(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基準音圧が、前記液体流が所定の流速の時に、前記液体流の気泡から発せられる音響波形の前記所定周波数における音圧であることを特徴とする請求項1に記載の流速測定方法。
前記基準音圧が、前記液体流が所定の流量の時で前記液体流が段差を通過する際に、前記液体流の気泡から発せられる音響波形の前記所定周波数における音圧であることを特徴とする請求項1に記載の流速測定方法。
前記所定周波数は、前記音響波形における周波数に対する音圧が極大となる周波数であり、前記基準音圧を音圧の極大値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の流速測定方法。
前記基準音圧が、前記液体流が所定の流速の時に、前記液体流の気泡から発せられる音響波形の所定周波数における音圧であることを特徴とする請求項6に記載の流速測定システム。
前記基準音圧が、前記液体流が所定の流量の時で前記液体流が段差を通過する際に、前記液体流の気泡から発せられる音響波形の前記所定周波数における音圧であることを特徴とする請求項6に記載の流速測定システム。
前記所定周波数は音響波形における音圧が極大となる周波数であり、前記基準音圧が音圧の極大値であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の流速測定システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、菅渠内の雨水などの流水といった液体流における物理量を測定する流速計などの各種測定計器は、測定値などの各種情報データを管理室の端末に送信するための通信手段や、それらを駆動するための電源が必要になる。さらに、これらの測定計器は、多数存在するマンホールごとに設置されているため、測定手段としての測定計器におけるメンテナンスの手間やメンテナンスコスト、さらに設置コストが高くなっていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、液体流の流速を測定するための測定手段の設置数を低減することができ、測定手段の設置やメンテナンスに要するコストの低減を図ることができる流速測定方法および流速測定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、上記目的を達成するために、本発明者は鋭意検討を行った。以下にその概要を説明する。
【0008】
まず、本発明者は、上述した従来技術における流速計や水位計の設置数を低減させる方法について検討を行った。そして、本発明者は、従来の流速計や水位計のように水流に直接接触させて測定する測定計器を用いるよりも、非接触で流速や水位を計測することができれば、測定計器の設置数を低減できることを想起した。そこで、本発明者が水流の流速や水位の変動に応じて変化する物理量について重ねて検討を行ったところ、水流から発せられる音響波形に基づいて水流の流速や水位を測定することができれば、菅渠内の長い距離において、非接触で流速や水位を測定できることを想起するに至った。
【0009】
すなわち、本発明者の知見によれば、液体の流れ(液体流)の音は、液体流中に生じる気泡により発生する。また、気泡の発生や破裂による音響波形に対して、フーリエ変換解析(FT解析)、具体的には例えば高速フーリエ変換解析(FFT解析)を行うと、数100Hz近傍の低周波域に音圧のピークが存在することも知られている(非特許文献1参照)。
【0010】
本発明者は、これらの知見に基づいて種々実験を行い、気泡を気泡群として検知する場合に、液体流中に気泡が発生する条件において、液体流の流速が増加した場合に気泡の発生量が増加し、反対に流速が減少した場合に気泡の発生量が減少する相関を見出した。さらに、本発明者は、実験およびこれに基づいた検討を行って、
図1に示すような流速と音圧との相関を見出した。すなわち、本発明者は、気泡の発生量が増加した場合には音圧Lpが上昇し、特に音圧Lpが極大となる所定周波数f
0における音圧のピークが音圧Lp
0から音圧Lp
1に大きく上昇すること、反対に、気泡の発生量が減少した場合には音圧Lpが下降し、特に音圧が極大となる所定周波数f
0における音圧のピークが大きく下降することを見出した。
【0011】
これらのことから、本発明者は、液体流の流速が増加した場合には、液体流中の気泡の発生量が増加して音圧が上昇し、反対に液体流の流速が減少した場合には、液体流中の気泡の発生量が減少して音圧が下降するという物理現象を、新たに見出すに至った。そして、本発明者は、これらの液体流と音圧との相関に関する物理現象に基づいて、所定状態の液体流における音圧をあらかじめ測定して所定周波数での音圧を基準音圧とし、菅渠内などに流れる液体流の通常の状態、すなわち任意状態の液体流から発生する音波(音響波形)を測定して、この音響波形から周波数に対する音圧を解析し、音圧と液体流の流速との相関に基づいて、液体流の流速を算出できることを想起するに至った。本発明は、以上の鋭意検討に基づいて案出されたものである。
