特許第5779207号(P5779207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779207
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】法面の補強構造及び法面の補強方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
   E02D17/20 103H
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-125307(P2013-125307)
(22)【出願日】2013年6月14日
(65)【公開番号】特開2015-1084(P2015-1084A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2013年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000245852
【氏名又は名称】矢作建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】織田 裕
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】桐山 和也
【審査官】 鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−006960(JP,A)
【文献】 特開2013−044154(JP,A)
【文献】 特開2001−081772(JP,A)
【文献】 特開平07−286326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/00−17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面に配置され、前記法面とは反対側の面である表面に対して直交するように形成された貫通孔を有する板部材と、
前記貫通孔を通じて前記法面を掘削することによって前記法面に形成される有底の削孔である孔に挿入される前記孔の半径よりも直径が小さい棒部材と、
前記板部材と前記法面との間に充填される裏込材と、
基端に前記貫通孔よりも外径の大きいフランジ部を有して円筒状に形成され、前記貫通孔に対して傾斜するように前記貫通孔および前記孔の開口部に挿入されるガイド部材と、
前記棒部材を前記孔の中心位置に保持するために前記棒部材の長手方向に沿って複数取着されるフレーム状のスペーサと、
前記孔に注入される注入材と、
前記孔内において、前記注入材が充填されない非注入部に充填される、施工時における流動性が前記注入材よりも低い充填材と、
前記板部材を前記法面に固定する固定部と、
を備え、
前記法面の勾配が80°より大きく、かつ、90°以下である場合に、
前記孔の開口部側から底部側に向かう延設方向と、前記開口部よりも鉛直方向下側の前記法面との交差角度が90°より小さく、
前記孔の前記延設方向は、水平に対する傾斜角度が15°以下であり、
前記注入材および前記充填材が導入された前記ガイド部材の前記フランジ部側の開口は、前記固定部によって塞がれることを特徴とする法面の補強構造。
【請求項2】
前記固定部は、前記棒部材における前記孔外に位置する突端部に形成されたねじ部に螺嵌されるナットと、一辺の長さが前記開口部の直径よりも長い平座金と、前記開口部よりも鉛直方向下側の前記法面と前記延設方向との交差角度に対応する傾斜角度の傾斜面を有する傾斜座金と、を含み、
前記平座金は前記傾斜面と前記開口部との間に配置されることを特徴とする請求項1に記載の法面の補強構造。
【請求項3】
前記法面の勾配が80°より大きく、かつ、90°以下である場合に、
前記孔の前記延設方向は、水平に対する傾斜角度が10°以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の法面の補強構造。
【請求項4】
表面に対して直交するように形成された貫通孔を有する板部材を法面に配置する配置工程と、
前記板部材と前記法面との間に裏込材を充填する充填工程と、
前記貫通孔を通じて前記法面を掘削することによって前記法面に有底の孔を形成する形成工程と、
前記孔の半径よりも直径が小さい棒部材を、同棒部材の長手方向に沿って複数のフレーム状のスペーサが取着された状態で前記孔に挿入し、前記スペーサによって前記棒部材を前記孔の中心位置に配置する挿入工程と、
