【文献】
Y.F.Li,"Ultraviolet photodiode based on p-Mg0.2Zn0.8O/n-ZnO heterojunction with wide response range",Journal of Physics D : Applied Physics,Vol.42, No.10 (2009),105102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1(A)は、基板上に積層されるMg
xZn
1−xO層のMg組成(x)とエッチング速度との関係を示すグラフである。
【0017】
エッチャントとして、王水(HNO
3:HCl=1:3)を用いた場合、及びEDTA-2Na(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム):EDA(エチレンジアミン)=10:1混合溶液(pH=10.6)を用いた場合の、単結晶基板の+C面上に積層されるMg
xZn
1−xO層のMg組成(x)とエッチング速度との関係をそれぞれ示している。
【0018】
エッチャントとして、EDTA-2Na:EDA=10:1混合溶液(pH=10.6)を用いた場合のエッチング速度は、Mg組成(Mg
xZn
1−xOのx)が「0」では、10nm/min以上であるのに対して、Mg組成が「0.2」では0.1nm/min以下となり、Mg組成が「0.4」では0.01nm/min以下となっており、Mg組成が増加すると、エッチング速度が減少することがわかる。
【0019】
また、エッチャントとして、王水(HNO
3:HCl=1:3)を用いた場合のエッチング速度は、Mg組成(Mg
xZn
1−xOのx)が「0」では、100nm/min以上であるのに対して、Mg組成が「0.2」では10nm/min以下となり、Mg組成が「0.4」では1nm/min以下となっており、Mg組成が増加すると、エッチング速度が減少することがわかる。
【0020】
図1(B)は、ZnOとMgOの物性をまとめた表である。
【0021】
ZnOは、結晶構造が六方晶(hexagonal)で、格子定数がa軸で0.324982nm、c軸で0.520661nmであり、バンドギャップ3.37eV、分子量81.41g/mol、密度5.67g/cm
3、融点1975℃、結合エネルギー284kJ/molである。
【0022】
MgOは、結晶構造が立方晶(cubic)で、格子定数がa=0.4213nmであり、バンドギャップ7.8eV、分子量40.32g/mol、密度3.585g/cm
3、融点3250℃、結合エネルギー3964kJ/molである。
【0023】
このように、MgOの結合エネルギーは、ZnOに比べ10倍以上高く、融点も非常に高い。すなわち化学的に安定な物質と言える。このことから、ZnOとMgOの混晶であるMgZnO結晶は、Mg組成が高くなるに従い、化学的な安定性が向上し、エッチャントが酸であるかアルカリであるかにかかわらずエッチング速度が減少したものと推察される。
【0024】
以上のことから、基板上にMg
xZn
1−xO層を積層する際に、下地によりMg組成(x)の高いMg
xZn
1-xO層を形成し、その上に当該下地層よりもMg組成(x)の低いMg
xZn
1-xO層を形成することにより、下地Mg
xZn
1-xO層がエッチング処理におけるストッパー層として機能する。
【0025】
なお、Mg組成xを明示したMg
xZn
1−xOは、0≦x<0.6のときはウルツ鉱構造となり、0.6≦x≦1のときは岩塩構造となる。なお、Mg組成xが0のMg
xZn
1−xOはZnOを表す。
【0026】
なお、ウルツ鉱構造のMg
xZn
1−xOにおいて、Mg組成xを0から0.6まで大きくすると、エネルギーギャップは3.3eV(波長376nm)から4.4eV(波長282nm)まで大きくなる。また、岩塩構造のMg
xZn
1−xOにおいて、Mg組成xを0.6から1.0まで大きくすると、エネルギーギャップは5.4eV(波長230nm)から7.8eV(波長159nm)まで大きくなる。エネルギーギャップが大きくなることにより、受光感度波長が短波長側へシフトする。これを利用することにより波長選択が可能となる。
【0027】
太陽光の紫外線は、UV−A(320〜400nm)、UV‐B(280〜320nm)、及びUV−C(280nm以下)に分類されるが、UV−Cはオゾン層で吸収されて地表まで届かないので、通常の紫外線は、実質的にUV−AとUV‐Bである。UV−Cは、例えば火炎等のみに含まれることになる。なお、エネルギーギャップの大きな岩塩構造のMg
