特許第5779092号(P5779092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779092
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】離型性組成物および表面保護フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20150827BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20150827BHJP
   C08K 5/057 20060101ALI20150827BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20150827BHJP
   C09D 185/00 20060101ALI20150827BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08L83/04
   C08K5/057
   C09D183/04
   C09D185/00
   C09D201/00
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-511369(P2011-511369)
(86)(22)【出願日】2010年4月16日
(86)【国際出願番号】JP2010056849
(87)【国際公開番号】WO2010125933
(87)【国際公開日】20101104
【審査請求日】2013年4月4日
(31)【優先権主張番号】特願2009-111918(P2009-111918)
(32)【優先日】2009年5月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125978
【氏名又は名称】株式会社きもと
(74)【代理人】
【識別番号】100111419
【弁理士】
【氏名又は名称】大倉 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 剛
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 崇志
(72)【発明者】
【氏名】新井 裕之
(72)【発明者】
【氏名】栗嶋 進
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−071521(JP,A)
【文献】 特開2006−160983(JP,A)
【文献】 特開2001−181509(JP,A)
【文献】 特開2010−209205(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/081789(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 5/00−5/59
C09D 183/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と、シリコーンオイルと、金属アルコキシドの加水分解物とを含み、前記バインダー樹脂はエポキシ変性シリコーン樹脂を含み、前記シリコーンオイルは分子の末端にアルコキシ基、カルビノール基又はエポキシ基を有する反応性シリコーンオイルを含むことを特徴とする離型性組成物。
【請求項2】
請求項1記載の離型性組成物において、前記バインダー樹脂は、全固形分中に、20〜60重量%含有されていることを特徴とする離型性組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の離型性組成物において、前記金属アルコキシドの加水分解物は、100重量部の前記バインダー樹脂に対して、50〜500重量部含有されていることを特徴とする離型性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項記載の離型性組成物において、前記金属アルコキシドは、テトラエトキシシラン又はテトラメトキシシランを含むことを特徴とする離型性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項記載の離型性組成物において、前記金属アルコキシドの加水分解物は、加水分解後に縮合して得られる化合物を含むことを特徴とする離型性組成物。
【請求項6】