基端に前記貫通孔よりも外径の大きいフランジ部を有して円筒状に形成されたガイド部材を、前記貫通孔に対して傾斜するように前記貫通孔および前記孔の開口部に挿入する工程と、
前記ガイド部材を介して前記孔に注入材を注入する注入工程と、
前記注入工程の後に、前記孔内および前記ガイド部材内において、前記注入材が充填されない非注入部に、施工時における流動性が前記注入材よりも低い充填材を充填する充填工程と、
固定部によって前記板部材を前記法面に固定する固定工程と、
を備え、
前記法面の勾配が80°より大きく、かつ、90°以下である場合に、
前記形成工程において、前記孔の前記法面に形成される開口部側から底部側に向かう延設方向と、前記開口部よりも鉛直方向下側の前記法面との交差角度が90°より小さくなるとともに、前記孔の前記延設方向の水平に対する傾斜角度が15°以下になるように、前記孔を形成し、
前記固定工程において、前記注入材および前記充填材が導入された前記ガイド部材の前記フランジ部側の開口は、前記固定部によって塞がれることを特徴とする法面の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切土や盛土によって形成される法面の補強構造及び法面の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切土や盛土によって形成される法面の補強方法としては、例えば特許文献1に示すようなものが知られている。こうした法面の補強方法では、まず、中央部に貫通孔を有するプレキャスト板本体を法面に設置した後、貫通孔から法面に削孔して有底の削孔部を形成する。続いて、削孔部に棒状補強材を挿入した後、削孔部内にグラウト材を注入する。この場合、削孔部内にグラウト材を注入した後、削孔部に棒状補強材を挿入するようにしてもよい。
【0003】
続いて、削孔部内に注入したグラウト材を養生して硬化させた後、棒状補強材の突端部に形成されたねじ部に座金をかませた状態でナットを螺嵌して締め付ける。これにより、プレキャスト板本体が法面に固定されて法面が補強される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−246705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のように法面を補強する場合、削孔部は、その延設方向が法面に対して直交するように形成されることが多い。しかし、削孔部が法面に対して直交するように形成されている場合には、法面の勾配が急になって垂直に近づくにつれて、削孔部の延設方向は水平に近くなる。そのため、法面の勾配が急になると、削孔部内にグラウト材を充填する際の施工性が悪化してしまうという課題がある。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、法面が急勾配であっても、施工性の悪化を抑制することができる法面の補強構造及び法面の補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する法面の補強構造は、法面に配置される板部材と、前記法面に形成された有底の孔に挿入される棒部材と、前記孔に注入される注入材と、前記板部材を前記法面に固定する固定部と、を備え、前記法面の勾配が80°より大きく、かつ、90°以下である場合に、前記孔の開口部側から底部側に向かう延設方向と、前記開口部よりも鉛直方向下側の前記法面との交差角度が90°より小さい。
【0008】
この構成によれば、法面に形成された孔は、その開口部側から底部側に向かう延設方向と、開口部よりも鉛直方向下側の法面との交差角度が90°より小さいため、水平に対して下向きに傾斜した状態になる。これにより、孔に注入された注入材は、孔の底部側から溜まっていくので、法面の勾配が80°より大きく、かつ、90°以下という急勾配であっても、その法面に形成された孔内に注入材を充填することができる。したがって、法面が急勾配であっても、施工性の悪化を抑制することができる。
【0009】
なお、法面の勾配が90°のとき、法面は鉛直面となる。すなわち、本明細書において、「法面」とは斜面だけでなく鉛直面も含むものとする。また、本明細書において、「急勾配の法面」とは、水平から上向きの傾斜角度が80°より大きく、かつ、90°以下である法面のことをいう。
【0010】