xZn
1−xOを使用することにより、短波長のUV−C(280nm以下)だけを検知する事が可能となる。従って、例えば、UV−Cを含む炎を検知するための火炎センサとして使用可能となる。
【0028】
以下、Mg組成(x)の高いMg
xZn
1-xO層をストッパー層として機能させるZnO系紫外線受光素子の積層構造の製造方法について実施例に沿って説明する。
【0029】
図2(A)〜
図3(C)は、第1の実施例による受光素子の主要な製造工程を示す概略断面図である。第1の実施例では、絶縁性の単結晶基板上に、MBE法にて半導体層を成長させる。
【0030】
まず、
図2(A)に示すように、c面サファイア基板1上に、MgビームとOラジカルビームを同時照射して、MgO層2を厚さ約10nm成長させる。MgO層2の成長条件は、例えば、成長温度650℃、Mgフラックス0.05nm/s、OソースガンのO
2流量2sccm/RFパワー300Wとする。
【0031】
MgO層2は、その上に成長させるZnO系半導体層をZn極性面(+c面)で成長させる極性制御層となる。なお、無極性単結晶基板上方に成長させるZnO系半導体層の極性を、MgO層を介して制御する技術については、特開2005‐197410号公報の「発明を実施するための最良の形態」の項を参照する。
【0032】
次に、
図2(B)に示すように、MgO層2上に、Znビーム及びOラジカルビームを同時照射して、ZnOバッファー層3を厚さ約30nm成長させる。ZnOバッファー層3の成長条件は、例えば、成長温度300℃、Znフラックス0.1nm/s、OソースガンのO
2流量2sccm/RFパワー300Wとする。ZnOバッファー層3の成長後、結晶性及び表面平坦性改善のため、900℃、30分のアニールを施す。
【0033】
続いて、
図2(C)に示すように、ZnOバッファー層3上に、Znビーム、Mgビーム、Oラジカルビーム、及びGaビーム又はAlビームを同時照射して、n型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6、x>y)層4を厚さ約1〜4μm成長させる。n型MgZnO層4の成長条件は、例えば、成長温度850〜1050℃、Znフラックス0.1〜0.5nm/s、Mgフラックス0.02〜0.15nm/s、OソースガンのO
2流量1.0〜3.0sccm/RFパワー200〜300W、Gaセル温度を350〜420℃とする。例えば、Gaセル温度380℃の時、キャリア濃度は6×10
17cm
−3となり、400℃の時、2×10
18cm
−3となる。なお、n型MgZnO層4のキャリア濃度は、オーミックコンタクトを形成する観点から下限値は10
17cm
−3以上が好ましく、結晶性の観点から上限値は5×10
18cm
−3以下が好ましい。
【0034】
次に、
図2(D)に示すように、n型MgZnO層4上に、Znビーム、Mgビーム、及びOラジカルビームを同時照射して、アンドープMg
yZn
1−yO(0≦y<0.6、x>y)層5を例えば厚さ約1〜2μm成長させる。アンドープMgZnO層5の成長条件は、例えば、成長温度850〜1050℃、Znフラックス0.1〜0.5nm/s、Mgフラックス0〜0.1nm/s、OソースガンのO
2流量1.0〜3.0sccm/RFパワー200〜300Wとする。なお、アンドープMgZnO層5のキャリア濃度は、ショットキー接合を形成する観点から10
16cm
−3以下が好ましい。
【0035】
第1の実施例による受光素子をUV−A用とする場合は、例えば、n型Mg
xZn
1−xO層4のMg組成(x)を0.35、アンドープMg
yZn
1−yO層5のMg組成(y)を0に設定する。この場合のn型Mg
xZn
1−xO層4の成長条件は、例えば、成長温度950℃、Znフラックス0.2nm/s、Mgフラックス0.02nm/s、OソースガンのO
2流量1.0sccm/RFパワー250W、Gaセル温度380℃である。また、アンドープMg
yZn
1−yO層5の成長条件は、例えば、成長温度900℃、Znフラックス0.2nm/s、Mgフラックス0nm/s、OソースガンのO
2流量2.0sccm/RFパワー300Wである。
【0036】
また、第1の実施例による受光素子をUV−B用とする場合は、例えば、n型Mg
xZn
1−xO層4のMg組成(x)を0.5、アンドープMg