【0012】
したがって、本発明に係る流速測定方法は、所定状態の液体流の気泡から発せられる音波における所定周波数での音圧を基準音圧に設定する基準音圧設定ステップと、
通常の状態の液体流の気泡から発せられる音波を測定する音波測定ステップと、測定された音波における所定周波数での音圧と基準音圧との音圧差を算出する音圧差算出ステップと、音圧差に基づいて、
通常の状態の液体流の流速を算出する流速算出ステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る流速測定方法は、上記の発明において、基準音圧が、液体流が所定の流速の時に、液体流の気泡から発せられる音波の所定周波数における音圧であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る流速測定方法は、上記の発明において、基準音圧が、液体流が所定の流量の時で液体流が段差を通過する際に、液体流の気泡から発せられる音波の所定周波数における音圧であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る流速測定方法は、上記の発明において、所定周波数は、音波における周波数に対する音圧が極大となる周波数であり、基準音圧を音圧の極大値とすることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る流速測定方法は、上記の発明において、液体流が、下水管渠内または雨水管渠内を流れる液体であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る流速計測システムは、所定状態の液体流の気泡から発せられる音波における所定周波数での音圧を基準音圧に設定する基準音圧設定手段と、
通常の状態の液体流の気泡から発せられる音波を測定する音波測定手段と、音波測定手段によって測定された音波における所定周波数での音圧と基準音圧との音圧差を算出する音圧差算出手段と、音圧差算出手段によって算出された音圧差に基づいて、
通常の状態の液体流の流速を算出する流速算出手段と、を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る流速計測システムは、上記の発明において、基準音圧が、液体流が所定の流速の時に、液体流の気泡から発せられる音波の所定周波数における音圧であることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る流速計測システムは、上記の発明において、基準音圧が、液体流が所定の流量の時で液体流が段差を通過する際に、液体流の気泡から発せられる音波の所定周波数における音圧であることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る流速測定システムは、上記の発明において、所定周波数は音波における音圧が極大となる周波数であり、基準音圧が音圧の極大値であることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る流速測定システムは、上記の発明において、液体流との接触によって気泡を発生させる気泡発生手段をさらに備えることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る流速測定システムは、上記の発明において、液体流との接触によって衝突音を発する気泡発生手段をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る流速測定システムは、上記の発明において、液体流が、下水管渠内または雨水管渠内を流れる水流であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る流速測定方法および流速測定システムによれば、測定された音波に基づいて液体流の流速を算出していることにより、従来の接触型の測定手段である測定計器の場合に比して、非接触型の測定手段の設置場所および設置数を低減することができるので、測定手段の設置やメンテナンスの低コスト化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0027】
(流速測定システム)
まず、本発明の一実施形態による流速測定システムについて説明する。
図2は、この一実施形態による流速測定システムの全体構成を示す。
【0028】
