特許第5779282号(P5779282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5779282ポリエーテルイミドスルホンとポリ(アリーレンスルフィド)とのブレンド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5779282
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】ポリエーテルイミドスルホンとポリ(アリーレンスルフィド)とのブレンド
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20150827BHJP
   C08L 81/10 20060101ALI20150827BHJP
   C08L 63/04 20060101ALI20150827BHJP
   C08K 7/20 20060101ALI20150827BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20150827BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   C08L81/02
   C08L81/10
   C08L63/04
   C08K7/20
   C08K3/40
   C08K7/14
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-533661(P2014-533661)
(86)(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公表番号】特表2014-531502(P2014-531502A)
(43)【公表日】2014年11月27日
(86)【国際出願番号】US2012057187
(87)【国際公開番号】WO2013049100
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2014年5月15日
(31)【優先権主張番号】13/246,586
(32)【優先日】2011年9月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508171804
【氏名又は名称】サビック グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ラマリンガム、ハリハラン
(72)【発明者】
【氏名】ハラルール、グルリンガマーシー エム.
(72)【発明者】
【氏名】スリーラマギリ、シバ クマール
(72)【発明者】
【氏名】チャッタージー、ガウタム
(72)【発明者】
【氏名】セス、カピル チャンドラカント
(72)【発明者】
【氏名】ミシュラ、サンジェイ ブラジ
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−003319(JP,A)
【文献】 特開2012−096360(JP,A)
【文献】 特開平09−296105(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/129721(WO,A1)
【文献】 特開2009−074044(JP,A)
【文献】 特表2010−525126(JP,A)
【文献】 特表2008−504428(JP,A)
【文献】 特表2009−508997(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/108384(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/00
C08L 79/08
C08L 63/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その合計質量に対して、i)60〜75質量%の線状ポリ(アリーレンスルフィド)と、ii)15〜35質量%のポリエーテルイミドスルホンと、iii)1〜3質量%の、1分子当たり平均で2個以上のエポキシ基を有するノボラック樹脂と、含有を必須としない任意成分としての補強充填剤と、の相溶性ブレンドを含む組成物であって、これらの成分の合計質量は100質量%であり、前記組成物から製造された物品の引張強度は、ASTM D638に準拠して測定して70MPa以上であり、衝撃強度は、ASTM D256に準拠して測定して3kJ/m以上であり、破断伸び率は、ASTM D638に準拠して測定して3%以上であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