yZn
1−yO層5のMg組成(y)を0.37に設定する。この場合のn型Mg
xZn
1−xO層4の成長条件は、例えば、成長温度900℃、Znフラックス0.2nm/s、Mgフラックス0.03nm/s、OソースガンのO
2流量1.0sccm/RFパワー250W、Gaセル温度380℃である。また、アンドープMg
yZn
1−yO層5の成長条件は、例えば、成長温度900℃、Znフラックス0.2nm/s、Mgフラックス0.04nm/s、OソースガンのO
2流量1.5sccm/RFパワー250Wである。
【0037】
なお、Mg組成は、Mgフラックス、Oラジカル量(O
2流量、RFパワー)に依存するとともに、成長温度の高温側(Zn付着係数)にも影響を受ける。したがって、これらの条件を適宜選択することにより、所望のMg組成を得ることができる。例えば、Zn及びMgフラックス一定のもと、Oラジカル量を減らす(O
2流量を減らす、RFパワーを落とす)ことにより、Mg組成を高くすることが可能であり、Oラジカル量を増やすことにより、Mg組成を低くすることが可能である。あるいは、Znフラックス及びOラジカル量一定のもと、Mgフラックスを変化させてもよい。さらに、成長温度が900℃まではZnの付着係数が「1」であるが、950℃以上となるとZnの付着係数が減少していくため、同じフラックス条件においてもMg組成が高くなる。
【0038】
上述したように、下地層であるn型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)層4のMg組成(x)は、その上に積層されるアンドープMg
yZn
1−yO(0≦y<0.6)層5のMg組成(y)よりも高く設定(x>y)され、n型Mg
xZn
1−xO層4は、後の
図2(F)に示すエッチング処理工程においてストッパー層として機能する。
【0039】
次に、
図2(E)に示すように、アンドープMgZnO層5上の所定領域に、レジストパターンRP11を形成する。レジストパターンRP11は、後の
図3(B)に示す工程で有機物電極8が形成される領域を覆う。この状態で、例えば、SiO
2を全面にスパッタリングで厚さ300nm堆積し、レジストパターンRP11とともに不要部のSiO
2を除去するリフトオフにより、絶縁層6を形成する。
【0040】
次に、
図2(F)に示すように、絶縁層6上及びアンドープMgZnO層5上の所定領域に、レジストパターンRP12を形成する。レジストパターンRP12は、後の工程でオーミック電極7が配置される領域を露出する開口を有する。
【0041】
レジストパターンRP12をマスクとして、酸性又はアルカリ性溶液を用いたウエットエッチングでアンドープMgZnO層5をエッチングして、n型MgZnO層4を露出させる。この時、n型MgZnO層4は、エッチングのストッパー層として機能する。その後、レジストパターンRP12を除去して洗浄を行う。なお、酸性又はアルカリ性溶液としては、王水(HNO
3:HCl=1:3)、HCl、HNO3、HF、EDTA溶液、バッファードHF、EDTA-2Na:EDA=10:1混合溶液(pH=10.6)等を用いることができる。
【0042】
その後、
図3(A)に示すように、
図2(F)の工程で露出したn型MgZnO層4の一部上に、オーミック電極7を形成する。オーミック電極7の形成領域に開口を有する金属マスクを用い、EB蒸着により、例えば厚さ50nmのTi層7aを形成し、Ti層7a上に例えば厚さ500nmのAu層7bを積層して、オーミック電極37を形成する。
【0043】
次に、
図3(B)に示すように、レジストパターンRP13を形成する。レジストパターンRP13は、
図2(A)の工程で絶縁層6が除去された領域のアンドープMgZnO層5を露出する開口を有する。この実施例では、レジストパターンRP13の縁が、
図2(E)の工程で絶縁層6が除去された領域の縁と整合している。
【0044】
続いて、UVオゾン洗浄を行った後、導電率増加剤を添加したPEDOT:PSSを、スピンコートにより(加熱処理後の厚さで)例えば厚さ30nm塗布する。レジストパターンRP13とともに不要部のPEDOT:PSSを除去するリフトオフにより、有機物電極(ショットキー電極)8を形成する。リフトオフ後、ホットプレートにより例えば200℃、20分の加熱処理を施す。なお、有機物電極8の加熱処理には、真空乾燥炉、クリーンオーブン等を用いてもよい。
【0045】
