特許第5779119号(P5779119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779119
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】複合梁および複合梁を有する架構
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/22 20060101AFI20150827BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   E04B1/22
   E04H9/02 301
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-33887(P2012-33887)
(22)【出願日】2012年2月20日
(65)【公開番号】特開2013-170367(P2013-170367A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】杉山 智昭
(72)【発明者】
【氏名】辰濃 達
(72)【発明者】
【氏名】萱嶋 誠
【審査官】 土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−131587(JP,A)
【文献】 特開平06−200560(JP,A)
【文献】 特開平09−317054(JP,A)
【文献】 特開2002−004417(JP,A)
【文献】 特開平04−269228(JP,A)
【文献】 特開2007−016449(JP,A)
【文献】 特開2010−281044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/21 − 22
E04B 1/30
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱梁接合部と、端部に設けられた平滑な鋼板からなる離間材を介して前記柱梁接合部に当接するとともに前離間材の位置で前記柱梁接合部と開裂可能な、プレキャストコンクリート製の梁端コンクリート部と、
前記離間材を貫通して一方が前記梁端コンクリート部に定着されて、プレストレスを導入するPC鋼材と、
前記離間材を貫通して一方が前記梁端コンクリート部に定着されて、前記梁端コンクリート部と前記柱梁接合部の間に開裂が生じた際にはエネルギーを吸収する減衰材を有する複合梁。
【請求項2】
前記減衰材は、前記梁端コンクリート部の主筋である、請求項1に記載の複合梁。
【請求項3】
前記減衰材は、前記梁端コンクリート部の主筋とは別に設けられており、
前記減衰材は、保護材により覆われ、かつ前記離間材と絶縁されていることを特徴とする請求項1に記載の複合梁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の柱梁の接合構造に関するものであり、特に、プレストレスプレキャストコンクリートからなるとともにエネルギー吸収部材(減衰材)を備えた端部を有する複合梁、および当該複合梁を有する建物架構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレキャストコンクリート(PCa)柱とPCa梁との間に接合目地をモルタルでグラウトし、PC鋼材により圧着接合をするPCaPC圧着工法は、現在多く知られている。中央部が鉄骨造で端部にPCa部を有する梁とPCa柱との接合に関する発明として、特許文献1(特開平6−200560)を挙げることができる。当該文献は、PCa柱の側面に、鉄骨梁の両端に鉄筋コンクリート部が設けられた複合梁の端部を突合わせて配設し、当該梁端部及びPCa柱に亘って、柱を横断するPC鋼線又は鋼棒を貫通させ、同鋼線又は鋼棒の両端部を定着した構造を開示する。
【0003】
このようなPCaPC圧着工法によれば、地震時の梁の変形は、梁端目地部分の目開きによる回転変形が大部分を占め、梁部材一般部のひび割れ損傷が小さくなる。しかし、そのために、架構の復元力特性は弾性的な挙動となって、地震時の減衰・エネルギー吸収量がRC構造よりも小さくなる点が問題である。
【0004】
梁端部を鉄筋コンクリート造、梁中央を鉄骨造とし、梁端にPC鋼棒と鉄筋を配置し、PC鋼棒にプレストレスを導入した構造が特許文献2(特開2010−281044)に記載されている。
【0005】
