(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、重合度5以上の分岐糖類が苦味・渋味の抑制に極めて有効であるとともに食品本来の味に悪影響を与えないことを見いだした。本発明はこの知見に基づくものである。
【0008】
すなわち、本発明は、苦味・渋味の抑制など食品の風味改善に有効であるとともに食品本来の味に悪影響を与えない食品用風味改善剤および風味が改善された食品の製造方法を提供することを目的とする。本発明は、また、医薬品の不快な味のマスキングに有効な製剤用マスキング剤および不快な味がマスキングされた医薬品の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)重合度5〜10の分岐糖類またはその還元物を含んでなる、食品用風味改善剤または製剤用マスキング剤。
(2)風味改善が、苦味および/または渋味の低減である、(1)に記載の風味改善剤。
(3)分岐糖類の重合度が5〜8である、(1)に記載の風味改善剤。
(4)分岐糖類が、少なくとも非還元末端に分岐構造を有するグルカンである、(1)〜(3)のいずれか一項に記載の風味改善剤または製剤用マスキング剤。
(5)分岐構造が、α−1,4−グルコシド結合以外のグルコシド結合により結合した1個以上のグルコース残基により構成される、(4)に記載の風味改善剤または製剤用マスキング剤。
(6)重合度5〜10の分岐糖類またはその還元物を食品に添加することを含んでなる、風味が改善された食品の製造方法。
(7)重合度5〜10の分岐糖類またはその還元物を苦味および/または渋味を有する食品に添加することを含んでなる、苦味および/または渋味が低減された食品の製造方法。
(8)苦味および/または渋味を有する食品が、ポリフェノール類含有食品である、(7)に記載の苦味および/または渋味が低減された食品の製造方法。
(9)ポリフェノール類含有食品が、茶系飲料、果実飲料、炭酸飲料、野菜飲料、スポーツ飲料、乳性飲料、アルコール飲料、その他の飲料、アイスクリーム、ゼリー、ムース、飴菓子、ガム、フィリング、健康食品、またはサプリメントである、(8)に記載の苦味および/または渋味が低減された食品の製造方法。
(10)重合度5〜10の分岐糖類またはその還元物を、医薬品に添加することを含んでなる、不快な味がマスキングされた医薬品の製造方法。
(11)風味改善に有効な量の重合度5〜10の分岐糖類またはその還元物を含んでなる、食品。
(12)ポリフェノール類の苦味および/または渋味の低減に有効な量の重合度5〜10の分岐糖類またはその還元物を含んでなる、ポリフェノール類含有食品。
(13)医薬品の不快な味のマスキングに有効な量の重合度5〜10の分岐糖類またはその還元物を含んでなる、医薬品。
【0010】
重合度5以上の分岐糖類は、苦味や渋味などの不快な味を効果的に抑制できる。また、重合度が10以下の分岐糖類はデンプン原料にα−アミラーゼを作用させ、次いで、α−グルコシダーゼを作用させることにより簡便に調製することができる。従って、重合度5〜10(特に、重合度5〜8)の分岐糖類は風味改善を目的とした食品添加剤や不快な味のマスキングを目的とした製剤用添加剤として有用である。また、重合度5〜10(特に、重合度5〜8)の分岐糖類またはその還元物は低甘味であることから、低甘味が要求される食品の風味改善剤としても有利である。
【0011】
本発明による風味改善剤および製剤用マスキング剤の有効成分である「分岐糖類」は、少なくとも非還元末端に分岐構造を有するグルカンを意味し、典型的には、直鎖状グルカンと分岐構造とからなるグルカンであって、少なくとも直鎖状グルカンの非還元末端に分岐構造が導入されたグルカンである。ここで、「直鎖状グルカン」とは、単一のグルコシド結合(例えば、α−1,4−グルコシド結合)によりグルコース分子が結合して構成された直鎖状のグルカンを意味する。
【0012】
本発明において「分岐糖類」の具体例としては、α−1,4−グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度5〜10のグルカンが挙げられ、更なる具体例としては、α−1,4−グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、その直鎖状グルカンの非還元末端のみに導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度5〜10のグルカンが挙げられる。
【0013】
本発明による風味改善剤および製剤用マスキング剤の有効成分である「分岐糖類」は、非還元末端に導入された分岐構造に加えて、グルカンの中間部分に分岐構造を有していてもよい。このようなグルカンの中間部分に存在する分岐構造はデンプン等の製造原料に由来するものである。
【0014】
本発明において「分岐構造」とは、α−1,4−グルコシド結合以外のグルコシド結合により直鎖状グルカンに結合した1個以上のグルコース残基からなるグルカン残基を意味する。α−1,4−グルコシド結合以外のグルコシド結合としては、α−1,6−グルコシド結合、α−1,3−グルコシド結合、α−1,2−グルコシド結合が挙げられる。