PEDOT:PSSは、キャリアドーパント兼水分散剤としてポリスチレンスルホン酸(PSS)を含んだ、ポリチオフェン誘導体のポリ3,4‐エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)である。PEDOT:PSSに、導電率増加剤として例えばジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して使用することができる。
【0046】
有機物電極8は、アンドープMgZnO層5に対してショットキー電極を形成するとともに、紫外線透過性である。有機物電極8を透過してアンドープMgZnO層5に入射した紫外線により、光起電力が生じる。なお、このような半導体紫外線受光素子では、ショットキー電極を用いることにより、n型半導体層に比べて形成が難しいp型半導体を形成しなくてすむ。
【0047】
次に、
図3(C)に示すように、ワイヤーボンディング用金属電極9を形成する。ワイヤーボンディング用金属電極9は、絶縁層6と有機物電極8とにまたがるように配置される。これにより、ワイヤーボンディング用金属電極9と有機物電極8との剥離が抑制される。
【0048】
ワイヤーボンディング用金属電極9の形成領域に開口を有する金属マスクを用い、EB蒸着により、例えば厚さ50nmのTi層9aを形成し、Ti層9a上に例えば厚さ500nmのAu層9bを積層して、ワイヤーボンディング用金属電極9を形成する。Ti層9aが、絶縁層6との密着層として働く。このようにして、第1実施例による受光素子が作製される。その後、ダイボンディング及びワイヤーボンディングにより、受光素子をステム上に接合して、受光装置を作製することができる。
【0049】
図4(A)〜
図5(C)は、第2の実施例による受光素子の主要な製造工程を示す概略断面図である。第2の実施例でも、第1の実施例と同様に絶縁性の単結晶基板上に、MBE法にて半導体層を成長させる。第1の実施例との主な相違点は、ZnOバッファー層3上に、アンドープMg
xZn
1−xO(0<x≦0.6、x>y)層24を形成し、その上に、アンドープMgZnO層24よりもMg組成が低いn型Mg
yZn
1−yO(0≦y<0.6)層25を形成する点である。
【0050】
まず、c面サファイア基板1上に、例えば第1の実施例と同様な条件で、MgO層2及びZnOバッファー層3を成長させる。その後、
図4(A)に示すように、ZnOバッファー層3上に、Znビーム、Mgビーム、及びOラジカルビームを同時照射して、アンドープMg
xZn
1−xO(0<x≦0.6、x>y)層24を例えば厚さ約1〜2μm成長させる。アンドープMgZnO層24の成長条件は、第1の実施例によるn型MgZnO層4と同様である。ただし、n型不純物はドーピングしない。
【0051】
続いて、
図4(B)に示すように、アンドープMgZnO層25上に、Znビーム、Mgビーム、Oラジカルビーム、及びGaビーム又はAlビームを同時照射して、n型Mg
yZn
1−yO(0≦y<0.6、x>y)層25を厚さ約0.1〜1μm成長させる。n型MgZnO層25の成長条件は、第1の実施例によるアンドープMgZnO層5と同様である。また、n型不純物をドーピングしてもよい。
【0052】
第2の実施例でも、第1の実施例と同様にアンドープMgZnO層24及びn型MgZnO層25のMg組成を調整することにより、UV−A用又はUV−B用のセンサを作製可能である。
【0053】
その後、
図4(C)に示すように、n型MgZnO層25上の所定領域に、レジストパターンRP21を形成する。レジストパターンRP21は、n型MgZnO層25を残す領域を覆う、すなわち、後の
図4(E)に示す工程で絶縁層6が形成される領域及び後の
図5(B)に示す工程で有機物電極8が形成される領域に開口を有する。
【0054】
レジストパターンRP21をマスクとして、酸性又はアルカリ性溶液を用いたウエットエッチングでn型MgZnO層25をエッチングして、アンドープMgZnO層24を露出させる。この時、アンドープMgZnO層24は、エッチングのストッパー層として機能する。その後、レジストパターンRP21を除去して洗浄を行う。なお、エッチャントは、第1の実施例と同様のものが使用可能である。
【0055】
次に、
図4(E)に示すように、アンドープMgZnO層24上の所定領域及び残存したn型MgZnO層25を覆って、レジストパターンRP22を形成する。レジストパターンRP22は、後の
図5(B)に示す工程で有機物電極8が形成される領域を覆う。この状態で、例えば、SiO