特許文献2のように、PC鋼材と共に鉄筋が存在するPRC構造は、PC鋼材と同時に配置された鉄筋が降伏することによって、エネルギー吸収・減衰が得られる。しかしながら、この場合、柱梁接合部と梁の接合面に目地が無く、柱梁接合部内と梁部材のコンクリートが一体的なため、梁端目地部分以外の部材全体にもひび割れ(曲げひび割れ)が生じ易く部材損傷が大きい。さらに、柱梁接合部と梁の接合面におけるひび割れ面は、骨材等により平滑でないため、残留変形が生じ易い。このため、架構としての損傷が大きいとともに、梁端に配筋された鉄筋に降伏が生じる部材変形角は大きくなり、小さい応答変形角時に減衰効果が得られにくいという課題がある。
【0006】
PCaPC圧着工法の梁端に減衰材(エネルギー吸収材)を配置する構造として、PCaPC圧着工法において、鉄筋を同時に配筋してエネルギー吸収を行う構造(鉄筋はカプラーで接続)、特許文献3(特開平06−212800)やPCaPC圧着工法において、減衰材(エネルギー吸収材等)を梁端に配置し、目地の目開きにより建築物の減衰を得ようとする構造、特許文献4(特開2002−201817)が知られている。
【0007】
特許文献3の方法では、柱部材(柱梁接合部)と梁部材が各々別個のプレキャスト部材とされており、その接合面において、目地が存在し、かつ、鉄筋の接合には必ず機械式継手等の継手が必要である。また、特許文献4の方法は、梁と柱と構築した後に減衰装置を配置することになるが、柱および梁の形状の外側に配置する必要があり、その納まりに問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−200560号公報
【特許文献2】特開2010−281044号公報
【特許文献3】特開平06−212800号公報
【特許文献4】特開2002−201817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の技術が有する上記の課題を解決すべく発明されたもので、特に、梁の変形を梁端に集中させ、残留変形および損傷を小さくし、かつ、通常のPCaPC圧着架構よりもエネルギー吸収能の大きい架構を提供することを課題とする。また、柱梁接合部と梁の接合面に離間材を設置することで、梁の変形を柱梁接合部と梁の接合面に集中させ、残留変形および損傷を小さくし、かつ、通常のPCaPC圧着架構よりもエネルギー吸収能の大きい架構を提供することを課題とする。すなわち、地震時の変形を柱梁の接合面に集中させ、かつ、地震時におけるエネルギー吸収によって、大地震時にも建築物の応答(損傷)を軽減するとともに、さらに、地震後には残留変形をほとんど残さない柱梁接合部および当該接合部を有する建築物を得ることを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決することを目的として、本発明は、端部に設けられた離間材を介して柱梁接合部に当接するとともに離間材の位置で柱梁接合部と開裂可能な、プレキャストコンクリート製の梁端コンクリート部と、
前記離間材を貫通して一端が前記梁端コンクリート部に他端が前記柱梁接合部に留められて、プレストレスを導入するPC鋼材と、
前記離間材を貫通して一端が前記梁端コンクリート部に他端が前記柱梁接合部に留められて、前記梁端コンクリート部と前記柱梁接合部の間に開裂が生じた際にはエネルギーを吸収する減衰材を有する複合梁および当該複合梁を有する建物架構を提案する。
【0011】
当該複合梁の、離間材から梁の軸方向に梁中央部に延びるプレキャストコンクリート製のコンクリート部分(梁端コンクリート部と称することにする)は、継手を介して梁の中央部を構成する鉄骨部材と接合されても良いし、梁端コンクリート部の鉄骨部材がそのまま延長されて梁の中央部を構成してもよい。本明細書において、柱梁接合部とは、柱の、離間材を介して前記複合梁に接する部分およびその近傍であって、目地を介して上下階の柱と接する部分をいう。前記複合梁のPC鋼材は、前記離間材を貫通して一端が前記梁端コンクリート部に他端が柱梁接合部に留められて、前記梁端コンクリート部と前記柱梁接合部にプレストレスを導入するPC鋼材と、前記離間材を貫通して一端が梁端コンクリート部に他端が梁端コンクリート部に留められて、前記接合面に開裂が生じた際にはエネルギーを吸収する減衰材を有する構成であってもよい。以下、梁中央部から前記離間材までの部分(あるいは両端の離間材の間の部分)を単に梁、前記柱梁接合部とその上下の柱を含めて単に柱と称することがある。
【0012】
本発明において梁の端部近傍とは、梁の、柱と接する接合面(離間材)の近傍をさすが、梁全長に対する端部近傍および梁端コンクリート部の長さおよび梁の全長に対する比率は、当該建築物の構造上の特性に鑑みて適宜決定されるべきである。前記梁端コンクリート部は端部近傍と同一であっても良いが必ずしも同一である場合に限る必要は無い。離間材とは、柱梁接合部のコンクリートに実質的に固着しない部材であれば材質を問わないが、例えば梁の端部に埋め込まれた鋼板のようなものである。離間材には、上述のようにPC鋼材と減衰材が貫通するための開口(貫通孔)が形成されている。減衰材は例えば、顕著な降伏挙動を示す鋼材・鉄筋等が好適に用いられるが、変形に対してエネルギーを吸収すれば他の材料・機構を用いても差し支えない。