【0015】
後述するように、本発明において用いる分岐糖類の製造において糖転移作用を有する酵素を選択することによって、非還元末端に導入される分岐構造を変化させることができる。分岐構造のグルカン残基を構成するグルコース残基の個数は本発明において用いられる分岐糖類の重合度を満たす限り特に限定されないが、好ましくは、1〜数個、より好ましくは、1〜4個、1〜3個、または1〜2個とすることができる。
【0016】
分岐構造が2糖単位で構成されたグルカン残基の場合には、その分岐構造としてはコージビオース、ニゲロース、マルトース、イソマルトース構造が挙げられ、より具体的には、直鎖状グルカンの非還元末端にα−1,4−結合以外の結合様式でコージビオース、ニゲロース、マルトース、またはイソマルトースが結合した構造が挙げられる。分岐構造が3糖以上のグルカン残基の場合には、その分岐構造としては、イソマルトトリオース、ニゲロトリオースなど単一なグルコシド結合のみから構成されるグルカンや、パノースなど複数のグルコシド結合により構成されたグルカンが挙げられ、より具体的には、直鎖状グルカンの非還元末端にα−1,4−結合以外の結合様式で、イソマルトトリオース、ニゲロトリオースなど単一なグルコシド結合のみから構成されるグルカンや、パノースなど複数のグルコシド結合により構成されたグルカンが結合した構造が挙げられる。
【0017】
本発明において「還元末端」とは、還元性を示す糖残基を意味する。本発明において「非還元末端」とは、還元性を示さない糖残基、すなわち、「還元末端」以外の末端糖残基を意味する。
【0018】
本発明においてグルカンの「中間部分」とは、末端糖残基以外の糖残基を意味する。
【0019】
本発明において「重合度」とは、グルカンを構成するグルコース残基の個数を指し、直鎖状グルカンを構成するグルコース残基の個数のみならず、分岐構造を構成するグルコース残基の個数を含む。分岐糖類の重合度は、高速液体クロマトグラフィー (HPLC)法によって測定することができる。
【0020】
本発明による風味改善剤および製剤用マスキング剤の有効成分である「分岐糖類」の重合度は5〜10であり、好ましくは重合度5〜8または重合度5〜7の分岐糖類を用いることができる。
【0021】
本発明において「還元物」とは、糖の還元末端のグルコシル基のアルデヒド基が還元され、水酸基となっているものを言う。
【0022】
糖の還元物を得る方法は当業者に周知であり、使用可能な還元方法を例示すれば、ヒドリド還元剤を用いる方法、プロトン性溶媒中の金属を用いる方法、電解還元方法、接触水素化反応方法等が挙げられる。本発明においては、少量の還元物を調製する場合にはヒドリド還元剤を用いる方法が簡便且つ特殊な装置を必要とせず便利であり、一方で、工業的に大規模に実施する場合には、経済性優れ、副生成物も少ないという点から、接触水素化反応を用いる方法が好ましい。
【0023】
接触水素化反応とは、触媒の存在下、不飽和有機化合物の二重結合部に水素を添加する反応であり、一般に水添反応とも言われている。本発明による還元物の製造方法を具体的に説明すると、本発明において用いる分岐糖類を水に溶解し、そこにラネーニッケル触媒を適量加え、水素ガスを添加し、高温条件下で還元する。次に、脱色・脱イオン処理して、分岐糖類還元糖組成物を得る。
【0024】
接触水素化反応において使用し得る触媒としては、公知の水添触媒なら特に限定されないが、例えば、ラネーニッケル、還元ニッケル、珪藻土、アルミナ、軽石、シリカゲル、酸性白土などの種々の担体に担持したニッケル−担体触媒などのニッケル触媒;ラネーコバルト、還元コバルト、コバルト−担体触媒などのコバルト触媒;ラネー銅、還元銅、銅−担体触媒などの銅触媒;パラジウム黒、酸化パラジウム、コロイドパラジウム、パラジウム−炭素、パラジウム−硫酸バリウム、パラジウム−酸化マグネシウム、パラジウム−アルミナなどのパラジウム触媒;白金黒、コロイド白金、酸化白金、硫化白金、白金−炭素などの白金−担体触媒等の白金触媒;コロイドロジウム、ロジウム−炭素、酸化ロジウムなどのロジウム触媒;ルテニウム触媒などの白金族触媒;酸化二レニウム、レニウム−炭素などのレニウム触媒;銅クロム酸化物触媒;三酸化モリブデン触媒;酸化バナジウム触媒;酸化タングステン触媒;銀触媒などが挙げられる。これらの触媒の内では、ラネーニッケル、還元ニッケル、ニッケル珪藻土を用いることが好ましく、より好ましくは、ラネーニッケルである。
【0025】
また、水素の圧力は通常10〜250kg/cm
2、好ましく50〜200kg/cm
2の範囲である。また、反応温度は触媒量、溶媒種別により異なるが、通常80〜200℃の範囲であることが好ましく、90〜160℃がより好ましい。
【0026】
なお、本明細書において単に「分岐糖類」というときは、還元物をも含む意味で用いられるものとする。
【0027】