図2に示すように、この一実施形態による流速測定システムにおいては、処理場管理室2内の情報処理装置21と、マンホール3内の耐水耐衝撃用の保護ケース31に格納された音響信号変換手段としての音響信号変換装置32の伝送装置32aとが、ネットワーク網1を通じて通信可能に接続されている。ネットワーク網1は、インターネットやイントラネット、または携帯端末通信網などの通信網である。また、音響信号変換装置32は、菅渠4内に設置された音響波形測定手段としてのマイクロホン41に接続されている。さらに、菅渠4内には、必要に応じて、気泡を発生させるための気泡発生装置42が設置される。
【0029】
処理場管理室2に備えられた情報処理装置21は、情報処理部21a、情報記録部21b、およびインターフェース21cを備える。情報処理部21aは、主として、情報データの入出力によって種々の演算を行う中央演算処理装置(CPU)とROMやRAMなどの記憶部とから構成されている。インターフェース21cは、情報処理部21aをネットワーク網1に接続して通信するための通信中継手段である。そして、マンホール3に備えられた伝送装置32aから送信される音響波形のデータや音響信号などの各種情報データは、ネットワーク網1を通じて情報処理装置21に供給され、インターフェース21cを介して情報処理部21aおよび情報記録部21bに供給される。
【0030】
情報記録部21bには、各種計算処理ソフトウェア、音響解析ソフトウェア、水位計算ソフトウェア、および流速計算ソフトウェアなどのプログラムがインストールされている。そして、情報記録部21bと情報処理部21aとの間において情報データの入出力を行うとともに、情報処理部21aがそれぞれのプログラムに従った処理を実行する。この情報処理部21aは、実行されるプログラムに応じて、種々の処理を行う処理手段である。
【0031】
また、情報記録部21bには、各種データベースがデータテーブルとして格納されている。この各種データベースとしては、菅渠4における管の勾配、材質、マニング粗度係数、および口径などの、いわゆる管の寸法に関する種々の寸法データベース、音圧値に伴って対応する水流の流速データベース、基準音圧からの音圧差に基づいた流速の加減値の流速計算用データベース、後述する流水43の流速を算出するための音圧差や音圧値と、水流の流速との相関データベース、または気泡発生装置42ごとの固有の周波数のデータベースなどを挙げることができる。
【0032】
また、菅渠4内のマイクロホン41は、例えば指向性が高いパラボラ集音機などから構成される。このマイクロホン41においては、集音した音に基づいて電気信号が生成される。マイクロホン41により生成された電気信号は、音響信号変換装置32に供給される。音響信号変換装置32は、マイクロホン41から供給された電気信号を音響信号に変換し、この音響信号を、伝送装置32aを介しネットワーク網1を通じて処理場管理室2の情報処理装置21に供給する。
【0033】
菅渠4内に設置される気泡発生装置42は、液体流としての流水43に接触することで気泡を発生する気泡発生手段であり、菅渠4内において気泡が発生しにくい部分などに設置される。なお、気泡発生装置42の詳細については後述する。
【0034】
(流速測定方法)
次に、以上のように構成された菅渠内の水流の流速測定システムによる流速測定方法について説明する。
図3は、この一実施形態による流速測定方法を示すフローチャートである。
【0035】
図3に示すように、この一実施形態による流速測定方法においては、まず、ステップST1において、流速の計測対象となる流水43が存在する菅渠4内において基準音圧を設定する初期設定を行う。すなわち、測定対象となる菅渠4の内部において、従来公知の流速計を用いて菅渠4内の所定状態の流水43の流速を測定するとともに、そのときの音響波形を測定する。その後、測定された音響波形に対して、基準音圧設定手段としての、例えば携帯用の情報処理端末(図示せず)や情報処理装置21を用いてFFT解析が行われる。このFFT解析によって、
図1に示すような周波数ごとの音圧値のデータの集合、すなわち周波数に対する音圧のプロファイルが導出される。そして、この周波数に対する音圧のプロファイルの導出結果に基づいて、所定周波数における音圧値を基準音圧とする。このとき、所定周波数としては、任意の周波数を設定することが可能であるが、流速の増減による音圧の増減が最大となる周波数を採用することが好ましい。具体的には、所定周波数として、音響波形の周波数に対する音圧が極大となって音圧レベルがピークになる周波数を採用することが好ましい。なお、この菅渠4において設定された所定周波数における基準音圧の情報データは、
図2に示す情報処理装置21の情報記録部21bにデータテーブルとして格納される。このようにして測定対象となる流水43が存在する菅渠4に関する初期設定が行われた後、
図3に示すステップST2に移行する。
【0036】
ステップST2においては、菅渠4内の流水43から発せられる音響波形の測定を開始する。すなわち、
