(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、マルチビーム半導体レーザ装置は、特性のビーム間差が小さいこと、すなわち各ビームの特性にばらつきのないことが要求される。なかでも、フォトダイオードのモニタ電流値は、前方光の光出力制御に密接に関連するため、そのばらつき低減が特に要求される。
【0008】
図18(a)は、この電流値モニタ方法を説明するマルチビーム半導体レーザ装置の概略平面図であり、(b)、(c)は、それぞれ(a)のB−B線、C−C線に沿った断面図である。なお、ここでは、半導体チップ内に4個のレーザダイオード素子が形成された4ビーム半導体レーザ装置を例に説明する。
【0009】
セラミック製のサブマウント10の上面には、レーザダイオード素子が形成された半導体チップ(レーザチップ11)がジャンクションダウン方式によって実装されている。このレーザチップ11の裏面(上面)には、裏面電極12が形成されている。また、サブマウント10と対向するレーザチップ11の表面(下面)には、4個のレーザダイオード素子に対応する4個の表面電極(図示せず)が形成されている。
【0010】
一方、サブマウント10の上面には、4本の電極パターン13(13a、13b、13c、13d)が形成されている。4本の電極パターン13のそれぞれの一端部は、ワイヤを接続するためのボンディングパッド13Pを構成し、他端部は、Au−Sn半田(図示せず)などを介してレーザチップ11の表面電極に電気的に接続されている。電極パターン13は、例えばTi膜の上にPt膜およびAu膜を順次積層した多層金属膜で構成されている。
【0011】
上記レーザチップ11から出射される後方光の延長線上には、この後方光を受光して電流に変換するフォトダイオード素子が形成された半導体チップ(フォトダイオードチップ14)が配置されている。
【0012】
マルチビーム半導体レーザ装置において、前方光の光出力を制御する際には、レーザチップ11に形成された4個のレーザダイオード素子(発光部)のそれぞれから出射される後方光を個別に順次フォトダイオードチップ14で受光して電流に変換し、4個の発光部の電流値をモニタ比較する。そして、それぞれの電流値が等しくなるようにする。
【0013】
しかしながら、本発明者の検討によると、上記した電流値モニタ方法では、レーザチップ11から出射される後方光の光量が同一であっても、サブマウント10と後方光との相対的な位置に依存して電流値が変動する可能性のあることが判明した。
【0014】
一般に、レーザチップの両端面から出射されるレーザービーム(前方光、後方光)の光量は、正規分布に近似できる角度分布を持っており、一例として、水平方向の半値全幅は10度程度であり、垂直方向の半値全幅は20度程度である。
【0015】
また、上記
図18に示す構造において、サブマウント10の上面からレーザチップ11の発光点までの高さは、一例として数μm〜100μm程度であり、後方光の発光点からサブマウント10の後端部までの距離(数100μm〜数1000μm)に比較して小さい。そのため、レーザチップ11から出射された後方光の一部は、サブマウント10の上面で反射してからフォトダイオードチップ14に入射する。すなわち、フォトダイオードチップ14に入射する光は、レーザチップ11から直接フォトダイオードチップ14に入射する光と、サブマウント10の上面で反射してからフォトダイオードチップ14に入射する光の和である。従って、フォトダイオードチップ14に入射する光量は、レーザチップ11から出射される後方光の光量が同一であっても、サブマウント10の表面状態、すなわちサブマウント10の上面の光反射率によって変動することになる。
【0016】
例えば
図18(b)に示すように、レーザチップ11の中央部近傍に位置する発光部から出射された後方光の反射光は、その大部分が電極パターン13bの表面で反射した反射光である。これに対し、
図18(c)に示すように、レーザチップ11の周辺部近傍に位置する発光部から出射された後方光の反射光は、その相当部分がサブマウント10の表面で反射した反射光である。
【0017】