本発明による風味改善剤および製剤用マスキング剤の有効成分である「分岐糖類」は、デンプン原料に、α−アミラーゼを作用させ、次いで、糖転移作用を有する酵素を作用させることにより製造することができる。
【0028】
デンプン原料にα−アミラーゼを作用させることにより、デンプン主鎖のα−1,4−結合がランダムに加水分解される。この加水分解反応はα−アミラーゼの酵素反応が進行する温度で実施することができ、通常、85℃付近までの温度範囲で実施することができる。好適な反応温度は、30〜60℃である。また、この加水分解反応は、酵素反応が進行するpHで実施することができ、通常、pH4.5〜9.0の範囲で実施することができる。好適な反応pHは、pH5.5〜7.0の範囲である。
【0029】
次いで、糖転移作用を有する酵素を作用させることにより、低分子化されたデキストリンの非還元性末端に糖転移作用を有する酵素(例えば、α−グルコシダーゼ)が作用してα−1,4−結合を切断し、グルコシル基を他のあるいは同一の非還元性末端のグルコシル基にα−1,6−結合、α−1,2−結合、あるいはα−1,3−結合で付加する。これにより非還元性末端に分岐構造を有する糖類が生じる。この酵素反応は、糖転移が進行する温度で実施することができ、通常、65℃付近までの温度範囲で実施することができる。好適な反応温度は、30〜55℃である。また、この酵素反応は、糖転移が進行するpHで実施することができ、通常、pH3.0〜8.5の範囲で実施することができる。好適な反応pHは、pH4.0〜6.5の範囲である。
【0030】
酵素の使用量と反応時間とは密接に関係しており、目的とする酵素反応の進行により適宜反応時間を調節することができる。
【0031】
本発明において用いられる分岐糖類の製造では、デンプン原料としてデンプン液化液を用いることができる。原料として用いられるデンプン液化液のデンプン濃度は、酵素反応の効率やデンプンの溶解度等の観点から、10〜45質量%とすることができる。但し、デンプン部分分解物を原料とする場合は基質濃度が45質量%を越えても反応を良好に進行させることができる。デンプン液化液のDEは、通常DE2〜25の範囲とすることが好ましく、より好ましくはDE3〜10の範囲である。
【0032】
酵素反応に用いられるα−アミラーゼの添加量は、反応効率および製造コストの観点から、対基質(固形)1g当たり0.1〜100単位とすることができる。ここで、α−アミラーゼの酵素単位は、JIS K7001
-1990工業用アミラーゼの液化力試験法により求めることができる。
【0033】
酵素反応に用いられる糖転移作用を有する酵素のうちα−グルコシダーゼの添加量は、反応効率および製造コストの観点から、対基質(固形)1g当たり0.01〜30単位とすることができる。ここで、α−グルコシダーゼ1単位とは1分間に1μmolのマルトースを加水分解するのに必要な酵素量をいう。
【0034】
α−グルコシダーゼ以外の糖転移作用を有する酵素の添加量については、酵素反応や反応条件は周知であることから、当業者であれば、α−グルコシダーゼの添加量に従ってその添加量を決定できる。
【0035】
製造原料となるデンプンの由来は特に限定されないが、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米デンプン、餅米デンプン、小麦デンプン、サゴヤシデンプンなどの地上デンプンや、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン、タピオカ澱デンプン、くずデンプンなどの地下デンプンを用いることができる。さらに、デンプンから得られたアミロース、アミロペクチン、デンプン部分分解物などを原料とすることも可能である。これらのデンプンは液化あるいは糊化して本発明において用いられる分岐糖類の製造方法に使用することができる。例えば、デンプンにアミラーゼなどの液化酵素を作用させて得られたデンプン液化液を本発明において用いられる分岐糖類のデンプン原料として用いることができる。デンプンの液化の方法や糊化の方法は当業者に周知であり、いずれの方法をも用いることができる。
【0036】
本発明において用いられる分岐糖類の製造に用いる酵素は、分岐糖類を生成できる限り、精製酵素であっても粗酵素であっても良く、また、遊離の酵素であっても、固定化された酵素であってもよい。固定化酵素の場合、反応の形式は、バッチ式、半連続式および連続式のいずれでもよい。固定化方法としては、担体結合法、(例えば、共有結合法、イオン結合法、あるいは物理的吸着法)、架橋法あるいは包括法(格子型あるいはマイクロカプセル型)など、公知の方法を使用することができる。
【0037】
本発明において用いられる分岐糖類の製造に用いる「α−アミラーゼ」は、市販のものを用いても、微生物から単離したものを用いてもよい。単離源となる微生物は、天然由来の微生物に加えて、α−アミラーゼ産生能を有する組換え微生物や、天然由来の微生物を変異させた変異株であってもよい。「α−アミラーゼ」の微生物起源は特に限定されないが、例えば、バチルスサチルス (
Bacillus subtilis)、ジオバチルスステアロサーモフィルス (
