、芯材となるピアノ線などのワイヤーが、ダイヤモンドや炭化珪素などの微細な砥粒を水系スラリーや油などに分散させた砥粒液を塗布して用いられる。この場合、砥粒液を塗布したワイヤーに張力を付加しながら走行させて切断加工を行う。(例えば、特許文献1参照)。その結果、ワイヤーと被削物との隙間に介在する砥粒によって徐々に切断が行われる。
【0004】
しかし、この方法では、切断界面に砥粒を常に適量供給し続ける必要があり、特にスラリーや油等の粘度が温度等により微妙に変動する結果、厚みバラツキやうねりなどウエハーの品質に関わる管理がことのほか難しい。また、この方法は、砥粒がウエハー切断時に自由に移動することから、ウエハーのみならずワイヤーをも擦ることとなり、断線を伴わずにワイヤー径を小さくすることに限界がある。また、ウエハー表面が自由に移動する砥粒で研磨されるので、光―電気変換効率にかかわる厚い加工変質層(損傷層)が形成される懸念が指摘されている。
【0005】
こうした問題を解決する方法として、ワイヤーにダイヤモンド等を固定した固定砥粒式ワイヤーソーが提案されている。そのダイヤモンドを固定する手段にはレジンボンド法、電着法などがある。
【0006】
電着法は、ニッケルメッキなどによりダイヤモンドをピアノ線へ固定を行うものである(例えば、特許文献2、3参照)。この方法は、ニッケルメッキ液中でピアノ線表面にニッケルを析出させながらダイヤモンドをニッケル膜中に埋設させ、強固に固着させる方法で、強い固着力はインゴットの切断という点からは優れているが、ニッケルメッキの工程でワイヤー径は徐々に太くなる。
【0007】
また、この方法では、メッキ層にダイヤモンドを深く埋め込んで物理的にしっかりと固定することが望まれ、メッキ皮膜の析出量にダイヤモンドの固着力が支配されるため、非常に生産性が悪く、コスト高になるなどの問題点がある。さらには、ワイヤーの線径がニッケルによって太っているため、長尺のワイヤーをプーリー(pulley)に繰り返し巻き取る際には、ワイヤーが疲労破断を起こし易くなることも考えられる。
【0008】
さらに、ワイヤーにダイヤモンド(砥粒)の粒径の5〜40%の厚さのロー材、半田等による金属層を形成し、その金属層の溶融状態において前記のダイヤモンドを付着固化させたことを特徴とする固定砥粒式ワイヤーソーが開示されている(例えば、特許文献4参照)。かかる方法では、金属層を構成する半田等の融点が高いと、金属層の溶融によりワイヤーが過度に加熱され、ワイヤーの焼きなましが生じ、ワイヤーの引っ張り強度が低下する可能性が高くなり、ワイヤー素材の選択が難しくなる。例えば、比較的低い温度で芯線の焼きなましによる硬度や引っ張り強さが低下するピアノ線や硬鋼線を芯線として用いることはできず、その代わりに、ステンレス鋼や、脆化により繰り返し曲げに弱いが同等の引っ張り強度を持つタングステンワイヤー等が用いられている。また、逆に金属層を構成する半田等の融点が低い場合には、ワイヤーソーによるワークの切断加工時の摩擦による発熱で金属層が溶融して砥粒がワイヤーから脱落しやすくなる。
【0009】
レジンボンド法は、例えばフェノール樹脂等の樹脂接着剤とダイヤモンドなどの砥粒の混合物をピアノ線上に浮きダイスを用いるなどしてコーティングしエナメル焼付炉(特許文献4参照)などを用いて加熱処理を施すものである。これにより硬化した樹脂によって、ダイヤモンドを固定する(例えば、特許文献5、6、7参照)。エナメル焼付炉としては熱風乾燥方式が知られている(例えば、特許文献8、9参照)。レジンボンド法は、比較的安価で長尺のワイヤーソーを製作するのに適する。さらに、インゴットの切断中に生ずるワイヤーの振動がフェノール樹脂等の、金属に比較して柔らかい樹脂で吸収される効果があるので、インゴットの切断においてワイヤーソーを高速で走行させることができ、安定した切断を高速で行うことができる。また、薄いウエハーを得ることができる。一方で、樹脂による保持力が低いため、切断中にダイヤモンドが次々に脱落し、切れ味の低下や、ワイヤー径の細りなどを生じ易く、寿命の短い点が欠点として指摘されている。また、熱硬化型の樹脂接着剤を用いる場合には、その硬化を短時間で行うことはできず、かつ高温で行うと、硬化剤や反応に伴う揮発成分の分解で発泡等を伴うトラブルがあるため、ワイヤーソーの製造の高速化が図れないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
特許文献1 特開2008−103690号公報
特許文献2 特公平4−4105号号公報
特許文献3 特開2003−334763号号公報
特許文献4 特開2006−123024号公報
特許文献5 特開2000−263452号号公報
特許文献6 特開2000−271872号公報
特許文献7 再公表特許WO98/35784号
特許文献8 特開H09−35556号公報