前述したように、電極パターン13は、金属材料で構成されているのに対し、サブマウント10は、金属材料よりも光反射率の低いセラミック材料で構成されている。そのため、電極パターン13の表面で反射してフォトダイオードチップ14に入射する光量は、サブマウント10の表面で反射してフォトダイオードチップ14に入射する光量よりも多くなる。その結果、上記2箇所の発光部から出射される後方光の光量が同じであったとしても、フォトダイオードチップ14に入射する光量は、レーザチップ11の中央部近傍の発光部から出射された後方光の方が多くなり、その電流値も高くなる。
【0018】
マルチビーム半導体レーザ装置では、電極パターン13やボンディングパッド13Pのレイアウトの制約、レーザービームの電気的特性による制約、サブマウント10やパッケージ全体のデザイン上の制約などにより、電極パターン13a、13b、13c、13dの配線長を同一にすることが困難であり、通常、レーザチップ11の周辺部近傍の発光部に接続される電極パターン13a、13cの配線長は、中央部近傍の発光部に接続される電極パターン13b、13dの配線長よりも短くなる。従って、前述したように、フォトダイオードチップ14でモニタする電流値は、レーザチップ11の中央部近傍の発光部から出射された後方光よりも、レーザチップ11の周辺部近傍の発光部から出射された後方光の方が、小さくなる。
【0019】
このように、上記したマルチビーム半導体レーザ装置においては、サブマウント10の表面状態によって、その表面で反射してフォトダイオードに入射する光量がばらつき、変換電流値がばらつくために、後方光の光出力を精度良くモニタすることができないという問題がある。
【0020】
本発明の目的は、レーザチップから出射される後方光を受光してその電流値をモニタする際に、レーザチップが実装されたサブマウントの表面状態によって電流値がばらつく不具合を抑制することのできる技術を提供することにある。
【0021】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0023】
本願発明の好ましい一態様は、複数個のレーザダイオード素子が形成された第1半導体チップと、前記第1半導体チップが実装されたサブマウントと、前記サブマウントのチップ実装面に形成され、前記複数個のレーザダイオード素子のそれぞれと電気的に接続された複数個の電極パターンと、前記サブマウントの近傍に配置され、前記第1半導体チップの一端面から出射された複数のレーザビームを受光して電流に変換するフォトダイオード素子が形成された第2半導体チップとを備えたマルチビーム半導体レーザ装置であって、前記サブマウントの前記チップ実装面に、前記第1半導体チップの一端面から出射された前記複数のレーザビームの反射率を均一化するための補助電極パターンが形成されているものである。
【0024】
本願発明の他の好ましい一態様は、複数個のレーザダイオード素子が形成された第1半導体チップと、前記第1半導体チップが実装されたサブマウントと、前記サブマウントのチップ実装面に形成され、前記複数個のレーザダイオード素子のそれぞれと電気的に接続された複数個の電極パターンと、前記サブマウントの近傍に配置され、前記第1半導体チップの一端面から出射された複数のレーザビームを受光して電流に変換するフォトダイオード素子が形成された第2半導体チップとを備えたマルチビーム半導体レーザ装置であって、前記電極パターンの表面の一部に、前記第1半導体チップの一端面から出射された前記複数のレーザビームの反射率を均一化するための反射率低減膜が形成されているものである。
【発明の効果】
【0025】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0026】
複数個のレーザダイオード素子が形成された第1半導体チップから出射されるレーザビームをフォトダイオード素子で受光してその電流値をモニタする際に、第1半導体チップが実装されたサブマウントの表面状態によって電流値がばらつく不具合を抑制することのできるので、マルチビーム半導体レーザ装置のビーム間差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施の形態1である4ビーム半導体レーザ装置の全体構成を示す要部破断斜視図である。
【
図2】サブマウントに実装されたレーザチップの断面図である。
【
図3】サブマウントのチップ実装面を示す斜視図である。
【
図4】
図1に示す4ビーム半導体レーザ装置の等価回路図である。
【
図5】(a)はサブマウントのチップ実装面を示す概略平面図、b)は(a)のD−D線に沿った断面図、(c)は(a)のE−E線に沿った断面図である。