図2に示すように、音響波形測定手段としてのマイクロホン41によって菅渠4内の音を集音する。マイクロホン41は、集音した音を電気信号に変換して音響信号変換装置32に供給する。音響信号変換装置32は、マイクロホン41からの電気信号を増幅して音響信号として伝送装置32aに供給する。伝送装置32aは、ネットワーク網1を介して音響信号を処理場管理室2の情報処理装置21に供給する。情報処理装置21においては、供給された音響信号を音響波形のデータとして情報記録部21bに格納する。その後、ステップST3に移行する。
【0037】
ステップST3においては、情報処理装置21に供給されて情報記録部21bに格納された音響波形のデータに対して、情報処理部21aによりFFT解析が行われる。すなわち、測定された音響波形のデータは時間軸に沿った音の変化のデータであることから、この音響波形のデータに対して所定時間ごと、例えば5分間ごとに区切って高速フーリエ変換(FFT)を行うことによって、音響波形から周波数に対する音圧のプロファイルが導出される。この導出された周波数に対する音圧のプロファイルのデータは情報記録部21bに格納される。その後、ステップST4に移行する。
【0038】
ステップST4においては、所定周波数での、測定に基づいて算出された音圧と基準音圧との音圧差が算出される。すなわち、音圧差算出手段としての情報処理装置21において、情報記録部21bに記録された所定周波数における測定された音圧と基準音圧との音圧差が算出される。その後、ステップST5に移行する。
【0039】
ステップST5においては、流速算出手段としての情報処理装置21において、算出された音圧差に基づいて菅渠4の内部の流水43の流速が算出される。すなわち、情報処理装置21において、情報処理部21aが、算出した音圧差に基づいて情報記録部21bに格納されたデータテーブルから音圧差に応じた流速の加減値を抽出し、基準音圧に対応した流水43の流速に対して、抽出した加減値を加算する演算を行う。これにより、菅渠4内の流水43の流速が算出される。
【0040】
その後、
図2に示す流速測定システムによる菅渠4内の音響波形の測定は継続して行われる。すなわち、ステップST1において初期設定がされた後は、ステップST2〜ST5が順次繰り返し実行され、菅渠4内においてマイクロホン41により音響波形が測定されつつ、情報処理装置21において流水43の流速が継続して算出される。
【0041】
(他の配管からの流入および段差での水流の落水)
また、上述した菅渠4内においては、段差が設けられる地点も存在する。
図4Aは、この段差地点を示す模式図である。具体的には、菅渠4内においては、マンホール3などの様々な所から流水43が流入する段差地点や段差により流水43の落水が生じる段差地点が存在する。このような段差地点においても、上述した
図3に示すフローチャートに従って、流水43の流速を計測することができる。以下に、この菅渠4内の段差地点における流速測定方法について説明する。
【0042】
図4Aに示すように、マンホール3内の他の配管44から菅渠4内に流水43が流入したり菅渠4内において流水43の落水が生じたりする地点(
図4A中、点線丸囲み部)においては、流水43は常時落水している。このとき流水43は、落水することによって音を発する。ここで、本発明者の知見によれば、菅渠4内の段差地点における流水43は、落下する流水43の流量に応じて音圧が変化する。すなわち、
図4Bに示すように、段差地点における流水43の流量が増加すると、所定周波数f
1における音圧Lp
0′が上昇して音圧Lp
1´となり、反対に段差地点における流水43の流量が減少すると、所定周波数f
1における音圧Lp
0′が下降して音圧Lp
2′になるという現象が生じる。また、所定周波数f
1近傍においても、その音圧Lpが変化する。
【0043】
そこで、まず
図3に示すフローチャートのステップST1において、従来公知の流量計を用いて菅渠4内の段差地点における流水43の流量を測定するとともに、そのときの音響波形を測定する。その後、測定された音響波形に対して、基準音圧設定手段としての、例えば携帯用の情報処理端末(図示せず)や情報処理装置21を用いてFFT解析が行われる。これにより、段差地点における流水43の発する音響波形に関する、周波数に対する音圧のプロファイルが導出される。そして、情報記録部21bに、例えば音圧値が極大となる周波数のデータを所定周波数f
1として格納するとともに、この所定周波数f
1における音圧Lpのデータを基準音圧Lp
0′のデータとして格納する。これにより、情報処理装置21において所定周波数f
1における基準音圧Lp
0′が設定される。その後、ステップST2に移行する。
【0044】
続いて、ステップST2において、流水43が流れている任意状態において、マイクロホン41により段差を落下する流水43が発する音響波形を測定する。測定された音響波形は、マイクロホン41により電気信号とされ音響信号変換装置32に供給される。この電気信号が音響信号変換装置32により音響信号に変換された後、音響波形のデータは、伝送装置32aおよびネットワーク網1を通じて情報処理装置21に供給される。その後、ステップST3に移行する。