特許文献9 特開2010−267533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、レジンボンドワイヤーソーのインゴット切断工程の安定性を活かして、さらにインゴット切断によるウエハー表面の加工変質層(損傷層)の厚さが薄く、かつ厚みバラツキの少ない、平滑なウエハーを得ることのできる長寿命のレジンボンドワイヤーソーと、生産効率の高いレジンボンドワイヤーソーの製造方法を提供することを目的とする。さらには、この方法に適したレジンボンドワイヤーソー用の新規の接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、接着剤用の樹脂として、レゾール型(resol type)フェノール樹脂とノボラック型(novolak type)フェノール樹脂とを特定の比率で組み合わせることにより、赤外線加熱によって短時間で効率よく熱硬化する組成系を見出し、切断によるウエハー表面の損傷層の厚さが小さく、かつ平滑なウエハーを得ることができるとともに、ダイヤ砥粒の脱落も少ない長寿命のレジンボンドワイヤーソーを効率よく製造することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の要旨とするところは、
金属芯線表面に砥粒が接着剤用の樹脂を介して固着されてなるレジンボンドワイヤーソーの製造に用いられるものであって、
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂 10〜30重量部
アミン系シランカップリング剤 0.1〜5重量部
を必須成分とするレジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物であることにある。
【0014】
前記接着剤組成物は、さらに、ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤 5〜20重量部を含み得る。
【0015】
また、本発明の要旨とするところは、前記接着剤組成物と、該接着剤組成物の溶剤と、砥粒と、無機粒子からなるフィラーとを含んでなる、レジンボンドワイヤーソー用のペーストであることにある。
【0016】
さらに、本発明の要旨とするところは、
前記ペーストと金属芯線とを準備する工程
該ペーストを該金属芯線表面に塗布する工程、
塗布された該ペーストを近赤外線を含む赤外線で加熱して前記接着剤組成物を架橋反応させる加熱工程
を含むレジンボンドワイヤーソーの製造方法であることにある。
【0017】
前記レジンボンドワイヤーソーの製造方法は、さらに、前記加熱工程で得られたワイヤーを巻取って巻取り体を得る工程、
該巻取り体を加熱する再加熱工程
を含み得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、多数のウエハーを切り出したときのウエハーの厚みのばらつき、ウエハー内の厚みの偏差、厚みの偏差のばらつきのいずれも小さく、また切断によるウエハー表面の損傷層が薄く、かつ、長寿命のレジンボンドワイヤーソーを効率よく製造する方法が提供される。また、該方法に適したレジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】発光体からの放射光を半筒型の凹面鏡により集光する態様を示す説明図。
図2】本発明に用いられる石英ガラス管にタングステンフィラメントを封じ込んだ棒状ランプの発光スペクトルの一例。
図3】ウエハーの厚みの分布を示すグラフ。
図4】ウエハー内の厚みの偏差の分布を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の接着剤組成物は、金属芯線(以下芯線とも称する)表面に砥粒がレジンボンド(樹脂接着剤)を介して固着されてなるレジンボンドワイヤーソーの製造に用いられるものであって、
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂 10〜30重量部
アミン系シランカップリング剤 0.1〜5重量部
を必須成分とするレジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物である。
【0021】
ノボラック型フェノール樹脂はフェノール、クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール化合物とホルムアルデヒド等のアルデヒドとを酸性触媒の存在下で縮合反応させた樹脂である。レゾール型フェノール樹脂は、フェノール、クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール化合物とホルムアルデヒド等のアルデヒドとを塩基性触媒で縮合させたものである。
【0022】