【
図6】フォトダイオードチップによるモニタ電流の電極パターン依存性の計算モデルおよび計算パラメータを示す図である。
【
図7】レーザチップの後方の電極パターン長とモニタ電流ビーム間差との関係を示すグラフである。
【
図8】レーザチップの後方の電極パターン長が40μmである場合における入射光量の角度分布を示すグラフである。
【
図9】レーザチップの後方の電極パターン長が630μmである場合における入射光量の角度分布を示すグラフである。
【
図10】レーザチップの後方の電極パターン長が40μmであるときに本発明を適用した場合における入射光量の角度分布を示すグラフである。
【
図11】補助電極パターンのレイアウトの別例を示すサブマウントの概略平面図である。
【
図12】本発明の実施の形態1を8ビーム半導体レーザ装置に適用した例を示すサブマウントの概略平面図である。
【
図13】本発明の実施の形態2である4ビーム半導体レーザ装置を示すサブマウントの概略平面図である。
【
図14】本発明の実施の形態2を8ビーム半導体レーザ装置に適用した例を示すサブマウントの概略平面図である。
【
図15】本発明の実施の形態3である8ビーム半導体レーザ装置を示すサブマウントの概略平面図である。
【
図16】本発明の他の実施の形態である4ビーム半導体レーザ装置を示すサブマウントの概略平面図である。
【
図17】本発明の他の実施の形態である4ビーム半導体レーザ装置を示すサブマウントの概略平面図である。
【
図18】(a)はマルチビーム半導体レーザ装置の電流値モニタ方法を説明する概略平面図、(b)は(a)のB−B線に沿った断面図、(c)は(a)のC−C線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。また、以下の実施の形態を説明する図面においては、構成を分かり易くするために、平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0029】
(実施の形態1)
本実施の形態は、凸状のリッジ部を有する4ビーム半導体レーザ装置に適用したものであり、
図1は、この4ビーム半導体レーザ装置の全体構成を示す要部破断斜視図である。
【0030】
本実施の形態の4ビーム半導体レーザ装置は、例えば直径が9.0mm程度、厚さが1.2mm程度のFe合金からなる円盤状のステム30と、このステム30の上面を覆うキャップ31とを備えたパッケージ(封止容器)を有している。キャップ31の底部の外周に設けられたフランジ部32は、ステム30の上面に固定されている。また、キャップ31の上面の中央部分には、レーザビームを透過するガラス板33が接合された丸穴34が設けられている。
【0031】
キャップ31で覆われたステム30の上面の中央部近傍には、例えばCuのような熱伝導性が良好な金属からなるヒートシンク35が搭載されている。このヒートシンク35は、ロウ材(図示せず)を介してステム30の上面に接合されており、その一面には、サブマウント10が半田(図示せず)を介して固定されている。
【0032】
サブマウント10は、AlN、SiC、CuWなどのセラミックで構成されており、その一面には、4個のレーザダイオード素子が形成されたレーザチップ11がジャンクションダウン方式によって実装されている。サブマウント10は、レーザダイオード素子の発光時に発生する熱をレーザチップ11の外部に放散するための放熱板と、レーザチップ11を支持するための支持基板とを兼ねている。
【0033】
サブマウント10に実装されたレーザチップ11は、その両端面(
図1では上端面および下端面)からレーザビームを出射する。そのため、レーザチップ11を支持するサブマウント10は、そのチップ実装面がステム30の上面に対して垂直な方向を向くようにヒートシンク35に固定されている。レーザチップ11の上端面から出射されたレーザビーム(前方光)は、キャップ31の丸穴34を通じて外部に出射される。また、レーザチップ11の下端面から出射されたレーザビーム(後方光)は、ステム30の上面の中央部近傍に実装されたフォトダイオードチップ14によって受光され、電流に変換される。
【0034】
図2は、サブマウント10に実装されたレーザチップ11の断面図である。