2を全面にスパッタリングで厚さ300nm堆積し、レジストパターンRP22とともに不要部のSiO
2を除去するリフトオフにより、絶縁層6を形成する。
【0056】
その後、
図5(A)に示すように、
図4(C)の工程で残したn型MgZnO層25の一部上に、オーミック電極7を形成する。オーミック電極7の形成領域に開口を有する金属マスクを用い、EB蒸着により、例えば厚さ50nmのTi層7aを形成し、Ti層7a上に例えば厚さ500nmのAu層7bを積層して、オーミック電極37を形成する。
【0057】
次に、
図5(B)に示すように、レジストパターンRP23を形成する。レジストパターンRP23は、
図4(C)の工程でn型MgZnO層25が除去され、
図4(E)の工程で絶縁層6が除去された領域のアンドープMgZnO層24を露出する開口を有する。続いて、UVオゾン洗浄を行った後、導電率増加剤を添加したPEDOT:PSSを、スピンコートにより(加熱処理後の厚さで)例えば厚さ30nm塗布する。レジストパターンRP23とともに不要部のPEDOT:PSSを除去するリフトオフにより、有機物電極(ショットキー電極)8を形成する。リフトオフ後、ホットプレートにより例えば200℃、20分の加熱処理を施す。
【0058】
その後、
図3(C)に示す工程と同様の工程で、
図5(C)に示すように、ワイヤーボンディング用金属電極9(Ti層9a及びAu層9b)を形成する。このようにして、第2実施例による受光素子が作製される。その後、ダイボンディング及びワイヤーボンディングにより、受光素子をステム上に接合して、受光装置を作製することができる。
【0059】
図6(A)〜
図7(B)は、第3の実施例による受光素子の主要な製造工程を示す概略断面図である。第3の実施例による受光素子は、受光感度波長帯域の異なる二つの受光半導体層を有する。第3の実施例では、導電性の単結晶基板を成長基板として用いる。また、例えば、受光半導体層として、ウルツ鉱構造のZnO系半導体を用い、半導体層の成長方法としてMBE法を用いる。
【0060】
図6(A)を参照する。Alが添加されたn型Zn面ZnO(0001)基板31上に、例えば第1の実施例と同様な条件で、ZnOバッファー層33を成長させアニールを行う。その後、ZnOバッファー層33上に、Znビーム、Mgビーム、及びOラジカルビームを同時照射して、アンドープMg
xZn
1−xO(0.3≦x≦0.6、x>y)層34を例えば厚さ約1〜2μmを成長させる。アンドープMgZnO層34の成長条件は、例えば、成長温度850〜1050℃、Znフラックス0.1〜0.5nm/s、Mgフラックス0.02〜0.15nm/s、OソースガンのO
2流量1.0〜3.0sccm/RFパワー200〜300Wである。ただし、Mg組成(x)が、後に積層されるアンドープMg
yZn
1−yO層35のMg組成(y)よりも高くなるように成長条件を設定する。本実施例では、アンドープMg
xZn
1−xO層34のMg組成(x)が0.37で、このときエネルギーギャップは4eV(波長としては310nm)となるように成長条件を設定する。
【0061】
次に、
図6(B)に示すように、アンドープMgZnO層34上に、アンドープMg
yZn
1−yO(0≦y<0.3、x>y)層35を形成する。Znビーム、Mgビーム、及びOラジカルビームを同時照射して、アンドープMg
yZn
1−yO(0≦y<0.3、x>y)層35を例えば厚さ
約1〜2μm成長させる。アンドープMgZnO層35の成長条件は、例えば、成長温度850〜1050℃、Znフラックス0.1〜0.5nm/s、Mgフラックス0〜0.06nm/s、OソースガンのO
2流量1.0〜3.0sccm/RFパワー200〜300Wである。なお、Mg組成(y)が、アンドープMgZnO層34のMg組成(x)よりも低くなるように成長条件を設定する。
【0062】
なお、本実施例では、アンドープMg
yZn
1−yO層35のMg組成を「0」として、実質的にアンドープZnO層を形成する。したがって、アンドープMgZnO(Mg
0Zn
1O)層35のエネルギーギャップは3.3eV(波長としては376nm)となる。
【0063】
その後、
図6(B)に示すように、アンドープMgZnO層35上に、レジストパターンRP31を形成する。レジストパターンRP31は、受光半導体層としてアンドープMgZnO層35を用いる領域を覆い、受光半導体層としてアンドープMgZnO層34を用いる領域を露出する。