本発明の接着剤組成物は、さらに、ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤を含んでいてもよい。ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤はノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して
5〜20重量部含まれることが好ましい。
【0023】
本発明の接着剤組成物がノボラック型フェノール樹脂の硬化剤を含む場合、硬化剤の配合比率がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して20重量部を超えると、硬化剤の分解により発生するガスが、硬化後の樹脂に膨れ、亀裂などを発生させることがある。また、硬化剤の配合比率がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して5重量部未満では、レゾール型フェノール樹脂の配合比率が少なめの場合にノボラック樹脂の硬化が不充分になるおそれがある場合がある。このときには、適宜レゾール型フェノール樹脂を適宜添加してもよいが、ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤の配合量を、レゾール型フェノール樹脂の配合量に応じて上記の配合比率(5〜20重量部)の範囲で適切に設定することがさらに好ましい。
【0024】
このノボラック型フェノール樹脂の硬化剤としては例えば、ヘキサメチレンテトラミンやメチロールメラミン、メチロール尿素などが挙げられる。なかでもヘキサメチレンテトラミンが樹脂の硬化時間が短い点で好ましい。
【0025】
本発明の接着剤組成物は、さらに、フェノール、クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール化合物を例えば5〜15重量部含んでいてもよい。また、ホルムアルデヒド等のアルデヒドを若干(例えば1重量部以下)含んでいてもよい。さらに、塩基性触媒や水分が少量であれば含まれてもよい。
【0026】
本発明のレジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物は、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対してレゾール型フェノール樹脂10〜30重量部を含むことにより、フェノール樹脂の架橋により緻密な3次元網目構造を得ることができる。これにより、砥粒との強固な接合を実現することができる。レゾール型フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して30重量部を越えて大きい場合は後述のペースト(paste)の粘度が低くなる。このため、レゾール型フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して30重量部を越えて大きい場合は、芯線を高速走行させてペーストを塗布するために適した粘度が得られない。レゾール型フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して10重量部を越えて小さい場合は、接着剤組成物の架橋速度が遅くなる。このため、レゾール型フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して10重量部を越えて小さい場合は、芯線を走行させつつペーストを短時間で硬化させることが難しくなり、高性能のレジンボンドワイヤーソーを高速生産できない。ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤を上記の割合で適宜添加することが、ペーストを短時間で硬化させるうえでさらに好ましい。
【0027】
本発明のレジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物には、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部のアミン系シランカップリング剤が配合されることにより、砥粒および芯線と接着剤との接着強度が増大する。アミン系シランカップリング剤の配合比率がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して0.1重量部未満であると、フェノール樹脂とニッケル被覆された砥粒との間の充分な接着力が得られない。このような場合、アミン系シランカップリング剤が上記の配合比率で配合された接着剤組成物を用いて製造されたレジンボンドワイヤーソーに比べてレジンボンドワイヤーソーの切削能力が劣る。アミン系シランカップリング剤の配合比率がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して5重量部を越えて大きいと、熱分解による泡の発生を生じたり、ノボラック型フェノール樹脂の硬化に影響し、フェノール樹脂と砥粒との間に充分な接着力が得られない。このような場合、レジンボンドワイヤーソーの切削能力は小さくなる。