図2に示すように、GaAs基板2の主面上には複数の半導体層が積層されている。半導体層は、例えば有機金属気相成長(MOCVD)法によって堆積されたn型クラッド層3、活性層4、p型第1クラッド層5、p型第2クラッド層6およびp型コンタクト層7からなる。これらの半導体層のうち、n型クラッド層3は、AlGaInPで構成されている。活性層4は、AlGaInPからなる障壁層とGaInP層からなる井戸層とを交互に積層した多重量子井戸(Multi Quantum Well:MQW)構造で構成されている。p型第1クラッド層5およびp型第2クラッド層6は、それぞれAlGaInPで構成され、p型コンタクト層7は、GaAsで構成されている。
【0035】
上記p型第2クラッド層6には、凸形の断面形状を有し、互いに平行に延在する4本のリッジ部(メサストライプ)8(8a、8b、8c、8d)が形成されている。そして、これら4本のリッジ部8のそれぞれの上部には、p型コンタクト層7が形成されている。また、4本のリッジ部8の間には、酸化シリコンからなるパッシベーション膜9が形成されている。パッシベーション膜9は、p型コンタクト層7の表面(上面)を除き、p型第2クラッド層6の全面を覆うように形成されている。
【0036】
上記p型コンタクト層7の上面およびパッシベーション膜9の上面には、p型コンタクト層7にオーミック接続されたp型の表面電極15が形成されている。また、表面電極15の上面には放熱用のAuメッキ層16が形成されている。一方、GaAs基板2の裏面には、n型の裏面電極12が形成されている。表面電極15および裏面電極12のそれぞれは、例えばTi膜の上にPt膜およびAu膜を順次積層した多層金属膜で構成されている。
【0037】
上記のように構成されたレーザチップ11は、表面電極15と裏面電極12とに所定の電圧を印加したときに、4個のリッジ部8のそれぞれの下部の活性層4(発光部)において、例えば650nmの発振波長を有する赤色レーザビームが発振する。これらの赤色レーザビームは、リッジ部8の延在方向に直交するレーザチップ11の両端面から出射され、前方光が前記
図1に示したキャップ31の丸穴34を通じてCANパッケージの外部に出射される。
【0038】
一方、サブマウント10のチップ実装面には、例えばTi膜の上にPt膜およびAu膜を順次積層した多層金属膜からなる4本の電極パターン13(13a、13b、13c、13d)が形成されている。これらの電極パターン13は、レーザチップ11をサブマウント10に実装した時にレーザチップ11のリッジ部8(8a、8b、8c、8d)と対向するように配置され、例えばAu−Sn合金からなる半田層22およびAuメッキ層16を介してリッジ部8上の表面電極15に電気的に接続されている。また、これらの電極パターン13とサブマウント10との間には、電極パターン13同士の短絡を防ぐために、酸化シリコンなどからなる絶縁層17が形成されている。
【0039】
図3は、サブマウント10のチップ実装面を示す斜視図である。サブマウント10のチップ実装面には、それぞれの一端部が前記
図2に示したレーザチップ11のリッジ部8(8a、8b、8c、8d)上の表面電極15に電気的に接続された4本の電極パターン13(13a、13b、13c、13d)、およびこれらの電極パターン13とは電気的に分離された2個の補助電極パターン13S(13Sa、13Sc)が形成されている。補助電極パターン13Sは、電極パターン13と同一の多層金属膜で構成されており、その表面の光反射率も、電極パターン13のそれと同一である。
【0040】
補助電極パターン13Saは、電極パターン13aと電極パターン13bとの間の領域に配置されている。すなわち、補助電極パターン13Saは、電極パターン13aに電気的に接続されたレーザダイオード素子(
図2に示すリッジ部8aの下部の活性層4)から出射される後方光の光路に位置するサブマウント10の上面を覆っている。一方、補助電極パターン13Scは、電極パターン13cと電極パターン13dとの間の領域に配置されている。すなわち、補助電極パターン13Scは、電極パターン13cに電気的に接続されたレーザダイオード素子(
図2に示すリッジ部8cの下部の活性層4)から出射される後方光の光路に位置するサブマウント10の表面を覆っている。
【0041】
4本の電極パターン13(13a、13b、13c、13d)のそれぞれの他端部は、ボンディングパッド13Pを構成しており、その表面には、Auワイヤ36の一端がボンディングされている。