その合計質量に対して、i)60〜75質量%の線状ポリ(アリーレンスルフィド)と、ii)15〜35質量%のポリエーテルイミドスルホンと、iii)1〜3質量%の、1分子当たり平均で2個以上のエポキシ基を有するノボラック樹脂と、含有を必須としない任意成分としての補強充填剤と、の溶融混合反応生成物を含む組成物であって、これらの成分の合計質量は100質量%であり、前記組成物から製造された物品の引張強度は、ASTM D638に準拠して測定して70MPa以上であり、衝撃強度は、ASTM D256に準拠して測定して3kJ/m以上であり、破断伸び率は、ASTM D638に準拠して測定して3%以上であることを特徴とする組成物。
【請求項3】
前記線状ポリ(アリーレンスルフィド)は、線状ポリ(フェニレンスルフィド)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリエーテルイミドスルホンは、下式の構造単位
【化1】
(式中、ArおよびArは独立に、5〜12個の炭素を有するアリール基である)
またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記ノボラック樹脂は、1分子当たり平均で6個以上のエポキシ基を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記ノボラック樹脂は、1分子当たり平均で20個以上のエポキシ基を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記補強充填剤を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記補強充填剤は、ガラスビーズ、ガラスフレーク、粉砕ガラス、ガラス繊維、または、これらのいずれか組み合わせを含むことを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、その合計質量に対して、20〜35質量%の前記ポリエーテルイミドスルホンを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物は、その合計質量に対して、65〜75質量%の前記ポリ(アリーレンスルフィド)を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
高温での機械的特性保持と耐薬品性が良好な熱可塑性非晶質半結晶ブレンドの開発に長年関心が払われてきた。しかしながら、これらのポリマーは一般に、他のポリマーとは非相溶性の傾向を有する。
【0002】
ポリ(アリーレンスルフィド)は、良好な熱安定性と耐薬品性を有する。ポリエーテルイミドスルホンは、高温での機械的特性保持率が良好である。この2つのポリマーを組み合わせて、これらの望ましい特性の組み合わせを有するブレンドを作ることは望ましいことであろう。しかしながら、ポリエーテルイミドスルホンは、ポリ(アリーレンスルフィド)とは非相溶性である。2つのポリマーのブレンドでは、微細で良好に分散した領域ができずに、それぞれのポリマーの大きな領域ができるために、物性が低下する傾向がある。
【0003】
従って、ポリ(アリーレンスルフィド)とポリエーテルイミドスルホンとの相溶性ブレンドが求められている。
【発明の概要】
【0004】
前述のニーズは、その合計質量に対して、i)60〜85質量%の線状ポリ(アリーレンスルフィド)と、ii)15〜40質量%のポリエーテルイミドスルホンと、iii)1〜3質量%の、1分子当たり平均で2個以上のエポキシ基を有するノボラック樹脂と、の相溶性ブレンドを含む組成物によって少なくとも一部は対処される。該組成物から製造された物品の引張強度は、ASTM D638に準拠して測定して70MPa以上であり、衝撃強度は、ASTM D256に準拠して測定して3kJ/m以上であり、破断伸び率は、ASTM D638に準拠して測定して3%以上である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