【0064】
続いて、
図6(C)に示すように、レジストパターンRP31をマスクとして、酸性又はアルカリ性溶液を用いたウエットエッチングでアンドープMgZnO層35をエッチングして、アンドープMgZnO層34を露出させる。その後、レジストパターンRP31を除去する。この時、アンドープMgZnO層34は、エッチングのストッパー層として機能する。なお、エッチャントは、第1の実施例と同様のものが使用可能である。
【0065】
次に、
図6(D)に示すように、アンドープMgZnO層35及び露出したアンドープMgZnO層35上に、レジストパターンRP32を形成する。レジストパターンRP32は、後の工程で、アンドープMgZnO層34上に配置される有機物電極38Aの形成領域、及びアンドープMgZnO層35上に配置される有機物電極38Bの形成領域を覆う。この状態で、例えば、SiO
2を全面にスパッタリングで厚さ300nm堆積し、レジストパターンRP32とともに不要部のSiO
2を除去するリフトオフにより、絶縁層36を形成する。
【0066】
次に、
図6(E)に示すように、レジストパターンRP33を形成する。レジストパターンRP33は、アンドープMgZnO層34上の有機物電極38Aの形成領域、及び、アンドープMgZnO層35上の有機物電極38Bの形成領域をそれぞれ露出する開口を有する。
【0067】
UVオゾン洗浄を行った後、導電率増加剤を添加したPEDOT:PSSを、スピンコートにより(加熱処理後の厚さで)例えば厚さ30nm塗布する。レジストパターンRP33とともに不要部のPEDOT:PSSを除去するリフトオフにより、アンドープMgZnO層34上に有機物電極38Aを、アンドープMgZnO層35上に有機物電極38Bを形成する。リフトオフ後、ホットプレートにより例えば200℃、20分の加熱処理を施す。
【0068】
次に、
図7(A)に示すように、アンドープMgZnO層34上方にワイヤーボンディング用金属電極39Aを形成するとともに、アンドープMgZnO層35上方にワイヤーボンディング用金属電極39Bを形成する。
【0069】
ワイヤーボンディング用金属電極39Aは、絶縁層36と有機物電極38Aとにまたがるように配置され、ワイヤーボンディング用金属電極39Bは、絶縁層36と有機物電極38Bとにまたがるように配置される。これにより、ワイヤーボンディング用金属電極39Aと有機物電極38Aとの剥離や、ワイヤーボンディング用金属電極39Bと有機物電極38Bとの剥離が抑制される。
【0070】
ワイヤーボンディング用金属電極39Aの形成領域、及びワイヤーボンディング用金属電極39Bの形成領域に開口を有する金属マスクを用い、EB蒸着により、例えば厚さ50nmのTi層39aを形成し、Ti層39a上に例えば厚さ500nmのAu層39bを積層して、ワイヤーボンディング用金属電極39A及び39Bを形成する。
【0071】
本実施例では、アンドープMgZnO層34とアンドープMgZnO層35とにまたがって形成された部分の絶縁層36上に、ワイヤーボンディング用金属電極39A及び39Bを配置している。
【0072】
その後、
図7(B)に示すように、ZnO基板31の裏面上に、例えば厚さ10nmのTi層37aを形成し、Ti層37a上に例えば厚さ500nmのAu層37bを積層して、オーミック電極37を形成する。このようにして、第3の実施例による受光素子が作製される。
【0073】
第3の実施例による受光素子は、受光半導体層をアンドープMgZnO層34とする受光素子部分LSAと、受光半導体層をアンドープMgZnO層35とする受光素子部分LSBとを含む。
【0074】
ワイヤーボンディング用金属電極39Aが、有機物電極38Aを介して、アンドープMgZnO層34に電気的に接続され、ワイヤーボンディング用金属電極39Bが、有機物電極38Bを介して、アンドープMgZnO層35に電気的に接続されている。オーミック電極37が、アンドープMgZnO層34とアンドープMgZnO層35の両方に電気的に接続されて、両受光素子部分LSA及びLSBで共通である。
【0075】
その後、ダイボンディング及びワイヤーボンディングにより、第3の実施例による受光素子をステム上に接合して、第3の実施例による受光装置を作製することができる。
【0076】
第3実施例による受光素子は、例えば、日焼け対策のために太陽光の紫外線を測定する測定器に利用できる。上述のように、太陽光の紫外線は、実質的にUV−A(320〜400nm)とUV‐B(280〜320nm)である。