図1に示すように、ステム30の下面には6本のリード39a、39b、39c、39d、39e、39fが取り付けられており、上記4個のボンディングパッド13Pに接続された4本のAuワイヤ36のそれぞれの他端は、リード39a、39b、39e、39fに電気的に接続されている。残り2本のリード39c、39dのうち、リード39cは、ステム30の下面に固定されており、ステム30と電気的に等電位状態になっている。また、リード39dは、Auワイヤ38を介してフォトダイオードチップ14の裏面電極12に電気的に接続されている。
【0042】
図4は、上記した4ビーム半導体レーザ装置の等価回路図である。ここで、符号LD
1、LD
2、LD
3、LD
4は、
図2に示したレーザチップ11のリッジ部8a、8b、8c、8dに形成されたレーザダイオード素子を示し、PDは、フォトダイオードチップ14に形成されたフォトダイオード素子を示している。
【0043】
図5(a)は、サブマウント10のチップ実装面を示す概略平面図であり、(b)、(c)は、それぞれ(a)のD−D線、E−E線に沿った断面図である。
【0044】
レーザチップ11から出射してフォトダイオードチップ14に入射する後方光は、レーザチップ11から直接フォトダイオードチップ14に入射する光と、サブマウント10の上面で反射してからフォトダイオードチップ14に入射する光の和である。
【0045】
図5(b)に示すように、レーザチップ11の中央部近傍に位置するレーザダイオード素子(例えば
図4のレーザダイオード素子LD
2)から出射された後方光の反射光は、その大部分が電極パターン13bの表面で反射した後、フォトダイオードチップ14に入射する。また、
図5(c)に示すように、レーザチップ11の周辺部近傍に位置するレーザダイオード素子(例えば
図4のレーザダイオード素子LD
1)から出射された後方光の反射光は、その大部分が補助電極パターン13Saまたは電極パターン13aの表面で反射した後、フォトダイオードチップ14に入射する。
【0046】
前述したように、補助電極パターン13Sの表面の光反射率は、電極パターン13のそれと同一である。従って、レーザチップ11から出射する後方光の光路に位置するサブマウント10の表面に補助電極パターン13Sを設けた場合には、レーザチップ11の4個の発光部(レーザダイオード素子)から出射したそれぞれの後方光がサブマウント10の表面状態に依存することなくフォトダイオードチップ14に入射する。これにより、サブマウント10の表面状態による電流値のばらつきが抑制され、電流値を精度良くモニタすることが可能となる。
【0047】
一般に、補助電極パターン13Sの配置と面積は、ΔP
ma=本発明の適用前(補助電極パターンなし)のビーム間差、ΔP
mb=本発明の適用後(補助電極パターンあり)のビーム間差としたときに、下記の式1に示す条件を満たすように設計する。
【0048】
ΔP
ma−ΔP
mb≧1% (1)
ここで、P
mは、各ビーム位置に対応する光量加重面積であり、下記の数1で定義される。
【0050】
また、ΔP
mは、下記の式2に示す光量加重面積のビーム間差である。ΔP
m={MAX(P
m)−MIN(P
m)}/MAX(P
m)×100% (2)
ただし、MAX(P
m)=全ビームの中で最大のP
m、MIN(P
m)=全ビームの中で最小のP
mである。
【0051】
次に、フォトダイオードチップ14によるモニタ電流の電極パターン依存性について行った計算結果について説明する。
図6に、計算のモデルおよび計算のパラメータ(表1)を示す。
【0052】
モデルは、サブマウント10の上面(チップ実装面)に対して垂直方向の後方光のみを考慮し、水平方向の後方光は、ビーム位置依存性がないとして無視した。後方光量の角度分布は、標準偏差10度(deg)の正規分布とした(垂直方向のFar Field Pattern半値全幅として、20deg程度に相当)。出射光は、有限の出射点高さ(ここでは、発光点の高さ(h)=10μmとした)から拡がりをもって出射され、下方向(=出射角度(θv)が負の方向)の一部はサブマウント10の上面で反射してフォトダイオードチップ14に入射する。また、上方向は直接フォトダイオードチップ14に入射する。サブマウント10の上面において、電極パターン13が存在している領域の反射率(R1)=1.0とし、サブマウント10が露出している領域の反射率(R2)=0.83とした。