請求項5記載の離型性組成物において、前記化合物は、GPC法によるポリスチレン換算の重量平均分子量が、100〜1000であることを特徴とする離型性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項記載の離型性組成物において、前記シリコーンオイルは、全固形分中に、0.5〜5重量%含有されていることを特徴とする離型性組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項記載の離型性組成物において、前記シリコーンオイルは、さらに、ジメチルシリコーンオイル、非反応性の変性シリコーンオイル及び反応性官能基(アルコキシ基、カルビノール基及びエポキシ基を除く)を有する反応性シリコーンオイルの何れかを含むことを特徴とする離型性組成物。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項記載の離型性組成物において、反応性シリコーンオイルの含有割合が、前記シリコーンオイル中の75%以上であることを特徴とする離型性組成物。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項記載の離型性組成物において、シリコーン樹脂用硬化剤をさらに含むことを特徴とする離型性組成物。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか一項記載の離型性組成物において、シランカップリング剤をさらに含むことを特徴とする離型性組成物。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項記載の離型性組成物を硬化させて得られる硬化物。
【請求項13】
塗膜を有する表面保護フィルムにおいて、前記塗膜は、請求項12記載の硬化物で構成され、厚みが0.1〜5μmであることを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項14】
請求項13記載の表面保護フィルムが粘着層を介して貼着してあるフォトマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型性組成物およびそれを用いた表面保護フィルムに関する。特に、離型性及び離型持続性に優れた塗膜を形成することができる離型性組成物と、その硬化物で構成される塗膜を有する表面保護フィルムとに関する。本発明の硬化物としての塗膜および表面保護フィルムは、プリント基板作製工程などにおいて、粘着性を有するフォトレジストを露光する際の原稿(フォトマスク)の表面などに、形成し、又は貼着して用いることができる。
【背景技術】
【0002】
通常、プリント配線板や樹脂凸版は、液状フォトレジストなどの粘着性のあるフォトレジストにフォトマスクを密着露光して作製される。このため、フォトマスクの表面に何らかの処理を施さないと、露光終了後フォトマスクをフォトレジストから剥がす際に、フォトレジストの一部がフォトマスク表面に付着する。付着したフォトレジストの一部は、拭き取ってもフォトマスク上に残存してしまい、露光精度の低下を招いてしまうという問題を生じる。このような事情から、従来からフォトマスク上のフォトレジストに対向する面に、離型性を有する塗膜を形成したり、そのような塗膜が設けられた表面保護フィルムを貼り合せて、フォトレジストがフォトマスクに付着することを防止している(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−273412号公報(段落番号0008)
【特許文献2】特開2005−181565号公報(段落番号0005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような離型性を有する塗膜は、バインダー樹脂に、離型性成分としてシリコーンオイルを含むものが多い。このような塗膜において、バインダー樹脂とシリコーンオイルとの相溶性が良くない組み合わせの場合には、塗膜が白化してしまい、露光障害を起こすといった問題がある。
【0005】
一方、バインダー樹脂とシリコーンオイルとの相溶性が良い組み合わせの場合には、塗膜は白化せず、透明性が得られるが、バインダー樹脂中にシリコーンオイルが埋没してしまうため、離型性を得ることが難しい。また、塗膜表面に離型性が得られるまでシリコーンオイルを添加してしまうと、塗膜強度を保つことができなかったり、多量にシリコーンオイルを添加しているため、洗浄溶剤でクリーニングした際に、離型性が低下してしまうといった問題がある。
【0006】
そこで、本発明の一側面では、透明性があって、塗膜表面にフォトレジストが付着し難い塗膜を形成することができる離型性組成物と、その硬化物で構成される塗膜を有する表面保護フィルムとを提供する。また他の側面では、長時間に亘ってフォトレジストが付着し難い、離型性を持続する塗膜を形成することができる離型性組成物と、その硬化物で構成される塗膜を有する表面保護フィルムを提供する。
【0007】