60〜85質量%の線状ポリ(アリーレンスルフィド)と、15〜40質量%のポリエーテルイミドスルホンと、1〜3質量%の、1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するノボラック樹脂と、を含む組成物は、該エポキシ含有化合物を含まない同様の組成物と比較して、物性が向上することが分かった。該組成物から製造された物品の引張強度は、ASTM D638に準拠して測定して70MPa以上であり、衝撃強度は、ASTM D256に準拠して測定して3kJ/m以上であり、破断伸び率は、ASTM D638に準拠して測定して3%以上である。該線状ポリ(アリーレンスルフィド)の代わりに分枝鎖ポリ(アリーレンスルフィド)を用いた場合、物性のこの組み合わせは得られない。また、該ノボラック樹脂の代わりに、代替となるポリマー相溶化剤を用いた場合も、物性のこの組み合わせは得られない。また、該ノボラック樹脂の量が少なくても、物性のこの組み合わせは得られない。
【0006】
別途明示される場合を除き、すべてのASTM試験は、ASTM標準2003年版に基づいて行った。ノッチ付およびノッチなしアイゾッド衝撃データ値はすべて、別途明示される場合を除き、実施例に記載したように、ASTM D256に準拠し温度23℃で測定した。引張弾性率、引張強度および破断伸び率データ値はすべて、実施例に記載したように、ASTM D638に準拠して測定した。
【0007】
あるいは、本発明は一般に、本明細書で開示した適切な成分の任意のものを含み、または任意のものから構成され、または任意のものから本質的に構成されてもよい。あるいは、本発明はまた、従来技術組成物に使用されている、あるいは本発明の機能およびまたは目的の実現には不要な成分、材料、含有物、補助剤または種の任意のものを含まないようにあるいは実質的に含まないように処方されてもよい。
【0008】
ここに開示した範囲はすべて終点を含んでおり、終点は、互いに独立に組み合わせできる(例えば、「最高25質量%、より具体的には5質量%〜20質量%」の範囲は、「5質量%〜25質量%」の範囲の終点とすべての中間値とを含む)。「組み合わせ」には、ブレンド、混合物、混ぜもの、反応生成物などが含まれる。また、「第1の」「第2の」などの用語は、いかなる順序や量あるいは重要度を表すものではなく、ある成分と他の成分とを区別するために用いられるものである。単数表現は、量に関する限定を表すものではなく、本明細書で別途明示がある場合または文脈上明らかに矛盾する場合を除き、単数および複数を含むものと解釈される。明細書全体に亘る「一実施形態」、「別の実施形態」、「ある実施形態」などは、該実施形態に関連して記載された特定の要素(例えば、特徴、構造およびまたは特性)が記載された少なくとも1つの実施形態に含まれていることを意味し、他の実施形態には含まれていてもいなくてもよい。また、記載された要素類は種々の実施形態において任意の好適な方法で組み合わせられるものと理解されるべきである。
【0009】
該ポリエーテルイミドスルホンは、二無水物とジアミンとから誘導された構造単位を含む。典型的な二無水物は、式(I)の構造を有する:
【化1】
式中、Vは、置換または未置換、飽和、不飽和または芳香族単環式および多環式C−C50基、置換または未置換C−C30アルキル基、置換または未置換C−C30アルケニル基およびこれらのリンカーを少なくとも1つ含む組み合わせから構成される群から選択された四価リンカーである。好適な置換およびまたはリンカーとしては、これに限定されないが、カルボサイクリック基、アリール基、エーテル、スルホン、スルフィド、アミド、エステルおよびこれらを少なくとも1つ含む組み合わせが挙げられる。典型的なリンカーとしては、これに限定されないが、式(II)などの四価芳香族ラジカルが挙げられる:
【化2】
式中、Wは、−O−、−S−、−C(O)−、−SO−、−SO−、−C2y−(y:1〜20の整数)などの二価部分および、パーフルオロアルキレン基を含むこれらのハロゲン化誘導体であり、あるいは、式:−O−Z−O−[式中、−O−または−O−Z−O−基の二価結合が3,3’、3,4’、4,3’または4,4’位置にあり、Zは、これに限定されないが、式(III)
【化3】
(式中、Qは、これに限定されないが、−O−、−S−、−C(O)−、−SO−、−SO−、−C2y−(yは1〜20の整数)などの二価部分および、パーフルオロアルキレン基を含むこれらのハロゲン化誘導体を含む)の二価部分を含む]の基である。一部の実施形態では、該四価リンカーVはハロゲンを含まない。
【0010】