Geobacillus stearothermophilus)、 アスペルギルスオリゼ (
Aspergillus oryzae)、バチルスアミロリクエファシエンス(
Bacillus amyloliquefaciens)、大麦由来のものを用いることができる。
【0038】
本発明において用いられる分岐糖類の製造に用いる「糖転移作用を有する酵素」としては、α−グルコシダーゼ、6−α−グルコシルトランスフェラーゼ、およびデキストリンデキストラナーゼが挙げられる。
【0039】
α-グルコシダーゼは、市販のものを用いても、微生物から単離したものを用いてもよい。単離源となる微生物は、天然由来の微生物に加えて、α−グルコシダーゼ生成酵素産生能を有する組換え微生物や、天然由来の微生物を変異させた変異株であってもよい。α−グルコシダーゼの微生物起源は特に限定されないが、例えば、アスペルギルス ニガー (
Aspergillus niger) およびアクレモニウム エスピー (
Acremonium sp.) 由来のものを用いることができる。
【0040】
デンプン液化液にα−アミラーゼ、糖転移作用を有する酵素を順に作用させると、反応物中に分岐糖類を得ることができる。反応物中に存在する分岐糖類の非還元末端に分岐構造が導入されているかは、マルトデキストリンやデンプンの非還元性末端から2糖単位でα−1,4−結合を加水分解するβ−アミラーゼにより加水分解を受けないことにより確認することができる。使用できるβ−アミラーゼは、特に限定されないが、例えば、大豆由来のβ−アミラーゼを使用することができる。なお、β−アミラーゼと同様にマルトデキストリンやデンプンの非還元性末端よりα−1,4−結合を加水分解するグルコアミラーゼを使用することも可能ではあるが、この酵素はα−1,6−結合分解能も有するため、β−アミラーゼを使用することが好ましい。
【0041】
本発明において用いられる分岐糖類の製造では、糖転移作用を有する酵素を選択することにより、所望の分岐構造を非還元末端に導入することができる。例えば、アスペルギルスニガー由来のα−グルコシダーゼ、デキストリンデキストラナーゼあるいは6−α−グルコシルトランスフェラーゼを使用すると、α−1,4−グルコシド結合により構成されたグルカン鎖の非還元末端にα−1,6−グルコシド結合からなる分岐鎖を導入することができ、アクレモニウム エスピー由来のα−グルコシダーゼを使用するとα−1,3−グルコシド結合からなる分岐鎖を導入することができる。
【0042】
本発明において用いられる分岐糖類の製造では、糖転移酵素としてアクレモニウム エスピー由来のα−グルコシダーゼを使用すると、グルコース残基がα−1,3−グルコシド結合により非還元末端に結合した分岐糖類を製造することができる。この場合、分岐糖類が有する分岐構造は、グルコースがα−1,3−結合により分岐した構造、マルトースがα−1,3−結合により分岐した構造、ニゲロースがα−1,3−結合により分岐した構造、マルトトリオースがα−1,3−結合により分岐した構造、マルトシル−α−1,3−グルコースがα−1,3−結合により分岐した構造、ニゲロシル−α−1,4−グルコースがα−1,3−結合により分岐した構造、ニゲロトリオースがα−1,3−結合により分岐した構造が挙げられる。4糖以上の分岐構造が結合する場合には、その分岐構造は、基質の直鎖状グルカンの非還元末端にα−1,3−結合により結合するグルカンであって、分岐構造を構成するグルコシド結合がα−1,4−結合および/またはα−1,3−結合からなるグルカンであってもよい。
【0043】
本発明において用いられる分岐糖類の製造では、また、糖転移酵素としてアスペルギルス ニガー由来のα−グルコシダーゼを使用すると、グルコース残基がα−1,6−グルコシド結合により非還元末端に結合した分岐糖類を製造することができる。この場合、分岐糖類が有する分岐構造は、グルコースがα−1,6−結合により分岐した構造、マルトースがα−1,6−結合により分岐した構造、イソマルトースがα−1,6−結合により分岐した構造、マルトトリオースがα−1,6−結合により分岐した構造、イソパノースがα−1,6−結合により分岐した構造、パノースがα−1,6−結合により分岐した構造、イソマルトトリオースがα−1,6−結合により分岐した構造が挙げられる。4糖以上の分岐構造が結合する場合には、その分岐構造は、基質の直鎖状グルカンの非還元末端にα−1,6−結合により結合するグルカンであって、分岐構造を構成するグルコシド結合がα−1,4−結合および/またはα−1,6−結合からなるグルカンであってもよい。なお、アスペルギルス ニガー由来のα−グルコシダーゼを用いた場合はごく微量ではあるがα−1,2−結合やα−1,3−結合が分岐構造中に含まれることがある。
【0044】
糖転移酵素として6−α−グルコシルトランスフェラーゼを使用した場合には、直鎖状グルカンの非還元末端にα−1,6−結合によりグルコースが1分子結合した分岐糖類が得られる。
【0045】