【0028】
アミン系シランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが例示される。
【0029】
本発明の接着剤組成物を用いてレジンボンドワイヤーソーを製造する製造方法は、
前記記載の接着剤組成物と、この接着剤組成物を溶解しペーストの粘度を調整する溶剤と、砥粒と、無機粒子からなるフィラーとを含んでなるペーストを準備する工程と、
さらに金属芯線を準備する工程と、
このペーストをこの金属芯線の表面に塗布する工程と、
塗布されたペーストを赤外線で加熱して前記接着剤組成物に脱水を伴う架橋反応をさせる加熱工程と
を含むレジンボンドワイヤーソーの製造方法である。
【0030】
この加熱工程により、接着剤組成物の脱水縮合が速やかに行なわれ、緻密な三次元架橋構造が形成される。
【0031】
ペーストは走行する芯線に例えば、細径ノズルからペーストを押し出して芯線に塗布するディスペンサー(シリンジ)法、あるいは、浮きダイス法などにより金属芯線の表面に連続塗布することができる。ペーストの塗布量は砥粒の集中度が50〜120となるように設定されることが好ましい。集中度はワイヤーソー外面の投影面積に占める砥粒の面積の割合を指標とする値であり、本明細書においては、全投影面積に占める砥粒の投影面積が15%であるときに集中度を100とする。例えば、全投影面積に占める砥粒の投影面積が30%であるときには集中度は200であり、全投影面積に占める砥粒の投影面積が7.5%であるときには集中度は50であるとする。
【0032】
走行する芯線にペーストを連続的に塗布する場合、ペーストの粘度は接着剤組成物に溶剤を加えて3〜6Pa・sに調整されることが適切で均一な塗布量を得るうえで好ましい。例えば、溶剤は、接着剤組成物100重量部に対して100〜200重量部の範囲で設定されることが好ましい。ペーストの粘度を調整する溶剤としてはとくに限定されないが、o−,m−,p−の異性体の中でも低沸点のo−クレゾールが好ましい。
【0033】
本発明において用いられる砥粒としては固定砥粒式ワイヤーソー用の砥粒であれば特に限定されないが、ダイヤモンド砥粒、立方晶系BN砥粒、アルミナ砥粒、炭化珪素砥粒などが例示される。
【0034】
なかでも、ダイヤモンド砥粒は熱伝導率が極めて高いので、短時間の加熱において、砥粒への照射の影の部分もすみやかに温度上昇する。これにより均一な固着にかかわる化学反応がすみやかに行われる点でダイヤモンド砥粒の使用が好ましい。砥粒のサイズは目的に応じて、あるいは芯線径に応じて選択されるが、カーフロス(切断代)の少ないシリコンインゴットの切断という点からは、数ミクロン〜25ミクロンであることが好ましい。さらに、本発明において用いられる砥粒としては、銅を除く(銅が不純物として残留する場合には、熱処理工程でシリコンのバンドギャップ内に深いレベルを作ってしまうため態様電池として使用する場合は発電効率が低下する)ニッケルやチタンなどの金属で被覆されたダイヤモンドであってもよい。ニッケルで被覆されたダイヤモンドを用いた場合、本発明により得られたレジンボンドワイヤーソーは、ニッケルなどの電気めっき(電着)によるダイヤモンド砥粒固定ワイヤーソーと比較して、そりやソーマーク(saw mark)が少なく、極めて平滑な面をもつたシリコンウエハーを得るスライシング(slicing)を実現できる。
【0035】
砥粒は、スライシング時に発生するシリコン屑による目詰まりを避けるため、前述の集中度と言われる尺度で、適宜芯線上に分散して固着されることが必要である。さらに、本発明では、砥粒は接着剤組成物100重量部に対して50〜120重量部配合されることが好ましい。
【0036】
本発明において用いられる芯線としては、鋼線が好ましく用いられる。線径は特に限定されないが0.3〜0.05mmのものが好ましい。鋼線には、高炭素鋼や中炭素低合金鋼などの熱処理バネ鋼による線材、硬鋼線、ピアノ線やステンレス線、冷間圧延鋼線やオイルテンパー線などの加工バネ鋼による線材、低合金鋼、中合金鋼や高合金鋼、マルエージング鋼などの高靭性・高疲労強度の鋼線材が挙げられる。
【0037】