【0045】
ステップST3においては、情報処理装置21に供給された音響信号の音響波形に対して、情報処理部21aによりFFT解析が実行されて、
図4Bに示すような周波数に対する音圧のプロファイルが導出される。
【0046】
次に、
図3に示すステップST4において、測定された音響波形から導出された周波数に対する音圧Lpのプロファイルと、ステップST1において設定された所定周波数f
1における基準音圧Lp
0′とに基づいて、音圧差算出手段としての情報処理部21aにより所定周波数f
1における音圧差が算出される。
【0047】
その後、ステップST5において、情報処理部21aによって算出された音圧差に基づいて、情報記録部21bに格納された基準流量からの加減値のデータベースから、音圧差に対応する流量の加減値のデータが抽出される。そして、情報処理部21aによって、抽出された流量の加減値のデータと基準流量のデータとから、測定された音圧に対応する流量が算出される。このようにして、情報処理部21aにより、段差地点において生じる音の音響波形から、流水43の流量が算出される。
【0048】
一方、配管44の高さ、菅渠4の勾配のデータ、材質(抵抗)のデータおよび口径のデータなどの菅渠4における既知の各種データが、データテーブルとして情報記録部21bに格納されている。そして、情報処理部21aにより、下記の(1)式に従って、菅渠4における勾配、材質および口径のデータと、算出された流量とに基づいて、流水43の流速や水位が算出される。
【0049】
【数1】
なお、(1)式において、V:平均流速 、R:径深(水理学的平均水深) 、I:動水(水面)勾配 、n:マニング粗度係数(菅渠の内周面の材質に固有の係数)、A:通水断面積 、S:潤辺(流れの横断面で水に接している区間の長さ)である。
【0050】
ステップST5が終了すると、菅渠4内における段差地点においてもマイクロホン41による音響波形の測定が継続して行われる。すなわち、
図3に示すステップST1において初期設定がされた後は、ステップST2〜ST5が順次繰り返し実行され、マイクロホン41による音響波形の測定が継続して実行されるとともに、情報処理装置21による菅渠4内の段差地点における流水43の流速の算出が実行される。
【0051】
なお、他の配管44からの流水43の流入や段差地点などが複数存在する場合、測定される音響波形は、それぞれの他の配管44からの流入によって発生する音の音響波形と、それぞれの段差における流水43の落水によって発生する音の音響波形とが混合した音響波形となる。そこで、個々の他の配管44ごと、および個々の段差ごとにそれぞれ固有の所定周波数f
1を測定して設定し、それぞれ基準音圧Lp
0′を測定して設定する。これにより、合成された音響波形から他の配管44からの流入ごと、および段差ごとに、流水43の流量を個別に算出することができる。
【0052】
(気泡発生装置)
次に、この一実施形態による気泡発生装置の詳細について説明する。
図5A、
図5Bおよび
図5Cはそれぞれ、この一実施形態による気泡発生装置42の平面図、側面図および正面図である。
【0053】
図5A〜
図5Cに示すように、この一実施形態による気泡発生装置42は、例えば防錆加工処理された銅板や鉄板などの基台420上に、同様に防錆加工処理された突起部421が複数並べて設けられている。突起部421は、楕円球を長軸に沿って2等分割した形状において、その長軸に沿った一端部分に切り欠けられた窪み部421aが形成され、例えば蝋付けなどによって基台420上に接着されている。また、基台420には、例えば皿ねじを用いて菅渠4の壁面に設置するための、複数のねじ穴422が形成されている。このような構成によって、気泡発生装置42の強度が高くされて耐腐食性が向上されている。ここで、気泡発生装置42の寸法の一例を挙げると、
図5Aに示すように、長さL
0が100mm、幅W
0が70mm、突起部421の長手方向に沿った長さl
2が40mm、突起部421の長手方向に沿ったねじ穴422の形成領域の長さl
1,l
3が30mmである。また、
図5Bに示すように、基台420の板厚d
0は例えば2mmであり、
図5Cに示すように突起部421の高さh
0は例えば10mm、幅w
0は例えば40mmである。
【0054】
そして、以上のように構成された気泡発生装置42は、