糖転移酵素としてデキストリンデキストラナーゼを使用した場合には、直鎖状グルカンの非還元末端にグルコース1〜6残基からなる分岐構造がα−1,6−結合により結合した分岐糖類が得られる。この分岐構造のグルカンは主としてα−1,6−結合から構成されるが、わずかにα−1,4−結合が含まれることがある。
【0046】
本発明において用いられる分岐糖類の製造では、酵素反応により得られた生成物を、そのまま本発明による風味改善剤や製剤用マスキング剤とすることができる。また、必要に応じて、酵素反応により得られた生成物を遠心分離あるいは濾過等により不溶物を除去し、水溶性画分を濃縮することで、重合度5〜10の分岐糖類を含有する溶液を得ることもできる。あるいは、必要に応じて活性炭により脱色させたもの、適当なイオン交換樹脂によりイオン性成分を除去したものを濃縮してもよい。保存性やその後の用途においては、脱色、イオン除去したものを微生物の繁殖が問題とならない程度の水分活性となるまで濃縮することが好適である。または、用途によっては利用しやすいように、乾燥し、粉末として得ることもできる。乾燥は、通常、凍結乾燥あるいは噴霧乾燥やドラム乾燥などの方法が利用できる。乾燥物は、必要により粉砕することが望ましい。
【0047】
本発明の酵素反応により得られる生成物は、重合度5〜10の分岐糖類と共に、重合度4以下の糖類または分岐糖類、重合度9以上の糖類または分岐糖類、限界デキストリン、あるいはこれらの混合物を含有している。この生成物はそのまま後述するような食品などの用途に用いることができるが、必要に応じてこれらの成分を除去してもよい。糖類の単離・精製方法および糖類の分離・除去方法としては、ゲルろ過クロマトグラフィー、カーボン−セライトカラムクロマトグラフィー、強酸性陽イオン交換カラムクロマトグラフィーなど当業者に周知の糖類の精製方法を使用できる。なお、本発明の酵素反応により得られる生成物には、デンプン原料に由来する分岐構造を非還元末端に加えて直鎖状グルカンの中間部分、すなわち、末端残基以外の糖残基、に有するグルカンが僅かに含まれており、そのような分岐糖類も本発明の範囲内であることはいうまでもない。
【0048】
本発明の酵素反応により得られる生成物を食品の風味改善や医薬品の不快な味のマスキングに用いる場合には、生成物中の分岐糖類の含有量は風味改善効果やマスキング効果が発揮される限り特に限定されるものではなく、例えば、生成物中の分岐糖類の含有量は、固形分当たり10質量%以上(例えば、10〜80質量%)、好ましくは、20質量%以上(例えば、20〜70質量%)とすることができる。
【0049】
本発明の酵素反応により得られる生成物を食品の風味改善や医薬品の不快な味のマスキングに用いる場合には、その生成物に重合度4以下の糖類および分岐糖類が含まれていてもよいが、後述するように味のバランス等の観点から、重合度4以下の糖類および分岐糖類の一部または全部をゲルろ過クロマトグラフィー、カーボン−セライトカラムクロマトグラフィー、強酸性陽イオン交換カラムクロマトグラフィーなど周知の方法により分離・除去してもよい。
【0050】
後記実施例に記載したように、重合度5〜10の範囲内の分岐糖類は、苦味・渋味抑制効果を有するとともに、低甘味という特徴を有する。従って、重合度5〜10の分岐糖類を食品に添加することにより、食品本来の風味を損なわずに食品の風味を改善できる。また、重合度5〜10の分岐糖類を医薬品に添加することにより、医薬品の不快な味をマスキングすることができる。従って、本発明によれば、重合度5〜10の分岐糖類またはその還元物を含んでなる、風味改善剤および製剤用マスキング剤が提供される。
【0051】
ここで、風味改善としては、苦味および/または渋味の低減、酸味の低減、エグ味の低減が挙げられる。
【0052】
また、医薬製剤においてマスキングあるいは矯正される味としては、有効成分や他の製剤用添加剤に特有の不快な味(例えば、苦味、渋味、酸味、エグ味)が挙げられる。
【0053】
分岐糖類は、苦味および/または渋味を効果的に低減することから、本発明による風味改善剤は、好ましくは、苦味および/または渋味の低減剤として用いることができる。
【0054】
特に、分岐糖類は、ポリフェノール類に起因する苦味および/または渋味を効果的に低減することから、本発明による風味改善剤は、好ましくは、ポリフェノール類の苦味および/または渋味の低減剤として用いることができる。
【0055】
ここで、ポリフェノール類とは分子内に複数のフェノール性ヒドロキシル基を持つ成分を意味し、例えば、カテキン、アントシアニン、クロロゲン酸などが挙げられる。ポリフェノール類には生体に好ましい様々な生理機能が知られているが、ほとんどのポリフェノール類は強い苦味や渋味を呈するため、高濃度の摂取が困難である。分岐糖類はポリフェノール類に起因する苦味および/または渋味を効果的に低減することから、本発明による風味改善剤はポリフェノール類の高濃度摂取を可能にする点で有利である。
【0056】
分岐糖類また、低甘味であることから、本発明による風味改善剤を食品に添加した場合でも、食品本来の風味を損なわずに風味を改善できる点で有利である。