【0077】
受光半導体層をアンドープMgZnO層34とする受光素子部分LSAは、波長376nm以下の紫外線に受光感度があるので、UV−A(320〜400nm)及びUV‐B(280〜320nm)の測定に適する。
【0078】
一方、受光半導体層をアンドープMgZnO層35とする受光素子部分LSBは、例えばMg組成を0.37として波長310nm以下(また例えばMg組成を0.31として波長320nm以下)の紫外線に受光感度があるので、UV‐B(280〜320nm)の測定に適する。受光素子部分LSAで測定された光電流から、受光素子部分LSBで測定された光電流を差し引くことにより、UV−Aの強さも見積もることができる。
【0079】
このように、ある受光半導体層の一部上に、この受光半導体層と同一結晶構造でエネルギーギャップの異なる他の受光半導体層をエピタキシャル成長させることにより、同一基板上に、受光感度波長帯域の異なる複数の受光素子部分を作ることができる。
【0080】
図8(A)〜(D)は、第4の実施例による受光素子の主要な製造工程を示す概略断面図である。第4の実施例でも、第1及び第2の実施例と同様に絶縁性の成長基板上に、MBE法にて半導体層を成長させる。第1の実施例との主な相違点は、ワイヤーボンディング用電極が絶縁性基板上に形成されている点である。
【0081】
まず、第1の実施例と同様な条件で、
図8(A)に示すように、c面サファイア基板1上に、MgO層42を成長させ、MgO層42上にZnOバッファー層43を成長させアニールを行い、ZnOバッファー層43上にn型MgZnO層44を成長させ、n型MgZnO層44上にアンドープMgZnO層45を成長させる。MgO層42上方のZnO系半導体層は、Zn面で成長する。
【0082】
なお、第4の実施例でも、第1の実施例と同様に、下地層であるn型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)層44のMg組成(x)は、その上に積層されるアンドープMg
yZn
1−yO(0≦y<0.6)層45のMg組成(y)よりも高く設定(x>y)され、n型Mg
xZn
1−xO層44は、後の
図8(A)に示すエッチング処理工程においてストッパー層として機能する。
【0083】
その後、
図8(A)に示すように、アンドープMgZnO層45上に、レジストパターンRP41を形成する。レジストパターンRP41は、後の工程でオーミック電極47Oが配置される領域を露出する開口を有する。レジストパターンRP41をマスクとして、酸性又はアルカリ性溶液を用いたウエットエッチングでアンドープMgZnO層45をエッチングして、n型MgZnO層44を露出させる。この時、n型MgZnO層44は、エッチングのストッパー層として機能する。なお、エッチャントは、第1の実施例と同様のものが使用可能である。その後、レジストパターンRP41を除去して洗浄を行う。
【0084】
次に、
図8(B)に示すように、レジストパターンRP42を形成する。レジストパターンRP42は、後の工程で形成されるワイヤーボンディング用金属電極47Wにワイヤーボンディングが行われる領域を露出する開口を有する。レジストパターンRP42をマスクとして、酸性又はアルカリ性溶液でアンドープMgZnO層45、n型MgZnO層44、ZnOバッファー層43、及びMgO層42をエッチングして、サファイア基板41を露出させる。エッチャントは
図8(A)に示すエッチング工程と同様のものが使用可能である。また、ドライエッチングを用いてもよい。その後、レジストパターンRP42を除去して洗浄を行う。
【0085】
次に、
図8(C)に示すように、レジストパターンRP43を形成する。レジストパターンRP43は、有機物電極48の形成領域を露出する開口を有する。UVオゾン洗浄を行った後、導電率増加剤を添加したPEDOT:PSSを、スピンコートにより(加熱処理後の厚さで)例えば厚さ30nm塗布する。レジストパターンRP43とともに不要部のPEDOT:PSSを除去するリフトオフにより、有機物電極48を形成する。リフトオフ後、ホットプレートにより例えば200℃、20分の加熱処理を施す。
【0086】
有機物電極48は、アンドープMgZnO層45の上面と、アンドープMgZnO層45、n型MgZnO層44、ZnOバッファー層43、及びMgO層42の積層側面とを覆い、積層側面を覆った部分の端が、