図5Bに示すように、窪み部421aの形成位置に対して突起部421の反対側から水流が到達するように設置される。これにより、気泡発生装置42に流水43が到達すると、流水43が窪み部421aに巻き込まれて窪み部421aの内側に渦流が生じ流水43中に気泡が発生する。これにより、菅渠4内において気泡が発生しにくい場所に気泡発生装置42を設置することによって、流水43が到達した時に意図的に気泡を発生させることが可能になる。また、気泡発生装置42を、流水43が窪み部421aに対して突起部421の上部分から巻き込むようにして設置することにより、流水43に伴って流れる砂、泥、または夾雑物などを、特に突起部421や窪み部421aに堆積させないようにすることができる。
【0055】
(水位測定による流速測定)
また、気泡発生装置42によって発生する気泡群43aは固有の周波数の音を発する。気泡発生装置42によって生じる気泡群43aから発せられる固有の周波数は、気泡発生装置42における突起部421や窪み部421aの数、形状、または寸法を変更することによって、異なる周波数にすることができる。
【0056】
そこで、複数の気泡発生装置42を用いて、流水43の流速を測定する方法について以下に説明する。ここで、複数の気泡発生装置42は、突起部421や窪み部421aの数、形状、または寸法を変更して、生成される気泡群から発する音の固有の周波数が相互に異なるように製造される。
図6は、相互に異なる固有の周波数の音を発する気泡群43aを発生させるように製造された複数の気泡発生装置42a〜42dを、菅渠4内に設置した状態を示す。
【0057】
図6に示すように、菅渠4の内壁面に、例えば4台の気泡発生装置42a〜42dが水位の増減方向である縦方向に沿って配置されている。具体的には、菅渠4の底部H
0を基準として、気泡発生装置42aが高さH
1、気泡発生装置42bが高さH
2、気泡発生装置42cが高さH
3、気泡発生装置42dが高さH
4の位置に配置される。なお、これらの気泡発生装置42a〜42dの設置位置、設置高さ、およびマイクロホン41からの距離などのデータは、情報処理装置21の情報記録部21bにデータベースとして格納される。
【0058】
そして、菅渠4内に雨水などの水が流れ込み、流水43が例えば高さH
1まで増加すると、気泡発生装置42aに流水43が接触し、気泡群43aが発生して音を発する。この気泡群43aの発する音は、
図2に示すマイクロホン41によって音響波形の一部として測定される。マイクロホン41によって測定された音響波形は、
図2に示す音響信号変換装置32によって音響信号に変換された後、伝送装置32aを介して情報処理装置21に供給されてFFT解析が行われる。これにより、情報処理装置21において、測定された音響波形における周波数に対する音圧のプロファイルが導出される。この周波数に対する音圧のプロファイルにおいては、所定周波数としての気泡発生装置42aの固有の周波数において音圧が極大となる。そして、情報処理部21aによって、情報記録部21bに格納されたデータベースから、気泡発生装置42aの固有の周波数および設置高さH
1のデータが抽出され、菅渠4内の流水43の水位が高さH
1であることが算出される。
【0059】
情報処理部21aによって、菅渠4の内部の流水43の水位が高さH
1であることが算出されると、情報記録部21bに格納されたデータベースから菅渠4の管径や形状に関するデータが抽出され、流水43の径深が算出される。そして、算出された径深の値、および情報記録部21bに格納された菅渠4のマニング粗度係数や動水勾配のデータに基づいて、情報処理部21aにより、上述した(1)式に基づいた演算が行われ、流水43の流速が算出される。
【0060】
その後、流水43が増水したりして、流水43の水位が高さH
2、高さH
3、または高さH
4となった場合においても同様にして水位が算出されて、流速が算出される。すなわち、マイクロホン41が、気泡発生装置42b〜42dによって流水43中に生じる気泡群43aの発する音の音響波形を測定することによって、菅渠4内の流水43の水位をそれぞれ算出して、(1)式に基づき流水43の流速を算出する。
【0061】
以上のようにして流水43の流速および水位が計測されると、これらの計測値と菅渠4の管径や形状のデータとに基づいて、情報処理装置21において、菅渠4内の流水43の流量も併せて算出することができる。
【0062】
(気泡発生装置の他の実施例1)
次に、気泡発生装置の他の実施例1について説明する。
図7は、この一実施形態の他の実施例1における気泡発生装置を示す。
【0063】
図7に示すように、この一実施形態の他の実施例1による気泡発生装置42eは、円柱状または円筒状の部材の外周曲面に複数の突起部が設けられている。また、気泡発生装置42eは、円柱状または円筒状の円断面のほぼ中心を軸として回転可能に構成されている。すなわち、気泡発生装置42eは、いわゆる羽根からなる突起部を有する水車から構成されている。そして、この気泡発生装置42eは、その突起部の羽面に流水43が接触することにより軸を中心に回転する。気泡発生装置42eの突起部の羽面が流水43と衝突することによって、気泡が発生するとともに衝突音が連続して発生する。そこで、この突起部と流水43との衝突音の音響波形をマイクロホン41により測定することによって、流水43の流れに起因した気泡発生装置42eの回転により生じる音響波形を測定することができる。