走行する芯線にペーストを連続的に塗布し、ペーストが塗布された芯線を走行させつつ連続的に加熱することにより、塗布されたペーストが加熱されて硬化する。この加熱は塗布されたペーストに赤外線を照射することにより行う。従来のエナメル炉などにより熱風加熱すると、ペーストの外表面から熱硬化が起こり、表皮膜ができて脱水反応により生成した水が内部に閉じ込められ、この水の気体化にともない接着剤に発泡が生じやすい。これに対して、ペーストをランプ等を用いて赤外線で加熱する場合は、波長1μm程度の近赤外線が水に対して効率よく吸収されるため、短時間で脱水反応が行われ架橋重合が完成する。また、水が励起されて短時間で蒸発するので、接着剤に発泡が生じにくい。この赤外線は波長0.7〜2.5μmの近赤外線の帯域で1または複数のスペクトルのピークを有するものであることが好ましい。なかでも波長約1μm(0.9〜1.3μmの範囲)の近赤外線による加熱が、接着剤組成物の脱水と架橋を促進させかつ脱水反応により生成した水の気体化にともなう接着剤の発泡を抑制して硬化後の接着剤の発泡体化が防止できるうえで好ましい。
【0038】
ペーストが塗布された芯線の走行中に、塗布されたペーストを赤外線で加熱する方法としては、図1に示すような方式が挙げられる。この方式では半筒型の凹面鏡2と赤外線を発光する発光体4を用いる。この方式は、ペーストが塗布された芯線3を凹面鏡2の長手方向(図面視で紙面に直交方向)に走行させつつ、凹面鏡2の長手方向に平行して線状に配置された発光体4からの放射光が芯線の走行路に約10mmφの大きさに集光されるように半筒型の凹面鏡2を配置するものである。符号8は凹面鏡2の反射面である。凹面鏡2と発光体4は対になって芯線の走行路を対称中心として複数個組み合わせて配置されてもよい。発光体4としては、赤外線ランプを用いることが短時間で効率的な加熱を行ううえで好ましい。集光部分6の温度は1.0mm径のシース型熱電対で計測して500〜800℃であることが好ましい。集光部6の長さは発光体4や凹面鏡2のサイズや個数によって決まる。集光部6を加熱ゾーンとすることにより、ペーストが塗布された芯線の走行中に、塗布されたペーストを赤外線で加熱することができる。加熱ゾーンは赤外線ランプを用いて構成することができる。赤外線ランプを用いた場合、集光部6の長さは例えば400〜1000mmとすることができる。加熱ゾーンは複数の赤外線ランプを芯線の走行方向に直列に配して形成してもよい。
【0039】
発光体4としては、近赤外線の帯域に発光スペクトルのピークを有する赤外線ランプの使用が好ましい。好ましい赤外線ランプとしては、例えば、キセノンショートアークランプ(Short−arc Xenon Lamp)や、石英ガラス管にタングステンフィラメントを封じ込んだ棒状ランプが挙げられる。
【0040】
本発明においては、かかる加熱方式により、ペーストが塗布された芯線を走行速度1000〜2000mm/secという高速下で接着剤の硬化を発泡させることなく短時間で行うことができる。
【0041】
なお、このペーストには無機粒子からなるフィラー(filler)が配合される。フィラーは接着剤組成物100重量部に対して20〜100重量部配合されることが好ましい。フィラーは30〜60重量部配合されることがさらに好ましい。フィラーとしては微粒(2〜3μm程度)のダイヤモンドを用いてもよいが、様々な形状や硬さをもった無機材料を用いることができる。一例として、炭化珪素粒が用いられる。フィラーの混入は、樹脂の熱膨張・収縮を抑制しインゴット切断中の砥粒の脱落を減少させる効果がある。
【0042】
本発明においては、前述の赤外線加熱により加熱されたワイヤー(ペーストが塗布された芯線)を再加熱するほうが、より安定した性能を有するレジンボンドワイヤーソーを得ることができる。この再加熱は、前述の赤外線加熱による短時間の硬化により膨張・収縮を繰り返す樹脂層や芯線が受けた熱歪みを除去する目的で行われる。前述の赤外線加熱において接着剤が不完全な硬化のまま、ワイヤー(ペーストが塗布された芯線)を一定の張力、例えば10N程度でボビンに巻取り、該巻取り体を再加熱した場合は、ワイヤー同士が膠着して、解繊が不能になったり、無理に解繊すると接着剤が剥がれるなどのトラブルが発生する。従って、原則的には赤外線加熱において、接着剤組成物の硬化がほぼ完了することが好ましい。
【0043】
再加熱は100〜200℃、1〜5時間行われることが好ましい。また、この再加熱に時間をかけたとしても、再加熱は多数の巻取り体を一度にまとめて処理できるのでレジンボンドワイヤーソーの生産工程全体としては生産性が大きく低下することはない。このように、本発明においては、ワイヤーの高速加熱と巻取り体の再加熱とを組み合わせ効率的に生産することによりレジンボンドワイヤーソーの生産性を向上させることができる。
【0044】
従来にあっては、このような巻取り体の再加熱方式においては、ワイヤー(ペーストが塗布された芯線)を高速走行下で加熱した場合に、再加熱時にワイヤー同士が膠着して解繊が不能になったり、無理に解繊すると接着剤が剥がれるなどのトラブルがあった。しかし、本発明においては、上記接着剤組成物の採用と、近赤外線加熱の採用により、発泡というトラブルを生ずることなくワイヤーを高速加熱して接着剤組成物の硬化をほぼ完全に行わせることが可能となった。従って、本発明においては、ワイヤー同士の膠着というトラブルを生ずることなく、再加熱で熱歪み除去を行わせることができる。