【0013】
本発明においては、前記減衰材は前記接合面を貫通して一端が前記柱梁接合部の前記梁と逆側の側面近傍で固定され、他端が前記プレキャストコンクリート製の梁端コンクリート部を貫通して、梁端コンクリート部の前記柱と逆側の端面近傍で固定されているのが典型的であるが、定着は、梁端部コンクリート部で定着長さが確保できれば端面近傍で固定する必要はない。
【0014】
前記減衰材は、前記プレキャストコンクリート製の端部の主筋であってもよい。あるいは、前記減衰材は、前記プレキャストコンクリート製の端部の主筋とは別に設けられた部材であってもよい。さらに、前記減衰材は、柱梁接合部と梁の接合面を貫通して一端が前記柱梁接合部の前記梁と逆側の側面近傍で定着され、他端がプレキャストコンクリート製の梁端コンクリート部内に、接合面から定着に必要な長さ、90度フック、または、機械式定着等によって定着されていてもよい。本発明はまた、前記複合梁を有する建物架構を提案するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以下に記載する効果をあげることができる。
離間材として、梁の変形に追随し、かつ、柱梁接合部と縁の切られた材(鋼板)を配置することにより、梁端に生じる曲げモーメントにより梁端で確実に離間を生じさせることができる。その接合面(離間材の表面)は平滑なので、地震後に離間面は確実に閉じられる。これにより、梁の回転変形を、梁端の接合面に集中させ、残留変形を小さくさせる効果がある。
【0016】
減衰材として、コンクリートに埋設した鉄筋を上記の離間材を貫通させることで、鉄筋を降伏させ、地震時のエネルギー吸収を確保できる。本鉄筋は、柱梁接合部と梁端の接合面の近傍に絶縁材を兼ねた保護材を設けることで、離間材との干渉およびコンクリートとの付着を無くすことができ、確実な降伏と伸び、すなわちエネルギー吸収を確保できる。
【0017】
柱梁接合部と梁の間には、離間材(鋼板)が配置されているため、柱と梁のコンクリートの打ち分けが可能である。それぞれに適した強度が選択でき、経済的である。さらに、鉄筋がコンクリート中に埋設されるため、梁の上端・下端にエネルギー吸収材を別に設ける場合よりも納まりが良好で、経済的かつメンテナンスフリーとなる。また、梁端コンクリート部は、柱梁接合部一体型のPCaとすることで、短工期化が可能であり、梁端コンクリート部に鉄骨が埋め込まれた鉄筋コンクリート造(プレストレストコンクリート造)、梁中央を鉄骨造とする複合構造梁とすることで、ロングスパンにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のプレキャストコンクリート梁と柱の接合構造を構成する柱(柱梁接合部を含む)と梁(梁端コンクリート部を含む)の模式的な鉛直断面図である。
図2】本発明のプレキャストコンクリート梁と柱の接合構造を構成する柱(柱梁接合部を含む)と梁(離間材及び梁端コンクリート部)の模式的な鉛直断面図である。
図3】本発明に基づくプレキャストコンクリート梁と柱の接合構造の梁位置での水平断面図である。
図4】本発明の第2の実施例に基づく、プレキャストコンクリート梁と柱の接合構造を構成する柱(柱梁接合部を含む)と梁(梁端コンクリート部を含む)の模式的な鉛直断面図である。
図5】本発明の第2の実施例に基づく、プレキャストコンクリート梁と柱の接合構造(複合梁)の梁位置での水平断面図である。
図6】本発明の第2の実施例に基づく、柱の鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
本発明の第1の実施例によれば、PCaの柱と梁の接合において、PC鋼材が、梁部材軸方向に柱と梁の接合面(梁端に設けられた離間材)を貫通して配置される。PC鋼材は、複合梁のコンクリートの強度発現後に緊張し、梁端コンクリート部と柱梁接合部にプレストレスが導入される。また、鉄筋が梁部材軸方向に複合梁を貫通して配置されるが、当該鉄筋は、梁主筋と別に配筋されてもよい。さらに、上記柱梁接合部と前記梁端コンクリート部の接合面には、梁の変形に追随し、かつ、柱の変形とは絶縁された離間材(鋼板)が配置される。上記、鉄筋およびPC鋼材は、その離間材(鋼板)を貫通する。鋼板は、梁端コンクリート部の接合面ではなく、柱梁接合部の梁端と接する接合面に設けてもよいし、あるいはその両方に設けることができる。