上記法面の補強構造は、前記孔内において、前記注入材が充填されない非注入部に充填される充填材を備え、前記法面の勾配が80°より大きく、かつ、90°以下である場合に、前記孔の前記延設方向は、水平に対する傾斜角度が10°以上であるのが好ましい。
【0011】
この構成によれば、法面に形成された孔は、開口部側から底部側に向かう延設方向の水平に対する傾斜角度が10°以上であるので、傾斜角度が10°より小さい場合よりも孔内における注入材の充填率が高くなる。これに対して、孔内における注入材の充填率が低くなると、孔内において注入材が充填されない非注入部が孔の奥側まで及び、非注入部に充填材を充填する際の施工性が悪化するおそれがある。したがって、延設方向の水平に対する傾斜角度を10°以上にして、孔内の注入材の充填率を高くすることにより、充填材を充填する際の施工性の悪化を抑制することができる。
【0012】
上記法面の補強構造において、前記孔は前記板部材に設けられた貫通孔を通じて前記法面を掘削することによって形成される削孔であり、前記法面の勾配が80°より大きく、かつ、90°以下である場合に、前記孔の前記延設方向は、水平に対する傾斜角度が15°以下であるのが好ましい。
【0013】
板部材に設けられた貫通孔を通じて法面を掘削する場合には、孔の延設方向の水平に対する傾斜角度が下向きに大きくなるにつれて、孔を掘削するための掘削部材と板部材の貫通孔とが干渉しやすくなる。その点、上記構成によれば、孔の延設方向は水平に対する傾斜角度が15°以下であるため、板部材の貫通孔と掘削部材とが干渉しにくくなり、孔を形成する際の施工性の悪化が抑制される。
【0014】
上記課題を解決する法面の補強方法は、板部材を法面に配置する配置工程と、前記法面に有底の孔を形成する形成工程と、前記孔に棒部材を挿入する挿入工程と、前記孔に注入材を注入する注入工程と、前記板部材を前記法面に固定する固定工程と、を備え、前記法面の勾配が80°より大きく、かつ、90°以下である場合に、前記形成工程において、前記孔の開口部側から底部側に向かう延設方向と、前記開口部よりも鉛直方向下側の前記法面との交差角度が90°より小さくなるように、前記孔を形成する。
【0015】
この構成によれば、孔は、開口部側から底部側に向かう延設方向と、開口部よりも鉛直方向下側の法面との交差角度が90°より小さくなるように形成されるので、水平に対して下向きに傾斜した状態になる。これにより、孔に注入された注入材は、孔の底部側から溜まっていくので、法面の勾配が80°より大きく、かつ、90°以下という急勾配であっても、その法面に形成された孔内に注入材を充填することができる。したがって、法面が急勾配であっても、施工性の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態における法面の補強構造を示す断面模式図。
図2】一実施形態における法面の補強方法において、法面に孔を形成する工程を示す断面模式図。
図3】同法面の補強方法において、孔に注入材を注入する工程を示す断面模式図。
図4】孔に棒部材を挿入した状態を示す断面模式図。
図5】変形例における法面の補強構造を示す断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、法面の補強構造及び法面の補強方法の一実施形態を図面に従って説明する。
初めに、法面の補強構造について説明する。
図1に示すように、地山(地盤)11に形成された斜面である法面12には、コンクリートのプレキャスト板によって構成された平面視矩形状の板部材13が固定されている。なお、本実施形態の法面12の勾配θsは85°であるが、本実施形態の法面の補強構造及び補強方法は、勾配θsが80°より大きく、かつ、90°以下の法面に適応することができる。
【0018】
板部材13における地山11とは反対側の面である表面の中央部には、平面視略正方形状をなす凹部14が形成されている。凹部14において、内底面の中央部には、板部材13を貫通する平面視円形の貫通孔15が、板部材13の表面に対して直交するように形成されている。板部材13には、貫通孔15における凹部14側の端部を囲む金属製の定着プレート16が埋設されている。定着プレート16は、平面視において正方形状をなしており、その中心部に中心孔16aを有している。
【0019】
法面12における貫通孔15と対応する位置には、貫通孔15よりも若干径の小さい有底の孔17が形成されている。なお、本実施形態の孔17は、法面12に形成される開口部17a側から底部17b側に向かう延設方向が水平に対して下向きに傾斜しており、その勾配θbは10°になっている。また、孔17の延設方向と、開口部17aよりも鉛直方向下側の法面12との交差角度θcは90°より小さい85°になっている。