【0045】
本発明により得られたレジンボンドワイヤーソーは、従来法で作製されたレジンボンドワイヤーソーに比べて切り込み深さが大きい。この切り込み深さは、所定形状の切断対象のピースをワイヤーソーに押しつけて、ワイヤーソーを往復運動させてそのワイヤーソーが切断するまで切り込んでいったときの切り込み深さをいう。このときのワイヤーソーの切断は砥粒の脱落により主に惹起されるものである。従って、このことから、本発明により得られたレジンボンドワイヤーソーは、砥粒の芯線への固着強度が飛躍的に向上しており、長寿命であるといえる。また、本発明により得られたレジンボンドワイヤーソーは、砥粒の芯線への固着強度が高いので、多数のウエハーを切り出したときのウエハーの厚みのばらつき、ウエハー内の厚みの偏差、厚みの偏差のばらつきのいずれをとっても従来法で作製されたレジンボンドワイヤーソーに比べて小さい。さらに、本発明により得られたレジンボンドワイヤーソーにより、平滑なシリコンウエハーを得ることができる。さらに、本発明により得られたレジンボンドワイヤーソーにより、表面の加工変質層(損傷層)の薄いウエハーを得ることができる。加えて、ウエハーの3点曲げ応力の測定結果からは、加工変質層を原因とする破壊の起点が少ないために高い曲げ強度のウエハーを得ることができる。
【0046】
実施例
以下に示す配合のレジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物を用い、以下に示すペーストの配合比率でペーストを調整し、以下に示すワイヤーソーの生産ラインによりレジンボンドワイヤーソーを製造した。
【0047】
[実施例1]
レジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物の配合比率
ノボラック型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRP−5417) 80重量部
内訳 ノボラック型フェノール樹脂((C・CHO))86重量%、フェノール5
重量%、ヘキサメチレンテトラミン9重量%
レゾール型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRL−131) 20重量部
内訳 レゾール型フェノール樹脂((C・CHO))80重量%、フェノール5.
9重量%、ホルムアルデヒド0.6重量%、NaOH1.2重量%、水分12.
2重量%、その他の助剤0.1重量%
アミン系シランカップリング剤(商品名:サイラエースS330) 1重量部
(注:この配合におけるノボラック型フェノール樹脂の配合量は80重量部×0.86=68.8重量部、レゾール型フェノール樹脂の配合量は20重量部×0.80=16重量部である。従って、実施例1においては、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対する比率として換算するとレゾール型フェノール樹脂が約23.2重量部配合されている。)
ペーストの配合比率
接着剤組成物 100重量部
ニッケルが被覆されたダイヤモンド砥粒(平均粒径:10〜20μm) 80重量部
フィラー(炭化珪素粉末;#8000) 50重量部
溶剤(o−クレゾール) 150重量部
【0048】
[実施例2]
レジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物の配合比率
ノボラック型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRP−5417) 90重量部
レゾール型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRL−131) 10重量部
アミン系シランカップリング剤(商品名:サイラエースS330) 1重量部
ペーストの配合比率
接着剤組成物 100重量部
ニッケルが被覆されたダイヤモンド砥粒(平均粒径:10〜20μm) 80重量部
フィラー(炭化珪素粉末;#8000) 50重量部
溶剤(o−クレゾール) 170重量部
(注:実施例2においては、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対する比率として換算するとレゾール型フェノール樹脂が約10.3重量部配合されている。)
【0049】
[比較例1]
レジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物の配合比率
ノボラック型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRP−5417) 93重量部
レゾール型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRL−131) 7重量部