さらに他の側面では、洗浄溶剤によっても離型性を低下させることがない塗膜を形成することができる離型性組成物と、その硬化物で構成される塗膜を有する表面保護フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、バインダー樹脂とシリコーンオイルに対し、金属アルコキシドの加水分解物を添加した組成物を硬化させて塗膜とすることによって、シリコーンオイルとバインダー樹脂との相溶性が良い場合であっても、塗膜に離型性を発現させることができることを見出し、発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明の離型性組成物は、バインダー樹脂と、シリコーンオイルと、金属アルコキシドの加水分解物とを含むことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の硬化物は、前記離型性組成物を硬化させて得られることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の表面保護フィルムは、前記硬化物で構成される塗膜を有すること特徴とするものである。
【0012】
本発明のフォトマスクは、前記表面保護フィルムが粘着層を介して貼着してあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の離型性組成物は、透明性があり、塗膜表面にフォトレジストが付着し難い塗膜(硬化物)を形成することができる。また、長時間に亘ってフォトレジストが付着し難い、離型性を持続する塗膜を形成することができる。また、洗浄溶剤によっても離型性を低下させることがない塗膜を形成することができる。
【0014】
また、本発明の表面保護フィルムを用いることにより、透明性があり、フォトレジストが付着し難いフォトマスクを得ることができる。また、長時間に亘ってフォトレジストが付着し難い、離型性を持続するフォトマスクを得ることができる。また、洗浄溶剤によっても離型性を低下させることがないフォトマスクを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の離型性組成物の実施の形態について説明する。本発明の離型性組成物は、バインダー樹脂と、シリコーンオイルと、金属アルコキシドの加水分解物とを含むものである。
【0016】
本発明の離型性組成物を構成するバインダー樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等の樹脂を用いることができる。特に、反応性シリコーンオイルとの相溶性が良好なシリコーン樹脂を用いることが、塗膜の透明性を良好にすることができるため好ましい。
【0017】
シリコーン樹脂としては、エポキシ変性シリコーン樹脂、アルキッド変性シリコーン樹脂、ポリエステル変性シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂、メチル系シリコーン樹脂、メチルフェニル系シリコーン樹脂などを用いることができる。特に、塗膜硬度や耐溶剤性の観点から、エポキシ変性シリコーン樹脂を用いることが好ましい。
【0018】
バインダー樹脂の含有割合は、離型性組成物の全固形分中の、20〜60重量%であることが好ましい。20重量%以上とすることにより、硬化後の塗膜強度を維持することができ、60重量%以下とすることで、後述の他の成分を本発明の目的が達せられる程度に必要十分に含有させることが可能となる。
【0019】
次に、シリコーンオイルは、塗膜に離型性を発現させるために用いられる。このようなシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、変性シリコーンオイルや分子の末端に少なくとも1つの反応性の官能基を有する反応性シリコーンオイルの少なくとも何れかを用いることができる。このような反応性シリコーンオイルを用いることにより、離型性組成物を構成する他の成分と反応しやすくすることができ、その結果、得られる塗膜の離型性をより長く持続させることができる。
【0020】
変性シリコーンオイルとしては、アルキル変性、ポリエーテル変性、フッ素変性、メルカプト変性、エポキシ変性、カルボキシル変性、高級脂肪酸エステル変性、(メタ)アクリル変性、カルビノール変性など変性シリコーンオイルを用いることができる。
【0021】
また、反応性の官能基を有する反応性シリコーンオイルとしては、反応性官能基としての、アルコキシ基、メルカプト基、カルビノール基、エポキシ基、アミン基、アクリル基、カルボキシル基を有するものを用いることができる。特にアルコキシ基を有する反応性シリコーンオイルは、後述する金属アルコキシドとの間で高い反応性を有するため、塗膜中に強力に固定化され、長時間に亘ってフォトレジストの付着し難くすることや、洗浄溶剤によっても離型性を低下させないで、離型性をより持続することができるため好ましい。
【0022】