一実施形態では、該二無水物は芳香族ビス(エーテル無水物)を含む。特定の芳香族ビス(エーテル無水物)の例は、例えば、米国特許第3,972,902号および同第4,455,410号に開示されており、これらの特許は参照により本明細書に援用される。芳香族ビス(エーテル無水物)の例としては、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(ビスフェノールA二無水物);4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物;4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物;4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物;4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物;2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物;4,4’−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物;4,4’−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物;4,4’−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物;4,4’−ビス(2、3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物;4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニル−2,2−プロパン二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物;4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物;4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物およびこれらのものを少なくとも2つ含む混合物が挙げられる。
【0011】
該ビス(エーテル無水物)は、二極性の非プロトン性溶媒の存在下、窒素置換フェニルジニトリルと二価フェノール化合物の金属塩との反応生成物を加水分解し、その後脱水化することによって調製できる。
【0012】
二無水物に対する化学的等価物を用いてもよい。二無水物の化学的等価物としては、二無水物を形成可能な四官能性カルボン酸および、該四官能性カルボン酸のエステルまたは部分エステル誘導体が挙げられる。該二無水物の等価物として、混合酸無水物または無水物エステルを使用してもよい。本明細書と請求項の全体にわたって使用する「二無水物」は、二無水物とそれらの化学的等価物を指す。
【0013】
一部の実施形態では、該二無水物は、ビスフェノールA二無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)およびこれらの組み合わせから構成される群から選択される。オキシジフタル酸無水物は、下記の一般式(IV)
【化4】
で表される構造を有しており、その誘導体は、さらに下記のように定義される。
【0014】
式(IV)のオキシジフタル酸無水物としては、4,4’−オキシビスフタル酸無水物、3,4’−オキシビスフタル酸無水物、3,3’−オキシビスフタル酸無水物およびこれらの任意の混合物が挙げられる。例えば、式(IV)のオキシジフタル酸無水物は、下記式(V)の構造を有する4,4’−オキシビスフタル酸無水物であってもよい。
【化5】
【0015】
該オキシジフタル酸無水物としては、該ポリイミドの製造にも使用され得るオキシジフタル酸無水物の誘導体が挙げられる。ポリイミド形成反応において、該オキシジフタル酸無水物に対する化学的等価物として機能し得るオキシジフタル酸無水物誘導体としては、式(VI)のオキシジフタル酸無水物誘導体が挙げられる:
【化6】
式中、RとRはそれぞれ独立に、水素、C−Cアルキル基およびアリール基のいずれかであり得る。RとRは同じであっても異なっていてもよく、オキシジフタル酸無水物酸、オキシジフタル酸無水物エステルおよびオキシジフタル酸無水物酸エステルを生成し得る。
【0016】
また、オキシジフタル酸無水物の誘導体は、下式(VII)のものであってもよい:
【化7】
式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に、水素、C−Cアルキル基およびアリール基のいずれかであり得る。R、R、RおよびRは、同じであっても異なっていてもよく、オキシジフタル酸、オキシジフタルエステル、オキシジフタル酸エステルを生成し得る。