【0020】
孔17には、異形棒鋼よりなる棒部材18が貫通孔15を通して挿通されている。棒部材18は、その一端が孔17の底部17b近傍に位置するとともに、他端が凹部14内に位置している。棒部材18における孔17外に位置する突端部には、ねじ部20が設けられている。
【0021】
棒部材18における孔17内に位置する部分には、棒部材18を孔17の中心位置に保持するためのフレーム状のスペーサ21が棒部材18の長手方向に沿って等間隔で複数取着されている。
【0022】
貫通孔15には、基端に貫通孔15よりも外径の大きいフランジ部22を有する円筒状のガイド部材23が挿嵌されている。ガイド部材23は、例えば樹脂によって形成され、先端に向かうほど径が徐々に小さくなっている。そして、ガイド部材23は、その先端部が孔17の入口側の端部に挿嵌されるとともに、基端に位置するフランジ部22が凹部14の内底面に当接している。
【0023】
孔17内及びガイド部材23内には、早強ポルトランドセメントを使用したセメントミルクによって構成された注入材24が充填された状態で硬化している。孔17内における開口部17a付近の一部及びガイド部材23内のほぼ上側半分には、硬練りモルタルよりなる充填材25が充填された状態で硬化している。
【0024】
凹部14内において、棒部材18のねじ部20には、平面視正方形状をなす平座金26と、傾斜座金35とがかませられた状態でナット27が螺嵌されて締め付けられている。本実施形態において、ねじ部20に螺嵌されるナット27と、平座金26と、傾斜座金35とは、板部材13を法面12に固定する固定部50を構成する。
【0025】
傾斜座金35において、平座金26側に配置される傾斜面(図1では左面)は、ナット27側に配置される面(図1では右面)に対して、交差角度θcに対応する傾斜角度θt(例えば、θt=90°−θc。本実施形態ではθt=5°。)で配置されている。
【0026】
平座金26の一辺の長さは、貫通孔15の直径よりも長く且つガイド部材23のフランジ部22の外径よりも短くなっている。そして、板部材13と法面12との間には、セメントベントナイトよりなる裏込材28が充填された状態で硬化している。また、凹部14内には、平面視において略正方形状をなす板状のカバー部材29が配置されている。
【0027】
カバー部材29の内側の面には固定部50を収容する収容凹部30が形成されている。そして、収容凹部30内、及びカバー部材29と凹部14との間の隙間には、モルタルよりなる充填材31が充填された状態で硬化している。
【0028】
次に、上述した法面12の補強方法について説明する。
図2に示すように、法面12の補強を行う場合には、まず配置工程として、板部材13を法面12に配置する。すなわち、板部材13を、法面12との間に隙間が形成されるように隙間形成部材32を介在させた状態で、法面12と平行に配置する。続いて、板部材13と法面12との隙間に裏込材28を充填する。
【0029】
次に、形成工程として、掘削部材39を用いて法面12を掘削して、削孔である孔17を形成する。掘削部材39は、円筒状のケーシング40と、ケーシング40の内側に配置された削孔管41と、削孔管41の先端に設けられた掘削部42とを含んでいる。
【0030】
形成工程においては、まず、ケーシング40に削孔管41及び掘削部42を内蔵した状態の掘削部材39を板部材13の貫通孔15に通して、貫通孔15よりも鉛直方向下側の法面12に対する交差角度θcが85°になるように、掘削部42で地山11を掘削しながらケーシング40を挿入していく。そして、掘削部42によって孔17が形成されるとともに、形成された孔17内にケーシング40が挿入されると、ケーシング40を孔17内に残して、削孔管41及び掘削部42を引き抜く。
【0031】
また、図3に示すように、注入工程として、ケーシング40の内側に差し込んだホース43を通じて、孔17に注入材24であるセメントミルクを注入する。注入工程においては、ホース43を孔17の底部17b付近まで差し込み、底部17b側から注入材24が充填されるようにする。そして、開口部17aから注入材24が溢れ出るまで、注入材24の注入を継続する。
【0032】
続いて、図4に示すように、挿入工程として、スペーサ21が所定の間隔で複数取り着けられた棒部材18を孔17内に挿入する。このとき、棒部材18は、スペーサ21によって孔17の中心位置に配置された状態で、孔17内に設置される。