シリコーンオイルの組成中に、反応性の官能基をもたないシリコーンオイルを多く含むものは、塗膜からシリコーンオイルが遊離しやすく、離型性を持続させることが難しくなる。そのため、シリコーンオイルの組成中に、離型性組成物を構成する他の成分と反応しやすい反応性シリコーンオイルを75%以上含むことが好ましい。
【0023】
反応性シリコーンオイルの添加割合は、離型性組成物の全固形分中の、0.5〜5重量%、好ましくは、1〜2重量%である。0.5重量%以上とすることにより、離型性を発現することができ、5重量%以下とすることで、塗膜表面に指擦り試験(ラビング)をしたときの塗膜の白化の発生を防止することができると共に、塗膜に固定化されなかったシリコーンオイルのフォトレジストへの転写を防止することができる。
【0024】
金属アルコキシドの加水分解物は、シリコーンオイルがバインダー樹脂中に埋没することを防止するために用いられる。このように埋没するシリコーンオイルを少なくすることができるため、塗膜中のシリコーンオイルの割合を少なくすることができる。金属アルコキシドを構成する金属元素としては、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、ケイ素を用いることができる。また、アルコキシドの種類としては、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、オキシイソプロポキシド、ブトキシド等を用いることができる。
【0025】
金属アルコキシドの一例としてのケイ素アルコキシドは、熱硬化によりポリシロキサン構造を形成するものである。ケイ素アルコキシドとしては、例えば、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシランなどが挙げられる。
【0026】
テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどが挙げられ、中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが好ましい。
【0027】
トリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0028】
ケイ素アルコキシドとしては、特に塗布溶液とした場合の安定性や硬化後の塗膜強度の点で、テトラアルコキシシランが好ましく、より好ましくはテトラメトキシシラン(メチルシリケート)、テトラエトキシシラン(エチルシリケート)である。
【0029】
ケイ素以外の金属アルコキシドとしては、例えば、ジルコニアプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、チタンブトキシド、チタンイソプロポキシドなどが挙げられる。
【0030】
以上例示した各種金属アルコキシドは、それぞれ単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0031】
本発明で用いられる金属アルコキシドの加水分解物は、上述した各種金属アルコキシドが水の存在下に加水分解されて生成する化合物であるが、加水分解後に縮合して得られる化合物(完全縮合物及び/又は部分縮合物)も含む。このような縮合物としては、GPC法によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、例えば100〜1000程度のものが用いられる。
【0032】
加水分解の反応は、公知の方法により行うことができる。例えば金属アルコキシドを大量のアルコール溶媒(例えばメタノールやエタノールなど)に入れ、水と酸触媒(塩酸、硝酸など)の存在下、所定温度で所定時間反応させる。この反応により金属アルコキシドは加水分解し、続いて縮合反応が起こり、加水分解物及び/又はその縮合物が得られる。
【0033】
加水分解の程度は、使用する水の量により調節することができる。加水分解の程度は、加水分解可能な基、例えばテトラアルコキシシランにおいてはアルコキシ基を全て加水分解縮合するために必要な理論水量、即ちアルコキシ基の数の1/2の水を添加したときを加水分解率100%とし、加水分解率(%)=(実際の添加水量/加水分解理論水量)×100、で求められる。
【0034】
本実施形態では、例えば市場から入手した金属アルコキシドの加水分解物を用いることができる。市販例としては、ケイ素アルコキシドの加水分解物として例えば信越化学工業社製の「アルコキシオリゴマー」シリーズ(例えばX−40−2308、KR−400、KR−500など)や、コルコート社製のメチルシリケート51、メチルシリケート53A、エチルシリケート40、エチルシリケート48などが挙げられる。X−40−2308(シランアルコキシド縮合物)はテトラアルコキシシランの加水分解物を含む。KR−400、KR−500、メチルシリケート51、メチルシリケート53A、エチルシリケート40、エチルシリケート48についても同様である。