【0057】
分岐糖類を添加することができる食品は特に限定されないが、例示すれば、茶系飲料、果実飲料、炭酸飲料、野菜飲料、スポーツ飲料、乳性飲料、アルコール飲料、その他の飲料や、アイスクリーム、氷菓、ゼリー、ムース、飴菓子、ガム、フィリング、健康食品、サプリメント、パン類、クッキー類、米飯、ケーキ類、麺類、冷凍食品、凍結飲料が挙げられる。また、高麗人参やウコンなどの生薬成分を含有する食品にも分岐糖類を添加することができる。
【0058】
食品への分岐糖類の添加方法は当業者であればその食品の製造方法に従って適宜選択することができ、食品の製造原料に予め配合して製造しても、食品の製造工程中あるいは製造後に配合して製造してもよい。
【0059】
分岐糖類を添加することができる医薬品は特に限定されないが、例示すれば、経口投与用製剤が挙げられ、好ましくは、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、液剤、シロップ剤(ドライシロップ剤を含む)、カプセル剤、トローチ剤などである。分岐糖類を医薬品に添加することにより、有効成分や他の添加成分の味を矯正あるいはマスキングできるとともに、賦形剤としても利用できる点で有利である。
【0060】
医薬製剤の製造方法や医薬品の原料となる製剤用添加剤は当業者に周知であり、分岐糖類を、有効成分や他の製剤用添加剤と混合等することにより、常法に従って製造することができる。
【0061】
本発明によれば、重合度5〜10の分岐糖類を食品に添加することを含んでなる、風味の改善方法および風味が改善された食品の製造方法が提供される。
【0062】
本発明によれば、また、重合度5〜10の分岐糖類を苦味および/または渋味を有する食品に添加することを含んでなる、苦味および/または渋味の低減化方法および苦味および/または渋味が低減された食品の製造方法が提供される。前述のように、重合度5〜10の分岐糖類は、ポリフェノール類に由来する苦味および/または渋味を効果的に低減することから、苦味および/または渋味を有する食品としては、ポリフェノール類含有食品が挙げられる。
【0063】
ポリフェノール類含有食品としては、ポリフェノール類を含有するものであれば特に限定されず、元々ポリフェノール類を含有している食品はもちろんのこと、ポリフェノール類が添加された食品も該当する。また、食品の形態も特に限定されず、固形はもちろんのこと、半固形、液状のものも含まれる。ポリフェノール類含有食品の具体例としては、茶系飲料(緑茶飲料、紅茶飲料、ウーロン茶飲料など)、果実飲料、炭酸飲料、野菜飲料、スポーツ飲料、乳性飲料、アルコール飲料などの飲料や、アイスクリーム、ゼリー、ムース、飴菓子、ガム、フィリング、健康食品、サプリメントなどが挙げられる。なお、本発明において「食品」とは飲料も含む意味で用いられるものとする。
【0064】
本発明による風味改善剤は、食品に添加して使用できる。従って、本発明の別の面によれば、本発明による風味改善剤を含んでなる食品が提供される。
【0065】
本発明の更に別の面によれば、風味改善に有効な量の重合度5〜10の分岐糖類を含んでなる食品が提供される。
【0066】
この場合、提供される食品は、好ましくは、ポリフェノール類含有食品であってもよく、この場合、ポリフェノール類含有食品はポリフェノール類の苦味や渋味の低減に有効な量の重合度5〜10の分岐糖類を含んでいてもよい。ポリフェノール類含有食品の具体例や好ましい例は前述の通りである。
【0067】
ポリフェノール類含有食品に分岐糖類を使用する場合には、例えば、甘味を必要とする飲食物を対象とする場合には、分岐糖類に砂糖、異性化糖、高甘味度甘味料といった甘味の強い組成物を混合して使用することができる。一方、緑茶飲料や惣菜といった甘味の好まれない飲食物に使用する場合は分岐糖類単独もしくは分岐糖類と多糖やタンパク質、油脂等を混合して使用することができる。
【0068】
本発明による食品の好ましい態様によれば、ポリフェノール類0.13質量%に対して、重合度5〜8の分岐糖類を固形分換算で0.4〜10質量%含有するポリフェノール類含有食品が提供される。本発明による食品の更に好ましい態様によれば、ポリフェノール類を含有する低甘味飲料(例えば、緑茶飲料、紅茶飲料、ウーロン茶飲料等)において、ポリフェノール類0.13質量%に対して重合度5〜8の分岐糖類を固形分換算で0.4〜2質量%含有する低甘味飲料が提供される。
【0069】
本発明による製剤用マスキング剤は医薬品に配合されて使用できる。従って、本発明の別の面によれば、本発明による製剤用マスキング剤を含んでなる医薬品が提供される。
【0070】
本発明によれば、重合度5〜10の分岐糖類を医薬品に添加することを含んでなる、不快な味がマスキングされた医薬品の製造方法が提供される。
【0071】
本発明の更に別の面によれば、重合度5〜10の分岐糖類を含んでなる医薬品が提供される。
【実施例】