アミン系シランカップリング剤(商品名:サイラエースS330) 1重量部
ペーストの配合比率
接着剤組成物 100重量部
ニッケルが被覆されたダイヤモンド砥粒(平均粒径:10〜20μm) 80重量部
フィラー(炭化珪素粉末;#8000) 50重量部
溶剤(o−クレゾール) 180重量部
(注:比較例1においては、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対する比率として換算するとレゾール型フェノール樹脂が約7重量部配合されている。)
【0050】
[比較例2]
レジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物の配合比率
ノボラック型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRP−5417) 70重量部
レゾール型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRL−131) 30重量部
アミン系シランカップリング剤(商品名:サイラエースS330) 1重量部
ペーストの配合比率
接着剤組成物 100重量部
ニッケルが被覆されたダイヤモンド砥粒(平均粒径:10〜20μm) 80重量部
フィラー(炭化珪素粉末;#8000) 50重量部
(注:比較例2においては、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対する比率として換算するとレゾール型フェノール樹脂が約40重量部配合されている。)
【0051】
[比較例3]
レジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物の配合比率
ノボラック型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRP−5417) 80重量部
レゾール型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRL−131) 20重量部
ペーストの配合比率
接着剤組成物 100重量部
ニッケルが被覆されたダイヤモンド砥粒(平均粒径:10〜20μm) 80重量部
フィラー(炭化珪素粉末;#8000) 50重量部
溶剤(o−クレゾール) 150重量部
【0052】
実施例、比較例で使用されるワイヤ:φ100μm鋼線
【0053】
実施例、比較例におけるワイヤーソーの生産ライン

芯線繰出し機→塗布装置→加熱装置→巻取り機・・・→再加熱炉

芯線繰出し機:巻き取られた形状の芯線を繰り出す通常の繰出し機である。
塗布装置:ウォータージェット形状のダイスにより芯線表面に均質にペーストを塗布した。
加熱装置:ペーストが塗布された芯線を加熱する装置である。この装置として、石英ガラス管にタングステンフィラメントを封じ込んだ棒状ランプを用いたアルバック理工株式会社製の赤外線ゴールドイメージ炉:型式RHL−E410−N(加熱長265mm、最大出力4kw)を3個直列で用いた。
図2にこの棒状ランプのエネルギー分光分布を示す。
巻取り機:ワイヤーソーを巻取る通常の巻き取り機である。

イメージ炉:設定温度725〜750℃。
芯線の走行速度:1200mm/sec
ペーストの塗布量:0.01g/m

再加熱炉 巻取り機で巻取られたワイヤー(接着剤、砥粒付き)を収納して加熱する加熱炉である。

再加熱炉における加熱 180℃×2時間
【0054】
比較例1においては、接着剤組成物の硬化速度がおそく、イメージ炉通過後に接着剤組成物の硬化が不完全であり、再加熱炉で加熱後にワイヤー同士が膠着して解繊ができなかった。実施例1,2においては、再加熱炉で加熱後にワイヤー同士が膠着することなく、解繊(巻き返し)が順調に行えた。
【0055】
比較例2においては、粘度調整用の溶剤を用いないにもかかわらず、ペーストの粘度が2Pa・Sと低く、(芯線の走行速度:1200mm/secにおいて)目標の塗布量(0.01g/m)が得られなかった。
【0056】
実施例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(a1)、実施例2で得られたレジンボンドワイヤーソー(a2)の切削性能を,接着剤として光硬化性樹脂を用いたレジンボンドワイヤーソー(b1)、比較例3得られたレジンボンドワイヤーソー(b2)と比較した。
切削性能試験
1cm立方の多結晶シリコンピースを水平に張られたワイヤの下方にセットし、ピースを下降移動させて切削し切削深さを測定した。
切削条件
ワイヤ運動:振幅80mm、速度400mm/minの往復動
切削時間:断線まで
ピースの下降速度:0.9mm/min