【0033】
孔17内に棒部材18を挿入した後、ケーシング40(図3参照)を孔17から引き抜く。また、ガイド部材23を貫通孔15に差し込む。すると、貫通孔15と孔17とがガイド部材23を介して連通する。続いて、ガイド部材23を介して孔17に注入材24を補足注入する。そして、1日養生して注入材24及び裏込材28を硬化させる。
【0034】
ここで、孔17は水平に対して下向きに傾斜して延びているため、孔17内における開口部17a付近の一部及びガイド部材23内のほぼ上側半分には、注入材24が充填されない空洞である非注入部33が形成される。
【0035】
図1に示すように、注入材24及び裏込材28の硬化後には、充填工程として非注入部33に充填材25を充填する。なお、充填材25として用いられる硬練りモルタルは、施工時における流動性が注入材24よりも低い。
【0036】
続いて、固定工程として、棒部材18のねじ部20に平座金26及び傾斜座金35をかませた状態でナット27を螺嵌して締め付けることで、板部材13を法面12に押し付けて固定する。このとき、棒部材18は板部材13及び定着プレート16に対して傾いているため、定着プレート16とナット27との間に傾斜座金35が介在させる。
【0037】
そして、固定工程により、平座金26によって貫通孔15がガイド部材23越しに塞がれる。すなわち、平座金26によってガイド部材23におけるフランジ部22側の開口が塞がれる。
【0038】
さらに、覆蓋工程として、収容凹部30に充填材31を充填するとともに内側の面に充填材31を塗布したカバー部材29を凹部14内に収容する。このとき、棒部材18の突端及び固定部50は、カバー部材29の収容凹部30内に充填された充填材31にめり込んだ状態となる。その後、充填材31が硬化することで、法面12の補強が完了する。
【0039】
次に、本実施形態にかかる法面の補強構造及び法面の補強方法の作用について説明する。
図1に示すように、本実施形態の孔17は、法面12との交差角度θcが85°になるように形成される。その結果、孔17の延設方向は、水平に対して下向きに傾斜した状態になる。そのため、注入工程において、孔17に注入された注入材24は、底部17b側から充填される。
【0040】
なお、注入工程において、孔17内における注入材24の充填率が低い場合には、非注入部33が孔17の奥深くまで形成されるために、充填工程において充填材25を充填する作業の手間が増える。その点、孔17の勾配θbを本実施形態のように10°以上にすることによって、充填工程における作業の手間が過度に増えない程度に、注入材24が充填される。
【0041】
ここで、例えば法面12の勾配θsが85°よりも緩い80°である場合には、延設方向と法面12との交差角度θcを90°としても、孔17の勾配θbが10°になる。これに対して、法面12の勾配θsが80°より大きい場合には、延設方向と法面12との交差角度θcを90°にすると、孔17の勾配θbが10°より小さくなる。
【0042】
そのため、法面12の勾配θsが80°より大きいような急勾配である場合には、延設方向と法面12との交差角度θcを90°より小さくすることによって、施工性の悪化が抑制される。
【0043】
一方で、孔17の勾配θbが15°より大きくなると、孔17を形成する際に、板部材13の貫通孔15と掘削部材39とが干渉しやすくなる。なお、法面12に孔17を形成した後に板部材13を配置することも考えられるが、この場合には板部材13の貫通孔15と法面12に形成した孔17との位置を合わせる作業が必要になる。
【0044】
また、板部材13の貫通孔15の直径を大きくすることによって、孔17の勾配θbを15°より大きくしつつ、貫通孔15と掘削部材39との干渉を回避することも考えられる。ただし、法面12に対する補強効果という点では、貫通孔15は小さい方が好ましい。したがって、本実施形態のように孔17の勾配θbを15°以下にすれば、作業効率の面でも好ましい上に、板部材13による高い補強効果が得られる。
【0045】
以上のことから、法面12の勾配θsが80°より大きく、かつ、90°以下である場合には、孔17の勾配θbは、水平より下向きであって、10°≦θb≦15°にするのが好ましい。
【0046】
以上詳述した実施形態によれば次のような効果が発揮される。