【0035】
以上例示した金属アルコキシドの加水分解物は、それぞれ単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0036】
金属アルコキシドの加水分解物を用いることによって、シリコーンオイルが、バインダー樹脂中に埋没することを防止することができるのは、離型性組成物の極性を親水性に調節することで、疎水性のシリコーンオイルを塗膜表面に浮き上がらせることができるためである。
【0037】
金属アルコキシドの加水分解物は、バインダー樹脂100重量部に対して、好ましくは50重量部以上、より好ましくは100重量部以上含有させることができる。50重量部以上とすることにより、塗膜としたときに、シリコーンオイルを塗膜表面に浮き上がらせることが容易となり、より十分な初期の離型性を得ることができる。一方、金属アルコキシドの加水分解物の含有量が多くなりすぎると、相対的にバインダー樹脂の含有量が低下し、その結果、塗膜の接着性が低下するおそれもある。このため、金属アルコキシドの加水分解物の含有量は、バインダー樹脂100重量部に対して、好ましくは500重量部以下、より好ましくは300重量以下とすることができる。500重量部以下とすることで、塗膜の接着性をより良好なものとすることができる。
【0038】
本発明の離型性組成物は、以上説明したシリコーンオイル、金属アルコキシドの加水分解物、バインダー樹脂や必要に応じて配合される他の成分を配合して、適当な溶媒に溶解させて調整することができる。特に、バインダー樹脂の硬化を促進するために、他の成分として硬化剤を添加してもよい。シリコーン樹脂の硬化剤として、アルミキレートやチタンキレートなどの周知のシリコーン樹脂用硬化剤を添加することが好ましい。他の成分としてシランカップリング剤を添加することもできる。
【0039】
次に、本発明の表面保護フィルムの実施の形態について説明する。本発明の表面保護フィルムは、上記離型性組成物から形成されてなる塗膜(硬化物)を有するものである。
【0040】
塗膜が形成される基材としては、ポリエステル、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル、ポリオレフィン、セルロース樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミドなどの合成樹脂フィルムを用いることができる。その中でも平面性に優れるものが好適に用いられ、特に延伸加工、二軸延伸加工されたポリエステルフィルムが機械的強度、寸法安定性に優れ、さらに腰が強いため好ましい。基材の厚みは、1μm以上、好ましくは2μm以上、さらに4μm以上がより望ましく、上限としては、50μm以下、好ましくは25μm以下、さらに12μm以下の範囲がより望ましい。
【0041】
このような基材上に、上記離型性組成物に必要に応じて他の成分を配合して、適当な溶媒に溶解又は分散させて塗布液を調製し、当該塗布液をロールコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、エアナイフコーティング法などの公知の方法により基材上に塗布した後、適宜必要な硬化方法を用いて硬化させることにより塗膜を形成することができる。
【0042】
このような塗膜の厚みとしては、特に限定されないが、露光の際のフォトマスクの解像度を低下させないという観点からできるだけ薄い方が好ましく、また表面保護膜の表面硬度、密着露光を繰り返すことによる塗膜の削れ、初期の離型性、および離型性の持続という観点から具体的には0.1μm〜5μm、好ましくは0.2μm〜2.5μm程度が好ましい。
【0043】
また、基材の塗膜が形成されていない面には、粘着層を設けることが好ましい。このような粘着層を設けることによって、フォトマスクなど表面保護の対象へ容易に貼着することができる。
【0044】
このような粘着層としては、一般に使用されるアクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などの公知の透明粘着剤が使用できる。本発明の表面保護フィルムは、画像などの保護を目的としていることから、粘着剤も透明でそれ自体高い耐候性を有していることが望ましい。このような粘着剤としては、ウレタン架橋性またはエポキシ架橋性の高分子量のアクリル系の粘着剤が適している。また、帯電防止などの性能を持つ粘着剤を使用しても良い。
【0045】