【0017】
有用なジアミンとしては、ジアミノジアリールスルホン類とこれらの組み合わせが挙げられる。ジアミノジアリールスルホン類(DAS)は、下記の一般式(X)の構造を有する:
【化8】
式中、ArおよびArは独立に、単一または複数の環を含むアリール基である。数個のアリール環が、例えば、エーテル結合や、スルホン結合あるいは2つ以上のスルホン結合などによって、互いに結合していてもよい。該アリール環は縮合していてもよい。一実施形態では、ArとArは独立に、5〜12個の炭素を含む。一実施形態では、ArとArは共にフェニル基である。
【0018】
一部の実施形態では、該ポリエーテルイミドスルホンは、式(XI)の構造単位を含む。
【化9】
一部の実施形態では、該ポリエーテルイミドスルホンは、式(XII)の構造単位を含む。
【化10】
該ポリエーテルイミドスルホンは、式(XI)の構造単位と式(XII)の構造単位とを含んでいてもよい。
【0019】
該ポリエーテルイミドスルホンの量は、組成物の合計質量に対して15〜40質量%であってもよい。この範囲内で、ポリエーテルイミドスルホンの量は20質量%以上であり得る。また、この範囲内で、ポリエーテルイミドスルホンの量は35質量%以下であり得る。
【0020】
ポリ(アリーレンスルフィド)は、イオウ原子で分離されたアリーレン基を含む既知のポリマーである。ポリ(アリーレンスルフィド)としては、例えば、ポリ(フェニレンスルフィド)や置換ポリ(フェニレンスルフィド)などが挙げられる。典型的なポリ(アリーレンスルフィド)ポリマーは、以下の構造式の繰り返し単位を少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも90モル%含む。
【化11】
【0021】
該ポリ(アリーレンスルフィド)は線状ポリマーである。線状ポリ(アリーレンスルフィド)は、例えば、米国特許第3,354,129号および同第3,919,177号に開示されているプロセスで調製されてもよく、この2つの特許は参照により本明細書に援用される。線状ポリ(アリーレンスルフィド)は、Ticona社からFortron(登録商標)PPSとして、また、Chevron Phillips社からRyton(登録商標)PPSとして市販されている。
【0022】
該ポリ(アリーレンスルフィド)は官能化されていてもされていなくてもよい。該ポリ(アリーレンスルフィド)が官能化されている場合、官能基としては、これに限定されないが、アミノ基、カルボン酸基、金属カルボキシレート基、ジスルフィド基、チオール基および金属チオレート基が挙げられる。ポリ(アリーレンスルフィド)への官能基組み込みの一方法が米国特許第4,769,424号(本特許は参照により本明細書に援用される)に記載されており、そこでは、ハロゲン置換ポリ(アリーレンスルフィド)への置換チオフェノールの組み込みが開示されている。別の方法は、アルカリ金属スルフィドおよびクロロ芳香族化合物と反応する所望の官能性を有するクロロ置換芳香族化合物の組み込みに関する。第3の方法は、ポリ(アリーレンスルフィド)と所望の官能基を含むジスルフィドとの、典型的には、前記溶融物中あるいはクロロナフタレンなどの好適な高沸点溶媒中での反応に関する。
【0023】
ポリ(アリーレンスルフィド)の溶融粘度は、成形品が得られる限り特に限定されないが、溶融加工温度300〜350℃において、100ポイズ以上、10,000ポイズ以下であり得る。
【0024】
また、該ポリ(アリーレンスルフィド)は、特開3236930−A号、同1774562−A号、同12299872−A号および同3236931−A号に記載されているように、脱イオン水中への浸漬、あるいは、酸、典型的には塩酸、硫酸、リン酸または酢酸での処理による汚染イオン除去処理がなされていてもよい。一部の生成物用途では、該ポリ(アリーレンスルフィド)の不純物濃度は、そのサンプル燃焼後の残灰質量%で表して、非常に低いことが好ましい。ポリ(アリーレンスルフィド)の灰分は約1質量%未満であり得、より具体的には約0.5質量%未満であり得、さらにより具体的には約0.1質量%未満であり得る。
【0025】
該ポリ(アリーレンスルフィド)の量は、組成物の合計質量に対して60〜85質量%である。この範囲内で、ポリ(アリーレンスルフィド)の量は65質量%以上であり得る。また、この範囲内で、ポリ(アリーレンスルフィド)の量は75質量%以下であり得る。
【0026】