【0020】
本発明の実施例によれば、梁は、中央を鉄骨造、梁の端部を鉄筋コンクリート造(鉄骨が埋め込まれ、プレストレスが導入された鉄筋コンクリート造)とした複合構造梁であってもよい。接合面近傍の鉄筋は、保護材(ビニールホース等)で覆うことで離間材と絶縁するとともに、コンクリートとの付着を切るのが望ましい。さらに、上記鉄筋は、梁端の曲げ耐力の20〜30%程度を負担する量を配置するのが好ましい。
【0021】
以下具体的な実施例の構造について説明するが、本発明を実施するためには必ずしも下記の構造を有することが必要というわけではなく、好適な実施例の目安であることに注意すべきである。鉄筋の埋め込み長さは、鉄骨のせいの2.5倍程度であり、この長さが確保されれば、必ずしも、柱梁接合部あるいは梁端コンクリート部の離間材とは逆側の端部近傍まで埋め込む必要はない。また、離間材は、10mm前後の厚さとし、スタッド・溶接したU字筋などで梁に定着する。これにより梁と一体化して抵抗させる。
【0022】
離間材の貫通孔の径は、減衰材(鉄筋)に対しては、減衰材の径の2倍程度とし、PC鋼棒に対しては、シース管の径が貫通する同程度の大きさとすることで、離間材と減衰材の干渉を防ぐことができる。離間材と減衰材(鉄筋)の間には、保護材を使用するのが好ましい。保護材としては例えばビニールホース・粘土がある。上記保護材は、コンクリートと減衰材の付着を切る効果もある。その長さは、離間材の厚さの1〜2倍程度であるのが好ましい。
【0023】
柱梁接合部内の柱主筋位置には、シース管を配置する。梁の鉄骨は、梁端コンクリート部に近い応力の小さい箇所で継ぐのが好ましい。コンクリートは、柱梁接合部と梁端コンクリート部を同時に打設することができる。PCaのピースは、柱梁接合部から梁鉄骨の継手位置まで一体とする。
【0024】
また、架構の構築は、以下の手順で行なうことができる。
1)工場、または、現場サイトで、梁端コンクリート部と柱梁接合部にプレストレス導入する。
2)梁端コンクリート部と柱梁接合部が一体化されたピースを楊重し、下階PCa柱から突出している柱主筋が、柱梁接合部のシース管に挿入されるように設置。下階柱の柱頭目地部とシース管内をグラウトする。(いわゆるレンコンタイプ)
3)梁鉄骨を揚重・配置し、継手を施工する。
4)スラブ設置後、上層階柱PCa建て方を行なう。
【0025】
図1は本発明の第1の実施例を示したものである。梁200は中央部分と端部近傍部分とが継手220によって接合されている。梁200は梁端コンクリート部(複合梁部)370内にも鉄骨部材210を有している。つまり、梁端部近傍部分は、継手220の近傍を除いて、鉄骨部材210が鉄筋コンクリートによって覆われて梁端コンクリート部(複合梁部)370を形成する。梁端コンクリート部370においては、シース管340に収容されたPC鋼棒350が柱の軸方向に伸び、これらがスタラップ筋330に巻回されている。PC鋼棒350の梁200の中央部よりの端部はPC鋼材定着プレート362を貫通してボルトによって固定されており、他端は、柱梁接合部(パネルゾーン)150を貫通して柱梁接合部150の梁200とは反対側の側面においてPC鋼材定着プレート360を貫通してボルトによって固定されている。梁端コンクリート部370にはさらにシース管340及びPC鋼棒350と並行に、つまり梁200の軸と平行に減衰材(エネルギー吸収材)320が設けられている。
【0026】
梁200は離間材(鋼板)310を介して柱梁接合部150と接しているが、梁のPC鋼棒350が離間材(鋼板)310および柱梁接合部150を貫通して柱梁接合部150の梁200とは反対側の側面において固定されていることは前記のとおりである。
【0027】
当該実施例によれば、PCaの柱と梁の接合において、梁部材軸方向に柱(柱梁接合部)と梁の接合面(梁端)を貫通して配置されるPC鋼棒350は、梁端コンクリート部(複合梁部)370と梁200のコンクリートの強度発現後に緊張し、梁端コンクリート部370と柱梁接合部(パネルゾーン)150にプレストレスが導入される。また、PC鋼棒350が梁200軸方向に梁端コンクリート部370と離間材(鋼板)310を貫通して配置されるが、PC鋼棒350は、梁200の主筋と別に配筋されてもよい。さらに、柱梁接合部(パネルゾーン)150と梁200端部の接合面には、梁の変形に追随し、かつ、柱との変形とは絶縁された離間材(鋼板)310が配置される。つまり、上記鉄筋およびPC鋼棒350は、離間材(鋼板)310を貫通する。
【0028】
梁200は柱梁接合部(パネルゾーン)150に対してPC鋼棒350の緊張力によって押圧されているが、固定されてはおらず、柱100と梁200端部に作用するモーメントが所定の値を超えると、PC鋼棒350は伸張され、離間材(鋼板)310は柱100に対して固定されている柱梁接合部(パネルゾーン)150から離間する。