粘着層の厚みとしては、透明性(解像度)を阻害せず、適度な粘着性が得られるよう、下限として0.5μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上の範囲が望ましく、上限としては30μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは7μm以下の範囲が望ましい。また、粘着層には、その粘着性によって表面保護フィルムの取り扱い性が低下しないようにするために、表面に離型処理を施した離型フィルムを貼り合わせることも適宜行うことができる。
【0046】
以上のように本実施形態によれば、本発明の表面保護フィルムを、表面保護の対象に、粘着層を介して貼り付けることで、容易に表面保護膜を形成することができる。また、表面保護膜の膜表面の硬さを保ちつつ、汚れをつきにくくすることができる。さらに、光学特性が向上するため、解像度を向上させることができ、また露光時間を短くすることができるため、生産性の向上を図ることができる。また、フォトレジストに対する極めて高い離型性を持続することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、「部」、「%」は特に示さない限り、重量基準とする。
【0048】
[実施例1]
厚み6μmの透明高分子フィルム(ルミラー:東レ社)の一方の表面に下記組成の離型性組成物を含む塗布液をバーコーティングにより塗布、120℃で5分加熱硬化させ、厚み約0.5μmの塗膜を形成した。更にもう一方の面に下記組成の粘着層用塗布液を塗布し、乾燥させることにより、厚み約4μmの粘着層を形成して、実施例1の表面保護フィルムを作製した。粘着層には、取り扱い上のために厚み25μmのポリエチレンテレフタレート離型フィルム(MRB:三菱化学ポリエステルフィルム社)を貼り合わせた。
【0049】
<離型性組成物を含む塗布液>
・バインダー樹脂 1.85部
(ES-1002T:信越化学工業社、固形分60%)
・末端にアルコキシ基を有するシリコーンオイル 0.05部
(X-22-1968:信越化学工業社、固形分100%)
・シランアルコキシド縮合物 2.22部
(X-40-2308:信越化学工業社、有効成分100%)
・硬化剤 0.1部
(チタン系キレート、有効成分100%)
・シランカップリング剤 0.3部
(有効成分100%)
・溶媒 14.46部
【0050】
<粘着層用塗布液>
・アクリル酸エステル共重合体 10部
(アロンタックSCL-200:固形分40%、東亜合成)
・溶媒 20部
【0051】
[実施例2]
実施例1に用いた離型性組成物を含む塗布液を下記組成の離型性組成物を含む塗布液に代えた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の表面保護フィルムを作製した。
【0052】
<離型性組成物を含む塗布液>
・バインダー樹脂 1.85部
(ES-1002T:信越化学工業社、固形分60%)
・末端にアルコキシ基を有するシリコーンオイル 0.02部
(X-22-1968:信越化学工業社、固形分100%)
・シランアルコキシド縮合物 2.22部
(X-40-2308:信越化学工業社、有効成分100%)
・硬化剤 0.1部
(チタン系キレート、有効成分100%)
・シランカップリング剤 0.3部
(有効成分100%)
・溶媒 9.64部
【0053】
[実施例3]
実施例1に用いた離型性組成物を含む塗布液を下記組成の離型性組成物を含む塗布液に代えた以外は、実施例1と同様にして、実施例3の表面保護フィルムを作製した。
【0054】
<離型性組成物を含む塗布液>
・バインダー樹脂 1.85部
(ES-1002T:信越化学工業社、固形分60%)
・末端にアルコキシ基を有するシリコーンオイル 0.19部
(X-22-1968:信越化学工業社、固形分100%)
・シランアルコキシド縮合物 2.22部
(X-40-2308:信越化学工業社、有効成分100%)
・硬化剤 0.1部
(チタン系キレート、有効成分100%)
・シランカップリング剤 0.3部
(有効成分100%)
・溶媒 9.64部
【0055】
[実施例4]
実施例1に用いた離型性組成物を含む塗布液を下記組成の離型性組成物を含む塗布液に代えた以外は、実施例1と同様にして、実施例4の表面保護フィルムを作製した。
【0056】
<離型性組成物を含む塗布液>
・バインダー樹脂 2.78部
(ES-1002T:信越化学工業社、固形分60%)
・末端にアルコキシ基を有するシリコーンオイル 0.05部
(X-22-1968:信越化学工業社、固形分100%)
・シランアルコキシド縮合物 1.67部
(X-40-2308:信越化学工業社、有効成分100%)
・硬化剤 0.1部
(チタン系キレート、有効成分100%)
・シランカップリング剤 0.3部
(有効成分100%)
・溶媒 13.6部
【0057】
[実施例5]
実施例1に用いた離型性組成物を含む塗布液を下記組成の離型性組成物を含む塗布液に代えた以外は、実施例1と同様にして、実施例5の表面保護フィルムを作製した。