(1)法面12に形成された孔17は、その開口部17a側から底部17b側に向かう延設方向と、開口部17aよりも鉛直方向下側の法面12との交差角度θcが90°より小さいため、水平に対して下向きに傾斜した状態になる。これにより、孔17に注入された注入材24は、孔17の底部17b側から溜まっていくので、法面12の勾配が80°より大きく、かつ、90°以下という急勾配であっても、その法面12に形成された孔17内に注入材24を充填することができる。したがって、法面12が急勾配であっても、施工性の悪化を抑制することができる。
【0047】
(2)法面12に形成された孔17は、開口部17a側から底部17b側に向かう延設方向の水平に対する傾斜角度θbが10°以上であるので、傾斜角度θbが10°より小さい場合よりも孔17内における注入材24の充填率が高くなる。これに対して、孔17内における注入材24の充填率が低くなると、孔17内において注入材24が充填されない非注入部33が孔17の奥側まで及び、非注入部33に充填材25を充填する際の施工性が悪化するおそれがある。したがって、延設方向の水平に対する傾斜角度θbを10°以上にして、孔17内の注入材24の充填率を高くすることにより、充填材25を充填する際の施工性の悪化を抑制することができる。
【0048】
(3)板部材13に設けられた貫通孔15を通じて法面12を掘削する場合には、孔17の延設方向の水平に対する傾斜角度θbが下向きに大きくなるにつれて、孔17を掘削するための掘削部材39と板部材13の貫通孔15とが干渉しやすくなる。その点、上記実施形態によれば、孔17の延設方向は水平に対する傾斜角度θbが15°以下であるため、板部材13の貫通孔15と掘削部材39とが干渉しにくくなり、孔17を形成する際の施工性の悪化が抑制される。
【0049】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。また、下記変更例は、任意に組み合わせることができる。
【0050】
図5に示すように、法面12の勾配θsが90°である場合に、孔17の勾配θbを15°にするとともに、交差角度θcを75°としてもよい。この場合にも、上述した実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0051】
・傾斜座金35における傾斜角度θtは、必ずしもθt=90°−θcを満たす値でなくてもよく、棒部材18の板部材13に対する傾きを抑制することができればよい。また、棒部材18の板部材13に対する傾きが小さい場合などには、傾斜座金35を用いなくてもよい。
【0052】
・孔17の勾配θbは、10°より小さくてもよい。この場合には、例えば注入工程において孔17の開口部17aの下側を覆う蓋部材を設け、この蓋部材で開口部17aからの注入材24の流出を抑制することによって、注入材24の充填を行うようにすることもできる。
【0053】
・孔17の勾配θbは、15°より大きくてもよい。この場合には、孔17の勾配θbが15°以下の場合よりも、孔17に対する注入材24の充填率をより大きくすることができる。
【0054】
さらに、上記実施形態及び各変形例から把握される技術的思想を以下に記載する。
(イ)前記固定部は、前記棒部材における前記孔外に位置する突端部に形成されたねじ部に螺嵌されるナットと、傾斜座金とを含み、
前記傾斜座金は、前記開口部よりも鉛直方向下側の前記法面と前記延設方向との交差角度に対応する傾斜角度の傾斜面を有することを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の法面の補強構造。
【0055】
孔に挿入される棒部材は孔の延設方向に沿って設置されるため、孔の延設方向と法面とが直交しないと、ナットを締め付けたときにナットの下端側が浮いてしまう。そして、ナットが浮かないように締め付ける力を強くすると棒部材に曲げ引張り力やせん断力が作用してしまう一方で、棒部材に不要な曲げ引張り力やせん断力が作用しないように注意しながらナットの締め付け作業を行うと、施工性が悪化してしまう。その点、上記構成によれば、座金は傾斜面を有するので、ナットを締め付けたときのナットの浮きが抑制される。したがって、ナットの締め付けによって板部材を固定する際の施工性の悪化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0056】
12…法面、13…板部材、15…貫通孔、17…孔、17a…開口部、17b…底部、18…棒部材、24…注入材、25…充填材、33…非注入部、50…固定部。
図1
図2
図3
図4
図5