図8(B)のエッチング工程で露出したサファイア基板41上に達する。
【0087】
次に、
図8(D)に示すように、オーミック電極47O及びワイヤーボンディング用金属電極47Wを形成する。なお、後の工程でオーミック電極47Oもワイヤーボンディングされるが、ワイヤーボンディング用金属電極47Wの方を、単にワイヤーボンディング用金属電極47Wと呼ぶこととする。
【0088】
オーミック電極47Oの形成領域と、ワイヤーボンディング用金属電極47Wの形成領域に開口を有する金属マスクを用い、EB蒸着により、例えば厚さ10nmのTi層47aを形成し、Ti層47a上に例えば厚さ500nmのAu層47bを積層して、オーミック電極47O及びワイヤーボンディング用金属電極47Wを同時形成する。
【0089】
オーミック電極47Oは、
図8(A)のエッチング工程で露出したn型MgZnO層44上に形成される。ワイヤーボンディング用金属電極47Wは、アンドープMgZnO層45の上面上の有機物電極48の縁部と、アンドープMgZnO層45、n型MgZnO層44、ZnOバッファー層43、及びMgO層42の積層側面上の有機物電極48を覆い、さらに、
図8(B)のエッチング工程で露出したサファイア基板41を覆って形成される。
【0090】
ワイヤーボンディング用金属電極47Wは、有機物電極48上から、絶縁性下地であるサファイア基板41上に延在するように配置され、透光領域を確保するため有機物電極48の一部上を覆い、サファイア基板41の上方部分に、ワイヤーボンディング領域となる程度の広い面積を確保する。Ti層47aが、絶縁性下地であるサファイア基板41との密着層として働く。
【0091】
有機物電極48が、アンドープMgZnO層45の上面、及び、アンドープMgZnO層45、n型MgZnO層44、ZnOバッファー層43、及びMgO層42の積層側面を覆っているので、ワイヤーボンディング用金属電極47Wが導電性ZnO層43〜45と接触する短絡が防止されている。
【0092】
このようにして、第4の実施例による受光素子が作製される。その後、ダイボンディング及びワイヤーボンディングにより、第4の実施例による受光素子をステム上に接合して、第4の実施例による受光装置を作製することができる。
【0093】
以上、本発明の第1〜第3の実施例によれば、ワイヤーボンディング用金属電極が、絶縁層と有機物電極とにまたがるように配置される。これにより、ワイヤーボンディング用金属電極と有機物電極との剥離が抑制される。
【0094】
また、本発明の第4の実施例によれば、ワイヤーボンディング用金属電極が、サファイア基板と有機物電極とにまたがるように配置される。これにより、ワイヤーボンディング用金属電極と有機物電極との剥離が抑制される。
【0095】
また、本発明の実施例によれば、下地層であるMg
xZn
1−xO層のMg組成(x)を、その上に積層されるMg
yZn
1−yO層のMg組成(y)よりも高く設定するので、下地層であるMg
xZn
1−xO層は、後のエッチング処理工程においてストッパー層として機能する。よって、半導体積層構造及半導体紫外線受光素子の製造が容易になる。
【0096】
以上説明した実施例では、有機物電極(PEDOT:PSS)の導電率増加剤として、ジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して使用したが、エチレングリコールや1‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)などの非プロトン性極性溶媒を使用してもよい。
【0097】
また、有機物電極形成において、スピンコートによりPEDOT:PSSを塗布し、リフトオフしてパターン形成したが、スクリーン印刷用の導電性ポリマーを使用して、スクリーン印刷により直接パターン形成してもよい。スクリーン印刷用の導電性ポリマーもポリチオフェン誘導体から形成されている。
【0098】
なお、上述の実施例では、ショットキー電極を形成したが、これに限らない。
【0099】
また、ワイヤーボンディング用金属電極の形成される絶縁層として、SiO
2を使用したが、例えば、SiON、Si
3N
4、Al
2O
3、MgOを使用してもよい。絶縁層形成方法として、スパッタリングを使用したが、例えば熱化学気相堆積(CVD)、プラズマCVD、低圧(LP)CVD等を用いてもよい。
【0100】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。