【0058】
<離型性組成物を含む塗布液>
・バインダー樹脂 1.39部
(ES-1002T:信越化学工業社、固形分60%)
・末端にアルコキシ基を有するシリコーンオイル 0.05部
(X-22-1968:信越化学工業社、固形分100%)
・シランアルコキシド縮合物 2.5部
(X-40-2308:信越化学工業社、有効成分100%)
・硬化剤 0.1部
(チタン系キレート、有効成分100%)
・シランカップリング剤 0.3部
(有効成分100%)
・溶媒 14.15部
【0059】
[実施例6]
実施例1に用いた離型性組成物を含む塗布液を下記組成の離型性組成物を含む塗布液に代えた以外は、実施例1と同様にして、実施例6の表面保護フィルムを作製した。
【0060】
<離型性組成物を含む塗布液>
・バインダー樹脂 0.93部
(ES-1002T:信越化学工業社、固形分60%)
・末端にアルコキシ基を有するシリコーンオイル 0.05部
(X-22-1968:信越化学工業社、固形分100%)
・シランアルコキシド縮合物 2.78部
(X-40-2308:信越化学工業社、有効成分100%)
・硬化剤 0.1部
(チタン系キレート、有効成分100%)
・シランカップリング剤 0.3部
(有効成分100%)
・溶媒 18.9部
【0061】
[実施例7]
実施例1に用いた離型性組成物を含む塗布液を下記組成の離型性組成物を含む塗布液に代えた以外は、実施例1と同様にして、実施例7の表面保護フィルムを作製した。
【0062】
<離型性組成物を含む塗布液>
・バインダー樹脂 1.70部
(ES-1002T:信越化学工業社、固形分60%)
・末端にカルビノール基を有するシリコーンオイル 0.06部
(X-22-170DX:信越化学工業社、固形分100%)
・シランアルコキシド縮合物 2.00部
(X-40-2308:信越化学工業社、有効成分100%)
・硬化剤 0.1部
(チタン系キレート、有効成分100%)
・シランカップリング剤 0.3部
(有効成分100%)
・溶媒 13.0部
【0063】
[実施例8]
実施例1に用いた離型性組成物を含む塗布液を下記組成の離型性組成物を含む塗布液に代えた以外は、実施例1と同様にして、実施例8の表面保護フィルムを作製した。
【0064】
<離型性組成物を含む塗布液>
・バインダー樹脂 1.70部
(ES-1002T:信越化学工業社、固形分60%)
・末端にエポキシ基を有するシリコーンオイル 0.06部
(X-22-163C:信越化学工業社、固形分100%)
・シランアルコキシド縮合物 2.00部
(X-40-2308:信越化学工業社、有効成分100%)
・硬化剤 0.1部
(チタン系キレート、有効成分100%)
・シランカップリング剤 0.3部
(有効成分100%)
・溶媒 13.0部
【0065】
[比較例1]
実施例1に用いた離型性組成物を含む塗布液を下記組成の離型性組成物を含む塗布液に代えた以外は、実施例1と同様にして、比較例1の表面保護フィルムを作製した。
【0066】
<離型性組成物を含む塗布液>
・バインダー樹脂 4.4部
(ES-1001N:信越化学工業社、固形分45%)
・末端にアミン基を有するシリコーンオイル 0.1部
(KF-8012:信越化学工業社、固形分100%)
・硬化剤 0.1部
(チタン系キレート、有効成分100%)
・溶媒 33.0部
【0067】
[比較例2]
実施例1に用いた離型性組成物を含む塗布液を下記組成の離型性組成物を含む塗布液に代えた以外は、実施例1と同様にして、比較例2の表面保護フィルムを作製した。
【0068】
<離型性組成物を含む塗布液>
・バインダー樹脂 3.3部
(ES-1001N:信越化学工業社、固形分45%)
・末端にアルコキシ基を有するシリコーンオイル 0.1部
(X-22-1968:信越化学工業社、固形分100%)
・硬化剤 0.1部
(チタン系キレート、有効成分100%)
・溶媒 33.0部
【0069】
実施例1〜8、比較例1〜2で得られた表面保護フィルムについて、下記項目の評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
[初期離型性の評価]
表面保護フィルムの塗膜に粘着テープ(セロテープ(登録商標)CT405AP-18:ニチバン社)を貼りつけて引っ張り試験機(島津小型卓上試験機 EZ-L:島津製作所社)を用いて、剥離速度300mm/minにおける180°剥離力を測定した。剥離力が0.1N/18mm未満のものを「◎」、0.1N/18mm以上、1N/18mm未満のものを「○」、1N/18mm以上のものを「×」とした。
【0071】
[耐洗浄溶剤性の評価]