【0072】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、本明細書において「固形分」当たりの割合や「固形分」の含有割合に言及した場合には、固形成分の質量に基づいて定められた割合を意味するものとする。
【0073】
実施例1:糖類の製造
(1)分岐糖類含有シラップの製造(試料1)
DE6.5に調整されたコーンスターチ液化液10Lを53℃とし、pH6.0に調整した。これにクライスターゼL1(大和化成社)320μlを添加して、53℃に24時間保持した。これにトランスグルコシダーゼアマノ(天野エンザイム社)2,580 μlを添加して、さらに24時間保持した。得られた反応液を80℃に加温し、クライスターゼL1 300μLを添加し、ヨウ素−デンプン反応が消失するまで保持した。このpHを4.0として酵素を失活させた後、活性炭(精製白鷺)30gを添加して30分間保持した。これを珪藻土(ラジオライト#800 400g)、グラスフィルター、No.2 濾紙(Advantec社)、0.45μmフィルターにて濾過し、イオン交換カラムクロマトグラフィーに供した。これに活性炭(精製白鷺)6gを添加し、60℃に保持した。これを同様に濾過し、減圧下で固形分75%となるまで濃縮した。β−アミラーゼ処理によりグルカンの非還元末端に分岐構造が導入された分岐糖類の含有量を測定したところ、重合度5〜8の分岐糖類を対固形分当たり約26%含有していた。
【0074】
(2)分岐糖類含有シラップ分画品の製造(試料2)
試料1を分画原資とし、カーボン−セライトカラムクロマトグラフィーにより重合度5〜7の分岐糖類を主成分とする糖液を調製した。Brix50に調整した試料1の分岐糖類シラップ240mLをφ10x50cmのカーボン−セライトカラムに供した。水から順次エタノール濃度を上げて低分子糖を溶出させた後、15%エタノールにより重合度5〜7の分岐糖類からなる画分を溶出させて回収した。これをイオン交換樹脂により脱塩した後、濃縮して以後の試験に使用した。β−アミラーゼ処理によりグルカンの非還元末端に分岐構造が導入された分岐糖類の含有量を測定したところ、重合度5〜7の分岐糖類を対固形分当たり約90%含有していた。
【0075】
(3)分岐糖類含有シラップの製造(試料3)
日食フジオリゴG67(日本食品化工社)を強酸性カチオン交換樹脂(XFS−43278)にて分画して得られたマルトヘキサオースおよびマルトヘプタオース高含有画分(マルトテトラオース3.4%、マルトペンタオース9.6%、マルトヘキサオース36.4%、マルトヘプタオース49.2%、他1.4%)を原料とし、分岐糖類を製造した。すなわち、30%(w/v)に調整した上記糖液650mlに1M酢酸緩衝液(pH4.5)6.5mlおよびトランスグルコシダーゼアマノ(天野エンザイム社)174μlを添加し、55℃に40時間保持した。これにβ−アミラーゼ#1500(ナガセケムテックス社)2.15gを添加し、さらに3時間保持することにより、分岐が負荷されなかったマルトオリゴ糖を消化した。
【0076】
次に、得られた糖液中のマルトースおよびグルコースを酵母により消化した。すなわち、3倍程度に希釈した糖液にダイヤイーストYST(キリン協和フーズ社)10gを添加し、室温下で3日間培養した。本操作により糖液中のマルトースおよびグルコースがほぼ完全に消化された。
【0077】
これに活性炭(精製白鷺、キリン協和フーズ)を数グラム添加し、煮沸処理した。これにラヂオライト#800を50g加えて懸濁し、濾紙で濾過した。これをイオン交換カラムクロマトグラフィーに供した後、3μmフィルターにて濾過して50%(w/v)まで濃縮した。
【0078】
得られた糖液をゲル濾過クロマトグラフィーに供し、4糖以下の分岐糖を除去した。クロマトグラフィーでは、TOYOPEARL HW−40(φ5.0x90cm)を担体とし、上記糖液を20ml供した。精製水を移動相に用い、流速を1ml/分に設定した。クロマトグラフィーは、室温下で実施した。15mlずつ分画した画分の純度を確認し、重合度5〜8の分岐糖を含む画分を回収した。
【0079】
試料1〜3の糖組成を測定した。糖組成の測定は、高速液体クロマトグラフィーを用いて行った。高速液体クロマトグラフィーは、カラムにAminex HPX−42A(φ7.8x300mm、バイオラッド社)を用い、カラム温度を75℃とした。移動相には精製水を用い、流速を0.5ml/分とした。糖の検出には示差屈折計を使用した。
【0080】
表1に試料1〜3の糖組成を示した。
【表1】
【0081】
(4)パノース(分岐3糖類)の製造(試料4)
日食パノリッチ(日本食品化工社)を精製水で希釈して20%(w/v)とした水溶液1200mlにダイヤイーストYST26.4g添加し、30℃で90時間浸透培養した。これに上記と同様に活性炭を添加して脱色し、0.45μmフィルターにて濾過して濾液を得た。これをイオン交換クロマトグラフィーに供して脱塩し、50%(w/v)程度まで減圧濃縮した。これをカーボン−セライトカラムクロマトグラフィーに供した。
【0082】