表1に切削性能試験の結果を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から、実施例1、2で得られたレジンボンドワイヤーソー(a1)、(a2)の切削深さが光硬化性樹脂を用いたレジンボンドワイヤーソー(b1)、比較例3得られたレジンボンドワイヤーソー(b2)に比べて深いという結果が得られた。
【0059】
また、実施例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(a1)を用いた切削(A1)
電着法によるワイヤーソー(砥粒:ニッケルメッキしたダイヤモンド粒、芯線径100μm)(c)を用いた切削(B)
により、シリコンインゴットから多数のウエハーを切り出したときのウエハーの厚みの分布と、ウエハー内の厚みの偏差(最大厚みと最小厚みの差)の分布を図3図4のグラフにそれぞれ示す。図3図4の縦軸はウエハーの枚数、図3の横軸はウエハーの厚み、図4の横軸はウエハー内の厚みの偏差である。
切削条件:
装置:マルチワイヤーソー装置:コマツNTC型 型式;PV500D
ワイヤーソー線速:1000m/min
切込み速度(シリコンインゴットへ単位時間当たり切り込ませるワイヤーの切り込み深さ):0.5mm/min
ワーク:多結晶シリコンインゴット;156mm角
図3図4より、レジンボンドワイヤーソー(a1)を用いると、電着法によるワイヤーソー(c)を用いた場合に比べ多数のウエハーを切り出したときのウエハーの厚みのバラツキ、ウエハー内の厚みの偏差、厚みの偏差のばらつきのいずれも小さく、品質の安定した生産ができることがわかった。
【0060】
表2に、実施例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(a1)を用いた切削(A1)
実施例2で得られたレジンボンドワイヤーソー(a2)を用いた切削(A2)
電着法によるワイヤーソー[砥粒:ニッケルメッキしたダイヤモンド粒(粒径10〜20μ
m)]、芯線径100μm)(c)を用いた切削(B)
遊離砥粒法(SiC砥粒 #5000を使用)による切削(C)
により、シリコンインゴットからウエハー(170μm相当にピッチを設定)を切り出したときのウエハーのJIS B 0601に準拠した算術平均表面粗さ(Ra)、最大高さ(Ry)を示す。表2の数値は3か所の測定値の平均値である。切削条件は図3図4の場合と同様である。
【0061】
【表2】
【0062】
表2より、レジンボンドワイヤーソー(a1)、レジンボンドワイヤーソー(a2)を用いると、電着法による切削や遊離砥粒法による切削に比べて平滑なウエハーを得ることができる。
【0063】
次に、切削(A1)、切削(A2)、切削(B)、切削(C)により表2における切削条件と同様の条件で切り出したウエハー表面の損傷層(加工変質層)の厚さについてSEM断面観察を用いた測定結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3より、レジンボンドワイヤーソー(a1)、レジンボンドワイヤーソー(a2)を用いると、電着法による切削や遊離砥粒法による切削に比べて切削に伴う熱や応力歪などによるウエハーの損傷が少なく、損傷層の薄いウエハーを得ることができる。
【0066】
こうした特徴は、ソーラーセルの高い発電効率の達成にも関わる。つまり、脆性破壊を伴い進行する損傷層(加工変質層)の完全な削除は、電子もしくは正孔(キャリヤ)の長寿命化という点では必要不可欠な作業であり、本発明により得られるレジンボンドワイヤーソーは、損傷層(加工変質層)が少ないと言う点でセル工程前の工程の軽減に寄与し、0.12〜0.15%の発電効率の向上に寄与することが確認された。
【0067】
表4に、切削(A1)、切削(A2)、切削(B)により表2における切削条件と同様の条件で切り出したウエハーの3点曲げによる強度の測定結果を示す。ただし、シリコンインゴットとして単結晶シリコンのインゴットを用い、かつ、測定試料の切断方向が交互にクロスするよう重ねた。
測定条件
試料:ウエハー5枚重ね
曲げスパン長:30mm
クロスヘッド速度:5mm/min
【0068】
【表4】
【0069】
表4より、レジンボンドワイヤーソー(a1)、レジンボンドワイヤーソー(a2)を用いると、電着法による切削や遊離砥粒法による切削に比べて曲げ強度の高いウエハーを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により得られるレジンボンドワイヤーソーは、シリコン、砒化ガリウム、銅・イ−ンジュウム・セレン(CIS)などの単結晶ないしは多結晶インゴットから、TFT用基板、太陽電池用基板や化合物半導体基板などに用いるウエハーを同時に効率良く切り出すために必要不可欠なツールである。また、磁性体、水晶、ガラス、サファイアなどから光学機器用基板や電子機器用基板などに用いるウエハーを同時に効率良く切り出すために必要不可欠なツールである。
図1
図2
図3
図4