【0053】
このモデルにおいて、レーザチップ11の後方の電極パターン長(L1)を変えたときにフォトダイオードチップ14に入射する受光量(全角度の積分値)を求めた。
図7に電極パターン長(L1)を変えたときのモニタ電流ビーム間差を示す。ビーム間差については、最も長い電極長が630μmの場合のモニタ電流値を基準とした。
【0054】
これによると、電極パターン長が100μm程度より短くなると、モニタ電極のビーム間差の増加が顕著になっている。これは、(1)tanθv=h/L1であるため、L1の減少に対してθの変化が大きいことと、(2)出射光の角度分布は正規分布であるため、累積分布は半値半角付近から顕著になることに起因している(h=10μm、θv=10degのとき、L1=57μmである)。
【0055】
一例として、
図8〜
図10にL1=40μm、630μm、およびL1=40μmで本発明(補助電極パターン13Sを配置)を適用した場合の入射光量の角度分布を示す。なお、電極パターン13と補助電極パターン13Sとのギャップは30μmとした。分布グラフの斜線部の面積がフォトダイオードチップ14に入射する受光量であり、モニタ電極はこれに比例する。また、正規分布に対して凹みとなって現れている部分がサブマウント10の露出領域での反射に相当する。計算結果から、本発明の適用によって、L1=40μmと630μmのモニタ電流ビーム間差を6.6%から2.0%に改善できることが分かる。
【0056】
上記補助電極パターン13S(13Sa、13Sc)は、サブマウント10のチップ実装面に電極パターン13を形成する工程で同時に形成すればよいので、従来構造に比べて製造工程が増加することはない。また、電極パターン13a〜13dのそれぞれの長さは、従来構造と同一でよいので、レーザービームの電気的特性や高周波特性に悪影響を及ぼすこともない。
【0057】
上記補助電極パターン13S(13Sa、13Sc)は、例えば
図11に示すように、レーザチップ11の周辺部近傍に位置する発光部から出射される後方光の光路に位置する領域のみに配置してもよい。
【0058】
図12は、8個のレーザダイオード素子が形成されたレーザチップ21をサブマウント10に実装した8ビーム半導体レーザ装置に適用した例である。
【0059】
サブマウント10のチップ実装面には、それぞれの一端部がレーザチップ21に形成された8個のレーザダイオード素子に電気的に接続された8本の電極パターン23(23a、23b、23c、23d、23e、23f、23g、23h)が形成されている。電極パターン23のそれぞれの他端部は、図示しないAuワイヤの一端がボンディングされるボンディングパッド23Pを構成している。また、サブマウント10のチップ実装面には、上記電極パターン23とは電気的に分離された2個の補助電極パターン23Sが形成されている。
【0060】
図12に示すように、レーザチップ21から出射される後方光の光路に平行な方向に沿った8本の電極パターン23a〜23hの長さは、レーザチップ21の中央部から周辺部に向かうに従って短くなっている。これに対して、後方光の光路に平行な方向に沿った補助電極パターン23Sの長さは、レーザチップ21の中央部から周辺部に向かうに従って長くなっている。
【0061】
サブマウント10のチップ実装面に上記のような補助電極パターン23Sを形成することにより、レーザチップ21の8個の発光部(レーザダイオード素子)から出射したそれぞれの後方光がサブマウント10の表面状態に依存することなくフォトダイオードチップ14に入射するので、サブマウント10の表面状態による電流値のばらつきが抑制され、電流値を精度良くモニタすることが可能となる。
【0062】
この場合も、補助電極パターン23Sの配置と面積は、前記の式1に示す条件を満たすように設計すればよい。
【0063】
(実施の形態2)
図13は、本実施の形態の4ビーム半導体レーザ装置におけるサブマウントのチップ実装面を示す概略平面図である。
【0064】
前記実施の形態1では、サブマウント10のチップ実装面に電極パターン13と同一の光反射率を有する補助電極パターン13Sを形成したが、本実施の形態では、これとは逆に、レーザチップ11の中央部近傍に位置するレーザダイオード素子に電気的に接続された電極パターン13b、13dのそれぞれの表面の一部にサブマウント10の表面と同程度の光反射率を有する反射率低減膜18を形成している。