【0064】
また、流水43の流速の変化に関連して、気泡発生装置42eの単位時間あたりの回転数が変化する。そこで、気泡発生装置42eの突起部と流水43との接触によって連続して生じる接触音の発生時間間隔を測定する。一方、気泡発生装置42eの寸法や突起部の数に基づいて、その回転数と流水43の流速との相関関係が情報処理装置21の情報記録部21bにデータテーブルとして必要に応じて抽出可能に格納されている。そのため、マイクロホン41により、気泡発生装置42eによって生じる接触音の音響波形を測定して発生時間間隔を計測するとともに、情報処理部21aによって、情報記録部21bに格納されたデータテーブルから情報データを抽出して、演算を行うことにより、情報処理装置21において流水43の流速を算出することが可能となる。
【0065】
また、流水43の水位の上昇に応じて、気泡発生装置42eの突起部421によってかき乱される水量が変化して、気泡発生装置42eから発せられる音響波形の特性も水量に応じて変化する。そこで、気泡発生装置42eから発せられる音響波形と流水43の水量との相関をあらかじめ測定し、水量と水位と音響波形との相関を、情報処理装置21の情報記録部21bのデータベースに格納しておく。これにより、気泡発生装置42eから発せられる音響波形から、流水43の水位も測定することが可能となり、上述した水位から流速を算出した方法と同様にして、情報処理装置21において、流水43の流速を算出することができる。
【0066】
(気泡発生装置の他の実施例2)
次に、気泡発生装置の他の実施例2について説明する。
図8は、この一実施形態の他の実施例2における気泡発生装置を示す。
【0067】
図8に示すように、この一実施形態の他の例2による気泡発生装置42fは、中空の細い導管から構成されている。この気泡発生装置42fの導管の一端は流水43中に浸漬されるとともに、他端が大気圧の外気に解放されている。そして、気泡発生装置42fの導管の一端を流水43の下流側に向けることで、他端から大気圧によって導管内の空気が押圧されて、流水43中に空気が放出され、気泡群を発生させることができる。上述したように、気泡発生装置42fによって流水43中に気泡群を発生させることで、マイクロホン41によって気泡群の発する音響波形を測定することができる。そのため、この実施例2においても、マイクロホン41により測定された音響波形のデータに基づいて、情報処理装置21において流水43の流速や水位を算出することが可能となる。
【0068】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、菅渠4内に流れる流水43の気泡から発する音響波形を測定し、周波数に対する音圧のプロファイルを導出して、所定周波数における音圧の変化に基づき流水43の流速を算出していることにより、菅渠4内における流水43の流速の計測を非接触で行うことが可能になるので、従来のように接触型の流速計をマンホール3ごとに設ける必要がなくなり、流速測定における機材の設置数を大幅に低減することができる。そのため、機材の設置に要するコストやメンテナンスコストを低減できる。また、従来、流速計がマンホール3ごとに設けられていたことから、流速計から情報処理装置21に送信する情報データ量が極めて多量であったのに対し、測定装置の設置台数を大幅に低減できることによって、通信量(通信トラフィック)も低減することができる。
【0069】
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。
【0070】
上述の一実施形態においては、FFT解析を、音響波形における時間を5分間ごとに区切って行っているが、必ずしも5分間ごとに限定されるものではなく、菅渠4における種々の状況や状態に応じて種々の時間に設定することが可能である。また、FFT解析は、対象時間を区切ることなく連続的に行うことも可能である。
【0071】
上述の一実施形態においては、所定周波数として、周波数に対する音圧のプロファイルにおいて音圧が極大のピークになる周波数を採用しているが、必ずしもこれに限定されるものではない。所定周波数は、水流の流速に応じて音圧が変化する周波数帯であれば、周波数に対する音圧のプロファイルにおいて音圧が極大になる周波数以外の周波数を採用することも可能である。
【0072】
上述の一実施形態においては、マンホール3の内部に設置される音響信号変換装置32と、菅渠4の内部に設置されるマイクロホン41とをケーブルなどの有線によって接続しているが、必ずしも有線によって接続する方法に限定されない。例えば、音響信号変換装置32とマイクロホン41とは、必要に応じて無線通信可能な構成を採用することも可能である。