【0029】
減衰材(エネルギー吸収材)320の一端は柱100内部で定着されており、梁200では柱とは逆の側の端部近傍で固定されている。PC鋼棒350と減衰材(エネルギー吸収材)320は離間材(鋼板)310を貫通し、離間材(鋼板)310にはこれらを貫通させるための貫通孔が形成されている。減衰材(エネルギー吸収材)320は軟鋼等、塑性変形可能な材料からなっており、地震時の荷重によって柱100と梁200が離間材(鋼板)310において開裂する際には引張り力によって塑性変形することでエネルギーを吸収する。
【0030】
つまり、本発明においては、柱梁接合部(パネルゾーン)150と梁端コンクリート部370の接合面において梁200の軸方向にPC鋼棒350と減衰材(エネルギー吸収材)320となる鉄筋が配置することが特徴である。上記の柱梁接合部(パネルゾーン)150と梁200の接合面に梁の変形に追随し、かつ、柱の変形とは絶縁された離間材(鋼板)310を配置する。離間材(鋼板)310は、鉄板を使用するのが実施例のひとつである。また、その離間材(鋼板)310は、貫通孔が設けられており、シース管340および減衰材(エネルギー吸収材)320となる鉄筋が貫通する。
【0031】
本発明においては、柱100の変形に追随する柱梁接合部150および梁200の変形に追随する梁端コンクリート部370の2つの部分が離間材(鋼板)310によって絶縁されると同時にPC鋼棒のプリストレスによって圧着され、地震時等において離間材310位置に開裂が生じた場合には離間材を貫通して設けた鉄筋等のエネルギー吸収材がエネルギー吸収を行なう構造によって地震時のエネルギー吸収を行なうものである。上記の鉄筋は、梁主筋との兼用も可能であるが、梁主筋とは別に鉄筋の降伏が確保できる様に定着されて、梁および柱梁接合部内に別個に配筋されてもよい。
【0032】
PC鋼棒350の緊張力は、地震時に梁端の離間材の位置に開裂(目開き)が生じ、かつ、減衰材(鉄筋)も降伏するように導入する。上記減衰材(エネルギー吸収材)320となる鉄筋は、柱梁接合部(パネルゾーン)150と梁200の接合面近傍をビニールパイプで覆い、離間材(鋼板)310と絶縁するとともに、コンクリートとの付着を切ることが好ましく、その配筋量は、梁端の曲げ耐力の20〜30%を負担する程度が最適である。梁200は、好ましくは、端部を鉄骨が埋め込まれ、プレストレスが導入された鉄筋コンクリート造、中央部を鉄骨造とした複合構造梁である。
【0033】
図2は、本発明の上記実施例に基づく柱梁構造の柱100および、梁200(離間材部分)、梁(梁端コンクリート部)の鉛直断面図である。離間材(鋼板)310には貫通孔が形成されており、当該貫通孔を減衰材(エネルギー吸収材)320およびシース管340、当該シース管340内に摺動可能に収容されたPC鋼棒350が貫通する。
【0034】
図3は、上記構造の水平断面図である。
【0035】
図4は、本発明の第2の実施例に基づく、プレキャストコンクリート梁と柱の接合構造を構成する柱梁接合部、梁(離間材、梁端コンクリート部、梁中央部近傍)の鉛直断面図である。第2の実施例は、減衰材(エネルギー吸収材)322が梁の主筋とは別に設けられている点が第1の実施例と異なる。
【0036】
構築方法としては、例えば、鉄筋およびPC鋼材用のシース管が離間材を貫通して配置された状態で柱梁接合部および梁端部RC部分にコンクリートを打設する。その際、柱梁接合部の主筋部分には、シース管を設置しておく。コンクリートの強度発現後、梁のシース管にPC鋼材を挿入し、工場(あるいは現場サイト)でPC鋼材を緊張してプレストレスを導入する。上記部材は、下階柱の主筋を柱主筋用シースに挿入して設置する。その後、柱目地およびシース管にグラウトし、鉄骨構造梁の接合、床の構築、上階柱のセットおよび目地・継手のグラウト、を実施して、更に上階を構築していく。
【0037】
図5図6は、第2の実施例に基づく、プレキャストコンクリート梁と柱の接合構造の水平断面図および柱の鉛直断面図である。
【符号の説明】
【0038】
100 柱
102 上階柱
104 下階柱
106 目地
110 柱の主筋(隅部)
120 柱の主筋
150 柱梁接合部(パネルゾーン)
200 梁
210 鉄骨(梁のH型鋼)
310 離間材(鋼板)
320、322 減衰材(エネルギー吸収材)
330 梁の肋筋
340 シース管
350 PC鋼材
360、362 PC鋼材定着プレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6