該ノボラック樹脂は、1分子当たり平均で2個以上のペンダントエポキシ基を有する。一部の実施形態では、該ノボラック樹脂は、1分子当たり平均で6個以上の、より具体的には1分子当たり平均で20個以上の、さらにより具体的には1分子当たり平均で50個以上のペンダントエポキシ基を有する。理論に拘束されることなく、該ノボラック樹脂は、線状ポリ(アリーレンスルフィド)、ポリエーテルイミドスルホンあるいはその両方と相互作用すると考えられる。この相互作用は、化学的(例えばグラフト)およびまたは物理的(例えば、分散相の表面特性に影響を与えるなど)であり得る。該相互作用が化学的である場合、ノボラック樹脂のエポキシ基が、線状ポリ(アリーレンスルフィド)、ポリエーテルイミドスルホンあるいはその両方と部分的または完全に反応し、反応生成物が組成物に含まれることになる。
【0027】
該ノボラック樹脂は、フェノールとホルムアルデヒドとの反応で製造される。本明細書での「フェノール」には、フェニル、アリールおよび、ヒドロキシル基を有する縮合芳香族環が含まれる。ホルムアルデヒドとフェノールのモル比は1未満である。該ノボラック樹脂は、触媒としての水酸化ナトリウムの存在下、エピクロロヒドリンと反応させることによりエポキシ基で官能化される。該ノボラック樹脂の平均分子量は500〜2500ダルトンであり得る。この範囲内で、該ノボラック樹脂の分子量は550ダルトン以上であり得る。また、この範囲内で、該ノボラック樹脂の分子量は900ダルトン以下であり得る。
【0028】
該組成物は、その合計質量に対して、1〜3質量%のノボラック樹脂を含む。この範囲内で、該組成物は、2.5質量%以下の、より具体的には2質量%以下のノボラック樹脂を含み得る。
【0029】
該組成物は、1種類の添加剤または複数種の添加剤の組み合わせを含んでいてもよい。典型的な添加剤としては、導電性充填剤、補強充填剤、安定剤、潤滑剤、離型剤、無機顔料、紫外線吸収剤;酸化防止剤、可塑剤;帯電防止剤;起泡剤;発泡剤;金属不活性化剤およびこれらの1つまたは複数を含む組み合わせが挙げられる。導電性充填剤の例としては、導電性カーボンブラック、炭素繊維、金属繊維、金属粉末、カーボンナノチューブなど、およびこれらのものをいずれか1つ含む組み合わせが挙げられる。補強充填剤の例としては、ガラスビーズ(中空およびまたは中実)、ガラスフレーク、粉砕ガラス、ガラス繊維、タルク、珪灰石、シリカ、雲母、カオリンまたはモンモリロナイト粘土、シリカ、石英、バライトなど、およびこれらのいずれかを含む組み合わせが挙げられる。酸化防止剤は、ホスファイト、ホスホナイト、ヒンダードフェノールまたはこれらの混合物などの化合物であり得る。トリアリールホスファイトとアリールホスホネートとを含むリン含有安定剤は、有用な添加剤として注目される。二官能性リン含有化合物も使用され得る。安定剤の分子量は300以上であってもよい。一部の実施形態では、分子量が500以上のリン含有安定剤が有用である。リン含有安定剤の量は典型的には、処方された組成物に対して0.05〜0.5質量%である。流動助剤および離型剤も考慮される。
【0030】
該熱可塑性組成物は、溶融混合あるいは乾式混合と溶融混合との組み合わせで調製され得る。溶融混合は、一軸または二軸スクリュー型押出機あるいは、成分にせん断と熱を印加できる同様の混合装置内で行うことができる。溶融混合は、ブロックコポリマーの溶融温度以上およびブロックコポリマーのどちらかの分解温度未満の温度で行うことができる。
【0031】
全ての含有物を該加工システムの最初で添加してもよい。一部の実施形態では、含有物を遂次的に添加してもよく、およびまたは、1つまたは複数のマスターバッチで添加してもよい。押出機の1つまたは複数のベント口を通して溶融物を減圧し、組成物中の揮発性不純物を除去することが好都合であり得る。
【0032】
一部の実施形態では、該組成物の製造方法は、ポリエーテルイミドとポリエーテルイミドスルホンとを溶融混合して初期組成物を形成するステップを備えており、該初期組成物は、ペレット化後に、該線状ポリ(アリーレンスルフィド)およびポリマー相溶化剤と溶融混合され得る。
【0033】
一部の実施形態では、溶融混合は押出機を使用して行なわれ、組成物は、1本または複数本のストランドの形状で押し出される。ストランドの形状は、使用するダイの形状に依存し、特に限定されない。
【0034】
実施例
以下の実施例では、表1に示す材料を用いた。
【表1】
【0035】
方法と手順