活性炭とセライト545(関東化学社)を等量混合し、水に懸濁したものをガラスカラム(φ10×50cm)に充填し、これに上記サンプルを全量供した。これを水で充分洗浄した後、2%、4%と準じエタノール濃度を上昇させることにより、吸着した糖質を溶出した。その結果、4%エタノール画分はパノースを高含有していたが、2%エタノール画分はパノースと二糖からなる画分であった。このため、2%エタノール画分を再度濃縮して同様にクロマトグラフィーに供し、2、4、6%エタノールで順次溶出させた。その結果、6%エタノール画分がパノース高含有画分として得られた。以上の操作により得られたパノース高含有画分を回収し、試料1と同様に中性糖を精製して純度92.3%のパノースを22.6g得た。
【0083】
(5)イソマルトテトラオース(分岐4糖類)の製造(試料5)
デキストラン(ナカライテスク社)500gを精製水5lに溶解し、100℃まで加熱した。これに濃塩酸250ml添加し、100℃に1時間保持した。これを水酸化ナトリウムにてpH4.0に調整した後、活性炭を数グラム添加して煮沸処理した。これにラヂオライト#800を50g加えて懸濁し、濾紙で濾過した。得られた濾液を減圧下で50%(w/v)程度まで濃縮し、上記と同様にカーボン−セライトカラムクロマトグラフィーに供した。クロマトグラフィーには、182g(固形分で100g)ずつ4回に分けて供した。吸着した糖は、エタノール濃度を高めることにより溶出させた。すなわち、10L溶離液を流すごとに2%ずつエタノール濃度を上昇させた。12%エタノールにより溶出された画分にイソマルトテトラオースが高純度で含まれていたため、本画分を回収し、製造例1と同様に中性糖を精製した。その結果、純度99.3%のイソマルトテトラオースを24.5g得た。
【0084】
試験例1:高濃度カテキン含有緑茶飲料への配合
分岐糖類とシクロデキストリンのカテキンの苦味抑制効果を比較することを目的として、それぞれを添加した高濃度カテキン含有緑茶飲料の味質を比較した。
【0085】
表2に示す配合(質量部)にて原料を混合攪拌し、緑茶飲料を製造した。カテキンはポリフェノンCH(三井農林社)を用い、シクロデキストリンはシクロデキストリンを20%含むシラップ(日食セルデックスSL−20、日本食品化工社)を用いた。試料1、2、シクロデキストリンは固形物換算して配合した。
【表2】
【0086】
10人のパネラーにて、作製した緑茶飲料の官能評価を行い、苦味・渋味および味のバランスについて評価を行った。評価結果を表3に示す。
【表3】
【0087】
表中の苦味・渋味低減効果については、効果あり(○)、効果なし(×)の評価結果で示し、味のバランスについては、非常に良い(◎)、良い(○)、若干改善された(△)、悪い(×)の評価結果で示した。
【0088】
従来から使用されているシクロデキストリンを含有するシラップを使用した場合(配合2)には、苦味・渋味の低減が認められたが、同時に旨味も弱くなったために全体の味のバランスが悪くなった。
【0089】
また、試料1を使用した場合(配合3)には苦味・渋味の低減が顕著に認められた。一方で、配合3は味のバランスが良いとの評価であったが、甘味がやや感じられ、味のバランスが影響を受けていた。
【0090】
一方、試料2を使用した場合(配合4)には、苦味・渋味の低減が顕著に認められるとともに、優れた味のバランスを示した。このことから、分岐オリゴ糖をポリフェノール類などの苦味・渋味抑制に使用する場合には、重合度が5〜8程度の分岐オリゴ糖が優れることが明らかになった。
【0091】
試験例2:緑茶茶飲料への配合
重合度3および4の分岐オリゴ糖であるパノース(試料4)およびイソマルトテトラオース(試料5)と、分岐糖類(試料3)の苦味抑制効果、味のバランスを試験例2により比較した。
【0092】
表4に示す配合(質量部)にて原料を混合攪拌し、緑茶茶飲料を製造した。カテキンはポリフェノンCH(三井農林社)を用いた。試料1、3、4、および5は固形物換算して配合した。
【表4】
【0093】
10人のパネラーにて作製した茶飲料の官能評価を行い、苦味・渋味および味のバランスについて評価を行った。評価結果を表5に示す。
【表5】
【0094】
表中の苦味・渋味低減効果については、非常に効果あり(◎)、効果あり(○)、ほとんど効果なし(△)、効果なし(×)の評価結果で示し、味のバランスについては、非常に良い(◎)、良い(○)、若干改善された(△)、悪い(×)の評価結果で示した。
【0095】
表5に示したように、パノース添加区(配合8)やイソマルトテトラオース添加区(配合9)では無添加区(配合5)と比較して苦味を低減したものの、甘味が強く感じられ、味のバランスが悪くなった。一方、本発明の分岐糖類添加区(配合7)では、パノース添加区(配合8)やイソマルトテトラオース添加区(配合9)と比較して苦味をより低減しただけでなく、味がまろやかで味のバランスを崩すこともなかった。
【0096】
以上の結果より、分岐5〜8糖は、カテキンなどのポリフェノール類の苦味・渋味の抑制や味のバランスにおいて分岐三糖や四糖よりも有効に利用することが可能であることが明らかになった。