表面保護フィルムの塗膜面の耐洗浄溶剤性を確認するためにエタノールを使用した耐クリーニング試験を行った。溶媒を布に浸漬させて200gの荷重をかけて100往復した。その後、粘着テープ(セロテープ(登録商標)CT405AP-18:ニチバン社)を貼りつけて引っ張り試験(島津小型卓上試験機 EZ-L:島津製作所社)を用いて、剥離速度300mm/minにおける180°剥離力を測定した。評価は剥離力が0.2N/18mm未満のものを「◎」、0.2N/18mm以上、1N/18mm未満のものを「○」、1N/18mm以上のものを「×」とした。
【0072】
[耐フォトレジスト付着性の評価]
フォトレジストを表面保護フィルムの塗膜面を密着させて、塗膜面の裏面から露光を行い、UV硬化樹脂を硬化させた後、表面保護フィルムから剥離した。この操作を100回行った後、表面保護フィルムの塗膜に粘着テープ(セロテープ(登録商標)CT405AP-18:ニチバン株式会社)を貼りつけて引っ張り試験(島津小型卓上試験機 EZ-L:株式会社島津製作所)を用いて、剥離速度300mm/minにおける180°剥離力を測定した。評価は剥離力が0.2N/18mm未満のものを「◎」、0.2N/18mm以上、1N/18mm未満のものを「○」、1N/18mm以上のものを「×」とした。
【0073】
[透明性の評価]
ヘーズメーター(HGM−2K:スガ試験機社)を用いて、JIS K7105:1981にしたがって、表面保護フィルムのヘーズを測定した。ヘーズが1%未満のものを「◎」、1%以上3%未満のものを「○」、3%以上のものを「×」とした。
【0074】
[外観の評価]
表面保護フィルムの外観を目視にて観察を行った。目視観察上均一なものを「○」、欠陥が見られたものを「×」とした。
【0075】
【表1】
【0076】
表1から以下の事項が理解される。実施例1〜8の表面保護フィルムは、シリコーンオイルと金属アルコキシドの加水分解物およびバインダー樹脂を含む離型性組成物から形成されてなる塗膜を有するものである。シリコーンオイルとバインダー樹脂との相溶性が良好であるため、透明性に優れるものであった。また、シリコーンオイルとバインダー樹脂との相溶性が良好であるが、金属アルコキシドの加水分解物を含むため、シリコーンオイルが、塗膜中に埋没することなく、初期の離型性が良好なものであった。
【0077】
実施例1〜6の表面保護フィルムは、シリコーンオイルとして、分子の末端に少なくとも1つのアルコキシ基を有するものを用いたため、塗膜中にシリコーンオイルが固定化され、実施例7、8の表面保護フィルムより、離型性を持続することができるものであった。
【0078】
実施例4の表面保護フィルムは、バインダー樹脂に対する金属アルコキシドの加水分解物の添加量が少ない(バインダー樹脂100部に対して60部強)ため、表面へ浮上したシリコーンオイルを固定化しきれず、実施例1〜3の表面保護フィルムと比べて、耐洗浄溶剤性、耐フォトレジスト性が若干劣るものとなった。しかしながら性能的には十分に満足できるものが得られた。
【0079】
実施例7の表面保護フィルムは、カルビノール基を有するシリコーンオイルを用いたものである。カルビノール基の反応性がアルコキシド基より劣るため、実施例1〜6の表面保護フィルムと比べて、耐洗浄溶剤性、耐フォトレジスト性が劣るものであった。これにより、反応性官能基としてのアルコキシ基を有する反応性シリコーンオイルを用いることで、初期離型性に加え、耐洗浄溶剤性と耐フォトレジスト性の向上をも図ることができること、すなわち有用性がより高められることが確認できた。
【0080】
実施例8の表面保護フィルムは、エポキシ基を有するシリコーンオイルを用いたものである。エポキシ基の反応性がアルコキシド基より劣るため、実施例1〜3の表面保護フィルムと比べて、耐洗浄溶剤性、耐フォトレジスト性が若干劣るものであった。
【0081】
比較例1の表面保護フィルムは、金属アルコキシドの加水分解物を含まないものである。シリコーンオイルとバインダー樹脂との相溶性が良好であるため、塗膜中にシリコーンオイルが埋没してしまい、初期離型性が得られないものであった。
【0082】
比較例2の表面保護フィルムは、金属アルコキシドの加水分解物を含まないものである。シリコーンオイルとバインダー樹脂との相溶性が良好であるため、シリコーンオイルの量を多くして、初期離型性を得ていた。しかし、塗膜中に占めるシリコーンオイルの割合が多くなったため、塗膜中にシリコーンオイルを充分固定化することができず、洗浄溶剤やフォトレジストによって遊離したシリコーンオイルが拭き取られ、離型持続性は得られないものであった。また、シリコーンオイルの割合が多くなったため、塗膜表面に指擦り試験(ラビング)をしたときの塗膜の白化の発生を防止することができないものであった。さらに、塗膜に固定化されなかったシリコーンオイルのフォトレジストへの転写を防止することができないものであった。