組成物調製方法:ポリエーテルイミドスルホンとポリ(フェニレンスルフィド)とを溶融混合して樹脂組成物を形成した。口径2.5インチの真空ベント付二軸押出機での押出によりブレンドを調製した。下表において、組成物はその合計質量に対する質量%で示す。押出機の温度は約300〜350℃に設定した。該ブレンドを、減圧下、約250rpmで流した。押出品は冷却・ペレット化し、125℃で乾燥させた。設定温度340〜350℃、金型温度125℃、サイクルタイム30秒で、試験サンプルを射出成形した。
【0036】
特性試験:ASTM試験方法に準拠して特性測定を行った。成形サンプルはすべて、相対湿度50%で少なくとも48時間状態調節後に試験した。
【0037】
ASTM D256:ノッチ付アイゾット衝撃値は、ASTM D256に準拠し、室温、3.2mm厚の棒で測定した。棒にノッチを入れた後、オーブンでエイジングし;室温でサンプルを試験した。結果をkJ/m単位で示す。
【0038】
ASTM D638:引張特性は、ASTM D638に準拠し、温度23℃、クロスヘッドスピード5mm/分、3.2mm厚のタイプI棒で測定した。引張強度は降伏強度(Y)であり、伸び率(%)は破断伸び率(B)である。引張弾性率、引張降伏強度、引張破断強度の単位はMPaである。
【0039】
実施例1〜6
ノボラック樹脂の有無における、線状ポリ(アリーレンスルフィド)と分枝鎖ポリ(アリーレンスルフィド)の影響を実証するために、これらの実施例を行った。上記の組成物調製手順に従って組成物を製造した。組成物を上記の方法で試験し、その結果を表2に示す。
【表2】
【0040】
実施例1と2との比較から、線状ポリ(アリーレンスルフィド)を含む組成物では、ノボラック樹脂が存在すると、引張強度、破断伸び率および衝撃強度が著しく向上することがわかる。実施例3〜6から、こうした向上は、分枝鎖ポリ(アリーレンスルフィド)を含む実施例では見られないことがわかる。実施例3〜6では、ノボラック樹脂を使用すると、引張強度は向上するが、衝撃強度は低下している。実施例3〜6のいずれの組成物も、引張強度70MPa以上、衝撃強度3kJ/m以上、破断伸び率3%以上の組み合わせを有していない。
【0041】
また、こうした結果は予想外のものである。なぜなら、線状ポリ(アリーレンスルフィド)とポリエーテルイミドスルホン(この2つの材料は脆いことで知られる)との組み合わせは、1分子あたり平均で2個以上のエポキシ基を有するノボラック樹脂と共に使用されると、ポリエーテルイミドスルホンおよび線状ポリ(アリーレンスルフィド)それぞれの延性より高い延性を示す(破断伸び率および衝撃強度結果で証明されるように)組成物が生成されるためである。
【0042】
逆に、これらの結果から、分枝鎖ポリ(アリーレンスルフィド)材料とポリエーテルイミドスルホンとを、1分子当たり平均で2個以上のエポキシ基を有するノボラック樹脂と共に(および、こうしたノボラック樹脂なしに)使用した場合、ポリエーテルイミドスルホンおよび分枝鎖ポリ(アリーレンスルフィド)それぞれの延性より高い延性を示す組成物は(衝撃強度結果で証明されるように)得られないことがわかる。
【0043】
実施例7〜13
主要樹脂としてポリ(アリーレンスルフィド)を有する組成物において、ノボラック樹脂の量を変えた場合の影響およびペンダントエポキシ基を有する代替のポリマー化合物の影響を実証するために、これらの実施例を行った。上記の組成物調製手順に従って組成物を製造した。組成物を上記の方法で試験し、その結果を表3に示す。
【表3】
【0044】
引張強度70MPa以上、衝撃強度3kJ/m以上、破断伸び率3%以上の組み合わせを達成可能な組成物は、必要な量のノボラック樹脂を使用した場合のみ生成されることがこれらの実施例から実証された。
【0045】
実施例14〜15
さらにノボラック樹脂の影響を実証するために、これらの実施例を行った。上記のワンパス法を用いて組成物を製造した。組成物を上記の方法で試験し、その結果を表4に示す。
【表4】
【0046】
ポリエーテルイミドスルホンおよびポリ(アリーレンスルフィド)は非混合性であるが、1分子当たり平均で少なくとも2個以上のエポキシ基を有するノボラック樹脂と組み合わせられると、優れた相溶性を示す。該ブレンドは、優れた加工性、向上した引張性能および衝撃性能を示す。
【0047】
特定の実施形態について記載したが、本出願人および当業者は、現時点では予見できない代替案、修正、変形、改良および実質的等価物を想到し得る。従って、出願請求項および補正請求項は、こうした代替案、修正、変形、改良および実質的等価物をすべて包含するものと意図される。