【0065】
電極パターン13b、13dのそれぞれの表面の一部に上記のような反射率低減膜18を形成することにより、レーザチップ11から出射される後方光の光路に平行な方向に沿った4本の電極パターン13a〜13dの長さを同じにしたことと同一の効果が得られる。これにより、前記実施の形態1と同様、レーザチップ11の4個のレーザダイオード素子から出射したそれぞれの後方光がサブマウント10の表面状態に依存することなくフォトダイオードチップ14に入射するので、サブマウント10の表面状態による電流値のばらつきが抑制され、電流値を精度良くモニタすることが可能となる。
【0066】
反射率低減膜18は、例えばサブマウント10の表面と同程度の光反射率を有するテープ基材を電極パターン13b、13dの所定箇所に貼り付けることによって形成することができる。また、サブマウント10の表面と同程度の光反射率を有する基材を電極パターン13b、13dの所定箇所の表面に塗布あるいは印刷ことによって形成することもできる。また、半田層パターンを電極パターンに沿ってレーザチップ後方へ延長してもよい。半田表面は電極表面より反射率が低いため反射率低減膜として機能する。さらに、電極パターン13b、13dの所定箇所の表面の平滑度を低下させることによって、その領域の光反射率をサブマウント10の表面と同程度まで低下させてもよい。
【0067】
本実施の形態においても、反射率低減膜18の配置と面積は、前記の式1に示す条件を満たすように設計すればよい。また、電極パターン13a〜13dのそれぞれの長さは、従来構造と同一でよいので、レーザービームの電気的特性や高周波特性に悪影響を及ぼすこともない。
【0068】
図14は、8ビーム半導体レーザ装置の電極パターン13の一部に上記反射率低減膜18を形成することによって、レーザチップ21から出射される後方光の光路に平行な方向に沿った8本の電極パターン23a〜23hの長さを同じにしたことと同一の効果が得られるようにした例である。
【0069】
(実施の形態3)
図15は、本実施の形態の8ビーム半導体レーザ装置におけるサブマウントのチップ実装面を示す概略平面図である。
【0070】
本実施の形態では、レーザチップ21から出射された後方光の反射光のうち、フォトダイオードチップ14に入射する割合の多い領域(
図15に示すレーザチップ21の後端面から後方光の光路に平行な方向の距離Laまでの領域)で8本の電極パターン23a〜23hの長さを同じにする。
【0071】
ここで、Laは、下記の式3で定義される距離(単位はμm)である。
【0072】
La=170×h/θ
FWHM−V (3)
ただし、h(μm)=サブマウントの上面(チップ実装面)からレーザチップの発光点までの高さ、θ
FWHM−V(deg)=レーザチップの垂直方向のビーム拡がりの半値全幅である。
【0073】
本実施の形態によれば、レーザチップ21の8個の発光部(レーザダイオード素子)から出射したそれぞれの後方光がサブマウント10の表面状態に依存することなくフォトダイオードチップ14に入射するので、前記実施の形態1、2と同様、サブマウント10の表面状態による電流値のばらつきが抑制され、電流値を精度良くモニタすることが可能となる。
【0074】
また、本実施の形態では、サブマウント10のチップ実装面に補助電極パターン13Sを形成したり(実施の形態1)、電極パターン13の表面の一部に反射率低減膜18を形成したり(実施の形態2)せず、電極パターン23a〜23hの長さを制御するだけで済むので、配線設計も容易である。
【0075】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0076】
前記実施の形態1では、電極パターン13と補助電極パターン13Sを電気的に分離したが、例えば
図16に示すように、電極パターン13a、13cのそれぞれと補助電極パターン13Sとを一体に形成してもよい。また、例えば
図17に示すように、電極パターン13a、13cのそれぞれの一部の線幅を広くすることによって、補助電極パターン13Sを形成してもよい。
【0077】
前記実施の形態では、4ビーム半導体レーザ装置および8ビーム半導体レーザ装置に本発明を適用したが、マルチビーム半導体レーザ装置一般に適用できることは勿論である。